説明

熱処理設備

【課題】同種若しくは異種の処理チャンバを多数設けることが可能であって、生産量の増減に対しても簡単に対応することができ、またヒートパターンの異なる熱処理を同時に進行可能であって、多品種少量生産の要請に対しても柔軟に対応することのできる熱処理設備を提供する。
【解決手段】一連の熱処理工程の一部分を受け持つ同種若しくは異種の処理チャンバ10A,10B,12を複数設けて、被処理品Wを各処理チャンバ10A,10B,12間で搬送して一連の熱処理を完結するようになした熱処理設備において、搬送ユニット14を各処理チャンバ10A,10B,12と分離して独立に構成し、搬送ユニット14全体を走行させて各処理チャンバ10A,10B,12との間で被処理品Wを搬送するようになす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は熱処理設備に関し、詳しくは複数の処理チャンバと被処理品を搬送する搬送ユニットとを備えた熱処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浸炭焼入れ設備等の熱処理設備としては、1つの炉の中に複数の処理室を形成し、入口から挿入した被処理品を次々と各処理室に通して連続的に処理を行って行く連続炉形式の熱処理設備と、熱処理工程の一部を実行するための炉を独立したバッチ炉として設け、バッチ炉毎に熱処理の工程を実行するバッチ炉式の熱処理設備とが用いられている。
【0003】
前者の連続炉形式の熱処理設備は生産性は良好であるものの、昇温,降温等のヒートパターン,処理パターンが同一であって、近年の多品種少量生産の要請に対して柔軟に対応することができない問題がある。
【0004】
他方後者のバッチ炉式の熱処理設備では処理の効率が低く、生産性が悪いといった問題がある。
このような状況の中にあって、複数の処理チャンバと搬送ユニットとを有し、被処理品を各処理チャンバと搬送ユニットとの間で受け渡ししながら、熱処理の工程を次々と実行して行くようになした熱処理設備が提案されている。
【0005】
例えば下記特許文献1,特許文献2にこの種の熱処理設備が開示されている。
この熱処理設備の場合、一部の処理チャンバを休止したり稼動したりすることで生産量の変動に対し柔軟に対応することができ、また複数の処理チャンバの内、適宜のものを選択して熱処理工程の一部を実行させることにより、被処理品を異なったヒートパターンで熱処理することができ、多品種少量生産の要請に柔軟に対応できる利点が得られる。
【0006】
更にまた、従来のバッチ炉式の熱処理設備ではバッチ炉間の被処理品の搬送時に被処理品が大気に曝されるといった問題があるが、特許文献1,特許文献2に開示の熱処理設備では、各処理チャンバ及び搬送ユニットを気密連結構造とすることによって、被処理品を搬送の過程で大気に曝すことなく移送できる利点が得られる。
【0007】
しかしながらこれら特許文献に開示の熱処理設備において、複数の処理チャンバと搬送ユニットとは単に扉で仕切られているだけで構造的には一体構造であり、また搬送ユニットはそれら処理チャンバとの関係において固定状態に設けられているため、処理チャンバを必要に応じて増設するといったことが難しく、設備の拡張には限界がある問題がある。
【0008】
また搬送ユニットが一の処理設備から被処理品を受け取って他の処理チャンバに受け渡すための所要時間が長くかかり、この間に被処理品の温度が大きく低下してしまったり、また温度の低下の程度が被処理品そのものの温度や形状等の条件によって異なってしまい、このことが熱処理品質のばらつきを生ぜしめる原因になるといった問題がある。
【0009】
例えば被処理品を焼入れ処理する場合、被処理品が焼入れを行うチャンバに搬送された時点で、当初設定してある焼入れ温度を下回っていると、焼入れ後の硬さ不足が生じるなど焼入れ不良が発生し、焼入れの品質を低下させてしまう。
而して被処理品の温度の低下の幅は、搬送ユニットによる搬送時間,被処理品の形状,温度等によって異なるものであってその制御は非常に困難であり、このことが熱処理品質のばらつきを生む原因となっていた。
【0010】
【特許文献1】特開2002−294429号公報
