説明

熱伝導性フィルム及びその製造方法

【課題】高い熱伝導率及び優れた絶縁性を有するフィルム並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】熱伝導性フィルム10は、樹脂で構成された基質12と、基質12中に分散している鱗片状のフィラー14と、を備えている。鱗片状のフィラー14は、窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体16と、フィラー本体16を被覆しているγ−フェライトの被膜18とを有し、当該熱伝導性フィルム10の厚さ方向に配向している。樹脂は、例えば、ポリイミドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性フィルム及びその製造方法に関する。特に、絶縁性を有している熱伝導性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等の発熱源とヒートシンクとの間の熱的な接触を改善するために、各種の熱伝導性フィルム(放熱シート)が従来から使用されている。効率的な放熱を達成するためには、熱伝導性フィルムが厚さ方向に高い熱伝導率を有していることが重要である。
【0003】
熱伝導性フィルムの熱伝導率を改善するには、高い熱伝導率を有するフィラーをフィルムの材料に混ぜることが有効である。磁性材料をフィラーとして使用し、フィルムを成形するときに磁場を印加してフィラーをフィルムの厚さ方向に配向させると、厚さ方向の熱伝導率がさらに向上する。
【0004】
特許文献1は、ニッケル、鉄、コバルト等の強磁性粒子で被覆されたピッチ系炭素繊維を開示する。ピッチ系炭素繊維をシリコーン樹脂に混ぜ、磁場を印加すれば、厚さ方向に高い熱伝導率を有するフィルムを製造できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−195998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、ピッチ系炭素繊維を強磁性体で被覆する方法として、無電解めっき法、電解めっき法、物理蒸着法、化学的蒸着法、塗装、浸漬、メカノケミカル法等を提案する。
【0007】
無電解めっき法を例に挙げると、触媒の付与、活性化処理、めっき液の準備等、被膜を形成するための操作は煩雑である。さらに、めっき法で形成された被膜は導電性を有しているため、絶縁性が要求されるフィルムには採用できない。また、強磁性体で被覆されていない炭素繊維が多く存在する場合、配向の度合いを高めることが難しい問題もある。もとより、絶縁性が要求されるフィルムのフィラーとして炭素繊維は適していないし、炭素繊維の分散性があまり良くないことも問題である。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、高い熱伝導率及び優れた絶縁性を有するフィルム並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、
樹脂で構成された基質と、
前記基質中に分散している鱗片状のフィラーと、を備え、
前記鱗片状のフィラーが、(i)窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体と、(ii)前記フィラー本体を被覆しているγ−フェライトの被膜とを有し、当該熱伝導性フィルムの厚さ方向に配向している、熱伝導性フィルムを提供する。
【0010】
別の側面において、本発明は、
窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体と、前記フィラー本体を被覆しているγ−フェライトの被膜とを有する鱗片状のフィラーを準備する工程と、
樹脂を含むフィルム成形用材料に前記鱗片状のフィラーを分散させる工程と、
前記鱗片状のフィラーを含む前記フィルム成形用材料をフィルムの形状に成形する工程と、
前記鱗片状のフィラーが前記フィルムの厚さ方向に配向するように、前記フィルムが固化する前に前記フィルムの厚さ方向に磁場を印加する工程と、
前記フィルムを固化させる工程と、
を含む、熱伝導性フィルムの製造方法を提供する。
【0011】
さらに別の側面において、本発明は、
γ−フェライトの被膜を有する鱗片状のフィラーの製造方法であって、
窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体及び硫酸鉄を含む分散液に水酸化ナトリウムを添加する工程と、
水酸化ナトリウムの添加後、前記分散液を攪拌及びろ過して得られた固形分を乾燥させる工程と、
を含む、鱗片状のフィラーの製造方法を提供する。
【0012】
さらに別の側面において、本発明は、
γ−フェライトの被膜を有する鱗片状のフィラーの製造方法であって、
窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体を含む第1分散液を準備する工程と、
硫酸鉄を水酸化ナトリウムで還元することによってγ−フェライトの微粒子を含む第2分散液を準備する工程と、
前記フィラー本体の表面に前記微粒子が付着するように、前記第1分散液と前記第2分散液とを混合する工程と、
を含む、鱗片状のフィラーの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱伝導性フィルムは、窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体と、フィラー本体を被覆しているγ−フェライトの被膜とを有する鱗片状のフィラーを含む。窒化ホウ素及びγ−フェライトは絶縁性を有するので、絶縁性を必要とするフィルムに好適に使用できる。窒化ホウ素は、絶縁体の中で最も高い熱伝導率を有する材料の1つなので、熱伝導性フィルムのフィラーとして有利に使用できる。窒化ホウ素は反磁性を有するので、窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体は、単独でも磁場によって配向しうる。強磁性を有するγ−フェライトでフィラー本体が被覆されていると、鱗片状のフィラーの配向性は向上する。従って、本発明によれば、高い熱伝導率及び優れた絶縁性を有する熱伝導性フィルムを提供できる。
【0014】
本発明の方法によれば、上記本発明の熱伝導性フィルムを効率的に製造できる。窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体は、単独でも磁場によって配向しうる。強磁性を有するγ−フェライトでフィラー本体が被覆されていると、鱗片状のフィラーは、さらに高い配向性を示す。従って、同じ強さの磁場でも鱗片状のフィラーを高速で配向させることができる。また、鱗片状のフィラーを高密度で充填したとしても、鱗片状のフィラーを比較的高度に配向させることができる。従って、本発明によれば、高い熱伝導率及び優れた絶縁性を有する熱伝導性フィルムを提供できる。
【0015】
本発明の鱗片状のフィラーの製造方法によれば、比較的容易に、窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体の表面にγ−フェライトを付着させることができる。めっき法で必要とされるような複雑な操作は必要無く、また、鱗片状のフィラー本体のそれぞれに均一にγ−フェライトを付着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る熱伝導性フィルムの概略断面図
【図2A】図1に示す熱伝導性フィルムに含まれた鱗片状のフィラーの概略断面図
【図2B】図1に示す熱伝導性フィルムに含まれた他の鱗片状のフィラーの概略断面図
【図3】面方向の熱拡散率の測定原理を示す概略図
【図4A】実施例1に係る熱伝導性フィルムの断面のSEM像
【図4B】参照例1に係る熱伝導性フィルムの断面のSEM像
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の熱伝導性フィルム10は、基質12と、基質12中に分散している鱗片状のフィラー14とを備えている。鱗片状のフィラー14は、全体として、熱伝導性フィルム10の厚さ方向に配向している。基質12は、樹脂で構成されている。熱伝導性フィルム10は、典型的には、電気絶縁性を有している。電子機器の放熱シートとして、熱伝導性フィルム10を好適に使用できる。
【0019】
基質12を構成する樹脂は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂でありうる。基質12を構成する樹脂として、エポキシ、フェノール、メラミン、尿素、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー等が挙げられる。高い耐熱性が要求される場合には、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアリレートが好ましい。
