説明

熱分解性の樹脂組成物

【課題】半導体ウェハと基材とを強固に固定でき、かつ、半導体ウェハと基材とを容易に分離できる熱分解性の樹脂組成物を提供する。
【解決手段】温度25℃で測定した前記熱分解性の樹脂組成物1の剪断強度Aが100kPa以上、10MPa以下となり、熱分解性の樹脂組成物1の軟化点+50℃の温度で、測定した前記熱分解性の樹脂組成物の剪断強度Bが1kPa以上、100kPa未満となる熱分解性の樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分解性の樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置の製造工程においては、特許文献1,2に開示された熱分解性の粘着層62が使用されている。
この粘着層62は、図4(a)から(c)に示すように、複数のトランジスタ含有移動層63a〜63cとドナー基板61との間に配置され、これらを固定するために用いられている。固定後、粘着層62を加熱64するとともに、トランジスタ含有移動層63bの直下の領域のみに光65を照射することにより、この領域における粘着層62のみ熱分解を引き起こすことができる。このように一領域のみの粘着層62bを分解することで、他のものを固定した状態で、トランジスタ含有移動層63bのみを、ドナー基板61に対して垂直方向に分離することが可能となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US2004/0234717A1
【特許文献2】US2004/0232943A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術の粘着層62においては、ドナー基板61の一部上へのトランジスタ含有移動層63bの固定や垂直方向への分離に用いるものであるため、こうした粘着層62を用いて基材と半導体ウェハとの固定および分離を実現するには、以下のような相反する特性が必要である点で改善の余地を有していた。
すなわち、半導体ウェハの面積はトランジスタ含有移動層63bよりも多くなるので、この半導体ウェハは、基材から分離するとき、その間に設けられた樹脂層からより大きな剪断応力を受けることになる。剪断応力が大きくなると、半導体ウェハの分離が困難になるとともに、半導体ウェハに欠けなどが発生して半導体素子にダメージが発生することがありえる。
一方で、こうした剪断応力を小さくすると、半導体ウェハと基材との接着強度が低下して、半導体ウェハの加工時などに、これらの位置ズレが発生して、半導体装置の歩留まりが低下するおそれがありえる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の知見に基づいて得られたものである。
すなわち、
(1)熱分解性の樹脂層を介して半導体ウェハと基材とを固定した際には、半導体ウェハと基材とがはがれてしまわないように、半導体ウェハと基材とを強固に固定でき、その後の半導体ウェハの加工時の熱履歴等に耐えること、および
(2)一方で、半導体ウェハと基材とを分離する際には、容易に分離できること、
こうした相反する(1)(2)の特性を有する樹脂を用いることで、従来にない熱分解性特性を有する樹脂組成物を実現できると考えた。
【0006】
本発明によれば、熱分解性の樹脂組成物を、半導体ウェハと、基材との間に配置して、前記熱分解性の樹脂組成物を介して、前記半導体ウェハと前記基材とを固定し、積層体を形成する工程と、
前記積層体の前記半導体ウェハを加工する工程と、
前記積層体を加熱して、前記熱分解性の樹脂組成物を熱分解する工程と、
前記半導体ウェハと、前記基材とを分離する工程とを含む半導体装置の製造方法に使用される前記熱分解性の樹脂組成物であって、
以下の条件1で測定した前記熱分解性の樹脂組成物の剪断強度Aが100kPa以上、10MPa以下となり、
以下の条件2で測定した前記熱分解性の樹脂組成物の剪断強度Bが1kPa以上、100kPa未満となる熱分解性の樹脂組成物が提供される。
(条件1)
前記積層体を形成する前記工程における熱分解性の樹脂組成物を直径200mmのガラス基板上に塗布し、大気中ホットプレート上で乾燥させ、前記ガラス基板上に厚み40μmの前記熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、温度は前記熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃、大気中、時間10秒で固定する。その後、温度25℃で、前記シリコンチップが600μm/秒で前記ガラス基板に対して移動するように前記シリコンチップを押す。
(条件2)
前記積層体を形成する前記工程における熱分解性の樹脂組成物を直径200mmのガラス基板上に塗布し、大気中ホットプレート上で乾燥させ、前記ガラス基板上に厚み40μmの前記熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、温度は前記熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃、大気中、時間10秒で固定する。
その後、前記熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃の温度、大気中で、前記シリコンチップが600μm/秒で前記ガラス基板に対して移動するように前記シリコンチップを押す。
【0007】
この発明によれば、条件1で計測した際の熱分解性の樹脂組成物の剪断強度Aが100kPa以上、10MPa以下であるため、25℃において、半導体ウェハと基材とを強固に固定することができる。
また、条件2で計測した際の熱分解性の樹脂組成物の剪断強度Bが1kPa以上、100kPa未満であるため、熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃においては、熱分解性の樹脂組成物の熱分解が始まるか、あるいは熱分解性の樹脂組成物が十分に軟化していると考えられる。したがって、熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃程度の温度で半導体ウェハと、基材とを容易にはがすことが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、半導体ウェハと基材とを強固に固定でき、かつ、半導体ウェハと基材とを容易に分離できる熱分解性の樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態にかかる半導体装置の製造工程を示す斜視図である。
【図2】半導体装置の製造工程を示す斜視図である。
【図3】半導体装置の製造工程を示す斜視図である。
【図4】従来の半導体装置の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
はじめに、図1〜3を参照して、本実施形態の概要について説明する。
本実施形態の熱分解性の樹脂組成物は、熱分解性の樹脂組成物を、半導体ウェハ2または基材3に塗布して、熱分解性の樹脂層1を形成し、この熱分解性の樹脂層1を介して半導体ウェハ2と基材3とを固定し、積層体4を形成する工程と、積層体4の半導体ウェハ2を加工する工程と、積層体4を加熱して、熱分解性の樹脂層1を熱分解する工程と、半導体ウェハ2と、基材3とを分離する工程とを含む半導体装置の製造方法に使用される。
こうした積層体4を形成する工程に用いる熱分解性の樹脂組成物は、
以下の条件1で測定した前記熱分解性の樹脂組成物の剪断強度Aが100kPa以上、10MPa以下となり、
以下の条件2で測定した前記熱分解性の樹脂組成物の剪断強度Bが1kPa以上、100kPa未満となることにより特定できる。
(条件1)
当該熱分解性の樹脂組成物を直径200mmのガラス基板上に塗布し、大気中ホットプレート上で乾燥させ、上記ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、温度は熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃、大気中、時間10秒で固定する。その後、温度25℃で、シリコンチップが600μm/秒でガラス基板に対して平行移動するようにシリコンチップを押す。
(条件2)
当該熱分解性の樹脂組成物を直径200mmのガラス基板上に塗布し、大気中ホットプレート上で乾燥させ、上記ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、温度は熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃、大気中、時間10秒で固定する(積層構造体)。その後、温度が前記熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃、大気中で、シリコンチップが600μm/秒でガラス基板に対して平行移動するようにシリコンチップを押す。
