説明

照射へッド

【課題】 光ファイバへの損傷を防止し、安定したレーザ照射を可能とする光ファイバ照射へッドを提供することにある。
【解決手段】 光ファイバ(2)を固定しているフェルール(3)を円筒状ハウジング(5)の内周面(5b)に沿って円筒状ハウジング(5)の周方向に摺動回転可能、且つ、円筒状ハウジング(5)の軸方向にも摺動可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工機用あるいは医療レーザ用として有用な照射ヘッドに関する。さらに詳しくは、本発明は、レーザ光を光ファイバの光軸に沿って直線的に出射するための照射へッドに関する。
【背景技術】
【0002】
汎用されている光ファイバ照射ヘッド(以下、“照射ヘッド“と略記する。)の一例は図3に示される。この図3において、(1)は照射ヘッドで、保護管(4)から突出した光ファイバの先端部(2)がフェルール(3)で被覆された状態で、円筒状ハウジング(5)に一体的に固定されている。この照射ヘッドは、レーザ照射時には、各種加工物の形状に対応してそれ自身が回転し、さらには回転しながら二次元的または三次元的に移動する。
【0003】
ここで、加工物が大きく、これに伴い、照射へッドの回転量や移動量が増加してくると、光ファイバ本体部へ捩れストレスに加えて引張方向(光ファイバの軸方向)のストレスないし押圧力が波及して印加され、経時的に光ファイバが損傷してしまう。
【0004】
さらに、レーザ光加工においては、無視できない固有の事情がある。すなわち、レーザ光は通常の照明光とは異なり、光ファイバに印加される各種ストレスに敏感に影響される。その結果、レーザビーム幅、波形形状、さらにはビーム強度が変化し、不安定な照射状態が惹起される。
【0005】
上述の固定式照射ヘッドの不利益を部分的に解消した提案も見受けられる。例えば、特許文献1には、照射へッドに接続したロ−タリーコネクターにより、光ファイバ先端部に自由回転機能を付与し、光ファイバの捩れを吸収することが開示されている。
【0006】
しかし、この提案では、上記照射ヘッドをワークチューブの外周面に沿って回転ポジショナーにより旋回移動させることを前提としていることから、この照射へッドの移動に伴って発生する光ファイバ本体引張方向のストレスないし押圧力の影響については言及されておらず、ましてやその対応についても何等教示されていない。
【0007】
【特許文献1】特許第3263585号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の課題は、照射ヘッドの移動方向と移動量に影響されることなく、光ファイバの損傷を防止し、もって安定したレーザ照射を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、光ファイバを固定するためのフェルールに注目した結果、光ファイバ先端部を被覆・固定したフェルールを円筒状ハウジングに、該円筒状ハウジングの中心軸で回転自在にして尚且つ該中心軸に沿って摺動自在に装着することにより、上記課題を解決するに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明の照射へッドは、従来と比較して以下の格別顕著な効果を奏する。
1.円筒状ハウジングを介して、フェルールが自由回転しながら摺動するので、レーザ加工時に光ファイバへ掛かる捻り応力や引張応力あるいは圧縮応力が大幅に緩和される。
2.その結果、レーザビーム幅や強度への影響がなくなるので、高精度で安定したレーザ光照射が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の光ファイバ照射へッドについて、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の光ファイバ照射へッドの一例を示す斜視図である。
図2は、図1の横断面図である。
図3は、従来の照射ヘッドの横断面図である。
【0012】
図1および図2において、(1)は照射へッドである。この照射ヘッド(1)は、光ファイバの先端部(2)を被覆・固定するフェルール(3)、光ファイバの先端部(2)を除く本体部が素通しされた保護管(4)、およびフェルール(3)を素通し状態で装着し且つ保護管(4)の先端部を収納・固定する円筒状ハウジング(5)から構成される。さらに、(3a)はフェルール(3)の外表面、そして、(5a)は円筒状ハウジング(5)の先端部(閉塞端部)で同心円状に穿けられた開口部である。
