説明

無遊間接続用のレール継目板の製造方法

【課題】安価な形状記憶効果が付与された形状記憶合金製のレール継目板の製造方法を提供すること。
【解決手段】無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法において、鉄系の形状記憶合金製素材を熱間押出し法によって、前記形状記憶合金製レール継目板の断面外形よりも僅かに大きい断面外形であって、複数本分の継目板に相当する長さ寸法以上の長さを有する長尺形鋼6aに成形した後、その長尺形鋼6aのほぼ全長に渡って形状記憶効果を付与するに必要な引張変形を付与し、その後、その引張変形を付与した長尺形鋼6aを切断することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直列に隣り合うレール間に遊間を生じさせないように形状記憶合金の形状復元力によりレール同士を密着して接続させる無遊間接続用のレール継目板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レール相互の接続は、接続するレール端部相互を付き合わせた後に、2枚の継目板をレールの両側面に当てて、ボルトとナットで締め付けるのが最も普通である。しかし、この方法では、図14に示すように、各レール18,19とレール継目板のボルト穴位置が多少の位置ズレなどが原因で、接続された後のレール相互間に遊間と呼ばれる隙間G1が生じる。
【0003】
この遊間は、レール上を走行する車両に衝撃的な振動と騒音を発生させる原因となる。特に衝撃的な振動は、車両とレールの両方に繰り返して与えられるので、レール端部が欠ける原因となる。また、レール上を走行する車両側についても、特に重量物を運搬するクレーンの場合には、吊り荷を振動させて、吊り荷の落下の危険が生じる上に、車両上の運転台内の電気制御系統に損傷を与える大事故の原因ともなることが知られている。
【0004】
レール間に遊間を発生させない方法の一つには、継目板を使用せずにレール同士を直接溶接して接続する方法がある。レール端部同士を溶接すれば遊間は発生しないが、レール同士の溶接には、資格を持った高度の技能者による作業が必須となるばかりでなく、レールは一般に溶接のしにくい高炭素鋼であるため、溶接前後の予熱後熱作業を含めると1個所の溶接に7〜8時間という長時間を必要とする。
このため長期的な計画に従ってレールは敷設(或いは交換)され、かつ既設の線路の横のスペースで予め時間をかけて溶接作業を実施しておくことのできる鉄道用レールに限れば、最近は溶接による接続が主流になっている。
しかし、クレーン用レールは、建家内の高所の狭いスペース上に敷設されることが多いため、溶接作業のスペース確保が難しい上に、クレーン用レールを溶接接続すると、クレーン用レールの交換がしにくくなるために、遊間の発生という不都合があっても、レール継目板を用いた接続法に頼るケースが多数を占めている。
【0005】
以上のように、レールの接続部に遊間を生じない接続法は常に求められているが、溶接法がすべてのケースで有効とはいえないのが実状である。したがって、接続時にはレール継目板とボルトナットによって短時間で接続することができ、かつ遊間が発生せず、レール交換時には、ボルトを緩めることによって、短いレールに戻して高所から容易に撤去できるような接続法が強く求められていた。
【0006】
前記のような接続法として、形状記憶効果が付与された形状記憶合金製の継目板を用いると、このような期待に答えることが可能である。形状記憶合金には、予め記憶させた形状に外力を加えて形を変化させても、次に適当な温度に熱するだけで、変形する前に記憶した形状に戻ろうとする特性がある。
【0007】
そこで、予め長さ方向に引張変形を付与して、形状記憶効果が付与された形状記憶合金製継目板をレールの両側面に当ててボルトとナットによって緩めに接続した後、継目板部分に熱を加え、継目板を長さ方向に収縮させて、直列に隣り合うレール相互を引き寄せて、レール間の遊間を無くすことが知られている(例えば、特開昭55−119207号公報)。
【0008】
また、レール継目板に対する形状記憶処理を適切に行えば、単に遊間をゼロにするだけでなく、レールの接続部に一定の圧縮応力を付与しておくことも可能になる。例えば、図13(a)(b)に示すように、形状記憶合金製レール継目板24によって適度な圧縮力をレール18,19の接続部に付与しておけば、レール継目部を走行する車両の急発進や急停止時に、レール間を引き離そうとする応力が発生しても、それに打ち勝って、常に遊間をゼロに維持することも可能なことが知られている(例えば、特開2006―257707号公報)。
【0009】
