説明

無鉛組成物およびプレスフリット

【課題】本発明は実質的に鉛成分を含まない酸化ビスマスを主成分とするガラスで各種部材の接合、封着に使用することができる還元されにくい無鉛組成物を提供することを目的としている。
【解決手段】質量%でBi23を40〜85%、B23を5〜30%、CeO2を0.1〜10%、SiO2を0〜20%、ROを0〜55%、R2Oを0〜10%、R23を0〜20%、RO2を0〜30%含有するガラス粉末80〜99.7質量%と、酸化剤0.3〜20質量%とを混合してなる組成物。ただしROとはZnO、BaO、SrO、MgO、CaO、FeO、MnO、CrO、CuOから選ばれる少なくとも一種、R2OとはLi2O、Na2O、K2O、Cs2O、Cu2Oから選ばれる少なくとも一種、R23とはAl23、Fe23、La23から選ばれる少なくとも一種、RO2とは、ZrO2、TiO2、SnO2から選ばれる少なくとも一種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ビスマスを主成分とするガラス粉末を用いた無鉛組成物に関するものであり、特に作業環境、廃棄物処理および封着時の信頼性を改善させたものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化ビスマスを主成分とする組成物は作業環境、廃棄物処理、RoHS指令対応等で酸化鉛を主成分とする組成物の代替として使用されてきている。その代表的用途は電子回路部品用ペーストの結合材、電子回路のオーバーコート材、金属、ガラス、セラミックス等の絶縁、水密、耐熱等の信頼性を要求される接着材などがある。またプレス成型等により、被封着物の封着面と近似する形状に加工した封着材料としたプレスフリットはシーズヒーターの口元封止用、エンジン用グロープラグ金属部品の絶縁用や固定用、ディスプレイの排気管固定用、魔法瓶の真空封止用等がある。
【0003】
酸化ビスマスを主成分とする無鉛ガラスとしては、質量%でBi23を27〜55%、B23を10〜30%、ZnOを28〜55%、その他の成分からなるもの(特許文献1)が提案されている。この無鉛ガラスは電子回路のオーバーコート材、クロスオーバー多層配線用絶縁材料、電子部品材料用バインダー、封着材料等に好適に使用できると記載されている。
【特許文献1】特開2002−308645号公報
【0004】
しかし、上記無鉛ガラスを金属など酸化されやすい被封着物に使用した場合、主成分である酸化ビスマスが還元され黒く着色したり、金属ビスマスが析出し絶縁性が損なわれたりする問題がある。例えば、図1に示すようなシーズヒーターの口元封止は、ヒーターパイプ2とターミナルピン5(双方とも金属材料)の絶縁性を保つためにガラスを充填し、ガスバーナーなどで加熱し封止を行う。このとき、ヒーターパイプ2およびターミナルピン5が酸化するために酸素を必要とする状態となり、無鉛ガラスから酸素を奪い取る。この無鉛ガラスでは、酸化ビスマスの酸化還元電位が一番高く酸素を放出しやすいため、ガラス成分中の酸化ビスマスが還元され、金属ビスマスが無鉛ガラス中に析出する虞が高い。金属ビスマスが析出すると、封着時の加熱温度(600〜900℃)よりも金属ビスマスの融点(271℃)が低いため、封着時の加熱で液状化してヒータパイプ2およびターミナルピン5と無鉛ガラスとの界面、無鉛ガラス中の空隙、ガラスと酸化マグネシウム4層との界面部などに移動し、ヒーターパイプ2およびターミナルピン5との間に金属ビスマスの連続層が形成され絶縁性を低下させていた。このとき、例えば、以下に示す数1ような反応が起こり、金属ビスマスが生じている。
【0005】
【数1】

【0006】
