説明

熱処理用鋼材の表面処理液およびこれを用いた熱処理鋼材の製造方法

【課題】熱処理による鋼のスケール発生を抑制することができ,溶接性や塗装密着性に優れた熱処理鋼材を得るための表面処理液,およびその表面処理液を用いた熱処理鋼材の製造方法を提供する。
【解決手段】無機系バインダーと金属顔料とを媒体中に含有する熱処理用鋼材の表面処理液であって,前記金属顔料は,当該金属顔料と前記無機系バインダーの固形分との合計量に対し,酸化亜鉛粉を5〜20質量%,並びに銅箔及び/又は真鍮箔を合計で10〜25質量%以下含有し,耐高温酸化性金属粉を含有しない。熱処理鋼材の製造方法は,この表面処理液を基材に接触させて該基材の表面に該表面処理液からなる液層を形成する接触工程と前記接触工程を経てその表面に表面処理液からなる液層が形成された基材を乾燥させて,該基材の表面に保護被膜を形成する乾燥工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼入れ鋼管など熱処理鋼材を形成するための熱処理用鋼材の表面処理液およびこれを用いた熱処理鋼材の製造方法に関する。
なお、本発明において、「熱処理鋼材」とは熱処理を受けた鋼材を意味し、「熱処理用鋼材」とは、熱処理を受けるための鋼材であって熱処理を受ける前のものをいう。
【背景技術】
【0002】
周知のように、自動車や各種機械等に用いられる、金属製の強度部材、補強部材または構造部材には、高強度、軽量かつ小型であること等が求められる。従来よりこの種の部材は、プレス加工品の溶接、厚板の打ち抜き、さらには鍛造等により製造されてきた。しかし、これらの製造方法により製造される部材の軽量化および小型化には限界があり、その実現は容易なことではない。
【0003】
近年、これらの課題を可能にするために、例えば非特許文献1に開示されるハイドロフォームといわれる加工法が開発され、自動車部品に適用されるようになってきた。ハイドロフォームは、金型内に素材である管をセットし、高圧の加工液を管の内部に導入して管を膨出させ、管の外径を金型に沿わせることによって、複雑な形状の自動車部品を成形するものである。
【0004】
すなわち、プレス加工による溶接品の溶接部位にはいわゆるフランジ部と呼ばれる余肉部が不可避的に必要であるために重量増加の要因となるのに対し、ハイドロフォームでは、管を素材とするためにフランジ部を省略しながら、複雑な形状の部品を一体成形することが可能であることから、自動車部品の軽量化が図られる。
【0005】
しかしながら、ハイドロフォームには、(a)冷間加工であるため、例えば780MPa以上といった高強度の部材では、素材の延性がもともと小さいことから、複雑な形状の自動車部品の成形には限界があること、(b)一般的には、曲げ、プリフォーム及びハイドロフォームの3工程が必要となり、工程が比較的煩雑になること、及び(c)ハイドロフォーム機が大型で比較的高価であることといった問題がある。
【0006】
これらの問題に対して、本出願人は、先に特許文献1により曲げ加工装置に係る発明を開示した。図2は、この曲げ加工装置0の概略を示す説明図である。
図2に示すように、この発明は、支持手段2によりその軸方向へ移動自在に支持された鋼管1を上流側から下流側へ向けて送り装置3により送りながら、支持手段2の下流で曲げ加工を行う曲げ加工方法を用いて屈曲部材を製造する際に、支持手段2の下流で高周波加熱コイル5により鋼管1を部分的に焼入れが可能な温度域に急速に加熱し、高周波加熱コイル5の下流に配置される水冷装置6により鋼管1を急冷するとともに、鋼管1を送りながら支持可能であるロール対4aを少なくとも一組有する可動ローラダイス4の位置を二次元又は三次元で変更して鋼管1の加熱された部分に曲げモーメントを付与して曲げ加工を行うので、十分な曲げ加工精度を確保しながら高い作業能率で屈曲部材を製造することが可能になる。
【0007】
この発明によれば、確かに、二次元又は三次元に屈曲する曲げ加工部と焼入れ部とを長手方向及び/又はこの長手方向と交叉する面内の周方向へ向けて断続的又は連続的に有する屈曲部材を、十分な曲げ加工精度を確保しながら高い作業能率で、製造することが可能になる。
【0008】
特許文献1により開示された発明によれば、比較的安価な成形機を用いた単純な工程により、例えば780MPa以上といった高強度の自動車部品を一体成形することができ、極めて有益である。
【0009】
しかしながら、本発明者等はこの発明のさらなる向上を図るべく鋭意検討を重ねたところ、この発明では、鋼管1は部分的に高周波加熱コイル5により焼入れが可能な温度域に急速に加熱されるため、鋼管1の表面には不可避的に酸化スケールが生成し、製造される屈曲部材の外面に酸化スケールが残存することが明らかになった。このため、屈曲部材の表面性状が劣化するとともに、塗装後耐食性も低下するという問題がある。また、鋼管1の外面のみならず内面にも酸化スケールが生成するため、製造される屈曲部材の耐食性の低下は避けられない。
【0010】