前記の場合は、これまでの普通の鋼材からなるレール継目板と同じ接続作業の後に、適当な温度までレール継目板を加熱するだけで、遊間をゼロに維持する機能を持っている。前記のような形状記憶効果が付与された形状記憶合金製の無遊間接続用のレール継目板による接合方法は、溶接による接合方法に比べて、特殊技能がいらず、作業時間も圧倒的に短い優れた方法であり、クレーンレール用のレール接続方法を中心に定着しつつある。
【0010】
ところで、前記のような形状記憶効果が付与された無遊間継手用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法としては、形状記憶合金という特殊な素材で製作されているにもかかわらず、形状記憶合金製の製品の一般的な製造方法にて製造している。
【0011】
なお、鉄系形状記憶合金、例えば、28%Mn、6%Si、5%Crを含み残部がFeからなる形状記憶合金の場合、融点が1330℃前後と高くても、それよりも低い温度、例えば1250℃を超える高温領域においては、偏析部などが部分的に溶解することによって激しい脆化が生じる。またこれとは逆に900℃を下回る低温度領域においては、変形抵抗が非常に高くなって加工が困難になる。このような鉄系形状記憶合金の特徴は、1150℃以上の高温度領域に加熱して十分に変形抵抗が小さい均質なオーステナイトとした状態で熱間押し出し成形できる一般の炭素鋼とは全く異なる。
また、900度以下では、加工された形状記憶合金の結晶粒子が、潰れた状態のままとなるので、結晶粒子の粒状化を図るために、加熱する必要がある。このような鉄系形状記憶合金の特徴は、1250℃以上の温度領域において変形抵抗が小さくなった均質なオーステナイトの状態で熱間押し出し成形できる一般の炭素鋼とは全く異なる。
【0012】
前記のような特性のある鉄系形状記憶合金製素材を具他的に加工する場合には、図7のフローチャートに示すように、次の(1)〜(8)の手順で製造していた。
(1)形状記憶合金製の素材を板状に熱間圧延または形鋼状に熱間鍛造し、継目板の断面外形が余裕をもって切り出せる断面矩形状のサイズのバー材(断面矩形状の形鋼)25を製造する[図9(a)参照)。
(2)その圧延または鍛造された断面矩形状のバー材25の曲がり矯正を行う。
(3)前記の圧延または鍛造された断面矩形状のバー材25の鍛造や圧延工程で付与されたひずみを除去するとともに、析出物を分解させるための溶体化熱処理をする。
(4)断面矩形状のバー材25を、断面矩形状の1本のレール継手板としての所定の長さに切断する。
(5)その断面矩形状の1本のレール継手板を引張変形して形状記憶効果を付与する。
(6)図9(b)に示すように、断面矩形状の4面を粗加工して、レール頭部下面に係合する係合用傾斜上面26と、レールフランジ上面に係合する係合用傾斜下面27とを備えた断面8角形の粗加工レール継手板28とする。
(7)その粗加工レール継手板28にボルト孔(14〜17)を穿設する加工をする。
(8)断面で、上下左右の四面の仕上げ加工をして、形状記憶効果が付与された1本の形状記憶合金製のレール継目板24の製品にする。
【0013】
さらに説明すると、前記の溶体化処理の熱処理をすることにより、この状態の形状が記憶される。次に、図8に示すように、前記のように断面矩形状の継目板1枚分の長さのバー材25に切断し、1枚ずつバー材25の両端の掴み部材22を掴んで規定の引張ひずみを付加する。熱間圧延では、断面が矩形状となるように長尺のバー材とされているが、長手方向の断面寸法にはバラツキがあるため、次の工程でボルト孔を正確な位置に開けるために、不均一な形状の素材を一定のサイズの矩形にするための予備的切削加工として、前記の四面粗加工が行われる。
なお、前記の掴み部には、疵がつくため、その部分は切断除去され、材料ロスを伴うことになる。
【特許文献1】特開昭55−119207号公報
【特許文献2】特開2006−74746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記従来の断面矩形状の形状記憶合金製のレール用バー材から継目板を製作する場合には、下記のような欠点または問題がある。
(1)矩形断面から、不整形な断面であるレール用継目板を製造するために、不必要な断面部分を削っており、材料ロス(概ね20%強)が大きく、また、引張加工時に発生する掴みキズを除去するため、歩留り落ちが大きく、そのため、材料歩留が低いという問題がある。
(2)断面矩形状のレール継目板用のバー材を1枚づつ引っ張るので、セットして取り外し等の作業を伴うため、作業の手間が大きく、製造効率が低いという問題がある。
【0015】
前記のように、現状では板や形鋼用の圧延機で余裕を持った矩形断面に圧延された素材が切削して使われるから、歩留まりが悪くなっている。また、1枚分に切断してから引っ張るために1枚毎に掴み部が必要となり、これも歩留まりを低下させる大きな原因になっている。
