説明

焼結機用乾式電気集塵設備及びその運転制御方法

【課題】水や水蒸気を多量に添加することなく、焼結機からの排ガス中に含まれるダストを効率よく除去する。
【解決手段】乾式電気集塵機3と、この乾式電気集塵機3の上流側の排ガスに、水ミストおよび水蒸気を添加する設備7a,7bと、前記乾式電気集塵機3の入口側または出口側に設置され、排ガスに含まれる水分および排ガス温度を計測する計測器6と、この計測器6からの計測値に基づき、前記水ミストおよび水蒸気の添加量を制御する制御装置8とから構成される。前記排ガスに含まれるダストの電気抵抗率を例えば1012Ωcm以下とするように、排ガスに含まれる水分量と排ガス温度を調整する。
【効果】ダストの電気抵抗率を低下させて逆電離現象の発生を抑制するので、排ガス性状、ダスト性状が変化しても常に安定した集塵効率を維持できる。また、結露に起因する設備腐食を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドワイトロイド式焼結機を使用して焼結鉱を製造する際に発生する排ガス中のダストを効率的に除去することが可能な乾式電気集塵設備、及びこの乾式電気集塵設備の運転制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鉱炉用の原料である鉄鉱石焼結鉱を製造する装置として、ドワイトロイド式焼結機(以下、単に「焼結機」と言う。)が広く使用されている。この焼結機では、複数種類の粉鉄鉱石、石灰石、炭材等を混合した焼結原料(以下、この焼結原料を単に「原料」と言う。)を、エンドレス状に駆動されるパレット(火格子)上に装入する。パレット上に装入された原料は、点火炉でその表面に点火された後、パレットの表面側から下方に吸引される大気によって炭材が燃焼して上層から下層に向かって焼成が進行し、粉鉄鉱石の焼成体である焼結鉱が製造される。
【0003】
ここで、パレットの表面側から吸引された大気は、原料層を上方から下方に移動した後にパレットの下方から排ガスとして排出されるが、この排ガス中には未反応の微粉鉄鉱石、未燃焼炭材、炭材の燃焼に伴う煤、灰などがダストとして含まれている。
【0004】
前記排ガスはダストを除去した後に大気に放散されるが、このダストの除去装置として、排ガスの組成(水分量は9〜10体積%程度、NOx、SOx含有)や温度(160℃以下)等の条件から乾式電気集塵機が広く使用されている。
【0005】
ところで、乾式電気集塵機では、捕集・堆積したダスト層の電気抵抗率が1012Ωcmを超える高い値になると、逆電離現象と呼ばれる部分的な絶縁破壊に伴う異常放電が発生し、捕集・堆積したダストの再飛散が起こって集塵効率が低下する。
【0006】
また、焼結機の操業条件の変動、原料の変動等により排ガスの性状や発生するダストの性状は変動し、乾式電気集塵機の集塵能力も変動する。
【0007】
そこで、排ガスに水分を添加し、ダストの表面に水を付着させて排ガスに含まれる水分量を調整することで、ダストの電気抵抗率を低下させて逆電離現象の発生を抑制し、ダスト表面の電気抵抗率を低下させて乾式電気集塵機の集塵能力を高める方法が知られている。
【0008】
例えば特許文献1には、集塵機前段の煙道中に水を噴霧するスプレーノズルを設け、ダストの表面に水膜を形成する技術が開示されている。
【特許文献1】実開昭63−66147号公報
【0009】
また、特許文献2では、特許文献1よりも効率的にダスト表面に微細な水滴を付着させる方法として、水蒸気を噴霧する技術が開示されている。
【特許文献2】特開2007−127387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、焼結機から排出される排ガスのような大量の微細ダストを含む排ガスに水や水蒸気を噴霧し、全てのダスト表面に水滴を付着させるのは、以下の理由により困難である。
【0011】
すなわち、全てのダストの表面に水滴を付着させるには多量の水が必要である一方、全てのダストの表面に水滴が付着した状態では排ガス中の水分量が多くなり、乾式電気集塵機を使用する前提では、結露による設備腐食が発生する可能性があるからである。
【0012】
また、逆電離現象はダスト堆積層の電気抵抗率が問題であり、ダスト堆積層の水分は排ガス中の水分量(体積%)に比例する。
【0013】
出願人は、焼結鉱の冷却装置において、水噴霧による排ガス温度低下と排ガス中の水分上昇により、ダストの電気抵抗率を下げて乾式電気集塵機の集塵効率を向上させる技術を、特許文献3、4で開示している。このうち、特許文献3では、電気抵抗率についてのガス温度と水分の依存性が示されている。