【0020】
また、基質12を構成する樹脂は、光硬化型樹脂であってもよい。光硬化型樹脂は、紫外線、電子線等で架橋及び硬化する樹脂であれば特に限定されない。具体的に、光硬化型樹脂としては、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、反応性ポリアクリレート、カルボキシル変性型反応性ポリアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、シリコンアクリレート、アミノプラスト樹脂アクリレート等が挙げられる。鱗片状のフィラー14の配向状態を維持するために、硬化収縮が小さい樹脂、例えば、シルセスキオキサンのような付加反応型の樹脂が特に好ましい。
【0021】
熱伝導性フィルム10に粘着機能が要求される場合、基質12を構成する樹脂は、光硬化型粘着剤であってもよい。光硬化型粘着剤としては、アクリル系粘着剤組成物に紫外線照射して得られる光硬化粘着剤を用いることができる。アクリル系粘着剤組成物は、例えば、炭素数2〜14個のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを主成分とするビニル系モノマー又はその部分重合物(a)と、光重合開始剤(b)とを含有する。「主成分」とは、質量比で最も多く含まれた成分を意味する。
【0022】
鱗片状のフィラー14が熱伝導性フィルム10の厚さ方向に配向しているかどうかは、以下の基準によって判断することができる。すなわち、熱伝導性フィルム10の面方向の熱伝導率をλ1、厚さ方向の熱伝導率をλ2としたとき、λ1に対するλ2の比率(λ2/λ1)が0.2以上であれば、鱗片状のフィラー14が熱伝導性フィルム10の厚さ方向に配向しているものと判断できる。比率(λ2/λ1)の上限は特に限定されないが、鱗片状のフィラー14の異方性、基質12の樹脂の影響を考えると、例えば5である。
【0023】
図2Aに示すように、鱗片状のフィラー14は、鱗片状のフィラー本体16と、フィラー本体16を被覆している被膜18とを有する。ただし、被膜18がフィラー本体16を完全に覆っている必要は無く、被膜18がフィラー本体16の表面の一部のみを被覆していてもよい。さらに、図2Bに示すように、フィラー本体16の表面に付着した微粒子で被膜18が構成されていてもよい。フィラー14は、例えば、1〜50μmの範囲に平均粒子径を有する。「平均粒子径」は、レーザー回折散乱法に基づいて測定された粒度分布において、50%の累積質量百分率に相当する粒子径(D50)を意味する。
【0024】
フィラー本体16は、窒化ホウ素で構成されている。窒化ホウ素は、互いに近い原子量及び大きさを持つ元素(窒素及びホウ素)で構成されているため、熱エネルギーのキャリアであるフォノンの乱れが少ない。従って、窒化ホウ素は、高い熱伝導率を示す。
【0025】
窒化ホウ素の結晶構造は特に限定されず、ダイヤモンドライクの立方晶、ウルツ鉱型六方晶、2層周期でグラファイトライクの六方晶、3層周期の菱面体晶のいずれであってもよい。比較的大きい異方性磁化率を有し、その容易軸方向の熱伝導率が100W/(m・K)以上と高い六方晶の窒化ホウ素が推奨される。
【0026】
窒化ホウ素は、電気絶縁性を有するので、窒化ホウ素で構成されたフィラー本体16の表面の全体がγ−フェライトで被覆されていることを必要としない。鱗片状のフィラー本体16の表面の全体がγ−フェライトで被覆されていてもよいし、その表面の一部のみがγ−フェライトで被覆されていてもよい。
【0027】
フィラー本体16は、鱗片の形状を有している。鱗片の形状は、窒化ホウ素に本質的に備わった高い熱伝導率と相俟って、熱伝導の経路の形成に十分に寄与する。
【0028】
被膜18は、γ−フェライト(γ−Fe23)で構成されている。γ−フェライトは、強磁性(詳細にはフェリ磁性)及び絶縁性を有する材料として知られている。γ−フェライトの付着量、すなわち、被膜18の重量は、フィラー14の重量に対して、例えば1〜50重量%である。適量のγ−フェライトがフィラー本体16の表面に付着していると、配向性を高める効果を十分に得ることができるとともに、γ−フェライト(被膜18)とフィラー本体16との密着性も良好に保たれる。γ−フェライトの付着量の好ましい範囲は、例えば10〜30重量%である。
