説明

熱カシメ装置及び熱カシメ方法

【課題】急速加熱・急速冷却を行う熱カシメ装置で、安定的な熱カシメを行う。
【解決手段】熱板に第一のバネを用いてボディ(伝熱部材)を出し入れ自在に設け、ボディに第二のバネを用いて接続部材を出し入れ自在に設け、接続部材の先端にカシメ部材を設けている。カシメ部材をカシメ対象である樹脂製ボスに押し当てていくと、第一と第二のバネは圧縮され、ボディは所定温度に加熱された熱板の中に入り、接続部材はボディの中に入り、ボディと接続部材先端のカシメ部材が密着する。熱板の熱はボディを経てカシメ部材に伝わる。カシメ部材は加熱され、樹脂製ボスを軟化させる。第一と第二のバネはボディとカシメ部材をそれぞれ押圧し、カシメ部材は樹脂製ボスを変形させる。その後、熱板を上昇させ、カシメ部材に加わる押圧力を減少し、ボディとカシメ部材を離し、カシメ部材にエアーを吹き付けて冷却し、カシメ部材を樹脂製ボスから離すようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製ボス等を熱して所定形状に変形させる熱カシメ装置に関し、特に、一度に複数箇所を急速加熱・急速冷却して熱カシメする多点式の熱カシメ装置及び熱カシメ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂製ボス等を熱カシメする熱カシメ装置で、一度に複数箇所の熱カシメを行う場合には、加熱ブロックをヒーターと温度センサを利用して所定温度に加熱し、加熱ブロックに予め埋め込んでおいた熱カシメピンの先端を熱カシメ対象である複数の樹脂製ボスに押し当てていた(例えば、特許文献1参照)。
また、熱カシメピンの先端で樹脂製ボスを熱カシメすると、軟化した樹脂の一部が熱カシメピンの先端に付着したまま引っ張られる、いわゆる糸引き現象を起こす可能性があった。そのため、従来の熱カシメ装置では、熱カシメピンを樹脂製ボスに押し当てた後、熱カシメピンを糸引き現象を生じない温度以下に冷却してから離間させていた。そして、熱カシメの時間を短縮するために、熱カシメピンの先端に強制的にエアー(常温の空気)を吹きつけて冷却していた(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−191034号公報
【特許文献2】特開2001-310392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一度に複数箇所の熱カシメを行うには、複数の熱カシメピン先端のカシメ部材の温度が均一であることが望ましい。一方で、カシメ部材を樹脂製ボス等から離すときに糸引き現象を起こさないために、カシメ部材の温度を糸引き現象がおきない温度まで冷す必要がある。そのため、熱カシメ装置としては、熱カシメピンを埋め込んだ加熱ブロックを所定温度まで加熱して熱カシメをしたのち、一度急速冷却し、再び急速加熱してカシメ部材の温度を所定温度に戻す必要があった。
【0005】
熱カシメ装置としては、複雑な温度管理を必要としないものが望まれる。例えば、加熱ブロックの温度を所定の温度に保って、所定のタイミングかつ所定のストロークで加熱ブロックを往復動し、所定のタイミングでエアーを吹きつければ、安定的に複数箇所の熱カシメを行なえる熱カシメ装置があればよい。
しかし、特許文献1では熱源である加熱ブロックと熱カシメピンが常に一体をなしていることから熱カシメピンの冷却と加熱に時間を要するという問題がある。また、特許文献2では、熱風を吹き付けることで取付用ボスを加熱軟化させ、冷風を吹付けて冷却しているが、熱風と冷風の吹き付けでは加熱と冷却に時間がかり、温度の偏りもできる等の問題がある。
【0006】