このような鋼のスケール発生を抑制するために、表面をめっき等で被覆された鋼材を利用する技術が開発されている。熱間プレス成形の例では、例えば特許文献2にはAlめっき鋼板を用いる方法が、特許文献3には、Zn系またはZn−Al系めっき鋼板を用いる方法が開示されている。また特許文献4には、有機シランをバインダーとするコーティング層、特許文献5、6には、有機バインダー(ポリウレタン、アクリルなど)または有機−無機バインダー中に、導電性のある金属顔料(Al,Fe等)または非金属顔料や潤滑剤等を含有するコーティング層を備える鋼板を用いる方法が開示されている。また、鋼板を冷間プレスにより成形した後に、加熱され金型冷却されるプロセスにおいて、スケール抑制を目的としたものではないが、特許文献7のように潤滑被膜を備えた表面処理鋼板を用いる技術もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開WO2006/093006パンフレット
【特許文献2】特開2000−38640号公報
【特許文献3】特開2001−353548号公報
【特許文献4】国際公開WO2006/040030パンフレット
【特許文献5】国際公開WO2007/76766パンフレット
【特許文献6】国際公開WO2007/76769パンフレット
【特許文献7】特開2005−305539号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】自動車技術Nov.57,No.6(2003)23〜28頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述のように、鋼のスケール発生を抑制するための被膜を形成させる技術として、めっきによるものとコーティング剤を形成する技術とに分けることができ、それぞれ特徴があるが、一般には、薬剤塗布の方がめっきよりも単純な設備で被膜の形成が可能である。
【0014】
一方で、薬剤塗布の場合には、形成される被膜の導電性が通常低く、そのため溶接性が問題となりうる。その他、塗装下地としての化成処理性およびその結果としての塗装密着性も問題となりうる。この点に関し、特許文献4〜6に開示される技術では、導電性のある金属顔料(Al,Fe等)または非金属顔料等を含有するコーティング層を備えることで、溶接性等の改善を図っている。このコーティング層は、その金属顔料を含有する処理液(塗料)から形成されるものである。しかしながら、単に金属顔料等を分散させるということだけでは、前述の溶接性、塗装密着性が実用上は不十分である。また、金属顔料を含有する処理液(塗料)は、バインダーまたは溶媒と金属顔料との比重の差が大きく顔料が沈降しやすい。そのため、塗装中にも強い攪拌や循環が必要になって塗装時の作業性が悪くなり、また得られた表面処理鋼板の性能も安定しない場合がある。
【0015】
本発明は、特許文献1により開示された発明に係る加工法などの熱処理前の鋼材表面に被膜を形成しておくことにより、その熱処理による鋼のスケール発生を抑制することができ、溶接性や塗装密着性に優れた熱処理鋼材を得るための表面処理液であって、特に処理液中の金属顔料等が沈降しにくく扱いやすい表面処理液を提供すること、およびその表面処理液を用いた熱処理鋼材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。
(1)無機系バインダーと金属顔料とを媒体中に含有する熱処理用鋼材の表面処理液であって、前記金属顔料は、当該金属顔料と前記無機系バインダーの固形分との合計量に対し、酸化亜鉛粉を5質量%以上20質量%以下、ならびに銅箔および真鍮箔から選ばれる一種または二種の金属箔を10質量%以上25質量%以下含有し、耐高温酸化性金属粉を含有しないことを特徴とする表面処理液。
【0017】
(2)さらに、無機系固形潤滑剤を、表面処理液から得られた被膜における該無機系固形潤滑剤の全被膜固形分に対する含有量が5質量%以上20質量%以下となるように含有する、上記(1)記載の表面処理液。
【0018】
(3)上記(1)または(2)に記載される表面処理液を基材に接触させて該基材の表面に該表面処理液からなる液層を形成する接触工程と、前記接触工程を経てその表面に表面処理液からなる液層が形成された基材を乾燥させて、該基材の表面に保護被膜を形成する乾燥工程とを備えることを特徴とする熱処理用鋼材の製造方法。
【0019】
(4)上記(3)に記載される製造方法により製造された熱処理用鋼材をAc点以上の温度に加熱した後、冷却して焼き入れを行う熱処理工程を備えることを特徴とする、熱処理鋼材の製造方法。
【0020】
(5)前記熱処理用鋼材をAc点以上の温度にする加熱が100℃/秒の昇温速度で行われ、加熱された前記熱処理用鋼材がAc点以上の温度に保持される時間が1秒間以内である、上記(4)記載の製造方法。
【0021】
(6)前記Ac点以上の温度に加熱された熱処理用鋼材に対して焼き入れのための冷却がなされる前に該熱処理用鋼材の形状加工を行う、上記(5)記載の製造方法。
【0022】
(7)前記熱処理用鋼材をその長手方向へ送りながら、送られる該熱処理用鋼材から離間して第1の位置に配置される加熱装置により前記熱処理用鋼材をAc点以上の温度まで加熱し、前記第1の位置よりも前記熱処理用鋼材の送り方向の下流の第2の位置に配置される冷却装置により前記熱処理用鋼材に冷却媒体を吹き付けることにより該熱処理用鋼材を焼入れて熱処理鋼材とする上記(5)記載の製造方法。
