説明

熱収縮性積層フィルム

【課題】高熱収縮性でありながら適度な熱収縮応力でタイトに美麗に仕上がりつつ、機密性に優れたヒートシール性で、バリア性、耐ピンホール性にも優れ、更に耐アルコール白化性、防曇性にも優れているバリアフィルムを提供する。
【解決手段】特定ゲル分率である変性ポリオレフィン系樹脂からなる一方の表面層、ポリアミド系樹脂層、バリア層としてエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層、変性ポリオレフィン系樹脂からなる接着層、エチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂からなる他方の表面層の5層からなる延伸フィルムであり、特定の熱収縮率及び熱収縮応力を兼ね揃えている積層フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装機による包装に適し、主にガスバリア性が必要なトレーパック等の食品包装分野に使用するのに好適な熱収縮性積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
被包装体をシュリンク方式でタイトに包装する包装機には、ガスパック包装機等様々あり、一般にピローシュリンク型のガスパック包装機が汎用されている。
近年、食品類の包装において、プラスチック製の発泡トレーや成型トレー等に精肉類、魚介類、和菓子類、惣菜等を詰めて包装されており、特に食品の長期保存、常温保存を目的としたガスパック包装機のメーカーが多くある。
これらの連続包装機では、まず、被包装体を筒状に覆う工程があり、次に回転ローラー式のセンターヒートシール装置にて、被包装体の裏面にシール線がくるように合掌シールしながら筒にして送る。続いて、被包装体を包んでいるそのフィルム筒の前後をノコ刃状のカッターでカットしながら、フィルム筒の前後を閉じるようにヒートシールする工程がある。そのシールをする直前に、窒素ガスや炭酸ガスのように食品の保存、鮮度保持を目的として、その食品等に応じた混合ガスを吹き込む装置があり、包装体系内のガス置換を行う。その後、コンベアで熱風シュリンクトンネルを通過させ、包装フィルムを熱収縮させて更にタイトに仕上げる。連続包装機の包装スピードは、従来1分間に約20〜40個包装する速度であったが、近年の高速の連続包装機になると1分間に約60〜100個包装するものもある。その為、使用される包装フィルムには、その包装スピードでもタイトに美麗に包装を仕上げられるように対応できる熱収縮特性が強く求められるのである。
【0003】
バリア性の良い樹脂とヒートシール性の良い樹脂を積層してバリアフィルムを製造しようとすると、それぞれの樹脂の好適な延伸温度が異なるため、積層フィルムの延伸性が悪く、特に高倍率延伸できないという問題があった。その結果、低倍率の延伸しかできないため、薄膜化が困難であり、連続包装機での熱風シュリンクトンネルでは、熱収縮性も非常に悪くなり、タイトな仕上がりが得られなかった。
更には被包装物が軟弱な物、或いは容器の場合、バリア性の良い樹脂、特にポリアミド系樹脂層を有するフィルムを延伸すると、特有の強い熱収縮応力で被包装物を変形させるという問題が発生することが多かった。
【0004】
又、包装体を集積し配送等の輸送をすると、輸送による振動で、梱包しているダンボールの内壁、トレーの内壁、隣の包装体等と擦りあって、ピンホールが発生することが多かった。
したがって、ガスパック連続包装機、特にピロー包装シュリンク型の包装機に使用するフィルムに求められる主な特性は、下記のようなものが挙げられる。
1)ガスバリア性があること。
2)高熱収縮性でタイトに美麗に仕上がり、適度な熱収縮応力で内容物を変形させな
いこと。
3)ヒートシールにおいて漏れなく気密性があること。
4)輸送等において耐ピンホール性に優れること。
5)トレーパック用途において冷蔵の際でも水滴で曇らず内容物の視認性が良いこと。
6)アルコール消毒、除菌、殺菌している場合に、フィルムが白化しないこと。
【0005】
使用する包装フィルムには、従来、バリア性の樹脂であるポリアミド系樹脂と、ヒートシール性のあるポリオレフィン系樹脂とを積層したフィルムが知られている。