また、ガスバーナーによる加熱自体も、燃焼時に酸素不足の場合、還元剤として働き無鉛ガラス中の酸化ビスマスを還元し、金属ビスマスを析出する原因となる。なお、ガスバーナー以外の電気加熱や誘導加熱を行った場合でも、無鉛ガラスの還元しやすさは、ガスバーナー>電気加熱=誘導加熱の関係にあるため、同様に金属ビスマスが析出して絶縁性を低下させる虞は存在していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は実質的に鉛成分を含まない酸化ビスマスを主成分とするガラスで各種部材の接合、封着に使用することができ、かつ還元による金属成分の析出のない無鉛組成物およびガラスセラミックス組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記従来の問題点を鑑み、封着時にガラス粉末が還元されなくするために各種酸化剤に着目して研究を進めてきた結果、以下の無鉛組成物を開発するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に対応する発明は、質量%でBi23を40〜85%、B23を5〜30%、CeO2を0.1〜10%、SiO2を0〜20%、ROを0〜55%、R2Oを0〜10%、R23を0〜20%、RO2を0〜30%含有するガラス粉末80〜99.7質量%と、酸化剤0.3〜20質量%とを混合した無鉛組成物である。ただしROとはZnO、BaO、SrO、MgO、CaO、FeO、MnO、CrO、CuOから選ばれる少なくとも一種、R2OとはLi2O、Na2O、K2O、Cs2O、Cu2Oから選ばれる少なくとも一種、R23とはAl23、Fe23、La23から選ばれる少なくとも一種、RO2とは、ZrO2、TiO2、SnO2から選ばれる少なくとも一種である。
【0010】
請求項2に対応する発明は、請求項1に対応する発明において、前記酸化剤をCaO2、BaO2、TiO2、CeO2、MnO2、V25、Cr23、Co23としたものである。この酸化剤は、ガラス粉末と混合されて使用されるものであり、ガラス粉末と同条件で被封着物の金属材料と接することができるので、ガラス粉末の還元を効率よく防ぐことができる。
【0011】
請求項3に対応する発明は、請求項1または2に対応する無鉛組成物50〜100体積%と無機フィラー0〜50体積%からなるガラスセラミックス組成物である。
【0012】
請求項4に対応する発明は、請求項3に対応するガラスセラミックス組成物において、前記無機フィラーがシリカガラス、石英、コージェライト、ユークリプタイト、ムライト、ジルコン、リン酸ジルコニウム、ウイレマイトから選ばれる少なくとも一種とした。
【0013】
請求項5に対応する発明は、請求項1ないし4いずれか記載の組成物をプレスフリットとしたものである。
【0014】
請求項6に対応する発明は、請求項5に対応するプレスフリットをシーズヒーターの封止に用いたものである。
【0015】
本発明で使用できる無鉛組成物を構成するガラス粉末の各成分の限定理由を以下に示す。
【0016】
Bi23はガラスを構成する主成分でガラスの軟化温度を左右する重要な成分である。40質量%未満であると、軟化温度が高くなり所定の温度(600〜900℃)での加熱による封着が困難となり、85質量%を超えると、結晶化しやすくなり安定したガラス粉末が得られない。好ましくは45〜84質量%である。さらに好ましくは、52〜84質量%である。
【0017】
また、Bi23含有量が多いほどガラスの軟化温度を低下させることができる。金属材料のシーズヒーターの封止の用途では低軟化ガラスが生産性の観点で好ましいため、Bi23は64〜84質量%がよい。
【0018】
23は必須成分で5質量%未満であると、ガラスが不安定になって結晶化し易くなり、30質量%を超えると、ガラス粉末の軟化温度が高くなり所定の温度での加熱による封着が困難となる。好ましくは、5〜20質量%である。
【0019】
CeO2は必須成分であり、0.1〜10質量%添加すれば、ガラス粉末の色調を黄色に安定させる効果がある。0.1質量%未満であると、ガラス原料が熔解しガラス化したあとのガラス粉末の色調を安定させることが難しくなる(茶色や黒色になる)。この色調は、ガラス粉末の主成分である酸化ビスマスの価数に影響しており、熔融後のガラス粉末の酸化ビスマスの状態把握をする上で有効な手段となる。茶色や黒色のガラス粉末を封着用に使用すると、酸化剤を添加した無鉛組成物としても金属ビスマスが析出する可能性が高くなる。10質量%を超えると、結晶化しやすくなり安定したガラス粉末が得られない。好ましくは、0.3〜5質量%である。
【0020】
SiO2はガラスを構成する成分で20質量%を超えると、軟化温度が高くなり所定の温度での加熱による封着が困難となる。好ましくは11質量%以下であり、さらに好ましくは1〜5質量%である。
