説明

焼却主灰の脱塩処理システム及び脱塩処理方法

【課題】セメント焼成工程における熱量原単位の悪化を引き起こすことなく、低コストで焼却主灰を処理する。
【解決手段】焼却主灰Aを水没させて塩類を溶出させるピット22と、ピット22から排出される脱塩水W1を、セメント製造設備1から排出された200℃以下のガスG3によって濃縮する濃縮装置23と、濃縮装置23で発生した水蒸気Sを凝縮させる凝縮装置24と、凝縮装置24で生成された凝縮水W4をピット22へ戻す循環装置42とを備える焼却主灰の脱塩処理システム21等。濃縮装置23は、ガスGの流れに外表面が接触し、内部を脱塩水W1が流れる予熱管32と、ガスGの流れにおいて予熱管32の上流側に配置され、ガスGの流れに外表面が接触し、内部を予熱管32によって予熱された脱塩水W1が流れる蒸発濃縮管33とを備えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ごみ等の焼却炉で発生した焼却主灰を脱塩処理してセメント原料等として有効利用するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみ等の焼却炉からは、炉床からの焼却主灰(以下、適宜「主灰」と略称する)と燃焼排ガスの飛灰が発生し、飛灰は無害化処理をした後、管理型処分場で埋め立て処理され、主灰は一般廃棄物として管理型処分場にそのまま埋め立て処分されている。しかし、近年、最終埋め立て処分場の残余容量が減少しているため、様々な代替処理方法が検討、実施されている。
【0003】
塩素含有率が高く、粒度の細かい飛灰は、水洗により脱塩処理されてセメント原料に利用されている。一方、塩素含有率が低く、粒度が粗い主灰は、飛灰と比べて水洗による塩素除去効果が低い。そのため、脱塩原料として十分な除去率を得るには多量の水が必要となる。このため、多量の排水が発生し、大型の排水処理設備が必要となり、低コストで脱塩処理を行うことが困難である。
【0004】
そこで、特許文献1には、2段以上の複数の機械式湿式分級機を直列に配置し、前段の分級機に焼却灰を投入し、後段の分級機に洗浄水を添加し、洗浄脱水作用と粒子分級作用を伴いながら、焼却灰を前段から後段へ、水を後段から前段へ向流的に接触移動させ、粗粒の焼却灰を後段から系外に取り出し、微粒の焼却灰を含んだ洗浄液を前段から取り出し、その後、洗浄液と微粒とを分離させ、脱塩された焼却灰と含塩洗浄液を得る方法が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−80199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の処理方法では、スクリュー方式のエーキンス分級機を2台設置する必要があり、設備コストが高くなるのに加え、灰粒子を撹拌槽で充分に撹拌するために水分量を調整し、撹拌に適した粘度に調整する必要があるなど運転コストも高くなり、その結果、主灰の処理コストを低減することは困難である。
【0007】
そのため、実際には、主灰については脱塩処理せずにセメントキルンに投入し、焼成工程で塩素分を濃縮して排出し、脱塩処理している。しかし、この主灰の処理方法では、焼成工程での加熱により塩素を揮発させ、揮発した塩素を高温部から系外へ排出するため、熱量原単位の悪化を引き起こすことになる。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、セメント焼成工程における熱量原単位の悪化を引き起こすことなく、低コストで主灰を処理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、焼却主灰の脱塩処理システムであって、焼却主灰を水没させて塩類を溶出させるピットと、該ピットから排出される脱塩水を、セメント製造設備から排出された200℃以下のガスによって濃縮する濃縮装置と、該濃縮装置で発生した水蒸気を凝縮させる凝縮装置と、該凝縮装置で生成された凝縮水を前記ピットへ戻す循環装置とを備えることを特徴とする。
【0010】
そして、本発明によれば、濃縮装置によって焼却主灰の脱塩水を濃縮し、濃縮によって発生した水蒸気を凝縮させた凝縮水を循環使用することで、脱塩水の排水処理設備を小型化することができるとともに、脱塩水の濃縮に従来利用されていなかったセメント製造設備から排出された200℃以下のガスを用いるため、焼却主灰の処理コストを大幅に低減することができ、セメント焼成工程における熱量原単位の悪化を引き起こすこともない。
