説明

焼鈍炉及び焼鈍炉における冷却方法

【課題】ガスジェット冷却方式により金属帯を冷却する際の冷却能力を向上させることのできる焼鈍炉を提供すること。
【解決手段】連続的に搬送される金属帯3を炉体10の冷却帯15で冷却する焼鈍炉1において、冷却帯15において冷媒ガスを吹き付けて金属帯3を冷却するガスジェット冷却装置21と、炉体10において冷却帯15を含む範囲S1の入側及び出側に設けられたシール手段31と、冷却帯15を含む範囲S1内を加圧するための加圧手段41とを備えることを特徴とする。これにより、冷却のために用いられる冷媒ガスも加圧されてその密度が増大するので、その分、単位時間当たりに吹き付けられる冷媒ガス重量が増大し、冷媒ガスによる冷却能力を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的に搬送される金属帯を炉体の冷却帯で冷却する焼鈍炉及び焼鈍炉における冷却方法に関するものであり、特に、ガスジェット冷却装置により金属帯を冷却する際の冷却能力を向上させるのに好適な焼鈍炉及び焼鈍炉における冷却方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、連続的に搬送される金属帯に焼鈍処理を施す焼鈍炉において、その冷却帯で金属帯を冷却する方式としては、水冷却方式、ロール冷却方式、ガスジェット冷却方式等が知られている。
【0003】
水冷却方式とは、例えば、特許文献1に示すように、炉体内を連続的に搬送される金属帯に対して液体や気液の混合されたミストを吹き付けることによって金属帯を冷却する方式である。水冷却方式を用いた場合は、高い冷却能力を得つつ安定して冷却を行なうことができるというメリットがある一方で、高温の金属帯表面に液体を吹き付けることにより酸化膜が発生してしまい、酸化膜の後処理が別途必要になるというデメリットが生じてしまう。また、酸化膜の後処理が必要であるため、焼鈍炉により焼鈍された金属帯を炉外に搬出することなく連続的に溶融めっき処理を施す連続溶融めっきライン(CGL:Continuous Galvanizing Line)では用いることができないというデメリットが生じてしまう。
【0004】
ロール冷却方式とは、例えば、特許文献2に示すように、搬送ロール内に冷媒を流してこれを冷却し、冷却された搬送ロールにより金属帯を案内することによって金属帯を冷却する方式である。ロール冷却方式を用いた場合は、冷却により金属帯に酸化膜が生じることがなくなるので、酸化膜の後処理を不要としつつ高い冷却能力を得ることができるというメリットがある。この一方で、ロール冷却方式を用いた場合は、搬送ロールに対して金属帯の接触した部位のみが主に冷却されてしまうので、冷却時における金属帯の幅方向での温度分布が不安定となることにより金属帯の形状不良が生じやすいというデメリットが生じてしまう。特に、金属帯を高温域から冷却する場合、温度分布が不安定となる傾向が強くなるため、ロール冷却方式は、適用できる対象に制限があるというデメリットもある。
【0005】
ガスジェット冷却方式とは、例えば、特許文献3に示すように、搬送される金属帯に対して冷媒ガスを吹き付けることによって金属帯を冷却する方式である。ガスジェット冷却方式を用いた場合は、冷却により金属帯に酸化膜が生じることがないうえ、冷却時における金属帯の幅方向での温度分布が安定するので、酸化膜の後処理を不要としつつ安定して冷却を行なうことができるというメリットがある。この一方で、ガスジェット冷却方式を用いた場合は、冷却媒体が気体であることから冷却能力が水冷却方式やロール冷却方式に劣るというデメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−61236号公報
【特許文献2】特開昭51−104417号公報
【特許文献3】特開昭62−116724号公報
【特許文献4】特開平09−235626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、ガスジェット冷却方式を用いた場合は、冷却能力の点で他の冷却方式と劣ってはいるものの、それ以外の点では他の冷却方式よりも優れたものとなっている。このため、ガスジェット冷却方式での冷却能力を高めることができれば、上述したメリットを受けつつ、冷却帯の大きさを小さくして炉体をコンパクト化することが可能となったり、いわゆるハイテン(高張力鋼板)の製造時に合金元素添加量を抑えることが可能となるという更なるメリットを受けることができる。
