説明

熱光学効果型光導波路素子およびその製造方法

【課題】低コスト、低消費電力、低熱応力で、量産性に優れた熱光学効果型光導波路素子、および、その製造方法を提供する。
【解決手段】熱光学効果型光導波路素子(1)は、基材(10)上に光導波路(20)およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータ(40)を備え、薄膜ヒータ(40)に対応する光導波路コア(23)に沿って実質的に平行に熱分離溝(30)を設けた。また、熱光学効果型光導波路素子(1)の製造方法は、基材(10)上に、クラッド用の感光性ポリマー材料(25d)を塗布し、熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝(30)を備えた下部クラッド層(22)を形成する工程と、同様にして、熱分離溝(30)を備えた上部クラッド層(24)を形成する工程と、を少なくとも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子と、この熱光学効果型光導波路素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、光通信システムや光伝送システムに用いられる光スイッチ、可変光減衰器(VOA:Variable Optical Attenuator)、光センサー等の光素子には、熱光学効果を利用した光導波路素子が広く使用されている。熱光学効果とは、加熱により光導波材料の屈折率が変化する現象である。
【0003】
すなわち、熱光学効果型光スイッチは、熱光学効果のある材料で形成された光導波路を使用し、導電性薄膜ヒータに通電することによって、光導波路の屈折率を変化させて光の出力ポートを切替えるものである。
【0004】
また、熱光学効果型光VOAは、熱光学効果のある材料で形成された光導波路を使用し、導電性薄膜ヒータに流れる電力を制御することによって、光導波路の屈折率を変化させて出力光強度を減衰させるものである。
【0005】
近年、光通信システムや光伝送システムの普及にともなって、このような光素子の低コスト化、省電力化、高密度集積化が要求されている。そこで、従来の石英ガラスを用いた光導波路の代りに、ポリマー系材料を用いた光導波路についての研究開発が大いに行われている。
【0006】
ポリマー系材料は、石英ガラス等の無機材料に比べて1桁以上大きい熱光学係数を有するので、石英ガラスを用いた場合より低い加熱温度で動作させることのできる光素子を構成することができる。また、応答性良く光素子を動作させるために、熱伝導率の大きい光導波路材料を用いることができる。熱伝導率の良い材料を用いると、加熱対象となる導波路コアへの熱の伝わりが速くなると同時に、非加熱対象の周辺導波路への熱伝達も伝わりやすくなり、熱の有効利用に問題が生じる。
【0007】
また、非加熱対象部の導波路を含めて加熱すると、温度上昇に必要な熱容量が大きくなり、加熱時間と光素子の切替速度が制限される問題がある。また、対象導波路コアを加熱すると、熱光学効果の発生と同時に、熱膨張が発生する。ポリマー系導波路とシリコンウエハとの熱膨張率が1桁以上異なるため、導波路上部クラッド層での熱膨張による伸びと、シリコン基板より下部クラッド層への圧縮力が同時に発生し、その相互作用で導波路コアに不均一な応力がかかる状態になり、コアの複屈折性が生じ、光素子の偏光特性や消光比等が悪くなる問題がある。
【0008】
さらに、ポリマー系材料を用いた光導波路の一部を加熱することによって光の光路を制御するタイプの導波路型光素子においては、繰り返し動作によって熱が蓄積され、局部的な歪みが発生し、消光比等の光学特性が劣化するという問題がある。
【0009】
そこで、こうした問題を解決するために、加熱するヒータが形成された光導波コアの近傍に熱の伝搬を阻止するための熱分離溝を設けることが、従来から提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2004−85744号公報
【特許文献2】特開2004−309927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のような熱分離溝を設ける従来の方法は、光導波路を形成した後に、切削加工か、またはドライエッチング等により形成するものであるため、次のような課題があった。
【0011】
すなわち、光導波路の形成後に切削加工により熱分離溝を形成する場合は、一定した深さの溝を形成することが困難であり、また、複雑なパターンの導波路が高密度に形成されたものでは溝の形成自体が困難であるうえ、直線以外の任意の形状の溝を形成することができない。
【0012】
例えば、特許文献1に記載の光スイッチの場合、高密度集積された導波路ウエハに数μmの導波路コアから数10μm間隔の熱分離溝を形成することは、鋸やバイトによる切削加工では溝の形状精度、および位置精度、そして量産性に欠ける問題がある。
