説明

焼結体形成用の粘土状組成物、焼結体形成用の粘土状組成物用粉末、焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法、金焼結体及び金焼結体の製造方法

【課題】大気雰囲気下でも容易に変色せず、焼結性の良い焼結体形成用の粘土状組成物(金粘土)、焼結体形成用の粘土状組成物用粉末、焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法、金焼結体及び金焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】金を含む金含有金属粉末と、銅を含む銅含有酸化物粉末と含有する粉末成分と、バインダーと、水とを含むことを特徴とする。また、前記粉末成分が、銀を含む銀含有金属粉末を含有することが好ましい。さらに、油脂および界面活性剤のうち少なくとも一方を含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体形成用の粘土状組成物、焼結体形成用の粘土状組成物用粉末、焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法、及び、焼結体形成用の粘土状組成物から得られる金焼結体、この金焼結体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、指輪等に代表される金製の宝飾品や美術工芸品等は、一般に、金含有材料を鋳造又は鍛造することによって製造されている。近年では、金粉末を含んだ金粘土(焼結体形成用の粘土状組成物)が市販されており、この金粘土を任意の形状に成形した後に焼成することにより、任意の形状を有する金の宝飾品や美術工芸品を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0003】
前述の金粘土は、通常の粘土細工と同様に自由に造形を行うことができ、造形して得られた造形体を乾燥させた後、加熱炉を用いて焼成することにより、極めて簡単に金製の宝飾品や美術工芸品等を製造することが可能となる。
ところで、特許文献1、2に記載された金粘土は、一般に、純金の粉末に、さらに、バインダーや水、必要に応じて界面活性剤等を加えて混練することによって得られるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−70602号公報
【特許文献2】特開2000−26903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金製品においては、金の含有量により22K、18K、14Kといった各品位に区分けされる。また、金製品においては、銀や銅を添加することにより、その色調が変化することが知られている。
そこで、例えば、特許文献2には、金粉末とともにCu粉末を混合した金粘土が提供されている。
【0006】
しかしながら、Cu粉末を混合した金粘土においては、金粘土中に含まれるCuが変質し易いことから金粘土の色調が劣化しやすいといった問題があった。詳述すると、Cu粉末を混合した金粘土においては、室温、大気雰囲気下で保管した場合、金粘土を製出してから数日経過した時点で既に変色が認められ、表面のみでなくその内部にまで亘って変色することになる。
このように、金粘土の変色が著しいことから、Cuの含有量を大幅に増加させることができず、例えば、Cuの含有により14K、12Kとした金製品用の金粘土を提供することができなかった。
さらに、粘土状組成物を構成する各粉末を所定の粒径になるように粉砕する工程および各粉末を混練する工程で使用される粉砕装置又は混練装置のステンレス製容器の内壁面からFeが剥離して粉末中又は粘土状組成物中に混入する。Feは、Au、Ag、Cuに拡散しにくいため、粘土状組成物の焼結性を低下させる原因となっていることを見出した。一方、Au、Ag、Cuに関しては、精錬工程でごくわずかにFeが混入する程度で、ほとんどFeは混入していない。したがって、粉砕工程及び混練工程で粉末中に混入するFeをいかに低減するかが焼結性向上の鍵となっていることを見出した。
【0007】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、大気雰囲気下でも容易に変色しない焼結体形成用の粘土状組成物用粉末、焼結性の良い焼結体形成用の粘土状組成物(金粘土)、焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法、金焼結体及び金焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等が前記問題を解決するために鋭意検討したところ、金粘土(焼結体形成用の粘土状組成物)を構成する金粘土用粉末(焼結体形成用の粘土状組成物用粉末)に関し、金を含む金含有金属粉末と、銅を含む銅含有酸化物粉末とを含有する粉末として構成することにより、金粘土(焼結体形成用の粘土状組成物)の変色を抑制できることを見出した。また、粘土状組成物用粉末又は粘土状組成物に混入するFeを少なくすることにより、焼結性が向上することを見出した。
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであり、以下に示す構成を有するものである。
【0009】
本発明の焼結体形成用の粘土状組成物は、金を含む金含有金属粉末と、銅を含む銅含有酸化物粉末とを含有する粉末成分と、バインダーと、水とを含むことを特徴としている。
ここで、銅含有酸化物は、金属Cuに比べて化学的に安定していることから、大気雰囲気下において容易に変質(銅イオンの価数が変化)するおそれが少ない。このため、この焼結体形成用の粘土状組成物の変色を抑制することができるのである。また、銅の含有量を増加させても変色しないことから、Auの含有量が少ない金焼結体に対応する粘土状組成物を提供することが可能となる。
さらに、銅含有酸化物中の酸素を利用することで、焼結体形成用の粘土状組成物中のバインダーを燃焼させて除去することが可能となり、粘土状組成物の焼成を促進することができる。
【0010】