【0029】
本実施形態では、γ−フェライトの被膜18が鱗片状のフィラー14の最表面を形成している。ただし、被膜18の上に他の層が設けられていてもよい。さらに、フィラー本体16と被膜18との間に他の層が設けられていてもよい。
【0030】
次に、熱伝導性フィルム10の製造方法を説明する。
【0031】
まず、鱗片状のフィラー14を準備する。具体的には、以下に説明する2つの方法で鱗片状のフィラー14を得ることができる。
【0032】
第1の方法では、フィラー本体16、硫酸鉄及び分散媒を含む分散液を準備する。例えば、フィラー本体16の水分散液に粉末状の硫酸鉄又は硫酸鉄水溶液を加えることにより、上記分散液が得られる。すなわち、分散液の分散媒としては、水を好適に使用できる。得られた分散液に水酸化ナトリウムを添加する。具体的には、粒状の水酸化ナトリウム又は水酸化ナトリウム水溶液を分散液に添加する。第1の方法によれば、硫酸鉄がフィラー本体16の分散助剤として働くため、フィラー本体16が分散液中でより均一に分散できる。また、水分散液に溶解した硫酸鉄は、フィラー本体16に吸着しうる。その結果、フィラー本体16にγ−フェライトを確実に付着させることができる。
【0033】
分散液における硫酸鉄の濃度及び水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、γ−フェライトの付着量が適切な範囲に収まるように調節するべきである。反応時において、分散液のpHを例えば7〜8の範囲に保持し、分散液の温度を例えば60〜100℃の範囲に保持する。
【0034】
水酸化ナトリウムの添加後、分散液を例えば1〜2時間にわたって攪拌する。その後、分散液をろ過し、得られた固形分を乾燥させる。これにより、フィラー本体16及びγ−フェライトの被膜18を有する鱗片状のフィラー14が得られる。固形分を十分に乾燥させるために、加熱処理を行ってもよい。加熱温度は、例えば60〜100℃である。加熱時間は、例えば6〜24時間である。
【0035】
第2の方法では、窒化ホウ素で構成されたフィラー本体16と分散媒(例えば水)とを含む第1分散液を準備する。第1分散液とは別に、分散媒中(例えば水中)において硫酸鉄を水酸化ナトリウムで還元することによってγ−フェライトの微粒子及び分散媒を含む第2分散液を準備する。フィラー本体16の表面にγ−フェライトの微粒子が付着するように、第1分散液と第2分散液とを混合する。その後、混合された分散液を十分に攪拌する。分散液をろ過し、得られた固形分を乾燥させる。これにより、フィラー本体16及びγ−フェライトの被膜18を有する鱗片状のフィラー14が得られる。第2の方法によっても、鱗片状のフィラー14を得ることができる。第2の方法におけるpH条件、温度条件、乾燥条件等の各種条件として、第1の方法と同一の条件を採用してもよいし、第2の方法に適した条件を採用してもよい。
【0036】
第1の方法では、フィラー本体16の表面でγ−フェライトが形成されるため、フィラー本体16にγ−フェライトを確実に付着させることができる。この観点において、第1の方法は、第2の方法よりも有利である。
【0037】
なお、フィラー本体16に付着していないγ−フェライトの微粒子をろ過の前に分散液から除去することが好ましい。γ−フェライトの微粒子に比べて、フィラー本体16は沈降しやすい。また、γ−フェライトが付着したフィラー本体16(すなわち鱗片状のフィラー14)は、さらに沈降しやすい。従って、沈降法又は遠心分離法によって、分散液からγ−フェライトの微粒子を除去することができる。例えば、分散液を静置し、フィラー本体16及び鱗片状のフィラー14を沈降させ、上澄みを除去する。これにより、分散液からγ−フェライトの微粒子を除去することができる。
【0038】
次に、樹脂を含むフィルム成形用材料に鱗片状のフィラー14を分散させる。樹脂が熱硬化性を有する場合、フィルム成形用材料は、その樹脂を含む溶液でありうる。樹脂を含む溶液に鱗片状のフィラー14を分散させることにより、熱伝導性フィルム10を成形するための塗布液が得られる。フィラー14の添加量は、塗布液の固形分中、例えば10〜70体積%又は20〜60体積%である。フィラー14の添加量は、得るべき熱伝導性フィルム10の機械強度及び外観等を考慮して調節するべきである。
【0039】