【0013】
また、光導波路の形成後にドライエッチング等により熱分離溝を形成する場合は、加工設備が高価になることが避けられない。
【0014】
例えば、特許文献2に記載の光導波路デバイスの場合、光導波路形成後にドライエッチング法を行うため、高価な加工装置が必要になり、光素子の加工コストが高くなる問題がある。
【0015】
この発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、低コスト、低消費電力、低熱応力で、しかも量産性に優れた熱光学効果型光導波路素子、および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明の請求項1に係る熱光学効果型光導波路素子は、基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子であって、前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアに沿って実質的に平行に熱分離溝を設けたことを特徴とするものである。
【0017】
この発明の請求項2に係る熱光学効果型光導波路素子は、基材上に複数の選択可能な光導波路、およびこれらの光導波路に選択的に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子であって、少なくとも2つの光導波路が実質的に分岐された分岐部で両光導波路コアに挟まれた領域において、前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアに沿って実質的に平行に熱分離溝を設けたことを特徴とするものである。
【0018】
この発明の請求項3に係る熱光学効果型光導波路素子は、請求項1または請求項2記載の熱光学効果型光導波路素子において、前記熱分離溝は、前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアの両側に沿って当該光導波路コアと実質的に平行に設けたことを特徴とするものである。
【0019】
この発明の請求項4に係る熱光学効果型光導波路素子は、請求項1〜3のいずれか1項記載の熱光学効果型光導波路素子において、前記熱分離溝は、前記基材の表面が実質的に露出する深さに形成したことを特徴とするものである。
【0020】
この発明の請求項5に係る熱光学効果型光導波路素子は、基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子であって、前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアの近傍に、前記基材の表面が実質的に露出する熱分離溝を設けたことを特徴とするものである。
【0021】
この発明の請求項6に係る熱光学効果型光導波路素子は、請求項1〜5のいずれか1項記載の熱光学効果型光導波路素子において、前記熱分離溝は、フォトリソグラフィ処理によるパターニングが可能な感光性ポリマー材料を用いて、前記光導波路とともに形成したことを特徴とするものである。
【0022】
この発明の請求項7に係る熱光学効果型光導波路素子の製造方法は、基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子の製造方法であって、基材上にポリマー材料を用いて前記光導波路を形成する工程と同一工程で、当該光導波路コアの近傍に熱分離溝を同時に形成することを特徴とするものである。
【0023】
この発明の請求項8に係る熱光学効果型光導波路素子の製造方法は、基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子の製造方法であって、基材上に、クラッド用の感光性ポリマー材料を塗布し、前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアに沿って実質的に平行に配置される熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝を備えた下部クラッド層を形成する工程、を少なくとも含むことを特徴とするものである。
【0024】
この発明の請求項9に係る熱光学効果型光導波路素子の製造方法は、基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子の製造方法であって、基材上に、クラッド用の感光性ポリマー材料を塗布し、前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアに沿って実質的に平行に配置される熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝を備えた下部クラッド層を形成する工程と、前記下部クラッド層上に、コア用の感光性ポリマー材料を塗布し、コア部をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、コア部を形成する工程と、前記下部クラッド層および前記コア部上に、クラッド用の感光性ポリマー材料を塗布し、前記熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝を備えた上部クラッド層を形成する工程と、を少なくとも含むことを特徴とするものである。