【特許文献2】特開平8−178535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は以上のような事情を背景とし、同種若しくは異種の処理チャンバを多数設けることが可能であって、生産量の増減に対して簡単に対応することができ、またヒートパターンの異なる熱処理を同時に進行可能であって、多品種少量生産の要請に対しても柔軟に対応することのできる熱処理設備を提供することを目的としてなされたものである。
また本発明の別の目的は、搬送ユニットにより処理チャンバから処理チャンバへの被処理品を搬送する間に被処理品の温度が低下し、更にまたその温度の低下が被処理品の温度その他の条件によって様々にばらつく問題を解決して、安定且つ良好な品質で熱処理を行うことのできる熱処理設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
而して請求項1のものは、一連の熱処理工程の一部分を受け持つ同種若しくは異種の処理チャンバを複数有し、被処理品を全ての若しくは一部の処理チャンバ間で搬送ユニットにより搬送して一連の熱処理を完結するようになした熱処理設備において、前記搬送ユニットを前記処理チャンバと分離して独立に構成し、該搬送ユニット全体を走行させて、前記処理チャンバとの間で前記被処理品を受け渡しするようになしてあることを特徴とする。
【0013】
請求項2のものは、請求項1において、前記搬送ユニットは前記被処理品を保温する保温チャンバと、前記処理チャンバとの間及び該保温チャンバとの間で該被処理品を受け渡しする受渡チャンバとを有する少なくとも2室構造をなしていることを特徴とする。
【0014】
請求項3のものは、請求項2において、前記保温チャンバは断熱材と該断熱材にて囲まれた空間内に前記被処理品を加熱することにより保温するためのヒータとを備えており、また前記受渡チャンバには該被処理品を受け渡しするための受渡機構が備えてあることを特徴とする。
【0015】
請求項4のものは、請求項2,3の何れかにおいて、前記搬送ユニットには、前記被処理品の受渡しの際に前記受渡チャンバを前記処理チャンバに対向させた位置で該処理チャンバに向けて微小ストローク前進させて該処理チャンバとドッキングさせ、また受渡し後に該受渡チャンバを該処理チャンバから後退させて離間させる進退移動手段が備えてあることを特徴とする。
【0016】
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、前記複数の処理チャンバは、前記被処理品を前記搬送ユニットとの間で受け渡しするための開口部を同一方向に向けて該受渡方向と直角方向に直線状に配列されており、前記搬送ユニットは該被処理品の受渡用の開口部が該処理チャンバの開口部と対向する向きに設けられていて、該処理チャンバの配列方向に沿って走行するものとなしてあることを特徴とする。
【0017】
請求項6のものは、請求項1〜5の何れかにおいて、前記処理チャンバの全部又は一部及び前記搬送ユニットが真空排気手段を有していることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0018】
以上のように本発明は、複数の処理チャンバと搬送ユニットとを備えてなる熱処理設備において、その搬送ユニットを処理チャンバと分離して独立に構成し、搬送ユニット全体を走行させて処理チャンバとの間で被処理品を受け渡すようになしたもので、本発明の熱処理設備では、搬送ユニットが上記の特許文献1,特許文献2のように処理チャンバとの関係において固定ではなく、その全体が独立して移動可能であるため、同種若しくは異種の処理チャンバを自由に増設して、それら多数の処理チャンバ間で搬送ユニットにより被処理品を搬送することが可能となる。
【0019】
従って本発明の熱処理設備によれば生産量の増減に対して容易に対応することができ、また様々にヒートパターンの異なる熱処理を同一の熱処理設備を用いて容易に実施することができ、多品種少量生産の要請に対しても容易に対応することができるとともに、本発明の熱処理設備では処理チャンバを多数持つことが可能であるため、同時生産可能な品種の種類も多くなる利点も得られる。
【0020】
ここで上記搬送ユニットは、被処理品を保温する保温チャンバと、受渡しチャンバとを有する少なくとも2室構造となしておくことができる(請求項2)。
このようにしておけば、被処理品を一の処理チャンバから他の処理チャンバへと搬送する間に被処理品が温度低下するのを防止することができ、従って安定した品質で被処理品を熱処理することが可能となる。
