説明

無鉛性カチオン電着塗料組成物

【課題】 基材の表面に、防錆性に優れた塗膜を形成することができる、無鉛性カチオン電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】 平均粒子径1〜10μmのアルミニウム顔料、カチオン性エポキシ樹脂、およびブロックイソシアネート硬化剤、を含有する、無鉛性カチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に、防錆性に優れた塗膜を形成することができる、無鉛性カチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱延鋼板または冷延鋼板などの鋼板は、加工性に優れるため工業材料として汎用されている。これらの鋼板は鉄であり錆が生じる。そのため、自動車用途など耐食性が要求される用途においては、亜鉛めっき処理を施した亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき処理を施した亜鉛−ニッケルめっき鋼板などが用いられている。しかし、近年の経済情勢から原料コストの削減が重要な課題となりつつあり、そのため、コスト的により安価な無処理の鋼板の使用も検討されるようになってきた。
【0003】
ところで、自動車などの基材の表面には、種々の役割を持つ複数の塗膜を形成して、基材を保護すると同時に美しい外観を付与している。このような複数の塗膜には電着塗膜が含まれる。電着塗膜は、導電性基材の上に塗装する塗膜であり、主として基材の耐食性を向上させるために設けられる。
【0004】
これまで電着塗料組成物には、耐食性を付与するため、鉛を含む耐食性付与剤が添加されてきた。近年、鉛は環境に対して悪影響を与えることから、使用量の削減が要求されている。そのため鉛等のような耐食性付与剤を含まない、いわゆる無鉛性カチオン電着塗料が主として利用されつつある。しかし、電着塗料組成物に鉛を使用しないことによって、電着塗膜の耐食性付与性能が低下することが多く、特に無処理の鋼板表面を無鉛性電着塗料組成物で電着塗装した基材は、耐食性が劣ることとなる。
【0005】
特表2003−532778号公報(特許文献1)には、導電性有機塗料金属表面に塗布するための導電性で溶接可能な防食組成物であって、(a)(aa)少なくとも1つのエポキシ樹脂(ab)シアノグアニジン、ベンゾグアナミン及び可塑化尿素樹脂から選ばれる少なくとも1つの硬化剤(ac)ポリオキシアルキレントリアミン及びエポキシ樹脂/アミンアダクトから選ばれる少なくとも1つのアミンアダクトを含有する有機バインダー5〜40質量%、(b)防食顔料0〜15質量%、(c)粉末化した亜鉛、アルミニウム、黒鉛、硫化モリブデン、カーボンブラック及びリン化鉄から選ばれる導電性顔料40〜70質量%、及び(d)溶媒0〜45質量%を含有する防食組成物、が記載されている。ここで粉末化したアルミニウムは、導電性顔料として加えられている。この防食組成物は、塗布ローラーまたはスプレーなどによって塗布され、導電性有機層を形成する旨が記載されている。さらにこの導電性顔料(c)を加えることによって、被覆金属表面、つまり導電性有機層を有する金属表面、を電気溶接し、電着塗装することが可能となる旨が記載されている。
【0006】
特開2003−336007号公報(特許文献2)には、カチオン電着塗料において、基体樹脂とブロックポリイソシアネート硬化剤の固形分合計100重量部に対し、タルクをアルミニウム化合物で処理を施した顔料(A)を0.1〜20重量部含有するカチオン電着塗料が記載されている。ここではアルミニウム化合物として、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウムなどが、タルク粒子表面を被覆するために用いられている。しかしながら、この酸化アルミニウムを無鉛性カチオン電着塗料組成物に用いて無処理の鋼板に電着塗装した場合であっても、十分な耐食性は得られない。
【0007】
【特許文献1】特表2003−532778号公報
【特許文献2】特開2003−336007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、基材(特に無処理の鋼板)の表面に、防錆性に優れた塗膜を形成することができる、カチオン電着塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
平均粒子径1〜10μmのアルミニウム顔料、
カチオン性エポキシ樹脂、および
ブロックイソシアネート硬化剤、
を含有する、無鉛性カチオン電着塗料組成物、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0010】
上記アルミニウム顔料が、カチオン電着塗料組成物の塗料固形分100重量部に対して6〜50重量部含まれるのが好ましい。
【0011】
また、上記アルミニウム顔料の表面の少なくとも一部が、リン酸、リン酸塩、リン酸エステルおよびシラン化合物からなる群から選択される表面処理剤によって被覆され手いるのが好ましい。
【0012】
本発明の無鉛性カチオン電着塗料組成物はさらに、アルミニウム顔料を分散させる分散樹脂を含有するのが好ましい。
【0013】
上記分散樹脂が、数平均分子量800〜5,000、および樹脂固形分1gあたりのカチオン基のミリモル数が0.5〜2であるカチオン性エポキシ樹脂であるのが好ましい。
【0014】
