説明

熱伸長性繊維

【課題】熱による自己伸長性が従来の伸長性繊維に比較して高い熱伸長性繊維を提供すること。
【解決手段】熱伸長性繊維は、配向指数が30〜70%の第1樹脂成分と、該第1樹脂成分の融点よりも低い融点又は軟化点を有し且つ配向指数が40%以上の第2樹脂成分とからなり、第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している複合繊維からなる。該繊維は、加熱処理又は捲縮処理が施されており、且つ第1樹脂成分の融点よりも低い温度において熱によって伸長可能になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伸長性繊維及びそれを用いた不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
自己伸長性を有する繊維が知られている。例えば、複屈折が少なくとも0.15、結晶化度が約35%より小さい収縮可能なポリエステルフィラメントのトウを、押し込み式クリンパーに通し、これと同時にクリンパー内のフィラメントを85〜250℃の水蒸気や水を用いて加熱することで、自己伸長性を有するポリエステルのトウ及びステープルを製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
同様にポリエステル繊維に関し、部分配向性ポリエステルマルチフィラメント未延伸糸を、その乾熱収縮応力が最高値を示す付近の温度条件で、定長下にて湿熱処理することで、自己伸長糸を製造する方法も提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
しかし、これらの自己伸長糸はマルチフィラメントや混繊糸として用いることを目的としており、不織布、特にサーマルボンドタイプの不織布への展開は考えられていない。また、これらの自己伸長糸はそれ自体が熱融着性を有していないので、これのみを用いてサーマルボンドタイプの不織布を製造することはできない。サーマルボンドタイプの不織布を製造する場合には、この繊維に加えて他の熱融着性繊維を用いる必要があるので、製造工程の複雑化や経済性の点から有利とは言えない。また、サーマルボンド不織布として実用に耐えうる物性を発現するためには、他の熱融着繊維を主体に成形しなければならず、糸の特徴である自己伸長性を十分に活用することができない。
【0005】
【特許文献1】特公昭43−28262号公報
【特許文献2】特開2000−96378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る熱伸長性繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、配向指数が30〜70%の第1樹脂成分と、該第1樹脂成分の融点よりも低い融点又は軟化点を有し且つ配向指数が40%以上の第2樹脂成分とからなり、第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している複合繊維からなり、
該繊維は、加熱処理又は捲縮処理が施されており、且つ第1樹脂成分の融点よりも低い温度において熱によって伸長可能になっている熱伸長性繊維を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0008】
また本発明は、前記の熱伸長性繊維を含み、熱の付与によって該繊維が伸長した状態になっている不織布を提供するものである。
【0009】
また本発明は、前記の熱伸長性繊維の好ましい製造方法として、ポリエチレンと、メルトフローレートが10〜35g/10minで、Q値が2.5〜4.0のポリプロピレンとを、引き取り速度2000m/分未満で溶融紡糸して複合繊維を得た後、該複合繊維に加熱処理又は捲縮処理を施す(但し延伸処理は行わない)工程を有する熱伸長性繊維の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱伸長性繊維は、熱による自己伸長性が従来の伸長性繊維に比較して高いものである。従って本発明の熱伸長性繊維を原料として用い、熱処理が施されて製造された不織布は、該繊維の伸長によって嵩高くなり、或いは立体的な外観を呈するものになる。また、本発明の熱伸長性繊維はそれ自体が熱融着性を有しているので、該繊維のみを原料としてサーマルボンドタイプの不織布を簡便に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の熱伸長性繊維は、第1樹脂成分と、該第1樹脂成分の融点よりも低い融点又は軟化点を有する第2樹脂成分とからなり、第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している二成分系の複合繊維である。従って以下の説明では、本発明の熱伸長性繊維を、熱伸長性複合繊維ともいう。複合繊維の形態には芯鞘型やサイド・バイ・サイド型など種々の形態があり、本発明の繊維は何れの形態でもあり得る。
【0012】
熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分は該繊維の熱伸長性を発現する成分であり、第2樹脂成分は熱融着性を発現する成分である。第1樹脂成分はその配向指数が30〜70%になっており、好ましくは30〜65%であり、より好ましくは30〜60%であり、特に好ましくは35〜55%になっている。一方、第2樹脂成分はその配向指数が40%以上になっており、好ましくは50%以上になっている。第2樹脂成分の配向指数の上限値に特に制限はなく、高ければ高いほど好ましいが、70%程度であれば、十分に満足すべき効果が得られる。配向指数は、繊維を構成する樹脂の高分子鎖の配向の程度の指標となるものである。そして、第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数がそれぞれ前記の値であることによって、熱伸長性複合繊維は、加熱によって伸長するようになる。
【0013】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数は、熱伸長性複合繊維における樹脂の複屈折の値をAとし、樹脂の固有複屈折の値をBとしたとき、以下の式(1)で表される。
配向指数(%)=A/B×100 (1)
【0014】
固有複屈折とは、樹脂の高分子鎖が完全に配向した状態での複屈折をいい、その値は例えば「成形加工におけるプラスチック材料」初版、付表 成形加工に用いられる代表的なプラスチック材料(プラスチック成形加工学会編、シグマ出版、1998年2月10日発行)に記載されている。例えば、ポリプロピレンの固有複屈折は0.03であり、ポリエチレンの固有複屈折は0.066である。
【0015】
熱伸長性複合繊維における複屈折は、干渉顕微鏡に偏光板を装着し、繊維軸に対して平行方向及び垂直方向の偏光下で測定する。浸漬液としてはCargille社製の標準屈折液を使用する。浸漬液の屈折率はアッベ屈折計によって測定する。干渉顕微鏡により得られる複合繊維の干渉縞像から、以下の文献に記載の算出方法で繊維軸に対し平行及び垂直方向の屈折率を求め、両者の差である複屈折を算出する。
「芯鞘型複合繊維の高速紡糸における繊維構造形成」第408頁(繊維学会誌、Vol.51、No.9、1995年)
【0016】
熱伸長性複合繊維は、第1樹脂成分の融点よりも低い温度において熱によって伸長可能になっている。そして熱伸長性複合繊維は、第2樹脂成分の融点又は軟化点より10℃高い温度での熱伸長率が0.5〜20%、特に3〜20%、とりわけ7.5〜20%であることが好ましい。このような伸長率の繊維を原料として不織布を製造すると、該繊維の伸長によって不織布が嵩高くなり、或いは立体的な外観を呈する。例えば不織布表面の凹凸形状が顕著なものになる。
【0017】
また、熱伸長性複合繊維は、第2樹脂成分の融点における繊維の伸長率よりも、第2の樹脂成分の融点から10℃高い温度における繊維の伸長率の方が3ポイント以上、特に3.5ポイント以上大きいものであることが好ましい。その理由は、第2樹脂成分を溶融させることによる繊維どうしの融着と、繊維の熱伸長とを個別に制御しやすくなるからである。
【0018】
熱伸長率は次の方法で測定される。熱機械分析装置TMA−50(島津製作所製)を用い、平行に並べた繊維をチャック間距離10mmで装着し、0.025mN/texの一定荷重を負荷した状態で10℃/minの昇温速度で昇温させる。その際の繊維の伸長率変化を測定し、第2樹脂成分の融点又は軟化点での伸長率、及び第2樹脂成分の融点又は軟化点より10℃高い温度での伸長率をそれぞれ読み取って各温度の熱伸長率とする。熱伸長率を前記の温度で測定する理由は、繊維の交点を熱融着させて不織布を製造する場合には、第2樹脂成分の融点又は軟化点以上で且つそれらより10℃程度高い温度までの範囲で製造するのが通常だからである。
【0019】
熱伸長性複合繊維における各樹脂成分が前記のような配向指数を達成するためには、例えば融点の異なる第1樹脂成分及び第2樹脂成分を用い、引き取り速度2000m/分未満の低速で溶融紡糸して複合繊維を得た後に、該複合繊維に対して加熱処理及び/又は捲縮処理を行えばよい。これに加えて、延伸処理を行わないようにすればよい。
【0020】
溶融紡糸法は、図1に示すように、押出機1A,2Aとギアポンプ1B,2Bとからなる二系統の押出装置1,2、及び紡糸口金3を備えた紡糸装置を用いて行われる。押出機1A,2A及びギアポンプ1B,2Bによって溶融され且つ計量された各樹脂成分は、紡糸口金3内で合流しノズルから吐出される。紡糸口金3の形状は、目的とする複合繊維の形態に応じて適切なものが選択される。紡糸口金3の直下には巻取装置4が設置されており、ノズルから吐出された溶融樹脂が所定速度下に引き取られる。本実施形態の溶融紡糸法における紡出糸の引き取り速度は好ましくは2000m/分未満であり、更に好ましくは500〜1800m/分であり、一層好ましくは1000〜1800m/分である。また口金の温度(紡糸温度)は、使用する樹脂の種類にもよるが、例えば第1樹脂成分としてポリプロピレンを用い、第2樹脂成分としてポリエチレンを用いる場合には、200〜300℃、特に220〜280℃とすることが好ましい。
【0021】
このようにして得られた繊維は低速で紡糸されたものなので、未延伸の状態である。この未延伸糸に対して、次に加熱処理及び/又は捲縮処理を施す。
【0022】
捲縮処理としては、機械捲縮を行うことが簡便である。機械捲縮には二次元状及び三次元状の態様がある。また、偏芯タイプの芯鞘型複合繊維やサイド・バイ・サイド型複合繊維に見られる三次元の顕在捲縮などがある。本発明においては何れの態様の捲縮を行ってもよい。捲縮処理には加熱を伴う場合がある。また、捲縮処理後の加熱処理を行ってもよい。更に、捲縮処理後の加熱処理に加え、捲縮処理前に別途加熱処理を行ってもよい。或いは、捲縮処理を行わずに別途加熱処理を行ってもよい。
【0023】