【0011】
また、積層体4の半導体ウェハ2を加工する工程後、熱分解性の樹脂層1を熱分解する工程前に、かかる熱分解性の樹脂層1に対して活性エネルギー線を照射する工程を実行してもよい。この場合、条件2は、以下のような条件2'になる。
(条件2')
当該熱分解性の樹脂組成物を直径200mmのガラス基板上に塗布し、大気中ホットプレート上で乾燥させ、上記ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、温度は熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃、大気中、時間10秒で固定する(積層構造体)。その後、超高圧水銀灯を用い、ガラス基板側から波長365nm換算で1000mJ/cmで露光し、その後、温度が前記熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃、大気中で、シリコンチップが600μm/秒でガラス基板に対して平行移動するようにシリコンチップを押す。
【0012】
ここで、ガラス基板としては、たとえば、ホウケイ酸ガラス基板を用いることができる。ホウケイ酸ガラス基板は、株式会社水戸理化ガラス社製のテンパックスを用いることができ、そのほか、SCHOTT社のTEMPAX(登録商標)をウェハに加工したものを用いてもよい。
また、本書では、各条件1〜4、2'、及び4'におけるそれぞれの数値は、測定上の微差を許容しており、例えば、±3%の微差を許容する。
【0013】
なお、熱分解性の樹脂組成物の軟化点は、以下のようにして計測できる。たとえば、TMA装置(セイコーインスツル株式会社製、TMA/SS6100型)を使用して、厚さ600μmの熱分解性の樹脂組成物からなるフィルムを、窒素下で、5℃/分の速度で昇温しながら、直径1mmのプローブを使用した針入モ−ドで測定することで得ることができる。この軟化点は、たとえば、熱分解性の樹脂組成物を半導体ウェハ2または基材3に塗布して、熱分解性の樹脂層1を形成したときのものを測定して得られたものが好ましい。
【0014】
剪断強度Aは、半導体ウェハ2と基材3との固定後、その後の半導体ウェハ2の加工時の熱履歴等に耐えるための観点から、100kPa以上、10MPa以下であることが好ましく、1MPa以上10MPa以下がより好ましい。また、剪断強度Bは、半導体ウェハ2と基材3とが、取扱い性良く容易に分離できるとの観点から1kPa以上、100kPa未満であることが好ましく、1kPa以上10kPa以下がより好ましい。
【0015】
本実施形態では、条件1で計測した際の熱分解性の樹脂組成物の剪断強度Aが100kPa以上、10MPa以下であるため、25℃において、半導体ウェハ2と基材3とを強固に固定することができる。これにより、半導体ウェハ2の位置ズレを抑制できるので、半導体ウェハ2の加工時における歩留まりを向上させることができる。
【0016】
また、条件2で計測した際の熱分解性の樹脂組成物の剪断強度Bが1kPa以上、100kPa未満であるため、熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃においては、熱分解性の樹脂組成物の熱分解が始まるか、あるいは、熱分解性の樹脂組成物が十分に軟化していると考えられる。したがって、少なくとも熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃程度の温度で半導体ウェハ2と、基材3とを容易に分離することが可能となる。このため、半導体ウェハ2の欠けや変形を抑制することができるので、半導体ウェハ2上に形成される半導体素子へのダメージを低減することができる。また、半導体ウェハ2を分離する時間も短縮することができるので、半導体装置の生産性を向上させることができる。
【0017】
また、本実施の形態によれば、こうした半導体ウェハ2の容易な分離を、熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃以下における加熱により実現することができる。このような熱分解温度を実現することにより、半導体素子へのダメージを低減することができる。
これに対して、従来の熱分解性の樹脂組成物においては、少なくとも軟化点+100℃以上の加熱を必要としていたために、半導体素子へのダメージが発生することがあり得る。一方、このような従来の熱分解性の樹脂組成物において、軟化点+100℃以下の加熱では、半導体ウェハと基材とは容易に分離することができず、半導体ウェハに欠けなどが発生することがあり得る。
【0018】
剪断強度Aと剪断強度Bとの差分を大きくするには、例えば、樹脂構造に液晶構造を導入する、剛直な樹脂主鎖に柔軟な側鎖を導入する、熱分解性を付与するなどの手法を挙げることができる。
また、熱分解性の樹脂組成物の材料および半導体ウェハ2と基材3とのボンド条件などの製法を適切に選択することにより、剪断強度A、Bを上記の範囲内とすることができる。
【0019】
次に、熱分解性の樹脂組成物について、詳細に説明する。
(熱分解性の樹脂組成物)
熱分解性の樹脂組成物としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂を含むものであることが好ましい。これらの中でもポリカーボネート系樹脂を用いることが好ましい。
【0020】
ポリカーボネート系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート、1,2−ポリブチレンカーボネート、1,3−ポリブチレンカーボネート、1,4−ポリブチレンカーボネート、cis−2,3−ポリブチレンカーボネート、trans−2,3−ポリブチレンカーボネート、α,β−ポリイソブチレンカーボネート、α,γ−ポリイソブチレンカーボネート、cis−1,2−ポリシクロブチレンカーボネート、trans−1,2−ポリシクロブチレンカーボネート、cis−1,3−ポリシクロブチレンカーボネート、trans−1,3−ポリシクロブチレンカーボネート、ポリヘキセンカーボネート、ポリシクロプロペンカーボネート、ポリシクロヘキセンカーボネート、ポリ(メチルシクロヘキセンカーボネート)、ポリ(ビニルシクロヘキセンカーボネート)、ポリジヒドロナフタレンカーボネート、ポリヘキサヒドロスチレンカーボネート、ポリシクロヘキサンプロピレンカーボネート、ポリスチレンカーボネート、ポリ(3−フェニルプロピレンカーボネート)、ポリ(3−トリメチルシリロキシプロピレンカーボネート)、ポリ(3−メタクリロイロキシプロピレンカーボネート)、ポリパーフルオロプロピレンカーボネート、ポリノルボルネンカーボネートから選ばれる1種または2種以上の組み合わせを挙げることができる。
これらの中でも、特に、光酸発生剤存在下で、より効果的に熱分解温度を下げることができるという理由から、ポリプロピレンカーボネート、ポリシクロヘキシレンカーボネート、ポリブチレンカーボネートが好ましい。
【0021】
(メタ)アクリル系樹脂としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等から選ばれる(メタ)アクリル系モノマーの共重合体等を挙げることができる。
これらの中でも、特に、活性エネルギー線の照射により効果的に熱分解温度を低下させることができ、また、作業性に優れるという理由から、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチルが好ましい。
【0022】
熱分解性の樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)は、1,000〜1,000,000であることが好ましく、5,000〜800,000であることが特に好ましい(以下、「〜」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す)。重量平均分子量を上記下限以上とすることにより、基材3に対する濡れ性が向上する効果、さらに、成膜性を向上するという効果を得ることができる。また、上記上限値以下とすることで、各種成分との相溶性や各種溶剤に対する溶解性、さらには、熱分解性を向上するという効果を得ることができる。
【0023】
熱分解性の樹脂組成物は、樹脂層1の全量の10重量%〜99重量%以下の割合で配合することが好ましい。さらに好ましくは、30重量%以上で配合することが好ましい。熱分解性の樹脂組成物の含有量を上記下限値以上とすることで、樹脂層1が十分な接着性および接着後の工程に対する耐性を呈しつつ、分離後基材3にその樹脂成分あるいはその熱分解により生成した残渣成分が著しく残留することを防止できるという理由からである。