本発明は、形状記憶効果が付与された形状記憶合金製のレール継目板の製造にあたり、切削工程をなくして製造工程を簡素にすることができ、また、材料の歩留まりを向上させ、より安価な形状記憶効果が付与された形状記憶合金製のレール継目板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の課題を有利に解決するために、第1発明のレール継目板の製造方法では、直列に隣り合うレール間に遊間を生じさせないように接続する無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法において、鉄系の形状記憶合金製素材を熱間押出し法によって、前記形状記憶合金製レール継目板の断面外形よりも僅かに大きい断面外形であって、複数本分の継目板に相当する長さ寸法以上の長さを有する長尺形鋼に成形した後、その長尺形鋼のほぼ全長に渡って形状記憶効果を付与するに必要な引張変形を付与し、その後、その引張変形を付与した長尺形鋼を切断することを特徴とする。
第2発明では、第1発明の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法において、複数本分の継目板に相当する長さ寸法以上の長さを有する長尺形鋼に成形した後、その長尺形鋼の曲がりを引張式曲がり矯正機により矯正し、その後、長尺形鋼の状態で溶体化熱処理を施し、その後、再び引張式曲がり矯正機にもどして、長尺形鋼の温度が0℃以上50℃以下で、形状記憶効果を付与するに必要な引張変形を前記引張式曲がり矯正機によって付与することを特徴とする。
第3発明では、第1発明の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法において、複数本分の継目板に相当する長さ寸法以上の長さを有する長尺形鋼に成形した後、その長尺形鋼の曲がりを引張式曲がり矯正機により矯正し、その後、長尺形鋼の溶体化熱処理を施すことなく、その長尺形鋼のほぼ全長に渡って形状記憶効果を付与するに必要な引張変形を付与することを特徴とする。
第4発明では、第1発明または第2発明の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法において、形状記億効果を付与するに必要な引張変形工程が、300℃以上で950℃以下の温度域への加熱処理を挟んで2回以上繰り返して行われることを特徴とする。
第5発明では、第1発明〜第4発明のいずれかに記載の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法において、前記鉄系の形状記憶合金製素材が、Fe、Mn、Siを主成分とする鉄系の形状記憶合金であることを特徴とする。
第6発明では、第1発明〜第4発明のいずれかに記載の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法において、前記鉄系の形状記憶合金製素材が、Fe、Mn、Si、Crを主成分とする鉄系の形状記憶合金であることを特徴とする。
第7発明では、第1発明〜第6発明のいずれかに記載の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法において、熱間押し出し法による鉄系の形状記憶合金製素材の押し出し温度が、1050℃〜1200℃とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1発明によると、鉄系の形状記憶合金製素材を熱間押出し法により、複数本分の継目板に相当する長さ寸法以上の長さを有する長尺形鋼に成形した後、形状記憶効果を付与するに必要な引張変形を付与して切断するので、無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板を製造する場合に、切削加工の工程を省略して製造できるため、従来の場合に比べて、3割程度安価な継目板を容易に製造することができる。
本発明の場合には、熱間押出法を含む工程により、レール継目板を製造しているので、押出ダイスを変更することにより、適宜断面外形の異なる断面外形の継目板を製造することが可能になり、自由度が高まる。
第2発明によると、複数本分の継目板に相当する長さ寸法以上の長さを有する長尺形鋼に成形した後、その長尺形鋼の曲がりを引張式曲がり矯正機により矯正し、その後、長尺形鋼の状態で溶体化熱処理を施し、その後、再び引張式曲がり矯正機にもどして、長尺形鋼の温度が0℃以上50℃以下で、形状記憶効果を付与するに必要な引張変形を前記引張式曲がり矯正機によって付与するので、請求項1の効果に加えて、品質の高い無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板を確実に製作することができる。