例えば、特許文献1には、ポリアミド系樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる層が、接着性樹脂層を介しポリオレフィン系樹脂と積層してなる延伸フィルムが開示されている。このフィルムは、低熱収縮応力の点では優れており、収縮後の容器変形については好ましいが、最低でも6層の構成となるので押出条件等が複雑化され、また表面層が架橋されておらず耐熱性が無い為に、ヒートシール方式によってはシールバーに熱融着し、連続包装機適性が問題となり、それを補う好適な熱収縮性のフィルムはこれまでなかった。
【特許文献1】特許第3418204号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ガスパックやシュリンク連続包装機等に好適に使用でき、タイトで美麗に仕上がり、優れたバリア性、ヒートシール性、耐ピンホール性及び、耐アルコール性を持つバリア性フィルムを提供すること、それに加えて防曇性が必要なトレーパック包装等にも適したフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成する為に鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記の通りである。
1.変性ポリオレフィン系樹脂層、ポリアミド系樹脂層、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層、変性ポリオレフィン系樹脂層、エチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂層の順で隣接して配置された5層からなり、以下の(1)〜(3)を特徴とする熱収縮性積層フィルム。
(1)一方の表面層である変性ポリオレフィン系樹脂層のゲル分率が2〜60%であること。
(2)140℃におけるフィルムの流れ方向、巾方向共に熱収縮率が20〜80%であること。
(3)140℃におけるフィルムの流れ方向、巾方向共に最大熱収縮応力が0.5〜4.0MPaであること。
2.変性ポリオレフィン系樹脂層が酸変性ポリエチレン系樹脂であることを特徴とする1.に記載の熱収縮性積層フィルム。
3.他方の表面層のエチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂層にグリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤が0.5〜5.0重量%添加されていることを特徴とする1.に記載の熱収縮性積層フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層フィルムは、タイトに美麗に仕上がり、バリア性、ヒートシール性、耐ピンホール性、及び耐アルコール性に優れており、それに加えて防曇性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、一方の表面層から、変性ポリオレフィン系樹脂層、ポリアミド系樹脂層、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層、変性ポリオレフィン系樹脂層の順で隣接しており、他方の表面層にエチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂層が配置された5層からなる熱収縮性積層フィルムである。
本発明において、一方の表面層には、主にアルコールによるフィルムの白化抑制の役割を付与するため、変性ポリオレフィン系樹脂を配置する。変性ポリオレフィン系樹脂とは、エチレンやプロピレンに、例えば、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸又はその酸無水物、エステル等の誘導体を共重合、又はグラフト重合して変性した樹脂等である。中でも、電離性放射線を照射した際に架橋しやすく、ゲル分率が得られ易い酸変性ポリエチレンが好ましく、マレイン酸変性、無水マレイン酸変性の樹脂が延伸後の接着強度も強いためより好ましい。
【0010】
変性ポリオレフィン系樹脂のJIS−K−7210に準じて測定するメルトフローレートの値(230℃、2.16kgf)は、高熱収縮率が得られる点で、0.5〜9.0が好ましく、更に光沢、透明性が高い点で1.0〜6.0がより好ましい。
一方の表面層の全層に対する厚み比率は、耐ピンホール性の向上、アルコール白化抑制の理由で5〜30%が好ましく、5〜15%がより好ましい。
本発明に使用する一方の表面層である変性ポリオレフィン系樹脂層は、ゲル分率が2〜60%であり、電離性放射線照射により架橋されていることが好ましい。ゲル分率が2〜60%になるよう架橋することにより、包装時に包装紙のシールバーに溶融付着せず、更に耐磨耗、耐ピンホール性に優れるフィルムとなる。黄ばみの発生防止、透明性の観点から、ゲル分率は5〜40%が好ましい。
