説明

熱伝導性樹脂組成物およびそれからなる成形体

【課題】 機械的特性、耐熱性に優れた環境負荷の小さい熱伝導性樹脂組成物、およびそれにより得られる成形体を提供する。
【解決手段】 生分解性ポリエステル樹脂(A)40〜95容量%と、10W/m・K以上の熱伝導率を有する充填材(B)60〜5容量%とからなり、生分解性ポリエステル樹脂(A)が、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)により架橋されていることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。生分解ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)が0.01〜10質量部配合されていることを特徴とする上記熱伝導性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋された生分解性ポリエステル樹脂と、10W/m・K以上の熱伝導率を有する充填材とからなる熱伝導性樹脂組成物、およびそれからなる成形体に関するものである。さらに詳しくは、機械的特性、耐熱性に優れた環境負荷の小さい熱伝導性樹脂組成物およびそれからなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、成形用の原料としてはポリプロピレン(PP)、ABS、ポリアミド(PA6、PA66)、ポリエステル(PET、PBT)、ポリカーボネート(PC)等の樹脂が使用されている。しかしながら、このような樹脂から製造された成形物は成形性、機械的強度に優れているが、廃棄する際自然環境下で殆ど分解されないため埋設処理しても半永久的に地中に残留する。そのため、近年、環境保全の見地から、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどの生分解性ポリエステル樹脂が注目され、自動車部品、家電製品、携帯機器部品、事務機器部品等への展開が検討されている。生分解性樹脂のうちでポリ乳酸は、最も耐熱性が高い樹脂の1つであり、またトウモロコシやサツマイモ等の植物由来原料から大量生産可能なためコストが安く、また石油原料の削減にも貢献できることから有用性が高い。
【0003】
一方、最近の電子機器においては、高性能化、小型化および軽量化に伴い各種の電子部品で発生する熱を効果的に外部へ放散させる熱対策が非常に重要な課題になっており、その構成材料である樹脂成形材料の放熱性改良を求める声が大きくなってきている。
【0004】
樹脂成形材料の放熱性を改良する手段としては、従来より熱伝導率の高い充填材料(窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、黒鉛等)を配合する方法が知られており、例えば、特許文献1には熱可塑性樹脂に黒鉛粉末を充填した熱伝導性樹脂成形品が、特許文献2にはポリフェニレンスルフィド樹脂に酸化マグネシウムや酸化アルミニウムを充填した樹脂製放熱板が記載されている。
【0005】
一般的に放熱部品のような発熱を伴うような部材には耐熱性の優れた樹脂が使われているが、生分解性樹脂は非生分解性樹脂にくらべ耐熱性が劣るという欠点を有しており、生分解性樹脂の中でも耐熱性の高いポリ乳酸であっても実用に耐えうるものではない。生分解性樹脂に上述の充填材料を配合した例としては、特許文献3に滑り軸受けや歯車等に用いることを目的とした脂肪族ポリエステル樹脂に黒鉛を充填した樹脂組成物が記載されている。しかし、単に生分解性樹脂に黒鉛を充填しただけでは耐熱性が十分でなく、放熱材料としては実用に耐えうるものではない。また、特許文献4にはポリ乳酸系ポリマーに層状黒鉛を混合して得た樹脂組成物を成形し、その後熱処理を施すことによって耐熱性を向上させた成形品が記載されている。しかしこの方法では熱処理時間が長くなり実用的ではない。また、先に、本出願人は、結晶化速度を速めて結晶化を促進し耐熱性や生産性を向上させるために、生分解性ポリエステル樹脂に(メタ)アクリル酸エステル化合物を添加して架橋し、その樹脂組成物の特性を損なわない限りにおいて種々の無機充填材を添加する方法を特許文献5に提案した。しかし、十分な熱伝導性を発現させる方法については判っていなかった。
【特許文献1】特開昭62−131033号公報
【特許文献2】特開2001−151905号公報
【特許文献3】特開平10−212400号公報
【特許文献4】特開2004−10642号公報
【特許文献5】特開2003−128901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の様な問題点を解消するものであり、機械的特性、耐熱性に優れた環境負荷の小さい熱伝導性樹脂組成物、およびそれにより得られる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、架橋された生分解性ポリエステル樹脂と、10W/m・K以上の熱伝導率を有する充填材とを併用することによって前記課題が解決されることを見いだし、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)生分解性ポリエステル樹脂(A)40〜95容量%と、10W/m・K以上の熱伝導率を有する充填材(B)60〜5容量%とからなり、生分解性ポリエステル樹脂(A)が、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)により架橋されていることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
(2)生分解ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)が0.01〜10質量部配合されていることを特徴とする(1)記載の熱伝導性樹脂組成物。
(3)生分解ポリエステル樹脂(A)が、ポリ乳酸系樹脂を主成分とすることを特徴とする(1)または(2)記載の熱伝導性樹脂組成物。
(4)充填材(B)が、平均粒径1〜300μmの鱗状および/または鱗片状黒鉛であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
(5)(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)が、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、または1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基も
しくはビニル基を有する化合物であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