【特許文献3】特許第3214309号公報
【特許文献4】特許第2927217号公報
【0014】
しかしながら、特許文献3及び特許文献4で開示した技術は、焼成完了後に焼結機のパレットから排出された焼結鉱を冷却するための、焼結機の後工程である冷却機以降の排ガスに関わるものである。
【0015】
そのため、排ガス中に含まれるダストは焼結鉱の微細粉が主体であり、水分も全く含まれていない。また、焼成を終えた焼結鉱を冷却しているため、排ガス温度は焼結鉱からの排ガス温度よりも低い。
【0016】
つまり、特許文献3、4で開示した技術が対象としているのは、本発明が対象とする焼結機の排ガスとは異なる排ガスであり、対象とする水分範囲も、水分を添加した後においても1〜5体積%程度で、本発明とは大きく異なっている。
【0017】
本発明が解決しようとする問題点は、乾式電気集塵機の集塵能力を高めるために、ダスト表面の電気抵抗率を低下させるべく、焼結機から排出される排ガス中に含まれる大量の微細ダストの表面に水滴を付着させることは困難であるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の焼結機用乾式電気集塵設備は、
水や水蒸気を多量に添加することなく、逆電離現象の発生を抑制して焼結機からの排ガス中に含まれるダストを効率よく除去することと、設備腐食発生の防止を同時に実現するために、
焼結機からの排ガス処理用の集塵設備であって、
乾式電気集塵機と、
この乾式電気集塵機の上流側の排ガスに、水ミストおよび水蒸気を添加する設備と、
前記乾式電気集塵機の入口側または出口側に設置され、排ガスに含まれる水分および排ガス温度を計測する装置と、
この計測装置からの計測値に基づき、前記水ミストおよび水蒸気の添加量を制御する制御装置と、
から構成され、
排ガスに含まれる水分量と排ガス温度を調整可能に構成したことを最も主要な特徴としている。
【0019】
本発明の焼結機用乾式電気集塵設備を使用して、焼結機からの排ガスに、乾式電気集塵機の上流側において、水ミストと水蒸気の少なくともどちらか一方を添加するに際しては、
乾式電気集塵機の入口側または出口側において、排ガスに含まれる水分量および排ガス温度を計測し、
この計測値に基づき、前記排ガスに添加する水ミスト量と水蒸気量の少なくともどちらか一方を、例えば排ガス温度(℃)をX、排ガス中の水分量(体積%)をYとした場合、X=100、X=160、Y=10、Y=16、Y=−0.0571X+17.714の5つの直線で囲まれる範囲に調整して前記排ガスに含まれる水分量と排ガス温度を制御し、前記排ガスに含まれるダストの電気抵抗率を1012Ωcm以下とすれば良い。これが、本発明の焼結機用乾式電気集塵設備の運転制御方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、水ミストと水蒸気の少なくとも一方を添加して、排ガスの水分量と排ガス温度を適正に制御することで、ダストの電気抵抗率を低下させて逆電離現象の発生を抑制するので、排ガス性状、ダスト性状が変化しても 常に安定した集塵効率を維持できる。また、結露に起因する設備腐食を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の着想から課題解決に至るまでの過程と共に、本発明を実施するための最良の形態について、図1〜図3を用いて説明する。
【0022】
焼結機からの排ガスに含まれるダスト量を低減するには、乾式電気集塵機の集塵効率を向上する必要があり、設備増強以外の方法で集塵効率を向上するには、ダストを集塵し易い条件に変化させる方法がある。
【0023】
発明者らは、焼結機からの排ガスに含まれるダスト量の低減においても、排ガスに含まれる水分量と排ガス温度の両方を一定範囲内に制御することによって、添加する水ミスト量、水蒸気量を必要最小限に抑えることができるのではないかと考えた。
【0024】
本発明は、このような着想からなされたものであり、以下、 本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明では、排ガス温度が高い場合は、水ミストの添加(スプレーノズル等での水噴霧)により排ガスの温度と水分量を適正範囲に制御する。また、排ガス温度が低い場合は、高温の水蒸気を添加して 排ガスの温度と水分量を適正範囲に制御する。このようにすることで、乾式電気集塵機の集塵効率を改善する。
【0025】
図1は、焼結機からの排出される排ガスについて、排ガスに含まれるダストの電気抵抗率に対する排ガス温度と排ガスに含まれる水分量(体積%)の影響を調べた結果を示した図である。
