説明

熱処理装置

【課題】巨大出力の原動機を用いることなく、攪拌ファンを高速回転駆動して熱処理対象物を好適にガス冷却できる熱処理装置を提供する。
【解決手段】熱処理対象物が搬入される冷却室と、充填された冷却ガスを吸引し吐出することで攪拌するファン5と、ファン軸に回転駆動力を供給する複数個の原動機91、92、93とを具備する熱処理装置を構成した。一個の大出力原動機を以てファンを回転駆動するのではなく、複数個の原動機91、92、93が各々出力する駆動力を同一のファン軸に伝達してファン5を回転駆動することにより、比較的容易に入手できる現実的な出力の原動機91、92、93を組み合わせてファン5を高速回転させ、冷却室内を流動する冷却ガスの流速を高めることが可能になる。室内を流動するガスの流速が十分に高まれば、熱処理対象物の凹形状部分にも冷却ガスの風が当たりやすくなり、熱処理対象物全体の温度降下の均一化に資する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理対象物を焼き入れ処理等するための熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金型等の鉄鋼製品や部品、材料を熱処理する装置として、真空熱処理炉が公知である。この種の熱処理炉では、炉内を真空引きした状態で熱処理対象物を所定時間加熱した後、低温の不活性冷却ガスを充填してファンで攪拌しながら急冷処理することが通例となっている。
【0003】
焼き入れ処理において、熱処理対象物の全体を均等に冷却できないと、各部の焼き入れ結果に差が出る。即ち、各部位のオーステナイト組織からマルテンサイト組織への変態の時間差による膨張の時間差が発生し、伸び、反り、曲がり等の焼き入れ変形を引き起こす。極端な場合には、焼き割れにまで発展する。質量の差の大きい凹凸形状、シャープエッジを持つ形状、直径の異なる多数の孔のある形状の熱処理対象物の冷却処理においては、冷却ガスが抵抗の少ない流れやすい方向、場所に多く流れるので、部位によって膨張の時間遅れが発生し、焼き入れ変形の原因となる。
【0004】
近時では、複雑な形状の対象物をガス冷却するにあたり、炉内に注入する冷却ガスの圧力を1MPaないし3MPaの超高圧に引き上げることで、熱処理対象物全体の温度降下を均一化しようと図っている。しかしながら、莫大な量のガスを消費することになるし、炉胴の耐圧性能の向上も必須となる。これらランニングコスト及び設備コストの増大は、熱処理コストの高騰に直結する。加えて、超高圧雰囲気中でファンを回転駆動できるほどの巨大出力を発揮する原動機を用いなければならないという問題もある。
【0005】
出願人は、ファンの駆動源として大出力のディーゼルエンジンを採択し、ガス冷却処理を実施している(下記特許文献を参照)。このものは、常に大形の熱処理対象物を処理するような専用的な用途に威力を発揮している。だが、熱処理を施すべき対象物の大きさや個数は毎度異なる。例えば、50kgの八個の対象物を処理するケースと、400kgの一個の対象物を処理するケースとでは、必要な冷却ガス圧力、ファン出力が異なってくる。大出力エンジンを用いてファンを駆動する現用炉は、小物を比較的少量処理するためには非効率であり、多様な対象物に対応する汎用性、多目的性の面では課題がある。
【0006】
一方で、熱処理対象物の一である大形金型は、今後とも工業製品製造上の重要なツールであり、その熱処理技術及び設備を疎かにすることはできない。とは言え、大形熱処理設備に必須の大出力原動機の調達は困難さを増しており、その運用上の制約も多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3125138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上に鑑みてなされた本発明は、巨大出力の原動機を用いることなしに、攪拌ファンを高速回転駆動して熱処理対象物を好適にガス冷却できる熱処理装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、今後の世界的趨勢として益々その重要性が予見される、大形精密金型等に対する信頼性の高い熱処理を、コストや危険性の増長を回避しつつ実現する画期的な冷却設備並びに冷却プロセスを提供する。
【0010】