本明細書でいう「無鉛性」とは、実質上鉛を含まないことをいい、環境に悪影響を与えるような量で鉛を含まないことを意味する。具体的には、電着浴中の鉛化合物濃度が50ppm、好ましくは20ppmを超える量で鉛を含まないことをいう。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電着塗料組成物は防錆性付与性能に優れるものである。本発明の電着塗料組成物は、鉛を含む耐食性付与剤が含まれないことにも関わらず、高い防錆性を付与することができる。本発明の電着塗料組成物は特に、亜鉛めっき処理などなされていない無処理の鋼板に対して、高い防錆性を付与することができる。本発明の電着塗料組成物を無処理の鋼板に電着塗装することによって、亜鉛めっき鋼板を電着塗装した場合と同等の防錆性を付与することができる。本発明の電着塗料組成物は、亜鉛めっき鋼板を無処理の鋼板に代替する可能性を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の無鉛性カチオン電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂及びブロックイソシアネート硬化剤を含むバインダー樹脂が、水性媒体中に分散・溶解した電着塗料組成物である。電着塗料組成物は一般に、バインダー樹脂以外にも、中和酸、有機溶媒、顔料、硬化触媒などを含む。そして本発明のカチオン電着塗料組成物は、アルミニウム顔料を含有することを特徴とする。
【0017】
アルミニウム顔料
本発明で用いられるアルミニウム顔料は、例えばアルミニウムフレーク等の偏平顔料を挙げることができ、特に限定されるものではない。アルミニウムフレーク顔料としては、アルミニウムフレークをステアリン酸のような脂肪酸とともにボールミルで粉砕処理する通常の方法によって調製されたリーフィング、セミリーフィングまたはノンリーフィング系のアルミニウムフレークを挙げることができる。
【0018】
アルミニウム顔料として市販品を用いることもできる。具体的には、例えば、アルミペーストとして91−0562、762ONS、94−0583、97−0534、97−0647、99−0605、TCR2020、TCR2060、TCR3010、TCR3030、60−600、65−388、5656NS、5658NS(以上、東洋アルミニウム社製)等を挙げることができる。そして本発明においては、アルミニウム顔料の平均粒子径が1〜10μmのものを用いるのが好ましく、1〜5μmであるのがより好ましい。平均粒子径1〜10μmのアルミニウム顔料は、上記市販品のうち平均粒子径が1〜10μmのものを入手するか、あるいはふるいなどの分級方法によって平均粒子径1〜10μmの顔料を得ることができる。本発明において、電着塗料組成物中のアルミニウム顔料の平均粒子径を1〜10μmとすることにより、電着塗装工程において電着塗料組成物中から被塗物表面に塗着する際のアルミニウム顔料の移行性を高めることができる。平均粒子径が1〜5μmのアルミニウム顔料を用いるのがさらに好ましく、この場合はアルミニウム顔料の移行性をより高めることができる。
【0019】
「平均粒子径」とは、一般に粒子の粒度(粒径が粗いか細かいか)を表わすために用いられるものであり、重量50%に相当するメジアン径や算術平均径、表面積平均径、体積面積平均径などが使用される。本明細書に示す平均粒子径は、レーザー法によって測定された値で示している。レーザー法とは、粒子を溶媒に分散させ、その分散溶媒にレーザー光線を当て、得られた散乱光を捕捉、演算することにより、平均粒子径、粒度分布等を測定する方法である。
【0020】
また、本発明における好ましい態様として、電着塗料組成物中のアルミニウム顔料の表面が、リン酸、リン酸塩、リン酸エステルあるいはシラン化合物などの表面処理剤によって、表面の少なくとも一部が被覆されていることが好ましい。このような被覆によってアルミニウム顔料の表面の親水性が高くなり、そして電着塗料組成物中から被塗物表面に塗着する際のアルミニウム顔料の移行性をより高めることができる。アルミニウム顔料の表面処理は、表面処理剤を、水、または、エステル系、アルコール系、ケトン系などの通常使用される親水性の有機溶媒、またはこれらの混合物に加えて溶液を調製し、そしてアルミニウム顔料と均一に混合することにより、行うことができる。アルミニウム顔料100重量部に対して、表面処理剤を1〜10重量部用いるのが好ましく、2〜7重量部用いるのがより好ましい。これにより、アルミニウム顔料の表面に、表面処理剤中のリン酸基、リン酸エステル基あるいはシラノール基が作用して、アルミニウム顔料の表面が吸着により被覆されることとなる。
【0021】
アルミニウム顔料の表面を親水化被覆するのに用いることができる表面処理剤として、具体的には、例えば、リン酸アンモニウム、オルトリン酸、リン酸トリブチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリヘキシル、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランなどを挙げることができる。
【0022】
これらのアルミニウム顔料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
さらに、電着塗料組成物中にアルミニウム顔料を分散させる際に、分散樹脂を用いてアルミニウム顔料を予め分散させた状態で電着塗料組成物に加えるのが好ましい。これによって、アルミニウム顔料が、その表面を分散樹脂によって被覆されることとなり、アルミニウム顔料の電着塗料中の分散安定性が確保されるからである。アルミニウム顔料の分散樹脂として、カチオン性エポキシ樹脂を好ましく用いることができる。この分散樹脂としてのカチオン性エポキシ樹脂は、以下に記載する電着塗料組成物のメインの樹脂として用いられるカチオン性エポキシ樹脂と同様の基本樹脂骨格を有する。そして分散樹脂としてのカチオン性エポキシ樹脂は、下記カチオン性エポキシ樹脂と同様に調製することができるが、アルミニウム顔料の電着塗料組成物中の分散安定性をさらに確実にし、かつ塗料組成物中から被塗物表面に塗着する際のアルミニウム顔料の移行性を確保するためには、数平均分子量800〜5,000、および樹脂固形分1gあたりのカチオン基のミリモル数が0.5〜2であるカチオン性エポキシ樹脂を分散樹脂として用いるのがより好ましい。数平均分子量は900〜4,000であるのがより好ましく、1,000〜3,000であるのがさらに好ましい。また樹脂固形分1gあたりのカチオン基のミリモル数は0.6〜1.8であるのがより好ましく、0.8〜1.6であるのがさらに好ましい。この分散樹脂は、後述の顔料分散樹脂としても用いることができるものである。
