説明

熱収縮性ポリエステル系フィルム、並びにこのフィルムを用いた熱収縮性ラベル及び容器

【課題】熱収縮性と収縮仕上がりが良好であり、さらに耐熱性に優れたフィルムであって、特に印刷、チュービング加工工程における耐破断性に優れる熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供する。
【解決手段】脂環式ジカルボン酸成分と脂環式ジオール成分とから得られるポリエステル系樹脂(A)を、ポリエステル系樹脂組成物に対して5質量%以上含み、80℃の温水に10秒間浸漬した後、23℃の水で30秒間浸漬冷却したときの主収縮方向の熱収縮率が20%以上であり、所定の短冊形状の試験片を複数切り出し、主収縮方向と直交する方向に引張試験したときの破断伸度が全試験片において400%以上であり、かつ、温度45℃、相対湿度30%の雰囲気下に2週間保管した後の破断伸度が100%以上である試験片が全試験片数の80%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、さらに詳しくは、特に印刷時やチュービング加工時の耐破れ性に優れ、また、熱収縮後の白化や収縮ムラ、しわ、歪み、縦引け等の不良の発生が少なく、かつ耐熱性にも優れた熱収縮性ポリエステル系フィルム、このフィルムを用いた熱収縮性ラベル及びこのラベルを装着した容器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ポリエチレンテレフタレート容器、ポリエチレン容器、ガラス容器等の収縮包装や収縮ラベル等の用途に、熱収縮性プラスチックフィルムが広く用いられている。この熱収縮性プラスチックフィルムの種類としては、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリエステル系フィルム等の延伸フィルムが挙げられる。しかし、ポリ塩化ビニル系フィルムに関しては、耐熱性が低く、焼却時に塩化水素ガスを発生し、焼却炉を損傷し易い等の問題があった。また、ポリスチレン系フィルムに関しては、収縮後の仕上がり外観性に優れているが、耐溶剤性に劣る等の問題があった。
【0003】
また、ポリエステル系フィルムは透明性が良好で、衛生性に優れ、剛性が高い等の優れた性能を有する。しかし、温度上昇に伴い、収縮率が急激に増大する等の問題があり、凹凸の大きい容器等を被覆した場合、被覆が不十分であったり、しわ等が発生したりして、仕上がりが良くない等の問題があった。
【0004】
これに対し、所定の熱収縮率と破断伸度を有するポリエステル系フィルムを用いることにより、しわ、歪み、縦引け等の不良の発生を抑制することができることが知られている(特許文献1等参照)。しかし、特許文献1等に記載されているような、1方向に収縮する一軸製膜品においては、主収縮方向に直交する方向(熱収縮性フィルム製造・加工工程における流れ方向)に速度を上げて加工した際にフィルムが破断し易いという問題があった。特に、一軸製膜品における印刷工程やチュービング加工工程において、一旦破断の問題が生じてしまうと、復旧に時間を要するため、印刷、チュービング工程における生産性向上が大きな課題とされていた。
【0005】
【特許文献1】特開2003−41028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、収縮特性及び収縮仕上がりが良好であり、かつ耐熱性に優れた(融着開始温度が高い)フィルムであって、機械的性質の経時劣化が少なく、印刷、チュービング時の耐破れ性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することにある。
【0007】
本発明のもう一つの課題は、収縮仕上がり性が良好で、外観仕上がりが綺麗な熱収縮性ラベル、及び該ラベルを装着した容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、熱収縮性ポリエステル系フィルムの収縮仕上がり性と耐破れ性の両立につき鋭意検討を重ねた結果、多価カルボン酸成分として、脂環式ジカルボン酸成分、多価アルコール成分として、脂環式ジオール成分を用いたポリエステル系樹脂を5質量%以上含むポリエステル系樹脂組成物を用いることによって加熱時の主収縮方向の収縮率が特定範囲内にあって、かつ、印刷、チュービング時に破断が発生しない耐破断性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルムが得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の課題は、脂環式ジカルボン酸成分と脂環式ジオール成分とから得られるポリエステル系樹脂(A)を含むポリエステル系樹脂組成物から得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムであり、前記ポリエステル系樹脂組成物に対する前記ポリエステル系樹脂(A)の含有率が5質量%以上であり、80℃の温水に10秒間浸漬した後、23℃の水で30秒間浸漬冷却したときの主収縮方向の熱収縮率が20%以上であり、主収縮方向の長さが15mm、主収縮方向と直交する方向の長さが100mmである短冊形状の試験片を複数切り出し、主収縮方向と直交する方向について、チャック間距離20mm、温度23℃、引張速度200mm/分で引張試験したときの破断伸度が全試験片において400%以上であり、かつ、温度45℃、相対湿度30%の雰囲気下に2週間保管した後、前記と同じ形状に切り出した複数の試験片を、前記と同じ条件で引張試験をしたときの破断伸度が100%以上である試験片が全試験片数の80%以上であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム(以下「本発明のフィルム」という。)によって達成される。
【0010】