【0024】
なお、熱分解性の樹脂組成物は、活性エネルギー線を照射することで、熱分解温度が低下するような樹脂組成物であってもよい。たとえば、上述した樹脂と光酸発生剤とを有するものであってもよい。光酸発生剤の存在下、活性エネルギー線を照射することで、熱分解温度が低下する樹脂層1を形成することが可能となる。
【0025】
光酸発生剤としては、特に限定されないが、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート−4−メチルフェニル[4−(1−メチルエチル)フェニル]ヨードニウム(DPI−TPFPB)、トリス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムテトラキス−(ペンタフルオロフェニル)ボレート(TTBPS−TPFPB)、トリス(4−t−ブチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート(TTBPS−HFP)、トリフェニルスルホニウムトリフレート(TPS−Tf)、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフレート(DTBPI−Tf)、トリアジン(TAZ−101)、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(TPS−103)、トリフェニルスルホニウムビス(パーフルオロメタンスルホニル)イミド(TPS−N1)、ジ−(p−t−ブチル)フェニルヨードニウム、ビス(パーフルオロメタンスルホニル)イミド(DTBPI−N1)、トリフェニルスルホニウム、トリス(パーフルオロメタンスルホニル)メチド(TPS−C1)、ジ−(p−t−ブチルフェニル)ヨードニウムトリス(パーフルオロメタンスルホニル)メチド(DTBPI−C1)、及びこれらの2種以上の組合せを挙げることができる。
これらの中でも特に、熱分解性の樹脂組成物の熱分解温度を効率的に下げることができるという理由から、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート−4−メチルフェニル[4−(1−メチルエチル)フェニル]ヨードニウム(DPI−TPFPB)が好ましい。
【0026】
光酸発生剤は、樹脂層1の全量の0.01重量%〜50重量%の割合で配合することが好ましい。さらに好ましくは、0.1重量%〜30重量%の割合で配合することが好ましい。
上記下限値以上とすることで、熱分解性の樹脂組成物の熱分解温度を安定的に下げることが可能となり、上記上限値以下とすることで樹脂層1が残渣として残留することを効果的に防止することが可能となる。
【0027】
樹脂層1を構成する材料の組み合わせとして、特に好ましいものとしては、プロピレンカーボネート、1,4−ポリブチレンカーボネート、又はネオペンチルカーボネートのいずれか1種以上と、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート−4−メチルフェニル[4−(1−メチルエチル)フェニル]ヨードニウム(DPI−TPFPB)との組み合わせである。
【0028】
ポリカーボネート系樹脂は、前記光酸発生剤の存在下で、ポリカーボネート系樹脂の主鎖の熱切断が容易となる構造を形成するため、又は、ポリカーボネート系樹脂自身が容易に熱分解する熱閉環構造を形成する(熱閉環反応)ため、熱分解温度を下げることができると考えられる。
【0029】
下記の反応式(1)は、ポリプロピレンカーボネート樹脂の主鎖の熱切断及び熱閉環構造の形成のメカニズムを示す。
先ず、上記光酸発生剤由来のHが、ポリプロピレンカーボネート樹脂のカルボニル酸素をプロトン化し、さらに極性遷移状態を転移させ不安定な互変異性中間体[A]及び[B]を生じる。
次に、主鎖の熱切断の場合には、中間体[A]は、アセトン及びCOとして断片化する。
熱閉環構造の形成(a又はb)の場合には、中間体[B]は炭酸プロピレンを生成し、炭酸プロピレンはCO及びプロピレンオキシドとして断片化される。
【0030】
【化1】

【0031】
また、樹脂層1は、酸化防止剤を含んでいてもよい。この酸化防止剤は、望ましくない酸の発生や、樹脂組成物の自然酸化を防止する機能を有している。
【0032】
酸化防止剤としては、特に限定されるわけではないが、例えば、ニューヨーク州タリータウンのCiba Fine Chemicals社から入手可能なCiba IRGANOX(登録商標) 1076およびCiba IRGAFOS(登録商標) 168が好適に用いられる。
【0033】
また、他の酸化防止剤としては、例えば、Ciba Irganox 129、Ciba Irganox 1330、Ciba Irganox 1010、Ciba Cyanox(登録商標) 1790、Ciba Irganox 3114、Ciba Irganox 3125等を用いることもできる。
【0034】
酸化防止剤の含有量は、熱分解性の樹脂組成物の総量100重量部に対して、0.1〜10重量部であるのが好ましく、0.5〜5重量部であるのがより好ましい。
【0035】
また熱分解性の樹脂組成物は、必要により酸捕捉剤、アクリル系、シリコーン系、フッ素系、ビニル系等のレベリング剤、シランカップリング剤、希釈剤等の添加剤等を含んでも良い。
【0036】
シランカップリング剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、単独でも2種以上混合して用いてもよい。
樹脂層1がシランカップリング剤を含むことにより、半導体ウェハ2または基材3との密着性を向上することが可能となる。
【0037】
なお、樹脂層1の熱分解性の樹脂組成物としては、たとえば、ノルボルネン系樹脂を含有するものとしてもよい。熱分解性の樹脂組成物の樹脂成分中、ノルボルネン系樹脂を30重量%以上、100重量%以下含有することが好ましい。これにより、熱分解性に優れたものとすることができる。
ノルボルネン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(1)で示される構造単位を含むものを挙げることができる。
【0038】
【化2】

【0039】
式(1)において、R〜Rは、それぞれ、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜20のアルキル基、芳香族基、脂環族基、グリシジルエーテル基、下記置換基(2)のいずれかである。また、mは0〜4の整数である。
【0040】
【化3】

【0041】
式(2)において、Rは、それぞれ、水素、メチル基またはエチル基であり、R、RおよびRは、直鎖状または分岐状の炭素数1〜20のアルキル基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜20のアルコキシ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜20のアルキルペルオキシ基、置換もしくは未置換の炭素数6〜20のアリールオキシ基のいずれかである。また、nは0〜5の整数である。
【0042】
直鎖状または分岐状の炭素数1〜20のアルキル基としては、特に限定されるものではないが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
これらの中でも、樹脂層1を構成する各種成分との相溶性や各種溶剤に対する溶解性、さらに、半導体ウェハ2と基材3とを固定した際の機械物性に優れるブチル基、デシル基が好ましい。
【0043】
芳香族基としては、特に限定されるものではないが、フェニル基、フェネチル基、ナフチル基等が挙げられるが、これらの中でも、半導体ウェハと基材を固定した際の機械物性に優れるフェネチル基、ナフチル基が好ましい。
【0044】
脂環族としては、特に限定されるものではないが、シクロヘキシル基、ノルボルネニル基、ジヒドロジシクロペンタジエチル基、テトラシクロドデシル基、メチルテトラシクロドデシル基、テトラシクロドデカジエチル基、ジメチルテトラシクロドデシル基、エチルテトラシクロドデシル基、エチリデニルテトラシクロドデシル基、フエニルテトラシクロドデシル基、シクロペンタジエチル基の三量体等の脂環族基等が挙げられる。
これらの中でも、半導体ウェハと基材を固定した際の機械物性、さらには、加熱工程における熱分解性に優れるシクロヘキシル基、ノルボルネニル基が好ましい。
【0045】
置換基(2)中のRは、水素、又はメチル基またはエチル基であれば、特に限定されるものではないが、加熱工程における熱分解性に優れる水素原子が好ましい。
【0046】