本発明に係る熱処理装置は、熱処理対象物を加熱後、冷却用のガスを吹き当てて冷却(主として焼き入れ)するものであり、基本構成として、熱処理対象物が搬入される冷却室と、充填された冷却ガスを吸引し吐出することで攪拌するファンと、ファン軸に回転駆動力を供給する複数個の原動機とを具備する。
【0011】
即ち、一個の大出力原動機を以てファンを回転駆動するのではなく、複数個の原動機が各々出力する駆動力を同一のファン軸に伝達してファンを回転駆動するようにしたのである。本発明によれば、比較的容易に入手できる現実的な出力の原動機を複数個組み合わせて全体で大出力を達成でき、攪拌ファンを高速で回転させて冷却室内を流動する冷却ガスの流速(風速)を効果的に高めることが可能となる。室内に導入するガスを超高圧化(多量化)せずとも、室内を流動するガスの流速を十分に高められれば、熱処理対象物の凹形状部分にも冷却ガスの風が当たりやすくなり、熱処理対象物全体の温度降下を均一化させることができる。
【0012】
鉄鋼金型等の焼き入れ処理では、鉄鋼金型等を940℃ないし1050℃まで加熱し、これをMs点(マルテンサイト生成温度)付近まで急速冷却し、しかる後緩やかに冷ます。急冷期間においては、ファンの回転速度ひいては冷却ガスの流速をできるだけ高める必要があり、ファン軸に供給される回転駆動力も大きいことが望ましい。他方、緩冷期間においては、先の急冷期間ほどには冷却ガスの流速が必要でなく、ファン軸に供給される回転駆動力も小さくてよい。熱処理装置が、前記複数個の原動機のうちの一部のみを駆動力供給源として運転している状態と、全部を駆動力供給源として運転している状態とを選択的にとり得るものであれば、急冷期間において全部の原動機を運転し、緩冷期間において一部の原動機を運転するようにして、所望の冶金的効果を獲得しながら原動機の消費エネルギを抑制することが可能となる。また、小形の熱処理対象物を処理するケースでも、一部の原動機のみを運転して必要なファン出力を確保できるので、効率的となる。
【0013】
前記複数個の原動機はそれぞれ電動モータとすることが好ましい。原動機として、バッテリモータを採用してもよい。原動機を運転しファンを駆動する時間は、一日のうちでせいぜい一時間ないし二時間であり、熱処理対象物を加熱する時間と比べれば数%ないし十数%と随分短い。バッテリモータを用いる場合には、電力需要の比較的少ない夜間等にバッテリを充電することができ、電力負荷平準化に資する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、巨大出力の原動機を用いることなく、攪拌ファンを強力かつ高速回転駆動して熱処理対象物を好適にガス冷却できる熱処理装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態における熱処理装置を示す側断面図。
【図2】同実施形態の熱処理装置を示す正断面図。
【図3】同実施形態における攪拌ファン及びファンの駆動源となる原動機を示す部分平面図。
【図4】図3に対応したスケルトン図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。本実施形態の熱処理装置は、真空状態で熱処理対象物を加熱した後、冷却用のガスを充填し攪拌して急冷処理する真空熱処理炉である。
【0017】
はじめに、ファン5の駆動源を除く、本熱処理装置の基本構成を述べる。図1及び図2に示すように、本熱処理装置は、熱処理対象物を加熱する加熱室2が、熱処理対象物を冷却する冷却室を兼ねている一室型のものである。具体的には、熱処理装置の外殻となる炉胴1内に略箱体状または略円筒状をなす処理室筐体2を配し、この処理室筐体2により炉胴1内の一部空間を加熱室及び冷却室として区画している。
【0018】
炉胴1には、真空排気系3、ガス導入系4、ファン5及び熱交換器6を設けている。真空排気系3は、炉胴1内を真空排気するものであり、例えば拡散ポンプ、メカニカルブースタポンプや油回転真空ポンプ等を直列に連結してなる。ガス導入系4は、熱処理対象物をガス冷却するための冷却ガス、例えばN2等の不活性ガスをガスボンベから炉胴1内に送り込むものである。真空排気系3、ガス導入系4はそれぞれ、バルブを介して断接切替可能に炉胴1に接続する。
【0019】
冷却ガスを攪拌するファン5は、炉胴1内に充填された冷却ガスをスラスト方向に吸引しラジアル方向に送風するターボファンである。ファン5は、炉胴1の後端側に存在し、そのファン軸を炉胴1を貫通して外方に突出させている。ファン軸が炉胴1を貫通する部位には、真空シールを施す。熱交換器6は、ファン5の直近にあって、ファン5に吸引される冷却ガスを冷ます。