捲縮処理に際しては繊維が多少引き伸ばされる場合があるが、そのような引き延ばしは本発明にいう延伸処理には含まれない。本発明にいう延伸処理とは、未延伸糸に対して通常行われる延伸倍率2〜6倍程度の延伸操作をいう。
【0024】
前記の加熱処理の条件は、複合繊維を構成する第1及び第2樹脂成分の種類に応じて適切な条件が選択される。加熱温度は、第2樹脂成分の融点より低い温度である。例えば、本発明の熱伸長性複合繊維が芯鞘型であり、芯成分がポリプロピレンで鞘成分が高密度ポリエチレンである場合、加熱温度は50〜120℃、特に70〜115℃であることが好ましく、加熱時間は10〜1800秒、特に20〜1200秒であることが好ましい。加熱方法としては、熱風の吹き付け、赤外線の照射などが挙げられる。この加熱処理は前述のとおり、捲縮処理の後に行うことができる。
【0025】
捲縮処理の後に行われる加熱処理とは別途行われる加熱処理、或いは捲縮処理を行わずに別途行われる加熱処理は、例えば、未延伸糸(トウ)を加熱する処理(以下、トウ加熱という)を指す。捲縮処理を行う場合は捲縮処理前に行うことが好ましい。トウ加熱を用いることにより、主として第2樹脂成分の結晶化が促進される。一方、第1樹脂成分の結晶化の変化は少ない。その結果、伸長性を阻害させることなく、繊維にコシを付与することができる。捲縮処理する場合であれば、カード通過性に良好な捲縮を付与することができる。前記のトウ加熱においては、0.95〜1.3倍の緊張状態下で熱処理することが好ましい。緊張状態でトウ加熱することにより、第2樹脂成分の結晶・配向は緩和されることがない。前記のトウ加熱の加熱処理方法としては、温水、蒸気、ドライエアー又は加熱ロールに接触させる方法があり、何れの方法を用いてもよい。熱伝導効率の点から蒸気による加熱であることが好ましい。前記のトウ加熱の加熱温度は、80℃以上で且つ第2樹脂成分の融点未満であることが好ましい。第2樹脂成分がポリエチレンの場合は、十分な捲縮性付与及び開繊不良防止の観点から、125℃以下であることが好ましく、100℃〜105℃がより好ましい。前記のトウ加熱の処理時間は、短時間であるほど好ましい。第1樹脂成分の結晶・配向が必要以上に促進されず熱伸長性が阻害されないからである。この観点から、処理時間は0.5〜10秒であることが好ましい。より好ましくは1〜5秒であり、更に好ましくは1〜3秒である。
【0026】
熱伸長性複合繊維としては、先に述べたとおり、芯鞘型のものやサイド・バイ・サイド型のものを用いることができる。芯鞘型の熱伸長性複合繊維としては、同芯タイプや偏芯タイプのものを用いることができる。特に熱伸長性の観点からは、同芯タイプの芯鞘型であることが好ましい。また、カード機により製造される不織布に用いた場合のカード通過性を良好にする観点からは、偏芯タイプの芯鞘型であることが好ましい。これらの場合、第1樹脂成分が芯を構成し且つ第2樹脂成分が鞘を構成していることが、熱伸長性複合繊維の熱伸長率を高くし得る点から好ましい。
【0027】
芯鞘型複合繊維の場合、第1樹脂成分の周囲に第2樹脂成分が配置され、第2樹脂成分が複合繊維表面の少なくとも20%を占めていることが好ましい。これにより第2樹脂成分は熱接着時に表面が溶融する。偏芯タイプの芯鞘型複合繊維の場合、第1樹脂成分の重心位置は複合繊維の重心位置からずれている。ずれの割合(以下、偏心率と記載する場合がある。)は、複合繊維の繊維断面を電子顕微鏡などで拡大撮影し、第1樹脂成分の重心位置と複合繊維の重心位置との距離を、複合繊維の半径で除した値で表される。
【0028】
第1樹脂成分の重心位置が複合繊維の重心位置からずれている他のタイプの複合繊維としては、サイド・バイ・サイド型複合繊維が挙げられる。場合によっては、多芯型の複合繊維であっても、多芯部分が集合して繊維の重心位置からずれて存在しているものが存在する。特に、複合繊維が偏芯タイプの芯鞘型複合繊維であると、容易に所望の波形状捲縮及び/又は螺旋状捲縮を発現させることができる点で好ましい。偏芯タイプの芯鞘型複合繊維の偏芯率は、5〜50%であることが好ましい。より好ましい偏芯率は7〜30%である。また、第1樹脂成分の繊維断面の形態は、円形以外に、楕円形、Y形、X形、井形、多角形、星形などの異形であってもよい。複合繊維の繊維断面の形態は、円形以外に、楕円形、Y形、X形、井形、多角形、星形などの異形、或いは中空形であってもよい。
【0029】
図5(a)〜(d)に熱伸長性複合繊維における機械捲縮以外の好ましい捲縮形態を示す。図5(a)は波形状捲縮であり、捲縮の山部が湾曲している。図5(b)は螺旋状捲縮であり、捲縮の山部が螺旋状に湾曲している。図5(c)は波形状捲縮と螺旋状捲縮とが混在した捲縮状態である。図5(d)は、機械捲縮の鋭角な捲縮と波形状捲縮が混在した捲縮である。これらの捲縮形態は、第1樹脂成分の重心位置が複合繊維の重心位置からずれていること等により発現し、顕在捲縮するものである。これらの捲縮形態を有する繊維は、カード機により製造される不織布の原料に用いた場合のカード機通過性や、不織布にしたときの嵩高性が一層良好となるので好ましい。
