説明

無線通信装置

【課題】送信及び受信を時分割で行う無線通信装置において、他の無線通信装置からの送信信号を長期間受信できない場合に、その原因が無線通信装置自身の故障によるものであるか否かを正確に自己診断できるようにする。
【解決手段】無線通信装置が起動直後であるか、或いは、他の無線通信装置からの信号を受信できない未受信継続時間が診断開始判定期間に達したときには、S160以降の故障診断を開始する。故障診断は、送信系のパワーアンプから受信系のローノイズアンプへと送信信号が入力されるように折返し経路を形成し(S160)、送信信号の受信レベル、送信信号の受信継続時間及び受信データを順次読み込み(S170,S200,S230)、これら各パラメータに基づき、各アンプのゲインコントロールの異常、送信系のパワーアンプや周波数変換部の異常、変・復調部の異常を順次判断する(S180,S210,S240)、ことにより行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信及び受信を時分割で行う無線通信装置に関し、詳しくは、送信系及び受信系の自己診断機能を有する無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送信及び受信を時分割で行う無線通信装置には、通常、送信信号の変調・増幅等を行う送信系回路と、受信信号の増幅・復調等を行う受信系回路と、これら2系統の回路の何れかをアンテナに接続することにより送信期間と受信期間とを切り換える送受信切換スイッチとが備えられている。
【0003】
そして、この無線通信装置では、送信系回路から送受信切換スイッチに至る送信信号経路と、送受信切換スイッチから受信系回路に至る受信信号経路との間に、送信系回路からの送信信号を受信系回路に直接入力するための折返し経路を形成し、受信系回路にて送信系回路からの送信信号を受信できているか否かを判断することで、送信系回路及び受信系回路の故障診断を行うことが提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−145499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、送信及び受信を時分割で行う無線通信装置としては、例えば、移動体に搭載されて、移動体の移動に伴い変化する自身の位置を周囲の無線通信装置に通知するために、送受信切換スイッチを送信系回路側に切り換えて、自身の情報を周期的に送信し、その送信後は、他の無線通信装置からの送信信号を受信するために、送受信切換スイッチを受信系回路側に切り換えて、受信待機状態に移行するように構成されたものが知られている。
【0006】
そして、この無線通信装置では、周囲に他の無線通信装置が存在しない場合、他の無線通信装置からの送信信号を長期間受信できなくなるが、他の無線通信装置からの送信信号を受信できなくなるのは、無線通信装置自身の故障によるものであることも考えられる。
【0007】
そこで、複数の無線通信装置がそれぞれ定期送信を行うシステムに用いられる無線通信装置においては、他の無線通信装置からの送信信号を長期間受信できない場合に、上記提案の故障診断を行うことで、その原因が、周囲に他の無線通信装置が存在しないためであるのか、無線通信装置自身の故障によるものであるのかを、自己診断するように構成するとよい。
【0008】
しかし、上記提案の故障診断では、受信系回路が送信系回路から受信した受信信号の特性(信号レベルや位相等)に基づき、これら各回路が正常に動作しているか否かを判断するので、例えば、送信系回路の故障によって無線通信装置自身が送信をし続け、他の無線通信装置が無線送信をできないような場合には、その故障を自己診断することができない。
【0009】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、送信及び受信を時分割で行う無線通信装置において、他の無線通信装置からの送信信号を長期間受信できない場合に、その原因が無線通信装置自身の故障によるものであるか否かを正確に自己診断できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、
通信用のアンテナと、
送信信号を前記アンテナに出力する送信手段と、
前記アンテナからの受信信号を信号処理する受信手段と、
前記アンテナを前記送信手段及び前記受信手段の何れか一方に選択的に接続する送受信切換手段と、
前記送受信切換手段を介して前記送信手段を前記アンテナに周期的に接続することにより前記送信手段による定期送信を実施させ、該定期送信後は、前記送受信切換手段を介して前記受信手段を前記アンテナに接続することにより、前記受信手段を受信待機状態に制御する通信制御手段と、
を備えた無線通信装置において、
前記受信手段が他の無線通信装置からの送信信号を受信しない非受信期間が、前記定期送信の周期の複数倍以上の長さに設定された診断開始判定期間に達したか否かを判定する診断開始判定手段と、
