説明

熱伝導性樹脂組成物およびそれを含む放熱材

【課題】軽量であって、かつ熱伝導性が高い熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の熱伝導性樹脂組成物は、フレーク状金属粉末と、樹脂とを含むことを特徴とする。上記の熱伝導性樹脂組成物は、5質量%以上50質量%以下のフレーク状金属粉末と、50質量%以上95質量%以下の樹脂とを含むことが好ましい。上記のフレーク状金属粉末は、その平均粒子径が1μm以上100μm以下であり、その平均厚みが0.01μm以上5μm以下であり、そのアスペクト比が5以上1000以下であることが好ましく、アルミニウムであることがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物およびそれを含む放熱材に関し、特に、フレーク状金属粉末と樹脂とを含む熱伝導性樹脂組成物およびそれを含む放熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギや環境対応型の製品の開発が進んでいる。たとえば自動車に搭載される照明機器にLED照明が採用されたり、石油エネルギに代替するエネルギ源として太陽電池が採用されたりしている。
【0003】
しかしながら、LED照明ではLEDパッケージから発生する熱によって、LED自体の寿命が極端に短くなってしまうことが問題となっているため、効率的に放熱できるLEDパッケージが求められている。太陽電池においても同様に、デバイスから発生する熱が問題となっており、放熱対策を講じる必要があると言われている。
【0004】
また、半導体デバイス、ICなどの半導体素子では、それ自体を小型化すべく内部回路の高集積化が進んでいる。これに伴って単位体積あたりの発熱量が増大しており、この発熱をいかに効率よく外部に放散するかが課題となっている。ちなみに、半導体素子は、パッケージで包装されることによって外部から保護されている。
【0005】
従来は、半導体素子の放熱性を高めるために、パッケージの材料として放熱性に優れるセラミックスを用いていた。しかし、近年は、材料コストの削減の要請を受け、パッケージの材料をセラミックスからエポキシ樹脂、シリコーン樹脂のような樹脂に代替している。ただし、パッケージの材料を樹脂のみによって構成すると、それ自体の放熱性が極めて低いという問題があるため、実際には樹脂に熱伝導性が高い無機物質を添加したものを用いている。以下において、樹脂に無機物質等の諸成分を添加したものを「樹脂組成物」と記し、特にその中でも熱伝導性を示すものを「熱伝導性樹脂組成物」と記す。
【0006】
上記の無機材料としては、シリカ、アルミナ、窒化硼素(BN)、金属粉末などを用いることができる。これらの無機材料のうちから組成や添加量を適宜選択することによって、樹脂組成物の熱伝導率を調整し、放熱性を高める。ただし、上記の無機材料のうちのアルミナは、成形時に金型を摩耗するという難点があり、BNは、それそのものが高価である。このため、無機材料には、一般的にはシリカが好適に用いられ、特に、熱伝導率が高い結晶シリカがよく用いられている。
【0007】
また、特開平05−086246号公報(特許文献1)には、熱伝導性の高い金属粉末を無機物質として含有した熱伝導性樹脂組成物が開示されている。このような金属粉末を熱伝導性フィラーに用いる場合、金属粉末が電気伝導性を有することになる。このため、熱伝導性に加えて絶縁性が要求される用途では、金属粉末をそのまま熱伝導性フィラーとして使用することができない。
【0008】
そこで、特開2006−321968号公報(特許文献2)では、粒子状アルミニウム表面に厚い酸化皮膜を設けた熱伝導性フィラーを用いる技術が開示されている。このような熱伝導性フィラーを用いることにより、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性を高めつつ、電気絶縁性を確保することができる。
【0009】
さらに、特開2009−73928号公報(特許文献3)には、銅粉表面をシランカップリング剤により修飾した熱伝導性銅フィラーが開示されている。熱伝導性銅フィラーを用いることにより、熱伝導性に優れつつ、絶縁性を有する熱伝導性樹脂組成物を作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平05−086246号公報
【特許文献2】特開2006−321968号公報
【特許文献3】特開2009−073928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示される金属粉末は、その形状が球状であるため、それを樹脂に少量添加しただけでは、熱伝導性を十分に向上させることができない。また前述のとおり、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性フィラーとして金属粉末を用いると、金属粉末が電気伝導性を有するため、絶縁性が求められる用途では、金属粉末をそのまま熱伝導性フィラーとして使用することはできない。なぜなら、熱伝導性フィラーの形状が球状の場合、樹脂組成物中で粒子同士が接触することに起因して絶縁性を保つことができなくなるからである。
【0012】
そして、特許文献1のように熱伝導性を得るために球状の金属粉末を多量に添加すると、樹脂組成物自体の重量が重くなり、半導体素子のパッケージに適さなくなってしまう。さらに、樹脂組成物のコストが高くなる上に、樹脂量の配合比が低下することにより樹脂組成物自体の強度が低下し、成型物に成型しにくくなるという問題もある。
【0013】
一方、特許文献2では、アルミニウム粒子の表面に対し、酸処理、エネルギー線照射処理、または電気化学的処理を行なうことにより、アルミニウム粒子の表面に酸化皮膜を形成し、電気絶縁性を高める技術が開示されている。
【0014】
しかし、酸処理は、アルミニウム粒子と酸とが反応するときに水素ガスが発生して危険である。また、エネルギー線照射処理は、エネルギー線が表層のアルミニウムにしか照射されず、たとえアルミニウム粒子を流動させながらエネルギー線を照射しても、エネルギー線をアルミニウム粒子の表面に均一に照射することは不可能であり、未処理部分が生じる。また、陽極酸化は、アルミニウム粒子を電極に接触させる必要があるが、全てのアルミニウム粒子を均一に電極に接触させることは現実的に不可能である。
【0015】
