説明

焼酎カスの利用方法

【課題】焼酎カスの有効利用と、処理コストの削減につながる、改善された処理方法と、有用な利用法を提供する。
【解決手段】焼酎カスを攪拌・混練し、減圧蒸留しながら固液分離する処理方法において、3段階に分けて低圧低温にて蒸留し、2段階で得られる酢酸とプロピオン酸など有機酸を高濃度に含む成分に富んだ抽出液を、微細藻類のスピルニナ・プラテンシス(Spirulina platensis)の増殖促進剤として利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
廃棄していた焼酎カスを、微細藻類の増殖促進効果等へ利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、本発明者らによる焼酎カスの処理方法およびそれにより得られる有効液の水産および畜産への応用が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−204107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の利用方法では、充分な付加価値が得られず実用化まで至っていない。
【0005】
そこで、本発明は、焼酎カスの蒸留段階を細分化して、有効成分の濃度を高めると共に、それ以外の不要画分は廃棄しやすい形態になるように工夫することを課題とする。更に得られた有効成分をより付加価値の高い例えば機能性食品分野に利用することにより、焼酎カスの処理コストの削減に寄与することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、鋭意研究の結果、焼酎カスから取り出された有効成分を用いて付加価値の高い分野への利用を開発し、上記課題を解決した。
すなわち、本発明は、焼酎カスを攪拌・混練(羽根型、スクリュウ型、ブラベンダー型)し、減圧蒸留しながら個液分離する処理方法において、1段階では、焼酎カスに何も加えず低圧低温(65〜80度C、200〜400トール)で蒸留し、BODおよびアンモニアを高濃度に含む(本工程で得られる総量の30〜50%に相当する)画分を抽出する(A液)。次に、2段階では、焼酎カスに不揮発性酸を加えpH2まで下げたのち、低圧低温(65〜80度C、200〜400トール)で蒸留し、酢酸とプロピオン酸を主成分とする有機酸を高濃度に含む(本工程で得られる総量の50〜80%に相当する)画分を抽出する(B液)。更に、3段階では、焼酎カスにアルカリを加え、pHを6〜7に中和して(65〜80度C、200〜400トール)で蒸留し、BODが20ppm以下の放流可能な水として抽出する(C液)。そして、2段階で得られたB液を有効成分として、機能性食品となる微細藻類の増殖促進剤に用いる方法である。
【0007】
ここで、本発明にいう不揮発性酸とは、無機酸および/または有機酸であり、無機酸として硫酸、リン酸であり、有機酸として酢酸とプロピオン酸よりも分子量の高い有機酸である。
【0008】
又、本発明にいうアルカリとは、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムである。
【0009】
次に、本発明にいう微細藻類とはスピルリナ・プラテンシス(Spirulina
platensis)のことである
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[焼酎カスの処理方法]焼酎製造過程で生成された焼酎カスを使用する。この焼酎カスは芋、麦、米、黒糖などを発酵させ常圧蒸留した残りのものである。この焼酎カスを、容器に入れ、攪拌および/または混練しながら以下の3段階にわけて機械・装置を用いる。
【0011】
第1段階として低圧低温(65〜80度C、200〜400トール)で蒸留し、25〜35Wt%の処理水を得た。この1段階で得られる処理液をA液とする。2段階では、焼酎カスに不揮発性酸を加えpH2まで下げたのち、低圧低温(65〜80度C、200〜400トール)で蒸留し、25〜35Wt%の処理水を得た。この2段階で得られる処理液をB液とする。
【0012】
第3段階として底部に水酸化マグネシウムを入れてpHを6〜7に調整した。この場合、水酸化マグネシウムの代わりに、酸化マグネシウムや水酸化カルシウムなど他のアルカリでも良い。ただし、底部に残った焼酎カスは家畜の飼料にするので、飼料として不都合なアルカリは避ける事が好ましい。この焼酎カスをpH6〜7の状態で、65〜80度C、200〜400トールで蒸留し、25〜35Wt%の処理水を得た。この第3段階で得られる処理液をC液とする。
【0013】
最終的に底部に残った焼酎カスの蒸留残物の含水率は約20Wt%である。A液はアンモニア濃度が高いのが特徴である。B液はpHが3以下で酢酸とプロピオン酸の濃度が高いのが特徴である。C液はA液、B液に比べるとBODと窒素濃度が極めて低いのでそのままか、あるいは水道水で多少希釈して排水しても差し支えない。また、蒸留残分は特有の悪臭が取り除かれるので、家畜の飼料として用いる事が可能である。
【実施例1】
【0014】
焼酎カスの処理方法:実験には、宮内酒造の焼酎製造過程で生成された焼酎カスを使用した。この焼酎カスは芋を発酵させ常圧蒸留した残りのものである。使用した焼酎カスの成分は表1に示す。この焼酎カスを、以下の3段階に分けて低圧低温蒸留した。具体的には、ロータリーエバポレーターの底部に1Lの焼酎カスを入れ、1段階として60〜80度C、200〜400トールで蒸留し200ml(20Wt%)の処理水を得た。この1段階で得られる処理液をA液とした。次に底部に希硫酸を入れてpHを2に調整した。この場合、希硫酸の変わりに他の燐酸などの酸でも良い。ただし、揮発性の塩酸や硝酸は使用しない。この焼酎カスをpH2の状態で、65〜80度C、200〜400トールで蒸留し300ml(30Wt%)の処理水を得た。この2段階で得られる処理液をB液とした。
【0015】
【表1】