樹脂を含む溶液の例は、ポリイミドの前駆体溶液である。ポリイミドの前駆体溶液は、一般に、ポリアミド酸(ポリアミック酸)溶液と呼ばれている。ポリイミドは優れた絶縁性を有するので、絶縁性が要求される熱伝導性フィルムの材料として好適に使用できる。
【0040】
ポリアミド酸溶液としては、公知のものを使用できる。具体的には、酸二無水物とジアミンとを溶媒中で重合反応させて得られるポリアミド酸溶液を使用できる。酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン等が挙げられる。
【0041】
酸無水物とジアミンとを重合反応させる際の溶媒も特に限定されない。溶解性等の点から極性溶媒を好適に使用できる。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等を例示できる。これらの溶媒は単独で使用してもよいし、2種類以上の混合溶媒の形で使用してもよい。さらに、上記有機極性溶媒にクレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、ベンゾニトリル、ジオキサン、ブチロラクトン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等を混合してもよい。なお、水の存在によってポリアミド酸が加水分解して低分子量化するので、ポリアミド酸の合成及び保存は無水環境下で行うのが好ましい。
【0042】
上記の酸無水物(a)とジアミン(b)とを有機極性溶媒中で反応させることによりポリアミド酸溶液が得られる。その際のモノマー濃度(溶媒中における(a)+(b)の濃度)は、種々の条件に応じて設定されるが、5〜30重量%が好ましい。反応温度は80℃以下に設定することが好ましく、特に好ましくは5〜50℃である。反応時間は0.5〜10時間が好ましい。
【0043】
ポリアミド酸溶液の粘度は、例えば10〜10000ポイズ(1〜1000Pa・s)、10〜5000ポイズ(1〜500Pa・s)又は50〜5000ポイズ(5〜500Pa・s)である(B型粘度計、23℃)。粘度が低すぎるといわゆるタレや塗布膜のハジキが生じ、塗布膜の膜厚が不均一になりやすい。一方、粘度が高すぎると、レベリング性及び脱泡性に劣るので、塗布膜を形成することが困難になるおそれがある。
【0044】
次に、支持体上に塗布膜(coated film)が形成されるように、鱗片状のフィラー14を含む塗布液を支持体に塗布する。塗布方法は特に限定されず、バーコータ、ドクターブレード、スプレーコータ、ノズルコータ、ディップコータ等を用いた公知の方法を採用できる。支持体としては、ポリアミド酸に対して化学的に耐性があるもの、例えば、ガラス板を使用できる。また、熱伝導性フィルム10の厚さの均一性を高めたい場合には、表面の円滑性の高い支持体を選択すればよい。支持体は、水平に配置することが好ましい。塗布液の支持体への塗布量は、熱伝導性フィルム10の厚さが20〜500μmとなるような量に設定することができる。
【0045】
次に、鱗片状のフィラー14が塗布膜の厚さ方向に配向するように、塗布膜が固化する前に塗布膜の厚さ方向に磁場を印加する。塗布膜の厚さ方向に磁場をかけることにより、鱗片状のフィラー14の面方向が磁場の方向に平行になるように鱗片状のフィラー14が配向する。この配向によって厚さ方向の熱伝導率向上効果が得られる。磁場の印加は、塗布膜に垂直な方向に磁場がかかるように磁石を配置して行えばよい。例えば、0.3T(テスラ)以上、好ましくは2T以上の磁束密度の磁場を印加することができる。磁束密度の上限は特に限定されないが、例えば15Tである。磁場によるフィラー14の配向が維持されるように、磁場を印加しつつ、イミド化が起こる温度未満で乾燥を行って溶媒を除去してもよい。
【0046】
次に、塗布膜を固化させる。具体的には、塗布膜をイミド化する。イミド化は、塗布膜をイミド化温度以上に加熱して行ってもよいし、化学的に脱水して行ってもよい。
【0047】
加熱によるイミド化の場合には、ポリイミドの組成及び触媒の有無にもよるが、例えば、塗布膜を300〜400℃で10〜60分間加熱する。
【0048】
塗布液に脱水剤が添加されていると、化学的な脱水によるイミド化を行うことができる。脱水剤として、有機カルボン酸無水物、N,N’−ジアルキルカルボジイミド類、低級脂肪酸ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物等が挙げられる。これらの中で、有機カルボン酸無水物を好適に使用できる。