特許文献3には、乾式法、スラリー法、スプレー法等によって銅粒子をシランカップリング剤で被覆する方法が開示されている。しかし、乾式法やスプレー法により銅粒子を処理する場合、均一にシランカップリング剤を被覆することが困難であるし、しかも銅粒子が凝集しやすいため実用的ではない。一方、スラリー法は、銅粒子の表面に均一にシランカップリング剤を被覆することはできるが、シランカップリング剤は官能基を有するため、反応性が強く、銅粒子を凝集させやすいというデメリットがある。さらに、シランカップリング剤のみで酸化皮膜を被覆するためには、シランカップリング剤を多量に用いる必要がある。
【0016】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされてものであり、その目的とするところは、軽量であって、かつ熱伝導性が高い熱伝導性樹脂組成物を提供することにある。本発明の熱伝導性樹脂組成物は、電気絶縁性に優れるため、電気絶縁性が要求される用途にも使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、金属粉末の特にフレーク状金属粉末が熱伝導性の向上に顕著に寄与し、球状の金属粉末に比して電気絶縁性を高めるとの知見を得た。さらに、フレーク状金属粉末に特定の表面処理を施すことにより電気絶縁性をさらに向上し得るとの知見が得られた。このような知見に基づいて鋭意検討を重ねることにより、電気絶縁性に優れた熱伝導性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、フレーク状金属粉末と、樹脂とを含むことを特徴とする。上記の熱伝導性樹脂組成物は、5質量%以上50質量%以下のフレーク状金属粉末と、50質量%以上95質量%以下の樹脂とを含むことが好ましい。
【0019】
上記のフレーク状金属粉末は、その平均粒子径が1μm以上100μm以下であり、その平均厚みが0.01μm以上5μm以下であり、そのアスペクト比が5以上1000以下であることが好ましく、アルミニウムであることがより好ましい。
【0020】
上記のフレーク状金属粉末は、アルミニウムであることが好ましく、さらにその表面が重合体皮膜により被覆されていることが好ましい。該重合体皮膜は、1以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーを1種以上重合させることによって得られた重合体からなることがより好ましい。
【0021】
フレーク状金属粉末は、その表面が金属酸化物皮膜により被覆されていることが好ましく、該金属酸化物皮膜は、シリカからなることが好ましい。また、本発明は、上記の熱伝導性樹脂組成物を含む放熱材でもある。
【発明の効果】
【0022】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、上記のような構成を有することにより、軽量であって、かつ熱伝導性が高いという優れた効果を示す。さらに、フレーク状金属粉末の表面に特定の表面処理を施すことにより、電気絶縁性を向上し得るという優れた効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の熱伝導性樹脂組成物を説明する。
<熱伝導性樹脂組成物>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、フレーク状金属粉末と樹脂とを含むことを特徴とする。本発明は、このようにフレーク状金属粉末を樹脂に含有せしめることを最大の特徴とする。これにより熱伝導性を高めるとともに、電気絶縁性を向上させることができる。ここで、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、樹脂成型物の用途に用いられるもののみに限られるものではなく、塗布物、塗布膜、接着剤等の用途に用いられるものも含むものである。
【0024】
上記のフレーク状金属粉末を用いることにより、従来の球状の金属粉末よりも少量で熱伝導性を顕著に高めることができるため、熱伝導性樹脂組成物を軽量化することができる。このようにフレーク状金属粉末が、従来の球状の金属粉末に比して少量で熱伝導性を向上させることができるのは、フレーク状金属粉末のアスペクト比が大きいことによるものと推察される。すなわち、フレーク状金属粉末のアスペクト比が大きいため比表面積を増大し、金属粉末の単位重量あたりの熱伝導性が高くなるものと考えている。
【0025】
また、従来の球状の金属粉末は、樹脂組成物中で接触しやすいため、樹脂組成物中の金属粉末の含有量を増やすと、樹脂組成物の絶縁性を保つことができなくなっていたが、本発明のようにフレーク状金属粉末を用いることにより、フロー成型や押し出し成型、シート成型などの成型時にフレーク状金属粉末が一定方向に流れて、フレーク状金属粉末が流れ方向に対して平行に配向するため、互いのフレーク状金属粉末が接触しにくくなり、もって電気絶縁性が優れたものとなる。さらに、フレーク状金属粉末の表面に有機または無機の皮膜を被覆することにより、熱伝導性を高めつつ電気絶縁性を付与することができる。
【0026】
以上の次第で、本発明に用いられるフレーク状金属粉末は、球状金属粉末よりも少量で熱伝導率および電気絶縁性を向上することができる。また、後述するようにフレーク状金属粉末の表面に特定の表面処理を施すことにより、さらに電気絶縁性を高めることができる。
【0027】
上記2成分の含有比率は、5質量%以上50質量%以下のフレーク状金属粉末と、50質量%以上95質量%以下の樹脂とを含むことが好ましく、より好ましくは20質量%以上40質量%以下のフレーク状金属粉末と、60質量%以上80質量%以下の樹脂とを含むことである。このような含有比率とすることによりフレーク状金属粉末の混練性を低下させることなく、高い熱伝導性を発現する。以下、本発明の熱伝導性樹脂組成物に含まれる各成分を説明する。
【0028】
<フレーク状金属粉末>
本発明に用いられるフレーク状金属粉末は、5質量%以上50質量%以下の質量比率で含まれることが好ましく、より好ましくは20質量%以上40質量%以下である。このようなフレーク状金属粉末は、金属のみから構成されていてもよいし、金属基合金から構成されていてもよい。上記金属は、熱伝導性を有する金属であれば特に限定することなく用いることができるが、アルミニウム、銅、銀、鉄、ニッケル、珪素、亜鉛、および錫からなる群より選択される1種以上の金属または該金属の合金を用いることが好ましく、アルミニウムを用いることがより好ましい。アルミニウムは、熱伝導性、電気絶縁性、軽量性、コストのバランスがよいことに加え、表面に数nmの厚みの絶縁性の自然酸化皮膜を形成することにより、電気絶縁性に優れたものとなるという利点がある。上記の金属の純度は、特に限定することなくいかなるものをも用いることができる。
【0029】