【0023】
(8)前記第1の位置においてAc点以上の温度まで加熱されたことにより変形抵抗が低下した前記熱処理用鋼材を変形させることで形状加工がなされた熱処理鋼材を得る上記(7)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、特許文献1により開示された加工法に代表される熱処理を実施しても、熱処理による鋼のスケール発生を抑制することができ、溶接性や塗装密着性に優れた熱処理鋼材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明に係る熱処理の一例である特許文献1により開示された加工法に係る焼入れ鋼材の製造装置の構成を、模式的に示す説明図である。
【図2】図2は、特許文献1により開示された曲げ加工装置の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
1.基材
本発明に係る表面処理液を用いた表面処理がなされる対象部材である基材としては、めっき等の表面被覆がなされていない鋼材(以下、「裸の鋼材」ともいう。)でもよいし、犠牲防食作用に基づく耐食性改善を図るため、亜鉛やアルミニウムあるいはそれらの合金でめっきされた鋼材(以下、単に「めっき鋼材」ともいう。)でもよい。本発明において、裸の鋼材およびめっき鋼材を「鋼材」と総称する。
【0027】
なお、めっき鋼材の表面に形成されるめっき材料の主成分であって、犠牲防食作用において中心的な役割を果たす亜鉛やアルミニウムなどは、比較的低温で蒸発する。このため、めっき鋼材上に本発明に係る表面処理液を用いた表面処理が施され、その表面処理によりめっき鋼材上に被膜(以下、本発明に係る表面処理により形成された被膜を「保護被膜」という。)が形成されると、その保護被膜は、熱処理において亜鉛やアルミニウムなどがめっき鋼材から蒸発することを抑制する。また、これらの元素は酸化しやすい元素でもあるが保護被膜により、熱処理におけるめっき成分の過度の酸化が抑制される。本発明に係る保護被膜は、これらの抑制作用により、熱処理鋼材の耐食性の向上に寄与する。
【0028】
裸の鋼材の化学組成は特に限定されないが、熱処理(焼き入れ)により、高強度化が達成できる組成であることが好ましい。求められる強度にもよるが、例えば、C:0.10〜0.40質量%であることが好ましく、さらに、Mn:0.1〜3.0質量%および/またはCr:0.1〜1.0質量%を含有させたり、B:0.0001〜0.01質量%を含有させたりしてもよい。また、Ni,Mo,V,Ti,Nb等、焼入れ性や焼入れ後の強度を高める元素を含有させてもよい。
【0029】
2.表面処理液
本発明に係る表面処理液は、無機系バインダーと金属顔料とを媒質中に含有するものであって、無機系バインダーは後述する特性Aを有するものであって、金属顔料は、次の(a)成分および(b)成分を含み、(c)を含まない。
【0030】
(a)金属顔料と前記無機系バインダーの固形分との合計量に対する質量比率(以下、「固形分濃度」ともいう。)として酸化亜鉛粉を5〜20質量%、
(b)銅箔および真鍮箔から選ばれる一種または二種の金属箔(以下、「真鍮箔等」ともいう。)を固形分濃度として10〜30質量%、
(c)耐高温酸化性金属粉
以下に、各成分について詳細に説明する。
【0031】
(1)無機系バインダー
本発明の表面処理液は、金属顔料を分散させるバインダー成分として、備える無機系バインダーを含有する。このようなバインダー成分からなる表面処理液の好適例として、株式会社日板研究所製G−90(シリカ系バインダー)が挙げられる。
【0032】
バインダー成分としては、低温での成膜が可能でかつ高温に加熱しても安定性が損なわれない方が好ましい。すなわち、高温加熱時に皮膜の分解や脱水等が生じると、素地の鋼またはめっきが酸化されて密着性の悪い酸化物が形成される恐れがあるためである。
【0033】
表1は、各種のバインダー成分からなる液をCu板上に塗布して150℃×10分で焼き付けた後、850℃、950℃で10分加熱した後の減量(大部分は脱水又は脱酸素によると推定される)を測定したものである。先に好適例として挙げたG−90は、950℃に加熱しても減量は3質量%程度で、表1の中では最も減量が少なかった。許容される減量の目安は10質量%である。これより、G−90は150℃焼き付けで概ね成膜が完了し、高温に加熱しても比較的安定であると考えられる。
【0034】
【表1】

【0035】
(2)金属顔料
(a)酸化亜鉛粉
表面処理液中には、少なくとも次の金属顔料、(a)酸化亜鉛粉および(b)真鍮箔等を含有し、(c)耐高温酸化性金属粉を含有しない。これらの成分について以下に説明する。
【0036】
なお、酸化亜鉛は、厳密には金属ではないが、本発明では酸化亜鉛粉を便宜上金属顔料として分類する。また、以下の説明において、金属顔料の含有量は、特に断りがない限り、上記の固形分濃度(質量%)で示す。
【0037】
