説明

熱収縮性フィルム、熱収縮性ラベル、および、該ラベルを装着した容器

【課題】熱収縮性、滑性、透明性といった熱収縮性フィルムに要求される性能を阻害せずに、グラデーション図柄における印刷性を改善した熱収縮性フィルムを提供する。
【解決手段】下記(a)、(b)および(c)を備えた樹脂組成物からなる熱収縮性フィルム。
(a)少なくとも1種のビニル芳香族炭化水素−共役ジエン系ブロック共重合体:25質量部以上100質量部以下、
(b)ビニル芳香族炭化水素の重合体、及びビニル芳香族炭化水素−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体から選ばれる少なくとも1種:0質量部以上75質量部以下、
(c)下記(i)及び(ii)から選ばれる少なくとも1種の滑剤、
(i)25℃におけるイソプロピルアルコール100gに対する溶解量が4g以上20g以下である脂肪酸アマイド:(a)と(b)の総量100質量部に対して0.15質量部以上0.45質量部以下、
(ii)総炭素数が14以上24以下である脂肪酸:(a)と(b)総量100質量部に対して0.2質量部以上1.0質量部以下、

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性フィルム、熱収縮性ラベル、及び該ラベルを装着した容器に関し、詳細には、多様な印刷が施される用途において使用可能な熱収縮性フィルム、熱収縮性ラベル、及び該ラベルを装着した容器に関する。
【背景技術】
【0002】
収縮包装、収縮結束包装、プラスチック容器(ペットボトルなど)の収縮ラベル、ガラス容器の破壊飛散防止包装、キャップシール等に、熱収縮性フィルムが広く使用されている。中でも、飲料用ペットボトルのラベルには、商品名や使用上の注意等の情報伝達だけでなく意匠性を持たせるために、美麗なデザインも取り入れた多種多様な印刷が施されている。特に近年の印刷技術の向上は著しく、印刷スピードの高速化、高度なグラデーション図柄の印刷が可能となったため。最近ではグラビア印刷においてグラデーションを伴う図柄がますます頻繁に使用されるようになっている。
【0003】
飲料用ペットボトルのラベルの材質として、これまでポリ塩化ビニル(PVC)が主に使用されてきた。しかし、PVCは廃棄物処理の問題等があることから、ポリスチレンを含む共重合体を主たる材料としたポリスチレン系熱収縮性フィルムや、ポリエステル系樹脂を主たる材料としたポリエステル系熱収縮性フィルムへの置き換えが進められてきた。
【0004】
ポリスチレン系熱収縮性フィルムは、熱収縮させたときの仕上がりが良好であることから、飲料用ペットボトルに広く使用されている。しかし、近年のグラビア印刷に代表されるグラデーション図柄の印刷の増加に伴い、グラデーション図柄部分において、色の濃淡変化が滑らかにならず急激に変化し、境界線を引いたような見栄えとなる不具合(以下、この不具合を「ジャンピング」という。)が生じやすいという課題が顕在化している。
【0005】
一方、ポリエステル系熱収縮性フィルムは、高度なグラデーション図柄の印刷においてもジャンピングは生じ難い。しかしながら、ポリスチレン系熱収縮性フィルムと比較して、熱収縮させたときに収縮斑や皺が入りやすいという課題がある。
【0006】
上記ポリスチレン系熱収縮性フィルムの印刷性を改善すべく、特許文献1には、特定量のビスアミド系滑剤を配合したフィルムが提案されている。また特許文献2には、特定のポリマーと特定の飽和型のモノ脂肪酸アミドを配合したフィルムが開示されている。また特許文献3には、特定のポリマーと特定量の脂肪酸モノアマイド、並びに特定量の脂肪酸ビスアマイドを配合したフィルムが開示されている。また特許文献4には、ポリスチレン系樹脂に紫外線吸収剤と不飽和脂肪酸アミド系滑剤を特定量配合した3層構造からなるフィルムが提案されている。また特許文献5には、コロナ処理又はプラズマ処理によるインキ密着性の改善が提案されている。
【特許文献1】特開平8−90731号公報
【特許文献2】特開平10−60204号公報
【特許文献3】特開平11−228783号公報
【特許文献4】特開2002−326324号公報