置換基(2)中のR、RおよびRは、それぞれ、直鎖状または分岐状の炭素数1〜20のアルキル基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜20のアルコキシ基、線状または分岐状の炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜20のアルキルペルオキシ基、置換もしくは未置換の炭素数6〜20のアリールオキシ基のいずれかであれば、特に限定されるわけではない。
このような置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基、アセトキシ基、プロピオキシ基、ブチロキシ基、メチルペルオキシ基、イソプロピルペルオキシ基、t−ブチルペルオキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシフェノキシ基、ナフチロキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシフェノキシ基、ナフチロキシ基等が挙げられ、これらの中でも、基材に対する密着性、半導体ウェハ加工時の機械特性に優れるメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が好ましい。
【0047】
一般式(1)中のmは、0〜4の整数であり、特に限定されるわけではないが、0または1が好ましい。mが0または1である場合、前記一般式(1)で示される構造単位は、下記一般式(3)または(4)で示すことができる。
【0048】
【化4】

【0049】
【化5】

【0050】
上記式(3)及び(4)において、R〜Rは、それぞれ、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜20のアルキル基、芳香族基、脂環族基、グリシジルエーテル基、置換基(2)のいずれかである。
【0051】
上記置換基(2)中のnは、0〜5の整数であり、特に限定されるわけではないが、nは0であることが好ましい。nが0である時、シリル基はケイ素−炭素結合を介して多環式環に直接結合しており、樹脂層1の熱分解性および半導体ウェハ加工時の機械特性を両立することができる。
【0052】
上記一般式(1)で示される構造単位は、特に限定されるわけではないが、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−プロピルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−ペンチルノルボルネン、5−ヘキシルノルボルネン、5−へプチルノルボルネン、5−オクチルノルボルネン、5−ノニルノルボルネン、5−デシルノルボルネン、5−フェネチルノルボルネン、5−トリエトキシシリルノルボルネン、5−トリメチルシリルノルボルネン、5−トリメトキシシリルノルボルネン、5−メチルジメトキシシシリルノルボルネン、5−ジメチルメトキシノルボルネン、5−グリシジルオキシメチルノルボルネン等のノルボルネン系モノマーを重合することにより得ることができる。
前記ノルボルネン系モノマーを重合する際は、単一のノルボルネン系モノマーで重合しても、複数のノルボルネン系モノマーを共重合しても良い。これらノルボルネン系モノマーの中でも、半導体ウェハと基材とを固定した際の機械物性に優れる5−ブチルノルボルネン、5−デシルノルボルネン、5−フェネチルノルボルネン、5−トリエトキシシリルノルボルネン、5−グリシジルオキシメチルノルボルネンが好ましい。
【0053】
ノルボルネン系樹脂は、特に限定されるわけではなく、上記一般式(1)で示される単一の構造単位で形成されていてもよく、また、複数の構造単位で形成されていても良い。
【0054】
ノルボルネン系樹脂は、より具体的には、ポリノルボルネン、ポリメチルノルボルネン、ポリエチルノルボルネン、ポリプロピルノルボルネン、ポリブチルノルボルネン、ポリペンチルノルボルネン、ポリヘキシルノルボルネン、ポリへプチルノルボルネン、ポリオクチルノルボルネン、ポリノニルノルボルネン、ポリデシルノルボルネン、ポリフェネチルノルボルネン、ポリトリエトキシシリルノルボルネン、ポリトリメチルシリルノルボルネン、ポリトリメトキシシリルノルボルネン、ポリメチルジメトキシシシリルノルボルネン、ポリジメチルメトキシノルボルネン、ポリグリシジルオキシメチルノルボルネン等の単一重合体、ノルボルネン−トリエトキシシリルノルボルネン共重合体、ノルボルネン−グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体、ブチルノルボルネン−トリエトキシシリルノルボルネン共重合体、デシルノルボルネン−トリエトキシシリルノルボルネン共重合体、ブチルノルボルネン−グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体、デシルノルボルネン−グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体、デシルノルボルネン−ブチルノルボルネン−フェネチルノルボルネン−グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体等の共重合体が挙げられる。
これらの中でも、半導体ウェハと基材とを固定した際の機械物性に優れるポリブチルノルボルネン、ポリデシルノルボルネン、ポリトリエトキシシリルノルボルネン、ポリグリシジルオキシメチルノルボルネン−ブチルノルボルネン−トリエトキシシリルノルボルネン共重合体、デシルノルボルネン−トリエトキシシリルノルボルネン共重合体、ブチルノルボルネン−グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体、デシルノルボルネン−グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体、デシルノルボルネン−ブチルノルボルネン−フェネチルノルボルネン−グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体が好ましい。
【0055】
ノルボルネン系樹脂の重量平均分子量は、10,000〜1,000,000であることが好ましく、30,000〜800,000であることが特に好ましい。重量平均分子量を上記範囲とすることで、樹脂層1の熱分解性および半導体ウェハ加工時の樹脂層1の耐熱性を両立することができる。
ここで、重量平均分子量は、THFを溶媒としてGPC(ゲル浸透クロマトグラム)により、ポリスチレン換算値として算出することができる。
【0056】
上記一般式(1)で示される構造単位を有するノルボルネン系樹脂は、特に限定されるわけではないが、開環メタセシス重合(以下、ROMPとも記載する。)、ROMPと水素化反応の組み合わせ、ラジカルまたはカチオンによる重合により合成することができる。
【0057】
上記一般式(1)で示される構造単位を有するノルボルネン系樹脂の合成方法としては、例えば、パラジウムイオン源を含有する触媒、ニッケルと白金を含有する触媒、ラジカル開始剤等を用いることにより合成することができる。このようなニッケルと白金を含有する触媒としては、特に限定されるわけではないが、国際公開1997/033198号公報や国際公開2000/020472号公報に記載されているものを用いることができる。
【0058】
ノルボルネン系モノマー対するパラジウムイオン源を含有する触媒のモル比は、20:1〜100,000:1が好ましく、200:1〜20,000:1が特に好ましく、1,000:1〜10,000:1がさらに好ましい。
【0059】
ノルボルネン系モノマーをパラジウム触媒で重合する場合、その重合温度は、−100℃〜120℃が好ましく、−60℃〜90℃が特に好ましく、−10℃〜80℃であることがさらに好ましい。
【0060】
前記ニッケルと白金を含有する触媒としては、特に限定されるわけではないが、WO1997/033198号公報やWO2000/020472号公報に記載されているものを用いることができる。
【0061】
ニッケルと白金を含有する触媒としては、特に限定されるわけではないが、(トルエン)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、(メシレン)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、(ベンゼン)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、ビス(テトラヒドロ)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、ビス(エチルアセテート)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、ビス(ジオキサン)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル等が挙げられる。