この場合、その保温チャンバには断熱材とその断熱材にて囲まれた空間内に被処理品を加熱することで保温するためのヒータを備えておくことができる。
【0021】
即ち上記の特許文献に開示のように搬送ユニットを備えたこの種従来の熱処理設備では、搬送ユニットが単に断熱材を有しているのみで、被処理品を積極的に加熱して保温するための機能を備えておらず、このことが熱処理品質を低下せしめる原因となっていたが、この請求項3の熱処理設備は、搬送ユニットが被処理品を保温するためヒータを備えていることから、上記のような不具合を改善して熱処理品質を良好となすことができる。
【0022】
この請求項3のものは、受渡チャンバに被処理品を受け渡しするための受渡機構が備えてあり、且つこの受渡機構は処理チャンバとの間での被処理品の受渡しは勿論、保温チャンバとの間でも被処理品を受け渡しすることができ、処理チャンバから受け取った被処理品を保温チャンバ内に容易に挿入してそこで保温を行わせることができる。
【0023】
この場合において搬送ユニットには、受渡チャンバを処理チャンバに対して対向させた位置で微小ストローク前進させて処理チャンバとドッキングさせ、また被処理品の受渡し後に受渡チャンバを処理チャンバから後退させて離間させる進退移動手段を備えておくことができる(請求項4)。
このようにしておけば、搬送ユニットを全体的に移動させるようになした場合においても、支障なく良好に被処理品を処理チャンバと搬送ユニットとの間で受渡しするようになすことができる。
【0024】
次に請求項5は、上記の複数の処理チャンバを被処理品の受渡し用の開口部を同一方向に向けて直線状に配列するとともに、搬送ユニットを受渡用の開口部が処理チャンバの開口部と対向する向きに設けて、これを処理チャンバの配列方向に沿って走行させるようになしたもので、このようにしておけば、搬送ユニットの走行パターンを単純化し得て、被処理品の搬送を円滑に行わせることができる。
また処理チャンバの増設も、より容易に且つ自由に行うことができる。
【0025】
本発明では、処理チャンバの全部又は一部及び搬送ユニットに真空排気手段を備えておくことができる(請求項6)。
これにより真空条件下での熱処理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に本発明を真空浸炭処理設備に適用した場合の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10Aは処理チャンバとしての浸炭処理チャンバ、10Bは同じ構造の増設された浸炭処理チャンバで、12は同じく処理チャンバとしての焼入処理チャンバである。
これら浸炭処理チャンバ10A,10B及び焼入処理チャンバ12は、図1中左右方向に直線状に一列に配列されている。
この実施形態において、焼入処理チャンバ12は浸炭処理後の被処理品Wを急冷して焼入れを行うためのもので、内部に冷却用の油が収容されている。
【0027】
14は浸炭処理チャンバ10A,10B及び焼入処理チャンバ12等の処理チャンバとは分離して独立に構成された搬送ユニットであって、その全体が浸炭処理チャンバ10A,10B、焼入処理チャンバ12等の処理チャンバの配列方向に沿って直線状にレール16上を走行可能とされている。
この搬送ユニット14は2室構造のものであって、処理チャンバ側の前部に受渡チャンバ18を、また後部に保温チャンバ20を有している。
【0028】
尚、図1において22は上流工程から供給されてきた被処理品Wを受ける受台で、被処理品Wは、この受台22上から搬送ユニット14にて浸炭処理チャンバ、詳しくはここでは複数の浸炭処理チャンバ10A,10Bのうちの浸炭処理チャンバ10Aへと搬送される。
ここで各浸炭処理チャンバ10A,10Bには、内部を真空排気するための真空排気ダクト(真空排気手段)24が接続されており、また各チャンバ内に浸炭ガスを供給するためのガス供給管26がそれぞれ接続されている。
【0029】
浸炭処理チャンバ10Aは、搬送ユニット14側に被処理品Wの受渡しのための開口部を有しており、その開口部が図2に示しているように引戸式の扉28にて開閉されるようになっている。
ここで扉28は、その上側の駆動シリンダ30にて開閉駆動される。
【0030】
浸炭処理チャンバ10Bにおいても、同じく搬送ユニット14側に即ち真空処理チャンバ10Aと同方向に開口部が設けられていて、それら開口部が引戸式の扉28にて開閉されるようになっている。