【0024】
本発明において、アルミニウム顔料として粉末状のものを使用する場合は、上記のとおり、分散樹脂を用いてアルミニウム顔料を予め分散させた状態で電着塗料組成物に加えるのが望ましい。またアルミニウム顔料としてアルミニウムペーストを用いる場合は、アルミニウムペーストと分散樹脂のワニスとを予め混合してアルミニウム顔料分散ペーストを調製してもよく、あるいはアルミニウムペーストをそのまま電着塗料組成物中に加えてもよい。
【0025】
ところでこれらのアルミニウム顔料は、特開2002−179988号公報にも記載されるように、光輝性顔料として上塗りベース塗料組成物に用いられているものである。しかし本発明は、これらのアルミニウム顔料を電着塗料組成物に用いる点に特徴がある。電着塗装により得られる電着塗膜は、上塗りベース塗膜などと異なり、基材上に直接電着塗装される。そしてこのような電着塗膜にアルミニウム顔料を含ませることによって、イオン化傾向が高いアルミニウムが、基材の鉄と接触することとなる。これにより、鉄の腐食が防止されることとなる。また、扁平な形態のアルミニウム顔料は電着塗膜中で一定方向に配向する傾向がある。この配向によって、水や酸素などの腐食因子の外部からの浸透を防ぐ、いわゆる遮蔽効果の発現による防食効果が期待される。
【0026】
上記アルミニウム顔料は、電着塗料組成物の固形分100重量部に対して下限6重量部上限50重量部となる量で、本発明の電着塗料組成物中に含有されるのが好ましい。また、上記上限は40重量部であるのがより好ましい。アルミニウム顔料の含有量が6重量部より少ない場合は、アルミニウム顔料の添加による効果(耐食効果)が不十分となる。またアルミニウム顔料の含有量が50重量部を超える場合は、電着塗膜自体が成立しない恐れがある。
【0027】
カチオン性エポキシ樹脂
本発明で用いるカチオン性エポキシ樹脂には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。カチオン性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造される。
【0028】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0029】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0030】
【化1】

【0031】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0032】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックポリイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0033】
特に好ましいエポキシ樹脂はオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性及び耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0034】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0035】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0036】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%が1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0037】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィド及び酸混合物がある。1級、2級又は/及び3級アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するためには1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いる。
【0038】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数の種類を併用して用いてもよい。
【0039】
ブロックイソシアネート硬化剤
本発明のブロックイソシアネート硬化剤で使用するポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0040】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0041】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤に使用してよい。
【0042】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0043】
ブロック剤としては、ε−カプロラクタムやブチルセロソルブ等通常使用されるものを用いることができる。しかしながら、これらの内、揮発性のブロック剤はHAPsの対象として規制されているものが多く、使用量は必要最小限とすることが好ましい。
【0044】
顔料