(6)繊維状充填材(D)を、生分解性ポリエステル樹脂(A)および充填材(B)の合計100質量部に対して3〜30質量部含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
(7)繊維状充填材(D)が、ガラス繊維、炭素繊維およびケナフ繊維から選ばれた1種以上であることを特徴とする(6)記載の熱伝導性樹脂組成物。
(8)エポキシ、イソシアネート、オキサゾリン、カルボジイミド、酸無水物、およびアルコキシシランよりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1単位以上含有する反応性化合物(E)を、生分解性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.1〜5質量部含有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物を、押出成形、真空および/または圧空成形、射出成形、ブロー成形、ならびに発泡成形のいずれかの方法によって成形してなる熱伝導性樹脂成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた機械的特性、耐熱性を有する環境負荷の低い熱伝導性樹脂組成物、およびそれにより得られる成形体が提供される。また、天然物由来の生分解性樹脂を利用すれば、石油等の枯渇資源の節約に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に使用される生分解性ポリエステル樹脂(A)としては、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート−co−ブチレンアジペート)等に代表されるジオールとジカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル、ポリ(グリコール酸)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(3−ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(3−ヒドロキシカプロン酸)、ポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸、ポリ(ε−カプロラクトン)やポリ(δ−バレロラクトン)に代表されるポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)、さらに芳香族成分を含んでいても生分解性を示すポリ(ブチレンサクシネート−o−ブチレンテレフタレート)やポリ(ブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート)の他、ポリエステルアミド、ポリエステルカーボネート等が挙げられ、これらの混合物や共重合体も用いることができる。石油資源節約という観点からは、植物由来原料が好ましく、なかでも耐熱性、成形性の面からポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物または共重合体を用いることが好ましい。これらの樹脂のうち、光学異性体(L体とD体と称する)が存在する場合は、L/D=100/0〜90/10もしくは、L/D=0/100〜10/90である共重合体組成であることが好ましい。この範囲のL/D比率の異なる共重合体を混合配合する場合は、その比率に制限はない。これは、この比率内であれば、樹脂が結晶化を起こしやすいためで、耐熱性が向上する。
【0010】
生分解性ポリエステル樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は0.1〜50g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.2〜20g/10分、さらに好ましくは0.5〜10g/10分である。MFRの測定条件は、温度190℃、荷重21.2Nである。ただし、生分解性ポリエステル樹脂の融点が190℃を超えるような場合は、生分解性ポリエステル樹脂の融点+20℃で測定を行う。MFRが50g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎて成形体の機械的特性や耐熱性が劣る。MFRが0.1g/10分未満の場合は成形加工時の負荷が高くなりすぎ操業性が低下する場合がある。
【0011】
生分解性ポリエステル樹脂(A)の分子量には特に制限はないが、重量平均分子量が5万以上100万以下であることが好ましく、さらには8万以上100万以下であることが好ましい。重量平均分子量が5万未満である場合には樹脂組成物の溶融粘度が低すぎて成形物の機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。逆に、100万を超える場合には樹脂組成物の成形性が低下する場合がある。
【0012】
生分解性ポリエステル樹脂(A)は、公知の溶融重合法により、さらに必要に応じて固相重合法を併用して製造される。
【0013】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)としては、生分解性ポリエステル樹脂(A)との反応性が高くモノマーが残りにくく、毒性が比較的少なく、樹脂への着色も少ないことから、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、または1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する化合物が好ましく、具体的にはグリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリセロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、(これらのアルキレングリコール部が様々な長さのアルキレンの共重合体でも構わない)、ブタンジオールメタクリレート、ブタンジオールアクリレート等が挙げられ、中でも安全性や反応性の理由から、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等が好ましい。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)の配合量は、その総量を、生分解性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.01〜10質量部とすることが好ましく、より好ましくは0.05〜10質量部、さらに好ましくは0.05〜5質量部である。0.01質量部未満では本発明の目的とする耐熱性、成形性が得られず、また、10質量部を超える場合には架橋の度合いが強すぎて、操業性に支障が出ることがある。