熱処理された鋼材は、例えば自動車部品であれば、車体に組み立てられたあと、化成処理を施されて、その後電着塗装等により塗装される。表面処理液中に酸化亜鉛粉を含有させることにより、熱処理後も熱処理鋼材の表面に化成処理層が形成されやすくなる。このため、熱処理鋼材と塗装(塗膜)との密着性が向上する。酸化亜鉛の好ましい含有量は5〜20質量%である。含有量が5質量%未満の場合には塗膜との密着性向上の効果が得られにくくなり、含有量が20質量%超の場合には、相対的に他の金属顔料の含有量が低下するため、不具合が発生しやすくなる。特に好ましい含有量は6〜14質量%である。
【0038】
酸化亜鉛粉の形状に制限はない。ただし、粒径(球換算直径)が過剰に大きい場合には(b)真鍮箔等を含有しても沈降を抑制することが困難となることもある。また、保護被膜から金属顔料が突出する傾向が特に強くなり、顔料脱落の可能性が高まったり、意匠性が著しく低下したりする場合もある。したがって、これらの金属顔料の球換算直径の平均値は70μm未満とすることが好ましく、30μm以下とすれば特に好ましい。
【0039】
(b)真鍮箔等
上記の(a)酸化亜鉛粉は、比重がバインダー成分や溶媒(水、溶剤)よりもかなり大きいので、表面処理液中で沈降しやすい。そこで、本発明に係る表面処理液は金属箔、具体的には真鍮箔等を含有させることにより沈降を抑制している。この箔状の金属粉を含有させることで、表面処理液における無機系バインダーの濃度によらずその粘性が増すため、沈降しにくくなっているものと推測される。また、真鍮箔等の含有は、スポット溶接時の通電パスとして機能するが、さらにこれらの箔が溶接チップの材質Cuと同じ又は近い材質であることが適正溶接電流範囲(詳細は後述する。)を確保することに有利に働いていると推測される。
【0040】
真鍮箔等の好ましい含有量は10〜25質量%である。含有量が10質量%未満の場合には沈降抑制の効果が得られにくくなり、含有量が25質量%超の場合には、相対的に他の金属顔料の含有量が低下するため、不具合が発生しやすくなる。特に好ましい含有量は15〜25質量%である。また、箔状の形状は、平均厚さ2μm以下、平均箔径(箔の長径)3〜10μmとすることが好ましい。また、アスペクト比(箔径/厚さ)として、3〜10程度とすることが好ましい。厚さが大きすぎたりアスペクト比が小さすぎたりすると、沈降防止の機能が低下する。また、箔径が大きすぎたりアスペクト比が大きすぎたりすると、箔が割れやすくなり、結果的に適切な形状を有さない金属箔が多くなってしまう。
【0041】
(c)耐高温酸化性金属粉
本発明に係る表面処理液は耐高温酸化性金属粉を含有しない。ここで、「耐高温酸化性金属粉」とは、800℃程度以上に加熱される熱処理においても変質しにくい、具体的には融点が高く酸化しにくい金属からなる粉末をいい、Cr、Ni、W、V、Mo、Zr、TiおよびCoならびにこれらの合金の粉末が例示され、合金成分としてCuがさらに含まれているものも例示される。
【0042】
熱処理された鋼材は、例えば自動車部品であれば、主としてスポット溶接等で車体に組み立てられる。表面処理液中に、耐高温酸化性の金属粉を含有することで、スポット溶接性が改善されると、当初考えられた。これらの金属粉は、熱処理後の鋼材表面にもそのまま残存しスポット溶接時に通電サイトとして働いて溶接が可能になると推測されたためである。
【0043】
しかしながら、上記(a)および(b)を含む表面処理液にさらに耐高温酸化性金属粉を含有すると、チリや溶着を発生することなく適正なナゲット径を形成できる溶接電流範囲(以下、「適正溶接電流範囲」という。)が存在しないか存在しても極めて狭いことが明らかになった。
【0044】
適正溶接電流範囲が存在する場合の例と、存在しない場合の例とを、図1に示す。図1は後述する実施例のNo.10(図1(a))およびNo.17(図1(b))において、熱処理鋼材のスポット溶接時の溶接電流と形成されるナゲット径の関係及びチリ又は溶着の発生状況を示したものである。なお、いずれの場合も、基材の溶接部における厚みは0.7mmであるから、適切なナゲット径dは3.8mm以上となる。
【0045】
Ni粉を含まないNo.10では、6kA以上8kA未満の範囲において、チリや溶着が発生することなく適切なナゲット径を有するスポット溶接が達成されている。これに対し、Ni粉を含むNo.17では、適切なナゲット径を形成するための溶接電流に到達する前に強度の溶着が発生してしまい、適正溶接電流範囲が存在しない。
【0046】
(3)媒体
媒体は、表面処理液として安定するもの、特に無機系バインダーが安定に溶解または分散しうるものであれば、限定されない。昨今の環境面の要請からは、水または水を主成分とする媒体が好ましく、必要に応じアルコールやその他添加剤を加えてもよい。
【0047】
(4)他の成分
本発明に係る表面処理液は、上記の無機系バインダーおよび金属顔料のほかに、潤滑剤、界面活性剤など他の成分を、性能を害さない程度に有していてもよい。これらは公知のものを適宜選ぶことができる。
【0048】
固形潤滑剤について例示すれば、グラファイトや二硫化モリブデンのような無機系潤滑剤が挙げられる。その含有量は、表面処理液から得られた保護被膜における無機系固形潤滑剤の全被膜固形分に対する含有量が5質量%以上20質量%以下とすることが好ましい。
【0049】