前記診断開始判定手段にて、前記非受信期間が前記診断開始判定期間に達したと判定されると、前記送信手段から出力された送信信号を前記受信手段に入力する折返し経路を形成する折返し経路形成手段と、
前記折返し経路形成手段により前記折返し経路が形成されると、前記受信手段にて受信される受信信号の信号レベルを検出して、該信号レベルが正常か否かを判断する受信レベル判定手段と、
前記折返し経路形成手段により前記折返し経路が形成されると、前記受信手段による前記受信信号の受信継続期間を計測し、該受信継続期間が異常判定用のしきい値を越えたか否かを判定する受信継続期間判定手段と、
前記受信レベル判定手段にて前記受信信号の信号レベルが正常ではないと判定されるか、或いは、前記受信継続期間判定手段にて前記受信継続期間が前記しきい値を越えたと判定されると、当該無線通信装置が故障していると判断して、当該無線通信装置の故障を報知する故障断定手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の無線通信装置において、
前記送信データを無線送信用の送信信号に変換する変調手段と、
前記受信手段にて受信された受信信号から受信データを復元する復調手段と、
前記折返し経路形成手段により前記折返し経路が形成されると、前記復調手段にて、前記折返し経路を介して前記受信手段に入力された受信信号から前記変調手段が送信信号に変換する前の送信データが復元されたか否かを判定する復元データ判定手段と、
を備え、前記故障断定手段は、前記復元データ判定手段にて、前記変調手段が送信信号に変換する前の送信データが復元されないと判定されたときにも、当該無線通信装置が故障していると判断することを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の無線通信装置において、前記故障断定手段は、当該無線通信装置が故障していると判断した際、当該無線通信装置による無線通信を禁止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の無線通信装置においては、通信制御手段が、送受信切換手段を介して送信手段をアンテナに周期的に接続することにより送信手段による定期送信を実施させ、その定期送信後は、送受信切換手段を介して受信手段をアンテナに接続することにより、受信手段を受信待機状態に制御する。
【0014】
また、診断開始判定手段が、受信手段が他の無線通信装置からの送信信号を受信しない非受信期間が、定期送信の周期の複数倍以上の長さに設定された診断開始判定期間に達したか否かを判定する。
【0015】
そして、この診断開始判定手段にて、非受信期間が診断開始判定期間に達したと判定されると、折返し経路形成手段が、送信手段から出力された送信信号を受信手段に入力する折返し経路を形成し、この折返し経路形成手段により折返し経路が形成されると、受信レベル判定手段が、受信手段にて受信される受信信号の信号レベルを検出して、その信号レベルが正常か否かを判断する。
【0016】
また、折返し経路形成手段により折返し経路が形成されると、受信継続期間判定手段が、受信手段による受信信号の受信継続期間を計測し、この受信継続期間が異常判定用のしきい値を越えたか否かを判定する。
【0017】
そして、受信レベル判定手段にて受信信号の信号レベルが正常ではないと判定されるか、或いは、受信継続期間判定手段にて受信継続期間がしきい値を越えたと判定されると、故障断定手段が、当該無線通信装置が故障していると判断して、当該無線通信装置の故障を報知する。
【0018】
つまり、受信手段が他の無線通信装置からの送信信号を受信しない非受信期間が長期間になった場合、無線通信装置自身が故障している可能性があるので、本発明では、非受信期間が診断開始判定期間に達すると、折返し経路を形成して、故障診断を実施する。
【0019】
また、この故障診断では、受信手段が受信した受信信号の信号レベルから、受信手段が受信信号を正常に受信できているか否かを判断するだけではなく、受信手段が受信信号を受信している期間(受信継続期間)がしきい値を超えたか否かを判断する。
【0020】
これは、無線通信装置の異常動作の一つとして、送信手段が信号を送信し続けることがあり、このような異常動作が発生すると、当該無線通信装置からの送信電波によって他の無線通信装置が送信できなくなるためであり、本発明では、こうした異常動作を、受信継続期間判定手段にて判断するようにしている。
【0021】
このため、本発明によれば、受信手段にて他の無線通信装置からの送信信号を受信しない非受信期間が長くなった場合に、その原因が無線通信装置自身の故障によるものであるか否かを正確に自己診断できるようになる。
【0022】
そして、故障断定手段は、受信レベル判定手段若しくは受信継続期間判定手段による判定結果に基づき、当該無線通信装置の故障を判定すると、その故障を報知することから、使用者は、無線通信装置の故障を速やかに検知して、無線通信装置の電源を遮断する等、所定の対応をとることができる。
【0023】