【0025】
この発明の請求項10に係る熱光学効果型光導波路素子の製造方法は、基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子の製造方法であって、基材上に、クラッド用の感光性ポリマー材料を塗布し、前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアに沿って実質的に平行に配置される熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝を備えた下部クラッド層を形成する工程と、前記下部クラッド層上に、コア用の感光性ポリマー材料を塗布し、コア部をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、コア部を形成する工程と、前記下部クラッド層および前記コア部上に、クラッド用の感光性ポリマー材料を塗布し、前記熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝を備えた上部クラッド層を形成する工程と、熱分離溝を備えた前記光導波路上に、薄膜ヒータを形成する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0026】
この発明の請求項11に係る熱光学効果型光導波路素子の製造方法は、請求項8〜10のいずれか1項記載の熱光学効果型光導波路素子の製造方法において、前記下部クラッド層を形成する工程の前に、基材と下部クラッド層との密着性を高める結合層を形成する工程を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
この発明は以上のように、基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子であって、前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアに沿って実質的に平行に熱分離溝を設けた構成としたので、薄膜ヒータに加えられた熱は対応する光導波路コアの温度上昇に使われ、光素子の低消費電力化が図られると同時に、光素子の切替え速度が速くなり、また熱膨張応力の低減により光素子の偏波依存特性、消光比が向上され、高性能の光素子が実現できる。
【0028】
また、高価な加工設備を必要とせず、簡易な製造工程だけで、光導波路と熱分離溝を同時に高精度で形成され、低コストでかつ量産性に優れた熱光学効果型導波路光素子を実現できる。
【0029】
特に、低コスト化と低消費電力化が要求される光通信システムに応用することにより、光通信システムの普及に大きく貢献することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0031】
図1は、この発明による熱光学効果型光導波路素子の第1の実施形態を示し、この熱光学効果型光導波路素子1は、基材10上に光導波路20およびこの光導波路20に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータ40を備えたものである。
【0032】
そして、この熱光学効果型光導波路素子1は、薄膜ヒータ40に対応する光導波路コア23に沿って、好ましくは光導波路コア23の両側に沿って、光導波路コア23と実質的に平行(後述の図11、図13、図15を参照)に熱分離溝30を設けたものである。
【0033】
また、この熱光学効果型光導波路素子1は、図1に示すように、薄膜ヒータ40に対応する光導波路コア23の近傍に、好ましくは光導波路コア23に沿って、基材10の表面が実質的に露出する熱分離溝30を設けたものである。
【0034】
図2〜図5は、この発明による熱光学効果型光導波路素子の製造方法の第1の実施形態を示し、この熱光学効果型光導波路素子の製造方法は、図1に示す熱光学効果型光導波路素子1を製造する第1の方法である。
【0035】
すなわち、この熱光学効果型光導波路素子の製造方法は、基材(シリコン基板)10上に光導波路20およびこの光導波路20に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータ40を備えた熱光学効果型光導波路素子1を製造する際、ポリマー材料25を用いて光導波路20を形成する工程と同一工程で、熱分離溝30を同時に形成するものである。
【0036】