【0011】
上記焼却主灰の脱塩処理システムにおいて、前記濃縮装置を、前記200℃以下のガス流れに外表面が接触し、内部を前記脱塩水が流れる予熱管と、前記200℃以下のガス流れにおいて前記予熱管の上流側に配置され、該200℃以下のガス流れに外表面が接触し、内部を前記予熱管によって予熱された脱塩水が流れる蒸発濃縮管とを備えるように構成することができる。この構成により、200℃以下のガス流れと、脱塩排水とを向流的に接触させることができ、効率よく脱塩排水を蒸発濃縮することができる。
【0012】
上記焼却主灰の脱塩処理システムにおいて、前記濃縮装置を、前記セメント製造設備のセメントキルン排ガスを大気に放出する煙突の上流側煙道に配置することができる。
【0013】
また、本発明は、焼却主灰の脱塩処理方法であって、焼却主灰を水洗して塩類を溶出させ、該塩類を溶出させた脱塩水を、セメント製造工程における200℃以下のガスを用いて濃縮し、該濃縮によって発生した水蒸気を凝縮させ、該凝縮によって生成された凝縮水を前記焼却主灰の水洗に用いることを特徴とする。本発明によれば、上記発明と同様に、脱塩水の排水処理設備を小型化し、従来利用されていなかったセメント製造設備から排出された200℃以下のガスを用いることで、焼却主灰の処理コストを大幅に低減することができ、セメント焼成工程における熱量原単位の悪化も回避することができる。
【0014】
上記焼却主灰の脱塩処理方法において、前記セメント製造工程における200℃以下のガスを、セメントキルンの排ガスとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、焼却主灰の脱塩水の排水処理設備を小型化し、従来利用されていなかったセメント製造設備からの排ガスを用い、セメント焼成工程における熱量原単位の悪化を引き起こすことなく、低コストで焼却主灰を処理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明にかかる焼却主灰の脱塩処理システムを設置したセメント製造設備をを示す全体構成図である。
【図2】本発明にかかる焼却主灰の脱塩処理システムの濃縮装置及びその近傍を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図3】本発明にかかる焼却主灰の脱塩処理システムの動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明にかかる焼却主灰の脱塩処理システム(以下、「脱塩処理システム」と略称する)を設置したセメント製造設備を示し、このセメント製造設備1は、セメント原料を粉砕する原料粉砕装置3と、原料粉砕装置3で粉砕されたセメント原料Rを予熱するプレヒーター7と、予熱されたセメント原料Rを仮焼する仮焼炉8と、仮焼したセメント原料Rを焼成するセメントキルン9と、焼成により得られたセメントクリンカを冷却するクリンカクーラー11と、プレヒーター7から排出された燃焼排ガスG1の顕熱を利用して発電を行う廃熱発電設備2と、原料粉砕装置3の排ガスG2の集塵を行うバグフィルター4と、上記排ガスを吸引するファン5と、ファン5からの排ガスG3を大気に放出する煙突6等で構成され、本発明にかかる脱塩処理システム21は、ファン5と煙突6との間の煙道51及びその近傍に配置される。
【0019】
脱塩処理システム21は、主灰Aに水Wを添加し、主灰Aを水没させて塩類を溶出させるピット22と、ピット22から排出される脱塩水W1をファン5からの排ガスG3を用いて濃縮する濃縮装置23と、濃縮装置23で発生した水蒸気Sを凝縮させる凝縮装置24等を備え、凝縮装置24で生成した凝縮水W4は、ピット22に戻される。
【0020】
濃縮装置23は、図2に示すように、上記ピット22からの脱塩水W1を搬送するポンプ31と、ポンプ31によって搬送された脱塩水W1を煙道51内を流れる排ガスG3によって加熱して蒸発させるために煙道51内に配置される予熱管32及び蒸発濃縮管33と、加熱された脱塩水W1を貯留する第1貯槽34と、第1貯槽34に貯留された脱塩水W1を蒸発濃縮管33に搬送するポンプ35と、蒸発濃縮管33で濃縮された濃縮水W2を貯留する第2貯槽36と、第2貯槽36に貯留した濃縮水W2を排水処理設備(不図示)に搬送するポンプ37等で構成される。