【0021】
ROはガラスの安定化に効果があり結晶化を抑制する作用がある。55質量%を超えると、軟化温度が高くなり所定の温度での加熱による封着が困難となる。好ましくは、1〜35質量%である。ZnO、BaO、SrOはガラス化範囲が広く特にガラスの安定化に効果があり、0〜20重量%が好ましい。MgO、CaOもガラスの安定化に効果あり0〜10重量%が好ましい。FeO、MnO、CrO、CuOは少量の添加でガラスを安定化させ結晶化を抑制する効果がある。好ましくは0〜3重量%である。RO成分を含有する場合には、ZnOおよびBaOがガラスの結晶化を起こしにくいので特に好ましい。また、RO成分は、同じ含有量ならば数種類共存させる方が、ガラスの安定性、結晶化抑制効果が向上する。「ガラス化範囲」とは、原子の規則性がある安定相である結晶物とならずに、不規則な原子の配列となる準安定相である非晶質状態(ガラス状態)が得られる範囲である。
【0022】
2Oはガラスの軟化温度を低下させる効果がある。原子番号が小さい元素ほど、その効果が大きい。ただし、原子番号が小さい元素ほど、含有量が多くなるとガラスの絶縁性が低くなり信頼性を損なう。R2Oは10質量%以下、好ましくは、5質量%以下である。Li2Oは0〜3質量%、Na2Oは0〜3質量%、K2Oは0〜5質量%、Cs2OおよびCu2Oは0〜5質量%が特に好ましい。
【0023】
23はガラスの安定化に効果があり結晶化を抑制する作用およびガラスの化学耐久性を向上させる効果がある。R23が20質量%を超えると、軟化温度が高くなり所定の温度での加熱による封着が困難となる。好ましくは、5質量%以下である。R23成分を含有する場合には、Al23およびFe23がガラスを安定化させる効果が高く、好ましくは0〜5質量%である。La23は化学耐久性を向上させる効果が高く好ましくは0〜3質量%である。
【0024】
ガラス粉末の作成方法は特に限定されることはなく回転ボールミル、振動ボールミル、ハンマーミルなどで粉砕し粉末とする。ガラス粉末の粒度は平均粒径で8μm以下の粉末が好ましい。ガラス粉末と混合する酸化剤が、後述する理由により平均粒径で8μm以下であるため、平均粒径が8μmより大きくなると均質混合が難しくなる。
【0025】
以上の成分で構成されたガラス粉末と酸化剤を混合して無鉛組成物とするとき、ガラス粉末が80質量%より少ない場合、すなわち酸化剤が20質量%を超えると、酸化剤により無鉛組成物が結晶化しやすくなり安定した無鉛組成物が得られなくなる。ガラス粉末が99.7質量%を超える場合、すなわち酸化剤が0.3質量%より少ないと、酸化剤の絶対量が少なくガラス粉末への還元抑制効果が無くなる。ガラス粉末と酸化剤の混合方法は限定されることはなくVミキサー、回転ボールミル、振動ボールミルなどで混合する。
【0026】
酸化剤は各種部材の接合、封着時に酸素を供給できるものであれば限定されるものではなくCaO2、BaO2、TiO2、CeO2、MnO2、V25、Cr23、Co23、MoO3、WO3、Fe23、Sb25、SnO2、KMnO3、K2Cr27などがあげられる。各種部材の接合、封着時の発泡しにくさからCaO2、BaO2、TiO2、CeO2、MnO2、V25、Cr23、Co23が特に好ましい。これら酸化剤の含有量は、0.3〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。
【0027】
ビスマスガラス中の酸化ビスマスが還元されることを抑制するためには、酸化ビスマスより先に還元され、酸素を供給する物質が共存していればよい。この共存物質が、一般に酸化剤とよばれている。酸化還元のし易さは酸化還元電位で判別でき、電位が大きいほど還元されやすくBi23が金属ビスマスとなる電位は0.38Vである。このため酸化剤として使用できるものは、この酸化還元電位より大きい値を持つ物質であればよい(CeO2がCe23となるときの電位は、1.61Vである)。ただし、酸化剤が還元され金属物質が生成すれば絶縁性低下を起こすため好ましくなく、還元されても酸化物として安定な物質が好ましい。上記した酸化剤のうち、CeO2を用いたときの反応例を数2に示す。
【0028】
【数2】

【0029】