【特許文献5】特開2004−1414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1から4に記載の方法では、印刷インキの密着性、耐ブロッキング性、経時的な滑性、紫外線吸収性等のバランスにおいて、ある程度効果が認められるものの、いずれもジャンピングの抑制としては不十分であった。また、特許文献5に記載の方法は、コロナ処理又はプラズマ処理の処理条件の安定化が困難であることや、処理状態の経時変化により印刷性が低下することから、好ましくない。
【0008】
そこで、本発明は、熱収縮性、滑性、透明性といった熱収縮性フィルムに要求される性能を阻害せずに、グラデーション図柄における印刷性を改善した熱収縮性フィルム、熱収縮性ラベル、および該ラベルを装着した容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題について鋭意検討した結果、シュリンクラベル用インキの溶剤として一般的に用いられるイソプロピルアルコールに対し、特定の溶解性を示す脂肪族アマイド、または、特定の脂肪酸を熱収縮性フィルムに特定量含有させることで、グラデーション図柄における印刷性が改善できることを見出した。
第1の本発明は、下記(a)、(b)および(c)を備えた樹脂組成物からなる熱収縮性フィルムである。
(a)少なくとも1種のビニル芳香族炭化水素−共役ジエン系ブロック共重合体:25質量部以上100質量部以下、
(b)ビニル芳香族炭化水素の重合体、及びビニル芳香族炭化水素−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体から選ばれる少なくとも1種:0質量部以上75質量部以下、
(c)下記(i)及び(ii)から選ばれる少なくとも1種の滑剤、
(i)25℃におけるイソプロピルアルコール100gに対する溶解量が4g以上20g以下である脂肪酸アマイド:(a)と(b)の総量100質量部に対して0.15質量部以上0.45質量部以下、
(ii)総炭素数が14以上24以下である脂肪酸:(a)と(b)総量100質量部に対して0.2質量部以上1.0質量部以下、
【0010】
第1の本発明において、(a)、(b)および(c)を備えた樹脂組成物全体の質量を100質量部として、(a)の割合は70質量部以上98質量部以下であることが好ましく、(b)の割合は2質量部以上30質量部以下であることが好ましい。こうすることで、フィルムの熱収縮特性や耐破断性を損なわない効果がより大きく、かつ、(c)成分のフィルム表面への移行がより抑制され、表面特性の低下が抑えられる。
【0011】
第1の本発明において、(a)成分としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体が挙げられ、(b)成分としては、ポリスチレン及びスチレン−ブチルアクリレート共重合体から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0012】
第1の本発明において、(i)の脂肪酸アマイドとしては、不飽和脂肪酸モノアマイドが挙げられる。不飽和脂肪酸モノアマイドは、構造的にイソプロピルアルコール等のアルコール類に溶けやすい。なお、25℃におけるイソプロピルアルコール100gに対する溶解量が4g以上20g以下である不飽和脂肪酸モノアマイドとしては、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイドが挙げられる。
【0013】
第1の本発明の熱収縮性フィルムの静止摩擦係数は、0.1以上0.6以下とすることが好ましい。こうすることで、フィルムロールとした際に、フィルムの巻きズレを防ぐことができるとともに、フィルムの変形およびブロッキングを防止することができる。
【0014】
また、第1の本発明の熱収縮性フィルムを表層に備えてなる、熱収縮性積層フィルムとすることもできる。該熱収縮性積層フィルムにおいては、第1の本発明の熱収縮性フィルムを印刷面である表層に備えていることにより、第1の本発明と同様の効果を得ることができる。
【0015】
第2の本発明は、第1の本発明の熱収縮性フィルムまたは熱収縮性積層フィルムを用いた、熱収縮性ラベルである。
第3の本発明は、第2の本発明の熱収縮性ラベルを装着した容器である。
【発明の効果】
【0016】