【0015】
生分解性ポリエステル樹脂(A)に(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)を溶融混練する際には、架橋助剤として過酸化物を添加すると、架橋度合いを高めることができるため好ましい。過酸化物としては、樹脂への分散性が良好である有機過酸化物が好ましく、具体的にはベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)メチルシクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ブチルパーオキシクメン等が挙げられる。上記過酸化物の配合量は生分解性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.1〜20質量部が好ましく、さらに好ましくは0.1〜10質量部である。0.1質量部未満では架橋度合いを高める効果が低く、20質量部を超える場合には、コスト面で好ましくない。
【0016】
上記の(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)による架橋をおこなう方法は特に限定されないが、生分解性ポリエステル樹脂(A)と(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)とを溶融混錬する方法がもっとも簡便である。混練状態をよくする意味で二軸の押出機を使用することが好ましい。混練温度は(生分解性ポリエステル樹脂のTm+5℃)〜(生分解性ポリエステル樹脂のTm+100℃)の範囲が、また、混練時間は20秒〜30分が好ましい。この範囲より低温や短時間であると、混練や反応が不充分となり、また高温や長時間であると樹脂の分解や着色が起きることがある。配合に際しては、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)が固体状であればドライブレンドや粉体フィーダーを用いて供給する方法が好ましく、液体状の場合は、加圧ポンプを用いて、押出機の途中から注入する方法が好ましい。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)と過酸化物を併用する場合の好ましい方法として、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)および/または過酸化物を媒体に溶解または分散して混練機に注入する方法が挙げられ、操業性を格段に改良することができる。すなわち、生分解性ポリエステル樹脂(A)と過酸化物とを溶融混練中に、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)の溶解液、または分散液を注入したり、前記生分解性ポリエステル樹脂(A)を溶融混練中に、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)と過酸化物の溶解液、または分散液を注入して溶融混練することできる。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)および/または過酸化物を溶解または分散させる媒体としては、従来公知のものが用いられ、特に限定されないが、本発明の生分解性ポリエステル樹脂(A)との相溶性に優れた可塑剤が好ましい。例えば、脂肪族多価カルボン酸エステル誘導体、脂肪族多価アルコールエステル誘導体、脂肪族オキシエステル誘導体、脂肪族ポリエーテル誘導体、脂肪族ポリエーテル多価カルボン酸エステル誘導体などから選ばれた1種以上の可塑剤などが例示される。具体的な化合物としては、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、トリエチレングリコールジアセテート、アセチルリシノール酸メチル、アセチルトリブチルクエン酸、ポリエチレングリコール、ジブチルジグリコールサクシネートなどが挙げられる。可塑剤の使用量としては、生分解性ポリエステル樹脂(A)と10W/m・K以上の熱伝導率を有する充填材(B)の合計100質量部に対し30質量部以下が好ましく、0.1〜20質量部がさらに好ましい。架橋剤の反応性が低い場合、可塑剤を使用しなくてもよいが、反応性が高い場合には0.1質量部以上用いることが好ましい。なお、この媒体は、樹脂との混合時に揮発することがあるため、たとえ製造時に使用しても、得られた樹脂組成物中にはこの媒体が含まれていない場合がある。
【0019】
本発明で用いられる10W/m・K以上の熱伝導率を有する充填材(B)としては、導電性、絶縁性、何れの充填材でも用いることは可能であり、その形態としては、球状、粉状、繊維状、針状、鱗状、鱗片状、ウィスカ状、マイクロコイル状、ナノチューブ状などが挙げられる。充填材の熱伝導率は、その焼結品を用いて測定することができる。具体的な例(括弧内に熱伝導率の代表値(単位:W/m・K)を記す。)としては、酸化アルミニウム(36)、酸化マグネシウム(60)、酸化亜鉛(25)、炭酸マグネシウム(15)、炭化ケイ素(160)、窒化アルミニウム(170)、窒化ホウ素(210)、窒化ケイ素(40)、カーボン(10〜数百)、黒鉛(10〜数百)等の無機系充填材、銀(427)、銅(398)、アルミニウム(237)、チタン(22)、ニッケル(90)、錫(68)、鉄(84)、ステンレス(15)等の金属系充填材などが挙げられ、これらは1種または2種以上併用することができる。樹脂組成物の比重を小さくできるという観点からは、無機系充填材が好ましく、なかでも取扱い易さ、コスト面から黒鉛が好ましい。黒鉛は人造黒鉛、天然黒鉛のいずれでもよいが、鱗状および/または鱗片状黒鉛が特に好ましい。
【0020】
充填材(B)は生分解性ポリエステル樹脂(A)との密着性を向上させるため、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤等、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルジメトキシメチルシランなどのアミノシラン系、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリリシドキシプロピルエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシラン系、イソプロピルトリステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネートなどのチタン系カップリング剤等のカップリング剤で表面処理を施してもよい。これらは単独で使用しても、併用してもよい。
【0021】