この熱光学効果型光導波路素子の製造方法を工程順に説明すると、まず、シリコン基板10上に、クラッド用の感光性ポリマー材料25dを塗布し、熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝30を備えた下部クラッド層22を形成する(図2参照)。
【0037】
具体的には、シリコン基板10上に、例えばスピンコート法を用いて、クラッド用の感光性ポリマー材料25dを塗布する(図2(a)参照)。
【0038】
続いて、塗布した感光性ポリマー材料25dの上方から、薄膜ヒータ40に対応する光導波路コア23に沿って実質的に平行に配置される熱分離溝パターンが形成されたフォトマスク26を用いて露光する(図2(b)参照)。
【0039】
続いて、露光した感光性ポリマー材料25dを現像・ベイクする(図2(c)参照)。これにより、図2(c)に示すように、熱分離溝30を備えた下部クラッド層22が形成される。
【0040】
次に、下部クラッド層22上に、クラッド用の感光性ポリマー材料25dよりも屈折率が大きいコア用の感光性ポリマー材料25rを塗布し、コア部をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、コア部23を形成する(図3参照)。
【0041】
具体的には、シリコン基板10に形成した下部クラッド層22上に、例えばスピンコート法を用いて、コア用の感光性ポリマー材料25rを塗布する(図3(a)参照)。
【0042】
続いて、塗布した感光性ポリマー材料25rの上方から、コアパターンが形成されたフォトマスク27を用いて露光する(図3(b)参照)。
【0043】
続いて、露光した感光性ポリマー材料25rを現像・ベイクする(図3(c)参照)。これにより、図3(c)に示すように、コア部23が形成される。
【0044】
次に、下部クラッド層22およびコア部23上に、クラッド用の感光性ポリマー材料25dを塗布し、熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝30を備えた上部クラッド層24を形成する(図4参照)。
【0045】
具体的には、シリコン基板10に形成した下部クラッド層22およびコア部23上に、例えばスピンコート法を用いて、クラッド用の感光性ポリマー材料25dを塗布する(図4(a)参照)。
【0046】
続いて、塗布した感光性ポリマー材料25dの上方から、熱分離溝パターンが形成されたフォトマスク26を用いて露光する(図4(b)参照)。
【0047】
続いて、露光した感光性ポリマー材料25dを現像・ベイクする(図4(c)参照)。これにより、図4(c)に示すように、熱分離溝30を備えた上部クラッド層24が形成される。
【0048】
このとき、下部クラッド層22、コア部23および上部クラッド層24を一体に備えた光導波路20が、その両側に熱分離溝30を備えて形成されることとなる。
【0049】
最後に、熱分離溝30を備えた光導波路20上に、薄膜ヒータ40を形成する(図5参照)。
【0050】
この薄膜ヒータ40を形成する1つの方法は、まず、図4(c)に示す熱分離溝30を備えた光導波路20上に、例えばスパッタリング法を用いて導電性金属材料を成膜する。つぎに、例えばスピンコート法を用いてフォトレジストを塗布し、ヒータパターンが形成されたフォトマスクを用いて露光・パターニングを行う。これにより形成されたレジスト膜をマスクとして、ウエットエッチングにより不要箇所の金属膜を除去し、最後にヒータパターン上のレジスト膜を剥離することで、薄膜ヒータ40が得られる。
【0051】
薄膜ヒータ40を形成する別の方法は、まず、図4(c)に示す熱分離溝30を備えた光導波路20上に、例えばスピンコート法を用いてフォトレジストを塗布し、ヒータパターンが形成されたフォトマスクを用いて露光・パターニングを行う。これにより形成されたヒータパターンが開口したレジスト膜上に、例えばスパッタリング法を用いて導電性金属材料を成膜し、レジスト膜をリフトオフすることで、開口に残る薄膜ヒータ40が得られる。
【0052】
上記のポリマー材料25(感光性ポリマー材料25d,25r)は、フォトリソグラフィ処理によるアルカリ現像でパターニングが可能で、しかも、光導波路形成に適した透明な材料である。具体的には、例えば、エポキシ、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリシラン、ゾルゲル、アクリル、珪素樹脂、ポリシロキサン等から選ばれる。
【0053】
また、薄膜ヒータ40の形成に用いる導電性金属材料は、例えば、Cr、Ni、Pt、Au等の金属または合金から選ばれる。そして、薄膜ヒータ40の成膜には、スパッタリング、蒸着、メッキ等の方法を用いることができる。さらに、薄膜ヒータ40のパターニングは、フォトレジスト、ウエットエッチング、ドライエッチング等のフォトリソグラフィ処理を用いることが可能である。
【0054】
図6〜図10は、この発明による熱光学効果型光導波路素子の製造方法の第2の実施形態を示し、この熱光学効果型光導波路素子の製造方法は、図1に示す熱光学効果型光導波路素子1を製造する第2の方法である。