前記粉末成分が、銀を含む銀含有金属粉末を含有することが好ましい。この場合、前記粉末成分が、金含有金属粉末と、銀含有金属粉末と、銅含有酸化物粉末とを含有することになるので、これらの各粉末の含有量を変更することで、金焼結体の色調を調整することが可能となる。また、Ag成分とCu成分の含有量を増加させることで、Auの含有量が少ない金焼結体を形成する粘土状組成物を提供することが可能となる。
本発明の焼結体形成用の粘土状組成物は、該粘土状組成物の粉末成分中のFeの含有量は、1000ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましい。
粘土状組成物を構成する各粉末を所定の粒径になるように粉砕する工程および各粉末を混練する工程で使用される粉砕装置又は混練装置のステンレス製容器の内壁面からFeが剥離して粉末中又は粘土状組成物中に混入するおそれがある。
Feは、Au、Ag、Cuのいずれにも拡散しにくいため、粘土状組成物中に存在すると焼結性が悪くなるおそれがある。そこで、粘土状組成物の粉末成分中のFeの含有量は、1000ppm以下とこすることが好ましく、200ppm以下とすることがより好ましい。
なお、Au、Ag、Cuに関しては、精錬工程でごくわずかにFeが混入する程度で、ほとんどFeは混入していない。したがって、粉砕工程及び混練工程で粉末中に混入するFeをいかに低減するかが焼結性向上の鍵となっていると考えられる。例えば、混練装置のステンレスの混練容器の内壁に、耐摩耗性および潤滑性にすぐれるCrNのコーティングを施すことで、Feの混入を抑えることができる。
【0011】
また、前記粉末成分が、CuO粉を前記粉末成分全体に対して10質量%以上35質量%以下の範囲で含有していることが好ましい。
CuO粉の含有量を10質量%以上とした場合には、CuOの酸素を利用してバインダーを燃焼させることができるため、大気雰囲気での仮焼成を行う必要がなくなる。また、CuO粉の含有量が35質量%を超えると、焼成体の伸びが低下するおそれがある。
以上のことから、前記粉末成分において、CuO粉末の含有量を前記粉末成分全体に対して10質量%以上35質量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0012】
また、前記粉末成分が、CuO粉を前記粉末成分全体に対して15質量%以上45質量%以下の範囲で含有していることが好ましい。
CuO粉の含有量を15質量%以上とした場合には、CuOの酸素を利用してバインダーを燃焼させることができるため、大気雰囲気での仮焼成を行う必要がなくなる。また、CuO粉末の含有量が45質量%を超えると、焼成体の伸びが低下するおそれがある。
以上のことから、前記粉末成分において、CuO粉末の含有量を前記粉末成分全体に対して15質量%以上45質量%以下の範囲とすることが好ましい。
なお、CuOも徐々にCuOに変化していくが、金属Cu添加時ほどの急激な変色を伴うものではない。
【0013】
また、前記粉末成分中の金属Cuの含有量が前記粉末成分全体に対して10質量%以下であることが好ましい。
前記粉末成分中の金属Cuの含有量を前記粉末成分全体に対して10質量%以下とすることにより、焼結体形成用の粘土状組成物の変色を確実に防止することができる。なお、粉末成分中に含まれる金属Cuとしては、例えば、金属Cu粉末、AuとCuとの合金粉末、AgとCuとの合金粉末及びAuとAgとCuとの合金粉末に含まれる金属Cu等が挙げられる。
【0014】
さらに、前記粉末成分中のCuO粉の含有量とCuO粉との含有量の合計が前記粉末成分全体に対して55質量%以下とされていることが好ましい。
CuOやCuOなどの酸化物が多量に前記粉末成分中に含まれると、バインダー焼失及びCOによる還元がなされ難くなり、焼結体形成用の粘土状組成物の焼成時に、焼結性に悪影響を及ぼす恐れがある。以上のことから、前記粉末成分中のCuO粉の含有量とCuO粉の含有量の合計が前記粉末成分全体に対して55質量%以下とされていることが好ましい。
【0015】
また、前記銅含有酸化物粉末の粒径が1μm以上25μm以下であることが好ましい。
この場合、焼結体形成用の粘土状組成物を焼成して得られる金焼結体の機械的強度及び伸び等を向上させることが可能となる。
【0016】
さらに、必要に応じてさらに油脂および界面活性剤のうち少なくとも一方が添加されていても良い。
また、本発明の焼結体形成用の粘土状組成物は、前記バインダーを、セルロース系バインダー、ポリビニール系バインダー、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー、樹脂系バインダー、澱粉、ゼラチン、小麦粉の内の、少なくとも1種又は2種以上の組み合わせで構成しても良い。また、前記の中でも、セルロース系バインダー、特に水溶性セルロースから構成することが最も好ましい。
前記界面活性剤の種類は特に限定されるものではなく、通常の界面活性剤(例えば、ポリエチレングリコール等)を使用することができる。
前記油脂としては、例えば、有機酸(オレイン酸、ステアリン酸、フタル酸、パルミチン酸、セパシン酸、アセチルクエン酸、ヒドロキシ安息香酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、カプロン酸、エナント酸、酪酸、カプリン酸)、有機酸エステル(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ヘキシル基、ジメチル基、ジエチル基、イソプロピル基、イソブチル基を有する有機酸エステル)、高級アルコール(オクタノール、ノナノール、デカノール)、多価アルコール(グリセリン、アラビット、ソルビタン)、エーテル(ジオクチルエーテル、ジデシルエーテル)等を挙げることができる。
【0017】
本発明の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末は、金を含む金含有金属粉末と、銅を含む銅含有酸化物粉末とを含むことを特徴とする。
本発明の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末は、銀を含む銀含有金属粉末を含有することが好ましい。
また、本発明の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末は該粘土状組成物用粉末全体に対してCuO粉末を10質量%以上35質量%以下の範囲で含有することが好ましい。