本発明のフィルムは、前記ポリエステル系樹脂(A)と、テレフタル酸−エチレングリコール単位を65モル%以上97モル%以下含有するポリエステル系樹脂(B)とからなるポリエステル系樹脂組成物から得られ、前記ポリエステル系樹脂(A)と前記ポリエステル系樹脂(B)との混合比が、質量%で、A/B=5/95乃至99/1であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のフィルムは、脂環式ジカルボン酸成分が1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であり、脂環式ジオール成分が1,4−シクロヘキサンジメタノールであることが好ましい。
【0012】
また、本発明のもう一つの課題は、上記熱収縮性ポリエステル系フィルムを基材として用いた熱収縮性ラベル、及びこの熱収縮性ラベルを装着した容器により達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフィルムは、収縮特性が良好であるため、優れた収縮仕上がり性を有し、熱収縮性フィルムを用いた印刷、チュービング工程において、破断トラブルが少なく、高速加工が可能である。
【0014】
また、本発明のフィルムは、多価カルボン酸成分として脂環式ジカルボン酸成分、多価アルコール成分として脂環式ジオール成分からなるポリエステル系樹脂を、樹脂全体の質量に対して少なくとも5質量%含むことにより、適度な耐溶剤性を保ちつつ耐破れ性を向上させることができ、溶剤を用いた印刷、チュービング工程において高速で加工することができる。さらに耐熱性(融着開始温度)も向上することから、本発明によれば、加温用途ラベルにも最適な熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供できる。
【0015】
また、本発明の熱収縮性ラベル及び容器は、本発明のフィルムを基材としているため、本発明によれば、収縮仕上がりが良好で、耐破れ性に優れた、外観が綺麗な熱収縮性ラベル及び容器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルム、熱収縮性ラベル、及びこのラベルを装着した容器について詳細に説明する。
【0017】
[熱収縮性ポリエステル系フィルム]
本発明のフィルムは、多価カルボン酸成分として脂環式ジカルボン酸成分、多価アルコール成分として脂環式ジオール成分から得られるポリエステル系樹脂(A)を、本発明のフィルムを構成するポリエステル系樹脂組成物全体の質量に対して5質量%以上を含む。
【0018】
上記脂環式ジカルボン酸成分とは、ポリエステル系樹脂としたときに、ジカルボン酸残基を構成する成分をいい、脂環式ジカルボン酸や脂環式ジカルボン酸エステル等があげられる。また、脂環式ジオール成分とは、ポリエステル系樹脂としたときに、ジオール残基を構成する成分をいい、脂環式ジオール等があげられる。
【0019】
一般に、脆化によるフィルムの破断は、温度や湿度による脆化に加え、溶剤による脆化劣化も一つの要因となっていることが知られている。通常、溶剤による脆化劣化を防ぐためには、高い耐溶剤性を有するポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。しかし、高い耐溶剤性を有するポリエステル系樹脂はそれ自体が脆いため、かかる樹脂からなるフィルムは元々破断しやすいという問題があった。
【0020】
そこで本発明では、このような欠点を解消するために、前記ポリエステル系樹脂組成物中にポリエステル系樹脂(A)が5質量%以上含まれれば、適度な耐溶剤性を保ちつつ耐破れ性を向上させることができる。その結果、本発明のフィルムは、溶剤を用いた印刷及びチュービング加工工程において、破断トラブルが少なく、高速加工が可能である。本発明のフィルムは、好ましくはポリエステル系樹脂(A)を7質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上を含む。ポリエステル系樹脂(A)の含有率の上限は特に制限はなく、100重量%でもよいが、他の樹脂を混合する場合には、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。
【0021】
また、本発明のフィルムは、80℃温水に10秒間浸漬後、23℃の水で30秒間浸漬冷却したときの主収縮方向の熱収縮率が20%以上である。この熱収縮率20%以上という条件は、良好な熱収縮特性を得、ペットボトルやガラス瓶など容器等への包装した後に良好な収縮仕上がりを得るために必要な条件であり、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。一方、熱収縮率が高すぎると、フィルムにしわや歪みなどが発生して収縮仕上がりが悪くなってしまうことから熱収縮率の上限は70%程度であることが好ましい。
【0022】
また、本発明のフィルムは、低温収縮性を向上させる観点からは、70℃の温水中に10秒間浸漬した後に23℃の水で30秒間浸漬冷却したときの主収縮方向の熱収縮率は10%以上、好ましくは20%以上であり、35%以下、好ましくは30%以下であることが望ましい。70℃における主収縮方向の熱収縮率を10%以上とすることにより、蒸気シュリンカーでボトル装着を行う際に、局部的に発生し得る収縮ムラを抑え、結果的にシワ、アバタ等の形成を抑えることができる。また、70℃における熱収縮率の上限を35%以下とすることにより、低温における極端な収縮を抑えることができ、例えば、夏場などの高温環境下においても自然収縮を小さく維持することができる。また70℃温水中で10秒間浸漬したときのフィルムの主収縮方向と直交する方向の熱収縮率は10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
なお、本明細書において「主収縮方向」とは、フィルムの縦方向(長手方向)とフィルムの横方向(幅方向)のうち熱収縮率の大きい方向を意味し、例えば、ボトルに装着する場合にはその外周方向に相当する方向を意味し、「直交方向」とは主収縮方向と直交する方向を意味する。
【0024】
本発明のフィルムは、主収縮方向の長さが15mm、主収縮方向と直交する方向の長さが100mmである短冊形状の試験片を複数切り出し、主収縮方向と直交する方向について、チャック間距離20mm、温度23℃、引張速度200mm/分で引張試験したときの破断伸度が全試験片において400%以上であり、温度45℃、相対湿度30%の雰囲下に2週間保管した後、前記と同じ短冊形状に切り出した複数の試験片を、前記と同じ条件で引張試験をした時の破断伸度が100%以上である試験片が全試験片数の80%以上である。これにより、耐破れ性を向上させることができる。一方、上記破断伸度の上限は、1000%以下、好ましくは900%以下、より好ましくは800%である。1000%を超える破断伸度を有するフィルムは得難いからである。