【0055】
すなわち、この熱光学効果型光導波路素子の製造方法は、基材(シリコン基板)10上に光導波路20およびこの光導波路20に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータ40を備えた熱光学効果型光導波路素子1を製造する際、ポリマー材料25を用いて光導波路20を形成する工程と同一工程で、熱分離溝30を同時に形成するものである。
【0056】
この熱光学効果型光導波路素子の製造方法を工程順に説明すると、まず、シリコン基板10上に、シリコン基板10と下部クラッド層22との密着性を高める結合層(カップリング層)21を形成する(図6参照)。
【0057】
次に、シリコン基板10の結合層21上に、クラッド用の感光性ポリマー材料25dを塗布し、熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝30を備えた下部クラッド層22を形成する(図7参照)。
【0058】
この熱分離溝30を備えた下部クラッド層22の形成工程は、図2と同様であるので、具体的説明および工程の図示は省略する。
【0059】
次に、下部クラッド層22上に、コア用の感光性ポリマー材料25rを塗布し、コア部をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、コア部23を形成する(図8参照)。
【0060】
このコア部23の形成工程は、図3と同様であるので、具体的説明および工程の図示は省略する。
【0061】
次に、下部クラッド層22およびコア部23上に、クラッド用の感光性ポリマー材料25dを塗布し、熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝30を備えた上部クラッド層24を形成する(図9参照)。
【0062】
この熱分離溝30を備えた上部クラッド層24の形成工程は、図4と同様であるので、具体的説明および工程の図示は省略する。
【0063】
最後に、熱分離溝30を備えた光導波路20上に、ヒータをパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、薄膜ヒータ40を形成する(図10参照)。
【0064】
図11、図12は、この発明による熱光学効果型光導波路素子の第2の実施形態を示し、図11は、この熱光学効果型光導波路素子を用いて構成したY分岐導波路型(1×2)光スイッチ2の平面図、図12は断面図である。
【0065】
このY分岐導波路型(1×2)光スイッチ2は、感光性ゾルゲル樹脂を用いて図2〜図4に示す光導波路形成プロセスによる処理をすることで、シリコン基板10上に熱分離溝30を備えたY分岐導波路50を形成したのち、このY分岐導波路50上にスパッタリングによりCr薄膜を形成し、フォトリソグラフィ処理により薄膜ヒータ40を形成して得られた熱光学効果型光スイッチである。
【0066】
このY分岐導波路型(1×2)光スイッチ2は、光が入射する1つの入射導波路コア51と、光が出射する2つの出射導波路コア52a、52bと、出射導波路コア52a、52bの何れか一方を選択的に加熱して熱光学効果を与える薄膜ヒータ40a、40bと、反対側の非加熱コアへの熱伝導を阻止する熱分離溝30a、30b、30cとで構成される。
【0067】
このY分岐導波路型(1×2)光スイッチ2において、入射導波路コア51から入射した光は、薄膜ヒータ40a、40bの何れか一方を加熱することで、加熱された薄膜ヒータ下部の導波路は熱光学効果により屈折率が変わり、入射光がスイッチングされ、反対側(非加熱側)の出射導波路コアから出射することになる。
【0068】
例えば、薄膜ヒータ40aだけを加熱すると、入射導波路コア51から入射した光は、薄膜ヒータ40aに対応する導波路の屈折率が熱光学効果により変わることで、非加熱側の出射導波路コア52bから出射する。
【0069】
一方、薄膜ヒータ40bだけを加熱すると、入射導波路コア51から入射した光は、薄膜ヒータ40bに対応する導波路の屈折率が熱光学効果により変わることで、非加熱側の出射導波路コア52aから出射する。
【0070】
熱分離溝30a、30b、30cを設けることで、出射導波路コア52a、52bの何れか一方が加熱されるとき、反対側(非加熱側)の導波路コアおよび非加熱区域への熱拡散(例えば、複数の光導波路素子が並列された場合の隣接する導波路への熱伝導)が阻止される。
【0071】
例えば、薄膜ヒータ40aだけを加熱したとき、その熱は対応する出射導波路コア52aに伝達されるが、対応しない出射導波路コア52bとの間には熱分離溝30bが設けてあるため、薄膜ヒータ40aから出射導波路コア52bへの直接的熱伝導は効果的に阻止される。
【0072】
また、他の熱分離溝30a、30cは、薄膜ヒータ40aから非加熱区域への熱拡散の阻止に有効である。
【0073】