本発明は、加熱ブロックのカシメ部材を急速加熱、急速冷却して、糸引き現象を生じさせない熱カシメを安定的に繰り返して行えるようにした熱カシメ装置と熱カシメ方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による熱カシメ装置は、熱板に第一のバネを用いてボディ(伝熱部材)を出し入れ自在に設け、ボディに第二のバネを用いて接続部材を出し入れ自在に設け、接続部材の先端にカシメ部材を設けて熱カシメ部を構成している。そして、カシメ部材をカシメ対象である樹脂製ボスに押し当てて、第一と第二のバネをそれぞれ圧縮することにより、ボディを所定温度に加熱された熱板の中に入れ、接続部材をボディの中に入れ、ボディと接続部材先端につけたカシメ部材を密着させて、熱板の熱をボディからカシメ部材に伝え、樹脂製ボスを加熱して軟化させ、所定形状に変形させている。その後、熱板を上昇させ、第一と第二のバネの押圧力によってボディとカシメ部材を離し、カシメ部材にエアーを吹き付けて冷却してから、カシメ部材を樹脂製ボスから離すようにしている。
【0008】
このことにより、加熱ブロックの温度を所定の温度に保って、所定のタイミングかつ所定のストロークで往復動し、所定のタイミングでエアーを吹きつければ、安定的に複数箇所の熱カシメを行なえる熱カシメ装置と熱カシメ方法が実現できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明による熱カシメ装置と熱カシメ方法によれば、熱カシメ部の先端に設けたカシメ部材を安定的に急速加熱・急速冷却して糸引き現象を防ぐとともに、カシメ部材の温度を均一に保って、複数の熱カシメ対象である樹脂製ボスの熱カシメを安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の熱カシメ装置の熱板と、熱カシメ部と、カシメ対象物とそれを載置するアンビルと、冷却用エアーノズルの位置関係を示した一部を断面にした側面図。
【図2】本発明の熱カシメ装置の熱カシメ部の部分断面図。
【図3】(a)本発明の熱カシメ装置のカシメ部材の下降工程を示す部分断面図(b)本発明の熱カシメ装置のカシメ部材の押圧工程を示す部分断面図(c)本発明の熱カシメ装置のカシメ部材の押圧工程を示す部分断面図(d)本発明の熱カシメ装置のカシメ部材の加熱工程を示す部分断面図(e)本発明の熱カシメ装置のカシメ部材の熱カシメ工程を示す部分断面図。
【図4】(f)本発明の熱カシメ装置のカシメ部材の上昇工程を示す部分断面図(g)本発明の熱カシメ装置のカシメ部材の上昇工程を示す部分断面図(h)本発明の熱カシメ装置のカシメ部材の冷却工程を示す部分断面図(i)本発明の熱カシメ装置のカシメ部材の熱カシメ作業を終了した状態を示す部分断面図。
【図5】本発明の熱カシメ装置のカシメ部材の温度変化と押圧力変化を示すグラフ。
【図6】本発明の熱カシメ装置の熱カシメ部を樹脂製ボスに当接したときの部分断面図。
【図7】本発明の熱カシメ装置の熱カシメ部をエアーで冷却するときの部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施の形態1)
以下、本発明を実施するための形態を図面とともに説明する。図1は、本発明の熱カシメ装置の要部について、熱板1、2と、熱カシメ部3と、熱カシメ対象を載置するアンビル7、熱カシメ対象である樹脂製ボス付き樹脂板8、樹脂製ボス付き樹脂板8の上に重ねて熱カシメ固定するカバーシート10、カシメ部材を冷却するエアーノズル11の位置関係がわかるように一部を断面として示した側面図である。
【0012】