酸化剤はガラス組成の一成分として含ませてもガラス中の酸化ビスマスの還元抑制効果はあるが、好ましくは粉末状態の酸化剤と、ガラス粉末とを混合し、粉末として共存させることが望ましい。これは酸化剤からの酸素の放出は、その表面から行われるためであり、ガラス組成の一成分として含まれるものより還元抑制効果が高い。その平均粒径は8μm以下の粉末が特に好ましい。平均粒径で8μmより大きくなると、酸化剤の比表面積が小さくなり、酸素供給能力が減るため、還元抑制効果が少なくなる。
【0030】
各種部材の接合、封着は、無鉛組成物と被封着物の熱膨張係数とマッチングさせることが、封着部にクラックを生じさせないために重要である。クラックを生じさせないためには、被封着物の熱膨張係数±10×10-7/℃となるように、無鉛組成物と無機フィラーを混合してガラスセラミックス組成物とすることで良好な封着ができる。
【0031】
本発明の無鉛組成物の熱膨張係数は70〜140×10-7/℃であり、無機フィラーと混合することで被封着物の熱膨張係数とマッチングさせることができる。
【0032】
無鉛組成物を無機フィラーと混合してガラスセラミックス組成物とするとき、無鉛組成物が50体積%より少ない場合、すなわち無機フィラーが50体積%を超えると、無機フィラー同士の摩擦が大きくなりフリットの粘性が高くなりフリットの流動が得られず封着性が損なわれる。また、流動性の悪化に伴い封着部に気泡が多くなり、封着部の強度が低下するという不具合も生じる。
【0033】
無機フィラーは無鉛組成物の安定性を損なうものでなければ特に限定されるものではないが、熱膨張係数の調整を目的とすることから熱膨張係数が−10〜50×10-7/℃であるシリカガラス、石英、コージェライト、ユークリプタイト、ムライト、ジルコン、リン酸ジルコニウム、ウイレマイトから選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0034】
一般的に、プレスフリットは、ガラス粉末やガラス粉末に無機フィラーを混合したものをプレス成型等により、被封着物の封着面と近似する形状に加工した封着材料であり、金属、ガラス、セラミックス等の絶縁、水密、耐熱等の信頼性を要求される接着部に使用されている。その特徴としては、シール部分へプレスフリットをセットし加熱するだけで封着ができるため、粉末のままの封着材料と比較して取扱いやすく、使用量を一定にでき、自動化しやすい等である。
【0035】
本発明の無鉛組成物及びガラスセラミックス組成物をプレスフリットとすることで上記の利点を生かし、さらに還元しにくい封着材料を提供できる。
【0036】
プレスフリットの用途としては、シーズヒーターの口元封止用、エンジン用グロープラグ金属部品の絶縁用や固定用、ディスプレイの排気管固定用、魔法瓶の真空封止用等がある。
【0037】
上記用途の中で金属との封着で酸化ビスマスが還元され金属ビスマスが析出して絶縁性の不具合をもたらす用途としては、シーズヒーター用やグロープラグ用があり、本発明の無鉛組成物およびガラスセラミックス組成物を用いることにより、信頼性の高い製品を製造することができる。
【0038】
プレスフリットは、粉末状の無鉛組成物やガラスセラミックス組成物を有機バインダーおよび溶剤と混錬し顆粒状粉末とした後、プレス成型機でプレスし所望の形状とし、有機バインダー除去のための加熱処理、緻密化するための焼結工程を経て形成される。
【0039】
無鉛組成物やガラスセラミックス組成物の粒径はプレスフリットの密度に影響を与え、これら組成物の平均粒径が大きいとプレスフリットの密度が低くなり好ましくない。一方、小さいと成型のための有機バインダーを多く使用する必要があり、加熱処理で有機バインダーを除去したあとのプレスフリットの著しい形状変形が起こり、寸法精度を得ることができない問題が発生する。粉末は100〜500メッシュの篩を通過したもので平均粒径で2.5〜8μmの粉末が好ましい。
【0040】
有機バインダーおよび溶剤と混錬し、得られる顆粒状粉末の粒径はプレス成型のしやすさ、成型精度に影響を与える。粒径が小さいと金型の凸部と凹部の隙間に粒子が入り、連続的にプレス成型を続けることが困難となる。また粒径が大きいと金型に投入するフリットの質量制御が困難となり密度の異なる成形体となり、加熱、焼成処理後の充填率のバラツキ原因となり好ましくない。このため、顆粒状粉末の粒径が44〜350μmの大きさの粒径となるように篩分けを行なうことが好ましい。