第1の本発明によると、(a)、(b)および(c)を備えた樹脂組成物により、熱収縮性フィルムを構成することにより、熱収縮性、滑性、透明性といった熱収縮性フィルムに要求される性能を阻害せずに、グラデーション図柄における印刷性が改善された熱収縮性フィルムとすることができる。また、熱収縮性積層フィルムは、第1の本発明の熱収縮性フィルムを表層に備えているため、第1の本発明の熱収縮性フィルムと同様の効果を得ることができる。第2の本発明の熱収縮性ラベルは、第1の本発明の熱収縮性フィルムを用いているため、グラデーションを伴う図柄に最適な熱収縮性ラベルを提供できる。また、第3の本発明の容器は、第2本発明の熱収縮性ラベルを装着しているため、鮮やかな印刷ラベルを伴う容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の熱収縮性フィルム、熱収縮性積層フィルム、熱収縮性ラベル、及び該ラベルを装着した容器について詳細に説明する。
<熱収縮性フィルム>
第1の本発明は、下記(a)、(b)および(c)を備えた樹脂組成物からなる熱収縮性フィルムである。
(a)少なくとも1種のビニル芳香族炭化水素−共役ジエン系ブロック共重合体:25質量部以上100質量部以下、
(b)ビニル芳香族炭化水素の重合体、及びビニル芳香族炭化水素−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体から選ばれる少なくとも1種:0質量部以上75質量部以下、
(c)下記(i)及び(ii)から選ばれる少なくとも1種の滑剤
(i)25℃におけるイソプロピルアルコール100gに対する溶解量が4g以上20g以下である脂肪酸アマイド:(a)と(b)の総量100質量部に対して0.15質量部以上0.45質量部以下
(ii)総炭素数が14以上24以下である脂肪酸:(a)と(b)総量100質量部に対して0.2質量部以上1.0質量部以下、
以下、各成分について詳説する。
【0018】
(a)成分
(a)成分のビニル芳香族炭化水素−共役ジエン系ブロック共重合体は、少なくとも1個、好ましくは2個以上の「ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロック」、および、少なくとも1個の「共役ジエンを含有する重合体ブロック」を備えてなる。
【0019】
該ブロック共重合体の構造について特に制約は無いが、例えば、線状構造、ラジアルブロック構造のものが使用できる。ブロック共重合体は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0020】
該ブロック共重合体のビニル芳香族炭化水素の含有量は特に限定されないが、ビニル芳香族炭化水素の含有量が、ブロック共重合体全体の質量を基準(100質量%)として、80質量%以上98質量%以下であるブロック共重合体を主成分とすることが好ましい。ここで「主成分」とは、(a)成分を構成するブロック共重合体のうち50質量%を超える成分のことを言う。ビニル芳香族炭化水素の含有量が80質量%未満では、30℃で7日保管したときの主収縮方向における自然収縮率が1.0%を越える可能性がある。自然収縮率が1.0%を越えると、フィルムを製品として保管しているうちに、製品の長さまたは幅が許容範囲を下回ってしまい、製品価値を損なう虞がある。加えて、(c)成分(滑剤)のフィルム表面への移行が顕著になり、表面特性が低下するため好ましくない。一方、ビニル芳香族炭化水素の含有量が98質量%を超えると、フィルムが脆くなって耐破断性に劣り、かつ低温での収縮性が低下するため好ましくない。
【0021】
該ブロック共重合体を構成するビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントレラセン等が挙げられる。中でも、スチレンを用いるのが一般的である。「ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロック」とは、ビニル芳香族炭化水素が50質量%を超える量で含有されているビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの共重合ブロック、または、ビニル芳香族炭化水素の単独重合体ブロックをいう。
【0022】