図1において、熱板は上方の熱板1と下方の熱板2の2つのブロックからなる。上方の熱板1にはシーズヒーター4(発熱手段)を複数個、所定の間隔をあけて埋め込んでいる。また、熱板1には温度センサ5も埋め込んでいる。シーズヒーター4と温度センサ5を利用して、図示しない温度制御装置によって熱板1を所定温度に加熱し、所定温度を保つようにしている。なお、当該所定温度は180℃から280℃程度の温度で、少なくとも樹脂製ボス付き樹脂板8の融点以上の温度である。下方の熱板2には、熱カシメ部3を複数個、熱カシメ対象である樹脂製ボス9に対向する位置に埋め込んでいる。なお、上方の熱板1と下方の熱板2は、図示しないボルト等の締結部材で互いに密着した形に一体化しているため、下方の熱板2の温度は、熱板1とともに所定温度に保たれる。
【0013】
一体化した熱板1、2は、全体を図示していないプレス機本体に対して上下動するスライダー6a、6bで挟持され、スライダー6a、6bの下方に突出しているフック6c、6dで下面が支持されている。一体化した熱板1、2はスライダー6a、6bの上下動に従って、所定のタイミングとストロークで上下動する。
7は、熱カシメ対象である樹脂製ボス付き樹脂板8を載置するアンビルであり、アンビル7の上に樹脂製ボス付き樹脂板8を、樹脂製ボス9を上向きにした状態で載置する。樹脂製ボス付き樹脂板8の上には、樹脂製ボス9に対向する位置に孔のあいたカバーシート10を重ねて、樹脂製ボス9の先端を突出させる。図1では、樹脂製ボス付き樹脂板8の上面に突出した複数個の樹脂製ボス9に対向する位置に、先端にカシメ部材を有する熱カシメ部3を配置している。
【0014】
プレス機のスライダー6a、6bは、一体化して所定温度に保たれた熱板1、2を上下動させ、熱板2の下面に突出して設けた熱カシメ部3の先端のカシメ部材でアンビル7上に載置した樹脂製ボス付き樹脂板8の樹脂製ボス9を押圧するようにしている。なお、プレス機のスライダー6a、6bは熱カシメ部3の先端のカシメ部材が、アンビル7上に載置した樹脂製ボス付き樹脂板8の樹脂製ボス9を押圧した位置で一旦停止し、熱カシメ部3で熱カシメした後、再び上昇するようにしている。
【0015】
図1の11は、熱カシメ部3の先端のカシメ部材にエアー(例えば、常温の空気)を吹きつけるエアーノズルである。図示しない圧縮空気送出手段により、エアーノズル11から所定量のエアーを間欠的に吹きつけるようにしている。エアーを吹きつけるタイミングは、熱カシメ部3の先端のカシメ部材が、アンビル7上に載置した樹脂製ボス付き樹脂板8の樹脂製ボス9を押圧し、樹脂製ボス9が軟化して所定形状に変形した後にしている。
【0016】
図2に、本発明の熱カシメ装置の熱カシメ部3の詳細な部分断面図を示す。図2では、樹脂製ボス付き樹脂板8と熱カシメ部3が離れている状態を示している。また図2は、ボディ(伝熱部材)33と接続部材34が最も下の位置まで下がった状態を示している。
図2で、熱カシメ部3は、一体化した熱板1、2の下方の熱板2に埋め込んである。すなわち、熱板2には、上方に内径の大きい孔21をあけ、下方に内径の小さい孔22をあけている。上方の孔21には第一のバネ32を入れ、下方の孔22にはボディ33を入れて上下にスライドできるようにしている。ボディ33は内部に段付き孔をあけ、段付き孔の上部に雌ネジを切って、この雌ネジにキャップ31をねじ込み固定している。そのため、ボディ33は下方の孔22をスライドするものの上部にねじ込み固定したキャップ31の上面に第一のバネ32の押圧力を受け、下方に押し付けられている。
【0017】
ボディ33内部の段付き孔には、段付き円柱状の接続部材34を入れ、接続部材34の上方に第二のバネ35を入れて、キャップ31で第二のバネ35を押さえるようにしている。そのため、接続部材34は、ボディ33内部の段付き孔を上下にスライドするものの第二のバネ35の押圧力を受け、下方に押し付けられている。なお、第二のバネ35は第一のバネ32より押圧力(弾性力)が低い。接続部材34の先端には、カシメ部材36を取り付けている。カシメ部材36の下面には、樹脂製ボス9を所定形状に変形させるための凹部を形成している。
【0018】