【0041】
顆粒状粉末を作成するときに好適に使用される有機バインダーとしては、セチルアルコール(C16)などの高級アルコール類、ニトロセルロース、エチルセルロースなどのセルロース類、一部のブチラール系樹脂・アクリル系樹脂などからなり、溶剤としては、低級アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類及び炭化水素類からなる。
【0042】
無鉛組成物またはガラスセラミックス組成物、有機バインダー、溶剤配合比はプレスフリットの充填率、顆粒状粉末の作成のしやすさ、加熱処理時の有機バインダー除去に影響を与える。有機バインダーの量が多いと上記したように、有機バインダー除去後のプレスフリットの著しい形状変形が起こり、逆に少ないと粉末同士の繋ぎがなくなり顆粒状粉末の作成が困難となる。溶剤は量が多い場合は、スラリーの粘性が少なく短時間で顆粒状粉末とすることができない。一方、少ない場合には、有機バインダーをスラリー中に満遍なく分散させることができず顆粒状粉末の作成が困難となる。このため、無鉛組成物またはガラスセラミックス組成物100質量%に対して、外割で、有機バインダー0.5〜10質量%、溶剤1〜15質量%の配合比が好ましい。
【0043】
無鉛組成物またはガラスセラミックス組成物、有機バインダー、溶剤の混合は、ボール状容器に入れ、ヘラを用いて手で混合しても良く、また、らいかい機、ヘンシャルミキサー、ボールミルなどの機械混合機、スプレードライヤー、バスケット型などの造粒機を使用しても良い。
【0044】
乾燥工程は、造粒したものが湿った状態であると篩分け時に篩の目詰まりの原因となるので、目詰まりを防ぐために備えたものである。より詳細には、20〜100℃の温度で、4.5〜48時間乾燥を行なうものである。
【0045】
プレス成型工程は、所望とする形のプレスフリットを得るために備えたものである。このときのプレス圧はガラス粉末の種類や顆粒状粉末の粒径および製品の形状によって決定する。平均粒径が小さい場合は圧力を弱くし、平均粒径が大きい場合は圧力を強くする。製品の形状では、円柱、三角柱、四角柱および板状のような単純な形状の場合、上下いずれか一方のプレス圧力を調整して所望とする形状を得るようにする。一方、単純な形状に少なくとも一つの貫通孔を形成する場合や、単純な形状に段差を設けた場合のように、基準となる単純な形状の表面積よりも表面積を増やしたもの(複雑な形状)を成型するときには、上下双方のプレス圧力を調整して所望とする形状を得るようにする。プレス圧が低いと有機バインダー除去後の形状変形度が大きく、形状が安定しないので、荷重は3×107Pa以上が好ましい。
【0046】
プレス成型に使用する金型は、ガラス粉末・有機バインダーと反応せず、高い圧力で変形しない材質のものであれば、特に限定する必要はないが、金属を使用する場合、錆びるものであると成型体内に錆びによる酸化物が不純物として混入する可能性があるため、酸化しやすい材質は好ましくない。一般的には錆にくい超硬材などが利用されている。金型にキズが付きにくいように、金やクロムなどの表面処理を施すと効果的である。また、強度を向上させるため、顆粒状粉末と接触する金型先端部を焼き入れする方法もある。
【0047】
上記プレスフリットを作成するプレス機は、金型自体を1セットのみ装着し上部および下部の圧力でプレスを実施する単型プレス機、あるいは金型を複数セットし、テーブルが回転しながらプレスを行なうロータリープレス機等がある。また、高い圧力が必要な場合は、上・下の圧力調整が可能な高圧型のプレス機なども使用されている。高さの低い薄型のプレス機としては、下部から突き上げによるプレス方法があり、ペントロ社製のマルチプレス機などが好ましい。
【0048】
加熱処理工程は、成型体から有機バインダーを分解、燃焼により除去するために備えたものである。しかし、有機バインダーが分解、燃焼により除去できないと、有機バインダー中の炭素原子が成型体中に残存し、この炭素原子が還元剤となり、ガラス中に金属元素が含まれる場合には、その元素が還元され金属が析出し、色調が黒色化するので、有機バインダーが分解、燃焼する温度以上にする必要がある。より詳細には、100℃〜ガラス粉末の転移点以下の温度で、1〜15時間加熱する。