本発明の無鉛性カチオン電着塗料組成物は、上記のアルミニウム顔料に併用して、通常用いられる顔料を含んでもよい。但し本明細書でいう「顔料」には、前述のアルミニウム顔料は含まれない。使用できる顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等、が挙げられる。これらの顔料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明のカチオン電着塗料組成物中における、上述のアルミニウム顔料およびその他の顔料を含めた全顔料濃度は、電着塗料組成物の固形分100重量部に対して一般的に10〜50重量部であり、好ましくは15〜40重量部であり、より好ましくは25〜35重量部である。この全顔料濃度が10重量部に満たない場合は、十分な下地隠蔽性が得られない恐れがある。また、全顔料濃度が50重量部を超えると、塗膜外観が低下する恐れがある。
【0046】
但し、本発明の電着塗料を無鉛性カチオン電着塗料とする場合は、鉛を含む耐食性付与剤、例えば、塩基性ケイ酸鉛、塩基性硫酸鉛、鉛丹、及びシアナミド鉛のような鉛系防錆顔料は使用しないか、または使用しても希釈塗料(電着浴へ加えられる状態)の鉛イオン濃度が100ppm以下となるような量で使用すべきである。鉛イオン濃度が高いと環境に対する負荷が大きいからである。
【0047】
顔料分散ペースト
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を予め高濃度で水性溶媒に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0048】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性溶媒中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。なお、この顔料分散樹脂は、アルミニウム顔料を分散させるのに用いた樹脂と同じ樹脂を用いるのが好ましい。水性溶媒としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂は、顔料100重量部に対して固形分比20〜100重量部の量で用いる。顔料分散樹脂ワニスと顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得ることができる。
【0049】
硬化触媒
本発明で使用される硬化触媒としては、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、モノブチル錫オキサイドおよびそれらの混合物等が挙げられる。好ましくは、ジブチル錫オキサイドである。これらの硬化触媒は、ブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤解離に対する触媒として作用する。
【0050】
上記硬化触媒は、電着塗料中の樹脂固形分に対し0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の量で配合する。
【0051】
無鉛性カチオン電着塗料組成物の調製
本発明の無鉛性カチオン電着塗料組成物は、上に述べた硬化触媒、カチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、顔料分散ペーストおよびアルミニウム顔料(アルミニウムペースト)を水性媒体中に分散することによって調製される。アルミニウム顔料を、顔料分散ペーストに予め混合しておいてこれを分散することによって調製してもよい。アルミニウムペーストは顔料分散ペーストの形態でもよく、またはアルミニウムペーストを直接電着塗料組成物に加えてもよい。また、通常、水性媒体にはカチオン性エポキシ樹脂を中和して、バインダー樹脂エマルションの分散性を向上させるために中和酸を含有させる。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。その量は少なくとも20%、好ましくは30〜60%の中和率を達成する量である。
【0052】
カチオン性エポキシ樹脂、及び硬化剤としてブロックイソシアネートを配合し、水性媒体にこれらを分散させる方法として、カチオン性エポキシ樹脂にブロックイソシアネートを溶液状態で混合してエマルションとする方法がある。
【0053】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級アミノ基、水酸基、等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にカチオン性エポキシ樹脂(スルホニウム変性エポキシ樹脂および/またはアミン変性エポキシ樹脂)と、ブロックイソシアネート硬化剤との固形分重量比(エポキシ樹脂/硬化剤)で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0054】
有機溶媒は、カチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、顔料分散樹脂等の樹脂成分を合成する際に溶剤として必要であり、完全に除去するには煩雑な操作を必要とする。また、バインダー樹脂に有機溶媒が含まれていると造膜時の塗膜の流動性が改良され、塗膜の平滑性が向上する。
【0055】
塗料組成物に通常含まれる有機溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。
【0056】
塗料組成物は、上記のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0057】
本発明の無鉛性カチオン電着塗料組成物は被塗物に電着塗装され、電着塗膜を形成する。被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらを表面処理したもの、これらの成型物等を挙げることができる。
