説明

無電解めっき用前処理方法

【課題】プリント配線板またはプリント配線板用基板である、高多層材(配線板)の穴内めっき析出性に優れた無電解めっき用前処理方法を提供する。
【解決手段】被めっき物の非導電性表面に無電解めっき処理を施す工程前の前処理方法において、アルコール濃度が1〜60質量%を含む水溶液に被めっき物を浸漬する工程、さらに、非イオン界面活性剤とフッ素系界面活性剤とを含むpH10以上のアルカリ水溶液に被めっき物を浸漬する工程を有する無電解めっき用前処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき用前処理法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解銅めっきは、プラスチック、セラミックス等の、非導電性物質にめっきが可能であり、様々な分野に適用されている。例えば、多層プリント配線板の層間接続方法として無電解銅めっきが用いられる。層間接続方法としては、スルーホールのようにプリント配線板の全板厚を貫通したものが一般的であり、層数が多いものには一部の層間を接続するビアホールが用いられている。めっきスルーホール法は、スルーホール接続をするために配線板にドリルで穴あけをし、その穴に無電解銅めっきを施すことにより穴内の導電化を行う方法である。ビアホールの接続も同様であり、レーザーなどを用いて配線板に穴あけをし、穴に無電解銅めっきを施すことにより穴内の導電化を行う方法である。また、フルアディティブ法における配線パターン形成、セミアディティブ法における導電化層の形成などにも無電解銅めっきが用いられている。
【0003】
上述のようなプリント配線板の製造に使用される無電解銅めっき液としては、通常、自己触媒型の無電解銅めっき液が用いられる。また、上記無電解銅めっき液は、硫酸銅などの2価の銅塩、2価銅イオンの錯化剤、ホルムアルデヒドなどの還元剤及び水酸化ナトリウムなどのpH調整剤を主成分として含み、必要に応じて、無電解銅めっき液の安定性を増加させるための添加剤や、めっき皮膜の物性を向上させるための添加剤などを更に含むことが一般的である。
【0004】
一般にプリント配線板は、銅張りまたは銅のない積層板に穴あけ後無電解めっきを行うことによって製造される。従来、無電解銅めっき前処理工程としては、アルカリ脱脂工程、コンディショニング工程、表面銅箔のソフトエッチング工程、酸洗工程、増感工程(触媒付与)、密着促進工程等からなっている。しかし、従来の処理方法では高多層配線板(高アスペクト比)への対応が十分に得られず、穴内のめっきカバーリング性(析出性)を低下させる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平4−75319号公報
【特許文献2】特開平4−198486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち本発明は、上記問題を解決し、高多層材(配線板)の穴内めっき析出性に優れた無電解めっき用前処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の通りである。
(1) 被めっき物の非導電性表面に無電解めっき処理を施す工程前の前処理方法において、アルコールを含む水溶液に被めっき物を浸漬する工程を有する、無電解めっき用前処理方法。
(2) さらに、非イオン界面活性剤とフッ素系界面活性剤とを含むpH10以上のアルカリ水溶液に被めっき物を浸漬する工程を有する、前記の無電解めっき用前処理方法。
(3) アルコールを含む水溶液において、アルコール濃度が1〜60質量%であり、アルコールが、イソプロピルアルコールである、前記の無電解めっき用前処理方法。
(4) 被めっき物が、プリント配線板またはプリント配線板用基板である、前記の無電解めっき用前処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高多層材(配線板)の穴内めっき析出性に優れる無電解めっき用前処理方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の無電解めっき用前処理方法は、被めっき物の非導電性表面に無電解めっき処理を施す工程前の前処理方法において、アルコールを含む水溶液に前記被めっき物を浸漬する工程を有することを特徴としている。また、本発明の無電解めっき用前処理方法は、例えば、前記被めっき物としてプリント配線板や積層板(プリント配線板用基板)等に穴あけ後にアルコール水溶液で浸漬処理し、非導電体への浸透性を向上させ、その後、脱脂・コンディショニング処理を行うものである。すなわち、本発明の無電解めっき用前処理方法は、高多層材(配線板)の穴内の非導電体部を、アルコールを含む水溶液で処理し、親水化した後、さらにコンディショニング処理でガラスクロス等のめっきの付きにくい非導電体部を処理するものである。
【0010】
なお、前記コンディショニング処理は、非イオン界面活性剤とフッ素系界面活性剤とを含むpH10以上のアルカリ水溶液で行うことが好ましい。