【0008】
ガスジェット方式を用いた場合に冷却能力を高める手段としては、冷媒ガスを吹き付けるためのブロアの能力を増大させて、冷媒ガスの吹き付け量(m3/(min・m2))を増大させたり、特許文献4に示すように、冷媒ガス中の水素濃度を増大させる手段が知られている。しかし、技術革新の求められる昨今においては、これらの手段とは異なる方法により冷却能力を高めることができるような技術の提案が望まれていた。
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、ガスジェット冷却方式により金属帯を冷却する際の冷却能力を向上させることのできる焼鈍炉及び焼鈍炉における冷却方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するために、鋭意検討の末、下記の焼鈍炉及び焼鈍炉における冷却方法を発明した。
【0011】
第1発明に係る焼鈍炉は、連続的に搬送される金属帯を炉体の冷却帯で冷却する焼鈍炉において、前記冷却帯において冷媒ガスを吹き付けて前記金属帯を冷却するガスジェット冷却装置と、前記炉体において前記冷却帯を含む範囲の入側及び出側に設けられたシール手段と、前記冷却帯を含む範囲内を加圧するための加圧手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る焼鈍炉は、第1発明において、前記加圧手段は、前記冷却帯の圧力が炉内外の圧力差で9.8kPa以上となるように加圧することを特徴とする。
【0013】
第3発明に係る焼鈍炉は、第1発明又は第2発明において、前記加圧手段は、前記シール手段を間に挟んだ前記炉体内の低圧側から吸い込んだ炉内雰囲気を加圧して高圧側に向けて吐き出すブロワ又は圧縮機であることを特徴とする。
【0014】
第4発明に係る焼鈍炉は、第1発明〜第3発明の何れか一つの発明において、前記加圧手段は、前記冷却帯を含む範囲内に雰囲気ガスを供給して当該冷却帯を含む範囲内を加圧する雰囲気ガス供給装置であることを特徴とする。
【0015】
第5発明に係る焼鈍炉は、第1発明〜第4発明の何れか一つの発明において、前記シール手段は、前記金属板に近接又は接触して配置されるシール部材によりシールするものから構成されていることを特徴とする。
【0016】
第6発明に係る焼鈍炉は、第1発明〜第5発明の何れか一つの発明において、前記炉体は、その一部が液浴中に浸漬されており、前記シール手段は、前記炉体の内側を気密に封止する前記液浴構成されていることを特徴とする。
【0017】
第7発明に係る焼鈍炉は、第1発明〜第6発明の何れか一つの発明において、前記シール手段は、前記炉体において前記冷却帯の入側及び出側に設けられ、前記加圧手段は、前記冷却帯のみを加圧することを特徴とする。
【0018】
第8発明に係る焼鈍炉における冷却方法は、前記炉体において前記冷却帯を含む範囲の入側及び出側にシール手段が設けられた当該炉体について、前記冷却帯を含む範囲を加圧した状態で、前記冷却帯において冷媒ガスを吹き付けて前記金属帯を冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
第1発明〜第8発明によれば、冷却帯を所定圧力以上に加圧した状態で冷媒ガスによる金属帯の冷却を行なうことが可能となる。これにより、冷却のために用いられる冷媒ガスも加圧されてその密度が増大するので、その分、単位時間当たりに吹き付けられる冷媒ガス重量が増大し、冷媒ガスによる冷却能力が向上することになる。このため、酸化膜の後処理を不要としつつ安定して冷却を行なうことができるというガスジェット冷却方式のメリットを受けつつ、従来よりも冷却能力を向上させることが可能となっている。また、冷却帯の大きさを小さくすることができるので、炉体をコンパクト化することが可能となる。
【0020】
第3発明によれば、炉内に供給する雰囲気ガス重量の増大を抑えつつ、冷却帯を含む範囲を加圧することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態に係る焼鈍炉の構成を概略的に示す側面図である。