同様にして焼入処理チャンバ12においても同方向に被処理品Wの受渡しのための開口部、具体的にはここでは被処理品Wの挿入のための開口部が設けられていて、その開口部が扉28にて開閉されるようになっている。
【0031】
尚焼入処理チャンバ12においては、その反対側においても即ち図中上側においても開口部とこれを開閉する引戸式の扉28とが設けられている。但し反対側の開口部は焼入れ後の被処理品Wを排出するためのものである。
【0032】
図2に示しているように、浸炭処理チャンバ10Aは炉殻32とその内部の断熱材34とを有しており、その断熱材34にて囲まれた空間に加熱用のヒータ36と、撹拌用のファン38および架台40が設けられており、その架台40上に被処理品Wがセットされ、その状態で被処理品Wが浸炭処理されるようになっている。
この点は他の浸炭処理チャンバ10Bについても同様である。
【0033】
図2に示しているように、搬送ユニット14は走行台車42を有しており、この走行台車42がモータ44による駆動力でレール16上を各処理チャンバに沿って直線状に走行するようになっている。
この走行台車42上には、搬送ユニット14における受渡チャンバ18を保温チャンバ20とともに進退させて、受渡チャンバ18と各処理設備とをドッキングさせ、またこれから離間させるための連結台車46が設けられており、この連結台車46が、エアシリンダ等の進退駆動装置48にて図2中左右方向に微小ストローク進退移動させられるようになっている。
【0034】
この搬送ユニット14における保温チャンバ20は、炉殻50内部に断熱材34を有しており、更にその断熱材34にて囲まれた空間に、被処理品Wを保温するためのヒータ52が設けられている。ここでヒータ52は、被処理品Wを昇温させるためのものではなく、高温状態の被処理品Wを加熱作用によって保温するためのものである。
【0035】
この保温チャンバ20と上記の受渡チャンバ18との間には開口部が設けられていて、その開口部を通じて被処理品Wが受渡しされるようになっており、更にその開口部はスライド式の扉54にて開閉されるようになっている。ここで扉54はその上側の駆動シリンダ30にて開閉される。
【0036】
受渡チャンバ18の内部には、被処理品Wを各処理チャンバとの間で受け渡し、或いはまた保温チャンバ20との間で受渡しするための受渡機構56が備えられている。
この実施形態において、その受渡機構56は図2(B)に示しているようにスライド部材58,60を有しており、それらスライド部材58,60が図中左右方向にスライド移動することで、被処理品Wを各処理チャンバとの間で、更にはまた保温チャンバとの間で受渡しする。
尚、ここでは受渡機構としてフォーク機構を開示しているが、受渡機構としてはこのようなフォーク機構に限られず、ローラ機構その他とすることも可能である。
【0037】
また受渡チャンバ18の前端部には浸炭処理チャンバ10Aとのドッキングの際に気密シールするためのフランジとシール手段(Oリングパッキン)が設けてある。
図2において62は搬送ユニット14に接続された電気配線コード,搬送ユニット14内部を真空排気する真空排気ダクトなどを含んだ可撓性の配線・配管群で、それぞれがケーブルベアに収納被覆されている。
【0038】
次に本実施形態の熱処理設備において、被処理品Wを真空浸炭処理する際の手順を以下に説明する。
先ず搬送ユニット14は、上流工程から受台22上に供給された被処理品Wを受渡機構56により受渡チャンバ18内に取り込み、その状態で図3(I)中矢印で示しているように図中右方向に走行して、浸炭処理チャンバ10Aに対向する位置に到り、そこにおいて被処理品Wを浸炭処理チャンバ10Aへと受け渡す。即ち図3(II)に示すように浸炭処理チャンバ10A内に被処理品Wを挿入する。
【0039】
この動作は、具体的には以下の手順で行われる。
即ち、搬送ユニット14は先ず進退駆動装置48にて連結台車46を所定微小ストローク浸炭処理チャンバ10A側に前進移動させ、受渡チャンバ18を浸炭処理チャンバ10Aに対してドッキングさせる。
そして受渡チャンバ18内を真空排気して受渡チャンバ18内部を、予め真空状態(厳密には減圧状態)となしてある浸炭処理チャンバ10Aと同程度の真空状態とする。
【0040】
その後、浸炭処理チャンバ10Aの扉28を開いて受渡チャンバ18内の被処理品Wを受渡機構56にて浸炭処理チャンバ10A内に挿入(受渡し)し、これを浸炭処理チャンバ10A内の架台40上にセットする。