【0011】
変性ポリオレフィン系樹脂からなる一方の表面層に、脂肪酸アミド系滑剤が0.05〜0.50重量%添加されていると、包装体の外側の滑り性が良好となり、梱包やトレー輸送の際の、集合箱の内側、例えばダンボールやプラスチック等との摩擦による耐ピンホール性が向上するため好ましい。0.1〜0.3重量%添加されていると、透明性が損なわれないためより好ましい。
本発明において、フィルムに主に耐ピンホール性を付与するために、ポリアミド系樹脂層を内層に配置する。ポリアミド系樹脂としては、ナイロン−6、ナイロン−12等の脂肪族ポリアミド系重合体樹脂、ナイロン−6,66、ナイロン−6,12等の脂肪族ポリアミド系共重合体樹脂、ナイロン−6,66,12等の脂肪族3元共重合体樹脂、ポリメタキシリレンアジパミド(MXDナイロン)等の芳香族ポリアミド系重合体樹脂等が挙げられ、その中でもナイロン−6,66共重合体樹脂は高熱収縮性が得られる点で好ましい。また、これらの樹脂に非晶性のナイロンを5〜40重量%混合すると高熱収縮性、適度な熱収縮応力が得られる点で好ましい。
【0012】
ポリアミド系重合体樹脂の、JIS−K7121に準じて示差走査式熱量計(DSC)で測定する融解温度(Tm)は、高熱収縮性が得られる点で120〜260℃が好ましく、130〜240℃がより好ましい。その中でも155〜225℃のものが更に高熱収縮性が得られ、より適度な低熱収縮応力となるのでさらに好ましい。
ポリアミド系樹脂層の全層に対する厚み比率は、高熱収縮性が得られる点で5〜40%が好ましく、更に低熱収縮応力が得られる点で5〜30%がより好ましい。
本発明において、主に酸素や臭い物質等の透過を防ぐ、或いは遅延させる役割を付与するために、バリア層としてエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層を配置する。エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中のエチレン含有量は35〜50mol%が好ましく、42〜48mol%がより好ましい。エチレン含有量が35〜50mol%の範囲であれば、ポリオレフィン系樹脂と積層しても高熱収縮性が得られる。
【0013】
エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂のJIS−K−7210に準じて測定するメルトインデックスの値(190℃、2.16kgf)は、均一な厚み分布のフィルムが得られる等の理由により1.0〜5.0が好ましく、1.5〜4.0がより好ましい。
バリア層であるエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層の全層に対する厚み比率は、高熱収縮性が得られる点で5〜25%が好ましく、更に低熱収縮応力が得られる点で7〜20%がより好ましい。
本発明の熱収縮性積層フィルムのバリア性には、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂のエチレン含有率や酢酸ビニルのケン化率、バリア層の厚み等の影響が大きいが、実使用の尺度として酸素透過率で評価すると、45cc/m/day以下であれば、内容物によって保存性も異なるが、数日から数週間の賞味期限を保証するミドルバリア包装の流通市場で使用できるので好ましい。25cc/m/day以下であれば、数週間から数ヶ月の賞味期限を保証するハイバリア包装の流通市場で使用できるのでより好ましい。
【0014】
本発明で使用するエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層と、他方の表面層で使用するエチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂との接着層として、変性ポリオレフィン系樹脂層を配置する。変性ポリオレフィン系樹脂としては、一方の表面層と同じ樹脂であっても異なる樹脂であってもよい。変性ポリオレフィン系接着性樹脂は、エチレンやプロピレンに、例えば、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸又はその酸無水物、エステル等の誘導体を共重合、又はグラフト重合して変性した樹脂等が挙げられ、エチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂との接着強度が強い酸変性ポリエチレン系樹脂が好ましく、延伸後の接着強度も強いためマレイン酸変性、無水マレイン酸変性のポリエチレン系樹脂がより好ましい。