【0013】
また、図2において、(3b)はフェルール(3)の後端面、(3c)は後端面(3b)の近傍に設けた突起部、(4a)は保護管(4)の先端面、そして(5b)は円筒状ハウジング(5)の内周面である。さらに、(h)は突起部(3c)の高さ、(w)はその幅、(R1)は開口部(5a)の内径、(R2)は円筒状ハウジング(5)の内周面内径、(x)はフェルール(3)の摺動距離、そして、(y)は光ファイバの先端部(2)の引込み距離である。
【0014】
上述の構成において、光ファイバの先端部(2)を被覆・固定しているフェルール(3)は円筒状ハウジング(5)の開口部(5a)に素通し状態にあり、同時に、光ファイバの本体部も保護管(4)に素通しされている。したがって、照射ヘッド(1)が二次元的または三次元的に移動しても、フェルール(3)自体は、該移動に影響されることなく、ハウジング(5)の中心軸(一点鎖線で示す)で自由回転し尚且つ該中心軸に沿って摺動する。しかも、この自由回転および/または摺動運動は光ファイバ本体に限りなく伝播される。その結果、照射ヘッド(1)の移動に伴って、本来は光ファイバへ掛かる捻り応力や引張応力あるいは圧縮応力が可及的に吸収される。
【0015】
ここで、フェルール(3)の自由回転と摺動運動は、図2に示した構造を採ることで、より円滑に進行される。この構造においては、フェルール(3)に設けた径方向の突起部(3c)と円筒状ハウジングの内周面(5b)との間、およびフェルール(3)の外表面(3b)と円筒状ハウジングの開口部(5a)との間に、部分的な摺擦部が形成されている。したがって、フェルール(3)は、摩擦力が大幅に軽減された状態で、円滑に自由回転および/または摺動する。
【0016】
さらに、上述の摺動機構は、二つの付加的機能を発揮する。そのひとつは、突起部(3c)を含む後端面(3b)の面積が円筒状ハウジング(5)の開口部(5a)のそれより大きいので、円筒状ハウジング(5)からのフェルール(3)抜けを防止するストッパー機能を有している。他のひとつは、突起部(3c)を含む後端面(3b)は、最終的に保護管(4)の先端面(4a)と当接するので、円筒状ハウジング(5)からのフェルール(3)の引込み防止機能を有していることである。
【0017】
フェルール(3)の摺動距離(x)については、照射ヘッドのサイズおよび光ファイバの長さに応じて、一般に5mm〜50mmの範囲から適宜設定すればよい。これにより、照射へッドの大きな移動量に対しても十分に追随して、光ファイバへ掛かる捻り応力や引張応力あるいは圧縮応力を吸収しながら緩和する。また、突起部(3c)の高さ(h)は、摩擦力低減と光ファイバの固定性やフェルールの強度を考慮して、0.3mm〜3mm、そして、幅(w)は0.5mm〜10mmの範囲にあるのが好ましい。
【0018】
フェルール(3)の材質としては、滑り性、耐磨耗性、および耐熱性に優れたものが好ましい。具体的には、ポリアミド樹脂やフッ素樹脂等の樹脂材料あるいは、アルミニウム、黄銅、さらにはステンレス等の金属材料が挙げられる。円筒状ハウジング(5)の材質についても、滑り性、耐磨耗性、および放熱性に優れたものが好ましい。具体的には、アルミニウム、銅、黄銅、さらにはステンレス等の金属材料が挙げられる。
【0019】
一方、ハウジング(5)の開口部(5a)の内径(R1)についても、摩擦力低減やハウジングの強度を考慮して、1mm〜30mmの範囲にあるのが好ましい。このとき、開口部(5a)の内径(R1)と円筒状ハウジング(5)の内径(R2)との内径差は十分なストッパー機能を得る意味で、1mm〜5mmの範囲にあるのが好ましい。また、光ファイバ先端部(2)は、レーザビームの側面からの不要な露光を防止するため、あるいは、安全確保のため、さらには光学基準面のずれを極力小さくするため、フェルール(3)の先端面から、(y)=0.05mm〜0.2mmの引込み距離をもって引込まれているのが好ましい。
【0020】
さらに、光ファイバについては、レーザ光照射に適した高耐熱性の石英ガラスあるいは多成分ガラスで構成された光ファイバ素線が使用される。通常、この光ファイバ素線は、その表面保護のために、ポリアミド樹脂、アクリレート樹脂、あるいはフッ素樹脂等の樹脂で被覆されて、実用に供される。保護管(4)についても、通常使用される高屈曲性のスパイラル状ステンレス管、該ステンレス管に合成樹脂を被覆してなる複合管、あるいは合成樹脂管が使用される。