あるいは、本発明の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末は該粘土状組成物用粉末全体に対してCuO粉末を15質量%以上45質量%以下の範囲で含有することが好ましい。
さらに、本発明の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末は該粘土状組成物用粉末中の金属Cuの含有量が該粘土状組成物用粉末全体に対して10質量%以下であることが好ましい。
また、本発明の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末は該粘土状組成物用粉末中のCuOの含有量とCuOの含有量の合計が該粘土状組成物用粉末全体に対して55質量%以下であることが好ましい。
さらに、本発明の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末は、前記銅含有酸化物粉末の粒径が1μm以上25μm以下であることが好ましい。
前記構成の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末によれば、前述の焼結体形成用の粘土状組成物を構成することが可能となり、焼結体形成用の粘土状組成物の変色を防止することが可能となる。
【0018】
本発明の焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法は、金を含む金含有金属粉末と、銅を含む銅含有酸化物粉末と、バインダーと、水とを混合することを特徴としている。
この構成の焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法によれば、銅を含む銅含有酸化物粉末を有し、変色し難い焼結体形成用の粘土状組成物を製造することが可能となる。
【0019】
本発明の金焼結体は、前述の焼結体形成用の粘土状組成物を焼成することで得られることを特徴とする。
この構成の金焼結体によれば、前述した構成の焼結体形成用の粘土状組成物を焼成したものであることから、金含有金属粉末と、銅を含む銅含有酸化物粉末と、を有しており、これらの粉末の混合割合を変更することで、品位(Auの含有量)、色調を調整することが可能となる。
【0020】
本発明の金焼結体の製造方法は、前述の焼結体形成用の粘土状組成物を任意の形状に成形することで成形体とし、この成形体を乾燥させた後に、還元雰囲気又は非酸化雰囲気において、焼成を行うことにより、金焼結体とすることを特徴としている。
【0021】
前記構成の金焼結体の製造方法によれば、金含有金属粉末、銅を含む銅含有酸化物粉末の混合割合を変更することで、金焼結体の品位(Auの含有量)、色調を調整することが可能となる。
なお、前述のように、焼結体形成用の粘土状組成物において、CuO粉末の含有量を10質量%以上あるいはCuO粉末の含有量を15質量%以上とした場合には、CuO及びCuOの酸素を利用することにより、焼結体形成用の粘土状組成物に含まれるバインダーを燃焼させて除去することが可能となるため、バインダーを除去するための仮焼工程を省略することができる。
【0022】
また、本発明の金焼結体の製造方法は、前記成形体を乾燥させた後に、還元雰囲気又は非酸化雰囲気において、720℃以上1000℃以下の範囲の焼成温度で、30分以上180分以下の時間で焼成を行うことにより、金焼結体とすることを特徴としている。
この構成の金焼結体の製造方法によれば、焼結体形成用の粘土状組成物の成形体の焼成条件を、前述のように限定していることから、焼成を確実に行うことができる。
【0023】
また、本発明の金焼結体の製造方法は、前記成形体を活性炭中に埋め込んだ状態で焼成を行うことを特徴としている。
この構成の金焼結体の製造方法によれば、活性炭による還元により、成形体の焼成を促進することができる。また、簡易な設備で、焼結を確実に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の焼結体形成用の粘土状組成物によれば、前記構成及び作用により、焼結体形成用の粘土状組成物の変色を抑制することができるとともに、成形後に加熱焼成して得られる金焼結体の所望の品位、色調の金焼結体を製出することができる。さらに、粘土状組成物の粉末成分又は粘土状組成物用粉末中のFeの含有量を1000ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下に抑えたことにより、焼結性が高められるため、機械的強度の高い金焼結体を製出することができる。本発明の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末によれば、前記構成及び作用により、この焼結体形成用の粘土状組成物用粉末を用いた焼結体形成用の粘土状組成物を構成することで、焼結体形成用の粘土状組成物の変色を抑制することができる。
本発明の焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法によれば、前述の焼結体形成用の粘土状組成物を確実に製造することが可能となる。
本発明の金焼結体及び本発明の金焼結体の製造方法によれば、金含有金属粉末と、銅を含む銅含有酸化物粉末との混合割合を変更することで、金焼結体の品位(Auの含有量)、色調を調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る焼結体形成用の粘土状組成物を用いた金焼結体の製造方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係る焼結体形成用の粘土状組成物、焼結体形成用の粘土状組成物用粉末、焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法、金焼結体及び金焼結体の製造方法の一実施形態について、図面を適宜参照しながら説明する。
なお、本実施形態では、焼結体形成用の粘土状組成物を金粘土と、焼結体形成用の粘土状組成物用粉末を金粘土用粉末と称して説明する。
【0027】
[金粘土用粉末]