該ブロック共重合体を構成する共役ジエンとしては、共役2重結合を有するオレフィン類であり、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。中でも、1,3−ブタジエンを用いるのが一般的である。これらは2種以上混合して使用してもよく、他の単量体と更に共重合させてもよい。「共役ジエンを含有する重合体ブロック」とは、共役ジエンを30質量%を超える量、好ましくは50質量%を超える量含有する共役ジエンとビニル芳香族炭化水素との共重合ブロック、または共役ジエンの単独重合体ブロックをいう。
なお、共重合体ブロック中において、ビニル芳香族炭化水素は均一に分布していても、テーパー状に分布していてもよい。また、ブロック共重合体は、任意の割合で共役2重結合を水素添加処理したものであってもよい。
【0023】
(b)成分
(b)成分は、ビニル芳香族炭化水素の重合体、および、ビニル芳香族炭化水素−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体から選ばれる少なくとも1種である。ビニル芳香族炭化水素の重合体としては、前記のビニル芳香族炭化水素の単独重合体、または2種以上の共重合体が挙げられる。
【0024】
脂肪族不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、メタクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル等の炭素数C1〜C12、好ましくはC3〜C12のアルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステル誘導体が挙げられる。また、α,βジカルボン酸(例えばフマル酸、マレイン酸、イタコン酸等)とC2〜C12のアルコールとのモノまたはジエステル誘導体等が挙げられる。これらのうち、好ましいものとしては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル等が挙げられる。脂肪族不飽和カルボン酸エステルは、一種を使用して共重合体を形成してもよいし、二種以上を使用して共重合体を形成してもよい。なお、共重合体を構成するビニル芳香族炭化水素としては、(a)成分において記載したものと同様のものを使用できる。
【0025】
ビニル芳香族炭化水素−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体におけるビニル芳香族炭化水素の含有量は、特に限定されないが、共重合体全体の質量を基準(100質量%)として、好ましくは20質量%以上100質量%以下、より好ましくは50質量%以上100質量%以下である。20質量%未満とすると、フィルムの剛性が低下する虞があるため好ましくない。
【0026】
本発明において、(a)成分と(b)成分の質量比は、好ましくは(a)成分が25質量部以上100質量部以下に対して、(b)成分が0質量部以上75質量部以下であり、より好ましくは(a)成分が70質量部以上98質量部以下に対して、(b)成分が2質量部以上30質量部以下である。(a)成分が25質量部未満では、フィルムが脆くなり印刷工程等における張力でフィルムが破断しやすくなる。また、(b)成分を、より好ましい範囲である2質量部以上30質量部以下とすれば、フィルムの熱収縮特性や耐破断性を阻害せず、かつ(c)成分(滑剤)のフィルム表面への移行を抑制する効果も得られ、表面特性の低下が抑えられるためより好ましい。
【0027】
(c)成分
(c)成分は、下記(i)及び(ii)から選ばれる少なくとも1種の滑剤である。
(i)25℃におけるイソプロピルアルコール100gに対する溶解量が4g以上20g以下である脂肪酸アマイド、
(ii)総炭素数が14以上24以下である脂肪酸、
【0028】
上記脂肪酸アマイドの溶解量が4g以上であれば、本課題であるグラデーション図柄におけるジャンピングを抑制することが可能である。一方、20g以下であれば、脂肪族アマイドの良好な熱安定性を維持でき、フィルムの溶融加工時における熱分解、昇華や揮発を抑えられるため、安定した品質のフィルムを得ることができる。
【0029】
更に言えば、(i)脂肪酸アマイドとしては、構造的にイソプロピルアルコール等のアルコール類に溶けやすい不飽和脂肪酸モノアマイドがより好ましい。25℃におけるイソプロピルアルコール100gに対する溶解量が4g以上20g以下の範囲である不飽和脂肪酸モノアマイドとしては、オレイン酸アマイドやエルカ酸アマイド等が挙げられる。(i)脂肪酸アマイドは一種を単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0030】