【0020】
炉胴1の前端側は熱処理対象物の搬出入口とし、その搬出入口に開閉扉11を設けてある。
【0021】
処理室2は、耐熱用のグラファイト材、断熱材により囲まれている。処理室2は、前端側が開閉扉11に追従して開閉可能な蓋21、後端側が開閉不能の隔壁22となっている。そして、その室2内にヒータ7を設置している。ヒータ7は、熱処理対象物を所要温度に加熱可能な例えばグラファイトヒータ等であって、処理室2内に搬入された熱処理対象物を取り巻く位置に配置する。
【0022】
処理室2の上下壁には、処理室2内にある熱処理対象物に冷却ガスを吹き当てる吹出口として、多数のノズル23を設けている。また、処理室2の前後の隔壁22及び蓋21には、熱処理対象物から熱量を奪い昇温した冷却ガスを吸出す還流口24を設けている。還流口24は、幅方向に長尺なスロット孔である。
【0023】
処理室2の周囲(図示例では、開閉扉11を含む炉胴1)には、冷却液を流通させる冷却液ジャケット12を付設している。冷却水ジャケット12は、加熱時に処理室2から発される輻射熱等を吸収するとともに、ガス冷却時に冷却ガスの摩擦に伴う昇温を抑制する。
【0024】
処理室2の外周と炉胴1の内周との間には間隙が介在しており、この間隙に冷却ガスの流路が設定される。即ち、回転するファン5から吐出された冷却ガスは、処理室2の上下壁と炉胴1との間を通過し、上下のノズル23を介して処理室2内に吹出す。処理室2内に吹出した冷却ガスは、複数方向(図示例では、前後)の還流口24を介して処理室2外に吸い出される。隔壁22に設けた(後端側の)還流口24を経由する冷却ガスは、そのまま熱交換器6を通過してファン5に吸い込まれる。蓋21に設けた(前端側の)還流口24を経由する冷却ガスは、処理室2の左右側壁と炉胴1との間を通過して熱交換器6近傍に至り、ファン5に吸い込まれる。
【0025】
しかして、冷却ガスの還流口24に、その開度を調節する調節機構8を付帯させている。調節機構8は、昇降動作を通じて還流口24を開閉するシャッタ81と、シャッタ81を駆動するアクチュエータ82とを要素とする。この調節機構8は、還流口24の開口面積(の総和)を前記吹出口23の開口面積(の総和)以下に絞ることができる。つまり、還流口24の開口面積が吹出口23の開口面積よりも大の状態と、吹出口23の開口面積よりも小の状態とを選択的にとり得る。シャッタ81を上昇させて還流口24を全開したとき、複数の還流口24の開口面積の総和は、複数のノズル23の開口面積の総和の300%(ないし200%)となる。シャッタ81を下降させれば、還流口24の開度を絞ることができる。限界まで絞ったときには、複数の還流口24の開口面積の総和が、複数のノズル23の開口面積の総和の10%(ないし20%、ないし30%)となる。
【0026】
この開度調節機構8の機能により、熱処理対象物の形状、単体質量、部位による質量の差異の状況等に対応した冷却ガスの挙動、即ち熱処理対象物に吹き当てるガス量、ガス流速、ガス圧力、ガス流方向等を一定限度内で制御できる。
【0027】
続いて、ファン5の駆動源について述べる。図3及び図4に示すように、本熱処理装置では、炉外に設置した複数個の原動機91、92、93をファン軸に機械的に接続せしめ、各原動機91、92、93が出力する回転駆動力を同ファン軸に供給してファン5を回転駆動する。原動機91、92、93は、炉胴1とは別に構築した架台に載置して支持させる。各原動機91、92、93は、それぞれ電動モータとする。電動モータ91、92、93としては、例えば自動車用のバッテリモータを採用することができる。原動機91、92、93の電源とヒータの電源とは、別系統とする。各原動機91、92、93の出力の総和は、ヒータ7に給電する電源出力の数倍の大きさに達し得る。
【0028】
図3及び図4には、三個の原動機91、92、93を示している。これは、駆動源となる原動機の個数が三個に限定されることを意味するものではなく、二個の原動機を使用、または四個以上の原動機を使用してファン5を駆動することも当然に可能である。各原動機91、92、93の出力軸は、ファン軸を中心として略対称に位置する。原動機を三個以上用いる場合にあっては、各原動機の出力軸を、ファン軸の周囲に、その軸心周りに略等角度間隔で配置することができる。
【0029】