次に、請求項2に記載の無線通信装置には、折返し経路形成手段により折返し経路が形成されると、復調手段にて、折返し経路を介して受信手段に入力された受信信号から変調手段が送信信号に変換する前の送信データが復元されたか否かを判定する、復元データ判定手段が設けられている。そして、故障断定手段は、復元データ判定手段にて、送信データが復元されないと判定されたときにも、当該無線通信装置が故障していると判断する。
【0024】
従って、請求項2に記載の無線通信装置によれば、変調手段若しくは復調手段に異常が生じた際にも、無線通信装置が故障したと判断して、その旨を報知することができる。
なお、請求項3に記載のように、故障断定手段は、無線通信装置が故障していると判断した際、単に無線通信装置の故障を報知するだけでなく、当該無線通信装置による無線通信を禁止するようにしてもよい。
【0025】
そして、このようにすれば、故障した無線通信装置の動作によって、他の無線通信装置の無線通信に悪影響を与えるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態の無線通信装置の構成を表すブロック図である。
【図2】実施形態の制御部にて実行される故障診断処理を表すフローチャートである。
【図3】変形例の無線通信装置の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1に示す本実施形態の無線通信装置は、例えば、自動車等の移動体に搭載されて、他の移動体に搭載された無線通信装置や、走行路近傍に路側機として設置された無線通信装置との間で、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance)方式による無線通信(車車間通信、路車間通信)を行うものであり、通信用のアンテナ2を備える。
【0028】
また、CSMA/CA方式では、1つの通信チャンネルを利用して送受信を行うことから、アンテナ2には、送受信切換用の高周波スイッチ(以下、RFSWという)9を介して、受信系のアナログ回路と送信系のアナログ回路との何れか一方が選択的に接続される。
【0029】
受信系のアナログ回路は、アンテナ2からの受信信号を増幅するローノイズアンプ(以下、LNAという)4と、LNA4にて増幅された受信信号をベースバンドの受信信号に周波数変換(ダウンコンバート)する周波数変換部5とから構成されている。
【0030】
そして、周波数変換部5にて周波数変換されたベースバンドの受信信号は、ベースバンドプロセッサ10に入力される。
ベースバンドプロセッサ10には、この受信信号をデジタル信号に変換するA/D変換部12、及び、A/D変換部12にてA/D変換されたデジタル信号を処理して受信データを復元する復調部14、が備えられている。
【0031】
そして、復調部14にて復元された受信データは、MAC層に関する規定動作を行うMAC部(Media Access Control:メディアアクセス制御部)20に出力され、このMAC部20にて処理された後、移動体に搭載された電子制御装置(ECU:例えば、運転支援用のナビゲーション装置等)に出力される。
【0032】
また、この電子制御装置(ECU)からMAC部20には、送信データが入力され、MAC部20は、その入力データを処理して、キャリアセンスに基づき設定される送信タイミングングで、ベースバンドプロセッサ10に出力する。
【0033】
ベースバンドプロセッサ10内には、MAC部20からの入力データを予め設定された変調方式にて送信信号(デジタル信号)に変調する変調部16、及び、この変調部16からのデジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換部18、が備えられている。
【0034】
そして、D/A変換部18にてアナログ信号に変換された送信信号は、送信系のアナログ回路を介して、RFSW9に出力される。
なお、送信系のアナログ回路は、ベースバンドプロセッサ10のD/A変換部18から出力されるベースバンドの送信信号を無線送信用の高周波信号に周波数変換(アップコンバート)する周波数変換部7と、この周波数変換部7にて周波数変換された送信信号を増幅するパワーアンプ(以下、PAという)8とから構成されている。
【0035】
また、受信系及び送信系の周波数変換部5、7には、LNA4やPA8のゲインコントロール等に用いられる受信信号及び送信信号の信号レベルを検出する、レベル検出部5a、7aが設けられている。
【0036】
また、受信系のLNA4及び送信系のPA8とRFSW9とをそれぞれ接続する受信信号経路及び送信信号経路には、経路切換回路22が設けられている。
この経路切換回路22は、無線通信装置が通常の通信モードにあるときには、LNA4及びPA8とRFSW9との間の受信信号経路及び送信信号経路を導通させ、無線通信装置が故障診断用の診断モードにあるときには、その経路を遮断して、PA8の出力とLNA4の入力とを折返し経路にて接続する、一対の切換スイッチSW1、SW2を備える。
【0037】