また、塗料の粘度調整のために珪酸塩(アルミニウム、マグネシウム、ナトリウムの単独あるいは2種以上の複合塩)クレー類(スメクタイト、ヘクトライト等)、酸化チタン、シリカも含んでもよい。
【0050】
3.熱処理用鋼材
本発明に係る熱処理用鋼材は、上記の保護被膜をその表面に備える。
保護被膜は、前述の無機系バインダー成分が成膜・架橋した中に、上記の(a)および(b)の金属顔料、さらに必要に応じて配合された上記の固体潤滑剤などが分散した態様となる。
【0051】
これらの金属顔料はその好適態様であっても上記のように30μm程度の粒径となりうるため、保護被膜は顔料がバインダー層に埋設された構造のみならず、顔料がバインダー相から突出した構造となる場合もある。本発明では、保護被膜断面から保護被膜を観察した際のバインダー部分の厚さを保護被膜の厚さとする。
【0052】
この規定に基づく保護被膜の厚さは、スケール発生の抑制という基本機能を果たす観点から3μm以上が好ましく、一方溶接性を考慮すると15μm以下が好ましい。したがって、保護被膜の厚さは4〜10μmとすることが特に好ましい。
【0053】
本発明に係る熱処理用鋼材は、適切な保護被膜を有するため、これを熱処理して得られる熱処理鋼材は、スポット溶接において十分な適正溶接電流範囲を確保することができる。このため、溶接工程の作業性に優れ、溶接不良が発生しにくい。
【0054】
4.熱処理用鋼材および熱処理鋼材の製造方法
本発明に係る熱処理用鋼材の製造方法は、鋼材、すなわち裸の鋼材またはめっき鋼材からなる基材に対してその表面に保護被膜を形成する保護被膜形成工程を備える。
【0055】
また、本発明に係る熱処理鋼材の製造方法は、上記の熱処理用鋼材の製造方法により得られた保護被膜を有する熱処理用鋼材に対して熱処理を行って熱処理鋼材とする熱処理工程を備える。
【0056】
(1)保護被膜形成工程
保護被膜が形成された熱処理用鋼材を得るためには、本発明に係る表面処理液を基材に接触させて基材の表面に本発明に係る表面処理液からなる液層を形成する接触工程と、この液層が形成された基材を乾燥させて液層に含まれる媒体を揮発させつつ保護被膜を形成する乾燥工程とを実施すればよい。
【0057】
接触工程の実施に先立って、あらかじめ攪拌等によって金属顔料を処理液中に均一に分散させておく。これにより、本発明の表面処理液であれば、比較的長期間にわたって表面処理液の分離・沈降が抑制でき、接触工程の作業中に強い循環をし続ける必要がない。また、接触工程に供される基材の表面をアルカリ等で洗浄してもよいし、被膜の密着性を向上させる等の目的で、基材に対してショットブラストなどの物理的処理や化成処理などの化学的な処理を施してもよい。
【0058】
接触工程の具体的な手段は任意である。スプレー、ロールコート、バーコート、浸漬等公知の方法でよい。接触条件(表面処理液の温度、接触時間など)も特に限定されない。液温は常温で構わない。本発明に係る表面処理液は反応型の処理液ではないため、接触時間は形成される保護皮膜にほとんど影響を与えない。
【0059】
乾燥工程では、接触工程を経てその表面に表面処理液からなる液層が形成された基材を乾燥させる。これにより基材の表面に保護被膜が形成される。表面処理液に含有される媒体が揮発して十分に乾燥すればよいので、いわゆる塗装鋼板製造時のような厳しい温度管理は必要ない。例えば、オーブンで150〜200℃程度に加熱して乾燥すればよい。
【0060】
熱処理用鋼材が鋼管である場合には、例えば、鋼板に表面処理液を塗布して保護被膜を形成した表面処理鋼板を用いて溶接鋼管とするのが簡便である。このように表面処理鋼板を溶接管とする場合は、溶接部は保護皮膜が不完全になるので、必要に応じ溶接部に改めて保護皮膜を形成してもよい。また皮膜形成前の鋼板を溶接管に製管してから、これを表面処理液中に浸漬する等により塗布する方法も考えられる。
【0061】
(2)熱処理工程
上記の保護被膜形成工程によりその表面に保護被膜が形成された熱処理用鋼材に対して熱処理を行い、熱処理鋼材とする。
【0062】
熱処理工程における加熱温度はその基材となる鋼材のAc点以上とし、Ac点以上の状態で所定の時間維持した後、冷却して焼き入れを行う。加熱温度は50℃/s以上であるのが好ましい。急速に昇温されることで生産性に有利であるのはもちろん、高温域にある時間が短くなることから、基材がめっき鋼材の場合は、めっき層と鋼との合金化がさほど進行せずめっき層に由来する層が残りやすく耐食性にとって有利である。後述の具体例で示すように、鋼管を長手方向に送りながら熱処理を行う場合、たとえば高周波誘導加熱が好適である。また、Ac点以上の状態にある時間は、求める機械的特性が得られる範囲でできるだけ短いのがよく。1秒以下であれば特に好ましい。熱間加工を行う場合、鋼材がAc点以上にある間に行う。冷却は、所定の焼入れ組織・性能が得られるように急速で行われる。
【0063】
(3)具体的な熱処理鋼材の製造方法の一例
以下に、本発明に係る製造方法を特許文献1に開示される加工法に適用した場合について説明する。なお、以降の説明では、熱処理用鋼材が、閉じた横断面形状を有する中空の部材の代表例である鋼管である場合を例にとって説明する。
【0064】