【0026】
この図1の結果より、ダストの電気抵抗率を例えば1012Ωcm以下に抑制し、捕集・堆積したダストの再飛散が起こる逆電離現象が発生しないようにするためには、排ガス中に含まれる水分量を12体積%以上にする必要があることが分かる。あるいは、排ガス中に含まれる水分量が10体積%の場合には、排ガス 温度を 135℃以上にする必要があることが分かる。
【0027】
図2 に本発明の焼結機用乾式電気集塵設備の構成例を示す。
1は焼結機、2はこの焼結機1で製造した焼結鉱を冷却する冷却機、3は下流側に配置された排風機4によって焼結機1のパレットの下方から吸引された排ガス中のダストを除去する乾式電気集塵機、5は煙突である。
【0028】
本発明では、前記乾式電気集塵機3の例えば出口側に、排ガスに含まれる水分量と、排ガス温度を計測する計測器6を設置すると共に、乾式電気集塵機3の上流側に水ミストの添加設備7aと水蒸気の添加設備7bを設置する。そして前記計測器6で計測した計測値に基づき、水ミストの添加設備7aと水蒸気の添加設備7bに、最適な量の水ミストや水蒸気を排ガスに噴射するように制御する制御装置8を設置する。
【0029】
前記水ミストおよび水蒸気の添加位置は、 乾式電気集塵機3の上流側であれば どこでも良いが、水ミストの場合は完全に気化させるために排鉱側の高温部分に設置することが望ましい。
【0030】
また、排ガスに含まれる水分量と排ガス温度を計測する計測器6は、乾式電気集塵機3の入口側に設置することも可能であるが、前記計測器6の劣化を考慮すると、ダスト濃度の低い出口側に設置することが好ましい。
【0031】
図3は、本発明方法における排ガス温度(横軸X)および排ガスに含まれる水分(縦軸Y)の制御範囲を示した図である。
【0032】
図1に示した、ダストの電気抵抗率を1012Ωcm以下に抑制できる条件(排ガス中に含まれる水分が10体積%の場合には、排ガス 温度を135℃以上)より、Y≧−0.0571+17.714を得る。
【0033】
一方、設備腐食を抑制するためには、排ガス温度は露点(100℃)以上であることが必要であることから、X≦100を、設備の耐熱上限温度(通常は被膜塗装の耐熱温度である160℃)を考慮し、X≧160を得る。
【0034】
また、排ガスに過剰な水分を含ませることは無意味であるので、本発明では、排ガスに含まれる水分は16%を上限とし、Y≦16を得た。なお、本発明では、水ミストは常温(25℃)、水蒸気は 低圧水蒸気(0.7MPa、165℃)を使用した。
【0035】
本発明の焼結機用乾式電気集塵設備の運転制御方法は、前記構成の本発明の焼結機用乾式電気集塵設備を用いて、例えば以下のように実施する。
【0036】
すなわち、乾式電気集塵機3の出口側において、計測器6で排ガスに含まれる水分量および排ガス温度を計測し、
この計測値に基づき、前記排ガスに添加する水ミスト量と水蒸気量の少なくともどちらか一方を、排ガス温度(℃)をX、排ガス中の水分(体積%)をYとした場合、X=100、X=160、Y=10、Y=16、Y=−0.0571X+17.714の5つの直線で囲まれる範囲に調整して前記排ガスに含まれる水分量と排ガス温度を制御し、前記排ガスに含まれるダストの電気抵抗率を1012Ωcm以下とするのである。
【0037】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験の結果について説明する。
下記表1に水ミスト、水蒸気を排ガスに添加した場合の、排ガス 温度と、排ガスに含まれる水分量の制御例を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1より明らかなように、排ガス温度が低く、水分量も少ないケースA、Bの場合は、所定量の水蒸気のみを添加した。このようにすることで、ケースAは、排ガスに含まれる水分量は10体積%から11.9体積%に増加すると共に、排ガス温度は100℃から104℃に上昇した。また、ケースBは、排ガスに含まれる水分量は10体積%から12.1体積%に増加すると共に、排ガス温度は120℃から121℃に上昇した。
【0040】
図1を見ると、これらケースA、Bは、どちらの場合もダストの電気抵抗率を1012Ωcm以下に制御できている。
【0041】
一方、排ガス温度が高く、水分量が少ないケースC、Dの場合は、所定量の水ミストのみを添加した。このようにすることで、ケースCは、排ガスに含まれる水分量は9.5体積%から10.5体積%に増加すると共に、排ガス温度は150℃から130℃に低下した。また、ケースDは、排ガスに含まれる水分量は9.0体積%から10.0体積%に増加すると共に、排ガス温度は160℃から140℃に低下した。