脂肪族アマイド(i)の配合量は、(a)成分と(b)成分の総量100質量部に対して、0.15質量部以上0.45質量部以下である。0.15部未満では、本課題であるグラデーション図柄におけるジャンピングの抑制が不十分となり、0.45質量部を超えるとフィルムが滑りすぎてしまい、巻いたフィルムが横滑りしやすい。
【0031】
(ii)脂肪酸は、その分子式における総炭素数が14以上24以下の脂肪酸であり、具体的には、ミリスチン酸、パルチミン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、ガドレイン酸、エルカ酸などの不飽和脂肪酸が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0032】
総炭素数が14以上の脂肪酸であれば、脂肪酸の熱安定性があるためフィルムの溶融加工時における熱分解を抑えられ、また総炭素数が24以下である脂肪酸であれば、印刷インキへの溶解性を維持でき、グラデーション図柄の印刷性が低下することもなく好ましい。
【0033】
(ii)脂肪酸の配合量は、(a)成分と(b)成分の総量100質量部に対して、0.2質量部以上1.0質量部以下である。0.2質量部未満では、本課題であるグラデーション図柄におけるジャンピングの抑制が不十分となる。(ii)脂肪酸は、(i)脂肪酸アマイドに比べフィルムの表面滑性に与える影響は少ないことから、多量に含有させてもフィルムの摩擦係数が低下し難い。しかし、(ii)脂肪酸の配合量が1.0質量部を超えると、特に溶融加工時における昇華や揮発が顕著となり、例えば、キャスティングロール等のロール表面に堆積しやすくなる。その堆積物はフィルムに転写され、フィルムの透明性が低下する虞があるので、ロール表面の清掃を頻繁に行わなければならず、その結果、生産性が低下してしまう。
【0034】
本発明において、(i)脂肪酸アマイドの配合量と、(ii)脂肪酸の配合量は各々独立であり、少なくともどちらかの配合量が本発明における各々の範囲を満たしていれば良い。
【0035】
また、フィルム表面の静止摩擦係数は0.1以上0.6以下であることが好ましく、その上限は0.58未満であることがさらに好ましい。その範囲となるよう(i)脂肪酸アマイドと(ii)脂肪酸の配合量を調整するのが好ましい。静止摩擦係数が0.1未満では巻いたフィルムが横滑りして巻きズレが発生しやすく、0.6を超えると巻いたフィルムを縦積みで保管した際に局所的な荷重がかかり、変形したりブロッキングしたりするため好ましくない。
【0036】
(他の添加成分)
本発明において、前述の(a)、(b)、および(c)以外に、本発明の特性を阻害しない範囲で、他の樹脂や熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、核剤、難燃剤、着色剤等の添加剤を加えてもよい。特に滑剤について、(c)成分が前述の範囲内で含有されていれば、その特性を阻害しない範囲内で、本発明において対象としない脂肪酸アミドや他の滑剤を併用してもよく、例えば、25℃におけるイソプロピルアルコール100gに対する溶解量が4g未満の飽和脂肪族ビスアマイドとの併用は、加熱時の耐ブロッキング性がより向上したり、押出加工時の加工滑性付与に役立つ場合がある。
【0037】
<熱収縮性積層フィルム>
第1の本発明の熱収縮性フィルムは、単層フィルムであってもよいし、該単層フィルムを表層に備えてなる積層フィルムであってもよい。積層フィルムの場合、前記(a)、(b)および(c)を備えた樹脂組成物からなる層が表層に配置される態様のものが好ましい。かかる態様であれば、グラデーション図柄が前記樹脂組成物層からなる表層に印刷されるため、優れた印刷適性が得られる。積層させるフィルムの材質や層の数には特に制限がなく、本発明のフィルムと同質の材料であっても異質の材料であってもよい。異質の材料としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。しかし、透明性、層間の接着性並びに生産性の観点から、同質の材料で構成されるのが好ましい。また、熱収縮性フィルムからなる最表層の厚さについては特に制限はないが、全層の厚さに対して5%以上であれば厚み比率が安定し、フィルムの特性が安定しやすいので好ましい。
【0038】