【0030】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の種類に特に制限はなく、繊維形成能のある樹脂であればよい。特に、両樹脂成分の融点差、又は第1樹脂成分の融点と第2樹脂成分の軟化点との差が20℃以上、特に25℃以上であることが、熱融着による不織布製造を容易に行い得る点から好ましい。熱伸長性複合繊維が芯鞘型である場合には、鞘成分の融点又は軟化点よりも芯成分の融点の方が高い樹脂を用いる。また、第1樹脂成分は結晶性を有することが望ましい。結晶性を有する樹脂とは溶融紡糸し通常行われる範囲で延伸した場合、十分な配向と結晶を生成する樹脂を総称し、後に述べる方法で融点を測定すると明確な溶解ピーク温度が測定でき、融点が定義できる樹脂である。第1樹脂成分と第2樹脂成分との好ましい組み合わせとしては、第1樹脂成分をポリプロピレン(PP)とした場合の第2樹脂成分としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン、エチレンプロピレン共重合体、ポリスチレンなどが挙げられる。また、第1樹脂成分としてポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂を用いた場合は、第2成分として、前述した第2樹脂成分の例に加え、ポリプロピレン(PP)、共重合ポリエステルなどが挙げられる。更に、第1樹脂成分としては、ポリアミド系重合体や前述した第1樹脂成分の2種以上の共重合体も挙げられ、また第2樹脂成分としては前述した第2樹脂成分の2種以上の共重合体なども挙げられる。これらは適宜組み合わされる。
【0031】
前記各樹脂成分には、本発明の要求する性能を損なわない範囲で、第1樹脂成分と第2樹脂成分以外の他の樹脂成分を添加することができる。各樹脂成分に添加できる他の樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系重合体又はその共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系重合体又はその共重合体、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12等のポリアミド系重合体又はその共重合体が挙げられ、その添加量は樹脂成分合計を100質量%としたとき30質量%以下であることが好ましい。また、樹脂成分以外にも、無機物、核剤、顔料等を添加することもできる。各成分に添加できる無機物、核剤、顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカや安息香酸ナトリウム、t−ブチル安息香酸ナトリウムなどのカルボン酸金属塩類、ベンジリデンソルビトール類、リン酸金属塩類やγ−キナクリドンキナクリドンキノン、ピメリン酸ステアリン酸混合物、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミドなどが挙げられ、その添加量は樹脂成分100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。
【0032】
第1樹脂成分と第2樹脂成分の特に好ましい組み合わせは、第1樹脂成分がポリプロピレンで、第2樹脂成分がポリエチレン、とりわけ高密度ポリエチレンである組み合わせである。この理由は、両樹脂成分の融点差が20〜40℃の範囲内であるため、不織布を容易に製造できるからである。また繊維の比重が低いため、軽量で且つコストに優れ、低熱量で焼却廃棄できる不織布が得られるからである。更にこの組み合わせを用いることで、熱伸長性複合繊維の熱伸長性も高くなる。この理由は次のとおりである。熱伸長性複合繊維は第1樹脂成分の配向係数を特定の範囲に抑え、第2樹脂成分の配向係数を高めた構造である。第2樹脂成分であるポリエチレン、特に高密度ポリエチレンは結晶性が高い物質である。従って本発明の熱伸長性複合繊維を加熱していきその温度がポリエチレンの融点に達するまでは、繊維の熱伸長がポリエチレンによって拘束される。繊維をポリエチレンの融点以上まで加熱すると、ポリエチレンが溶融し始め、その拘束が解かれるので、第1樹脂成分であるポリプロピレンの伸長が可能になり、繊維全体が伸長する。
【0033】
ポリプロピレンとポリエチレンの好ましい組み合わせは、次の(1)、特に(2)であることが好ましい。このような組み合わせを採用することで、溶融紡糸時に第2樹脂成分であるポリエチレンが配向しやすくなって、その結晶性が高まり、且つ第1樹脂成分のポリプロピレンが適度な配向となって、繊維の熱伸長性が高くなる。
(1)ポリプロピレンとして、そのメルトフローレート(以下、MFRともいう)が10〜35g/10minで、そのQ値が2.5〜4.0のものを用い、ポリエチレンとして、そのMFRが8〜30g/10minで、そのQ値が4.0〜7.0のものを用いる組み合わせ。
(2)ポリプロピレンとして、そのMFRが12〜30g/10minで、そのQ値が3.0〜3.5のものを用い、ポリエチレンとして、そのMFRが10〜25g/10minで、そのQ値が4.5〜6.0のものを用いる組み合わせ。
【0034】
第1樹脂成分であるポリプロピレン(PP)は、メルトフローレート(以下、MFRともいう)が10〜35g/10minで、そのQ値が2.5〜4.0のものを用いることが好ましい。より好ましいMFRは12〜30g/10minで、そのQ値は3.0〜3.5である。前記範囲を満足するPPであると、繊維形成性を有するポリエチレンに比べて、相対的に結晶化が遅くなり非晶部分が多く存在するため、繊維に熱を加えたときに伸長しやすくなると推定される。PPのMFRが前記範囲を満足すると、紡糸を行った際の溶融張力が適性となり、糸切れが起こりにくくなる。また、得られる繊維は適度な配向及び結晶性となり、熱伸長性が良好で且つコシのある繊維となる。また、捲縮を付与しやすくなり、カード通過性が向上し不織布にしたときの地合いが良好となる。PPのQ値が前記範囲を満足すると、PP成分がポリエチレン成分に比べ相対的に結晶化が遅くなり非晶部分が多く存在するため、繊維に熱を加えたときに伸長しやすくなると推定される。
