説明

焼結スリーブの製造方法および焼結スリーブ

【課題】表面空隙を少なくし、かつ、寸法精度を容易に高めることが可能な焼結スリーブの製造方法および焼結スリーブを提供する。
【解決手段】焼結スリーブ3の製造方法は、圧縮工程を含むステップS1と、焼結工程であるステップS2と、面押加工するステップS3と、第1サイジング工程であるステップS4と、溝転造工程であるステップS5と、第2サイジング工程であるステップS6とを備えている。ステップS1は、金属粉体P成形体を圧縮成型する。ステップS2は、圧縮成形体を焼結し第1成形体P1を成型する。ステップS3は、第1成形体P1の内周面31aにテーパ面31bを形成する。ステップS4は、第1成形体P1を圧縮加工し、第2成形体P2を成型する。ステップS5は、第2成形体P2を溝転造加工し第3成形体P3を成形する。ステップS6は、第3成形体P3を圧縮加工し第4成形体P4を成型する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体軸受装置に用いられる焼結スリーブの製造方法および焼結スリーブに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回転するディスクを用いたハードディスク装置や光ディスク装置のような記録再生装置等では、そのメモリー容量が増大し、また、データの転送速度が高速化している。このため、記録再生装置に使用される軸受は、ディスク負荷を高精度に回転させるための高い性能と信頼性とが要求されている。そこで、これらの記録再生装置には、高精度回転に適した流体軸受装置が用いられている。
【0003】
流体軸受装置は、軸とスリーブ部材との間にオイル等の潤滑流体を介在させており、回転時に動圧発生溝に流入した潤滑流体によってポンピング圧力を発生させることで、スリーブに対して軸を非接触で回転させることができる。流体軸受装置は、軸とスリーブとが非接触で回転するため、各部材間において機械的な摩擦が無い状態で高速かつ高精度に回転させることができる。
【0004】
このような流体軸受装置を構成する軸受部材であるスリーブは、切削加工によって内外径を形成し、その後動圧発生溝を転造加工や電解加工によって形成する。一方、素材が安価で、かつ、NC旋盤での精密切削加工が不要となる金属焼結体を用いてスリーブが形成される場合もある。
【0005】
例えば、特許文献1においては、焼結金属粉体を中空円筒状に圧縮成型し、その焼結金属成形体を焼結した金属焼結体の内周面に、転造加工によって動圧発生溝を形成した焼結スリーブの製造方法について開示されている。
【特許文献1】特開2007−113722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の焼結スリーブの製造方法では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、金属焼結体によって形成されるスリーブは、原料となる焼結金属粉末を圧縮成形して形成するために、その金属焼結体粒子間に空隙(気孔)を有している。このため、この状態で金属焼結体をスリーブとして使用した場合には、例えば、軸受部表面で発生した動圧が空隙(気孔)を介して漏れ出すことによる動圧力の低下やオイル漏れ等を招くおそれがある。この結果、このようなスリーブを備えたスピンドルモータの回転精度や信頼性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0007】
また、このような問題を解決するために、転造による溝形成後に、スチーム処理や金属メッキ等を施して、スリーブ表面の気密性を高める表面処理がすでに提案されている(例えば、特許文献1参照)。ところが、そのような処理を施しても、表面空隙(表面気孔)の大きなスリーブに対しては空隙(気孔)が封孔しきれず、その効果が十分とは言い難い。
【0008】
また、他の解決方法として、転造による溝形成後に、サイジング処理、すなわち、焼結によって成形された金属焼結体を金型に入れて圧縮成形し、密度を高めて空隙(気孔)を小さくする方法を上記表面処理と併用することも考えられる。しかしながら、転造による溝形成後にサイジング処理を行うと、転造で形成された溝が変形してしまうという問題を有していた。
【0009】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、表面空隙(表面気孔)による動圧低下やオイル漏れ等の悪影響を最小限とすることが可能で、かつ、寸法精度を高めることが可能な焼結スリーブの製造方法および焼結スリーブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、流体軸受装置に用いられる焼結スリーブの製造方法であって、成型焼結工程と、第1サイジング工程と、転造工程と、第2サイジング工程とを備えている。成型焼結工程は、金属粉体の成形体を成型して焼結し、第1成形体を成型する。第1サイジング工程は、第1成形体を圧縮加工し、第2成形体を成型する。転造工程は、第2成形体を転造加工し、動圧発生溝が形成された第3成形体を成形する。第2サイジング工程は、第3成形体を圧縮加工し、第4成形体を成型する。
【0011】
ここでは、転造によって動圧発生溝を形成する転造工程の前後において、成形体を圧縮加工する第1サイジング工程と第2サイジング工程とを備えている。
従来より、焼結金属特有の表面空隙(表面気孔)による不具合を回避し、完成寸法の精度を高めるために、成形体を圧縮加工するサイジング処理が行われている。ところが、サイジング処理は、転造工程において形成された動圧発生溝の形状をも変形させてしまうので、動圧発生溝の寸法精度を確保することが難しい。
【0012】
そこで、本発明の焼結スリーブの製造方法においては、動圧発生溝を形成する転造工程の前後に2つのサイジング工程(第1サイジング工程と第2サイジング工程)を配置して、サイジング処理を行っている。
【0013】
これにより、動圧発生溝を形成する転造処理の前後で、サイジング処理をする部位を変えたり、圧縮加工量を変えたりすることが可能となる。このため、例えば、転造処理によって動圧発生溝が形成される部分を、第1サイジング工程において略完成寸法にまで圧縮加工して表面空隙(表面気孔)を少なくし、第2サイジング工程において動圧発生溝の寸法がコントロールできる範囲内で圧縮加工を行って完成寸法に仕上げたりすることができる。
【0014】
この結果、焼結スリーブを製造するにあたって、表面空隙(表面気孔)が少なく寸法精度を容易に高めることが可能となる。
【0015】
第2の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、第1の発明に係る焼結スリーブの製造方法であって、第1サイジング工程では、第1成形体を略完成寸法に仕上げ、第2サイジング工程では、第3成形体を完成寸法に仕上げる。
【0016】
ここでは、動圧発生溝を形成する前の第1成形体をサイジング処理して略完成寸法に仕上げ、動圧発生溝を形成した後の第3成形体をサイジング処理して完成寸法に仕上げている。
【0017】
なお、ここで言う完成寸法とは、流体軸受装置として組み立てる際の寸法(ただし、高温水蒸気処理等、表面加工処理をする前の寸法)をいい、略完成寸法とは、完成寸法に対して第2サイジング工程等の加工代を残した寸法をいう。
【0018】
ここで、転造処理によって形成された動圧発生溝部分に、スリーブ全体をサイジング処理する要領でサイジング処理すると、動圧発生溝部分が変形し、動圧発生溝部分の寸法を確保することが難しい。
【0019】
これにより、転造処理によって動圧発生溝が形成される部分を、第1サイジング工程では、略完成寸法にまで圧縮加工して表面空隙(表面気孔)を少なくし、第2サイジング工程では、動圧発生溝の寸法がコントロールできる範囲内で圧縮加工を行って完成寸法に仕上げることが可能となる。
この結果、寸法精度の高い良好な動圧発生溝を形成することが可能となる。
【0020】
第3の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、第1または第2の発明に係る焼結スリーブの製造方法であって、第2サイジング工程は、第3成形体の内径および軸受部長さを完成寸法に仕上げる。
【0021】
なお、ここで言う軸受部長さとは、本発明によって製造される焼結スリーブを流体軸受装置として組み立てた時に、ラジアル軸受部を形成する部分、すなわち、ラジアル軸受部の軸受特性に直接関係する部分の軸方向おける長さを言う。
【0022】
ここでは、動圧発生溝が形成された後の工程である第2サイジング工程において、動圧発生溝が形成された部分である第3成形体の内径および軸受部長さをサイジング処理して完成寸法に仕上げている。
【0023】
これにより、動圧発生溝の形成された第3成形体の内径および軸受部長さに対して、動圧発生溝の寸法がコントロールできる範囲内で圧縮加工を行って完成寸法に仕上げることが可能となる。
【0024】
第4の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、第1から第3の発明のいずれか1つに係る焼結スリーブの製造方法であって、第1サイジング工程は、第1成形体の内径および軸受部長さ以外の部分を完成寸法に仕上げる。
【0025】