原動機91の出力軸は、断接切換可能なクラッチ(液圧クラッチ、電磁クラッチ等)911を介して、歯車912に接続する。この歯車912は、直接にまたは他の機械要素を介して間接に、ファン軸に取り付けた歯車51に噛合する。原動機92の出力軸は、断接切換可能なクラッチ921を介して、歯車922に接続する。この歯車922は、直接にまたは他の機械要素を介して間接に、ファン軸に取り付けた歯車51に噛合する。そして、原動機93の出力軸もまた、断接切換可能なクラッチ931を介して、歯車932に接続する。この歯車932は、直接にまたは他の機械要素を介して間接に、ファン軸に取り付けた歯車51に噛合する。
【0030】
本熱処理装置によるガス冷却(焼き入れ)処理のプロセスの一例を示す。熱処理対象物を処理室2の内に搬入し、蓋21及び開閉扉11を閉止して真空排気し、ヒータ7に通電して熱処理対象物を加熱する。加熱完了後、ヒータ7への通電を遮断するとともに、クラッチ911をつないで原動機91が出力する回転駆動力をファン軸に伝達しファン5を回転させる。真空中のファン起動であるから負荷が小さく、ファン5の回転速度は直ちに所要の回転数に達する。故に、ファン起動時に全ての原動機91、92、93を運転する必要はない。運転しない原動機92、93とファン軸との間のクラッチ921、931は、切り離しておく。
【0031】
次に、ガス導入系4より炉胴1内に冷却ガスを導入、充填し、これをファン5で攪拌して循環させながら熱処理対象物を急冷する。ガス冷却は、複数段階に分けて行うことができる。例えば、冷却ガス圧力が比較的低圧の状況下で所定温度まで冷却する第一段階では、全ての原動機91、92、93は運転せず、一部の原動機91、92のクラッチ911、921をつないでこれら原動機91、92からの回転駆動力をファン5に伝達する。その後、冷却ガスを追加注入してガス圧力を高めた状況下で急冷する第二段階では、全ての原動機91、92、93のクラッチ911、921、931をつないで全原動機91、92、93からの回転駆動力をファン5に伝達する。
【0032】
あるいは、熱処理対象物の形状、寸法、質量、個数や総重量等に応じ、適宜量だけ処理室2の還流口24の開度を調節するようにしてもよい。例えば、各部の質量の差が大きい、または冷却ガスが当たりにくい凹穴や孔を有する熱処理対象物の冷却処理では、温度降下が早い部位、即ち冷却ガスの流れが当たりやすい部位や質量の小さい部位の温度を(炉胴1に設けた観測窓を介しての輻射測温法、火色の目測判定、または検体による直接測温法等を以て)捕捉し、当該部位がMs点に近づくまでの間は、還流口24の開度を比較的大きく開くとともに全原動機91、92、93を使用してファン5を高速回転駆動し、処理室2内を流動する冷却ガスの流速を高く保つ。当該部位の温度がMs点近くまで低下した暁には、一部の原動機93(及び/または、92)とファン軸との間にあるクラッチ931(及び/または、921)を切り離し、原動機93(及び/または、92)の運転を停止する。同時に、還流口24の開度を絞り込む。すると、冷却ガスの流速が落ちるとともに、処理室2内のみガス圧力が増圧されるので、温度降下が早い部位の冷却が遅れ、温度降下が遅い部位の冷却がこれに追いつく。ひいては、対象物全体の温度降下が略均一となる。このようにして、比較的質量の小さい部位、大きい部位共々マルテンサイト変態を行わせる。
【0033】
冷却が完了したら、全原動機91、92、93の運転を停止する。そして、炉胴1内を大気圧まで下げ、熱処理対象物を搬出する。
【0034】
本実施形態によれば、熱処理対象物が搬入される処理室(冷却室)2と、充填された冷却ガスを吸引し吐出することで攪拌するファン5と、ファン軸に回転駆動力を供給する複数個の原動機91、92、93とを具備する熱処理装置を構成したため、比較的容易に入手できる現実的な出力の原動機91、92、93を複数個組み合わせて攪拌ファン5を高速で回転させ、冷却室内を流動する冷却ガスの流速を効果的に高めることが可能である。処理室2内に導入するガスを超高圧化(多量化)せずとも、処理室2内を流動するガスの流速を十分に高められるので、熱処理対象物の凹形状部分にも冷却ガスの風が当たりやすくなり、熱処理対象物全体の温度降下を均一化せしめることができる。
【0035】
熱処理装置が、前記複数個の原動機91、92、93のうちの一部のみを駆動力供給源として運転している状態と、全部を駆動力供給源として運転している状態とを選択的にとり得るものであることから、急冷期間において全部の原動機91、92、93を運転し、緩冷期間において一部の原動機91(及び/または、92)を運転するようにして、所望の冶金的効果を獲得しながら原動機91、92、93の消費エネルギを抑制することが可能となる。小形の熱処理対象物を処理するケースでも、一部の原動機91(及び/または、92)のみを運転して必要なファン出力を確保できるので、効率的となる。