充填材(B)の平均粒径は、1〜300μmであることがあることが好ましく、5〜150μmであることがより好ましい。平均粒径が1μm未満では分散不良により凝集塊が生じやすくなり、均一な成形品が得られず機械的物性が低下したり熱伝導性にバラツキが生じたりするためあり好ましくない。平均粒径が300μmを超えると樹脂中に高濃度に充填することが難しくなったり、成形品表面が粗くなったりする場合があるので好ましくない。
【0022】
充填材(B)の配合量は、生分解性ポリエステル樹脂(A)40〜95容量%に対し60〜5容量%であることが必要であり、好ましくは生分解性ポリエステル樹脂(A)60〜90容量%に対し、充填材(B)40〜10容量%である。充填材(B)の配合量が5容量%未満では十分な熱伝導性を得ることができなくなる場合があるので好ましくない。充填材(B)の配合量が60容量%を超えると、流動性が低下するため成形加工時の負荷が高くなりすぎ操業性が低下する場合がある。なお、本発明での容量%とは、生分解性ポリエステル樹脂(A)、充填材(B)各成分の各質量を各成分の真比重で割った値をそれぞれの成分の容量として計算したものである。用いられる充填材の真比重は、充填材の種類によってそれぞれ異なるため、充填材の種類が異なると、同じ質量割合であっても、体積割合は大きく異なることが多い。したがって、本発明の場合、充填材の配合割合として質量割合を用いるのは合理的ではない。
【0023】
本発明では機械的強度、耐熱性等の諸特性を向上させるために繊維状充填材(D)を配合することも可能である。繊維状充填材(D)の具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、ケナフに代表される天然繊維等が挙げられ、ガラス繊維、炭素繊維、ケナフ繊維が好ましい。ガラス繊維は機械的特性、耐熱性、コスト面で優れている。天然繊維、なかでもケナフは西アフリカ原産のアオイ科フヨウ族の1年生植物で、面積当たりの収穫高が木材より多いことや、COの吸収能力が高いことから注目されている材料であり環境負荷低減に貢献できる。また、炭素繊維は機械的特性、耐熱性に加え樹脂組成物の熱伝導率をさらに高めることができる。これら繊維状充填材(D)は、1種または2種以上併用することができる。
【0024】
繊維状強化材(D)は、生分解性ポリエステル樹脂(A)との密着性を向上させるため、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤等、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルジメトキシメチルシランなどのアミノシラン系、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリリシドキシプロピルエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシラン系、イソプロピルトリステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネートなどのチタン系カップリング剤等のカップリング剤で表面処理を施してもよい。これらは単独で使用しても、併用してもよい。
【0025】
繊維充填材(D)として天然繊維を用いる場合は、リグニンを除去して繊維質の純度を向上させたものを用いるのが好ましい。リグニンを除去することにより補強材としての補強効果を顕著に向上することができる。脱リグニン処理としては、公知の方法を適宜用いればよいが、(1)水酸化ナトリウム溶液または水酸化カリウム溶液等の強アルカリ溶液による方法、(2)水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを用いて加熱する方法、(3)酸性条件下で、モリブデン酸塩と過酸化水素によって処理する方法などが挙げられる。
【0026】
繊維状充填材(D)の長さは、1〜25mmであることが好ましく、3〜15mmであることがさらに好ましい。繊維長さが長いほど補強効果が大きく、曲げ弾性率が向上する。繊維長さが1mm未満では、繊維長さによる十分な補強効果が得られず、繊維長さが25mmを超えると流動性の低下が大きく、成形性などの点で好ましくない。
【0027】
繊維状充填材(D)の繊維径は、1〜100μmであることが好ましく、2〜50μmであることがさらに好ましい。繊維径が1μm未満では、十分な補強効果が得られず、繊維径が100μmを超えると成形性などの点で好ましくない。
【0028】
繊維状充填材(D)の配合量は、生分解性ポリエステル樹脂(A)および充填材(B)の合計100質量部に対して3〜30質量部であることが好ましく、5〜20質量部であることがより好ましい。繊維状充填材(D)の配合量が3質量部未満では十分な補強効果が得られない場合があるので好ましくない。繊維状充填材(D)の配合量が30質量部を超えると、流動性が低下するため成形性が悪化する。加えて、成形時に繊維が表面に浮いてくるため外観上も悪くなり好ましくない。
【0029】
本発明に用いる充填材(B)と繊維状充填材(D)の添加方法としては、特に限定されるものではないが、押出し機において、ホッパーから、あるいは、サイドフィーダーを用いて添加することができる。また、充填材(B)と繊維状充填材(D)をマスターバッチ加工することで、成形時にベース樹脂で希釈し、使用することもできる。
【0030】
本発明で用いる生分解性ポリエステル樹脂(A)に酸末端が存在する場合は、エポキシ、イソシアネート、オキサゾリン、カルボジイミド、酸無水物、およびアルコキシシランよりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1単位以上含有する反応性化合物(E)を含有することが好ましい。反応性化合物(E)の含有量は、生分解性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3質量部であり、さらに好ましくは0.3〜2質量部である。反応性化合物(E)を含有することで、酸末端を封鎖することになり、耐加水分解性が向上する。なお、反応性化合物中にこれらの官能基は少なくとも1単位以上必要であり、2単位以上含有することがより好ましい。
【0031】