ここでは、動圧発生溝が形成される前の工程である第1サイジング工程において、動圧発生溝が形成される部分以外をサイジング処理して完成寸法に仕上げている。
これにより、転造工程において寸法が変化することがない動圧発生溝が形成される部分以外を、完成寸法に仕上げることが可能となる。
【0026】
第5の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、第1から第4の発明のいずれか1つに係る焼結スリーブの製造方法であって、第2サイジング工程では、スラスト基準面を完成寸法に仕上げる。
【0027】
ここでは、動圧発生溝が形成された後の工程である第2サイジング工程において、スラスト基準面をサイジング処理して完成寸法に仕上げている。
ここで言うスラスト基準面とは、本発明によって製造される焼結スリーブを流体軸受装置として組み立てた時に、スラスト軸受部を形成する面と平行な部位のうち、スラスト軸受部を形成する面、あるいは、スラスト軸受部を形成する部材と当接する部位をいう。
【0028】
本発明においては、第2サイジング工程においてスリーブにおける全面を加工するのではなく、内径、軸受部長さ、スラスト基準面に限定して加工することによって、肉の逃げ場を確保することができるので、金型変形が小さくなり、直角度や段差寸法の精度を確保することが可能となる。
【0029】
第6の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、第1から第5の発明のいずれか1つに係る焼結スリーブの製造方法であって、第1サイジング工程において成型される第2成形体の内径と第2サイジング工程において成型される第4成形体の内径との差を10μm以下とする。
【0030】
ここでは、第2サイジング工程における内径の加工代が10μm以下となるようにサイジング処理している。
これにより、寸法精度が良好な動圧発生溝を形成することが可能となる。
【0031】
第7の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、第1から第6の発明のいずれか1つに係る焼結スリーブの製造方法であって、第1サイジング工程において成型される第2成形体の軸受部長さと第2サイジング工程において成型される第4成形体の軸受部長さとの差を20μm以下とする。
【0032】
ここでは、第2サイジング工程における軸受部長さの加工代が20μm以下となるようにサイジング処理している。
これにより、寸法精度が良好な動圧発生溝を形成することが可能となる。
【0033】
第8の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、第1から第7の発明のいずれか1つに係る焼結スリーブの製造方法であって、第1サイジング工程において成型される第2成形体のスラスト基準面長さと第2サイジング工程において成型される第4成形体のスラスト基準面長さとの差を50μm以下とする。
【0034】
ここでは、第2サイジング工程におけるスラスト基準面長さの加工代が50μm以下となるようにサイジング処理している。
なお、ここで言うスラスト基準面長さとは、本発明によって製造される焼結スリーブを流体軸受装置として組み立てた時に、上記スラスト基準面を含む部位の軸方向の長さを言う。
これにより、直角度や寸法精度が良好なスラスト基準面を形成することが可能となる。
【0035】
第9の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、第1から第8の発明のいずれか1つに係る焼結スリーブの製造方法であって、第1サイジング工程および第2サイジング工程の各部位における圧縮量は、成型焼結工程における各部位の圧縮率に反比例するように設定する。
【0036】
ここでは、上記圧縮率が小さい部位ほど、第1サイジング工程および第2サイジング工程で圧縮する圧縮量を大きくするようにしている。
ここで、上記圧縮率が小さい部位ほど密度が小さく、潤滑流体のしみ込みが問題となる。
【0037】
これにより、密度が小さな部位ほど、第1および第2サイジング工程において圧縮量を増やすことができるので、その部位の密度を高めることが可能となる。
【0038】
第10の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、第1から第9の発明のいずれか1つに係る焼結スリーブの製造方法であって、第1サイジング工程において使用される第1成形体を内挿する第1金型の内径寸法は、第1成形体の外径よりも大きい。
【0039】
ここでは、第1サイジング工程において使用する金型寸法の内径を、第1成形体の外径よりも大きくしている。
ここで、第1サイジング工程において、第1成形体の外周面を完全に拘束してしまうと以下の問題が発生する。すなわち、第1サイジング工程では、第1成形体の内周面に金型ピン等を挿入して内周面を圧縮加工している。このとき、第1成形体の外周面を拘束することによって、内周面の圧縮加工に伴って第1成形体の外周面が増大しようとする反力が金型ピンに伝わり、金型ピン等が変形してしまうことがある。
【0040】
そこで、本発明の焼結スリーブの製造方法においては、第1サイジング工程において使用する第1金型の内径寸法を第1成形体の外径よりも大きくし、第1成形体の外周面と第1金型の内周面との間に「あそび」となる隙間を形成している。
【0041】
これにより、第1成形体の外径同軸度の影響による金型ピン等の変形を軽減することが可能となる。
【0042】
第11の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、第1から第10の発明のいずれか1つに係る焼結スリーブの製造方法であって、第2サイジング工程において使用される第3成形体を内挿する第2金型の内径寸法は、第3成形体の外径よりも大きい。
【0043】
ここでは、第2サイジング工程において使用する第2金型の内径寸法を、第3成形体の外径よりも大きくしている。
ここで、第2サイジング工程において、第3成形体の外周面を完全に拘束してしまうと以下の問題が発生する。すなわち、第2サイジング工程では、第3成形体の内周面に金型ピン等を挿入して内周面を圧縮加工している。このとき、第3成形体の外周面を拘束することによって、内周面の圧縮加工に伴って第3成形体の外周面が増大しようとする反力が金型ピンに伝わり、金型ピン等が変形してしまうことがある。
【0044】
そこで、本発明の焼結スリーブの製造方法においては、第2サイジング工程において使用する第2金型の内径寸法を第3成形体の外径よりも大きくし、第3成形体の外周面と第2金型の内周面との間に「あそび」となる隙間を形成している。
これにより、第3成形体の外径同軸度の影響による金型ピン等の変形を軽減することが可能となる。
【0045】
第12の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、第1から第11の発明のいずれか1つに係る焼結スリーブの製造方法であって、第1サイジング工程において第1成形体の突出部に挿入される第3金型の軸方向に対する外周面の角度は、第1成形体の内周面における軸方向に対する角度よりも小さい。
【0046】
なお、ここで言う突出部は、例えば、スラストフランジを格納したり、スラスト板を取り付けたりする部位をいい、突出部は、軸方向に沿って2段以上突出する場合もある。そして、2段以上の突出部がある場合、第3金型の軸方向に対する外周面の角度は、少なくとも1つの突出部の内周面に対して、上述の関係に設定されていればよい。
【0047】
ここでは、第1成形体の突出部の内周面に挿入する第3金型の外周面の軸方向における角度が、第1成形体の内周面における軸方向に対する角度と異なるようにしている。
【0048】
これにより、第1サイジング工程における第1成形体の圧縮量を変えることが可能となる。すなわち、第1成形体に対して第3金型を深く挿入するほど、第1成形体の内周面と第3金型の外周面との距離が短くなるので、第3金型は、第1成形体に対してしごき効果による強い圧縮力を与えることが可能となる。
【0049】
この結果、第1成形体における比較的空隙(気孔)量の大きな部分の表面を、密度の高い表面に成型することが可能となる。
【0050】
第13の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、第1から第12の発明のいずれか1つに係る焼結スリーブの製造方法であって、成型焼結工程では、第1成形体の内周面が軸方向に傾いたテーパ部を含むように成形する。
【0051】
ここでは、例えば、第2サイジング時に金型が挿入される方向に向かって内径が大きくなるように、第1成形体の内径が形成されている。
ここで、第2サイジング工程において、第1サイジング工程において使用した金型と同じ内径の金型を使用すると、第3成形体と第2サイジング金型の外周面との隙間無くなり、例えば、内周面をサイジングするためのピン等を挿入した時に、挿入方向と同じ方向に押し込まれてしまう。このため、転造工程等において形成された動圧発生溝の形状を潰してしまうおそれがある。
【0052】
そこで、本発明の焼結スリーブの製造方法においては、例えば、第2サイジング時に金型が挿入される方向に向かって内径が大きくなるように、第1成形体の内径を形成し、ピン等を抵抗なく内周面に挿入できるようにしている。