また、本発明に用いられるフレーク状金属粉末の平均粒子径は、特に限定するものではないが、1μm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上30μm以下である。上記範囲内の平均粒子径のものを用いることにより、熱伝導性樹脂組成物の成形性および外観が優れるというメリットがある。ここで、「外観が優れる」とは、成型物においては、成型物の表面からフレーク状金属粉末が突き出していないこと等を意味し、塗膜においては、塗膜からフレーク状金属粉末が突き出していないこと等を意味する。ここで、フレーク状金属粒子の平均粒子径は、レーザー回折法によって測定された粒度分布に基づいて体積平均を算出した値を採用するものとする。
【0030】
フレーク状金属粉末の平均厚みは、特に限定されないが、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.03μm以上1μm以下である。このような平均厚みを有するフレーク状金属粉末は、熱伝導性樹脂組成物の成形性および外観を良好にするというメリットがある。一方、0.01μm未満であると、熱伝導性樹脂組成物の成形性が低下する場合があり、5μmを超えると、フレーク状金属粉末が突き出して、外観が悪くなるという問題がある。ここで、フレーク状金属粉末の平均厚み(μm)は、フレーク状金属粉末1g当たりの水面拡散面積(WCA)を測定し、下記式に代入することによって算出される。
式:平均厚み(μm)=104/(金属密度×WCA)
なお、金属密度の単位は(g/cm2)であり、WCAの単位は(cm2/g)であり、水面拡散面積(WCA)は、JIS K 5906:1998(塗料用アルミニウム顔料)に記載されている方法によって測定した値を採用するものとし、アルミニウム以外の組成からなるフレーク状金属粉末の場合でも、これと同様の方法によって平均厚みを算出するものとする。
【0031】
本発明に用いられるフレーク状金属粉末は、その平均粒子径をその平均厚みで割った形状係数(以下において「アスペクト比」と記す)が5以上1000以下であることが好ましい。ここで、アスペクト比の値が高いほど熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性を向上させることができるが、成型時に熱伝導性樹脂組成物が流動しにくくなる。このため、熱伝導性および成型性を両立するという観点から、フレーク状金属粉末のアスペクト比は50以上500以下であることがより好ましく、さらに好ましくは10以上200以下である。このようなアスペクト比を有するフレーク状金属粉末を用いることにより、熱伝導性の向上効果が顕著になるとともに、成型性が良好となる。
【0032】
なお、フレーク状金属粉末は、どのような製造方法によって作製されたものを用いてもよいが、フレーク化が容易という観点から、ボールミルなどを用いた湿式粉砕法によって作製されたものを用いることが好ましい。なお、プラスチックフィルムに対し、金属膜を真空蒸着した後に、該金属膜をプラスチックシートから剥離することによりフレーク状金属粉末を作製してもよい。
【0033】
湿式粉砕法を用いてフレーク化する場合、粉砕に用いられた粉砕助剤がフレーク状金属粉末の表面に付着していても差し支えない。むしろフレーク状金属粉末の表面に付着した粉砕助剤が絶縁性を示すことにより、熱伝導性樹脂組成物の電気絶縁性を高めることができる。ここで、粉砕助剤としては、特に限定することなく、従来公知のいかなるものをも使用することができるが、たとえばオレイン酸、ステアリン酸などの脂肪酸や、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコール、エステル化合物などを好適に用いることができる。
【0034】
上記のフレーク状金属粉末を高濃度で配合し、かつ熱伝導性樹脂組成物の電気絶縁性を確保するためには、フレーク状金属粉末の表面に特定の表面処理を施すことが好ましい。このような表面処理としては、フレーク状金属粉末の表面を重合体皮膜または金属酸化物皮膜によって被覆する方法を挙げることができる。以下においては、フレーク状金属粉末の表面を被覆する重合体皮膜または金属酸化物皮膜を説明する。
【0035】
<重合体皮膜>
上記のフレーク状金属粉末は、その表面が重合体皮膜により被覆されていることが好ましい。かかる重合体皮膜で被覆することにより、熱伝導性樹脂組成物中でフレーク状金属が接触しても、電気伝導性が発現しにくくなるため、熱伝導性樹脂組成物の電気絶縁性を高めることができる。
【0036】
上記の重合体皮膜による被覆量は、フレーク状金属粉末の表面全体を被覆するものであれば特に限定されないが、フレーク状金属粉末100質量部に対し、0.5〜40質量部の重量で被覆することが好ましい。このような被覆量で被覆することにより、熱伝導性樹脂組成物の電気絶縁性を向上させることができる。
【0037】
重合体皮膜を被覆する方法は、特に限定されないが、電気絶縁性を高めるという観点から、均一に重合体皮膜を被覆することができる方法を用いることが好ましく、その方法の一例を示すと、たとえば、まずフレーク状金属粉末と重合溶媒とを攪拌可能なタンクに投入し、これらを分散してスラリーとする。その後、必要に応じて温度や重合雰囲気を制御した条件で、このスラリー中に少なくとも1個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマーを重合成分として添加する。続いて、スラリー中にラジカル重合開始剤を添加することにより重合反応を完了させる。
【0038】
上記の重合体皮膜は、フレーク状金属粉末の表面を被覆する材料であれば、特に限定することになく用いることができるが、1種の重合成分を単独で重合するか、または2種以上の重合成分を混合して重合することによって得られるものを用いることが好ましい。
【0039】
中でも、重合体皮膜は、1以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーを1種以上重合させることによって得られた重合体からなることがより好ましく、さらに好ましくは、重合性二重結合を2以上有するモノマーまたはオリゴマーを用いることである。重合性二重結合を2以上有するモノマーまたはオリゴマーを使用することにより、重合体皮膜が3次元架橋された構造となるため、3次元架橋していないものに比して電気絶縁性を高めることができる。このようなモノマーまたはオリゴマーを用いて得られる重合体としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂等を例示することができる。
【0040】