【0062】
ノルボルネン系モノマーに対するニッケルと白金を含有する触媒のモル比は、20:1〜100,000:1が好ましく、200:1〜20,000:1が特に好ましく、1,000:1〜10,000:1がさらに好ましい。
【0063】
ノルボルネン系モノマーをニッケルと白金を含有する触媒で重合する場合、その重合温度は、0℃〜70℃が好ましく、10℃〜50℃が特に好ましく、20℃〜40℃であることがさらに好ましい。
【0064】
ラジカル開始剤としては、特に限定されるわけではないが、Encyclopedia of Polymer Science,John Wiley&Sons,13708(1988)に記載されているものを用いることができる。
【0065】
ラジカル開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル、アゾビスイソカプトロニトリル、アゾビスイソレロニトリル、t−ブチル過酸化水素等を挙げることができる。
【0066】
ノルボルネン系モノマーをラジカル開始剤で重合する場合、その重合温度は、50℃〜150℃が好ましく、60℃〜140℃が特に好ましく、70℃〜130℃であることがさらに好ましい。
【0067】
本実施形態では、樹脂層1の平坦性を確保する観点から基材3にスピンコートにより樹脂層1の各成分を含むワニス(熱分解性の樹脂組成物)を塗布し、乾燥させることで、樹脂層1を形成する。これにより、非常に平滑性に優れ、厚みばらつきの非常に少ない樹脂層1を形成することができる。
従来、半導体ウェハを研磨する場合には、粘着性のフィルムを使用し、半導体ウェハと、基材とを固定していた。
このような粘着性のフィルムを使用する場合、フィルムに厚みむらがあるため、半導体ウェハを非常に薄く研磨すると半導体ウェハに凹凸ができてしまう。そのため、半導体ウェハを非常に薄く研磨することは難しかった。
これに対し、本実施形態では、非常に平滑性に優れ、厚みばらつきの非常に少ない樹脂層1を形成することができるので、半導体ウェハ2を非常に薄く研磨しても、半導体ウェハに凹凸が形成されてしまうことが防止できる。
さらに、樹脂層1として、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂、ノルボルネン系樹脂のいずれかの材料を使用している。詳細なメカニズムは不明であるが、これらの樹脂を樹脂層1に使用することで、半導体ウェハ2研磨時に半導体ウェハ2にかかる応力を緩和でき、非常に平滑性に優れていることと併せ、分離後の薄化したウェハの厚さの均一性(Total Thickness Variation;TTV)に非常に優れた研磨をおこなうことができる。
【0068】
樹脂層1となる樹脂組成物は、上述した各成分に加え、溶媒や、希釈剤を含有する。
溶媒としては、特に限定されるものではないが、メシチレン、デカリン、ミネラルスピリット類等の炭化水素類、アニソール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジグライム等のアルコール/エーテル類、炭酸エチレン、酢酸エチル、酢酸N−ブチル、乳酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、炭酸プロピレン、γ−ブチロラクトン等のエステル/ラクトン類、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類、N−メチル−2−ピロリジノン等のアミド/ラクタム類が挙げられる。前記ワニスが溶媒を含有することにより、ワニスの粘度を調整することが容易となり、薄膜を形成するのが容易となる。
【0069】
溶媒の含有量は、特に限定されるものではないが、5〜98重量%であることが好ましく、10〜95重量%であることが特に好ましい。
【0070】
また、希釈剤としては、特に限定されるわけではないが、例えば、シクロヘキセンオキサイドやα−ピネンオキサイド等のシクロエーテル化合物、[メチレンビス(4,1−フェニレンオキシメチレン)]ビスオキシランなどの芳香族シクロエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルなどのシクロアリファティックビニルエーテル化合物等を挙げることができる。
ワニスが希釈剤を含むことにより、ワニスの流動性を向上することができ、樹脂層1の基材3に対する濡れ性を向上することが可能となる。
【0071】
ここで、熱分解性の樹脂組成物は、以下のような物性を有するものであることが好ましい。
当該熱分解性の樹脂組成物を、大気中ホットプレートで乾燥させ、厚み20μm、幅3mmのフィルム状とした際の25℃における引っ張り弾性率E'は、10MPa以上、5GPa以下であることが好ましく、100MPa以上3GPa以下がより好ましい。弾性率E'を10MPa以上とすることで、均一な圧着および精密なウェハ上の加工が可能となるという効果があり、弾性率E'を5GPa以下とすることで、均一な研磨が可能となるという効果がある。
弾性率E'の測定方法は、以下の通りである。たとえば、東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて、樹脂フィルムの試験片(3mm×30mm)を延伸速度:8mm/分で引張り、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を得ることができる。
【0072】
また、本実施の形態の熱分解性の樹脂組成物においては、以下の条件3における当該熱分解性の樹脂組成物の層の厚みをM1、以下の条件4における当該熱分解性の樹脂組成物の層の厚みをM2とした場合、
M1/M2×100が1%以上、99%以下となることが好ましく、5%以上80%以下となることがより好ましい。
(条件3)
当該熱分解性の樹脂組成物を直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製テンパックス)上に塗布し、大気中ホットプレート上で乾燥させ、ガラス基板上に平均厚み20μmの当該熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層の厚みをM1とする。
(条件4)
条件3により得られた熱分解性の樹脂組成物の層を形成したガラス基板を、熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃、大気中、1時間加熱する。加熱後のガラス基板上の当該熱分解性の樹脂組成物の層の厚みをM2とする。
【0073】
また、積層体4の半導体ウェハ2を加工する工程後、熱分解性の樹脂層1を熱分解する工程前に、かかる熱分解性の樹脂層1に対して活性エネルギー線を照射する工程を実行してもよい。この場合、条件4は、以下のような条件4'になる。
(条件4')
条件3により得られた熱分解性の樹脂組成物の層に対して、超高圧水銀灯を用い、ガラス基板側から波長365nm換算で1000mJ/cmで露光し、その後、熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃、大気中、1時間加熱する。加熱後のガラス基板上の当該熱分解性の樹脂組成物の層の厚みをM2とする。
【0074】
このように、M1/M2×100が99%以下となることで、少なくとも軟化点+50℃で樹脂層1を加熱することで、基材3と半導体ウェハ2とを容易に分離することが可能となる。一方で、M1/M2×100が1%以上となることで、基材3と半導体ウェハ2が工程中バラバラに脱離してしまうことを防ぎ、取扱いが容易になるという効果がある。
ここで、M1/M2×100を前述した所定の範囲内とするためには、例えば、熱分解性の樹脂組成物の熱分解性を適切に制御することが挙げられる。こうした制御方法は樹脂系により異なるが、例えばポリカーボネート系樹脂の場合、酸素原子に隣接する樹脂の主鎖を構成する炭素原子に、3級炭素以外の構造、例えば2級炭素を少なくとも一部導入することなどが挙げられる。
【0075】
次に、上述した熱分解性の樹脂組成物を使用した半導体装置の製造方法について説明する。
図1(A)に示すように、基材3を用意し、さらに、図1(B)に示すように、基材3に熱分解性の樹脂組成物を塗布して樹脂層1を形成する。これにより樹脂層1と基材3とを有する基板が得られる。
基材3は、半導体ウェハ2と同一形状のダミーウェハであることが好ましく、たとえば、シリコン基板、ガラス基板等で構成される。基材3は、半導体ウェハ2と同じ大きさであってもよいが、半導体ウェハ2よりもひとまわり程度大きなものであってもよい。
詳しくは後述するが、熱分解性の樹脂層1に対し、活性エネルギー線を照射する必要がある場合には、基材3は、活性エネルギー線を透過する透明基材であることが好ましい。