浸炭処理チャンバ10A内にセットされた被処理品Wは、そこで先ずヒータ36により所定温度まで加熱昇温され、その後にガス供給管26を通じて浸炭処理チャンバ10A内に浸炭ガスが導入されて、その浸炭ガスにより被処理品Wが浸炭処理チャンバ10A内で浸炭処理される。
【0041】
一定時間の浸炭処理が終了したところで浸炭ガスの供給が停止し、その後被処理品Wが所定温度に保持されることによって浸炭後の被処理品Wに対する拡散処理が行われる。
以上の処理がすんだところで、一旦真空処理チャンバ10Aから離間した搬送ユニット14の受渡チャンバ18が、再び前進移動して浸炭処理チャンバ10Aとドッキングし、更に受渡チャンバ18内部が真空引きされた状態で浸炭処理チャンバ10Aの扉28が開かれて、浸炭処理チャンバ10A内の被処理品Wが受渡チャンバ18内部に引き取られる(受け渡しされる)。
【0042】
その受渡チャンバ18内に引き取られた被処理品Wは、更に続いて扉54の開放に続いて保温チャンバ20内に入れられ、そこでヒータ52の加熱作用で焼入れ温度に保温される(図4(III))。
尚、浸炭処理チャンバ10Aにおける浸炭及び拡散処理の際の温度は例えば約950℃程度で、焼入れ温度はそれより少し低い850℃程度の温度である。
従って被処理品Wは浸炭処理チャンバ10Aから取り出されて保温チャンバ20内で保温される際、それらの差分だけ温度低下する。
即ちこの実施形態では搬送ユニット14における保温チャンバ20内で焼入れ温度までの温度降下の工程が実行される。
【0043】
さて被処理品Wは、その保温状態の下で搬送ユニット14により焼入処理チャンバ12の前方まで搬送され、そこで受渡機構56により保温チャンバ20から受渡チャンバ18を経て焼入処理チャンバ12内に挿入される。
焼入処理チャンバ12内に挿入された被処理品Wは、そこで油の中に入れられて冷却され、焼入れ処理される。
焼入れ処理された被処理品Wは、図4(IV)に示しているように、焼入処理チャンバ12から図中上方へと排出される。
【0044】
以上の真空浸炭(及び焼入れ)処理では、単一の浸炭処理チャンバ10Aのみを用いているが、この浸炭処理チャンバ10Aによる浸炭処理に対して焼入処理チャンバ12での焼入れ処理は短時間で終了するため、単一の浸炭処理チャンバ10Aだけを用いた処理では焼入処理チャンバ12が長い時間遊んだ状態となる。
そこでその他の浸炭処理チャンバ10B、即ち複数の浸炭処理チャンバ10A,10Bを用いることで、焼入処理チャンバ12をフル稼働することが可能であり、これにより浸炭焼入れ処理の効率を大幅に高めることができる。
【0045】
その際、搬送ユニット14は複数の浸炭処理チャンバ10A,10Bと焼入処理チャンバ12との間を走行して、被処理品Wを搬送する。
これにより複数の浸炭処理チャンバ10A,10Bを用いつつ連続して被処理品Wを浸炭処理及び焼入れ処理することができ、生産性を大幅に高めることができる。
或いはまた複数の浸炭処理チャンバ10A,10Bの内の何れかを焼戻し用のチャンバとして用いることで、併せて焼戻し処理も連続して行うことが可能となる。
【0046】
以上のように本実施形態の熱処理設備では、搬送ユニット14が各処理チャンバとの関係において固定ではなく、その全体が独立して移動可能であるため、同種若しくは異種の処理チャンバを自由に増設してそれら多数の処理チャンバとの間で搬送ユニット14により被処理品Wを搬送することが可能できる。
【0047】
従って本実施形態の熱処理設備によれば、生産量の増減に対して容易に対応することができ、また様々にヒートパターンの異なる熱処理を同一の熱処理設備を用いて容易に実施することができ、多品種少量生産の要請に対しても容易に対応することができるとともに、本実施形態の熱処理設備では浸炭処理チャンバ10A,10Bその他の処理チャンバを多数持つことが可能であるため、同時生産可能な品種の種類も多い利点が得られる。
【0048】
また搬送ユニット14は、被処理品Wを保温する保温チャンバ20と受渡チャンバ18との2室構造であるため、被処理品Wを一の処理チャンバから他の処理チャンバへと搬送する間に被処理品Wが制御の範囲を超えて温度低下するのを防止でき、従って安定した品質で被処理品Wを熱処理することができる。
【0049】
また受渡チャンバ18に被処理品Wを受け渡しするための受渡機構56が備えてあるため、各処理チャンバと保温チャンバ20との間で被処理品Wを容易に受け渡しすることができる。