【0025】
また、本発明のフィルムは、インキ塗布後に上記と同様の方法で引張試験したときの破断伸度が、全試験片において400%以上であり、温度45℃、相対湿度30%の雰囲下に3日間保管した後、前記と同じ形状に切り出した複数の試験片を、前記と同じ条件で引張試験をした時の破断伸度が100%以上である試験片が全試験片数の80%以上であることが好ましい。かかる条件下での破断伸度を満足するものが全試験片数の80%以上であれば、印刷時において本発明のフィルムに高い耐破断性を付与できる。一方、上記破断伸度の上限は、1000%以下、好ましくは900%以下、より好ましくは800%である。1000%を超える破断伸度を有するフィルムは得難いからである。
【0026】
本発明のフィルムの耐溶剤性と耐破断性を向上させたい場合には、ポリエステル系樹脂(A)と組み合わせるべき樹脂(例えば、ポリエステル系樹脂(B))の種類により多少異なるが、フィルムを構成する樹脂全体に対するポリエステル系樹脂(A)の含有率を増加させることにより達成できる。
【0027】
なお、本明細書において、「温度45℃、相対湿度30%の雰囲気下に2週間」という保管条件は、経時的な破断伸度(耐破断性)を評価するための試験において、通常の保管温度上限である25℃と比べて保管温度が高く、極めて厳しい条件である。かかる条件での保管後の引張試験における破断伸度が100%以上である試験片が全試験片数の80%以上であることは、熱収縮性フィルムの印刷、チュービング工程において、強度が強く、破断トラブルがほとんどなくなって、薄肉化や高速加工が可能であり、また、製造後も破れの問題のない熱収縮性ポリエステル系フィルムとなり得る。すなわち、本発明のフィルムは、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造から熱収縮性フィルムの製造・加工、容器への包装までの各段階で、時間が経過しても破断トラブルを少なくし、生産性を向上させることができる。この効果は、破断伸度100%以上の値である試験片が100%に近くなるほど良好であり、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0028】
また、本明細書において、「破断伸度が100%以上である試験片が全試験片数の80%以上である」とは、試験片数5枚以上、好ましくは10枚以上で行った場合に4枚以上(10枚で行った場合には8枚以上)が破断伸度100%以上の数値を示すことを意味する。
【0029】
ポリエステル系樹脂(A)の多価カルボン酸成分としての脂環式ジカルボン酸成分は特に限定されず、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、又はそれらのエステル誘導体が挙げられる。シクロヘキサンジカルボン酸には、シス体とトランス体の立体配置があるが、シス体100%からトランス体100%までのいずれの範囲のものであってもよく、シス体−トランス体の全ての組み合わせが含まれる。これらのうち、熱収縮性と耐熱性の観点から、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸又はそのエステル誘導体が好ましく、トランス体が20%以上100%以下、特に80%以上100%以下である1,4−シクロヘキサンジカルボン酸又はそのエステル誘導体がさらに好ましい。
【0030】
また、ポリエステル系樹脂(A)の多価アルコール成分としての脂環式ジオール成分は特に限定されず、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール等を例示でき、これらの中で1,4−シクロヘキサンジメタノールが特に好ましい。シクロヘキサンジメタノールには、シス体とトランス体の立体配置があるが、シス体100%からトランス体100%までのいずれの範囲のものであってもよく、シス体−トランス体の全ての組み合わせが含まれる。これらのうち、耐熱性の観点から、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく、トランス体が50%以上100%以下である1,4−シクロヘキサンジメタノールがさらに好ましい。
【0031】
ポリエステル系樹脂(A)は、上記のように脂環式ジカルボン酸成分と脂環式ジオール成分とからなるため、適度な結晶性による耐溶剤性の向上と適度なガラス転移点(Tg)とを有する。ポリエステル系樹脂(A)は、得られる熱収縮性フィルムに耐熱性を付与する観点から、示差走査熱量分析計(DSC)で測定されるTgが60℃以上であることが好ましい。一方、上限は特に制限はないが、成形の容易性の観点からは80℃以下であることが望ましい。ポリエステル系樹脂(A)のTgは、ポリエステル系樹脂(A)を280℃で5分間溶融し、次いで液体窒素中で浸漬して急冷させ、非結晶化したものを試料とし、昇温速度20℃/分でDSCを用いて測定することができる。
【0032】
本発明のフィルムは、上記のように脂環式ジカルボン酸成分と脂環式ジオール成分とからなるポリエステル系樹脂(A)を、前記ポリエステル系樹脂組成物全体の質量に対して少なくとも5質量%含むことが必要であるが、さらにテレフタル酸−エチレングリコール単位を65モル%以上97モル%以下含有するポリエステル系樹脂(B)を含むことができる。
【0033】
ポリエステル系樹脂(B)を含有させる場合、フィルムを構成する樹脂中のポリエステル系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)との混合比は、質量%で、A/B=5/95乃至99/1、好ましくは7/93乃至95/5、さらに好ましくは10/90乃至90/10であることが望ましい。ポリエステル系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)との質量%比を5/95乃至99/1の範囲にすることにより印刷時のインキ密着性を保ちつつ、印刷時の耐破断性を向上させることができるため好ましい。