第3発明によると、長尺形鋼の溶体化熱処理を施すことなく、その長尺形鋼のほぼ全長に渡って形状記憶効果を付与するに必要な引張変形を付与するので、製造工程をより簡素にでき、無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造コストをより安価にすることができる。
第4発明によると、形状記億効果を付与するに必要な引張変形を付与する工程が、300℃以上で950℃以下の温度域への加熱処理を挟んで2回以上繰り返して行われるので、形状記憶合金製の長尺形鋼により優れた形状回復性能を付与することができる。
第5発明または第6発明によると、Fe、Mn、Siを主成分とする鉄系の形状記憶合金、あるいはFe、Mn、Si、Crを主成分とする鉄系の形状記憶合金の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板を、従来の場合よりも格段に安価に製造することができる。
第7発明によると、高温時における変形抵抗が少ない状態で熱間押し出し成形することができ、また、脆くなる等の機械的性質が低下する恐れがない安定した性能の形状記憶合金製のレール継目板とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
先ず、本発明では、図3に示すように、形状記憶合金製の素材から無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の体積の複数本分以上の体積の形状記憶合金製の柱状ビレット1を製作する。
【0020】
前記の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板を製造するための形状記憶合金製の柱状ビレット1の材質としては、例えば、構造材としても十分な基本特性を有する鉄系形状記憶合金、例えば、Fe-Mn-Si系合金が最も相応しいものの一つである。Fe-Mn-Si系合金の代表的な成分組成には、Fe-16%Mn-5%Si-12%Cr-5%Ni、Fe-20%Mn-5%Si-8%Cr-5%Ni、Fe-28%Mn-6%Si-5%Crなどがある。例えば、無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板として、Fe-28%Mn-6%Si-5%Cr合金を使用した場合には、引張強さ680〜1000N/mm、形状が完全に回復する変態温度300〜350℃、形状回復応力180N/mm程度の性能を有するなどの特性を有している。尚、形状記憶効果を付与するための引張変形量は、4%から9%程度でよい。
なおFe−Mn−Si系形状記憶合金では、これらの引張変形を付与した後に、400℃から800℃〜900℃程度への加熱を行い、それに続いてさらに4〜7%程度の引張変形を付与すれば、より一層大きな形状回復量を取り出せることが知られており(トレーニングと呼ばれている)、本発明の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板においてもこの活用は有効である。
【0021】
前記の柱状ビレット1が常温状態とされている場合には、図3(b)に示すように、柱状ビレット1を昇降可能に支持し、加熱炉2内に挿入して加熱し、所定の温度領域に柱状ビレット1を昇温させ、押出成形可能な温度領域に昇温させる。
【0022】
前記の熱間押し出し成形時における温度領域は、前記の形状記憶合金の融点(例えば、1330℃)以下の温度で、1050℃〜1200℃の範囲とするのが好ましい。
その理由は、前記のような鉄系の形状記憶合金は、通常の鋼材に比べ高温域における変形抵抗が高く、1050℃以下では、SUS304よりも高くなるため、押出成形の射出時の抵抗が大きくなりすぎて、射出できない。一方、1250℃を越えると、形状記憶合金素材の脆化が生じてしまうことが分かっている。したがって、前記鉄系の形状記憶合金の特性を生かすためには、射出時の温度を1050〜1200℃の範囲で熱間押出成形を管理する必要がある。好ましくは、均質な組織に近い状態にするには、1050℃〜1150℃の範囲で、熱間押出成形時の温度を管理するとよい。
【0023】
次いで、そのよう温度に昇温された柱状ビレット1を、図3に示すように、熱間押出成形装置3内に配置し、油圧式押し出し具4により、ダイス5から押出成形して、図1(a)に示すように、複数本分の継目板に相当する長さ寸法以上の長さを有する長尺形鋼6aにすると共に、その断面外形を、図2(d)における内側図形あるいは図2(b)(c)に示す形状記憶合金製レール継目用形鋼6b(または形状記憶合金製レール継目板7)の断面外形よりも僅かに大きい、図2(d)における外側図形あるいは図2(a)に示す断面外形の長尺形鋼6aに成形する。
なお、図2(c)に示す形態は、引張り変形後に、再度引張り変形させるトレーニングする場合における、最初の引張り変形時の長尺形鋼6bの断面形態であり、図2(b)に示す1回のみ引張り変形させる場合よりも、最初の引張り変形は小さくてよい。