また、上記の重合体を構成する成分としては、たとえば、少なくとも1個以上の重合性二重結合を有するアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。具体的には、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシ‐ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ−トリエチレングリコールアクリレート、メトキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2‐ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、2‐ヒドロキシ‐3‐アクリロイロキシプロピルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコールアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラエチレングリコールジアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、n−ステアリルメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、テトラヒドロフリフラルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、イソステアリルメタクリレート、メトキシトリエチレングリコールメタクリレート、n−ブトキシエチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレートなどを挙げることができる。
【0041】
また、その他の好ましい重合成分として、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、イソプレン、クロロプレン、塩化ビニリデン、アクリルアミド、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、ポリブタジエン、エポキシ化ポリブタジエン、シクロヘキセンビニルモノオキサイド、ジビニルベンゼンモノオキサイドなどを挙げることができる。
【0042】
さらに、ラジカル重合性を有するリン酸モノエステルまたはリン酸ジエステルも好ましい重合成分として使用することもできる。たとえば、2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジ−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2−メタクリロイロキシプロピルアッシドフォスフェート、ビス(2−クロロエチル) ビニルホスホネート、ジアリルジブチルホスホノサクシネートなどを挙げることができる。
【0043】
上記の重合反応に用いる重合溶媒としては、たとえばヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ミネラルスピリットなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、キシレン、トルエンなどの芳香族炭化水素類、クロルベンゼン、トリクロルベンゼン、パークロルエチレン、トリクロルエチレンなどのハロゲン化炭化水素類、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール類、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−n−プロピルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピルなどのエステル類、テトラハイドロフラン、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテルなどのエーテル類を挙げることができる。
【0044】
上記の重合反応に用いる重合溶媒の使用量は、特に限定されないが、重合溶媒中のフレーク状金属粉末の濃度が1〜500g/Lであることが好ましい。これによりフレーク状金属粉末の表面に対し、均一に重合体皮膜を被覆することができる。
【0045】
上記の重合反応に用いるラジカル重合開始剤としては、一般にラジカル発生剤として知られるものを用いることができ、たとえばベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイドなどのパーオキサイド類、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)のようなアゾ化合物などを挙げることができる。
【0046】
上記のラジカル重合開始剤の添加量は特に限定されないが、重合の反応率を高めるという観点から、重合成分100質量部に対し、0.01〜10質量部であることが好ましい。
【0047】
また、重合反応に要する時間は特に限定されないが、生産性の観点から0.5〜30時間であることが好ましい。また、重合反応のときの温度も特に限定されないが、反応速度を早めるという観点から30〜160℃であることが好ましい。
【0048】
<金属酸化物皮膜>
上記のフレーク状金属粉末は、その表面が金属酸化物皮膜により被覆されていることが好ましい。かかる金属酸化物皮膜で被覆することにより、熱伝導性樹脂組成物中でフレーク状金属が接触しても、電気伝導性が発現しにくくなるため、熱伝導性樹脂組成物の電気絶縁性を高めることができる。
【0049】
上記の金属酸化物皮膜による被覆量は、フレーク状金属粉末の表面全体を被覆するものであれば特に限定されないが、フレーク状金属粉末100質量部に対し、0.5〜50質量部の重量で被覆することが好ましい。このような被覆量で被覆することにより、熱伝導性樹脂組成物の電気絶縁性を向上させることができる。
【0050】
上記の金属酸化物皮膜を被覆する方法は特に限定されないが、たとえば、金属酸化物皮膜を構成する金属のアルコキシドをゾル−ゲル法により加水分解して析出させる方法、金属酸化物皮膜を構成する金属の金属塩溶液にアルカリを加えて金属酸化物を中和析出させる方法、有機溶媒に有機金属化合物を溶解させた溶液にフレーク状金属粉末を接触させ熱処理で酸化することにより金属酸化物皮膜を形成する方法等が好適である。
【0051】
その中でも、ゾルーゲル法によって金属酸化物皮膜を形成することが好ましい。この被覆方法は、フレーク状金属粉末の表面に均一に金属酸化物皮膜を被覆することができるからである。
【0052】