【0034】
ポリエステル系樹脂(B)を構成する多価カルボン酸成分は、芳香族ジカルボン酸成分を主成分として含むものが好ましい。芳香族ジカルボン酸成分を構成する芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、フェニレンジオキシジ酢酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸又はこれらのエステル誘導体を例示できる。これらの中でもテレフタル酸を用いた場合に高い結晶性を示し、熱収縮性ポリエステル系フィルムに十分な強度を確保させることができるため特に好ましい。
【0035】
なお、本明細書において、「主成分」とは、ポリエステル系樹脂を構成する全ジカルボン酸成分又は全ジオール成分に含まれるジカルボン酸又はジオールにおいて、全ジカルボン酸成分又は全ジオール成分の合計100モル%に対して50モル%以上、好ましくは60モル%以上の含有率を占める成分をいう。
【0036】
本発明のフィルムで用いられるポリエステル系樹脂(B)は、上述したジカルボン酸又はそのエステル誘導体以外の多価カルボン酸を、本発明の効果を損なわない範囲で共重合されていてもよい。かかる多価カルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸及びこれらのエステル誘導体を例示できる。
【0037】
また、本発明のフィルムで用いられるポリエステル系樹脂(B)を構成する多価アルコール成分は、脂肪族ジオールを主成分とすることが好ましい。かかる脂肪族ジオールとしては、具体的に、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等を例示でき、中でもエチレングリコールと1,4−シクロヘキサンジメタノールが好適に用いられる。
【0038】
上記ポリエステル系樹脂(B)は、多価アルコール成分として、ジエチレングリコールを適量共重合させることもできる。ジエチレングリコールは、ポリエステル系樹脂(B)のTgを下げ、ポリエステル系樹脂(B)を原料として用いたフィルムに適度な収縮特性を付与できるため有用である。
【0039】
さらに、上記ポリエステル系樹脂(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホンなどから誘導される芳香族ジオール;グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などから誘導されるヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸;ステアリン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などから誘導される単官能基を有するジオール;トリカルバリル酸、ヘキサントリカルボン酸、トリメリト酸、トリメシン酸、ピロメリト酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,6−ヘキサントリオール、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ジペンタエリスリトール、ポリグリセロールなどから誘導される3官能以上の多官能基を有するジオールが共重合されていてもよい。
【0040】
上記ポリエステル系樹脂(B)は、多価カルボン酸成分がテレフタル酸であり、かつ多価ジオール成分がエチレングリコールである場合、テレフタル酸−エチレングリコール単位を65モル%以上、好ましくは70モル%以上であり、かつ97モル%以下、好ましくは90モル%以下であることが望ましい。テレフタル酸−エチレングリコール単位が65モル%以上含まれれば、腰があり収縮仕上がりのよい熱収縮性フィルムを得ることができる。また、前記単位が97モル%以下であれば、印刷性を向上することができ、好ましい。
【0041】
本発明で使用されるポリエステル系樹脂(A)及び(B)は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(質量比1対1)の混合溶媒中30℃で測定した固有粘度が、通常0.4dl/g以上、好ましくは0.6dl/g以上であり、かつ1.5dl/g以下、好ましくは1.2dl/g以下の範囲であることが望ましい。ポリエステル系樹脂の固有粘度が0.4dl/g以上であれば、十分な機械的特性が得られ、また固有粘度が1.5dl/g未満であれば、良好な成形性が得られる。
【0042】
本発明のフィルムで用いられる上記ポリエステル系樹脂(A)及び(B)は、ポリエステル系樹脂の慣用の製造方法、すなわち、直接重合法、エステル交換法などの製造方法を用い、回分式、連続式などの方式によって製造することができる。
【0043】
重縮合反応により得られた樹脂は、通常、重縮合反応槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷しながら若しくは水冷後、カッターで切断されてペレット状とされる。さらに、この重縮合後のペレットを加熱処理して固相重縮合させることにより、さらに高重合度化させ得ると共に、反応副生物のアセトアルデヒドや低分子オリゴマー等を低減化することもできる。
【0044】
前記製造方法において、エステル化反応は、必要に応じて、例えば、三酸化二アンチモンや、アンチモン、チタン、マグネシウム、カルシウム等の有機酸塩や有機金属化合物等のエステル化反応触媒を使用して行うことができ、エステル交換反応は、必要に応じて、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、チタン、亜鉛等の有機酸塩や有機金属化合物等のエステル交換反応触媒を使用することができる。
【0045】
また、重縮合反応は、例えば、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸、及びこれらのエステルや有機酸塩等の燐化合物の存在下、及び、例えば、三酸化二アンチモン、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等の金属酸化物、あるいは、アンチモン、ゲルマニウム、亜鉛、チタン、コバルト等の有機酸塩や有機金属化合物等の重縮合触媒を使用して行うことができる。