【図2】焼鈍炉の冷却帯の構成を拡大して示す拡大側面図である。
【図3】(a)は第1実施形態において用いられているシール装置の構成を拡大して示す拡大側面図であり、(b)はその背面図である。
【図4】第2実施形態に係る焼鈍炉の構成を概略的に示す側面図である。
【図5】第3実施形態に係る焼鈍炉の構成を概略的に示す側面図である。
【図6】第4実施形態に係る焼鈍炉の構成を概略的に示す側面図である。
【図7】本実施例で用いた箱体の構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る焼鈍炉を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
まず、第1実施形態に係る焼鈍炉から説明する。図1は、第1実施形態に係る焼鈍炉1の構成を概略的に示す側面図であり、図2は、その焼鈍炉1の冷却帯15の構成を拡大して示す拡大側面図である。
【0024】
第1実施形態に係る焼鈍炉1は、鋼材等からなる金属帯3を加熱する加熱帯11と、加熱された金属帯3を所定範囲の温度域で保持する均熱帯13と、ガスジェット冷却装置21により金属帯3を冷却する冷却帯15とを備えている。炉体10入側の搬入口10aから連続的に搬送される金属帯3は、炉内に設置された搬送ロール17により各帯11、13、15を案内され、各帯11、13、15において所定の条件の下で熱処理が施されることによって焼鈍された後、炉体10の出側の図示しない搬出口から炉外に搬出され、調質圧延、巻き取り等の後処理が必要に応じて施される。焼鈍炉1の各帯11、13、15には、例えば、10体積%未満がH2であり、残部がN2やその他の不活性ガスであるような還元性の雰囲気ガスが雰囲気ガス供給装置18から供給されている。
【0025】
第1実施形態に係る焼鈍炉1は、冷却帯15において冷媒ガスを吹き付けて金属帯3を冷却するガスジェット冷却装置21と、炉体10において冷却帯15を含む範囲S1の入側及び出側に設けられたシール手段としてのシール装置31と、冷却帯15を含む範囲S1を加圧するための手段としての加圧装置41とを備えている。
【0026】
ガスジェット冷却装置21は、第1実施形態においては図2に示すように、金属帯3の搬送方向に沿って金属帯3を間に挟んだ両側に設置された冷却箱23と、冷却箱23の金属帯3側の表面から金属帯3に向けて突出するように設けられたノズル25とを備えている。
【0027】
冷却箱23内には、冷媒ガスが供給されており、冷却箱23内に供給された冷媒ガスはノズル25から金属帯3に向けて吹き付けられ、これにより金属帯3が冷却されることになる。冷媒ガスとしては、例えば、10体積%未満がH2であり、残部がN2やその他の不活性ガスであるような、焼鈍炉1内に供給されている上述の還元性の雰囲気ガスが用いられる。
【0028】
ガスジェット冷却装置21において用いられる冷媒ガスは、循環ブロワ28によりダクト26、29内を循環して用いられるよう構成されている。具体的には、ガスジェット冷却装置21は、炉体10に形成されたガス吸引口と循環ブロワ28の吸込口とを連通する吸込側ダクト26と、循環ブロワ28の吐出口と冷却箱23とを連通する吐出側ダクト29とを備えており、吸込側ダクト26の途中には、冷媒ガスを冷却するための熱交換機27が設置されている。金属帯3に吹き付けられた冷媒ガスは、炉体10のガス吸込口から、吸込側ダクト26、熱交換機27を介して循環ブロワ28内に吸い込まれた後、加圧された状態で吐出側ダクト29を介して再度冷却箱23に供給され、循環するように用いられることになる。
【0029】
図3(a)は、第1実施形態において用いられているシール装置31の構成を拡大して示す拡大側面図であり、図3(b)は、その背面図である。
【0030】
シール装置31は、加圧装置41により加圧する対象となる炉体10の加圧範囲S1内の雰囲気がその範囲外へ漏洩するのを防止して、加圧範囲S1内の雰囲気の圧力が所定圧力以上に保持されるように設けられるものである。シール装置31は、第1実施形態において、加圧範囲S1が冷却帯15のみとなるように、冷却帯15の入側と出側とに設けられている。
【0031】