上記の金属酸化物皮膜を構成する材料としては、特に限定されないが、たとえばシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリアなどの金属酸化物を用いることができ、中でも、シリカを用いることが好ましい。シリカからなる金属酸化物皮膜は、ゾル−ゲル法で被覆しやすく、かつ低コストで被覆することができる。
【0053】
ゾルーゲル法によってフレーク状金属粉末の表面にシリカからなる金属酸化物薄膜を被覆する方法としては、たとえばフレーク状金属粉末とモリブデン化合物とを含む溶液を撹拌することにより、該フレーク状金属粉末の表面にモリブデン酸化物および/またはモリブデン水和物からなるモリブデン皮膜を形成する工程と、該モリブデン皮膜を有するフレーク状金属粉末を、シランアルコキシドおよび水を含んだ溶液、好ましくは親水性溶液中に分散させて、当該溶液のpHを酸またはアルカリで調整することによりシランアルコキシドを加水分解させて、金属フィラー上のモリブデン皮膜の表面に非晶質シリカからなる皮膜を形成する工程を経る方法を採用することが好ましいが、これのみに限られるものではなく、たとえばモリブデン化合物を含まなくてもよい。
【0054】
上記のシランアルコキシドとしては、たとえばテトラエトキシシラン、テトラエトキシシランの縮合物、テトライソプロポキシシラン、テトライソプロポキシシランの縮合物等を挙げることができる。該シランアルコキシドの使用量は、フレーク状金属粉末100質量部に対して、シリカ換算で0.5〜40質量部程度とすることが好ましい。このようなシランアルコキシドは、1種または2種以上のものを組み合わせて用いることができる。
【0055】
なお、ゾル−ゲル法における加水分解を促進させるために、加水分解触媒をさらに添加してもよい。加水分解触媒としては、たとえばアンモニア、トリエチルアミン、n−ブチルアミン、エチレンジアミン、燐酸、硝酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。このような加水分解触媒の使用量は、溶媒中の含有量として0.05g/L〜50g/L程度とすることが好ましい。
【0056】
また、親水性溶媒としては、たとえばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、アセトン等を挙げることができ、これらを1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
上記の親水性溶媒の使用量は、フレーク状金属粉末の表面に均一に金属酸化物皮膜を被覆するという観点から、親水性溶媒中の金属フィラー濃度を1〜500g/Lとすることが好ましい。また、上記で用いる水は、シランアルコキシド1当量に対し、1〜20当量程度とすることが好ましく、より好ましくは4〜12当量である。
【0058】
シリカからなる金属酸化物皮膜は、以下のように反応させることによってフレーク状金属粉末の表面に成膜することが好ましい。すなわち、まずシランアルコキシドおよび水を含む親水性溶液に、フレーク状金属粉末を分散させる。この分散液はシランアルコキシドと親水性溶液とを含有するものであってもよいが、親水性溶液にフレーク状金属粉末を分散させながら、シランアルコキシドを1〜20時間かけて少量ずつ滴下させることが好適である。この操作によりシリカからなる金属酸化物皮膜を形成することができる。上記の滴下時間は3〜10時間であることが好ましい。滴下時間が1時間未満であると、均一な厚みの金属酸化物皮膜を形成することが困難となる場合があり、滴下時間が20時間を超えると、生産性が低下し製造コストが高くなる。なお、加水分解触媒を用いる場合は、シランアルコキシドとともに加水分解触媒を滴下してもよいし、該フレーク状金属粉末とともに初めから分散させていてもよい。
【0059】
上記のようなシリカからなる金属酸化物皮膜を形成する工程の温度は、10℃〜100℃に設定することが好ましく、より好ましくは30〜90℃程度である。また、反応時間は0.5時間〜30時間程度に設定することが好ましく、より好ましくは3〜10時間程度である。この反応時間は、シランアルコキシドを少量ずつ滴下させる時間を含むものであるが、該滴下が終了した後もさらに0.5〜5時間程度反応を継続して、該反応を完全に終了させることが好ましい。
【0060】
さらに、熱伝導性樹脂組成物中でのフレーク状金属粉末の流動性および分散性を向上させることを目的として、各種官能基を持つシランカップリング剤を上記工程中または続く工程において添加して使用することができる。上記シランカップリング剤の官能基としては、アルキル基、アクリル基、メタクリル基、グリシジル基、ビニル基、フェニル基、メルカプト基、アミノ基、イミダゾール基等を選択することができる。
【0061】
<樹脂>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、50質量%以上95質量%以下の樹脂を含むことを特徴とし、好ましくは60質量%以上80質量%以下の樹脂を含むことである。このような割合で樹脂を含むことにより、熱伝導性樹脂組成物の成形流動性が損なわれにくく、熱伝導性樹脂組成物の実用的な機械的特性も保持されるというメリットがある。
【0062】
本発明において、樹脂は、熱伝導性樹脂組成物が必要とする諸性能に応じて適宜選択すればよく、特に、放熱材が必要とする性能に合わせて選択することが好ましい。また、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、単一の樹脂のみで構成してもよいし、2種以上の樹脂を併用してもよい。このような樹脂としては、熱硬化性樹脂を用いてもよいし、熱可塑性樹脂を用いてもよいし、これらを併用してもよい。中でも、熱可塑性樹脂は、射出、中空、押出、真空などの成形方法によって、種々の形態の成形体を熱溶融成形で賦型することができる点、再生利用(リサイクル)を容易に行なうことができる点などのメリットがあるため好ましい。
【0063】
上記の熱硬化性樹脂としては、たとえばフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂などのアミノ樹脂の他、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などを用いることができる。また、熱可塑性樹脂としては、たとえばポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂の他、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂などを用いることができる。
【0064】