本実施形態である金粘土用粉末は、金を含む金含有金属粉末と、銀を含む銀含有金属粉末と、銅を含む銅含有酸化物粉末とを含むものである。
このような金粘土用粉末を用いて、後述する添加物を加えて混練して金粘土を構成することにより、金粘土の変色を抑制できるといった効果が得られるものである。
【0028】
本発明に係る金粘土用粉末においては、金含有金属粉末としては、Au粉末、あるいは、Au−Cu合金粉末、Au−Ag合金粉末、Au−Ag−Cu合金粉末等を適用することが可能である。また、銀含有金属粉末としては、Ag粉末、あるいは、Ag−Au合金粉末、Ag−Cu合金粉末、Ag−Au−Cu合金粉末等を適用することが可能である。さらに、銅含有酸化物粉末としてCuO粉末やCuO粉末等を適用することが可能である。また、金粘土用粉末にAg、Au、Cu以外の金属が含有されていてもよい。これらの粉末を、混練装置に入れて混合と粉砕を行うことによって、各粉末を均一に混ぜるとともに、各粉末の粒子を所定の粒径に調整する。この過程で、混練装置のステンレスの混練容器の内壁からFeが粉末内に混入するおそれがある。そこで本発明においては、混練装置のステンレスの混練容器の内壁にCrNのコーティングを施すことが好ましい。CrNのコーティングは耐摩耗性にすぐれる上に潤滑性にもすぐれているため、Feの混入を抑えることができる。
【0029】
銅含有酸化物粉末としてCuO粉末を使用した場合には、CuO粉末を10質量%以上35質量%以下の範囲で含有していることが好ましい。
また、銅含有酸化物粉末としてCuO粉末を使用した場合には、CuO粉末を15質量%以上45質量%以下の範囲で含有していることが好ましい。
さらに、前記金粘土用粉末中のCuO粉末の含有量とCuO粉末の含有量の合計が55質量%以下とされていることが好ましい。
【0030】
ここで、金粘土にAg、Cuを含有させることにより、焼結後の金焼結体の色調を調整することが可能となる。また、Auの含有量を調整し、22K〜12Kといった各品位の金焼結体を製出することが可能となる。
したがって、金焼結体の色調、品位に応じて、これら金含有金属粉末と銀含有金属粉末と銅含有酸化物粉末との混合比率を調整して、金粘土を構成することが好ましい。
【0031】
ここで、本実施形態では、金含有金属粉末としてAu粉末、銀含有金属粉末としてAg粉末、銅含有酸化物粉末としてCuO粉末が用いられている。
本実施形態においては、Au粉末、Ag粉末およびCuO粉末の粒径については、特に限定されるものではないが、添加物としてのバインダー剤を加えて混練することで金粘土とした場合の成形性等の諸特性を考慮し、以下に示す範囲の粒径とすることが好適である。
【0032】
Au粉末、Ag粉末及びCuO粉末の平均粒径が25μmを超えると、粉末の焼結性が低下して焼成時間が長くなってしまう。また、金焼結体の色調が劣化するおそれがある。以上のことから、Au粉末、Ag粉末及びCuO粉末の平均粒径を25μm以下とすることが好ましい。
なお、Au粉末、Ag粉末及びCuO粉末の平均粒径の下限については特に定めないが、Au粉末、Ag粉末及びCuO粉末の平均粒径を1μm以下とすることは工業生産的にコスト高となるおそれがあり、また、装置の限界等も考慮し、これを下限とすることが好ましい。また、前述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Au粉末、Ag粉末及びCuO粉末の平均粒径は、1μm以上20μm以下の範囲であることがより好ましく、3μm以上10μm以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0033】
さらに、本実施形態においては、金粘土用粉末を構成するAu粉末、Ag粉末およびCuO粉末の平均粒径を、前記の如く所定粒径以下に制限することにより、金粘土の成形体を焼成する際の焼結性が高められるので、後述の焼成における処理温度を低温にすることが可能となる。
なお、前述のような粉末の平均粒径を測定する方法としては、例えば、公知のマイクロトラック法を用いることができる。また、本実施形態では、d50(メジアン径)を平均粒径とした。
【0034】
[金粘土]
次に、本発明の金粘土について説明する。
本発明に係る金粘土は、前記構成の金粘土用粉末と、バインダー(本実施形態では有機バインダー)と、水とを含む。
例えば、本実施形態に係る金粘土は、前記構成の金粘土用粉末を70質量%以上95質量%以下の範囲で含有し、さらに、有機バインダーと水とを含むバインダー剤を5質量%以上30質量%以下の範囲で含有するものである。ここで、バインダー剤には、有機バインダーおよび水の他に、必要に応じて界面活性剤や油脂が添加されていてもよい。
この金粘土は、化学的に安定なCuO粉末と、Au粉末と、Ag粉末とを含有した金粘土であることから、大気雰囲気下において変色が抑制されることになる。
【0035】
本発明に係る金粘土に用いられる有機バインダーとしては、特に限定されず、金粘土用粉末をつなぎとめて粘土状組成物とできる有機物が利用できる。例えば、セルロース系バインダー、ポリビニール系バインダー、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー、樹脂系バインダー、澱粉、ゼラチン、小麦粉の内の、少なくとも1種又は2種以上の組み合わせで構成して用いることが好ましい。また、前記の中でも、セルロース系バインダー、特に水溶性セルロースを用いることが最も好ましい。
前記界面活性剤は特に限定されるものではなく、通常の界面活性剤(例えばポリエチレングリコール等)を使用することができる。
【0036】
また、油脂の種類としても、特に限定されないが、例えば、有機酸(オレイン酸、ステアリン酸、フタル酸、パルミチン酸、セパシン酸、アセチルクエン酸、ヒドロキシ安息香酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、カプロン酸、エナント酸、酪酸、カプリン酸)、有機酸エステル(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ヘキシル基、ジメチル基、ジエチル基、イソプロピル基、イソブチル基を有する有機酸エステル)、高級アルコール(オクタノール、ノナノール、デカノール)、多価アルコール(グリセリン、アラビット、ソルビタン)、エーテル(ジオクチルエーテル、ジデシルエーテル)等を挙げることができる。