はじめに、この製造方法において使用される製造装置を説明する。図1は、特許文献1により開示された加工法に係る熱処理鋼材である鋼管10の製造装置11の構成を、模式的に示す説明図である。ただし、(曲げ)加工に係る構成は省略されている。
【0065】
この製造装置11は、送り装置12と、加熱装置13と、冷却装置14とを備える。これらの構成要素を説明する。
[送り装置12]
送り装置12は、鋼管10をその長手方向へ送ることができる装置であればよく、特定の装置には限定されない。
【0066】
図1に示す製造装置11では、送り装置12は、鋼管10の送り方向(図1中の白抜き矢印方向)の後端部に挿入して設置されるチャック18と、このチャック18を鋼管10の送り方向へ移動自在に支持する第1の産業用ロボット(図示しない)と、鋼管10の送り方向(図1中の白抜き矢印方向)の後端部に挿入して設置されるチャック19と、このチャック18を鋼管10の送り方向へ移動自在に支持する第2の産業用ロボット(図示しない)とにより、構成した。
【0067】
第1の産業用ロボット及び第2の産業用ロボットに替えて、二本のマニピュレータを有するいわゆる双腕型の産業用ロボットを用いてもよい。
また、第1の産業用ロボットに替えて、例えばボールネジ等の公知の送り装置を用いてもよい。この場合に屈曲部材を製造するためには、この送り装置と加熱装置13との間の鋼管10を送りながら所定の位置に位置決めするために、一対のローラ等からなる支持装置を配置することが望ましい。
送り装置12は、以上のように構成される。
【0068】
[加熱装置13]
加熱装置13は、送られる鋼管10から所定の距離だけ離間して、鋼管10の送り方向に関する第1の位置Aに配置されて、鋼管10を焼入れ可能温度域に加熱するための装置である。
【0069】
加熱装置13は、鋼管10を、鋼管10のAc点以上の温度に急速に加熱する能力を有し、そのような加熱装置10の一例として、この製造装置11では高周波加熱装置を備える。
【0070】
加熱装置13は、後述する冷却装置14と一体として、図示しない第3の産業用ロボットにより移動自在に支持される。
加熱装置13は、以上のように構成される。
【0071】
[冷却装置14]
冷却装置14は、第1の位置Aよりも鋼管10の送り方向の下流の第2の位置Bで鋼管に冷却媒体20(例えば冷却水)を吹き付けることにより、例えばAc点以上の温度に加熱された鋼管10を急速に冷却することによって、鋼管10を焼入れるための装置である。
【0072】
冷却装置14は、上述したように加熱装置13と一体として、図示しない第3の産業用ロボットにより移動自在に支持される。
冷却装置14は、以上のように構成される。
【0073】
以上の構成を備える製造装置11を用いて屈曲部材を製造するには、第1の産業用ロボットにより支持されるチャック18の位置と、第2の産業用ロボットにより支持されるチャック19の位置と、第3の産業用ロボットにより一体に支持される加熱装置13および冷却装置14の位置とを、三次元で連動させて制御すればよい。すなわち、加熱装置13により加熱されて変形抵抗が大幅に低下した部分21の両側の部分の位置を適宜制御することにより、所望の形状を有する屈曲部材を製造することができる。
【0074】
なお、第1の産業用ロボットに替えて、例えばボールネジ等の公知の送り装置を用いる場合には、上述したように、この送り装置と加熱装置13との間に、鋼管10を送りながら所定の位置に位置決めするための一対のローラ等からなる支持装置が配置されているので、第2の産業用ロボットにより支持されるチャック19の位置と、必要に応じて第3の産業用ロボットにより一体に支持される加熱装置13および冷却装置14の位置とを、三次元で連動させて制御すればよい。
【0075】
このようにして、本発明により、焼き入れがなされた熱処理鋼材、さらには所定の屈曲形状を有する熱処理鋼材である屈曲部材を、製造することができる。
本発明においては、この製造装置11に供される鋼管が上記の保護被膜形成工程を経た熱処理用鋼材であり、加熱装置13と冷却装置14とにより行われる加熱・冷却処理が、上記の熱処理工程に相当する。
【0076】
なお、上記の製造装置により製造される屈曲部材は、例えば、以下に例示する用途(i)〜(vii)に対して適用可能である。
(i)自動車のサスペンションのロアーアームやブレーキペダルといった自動車の強度部材、
(ii)自動車の各種レインフォース、ブレース等の補強部材、
(iii)バンパー、ドアインパクトビーム、サイドメンバー、サスペンションマウントメンバー、ピラー、サイドシル等の自動車の構造部材、
(iv)自転車や自動二輪車等のフレーム、クランク
(v)電車等の車輛の補強部材、台車部品(台車枠、各種梁等)
(vi)船体等のフレーム部品、補強部材、
(vii)家電製品の強度部材、補強部材または構造部材
【実施例】
【0077】
以下、実験例を用いて本発明をさらに説明する。なお、以下の実験例は、鋼管でなく鋼板を使用した実験であるが、鋼板を用いた場合も、焼入れの熱履歴としては同様であるから、同様の結果が得られる。
【0078】
1.表面処理液の調製
(1)バインダー
バインダーとして、株式会社日板研究所製セラミックコーティング剤(セラミカ;G90)を用いた。
【0079】
(2)各成分