上記の熱可塑性樹脂の中でも、ポリプロピレン樹脂は、汎用的に用いられる樹脂であって、かつ耐熱性に優れるという利点があり、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂などは、精密成形技術の分野で要求される非晶性ポリマー特有の寸法安定性に優れ、かつ電子部品などに多大な実績を有するため好ましい。
【0065】
<その他の成分>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、本発明の効果に影響を与えない限り、上述の2成分に加え、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、たとえば窒化アルミ、窒化珪素、窒化ホウ素、酸化アルミなどのような熱伝導性材料の他、少量の硬化剤、硬化促進剤、着色材、滑剤、酸化防止剤、顔料などのような添加剤などを挙げることができる。
【0066】
<熱伝導性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、フレーク状金属粉末と樹脂とを混練することにより得られるものである。これらの2成分を混練する方法は特に限定されないが、たとえば、単軸式または二軸式混練押出機を用いて混練するか、もしくはニーダ型混練機を用いて混練することが好ましい。
【0067】
ここでの混練に用いる混練装置は、ベント口が設けられた開放式であってもよいし、真空脱気装置などを附帯した密閉式であってもよい。さらに、射出成形機により上記2成分の混練とそれに続く成形とを同時に行なってもよい。この場合、上記2成分の原料を射出成形機にそのまま混合投入してドライブレンドの状態で成形することになる。
【0068】
また、上記の混練時の温度は、用いる樹脂によって最適な温度が異なるため、一義的に数値範囲を規定することは困難であるが、たとえば樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いる場合、180℃以上230℃以下であることが好ましく、より好ましくは200℃以上220℃以下である。このような温度範囲内で混練を行なうことにより、混練時のせん断作用などの機械的負荷によってフレーク状金属粉末が切断されたり破壊されたりするのを抑制することができる。
【0069】
また、ニーダ型混練機を用いて混練する場合の混練時間は、特に限定されないが、3分以上20分以下が好ましく、より好ましくは5分以上15分以下である。このような範囲内で混練を行なうことにより、混練時の機械的負荷によってフレーク状金属粉末が切断されたり破壊されたりするのを抑制することができるとともに、均一に分散することもできる。
【0070】
なお、混練するにあたって上記の2成分の混合順序は、特に制限されることなく、同時に添加してもよいし、順番に添加してもよいが、樹脂を先に添加して完全に溶融した後に、フレーク状金属粉末を添加して混練することが好ましい。このような順序で混練することにより、混練時にフレーク状金属粉末に加わるせん断応力などの機械的負荷を最小限に抑制することができ、これらが切断または破壊されるのを抑制することができる。
【0071】
また、混練する前のフレーク状金属粉末としては、粉末状態のものを用いてもよいし、ミネラルスピリットなどの不揮発性の溶剤によってペースト状態にしたものを用いてもよい。また、ポリエチレン樹脂などの熱可塑性樹脂やポリエチレンワックスなどの各種ワックスなどにフレーク状金属粉末を混合してペレット状にしたマスターバッチを用いてもよい。これらの中でも、取り扱いの簡便さや樹脂への混合のしやすさの観点から、マスターバッチによって、フレーク状金属粉末を導入することが好ましい。
【0072】
<放熱材>
本発明の放熱材は、上記の熱伝導性樹脂組成物を含むことを特徴とする。このような放熱材は、目的に応じた成形方法で熱伝導性樹脂組成物を成形することによって作製されるものである。かかる熱伝導性樹脂組成物は、軽量であって、かつ熱伝導性が高いという優れた性質を示すため、これによって形成される放熱材は、半導体デバイス、LED照明のケーシング、太陽電池モジュールなどの電子デバイスの他、電子部品などに好適に用いることができる。
【0073】
ここで、本発明の放熱材を成形する方法としては、たとえばFRP成形、トランスファー成形などの圧縮成形法;キャスト成形、封入注型などの注型法;カレンダ成形などのロール加工法;RIM成形、射出発砲成形などの射出成形法;押出し発砲成形などの発砲技術法;インフレーションフィルム成形、Tダイフィルム成形などの押出し成形法などを挙げることができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
<実施例1〜15および比較例1〜8>
各実施例および各比較例(ただし、実施例2、7を除く)の熱伝導性樹脂組成物は、以下の(1)〜(5)に示す各成分を以下の表3および表4に示す金属濃度となるようにフレーク状金属粉末に対し、PP樹脂を配合し、後述する方法により得たものである。なお、実施例2および7は、後述するマスターバッチのみから構成されるものであり、PP樹脂は含有していないものである。
【0076】
フレーク状金属粉末を熱伝導性樹脂組成物の構成成分として混合するにあたっては、当該フレーク状金属粉末を樹脂等と混合することによりマスターバッチとしたものを用いて他の成分と混合した。具体的には、マスターバッチ中のフレーク状金属粉末が70質量%となるように、ポリエチレン樹脂(PE樹脂)と、ポリエチレンワックスとフレーク状金属粉末とを混合して得られたマスターバッチ(製品名:メタックスネオ(東洋アルミニウム株式会社製))を用いた。
(1)樹脂
PP樹脂:(製品名:射出成形用グレード 住友ノーブレンZ101A(住友化学株式会社製))
(2)フレーク状金属粉末
実施例1〜15(ただし実施例11は除く)では、アトマイズ法により製造された球状金属粉をボールミルによって表4に記載の形状に加工したフレーク状金属粉末を用いた。
【0077】
実施例11では、10nmの厚みのアルミニウム薄片状シートを10μmの平均粒子径に粉砕したフレーク状金属粉末を用いた。該アルミニウム薄片状シートは、PETフィルム上にアクリル樹脂を塗布し、この上にアルミニウムを10nmの厚みで真空蒸着したものを有機溶剤に浸漬して取り出したものを用いた。
(3)球状金属粉末
アトマイズ法により得られた表3および表4に記載の平均粒子径の球状金属粉末を用いた。
(4)重合体皮膜で被覆したフレーク状ニッケル粉末(実施例14)