同様に、薄膜ヒータ40bだけを加熱したとき、その熱は対応する出射導波路コア52bに伝達されるが、対応しない出射導波路コア52aとの間には熱分離溝30bが設けてあるため、薄膜ヒータ40bから出射導波路コア52aへの直接的熱伝導は効果的に阻止される。
【0074】
また、他の熱分離溝30a、30cは、薄膜ヒータ40bから非加熱区域への熱拡散の阻止に有効である。
【0075】
これによって、薄膜ヒータ40a、40bから伝達された熱は対応する導波路内側に閉じ込められるから、加熱対象とする出射導波路コア52a、52bの何れか一方のみを加熱することで、低消費電力の光スイッチが実現できる。
【0076】
また、熱分離溝30a、30b、30cによって、導波路の加熱範囲が絞られ、薄膜ヒータ40a、40bの温度上昇に必要な熱容量が小さくなるため、高速の光スイッチが実現できる。
【0077】
図13、図14は、この発明による熱光学効果型光導波路素子の第3の実施形態を示し、図13は、この熱光学効果型光導波路素子を用いて構成したマッハツェンダ(MZ:Mach-Zehnder)干渉型(2×2)光スイッチ3の平面図、図14は断面図である。
【0078】
このマッハツェンダ(MZ)干渉型(2×2)光スイッチ3は、感光性ゾルゲル樹脂を用いて図2〜図4に示す光導波路形成プロセスによる処理をすることで、シリコン基板10上に熱分離溝30を備えたMZ干渉型導波路60を形成したのち、このMZ干渉型導波路60上にスパッタリングによりCr薄膜を形成し、フォトリソグラフィ処理により薄膜ヒータ40を形成して得られたMZ干渉型光スイッチである。
【0079】
このマッハツェンダ(MZ)干渉型(2×2)光スイッチ3は、光が入射する2つの入射導波路コア61a、61bと、光が出射する2つの出射導波路コア62a、62bと、3dBカプラ63a、63bと、干渉計アーム導波路64a、64bと、干渉計アーム導波路64a、64bの何れか一方を選択的に加熱して熱光学効果を与える薄膜ヒータ40a、40bと、干渉計アーム導波路64a、64bの両側に設けられた熱分離溝30a、30b、30cとで構成される。
【0080】
このマッハツェンダ(MZ)干渉型(2×2)光スイッチ3において、干渉計アーム導波路64a、64b上に設けられた薄膜ヒータ40a、40bの何れか一方を加熱することで、加熱された干渉計アーム導波路は熱光学効果により屈折率が変わる。これにより、伝搬された光信号の位相シフトが生じ、加熱側の干渉計アーム導波路と非加熱側の干渉計アーム導波路との光信号位相差が0°か180°になることによって、入射導波路コア61a、61bから入射した光信号を、出射導波路コア62a、62bの何れかへ切替えて出射することになる。
【0081】
加熱される干渉計アーム導波路64a、64bの両側に設けられた熱分離溝30a、30b、30cにより、干渉計アーム導波路64a、64bの何れか一方が加熱されたとき、反対側の干渉計アーム導波路への熱伝導が阻止される。これにより、加熱対象とする干渉計アーム導波路64a、64bの何れか一方のみに加熱範囲が絞られ、薄膜ヒータ40a、40bの温度上昇に必要な熱容量が小さくなるので、低消費電力・低熱応力でしかも高速の光スイッチが実現できる。
【0082】
図15、図16は、この発明による熱光学効果型光導波路素子の第4の実施形態を示し、図15は、この熱光学効果型光導波路素子を用いて構成したマッハツェンダ(MZ)干渉型可変光減衰器(VOA:Variable Optical Attenuator)4の平面図、図16は断面図である。
【0083】
このマッハツェンダ(MZ)干渉型可変光減衰器(VOA)4は、感光性ゾルゲル樹脂を用いて図2〜図4に示す光導波路形成プロセスによる処理をすることで、シリコン基板10上に熱分離溝30を備えたMZ干渉型導波路70を形成したのち、このMZ干渉型導波路70上にスパッタリングによりCr薄膜を形成し、フォトリソグラフィ処理により薄膜ヒータ40を形成して得られたMZ干渉型光VOAである。
【0084】
このマッハツェンダ(MZ)干渉型可変光減衰器(VOA)4は、光が入射する1つの入射導波路コア71と、光が出射する1つの出射導波路コア72と、Y分岐カプラ73a、73bと、干渉計アーム導波路74a、74bと、一方の干渉計アーム導波路74aのみ加熱して熱光学効果を与える薄膜ヒータ40と、干渉計アーム導波路74aの両側に設けられた熱分離溝30a、30bとで構成される。
【0085】
このマッハツェンダ(MZ)干渉型可変光減衰器(VOA)4において、干渉計アーム導波路74a上に設けられた薄膜ヒータ40を加熱することで、加熱された干渉計アーム導波路74aは熱光学効果により屈折率が変わる。これにより、伝搬された光信号の位相シフトが生じ、加熱された干渉計アーム導波路74aを伝搬する光信号と、加熱されない干渉計アーム導波路74bを伝搬する光信号との位相差によって、出射導波路コア72での出射光強度が加熱温度により変化することになる。
【0086】