【0076】
次に、図2(A)に示すように、樹脂層1を介して、半導体ウェハ2と基材3とを固定し、積層体4とする。
樹脂層1は、粘着性を有しており、半導体ウェハ2の素子形成面(あらかじめ素子が形成されている面)に取り付けられる。そして、基材3により、半導体ウェハ2の素子形成面が保護されることとなる。
その後、積層体4を図示しない研磨装置にとりつけ、半導体ウェハ2の裏面(素子形成面と反対側の面)を研磨する(図2(B))。これにより、半導体ウェハ2の厚みは、たとえば、50μm以下、10μm以上となる。
また、半導体ウェハ2の裏面に加工を施してバンプ等を形成する。
なお、この半導体ウェハ2の裏面の加工工程において、積層体4はたとえば、250℃程度に加熱されるが、この熱により樹脂層1が熱分解することはない。
【0077】
次に、樹脂層1として、活性エネルギー線を照射することで、熱分解温度が低下する樹脂層を使用している場合には、積層体4に活性エネルギー線を照射して、樹脂層1の熱分解温度を低下させる。具体的には、積層体4の基材3側から光を照射し、樹脂層1に光を照射する。樹脂層1は、活性エネルギー線照射前に比べ、分解温度が低下することとなる。
【0078】
ここで、活性エネルギー線とは、紫外線(g線、h線、i線)、X線、可視光線等を含む電子線若しくは電磁波の総称であり、なかでも紫外線が好ましい。
【0079】
次に、積層体4を樹脂層1の熱分解温度以上の温度、たとえば、樹脂層1の軟化点+50℃で加熱して、樹脂層1を熱分解する。
樹脂層1が熱分解することで、半導体ウェハ2と基材3とを分離することができる。なお、半導体ウェハ2を基材3からはがす際には、図3に示すように、半導体ウェハ2を基材3に対し、基材3表面に沿ってスライドさせて、半導体ウェハ2と基材3とを分離することが好ましい。
その後、必要に応じて半導体ウェハ2をダイシングして半導体装置を得る。
【0080】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
たとえば、前記実施形態では、基材3に樹脂層1を形成した後、基材3と半導体ウェハ2とを固定していたが、これに限らず、半導体ウェハ2に樹脂層1を形成してもよい。
さらに、本実施形態では、半導体ウェハ2の研磨を実施したが、これに限らず、樹脂層1を介して半導体ウェハ2と基材3とを固定した後、研磨を実施せずに、半導体ウェハ2にバンプ等を形成してもよい。
【実施例】
【0081】
次に、本発明の実施例について説明する。
(実施例)
【0082】
【表1】

【0083】
上記表1は、下記の実施例1〜3および比較例1の結果を示すものである。表1で示すように、実施例1〜3
では、位置ずれがおきにくくかつ脱離しやすいという相反する特性が実現されていることが分かる。これに対して、比較例1では、位置ずれがおきにくくなるために、脱離しにくくなることが分かった。
【0084】
(実施例1)
<熱分解性の樹脂組成物A作製>
ポリプロピレンカーボネート(EMPOWER MATERIALS社製、QPAC40)100gをγ−ブチロラクトン(溶剤)310gに溶解した。このポリプロピレンカーボネート溶液に、光酸発生剤(ローディアジャパン(株)社製Rhodorsil Phoinitiator2074)5g、増感剤の1−クロロ−4‐プロポキシチオキサントン(英Lambson社製SPEEDCURE CPTX(商品名))1.5gをγ−ブチロラクトン(溶剤)30gに溶解させた溶液を加えて、攪拌し、樹脂濃度24重量%の熱分解性の樹脂組成物Aを作製した。
【0085】
<軟化点測定>
熱分解性の樹脂組成物Aの軟化点は次のように測定した。すなわち、TMA装置(セイコーインスツル株式会社製、TMA/SS6100型)を使用して、厚さ600μmの熱分解性の樹脂組成物Aからなるフィルムを、窒素下で、5℃/分の速度で昇温しながら、直径1mmのプローブを使用した針入モ−ドで測定した。熱分解性の樹脂組成物Aの軟化点は40℃であった。
【0086】
<剪断強度測定>
上記熱分解性の樹脂組成物Aを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、90℃、大気中、時間10秒で固定する。その後、温度25℃で、シリコンチップが600μm/秒でガラス基板に対して移動するようにシリコンチップを押し、剪断強度Aを測定したところ6MPaであった。
また、当該熱分解性の樹脂組成物Aを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、90℃、大気中、時間60秒で固定する(積層構造体)。その後、90℃、大気中で、シリコンチップが600μm/秒でガラス基板に対して移動するようにシリコンチップを押し、剪断強度Bを測定したところ40kPaであった。
【0087】
<弾性率測定>
熱分解性の樹脂組成物Aを、ガラス基板上に塗布し、120℃、5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、厚み約20μmのフィルムを形成し、このフィルムを切出して、試験片(3mm×30mm)を作製した。この試験片の厚みを測定し、測定した厚み20μm×幅3mmを断面積とした。その後、引張試験機(東洋ボールドウィン社製、テンシロンUTM−2)を用いて、熱分解性の樹脂組成物Aからなる試験片(3mm×30mm)を延伸速度:8mm/分で引張り、応力―歪曲線の初期の勾配から25℃における弾性率E'を測定したところ、2.0GPaであった。
【0088】
<熱分解性樹脂組成物の層の厚み(M1/M2×100)の測定>
上記熱分解性の樹脂組成物Aを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、ガラス基板上に厚み20μmの樹脂組成物Aの層を形成する。この樹脂組成物Aの層の厚みをデジタルダイヤルゲージで測定し、それをM1とする。さらに、それを90℃の温度、大気中で、1時間加熱する。加熱後のガラス基板上の樹脂組成物Aの層の厚みをM2とする。そのM2/M1×100を算出したところ、99%であった。
【0089】
<半導体ウェハ研磨後の位置ずれ評価>
上記熱分解性の樹脂組成物Aを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、前記ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、直径200mm、厚さ725μmのシリコンウェハを荷重3.5kN、90℃、大気中、時間5分で固定する。その後、ウェハの厚さが50μmになるまでウェハの裏面研磨をした際のガラス基板とシリコンウェハとの位置ずれの有無を確認したところ位置ずれは発生していなかった。
【0090】
<シリコンウェハの脱離性評価>
上記で得られたガラス基板と薄化したシリコンウェハとの積層体において、この薄化したシリコンウェハを90℃、大気中で、ガラス基板の面方向に対してスライドするように移動させた。その結果、シリコンウェハの欠けがなく、かつ短時間で、シリコンウェハを脱離できた。
【0091】
(実施例2)
<剪断強度測定>
実施例1と同じ熱分解性の樹脂組成物Aを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、90℃、大気中、時間10秒で固定する。その後、温度25℃で、シリコンチップが600μm/秒でガラス基板に対して移動するようにシリコンチップを押し、剪断強度Aを測定したところ6MPaであった。
また、当該熱分解性の樹脂組成物Aを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、前記ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、90℃、大気中、時間10秒で固定する(積層構造体)。その後、超高圧水銀灯を用い、ガラス基板側から波長365nm換算で1000mJ/cmで露光し、その後、90℃、大気中で、シリコンチップが600μm/秒でガラス基板に対して移動するようにシリコンチップを押し、剪断強度Bを測定したところ20kPaであった。
【0092】
<弾性率測定>
熱分解性の樹脂組成物Aを、ガラス基板上に塗布し、120℃、5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、厚み約20μmのフィルムを形成し、このフィルムを切出して、試験片(3mm×30mm)を作製した。この試験片の厚みを測定し、測定した厚み20μm×幅3mmを断面積とした。その後、熱分解性の樹脂組成物Aからなる試験片(3mm×30mm)に、超高圧水銀灯を用い、波長365nm換算で1000mJ/cmで露光し、その後、引張試験機(東洋ボールドウィン社製、テンシロンUTM−2)を用いて、延伸速度:8mm/分で引張り、応力―歪曲線の初期の勾配から25℃における弾性率E'を測定したところ、2.0GPaであった。