【0053】
これにより、ピン等を内周面に挿入した場合も、挿入方向に押し込まれることがなくなり、動圧発生溝の形状が潰れてしまうことを回避することが可能となる。
【0054】
第14の発明に係る焼結スリーブの製造方法は、第13の発明に係る焼結スリーブの製造方法であって、テーパ部は、第1サイジング工程後に軸方向における長さが50μm以上残るように形成されている。
【0055】
ここでは、焼結の後、例えば、面押加工等で形成されたテーパ部が、第1サイジング工程の後においても50μm以上の長さが残るように形成されている。
【0056】
これにより、第2サイジング工程時において逃げの空間を確保することができるので、動圧発生溝の溝深さを確保するための第2サイジング工程における軸受部長さ加工量を大きくすることが可能となる。
この結果、第2サイジング工程において溝潰れを防止するための管理の負担を小さくすることが可能となる。
【0057】
第15の発明に係る焼結スリーブは、内層部と、表層部とを有している。内層部は、軸方向に沿って密度が変化する。表層部は、内層部に比べて密度が高く内層部の表面を覆っている。
【0058】
ここでは、軸方向に沿って密度が変化する内層部の表面を、内層部に比べて密度が高い表層部が覆っている。
なお、表層部は、軸方向に沿って密度が均一であってもよい。また、表層部は、軸方向に対して傾いていてもよい。
【0059】
ここで、軸方向に凹凸のある形状を有するスリーブを形成するために、複数の突出部を有するパンチ等も用いて圧縮成型する。このとき、パンチの形状等により、圧縮成型される金属粉体の密度が小さくなる部分が発生する。特に、本体部と突出部とを有する構造のスリーブでは、圧縮率の違いによって、本体部よりも突出部の方が密度が小さくなる。また、複数の突出部を有するスリーブの場合、本体部から軸方向に遠い突出部ほど密度が小さくなる。このため、表面空隙(表面気孔)量が多くなり、表面処理加工を行っても潤滑流体洩れ等の不具合が発生するおそれがある。
【0060】
そこで、本発明の焼結スリーブでは、上記のような製造過程で発生する空隙(気孔)量の多い内層部の圧縮率を調整することによって、できるだけ均一な密度に近づけると共に、内層部の表面を密度が内層部よりも高い表層部を形成するように成型する。
【0061】
これにより、スリーブの表面を効果的に表面処理加工することができ、潤滑流体の漏れを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0062】
本発明に係る焼結スリーブの製造方法によれば、焼結スリーブを製造するにあたって、表面空隙(表面気孔)が少なく、寸法精度を容易に高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
本発明の一実施形態に係るスリーブ(焼結スリーブ)3を含む流体軸受装置100およびスリーブ3の製造方法について、図1〜図12を用いて説明すれば以下の通りである。
なお、本実施形態の説明では、便宜上、図面の上下方向を「軸方向上側」、「軸方向下側」等と表現するが、実際の取り付け状態、製造方法等を限定するものではない。
【0064】
[流体軸受装置100について]
(流体軸受装置100の全体構成)
図1〜図12は、本発明のスリーブ3を含む流体軸受装置100の構成と製造方法を示す図である。流体軸受装置100は、図1に示すように、シャフト1、フランジ2、スリーブ3、スラスト板4、潤滑流体6から構成され、この流体軸受装置100を備えたスピンドルモータ101は、さらに、ロータハブ7、ディスク8、ロータ磁石9a、ステータ9b、ベース5を備えている。
【0065】
シャフト1は、フランジ2と一体的に形成されている。シャフト1は、スリーブ3の軸受孔3cに回転自在に挿入されている。フランジ2は、スリーブ3の下面部においてスリーブ3の凹部3dに収納されている。シャフト1の外周面およびスリーブ3の内周面の少なくとも一方には、動圧発生溝3a、3bが設けられている。なお、本実施形態の流体軸受装置100においては、動圧発生溝3a,3bは、スリーブ3の内周面に形成されている。また、フランジ2におけるスリーブ3との対向面およびフランジ2とスラスト板4との対向面には、動圧発生溝2a,2bが設けられている。スラスト板4は、スリーブ3に固着されている。各動圧発生溝3a,3b,2a,2bの付近の軸受部隙間は、少なくとも潤滑流体6によって充填されている。ロータハブ7は、シャフト1に固定されている。そして、ロータハブ7には、図示しないクランパ等によってディスク8が固定されている。
【0066】
スリーブ3は、ベース5に接着剤等により固定されている。ロータハブ7には、ロータ磁石9aが取り付けられている。ベース5には、ロータ磁石9aに対向する位置にステータ9bが固定されている。
【0067】
(スリーブ3の詳細説明)
ここでは、上記に述べたスリーブ3の構成について、スリーブ3を拡大した図2を用いて説明する。
【0068】
スリーブ3は、図2に示すように、本体部31と第1突出部32と第2突出部33とを有している。そして、本体部31、第1突出部(突出部)32および第2突出部(突出部)33は、それぞれ内周面31a,32a,33aを有している。上記内周面31a,32a,33aのうち、内周面32aは、軸方向に対して、例えば、4度傾いて形成され、内周面33aは、例えば、軸方向に平行に形成されている。なお、内周面33aは、内周面32aと同様に軸方向に沿って傾いて形成されることもある。内周面31aは、軸受特性に直接関係するところであるため、軸方向に平行に形成される。また、本体部31の第1突出部32側、第1突出部32の第2突出部33側には、それぞれシャフト1と直交する方向に沿った平面部位である溝加工基準面31e、スラスト基準面32bが形成されている。溝加工基準面31eは、内周面31aに溝加工するときに使用する基準面であり、スラスト基準面32bは、スラスト板4を取り付けるときに使用する基準面である。溝加工基準面31eは、図1の断面図でも分かるように、フランジ2とスリーブ3とがスラスト軸受部を形成しているので、スラスト基準面32bと同等の精度が必要であり、スラスト基準面と称してもよい。そして、スリーブ3は、最終的には、400℃〜700℃の高温水蒸気処理(スチーム処理)により四三酸化鉄(四酸化三鉄)や三二酸化鉄(三酸化二鉄)の層によってその表面気孔が封孔されている。
【0069】
次に、図3(a)〜図3(f)を用いて、スリーブ3における本体部31、第1突出部32、第2突出部33のそれぞれにおける内層部35の内部組織構造について説明する。ここでの説明は、上述した最終的な酸化膜を形成する高温水蒸気処理前までの成形体の説明である。なお、図3(b)、図3(d)、図3(f)は、スリーブ3における第2突出部33(図2のc部参照)、第1突出部32(図2のb部参照)、本体部31(図2のa部参照)の内部組織、図3(a)、図3(c)、図3(e)は、本願におけるサイジング処理を行う前の第1成形体P1における第2突出部33(図2のc部参照)、第1突出部32(図2のb部参照)、本体部31(図2のa部参照)の内部組織を示している。
【0070】
スリーブ3における内部組織は、第1成形体の状態では気孔量に差が見られたが、本願におけるサイジング処理後は、図3(b)、図3(d)、図3(f)に示すように、軸方向(図3においては水平方向)において空隙(気孔)量がほぼ一定となっている。
【0071】
(流体軸受装置100の動作について)
以上のように構成された流体軸受装置100について、その動作について図1を用いて説明する。
【0072】
複数のコイルが巻回されたステータ9bに対して電子回路(図示せず)によって順次通電すると、回転磁界が発生する。このとき、ロータ磁石9aに回転力が与えられ、ロータハブ7、シャフト1、フランジ2、ディスク8が回転を始める。この回転により、動圧発生溝2a,2b,3a,3bは、潤滑流体6をかき集めて、シャフト1とスリーブ3との間や、フランジ2とスリーブ3およびスラスト板4との間にポンピング圧力を発生させる。これにより、シャフト1は、スリーブ3とスラスト板4とに対して非接触で回転し、図示しない磁気ヘッドまたは光学ヘッドにより、ディスク8上にデータの記録再生を行わせることが可能となる。
【0073】
[スリーブ3の製造方法について]
以下、本実施形態のおけるスリーブ3の製造方法について、図4に示すフローチャート、および、図5〜図12を用いて説明する。なお、図5〜図12においては、図面に示す上側、下側は、スリーブ3が、流体軸受装置100として組立てられた時にスラスト板4の取付部、ロータハブ7の取付部を形成するので、それぞれ「スラスト側」、「ロータハブ側」と表現し、また、上下方向を「軸方向」と表現する。
【0074】
図4に示すステップS1では、圧縮成型金型10内に金属粉体充填し、圧縮成型を行う。圧縮成型金型10は、図5に示すように、下側パンチ11と外型12とピン13と上側パンチ14とを有している。そして、圧縮成型金型10を、図5に示した状態にセットし、下側パンチ11と外型12とピン13との間に形成されるスペースSに、鉄粉および結合剤を混合した金属焼結粉体Pを充填する。これにより、金属焼結粉体Pは、ピン13の直径を内径とする内周面が形成された中空円筒状に充填された状態となる。