実施例14では、実施例13のフレーク状ニッケル粉末の表面に、重合体皮膜を被覆したものを用いた。具体的には容積2Lの四つ口フラスコにエポキシ化1,2ポリブタジエン、トリメチロールプロパントリアクリレート、アクリル酸、およびジビニルベンゼンの4種の合計量28.9g、ミネラルスピリット1170g、フレーク状ニッケル粉末を300g充填し、窒素ガスを導入しながら攪拌混合した。そして、系内の温度を80℃に昇温し、α,α‘−アゾビスイソブチロニトリル(以下AIBN)を0.1g添加し、攪拌を続けながら2時間反応させた。その後さらにAIBNを2g添加し、80℃で6時間反応させることにより、フレーク状ニッケル粉末100質量部に対し、9.6質量部の重合体皮膜を被覆した。そして、反応終了後に混合液をろ過し、さらに濃縮することによって重合体皮膜で被覆したフレーク状ニッケル粉末を得た。
(5)シリカ皮膜被覆ニッケル粉末(実施例15)
実施例15では、実施例13のフレーク状ニッケル粉末の表面に、シリカからなる金属酸化物皮膜を被覆したものを用いた。具体的には過酸化水素30%を含む過酸化水素水10gに金属モリブデン粉末0.5gを少しずつ加え、反応させて得られた溶液をイソプロピルアルコール600gに溶解させた。これを容積2Lの四つ口フラスコに注ぎ、さらにフレーク状ニッケル粉末100gを加え、50℃で1時間撹拌撹拌した。その後、上記スラリーにモノエタノールアミンを加えスラリーのpH値を8.5に調整した。次に、pH調整したスラリーにテトラエトキシシラン40gを加え、さらに50℃で10時間撹拌撹拌した。途中2時間毎にスラリーpH値をチェックし、モノエタノールアミンを加えることによりpH値が8.5になるように調整することにより、フレーク状ニッケル粉末100質量部に対し、11.2質量部の金属酸化物皮膜を被覆した。上記の反応終了後、反応終了後に混合液をろ過し、さらに濃縮することによって金属酸化物皮膜で被覆したフレーク状ニッケル粉末を得た。
【0078】
密閉式混合機(製品名:ラボプラストミル100C 100型(株式会社東洋精機製作所))を用いて、以下の表1に示す条件で混練りを行なうことにより各実施例および各比較例の熱伝導性樹脂組成物を作製した。次に、これを表2に示す条件でプレス成形をすることにより、シート状物を得た。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
<特性評価>
上記で得られた各実施例および各比較例の熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率を評価するために、シート状物を切削加工し、5.0mmΦ×厚みが1.0mmの試験片を準備した。実施例1〜2および比較例1については、この試験片の密度、比熱、熱拡散率、およびこれら3つの測定値から算出された熱伝導率ならびに流れ値をそれぞれ、下記の方法によって測定した。その結果を表3に示す。また、実施例3〜15および比較例2〜8については、迅速熱伝導率計(製品名:QTM−500(京都電子工業株式会社製))を用いて、非定常法細線加熱法により面内方向の熱伝導率を測定するとともに、後述する方法により抵抗率、および流れ値を測定した。その結果を表4に示す。
【0082】
(密度)実施例1〜2および比較例1
室温(20℃)で水中置換法によって測定した。
【0083】
(比熱)実施例1〜2および比較例1
測定方法:示差走査熱量測定法(DSC:Differential scanning calorimetry)
測定装置:入力補償方示差走査熱量測定装置(装置名:Pyris Diamond DSC(株式会社パーキンエルマージャパン製))
昇温速度:20℃/min
試料量:15mg
雰囲気:ヘリウム 20mL/min
(熱拡散率)実施例1〜2および比較例1
測定方法:レーザフラッシュ法
測定装置:熱物性測定装置(製品名:LFA−502(京都電子工業株式会社製))
解析法:カーブフィッティング法
雰囲気:窒素 20mL/min
測定方向:5.0mmΦ×厚みが1.0mmの試験片に対し、厚さ方向および面内方向の熱拡散率を測定した。
【0084】
(熱伝導率)
実施例1〜2および比較例1については、上記で得られた密度、比熱、および熱拡散率の各値をそれぞれ、下記の式に代入することにより熱伝導率を算出した。なお、この熱伝導率の値が高いほど、熱伝導性(すなわち放熱性)に優れることを示す。
【0085】
熱伝導率(W/m・K)=密度(kg/m3)×比熱(kJ/kg・K)×熱拡散率(m2/s)×1000(kJ/J)
また、上記の熱伝導率の測定方法は、密度、比熱、および熱拡散率を測定する必要であって煩雑であるため、実施例3〜15および比較例2〜8については、より簡便な非定常法細線加熱法によって面内方向の熱伝導率を測定した。
【0086】
(流れ値)全ての実施例および比較例
測定方法:JIS K7210:1999附属書Cに準拠
使用試験機:フローテスタ CFT−500形(株式会社島津製作所製)
試験温度:250℃
予熱時間:5分
試料:1.5g
ダイ:1.0Φ×1.0mm
プランジャー面積:1cm2
荷重:0.88kN(90kgf)(流れ値測定)
このような条件で得られる流れ値は、熱伝導性樹脂組成物の流動性を示すものであり、流れ値が高いほど流動性が高いことを示す。
【0087】
(抵抗率)
実施例3〜15および比較例2〜8の熱伝導性樹脂組成物の体積抵抗率を測定し、その結果を表4の「抵抗率」の欄に示した。体積抵抗率は高抵抗率計(製品名:ハイレスタUP MCP−HT450型(株式会社三菱アナリテック社製))を用いて印加電圧500Vとして熱伝導性樹脂組成物の抵抗率を測定した。抵抗率の値が高いほど電気が流れにくいことを示すものであり、電気絶縁性に優れていることを示す。
【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
<評価結果および考察>
表4において、たとえば実施例3と比較例8とを対比すると、金属粉末を含まない樹脂組成物に5質量%のフレーク状金属粉末を添加すると、熱伝導率が0.15W/mKから0.57W/mKに向上することが認められる。このことから、フレーク状金属粉末を低含有量でも添加することにより、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率を向上させる効果を示すことが明らかとなった。
【0091】
また、実施例3〜7は、フレーク状金属粉末の添加量を変化させたものである。実施例3〜7の熱伝導率の値の変化から、フレーク状金属粉末の添加量を増やすほど、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率を向上させる効果を示すことが明らかである。一方、比較例2〜6においては球状金属粉末の添加量を変化させたものである。比較例2〜6の熱伝導率の値の変化から、球状金属粉末でもフレーク状金属粉末と同様に添加量を増やすほど、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率を向上させる効果を示すが、フレーク状金属粉末の熱伝導率の向上効果ほどは期待できないことがわかる。