なお、ボディ33とカシメ部材36の材料には銅を用い、接続部材34の材料にはチタン合金を用いている。ちなみに、銅の熱伝導率は、403W/m・Kであり、チタン合金の熱伝導率は21.9W/m・Kであるといわれている。このように、ボディ33とカシメ部材36の材料に同じ材料である銅を用いて、ボディ33とカシメ部材36が接したときに熱を伝えやすくしている。また、接続部材34の材料にチタン合金を用いて、ボディ33とカシメ部材36を離した際に、ボディ33からカシメ部材36へ熱を伝えにくくしている。
【0019】
本発明にかかる熱カシメ装置は、上記のような構成をとることにより、熱板1、2と熱カシメ部3の温度を所定の温度に保って、所定のタイミングかつ所定のストロークで往復動させ、複数箇所の熱カシメを同時にかつ安定的に行なうようにしている。
特に、本発明は、熱板1、2を所定のストロークで往復動するときに、熱カシメ部3内のボディ33とカシメ部材36の相対的位置関係を変化させることにより、カシメ部材36の急速加熱と急速冷却をしやすくしている。図3と図4に、本発明の熱カシメ装置の工程図を示し、図5に、本発明の熱カシメ装置のカシメ部材の各工程の温度変化と押圧力変化をグラフで示した。図5の横軸は時間軸(t)、左縦軸はカシメ部材の温度(T)、右縦軸はカシメ部材が樹脂製ボスの上端を押す押圧力(P)を示している。以下、図3と図4を図5と対比しながら、熱板1、2と、ボディ33と、カシメ部材36の相対的位置関係の変化を説明する。
【0020】
図3(a)は、本発明の熱カシメ装置の熱板1、2の下降に伴って、カシメ部材36が下降を始めた状態を示している。ボディ33と接続部材34はそれぞれ第一のバネ32と第二のバネ35により押し下げられて、熱板2から最も下まで出た位置にある。なお、このときのボディ33の突出量、すなわち下方の熱板2下端面からボディ33の下端面までの長さをL1とし、接続部材34の突出量、すなわちボディ33の下端面からカシメ部材36上端面までの長さをL2とする。所定温度に保たれた熱板1、2の熱は、ボディ33に伝わり、ボディ33は熱板1、2と同等の温度に保たれる。カシメ部材36は、ボディ33と離れているため、熱板1、2の熱は直接的に伝わらず、接続部材34を介して伝わる熱を得て、熱板1、2より低い温度T0に暖められている。図3(a)の状態は、図5でいうと横軸上の(a)点の状態に相当する。
【0021】
図3(b)は、本発明の熱カシメ装置の熱板1、2の下降に伴って、熱カシメ部3が下降し、カシメ部材36が樹脂製ボス9の上端に当接したときの状態を示している。ボディ33及び接続部材34の突出量は上記図3(a)同様L1、L2である。このとき、熱板1、2の熱はボディ33から接続部材34に伝わり、接続部材34からカシメ部材36に伝わるため、カシメ部材36の温度(T)はまだ低く、樹脂製ボス9を軟化させるほどの温度にはなっていない。図3(b)の状態は、図5でいうと横軸上の(b)点の状態に相当する。
【0022】
図3(c)は、本発明の熱カシメ装置の熱板1、2の下降に伴って、熱カシメ部3が更に下降し、ボディ33の中に接続部材34が入っていく状態を示しており、ボディ33の突出量はL1のままで、接続部材34の突出量がL2からL3まで減少している。ボディ33に覆われる接続部材34の長さが増えるにつれて、ボディ33と接続部材34の接触面積が増えて、ボディ33から接続部材34を経由してカシメ部材36に伝わる熱量は増え、温度は上昇する。また、第一のバネ32と第二のバネ35が圧縮されるので、カシメ部材36が樹脂製ボス9の上端を押す押圧力(P)は上昇する。図3(c)の状態は、図5でいうと横軸上の(c)点の状態に相当する。
【0023】