【0075】
次に、スリーブ3を所望の形状に成型するために、図6に示すように、図5で説明した金型に上側パンチ14を挿入する。上側パンチ14は、本体部14aと、その軸方向下側に第1突出部14b、第2突出部14cとを有しており、スリーブ3の各突出部32,33を成型する。金属焼結粉体Pは、上記上側パンチ14によって圧縮成型され、スリーブ3の半完成品である第1成形体P1の寸法に成型される。このとき、第1成形体P1は、図6に示すように、圧縮率の差(本体部31:L/L1、第1突出部32:L/L2、第2突出部L/L3)によって、各部分ごとに密度に差が生まれる。具体的には、L1<L2<L3の関係により、本体部31(図3(e)参照)の密度が一番大きく、第1突出部32(図3(c)参照)、第2突出部33(図3(a)参照)の順番に密度が小さくなる。
【0076】
ステップS2(焼結工程)では、焼結を行う。具体的には、ステップS1において圧縮成型された金属焼結金属Pを図示しない焼成炉を用いて焼結し、第1成形体を成形する。また、第1突出部32および第2突出部33の内周面32a,33aについては、圧縮成型時に、例えば、軸方向に対してそれぞれ約6度(θ2),約5度(θ3)傾くように成型する。
【0077】
ステップS3では、面押加工によって内周面にテーパ部31bを形成する。具体的には、図7に示すように、圧縮成型された第1成形体P1の本体部31の内周面31aにおける上下端部に、面押加工によって、軸方向に対して約30度の角度θ1傾いたテーパ部31bを形成する。本実施形態においては、ステップS4の第1サイジング処理が終わった後も軸方向において約50μmの長さLtが残るようなテーパ部31bが形成されている。なお、上記テーパ部31bの形成は、焼結後に行うことによって、第1サイジング処理や第2サイジング処理での内径バリも防ぐことができる。また、テーパ部31bを形成することによって、バリが発生しても、そのバリをテーパ部31b内に留めることが可能となり、スラスト軸受に対してバリが当たることを防止できる。
【0078】
以上の工程によって、金属焼結粉体Pから面押加工された成形体が成形される。この面押加工を行う場合には、この工程で形成されたものを改めて第1成形体P1と呼ぶこととする。
【0079】
ステップS4(第1サイジング工程)では、整形処理であるサイジング処理を行う。具体的には、ステップS2において焼結された第1成形体P1に対して、第1サイジング金型15を用いて第1サイジング処理を行う。第1サイジング金型15は、図8に示すように、下側パンチ17と外型(第1金型)16とピン18と上側パンチ(第3金型)19とを有している。まず、図8に示すように、外型16と下側パンチ17とをセットし、第1成形体P1をセットする。そして、第1成形体P1の内周面に対して、内径が第1成形体P1の内周面の内径よりも約50μm大きいピン18をスラスト側から挿入する。これにより、第1成形体P1の内径d1を略完成寸法に仕上げている。また、ピン18をロータハブ側からではなくスラスト側から挿入することによって、スラスト側の肉(焼結金属)をロータハブ側に移動させて、ステップS1において発生する内周面31aの密度の差、すなわち、本体部31よりも第2突出部33側の密度が小さいという問題の改善を図っている。
【0080】
次に、軸方向上側から上側パンチ19を挿入する。上側パンチ19は、本体部19aと、軸方向下側に突出する第1突出部19b、第2突出部19cとを有している。そして、上側パンチ19と下側パンチ17とによって、上下方向から第1成形体P1を圧縮加工する。なお、第1サイジング金型15は、第1成形体P1を軸受部長さLaとスラスト基準面長さLbとを略完成寸法にまで仕上げるように設定されている。
【0081】
上記第1サイジング処理までの工程によって、第1成形体P1の内径d1と軸受部長さLaとスラスト基準面長さLbとが略完成寸法にまで仕上げられ、それ以外の部分が完成寸法にまで仕上げられた第2成形体P2が成型される。つまり、本実施形態においては、本体部31の内周面31a、溝加工基準面31e、スラスト基準面32bが、略完成寸法であり、その他の面は、すべてこの第1サイジング処理によって完成寸法に仕上げられている。
【0082】
ここで、第1サイジング処理について、図9を使用してさらに詳細に説明する。
第1突出部32の内周面32aと第2突出部33の内周面33aとは、ステップS3で説明したように、軸方向に対してそれぞれ約6度(θ2),約5度(θ3)傾くように形成されている。これに対して、第1成形体P1の内周面に挿入する上側パンチ19では、図9に示すように、挿入時に内周面32aに当接する第2突出部19cの外周面19fが軸方向に対して約4度(θ4)傾くように形成され、また、第1突出部19bの外周面19eは、軸方向に平行に(軸方向に対する傾きθ5は0度)形成されている。このように、第1成形体P1における各内周面に対して上側パンチ19の当接する面を傾けることによって、第1サイジングにおける第1成形体P1の圧縮量を軸方向に沿って変えることが可能となる。ここで、重要なことは、内周面を半径方向に圧縮することであり、圧縮の結果得られる最終的な角度ではない。
【0083】
具体的には、図9に示すように、第1成形体P1の本体部31に近い位置ほど、上側パンチ19を挿入した際、第1突出部32の内周面32aと第2突出部19cの外周面19fとの距離が短くなる。これにより、上側パンチ19におけるD部は、第1成形体P1のA部に対してしごき効果による強い圧縮力を与えることができ、A部の圧縮量を大きくすることが可能となる。この結果、第1成形体P1における第1突出部32の比較的空隙(気孔)量の大きな部分であるA部の表面を、密度の高い表層部36に成型することが可能となる。
【0084】
同様に、上側パンチ19におけるE部は、第1成形体P1のB部に対してしごき効果による強い圧縮力を与えることが可能となる。これにより、第1成形体P1における第2突出部33の比較的空隙(気孔)量の大きな部分であるB部の表面を、密度の高い表層部36に成型することが可能となる。
【0085】
ここで、図9のA部、B部が比較的空隙量が多く密度が低い理由について、図9を用いて説明する。すなわち、焼結金属体における密度は、
1)圧縮成形工程における圧縮率(圧縮率:L/L1、L/L2またはL/L3)
2)押圧される金型からの距離
3)金型の動作方向との関係
の3つの要素によって変化する。1)については、圧縮率が高い程、密度が高くなる。2)については、焼結金属体は多孔質であり変形しやすいので、押圧される金型表面に近い程、変形量が大きくなり、その結果、密度が高くなる。3)については、金型の動作方向と直交する方向には力が働かないので、密度は小さくなる。
【0086】
上記内容に基づいて、図9に示す点イ、点ロ、点ハ、A部における相対的な密度の関係を示すと、以下のとおりとなる。
点イは、1)圧縮率が高く、2)上側パンチ19との押圧面から近く、3)金型の動作方向に対向していることにより、4点の中では最も密度が大きい。
【0087】
点ロは、1)圧縮率が高く、2)上側パンチ19との押圧面から近いところに位置しているので、点イ近傍の金属粉に働く力が玉突き的に伝わり、4点の中では点イについで密度が大きい。
【0088】
点ハは、2)上側パンチ19との押圧面から近く、3)金型の動作方向に対向しているが、1)圧縮率が低いので密度は中となる。
A部は、1)点イに比べて圧縮率が低く、2)点ハに比べて上側パンチ19との押圧面から遠く、3)内周面が金型の動作方向と直交方向のため圧縮力が働きにくい、等の理由により、4点の中では最も密度が小さい。
また、B部についても、上記と同様の理由によって、相対的に空隙量が多く、密度が小さくなる。
【0089】
なお、図8に示すように、第1サイジング処理に用いられる外型16の内径寸法d12は、第1成形体P1の外径d2よりも大きく設定されている。具体的には、外型16の内径寸法d12は、以下の関係式1で表すことができる。
【0090】
外型16の内径寸法d12=(第1成形体P1の外径d2+第1成形体P1の同軸度)−第1サイジング処理における隙間G1・・・(関係式1)
【0091】
これにより、第1成形体P1の外周面31cと外型16の内周面16aとの間に「あそび」となる隙間G1を形成することができる。よって、第1成形体P1の外径同軸度の影響によるピン18の変形を軽減することが可能となる。
【0092】
ステップS5(転造工程)では、溝転造を行う。ステップS4において成型された第2成形体P2に対して、溝転造装置20を用いた溝転造加工を行う。具体的には、第2成形体P2を、図10に示すように、溝加工基準面31eを基準面として溝転造装置20の取付け台21にセットする。そして、第2成形体P2が、加工中に位置ズレを起こさないように、図中矢印方向にクランプ22を下降させて固定する。次に、シャンク23aの外周面に複数個のボール23bを一体的に配置した転造工具23を第2成形体P2の内周面に圧入し、シャンク23aに上下方向の送りを与えながら、正方向回転および逆方向回転を与える。これにより、第2成形体P2の内周面31aに、動圧発生溝3a,3b(図1参照)が形成された第3成形体P3が成形される。
【0093】
