説明

熱伝導性樹脂組成物

ポリマー、球形または粒子形の熱伝導性充填剤、板状の熱伝導性充填剤、および任意選択的にポリマー強化剤を含む熱伝導性ポリマー樹脂組成物。本組成物は、金属/ポリマーハイブリッド部品に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリマーおよび球形または粒子形の熱伝導性充填剤と板状形の熱伝導性充填剤との組み合わせを含む熱伝導性プラスチック樹脂組成物は、封入剤組成物として有用である。
【背景技術】
【0002】
それらの優れた機械的特性および電気絶縁性のために、ポリマー樹脂組成物は、自動車部品、電気および電子部品、機械部品などの広範囲の用途に使用されている。多くの場合に、それらが許すデザイン融通性、シーリング能力およびそれらの電気絶縁性のために、ポリマー樹脂組成物は、電気およびエレクトロニクスデバイスまたはモーター用の封入剤として使用することができる。しかしながら、電気絶縁性が封入ポリマー組成物に必要とされるのみならず、それらはまた多くの場合、特に幾つかの電気デバイスの小型化傾向と共に、より高い熱伝導性を有する必要がある。封入ポリマー組成物にとって重要な別の必要条件は、それらの線熱膨張係数(CLTE)が、封入されたデバイスによって発生する熱を放出しながらシール完全性を保持するために、ポリマー組成物で封入される材料のCLTEに近いべきであることである。一般に、充填剤のCLTEは多くの場合ポリマーのCLTEより低いので、ポリマーでの熱伝導性充填剤のより高い使用量は、より高い熱伝導性とより低いCLTEとにつながる。しかしながら、高い充填剤使用量は多くの場合、メルト形成プロセスにおいてポリマー組成物の流動性を低下させ、それは密封性能の不具合またはポリマー組成物で封入されるコアデバイスの損傷につながり得る。従って、良好な流動性を持った、熱伝導性の、電気絶縁性の、低いCLTEポリマー組成物が望ましい。
【0003】
特開2003−40619号公報は、フッ化カルシウム粉末をシランカップリング剤で表面処理し、コートされた粉末を熱可塑性樹脂および、任意選択的に、充填剤とブレンドして熱伝導性組成物を生成する方法を開示している。しかしながら、ポリマー組成物の粘度の有意な増加なしに熱伝導性および低いCLTEの両方を達成する方法については全く言及されていない。
【0004】
国際公開第2005/071001号パンフレットは、熱可塑性ポリマーとフッ化カルシウムと繊維状充填剤とを含むポリマー組成物を開示している。しかしながら、繊維状充填剤の使用は、繊維状充填剤の配向のために流れ方向と横方向との間で成形収縮のおよび熱伝導性の異方性につながる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(a)25〜75容量パーセントの1種以上のポリマー;
(b)7〜約65容量パーセントの電気絶縁性および球形または粒子形の熱伝導性充填剤;
(c)2〜50容量パーセントの電気絶縁性の板状熱伝導性充填剤
を含む、熱伝導性ポリマー組成物であって、
(c)対(b)の容量比が10対90〜70対30であり、
上述の百分率が組成物の総容量を基準にしている組成物。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の組成物は、(a)少なくとも1種のポリマー、(b)少なくとも1種の球形または粒子形の熱伝導性充填剤、(c)少なくとも1種の板状形熱伝導性充填剤、および任意選択的に(d)少なくとも1種のポリマー強化剤を含む。
【0007】
(a)ポリマーは組成物のポリマーマトリックスである、言い換えれば、1種以上のポリマーは連続相である。有用な熱可塑性ポリマーには、ポリカーボネート、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアセタール、アクリル、ビニル、フルオロポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリエステルなどの液晶ポリマー、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレート、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、およびシンジオタクチックポリスチレン、ならびにそれらのブレンドが含まれる。
【0008】
あるいはまた、エポキシ、ポリイミド、シリコーン、不飽和ポリエステルおよびポリウレタンなどの熱硬化性ポリマーを成分(a)として使用することができる。
【0009】
熱可塑性ポリマーおよびポリエステル、ポリアミドが好ましく、液晶ポリマーが特に好ましい。
【0010】