加熱される干渉計アーム導波路74aの両側に設けられた熱分離溝30a、30bにより、干渉計アーム導波路74aが加熱されたとき、反対側(非加熱側)の干渉計アーム導波路74bへの熱伝導が阻止され、加熱対象とする干渉計アーム導波路74aのみに加熱範囲が絞られ、薄膜ヒータ40の温度上昇に必要な熱容量が小さくなり、同時に材料熱膨張により生じた熱応力が低減されるため、低消費電力・低熱応力でしかも高速の光VOAが実現できる。
【0087】
なお、この発明は上記の実施形態に限られることなく種々の構造変形が可能である。例えば、導波路コアが直線状でなく、R彎曲形状やその他任意の形状である場合は、熱分離溝の形状も、導波路コアの形状に沿って形成することが可能である。
【0088】
また、この発明による熱分離溝を備えた熱光学効果型光導波路素子の適用対象も、上記の実施形態に限定されない。すなわち、光スイッチや可変光減衰器の他、各種の光センサーに適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】この発明による熱光学効果型光導波路素子の第1の実施形態を示す概略的断面図である。
【図2】この発明による熱光学効果型光導波路素子の製造方法の第1の実施形態において、熱分離溝を備えた下部クラッド層を形成する工程を示す概略的断面図である。
【図3】コア部を形成する工程を示す概略的断面図である。
【図4】熱分離溝を備えた上部クラッド層を形成する工程を示す概略的断面図である。
【図5】薄膜ヒータを形成する工程を示す概略的断面図である。
【図6】この発明による熱光学効果型光導波路素子の製造方法の第2の実施形態において、結合層を形成する工程を示す概略的断面図である。
【図7】熱分離溝を備えた下部クラッド層を形成する工程を示す概略的断面図である。
【図8】コア部を形成する工程を示す概略的断面図である。
【図9】熱分離溝を備えた上部クラッド層を形成する工程を示す概略的断面図である。
【図10】薄膜ヒータを形成する工程を示す概略的断面図である。
【図11】この発明による熱光学効果型光導波路素子の第2の実施形態を用いて構成したY分岐導波路型(1×2)光スイッチの平面図である。
【図12】図11のXII−XII線に沿ってとられた断面図である。
【図13】この発明による熱光学効果型光導波路素子の第3の実施形態を用いて構成したマッハツェンダ(MZ)干渉型(2×2)光スイッチの平面図である。
【図14】図13のXIV−XIV線に沿ってとられた断面図である。
【図15】この発明による熱光学効果型光導波路素子の第4の実施形態を用いて構成したマッハツェンダ(MZ)干渉型可変光減衰器(VOA)の平面図である。
【図16】図15のXVI−XVI線に沿ってとられた断面図である。
【符号の説明】
【0090】
1 熱光学効果型光導波路素子
2 Y分岐導波路型(1×2)光スイッチ
3 マッハツェンダ(MZ)干渉型(2×2)光スイッチ
4 マッハツェンダ(MZ)干渉型可変光減衰器(VOA)
10 基材(シリコン基板)
20 光導波路
21 結合層(カップリング層)
22 下部クラッド層
23 コア部
24 上部クラッド層
25 ポリマー材料(感光性ポリマー材料)
25d クラッド用の感光性ポリマー材料
25r コア用の感光性ポリマー材料
26,27 フォトマスク
30 熱分離溝
40 薄膜ヒータ
50 Y分岐導波路
51 入射導波路コア
52 出射導波路コア
60 MZ干渉型導波路
61 入射導波路コア
62 出射導波路コア
63 3dBカプラ
64 干渉計アーム導波路
70 MZ干渉型導波路
71 入射導波路コア
72 出射導波路コア
73 Y分岐カプラ
74 干渉計アーム導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子であって、
前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアに沿って実質的に平行に熱分離溝を設けたことを特徴とする熱光学効果型光導波路素子。
【請求項2】
基材上に複数の選択可能な光導波路、およびこれらの光導波路に選択的に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子であって、
少なくとも2つの光導波路が実質的に分岐された分岐部で両光導波路コアに挟まれた領域において、前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアに沿って実質的に平行に熱分離溝を設けたことを特徴とする熱光学効果型光導波路素子。
【請求項3】
前記熱分離溝は、前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアの両側に沿って当該光導波路コアと実質的に平行に設けたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の熱光学効果型光導波路素子。
【請求項4】