【0093】
<熱分解性樹脂組成物の層の厚み(M1/M2×100)の測定>
上記熱分解性の樹脂組成物Aを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、ガラス基板上に厚み20μmの樹脂組成物Aの層を形成する。この樹脂組成物Aの層の厚みをデジタルダイヤルゲージで測定し、それをM1とする。さらに、それに対し、1000mJ/cm(λ=365nm換算)の超高圧水銀灯からの全波長光を照射した後、90℃の温度、大気中で、1時間加熱する。加熱後のガラス基板上の樹脂組成物Aの層の厚みをM2とする。そのM2/M1×100を算出したところ、65%であった。
【0094】
<半導体ウェハ研磨後の位置ずれ評価>
上記熱分解性の樹脂組成物Aを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物Aの層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、直径200mm、厚さ725μmのシリコンウェハを荷重3.5kN、120℃、大気中、時間60秒で固定する。その後、ウェハの厚さが50μmになるまでウェハの裏面研磨をした際のガラス基板とシリコンウェハとの位置ずれの有無を確認したところ位置ずれは発生していなかった。
【0095】
<シリコンウェハの脱離性評価>
上記で得られたガラス基板と薄化したシリコンウェハとの積層体において、ガラス基板側から波長365nm換算で1000mJ/cmで露光し、その後、薄化したシリコンウェハを90℃、大気中で、ガラス基板の面方向に対してスライドするように移動させた。その結果、シリコンウェハの欠けがなく、かつ実施例1よりも短時間で、シリコンウェハを脱離できた。
【0096】
(実施例3)
<熱分解性の樹脂組成物Bの作製>
反応容器に酢酸エチル(430g)、シクロヘキサン(890g)、5−デシルノルボルネン(223g、0.95モル)を導入し、この系中に乾燥窒素を40℃で30分流し、溶存酸素を除去した。ビス(トルエン)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル1.33g(0.275mモル)を12gの酢酸エチルに溶解したものを反応系中に添加し、上記の系を20℃から35℃に15分掛けて昇温し、その温度を保持しながら3時間、系中を攪拌した。
この系を室温まで冷却した。その後、49gの30%過酸化水素水を添加した約1500gの純水に氷酢酸26gを溶解させ、これを当該系中に添加し、反応系を50℃で5時間攪拌した後、攪拌を止め、分離した水層を除去した。残った有機層を220gのメタノールと220gのイソプロピルアルコールを混合したものを、添加、攪拌および除去からなる一連の工程を実行することで洗浄した。さらに、510gのシクロヘキサンと290gの酢酸エチルを系に添加し、均一に溶解した後、また156gのメタノールと167gのイソプロピルアルコールを混合したものを、添加、攪拌および除去からなる一連の工程を実行することで洗浄することを、2回繰り返した。
洗浄後の有機層に180mLのシクロヘキサンを添加して系を均一に溶解し、さらに670gのメシチレンを添加した。そして、ロータリーエバポレーターで減圧下でシクロヘキサンを蒸発除去することにより、収量:543g(35%のメシチレン溶液)の5−デシルノルボルネン付加重合体を得た。
このように合成した5−デシルノルボルネン付加重合体を、GPCにより重量平均分子量を測定したところ、177000であった。
得られた5−デシルノルボルネン付加重合体30gを1,3,5−トリメチルベンゼン(溶剤)170gに溶解し、樹脂濃度15%の熱分解性の樹脂組成物Bを作製した。
【0097】
<軟化点測定>
熱分解性の樹脂組成物Bの軟化点は次のように測定した。すなわち、TMA装置(セイコーインスツル株式会社製、TMA/SS6100型)を使用して、厚さ600μmの熱分解性の樹脂組成物Aからなるフィルムを、窒素下で、5℃/分の速度で昇温しながら、直径1mmのプローブを使用した針入モ−ドで測定した。熱分解性の樹脂組成物Bの軟化点は125℃であった。
【0098】
<剪断強度測定>
上記熱分解性の樹脂組成物Bを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、175℃、大気中、時間10秒で固定する。その後、温度25℃で、シリコンチップが600μm/秒でガラス基板に対して移動するようにシリコンチップを押し、剪断強度Aを測定したところ400kPaであった。
また、当該熱分解性の樹脂組成物Bを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物Bの層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物Bの層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、175℃、大気中、時間10秒で固定する(積層構造体)。その後、175℃、大気中で、シリコンチップが600μm/秒でガラス基板に対して移動するようにシリコンチップを押し、剪断強度Bを測定したところ80kPaであった。
【0099】
<弾性率測定>
熱分解性の樹脂組成物Bを、ガラス基板上に塗布し、120℃、5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、厚み約20μmのフィルムを形成し、このフィルムを切出して、試験片(3mm×30mm)を作製した。この試験片の厚みを測定し、測定した厚み20μm×幅3mmを断面積とした。その後、引張試験機(東洋ボールドウィン社製、テンシロンUTM−2)を用いて、熱分解性の樹脂組成物Bからなる試験片(3mm×30mm)を延伸速度:8mm/分で引張り、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を測定したところ、0.3MPaであった。
【0100】
<熱分解性樹脂組成物の層の厚み(M1/M2×100)の測定>
上記熱分解性の樹脂組成物Bを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、ガラス基板上に厚み20μmの樹脂組成物Bの層を形成する。この樹脂組成物Bの層の厚みをデジタルダイヤルゲージで測定し、それをM1とする。さらに、それを175℃の温度、大気中で、1時間加熱する。加熱後のガラス基板上の樹脂組成物Bの層の厚みをM2とする。そのM2/M1×100を算出したところ、98%であった。
【0101】
<半導体ウェハ研磨後の位置ずれ評価>
上記熱分解性の樹脂組成物Bを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物Bの層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物Bの層上に、直径200mm、厚さ725μmのシリコンウェハを荷重3.5kN、175℃、大気中、時間60秒で固定する。その後、ウェハの厚さが50μmになるまでウェハの裏面研磨をした際のガラス基板とシリコンウェハとの位置ずれの有無を確認したところ位置ずれは発生していなかった。
【0102】
<シリコンウェハの脱離性評価>
上記で得られたガラス基板と薄化したシリコンウェハとの積層体において、この薄化したシリコンウェハを175℃、大気中で、ガラス基板の面方向に対してスライドするように移動させた。その結果、シリコンウェハの欠けがなく、かつ短時間で、シリコンウェハを脱離できた。
【0103】
(比較例1)
<熱分解性の樹脂組成物Cの作製>
乾燥窒素ガス導入管、冷却器、温度計、撹拌機を備えた四口フラスコに、脱水精製したNMP674gを入れ、窒素ガスを流しながら10分間激しくかき混ぜる。次に1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)87.701g(0.300モル)を投入し、系を60℃に加熱し、均一になるまでかき混ぜる。均一に溶解後、系を氷水浴で5℃に冷却し、4,4'−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)93.067g(0.300モル)を粉末状のまま15分間かけて添加し、その後3時間撹拌しポリアミド酸を含む樹脂濃度21.1wt%の熱分解性の樹脂組成物Cを作製した。
【0104】
<軟化点測定>
熱分解性の樹脂組成物Cの軟化点は次のように測定した。すなわち、TMA装置(セイコーインスツル株式会社製、TMA/SS6100型)を使用して、厚さ600μmの熱分解性の樹脂組成物Aからなるフィルムを、窒素下で、5℃/分の速度で昇温しながら、直径1mmのプローブを使用した針入モ−ドで測定した。熱分解性の樹脂組成物Cの軟化点は210℃であった。