図3(d)は、本発明の熱カシメ装置の熱板1、2の下降に伴って、熱カシメ部3が更に下降し、ボディ33の中に接続部材34が全て入って、ボディ33の下端面がカシメ部材36の上端面に接した状態を示している。このとき、接続部材34の突出量は0(ゼロ)となり、ボディ33の突出量はL1からL4に減少している。熱板1、2はここまで下降した位置を定位置として停止する。熱板1、2の熱はボディ33からカシメ部材36に直接伝わり始める。既に説明したようにボディ33とカシメ部材36は同じ材料(銅)を用いているため、熱伝達が効率よく行われ、カシメ部材36は、熱板1、2の熱をボディ33から得て温度は上がり、カシメ部材36の温度が樹脂製ボス9の融点に達することで樹脂製ボス9を軟化し始める。熱板1、2は定位置に停止していても、樹脂製ボス9が軟化するとカシメ部材36は、第一のバネ32と第二のバネ35により下方に押されているため、第一のバネ32と第二のバネ35の押圧力により、カシメ部材36は樹脂製ボス9を押し下げ、カシメ部材36の下面に形成した凹部の形に変形させる。図3(d)の状態は、図5でいうと横軸上の(d)点の状態に相当する。図6に図3(d)の拡大図を示す。
【0024】
図3(e)は、本発明の熱カシメ装置のカシメ部材36の熱により、樹脂製ボス9が軟化して変形し終えたときの状態を示している。図3(e)では、熱板1、2は図3(d)に示した定位置で停止したままで動かず、ボディ33とカシメ部材36が一体となって下降し、樹脂製ボス9を押し下げている。つまり、接続部材34の突出量は0(ゼロ)のままで、ボディ33の突出量はL4からL5に樹脂製ボス9が押し下げられた分増加する。図3(e)の状態は、図5でいうと横軸上の(e)点の状態に相当する。
【0025】
このように本発明は、熱板1、2に直接接触しているボディ33で接続部材34を徐々に覆ってカシメ部材36を加熱し、ついにはボディ33をカシメ部材36に直接接触させて急速加熱し、樹脂製ボス9が軟化する温度にまで高める。そして主として第一のバネ32の押圧力でボディ33とカシメ部材36を押し下げて樹脂製ボス9を所定形状に変形させている。
【0026】
言い換えると、本発明の熱カシメ装置は、熱板1、2を下降させ、熱カシメ部3のボディ33と接続部材34、ボディ33とカシメ部材36の相対位置をストロークに応じて自動的に変化させてカシメ部材36に伝える熱量をコントロールし、カシメ部材36を加熱している。また、カシメ部材36が所定温度になった後は、熱板1、2の位置はそのままで、主として第一のバネ32の押圧力でボディ33とカシメ部材36を押し下げて樹脂製ボス9を熱カシメしている。このような構成の熱カシメ部を複数備えることで、一度に複数個所の熱カシメを行っても、カシメ部材36の温度と圧力のばらつきは少なく、安定的な熱カシメができる。
【0027】
図4(f)は、本発明の熱カシメ装置の熱板1、2を上昇させ始めた状態を示している。このとき、本発明では第一のバネ32でボディ33を引き続き押し下げ、カシメ部材36で樹脂製ボス9を押さえた状態、すなわち接続部材34の突出量0(ゼロ)、ボディ33の突出量L5を保っている。そのため、熱板1、2を上昇させても、カシメ部材36は樹脂製ボス9から離れない。図4(f)の状態は、図5でいうと横軸上の(f)点の状態に相当する。
【0028】
図4(g)は、本発明の熱カシメ装置の熱板1、2を更に上昇させたときの状態を示している。熱板1、2の上昇に伴い、ボディ33の突出量がL1に達した後、熱カシメ部3のボディ33はカシメ部材36から離れ(図4(g)では接続部材34の突出量が0(ゼロ)からL6になり)、熱板1、2の熱はカシメ部材36に直接伝わらなくなる。図4(g)の状態は、図5でいうと横軸上の(g)点の状態に相当する。
【0029】