【0046】
これらの重縮合触媒のうち、特に、テトラブトキシチタン、三酸化二アンチモン、二酸化ゲルマニウムから選択される1種以上が好適に使用される。さらに、重合過程での消泡を促進するため、シリコーンオイル等の消泡剤を添加することもできる。触媒量は、エステル化反応触媒、エステル交換反応触媒、及び重縮合触媒とも、得られるポリエステル系樹脂の理論収量に対して、金属量(原子換算量)として通常5質量ppm以上2000質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以上500質量ppm以下の範囲で用いられる。
【0047】
本発明のフィルムは、後述のように公知の方法で作製することができ、その際、少なくともポリエステル系樹脂(A)を、フィルムを構成する樹脂全体の質量に対して5質量%となるようにポリエステル系樹脂(B)をブレンドして用いなくてはならない。
但し、上記ポリエステル系樹脂(B)の多価カルボン酸成分及び多価アルコール成分をポリエステル系樹脂成分としてフィルム中に含有させるための方法としては、所望の組成となるようにそれら各成分を配合し共重合を行って、単一のポリエステル系樹脂を得る共重合方式と、異なる組成のホモポリエステルあるいは共重合ポリエステルである複数の原料ポリエステル樹脂を準備し、これらを所望の組成となる比率で混合してポリエステル系樹脂を得るブレンド方式とのいずれの方法であってもよい。これらのうち、ブレンド方式は、ブレンド比率を変更するだけでフィルムの組成を容易に変更でき、多品種のフィルムの工業生産にも対応できるという利点がある。
【0048】
本発明のフィルムは、熱収縮性フィルムにした際に、フィルムに耐ブロッキング性及び易滑性を付与し得るという点から、無機及び/又は有機の微粒子を含有していることが好ましい。該微粒子の含有量はポリエステル系樹脂の全質量に対して、0.005質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.02質量%以上であり、かつ1質量%以下、好ましくは0.6質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下の範囲であることが望ましい。
【0049】
無機微粒子としては、具体的には、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、弗化リチウム、カーボンブラック、及びポリエステル重合時のアルカリ金属、アルカリ土類金属、燐化合物等の触媒等に起因する析出物等が挙げられる。また有機微粒子としては、例えば、各種架橋ポリマー等が挙げられる。
【0050】
上記有機又は無機微粒子の平均粒子径は、前述した耐ブロッキング性及び易滑性の効果を得る観点から、0.5μm以上、好ましくは1.0μm以上であり、かつ10μm以下、好ましくは8μm以下、さらに好ましくは5μm以下の範囲であることが望ましい。
なお、ここでいう「平均粒子径」とは、レーザー回折法、動的光散乱法等の電磁波散乱法、遠心沈降式等の光透過法などの方法で測定した50%体積平均粒子径(d50)を意味するが、測定方法によって差異が生じる場合は、レーザー回折法による値を用いる。
【0051】
上記有機又は無機微粒子の混合方法は特に限定されず、ポリエステル系樹脂の重合過程で添加することもできるし、ポリエステル系樹脂組成物の製造過程や、熱収縮性ポリエステル系フィルムの成形過程で混合することもできる。
【0052】
本発明のフィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに他の樹脂を混合していてもよい。例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,これらの無水マレイン酸変性物,アイオノマー等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0053】
さらに、本発明のフィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、亜リン酸エステル系、チオエーテル系の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系等の光安定剤、無機系または有機系の結晶核剤、分子量調整剤、耐加水分解剤、帯電防止剤、滑材、離型剤、可塑剤、難燃剤、難燃補助剤、発泡剤、着色剤、分散助剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0054】
本発明のフィルムの製造は、従来公知の方法で行うことができ、特に限定されないが、例えば前記ポリエステル系樹脂の混合物をあらかじめ200℃以上300℃以下の温度で溶融押出し、カッティングしてペレット状とし、次いで該ペレットを200℃以上300℃以下の温度で溶融押出し、熱収縮性フィルムの製造を行うこともできる。また、前記ポリエステル系樹脂又は前記樹脂混合物を200℃以上300℃以下の温度で溶融押出し、直接、熱収縮性フィルムを製造することもできる。
【0055】
押出し方法としては、特に限定されず、Tダイ法、チューブラー法等を用いることができる。Tダイ法の場合には、押出し後、表面温度が15℃以上80℃以下のキャスティングドラム上で急冷し、厚さ30μm以上300μm以下の未延伸フィルムを形成する。そして、加熱縦延伸ロールを使用し、ロール温度60℃以上120℃以下、好ましくは60℃以上100℃以下、延伸倍率1.0倍以上1.3倍以下、好ましくは1.0倍以上1.1倍以下の条件下、未延伸フィルムを延伸する。次いで、テンターを使用し、延伸温度60℃以上120℃以下、好ましくは70℃以上100℃以下、延伸倍率1.7倍以上7.0倍以下、好ましくは3.0倍以上6.0倍以下の条件下で、上記の一軸延伸フィルムを延伸した後、55℃以上100℃以下、好ましくは70℃以上95℃以下の温度で熱処理して巻き取る。ここで、上記の延伸温度及び熱処理温度については、80℃の温水に10秒間浸漬した後、23℃の水で30秒間浸漬冷却した時の主収縮方向の熱収縮率が20%以上、好ましくは40%以上70%以下の範囲となるように適宜決めればよい。