ステップS6(第2サイジング工程)では、第2サイジング処理、いわゆる型内仕上げを行う。第2サイジング金型25は、図11に示すように、下側パンチ27と外型(第2金型)26とピン28と上側パンチ29とを有している。まず、図11に示すように、外型26と下側パンチ27とをセットし、第3成形体P3をセットする。そして、第3成形体P3の内周面31aにピン28を挿入し、内径d3を完成寸法に仕上げる。次に、第3成形体P3を下側パンチ17と上側パンチ19とによって押圧し、軸受部長さLaとスラスト基準面長さLbとを完成寸法に仕上げる。なお、第3成形体P3の内周面31aは、ステップS2において、内周面31aの両端面の内径が大きくなるように軸方向に傾いたテーパ部31bが形成されている。これにより、第2サイジング処理において軸方向に沿って両方向から押圧(下側パンチ17と上側パンチ19による押圧)しても、テーパ長さLt分の隙間の逃げができるので、溝潰れの発生に対する余裕が増えてくる。この結果、第2サイジング処理において求められる溝深さの管理負担を小さくすることができる。
【0094】
ここで、第2サイジング金型25の特徴について説明する。
第2サイジング処理に用いられる外型26の内径寸法d14は、図11に示すように、第3成形体P3の外径d4よりも大きく設定されている。具体的には、外型26の内径寸法d14は、以下の関係式2で表すことができる。
【0095】
外型26の内径寸法d14=(第3成形体P3の外径d4+第3成形体P3の同軸度)−第2サイジング処理における隙間G2・・・(関係式2)
【0096】
これにより、第3成形体P3の外周面31cと外型26の内周面26aとの間に「あそび」となる隙間G2を形成することができる。よって、第3成形体P3の外径同軸度の影響によるピン28の変形を軽減することが可能となる。
【0097】
そして、図11に示すように、第3成形体P3の上側端部から上側パンチ29を挿入して、上側パンチ29と下側パンチ27とによって第3成形体P3を上下から圧縮する。
上記第2サイジング処理によって、スリーブ3の内径d3と軸受部長さLaとスラスト基準面長さLbとが、完成寸法にまで仕上げられて第4成形体P4が成型される。なお、ステップS6においては、ステップS4とは異なり、上側パンチを挿入した際に、軸受部長さLaとスラスト基準面長さLb以外の部分が圧縮加工されることがないように金型寸法が設定されている。具体的には、上側パンチ29は、上側パンチ29を挿入した際に、第3成形体P3における内周面32aと上側パンチ29における外周面29fとの間、そして、第3成形体P3における内周面33aと上側パンチ29における外周面29eとの間に隙間が空くように形成されている。これにより、上側パンチ29を挿入されても、第3成形体P3における内周面32a,33aが圧縮されることはなく、スラスト基準面31e,32bのみが圧縮される。
この結果、内径d3、軸受部長さLaおよびスラスト基準面長さLbのみを圧縮加工することが可能となる。
【0098】
また、ステップS4〜ステップS6の工程においては、図12に示すように、本体部31における圧縮量AM1と第1突出部32における圧縮量AM2と第2突出部33における圧縮量AM3との関係が、圧縮量AM1<圧縮量AM2<圧縮量AM3となるように圧縮量を設定する。これにより、ステップS2において、本体部31(図3(e)参照)、第1突出部32(図3(c)参照)、第2突出部33(図3(a)参照)の順番に密度が小さくなる関係であった第1成形体P1が、図3(b)、図3(d)、図3(f)に示すように、本体部31(図3(f)参照)、第1突出部32(図3(d)参照)、第2突出部33(図3(b)参照)の密度(少なくとも表面密度)がほぼ等しくなるように成型される。ただし、内層部35においては、密度について、本体部31>第1突出部32>第2突出部33の関係が残る。また、このような工程によって、スリーブ3の表層部36の密度は、内層部35の密度よりも高く形成されることになる。
【0099】
以上、上記ステップS1〜ステップS6の工程によってスリーブ3を成型することにより、表面空隙(表面気孔)を少なくし、かつ、動圧発生溝の寸法精度を悪化させることなく成形することができる。
【0100】
[実施例1]
本実施例では、図13を用いて、第2サイジング処理での加工量とその加工後における残存溝深さの関係を明らかにする。
【0101】
ここでは、完成品(ただし、高温水蒸気処理前)である第4成形体P4の溝深さを計測し、第1サイジング処理された第2成形体P2の内径の加工前後での寸法差(すなわち、第2サイジング処理における内径の加工量)と動圧発生溝3a,3bの残存溝深さとの関係を求めた。具体的には、動圧発生溝3a,3bの溝深さが5μmに成形された第3成形体P3に対して第2サイジング処理を行い、第2サイジング処理における内径加工量の大きさによって、第4成形体P4に残存する溝深さがどのように変化するか計測を行った。
この結果、図13に示すように、第2サイジング処理における内径加工量が大きい程、第4成形体P4に残存する溝深さが小さくなってしまうことが確認できた。
【0102】
本発明のスリーブの製造方法では、第1サイジング処理によって、動圧発生溝が転造される前の第1成形体P1の内径d1を略完成寸法にまで仕上げ、上記第2サイジング処理によって、動圧発生溝が転造された後の第3成形体P3の内径d3を完成寸法にまで仕上げるようにしている。つまり、溝転造加工後に一気に完成寸法に仕上げるのではなく、サイジング処理を複数回に分けることによって、それぞれの加工量を小さく抑えている。
【0103】
これにより、本実施例の製造方法では、第2サイジング処理における内径加工量を小さくできる。
例えば、当該スリーブ3を流体軸受装置100として組み立てた時に、十分な動圧が発生するための溝深さはおよそ1.5μm以上である(図13中の動圧発生限界)。よって、第2サイジング処理における内径加工量を10μm以下、好適には8μmにすることで、確実に十分な動圧が発生するための溝深さが確保できることが確認できる。よって、図13に示す内径加工量を小さくできるので、十分な動圧を発生させることができる動圧発生溝の適切な深さを確保する上で有効であることが確認できた。
【0104】
[実施例2]
本実施例では、図14を用いて、第2サイジング処理での加工量とその加工後における残存溝深さの関係を明らかにする。
【0105】
ここでは、完成品(ただし、高温水蒸気処理前)である第4成形体P4の溝深さを計測し、第1サイジング処理された第2成形体P2の軸受部長さの差(第2サイジング処理における軸受部長さの加工量)と動圧発生溝3a・3bの残存溝深さとの関係を求めた。なお、残存溝深さの計測にあたっては、上下パンチに近い位置の溝が変形しやすいので、その位置に形成される溝を計測した。具体的には、動圧発生溝3a,3bの溝深さが5μmに成形された第2成形体P2に対して第2サイジング処理を行い、第2サイジング処理における軸受部長さ加工量の大きさによって第4成形体P4に残存する溝加工深さがどのように変化するか計測を行った。
【0106】
この結果、図14に示すように、第2サイジング処理における軸受部長さ加工量が大きい程、第4成形体P4に残存する溝深さが小さくなってしまうことが確認できた。
上記スリーブの製造方法では、第1サイジング処理によって、動圧発生溝が転造される前の第1成形体P1の軸受部長さLaを略完成寸法にまで仕上げ、上記第2サイジング処理によって、動圧発生溝が転造された後の第3成形体P3の軸受部長さLaを完成寸法にまで仕上げるようにしている。つまり、溝転造加工後に一気に完成寸法に仕上げるのではなく、サイジング処理を複数回に分けることによって、それぞれの加工量を小さく抑えている。
【0107】
これにより、本実施例の製造方法では、第2サイジング処理における軸受部長さ加工量を小さくできる。
例えば、当該スリーブ3を流体軸受装置100として組み立てた時に、十分な動圧を発生させるための溝深さは、およそ1.5μm以上である(図14中の動圧発生限界)。これにより、上記実施形態のように50μmのテーパ部31bを設けた場合においては、第2サイジング処理における軸受部長さ加工量を50μm以下、好適には40μmにすることで、確実に十分な動圧を発生させるための溝深さが確保できることが確認できる。よって、動圧発生溝の適切な深さを確保する上で有効であることが確認できた。
【0108】
さらに、第2サイジング処理を実行する前の第3成形体P3の内径面に50μmのテーパ部31bを設けた場合と設けない場合について、上記と同様の計測を行った。
この結果、図14に示すように、テーパ部31bを設けた場合には、テーパ部31bを設けない場合に比べて軸受部長さ加工量が大きい場合であっても、十分な動圧が発生できることが確認できた(図14から読み取れるように、テーパ部31bを設けない場合は、第2サイジング処理における軸受部長さ加工量を20μm以下、好適には15μmにすることが必要)。
【0109】
これにより、本実施形態のように、ステップS4の第1サイジング処理が終わった後も軸方向において50μm程度の長さが残るようなテーパ部31bをステップS3で形成することは、ステップS6の第2サイジング処理において求められる溝深さの管理負担を小さくする上で有効であることが確認できた。
【0110】
[実施例3]
本実施例では、図15を用いて、金型による拘束箇所の違いが、スラスト基準面の直角度に与える影響を明らかにする。