【0049】
有機カルボン酸無水物として、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、これらの分子間無水物等が挙げられる。さらに、芳香族モノカルボン酸(安息香酸、ナフトエ酸等)の無水物、炭酸、蟻酸及び脂肪族ケテン類(ケテン、及びジメチルケテン)の無水物も有機カルボン酸無水物として使用できる。これらは、単独又は2種以上の混合物の形で使用できる。これらの中で、無水酢酸を好適に使用できる。
【0050】
脱水剤の添加量は、塗布液に含まれたポリアミド1molに対して、例えば0.5〜4mol(又は1〜3mol)である。適切な量の脱水剤を使用することにより、イミド化反応を十分に進行させることができるとともに、得るべき熱伝導性フィルム10の強度も向上する。また、適切な量の脱水剤を使用すれば、余分な脱水剤を蒸発させるために温度を上げる必要がない。
【0051】
また、イミド化を促進するために3級アミンを塗布液に添加してもよい。3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ルチジン等が挙げられる。これらの中で、ピリジン、β−ピコリン、γ−ピコリン、キノリン及びイソキノリンを好適に使用できる。
【0052】
3級アミンの添加量は、塗布液に含まれたポリアミド1molに対して、0.1〜2mol(又は0.2〜1mol)である。適切な量の3級アミンを使用することにより、得るべき熱伝導性フィルム10の強度も向上する。また、熱伝導性フィルム10に3級アミンが残留して、熱伝導性フィルム10の製造ラインを汚染したり、余分な3級アミンを蒸発させるために温度を上げる必要に迫られたりする問題も起こりにくい。
【0053】
他方、樹脂が熱可塑性を有する場合、フィルム成形用材料は、その樹脂の溶融物でありうる。この場合、例えば押し出し成形法によって樹脂の溶融物をフィルムの形状に成形することができる。フィルムが固化しないように周囲温度を樹脂のガラス転移点以上の温度に保持しつつ、フィルムの厚さ方向に磁場を印加してフィラー14を配向させる。その後、周囲温度を樹脂のガラス転移点よりも低い温度(例えば室温)まで下げてフィルムを固化させる。また、フィルム成形用材料は、光硬化型樹脂又は光硬化型粘着剤であってもよい。
【0054】
以上の各工程を実施することにより、本実施形態の熱伝導性フィルム10が得られる。
【0055】
本実施形態の熱伝導性フィルム10は、電子部品等の発熱源を搭載した基板、それを囲う筐体等に接着して用いることができる。熱伝導性フィルム10の片面又は両面には、粘着剤層が設けられていてもよい。粘着剤層の材料として、アクリル粘着剤、シリコーン粘着剤を使用することができる。シリコーン粘着剤は耐熱性に優れているので、高温下で使用される熱伝導性フィルム10に適している。
【実施例】
【0056】
以下に本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
80℃に加温した純水1リットルに鱗片状の窒化ホウ素(電気化学工業社製 GP、平均粒子径10μm)1gを300rpmで攪拌しながら加えた。これにより、窒化ホウ素の水分散液を得た。次に、この水分散液に硫酸鉄5gを添加した。水分散液に硫酸鉄を十分に溶解させることによって、硫酸鉄を窒化ホウ素に十分に吸着させた。次に、水分散液に水酸化ナトリウム1.2gをさらに添加し、2時間攪拌した。その後、ろ紙を用いて、水分散液を吸引ろ過した。真空乾燥機を用いて、得られた固形分を80℃、8時間の条件で加熱及び乾燥させた。これにより、γ−フェライトの被膜を有する鱗片状のフィラーを得た。
【0058】
溶液中のモノマー濃度が20重量%となるように、適量のN−メチル−2−ピロリドンに等モルのピロメリット酸及びp−フェニレンジアミンを溶解させた。溶液を室温で攪拌しながら反応させ、さらに70℃に加温しつつ攪拌した。これにより、23℃におけるB型粘度計による100Pa・sの粘度を有するポリアミド酸溶液を得た。
【0059】
ポリアミド酸溶液の固形分に対して、鱗片状のフィラーを20vol%の体積比で添加し、自転公転式攪拌機で鱗片状のフィラーをポリアミド酸溶液に分散させた。これにより、フィルム成形用の塗布液を得た。0.5mmの厚さの塗膜が形成されるように、塗布液をガラス板に塗布した。塗膜の厚さ方向に2T(テスラ)の磁束密度の磁場を印加しながら、60℃、1時間の条件で塗膜を加熱及び乾燥させた。