【0058】
本発明の電着塗料組成物は特に、無処理の鋼板に対して、高い防錆性を付与することができる。そのため、本発明の電着塗料組成物を、無処理の鋼板を電着塗装するための電着塗料組成物として使用することもできる。無処理の鋼板として、熱延鋼板および冷延鋼板が挙げられる。また本発明でいう「無処理」とは、溶融亜鉛めっき処理、電気亜鉛めっき処理などのめっき処理がなされていないことをいう。
【0059】
電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となる。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0060】
電着過程は、カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる過程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。
【0061】
電着塗膜の膜厚は、好ましくは5〜25μm、より好ましくは20μmとする。膜厚が5μm未満であると、防錆性が不充分であり、25μmを超えると、塗料の浪費につながる。
【0062】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化させる。
【実施例】
【0063】
以下の実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0064】
製造例1 ブロックイソシアネート硬化剤の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコにヘキサメチレンジイソシアネートの3量体(コロネートHX:日本ポリウレタン(株)製)199部とメチルイソブチルケトン32部、およびジブチルスズジラウレート0.03部を量りとり、攪拌、窒素をバブリングしながら、メチルエチルケトオキシム87.0部を滴下ロートより1時間かけて滴下した。温度は50℃からはじめ70℃まで昇温した。そのあと1時間反応を継続し、赤外線分光計によりNCO基の吸収が消失するまで反応させた。その後n−ブタノール0.74部、メチルイソブチルケトン39.93部を加え、不揮発分80%とした。
【0065】
製造例2 アミン変性エポキシ樹脂エマルションの製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管および滴下ロートを取り付けたフラスコに、2,4/2,6−トリレンジイソシアネート(80/20wt%)71.34部と、メチルイソブチルケトン111.98部と、ジブチルスズジラウレート0.02部を量り取り、攪拌、窒素バブリングしながらメタノール14.24部を滴下ロートより30分かけて滴下した。温度は室温から発熱により60℃まで昇温した。その後30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル46.98部を滴下ロートより30分かけて滴下した。発熱により70〜75℃へ昇温した。30分間反応を継続した後、ビスフェノールAピロピレンオキシド(5モル)付加体(三洋化成工業(株)製BP−5P)41.25部を加え、90℃まで昇温し、IRスペクトルを測定しながらNCO基が消失するまで反応を継続した。
【0066】
続いてエポキシ当量475のビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製YD−7011R)475.0部を加え、均一に溶解した後、130℃から142℃まで昇温し、MIBKとの共沸により反応系から水を除去した。125℃まで冷却した後、ベンジルジメチルアミン1.107部を加え、脱メタノール反応によるオキサゾリドン環形成反応を行った。反応はエポキシ当量1140になるまで継続した。
【0067】
その後100℃まで冷却し、N−メチルエタノールアミン24.56部,ジエタノールアミン11.46部およびアミノエチルエタノールアミンケチミン(78.8%メチルイソブチルケトン溶液)26.08部を加え、110℃で2時間反応させた。その後エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル20.74部とメチルイソブチルケトン12.85部を加えて希釈し、不揮発物82%に調節した。数平均分子量(GPC法)1380、アミン当量94.5meq/100gであった。
【0068】
別の容器にイオン交換水145.11部と酢酸5.04部を量り取り、70℃まで加温した上記アミン変性エポキシ樹脂320.11部(固形分として75.0部)および製造例1のブロックイソシアネート硬化剤190.38部(固形分として25.0部)の混合物を徐々に滴下し、攪拌して均一に分散させた。そのあとイオン交換水を加え固形分36%に調整した。
【0069】
製造例3 顔料分散樹脂ワニスの製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J)382.20部と、ビスフェノールA111.98部を量り取り、80℃まで昇温し、均一に溶解した後、2−エチル−4−メチルイミダゾール1%溶液1.53部を加え、170℃で2時間反応させた。140℃まで冷却した後、これに2−エチルヘキサノールハーフブロック化イソホロンジイソシアネート(不揮発分90%)196.50部を加え、NCO基が消失するまで反応させた。これにジプロピレングリコールモノブチルエーテル205.00部を加え、続いて1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール408.00部、ジメチロールプロピオン酸134.00部を添加し、イオン交換水144.00部を加え、70℃で反応させた。反応は酸価が5以下になるまで継続した。得られた樹脂ワニスはイオン交換1150.50部で不揮発分35%に希釈した。得られた分散樹脂は、数平均分子量1,200、および樹脂固形分1gあたりのカチオン基のミリモル数が1.0であった。