【0111】
ここでは、完成品(ただし、高温水蒸気処理前)である第4成形体P4のスラスト基準面の直角度を計測し、第1サイジング処理された第2成形体P2のスラスト基準面長さの差(第2サイジング処理におけるスラスト基準面の加工量)とスラスト基準面における直角度精度との関係を求めた。ここで、スラスト基準面とは、スラスト板4の軸方向位置を決めている第1突出部32の面32bである。具体的には、以下の条件1と条件2とにおいて第2サイジング処理した各12個のサンプルについて、スラスト基準面32bの直角度の大きさと方向とについて計測を行った。
【0112】
条件1:第2サイジング処理の加工量を内径について2μm、軸受部長さについて10μm、スラスト基準面について50μmに設定、その他は未拘束
条件2:内径、軸受部長さ、スラスト基準面の加工条件は条件1と同じで、それ以外の面は全てを拘束
この結果を図15に示す。図15は、スラスト基準面がどの方向にどれだけ傾いているのかを2次元グラフで表したものである。
【0113】
ここで、図15の見方をG点◆を用いて説明する。
プロット点◆は、ある1つのサンプル1つの直角度を表しており、軸方向に垂直な理想的なスラスト基準面からの面の傾きの最大値を示している。具体的には、中央(0,0)からの距離が直角度を表している。例えば、X方向に+2μm、Y方向に−3μmの位置にプロットされているG点は、中央(0,0)から見てG点の方向に面の傾きの最大値があることを示している。そして、その高さhは、h=√(32+22)=3.6により、3.6(μm)となる。
【0114】
これに基に図15を見れば、条件1(凡例:■)のサンプルの方が、条件2(凡例:◆)のサンプルに比べて、狭い範囲に分散していることが確認できる。すなわち、条件1の下、第2サイジング処理されたサンプルの方が、条件2の下で第2サイジング処理されたサンプルに比べて、直角度精度が高いことが確認できる。
【0115】
これにより、第2サイジング処理においては拘束箇所を限定する方が、肉の逃げ場を確保することができ、金型の変形を小さくできるので、直角度精度が良いことを改善できることを確認することができた。
【0116】
[スリーブ3の製造方法の特徴]
以下で、本実施形態に係るスリーブ3の製造方法の特徴部分について説明する。
(1)
本実施形態のスリーブ3の製造方法は、動圧発生溝3a,3bを形成するステップS5の前後で複数のサイジング処理(ステップS4とステップS6)を配置している。
【0117】
これにより、動圧発生溝3a,3bを形成するステップS5の前後で、サイジング処理をする部位を変えたり、圧縮加工量を変えたりすることが可能となる。本実施形態においては、ステップS4において、動圧発生溝3a,3bが形成される部分を略完成寸法に仕上げ、ステップS6において、完成寸法に仕上げている。ここで言う完成寸法とは、図4、図23におけるステップS6、ステップS15の工程で形成される第4成形体P4の寸法である。また、略完成寸法とは、図13,図14におけるような動圧発生溝を加工後に変形させないような加工代量を残した寸法である。すなわち、ステップS4において、表面空隙(表面気孔)を少なくし、ステップS6において、動圧発生溝3a,3bの溝深さが十分に確保できる範囲内で寸法調整を行っている。この結果、スリーブ3を製造するにあたって、表面空隙(表面気孔)が少なく寸法精度を容易に高めることが可能となる。
【0118】
(2)
本実施形態のスリーブ3の製造方法では、動圧発生溝3a,3bが形成された後の工程であるステップS6において、第3成形体P3の内径d3、軸受部長さLaおよびスラスト基準面長さLbのみを完成寸法に仕上げている。
【0119】
これにより、動圧発生溝3a,3bの形成された第3成形体P3の内径d3および軸受部長さLaに対して、動圧発生溝3a,3bの溝深さが十分確保できる範囲内で圧縮加工を行うことができる。また、ステップS6の第2サイジング処理において、肉の逃げ場を確保することができるので、金型変形が小さくなり、直角度や段差寸法の精度を確保することが可能となる。
【0120】
(3)
本実施形態のスリーブ3の製造方法では、図8に示すように、第1サイジング処理に用いられる外型16の内径寸法d12は、第1成形体P1の外径d2よりも大きく設定されている。
【0121】
これにより、第1成形体P1の外周面31cと外型16の内周面16aとの間に「あそび」となる隙間G1を形成し、第1成形体P1の外径同軸度の影響によるピン18の変形を軽減することを可能としている。
【0122】
(4)
本実施形態のスリーブ3の製造方法では、図11に示すように、第2サイジング処理に用いられる外型26の内径寸法d14は、第3成形体P3の外径d4よりも大きく設定されている。
【0123】
これにより、第3成形体P3の外周面31cと外型26の内周面26aとの間に「あそび」となる隙間G2を形成し、第3成形体P3の外径同軸度の影響によるピン28の変形を軽減することを可能としている。
【0124】
(5)
本実施形態のスリーブ3の製造方法では、第1突出部32の内周面32aと第2突出部33の内周面33aとは、図7に示すように、軸方向に対してそれぞれ約6度、約5度傾くように成形されている。これに対して、上側パンチ19は、図9に示すように、内周面32aに当接する第2突出部19cの外周面19fは、軸方向に対して約4度(θ4)傾くように形成されている。また、内周面33aに当接する第1突出部19bの外周面19eは、軸方向に沿って(軸方向に対する傾きθ5は0度)形成されている。
【0125】
ここで、第1成形体P1の第1突出部32においては、第1成形体P1の形状や第1サイジング金型15の形状の関係から、本体部31に近い位置A部ほど比較的空隙(気孔)量が多くなってしまう。
【0126】
これにより、上側パンチ19におけるD部は、第1成形体P1のA部に対してしごき効果による強い圧縮力を与えることができる。よって、第1突出部32の比較的空隙(気孔)量の大きな部分A部を密度の高い表層部36に成型することが可能となる。この結果、軸方向に沿って空隙(気孔)量、すなわち、密度が変化する内層部35の表面に密度の高い表層部36を成型することが可能となる。
【0127】
(6)
本実施形態のスリーブ3の製造方法では、ステップS4における第1サイジング処理におけるピン18をスラスト側から挿入している。
【0128】
ここで、上記方法が、第2成形体P2において本体部31よりも第2突出部33側の密度が小さいという問題の改善を図ることに対して有効かどうか確認を行った。具体的には、ピン18をスラスト側から挿入した場合とロータハブ側から挿入した場合のそれぞれの内周面31aについて、BT係数(部材の密度に関する係数として使用)による評価を行った。
【0129】
ここで、BT係数およびその測定方法を、図16を用いて説明する。
BT係数による評価を行うための測定は、図16に模式的に示した測定装置40を用いて行う。測定装置40は、スリーブ3の内径よりも1〜4μm程度大きく、ボールサイズ差が互いに1μm異なる2つのボール41,42を、荷重センサ43に連結されたロッド44をスリーブ3の載置台45と相対的に移動させることによりスリーブ3の内径を通過させ、そのときの座標ごとの動荷重を連続的にプロットする装置である。
【0130】
本実施形態においては、ロータハブ側からピン18が挿入されたスリーブと、スラスト側からピン18が挿入されたスリーブとについて、スリーブ3の内径D1よりも径dbが1μm大きなボール41と、スリーブ3の内径D1よりも径dsが2μm大きなボール41を通過させて、そのときの座標ごとの動荷重を連続的にプロットした。
【0131】
この結果を図17に示す。なお、図17のグラフの横軸は、スリーブ3の横方向の座標を示し、縦軸は、上記2つのボール41,42を通過させたときの荷重差(Ds荷重−Db荷重)を表している。そして、BT係数とは、1μmあたりの荷重差を示す数値であり、値が大きい程、硬度が高いことを示している。
【0132】
これによれば、ロータハブ側からピン18が挿入されたスリーブよりもスラスト側からピン18を挿入した方が、BT係数の変化がより一定であることが確認できた。すなわち、スラスト側からピン18が挿入されたスリーブは、軸方向に沿って密度があまり変化していないことが、図17のグラフより確認することができる。これにより、スラスト側からピン18を挿入することが、本体部31よりも第2突出部33側の密度が小さいという状態を改善し、軸方向に沿って密度を均一化することに有効であることを確認することができた。
【0133】
(7)
本実施形態のスリーブ3の製造方法では、ステップS4において、ピン18を第1成形体P1の内径に挿入した後で、上側パンチ19と下側パンチ17とによって圧縮している。
【0134】
これにより、先端がテーパ状に形成されたピン18を挿入することによって第1成形体P1が自動調芯されるようになる。この結果、自動調芯された量だけピン18の変形が少なくなり、スラスト基準面32bの直角度が改善する。
【0135】
具体的な例を図18〜図21を用いて説明する。