【0050】
更に搬送ユニット14には進退駆動装置48が備えてあるため、搬送ユニット14を各処理チャンバと切り離して独立に且つ全体的に移動させるようになしているにも拘わらず、支障なく良好に被処理品Wを各処理チャンバと搬送ユニット14との間で受渡しすることができる。
【0051】
加えてこの実施形態では各処理チャンバを直線状に配列して、搬送ユニット14を処理チャンバの配列方向に沿って走行させるようになしているため、搬送ユニット14の走行パターンを単純化し得て、被処理品Wの搬送を円滑に行わせることができ、また処理チャンバの増設もより容易に且つ自由に行うことができる。
【0052】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば本発明は被処理品を焼結処理するための設備に対しても、或いはまたその他の熱処理を行うための設備に対しても適用することが可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態である熱処理設備を示した図である。
【図2】図1の熱処理設備の要部を示した図である。
【図3】図1の熱処理設備における真空浸炭処理の工程の説明図である。
【図4】図3に続く工程の説明図である。
【符号の説明】
【0054】
10A,10B 浸炭処理チャンバ
12 焼入処理チャンバ
14 搬送ユニット
18 受渡チャンバ
20 保温チャンバ
34 断熱材
48 進退駆動装置
52 ヒータ
56 受渡機構
W 被処理部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連の熱処理工程の一部分を受け持つ同種若しくは異種の処理チャンバを複数有し、被処理品を全ての若しくは一部の処理チャンバ間で搬送ユニットにより搬送して一連の熱処理を完結するようになした熱処理設備において、
前記搬送ユニットを前記処理チャンバと分離して独立に構成し、該搬送ユニット全体を走行させて、前記処理チャンバとの間で前記被処理品を受け渡しするようになしてあることを特徴とする熱処理設備。
【請求項2】
請求項1において、前記搬送ユニットは前記被処理品を保温する保温チャンバと、前記処理チャンバとの間及び該保温チャンバとの間で該被処理品を受け渡しする受渡チャンバとを有する少なくとも2室構造をなしていることを特徴とする熱処理設備。
【請求項3】
請求項2において、前記保温チャンバは断熱材と該断熱材にて囲まれた空間内に前記被処理品を加熱することにより保温するためのヒータとを備えており、また前記受渡チャンバには該被処理品を受け渡しするための受渡機構が備えてあることを特徴とする熱処理設備。
【請求項4】
請求項2,3の何れかにおいて、前記搬送ユニットには、前記被処理品の受渡しの際に前記受渡チャンバを前記処理チャンバに対向させた位置で該処理チャンバに向けて微小ストローク前進させて該処理チャンバとドッキングさせ、また受渡し後に該受渡チャンバを該処理チャンバから後退させて離間させる進退移動手段が備えてあることを特徴とする熱処理設備。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかにおいて、前記複数の処理チャンバは、前記被処理品を前記搬送ユニットとの間で受け渡しするための開口部を同一方向に向けて該受渡方向と直角方向に直線状に配列されており、前記搬送ユニットは該被処理品の受渡用の開口部が該処理チャンバの開口部と対向する向きに設けられていて、該処理チャンバの配列方向に沿って走行するものとなしてあることを特徴とする熱処理設備。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかにおいて、前記処理チャンバの全部又は一部及び前記搬送ユニットが真空排気手段を有していることを特徴とする熱処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−63363(P2006−63363A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244998(P2004−244998)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケーブルベア
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】