上記反応性化合物のうち、エポキシ基を含有する化合物としては、N−グリシジルフタルイミド、N−グリシジル−4−メチルフタルイミド、N−グリシジル−4,5−ジメチルフタルイミド、N−グリシジル−3−メチルフタルイミド、N−グリシジル−3,6−ジメチルフタルイミド、N−グリシジル−4−エトキシフタルイミド、N−グリシジル−4−クロルフタルイミド、N−グリシジル−4,5−ジクロルフタルイミド、N−グリシジル−3,4,5,6−テトラブロムフタルイミド、N−グリシジル−4−n−ブチル−5−ブロムフタルイミド、N−グリシジルサクシンイミド、N−グリシジルヘキサヒドロフタルイミド、N−グリシジル−1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド、N−グリシジルマレインイミド、N−グリシジル−α,β−ジメチルサクシンイミド、N−グリシジル−α−エチルサクシンイミド、N−グリシジル−α−プロピルサクシンイミド、N−グリシジルベンズアミド、N−グリシジル−p−メチルベンズアミド、N−グリシジルナフトアミド、N−グリシジルステラミド、N−メチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−エチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−フェニル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−ナフチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−トリル−3−メチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、3−(2−キセニルオキシ)−1,2−エポキシプロパン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、シクロヘキシルグリシジルエーテル、α−クレシルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジルエーテル、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイド、オクチレンオキサイド、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルなどが挙げられ、さらには、テレフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジメチルジグリシジルエステル、フェニレンジグリシジルエーテル、エチレンジグリシジルエーテル、トリメチレンジグリシジルエーテル、テトラメチレンジグリシジルエーテル、ヘキサメチレンジグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらのエポキシ化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択して脂肪族ポリエステル樹脂のカルボキシル末端を封鎖すればよいが、反応性の点でエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、N−グリシジルフタルイミド、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルなどが好ましい。
【0032】
またイソシアネート基を含有する化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0033】
またオキサゾリン化合物の具体例は、2−メトキシ−2−オキサゾリン、2−エトキシ−2−オキサゾリン、2−プロポキシ−2−オキサゾリン、2−ブトキシ−2−オキサゾリン、2−ペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−ヘプチルオキシ−2−オキサゾリン、2−オクチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ノニルオキシ−2−オキサゾリン、2−デシルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−アリルオキシ−2−オキサゾリン、2−メタアリルオキシ−2−オキサゾリン、2−クロチルオキシ−2−オキサゾリン、2−フェノキシ−2−オキサゾリン、2−クレジル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−o−フェニルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−m−エチルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2−エチル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサゾリン、2−ブチル−2−オキサゾリン、2−ペンチル−2−オキサゾリン、2−ヘキシル−2−オキサゾリン、2−ヘプチル−2−オキサゾリン、2−オクチル−2−オキサゾリン、2−ノニル−2−オキサゾリン、2−デシル−2−オキサゾリン、2−シクロペンチル−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシル−2−オキサゾリン、2−アリル−2−オキサゾリン、2−メタアリル−2−オキサゾリン、2−クロチル−2−オキサゾリン、2−フェニル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−フェニルフェニル−2−オキサゾリン、2−m−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェニル−2−オキサゾリンなどが挙げられ、さらには、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4,4′−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−テトラメチレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−9,9′−ジフェノキシエタンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)などが挙げられる。さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサゾリン化合物など、例えばスチレン・2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体などが挙げられる。これらのオキサゾリン化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択することができる。耐熱性および反応性や生分解性ポリエステル樹脂(A)との親和性の点で2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)や2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)が好ましい。
【0034】