シール装置31は、第1実施形態において、金属帯3に近接して設置されるシールロール33やシールプレート35のようなシール部材33、35から構成されている。具体的には、シール装置31は、金属帯3を間に挟んだ両側に設置される一対のシールロール33と、シールロール33と炉体10との間での雰囲気の漏洩を防止する一対のシールプレート35とを備えている。シールロール33と金属帯3とや、シールロール33とシールプレート35とは、接触している又は僅かに間隔を空けて近接して設けられており、一対のシールロール33と一対のシールプレート35とを一組としたシール装置31により、加圧範囲S1内の雰囲気がその範囲外へ漏洩するのを防止できるように構成されている。このシールロール33と金属帯3との間隔は、小さいほど差圧を効率よく保持でき、後述の加圧装置41の性能を抑えることができるが、金属帯3をトラブルなく搬送させるうえではある程度間隔を空けた方がよく、例えば、10mm〜50mmとなるようにしてもよい。
【0032】
シール装置31は、第1実施形態において、シールロール33とシールプレート35とを備えたものについて説明したが、この他にも、シールロール33を省略して、シールプレート35のみから構成されていてもよい。また、シール装置31は、第1実施形態において、シールロール33等のシール部材33、35を用いてシールするものについて説明したが、そのシール装置31により加圧範囲S1内の雰囲気がその範囲外へ漏洩するのを防止して、そのシール装置31の前後での差圧を保持できるものであれば、その構成については特に限定するものではない。このため、シール装置31としては、例えば、可撓性のあるシール部材を金属帯3に対して押し当ててシールするもの等の公知のシール装置を用いるようにしてもよい。また、シール装置31は、この他にも、後述の溶融めっき浴53等の液浴から構成されていてもよい。
【0033】
なお、シールロール33等のシール部材33、35を用いてシールするものからシール装置31を構成する場合は、加圧範囲S1内の圧力を所定圧力以上とするのに必要となるシール能力に応じて、第1実施形態のように搬送方向に間隔を空けて複数設けてシール装置群32が構成されるようにしてもよい。
【0034】
加圧装置41は、第1実施形態において、シール装置群32を間に挟んだ炉体10内の低圧側から吸い込んだ炉内雰囲気を加圧して高圧側に向けて吐き出すブロワから構成されている。これにより、シール装置群32の前後で炉内雰囲気に差圧が生じることになる。加圧装置41は、第1実施形態において、冷却帯15の入側のシール装置群32と出側のシール装置群32との前後で差圧が生じるように二つ設けられている。これにより、冷却帯15を間に挟んで設けられた入側のシール装置群32と出側のシール装置群32との間の範囲が加圧装置41により加圧された状態で保持されることになる。
【0035】
なお、加圧範囲S1の範囲外の雰囲気は、加圧装置41の作動により低圧化してしまうので、加圧装置41の作動前後で圧力が保持されるように図示しない雰囲気ガス供給源から雰囲気ガスを供給するようにすることが好ましい。また、加圧装置41は、この他にも、圧縮機や後述の雰囲気ガス供給装置31から構成されていてもよい。
【0036】
次に、本発明に係る焼鈍炉1の作用効果について説明する。
【0037】
本発明に係る焼鈍炉1においては、冷却帯15を含む範囲内の雰囲気が加圧されるように構成されており、冷却帯15を所定圧力以上に加圧した状態で冷媒ガスによる金属帯3の冷却を行なうことが可能となっている。これにより、冷却のために用いられる冷媒ガスも加圧されてその密度が増大するので、その分、単位時間当たりに吹き付けられる冷媒ガス重量が増大し、冷媒ガスによる冷却能力が増大することになる。このため、本発明に係る焼鈍炉1によれば、酸化膜の後処理を不要としつつ安定して冷却を行なうことができるというガスジェット冷却方式のメリットを受けつつ、従来よりも冷却能力を向上させることが可能となっている。また、これにより、冷却帯15の大きさを小さくすることができるので、炉体10をコンパクト化することが可能となる。また、本発明に係る焼鈍炉1を用いた場合、ガスジェット冷却装置21を大きく高性能化することなく冷却能力を向上させることが可能となる。
【0038】