前記熱分離溝は、前記基材の表面が実質的に露出する深さに形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の熱光学効果型光導波路素子。
【請求項5】
基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子であって、
前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアの近傍に、前記基材の表面が実質的に露出する熱分離溝を設けたことを特徴とする熱光学効果型光導波路素子。
【請求項6】
前記熱分離溝は、フォトリソグラフィ処理によるパターニングが可能な感光性ポリマー材料を用いて、前記光導波路とともに形成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の熱光学効果型光導波路素子。
【請求項7】
基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子の製造方法であって、
基材上にポリマー材料を用いて前記光導波路を形成する工程と同一工程で、当該光導波路コアの近傍に熱分離溝を同時に形成することを特徴とする熱光学効果型光導波路素子の製造方法。
【請求項8】
基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子の製造方法であって、
基材上に、クラッド用の感光性ポリマー材料を塗布し、前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアに沿って実質的に平行に配置される熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝を備えた下部クラッド層を形成する工程、
を少なくとも含むことを特徴とする熱光学効果型光導波路素子の製造方法。
【請求項9】
基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子の製造方法であって、
基材上に、クラッド用の感光性ポリマー材料を塗布し、前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアに沿って実質的に平行に配置される熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝を備えた下部クラッド層を形成する工程と、
前記下部クラッド層上に、コア用の感光性ポリマー材料を塗布し、コア部をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、コア部を形成する工程と、
前記下部クラッド層および前記コア部上に、クラッド用の感光性ポリマー材料を塗布し、前記熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝を備えた上部クラッド層を形成する工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする熱光学効果型光導波路素子の製造方法。
【請求項10】
基材上に光導波路およびこの光導波路に熱光学効果をもたらす薄膜ヒータを備えた熱光学効果型光導波路素子の製造方法であって、
基材上に、クラッド用の感光性ポリマー材料を塗布し、前記薄膜ヒータに対応する光導波路コアに沿って実質的に平行に配置される熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝を備えた下部クラッド層を形成する工程と、
前記下部クラッド層上に、コア用の感光性ポリマー材料を塗布し、コア部をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、コア部を形成する工程と、
前記下部クラッド層および前記コア部上に、クラッド用の感光性ポリマー材料を塗布し、前記熱分離溝をパターニングしたフォトリソグラフィ処理により、熱分離溝を備えた上部クラッド層を形成する工程と、
熱分離溝を備えた前記光導波路上に、薄膜ヒータを形成する工程と、
を含むことを特徴とする熱光学効果型光導波路素子の製造方法。
【請求項11】
前記下部クラッド層を形成する工程の前に、基材と下部クラッド層との密着性を高める結合層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項記載の熱光学効果型光導波路素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−208518(P2006−208518A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17735(P2005−17735)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000147350)株式会社精工技研 (154)
【Fターム(参考)】