前記バインダーに、以下の(a)〜(d)の各成分を調合して、表面処理液とした。
(a)酸化亜鉛粉:本荘ケミカル(株)製 酸化亜鉛1種。
(b)真鍮箔等:以下の真鍮箔(福田金属箔粉工業株式会社製)のいずれかを用いた。なお、いずれもその合金組成は、銅75質量%亜鉛25質量%合金であった。
No.7000:平均粒径5μm
No.700:平均粒径7μm
(c)耐高温酸化性金属粉:次のNi粉を用いた。
住友金属鉱山株式会社製、SNP-122E;平均粒径約1μm
(d)グラファイト:次の材料を用いた。
日本黒鉛工業株式会社製型番;AP(平均粒子径7μm)
【0080】
2.試験片の製作
次の方法で、試験片を製作した。
【0081】
まず、C:0.21質量%、Si:0.2質量%、Mn:1.3質量%、P:0.005質量%、S:0.001質量%、Cr:0.2質量%、B:0.0005質量%を含有する化学組成を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板(100×200mm、厚み1.6mm、めっき付着量:片面あたり約45g/m)をアルカリ脱脂したのち、表2の組成で配合、分散させた塗料サンプルをバーコーターにより厚み3から12μm狙いで両面塗布した。母材成分が同じのめっきなし鋼材の50×150mm、厚み1.6mmにも表3の配合で配合、分散させた塗料サンプルをバーコーターにより厚み3から12μm狙いで両面塗布した。
【0082】
塗布後の鋼板をオーブン中で150℃にて乾燥させて保護被膜を形成した。こうして得られた試験片の保護被膜の厚さは、試験片を樹脂埋め込みして研磨仕上げ、断面SEM観察によって計測した。こうして得られた試験片の保護被膜の厚さは、試験片を樹脂埋め込みして研磨仕上げ、断面SEM観察によって計測した。
【0083】
続いて、この保護被膜が形成された試験片40×200mmに調製して、鋼板の両端から電流を流すことにより抵抗発熱させる通電加熱法にて鋼板温度が950℃に到達後直ちに水冷した。このときの900℃までの加熱速度は平均100℃/sであり、鋼材がAc点以上の温度域にある時間は約1秒であった。このときの加熱雰囲気は大気雰囲気であった。以下、この処理を「模擬熱処理」という。
【0084】
3.評価試験方法
(1)耐表面剥離性
模擬熱処理後の試験片における保護被膜が形成されていた面にセロテープ(登録商標、ニチバン(株)製)を貼り付け、ほぼ垂直に引き剥がして、テープに付着した剥離部(保護被膜に由来する剥離物とめっき鋼材に由来する酸化物と剥離物は区別しない。)の面積を測定し、その剥離試験した面積に対する比率(剥離面積率)を求めて次の基準で評価した。
【0085】
○(合格):0%(剥離なし)
×(不合格):0%超(剥離あり)
【0086】
(2)塗装密着性
模擬熱処理後の試験片における保護被膜が形成されていた面に対して公知の化成処理液(日本パーカライジング株式会社製 表面調整処理剤PL−Z、同社製 リン酸亜鉛処理液PBL3080)を用い、その化成処理条件により燐酸亜鉛処理を行ったのち、上村工業(株)製電着塗料(ニューペイトンブラックE FU−NPB)を電圧200Vのスロープ通電で電着塗装し、焼き付け温度170℃で25分焼き付け塗装した。
【0087】
塗装面にカッターナイフで素地に達する切り込みを1mm間隔で縦横11本入れ、10mm×10mmの正方形の領域に100マスを形成した。続いて、ポリエステル製テープ(ニチバン(株)製)を用いて剥離試験を行い、剥離したマス数で評価した。
【0088】
○:0〜5個
△:6〜30個
×:31〜100個
○が合格であり、△および×は不合格とした。
【0089】
(3)スポット溶接性
模擬熱処理後の試験片を0.7mmの冷延鋼板にスポット溶接する際の性能を評価した。このとき試験片の保護被膜が形成されていた面を冷延鋼板に重ねた。溶接機(単層交流定置型スポット溶接機)にて、電極はDR型Φ6R40を使用した。加圧力は200kgfとし、通電条件は、
スクイズ;60cycle−波頭0cy−溶接電流12cy−保持10cy
とした。溶接電流は5kAから0.2kAピッチで増加させて、各溶接電流での溶接においてチリが発生したか否か、および溶接後に溶着が発生しているか否かの観点での判定を行うとともに、および試験片におけるナゲット径を測定することにより、その溶接電流が溶接適正電流範囲に属するか否かを判定した。なお、この場合の「溶着」とは、上側にある溶接電極のみを持ち上げると、溶接部材が溶接電極に付着して持ち上がる程度かそれ以上の溶着をいう。また、ナゲット径d(mm)が、
d ≧ 4.5×t1/2
を満たす場合を、適正なナゲット径が形成されることとした。ここで、t(mm)は、基材の溶接部における厚さであり、本実施例では冷延鋼板の厚さ0.7mmを採用した。したがって適正なナゲット径dは3.8mm以上である。
この判定結果に基づき、溶接適正電流範囲を求め、次の判断基準で溶接性を評価した。
【0090】
◎:溶接適正電流範囲が0.5kA以上
○:溶接適正電流範囲が0.5kA以下
×:溶接適正電流範囲が存在しなかった
◎および○が合格であり、×は不合格とした。
【0091】
4.評価結果