【0037】
以下に、前述した本実施形態に係る金粘土を製造する方法の一例について、図1に示す模式図を参照しながら説明する。
本実施形態に係る金粘土5の製造方法は、前記の金粘土用粉末1を70質量%以上95質量%以下、有機バインダーと水とを含むバインダー剤2を5質量%以上30質量%以下として混練する方法である。
【0038】
図1に示すように、本実施形態で説明する金粘土5の製造方法では、まず、Au粉末1A、Ag粉末1B、CuO粉末1Cの各々を、規定分量で混練装置50の中に導入する。この際、例えば、Au粉末1A(平均粒径5μm:マイクロトラック法;アトマイズ粉)を72.7質量%、Ag粉末1B(平均粒径5μm:マイクロトラック法;アトマイズ粉)を12.1質量%、CuO粉末1C(平均粒径5μm:マイクロトラック法;キシダ化学株式会社製試薬・純度97%以上)を15.2質量%として導入する。
そして、混練装置50内で、前記各材料粉末を混合することにより、金粘土用粉末1が得られる。
【0039】
次いで、図1に示すように、混練装置50内の金粘土用粉末1に対して、バインダー剤2を添加する。この際、例えば、バインダー剤2の添加量を、{銀粘土用粉末1の総重量:バインダー剤2=9:1}程度とすることができる。
ここで、バインダー剤2は、有機バインダーを11質量%以上17質量%以下、油脂を5質量%以下、界面活性剤を2質量%以下、残部を水とした配合で混合したものとされている。
【0040】
そして、混練装置50内において、金粘土用粉末1とバインダー剤2と混合して混練することにより、金粘土5が得られる。
本発明を実施するに当たって、前述のように前記混練装置50のステンレス製の混練容器の内表面をCrNでコーティングすることが好ましい。CrNは、耐摩耗性、潤滑性にすぐれているため、混練工程においてステンレス中のFeが混練容器表面から脱落して材料粉末中に混入することを防止することができる。その結果、粘土状組成物の粉末成分中のFeの含有量を、貴金属粘土としては十分に少ない量である1000ppm以下さらに好ましくは200ppm以下とすることができる。
【0041】
[金焼結体]
本発明に係る金焼結体は、前記構成の金粘土5を任意の形状に造形、成形した後、後述の条件で焼成することによって得られるものである。
【0042】
以下に、前述したような本発明に係る金焼結体を製造する方法の一例について、図2(a)〜(d)の模式図を参照しながら説明する。
本発明に係る金焼結体10の製造方法は、前記構成の金粘土5を任意の形状に成形することで成形体51とし、次いで、この成形体51を、例えば、室温〜150℃の温度で、30分〜24時間で乾燥処理し、次いで、成形体51を、還元雰囲気又は非酸化雰囲気において、720〜1000℃の温度で、30〜180分の時間で焼成を行うことによって金焼結体10とする方法である。ここで、前記焼成を行う方法としては、例えば、成形体51を活性炭中に埋め込んだ状態とした後、720〜1000℃の温度、30〜180分の時間で焼成を行う方法を採用することができる。
【0043】
まず、図2(a)に示すように、金粘土5を、例えば、スタンパやプレス成形、押出成形等による機械加工、あるいは、作業者の手加工等、従来公知の方法により、任意の形状に造形、成形して成形体51とする。
次いで、図2(b)に示すように、電気炉80に成形体51を投入して乾燥処理を行うことにより、水分等を除去する。
この際の乾燥温度としては、効果的に乾燥処理を行う観点から、例えば、室温あるいは80℃程度の温度から150℃までの範囲の温度とすることが好ましい。また、同様の観点から、乾燥処理を行う時間は、例えば、30〜720分、より好ましくは30〜90分の範囲の時間とし、一例として、乾燥温度:100℃程度で、乾燥時間:60分程度とした条件で乾燥処理を行うことができる。
【0044】
次いで、図2(c)に示すように、成形体51に対して焼成を施すことにより、金焼結体10とする。このとき、金粘土用粉末に含まれるCuOの酸素を利用することで、金粘土に含まれる有機バインダーが燃焼することになり、この有機バインダーを除去することが可能となる。
ここで、「CuOの酸素を利用する」とは、CuOが焼成中に熱分解することにより酸素を放出し、この酸素が有機バインダーの燃焼に寄与することを示す。
また、本実施形態においては、図示例のような装置を用いることにより、成形体51に対して焼成を施すことで金焼結体10を製造する方法を採用することができる。
【0045】
この際、まず、成形体51を、陶器製の焼成容器60中に充填された活性炭61中に埋め込む。この際、成形体51を完全に埋め込むことと、活性炭が燃焼した場合に成形体51が外部に露出するのを防止するため、焼成容器60中の活性炭61の表面から成形体51までの距離を10mm以上確保することが好ましい。
そして、内部において成形体51が活性炭61中に埋め込まれた状態の焼成容器60を電気炉80に投入し、前述したように、720〜1000℃の範囲の温度で、30〜180分の時間で加熱することで、焼成を行う。
【0046】
そして、例えば、図2(d)に示すように、焼成によって得られた金焼結体10に対し、必要に応じて、表面研磨や装飾処理等、後加工を施して製品とすることができる。
【0047】
なお、図2(a)〜(d)に示す例においては、図示並びに説明の都合上、金粘土5を成形して得られる成形体51及び金焼結体10を略ブロック状に形成しているが、美術性を兼ね備えた種々の形状とすることができることは言うまでも無い。
また、本実施形態においては、乾燥処理や焼成の各工程において、電気炉を用いる例を説明しているが、これに限定されるものではなく、例えば、ガス加熱装置等、安定した加熱条件管理が可能なものであれば、何ら制限無く採用することができる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態である金粘土5によれば、化学的に安定なCuOを含んでいるので、大気雰囲気下においてCuOが容易に変質することがなく、金粘土5の変色を抑制することができる。また、Ag粉末、CuO粉末の含有量を変更することで、金焼成体10の色調、品位を調整することが可能となる。