因みに、本発明によりガスジェット冷却装置21による冷却能力を向上させた場合、特許文献4に示すような、冷却ガス中の水素濃度の増大による冷却能力を向上させる方法を併せて用いることにより、冷却能力を増大させる効果が掛け算のように増幅されるというメリットがある。例えば、元の冷却速度に対して本発明の適用により得られる冷却速度が1.5倍となるよう増大させるようにしたうえで、元の冷却速度に対して水素濃度の調整により得られる冷却速度が1.5倍となるよう増大させるようにすることにより、実際の冷却速度を元の冷却速度に対して1.5×1.5の2.25倍となるよう増大させることが可能となる。
【0039】
なお、炉体10の冷却帯15を加圧装置41により加圧するうえでは、冷却帯15の圧力が炉内外の静圧での差圧で0より大きくなるよう加圧することになるが、本発明の適用により冷却速度を増大させる効果について優れたものを得るうえでは、炉内外の静圧での差圧で9.8kPa以上となるように加圧することが好ましく、冷却速度を増大させる効果について更に優れたものを得るうえでは、炉内外の静圧での差圧で19kPa以上となるように加圧することが更に好ましい。また、加圧装置41により加圧するうえでの冷却帯15の圧力の上限値については特に限定するものではないが、例えば、高圧ガスとしての適用を回避する観点から1MPa未満とするようにしてもよい。
【0040】
次に、第2実施形態に係る焼鈍炉1について説明する。図4は、第2実施形態に係る焼鈍炉1の構成を概略的に示す側面図である。なお、上述した構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付すことにより以下での説明を省略する。
【0041】
第2実施形態に係る焼鈍炉1は、連続溶融めっきライン(CGL:Continuous Galvanizing Line)に用いるものとして構成されている。焼鈍炉1はその出側に溶融めっき槽51が設置されている。焼鈍炉1は、その炉体10の出側に筒状のスナウト19が設けられており、スナウト19の端部である炉体10の出側端部10bが溶融めっき槽51の溶融めっき浴53中に浸漬されている。
【0042】
第2実施形態のように焼鈍炉1がCGLに用いられる場合、炉体10の出側端部10bが溶融めっき浴53のような液浴中に浸漬されているので、炉体10の出側をシールしなくとも加圧範囲S1の出側が気密に封止されて、その加圧範囲S1の出側の気密性が保たれることになる。このように、本発明においては、炉体10の一部が溶融めっき浴53等の液浴中に浸漬されている場合、シール装置31が、炉体10の内側を気密に封止するその液浴から構成されていてもよい。このような炉体10の一部を気密に封止する液浴の他の例としては、例えば、連続焼鈍ライン(CAPL)で金属帯3をウオータークエンチするときに金属帯3を浸漬させて冷却する冷却液が挙げられる。
【0043】
次に、第3実施形態に係る焼鈍炉1について説明する。図5は、第3実施形態に係る焼鈍炉1の構成を概略的に示す側面図である。
【0044】
第3実施形態に係る焼鈍炉1は、加圧装置41により加圧する対象となる加圧範囲S1が炉体10の冷却帯15以外の他の帯11、13も含まれるように構成されている。具体的には、第1実施形態に係る焼鈍炉1で冷却帯15の入側に設けられていたシール装置31及び加圧装置41が省略した構成とされており、その代わりに、焼鈍炉1の加熱帯11の入側に複数のシール装置31からなるシール装置群32が設けられている。なお、この場合において、冷却帯15の入側にシール装置31及び加圧装置41を省略せずに設けるようにしてもよいのは勿論である。
【0045】
第3実施形態に係る焼鈍炉1のように、本発明において加圧装置41により加圧する対象となる範囲S1は、冷却帯15を含む炉体10のほぼ全範囲となるように構成されていてもよいが、この場合は、炉体10全体を耐圧構造とする必要が生じて大幅なコスト増を招く。このため、第1実施形態に係る焼鈍炉1のように、冷却帯15のみが加圧範囲S1となるようにする方が好ましい。
【0046】
次に、第4実施形態に係る焼鈍炉1について説明する。図6は、第4実施形態に係る焼鈍炉1の構成を概略的に示す側面図である。
【0047】