【0092】
なお、実施例6および7では、フレーク状金属粉末の含有量が多いことに起因して、成型物としたときに外観にクラックが発生するという結果となっている。
【0093】
実施例8〜10は、フレーク状金属粉末のアスペクト比を変化させたものである。実施例8〜10の熱伝導率の値の変化から、フレーク状金属粉末のアスペクト比を高めるほど熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率を向上させる傾向を示すことが明らかである。このようにアスペクト比が向上したときに熱伝導率が向上するのは、アスペクト比の増大に伴い、熱を伝導する面積が増加したことによるものと考えられる。
【0094】
一方、実施例8〜10の流れ値を参照すると、アスペクト比の増大に伴って、流れ値が低下する傾向があることが示されている。また、実施例11においては、5質量%程度のフレーク状金属粉末の添加量であっても、そのアスペクト比が1000と高い値を示すため、熱伝導率を大きく向上させることができることが明らかとなった。一方、実施例10と実施例11を対比すると、実施例11は、フレーク状金属粉末の含有量が少ないにもかかわらず、熱伝導性樹脂組成物の流れ値は小さくなっている。
【0095】
実施例4と実施例12との熱伝導率の値を対比すると、実施例4では非常に軽い金属であるアルミニウムからなるフレーク状金属粉末を用いているため、少量の添加量で熱伝導率を顕著に向上させることができる一方、実施例12では比較的重いニッケルからなるフレーク状金属粉末を用いているため、実施例4に比して熱伝導率の向上効果が小さいことがわかる。
【0096】
実施例5と実施例12との抵抗率の値を対比すると、実施例5に示すようにアルミニウムは高濃度でも優れた電気絶縁性を示すことが明らかである。これは、アルミニウムからなるフレーク状金属粉末の表面に形成される自然酸化皮膜が優れた電気絶縁性を示すことによるものと考えられる。
【0097】
また、実施例6と比較例5の抵抗率を対比すると、フレーク状金属粉末と球状金属粉末との添加量が同一でも、実施例6の方が抵抗率が高い値を示し、電気絶縁性に優れていることがわかる。これは、フレーク状金属粉末が成型物の流れ方向に平行配列して、互いのフレーク状金属粉末が接触しにくくなることによるものであるか、またはフレーク状金属粉末の製造工程においてその表面に脂肪酸や樹脂等が付着し、これが高い絶縁性を示すことによるものであると考えられる。
【0098】
実施例12〜13と実施例14〜15との抵抗率を対比すると、ニッケルをフレーク状金属粉末に用いた場合は抵抗率が低い値となるが、ニッケルの表面を重合体皮膜または金属酸化物皮膜で被覆することにより、抵抗率が高い値となることが示されている。この結果から、フレーク状金属粉末の表面を重合体皮膜または金属酸化物皮膜で被覆することにより、熱伝導性を維持しながら電気絶縁性に優れた熱伝導性樹脂組成物とすることができることが明らかとなった。
【0099】
以上のような実施例と比較例との対比の結果、各実施例の熱伝導性樹脂組成物は、それに対応する比較例に対し、流動性が良好であって、かつ熱伝導性が高く、電気絶縁性を示す傾向があることが明らかとなった。
【0100】
以上の結果から、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性を示す材料として、フレーク状金属粉末を含むことにより、球状金属粉末のみを使用した場合に比して、高い熱伝導性を示すことが明らかとなった。また、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性を示す材料として球状金属粉末を使用した場合に比して、高い熱伝導性を有する熱伝導性樹脂組成物となることが示された。さらにフレーク状金属粉末の表面を特定の皮膜で被覆することにより、高い熱伝導性と優れた電気絶縁性を有することが示された。
【0101】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0102】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーク状金属粉末と樹脂とを含む、熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
5質量%以上50質量%以下の前記フレーク状金属粉末と、50質量%以上95質量%以下の前記樹脂とを含む、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記フレーク状金属粉末は、その平均粒子径が1μm以上100μm以下であり、その平均厚みが0.01μm以上5μm以下であり、そのアスペクト比が5以上1000以下である、請求項1または2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記フレーク状金属粉末は、アルミニウムである、請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記フレーク状金属粉末は、その表面が重合体皮膜により被覆されている、請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記重合体皮膜は、1以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーを1種以上重合させることによって得られた重合体からなる、請求項5に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
前記フレーク状金属粉末は、その表面が金属酸化物皮膜により被覆されている、請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
前記金属酸化物皮膜は、シリカからなる、請求項7に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物を含む、放熱材。

【公開番号】特開2012−72364(P2012−72364A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173874(P2011−173874)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】