より好ましい熱可塑性ポリエステルはポリエステルを含み、より好ましくは、一般に、ジオールおよびジカルボン酸、またはそれらの反応性誘導体の線状の飽和縮合生成物である。好ましくは、それらは、8〜14個の炭素原子を有する芳香族ジカルボン酸と、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールおよび式HO(CH2nOH(式中、nは2〜10の整数である)の脂肪族グリコールからなる群から選択される少なくとも1種のジオールとの縮合生成物を含むであろう。ジオールの20モルパーセント以下は、Akzo Nobel Chemicals,Inc.によって商品名Dianol(登録商標)220で販売される、エトキシル化ビスフェノールA;ヒドロキノン;ビフェノール;またはビスフェノールAなどの芳香族ジオールであってもよい。芳香族ジカルボン酸の50モルパーセント以下は、8〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の異なる芳香族ジカルボン酸で置き換えることができ、および/または20モルパーセント以下は2〜12個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸で置き換えることができる。コポリマーは、2種以上のジオールもしくはそれらの反応性等価物と少なくとも1種のジカルボン酸もしくはそれの反応性等価物とから、または2種以上のジカルボン酸もしくはそれらの反応性等価物と少なくとも1種のジオールもしくはそれの反応性等価物とから製造されてもよい。ヒドロキシ安息香酸もしくはヒドロキシナフトエ酸またはそれらの反応性等価物などの二官能性ヒドロキシ酸モノマーがまたコモノマーとして使用されてもよい。
【0011】
好ましいポリエステルには、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(1,4−ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリ(1,3−プロピレンテレフタレート)(PPT)、ポリ(1,4−ブチレン2,6−ナフタレート)(PBN)、ポリ(エチレン2,6−ナフタレート)(PEN)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)(PCT)、ならびに前述のもののコポリマーおよび混合物が含まれる。1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート/イソフタレートコポリマーならびに、イソフタル酸;ビ安息香酸;1,5−、2,6−、および2,7−ナフタレンジカルボン酸を含むナフタレンジカルボン酸;4,4’−ジフェニレンジカルボン酸;ビス(p−カルボキシフェニル)メタン;エチレン−ビス−p−安息香酸;1,4−テトラメチレンビス(p−オキシ安息香酸);エチレンビス(p−オキシ安息香酸);1,3−トリメチレンビス(p−オキシ安息香酸);および1,4−テトラメチレンビス(p−オキシ安息香酸)を含む、芳香族ジカルボン酸と、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール;ネオペンチルグリコール;シクロヘキサンジメタノール;および一般式HO(CH2nOH(式中、nは2〜10の整数である)の脂肪族グリコール、例えば、エチレングリコール;1,3−トリメチレングリコール;1,4−テトラメチレングリコール;1,6−ヘキサメチレングリコール;1,8−オクタメチレングリコール:1,10−デカメチレングリコール;1,3−プロピレングリコール;および1,4−ブチレングリコールからなる群から選択されるグリコールとから誘導される他の線状ホモポリマーエステルもまた好ましい。上に示されたような、20モルパーセント以下の、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を含む、1種以上の脂肪族酸が存在することができる。1,4−ブタンジオール、エトキシル化ビスフェノールA、およびテレフタル酸またはそれの反応性等価物から誘導されるコポリマーもまた好ましい。PET、PBT、およびPPTの少なくとも2種のランダムコポリマー、PET、PBT、およびPPTの少なくとも2種の混合物、ならびに前述のもののいずれかの混合物もまた好ましい。
【0012】
熱可塑性ポリエステルはまた、ポリ(アルキレンオキシド)ソフトセグメント(ブロック)を含有するコポリマーの形態にあってもよい。ポリ(アルキレンオキシド)セグメントは、熱可塑性ポリエステルの100重量部当たり約1〜約15重量部で存在する。ポリ(アルキレンオキシド)セグメントは、約200〜約3,250の範囲のまたは、好ましくは、約600〜約1,500の範囲の数平均分子量を有する。好ましいコポリマーは、熱可塑性ポリ(エーテル−エステル)を形成するために、PETまたはPBT鎖へ組み入れられたポリ(エチレンオキシド)ブロックまたはポリ(テトラメチレングリコール)ブロックを含有する。組み入れの方法は当業者に公知であり、ポリエステルを形成するための重合反応中にコモノマーとしてポリ(アルキレンオキシド)ソフトセグメントを使用することを含むことができる。PETは、PBTと少なくとも1種のポリ(アルキレンオキシド)とのコポリマーとブレンドされてもよい。ポリ(アルキレンオキシド)はまた、PET/PBTコポリマーに共重合されてもよい。本組成物のポリエステル部分へのポリ(アルキレンオキシド)ソフトセグメントの包含は、ポリエステルの結晶化の速度を加速する可能性がある。