【0070】
実施例1
サンドグラインドミルに、アルミニウム顔料であるリン酸アンモニウム処理アルミニウム金属顔料87部(平均粒子径10μm、アルミペーストSL380WF、昭和アルミパウダー(株)社製)、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、およびイオン交換水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た。なお、本実施例で用いるアルミニウム顔料の平均粒子径は、マイクロトラック粒度分析計を用いてレーザー回折散乱法によって測定された値である。
【0071】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト23部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水126部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。塗料固形分100重量部に対するアルミニウム顔料の含有量は20重量部であった。
【0072】
実施例2
サンドグラインドミルに、アルミニウム顔料であるリン酸トリヘキシル処理アルミニウム金属顔料87部(平均粒子径10μm、アルミペーストSL380SW、昭和アルミパウダー(株)社製)、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、およびイオン交換水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た。
【0073】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト23部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水126部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。塗料固形分100重量部に対するアルミニウム顔料の含有量は20重量部であった。
【0074】
実施例3
サンドグラインドミルに、アルミニウム顔料であるテトラエトキシシラン処理アルミニウム金属顔料87部(平均粒子径10μm、アルミペーストSL380JC、昭和アルミパウダー(株)社製)、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、およびイオン交換水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た。
【0075】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト23部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水126部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。塗料固形分100重量部に対するアルミニウム顔料の含有量は20重量部であった。
【0076】
実施例4
サンドグラインドミルに、アルミニウム顔料であるリン酸トリヘキシル処理アルミニウム顔料87部(平均粒子径5μm、リン酸エステル処理アルミペースト、昭和アルミパウダー(株)社製)、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、およびイオン交換水13部を入れ、粒度5μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た。
【0077】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト23部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水126部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。塗料固形分100重量部に対するアルミニウム顔料の含有量は20重量部であった。
【0078】
実施例5
サンドグラインドミルに、アルミニウム顔料であるリン酸アンモニウム処理アルミニウム金属顔料87部(平均粒子径9.5μm、アルミペーストSL380WF、昭和アルミパウダー(株)社製)、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、およびイオン交換水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た。
【0079】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト75部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水185部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。塗料固形分100重量部に対するアルミニウム顔料の含有量は40重量部であった。
【0080】
比較例1
サンドグラインドミルに、アルミニウム金属顔料87部(平均粒径40μm、アルミペースト771−SW、昭和アルミパウダー(株)社製)、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、およびイオン交換水13部を入れ、顔料分散ペーストを得た。