【0021】
予熱管32及び蒸発濃縮管33は、煙道51内に鉛直方向に各々複数本延設され、予熱管32が排ガスG3流れの下流側に、蒸発濃縮管33が上流側に配置される。予熱管32及び蒸発濃縮管33は、各々の管の上方に供給された脱塩水W1を排ガスG3と直接接触させずに熱交換させて加熱する。蒸発濃縮管33は、薄膜流下式蒸留を行うように構成され、蒸発した水蒸気Sを蒸気搬送管38を介して凝縮装置24に搬送する。
【0022】
凝縮装置24は、濃縮装置23の下流側に配置され、蒸気搬送管38を介して搬送された水蒸気Sを吸引する真空ポンプ41と、凝縮装置24に供給された冷却水によって水蒸気Sを凝縮させて発生した凝縮水W4をピット22へ戻すためのポンプ(循環装置)42を備える。
【0023】
次に、上記構成を有する脱塩処理システム21を用いた焼却主灰の脱塩処理方法について説明するが、まず、脱塩処理システム21が配置されたセメント製造設備1のフローについて図1を参照しながら説明する。
【0024】
原料粉砕装置3で粉砕され、プレヒーター7に供給されたセメント原料Rは、プレヒーター7で予熱され、仮焼炉8で仮焼された後、セメントキルン9で焼成されてクリンカが生成される。セメントキルン9から排出されたクリンカは、クリンカクーラー11で冷却され、後段のセメント粉砕ミル(不図示)で石膏等とともに粉砕されてセメントが製造される。
【0025】
一方、プレヒーター7から排出される燃焼排ガスG1は、廃熱発電設備2に導入され、燃焼排ガスG1が保有する熱を廃熱発電設備2の廃熱ボイラーで回収し、廃熱ボイラーで発生した蒸気を用いて発電が行われる。そして、廃熱発電設備2から排出され、原料粉砕装置3を経た150℃程度の排ガスG2は、バグフィルター4によって集塵される。回収されたダストDは、セメント製造工程に戻される。一方、バグフィルター4から排出され、ファン5を通過した約150℃の排ガスG3は、脱塩処理システム21において利用された後、煙突6から大気に放出される。
【0026】
次に、脱塩処理システム21を用いた焼却主灰の脱塩処理方法について、図3を中心に参照しながら説明する。
【0027】
図3の左上断面図に示すように、塩素濃度が約1%の主灰Aをピット22に導入し、主灰Aと等重量程度の水Wを加え、主灰Aに含まれている塩類を水Wに溶出させる。この際、水温は30℃以上、溶出時間は6時間以上とするのが好ましい。塩類の溶出後、ピット22から塩類を含む脱塩水W1を抜き出す。これによって、脱塩主灰A’を得ることができる。ここで、脱塩水W1の塩素濃度は約0.4%となっている。
【0028】
次に、脱塩水W1を図2に示した濃縮装置23を用いて濃縮し、2%程度の塩素分を含む濃縮水W2(W1の1/5の量)と、塩素分をほとんど含まない水蒸気S(W1の4/5の量)に分離する。
【0029】
具体的には、図2において、ポンプ31によって脱塩水W1を予熱管32に導入し、煙道51内を通過する約150℃の排ガスG3によって加熱する。これにより、脱塩水W1は、約80℃に予熱され、この際に発生した水蒸気Sは、蒸気搬送管38を介して凝縮装置24に取り込まれ、未蒸発分は第1貯槽34に一時的に貯留された後、ポンプ34によって上流側の蒸発濃縮管33に注入される。蒸発濃縮管33において脱塩水W1が排ガスG3によって加熱され、発生した水蒸気Sは蒸気搬送管38を介して凝縮装置24に取り込まれ、未蒸発分(濃縮水W2)は、ポンプ37によって排水処理設備へ搬送される。
【0030】
次に、濃縮工程で得られた水蒸気Sを真空ポンプ41によって吸引し、凝縮装置24に供給された冷却水によって水蒸気Sを凝縮させ、発生した凝縮水W4をポンプ42によってピット22へ搬送し、主灰Aの洗浄用に再利用する。一方、濃縮水W2には重金属も含まれるため、排水処理工程でキレート処理した後、放流する。重金属が除去された濃縮水W3には約2%の塩素分が含まれているが、この濃度は海水中の塩分と同程度であるため、そのまま放流することができる。
【0031】
以上のように、本実施の形態では、濃縮装置23によって脱塩水W1を濃縮し、濃縮によって発生した水蒸気Sを凝縮させた凝縮水W4を循環使用することで、濃縮水W2のみを排水処理すればよく、この際、濃縮水W2の量は、脱塩水W1の1/5となっているため、排水処理設備を大幅に小型化することができる。
【0032】