各試験片について上記の評価を行った結果を表2および表3に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
表2に示されるように、耐高温酸化性金属粉であるNi粉を含有させると、適正溶接電流範囲を0.5kA以上に確保することが困難となる。
なお、参考例に係る保護被膜が形成されていない試験番号1の試験片は、今回の評価においては良好な結果となったが、前述したように耐食性に劣っている可能性がある。この点を確認するために次の実験を行った。
【0095】
No.1(参考例)ならびにNo.10および11(いずれも本発明例)と同じ方法で準備した試験片に対して、上記の塗装密着性の評価において行った方法で化成処理および電着塗装を行った。これらの試験片に対して長さ30mmのクロスカットを施し、このクロスカットを有する試験片に対してJISに規定される複合腐食試験(JASO試験)を180サイクル実施した。具体的には、この複合腐食試験(JASO M609−91法)では、下記(1)〜(3)を1サイクルとして、180回繰返した。
【0096】
(1)塩水噴霧:2時間(5%NaCl、35℃)、
(2)乾燥:4時間(60℃)、および
(3)湿潤:2時間(50℃、相対湿度95%以上)。
【0097】
腐食試験後の試験片におけるクロスカット部の最大腐食深さを測定した。その結果を表4に示す。
本発明に係る表面処理がなされたNo.10および11材は無処理のNo.1材に比較して腐食深さは小さかった。No.10および11材は、保護被膜による亜鉛めっきの酸化防止効果により耐食性が良好となったものと推定される。
【0098】
【表4】

【符号の説明】
【0099】
10 焼入れ部材
11 本発明に係る製造装置
12 送り装置
13 加熱装置
14 冷却装置
15 スケール生成防止ガス供給系
15a 供給ポンプ
15b 供給ノズル
16 漏洩抑制部材
17 内部スケール生成防止ガス供給系
18 チャック
18a 流路
19 チャック
19a 流路
20 冷却媒体
21 部分
22 周囲の空間
A 第1の位置
B 第2の位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系バインダーと金属顔料とを媒体中に含有する熱処理用鋼材の表面処理液であって、
前記金属顔料は、
当該金属顔料と前記無機系バインダーの固形分との合計量に対し、酸化亜鉛粉を5質量%以上20質量%以下、ならびに銅箔および真鍮箔から選ばれる一種または二種の金属箔を10質量%以上25質量%以下含有し、耐高温酸化性金属粉を含有しないことを特徴とする表面処理液。
【請求項2】
さらに、無機系固形潤滑剤を、表面処理液から得られた被膜における該無機系固形潤滑剤の全被膜固形分に対する含有量が5質量%以上20質量%以下となるように含有する、請求項1の表面処理液。
【請求項3】
請求項1または2に記載される表面処理液を基材に接触させて該基材の表面に該表面処理液からなる液層を形成する接触工程と、
前記接触工程を経てその表面に表面処理液からなる液層が形成された基材を乾燥させて、該基材の表面に保護被膜を形成する乾燥工程とを備える
ことを特徴とする熱処理用鋼材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載される製造方法により製造された熱処理用鋼材をAc点以上の温度に加熱した後、冷却して焼き入れを行う熱処理工程を備えることを特徴とする、熱処理鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理用鋼材をAc点以上の温度にする加熱が100℃/秒の昇温速度で行われ、加熱された前記熱処理用鋼材がAc点以上の温度に保持される時間が1秒間以内である、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記Ac点以上の温度に加熱された熱処理用鋼材に対して焼き入れのための冷却がなされる前に該熱処理用鋼材の形状加工を行う、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理用鋼材をその長手方向へ送りながら、送られる該熱処理用鋼材から離間して第1の位置に配置される加熱装置により前記熱処理用鋼材をAc点以上の温度まで加熱し、前記第1の位置よりも前記熱処理用鋼材の送り方向の下流の第2の位置に配置される冷却装置により前記熱処理用鋼材に冷却媒体を吹き付けることにより該熱処理用鋼材を焼入れて熱処理鋼材とする請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
前記第1の位置においてAc点以上の温度まで加熱されたことにより変形抵抗が低下した前記熱処理用鋼材を変形させることで形状加工がなされた熱処理鋼材を得る請求項7記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−157577(P2011−157577A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18989(P2010−18989)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】