図4(h)は、本発明の熱カシメ装置の熱板1、2を更に上昇させ、第二のバネ35によりカシメ部材36で樹脂製ボス9をある程度の押圧力で押さえたまま、熱カシメ部3のボディ33をカシメ部材36から離し(接続部材34の突出量をL6からL7に増加し)、図示しない圧縮空気送出手段でエアーノズル11からカシメ部材36にエアーを吹きつけている状態を示す。エアーは専らカシメ部材36を冷却する。このとき、熱板1、2の熱はカシメ部材36に伝わりにくくなっており、エアーを吹きつけることによりカシメ部材36は急速冷却される。図4(h)の状態は、図5でいうと横軸上の(h)点の状態に相当する。
【0030】
図7に、本発明の熱カシメ装置の熱カシメ部3をエアーで冷却する図4(h)の拡大図を示す。図7の状態では、熱板1、2が上昇して、ボディ33とカシメ部材36が離れている。カシメ部材36の熱は、樹脂製ボス9を軟化させ変形させるのに費やされてしまうため、カシメ部材36の温度は既に低下しはじめている。そこに、エアーノズル11からエアー(例えば常温の空気、または低温に冷やした冷気)を吹きつけて、カシメ部材36を糸引き現象の起きる温度以下まで急速冷却する。エアーノズル11からエアーを吹きつけても、カシメ部材36とボディ33は離れており、エアーはボディ33に吹付けることはなく、接続部材34は熱伝導率が小さいため、ボディ33のから奪われる熱量は限定的なものにとどまる。その状態で、カシメ部材36が糸引き現象の起きる温度以下まで冷却されると、熱板1、2を上昇させてカシメ部材36を樹脂製ボス9の表面から糸引き現象を起こすことなく離すことができる。
【0031】
図4(i)は、本発明の熱カシメ装置のカシメ部材にエアーを吹きつけて冷却した後、熱板1、2を更に上昇させて、熱カシメ作業を終了した状態を示している。つまり、ボディ33の突出量及び接続部材34の突出量は上記図3(a)同様L1、L2に戻る。熱板1、2は所定温度に保つよう温度管理されているため、その後、ボディ33の温度も所定温度に戻り、次の熱カシメ作業を待つことになる。図4(i)の状態は、図5でいうと横軸上の(i)点の状態に相当する。
【0032】
以上説明したように、本発明の熱カシメ装置と熱カシメ方法は、熱板1、2の温度を所定の温度に保って、所定のタイミングかつ所定のストロークで熱板1、2をカシメ部材に対して往復動し、所定のタイミングでエアーを吹きつけることにより、安定的に複数箇所の熱カシメを行なうことができる。本発明は、カシメ部材36を急速加熱、急速冷却して糸引き現象を生じさせない熱カシメを、複数箇所のカシメ部材に対して安定的に繰り返して行えるようにしている。
【0033】
特に、本発明の熱カシメ装置と熱カシメ方法は、第一のバネと第二のバネを用いているので、複数箇所の熱カシメ対象部分の位置関係や加熱条件に変動があっても、それらの違いを吸収して同時かつ安定的に複数個所の熱カシメを行うことができる。
また、上記の説明では、熱板1、2をプレス機に取り付けた場合を説明したが、本発明にかかる熱カシメ装置をロボットアームに取り付けて、熱カシメ対象の部位を押圧する往復動作を行えば、立体的に角度のある斜面の部位の熱カシメであっても安定的に行うことができる。
【0034】
また、第一のバネと第二のバネを強さの違う他のバネと交換して組み替えることにより、他の熱カシメ条件に対応した熱カシメ装置として使うことができる。更に、ボディと接続部材、カシメ部材について長さの異なる交換用ボディ、交換用接続部材、交換用カシメ部材を準備しておいて、他の熱カシメ条件に応じてそれらを組み替えて使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、単一の特定部分の樹脂製ボスの熱カシメはもとより、複数個所の樹脂製ボスの熱カシメが可能であり、プレス機のアンビル上に載置した樹脂製ボスだけでなく、立体的に角度のある斜面の部位の熱カシメにも適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1、2 熱板
3 熱カシメ部
4 シーズヒーター
5 温度センサ
6a、6b スライダー