【0060】
得られた乾燥フィルムをガラス板から剥離するとともに、ピンテンターに装着して120℃で30min、次に320℃で20minと段階的に加熱し、イミド化した。これにより、実施例1の熱伝導性フィルムを得た。
【0061】
(実施例2)
フィラーの添加量を変更した点を除き、実施例1と同一の方法で実施例2の熱伝導性フィルムを得た。
【0062】
(実施例3)
鱗片状の窒化ホウ素として、電気化学工業社製 SGP(平均粒子径18μm)を使用した点を除き、実施例1と同一の方法で実施例3の熱伝導性フィルムを得た。
【0063】
(参照例1〜3)
磁場を印加しなかった点を除き、実施例1〜3と同一の方法で参照例1〜3の熱伝導性フィルムを得た。
【0064】
実施例1〜3及び参照例1〜3のフィルムの厚さを表1に示す。
【0065】
(評価)
(1)電子顕微鏡を使用した断面観察
実施例1及び参照例1のフィルムの断面を走査型電子顕微鏡(日立製作所社製 S−4700)で観察した。結果を図4A及び図4Bに示す。図4Aに示すように、実施例1のフィルムでは、フィラーがフィルムの厚さ方向に配向していた。図4Bに示すように、参照例1のフィルムでは、フィラーがフィルムの面方向に配向していた。
【0066】
(2)X線回折測定
実施例1、実施例3、参照例1及び参照例3のフィルムのX線回折測定を行った。γ−フェライトの(002)面のピーク強度に着目したところ、実施例1の強度は4098(counts)、参照例1の強度は567(counts)、実施例3の強度は1175(counts)、参照例3の強度は814(counts)であった。この結果は、磁場の印加により、フィラーの配向の度合いが改善したことを表している。
【0067】
(3)熱伝導率の測定
各フィルムの面方向の熱伝導率λ1及び厚さ方向の熱伝導率λ2を測定した。詳細には、面方向の熱拡散率α1、厚さ方向の熱拡散率α2、密度ρ及び比熱Cpを下記式に代入して熱伝導率λ1及びλ2を算出した。結果を表1に示す。
λ1(W/(m・K))=ρ(kg/m3)×Cp(J/(kg・K))×α1(m2/s)
λ2(W/(m・K))=ρ(kg/m3)×Cp(J/(kg・K))×α2(m2/s)
【0068】
なお、熱拡散率α1及びα2は、キセノンフラッシュアナライザー(ブルカー・エイエックスエス社製 LFA 447 NanoFlash(登録商標))を用いて測定した。すなわち、公知のレーザフラッシュ法で熱拡散率α1及びα2を測定した。厚さ方向の熱拡散率α1は、LFA 447 NanoFlashに採用されている「Cowanモデル」で解析した。面方向の熱拡散率α2は、LFA 447 NanoFlashに採用されている「In Plane法」で解析した。「In Plane法」では、図3に示すように、第1マスク20によって試料21(熱伝導性フィルム)の中心部のみを加熱する。試料21の表面の中心部で吸収された熱は、試料21の背面に向かって伝わるとともに、円周方向にも拡散する。試料21の背面の温度上昇を第2マスク22に設けられた円環状のスリット22hを通して測定したときに得られる温度上昇曲線は、修正ベッセル関数を用いた理論解で表すことができる。この理論解を実際の温度上昇曲線にフィッティングすることにより、面方向の熱拡散率を求めることができる。試料21が異方性を有する場合には、厚さ方向の熱拡散率のデータも用いられる。
【0069】
比熱Cpは、示差走査熱量計(SIIナノテクノロジー社製)を用いて測定した(昇温速度:10℃/分)。密度ρは、ブタノール浸漬法より測定した。
【0070】
【表1】

【0071】
実施例1〜3のフィルムの熱伝導率λ2は、参照例1〜3のフィルムの熱伝導率λ2よりも大きかった。実施例1〜3のフィルムの(λ2/λ1)は、それぞれ、0.51、0.73及び0.43であり、フィラーが配向しているかどうかの判断基準の「0.2」を上回っていた。
【0072】
(4)表面抵抗率の測定
抵抗率計(三菱化学アナリテック社製 ハイレスタUP MCP−HT450、プローブ:URSタイプ、印加電圧:100V)を用いて、各フィルムの表面抵抗率を測定した。測定結果は、全て、抵抗率計の測定限界を超えた。すなわち、いずれのフィルムも1014Ω/□以上の表面抵抗率を有していたと考えられる。
【符号の説明】
【0073】
10 熱伝導性フィルム
12 基質