【0015】
変性ポリオレフィン系樹脂のJIS−K−7210に準じて測定するメルトフローレートの値(230℃、2.16kgf)は、高熱収縮率が得られる点で0.5〜9.0が好ましく、更に好適な熱収縮応力が得られる点で2.0〜6.0がより好ましい。
接着性樹脂層の全層に対しての層厚み比率は、接着性が向上する点で3〜20%が好ましく、更に高熱収縮性、適度な熱収縮応力が得られる点で4〜15%がより好ましい。
ポリアミド系樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂との良好な積層延伸性、及び気密性の高いヒートシール性を両立させるための他方の表面層には、エチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂を使用する。その中でも、JIS−K7121に準じて示差走査式熱量計(DSC)で測定する最大融解ピーク温度(Tm)が85〜125℃であるエチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂が、気密シール性が良好であるため好ましい。更にTmが100〜121℃のものは、表面層同士の融着もなく透明性が非常に良いためより好ましい。
【0016】
連続包装機において、フィルムをシュリンクトンネルを通過させて熱収縮を行う工程では、短時間で強固に熱溶着するヒートシール性が必須となる。良好なヒートシール性を与えるという観点から、エチレン−α−オレフィン系共重合体の密度の範囲は0.900〜0.920g/cmが好ましく、透明性及び気密ヒートシール性をより向上させる上で0.910〜0.918g/cmがより好ましい。
エチレン−α−オレフィン系共重合体のJIS−K−7210に準じて測定するメルトインデックスの値(190℃、2.16kgf)は、高熱収縮率が得られる点で0.5〜7.0が好ましく、更に好適な熱収縮応力が得られる点で1.0〜4.0がより好ましい。
【0017】
エチレン−α−オレフィン系共重合体には、シングルサイト系触媒、又はマルチサイト系触媒と呼ばれる触媒を用いて重合するものが一般的であるが、その中でもシングルサイト系触媒により重合されたものが好ましい。さらに、エチレンコモノマー、ブテンコモノマー、ヘキセンコモノマー、及びオクテンコモノマーから選ばれるいずれか一つのコモノマーとの共重合体が、一般に樹脂メーカーも多く入手し易いのでより好ましい。
シール層である他方の表面層の全層に対する厚み比率は、より良好な気密シール性、及び高熱収縮性が得られる点で、30〜60%が好ましく、40〜50%がより好ましい。
他方の表面層で使用する樹脂には、40重量%以下の範囲で他の樹脂を混合することができる。他の樹脂として、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、高圧法低密度ポリエチレン、石油樹脂、水添テルペン系樹脂等が挙げられる。これらを混合する場合、防曇剤等の界面活性剤との混練性、透明性、柔軟性等の物性を付与することができ、エチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂の量が60重量%以上あれば気密シール性が良好である。
【0018】
本発明のフィルムに防曇性を付与するため、エチレン−α−オレフィン系共重合体からなる他方の表面層にグリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤を添加することが好ましい。グリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤は、グリセリンの重合度、脂肪酸の種類、或はエステル化度を変えることにより、親水性、親油性を調節することができる。
グリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤としては、ジグリセリンオレート(モノオレート、ジオレート、トリオレート混合体等)、ジグリセリンラウレート、グリセリンモノオレートを主成分としたもの、或はそれらの混合物を主成分としたものが、フィルムの滑り性、光学特性を阻害し難く、使い勝手が良いのでより好ましい。
【0019】