【0035】
第2樹脂成分であるポリエチレン(PE)は、そのMFRが8〜30g/10minで、そのQ値が4.0〜7.0のものを用いることが好ましい。より好ましいMFRは10〜25g/10minで、より好ましいQ値は4.5〜6.0である。PEのMFRが前記範囲を満足すると、適正な溶融張力及び溶融粘度となり、紡糸を行った際に糸切れが起こりにくくなる。また、PPの熱伸長挙動を阻害することなく、繊維にコシを与えることができる。PEのQ値が4.0〜7.0の範囲内にあると、PP成分に比べ相対的に結晶部分が多く存在するため、繊維にコシを与え、捲縮形状を保持しやすく、カード通過性が向上する。
【0036】
Q値は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比で求められる値であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0037】
ポリプロピレンのMFRは、JIS K7210に準じ、温度230℃、荷重2.16kgで測定される。同様に、ポリエチレンのMFRは、JIS K7210に準じ、温度190℃、荷重2.16kgで測定される。
【0038】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の融点は、示差走査型熱分析装置DSC−50(島津社製)を用い、細かく裁断した繊維試料(サンプル質量2mg)の熱分析を昇温速度10℃/minで行い、各樹脂の融解ピーク温度を測定し、その融解ピーク温度で定義される。第2樹脂成分の融点がこの方法で明確に測定できない場合は、第2樹脂成分の分子の流動が始まる温度として、繊維の融着点強度が計測できる程度に第2樹脂成分が融着する温度を軟化点とする。
【0039】
本発明の熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分と第2樹脂成分との比率(重量比)は10:90〜90:10%、特に50:50〜80:20%、とりわけ55:45〜75:25%であることが好ましい。この範囲内であれば繊維の力学特性が十分となり、実用に耐え得る繊維となる。また融着成分の量が十分となり、繊維どうしの融着が十分となる。また、伸長性を損なうことなく、カード機により製造される不織布の原料として用いた場合のカード通過性を良好にする観点から、芯となる第1樹脂成分の比率が大きい方が好ましい。
【0040】
熱伸長性複合繊維の太さは、複合繊維の具体的用途に応じて適切な値が選択される。一般的な範囲として1.0〜10dtex、特に1.7〜8.0dtexであることが、繊維の紡糸性やコスト、カード機通過性、生産性、コスト等の点から好ましい。
【0041】
本発明の熱伸長性複合繊維は、それ自体が熱融着性を有するものである。従って、この繊維を用いることで、サーマルボンド不織布、即ち熱の付与によって繊維どうしが結合(つまり融着)している不織布を容易に得ることができる。不織布製造時の熱の付与によって、熱伸長性複合繊維は不織布中で伸長した状態になっている。
【0042】
図2には、本発明の熱伸長性繊維を原料として用いた不織布の一実施形態の斜視図が示されている。本実施形態の不織布10は単層構造をしている。不織布10はその一面10aがほぼ平坦となっており、他面10bが多数の凸部11及び凹部12を有する凹凸形状となっている。凹部12は、不織布10の構成繊維が圧着又は接着されて形成された圧接着部を含んでいる。凸部11は凹部12間に位置している。凸部11内は、不織布10の構成繊維で満たされている。圧接着部とは、不織布10の構成繊維が圧着又は接着されることで形成された結合部をいう。繊維を圧着する手段としては、熱を伴うか又は伴わないエンボス加工、超音波エンボス加工などが挙げられる。一方、繊維を接着する手段としては各種接着剤による結合が挙げられる。
【0043】
凸部11と凹部12とは、不織布の一方向(図2中X方向)に亘って交互に配置されている。更に当該一方向と直交する方向(図2中Y方向)に亘っても、交互に配置されている。凸部11と凹部12とがこのように配置されていることで、不織布10を例えば使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの使い捨て衛生物品の分野における表面シートと用いた場合に、着用者の肌との接触面積が低減して蒸れやかぶれが効果的に防止される。
【0044】
不織布10においては、圧接着部以外の部分、具体的には主として凸部11において、該不織布の構成繊維どうしの交点が圧接着以外の手段によって接合している。
【0045】
このような構造を有する不織布10の好ましい製造方法を、図3を参照しながら説明する。先ず、所定のウエブ形成手段(図示せず)を用いてウエブ20を作製する。ウエブ20は、熱伸長性複合繊維を含むものであるか、又は熱伸長性複合繊維からなるものである。ウエブ形成手段としては、例えば(a)カード機を用いて短繊維を開繊するカード法、(b)短繊維を空気流に搬送させてネット上に堆積させる方法(エアレイ法)などの公知の方法を用いることができる。
【0046】