【0049】
焼結工程は、有機バインダーが除去された成型体は、衝撃に弱く容易に壊れてしまうため、焼結させることにより、成型体を緻密化させ、かつその取り扱いを容易にするためである。より詳細には、ガラス粉末の軟化点−30〜軟化点+50℃の温度範囲で10〜180分間焼結する。なお、プレスフリットの焼結は、焼結温度で軟化しない板上に載置して行われるが、載置した状態でプレスフリットの上下方向の厚みが厚いとプレスフリットへ熱が均一に伝わりにくく、一回の熱処理では良好な焼結状態が得られにくい。この場合には、熱処理後の上下面焼結状態を一定にするため、熱処理後プレスフリットを裏返して再度熱処理を実施する方法もある。
【発明の効果】
【0050】
本発明の無鉛組成物は実質的に鉛を含有せず、酸化ビスマスを主成分とすることにより作業環境、廃棄物処理を改善し、さらに酸化剤を添加することで酸化ビスマスが還元されにくく、各種部材の接合、封着を行うことができる。
【0051】
したがって、電子回路部品用ペーストの結合材、電子回路のオーバーコート材、金属、ガラス、セラミックス等の接着材、シーズヒーターの口元封止用、エンジン用グロープラグ金属部品の絶縁用や固定用、ティスプレイの排気管固定用、魔法瓶の真空封止用等のさまざまな用途に用いることができる。特に絶縁用に用いるシーズヒーター用やグロープラグ用に優れた効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
本発明は実質的に鉛を含有せず、酸化ビスマスを主成分とするガラス粉末と酸化剤とを混合した無鉛組成物、及び無鉛組成物と無機フィラーとを混合したガラスセラミックス組成物からなり、その具体例は次に示すとおりである。
【0053】
Bi23を40〜85質量%、B23を5〜30質量%、CeO2を0.1〜10質量%、SiO2を0〜20質量%、ROを0〜55質量%、R2Oを0〜10質量%、R23を0〜20質量%、RO2を0〜30質量%含有するガラス粉末80〜99.7質量%と、酸化剤0.3〜20質量%とを混合した無鉛組成物。ただしROとはZnO、BaO、SrO、MgO、CaO、FeO、MnO、CrO、CuOから選ばれる少なくとも一種、R2OとはLi2O、Na2O、K2O、Cs2O、Cu2Oから選ばれる少なくとも一種、R23とはAl23、Fe23、La23から選ばれる少なくとも一種、RO2とは、ZrO2、TiO2、SnO2から選ばれる少なくとも一種である。
【0054】
そして、上記したガラス粉末の組成範囲となるように、原料を混合してバッチ原料とし、このバッチ原料を白金ルツボに入れ1100〜1350℃に調整した炉内に投入し、1〜3時間熔融した。そして、熔融されたガラスは水冷ローラーでシート状に成形し粉砕後、100〜500メッシュの篩をとおし平均粒径を8μm以下としたものをガラス粉末とした。
【0055】
このガラス粉末80〜99.7質量%に、平均粒8μm以下に調整した酸化剤を0.3〜20質量%を加え無鉛組成物とする。酸化剤は、CaO2、BaO2、TiO2、CeO2、MnO2、V25、Cr23、Co23から選ばれる少なくとも一種である。
【0056】
この無鉛組成物50〜100体積%に、一定粒度以下に調整した無機フィラー0〜50体積%を加えガラスセラミックス組成物とする。
【0057】
次に、この無鉛組成物またはガラスセラミックス組成物100質量%に対して、外割で有機バインダー0.5〜10質量%、溶剤1〜15質量%を用意し、溶剤と有機バインダーとを混合したものを無鉛組成物又はガラスセラミックス組成物に混ぜ造粒したものを作成する。そして、この造粒物を20〜100℃で4.5〜48時間乾燥して溶剤を除去し、篩によって粒径44〜350μmの大きさの顆粒状粉末に整粒した。
【0058】