非イオン界面活性剤としては、エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型が挙げられ、エーテル型として、ポリオキシエチレンアルキルおよびアルキルフェニルエーテル、アルキルアリルホルムアルデヒド縮合ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルが挙げられ、エーテルエステル型として、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテル、エステル型として、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリンエステル、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステル、プロピレングリコールエステル、ショ糖エステル、含窒素型として、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミド等が例示される。
また、市販品のフッ素系界面活性剤としては、FC−4430、FC−4432(以上、住友スリーエム株式会社製、商品名)、フタージェント100C、フタージェント110、フタージェント501(以上、株式会社ネオス製、商品名)などが挙げられる。
【0011】
本発明で使用するアルコールを含む水溶液において、アルコールは、常温(20℃〜30℃)で、水に可溶であれば特に制限しないが、イソプロピルアルコール(IPA)、エチルアルコール、メチルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、プロピルアルコールなどが挙げられ、特にイソプロピルアルコール(IPA)が好ましく、また、2種類以上使用しても良い。また、アルコールを含む水溶液のアルコール濃度は、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が特に好ましく、30質量%以上が最も好ましい。1質量%未満では、非導電性表面に対する親水化の効果が小さく、配線板製造工程に使用した場合、スルーホールボイドの発生率が増加するおそれがある。なお、アルコール濃度の上限は特にないが、60質量%を超えると濃度増加による効果は少なく、よって、アルコールを含む水溶液のアルコール濃度は60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下が特に好ましい。また、アルコールを含む水溶液に被めっき物を浸漬する条件としては、好ましくは、常温(20℃〜30℃)、時間は30秒〜2分である。
【0012】
本発明の無電解めっき用前処理方法は、以下の無電解銅めっきの前処理方法として、好適であるが、無電解ニッケルめっき、無電解パラジウムめっき、無電解金めっき、無電解コバルトめっきなど、銅以外の無電解金属めっきの前処理方法としても使用できる。
通常、無電解銅めっき液に浸漬する前段階として、被めっき物に、めっき反応を効果的に行うための前処理を行う。前処理工程は、常法の処理工程、例えば、被めっき物を脱脂洗浄する工程、被めっき物に触媒を付与する工程、被めっき物に付与した触媒を活性化する工程などが挙げられる。特に、プリント配線板のスルーホールやビアホールの導電化を行うためには、これらの前処理工程を順次行うことが好ましく、通常、アルコールを含む水溶液に被めっき物を浸漬する工程後に行う。
【0013】
脱脂洗浄工程(コンディショニング処理)は、無電解銅めっき液との接触工程の前処理として、溶剤、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液を用いて被めっき物表面を清浄化するために行う。また、脱脂洗浄工程として、非イオン界面活性剤とフッ素系界面活性剤とを含むpH10以上のアルカリ水溶液に被めっき物を浸漬してもよい。脱脂洗浄工程において清浄化に用いる材料としては、1種以上の界面活性剤を含んだ酸性水溶液またはアルカリ性水溶液が好ましく、界面活性剤は、非イオン性の界面活性剤を含むことがより好ましい。界面活性剤としては、例えば、脂肪酸モノグリセリンエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸ポリエチレングリコール縮合物、脂肪酸アミド・ポリエチレングリコール縮合物、脂肪族アルコール・ポリエチレングリコール縮合物、脂肪族アミン・ポリエチレングリコール縮合物、脂肪族メルカプタン・ポリエチレングリコール縮合物、アルキルフェノール・ポリエチレングリコール縮合物、ポリプロピレングリコール・ポリエチレングリコール縮合物などが挙げられるが、これらに限定されない。市販品として、クリーナーコンディショナー液(CLC−601、日立化成工業株式会社製商品名)などが挙げられる。
【0014】
また、次の触媒付与工程において、めっき反応の触媒となる金属を効率よく付与するため、1種以上の界面活性剤と、陽イオン性樹脂を含んだ溶剤、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液を用いることができる。市販品として、プリディップ液(LPD−301、日立化成工業株式会社製商品名)などが挙げられる。
【0015】
触媒付与工程は、酸性またはアルカリ性の、貴金属を含んだ水溶液またはコロイド状液体を用いて、被めっき物表面に、無電解銅めっき反応の触媒となる貴金属、貴金属を含む合金、または貴金属イオンを付与するために行う。該貴金属は、パラジウム、ロジウム、白金、金、銀などが挙げられるが、パラジウムが好適である。触媒付与工程において用いる材料としては、公知の酸性またはアルカリ性のパラジウムを含んだ水溶液またはコロイド状液体を用いることができる。市販品として、増感剤液(HS−202B、日立化成工業株式会社製商品名)などが挙げられる。
【0016】
