説明

熱交換用多穴チューブ

【課題】車両用インタークーラに用いられる熱交換用多穴チューブにおいて、熱膨張しようとする力を低減して、熱歪みによるインタークーラの破損を防止することができ、かつ、従来の押出し成形による製造が可能な構造を提供する。
【解決手段】平板状の上下壁及び断面略半円状の左右側壁を有する扁平管と、この扁平管の上下壁の間において長手方向に延在する多数の仕切板とからなり、この仕切板によって仕切られた多数の気体通路を有する熱交換用多穴チューブにおいて、上記仕切板を左右方向に屈曲した断面くの字状に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に車両等に搭載されるインタークーラに用いられ、過給器により圧縮され高温となった空気を内部に流通させて周囲の冷却流体との間で熱交換を行い、圧縮空気を冷却する熱交換用多穴チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両等のインタークーラに用いられる熱交換用チューブには、押出し成形されたアルミ製の多穴チューブが多く用いられている。
【0003】
図6に示すように、このようなインタークーラ用の多穴チューブ11は、一般的に0.4mm〜0.6mmの板厚の上下壁2、2および左右側壁3、3を有する中空の扁平管4の中に、0.3mm〜0.6mmの仕切板12を幅方向に等間隔で多数設置している。それぞれの仕切板12は扁平管の上下壁2、2間に直立して設けられ、管内を多数の気体通路に仕切っている。
【0004】
図8に示すように、多数の多穴チューブ11とフィン(図示せず)とを交互に積層し、多穴チューブ11を入口側および出口側の端部で、多数の孔を有するエンドプレート13、13にそれぞれ貫装して束ね、インタークーラのコア部が形成される。
過給器により圧縮されて高温となった空気(圧縮空気)は、入口側で分岐してそれぞれの多穴チューブ11の仕切られた気体通路を流通し、出口側で再び合流する。一方、空気等の冷却流体はフィンに沿って多穴チューブ11同士の間を圧縮空気と交差方向に流れ、圧縮空気を冷却する。
【0005】
近年、エンジンの高性能化を図るために用いられる過給器の過給圧が増大し、この過給器により空気が圧縮されて高温となるため、これを冷却するインタークーラの熱交換性能を向上させる必要がある。このため、インタークーラが大型化または改良され、インタークーラに使用される多穴チューブにも様々な工夫がなされている。
例えば、図7に示すように、多穴チューブ11の上下壁2、2の内面及び仕切板12に多数の突条14を突出させるなど、表面積を増大させて、空気等の冷却流体と高温の圧縮空気との熱交換効率を上げる工夫がなされている。特許文献1には、気体通路の断面の直径や上下壁の突条の本数を最適化したものが記載されている。
【0006】
このように従来のインタークーラ用の多穴チューブ11では、高温の圧縮空気が効率良く冷却されてインタークーラ内を流れるように、入口側のヘッダー(図示せず)の内部形状、多穴チューブ11内の仕切板12や突条14の形状および設置方法を工夫し、熱交換性能を向上させていた。
しかし、過給圧の増大による圧縮空気の高温化に伴い、この圧縮空気が流れ込む多穴チューブ11の出入口の付近で、多穴チューブとエンドプレートとの接合部が熱歪みにより破損する問題が発生していた。
【0007】
高温の圧縮空気が流入すると、図9中の白矢印のように、熱膨張によって多穴チューブ11に長手方向、幅方向および厚さ方向の伸びが発生する。
また、長手方向におけるエンドプレート13の位置は両端のヘッダー(図示せず)によって固定されており、また、エンドプレート13の孔の大きさおよび間隔が固定されている。このため、多穴チューブ11が長手方向に膨張する際には、図9中の黒矢印のように、エンドプレート13から伸長を抑制する応力が加わる。また、多穴チューブ11が幅方向および厚さ方向に膨張する際にも、エンドプレート13から膨張を抑制する応力が加わる。
【0008】
このように、高温の圧縮空気が流れ込み多穴チューブ11およびエンドプレート13に熱膨張が発生すると、全ての力が多穴チューブ11とエンドプレート13との接合部に集中して、強い熱歪みを発生させていた。
一方、インタークーラに圧縮空気が流れなくなるとこれらの力が発生しないため、多穴チューブ11とエンドプレート13とが収縮する。このような伸縮の繰り返しによって、剛性の高い多穴チューブ11を用いても、エンドプレート13と多穴チューブ11の側面との接合部付近に破損が発生することがあった。