【0042】
これらケースC、Dは、どちらの場合も排ガスに含まれる水分量を10体積%以上に増加させて、電気抵抗率が1012Ωcm以下となるようにしつつ、設備の耐熱上限温度の160℃よりも排ガス温度を大幅に低下させることができた。水ミストを添加する場合は、蒸発潜熱により排ガス温度が低下するが、排ガス温度が露点に達しない範囲では問題はない。
【0043】
また、ケースEの場合は、水ミストの添加のみでは、ケースE1に示すように、排ガスに含まれる水分量は9.0体積%から制御範囲(10〜16体積%)の12.0体積%に増加できるが、 排ガス温度は140℃から露点以下の84℃になってしまう。
【0044】
一方、水蒸気を添加すれば、ケースE2に示すように、排ガスに含まれる水分量を9.0体積%から制御範囲の10.0体積%に増加しつつ、排ガス温度も140℃から141℃とあまり変化せずに135〜160℃の制御範囲(図1参照)に保つことができる。
【0045】
更に、ケースE3のように、水ミストと水蒸気の添加を併用すれば、排ガスに含まれる水分量を制御範囲の10.0体積%に増加しつつ、排ガス温度も制御範囲のうちの最低温度である135℃に低下することができて、設備負荷も低減でき、より優れた効果を発揮できた。
【0046】
このように、水ミストは水の粒子が大きいので、水ミストの添加は、排ガスへの分散性が良くないが、排ガス温度の低下に対して効果がある。一方、水蒸気は水の粒子が小さいので、水蒸気の添加は、排ガスへの分散性が良いが、排ガス温度に対しては加熱効果のみとなる。これに対して、水ミストと水蒸気の両者の添加は、排ガスへの水粒子の分散性を損なわずに、排ガスを冷却および加熱する効果があり、排ガスに含まれる水分量と排ガス温度の両方について一定範囲内での制御が可能となるのである。
【0047】
本発明は上記した例に限らないことは勿論であり、請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】焼結機からの排出される排ガスについて、排ガスに含まれるダストの電気抵抗率に対する排ガス温度と排ガスに含まれる水分(体積%)の影響を調べた結果を示した図である。
【図2】本発明の焼結機用乾式電気集塵設備の構成例を示す図である。
【図3】本発明方法における排ガス温度(横軸X)および排ガスに含まれる水分(縦軸Y)の制御範囲を示した図である。
【符号の説明】
【0049】
1 焼結機
3 乾式電気集塵機
6 計測器
7a 水ミストの添加設備
7b 水蒸気の添加設備
8 制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結機からの排ガス処理用の集塵設備であって、
乾式電気集塵機と、
この乾式電気集塵機の上流側の排ガスに、水ミストおよび水蒸気を添加する設備と、
前記乾式電気集塵機の入口側または出口側に設置され、排ガスに含まれる水分および排ガス温度を計測する装置と、
この計測装置からの計測値に基づき、前記水ミストおよび水蒸気の添加量を制御する制御装置と、
から構成され、
排ガスに含まれる水分量と排ガス温度を調整可能に構成したことを特徴とする焼結機用乾式電気集塵設備。
【請求項2】
焼結機からの排ガスに、乾式電気集塵機の上流側において、水ミストと水蒸気の少なくともどちらか一方を添加するに際し、
乾式電気集塵機の入口側または出口側において、排ガスに含まれる水分量および排ガス温度を計測し、
この計測値に基づき、前記排ガスに添加する水ミスト量と水蒸気量の少なくともどちらか一方を調整して前記排ガスに含まれる水分量と排ガス温度を制御することを特徴とする焼結機用乾式電気集塵設備の運転制御方法。
【請求項3】
排ガス温度(℃)をX、排ガス中の水分量(体積%)をYとした場合、
X=100、X=160、Y=10、Y=16、Y=−0.0571X+17.714の5つの直線で囲まれる範囲に排ガスに含まれる水分量と排ガス温度を制御することを特徴とする請求項2に記載の焼結機用乾式電気集塵設備の運転制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−7977(P2010−7977A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168930(P2008−168930)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】