ウエブ20は、ヒートエンボス装置21に送られ、そこでヒートエンボス加工が施される。ヒートエンボス装置21は、一対のロール22,23を備えている。ロール22は周面が平滑となっている平滑ロールである。一方、ロール23は周面に多数の凸部が形成されている彫刻ロールである。各ロール22,23は所定温度に加熱可能になっている。
【0047】
ヒートエンボス加工は、ウエブ20中の熱伸長性複合繊維における低融点成分の融点以上で且つ高融点成分の融点未満の温度で行われる。ヒートエンボス加工によって、ウエブ20中の熱伸長性複合繊維が圧接着される。これによってウエブ20に多数の圧接着部が形成されて、ヒートボンド不織布24となる。個々の圧接着部は面積が0.1〜3.0mm2程度の円形、三角形、矩形、その他の多角形、或いはそれらの組み合わせであり、ヒートボンド不織布24の全域に亘って規則的に形成されている。また、圧接着部は幅が0.1〜3.0mm程度の連続した直線、曲線などでもよく、目的に応じて適宜選択することができる。但し、立体賦形を発現するために、圧接着されていない状態の熱伸長性複合繊維がある程度存在している必要があり、エンボス率は1〜25%、更に好ましくは2〜15%であることが立体的な凹凸形状を効果的に形成し得る点から好ましい。
【0048】
図4(a)にはヒートボンド不織布24の断面の状態が模式的に示されている。ヒートエンボス加工によって、該不織布24には多数の圧接着部25が形成されている。圧接着部25においては、熱及び圧力の作用によって熱伸長性複合繊維が圧着されているか、或いは溶融固化して融着している。一方、圧接着部25以外の部分においては、熱伸長性複合繊維は圧着・融着等を起こしていないフリーな状態になっている。
【0049】
再び図3に戻ると、ヒートボンド不織布24は熱風吹き付け装置26に搬送される。熱風吹き付け装置26においてはヒートボンド不織布24にエアスルー加工が施される。即ち熱風吹き付け装置26は、所定温度に加熱された熱風がヒートボンド不織布24を貫通するように構成されている。
【0050】
エアスルー加工は、ヒートボンド不織布24中の熱伸長性複合繊維が加熱によって伸長する温度で行われる。且つヒートボンド不織布24における圧接着部25以外の部分に存するフリーな状態の熱伸長性複合繊維どうしの交点が熱融着する温度で行われる。尤も、斯かる温度は熱伸長性複合繊維の高融点成分の融点未満の温度で行う必要がある。
【0051】
このようなエアスルー加工によって、圧接着部25以外の部分に存する熱伸長性複合繊維が伸長する。熱伸長性繊維25はその一部が圧接着部25によって固定されているので、伸長するのは圧接着部25間の部分である。そして、熱伸長性繊維25はその一部が圧接着部25によって固定されていることによって、伸長した熱伸長性複合繊維の伸び分は、ヒートボンド不織布24の平面方向への行き場を失い、該不織布24の厚み方向へ移動する。これによって、圧接着部25間に凸部11が形成され、不織布10は嵩高になる。また、多数の凸部11が形成された立体的な外観を有するようになる。更にエアスルー加工によって圧接着部25間に存する熱伸長性複合繊維どうしの交点が熱融着によって接合する。この状態を図4(b)に示す。この図から明らかなように、立体的な外観とは、不織布10の表面が凹凸形状になっていることをいう。
【0052】
以上の説明から明らかなように、不織布10においては、圧接着部25において、不織布10の構成繊維である熱伸長性複合繊維が圧接着されていると共に、圧接着部25以外の部分、具体的には主として凸部11において、熱伸長性複合繊維どうしの交点が圧接着以外の手段であるエアスルー方式によって熱融着で接合している。その結果、不織布10は三次元的な凹凸形状を有し、柔軟なものでありながら、凸部11における繊維間の接合強度が高く、毛羽立ちが起こりにくくなっている。その上、前述の製造方法は、不織布の製造方法として極めて一般的な方法であるヒートボンド法とエアスルー法とを組み合わせただけのものであり、特殊な工程を含んでいない。従って製造工程が簡便であり、しかも製造効率が高い。更に、前述の製造方法を用いれば、不織布10が低坪量であっても三次元的な凹凸形状を容易に形成することができる。また従来の凹凸不織布と異なり、不織布が単層であっても立体形状を容易に形成することができる。
【0053】
不織布10の凹凸形状を更に顕著なものとする観点から、前記エアスルー加工における熱風の吹き付けを、前記ヒートエンボス加工において用いた平滑ロールに対向する面から行うことが好ましい。
【0054】
先に述べたとおり、不織布10は熱伸長性複合繊維を含んでなるものであるか、又は熱伸長性複合繊維からなるものである。不織布10が熱伸長性繊維を含んでなるものである場合、不織布10に含まれる他の繊維としては、熱伸長性複合繊維の熱伸長発現温度よりも高い融点を有する熱可塑性樹脂からなる繊維や、本来的に熱融着性を有さない繊維(例えばコットンやパルプ等の天然繊維、レーヨンやアセテート繊維など)が挙げられる。当該他の繊維は、不織布10中に好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは20〜30重量%含まれる。一方、熱伸長性複合繊維は、不織布10中に50〜95重量%、特に70〜95重量%含まれることが、立体的な凹凸形状を効果的に形成し得る点から好ましい。立体的な凹凸形状を更に効果的に形成し得る点から、特に好ましくは、不織布10は、熱伸長性複合繊維からなる。
【0055】