第1の本発明の熱収縮性フィルムの透明性については、ヘーズ値が2%以上12%以下であるのが好ましい。ヘーズ値が2%以上であれば、耐ブロッキング性に優れるため好ましく、またヘーズ値が12%以下であれば、PETボトル用ラベルとして用いた際に、意匠性を維持でき商品価値が損なわれることはないため好ましい。
【0039】
<熱収縮性フィルム、熱収縮性積層フィルムの製造方法>
第1の本発明の熱収縮性フィルムは、前述の(a)、(b)および(c)からなる混合物を、一軸押出機、または二軸(同方向、異方向)押出機によって溶融押出してシートまたはフィルムを作製し、更に少なくとも1軸に延伸して製造される。混合物は、ヘンシェルミキサー等の公知の方法で作製しても良いし、押出機で溶融してペレット化しても構わない。押出方法としては、Tダイ法、チューブラ法等の公知の方法を採用しても良い。また、積層フィルムを製造する場合、共押出や、単層毎に押し出した後に重ね合わせる方法等を採用することができる。
【0040】
溶融押出されたシートまたはフィルムは、冷却ロール、空気、水等で冷却された後、熱風、温水、赤外線等の適当な方法で再加熱され、ロール法、テンター法、チューブラ法等により、少なくとも1軸に延伸される。延伸温度は、熱収縮性フィルムを構成する各樹脂の軟化温度や、要求される特性によって変える必要があるが、概ね60℃以上130℃以下、好ましくは70℃以上120℃以下の範囲で制御される。延伸温度が60℃以上であれば延伸時にシートやフィルムが破断することもなく、また130℃以下であれば、良好な収縮特性が得られるため好ましい。
【0041】
主収縮方向における延伸倍率は特に制限されるものではないが、2倍以上8倍以下の範囲が好ましい。主収縮方向の延伸倍率が2倍以上であれば良好な収縮特性が得られ、また8倍以下であれば、安定した延伸が可能であるため好ましい。また、本熱収縮性フィルムをPETボトル用ラベルとして用いる場合、熱収縮率は80℃において20%以上70%以下の範囲にあるのが好ましい。収縮率が20%以上であれば、収縮時に高温にする必要はなく、容器や内容物に悪影響を与える恐れが少ないため好ましい。一方、収縮率が70%以下であれば、収縮させたときに発生する皺や斑を少なくし、印刷時に溶剤等によりフィルムが幅方向に収縮して、印刷後に実施するスリット加工工程において、規定幅でスリットできないという不具合が発生も抑えられるため好ましい。また、熱収縮フィルム全体の厚さは10μm以上100μm以下が好適である。
【0042】
また第1の本発明の熱収縮性フィルムは、必要に応じてコロナ処理、印刷、コーティング、蒸着等の表面処理や表面加工、さらには、各種溶剤やヒートシールによる製袋加工やミシン目加工などを施すことができる。
【0043】
第1の本発明の熱収縮性フィルムは、被包装物によってフラット状から円筒状等に加工して包装に供される。ペットボトル等の円筒状の容器で印刷を要するものの場合、まずロールに巻き取られた広幅のフラットフィルムの一面に必要な画像を印刷し、そしてこれを必要な幅にカットしつつ印刷面が内側になるように折り畳んでセンターシール(シール部の形状はいわゆる封筒貼り)して円筒状とすれば良い。センターシール方法としては、有機溶剤による接着方法、ヒートシールによる方法、接着剤による方法、インパルスシーラーによる方法が考えられる。この中でも、生産性、見栄えの観点から有機溶剤による接着方法が好適に使用される。
【0044】
<熱収縮性ラベル及び該ラベルを装着した容器(第2、3の本発明)>
第1の本発明の熱収縮性フィルムは、印刷適性に優れているため、印刷層を形成して用いられるが、必要に応じて蒸着層、その他の機能層を形成することにより、ボトル(ブローボトル)、トレー、弁当箱、総菜容器、乳製品容器等の様々な成形品として用いることができる。特に第1の本発明の熱収縮性フィルムを食品容器(例えば清涼飲料水用または食品用のPETボトル、ガラス瓶、好ましくはPETボトル)用熱収縮性ラベル(第2の本発明)として用いる場合、複雑な形状(例えば、中心がくびれた円柱、角のある四角柱、五角柱、六角柱など)であっても該形状に密着可能であり、シワやアバタ等のない美麗なラベルが装着された容器が得られる。第3の本発明の容器は、通常の成形法を用いることにより作製することができる。
【0045】