【0009】
長手方向および幅方向の膨張に関しては、エンドプレート13を変形しやすくするなどして多穴チューブ11の熱膨張を吸収できる構造も考えられている。しかし、厚さ方向の膨張に関しては、エンドプレート13の孔の大きさおよび間隔が固定されているためエンドプレート側の対策は難しく、多穴チューブ11における対策が必要になっている。
【0010】
これに対応するために、多穴チューブ11の板厚を増して剛性を上げる対策がとられていたが、多穴チューブ11の板厚が増すことにより使用する材料が増加し、重量増やコスト増となっていた。また、多穴チューブ11の板厚を増大させると、気体通路が狭くなってガス抵抗が悪化し、インタークーラの重要な特性である熱交換性能が低下する。また、多穴チューブ11の板厚を増すことで剛性が上がる反面、高温になった空気が流入する際に長手方向および厚さ方向に膨張する力も大きくなる。
【0011】
特許文献2には、一枚の板状素材を屈曲させて成形する熱交換用チューブにおいて、左右側壁の熱歪みによる破損を防止するために、屈曲によって一方の側壁を形成する際に、内側に突出するように折り込まれた折込部を設けて剛性を高めたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−318086号公報
【特許文献2】特開2007−155300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、車両用インタークーラに用いられる熱交換用多穴チューブにおいて、熱膨張しようとする力を低減して、熱歪みによるインタークーラの破損を防止することができ、かつ、従来の押出し成形による製造が可能な構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明において、上記課題が解決される手段は以下の通りである。
第1の発明は、平板状の上下壁及び断面略半円状の左右側壁を有する扁平管と、この扁平管の上下壁の間において長手方向に延在する多数の仕切板とからなり、この仕切板によって仕切られた多数の気体通路を有する熱交換用多穴チューブにおいて、上記仕切板を左右方向に屈曲した断面くの字状に形成したことを特徴とする。
第2の発明は、上記扁平管の左右方向両端と中央には、垂直な補強板を設けたことを特徴とする。
【0015】
第3の発明は、平板状の上下壁及び断面略半円状の左右側壁を有する扁平管と、この扁平管の上下壁の間において長手方向に延在する多数の仕切板とからなり、この仕切板によって仕切られた多数の気体通路を有する熱交換用多穴チューブにおいて、上記仕切板を、左右方向に交互に複数回折り曲げた断面ジグザグ状に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、上記仕切板を左右方向に屈曲した断面くの字状に形成したことにより、高温の圧縮空気が流れるときの多穴チューブの厚さ方向への膨張、および圧縮空気の流れを止めた後の多穴チューブの収縮の際の力を、断面くの字状の仕切板が屈伸することで低減することができ、熱歪みの繰り返しによるインタークーラなどの熱交換器の破損を防止することができる。
【0017】
また、仕切板を断面くの字状に形成したことにより、多穴チューブ内面の熱交換面積が大きくなるため、熱交換性能も向上させることができる。
さらに、仕切板を断面くの字状にするためには特別な製造工程を必要とせず、従来の多穴チューブと同様に押出し成型によって製造することができる。
【0018】
第2の発明によれば、上記扁平管の左右方向両端と中央には、垂直な補強板を設けたことにより、多穴チューブの左右の幅が長いときなど厚さ方向の強度が必要となる場合にも、補強板によって多穴チューブの厚さ方向の剛性を高めることができる。
【0019】
第3の発明によれば、上記仕切板を、左右方向に交互に複数回折り曲げた断面ジグザグ状に形成したことにより、高温の圧縮空気が流れるときの多穴チューブの厚さ方向への膨張、および圧縮空気の流れを止めた後の多穴チューブの収縮の際の力を、断面ジグザグ状の仕切板が伸縮することで低減することができ、熱歪みの繰り返しによるインタークーラなどの熱交換器の破損を防止することができる。
【0020】
また、仕切板を断面ジグザグ状に形成したことにより、多穴チューブ内面の熱交換面積が大きくなるため、熱交換性能も向上させることができる。