このようにして得られた不織布10は、その凹凸形状、嵩高さ及び高強度を生かした種々の分野に適用できる。例えば使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの使い捨て衛生物品の分野における表面シート、セカンドシート(表面シートと吸収体との間に配されるシート)、裏面シート、防漏シート、或いは対人用清拭シート、スキンケア用シート、さらには対物用のワイパーなどとして好適に用いられる。
【0056】
前記のような用途に用いられる場合、本発明の不織布は、その坪量が15〜60g/m2、特に20〜40g/m2であることが好ましい。またその厚みが1〜5mm、特に2〜4mmであることが好ましい。但し、用途により適切な厚みは異なるため、目的に合わせ適宜調整される。
【0057】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、圧接着部25の形成に熱を伴うエンボス加工であるヒートエンボス加工を用いたが、これに代えて熱を伴わないエンボス加工や、超音波エンボス加工によって圧接着部を形成することもできる。或いは接着剤によって圧接着部を形成することもできる。また、不織布10は単層の構造のものに限られず、これを2層以上の多層構造にしてもよい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0059】
〔実施例1〜10及び比較例1〜4〕
表1に示す条件にて溶融紡糸を行い同芯タイプ又は偏芯タイプの芯鞘型複合繊維の未延伸糸(未延伸トウ)を得た。得られた未延伸トウに繊維処理剤を付与した後、必要に応じて未延伸トウを1.0倍の緊張状態で約100℃の蒸気中で約3秒間トウ加熱処理を行った。次いで二次元の機械捲縮を施した。次いで、同表に示す温度の熱風を900秒間吹き付けて加熱処理(乾燥処理)を施した。この複合繊維を繊維長51mmに切断し、短繊維とした。得られた短繊維について、前述の方法で樹脂の配向指数及び融点並びに繊維の伸長率を測定した。それらの結果を表1に示す。なお表には示していないが、繊維の太さはすべて3.3dtexとした。
【0060】
表1中におけるQ値の測定法は以下のとおりである。
I.使用する分析装置
(i)クロス分別装置
ダイヤインスツルメンツ社製CFC T−100(CFCと略す)
(ii)フーリエ変換型赤外線吸収スペクトル分析
FT−IR、パーキンエルマー社製 1760X
CFCの検出器として取り付けられていた波長固定型の赤外分光光度計を取り外して代わりにFT−IRを接続し、このFT−IRを検出器として使用する。CFCから溶出した溶液の出口からFT−IRまでの間のトランスファーラインは1mの長さとし、測定の間を通じて140℃に温度保持する。FT−IRに取り付けたフローセルは光路長1mm、光路直径5mmφである。フローセルは、測定の間を通じて140℃に温度保持する。
(iii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)
CFC後段部分のGPCカラムは、昭和電工社製AD806MSを3本直列に接続して使用する。
II.CFCの測定条件
(i)溶媒:オルトジクロルベンゼン(ODCB)
(ii)サンプル濃度:1mg/mL
(iii)注入量:0.4mL
(iv)カラム温度:140℃
(v)溶媒流速:1mL/分
III.FT−IRの測定条件
CFC後段のGPCから試料溶液の溶出が開始した後、以下の条件でFT−IR測定を行い、GPC−IRデータを採取する。
(i)検出器:MCT
(ii)分解能:8cm-1
(iii)測定間隔:0.2分(12秒)
(iv)一測定当たりの積算回数:15回
IV.測定結果の後処理と解析
分子量分布は、FT−IRによって得られる2945cm-1の吸光度をクロマトグラムとして使用して求める。保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.4mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量への換算は森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際使用する粘度式([η]=K×Mα)には以下の数値を用いる。
(i)標準ポリスチレンを使用する較正曲線作成時
K=0.000138、α=0.70
(ii)ポリプロピレンのサンプル測定時
K=0.000103、α=0.78
なお分子量は、前記GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定するが、別の機種により分子量を測定することもできる。その場合には、2005年度プラスチック成形材料商取引便覧(化学工業日報社、2004年8月30日発行)に記載の、日本ポリプロ社製「MG03B」と同時に分子量を測定し、MG03Bが3.5を示すときの値をブランク条件とし、条件を調整して分子量を測定する。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1〜10の熱伸長性繊維は、その構成樹脂の配向指数を所定の範囲としたことにより、熱伸長性が良好であった。また、未延伸トウにトウ加熱処理を施したことにより、カード機の通過性も良好であった。特に、実施例8〜10の熱伸長性繊維は、芯/鞘の複合比率を芯リッチとし、また実施例9及び10は偏芯タイプの断面形状としたことにより、カード機の通過性が一層良好であった。
【0063】