【0016】
次に底部に水酸化マグネシウムを入れてpHを6に調整した。この場合、水酸化マグネシウムの代わりに、酸化マグネシウムや水酸化カルシウムなど他のアルカリでも良い。ただし、底部に残った焼酎カスは家畜の飼料にするので、飼料として不都合なアルカリは避ける。この焼酎カスをpH6の状態で、65〜80度C、200〜400トールで蒸留し300ml(30Wt%)の処理水を得た。この3段階で得られる処理液をC液とした。最終的に底部に残った焼酎カスの含水率は約20Wt%であった。
【0017】
得られたA液、B液、C液の成分分析の結果を表2に示す。表2に示すとおり、A液はアンモニア濃度の高いことが特徴である。B液はpHが3以下で酢酸とプロピオン酸の濃度の高いことが特徴である。C液はA液、B液に比べるとBODと窒素濃度が極めて低いのが特徴である。B液は有機酸が豊富に存在するので以下の有効利用の検討を行った。C液はBODと窒素濃度が極めて低いので、そのままか、あるいは水道水で多少希釈して排水しても差し支えない。また、残った焼酎カスは特有の悪臭が取り除かれるので、家畜の飼料として運搬や使用に支障をきたす心配が無い。
【0018】
【表2】

【実施例2】
【0019】
微細藻類のSpirulina platensis(NIES-39)は国立環境研究所微生物系統保存施設から購入した。培養に用いた培養液は国立環境研究所微生物系統保存施設が指定しているSOT培地を用いた。
培養には、まず上記の培養液を三角フラスコに入れ、滅菌及び放冷した後、クリーンベンチ内で無菌的に接種した。次いで人工気象機(SANYO GROWTH CABINET MLR350T)を用い温度30℃、照度100μmol photns/m2/s1、12時間明12時間暗のサイクルで培養した。Spirulina platensisは細胞が凝集又は沈殿してしまうため、滅菌したマグネットをフラスコに入れ、採取の際にスターラー(Pasolina STIRRER TR-300)で5分間攪拌した。
【0020】
Spirulina platensisの増殖促進効果の測定は以下のように行った。上記の培養液に対し、オートクレーブで滅菌したB液を無菌的に5%(v/v)、10%(v/v)、20%(v/v)の濃度になるように調整し、全量を200mlとした。乾燥重量、クロロフィル量、フィコビリンタンパク質量、タンパク質量を計測することでSpirulina platensisの増殖促進効果を決定した。各項目は0日目を最初とし、3日おきに18日目まで測定した。
【0021】
乾燥重量はスピルリナ藻体をグラスフィルター(Whatman社製,GF/C)でろ過し、乾燥させた後計測した。このグラスフィルターはあらかじめオーブンで乾燥させ秤量したものを用いた。スピルリナ藻体を5ml採取し、上記のフィルターでろ過した。蒸留水で2度フィルターを洗浄し、オーブン(Yamato Dry oven DX402)で80℃、4時間乾燥させた。乾燥したフィルターの重量から最初のフィルターの重量を差し引き乾燥重量とした。
【0022】
クロロフィルの定量にはメタノールで抽出した藻体色素を分光高度計で計測した。方法を以下に示す。
藻体1mlを、遠心分離機(TOMY MX-300)を用い15,000g、15分、温度4℃の条件で遠心分離し、上澄みを取り除いた後、100%メタノールを1ml加え−20℃で凍結させた。色素は藻体の緑色が無くなるまでメタノールを用いて抽出し、再び15,000g、5分、温度4℃の条件で遠心分離を行い、緑色の上澄みを採取した。上澄みに含まれるクロロフィルの吸光度は分光光度計 (BECKMAN, DU530)を用いて計測した。以下に示す数式に従い濃度を決定した。
クロロフィル量(μg/ml)=25.5×A650+4.0×A665
尚、Aの値は750nmの値を引いたものを用いた。
【0023】
フィコビリンタンパク質の抽出及び測定はAnamikaらの方法に従った。採取した藻体1mlを15,000g、30分、温度4℃で遠心分離した後、培養液成分を洗い流すため蒸留水で2度洗浄をした後、−20℃で凍結した。解凍後1mlのリン酸バッファー溶液(0.1M、pH6.50、0.1M水酸化ナトリウム含有)中で懸濁させ、細胞を完全に破壊するために60秒ソニケーションを行い、−20℃で再び凍結した。次に、十分にフィコビリンタンパク質を抽出させるため暗条件のもと室温で解凍した。15,000g、30分、温度4℃で遠心分離を行い、フィコビリンタンパク質を含んだ透明な上澄みを採取した。