第4実施形態に係る焼鈍炉1は、第1実施形態に係るシール装置31の一対のシールロール33のうちの一つが、金属帯3を案内する搬送ロール17から構成されている。具体的には、第4実施形態に係るシール装置31は、炉体10の冷却帯15の上部及び下部に設置された搬送ロール17と、金属帯3を間に挟んでその搬送ロール17と反対側に設置されたシールロール33と、シールロール33や搬送ロール17と炉体10との間での雰囲気の漏洩を防止する一対のシールプレート35とを備えている。
【0048】
第4実施形態に係る焼鈍炉1のように、一対のシールロール33のうちの一つが搬送ロール17から構成されている場合、一つの搬送ロール17の周方向に間隔を空けて複数のシールロール33及びシールプレート35を設置することが可能となる。これにより、シールロール33の個数やシールロール33を昇降させるのに要する駆動機構数を抑えることができるというメリットがある。
【0049】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0050】
例えば、加圧範囲S1内の雰囲気を加圧する手段としては、炉体10内の冷却帯15等の各帯11、13、15に加圧された雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給装置18から構成されていてもよい。なお、加圧範囲S1内の雰囲気を加圧する手段としては、第1実施形態のように、シール装置31を間に挟んだ炉体10内の低圧側から吸い込んだ炉内雰囲気を加圧して高圧側に吐き出すものを用いた方が、炉内に供給すべき雰囲気ガス重量の増大を抑えつつ、加圧範囲S1内の雰囲気を加圧することが可能となるので好ましい。
【実施例1】
【0051】
以下、本発明の効果を実施例により更に説明する。
【0052】
図7は、本実施例で用いた箱体61の構成を示す側面図である。本実施例では、内部の気密性が保持された中空の箱体61内に、板厚2mm×50cm×50cmの寸法の試験用普通鋼4を配置するとともに、その箱体61内の雰囲気ガスを循環するように用いるガスジェット冷却装置21を設置した。箱体61内には、5体積%がH2であり、95体積%がN2である雰囲気ガスを充填した。ガスジェット冷却装置21は、上述の第1実施形態において説明したように、箱体61内の雰囲気ガスを循環ブロワ28により吸い込んだ後に、その雰囲気ガスを循環ブロワ28から冷却箱23に供給した後、冷却箱23のノズル25から試験用普通鋼4に吹き付けるよう構成されたものを用いた。
【0053】
本実施例では、箱体61外の圧力(大気圧)に対する箱体61内の圧力の圧力差を、下記の表1に示すように様々な条件に変えることとした。ガスジェット冷却装置21は、それぞれの圧力差でのノズル25からの単位面積当たりの吹き付け量が200(m3/(min・m2))となる様に循環ブロワ28の回転数等が予め調整されたものを用いた。また、本実施例では、圧力差を様々に変えた条件の下で、試験用普通鋼4を600℃にまで通電加熱した後、その試験用普通鋼4をガスジェット冷却装置21により400℃まで冷却するときの時間と、普通用試験鋼4が600℃及び400℃のそれぞれのときにノズル25から吹き付けられる雰囲気ガスの温度とを測定した。そして、本実施例では、600℃と400℃の鋼板の単位面積当たりの含熱量差(kcal/m2)を、測定した雰囲気ガスの対数平均温度差と時間とで除して熱伝達率(kcal/(m2・hr・℃))を算出することとした。算出した各例での熱伝達率は、冷却速度の程度を表しているので、各例の試験結果を評価するうえでは、箱体61内外での圧力差があるNo.11〜18での熱伝達率の値を、箱体61内外での圧力差のないNo.1での熱伝達率の値で除算して、得られた値を冷却速度の増大率として定義し、その冷却速度の増大率により評価することとした。なお、普通用試験鋼4が600℃のときの雰囲気ガスの温度は、循環ブロワ28により吸い込んだ雰囲気ガスを熱交換器27により冷却することにより40℃となるようにした。また、ノズル25から吹き付けられる雰囲気ガスの温度の測定値としては、冷却箱23内での雰囲気ガスの温度の測定値を用いた。また、鋼板の含熱量のデータは、「日本鉄鋼協会熱経済技術部会加熱炉小委員会報告,連続鋼材加熱炉における伝熱実験と計算方法,p.82-83,1971」にも記載されている。