【0056】
なお、製膜の原料としてはリサイクル原料を使用することもできる。すなわち、本発明のフィルムに好適に用いることのできるポリエステル系樹脂(A)、あるいはポリエステル系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)との混合樹脂を原料としてシート、フィルム、繊維、成形容器、ボトル等を成形加工する際に発生する端材、あるいは本発明に係るポリエステル系樹脂組成物を一旦溶融してペレット状にしたものも原料として用いることができる。
【0057】
本発明のフィルムの厚さは10μm以上、好ましくは20μm以上であり、かつ100μm以下、好ましくは80μm以下の範囲であることが好ましい。フィルムの厚さが10μm以上であれば、二次加工が容易であるという利点があり、またフィルムの厚さが100μm以下であれば、良好なフィルムの加工性を維持することができる。
【0058】
本発明のフィルムの耐熱性は、融着する温度(融着開始温度)により評価することができる。ホットウォーマー用やホットベンダー用のPETボトルにおいては、局所的にボトルに装着したラベルが高温にさらされ、相互に融着することがある。これを防止するため、本発明のフィルムの融着開始温度は、90℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることがさらに好ましい。一方、融着開始温度の上限は180℃である。180℃を超えると、PETボトルが熱により変形するおそれがあるからである。
【0059】
フィルムの耐熱性の向上は、上記ポリエステル系樹脂組成物全体に対するポリエステル系樹脂(A)の含有率を増加させることにより達成することができる。
【0060】
本発明のフィルムは、80℃の温水中で10秒間浸漬した後、23℃の水で30秒間浸漬冷却したときの直交方向の熱収縮率は10%以下、好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下であることが望ましい。上記温度範囲で直交方向の熱収縮率が10%以下であれば、ラベル成形時におけるラベル垂直方向のひけの発生を抑えることができるとともに、80℃付近の温度範囲で収縮斑やしわの発生を抑え、収縮特性と商品価値を向上させることができる。
【0061】
本発明のフィルムの主収縮方向及び直交方向の自然収縮率は、例えば、30℃で30日保存後において2.0%以下、好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下であることが望ましい。上記条件下における自然収縮率が2.0%であれば、本発明のフィルムは長期保存した場合においても容器等に安定して装着することができ、実用上問題を生じにくい。
【0062】
本発明のフィルムの透明性は、例えば、厚み50μmのフィルムをJIS K7105に準拠して測定した場合、ヘーズ値は10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。ヘーズ値が10%以下であれば、フィルムの透明性が得られ、ディスプレー効果を奏することができる。
【0063】
[成形品、熱収縮性ラベル及び容器]
本発明のフィルムは、フィルムの収縮仕上がり性、耐熱性、耐破れ性等に優れているため、その用途が特に制限されるものではないが、必要に応じて印刷層、蒸着層その他機能層を形成することにより、ボトル(ブローボトル)、トレー、弁当箱、総菜容器、乳製品容器等の様々な成形品として用いることができる。特に本発明のフィルムを食品容器(例えば清涼飲料水用又は食品用のポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略する。)ボトル、ガラス瓶、好ましくはPETボトル)用熱収縮性ラベルとして用いる場合、耐熱性を有するため加温用ラベル付容器として、さらに複雑な形状(例えば、中心がくびれた円柱、角のある四角柱、五角柱、六角柱など)であっても該形状に密着可能であり、シワやアバタ等のない美麗なラベルが装着された容器が得られる。本発明の成形品及び容器は、通常の成形法を用いることにより作製することができる。
【0064】
本発明のフィルムは、優れた収縮特性、収縮仕上がり性、耐破れ性等を有するため、高温に加熱すると変形を生じるようなプラスチック成形品の熱収縮性ラベル素材のほか、熱膨張率や吸水性等が本発明の熱収縮性フィルムとは極めて異なる材質、例えば金属、磁器、ガラス、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種を構成素材として用いた包装体(容器)の熱収縮性ラベル素材として好適に利用できる。
【0065】
本発明のフィルムが利用できるプラスチック包装体を構成する材質としては、上記の樹脂の他、ポリスチレン、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−ブチルアクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、(メタ)アクリル酸−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。これらのプラスチック包装体は2種以上の樹脂類の混合物でも、積層体であってもよい。
【実施例】
【0066】
次に、本発明のフィルム、熱収縮性ラベル及び容器を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
各実施例及び比較例で用いるポリエステル系樹脂の組成分析及び固有粘度の測定は以下の方法で行った。
【0067】
(ポリエステル系樹脂の組成分析)
ポリエステル系樹脂溶液試料を、核磁気共鳴装置(NMR)によりHをモニターすることにより分析し、ジカルボン酸成分に関しては全ジカルボン酸成分に対するモル%を、ジオール成分に関しては全ジオール成分に対するモル%を求めた。
【0068】
(固有粘度(dl/g)の測定)