ピン18は、一般的に細くて長いので、第1サイジング金型15構成する部品の中で一番変形しやすい。このため、図18に示すように、ピン18を第1成形体P1の内径に挿入する前に上側パンチ19と下側パンチ17とをセットすると、第1成形体P1は、軸直角度方向(半径方向)に移動ができなくなる場合がある。例えば、偶然、図18に示すような第1成形体P1に対して上側パンチ19が偏心してセットされた状態の第1成形体P1の内径にピン18を挿入すると、ピン18は、図19に示すように矢印方向に変形しながら挿入されていく。この結果、内径基準でスラスト基準面32bをみると、直角度精度が悪くなってしまう。また、第1成形体P1に上側パンチ19をセットした時の偏心量は、セットする度に変わることから、直角度のばらつき幅が増えてしまう。
【0136】
そこで、図20に示すように、上側パンチ19と下側パンチ17とによる拘束がない状態で、最初に第1成形体P1の内径にピン18を挿入する。
これにより、第1成形体P1は半径方向に自由に動くことができるので、図21に示すように、ピン18の先端で第1成形体P1が自動調芯されるようになる。この結果、自動調芯された量だけピン18の変形が少なくなるので、スラスト基準面32bの直角度が改善する。
【0137】
[スリーブ3の特徴]
(1)
本実施形態のスリーブ3は、図2、図3に示すように、軸方向において本体部31側に向かって密度が小さくなるように変化している内層部35と、内層部35に比べて密度が高く、軸方向におけるどの位置でも密度が一定である表層部36とを備えている。
【0138】
これにより、スリーブ3の表面に対して酸化鉄皮膜(四酸化三鉄や三酸化二鉄等)の層による表面処理加工を効果的にすることができ、潤滑流体6の漏れを防止することが可能となる。
【0139】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0140】
(A)
上記実施形態のスリーブ3の製造方法では、図5、図8、図11に示す形状の金型10,15,25を使用する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0141】
本発明のスリーブ3の製造方法は、各工程における金型の形状を限定するものではなく、所定の部位を圧縮成型あるいはサイジング処理できる形状であればよい。
【0142】
(B)
上記実施形態のスリーブ3の製造方法では、第1突出部32と、第2突出部33とを有しているスリーブ3に本発明のスリーブの製造方法を適用した例について説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0143】
例えば、図25に示すような、突出部のないスリーブ300を製造する場合にも適用することが可能である。すなわち、図24においてハッチングが施された面F1(ラジアル軸受部が形成される内周面),F2(スラスト基準面)について、ステップS4において略完成寸法に仕上げ、ステップS6において完成寸法に仕上げてもよい。また、面F1,F2以外の面は、ステップS4において完成寸法に成型してもよいし、ステップS4よりも前の工程において完成寸法に成型してもよい。なお、ステップS4,S6において使用される第1サイジング金型315,第2サイジング金型325の詳細については、ここではその説明を省略する。
【0144】
そして、上記方法で製造されたスリーブ300は、図25に示すように、その一方の端面(スラスト基準面)がスラスト板304に取り付けられ、フランジレスシャフト301と共に流体軸受装置320を構成することができる。
【0145】
また、本発明のスリーブの製造方法では、図27に示すような、突出部400aを1つ有するスリーブ400を製造する場合にも適用することが可能である。この場合は、スリーブ400を流体軸受装置として組み立てた時の構成によって、ステップS4において略完成寸法に仕上げ、ステップS6において完成寸法に仕上げる部位が異なる。具体的には、図27に示すような流体軸受装置420を構成するスリーブ400として使用される場合と、図28に示すような流体軸受装置520を構成するスリーブ400として使用される場合とで異なる。以下、それぞれの場合について説明する。
【0146】
流体軸受装置420として使用されるスリーブ400(図27参照)は、スラスト板404が面F5を基準として取り付けられる構造なので、面F4と面F5とは共に精度よく仕上げる必要がある。そこで、図26においてハッチングが施された面F3(ラジアル軸受部が形成される内周面),F4(スラスト基準面),F5(スラスト基準面)について、ステップS4において略完成寸法に仕上げ、ステップS6において完成寸法に仕上げる。なお、ステップS4,S6において使用される第1サイジング金型415,第2サイジング金型425の詳細については、ここではその説明を省略する。
【0147】
一方、流体軸受装置520として使用されるスリーブ400(図28参照)は、スラスト板504が、面F4を基準として取り付けられる構造なので、面F4を精度よく仕上げる必要がある。そこで、図26においてハッチングが施された面F3(ラジアル軸受部が形成される内周面),F4(スラスト基準面)について、ステップS4において略完成寸法に仕上げ、ステップS6において完成寸法に仕上げる。つまり、面F5については、ステップS4において略完成寸法に仕上げ、ステップS6において完成寸法に仕上げなくてもよく、例えば、ステップS4において完成寸法に仕上げてもよい。これは、面F5となる端面は、流体軸受装置520として組み立てられた際に、スラスト板504に取り付けられることはなく、直角度精度を要求されることはないという理由による。
【0148】
(C)
上記実施形態のスリーブ3の製造方法では、図29においてハッチングが施された面F6(ラジアル軸受部が形成される内周面),F7(スラスト基準面),F8(スラスト基準面)について、ステップS4において略完成寸法に仕上げ、ステップS6において完成寸法に仕上げる例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0149】
例えば、スリーブ3が、第2突出部33における端面F9にスラスト板(図示せず)が取り付けられるような構成の流体軸受装置(図示せず)である場合には、端面F9について、直角度精度を高めることが望ましい。すなわち、端面F9についても、ステップS4において略完成寸法に仕上げ、ステップS6において完成寸法に仕上げることが望ましい。
【0150】
(D)
上記実施形態のスリーブ3の製造方法では、鉄粉の金属焼結粉体Pを成型して焼結する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0151】
例えば、圧粉成型に用いる金属粉末については、真鍮など銅系のものでもよい。しかし、モータの回転軸との熱線膨張係数差を小さくするためには、鉄成分を全体の80重量%以上を占める成分からなる鉄系の混合粉が好ましい。
【0152】
(E)
上記実施形態のスリーブ3の製造方法では、図12に示すように、本体部31の圧縮量AM1、第1突出部32の圧縮量AM2、第2突出部33の圧縮量AM3の関係が、AM1<AM2<AM3となるように設定した例を挙げて説明した。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。
【0153】
例えば、図22に示すように、軸方向への圧縮量ではなく軸方向と直交する方向への圧縮量AM4,AM5を設定してもよい。具体的には、第1突出部32における圧縮量AM4と第2突出部における圧縮量AM5との関係が、AM4<AM5となるように設定してもよい。この場合であっても、上記実施形態のスリーブ3の製造方法と同様に、圧縮率が小さい部位ほど圧縮量を大きくして、表面密度を高めることができるという効果を得ることができる。
【0154】
(F)
上記実施形態のスリーブ3の製造方法では、図4に示すように、圧縮成型(ステップS1)・焼結工程(ステップS2)の後に、面押加工(ステップS3)を有している例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0155】
例えば、図23に示すように、ステップS11〜ステップS15を備え、面押加工が含まれないスリーブ3の製造方法であっても、表面空隙(表面気孔)が少なく寸法精度を容易に高めるこという効果を得ることができる。
【0156】
(G)
上記実施形態の流体軸受装置100においては、スリーブ3が、四酸化三鉄(Fe34)や三酸化二鉄(Fe23)皮膜で表面加工処理されている例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0157】
例えば、スリーブ3の表面には、必要に応じてニッケルを含む成分のメッキまたはDLCの硬質皮膜を形成してもよい。
【0158】
(H)
上記実施形態のスリーブ3の製造方法では、溝転造加工S5の次に、第2サイジング処理S6を行う方法を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0159】
例えば、ステップS5とステップS6との間に、第3成形体の動圧発生溝が形成される内径に、それよりも径が数μm大きい鋼球を通して整形するボールバニッシュ工程を入れてもよい。
【0160】
(I)
上記実施形態の流体軸受装置100においては、シャフト1が回転するタイプの流体軸受装置に、本発明のスリーブの製造方法によって製造されたスリーブ3を適用した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0161】