防曇剤の添加量としては、防曇性を発現させるために他方の表面層であるエチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂層に0.5〜5.0重量%添加するのが好ましく、良好な滑り性、及び高い透明性を与える上で1.0〜3.0重量%添加するのがより好ましい。
更に上記グリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤以外の界面活性剤、酸化防止剤、帯電防止剤、石油樹脂、ミネラルオイル等の液体添加剤を、防曇性を損なわない程度に添加してもよい。
本発明のフィルムを用いて包装する際に好適な熱収縮特性を得るためには、140℃において、熱収縮率が20〜80%であり、かつ最大熱収縮応力が0.5〜4.0MPaであることが必要である。140℃に設定した理由は、収縮包装分野において、フィルムの収縮を行わせるシュリンクトンネルの温度が一般的に140℃近辺であるからである。熱収縮率、及び最大熱収縮応力の測定方法については後述する。
【0020】
熱収縮率については、140℃においてのフィルムの流れ(MD)方向、巾(TD)方向共に熱収縮率が20〜80%であり、この範囲であると、四角型等の被包装体の場合にタイトな仕上がりが得られる。さらに、丸型のような被包装体でもタイトに仕上げられる点で25〜80%が好ましく、シール線付近の小皺もなくなるため35〜80%がより好ましい。
熱収縮応力については、140℃においてのフィルムのMD方向、TD方向共に熱収縮応力が0.5〜4.0MPaであり、この範囲であると、発泡ポリスチレントレーのような比較的柔らかい容器の包装に用いても容器の変形が少ない。辺が長く、反ったりし易い容器でも変形が極めて少ない点で0.5〜2.0MPaが好ましい。更にわずかなシュリンクトンネル通過時間で俊敏に収縮し、高速連続包装機で使用した際でもタイトに美麗に仕上がるので1.0〜2.0MPaがより好ましい。
【0021】
本発明の熱収縮率、熱収縮応力を有する積層ガスバリア性フィルムを製造するには、延伸工程が必須となる。ガスバリア層のみ、或いは表面層のみならば延伸は容易であるが、積層フィルムとした場合、それぞれの層の延伸温度条件が異なるため、安定に所定の倍率における延伸が可能な積層構成を発見することは非常に困難である。
ポリアミド系樹脂やエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂からなるフィルムは一般に高ガスバリア性であるが、延伸性が非常に悪いため、高熱収縮率を得ることが非常に困難である。また、ポリアミド系樹脂からなるフィルムは高熱収縮性と低熱収縮応力を両立させることが非常に困難である。近年では、延伸性が改質されたエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂も市販されているが、他の素材のフィルムと積層して延伸し、高熱収縮率フィルムを得るには、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂の改質だけでは困難である。一方、シュリンク包装用フィルムに用いるポリアミド系樹脂として、低融点の共重合体ナイロンが開発されている。
【0022】
本発明の熱収縮性積層フィルムを製膜する方法の一例を説明する。
まずペレット状の樹脂を、溶融押出により樹脂の融点以上を目安にして高温で、5台の押出機から5層同時に押出し、ポリマーパイプ、ダイスを介してチューブ状に連続押出成形し、これを水冷により冷却固化する。
次に、一方の表面層の変性ポリオレフィン系樹脂に電離性放射線を照射し、特定ゲル分率に架橋する。架橋処理の方法は種々あるが、本発明ではα線、β線、γ線、中性子線、電子線等の電離放射線の照射により架橋する方法が好ましい。
架橋することにより、延伸後のヒートセット工程において、熱ロール接触式のヒートセット装置を使用する際に、該表面層が加熱ロールとの融着等によるフィルムの表面光沢の低下を防止することができる。
【0023】
照射量は、フィルムの透明性、耐ピンホール性、引裂強度が良好である点で20〜150kGyが好ましく、適度な低熱収縮応力が得られる点で40〜100kGyがより好ましい。
次にチューブ状のフィルムを延伸工程へと導く。延伸は上記フィルムの熱収縮特性に大きく影響を及ぼす。本発明の積層フィルムの延伸倍率は、高熱収縮性、低熱収縮応力、生産安定性の面から流れ方向(MD)、巾方向(TD)共に2.5〜6.0倍が好ましく、3.5〜5.0倍がより好ましい。