上澄みに含まれるフィコビリンタンパク質の吸光度は分光光度計 (BECKMAN社製, DU530)を用いて計測した。C-PCの測定のために620nm、652nmの波長を計測し、以下に示す数式に従い濃度を決定した。
C-PC(mg/ml)=〔A620−0.474(A652)〕/5.34
タンパク質の定量にはBradford法を用いた。
【0024】
藻体1mlに対し5%(50μl)量の30%水酸化ナトリウム溶液を加え細胞壁を溶解させた。温浴中で煮沸の後、ボルテックスを行った。この操作は2度繰り返した。細胞が懸濁している場合はソニケーションを行い、細胞を完全に破砕した。
タンパク質の吸光度はDU530(BECKMAN)を用い、595nmで計測した。染色液としてBIO-RAD社のプロテインアッセイ溶液を用いた。尚、標準物質として牛血清アルブミンを使用した。上記の標準物質で検量線を作成し、藻体の懸濁液から得られた吸光度を代入しタンパク質の値とした。尚、操作方法はBIO-RAD社のプロテインアッセイ取り扱い説明書に従った。
【0025】
図1から図4に示すように10%(v/v)又は20%(v/v)量のB液をSpirulina
platensisの培養液に混ぜた結果、乾燥重量やクロロフィル等全ての項目に対し極めて高い増殖効果を得られる事が分かった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のことから、焼酎カスの処理過程で生じるB液は、Spirulina pla
tensisの増殖に対し高い促進効果を有するため、焼酎カスの有効利用が可能とな
って、産業の発展に資すること大である。

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】微細藻類Spirulina platensisに対し、B液をそれぞれの濃度で培養液に混ぜた場合の藻体重量の変化を、乾燥重量をもとに計測した図である。
【図2】微細藻類Spirulina platensisに対し、B液をそれぞれの濃度で培養液に混ぜた場合のクロロフィル量の変化を計測した図である。
【図3】微細藻類Spirulina platensisに対し、B液をそれぞれの濃度で培養液に混ぜた場合のフィコシアニン量の変化を計測した図である。
【図4】微細藻類Spirulina platensisに対し、B液をそれぞれの濃度で培養液に混ぜた場合の乾燥重量、クロロフィル量、タンパク質量を、数値をもとに比較した図である。尚、数値は18日目のものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼酎カスに何も加えず、低圧低温(65〜80度C、200〜400トール)で蒸留し、BODおよびアンモニアを高濃度に含む(本工程で得られる総量の30〜50%に相当する)画分(A液)を抽出する第1ステップと、焼酎カスに無揮発性酸を加えpH2まで下げた後、低圧低温(65〜80度C、200〜400トール)で蒸留し、酢酸とプロピオン酸を主成分とする有機酸を高濃度に含む(本工程で得られる総量の50〜80%に相当する)画分を抽出(B液)する第2ステップと、焼酎カスにアルカリを加えpHを6〜7に中和して低圧低温(65〜80度C、200〜400トール)で蒸留し、BODが20ppm以下の放流可能な水として抽出(C液)する第3ステップとで構成される焼酎カスの処理方法において、第2ステップで得られたB液を主成分として用いるスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)増殖促進剤への利用方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−92886(P2008−92886A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279670(P2006−279670)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】