【0013】
ポリアミドは別の好ましいタイプのポリマーである。好ましいポリアミドには、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド612、ポリアミド610、または他の脂肪族ポリアミドならびに、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から誘導されるものなどの、半芳香族ポリアミドが含まれる。例には、ポリアミド9T;10T;12T;ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸、およびテレフタル酸から誘導されるポリアミド;ならびにヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、およびテレフタル酸から誘導されるポリアミドが挙げられる。2種以上のポリアミドのブレンドが使用されてもよい。
【0014】
ポリアセタールは、別の好ましいタイプのポリマーである。ポリアセタールは、1種以上のホモポリマー、コポリマー、またはそれらの混合物であることができる。ホモポリマーは、ホルムアルデヒドまたは、ホルムアルデヒドの環状オリゴマーなどの、ホルムアルデヒド等価物を重合させることによって製造される。コポリマーは、ポリオキシメチレン組成物を製造するのに一般に使用される1種以上のコモノマーを含有することができる。一般に使用されるコモノマーには、2〜12個の炭素原子のアルキレンオキシドが含まれる。コポリマーが選択される場合、コモノマーの量は20重量パーセント以下、好ましくは15重量パーセント以下、最も好ましくは約2重量パーセントであろう。好ましいコモノマーはエチレンオキシドおよびブチレンオキシドであり、好ましいポリオキシメチレンコポリマーは、エチレンオキシドまたはブチレンオキシドの量が約2重量パーセントである、ホルムアルデヒドとエチレンオキシドまたはブチレンオキシドとのコポリマーである。ホモ−およびコポリマーは、1)その末端ヒドロキシ基が化学反応によってエンド−キャップされてエステルまたはエーテル基を形成するもの;または、2)完全にはエンド−キャップされておらず、コモノマー単位からの幾らかの遊離ヒドロキシ末端を有するコポリマーであることがまた好ましい。好ましい末端基は、どちらの場合にも、アセテートおよびメトキシである。
【0015】
液晶ポリマー(LCP)は、別の好ましいタイプのポリマーである。LCPとは、参照により本明細書によって援用される、米国特許第4,118,372号明細書に記載されているような、TOT試験またはそれの任意の妥当な変形を用いて試験されるときに異方性であるポリマーを意味する。有用なLCPには、ポリエステル、ポリ(エステル−アミド)、およびポリ(エステル−イミド)が含まれる。LCPの好ましい一形態は「全芳香族」である、すなわち、(エステル基などの連結基を除いては)ポリマー主鎖中の基の全てが芳香族であるが、芳香族でない側鎖が存在してもよい。
【0016】
ポリマー(a)は、組成物の総容量を基準にして、好ましくは約25〜約75容量パーセント、またはより好ましくは約30〜約60容量パーセントで存在するであろう。
【0017】
本発明において成分(b)として使用される熱伝導性充填剤は電気絶縁性であり、それらの形状は球形または粒子形である。電気絶縁性とは、両タイプの熱伝導性充填剤の体積抵抗率が109オームcmより高い、好ましくは1012オームcmより高いことを意味する。充填剤の体積抵抗率は、ASTM D257に従って測定される。
【0018】
「球状」または「粒状」は、充填剤(b)のアスペクト比が低いことを意味する。充填剤(b)の平均アスペクト比は5未満、または好ましくは3未満である。球状または粒状充填剤の熱伝導率は5W/m°K以上、好ましくは10W/m°K以上、より好ましくは20W/m°K以上、非常に好ましくは50W/m°K以上である。板状充填剤の熱伝導率は5W/m°K、好ましくは10W/m°K、より好ましくは20W/m°K、非常に好ましくは50W/m°Kである。
【0019】
例には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、球状凝集窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化カルシウム、酸化亜鉛を含む、セラミック粉末が挙げられる。
【0020】