延伸方法にはテンター法、バブルインフレーション法等様々な延伸方法があるが、バブルインフレーション法による延伸が、透明性が良くなるため好ましい。使用しているエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂の延伸温度で、ポリアミド系樹脂層、両表面層を積層しても安定して延伸を行うためには、MD方向、TD方向へほぼ同時に二軸延伸を行うことが好ましい。
【0024】
延伸温度は、表面を接触式温度計で実測した温度を用いる。本発明の積層フィルムはバリア層としてエチレン−ビニルアルコール共重合体を使用しており、一般にはその融点より約50℃低い温度、即ち90〜130℃程度の温度で延伸することが好ましく、その温度範囲ではエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂も軟化しており、結晶化も大きく進んでいない為に高倍率に延伸可能であり、バブル内圧も低くなるので、熱収縮応力も緩和される条件となり、本発明の熱収縮率が140℃において20〜80%、最大熱収縮応力が0.5〜4.0MPaの物性を持つ積層バリアフィルムを得ることが可能である。
連続包装機での使用時、原反スリット時等の使い勝手を悪くするフィルムのカールを抑制する為には、ヒートセットを80℃以上の温度で数秒間行うことが好ましい。
【0025】
エチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂からなるシール層が完全に溶融する理想的なヒートシール条件でも、特定ゲル分率に架橋されている為、一方の表面層は完全に溶融せず、ヒートシールバーに溶着し難いという利点もある。
本発明の積層フィルムの厚みは、ガスバリア性を得るためには5〜60μmが好ましく、連続包装機等で使用される際の機械的強度面、又は包装された後、開封する際の易開封性を考慮すると10〜45μmがより好ましい。
また、本発明のフィルムを用いて包装する際には、エチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂層を内側シール層として被包装物側に配置すると好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に実施例、及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。
本発明で用いる評価方法は下記の通りである。
《ゲル分率の評価》
試料約100mgを150メッシュのステンレス製金網を専用の袋状に折りたたみ、沸騰p−キシレン中で12時間抽出し、不溶解物の割合を次式より表示し、一方の表面層である変性ポリオレフィンの架橋度の尺度として用いる。
ゲル分率(重量%)=(抽出後の試料重量/抽出前の試料重量)×100
《熱収縮率の評価》
ASTM D−2732に準拠して測定し、測定温度は140℃とする。
[評価基準]
◎:MD、TD共に35%以上80%以下:丸型容器でも美麗にシュリンク包装体が
得られるより好ましいレベル
○:MD、TD共に20%以上35%未満:タイトで美麗なシュリンク包装体が得ら
れる好ましいレベル
△:MD、TD共に15%以上20%未満:収縮不足の部分があり使用が困難なレベ

×:MD、TD共に15%未満80%を超える:全体に収縮不足であり、又は層剥離
で白化してしまって使用できないレベル
【0027】
《熱収縮応力の評価》
ASTM D−2838に準拠して測定する。ただし、フィルムをTD方向に10mm、MD方向に90mm(測定長さ50mm+チャックつかみ長さ40mm)の短冊状にサンプリングし、140℃の温度(オイルバス)に3分間浸漬させた場合の最大熱収縮応力(MPa)の値で評価する。
[評価基準]
◎:1.0MPa以上2.0MPa以下:短時間のシュリンク時間でもタイトに仕上が
り、容器変形もほとんどなくより好ましいレベル
○:0.5MPa以上1.0MPa未満、2.0MPaを超えて4.0MPa以下:
容器変形がほとんどなく好ましいレベル
△:0.5MPa未満:容器変形は無いが収縮不足で使用が困難なレベル。
×:4.0MPaを超える:容器変形が大きく使用できないレベル
【0028】
《酸素透過率の評価》
MOCON社製の酸素透過分析装置(OX−TRAN(登録商標)200H)を用いて、酸素の条件を65%RH、測定温度23℃として測定し、測定開始3時間経過後の酸素透過率の値において評価を行う。
測定値単位:cc/m/day(以下”cc”と示す)
[評価基準]
◎:25cc以下:ハイバリア性レベル