【0024】
図2(d)から分かるように、本発明では、柱状ビレット1から1度の熱間押し出し成形法により、完成状態のレール用継目板の断面外形よりも僅かに大きい断面外形の長尺形鋼6aを製造し、その長尺形鋼6aから、無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板6bを一度の引っ張り変形により製作するようにしている。前記のように、一度の熱間押し出し成形により、完成状態のレール用継目板の断面外形よりも僅かに大きい断面外形の長尺形鋼6aを製造するために、押し出し成形ダイス5の内側断面形態は、完成状態のレール継目板の断面外形よりも僅かに大きくしている。
【0025】
前記のように断面形態を、完成状態のレール用継目板の断面外形よりも僅かに大きくしている理由は、以下のような理由があるからである。
前記の継目板の複数本分以上の長さ寸法の長尺の形鋼6aに形状記憶効果を引き出すために付加される引張変形は、長さ方向のひずみで一定の範囲(形状記憶合金の種類によって最適値は異なるが、Fe−Mn−Si系合金の場合は、ほぼ4〜9%程度)であることが求められる。この引張変形はほぼ体積一定の下で起こるから、引張変形に伴って厚さと幅は共に小さくなる。
つまり熱間押し出し段階で、継目板製品の断面形状(断面外形)にぴったり一致する大きさに素材を作ってしまうと、引張変形後には、素材断面が規格寸法より小さくなってしまう。
したがって、形状記憶合金製継目板用形鋼6aを熱間押出しで製造する場合には、引張変形によって、断面形状(外形)がどう変化する割合を見込み、その分だけ大きめの断面を持った形鋼を熱間押し出し後に得るようにする必要があるためである。
【0026】
本発明者は、前記の断面形状(外形)の変化する割合について、熱間押し出し段階の形状記憶合金製継目板用形鋼6aの断面外形が、熱間押し出し後の引張変形を付与することによってどのように変化するかを詳細に調査した結果、図6に示す寸法で、同図左に示す規格寸法の形状記憶合金製継目板7の板厚寸法が28mmであり、板幅方向が85mmである場合には、継目板製品の厚みの(1.05±0.01)倍、板幅寸法については、継目板製品幅の(1.07±0.01)倍の形状記憶合金製継目板用形鋼6aになることを見出した。
そして、前記のように変化することを考慮して押出成形しておけば、ほぼ引張変形後に、継目板製品に近い断面外形を実現できることを見いだした。
【0027】
前記のように形状記憶合金の柱状ビレット1を、温度管理された状態で、熱間押出成形して、継目板複数本分以上の長さ寸法にした長尺形鋼6aを利用するようにしている理由は、1回の熱間押し出し成形により、複数本分のレール継目板の長さ寸法の長尺形鋼6aの製作が可能になり、歩留まり向上につながるからであり、例えば、数本分の継目板の長さ寸法に相当する柱状ビレット1とする。前記の柱状ビレット6の断面形態としては、例えば、円形、矩形等でよい。
【0028】
前記のような柱状ビレット1から加工された前記の長尺形鋼6aに、曲がりが生じていない場合には、50℃以下0℃以上に冷却した状態で長尺形鋼6aのほぼ全長に渡って形状記憶効果を付与するに必要な引張変形を付与して、形状記憶効果を付与するに必要な引張変形が付与された長尺鋼材6bとし、その後、その引張変形を付与した長尺形鋼6bを切断し、所定の長さ寸法の1本の継目板直前の状態にした後、ボルト孔を穿設して、形状記憶効果が付与された形状記憶合金製のレール継目板7を製造する。
なお、0℃を下回る温度まで冷却するとマルテンサイト変態が起こってしまい、優れた形状記憶効果を得られなくなる。また50℃を越える温度では、形状回復現象に寄与する応力誘起マルテンサイト変態が起こりにくくなり、やはり優れた形状記憶効果が得られなくなる。
【0029】
しかし、熱間押出成形法は、一般的に大きな曲がりが生じる製造方法であるため、前記のような柱状ビレット1から加工された前記の長尺形鋼6aに、曲がりが生じる。このため、図1(a)の側面形状で断面形態が図2(d)外側あるいは図2(a)に示す断面形態の長尺形鋼6aに、曲がりを矯正するための矯正機、例えば引張矯正機、ローラー矯正機、圧迫矯正機などの「曲がり矯正機」により、長尺形鋼6aの曲がりを矯正する(図4あるいは図15参照)。
前記の曲がり矯正機としては、例えば、図15に示すような曲がり矯正機8を使用するようにしてもよい。この曲がり矯正機8は、入り口側および出口側に走行用ロール9を有する環状炉10を備え、環状炉10には、ワイヤーロープ11が連結され、前後面からウィンチ12でワイヤーロープ11を巻き取り、または巻き出すことにより、長尺形鋼6aをレールとして環状炉10を、長尺形鋼6aを全長に渡って均一に加熱できるようになっている。なお、保持フレーム34に保持されるチャキング工具33と長尺形鋼6aとは、ボルト接合または溶接等により接合される。なおまた、長尺形鋼6aに沿ってレールを敷設し、該レール上で環状炉3を走行させてもよい。