またカルボジイミド化合物の具体例としては、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N′−ジフェニルカルボジイミド、N,N′−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N′−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N′−フェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、4,4′−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドエチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド、ジイソピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミドなどが挙げられる。さらにこれらの化合物の重合体を挙げることができる。これらカルボジイミド化合物は単独で使用してもよいが2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明では芳香族カルボジイミド、特にN,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、およびこれら化合物の重合体(重合度は2〜20程度が望ましい)が望ましく用いられるほか、シクロ環を有したカルボジイミド化合物、特に4,4′−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、およびこれらの化合物の重合体(重合度は2〜20程度が望ましい)が特に好ましく用いられる。
【0035】
酸無水物を含有する化合物としては、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、エチレン−無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0036】
アルコキシシランを含有する化合物としては、各種のアルキルトリアルコキシシランが用いられる。アルコキシ基としてはメトキシ基やエトキシ基が好適に用いられ、アルキル基としてはグリシジル基やイソシアネート基で置換されているものが好適に用いられる。具体的には、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、およびこれらが脱水縮合したオリゴマー等が挙げられる。
【0037】
上述の反応性化合物(E)を熱伝導性樹脂組成物に含有させる方法としては特に限定されないが、生分解性ポリエステル樹脂(A)と反応性化合物(E)とを溶融混錬する方法がもっとも簡便である。アルコキシシランを溶融混練時に添加する場合には、反応によって生成するアルコールをベント口より減圧下で除去することが好ましい。
【0038】
本発明における熱伝導性樹脂組成物は、生分解性ポリエステル樹脂(A)、充填材(B)、および(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)、さらには必要に応じて各種添加物を、一般的な押出機、例えば一軸押出機、二軸押出機、ロール混錬機、ブラベンダー等を用いて溶融混練することにより製造することができる。このとき、スタティックミキサーやダイナミックミキサーを併用することも効果的である。混練状態をよくするためには二軸押出機を使用することが好ましい。
【0039】
本発明において反応性化合物(E)を用いる場合は、まずこれを生分解性ポリエステル樹脂(A)と混練しておき、後から充填材(B)、および(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)、およびその他の添加物を添加するように混練することが好ましい。また、反応性化合物(E)と生分解性ポリエステル樹脂(A)と充填材(B)を混練しておき、後から(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)、およびその他の添加物を添加するように混練してもよい。このような順序で成分を配合することで、効果的に反応が進行する。したがって、たとえば、生分解性ポリエステル樹脂(A)と反応性化合物(E)を押出機の主供給口に供給したのち、押出機の途中から充填材(B)、および(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)、およびその他の添加物を添加する方法や、生分解性ポリエステル樹脂(A)と充填材(B)と反応性化合物(E)を押出機の主供給口に供給したのち、押出機の途中から(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)、およびその他の添加物を添加する方法、生分解性ポリエステル樹脂(A)を押出機の主供給口に供給したのち、押出機の途中の第一添加口(主供給口に最も近い添加口)から反応性化合物(E)を添加し、第二添加口以降の添加口から充填材(B)、および(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)、およびその他の添加物を添加する方法などが好ましい。また、いったん反応性化合物(E)を反応させた樹脂を作製しておき、この樹脂と充填材(B)、および(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)、およびその他の添加物とを押出機に供給し、混練してもよい。なお、各原料を押出機に供給する際には、原料を単にドライブレンドしてもよいし、粉体フィーダー、加圧ポンプ等、公知の移送手段を適宜用いてもよい。
【0040】
本発明の熱伝導性樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材、結晶核材等を添加することができる。熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤が使用できるが、環境を配慮した場合、非ハロゲン系難燃剤の使用が望ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等)、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)、無機系化合物(硼酸塩、Mo化合物等)が挙げられる。無機充填材としては、タルク、層状珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト等が挙げられる。有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。無機結晶核材としては、タルク、カオリン等が挙げられ、有機結晶核材としては、ソルビトール化合物、安息香酸およびその化合物の金属塩、燐酸エステル金属塩、ロジン化合物等が挙げられる。なお、本発明の熱伝導性樹脂組成物にこれらを混合する方法は特に限定されない。