○:25ccを超えて45cc以下:ミドルバリア性レベル
△:45ccを超えて100cc以下:ガスパック包装としては用途が限定される
レベル
×:100ccを超える:ガスパック包装としては要冷蔵等の条件が必要になる使用
が困難なレベル
【0029】
《連続包装機適性》
市販のピロー型ヒートシール&カット方式シュリンクガスパック包装機である茨木精機社製CFP3000にて1分間に30個の速度で50個連続包装を行い、気密シールチェックとしてエージレス(登録商標)(三菱ガス化学社製)と、四角型容器包装と丸型容器包装においてシュリンクトンネル通過後のフィルムの収縮不足である弛み状態、容器変形度合い等の包装仕上がりを評価する。
[評価基準]
◎:シール漏れ不良が0%であり、包装機適性が良好であるレベル:丸型容器の包
装仕上がりも高品質レベル
○:シール漏れ不良が0%であり、包装機適性が良好であるレベル:四角型容器の包
装仕上がりも問題無いレベル
△:シール漏れ不良が1%以上10%以下であるか、或いは、少し容器変形していた
り、少し弛んでいたりしており、仕上がりが満足され難いレベル
×:包装機での不良個数%が10%を越えるか、或いは、容器変形も大きかったり、
又は弛みが酷く、使用できないレベル
【0030】
《耐アルコール白化性の評価》
エタノール約60重量%の水溶液を、四角の木枠に張って固定したフィルムに霧吹きで噴霧し、黒紙を透かして白化しているかどうかを目視にて評価する。
[評価基準]
◎:白化していない。
×:白化する。
《総合評価》
[評価基準]
◎:全てが◎であり、好適に使用できるレベル
○:全てが○か◎の評価であり、実用レベル
△:△があり、使用が困難なレベル
×:×があり、実用レベルでない
【0031】
[実施例1〜19]
表1〜3の実施例1〜19に示す樹脂及び添加剤を用いて、5台の押出機を使用し、変性ポリオレフィン系樹脂層(一方の表面層)、ポリアミド系樹脂層、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層(バリア層)、変性ポリオレフィン系樹脂層(接着層)、エチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂層(他方の表面層)となるように5種5層構成のチューブを溶融押出し、水冷リングを用いて約50℃のお湯で冷却しながら未延伸のチューブ(以降パリソンと示す)を得た。
【0032】
表1〜3に示す層比率となるように各押出量を調整し、顕微鏡断面観察にて確認し、等間隔8箇所の平均値で所定層構成とした。
添加剤の添加方法としては、予め脂肪酸アミド系滑剤及びグリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤(防曇剤)のマスターバッチを作成してドライブレンド法で添加した。
防曇剤のマスターバッチについてはフィルム表面に均一に層状にブリードアウト分布するように2軸押出機を用いて通常の押出機温度より25℃高い条件とし混練性を良くした。
実施例1〜19の押出機の温度設定は、5つの温度調節ブロックがあり、供給ホッパーからヘッドにかけて順に、両表面層は180℃、200℃、220℃、220℃、210℃、ポリアミド系樹脂層は220℃、240℃、240℃、240℃、240℃、バリア層は190℃、220℃、230℃、230℃、230℃とした。ダイス、ポリマーパイプの温度設定は全層230℃とした。
【0033】
得られた未延伸チューブに、150kVの加速電圧で所定のゲル分率になるように電子線照射量を調整して照射し表面の架橋を行った。
照射した未延伸チューブを延伸部に送り、流れ方向(MD)に8段、巾方向(TD)に8ゾーンに分けた赤外加熱ヒーターにて加熱(バブルネック付近の温度で90〜115℃の範囲に加熱調節)してバブルブローアップし、空冷リングで冷却しながらデフレーターで折りたたみ、延伸フィルムを得た。
その延伸フィルムを連続して85℃にオイル温調の加熱ロール2本を通過させてヒートセットし、冷却ロールを通過させて冷却した後、シワ取りロールでフィルムをフラットにしながらフィルムを巻き取った。フィルムの厚みはこの時測定し、所定の厚みとなるように、極力パリソン厚みで調整したが、延伸性の悪いものについては流れ方向(MD)の延伸倍率を多くとったりして延伸倍率で調整したものもあった。
【0034】
フィルムの延伸倍率については、MDの延伸倍率は延伸部入りのピンチロールと巻取機ロールとの速比で表現し、TDの延伸倍率はフィルム巾をパリソン折巾で割り算した値で表現した。