【0030】
前記の50℃以下0℃以上に冷却した状態における長尺形鋼6aに引張変形を付与する手段としては、図16(a)に示すように、長尺形鋼6aの端部を把持するための位置固定のクランプ20aと位置可動のクランプ20bを両側に有し、クランプまたはクランプを保持しているフレームを油圧式ジャッキ21により連結している構造の油圧式引張加工装置29を使用すればよい。
前記のようにして、長尺形鋼6aに引張変形を付与して、ほぼ全長に渡って形状記憶効果を付与するに必要な引張変形を付与して、形状記憶効果が付与された長尺形鋼6bとする。
その後、その引張変形を付与し形状記憶効果が付与された長尺形鋼6bを、それぞれ1本のレール継目板の長さに切断して、引張変形が付与され形状記憶効果が付与されたレール継目板7とする。このように、所定の長さ寸法の1本の継目板直前の状態にした後、ボルト孔14〜17を穿設して、形状記憶効果が付与された形状記憶合金製のボルト孔付きレール継目板13を製造する。
【0031】
前記のように熱間押出し法で形状記憶合金製の長尺形鋼6aを製造するように変更すると、副次的に次のような利点が得られる。
前記の熱間押出し工場においては、定常的に発生する曲がりを矯正するための矯正機、例えば引張矯正機、ローラー矯正機、圧迫矯正機などの「曲がり矯正機」が備わっているのが普通であるため、本発明者等はこの内の引張矯正機に着目し、熱間押出し工場の引張矯正機は、熱間押出しされた長いままの押出製品(前記の長尺形鋼6a)の両端を掴んで、数%程度の引張ひずみを付与することによって曲がりの矯正を行うものである。本発明者等はこの引張矯正機を、継目板の形鋼6aを継手板製品1枚分の長さに切断する前の長いままの形状記憶合金製で熱間押出しの長尺形鋼6aに対して、形状記憶に必要な引張変形を付与するために活用すると、効率よく無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板13を製作することにつながる。
【0032】
本発明を実施する場合、前記の引張変形を付与する場合に、形状記億効果を付与するに必要な引張変形を付与する工程が、300℃以上で950℃以下の温度域への加熱処理を挟んで2回以上繰り返して行うようにしてもよい。
この場合の引張変形は、引張矯正機による曲がり矯正を含むものであってもよい。
300℃以上で950℃以下の温度域への加熱処理をする理由は、300℃以下の温度域であると十分な形状回復を起こさせることができないため、次の引張変形が新しい形状を記憶させるための有効な変形として機能しなくなる。また950℃を越えると、初回の引張変形の効果が完全に消去されてしまい、引張変形を繰り返して行うことの意味が無くなってします。このため300℃以上で950℃以下の温度に規制した。
【0033】
前記の製造工程をまとめると、本発明の方法を利用して継目板を製造する代表的な形態は、次のようになる。
(1)図4のフローチャートに示すように、所定温度領域の形状記憶合金製柱状ビレット→熱間押出(射出)→曲がり矯正→溶体化処理→引張変形→長さ切断→ボルト孔加工して製品とする方法。
(2)図5のフローチャートに示すように、所定温度領域の形状記憶合金製ビレット→熱間押出(射出)→曲がり矯正→引張変形→長さ切断→ボルト孔加工して製品とする方法。
なお、この場合は、初回の引張変形をした後に、トレーニングをしてもよく、あるいはトレーニングをしなくてもよい。
(3)曲がり矯正が必要ない場合には、所定温度の形状記憶合金製柱状ビレット→熱間押出(射出)→引張変形→長さ切断→ボルト孔加工して製品とする方法。
【0034】
次に、さらに具体的な実施例について説明する。
(実施例)
28%Mn、6%Si、5%Crを含み残部がFeからなる形状記憶合金製の170mmφ、長さ460mmの柱状ビレット1を熱間押出法で、73キロ級クレーンレール用の継目板用のバー材からなる長尺形鋼6aを製造した。
熱間押出し後の長尺形鋼6aの断面形状は、継目板製品の断面形状に対して2mmずつの仕上げ加工代をプラスした粗形状としたため、熱間押出し後の長尺形鋼6aの長さは6m(両端クロップ[掴み部]付き)となった。
【0035】
この長尺形鋼6aを、図16(b)に示すように支持した状態で上から押圧部材30により押圧するように圧迫する圧迫矯正と、図16(c)に示すように上下の矯正ローラ31によるローラー矯正に加えて、図15に示すような曲がり矯正機8あるいは図16(a)に示すような油圧式引張り加工装置29からなる引張矯正機により約3%塑性伸びを与える引張矯正を行ってまっすぐな長尺形鋼6aとし、図15に示すような950℃の炉内で3時間保定(950℃での保定時間は1時間)する溶体化熱処理を行った。