さらに、仕切板を断面ジグザグ状にするためには特別な製造工程を必要とせず、従来の多穴チューブと同様に押出し成型によって製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る多穴チューブの正面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る多穴チューブの正面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る多穴チューブの正面図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係る多穴チューブ(仕切板の波が多いタイプ)の正面図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る多穴チューブ(仕切板の波が少ないタイプ)の正面図である。
【図6】従来の多穴チューブの正面図である。
【図7】従来の多穴チューブ(突起あり)の正面図である。
【図8】従来のインタークーラを示す斜視図である。
【図9】従来のインタークーラの部分拡大断面図であり、(a)はA−A断面図、(b)はB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る熱交換用多穴チューブについて説明する。
図1は第1実施形態に係る多穴チューブの正面図である。
【0023】
<第1実施形態>
図1に示すようなアルミ製の多穴チューブ1は、0.3mm〜0.6mmの板厚を有する平板状の上下壁2、2と、0.3〜0.6mmの板厚を有する断面略半円状の左右側壁3、3とからなる扁平管4の内部に、0.2mm〜0.6mmの板厚を有して上下壁の間に介在する多数の仕切板5を備え、全体を押出し成型することによって形成している。これにより多穴チューブ1は、互いに仕切られて並行する複数の圧縮空気用の気体通路を有している。
厚さ方向の剛性を確保するため、左右の側壁3は上下壁2よりも厚手に形成される。
【0024】
この多穴チューブ1とフィン(図示せず)とを交互に多数積層して、多数の孔を設けたエンドプレート13に貫装して束ねることで、インタークーラのコア部が構成される(図8参照)。
【0025】
上記仕切板5は、それぞれ垂直な板を右または左に屈曲した断面くの字状に形成されて長手方向に延在している。隣り合う仕切板5同士は互いに逆向きに屈曲しており、多穴チューブ内では右に凸に屈曲した仕切板5と左に凸に屈曲した仕切板5とが交互に並んでいる。
【0026】
これにより、高温になった多穴チューブ1の仕切板5で厚さ方向に膨張が発生しても、仕切板5が深く屈曲することで吸収することができ、多穴チューブ1が厚さ方向に膨張する力を低減することができる。また、圧縮空気を流すのを止め多穴チューブ1が比較的低温な状態になった場合には、仕切板5が収縮して元の浅い位置、角度に戻る。このように仕切板5が屈伸することで熱歪みを発生させる力を低減し、インタークーラの破損を防止することができる。
【0027】
また、仕切板5を断面くの字状に形成したことにより、図6のような垂直な仕切板を設けた場合に比べ、多穴チューブ1内面の熱交換面積が大きくなるため、熱交換性能も向上させることができる。
さらに、仕切板5を断面くの字状にするためには特別な製造工程を必要とせず、従来の多穴チューブと同様に押出し成型によって製造することができる。
【0028】
このような仕切板5の傾斜の角度は、大きく設定しすぎると剛性が増して変形しづらくなり膨張する力を吸収しづらくなるため、多穴チューブ1の形状ごとに発生する熱歪みの大きさに応じて角度を調節して設定する。
また、各仕切板5にはくの字状の屈曲箇所を1箇所設けているが、2箇所以上で屈曲させて形成してもよい。
【0029】
<第2実施形態>
また、図2に示すように、上記仕切板5の向きおよび並びを、扁平管4の左右方向中央を境として、左右方向外方に凸に屈曲したくの字状に形成してもよい。
この多穴チューブ6では、扁平管4の左右方向中央部よりも左側に配置される仕切板5は左に凸に屈曲させて形成され、右側に配置される仕切板5は右に凸に屈曲させて形成されている。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0030】
<第3実施形態>
多穴チューブの左右の幅が長いときなど厚さ方向の強度が必要な場合には、扁平管の左右方向両端と中央に垂直な補強板を設けてもよい。