実施例1及び6並びに比較例4で得られた繊維を用い、図3及び図4に示す方法で不織布を製造した。具体的な製造条件は次のとおりである。エンボス加工は、円形の圧接着部が形成され且つ圧接着部の面積率3%となるように行った。加工温度は130℃であった。エアスルー加工は、平滑ロール対向面から136℃の熱風を吹き付けることで行った。このようにして得られた不織布の厚み、坪量、比容積を以下の方法で測定し、また立体賦形性を以下の方法で評価した。それらの結果を表2に示す。
【0064】
〔厚み、坪量、比容積の測定〕
測定台上に12cm×12cmのプレートを載置し、この状態でのプレートの上面の位置を測定の基準点Aとする。次にプレートを取り除き、測定台上に測定対象となる不織布試験片を載置し、その上に前記プレートを載置する。この状態でのプレート上面の位置をBとする。AとBの差から測定対象となる不織布試験片の厚みを求める。プレートの重さは測定目的により種々変更可能であるが、ここでは重さ54gのプレートを用いて測定した。測定機器にはレーザー変位計((株)キーエンス製、CCDレーザー変位センサLK−080)を用いた。これに代えてダイヤルゲージ式の厚み計を用いてもよい。但し、厚み計を用いる場合は不織布試験片に加わる圧力を調整する必要がある。また、上述の方法で測定された不織布の厚みは、その不織布の坪量に大きく依存する。そこで、嵩高さの指標として、厚みと坪量から算出される比容積(cm3/g)を採用している。坪量の測定方法は任意であるが、厚みを測定する試験片そのものの重さを計量し、測定した試験片の寸法から算出される。
【0065】
〔立体賦形性の評価〕
不織布を目視し、次の基準により判定した。
◎:明確な立体形状となっている
○:立体形状となっている
△:殆ど立体形状とは認められない
×:立体形状ではない
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示す結果から明らかなように、実施例の繊維を用いて得られた不織布は嵩高で且つ立体的な形状となっていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】溶融紡糸法に用いられる装置を示す模式図である。
【図2】本発明の熱伸長性繊維を含む不織布の一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図2に示す不織布の製造方法を示す模式図である。
【図4】図2に示す不織布の製造過程での状態を示す模式図である。
【図5】繊維の捲縮状態の例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0069】
1,2 押出装置
1A,2A 押出機
1B,2B ギアポンプ
3 紡糸口金
4 巻取装置
10 不織布
11 凸部
12 凹部
20 ウエブ
21 ヒートエンボス装置
22,23 ロール
24 ヒートボンド不織布
25 熱圧着部
26 熱風吹き付け装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向指数が30〜70%の第1樹脂成分と、該第1樹脂成分の融点よりも低い融点又は軟化点を有し且つ配向指数が40%以上の第2樹脂成分とからなり、第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している複合繊維からなり、
該繊維は、加熱処理又は捲縮処理が施されており、且つ第1樹脂成分の融点よりも低い温度において熱によって伸長可能になっている熱伸長性繊維。
【請求項2】
第1樹脂成分の融点と第2樹脂成分の融点との差、又は第1樹脂成分の融点と第2樹脂成分の軟化点との差が20℃以上である請求項1記載の熱伸長性繊維。
【請求項3】
第2樹脂成分の融点における繊維の伸長率よりも、第2の樹脂成分の融点から10℃高い温度における繊維の伸長率の方が3ポイント以上大きいものである請求項1又は2記載の熱伸長性繊維。
【請求項4】
第1樹脂成分がポリプロピレンであり、第2樹脂成分がポリエチレンである請求項1ないし3の何れかに記載の熱伸長性繊維。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れかに記載の繊維を含み、熱の付与によって該繊維が伸長した状態になっている不織布。
【請求項6】
前記繊維が部分的に圧着又は接着されている多数の圧接着部を有し、熱の付与によって該圧接着部間の繊維が伸長した状態になっている請求項5記載の不織布。
【請求項7】
前記繊維が伸長していることで、嵩高な及び/又は立体的な外観を有している請求項5又は6記載の不織布。
【請求項8】
請求項1記載の熱伸長性繊維の製造方法であって、ポリエチレンと、メルトフローレートが10〜35g/10minで、Q値が2.5〜4.0のポリプロピレンとを、引き取り速度2000m/分未満で溶融紡糸して複合繊維を得た後、該複合繊維に加熱処理又は捲縮処理を施す(但し延伸処理は行わない)工程を有する熱伸長性繊維の製造方法。
【請求項9】
前記ポリエチレンにおけるメルトフローレートが8〜30g/10minで、Q値が4.0〜7.0である請求項8記載の熱伸長性繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−182662(P2007−182662A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309513(P2006−309513)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】