前記の溶体化熱処理後に、再び引張矯正機に返送し、長さの中央部分4.7mの両端に印をつけ、両印間の長さを測定したところ、4682mmであった。この後、両端のクロップ部をチャックして、4682mm部分が5.011(ひずみの値としては7.03%)になるまで、図15に示すような曲がり矯正機8あるいは図16(a)に示すような油圧式引張り加工装置29からなる引張矯正機により、引張変形を行った。前記の引張変形は曲がり矯正機を使用してはいるが、曲がり矯正のためではなく、形状記憶合金製継目板が完成して加熱された時に長さが縮むように動作させるために必要な処理、すなわち、形状記憶効果を付与するために行われたものである。
【0036】
前記のように構成された形状記憶合金製継目板13は、従来の形状記憶合金製レール継目板24と同様、図13(a)に示すように、形状記憶効果を付与された長手方向の中央部に固定ボルト用長孔14,15が、また長手方向両端部に係止ボルト用孔16,17が設けられている。直列に隣り合うレール18,19に渡って、これらの両側にそれぞれ形状記憶合金製継目板13が配置され、ボルト32を緩く接合した状態で、前記の形状記憶合金製継目板13を加熱することにより、寸法L1からL2に短縮するように形状回復させて、レール18,19同士の端部相互を押圧するように当接して、図10〜図12に示すように、レール18,19相互を無遊間接続する。
【0037】
本発明の場合には、熱間押出法を含む工程により、レール継目板を製造しているので、押出ダイスを変更することにより、適宜断面外形の異なる断面外形の継目板を製造することが可能になり、自由度が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板を製造する場合の説明図であって、(a)は、熱間押出射出加工され、複数本分の長さを有する形状記憶合金製レール継目板用形鋼の側面図、(b)は(a)の複数本分の長さを有する形状記憶合金製レール継目板用形鋼を、形状記憶効果を付与すべく引張変形させた状態を示す側面図、(c)は(b)の形鋼を切断して継目板一本分の長さ寸法に切断した状態を示す側面図、(d)は(c)の状態からボルト孔を穿設した状態を示す側面図である。
【図2】(a)は熱間押出射出成形後における無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板用の形鋼の断面図、(b)は(a)に示す形鋼を引張り変形した後の断面形態を示す断面図、(c)は(a)に示す形鋼を、トレーニングを含めて引張り変形した後の断面形態を示す断面図、(d)は(a)および(b)に示す断面形態を重ねて示す断面図である。
【図3】本発明の熱間押出工程を示す説明図である。
【図4】本発明の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造工程の一例をフローチャートで示す図である。
【図5】本発明の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造工程の他の例をフローチャートで示す図である。
【図6】クレーンレールの左に規格寸法のレール継目板を示し、右に本発明による熱間押出成形後の長尺形鋼の断面形態を示す図である。
【図7】従来の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造工程の他の例をフローチャートで示す図である。
【図8】(a)は従来の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板を示す側面図、(b)は従来の方法により、断面矩形の形状記憶合金製部材の両端をクランプして、形状記憶効果を付与するために、引張変形を加えている状態を示す説明図、(c)は(b)の状態から両端部を切断し、ボルト穴あけ加工を施した状態を示す側面図である。
【図9】従来の形状記憶合金製レール継目板を製作する場合の工程を示すものであって、(a)は、図8(b)に示す部材の断面形態を示す断面図、(b)は(a)の状態から前後左右の四面に切削粗加工を施して、断面8角形状にした状態を示す断面図である。
【図10】無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板により、クレーンレール相互を連結した状態を示す側面図である。
【図11】図10の平面図である。
【図12】図10の正面図である。
【図13】無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板を使用して、レール相互を無遊間状態で接続する工程を示す説明図である。
【図14】従来のレール相互の接続部を示す平面図である。
【図15】曲がり矯正機の一例を示す説明図である。