触媒活性化工程は、触媒付与工程において被めっき物表面に付与した貴金属、貴金属を含む合金または貴金属イオンを活性化するために行う。すなわち、めっき反応の触媒としての機能を発現させる工程である。触媒活性化工程において用いる材料は、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液が好ましい。また、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素塩、グリオキシル酸、還元糖などの還元剤を含んだ酸性水溶液またはアルカリ性水溶液を用いることができる。市販品として、密着促進剤液(ADP−601、日立化成工業株式会社製商品名)などが挙げられる。
【0017】
本発明の無電解めっき用前処理方法は、プリント配線板の製造工程に好適に使用でき、また、その被めっき物として、プリント配線板またはプリント配線板用基板が挙げられる。なお、プリント配線板用基板としては、銅張り積層板や樹脂板などが挙げられる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の好適な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
両面銅張りガラスエポキシ積層板(板厚1.6mm)を、ドリルでスルーホール加工し(穴径0.3mm、穴径0.1mm(12000穴/PN))、基板(被めっき物)を作製した。次に、これを、イソプロピルアルコール水溶液(濃度;10質量%)に、25℃、1分間浸漬した。
次に、被めっき物をクリーナーコンディショナである「CLC−601」(日立化成工業株式会社製、商品名)に60℃で5分間浸漬し、被めっき物の洗浄およびコンディショニングを行った。次に、室温(25℃)で2分間水洗した。
次に、被めっき物を、100g/L過硫酸ナトリウム液に25℃で1分間浸漬し、次に、室温(25℃)で2分間水洗、さらに10%硫酸に25℃で1分間浸漬し、次に、室温(25℃)で2分間水洗した。
【0019】
次に、得られた被めっき物を、パラジウム−錫触媒の前処理液である「LPD−301」(日立化成工業株式会社製、商品名)に25℃で2分間浸漬した。次に、得られた被めっき物をパラジウム−錫触媒液である「HS−202B」(日立化成工業株式会社製、商品名)に25℃で5分間浸漬した。次に、得られた被めっき物を室温(25℃)で2分間水洗した。
次に、得られた被めっき物を、酸性の処理液である「ADP−601」(日立化成工業株式会社製、商品名)に25℃で5分間浸漬した。このようにして無電解銅めっきのためのパラジウム触媒を被めっき物の非導電性表面(スルーホール内)に析出させた。次に、得られた被めっき物を室温(25℃)で2分間水洗した。
【0020】
次に、無電解銅めっきとしてCUST−201(無電解銅めっき液、日立化成工業株式会社製、商品名)を使用し、室温(25℃)15分の条件で、被めっき物に対し無電解銅めっきを行った。次に、電気硫酸銅めっきを、3A/dm、60分の条件で行い、スルーホールに銅めっきした基板(被めっき物)を作製した。
【0021】
(実施例2)
イソプロピルアルコール水溶液の濃度を30質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、スルーホールに銅めっきした基板(被めっき物)を作製した。
【0022】
(比較例1)
スルーホール加工した基板(被めっき物)を、イソプロピルアルコール水溶液に浸漬しなかった以外は、実施例1と同様にして、スルーホールに銅めっきした基板(被めっき物)を作製した。
【0023】
(スルーホールボイドの発生率)
作製した基板を、260℃の溶融はんだに、1分間浮かべた後、実施例、比較例とも評価を行った。評価方法としてスルーホール断面を観察して、はんだブローによるスルーホールボイドの有無を調べた。なおスルーホールボイドの発生率は1000穴/ロットを観察し評価した。結果を表1に示した。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示すように、実施例2の場合、アルコール濃度が30質量%では、ボイドの発生は認められなかった。また実施例1でも、ボイドの発生率は数%しかなく、比較例1と比べ、かなりボイド発生率が小さいことがわかる。
以上に説明したように、銅張り積層板に穴あけ加工後、アルコール水溶液に浸漬し穴内を親水化することで、スルーホールボイドの発生が極めて少なくなることがわかった。よって、スルーホール内のめっき析出性に優れた、無電解めっき前処理方法を提供できることが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき物の非導電性表面に無電解めっき処理を施す工程前の前処理方法において、アルコールを含む水溶液に被めっき物を浸漬する工程を有する、無電解めっき用前処理方法。
【請求項2】
さらに、非イオン界面活性剤とフッ素系界面活性剤とを含むpH10以上のアルカリ水溶液に被めっき物を浸漬する工程を有する、請求項1記載の無電解めっき用前処理方法。
【請求項3】
アルコールを含む水溶液において、アルコール濃度が1〜60質量%であり、アルコールが、イソプロピルアルコールである、請求項1または2記載の無電解めっき用前処理方法。
【請求項4】
被めっき物が、プリント配線板またはプリント配線板用基板である、請求項1〜3いずれかに記載の無電解めっき用前処理方法。

【公開番号】特開2010−202934(P2010−202934A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50602(P2009−50602)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】