そして、切換スイッチSW1、SW2にて形成される折返し経路には、PA8から出力される送信信号を、LNA4が飽和しない適正レベルまで減衰させる減衰器(アッテネータ)ATTが設けられている。
【0038】
次に、ベースバンドプロセッサ10には、受信信号及び送信信号をデジタル処理するためのA/D変換部12、復調部14、変調部16、及びD/A変換部18に加えて、マイクロコンピュータ(CPU)からなる制御部30が設けられている。
【0039】
この制御部30は、RFSW9による送受信の切り換え、受信系LNA4及び送信系PA8のゲインコントロール(GC)、受信系及び送信系の周波数変換部5、7の制御等、無線通信用の各種制御を、MAC部20によるアクセス制御に連動して実行するものである。
【0040】
そして、制御部30は、RFSW9を周期的に送信系回路側に切り換え、MAC部20からベースバンドプロセッサ10への送信データの出力を許可することで、周囲の他の無線通信装置に、自身の情報を定期送信させる。
【0041】
また、制御部30は、無線通信時に他の無線通信装置からの送信信号を長期間受信できない場合に、無線通信装置自身が故障していないかどうかを自己診断するための故障診断処理を行う。
【0042】
以下、制御部30にて実行される故障診断処理について、図2を用いて説明する。なお、この故障診断処理を実行するに当たって、制御部30には、診断結果を報知するための表示部32が接続されている。
【0043】
図2に示すように、故障診断処理が開始されると、まずS110(Sはステップを表す)にて、無線通信装置が起動された直後であるか否かを判断する。そして、無線通信装置が起動直後であれば、S160に移行し、無線通信装置が起動直後でなければ、S120に移行する。
【0044】
S120では、アンテナ2で他の無線通信装置からの送信信号が受信されたか否か(詳しくは、受信信号が復調部14にて他の無線通信装置からの送信データが復調されたか否か)を判断する。
【0045】
そして、S120にて他の無線通信装置からの送信信号が受信されたと判断されると、S140に移行して、未受信継続時間を計時するための計時カウンタCをクリアし、S120にて他の無線通信装置からの送信信号が受信されていないと判断されると、S130に移行して、未受信継続時間を計時するための計時カウンタCをカウントアップ(+1)する。
【0046】
このように、S130又はS140にて計時カウンタCが更新又はクリアされると、S150に移行して、計時カウンタCの値は予め設定されたしきい値Cth以上になったか否かを判断する。
【0047】
このしきい値Cthは、上記のように更新される計時カウンタCの値に基づき、他の無線通信装置からの送信信号を受信できない非受信期間が、予め設定された診断開始判定期間に達したか否かを判定するためのものであり、そのしきい値Cthには、定期送信の周期(例えば、0.1秒)に比べ充分長い時間(例えば、数十秒)に対応した値が設定されている。
【0048】
そして、S150にて、計時カウンタCの値はしきい値Cthに達していないと判断されると、再度S120に移行して、カウンタCを用いた未受信継続時間の計時を継続し、S150にて、計時カウンタCの値はしきい値Cth以上になったと判断されると、S160に移行する。
【0049】
S160では、切換スイッチSW1、2を、送信信号経路及び受信信号経路を遮断する側(換言すれば折返し経路側)に切り換えることで、当該無線通信装置の動作モードを、通常モードから診断モードに切り換える。
【0050】
そして、続くS170では、定期送信によって送信系回路から受信系回路に入力された送信信号の入力レベルを、受信系周波数変換部5に設けられたレベル検出部5aを介して読み込み、S180にて、その信号レベルが、適正レベルであるか否かを判断する。
【0051】
S180にて、レベル検出部5aから読み込んだ信号レベルが適正レベルにないと判断されると、S190にて、送信系のPA8若しくは受信系のLNA4のゲインコントロールに異常が生じていると判断して、後述のS280に移行し、逆に、S190にて、その信号レベルが適正レベルにあると判断されると、S200に移行する。
【0052】
S200では、定期送信によって送信系回路から受信系回路に入力される送信信号の入力時間(受信継続時間:換言すれば受信信号のデータ長)を計測し、S210にて、その計測時間(受信継続時間)は、通常の定期送信時間よりも著しく長い上限時間に達しているか否かを判断する。
【0053】
そして、S210にて、受信継続時間は上限時間に達していると判断されると、S220に移行して、周波数変換部7、PA8等の送信系のアナログ回路に異常があると判断して、後述のS280に移行し、逆に、S210にて、受信継続時間は上限時間に達していないと判断されると、S230に移行する。
【0054】
S230では、復調部14から、受信信号を復調した受信データを読み込み、続くS240にて、その読み込んだ受信データが正常か否か(具体的には、送信系回路から定期送信された送信データと一致しているか否か)、を判断する。