14 鱗片状のフィラー
16 フィラー本体
18 γ−フェライトの被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂で構成された基質と、
前記基質中に分散している鱗片状のフィラーと、を備え、
前記鱗片状のフィラーが、(i)窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体と、(ii)前記フィラー本体を被覆しているγ−フェライトの被膜とを有し、当該熱伝導性フィルムの厚さ方向に配向している、熱伝導性フィルム。
【請求項2】
前記樹脂がポリイミドである、請求項1に記載の熱伝導性フィルム。
【請求項3】
面方向の熱伝導率λ1に対する前記厚さ方向の熱伝導率λ2の比率(λ2/λ1)が0.2以上である、請求項1又は2に記載の熱伝導性フィルム。
【請求項4】
前記樹脂が光硬化型樹脂又は光硬化型粘着剤である、請求項1に記載の熱伝導性フィルム。
【請求項5】
窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体と、前記フィラー本体を被覆しているγ−フェライトの被膜とを有する鱗片状のフィラーを準備する工程と、
樹脂を含むフィルム成形用材料に前記鱗片状のフィラーを分散させる工程と、
前記鱗片状のフィラーを含む前記フィルム成形用材料をフィルムの形状に成形する工程と、
前記鱗片状のフィラーが前記フィルムの厚さ方向に配向するように、前記フィルムが固化する前に前記フィルムの厚さ方向に磁場を印加する工程と、
前記フィルムを固化させる工程と、
を含む、熱伝導性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記フィルム成形用材料が前記樹脂を含む溶液であり、
前記溶液がポリイミドの前駆体溶液である、請求項5に記載の熱伝導性フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記鱗片状のフィラーを準備する工程が、(i)窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体及び硫酸鉄を含む分散液に水酸化ナトリウムを添加する工程と、(ii)水酸化ナトリウムの添加後、前記分散液を攪拌及びろ過して得られた固形分を乾燥させる工程とを含む、請求項5又は6に記載の熱伝導性フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記鱗片状のフィラーを準備する工程が、(i)窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体を含む第1分散液を準備する工程と、(ii)硫酸鉄を水酸化ナトリウムで還元することによってγ−フェライトの微粒子を含む第2分散液を準備する工程と、(iii)前記フィラー本体の表面に前記微粒子が付着するように、前記第1分散液と前記第2分散液とを混合する工程とを含む、請求項5又は6に記載の熱伝導性フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記フィルム成形用材料が光硬化型樹脂又は光硬化型粘着剤である、請求項5に記載の熱伝導性フィルムの製造方法。
【請求項10】
γ−フェライトの被膜を有する鱗片状のフィラーの製造方法であって、
窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体及び硫酸鉄を含む分散液に水酸化ナトリウムを添加する工程と、
水酸化ナトリウムの添加後、前記分散液を攪拌及びろ過して得られた固形分を乾燥させる工程と、
を含む、鱗片状のフィラーの製造方法。
【請求項11】
γ−フェライトの被膜を有する鱗片状のフィラーの製造方法であって、
窒化ホウ素で構成された鱗片状のフィラー本体を含む第1分散液を準備する工程と、
硫酸鉄を水酸化ナトリウムで還元することによってγ−フェライトの微粒子を含む第2分散液を準備する工程と、
前記フィラー本体の表面に前記微粒子が付着するように、前記第1分散液と前記第2分散液とを混合する工程と、
を含む、鱗片状のフィラーの製造方法。






【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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