さらに、金粘土用粉末1が、CuO粉末を10質量%以上35質量%以下の範囲で含有しているので、このCuO粉末の酸素を利用してバインダーを燃焼させて除去することが可能となる。よって、大気雰囲気での仮焼成工程を省略することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、Au粉末、Ag粉末とCuO粉末とを含む金粘土用粉末として説明したが、これに限定されることはない。金含有金属粉末としてAu合金粉末を使用してもよい。銀含有金属粉末としてAg合金粉末を使用してもよい。酸化銅含有粉末として、CuO粉末を用いてもよいし、CuO粉末およびCuO粉末の両方を含有していてもよい。ただし、金粘土用粉末中の金属Cuの含有量が10質量%以下とすることが好ましい。
【0050】
また、Au粉末、Ag粉末とCuO粉末とを含む金粘土用粉末とし、これに、バインダーと水とを含むバインダー剤を添加することによって金粘土を製出するものとして説明したが、これに限定されることはなく、金を含有する金含有粘土と、酸化銅を含有する酸化銅含有粘土と、を混ぜ合わせることにより、金粘土を製出してもよい。さらに、市販の金粘土に対して、酸化銅の粉末を添加し、バインダーおよび水をさらに加えることにより、金粘土を製出してもよい。
【実施例1】
【0051】
以下、実施例を示して、本発明の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末、焼結体形成用の粘土状組成物、焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法、金焼結体及び金焼結体の製造方法について更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものでは無い。
【0052】
[本発明例]
まず、以下の手順で焼結体形成用の粘土状組成物用粉末(以下、金粘土用粉末と称す)を作製した。金粘土用粉末の作製にあたっては、Au粉末(平均粒径5μm:マイクロトラック法;アトマイズ粉)と、Ag粉末(平均粒径5μm:マイクロトラック法;アトマイズ粉)と、CuO粉末(平均粒径5μm:マイクロトラック法;キシダ化学株式会社製試薬・純度97%以上)と、Cu2O粉末(平均粒径5μm:マイクロトラック法;キシダ化学株式会社製試薬・純度97%以上)、金属Cu粉末(平均粒径20μm:マイクロトラック法;福田金属箔粉工業製・純度99%以上)を用いて、図1に示すような混練装置によって混合することによって、表1、2に示す粉末組成の金粘土用粉末を得た。この時、混練装置のステンレス製の混練容器は、内表面にCrNをコーティングしたものを用いた。
【0053】
次に、前記手順で得られた金粘土用粉末を混練装置内に残した状態で、さらに、有機バインダー、水、界面活性剤および油脂を混合してバインダー剤とした後に添加して混練することによって焼結体形成用の粘土状組成物(以下、金粘土と称す)を作製した。
ここで、バインダー剤は、有機バインダーとしてメチルセルロースを15質量%、油脂として有機酸の一種であるオリーブ油を3質量%、界面活性剤としてポリエチレングリコールを1質量%、残部が水となる配合とした。
そして、金粘土用粉末を85質量%、前述のバインダー剤を15質量%として混練し、金粘土とした。
【0054】
[比較例]
比較例においては、金粘土用粉末としてAu粉末、Ag粉末、Cu粉末を使用して、前述の本発明例と同様に金粘土を製出した。
【0055】
[成分分析]
得られた本発明例、比較例の金粘土に含まれるAu,Ag,Cuの元素の含有量について分析を実施した。
まず、金粘土を90℃以上の熱湯で洗浄することによって有機バインダー、界面活性剤および油脂を除去した後、定量分析に必要な所定量(約10g)の試料を採取した。次に、この分析用試料を、ICP分析によって、Au,Ag,Cuの定量分析を行った。また、金の品位(K)を判定した。その結果を表1、2に示す。
【0056】
[変色]
また、本発明例、比較例の金粘土の変色について、以下のように評価した。
所定量(10g)の金粘土を採取し、この金粘土を透明なポリエチレンフィルムで包んだ板材で挟み、厚さ1mmとなるように押し潰した。そして、室温、大気雰囲気下で保管して変色の有無を目視によって観察して評価した。評価結果を表1、2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
銅成分として金属Cuを用いた比較例では、3日経過後には変色が認められた。
これに対して、銅含有酸化物粉末としてCuO粉末を用いた本発明例1−9では、22Kから12Kまでの品位の金粘土を製出することが可能であり、これらの金粘土は1ヶ月以上経過後も変色が認められなかった。また、銅含有酸化物粉末としてCuO粉末を用いた本発明例10−14においても、18Kから12Kまでの品位の金粘土を製出することが可能であり、これらの金粘土は2週間経過後には変色が認められず、20日経過後に変色が認められた。
また、金属Cuを10質量%以下含有した本発明例15−19、21−23においても、2週間経過後には変色が認められず、20日経過後に変色が認められた。
これに対して、金属Cuを15質量%含有した本発明例20においては、比較例よりは変色が抑えられたものの、1週間経過後に変色が認められた。この結果から、金粘土の変色を確実に抑制するためには、金属Cuの含有量を10質量%以下とすることが好ましいことが確認された。
【実施例2】
【0060】
次に、本発明例1−14、18、21、比較例の金粘土を焼成し、得られた金焼成体について評価した。
【0061】
[本発明例]
本発明例においては、前記手順で得られた金粘土を成形することにより、直径約1.2mmで長さ約50mmの寸法(焼成前)を有するワイヤー状成形体、並びに、長さ約30mm、幅約3mm、厚さ約3mmの寸法(焼成前)を有する角柱状成形体を作製した。
次いで、図2(b)に示すように、前記ワイヤー状成形体および角柱状成形体の各成形体51を発明例毎に同時に電気炉(Orton:evenheat kiln inc.)80に投入し、乾燥温度を100℃とし、乾燥時間を60分とした条件で乾燥処理を行うことにより、前記各成形体51に含まれる水分等を除去した。