第1の本発明の熱収縮性フィルムは、優れた印刷適性とともに、収縮特性、収縮仕上がり性を有するため、高温に加熱すると変形を生じるようなプラスチック成形品の熱収縮性ラベル素材(第2の本発明)のほか、熱膨張率や吸水性等が本発明の熱収縮性フィルムとは極めて異なる材質、例えば金属、磁器、ガラス、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種を構成素材として用いた包装体(容器)の熱収縮性ラベル素材として好適に利用できる。
【0046】
第2の本発明の熱収縮性ラベルが利用できるプラスチック製容器を構成する材質としては、前記の樹脂の他、ポリスチレン、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−ブチルアクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、(メタ)アクリル酸−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。これらのプラスチック製容器は2種以上の樹脂類の混合物でも、積層体であってもよい。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、実施例に示す測定値及び評価は、次の通り実施した。
【0048】
<評価方法>
(グラデーション図柄の印刷適性評価)
日商グラビア社製のグラビア校正機「CM型」を用いて、次の通りグラデーション図柄の印刷を行い、ジャンピング(グラデーション図柄部分において、色の濃淡変化が滑らかにならず急激に変化し、境界線を引いたような見栄えとなる不具合)の発生の程度を評価した。
(1)インキ:大日精化工業社製「OS−M794墨」と希釈溶剤である「OS−M No.4」とを、23℃雰囲気下における粘度がザーンカップ♯3で25秒以上30秒以下となるよう調製し、印刷インキとした。
(2)グラデーション版:ナベプロセス社製の幅150mm、円周407mmのグラデーション版を使用した。
(3)試料:主収縮方向を幅方向とし、幅120mm、長さ700mmにフィルムを切り出して試料とした。
(4)印刷:日商グラビア社製のグラビア校正機「CM型」を用い、印刷速度は25m/min以上30m/min以下として試料にグラデーション図柄の印刷を行い、印刷後は室温で自然乾燥させた。
(5)評価:インキが完全に乾燥した後、以下の基準で、グラデーション図柄におけるジャンピングの程度を目視評価した。
○:ジャンピングがあまり確認できない。
×:はっきりとジャンピングが確認できる。
【0049】
(静止摩擦係数)
JIS K 7125に準じ、印刷する面同士の静止摩擦係数を測定した。測定の方向は、主収縮方向と直行する方向(MD方向)とし、3回測定してその平均値を求めた。
【0050】
(ヘーズ)
JIS K 7105に準じ、各試料について3回測定し、その平均値をヘーズ値とした。
【0051】
(収縮率)
主収縮方向が長くなるように、幅10mm、長さ140mmの大きさにフィルムを切り取り、かつ100mm間隔となる標線を入れて試料とした。その試料を80℃の温水に10秒間浸漬し、その後すばやく冷水で冷却してから標線間A(mm)の寸法を計測した。その寸法より、熱収縮率を次式で算出した。
収縮率(%)=(100−A)/100×100
【0052】
(自然収縮率)
フィルムの主収縮方向に500mm間隔となる標線を入れ、30℃の雰囲気の恒温槽に7日間放置後、標線間の長さB(mm)を測定し、次式により自然収縮率(%)を算出した。
自然収縮率(%)=(500−B)/500×100
【0053】
実施例、比較例に使用した原材料を表1に示す。なお、表1に記載された略号を用いて、以下説明する。
【0054】
【表1】

【0055】
(ビニル芳香族炭化水素含有率)
表1における各原材料のビニル芳香族炭化水素含有率は、NMR(核磁気共鳴装置)により測定した。中層については、スチレン−ブタジエンブロック共重合体それぞれについてNMRで測定し、その混合比率より混合物としてのビニル芳香族炭化水素の含有率を算出した。
【0056】
<実施例1〜5、比較例1〜5>
表1記載の原材料を用いて、表2の通り単層フィルムを作製し、得られたフィルムの特性を評価した。すなわち、各原材料の混合物を押出機で溶融して、Tダイにて押出し、その溶融体をキャストロールで冷却し厚さ250μm〜300μmの未延伸フィルムを得た。更にこの未延伸フィルムを流れ方向(MD)に1.0倍〜1.5倍延伸後、その直角方向(TD)に4倍〜6倍延伸し、50μmの単層フィルムを作製した。このとき、主収縮方向はTD方向である。