【0055】
そして、S240にて、受信データが正常ではないと判断されると、S250にて、ベースバンドプロセッサ10内の変調部16若しくは復調部14に異常があると判定して、後述のS260に移行し、逆に、受信データが正常であると判断されると、S260に移行する。
【0056】
S260では、上述の故障診断の結果、無線通信装置には異常はない(セルフチェックOK)と判断して、その旨をメモリに記憶する。そして、続くS270では、切換スイッチSW1、2を、送信信号経路及び受信信号経路を導通させる側に切り換えることで、当該無線通信装置の動作モードを、診断モードから通常モードに戻し、S110に移行する。
【0057】
次に、S190、S220、S250にて異常判定されたときに実行されるS280では、その異常判定された異常内容に応じたエラーメッセージを表示部32に表示することで、運転者等に無線通信装置の異常(故障)を報知し、その後、S290に移行して、当該無線通信装置の電源を遮断する。
【0058】
なお、表示部32は、自動車のインストルメントパネル等、移動体の運転者が目視で確認できる位置に設けられており、制御部30からエラーメッセージの表示指令を受けると、無線通信装置の電源遮断後も継続してエラーメッセージを表示する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態の無線通信装置によれば、無線通信装置に電源が投入されて当該無線通信装置が起動した直後、若しくは、他の無線通信装置からの送信信号を受信できない未受信継続時間が診断開始判定期間に達したときに、故障診断処理により故障診断(具体的にはS160以降の処理)が開始される。
【0060】
そして、この故障診断は、送信系のPA8から受信系のLNA4への送信信号の折返し経路を形成することで、PA8からLNA4へ減衰器ATTを介して送信信号が入力されるようにし、受信系での送信信号の受信レベル、送信信号の受信継続時間、及び、受信系で復調された受信データ、を順次読み込み、これら各パラメータに基づき、PA8若しくはLNA4のゲインコントロールの異常、送信系アナログ回路(周波数変換部7、PA8)の異常、及び、ベースバンドプロセッサ10内の変調部16若しくは復調部14の異常、を順次判断することにより行われる。
【0061】
そして、このように順次実行される3つの異常判定の何れかで異常が判断されると、その異常内容を表すエラーメッセージを表示部32に表示し、更に、無線通信装置の電源をオフすることで、無線通信装置の通信動作を停止させる。
【0062】
従って、本実施形態の無線通信装置によれば、他の無線通信装置からの送信信号を受信できない非受信期間が長くなった場合に、その原因が無線通信装置自身の故障によるものであるか否かを正確に自己診断できるようになる。
【0063】
特に、本実施形態によれば、送信系の周波数変換部7やPA8の故障によって送信信号が連続的に出力されて、他の無線通信装置がキャリアセンスによって送信権を取得できなくなったときにでも、その旨を速やかに検出することができる。
【0064】
また、本実施形態の無線通信装置によれば、上記のように自身の故障を判定すると、その旨を表示部32に表示することで、運転者等の使用者に故障を報知することから、使用者は、無線通信装置の故障を速やかに検知して、無線通信装置の電源を遮断する等、所定の対応をとることができる。
【0065】
また、本実施形態の無線通信装置によれば、自身の故障を報知した後は、自身の電源を遮断して、動作を停止することから、故障した無線通信装置の動作によって、他の無線通信装置の無線通信に悪影響を与えるのを防止できる。
【0066】
なお、本実施形態においては、送信系の周波数変換部7、PA8が、本発明の送信手段に相当し、受信系のLNA4、周波数変換部5が、本発明の受信手段に相当し、RFSW9が、本発明の送受信切換手段に相当し、制御部30が、本発明の通信制御手段に相当し、変調部16が、本発明の変調手段に相当し、復調部14が、本発明の復調手段に相当する。
【0067】
また、制御部30にて実行される故障診断処理におけるS120〜S150の処理は、本発明の診断開始判定手段に相当し、S160の処理及び経路切換回路22は、本発明の折返し経路形成手段に相当し、S170及びS180の処理は、本発明の受信レベル判定手段に相当し、S200及びS210の処理は、本発明の受信継続期間判定手段に相当し、S230及びS240の処理は、本発明の復元データ判定手段に相当し、S280及びS290の処理は、本発明の故障断定手段に相当する。
【0068】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて種々の態様をとることができる。