なお、図2においては、成形体51として1個の角柱状成形体のみを図示しており、ワイヤー状成形体の図示は省略している。
【0062】
ここで、仮焼成工程は、電気炉80を用いて、大気雰囲気中において実施した。なお、表3,4に示すように、一部では仮焼成工程を省略した。
【0063】
次いで、各成形体51に対して発明例毎に同時に焼成を施すことにより、金焼結体を作製した。
具体的には、図2(c)に示すように、内部に活性炭61が充填された陶器製の焼成容器60を用意し、各成形体51を活性炭61中に埋め込んだ。この際、活性炭61の表面から各成形体51までの距離を約10mmとした。
そして、各成形体51が活性炭61中に埋め込まれた状態の焼成容器60を電気炉80に投入し、表3,4に記載した条件で本焼成を実施した。これにより、ワイヤー状および角柱状の金焼結体10を作製した。
【0064】
[比較例]
比較例では、本発明例と同様に、ワイヤー状成形体、並びに、長さ約30mm、幅約3mm、厚さ約3mmの寸法を有する角柱状成形体を作製した。
そして、表に示す条件以外は、本発明例と同様の手順で乾燥、焼成(仮焼成、本焼成)を実施し、ワイヤー状および角柱状の金焼結体10を作製した。
【0065】
[評価方法]
作製した金焼結体について、以下の試験方法によって、曲げ強度、引張強度、密度、表面の硬さ、伸びを測定した。尚、引張強度と伸びの測定はワイヤー状焼結体を、曲げ強度、密度、表面の硬さについては角柱状焼結体を用いた。
【0066】
曲げ強度については、島津製作所製オートグラフ:AG−Xを用い、押し込み速度0.5mm/minで応力曲線を測定し、弾性領域の最大点応力を測定することで求めた。
また、引張強度については、上記同様、島津製作所製オートグラフAG−Xを用い、引張速度5mm/minで応力曲線を測定し、試験片が破断した瞬間の応力を測定することで求めた。
【0067】
また、表面の硬さは、試験片の表面を研磨した後、アカシ微小硬度計を用い、荷重100g、荷重保持時間10秒という条件にてビッカース硬度を測定することによって求めた。
さらに、伸びは、島津製作所製オートグラフAG−Xを用い、引張速度5mm/minで応力曲線を測定し、試験片が破断した瞬間の試験片の伸びを測定することで求めた。
【0068】
表3、表4に、本発明例、比較例の製造条件、評価結果の一覧を示す。
【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
[評価結果]
本発明例においては、本焼成を活性炭還元によって保持時間1時間で実施することで、金焼結体が得られることが確認された。
また、本発明例4と比較例とは、表1,2に示すように金属成分が同一であるが、本発明例4では、仮焼成工程を省略したにもかかわらず、強度、表面の硬さ、伸びのいずれの特性も良好であった。
【0072】
ここで、CuO粉末の含有量が4.5質量%とされた本発明例2と本発明例8を比較すると、仮焼成工程を省略した本発明例8では手で折れる程度の強度しかなく、機械的特性を評価できなかった。一方、本発明例2のように、仮焼成工程を実施することで十分な強度を有する金焼成体を得ることが可能であった。
これに対して、CuO粉末を10質量%以上含有した本発明例3−7,9については、仮焼成工程を省略しても十分な強度が得られている。よって、仮焼成工程を省略するためには、CuO粉末の含有量を10質量%以上とすることが好ましい。
【0073】
同様に、CuO粉末の含有量が13.9質量%とされた本発明例10と本発明例13を比較すると、仮焼成工程を省略した本発明例13では手で折れる程度の強度しかなく、機械的特性を評価できなかった。一方、本発明例10のように、仮焼成工程を実施することで十分な強度を有する金焼成体を得ることが可能であった。
これに対して、CuO粉末を15質量%以上含有した本発明例11,12,14については、仮焼成工程を省略しても十分な強度が得られている。よって、仮焼成工程を省略するためには、CuO粉末の含有量を15質量%以上とすることが好ましい。
【0074】
また、CuO粉末の含有量が38.5質量%とされた本発明例9、CuO粉末の含有量が53質量%とされた本発明例14では、機械的特性が若干低下していることが確認される。この結果から、金焼結体の機械的特性を考慮する場合には、CuO粉末の含有量を35質量%以下、CuO粉末の含有量を45質量%以下とすることが好ましい。
【実施例3】
【0075】
金粘土用粉末に微量のFe粉を添加した以外は、本発明例4と同様にして金粘土を作製し、本発明例24、25とした。
本発明例4および本発明例24、25の金粘土について、前述の成分分析と同様にICP分析によって、金粘土用粉末中のFeの定量分析を行った。また、前述と同様の方法により、ワイヤー状焼結体を作製して引張強度を測定した。その結果を表5に示す。
【0076】
【表5】

【0077】
本発明例25の測定結果から分かるように、1000ppm以上のFe粉末を添加すると引張強度は本発明例4のものに比べて、2/3以下となった。引張強度自体は比較例や、Ag粘土等から比べると低い値ではないが、伸び性が5%を切るなど著しく悪くなる。よって、Feは1000ppm以下に抑える必要がある。さらに、本発明例24の結果から分かるようにFe粉末の添加量が200ppm以下であると伸び性の低下が本発明例25に比べてきわめて少ない。
以上の結果から、Feの含有量を1000ppm以下とすることによって、焼結性がよく機械的強度にすぐれた金焼結体が得られるため好ましく、さらに、Feの含有量を200ppm以下とすることにより、伸び性にもすぐれた金焼結体が得られるためより好ましい。
【0078】
以上説明した各評価試験の結果により、本発明の金粘土用粉末を用いた金粘土は、変色を抑制することができ、かつ、機械的強度や伸び性等にすぐれた金焼結体が得られることが明らかである。
【符号の説明】
【0079】
1 金粘土用粉末(焼結体形成用の粘土状組成物用粉末)
1A Au粉末
1B Ag粉末
1C CuO粉末
5 金粘土(焼結体形成用の粘土状組成物)
51 成形体
10 金焼結体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金を含む金含有金属粉末と、銅を含む銅含有酸化物粉末とを含有する粉末成分と、バインダーと、水とを含むことを特徴とする焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項2】