【0105】
<剪断強度測定>
上記熱分解性の樹脂組成物Cを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物Cの層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物Cの層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、260℃、大気中、時間10秒で固定する。温度25℃で、シリコンチップが600μm/秒でガラス基板に対して移動するようにシリコンチップを押し、剪断強度Aを測定したところ、17MPaであった。
また、当該熱分解性の樹脂組成物Cを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、前記ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物Cの層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物Cの層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、260℃、大気中、時間10秒で固定する(積層構造体)。その後、270℃、大気中で、シリコンチップが600μm/秒でガラス基板に対して移動するようにシリコンチップを押し、剪断強度Bを測定したところ900kPaであった。
【0106】
<弾性率測定>
熱分解性の樹脂組成物Cを、ガラス基板上に塗布し、120℃、5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、厚み約20μmのフィルムを形成し、このフィルムを切出して、試験片(3mm×30mm)を作製した。この試験片の厚みを測定し、測定した厚み20μm×幅3mmを断面積とした。その後、引張試験機(東洋ボールドウィン社製、テンシロンUTM−2)を用いて、熱分解性の樹脂組成物Cからなる試験片(3mm×30mm)を延伸速度:8mm/分で引張り、応力―歪曲線の初期の勾配から25℃における弾性率E'を測定したところ、1.2GPaであった。
【0107】
<熱分解性樹脂組成物の層の厚み(M1/M2×100)の測定>
上記熱分解性の樹脂組成物Cを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製、テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、ガラス基板上に厚み20μmの樹脂組成物Cの層を形成する。この樹脂組成物Cの層の厚みをデジタルダイヤルゲージで測定し、それをM1とする。さらに、それを260℃の温度、大気中で、1時間加熱する。加熱後のガラス基板上の樹脂組成物Aの層の厚みをM2とする。そのM2/M1×100を算出したところ、95%であった。
【0108】
<半導体ウェハ研磨後の位置ずれ評価>
上記熱分解性の樹脂組成物Cを直径200mmのガラス基板(株式会社水戸理化ガラス社製テンパックス)上に塗布し、120℃で5分、大気中ホットプレート上で乾燥させ、前記ガラス基板上に厚み40μmの当該熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、直径200mm、厚さ725μmのシリコンウェハを荷重3.5kN、260℃、大気中、時間5分で固定する。その後、ウェハの厚さが50μmになるまでウェハの裏面研磨をした際のガラス基板とシリコンウェハとの位置ずれの有無を確認したところ位置ずれは発生していなかった。
【0109】
<シリコンウェハの脱離性評価>
上記で得られたガラス基板と薄化したシリコンウェハとの積層体において、この薄化したシリコンウェハを260℃、大気中で、ガラス基板の面方向に対してスライドするように移動させた。しかし、シリコンウェハとの接着力がなお強すぎ、シリコンウェハの完全な脱離ができず、シリコンウェハの端部に欠けが発生した。また、分離するまでの時間は、実施列1〜3と比較して、非常に長いものであった。
【符号の説明】
【0110】
1 樹脂層
2 半導体ウェハ
3 基材
4 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解性の樹脂組成物を、半導体ウェハと、基材との間に配置して、前記熱分解性の樹脂組成物を介して、前記半導体ウェハと前記基材とを固定し、積層体を形成する工程と、
前記積層体の前記半導体ウェハを加工する工程と、
前記積層体を加熱して、前記熱分解性の樹脂組成物を熱分解する工程と、
前記半導体ウェハと、前記基材とを分離する工程とを含む半導体装置の製造方法に使用される前記熱分解性の樹脂組成物であって、
以下の条件1で測定した前記熱分解性の樹脂組成物の剪断強度Aが100kPa以上、10MPa以下となり、
以下の条件2で測定した前記熱分解性の樹脂組成物の剪断強度Bが1kPa以上、100kPa未満となる熱分解性の樹脂組成物。
(条件1)
前記積層体を形成する前記工程における熱分解性の樹脂組成物を直径200mmのガラス基板上に塗布し、大気中ホットプレート上で乾燥させ、前記ガラス基板上に厚み40μmの前記熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、温度は前記熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃、大気中、時間10秒で固定する。その後、温度25℃で、前記シリコンチップが600μm/秒で前記ガラス基板に対して移動するように前記シリコンチップを押す。
(条件2)
前記積層体を形成する前記工程における熱分解性の樹脂組成物を直径200mmのガラス基板上に塗布し、大気中ホットプレート上で乾燥させ、前記ガラス基板上に厚み40μmの前記熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。この熱分解性の樹脂組成物の層上に、一辺10.5mm厚さ725μmのシリコンチップを荷重5N、温度は前記熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃、大気中、時間10秒で固定する。
その後、前記熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃の温度、大気中で、前記シリコンチップが600μm/秒で前記ガラス基板に対して移動するように前記シリコンチップを押す。
【請求項2】
請求項1に記載の熱分解性の樹脂組成物において、
前記積層体を形成する前記工程における熱分解性の樹脂組成物のフィルムにおいて、25℃における引張り弾性率E'は、10MPa以上、5GPa以下である熱分解性の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱分解性の樹脂組成物において、
以下の条件3における前記熱分解性の樹脂組成物の層の厚みをM1、以下の条件4における前記熱分解性の樹脂組成物の層の厚みをM2とした場合、
M1/M2×100が1%以上、99%以下となる熱分解性の樹脂組成物。
(条件3)
前記積層体を形成する前記工程における熱分解性の樹脂組成物を直径200mmのガラス基板上に塗布し、大気中ホットプレート上で乾燥させ、前記ガラス基板上に厚み20μmの前記熱分解性の樹脂組成物の層を形成する。
この前記熱分解性の樹脂組成物の層の厚みをM1とする。
(条件4)
条件3により得られた熱分解性の樹脂組成物の層を形成したガラス基板を、前記熱分解性の樹脂組成物の軟化点+50℃の温度、大気中で、1時間加熱する。加熱後のガラス基板上の前記熱分解性の樹脂組成物の層の厚みをM2とする。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱分解性の樹脂組成物において、
前記熱分解性の樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂からなる群から選ばれる1種以上を含む熱分解性の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱分解性の樹脂組成物において、
前記熱分解性の樹脂組成物は、ノルボルネン系樹脂を主成分として含む熱分解性の樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−126781(P2012−126781A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277927(P2010−277927)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】