【0041】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、ポリアミド(ナイロン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリル酸エステル)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸エステル)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、およびそれらの共重合体等の非生分解性樹脂を添加してもよい。
【0042】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、および、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。とりわけ、射出成形法とすることが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。本発明の熱伝導性樹脂組成物に適した射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度を生分解性ポリエステル樹脂(A)のTmまたは流動開始温度以上、好ましくは130〜280℃、より好ましくは140〜270℃の範囲とするのが適当である。シリンダ温度が低すぎると成形品に充填不良が発生するなど操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすく、逆にシリンダ温度が高すぎると樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色する等の問題が発生しやすい。
【0043】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、結晶化を促進させることにより、その耐熱性を高めることができる。このための方法としては、例えば、射出成形時の金型内での冷却条件を工夫することによって結晶化を促進させることができ、その場合には、金型温度を生分解性ポリエステル樹脂(A)の(Tg+20℃)以上、(Tm−20℃)以下で所定時間保った後、Tg以下に冷却することが好ましい。また、成形後に結晶化を促進させる方法としては、直接Tg以下に冷却した後、再度Tg以上、(Tm−20℃)以下で熱処理することが好ましい。
【0044】
本発明の熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率は、目的とする最終製品の要求性能によって適宜設計すればよいが、0.5W/m・K以上が好ましく、より好ましくは1W/m・K以上である。かかる範囲において、家電・OA機器分野および自動車分野などの高放熱性や軽量化・省エネルギーが期待される分野に好適に用いることができる。成形体の具体例としては、半導体素子、抵抗などの封止材料、パソコンや光ディスク装置、プロジェクタ、携帯電話機などの電子機器の筐体、レーザー発信素子を搭載する光ピックアップ部品、放熱シートやヒートシンク、ファンなどの電子部品からの熱を外部に逃すための放熱部材、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジングなどのランプ関連部品等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。実施例および比較例の樹脂組成物の評価に用いた測定法は次のとおりである。
(1)曲げ強度、曲げ弾性率:
ASTM規格D−790に準拠して、変形速度1mm/分で荷重をかけ、曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。
(2)衝撃強度:
ASTM規格D−256に準拠して、ノッチ付試験片を用いてアイゾッド衝撃強度を測定した。
(3)熱変形温度(DTUL):
ASTM規格D−648に準拠し、荷重0.45MPaで熱変形温度測定した。
(4)耐湿熱性:
恒温恒湿器(ヤマト科学社製IG400型)を用い、曲げ強度試験片を温度60℃湿度95%RHの環境下に200時間保存処理し、ASTM規格D−790に準拠して曲げ強度を測定した。また、強度保持率(%)は(強度保持率)=(処理後の強度)/(処理前の強度)×100として算出した。
(5)熱伝導率:
熱伝導率λは、熱拡散率α、密度ρおよび比熱Cpを下記方法により求め、その積として次式で算出した。
λ=αρCp
λ:熱伝導率(W/m・K)
α:熱拡散率(m/sec)
ρ:密度(g/m
Cp:比熱(J/g・K)
熱拡散率αは(1)で作製した曲げ試験片の樹脂流れ方向について、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置TC−7000(アルバック理工社製)を用いレーザーフラッシュ法にて測定した。
密度ρは電子比重計ED−120T(ミラージュ貿易社製)を用いて測定した。
比熱Cpは示差走査熱量計DSC―7(パーキンエルマー社製)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0046】
本発明の実施例と比較例で用いた原料を以下に示す。
(1)生分解性ポリエステル樹脂(A)
・PLA:ポリ乳酸(NatureWorks社製、重量平均分子量(MW)=190,000、融点166℃、メルトフレート(MFR)=3g/10分、密度1.25)
・PBS:ポリブチレンサクシネート(三菱化学社製GS-Pla、MW=150,000、MFR=14g/10分、密度1.26)
(2)充填材(B)
・GrA:鱗状黒鉛(日本黒鉛工業社製CB100、平均粒径80μm、熱伝導率100W/m・K、密度2.25)
・GrB:鱗状黒鉛(日本黒鉛工業社製CP、平均粒径19μm、熱伝導率100W/m・K、密度2.25)
・GrC:土状黒鉛(日本黒鉛工業社製AOP、平均粒径5μm、熱伝導率85W/m・K、密度2.25)
・AlO:酸化アルミニウム(電気化学工業社製DAW−10、平均粒径10μm、熱伝導率38W/m・K、密度3.97)
・GB:ガラスビーズ(ポッターズバロティーニ社製EGB731、平均粒径20μm、熱伝導率1W/m・K、密度2.5)
(3)(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)
・EGDM:エチレングリコールジメタクリレート(日本油脂社製)
・DEGDM:ジエチレングリコールジメタクリレート(日本油脂社製)
(4)過酸化物
ジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂社製)
(5)繊維状充填材(D)