【0054】
【表1】

【0055】
各例毎の試験結果は、上記の表1に示すとおりである。
【0056】
本発明の要件を満たすものは、No.11〜No.18の例である。これらは総て、No.1の熱伝達率よりも高い熱伝達率が得られている。これらの例から、本発明の適用により、冷却能力を向上させることが可能であることが確認できる。
【0057】
また、これらの例のうち、No.12〜No.18は、静圧での差圧で9.8kPa以上となるように加圧されており、冷却速度の増大率が5%以上となっており、冷却速度を増大させる効果について優れたものが得られている。また、これらの例のうち、No.13〜No.18は、静圧での差圧で19kPa以上となるように加圧されており、冷却速度の増大率が10%以上となっており、冷却速度を増大させる効果について更に優れたものが得られている。
【符号の説明】
【0058】
1 :焼鈍炉
3 :金属帯
10 :炉体
10a :搬入口
10b :出側端部
11 :加熱帯
13 :均熱帯
15 :冷却帯
17 :搬送ロール
18 :雰囲気ガス供給装置
19 :スナウト
21 :ガスジェット冷却装置
23 :冷却箱
25 :ノズル
26 :吸込側ダクト
27 :熱交換機
28 :循環ブロワ
29 :吐出側ダクト
31 :シール装置
32 :シール装置群
33 :シールロール
35 :シールプレート
41 :加圧装置
51 :溶融めっき槽
53 :溶融めっき浴
S1 :加圧範囲




【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に搬送される金属帯を炉体の冷却帯で冷却する焼鈍炉において、
前記冷却帯において冷媒ガスを吹き付けて前記金属帯を冷却するガスジェット冷却装置と、
前記炉体において前記冷却帯を含む範囲の入側及び出側に設けられたシール手段と、
前記冷却帯を含む範囲内を加圧するための加圧手段とを備えること
を特徴とする焼鈍炉。
【請求項2】
前記加圧手段は、前記冷却帯の圧力が炉内外の差圧で9.8kPa以上となるように加圧すること
を特徴とする請求項1記載の焼鈍炉。
【請求項3】
前記加圧手段は、前記シール手段を間に挟んだ前記炉体内の低圧側から吸い込んだ炉内雰囲気を加圧して高圧側に向けて吐き出すブロワ又は圧縮機であること
を特徴とする請求項1又は2記載の焼鈍炉。
【請求項4】
前記加圧手段は、前記冷却帯を含む範囲内に雰囲気ガスを供給して当該冷却帯を含む範囲内を加圧する雰囲気ガス供給装置であること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の焼鈍炉。
【請求項5】
前記シール手段は、前記金属帯に近接又は接触して設置されるシール部材により構成されていること
を特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載の焼鈍炉。
【請求項6】
前記炉体は、その一部が液浴中に浸漬されており、
前記シール手段は、前記炉体の内側を気密に封止する前記液浴から構成されていること
を特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載の焼鈍炉。
【請求項7】
前記シール手段は、前記炉体において前記冷却帯の入側及び出側に設けられ、
前記加圧手段は、前記冷却帯のみを加圧すること
を特徴とする請求項1〜6の何れか1項記載の焼鈍炉。
【請求項8】
連続的に搬送される金属帯を炉体の冷却帯で冷却する焼鈍炉における冷却方法において、
前記炉体において前記冷却帯を含む範囲の入側及び出側にシール手段が設けられた当該炉体について、前記冷却帯を含む範囲を加圧した状態で当該冷却帯において冷媒ガスを吹き付けて前記金属帯を冷却すること
を特徴とする焼鈍炉における冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−12692(P2012−12692A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152875(P2010−152875)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】