この顆粒状粉末の所望量を金型に入れ、3〜50×107Paの圧力でプレス成型し、この成型体を100℃〜ガラス粉末の転移点以下で1〜15時間加熱処理して、有機バインダーを除去する。さらに、続けてフリットの軟化点−30℃〜軟化点+50℃の温度範囲で10〜180分焼成し焼結させプレスフリットとする。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例および比較例を表1および2を参照して詳細に説明する。まず、実施例1および比較例1は同一のガラス粉末を用いて、実施例1は酸化剤を混合し、比較例1は混合しないでプレスフリットを作成し、その絶縁性を評価した例である。
【0060】
Bi23 72質量%、B23 10質量%、CeO2 0.5質量%、ZnO 9質量%、SiO2 2.5質量%、BaO 6質量%となるようとなるように原料を混合してバッチ原料とする。このバッチ原料を白金ルツボにいれ1200℃に調整された熔解炉内に投入して、1時間保持し熔融ガラスとした。この後、熔融ガラスを水冷ローラーで0.5〜2.0mmのリボン状に成形した。このリボン状ガラスをアルミナ製ボールミルで粉砕し、100メッシュの篩にとおし平均粒径が4.5μmのガラス粉末とした。
【0061】
次に、酸化剤として平均粒径が4.5μmのCeO2 1質量%を上記で作成したガラス粉末99質量%に添加しVミキサーで30分混合し無鉛組成物を得た。
【0062】
この無鉛組成物を30mm×10mm×10mmとなるように乾式プレス機で5×107Paの荷重で成型体を作成し、600℃で10分焼成し得られたブロックを切断、研磨して20mm×5mm×5mmの大きさとして30〜300℃までの伸び量をJIS R3102の方法で測定し平均熱膨張係数を測定したところ、101×10-7/℃であった。
【0063】
無鉛組成物を100mg白金パンにいれ、示差熱分析装置を用いて、昇温速度10℃/minで測定し、第3変局点を軟化点としてもとめたところ、455℃であった。
【0064】
次に、表2にしめすように、ミネラルスピリット4質量%にアクリル樹脂2質量%を溶解し、この無鉛組成物100質量%に添加し、湿式造粒機で造粒した。さらに、混合粉末を40℃で36時間放置してミネラルスピリットを除去した。そして、40メッシュの篩を通過し、170メッシュの篩を通過しなかった粒径88〜350μm顆粒状粉末を得た。この顆粒状粉末を金型に充填し、20×107Paで外形φ5mm、内径φ2mm、高さ4mmのチューブ状プレスフリットを作成した。この成型体を300℃、3時間の加熱処理して、有機バインダーを除去した。続けて445℃、60分の焼結処理を行い緻密化しプレスフリットとした。
【0065】
作成したプレスフリットを30〜300℃熱膨張係数が110×10-7/℃の金属でできた図1に示すヒーターパイプ2とターミナルピン5の口元に充填し、プロパンガスを燃料とするバーナーで3分間加熱し封着した。燃焼温度を熱電対温度計で測定したら750℃であった。ヒーターパイプ2とターミナルピン5間の抵抗を測定したところ5×106Ω以上であり、絶縁性の基準である1×104Ωを超えていたので絶縁性は満足していた。
【0066】
上記で絶縁性の評価を行ったシーズヒーターの口元封止部を切断し断面をヒーターパイプ2、ターミナルピン5と無鉛組成物の界面を電子顕微鏡及びEDXを用いて1000倍で金属ビスマスが析出しているか観察したところ、析出は認められなかった。
【0067】
(比較例1)比較例として上記ガラス粉末に酸化剤を混合しないで、上記記載と同様にプレスフリットを作成しヒーターパイプ2とターミナルピン5の抵抗を測定したところ500Ωの抵抗値であり絶縁性が低くかった。また、シーズヒーターの口元封止部の断面を切断しヒーターパイプ2、ターミナルピン5と無鉛組成物の界面を電子顕微鏡及びEDXを用いて1000倍で観察した。比較例1は、金属ビスマスが析出していた。この金属ビスマスは球状でその直径は15μmであった。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
(実施例2〜7)表1の組成となるように原料を混合してバッチ原料とする。このバッチ原料を白金ルツボにいれ所定の温度に調整された熔解炉内に投入して熔融ガラスとした。この後、熔融ガラスを水冷ローラーで0.5〜2.0mmのリボン状に成型した。このリボン状ガラスをアルミナ製ボールミルで粉砕し、100〜500メッシュの篩にとおしガラス粉末とした。次に表1に示す仕様の酸化剤を混合し無鉛組成物とした。また実施例3および5は無鉛組成物に無機フィラーを表1に示すとおりの所定量を混合しガラスセラミックス組成物とした。ここで作成した無鉛組成物又はガラスセラミックス組成物の30〜300℃の平均熱膨張係数、軟化点を実施例1と同様にして測定した。