充填剤粒子または顆粒は広い粒度分布を有することができる。好ましくは、最大粒度は300ミクロン未満、より好ましくは、200ミクロン未満である。好ましくは、平均粒度は5μm〜100μm、より好ましくは15μm〜60μmである。
【0021】
成分(b)としての熱伝導性充填剤の表面は、組成物の特性を改善するための他の材料で改質することができる。例えば、組成物の機械的強度および流動性を改善するためのアミノシランおよびエポキシシランなどのカップリング剤、ならびに充填剤の耐水性を改善するためのシリコンなどのコーティング剤。
【0022】
好ましくは、成分(b)は、そのMohs硬度が7未満、より好ましくは5未満である熱伝導性充填剤である。そのMohs硬度が7以上である充填剤が使用される場合、スクリュー、金型表面および本組成物で封入される物体が射出成形プロセス中に損傷される。好ましい例は、酸化マグネシウムおよびフッ化カルシウムである。フッ化カルシウムがより好ましい。
【0023】
成分(b)は、組成物の総容量を基準にして、好ましくは7〜65容量パーセント、またはより好ましくは25〜55容量パーセントで存在するであろう。
【0024】
本発明に成分(c)として使用される熱伝導性充填剤は、板状で、電気絶縁性である。板状充填剤(c)の平均アスペクト比は5より大きく、好ましくは約10より大きい。例には、窒化ホウ素、および電気絶縁性材料でコートされた黒鉛が挙げられる。成分(c)としての熱伝導性充填剤の表面は、組成物の特性を改善するための他の材料で改質することができる。例えば、組成物の機械的強度を改善するためのアミノシランおよびエポキシシランなどのカップリング剤、ならびにシリコンなどのコーティング剤。好ましい充填剤(c)は窒化ホウ素である。成分(c)は、組成物の総容量を基準にして、好ましくは2〜50容量パーセント、またはより好ましくは5〜25容量パーセントで存在するであろう。
【0025】
(c)/(b)の容量比は10/90〜70/30、または好ましくは15/85〜50/50である。
【0026】
本発明における成分(d)として任意選択的に使用されるポリマー強化剤は、使用されるポリマーにとって有効である任意の強化剤である。熱可塑性ポリマーがポリエステルであるとき、強化剤は典型的にはエラストマーであるか、または比較的低い、一般に200℃未満、好ましくは150℃未満の融点を有し、それは、熱可塑性ポリエステル(および任意選択的に、存在する他のポリマー)と反応することができる官能基をそれに結合している。熱可塑性ポリエステルは通常、カルボキシルおよびヒドロキシル基が存在するので、これらの官能基は通常、カルボキシルおよび/またはヒドロキシル基と反応することができる。かかる官能基の例には、エポキシ、カルボン酸無水物、ヒドロキシル(アルコール)、カルボキシル、およびイソシアネートが挙げられる。好ましい官能基は、エポキシ、およびカルボン酸無水物であり、エポキシが特に好ましい。かかる官能基は通常、既に存在するポリマー上へ小分子をグラフト化することによってか、またはより強靱なポリマー分子が共重合によって製造されるときに所望の官能基を含有するモノマーを共重合させることによってポリマー強化剤に「結合させ」られる。グラフト化の例として、無水マレイン酸がフリーラジカルグラフト化技法を用いて炭化水素ゴム上へグラフトされてもよい。生じたグラフト化ポリマーは、カルボン酸無水物および/またはカルボキシル基がそれに結合している。官能基がポリマーへ共重合されているポリマー強化剤の例は、エチレンと適切な官能基を含有する(メタ)アクリレートモノマーとのコポリマーである。(メタ)アクリレートとは本明細書では、アクリレート、メタクリレート、または2つの混合物のいずれであってもよい化合物を意味する。有用な(メタ)アクリレート官能性化合物には、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、および2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートが含まれる。エチレンおよび官能性(メタ)アクリレートモノマーに加えて、酢酸ビニル、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、およびシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの非官能化(メタ)アクリレートエステルなどの、他のモノマーがかかるポリマーへ共重合されてもよい。好ましい強化剤には、参照により本明細書によって援用される、米国特許第4,753,980号明細書にリストされているものが含まれる。特に好ましい強化剤は、エチレン、エチルアクリレートまたはn−ブチルアクリレート、およびグリシジルメタクリレートのコポリマーである。
【0027】