【0057】
【表2】

【0058】
<実施例6〜8、比較例6〜10>
表1記載の原材料を用いて、表3の通り積層フィルム(中層と表裏層の3層)を作製し、得られたフィルムの特性を評価した。すなわち、表裏層と中層の各原材料を別々の押出機で溶融してTダイにて共押出し、その溶融体をキャストロールで冷却し厚さ250μm〜300μmの未延伸フィルムを得た。更にこの未延伸フィルムを流れ方向(MD)に1.0倍〜1.5倍延伸後、その直角方向(TD)に4倍〜6倍延伸し、50μmの積層フィルムを作製した。このとき、主収縮方向はTD方向である。
【0059】
【表3】

表3において、表裏層の割合(%)とは、「表裏層の和/積層フィルム全体の層厚」により算出した値である。
【0060】
<結果>
表2ならびに表3より、本発明の範囲内である熱収縮性フィルムは、グラデーション図柄における印刷性が良好であり、かつ熱収縮性、滑性、透明性のバランスに優れていることがわかった。
これに対し、特定の溶解性の示す脂肪族アマイドまたは特定の脂肪酸を特定量含有していないフィルムは、グラデーション図柄においてジャンピングが確認され、印刷性に劣ることがわかった。
【0061】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う熱収縮性フィルム、熱収縮性積層フィルム、熱収縮性ラベル、および、容器もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)、(b)および(c)を備えた樹脂組成物からなる熱収縮性フィルム。
(a)少なくとも1種のビニル芳香族炭化水素−共役ジエン系ブロック共重合体:25質量部以上100質量部以下、
(b)ビニル芳香族炭化水素の重合体、及びビニル芳香族炭化水素−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体から選ばれる少なくとも1種:0質量部以上75質量部以下、
(c)下記(i)及び(ii)から選ばれる少なくとも1種の滑剤、
(i)25℃におけるイソプロピルアルコール100gに対する溶解量が4g以上20g以下である脂肪酸アマイド:(a)と(b)の総量100質量部に対して0.15質量部以上0.45質量部以下、
(ii)総炭素数が14以上24以下である脂肪酸:(a)と(b)総量100質量部に対して0.2質量部以上1.0質量部以下、
【請求項2】
前記(a)の割合が70質量部以上98質量部以下であり、前記(b)の割合が2質量部以上30質量部以下である請求項1に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項3】
前記(a)がスチレン−ブタジエンブロック共重合体であり、前記(b)がポリスチレン及びスチレン−ブチルアクリレート共重合体から選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項4】
前記(i)の脂肪酸アマイドが、不飽和脂肪酸モノアマイドである、請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性フィルム。
【請求項5】
静止摩擦係数が0.1以上0.6以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮性フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性フィルムを表層に備えてなる、熱収縮性積層フィルム。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性フィルムまたは請求項6に記載の熱収縮性積層フィルムを用いた、熱収縮性ラベル。
【請求項8】
請求項7に記載の熱収縮性ラベルを装着した容器。

【公開番号】特開2010−24401(P2010−24401A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190132(P2008−190132)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】