【図16】(a)は油圧式引張り加工装置を用いて引張変形を付与したり、引張り矯正する場合の形態を示す斜視図、(b)は圧迫矯正の一形態を示す斜視図、(c)はローラ矯正の一形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
1 形状記憶合金製の柱状ビレット
2 加熱炉
3 熱間押出成形装置
4 油圧式押し出し具
5 ダイス
6a 長尺形鋼
6b 形状記憶効果が付与された長尺形鋼
7 形状記憶合金製のレール継目板
8 曲がり矯正機
9 走行用ロール
10 環状炉
11 ワイヤーロープ
12 ウィンチ
13 形状記憶合金製のボルト孔付きレール継目板
14 固定ボルト用長孔
15 固定ボルト用長孔
16 係止ボルト用孔
17 係止ボルト用孔
18 レール
19 レール
20a 位置固定のクランプ(またはチャック)
20b 位置可動のクランプ(またはチャック)
21 油圧式ジャッキ
22 掴み部
23 レール継目板
24 形状記憶合金製レール継目板
25 断面矩形状のバー材
26 係合用傾斜上面
27 係合用傾斜下面
28 断面8角形の粗加工レール継手板
29 油圧式引張り加工装置
30 押圧部材
31 矯正ローラー
32 ボルト
33 チャキング工具
34 保持フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に隣り合うレール間に遊間を生じさせないように接続する無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法において、鉄系の形状記憶合金製素材を熱間押出し法によって、前記形状記憶合金製レール継目板の断面外形よりも僅かに大きい断面外形であって、複数本分の継目板に相当する長さ寸法以上の長さを有する長尺形鋼に成形した後、その長尺形鋼のほぼ全長に渡って形状記憶効果を付与するに必要な引張変形を付与し、その後、その引張変形を付与した長尺形鋼を切断することを特徴とする無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法。
【請求項2】
複数本分の継目板に相当する長さ寸法以上の長さを有する長尺形鋼に成形した後、その長尺形鋼の曲がりを引張式曲がり矯正機により矯正し、その後、長尺形鋼の状態で溶体化熱処理を施し、その後、再び引張式曲がり矯正機にもどして、長尺形鋼の温度が0℃以上50℃以下で、形状記憶効果を付与するに必要な引張変形を前記引張式曲がり矯正機によって付与することを特徴とする請求項1に記載の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法。
【請求項3】
複数本分の継目板に相当する長さ寸法以上の長さを有する長尺形鋼に成形した後、その長尺形鋼の曲がりを引張式曲がり矯正機により矯正し、その後、長尺形鋼の溶体化熱処理を施すことなく、その長尺形鋼のほぼ全長に渡って形状記憶効果を付与するに必要な引張変形を付与することを特徴とする請求項1に記載の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法。
【請求項4】
形状記億効果を付与するに必要な引張変形を付与する工程が、300℃以上で950℃以下の温度域への加熱処理を挟んで2回以上繰り返して行われることを特徴とする請求項1または2に記載の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法。
【請求項5】
前記鉄系の形状記憶合金製素材が、Fe、Mn、Siを主成分とする鉄系の形状記憶合金であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法。
【請求項6】
前記鉄系の形状記憶合金製素材が、Fe、Mn、Si、Crを主成分とする鉄系の形状記憶合金であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法。
【請求項7】
熱間押し出し法による鉄系の形状記憶合金製素材の押し出し温度が、1050℃〜1200℃とされていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の無遊間接続用の形状記憶合金製レール継目板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−279633(P2009−279633A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136200(P2008−136200)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(506135866)淡路マテリア株式会社 (4)
【Fターム(参考)】