熱可塑性ポリエステルと共に使用されるポリマー強化剤は、約0.5〜約20重量パーセントの官能基含有モノマー、好ましくは約1.0〜約15重量パーセント、より好ましくは約7〜約13重量パーセントの官能基含有モノマーを含有することが好ましい。2つ以上のタイプの官能性モノマーがポリマー強化剤中に存在してもよい。組成物の強靱性は、ポリマー強化剤の量および/または官能基の量を増やすことによって増大することが分かった。しかしながら、これらの量は、特に最終部品形状が達成される前に、組成物が架橋する可能性があるポイントまでは好ましくは増やされるべきではない。
【0028】
熱可塑性ポリエステルと共に使用されるポリマー強化剤はまた、エチレンのコポリマーではない熱可塑性アクリルポリマーであってもよい。熱可塑性アクリルポリマーは、アクリル酸、アクリレートエステル(メチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、およびn−オクチルアクリレートなどの)、メタクリル酸、およびメタクリレートエステル(メチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート(BA)、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート(GMA)などの)を重合させることによって製造される。前述のタイプのモノマーの1種以上をスチレン、アクリロニトリル、ブタジエン、イソプレンなどと重合させることによって製造されたコポリマーだけでなく、前述のタイプのモノマーの2種以上から誘導されるコポリマーがまた使用されてもよい。これらのコポリマーの一部または全てが0℃以下のガラス転移温度を好ましくは有するべきである。熱可塑性アクリルポリマー強化剤を製造するための好ましいモノマーは、メチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、およびn−オクチルアクリレートである。
【0029】
熱可塑性アクリルポリマー強化剤はコア−シェル構造を有することが好ましい。コア−シェル構造は、コア部分が好ましくは0℃以下のガラス転移温度を有するが、シェル部分が好ましくはコア部分のそれより高いガラス転移温度を有するものである。コア部分は、シリコーンでグラフトされてもよい。シェルセクションは、シリコーン、フッ素などの低表面エネルギー基質でグラフトされてもよい。低表面エネルギー基質が表面にグラフトされたコア−シェル構造のアクリルポリマーは、本発明の組成物の熱可塑性ポリエステルおよび他の成分と混合中にまたは混合後にそれ自体凝集するだろうし、組成物中に容易に一様に分散させることができる。
【0030】
ポリアミド用の好適な強化剤は、米国特許第4,174,358号明細書に記載されている。好ましい強化剤には、酸無水物、ジカルボン酸もしくはそれの誘導体、カルボン酸もしくはそれの誘導体、および/またはエポキシ基などの相溶化剤で変性されたポリオレフィンが含まれる。相溶化剤は、不飽和酸無水物、ジカルボン酸もしくはそれの誘導体、カルボン酸もしくはそれの誘導体、および/またはエポキシ基をポリオレフィンにグラフトすることによって導入されてもよい。相溶化剤はまた、ポリオレフィンが不飽和酸無水物、ジカルボン酸もしくはそれの誘導体、カルボン酸もしくはそれの誘導体、および/またはエポキシ基を含有するモノマーと共重合させることによって製造されながら導入されてもよい。相溶化剤は、好ましくは3〜20個の炭素原子を含有する。ポリオレフィンにグラフトされても(またはポリオレフィンを製造するためのコモノマーとして使用されても)よい典型的な化合物の例は、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水クロトン酸および無水シトラコン酸である。
【0031】
ポリアセタール用の好ましい強化剤には、熱可塑性ポリウレタン、ポリエステルポリエーテルエラストマー、他の官能化および/またはグラフト化ゴム、ならびにそれらの主鎖にグラフトされているかまたは1種以上の極性基を含有するモノマーと共重合させることによって組み入れられた極性基を含有するポリオレフィンが含まれる。好ましいコモノマーは、グリシジルメタクリレートなどの、エポキシド基を含有するものである。好ましい強化剤は、EBAGMA(エチレン、ブチルアクリレート、およびグリシジルメタクリレートから誘導されたターポリマー)である。
【0032】
使用されるとき、任意のポリマー強化剤は、組成物の総重量を基準にして、好ましくは約0.5〜約25容量パーセント、またはより好ましくは約2〜約20容量パーセントで存在するであろう。
【0033】
本発明の組成物は、時として通常かかるポリマー組成物の一部である1種以上の可塑剤、核剤、難燃剤、難燃相乗剤、熱安定剤、酸化防止剤、染料、顔料、離型剤、滑剤、UV安定剤、(ペイント)接着促進剤などを任意選択的に含んでもよい。
【0034】