ポリエステル系樹脂約0.25gを、フェノール/テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒約25mlに1.0質量%となるように110℃で溶解させた後、30℃まで冷却し、全自動溶液粘度計((株)センテック製「2CH型DJ504」)にて30℃で測定した。
【0069】
各実施例及び比較例で製造される熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、以下の方法で評価を行った。
(評価方法)
(1)熱収縮率
各実施例及び比較例で得られたフィルムを、延伸方向(主収縮方向)に150mm、これに対する直交方向に10mmの大きさに切り取り、試料を作製した。試料の延伸方向に100mm間隔の標線を付し、80℃の温水浴に10秒間浸漬させ、その後30秒間23℃の冷水に浸漬した後の標線間隔(D)を測定し、下式(1)により80℃収縮率を算出した。
「80℃収縮率」(%)=100×(100−D)/100 ・・・式(1)
【0070】
(2)収縮仕上がり
各実施例及び比較例で得られたフィルムを延伸方向が円周方向となるよう円筒状にし、水を充填した500mLのペットボトルにフィルムをかぶせて、80〜90℃に調整した蒸気シュリンクトンネルを5秒間通過させた後の収縮状態を観察し、以下の基準で判定した。
○:収縮ムラやしわの無いきれいな外観
△:収縮ムラやしわが僅かにある外観
×:収縮ムラやしわが著しい外観
【0071】
(3)破断伸度
各実施例及び比較例で得られたフィルムを、延伸方向(主収縮方向)の長さ15mm、延伸方向と直交する方向の長さ100mmの短冊形状に切り出した10枚の試験片を、延伸方向と直交する方向について、チャック間距離20mm、温度23℃、引張速度200mm/分で引張試験を行った。
【0072】
(4)経時破断
各実施例及び比較例で得られたフィルムを、A4の大きさに切り出し、タバイエステック社製恒温恒湿器PR−2KT中に45℃、30%RHの条件で2週間暗所保管した。その後、保管したA4サイズの試料より延伸方向(主収縮方向)の長さ15mm、延伸方向と直交する方向の長さ100mmの短冊形状に切り出した10枚の試験片を、延伸方向と直交する方向について、チャック間距離20mm、温度23℃、引張速度200mm/分で引張試験を行い、破断なく100%以上伸びる本数を数え、10本中に占める本数の割合を%で表示した。80%以上のものを合格とした。
【0073】
(5)インキ塗布後の経時破断
各実施例及び比較例で得られたフィルムを、A4の大きさに切り出し、片面に大阪インキ社製NSV銀インキ、反対面に大阪インキ社製メジウムインキをヨシミツ精機社製:試験用バーコーター(型式4)を用いて1回塗布した その後、タバイエステック社製恒温恒湿器:PR−2KT中に45℃、30%RHの条件で3日間暗所保管した。その後、保管したA4サイズの試料より延伸方向(主収縮方向)の長さ15mm、延伸方向と直交する方向の長さ100mmの短冊形状に切り出した10枚の試験片を、延伸方向と直交する方向について、チャック間距離20mm、温度23℃、引張速度200mm/分で引張試験を行った。破断なく100%以上伸びる本数を数え、10本中に占める本数の割合を%で表示した。80%以上のものを合格とした。
【0074】
(6)融着開始温度
フィルムを延伸方向(主収縮方向)の長さ60mm、延伸方向と直交する方向の長さ300mmに切り出し、2枚のフィルムを重ねてテスター産業(株)製「TP−701−A型ヒートシールテスター」にて測定した。温度設定を70〜180℃の範囲で5℃刻みで行い、各温度で圧力0.1MPa、1分間加圧後、融着の有無を確認し、融着が生じる最低温度である融着開始温度を求めた。
【0075】
(7)印刷時破断性
フィルムを延伸方向(主収縮方向)の長さ500mm、延伸方向と直交する方向の長さ1000mに切り出し、該フィルムの片面に大阪インキ社製NSV銀色インキ、反対面に大阪インキ社製NSVメジウムインキをそれぞれ150m/分の速度でベタ印刷を行った。フィルム1000m中において、破断が発生しなかったものは○、1回発生したものは△、2回以上発生したものは×とした。
【0076】
次に、各実施例及び比較例で用いた原料ポリエステル系樹脂について、以下説明する。
(1)ポリエステル系樹脂1(PET1)
以下に記載する製造例1の方法にて、ポリエステル系樹脂1を製造した。該ポリエステル系樹脂1について、上述の方法で組成分析を行った結果、ジカルボン酸成分が1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(以下、「CHDA」と略記する。)であり、ジオール成分が1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下、「CHDM」と略記する。)であるポリエステル系樹脂であった。また、該ポリエステル系樹脂1の固有粘度を上記方法で測定した結果、0.98dl/gであった。
【0077】
(製造例1)
攪拌機、留出管、加熱装置、圧力計、温度計及び減圧装置を装備し、容量が100リットルのステンレス製反応器に、CHDA(トランス体:シス体の比率が96:4)101.5質量部、CHDM(トランス体:シス体の比率が69:31)87質量部、及びテトラ−n−ブチルチタン6質量%のブタノール溶液0.005質量部を仕込み、反応器内を窒素ガスで置換した。反応器内を窒素ガスでシールしながら、内温を30分間で150℃に昇温し、さらに150℃から200℃まで1時間をかけて昇温した。次いで、200℃の温度で1時間保持してエステル化反応を行った後、200℃から250℃へ45分間で昇温しつつ、反応器内の圧力を徐々に減圧しながら重縮合反応を行った。反応機内圧力を絶対圧力0.1kPa、反応温度を250℃として3.3時間維持し、重縮合反応を終了した。重縮合反応終了後、得られたポリエステル系樹脂を水中にストランド状に抜き出し、切断してペレット化した。その後、同様の操作を7回繰り返し、得られたペレットをブレンダーにより攪拌し、2.2トンのポリエステル系樹脂1(PET1)を得た。
【0078】
(2)ポリエステル系樹脂2(PET2)