【実施例】
【0021】
光ファイバとして、石英硝子からなる長さ5000mm、コア径0.6mm、クラッド厚さ0.075mmの素線に芳香族系ポリアミド樹脂を厚さ0.325mmで被覆して得た、外径1.4mmのものを使用した。この光ファイバを後述する保護管(4)に素通しその先端面から、該光ファイバを44.4mm突出させて先端部(2)とした。ついで、この先端部(2)の外周に燐青銅からなるフェルール(3)をM2のビス(図示せず)にてビス止めした。フェルール(3)は、外径が6.9mm、内径が1.5mm、長さが32.5mmで、後端面(3b)近傍には、幅(w)が1mmの突起部(3c)を設けた構造とした。また、光ファイバの先端部(2)の引込み距離(y)は0.1mmとした。
【0022】
保護管(4)としては、内径が5mm、厚さが1.55mm そして、長さが4991mmのSUS304製スパイラル管を使用した。また、ハウジング(5)は、図2に示すように、後端面が開放されたアルミニウム製円筒体で形成し、その際、外径は16mm、内径は8.2mm 、長さは70mm、そして、開口部(5a)については内径を7mm、壁面の厚み(ハウジング(5)の先端部厚み)を2mmとした。
【0023】
照射ヘッド(1)を組み立てる際には、まずフェルール(3)をその先端部から開口部(5a)に素通しさせ、保護管(4)の先端面(4a)が開口部(5a)の先端面から12mmの位置にまで内装された状態で、保護管(4)とハウジング(5)をM2ビス(図示せず)にて固定した。このときのフェルール(3)の摺動距離(x)は最大10mmとした。
【0024】
上記の照射へッド(1)を、波長1064nm、ビーム強度が300Wのレーザ加工機に取付け、該ヘッドの水平移動距離を100mm、垂直移動距離を100mm、そして、回転角を360度としてレーザ照射実験を行った。この間、レーザ光の照射状態を観察したが、ビーム幅、波形形状、さらにはビーム強度に変化は認められず、安定な照射状態が得られていた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の照射へッドは、レーザ加工機用あるいは医療レーザ用のみならず電子部品製造工程でのレーザ光照射用機器、さらにはレーザ計測機器へも同様に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の光ファイバ照射へッドの一例を示す斜視図。
【図2】図1の横断面図。
【図3】従来の照射ヘッドの横断面図。
【符号の説明】
【0027】
1 光ファイバ照射へッド
2 光ファイバの先端部
3 フェルール
3a フェルールの外表面
3b
フェルールの後端面
3c フェルール後端面の突起部
4 保護管
4a 保護管の先端面
5 円筒状ハウジング
5a 円筒状ハウジングの開口部
5b 円筒状ハウジングの内周面
h 突起部(3c)の高さ
w 突起部(3c)の幅
R1 開口部の内径
R2 円筒状ハウジングの内径
x フェルールの摺動距離
y フェルールの引込み距離







【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの先端部を被覆・固定しているフェルールが円筒状ハウジングに、該円筒状ハウジングの中心軸で回転自在且つ該中心軸に沿って摺動自在に装着されていることを特徴とする照射へッド。
【請求項2】
該フェルールが、該円筒状ハウジングの先端部に穿けた開口部を通して装着されている請求項1に記載の照射へッド。
【請求項3】
該開口部の径が、該フェルールの外径に相当し且つ該円筒状ハウジングの内径より小さい請求項2に記載の照射へッド。
【請求項4】
該円筒状ハウジングに、光ファイバを素通しした保護管の先端部、および該先端部に対峙して該フェルールの後端部が内装されている請求項2または3に記載の照射へッド。
【請求項5】
該フェルールの後端部に円筒状ハウジングの内周面に当接する突起部を設けた請求項4に記載の照射へッド。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−6476(P2008−6476A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180381(P2006−180381)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】