7 アンビル
8 樹脂製ボス付き樹脂板
9 樹脂製ボス
10 カバーシート
11 エアーノズル
31 キャップ
32 第一のバネ
33 ボディ
34 接続部材
35 第二のバネ
36 カシメ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱手段により加熱される熱板内に第一のバネを用いて伝熱部材を出し入れ自在に設け、
前記伝熱部材内に前記第一のバネよりも押圧力の弱い第二のバネを用いて接続部材を出し入れ自在に設け、
前記接続部材の先端に、前記伝熱部材と接触することで前記熱板の熱が伝達され、カシメ対象である樹脂製ボスを熱カシメするカシメ部材を設けて熱カシメ部を構成し、
前記カシメ部材にエアーを吹き付けるエアーノズルを設け、
前記発熱手段により加熱された熱板を前記樹脂製ボス側に移動させ、前記カシメ部材を前記樹脂製ボスに押し当てて、前記第二のバネを圧縮し前記伝熱部材と前記カシメ部材とを当接させることで当該伝熱部材を介して前記熱板の熱を前記カシメ部材へ伝達し、その後前記第一のバネの押圧力を加えることにより前記樹脂製ボスを熱カシメするよう構成するとともに、
その後、前記熱板を前記樹脂製ボスから離す方向に移動させ、前記カシメ部材に加わっていた押圧力を減少させ前記伝熱部材と前記カシメ部材を離し、前記エアーノズルより前記カシメ部材にエアーを吹き付けて、前記カシメ部材を前記樹脂製ボスから離すように構成したことを特徴とする熱カシメ装置。
【請求項2】
前記熱カシメ部の前記接続部材の熱伝導率を、前記伝熱部材と前記カシメ部材の熱伝導率より小さくしたことを特徴とする請求項1の熱カシメ装置。
【請求項3】
前記熱板に、複数の前記熱カシメ部を配置して複数の樹脂製ボスを同時に熱カシメするよう構成した請求項1または請求項2のいずれかに記載の熱カシメ装置。
【請求項4】
(1)発熱手段により加熱される熱板内に第一のバネを用いて伝熱部材を出し入れ自在に設け、前記伝熱部材に第二のバネを用いて接続部材を出し入れ自在に設け、前記接続部材の先端にカシメ部材を設けて熱カシメ部を構成した熱カシメ装置を用い、
(2)前記熱板を前記樹脂製ボス側に移動させ、前記カシメ部材をカシメ対象である樹脂製ボスに押し当てて、
(3)前記第二のバネを圧縮し、前記伝熱部材を前記発熱手段により所定温度に加熱した熱板の中に入れ、前記伝熱部材と前記カシメ部材を当接させ、前記熱板の熱を前記伝熱部材から前記カシメ部材に伝えて前記カシメ部材を加熱し、
(4)前記樹脂製ボスを軟化させ、前記第一のバネの押圧力を加えることで、前記カシメ部材が前記樹脂製ボスを熱カシメし、
(5)前記熱板を上昇させ、前記カシメ部材に加わっていた押圧力を減少し、伝熱部材とカシメ部材を離し、
(6)前記カシメ部材にエアーを吹き付けて冷却し、
(7)前記カシメ部材を前記樹脂製ボスから離すようにしたことを特徴とする熱カシメ方法。
【請求項5】
前記熱カシメ部の前記接続部材の熱伝導率を、前記伝熱部材と前記カシメ部材の熱伝導率より小さくした熱カシメ装置を用いることとした請求項4記載の熱カシメ方法。
【請求項6】
前記熱板に、複数の前記熱カシメ部を配置して複数の樹脂製ボスを同時に熱カシメするようにした請求項4または請求項5のいずれかに記載の熱カシメ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−148261(P2011−148261A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13134(P2010−13134)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000195649)精電舎電子工業株式会社 (27)
【出願人】(398030805)株式会社アーデル精工 (3)
【Fターム(参考)】