【0081】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト23部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水126部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。塗料固形分100重量部に対するアルミニウム顔料の含有量は20重量部であった。
【0082】
比較例2
サンドグラインドミルに、アルミニウム顔料であるリン酸アンモニウム処理アルミニウム金属顔料87部(平均粒子径10μm、アルミペーストSL380WF、昭和アルミパウダー(株)社製)、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、およびイオン交換水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た。
【0083】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト4.5部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水95部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。塗料固形分100重量部に対するアルミニウム顔料の含有量は5重量部であった。
【0084】
実施例および比較例で得られたカチオン電着塗料組成物およびそれらを電着塗装して得られた電着塗膜について、以下の方法により評価を行なった。なお、表中の平均粒子径は、マイクロトラック粒度分析計を用いてレーザー回折散乱法によって測定された値である。
【0085】
電着塗膜の評価
サイクル腐食試験
基材としては、リン酸亜鉛処理した冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SDをサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)で処理した鋼板。)を用いた。この基材に、実施例および比較例のカチオン電着塗料組成物を、乾燥塗膜の膜厚が20μmになるように電着塗装し、これを160℃で25分間焼き付けて硬化させた。加熱硬化させた塗膜に、基材に達するようにナイフでクロスカット傷を入れ、JASO M609−91「自動車用材料腐食試験方法」を100サイクル行なった。その後、クロスカット部からの錆やフクレ発生を観察した。観察評価結果を表1に示す。
【0086】
表1および2の評価として、
◎ 錆またはフクレの最大幅がカット部より2mm未満(片側);
○ 錆またはフクレの最大幅がカット部より2mm以上3mm未満(片側);
△ 錆またはフクレの最大幅がカット部より3mm以上4mm未満(片側);
× 錆またはフクレの最大幅がカット部より4mm以上;
を示す。
【0087】
移行率
下記式を用いて、アルミニウム顔料の移行率を算出した。
【0088】
【数1】

【0089】
なお、上記式中、「硬化電着塗膜中に含まれるアルミニウム顔料(重量%)」は、蛍光X線を用いて測定した。これは既知量のアルミニウム顔料を含有した塗膜を作成し、予め検量線を作成し、この検量線を用いることによって、塗膜中に含まれるアルミニウム顔料の重量を求めた。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
表1および2から、本発明の電着塗料組成物を無処理の鋼板に電着塗装した場合は、優れた耐食性が発揮されることがわかる。一方、比較例のものは耐食性に劣ることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の電着塗料組成物は防錆性付与性能に優れるものである。本発明の電着塗料組成物は、鉛を含む耐食性付与剤が含まれないことにも関わらず、高い防錆性を付与することができる。本発明の電着塗料組成物は特に、亜鉛めっき処理などなされていない無処理の鋼板に対して、高い防錆性を付与することができる。本発明の電着塗料組成物により、亜鉛めっき鋼板に代わって無処理の鋼板を使用する可能性が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径1〜10μmのアルミニウム顔料、
カチオン性エポキシ樹脂、および
ブロックイソシアネート硬化剤、
を含有する、無鉛性カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記アルミニウム顔料が、カチオン電着塗料組成物の塗料固形分100重量部に対して6〜50重量部含まれる、請求項1記載の無鉛性カチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記アルミニウム顔料の表面の少なくとも一部が、リン酸、リン酸塩、リン酸エステルおよびシラン化合物からなる群から選択される表面処理剤によって被覆された、請求項1または2記載の無鉛性カチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
さらに、アルミニウム顔料を分散させる分散樹脂を含有する、請求項1〜3いずれかに記載の無鉛性カチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
前記分散樹脂が、数平均分子量800〜5,000、および樹脂固形分1gあたりのカチオン基のミリモル数が0.5〜2であるカチオン性エポキシ樹脂である、請求項4記載の無鉛性カチオン電着塗料組成物。

【公開番号】特開2006−137864(P2006−137864A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329142(P2004−329142)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】