【0071】
次に無鉛組成物またはガラスセラミックス組成物100質量%に対して、外割で表2に示す有機バインダー、溶剤、配合比で混合し、所定の乾燥処理、プレス成型、加熱処理、焼結処理を行い外形φ5mm、内径φ2mm、高さ4mmのチューブ状プレスフリットを作成した。作成したプレスフリットを30〜300℃熱膨張係数が110×10-7/℃の金属でできた図1に示すヒーターパイプ2とターミナルピン5の口元に充填し、プロパンガスを燃料とするバーナーで加熱し封着した。ヒーターパイプ2、ターミナルピン5間の抵抗を測定したところすべて1×10Ω以上であり、絶縁性の基準である1×104Ωを超えていたので絶縁性は満足していた。また、シーズヒーターの口元封止部の断面を切断しヒーターパイプ2、ターミナルピン5と無鉛組成物又はガラスセラミック組成物との界面を電子顕微鏡およびEDXを用いて1000倍で観察した。実施例2、3、5、7は金属ビスマスの析出は認められなかった。実施例4、6は金属ビスマスが析出していた。この金属ビスマスは球状でその直径は1.5μmおよ2.0μmであった。実施例4,6は金属ビスマスが析出しているもののその大きさは小さく、上記した抵抗値の測定結果からシーズヒーターの絶縁性に影響を与えるものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】シーズヒーターの概念断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1:プレスフリット、2:ヒーターパイプ、3:発熱線、4:酸化マグネシウム、5:ターミナルピン、6:電極、7:碍子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でBi23を40〜85%、B23を5〜30%、CeO2を0.1〜10%、SiO2を0〜20%、ROを0〜55%、R2Oを0〜10%、R23を0〜20%、RO2を0〜30%含有するガラス粉末80〜99.7質量%と、酸化剤0.3〜20質量%とを混合してなる無鉛組成物。ただしROとはZnO、BaO、SrO、MgO、CaO、FeO、MnO、CrO、CuOから選ばれる少なくとも一種、R2OとはLi2O、Na2O、K2O、Cs2O、Cu2Oから選ばれる少なくとも一種、R23とはAl23、Fe23、La23から選ばれる少なくとも一種、RO2とは、ZrO2、TiO2、SnO2から選ばれる少なくとも一種である。
【請求項2】
前記酸化剤は、CaO2、BaO2、TiO2、CeO2、MnO2、V25、Cr23、Co23である請求項1記載の無鉛組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の無鉛組成物50〜100体積%と無機フィラー0〜50体積%からなるガラスセラミックス組成物。
【請求項4】
前記無機フィラーがシリカガラス、石英、コージェライト、ユークリプタイト、ムライト、ジルコン、リン酸ジルコニウム、ウイレマイトから選ばれる少なくとも一種である請求項3記載のガラスセラミックス組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか記載の組成物を用いたことを特徴とするプレスフリット。
【請求項6】
シーズヒーターの封止に用いることを特徴とする請求項5記載のプレスフリット。

【図1】
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【公開番号】特開2008−30972(P2008−30972A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203490(P2006−203490)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000158208)AGCテクノグラス株式会社 (81)
【Fターム(参考)】