イーストマン・ケミカル社製「EMBRACE Copolyester」を使用した。該ポリエステル系樹脂2(PET2)について、上述の方法で組成分析を行った結果、ジカルボン酸成分がテレフタル酸(以下「TPA」と略記する。)であり、ジオール成分は、エチレングリコール(以下「EG」と略記する。)が全ジオールに対して72モル%、CHDMが全ジオールに対して20モル%、ジエチレングリコール(以下、「DEG」と略記する。)が全ジオールに対して8モル%であるポリエステル系樹脂であった。また、このPET2の固有粘度を上記方法で測定した結果、0.83dl/gであった。
【0079】
(3)ポリエステル系樹脂3(PET3)
三菱化学(株)製「NOVAPEX:GS400」をポリエステル系樹脂3(PET3)として使用した。このPET3の組成を上記方法で分析した結果、ジカルボン酸成分がTPAであり、ジオール成分は、全ジオール中、98モル%がEGであり、2モル%がDEGであった。また、PET3の固有粘度を上記方法で測定した結果、0.71dl/gであった。
【0080】
(4)ポリエステル系樹脂4(PET4)
三菱化学(株)製「NOVAPEX PS600」をポリエステル系樹脂4(PET4)として使用した。このPET4の組成を上記方法で分析した結果、ジカルボン酸成分は、全ジカルボン酸中70モル%がTPAであり、30モル%がイソフタル酸であり、またジオール成分は、全ジオール中、98モル%がEGであり、2モル%がDEGであった。また、PET4の固有粘度を上記方法で測定した結果、0.72dl/gであった。
【0081】
(実施例1)
ポリエステル系樹脂(A)として、ポリエステル系樹脂PET1が5質量%、ポリエステル系樹脂(B)として、ポリエステル系樹脂PET2が95質量%となるように配合し、次いでポリエステル系樹脂(A)及びポリエステル系樹脂(B)の合計100質量部に対し、無機微粒子として合成シリカ(富士シリシア化学社製「サイシリア320」)を0.1質量部加え混合した後、東芝機械製「TEM58mm」押出機により、幅300mmのTダイ口金から、真空ベントを引きつつ時間吐出量200kgにて冷却ロール上に270℃にて押出し、幅250mm、厚さ0.25mmのシートを得た。その後、上記シートを連続式横延伸機(テンター)にて、延伸温度84℃でキャスティング押出方向に対して、垂直方向に4.5倍延伸を行い、さらに92℃にて熱処理を行うことで厚さ50μm、巾1100mmの熱収縮性フィルムを得た。その後フィルム中央部500mmにおいて該熱収縮性フィルムの評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例2〜6、及び比較例1〜4)
表1に示す配合量にてポリエステル系樹脂(A)、又はポリエステル系樹脂(A)及び(B)を配合し、延伸温度を及び熱処理温度をそれぞれ表1に示す温度に変更した以外は実施例1と同様に熱収縮性フィルムを作製した。得られたフィルムにつき、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1より、実施例1〜6のフィルムでは印刷時に破断は全く発生せず、また加工後の外観も綺麗であった。これに対し比較例1〜4のフィルムでは、印刷時に破断が発生したり、加工後に外観不良を発生したりした。
これより、本発明のフィルムは、加工時及び印刷時の耐破断性に優れ、収縮仕上がりと生産性に優れた熱収縮性フィルムであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のフィルムは、加工時及び印刷時の耐破断性に優れ、収縮仕上がりと生産性に優れた熱収縮性フィルムであるため、各種の熱収縮性ラベル、特に加温用熱収縮性ラベル用途及びそのラベルを装着した容器として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式ジカルボン酸成分と脂環式ジオール成分とから得られるポリエステル系樹脂(A)を含むポリエステル系樹脂組成物から得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムであり、
前記ポリエステル系樹脂組成物に対する前記ポリエステル系樹脂(A)の含有率が5質量%以上であり、
80℃の温水に10秒間浸漬した後、23℃の水で30秒間浸漬冷却したときの主収縮方向の熱収縮率が20%以上であり、
主収縮方向の長さが15mm、主収縮方向と直交する方向の長さが100mmである短冊形状の試験片を複数切り出し、主収縮方向と直交する方向について、チャック間距離20mm、温度23℃、引張速度200mm/分で引張試験したときの破断伸度が全試験片において400%以上であり、
かつ、温度45℃、相対湿度30%の雰囲気下に2週間保管した後、前記と同じ短冊形状に切り出した複数の試験片を、前記と同じ条件で引張試験をしたときの破断伸度が100%以上である試験片が全試験片数の80%以上であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
前記ポリエステル系樹脂組成物は、前記ポリエステル系樹脂(A)と、テレフタル酸−エチレングリコール単位を65モル%以上97モル%以下含有するポリエステル系樹脂(B)とからなり、
前記ポリエステル系樹脂(A)と前記ポリエステル系樹脂(B)との混合比が、質量%で、A/B=5/95乃至99/1である請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
前記脂環式ジカルボン酸成分が1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であり、前記脂環式ジオール成分が1,4−シクロヘキサンジメタノールである請求項1又は2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムを基材として用いた熱収縮性ラベル。
【請求項5】
請求項4に記載の熱収縮性ラベルを装着した容器。

【公開番号】特開2006−348152(P2006−348152A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175421(P2005−175421)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】