例えば、シャフトの両端が固定され、スリーブがシャフトを中心に回転するタイプの流体軸受装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】本発明の一実施形態に係る焼結スリーブを含む流体軸受装置の断面図。
【図2】図1の流体軸受装置に含まれている焼結スリーブの拡大断面図。
【図3】図2の焼結スリーブの内部組織構造を示した図。
【図4】本発明の一実施形態における焼結スリーブの製造方法を示すフローチャート。
【図5】本発明の一実施形態における焼結スリーブの製造方法の第1ステップを説明する説明図。
【図6】本発明の一実施形態における焼結スリーブの製造方法の第2ステップを説明する説明図。
【図7】本発明の一実施形態における焼結スリーブの製造方法の第3ステップを説明する説明図。
【図8】本発明の一実施形態における焼結スリーブの製造方法の第4ステップを説明する説明図。
【図9】本発明の一実施形態における焼結スリーブの製造方法の第4ステップを説明する説明図。
【図10】本発明の一実施形態における焼結スリーブの製造方法の第5ステップを説明する説明図。
【図11】本発明の一実施形態における焼結スリーブの製造方法の第6ステップを説明する説明図。
【図12】本発明の他の実施形態における第1サイジング処理および第2サイジング処理における圧縮量の合計を説明する説明図。
【図13】第2サイジング処理における内径加工量と残存溝深さとの関係を示したグラフ。
【図14】第2サイジング処理における軸受部長さ加工量と残存溝深さとの関係を示したグラフ。
【図15】第2サイジング処理におけるスラスト基準面の加工量とスラスト基準面における直角度精度との関係を示したグラフ。
【図16】BT係数の評価を行うための測定装置を示した模式図。
【図17】ピンの挿入方向とBT係数の関係を示したグラフ。
【図18】本実施形態の第1サイジング処理の特徴を説明する説明図。
【図19】本実施形態の第1サイジング処理の特徴を説明する説明図。
【図20】本実施形態の第1サイジング処理の特徴を説明する説明図。
【図21】本実施形態の第1サイジング処理の特徴を説明する説明図。
【図22】本発明の他の実施形態における第1サイジング処理および第2サイジング処理における圧縮量の合計を説明する説明図。
【図23】本発明の他の実施形態における焼結スリーブの製造方法を示すフローチャート。
【図24】本発明の他の実施形態における焼結スリーブの製造方法を説明する説明図。
【図25】本発明の他の実施形態における流体軸受装置の断面図。
【図26】本発明の他の実施形態における焼結スリーブの製造方法を説明する説明図。
【図27】本発明の他の実施形態における流体軸受装置の断面図。
【図28】本発明の他の実施形態における流体軸受装置の断面図。
【図29】本発明の他の実施形態における焼結スリーブの製造方法を説明する説明図。
【符号の説明】
【0163】
1 シャフト
2 フランジ
2a,2b 動圧発生溝
3 スリーブ
3a,3b 動圧発生溝
3c 軸受孔
3d 凹部
4 スラスト板
5 ベース
6 潤滑流体
7 ロータハブ
8 ディスク
9a ロータ磁石
9b ステータ
10 圧縮成型金型
11 下側パンチ
12 外型
13 ピン
14 上側パンチ
14a 本体部
14b 第1突出部
14c 第2突出部
15 第1サイジング金型
16 外型(第1金型)
16a 内周面
17 下側パンチ
18 ピン
19 上側パンチ(第3金型)
19a 本体部
19b 第1突出部
19c 第2突出部
19e 第1突出部の外周面
19f 第2突出部の外周面
20 溝転造装置
21 取付け台
22 クランプ
23 転造工具
23a シャンク
23b ボール
25 第2サイジング金型
26 外型(第2金型)
26a 内周面
27 下側パンチ
28 ピン
29 上側パンチ
29e 第1突出部の外周面
29f 第2突出部の外周面
31 本体部
31a 内周面
31b テーパ部
31c 外周面
31e 溝加工基準面(スラスト基準面)
32 第1突出部(突出部)
32a 内周面
32b スラスト基準面
33 第2突出部(突出部)
33a 内周面
35 内層部
36 表層部
40 測定装置
41,42 ボール
43 荷重センサ
44 ロッド
45 載置台
100 流体軸受装置
101 スピンドルモータ
300,400 スリーブ
301 フランジレスシャフト
304,404,504 スラスト板
315,415 第1サイジング金型
320,420,520 流体軸受装置
325,425 第2サイジング金型
400a 突出部
S スペース
G1,G2 隙間
P 金属粉体
P1 第1成形体
P2 第2成形体
P3 第3成形体
P4 第4成形体
d1 内径(第1成形体の内径)
d2 外径(第1成形体の外径)
d3 内径(第3成形体の内径)
d4 外径(第3成形体の外径)
d12 内径(第1金型の内径)
d14 内径(第2金型の内径)
La 軸受部長さ
Lb スラスト基準面長さ
AM1〜AM5 圧縮量


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体軸受装置に用いられる焼結スリーブの製造方法であって、
金属粉体の成形体を成型して焼結し、第1成形体を成型する成型焼結工程と、
前記第1成形体を圧縮加工し、第2成形体を成型する第1サイジング工程と、
前記第2成形体を転造加工し、動圧発生溝が形成された第3成形体を成形する転造工程と、
前記第3成形体を圧縮加工し、第4成形体を成型する第2サイジング工程と、
を備えている、焼結スリーブの製造方法。
【請求項2】
前記第1サイジング工程では、前記第1成形体を略完成寸法に仕上げ、
前記第2サイジング工程では、前記第3成形体を完成寸法に仕上げる、
請求項1に記載の焼結スリーブの製造方法。
【請求項3】
前記第2サイジング工程は、前記第3成形体の内径および軸受部長さを完成寸法に仕上げる、
請求項1または2に記載の焼結スリーブの製造方法。
【請求項4】
前記第1サイジング工程は、前記第1成形体の内径および軸受部長さ以外の部分を完成寸法に仕上げる、
請求項1から3のいずれか1項に記載の焼結スリーブの製造方法。
【請求項5】
前記第2サイジング工程では、スラスト基準面を完成寸法に仕上げる、
請求項1から4のいずれか1項に記載の焼結スリーブの製造方法。
【請求項6】
前記第1サイジング工程において成型される前記第2成形体の内径と前記第2サイジング工程において成型される前記第4成形体の内径との差を10μm以下とする、
請求項1から5のいずれか1項に記載の焼結スリーブの製造方法。
【請求項7】
前記第1サイジング工程において成型される前記第2成形体の軸受部長さと前記第2サイジング工程において成型される前記第4成形体の軸受部長さとの差を20μm以下とする、
請求項1から6のいずれか1項に記載の焼結スリーブの製造方法。
【請求項8】
前記第1サイジング工程において成型される前記第2成形体のスラスト基準面長さと前記第2サイジング工程において成型される前記第4成形体のスラスト基準面長さとの差を50μm以下とする、
請求項1から7のいずれか1項に記載の焼結スリーブの製造方法。
【請求項9】
前記第1サイジング工程および前記第2サイジング工程の各部位における圧縮量は、前記成型焼結工程における各部位の圧縮率に反比例するように設定する、
請求項1から8のいずれか1項に記載の焼結スリーブの製造方法。
【請求項10】
前記第1サイジング工程において使用される前記第1成形体を内挿する第1金型の内径寸法は、前記第1成形体の外径よりも大きい、
請求項1から9のいずれか1項に記載の焼結スリーブの製造方法。
【請求項11】
前記第2サイジング工程において使用される前記第3成形体を内挿する第2金型の内径寸法は、前記第3成形体の外径よりも大きい、
請求項1から10のいずれか1項に記載の焼結スリーブの製造方法。
【請求項12】
前記第1サイジング工程において前記第1成形体の突出部の内周面に挿入される第3金型の軸方向に対する外周面の角度は、前記第1成形体の内周面における軸方向に対する角度よりも小さい、
請求項1から11のいずれか1項に記載の焼結スリーブの製造方法。
【請求項13】
前記成型焼結工程では、前記第1成形体の内周面が軸方向に傾いたテーパ部を含むように成形する、
請求項1から12のいずれか1項に記載の焼結スリーブの製造方法。
【請求項14】
前記テーパ部は、前記第1サイジング工程後に前記軸方向における長さが50μm以上残るように形成されている、
請求項13に記載の焼結スリーブの製造方法。
【請求項15】
軸方向に沿って密度が変化する内層部と、
前記内層部に比べて密度が高く、前記内層部の表面を覆う表層部と、
を備えている、焼結スリーブ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2010−53970(P2010−53970A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220273(P2008−220273)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】