本発明の組成物は好ましくは、溶融混合されたまたは溶液混合されたブレンド、より好ましくは溶融混合されたブレンドの形態にあり、ここで、ブレンドが統合された全体を形成するように、ポリマー成分の全ては互いに十分に分散され、非ポリマー成分の全ては、ポリマーマトリックス中に均一に分散され、ポリマーマトリックスによって結び付けられている。ブレンドは、任意の溶融混合法を用いて成分材料を組み合わせることによってか、またはマトリックスポリマー以外の成分をポリマーマトリックスのモノマーと混合し、次にモノマーを重合させることによって得られてもよい。成分材料は、樹脂組成物を得るために、単軸もしくは二軸スクリュー押出機、ブレンダー、混練機、Banburyミキサーなどのメルト−ミキサーを使用して均一になるまで混合されてもよい。材料の一部はメルト−ミキサーで混合されてもよく、材料の残りが次に加えられ、均一になるまでさらに溶融混合されてもよい。本発明の熱伝導性ポリマー樹脂組成物の製造における一連の混合は、当業者によって理解されるであろうように、個々の成分が一回で溶融されてもよいか、または充填剤および/または他の成分が側方供給機などから供給されてもよいようなものであってもよい。
【0035】
本発明の組成物は、例えば射出成形、ブロー成形、押出、プレス成形またはトランスファー成形などの、当業者に公知の方法を用いて物品へ成形されてもよい。かかる物品には、モーターハウジング、ランプハウジング、自動車および他の車両におけるランプハウジング、電気および電子ハウジング、モーターまたは発電機の固定子における巻線と磁気誘導性金属コアとの間に存在する絶縁ボビン、ならびにモーターまたは発電機の固定子鉄心を実質的に封入するハウジングに使用するためのものが含まれ得る。自動車および他の車両におけるランプハウジングの例は、ヘッドライト、テールライト、およびブレーキライトを含む、前灯および尾灯、特に発光ダイオード(LED)ランプを使用するものである。本物品は、多くの用途においてアルミニウムまたは他の金属から製造された物品の代替品としての機能を果たす可能性がある。
【実施例】
【0036】
配合および成形方法
表1に示すポリマー組成物は、32mmのWerner and Pfleiderer二軸スクリュー押出機で配合することによって調製した。繊維を下流バレル中へ側方供給したことを除いて全成分を一緒にブレンドし、押出機の後方に加えた。バレル温度をそれぞれ、HTN(高温ナイロン)組成物については約320℃に、LCP組成物については約330℃に設定した。
【0037】
本組成物を、CLTEおよび熱伝導率の測定のためにISO試験検体へ射出成形機で成形した。そして、本組成物を、引張溶接伸びの測定のために各端から樹脂を射出することによって中央部分に溶接ラインを有する0.8mm厚さの亜鈴型棒へ成形した。本組成物について溶融温度は約325℃であり、金型温度は約140℃であった。
【0038】
試験方法
成形流れ方向(MD)および横方向(TD)のCLTEは、ASTM D696方法を用いて−40〜180℃の温度範囲でISO棒のほぼ中央部分に関して測定した。
【0039】
熱伝導率は、ASTM E1461に記載されているようなレーザーフラッシュ法(Laser Flash Method)を用いて4mmの厚さのISO棒のゲートサイドエリアに関して測定した。結果を表1に示す。
【0040】
以下の用語を表1において用いる:
HTN−1は、Zytel(登録商標)HTN501、E.I.du Pont de Nemours and Co.(Wilmington,DE,USA)によって製造されるポリアミド6T/DT(テレフタル酸と1,6−ヘキサンジアミンおよび2−メチル−1,5−ペンタンジアミンとのコポリマー)を意味する。
PA66は、Zytel(登録商標)101、E.I.du Pont de Nemours and Co.(Wilmington,DE,USA)によって製造されるポリアミド66を意味する。
【0041】
変性EPDMは、無水マレイン酸でグラフトされたEPDM(エチレン/プロピレン/ジエンポリオレフィン)を意味する。
【0042】
CaF2は、Sankyo Seifun Co.,Ltd.によって製造される平均サイズ30μm、および1.8のアスペクト比のフッ化カルシウム粉末を意味する。CaF2は10W/m°Kの報告熱伝導率を有する。
【0043】
m−MgOは、タテホ化学工業株式会社によって製造されるCoolfiller(登録商標)CF2−100Aへの1%のアミノシランカップリング剤での表面改質によって製造された酸化マグネシウムを意味し、1.7の平均アスペクト比を有する。Coolfillerの平均サイズは約25μmである。MgOの報告熱伝導率は40W/m°Kである。
【0044】
BNは、Nyco Minerals(Calgary,Alberta,Canada)から入手可能な、8μmの平均サイズのおよびサイジングなしのDenka窒化ホウ素GPを意味する。それは13の平均アスペクト比を有する。その熱伝導率は200W/m°Kより大きいと報告されている。