また、脱塩水W1を濃縮するにあたって、従来利用されていなかった排ガスG3を用い、この排ガスG3は、温度が約150℃で、風量としては、2.0Nm3/kg−cem(セメント製造設備1で1kgのセメントを製造する際に2.0Nm3発生する)程度の大量の熱量を有するため、廃熱の有効利用を図ることができるとともに、この排ガスG3は、セメント焼成に関与するものではないため、セメント焼成における熱量原単位の悪化を引き起こすこともない。
【0033】
また、上記実施の形態では、予熱管32及び蒸発濃縮管33を用いることにより、脱塩水W1に排ガスG3を直接接触させず、排ガスG3の有する熱のみを利用した間接加熱であるため、脱塩水W1中に排ガスG3内の微細なダストが混入するなどの問題は発生しない。
【0034】
尚、上記実施の形態では、セメント製造設備1の廃熱発電設備2の下流側に原料粉砕装置3が配置されている場合を例示したが、原料粉砕装置3に代えて原料乾燥装置等が配置されていてもよく、また、バグフィルター4に代えて電機集塵機が配置されている場合などでも本発明を適用することができる。
【0035】
また、セメント製造設備1における脱塩処理システム21の設置位置は、ファン5と煙突6の間に限定されず、バグフィルター4とファン5の間であってもよく、セメント製造設備1から排出された200℃以下のガスを利用することができればよい。従って、セメントキルン9の燃焼排ガスに留まらず、クリンカクーラー11からの排気を利用することもできる。
【0036】
さらに、上記実施の形態では、濃縮装置23の予熱管32を排ガスG3の流れの下流側に、蒸発濃縮管33を上流側に配置したが、これとは逆に、予熱管32を上流側に、蒸発濃縮管33を下流側に配置することもできる。
【符号の説明】
【0037】
1 セメント製造設備
2 廃熱発電設備
3 原料粉砕装置
4 バグフィルター
5 ファン
6 煙突
7 プレヒーター
8 仮焼炉
9 セメントキルン
11 クリンカクーラー
21 脱塩処理システム
22 ピット
23 濃縮装置
24 凝縮装置
31 ポンプ
32 予熱管
33 蒸発濃縮管
34 第1貯槽
35 ポンプ
36 第2貯槽
37 ポンプ
38 蒸気搬送管
41 真空ポンプ
42 ポンプ
51 煙道
A 主灰
A’ 脱塩主灰
G1 燃焼排ガス
G2、G3 排ガス
S 水蒸気
R セメント原料
W 水
W1 脱塩水
W2、W3 濃縮水
W4 凝縮水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却主灰を水没させて塩類を溶出させるピットと、
該ピットから排出される脱塩水を、セメント製造設備から排出された200℃以下のガスによって濃縮する濃縮装置と、
該濃縮装置で発生した水蒸気を凝縮させる凝縮装置と、
該凝縮装置で生成された凝縮水を前記ピットへ戻す循環装置とを備えることを特徴とする焼却主灰の脱塩処理システム。
【請求項2】
前記濃縮装置は、
前記200℃以下のガス流れに外表面が接触し、内部を前記脱塩水が流れる予熱管と、
前記200℃以下のガス流れにおいて前記予熱管の上流側に配置され、該200℃以下のガス流れに外表面が接触し、内部を前記予熱管によって予熱された脱塩水が流れる蒸発濃縮管とを備えることを特徴とする請求項1に記載の脱塩処理システム。
【請求項3】
前記濃縮装置は、前記セメント製造設備のセメントキルン排ガスを大気に放出する煙突の上流側煙道に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱塩処理システム。
【請求項4】
焼却主灰を水洗して塩類を溶出させ、
該塩類を溶出させた脱塩水を、セメント製造工程における200℃以下のガスを用いて濃縮し、
該濃縮によって発生した水蒸気を凝縮させ、
該凝縮によって生成された凝縮水を前記焼却主灰の水洗に用いることを特徴とする焼却主灰の脱塩処理方法。
【請求項5】
前記セメント製造工程における200℃以下のガスは、セメントキルンの排ガスであることを特徴とする請求項4に記載の焼却主灰の脱塩処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−50890(P2011−50890A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203479(P2009−203479)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】