例えば、上記実施形態では、図2に示した故障診断処理は、ベースバンドプロセッサ10内に設けられた通信制御用の制御部30にて実行されるものとして説明したが、例えば、図3に示すように、ベースバンドプロセッサ10内の制御部30とは別に、故障診断処理を実行するためのセルフチェック部(マイクロコンピュータ)40を設けるようにしてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、無線通信装置は、自動車等の移動体に搭載されるものとして説明したが、例えば、路側機等、移動体に搭載された無線通信装置との間で無線通信を行う固定局として利用するようにしても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0070】
一方、上記実施形態では、図2の故障診断処理において、S190、S220、S250で異常判定され、S280で異常内容に応じたエラーメッセージを表示すると、S290に移行して、当該無線通信装置の電源を遮断するものとして説明したが、S290では、送信系回路(少なくともPA8)の電源を遮断し、受信系回路への電源供給は継続するようにしてもよい。
【0071】
そして、このようにすれば、無線通信装置から他の無線通信装置に無線通信の妨げとなる異常電波が送信されるのを防止できるだけでなく、受信系回路が正常であれば、他の無線通信装置からの送信信号を受信して、他の無線通信装置からの情報を取得することができるようになる。
【符号の説明】
【0072】
2…アンテナ、4…LNA(ローノイズアンプ)、5…周波数変換部、5a…レベル検出部、7…周波数変換部、7a…レベル検出部、8…PA(パワーアンプ)、9…RFSW(高周波スイッチ)、10…ベースバンドプロセッサ、12…A/D変換部、14…復調部、16…変調部、18…D/A変換部、20…MAC部、22…経路切換回路、ATT…減衰器、SW1,SW2…切換スイッチ、30…制御部、32…表示部、40…セルフチェック部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信用のアンテナと、
送信信号を前記アンテナに出力する送信手段と、
前記アンテナからの受信信号を信号処理する受信手段と、
前記アンテナを前記送信手段及び前記受信手段の何れか一方に選択的に接続する送受信切換手段と、
前記送受信切換手段を介して前記送信手段を前記アンテナに周期的に接続することにより前記送信手段による定期送信を実施させ、該定期送信後は、前記送受信切換手段を介して前記受信手段を前記アンテナに接続することにより、前記受信手段を受信待機状態に制御する通信制御手段と、
を備えた無線通信装置において、
前記受信手段が他の無線通信装置からの送信信号を受信しない非受信期間が、前記定期送信の周期の複数倍以上の長さに設定された診断開始判定期間に達したか否かを判定する診断開始判定手段と、
前記診断開始判定手段にて、前記非受信期間が前記診断開始判定期間に達したと判定されると、前記送信手段から出力された送信信号を前記受信手段に入力する折返し経路を形成する折返し経路形成手段と、
前記折返し経路形成手段により前記折返し経路が形成されると、前記受信手段にて受信される受信信号の信号レベルを検出して、該信号レベルが正常か否かを判断する受信レベル判定手段と、
前記折返し経路形成手段により前記折返し経路が形成されると、前記受信手段による前記受信信号の受信継続期間を計測し、該受信継続期間が異常判定用のしきい値を越えたか否かを判定する受信継続期間判定手段と、
前記受信レベル判定手段にて前記受信信号の信号レベルが正常ではないと判定されるか、或いは、前記受信継続期間判定手段にて前記受信継続期間が前記しきい値を越えたと判定されると、当該無線通信装置が故障していると判断して、当該無線通信装置の故障を報知する故障断定手段と、
を備えたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記送信データを無線送信用の送信信号に変換する変調手段と、
前記受信手段にて受信された受信信号から受信データを復元する復調手段と、
前記折返し経路形成手段により前記折返し経路が形成されると、前記復調手段にて、前記折返し経路を介して前記受信手段に入力された受信信号から前記変調手段が送信信号に変換する前の送信データが復元されたか否かを判定する復元データ判定手段と、
を備え、前記故障断定手段は、前記復元データ判定手段にて、前記変調手段が送信信号に変換する前の送信データが復元されないと判定されたときにも、当該無線通信装置が故障していると判断することを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記故障断定手段は、当該無線通信装置が故障していると判断した際、当該無線通信装置による無線通信を禁止することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−85085(P2013−85085A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223020(P2011−223020)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】