【0045】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)約25〜約75容量パーセントのポリマー;
(b)約7〜約65容量パーセントの電気絶縁性および球形または粒子形の熱伝導性充填剤;
(c)約2〜約50容量パーセントの電気絶縁性の板状熱伝導性充填剤
を含む、熱伝導性ポリマー組成物であって、
(c)対(b)の容量比が10対90〜70対30であり、
上述の百分率が組成物の総容量を基準にしている組成物。
【請求項2】
前記ポリマーが熱可塑性ポリマーである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリマーが熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリアミドおよび液晶ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記充填剤(b)のMohs硬度が7未満である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記充填剤(b)が、表面が耐水性を改善するために改質されているフッ化カルシウム、および酸化マグネシウムから選択される少なくとも1種である請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記充填剤(b)がフッ化カルシウムである請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記板状充填剤(c)が、窒化ホウ素、および表面が電気絶縁性化合物でコートされている黒鉛からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の組成物から製造された物品。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物で製造された金属/ポリマーハイブリッド品。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物でできたモーターまたは発電機の固定子鉄心の絶縁体。
【請求項11】
請求項10に記載の組成物で封入された固定子アセンブリ。
【請求項12】
約0.01〜約15容量パーセントの少なくとも1種のポリマー強化剤をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリマーが熱可塑性ポリマーである請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記ポリマーが熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリアミドおよび液晶ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種である請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
前記ポリマー強化剤が、組成物の総重量を基準にして、約2〜約20容量パーセントで存在する請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
前記充填剤(b)のMohs硬度が7未満である請求項12に記載の組成物。
【請求項17】
前記充填剤(b)が、表面が、それぞれ、耐水性を改善するために改質されている、フッ化カルシウムまたは酸化マグネシウムから選択される少なくとも1種である請求項12に記載の組成物。
【請求項18】
前記充填剤(b)がフッ化カルシウムである請求項12に記載の組成物。
【請求項19】
前記板状充填剤(c)が、窒化ホウ素および表面が電気絶縁性化合物でコートされている黒鉛からなる群から選択される少なくとも1種である請求項12に記載の組成物。
【請求項20】
請求項12に記載の組成物から製造された物品。
【請求項21】
請求項12に記載の組成物で製造された金属/ポリマーハイブリッド品。
【請求項22】
請求項12に記載の組成物でできたモーターまたは発電機の固定子鉄心の絶縁体。
【請求項23】
請求項1に記載の組成物で封入された固定子アセンブリ。

【公表番号】特表2011−503328(P2011−503328A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534177(P2010−534177)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/083401
【国際公開番号】WO2009/064883
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】