【0036】
前記複数個の原動機91、92、93がそれぞれ電動モータであるため、エンジンを採用する場合と比して速度制御その他の取り扱いが容易となる。さらに、原動機91、92、93がバッテリモータであれば、電力需要の比較的少ない夜間等にバッテリを充電して運用することができ、電力負荷平準化に資する。通常のモータである場合には、大掛かりな送受電設備も不要となり、合理化される。
【0037】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。列挙すると、原動機とファン軸との間に介在する駆動力伝達機構は、図4に示しているような態様のものには限定されない。差動歯車または遊星歯車を用いて各原動機の出力軸をファン軸に接続するようにしてもよいし、巻掛伝動機構を用いて各原動機の出力軸をファン軸に接続するようにしてもよい。
【0038】
各原動機の出力軸同士を、巻掛伝動機構(タイミングベルトまたはチェーン)等を介して回転同期させるようにしても構わない。
【0039】
全部の原動機が電動モータであるとも限られない。一部を電動モータとし、残りを実用的な小形のディーゼルエンジンやタービンエンジン等の熱機関としてもよい。あるいは、全部の原動機を熱機関としてもよい。
【0040】
上記実施形態では、一つの還流口に対して一枚のシャッタを設けていたが、一つの還流口に対して複数枚のシャッタを設けてもよい。例えば、互いに独立に昇降動作可能なシャッタを上下に対向配置すれば、還流口の開度のみならず、還流口の開通部分の高さ位置をも調節できるようになる。
【0041】
上記実施形態では、処理室筐体に設けた還流口の開度を調節機構により調節するようにしていたが、処理室筐体には常に全開したガスの流出口を設けておき、その流出口とファンとの間に開度調節機構を伴う還流口を別途設ける態様もとり得る。
【0042】
熱処理対象物の冷却に使用するガスは、N2等の不活性ガスに限定されない。空気等であってもよい。
【0043】
処理室筐体が断熱材でない場合、その室外、筐体の周囲にヒータを設置することができる。筐体外にヒータを設置する場合、炉胴に断熱材を実装する。
【0044】
また、上記実施形態では加熱室が冷却室を兼ねる一室型の熱処理装置としていたが、加熱室と冷却室とを別々に設けた二室型の熱処理装置としてもよい。
【0045】
さらには、ヒータを設置せず、加熱した熱処理対象物を搬入して冷却する冷却処理専用の装置としても構わない。
【0046】
その他各部の具体的構成は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、金型等の鉄鋼製品や部品、材料を熱処理する装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
2…冷却室
23…吹出口
24…還流口
5…ファン
8…調節機構
91、92、93…原動機
921、922、932…クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却用のガスを充填して熱処理対象物を冷却する熱処理装置であって、
熱処理対象物が搬入される冷却室と、
充填された冷却ガスを吸引し吐出することで攪拌するファンと、
ファン軸に回転駆動力を供給する複数個の原動機と
を具備する熱処理装置。
【請求項2】
前記複数個の原動機のうちの一部のみを駆動力供給源として運転している状態と、全部を駆動力供給源として運転している状態とを選択的にとり得る請求項1記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記複数個の原動機がそれぞれ電動モータである請求項1または2記載の熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−127214(P2011−127214A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289367(P2009−289367)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(598171830)エジソンハード株式会社 (6)
【Fターム(参考)】