この実施形態では、図3に示すように、第2実施形態と同様の多穴チューブ7において、左右の端の仕切板5の更に外側にそれぞれ補強板8、8を設けている。また、扁平管の中央部にも補強板8を設けている。この補強板8は、上下壁2の間に垂直に立設され、多穴チューブ7の厚さ方向の剛性を向上させる役割を果たす。
補強板8を設置する箇所と本数は、多穴チューブ7において強度が必要な箇所に応じて変更、増減させてよい。
【0031】
<第4実施形態>
また、別形態として、仕切板の断面形状をくの字状ではなくジグザグ状に形成してもよい。
この多穴チューブ9では第1実施形態と同様に、図4、図5に示すように、アルミ製で0.3mm〜0.6mmの板厚の上下壁2および左右側壁3を有する扁平管4に、上記上下壁2、2の間において断面ジグザグ形状で長手方向に延在する多数の仕切板10を備え、全体を押出し成型することによって形成している。これにより多穴チューブ9は、互いに仕切られて並行する複数の圧縮空気用の気体通路を有している。
また、厚さ方向の剛性を確保するため、左右の側壁3は上下壁2よりも厚手に形成される。
【0032】
この仕切板は、板厚が0.2mm〜0.6mmで、左右方向に交互に複数回折り曲げた断面ジグザグ状に形成されている。
ジグザグ状部分の波高は仕切板5の中央から左右に板厚程度となるように設定する。波高を小さく設定すると剛性が増し、変形しづらく熱膨張の力を低減しにくくなるため、扁平管4の形状ごとに発生する熱歪みの大きさに応じて波高を設定する。
また、各仕切板10に設ける波の数も、扁平管4の形状ごとに発生する熱歪みの大きさに応じて、増やしたり(図4)減らしたり(図5)する。
【0033】
これにより、圧縮空気により高温になった多穴チューブ9の仕切板10で厚さ方向に膨張が発生しても、仕切板10が深く屈曲することで吸収することができ、多穴チューブ9が厚さ方向に膨張する力を低減することができる。また、圧縮空気を流すのを止め比較的低温な状態になった場合には、仕切板10が元の浅い位置、角度に戻る。このように仕切板10がバネのように伸縮することで熱歪みを発生させる力を低減し、インタークーラの破損を防止することができる。
【0034】
また、仕切板10を断面ジグザグ状に形成したことにより、図6のような垂直な仕切板を設けた場合に比べ、多穴チューブ9内面の熱交換面積が大きくなるため、熱交換性能も向上させることができる。
さらに、仕切板10を断面ジグザグ状にするためには特別な製造工程を必要とせず、従来の多穴チューブ9と同様に押出し成型によって製造することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 多穴チューブ
2 上下壁
3 側壁
4 扁平管
5 仕切板
6 多穴チューブ
7 多穴チューブ
8 補強板
9 多穴チューブ
10 仕切板
11 多穴チューブ
12 仕切板
13 エンドプレート
14 突条


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の上下壁及び断面略半円状の左右側壁を有する扁平管と、
この扁平管の上下壁の間において長手方向に延在する多数の仕切板とからなり、この仕切板によって仕切られた多数の気体通路を有する熱交換用多穴チューブにおいて、
上記仕切板を左右方向に屈曲した断面くの字状に形成したことを特徴とする熱交換用多穴チューブ。
【請求項2】
上記扁平管の左右方向両端と中央には、垂直な補強板を設けたことを特徴とする請求項1記載の熱交換用多穴チューブ。
【請求項3】
平板状の上下壁及び断面略半円状の左右側壁を有する扁平管と、
この扁平管の上下壁の間において長手方向に延在する多数の仕切板とからなり、この仕切板によって仕切られた多数の気体通路を有する熱交換用多穴チューブにおいて、
上記仕切板を、左右方向に交互に複数回折り曲げた断面ジグザグ状に形成したことを特徴とする熱交換用多穴チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−175217(P2010−175217A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21510(P2009−21510)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000220217)東京ラヂエーター製造株式会社 (71)
【Fターム(参考)】