・GF:ガラス繊維(旭ファイバーグラス社製、繊維径10μm、繊維長3mm、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン処理品)
・CF:炭素繊維(三菱化学産資社製ダイアリードK223HG、繊維径11μm、繊維長6mm、熱伝導率540W/m・K)
・KF:ケナフ繊維
5mm程度の一定長に切断したケナフをターボミル(マツボー社製T−250)にて粉砕して、直径20〜50μm、繊維長1〜5mmとした後、水酸化ナトリウム溶液を用いて加圧・加熱し、脱リグニン処理を行った。
(6)反応性化合物(E)
・CDI:N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(バイエル社製品スタバクゾールI)
・EPX:p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル(ナガセ化成社製品デナコールEX−146)
・OXZ:2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)(東京化成工業社製)
【0047】
実施例1
二軸押出機(池貝社製PCM−30、ダイス直径4mm×3孔)を使用し、ホッパーよりPLA100質量部とGrA60質量部とをドライブレンドした物を供給し、混練機途中の第一添加口(ホッパーに最も近い添加口)よりポンプを用いてEGDM0.2質量部と過酸化物0.4質量部を可塑剤アセチルトリブチルクエン酸1質量部に溶解した溶液を供給し、バレル温度200℃、スクリュー回転数150rpmで溶融混練を行い、押出し、ペレット状に加工して樹脂組成物を得た。
このペレットを60℃で24時間真空乾燥した後、東芝機械社製IS−80G型射出成形機を用いて物性測定用試験片を作製し、各種測定に供した。このときの成形条件を表1に示す。
【0048】
実施例2〜15、比較例1〜6
生分解性ポリエステル樹脂、充填材、(メタ)アクリル酸エステル化合物、過酸化物、繊維状充填材、反応性化合物をそれぞれ表1に示す種類と量に変えた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得て、これを射出成形して各種物性を測定した。なお、生分解性ポリエステル樹脂、充填材および反応性化合物はホッパーより、(メタ)アクリル酸エステル化合物、過酸化物は第一添加口より、繊維充填材は第二添加口より供給した。
【0049】
実施例1〜15、比較例1〜6の評価結果をまとめて表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、実施例1〜15においては、熱伝導率が1W/m・K以上と高く、かつ耐熱性に優れていた。
比較例1は充填剤(B)が配合されておらず、また、比較例2は充填剤(B)の配合比率が小さいため熱伝導率は低いものであった。
比較例3は充填剤(B)の配合量が多すぎたため、操業性が悪化し混練不可能であった。
比較例4は熱伝導率が10W/m・K未満であるガラスビーズを用いたため得られた樹脂組成物の熱伝導率は低いものであった。
比較例5および6は熱伝導率は高いものの、生分解ポリエステル樹脂(A)が架橋されていないため耐熱性に劣っていた。
また、実施例4と実施例6および7を比較すると、鱗状黒鉛を用いた方が、より熱伝導性に優れている。これは、射出成形時に鱗状黒鉛が樹脂流れ方向に高度に配向したためと考えられる。
実施例2〜15においては反応性化合物を添加したことにより、生分解ポリエステル樹脂(A)の末端基が封鎖され、耐湿熱性に優れていた。
実施例12においては繊維状充填剤として熱伝導率の高い炭素繊維を用いているため、機械的特性に加え、熱伝導率もさらに向上した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリエステル樹脂(A)40〜95容量%と、10W/m・K以上の熱伝導率を有する充填材(B)60〜5容量%とからなり、生分解性ポリエステル樹脂(A)が、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)により架橋されていることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
生分解ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)が0.01〜10質量部配合されていることを特徴とする請求項1記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
生分解ポリエステル樹脂(A)が、ポリ乳酸系樹脂を主成分とすることを特徴とする請求項1または2記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
充填材(B)が、平均粒径1〜300μmの鱗状および/または鱗片状黒鉛であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)が、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、または1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
繊維状充填材(D)を、生分解性ポリエステル樹脂(A)および充填材(B)の合計100質量部に対して3〜30質量部含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
繊維状充填材(D)が、ガラス繊維、炭素繊維およびケナフ繊維から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項6記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
エポキシ、イソシアネート、オキサゾリン、カルボジイミド、酸無水物、およびアルコキシシランよりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1単位以上含有する反応性化合物(E)を、生分解性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.1〜5質量部含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物を、押出成形、真空および/または圧空成形、射出成形、ブロー成形、ならびに発泡成形のいずれかの方法によって成形してなる熱伝導性樹脂成形体。

【公開番号】特開2007−262295(P2007−262295A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90930(P2006−90930)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】