前記粉末成分が、銀を含む銀含有金属粉末を含有することを特徴とする請求項1に記載の焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項3】
前記粉末成分中のFeの含有量が1000ppm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項4】
前記粉末成分が、前記銅含有酸化物粉末としてCuO粉を前記粉末成分全体に対して10質量%以上35質量%以下の範囲で含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項5】
前記粉末成分が、前記銅含有酸化物粉末としてCuO粉を前記粉末成分全体に対して15質量%以上45質量%以下の範囲で含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項6】
前記粉末成分中の金属Cuの含有量が前記粉末成分全体に対して10質量%以下とされていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項7】
前記粉末成分中のCuO粉の含有量とCuO粉との含有量の合計が前記粉末成分全体に対して55質量%以下とされていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項8】
前記銅含有酸化物粉末の粒径が1μm以上25μm以下とされていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項9】
さらに、油脂および界面活性剤のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項10】
前記バインダーが、セルロース系バインダー、ポリビニール系バインダー、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー、樹脂系バインダー、澱粉、ゼラチン、小麦粉のうちの少なくとも1種又は2種以上の組み合わせで構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項11】
金を含む金含有金属粉末と、銅を含む銅含有酸化物粉末とを含むことを特徴とする焼結体形成用の粘土状組成物用粉末。
【請求項12】
銀を含む銀含有金属粉末を、含有することを特徴とする請求項11に記載の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末。
【請求項13】
前記粘土状組成物用粉末中のFe含有量が1000ppm以下であることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末。
【請求項14】
該粘土状組成物用粉末全体に対してCuO粉末を10質量%以上35質量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項11乃至請求項13のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末。
【請求項15】
該粘土状組成物用粉末全体に対してCuO粉末を15質量%以上45質量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項11乃至請求項14のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末。
【請求項16】
該粘土状組成物用粉末中の金属Cuの含有量が該粘土状組成物用粉末全体に対して10質量%以下とされていることを特徴とする請求項11乃至請求項15のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末。
【請求項17】
該粘土状組成物用粉末中のCuOの含有量とCuOの含有量の合計が該粘土状組成物用粉末全体に対して55質量%以下とされていることを特徴とする請求項11乃至請求項16のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末。
【請求項18】
前記銅含有酸化物粉末の粒径が1μm以上25μm以下とされていることを特徴とする請求項11乃至請求項17のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物用粉末。
【請求項19】
金を含む金含有金属粉末と、銅を含む銅含有酸化物粉末と、バインダーと、水とを混合することを特徴とする焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法。
【請求項20】
請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物を焼成することで得られることを特徴とする金焼結体。
【請求項21】
請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の焼結体形成用の粘土状組成物を任意の形状に成形することで成形体とし、
この成形体を乾燥させた後に、還元雰囲気又は非酸化雰囲気において、焼成を行うことにより、金焼結体とすることを特徴とする金焼結体の製造方法。
【請求項22】
前記成形体を乾燥させた後に、還元雰囲気又は非酸化雰囲気において、720℃以上1000℃以下の範囲の焼成温度で、30分以上180分以下の時間で焼成を行うことにより、金焼結体とすることを特徴とする請求項21に記載の金焼結体の製造方法。
【請求項23】
前記成形体を活性炭中に埋め込んだ状態で、焼成を行うことを特徴とする請求項21又は請求項22に記載の金焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−107323(P2012−107323A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226901(P2011−226901)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】