巻き取ったフィルムは、スリッターにてシングルフィルムに剥ぎながら包装機で使用する所定の巾(350mm巾、450mm巾)にスリットし、実施例1〜19のフィルム原反を得た。
それぞれのフィルムを40℃に温度調節したエージングルームで3日間保管した後、《熱収縮率の評価》《熱収縮応力の評価》《酸素透過率の評価》《連続包装機適性》《耐アルコール白化性の評価》《総合評価》を行った。
【0035】
その結果、好適な熱収縮率、熱収縮応力の延伸フィルムが得ることができれば、ガスパック連続包装機で容器も大きく変形することなく、また収縮不足で弛みが生じることもなく、タイトに美麗に包装でき、耐アルコール性もあることがわかる。
実施例1〜3の結果から、同じ層構成の場合でも延伸倍率により熱収縮性が変化し、延伸倍率が低いと熱収縮率が低下することがわかる。
実施例1、4〜6の結果から、一方の表面層のゲル分率が2%以上あり架橋されていればシールバー溶着が発生せず包装機適性も良いことがわかる。
実施例1、7〜11の結果から、層構成や樹脂構成の違い、ポリアミド系樹脂層、バリア層の厚みにより、熱収縮性、熱収縮応力、バリア性は異なるが、包装機適性も良いことがわかる。
【0036】
更に、シール層としての内側表面層の厚み比率が所定比率あれば、気密シール性が問題ないことがわかる。
実施例1、12〜15の結果から、ポリアミド系樹脂層のナイロン種の違い、バリア層であるエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂の種類により、熱収縮性、熱収縮応力、バリア性は異なるが、包装機適正も良いことがわかる。
実施例1、16、17の結果から、添加剤の有無により包装機適性に問題はないことがわかる。
実施例1、18、19の結果から、厚みが厚くなるとバリア性は良くなるが、厚くなる分、熱収縮力が増すので容器変形が若干発生してくることがわかる。
【0037】
[比較例1〜6]
表4の比較例1〜6に示す樹脂及び添加剤を用いて、実施例と同様にして延伸フィルムを得た。
比較例3については電子線照射せず延伸を行った。
比較例5は4台で4層を押出した。
それぞれのフィルムを40℃に温度調節したエージングルームで3日間保管した後、《熱収縮率の評価》《熱収縮応力の評価》《酸素透過率の評価》《連続包装機適性》《耐アルコール白化性の評価》《総合評価》を行った。
【0038】
比較例1の結果から、延伸倍率が低すぎると熱収縮率が足りず、収縮不良で連続包装機の包装体にフィルムの弛みが生じてしまうことがわかる。また比較例2の結果から、一方向だけでも延伸倍率が高すぎると、その過度に延伸された方向の熱収縮応力が高くなり、容器変形が生じてしまうことがわかる。
比較例3の結果から、一方の表面層を電子線照射せずゲル分率が0%であると、延伸性は若干劣る程度で製膜は可能であったが、連続包装機適性の評価において、シールバーにフィルムが溶着してしまい走行性が悪かった。
比較例4の結果から、比較例3とは逆に電子線照射し過ぎた場合では、フィルムが黄変色してしまい、非常に見栄えが悪いフィルムとなり、更にベタツキが発生し滑り不良となって連続包装機適性も悪かった。
比較例5の結果から、外側層にナイロン−6,66共重合体と非晶ナイロンの混合体を配置した場合、アルコールによる白化が発生してしまい問題となることがわかった。
比較例6の結果から、外側層にもエチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂層を配置した場合、ポリアミド系樹脂層との層間接着強度がなく、製膜時、連続包装時に、問題となることがわかる。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、通常のガスパック連続包装機に使用できることは勿論、シュリンク包装でタイトに美麗に包装する用途にも好適に使用ができ、更に丸型容器など高シュリンク性を有する包装にも使用可能である。また、アルコール殺菌処理を行う用途、防曇性が必要なトレーパック等の用途にも好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリオレフィン系樹脂層、ポリアミド系樹脂層、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層、変性ポリオレフィン系樹脂層、エチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂層の順で隣接して配置された5層からなり、以下の(1)〜(3)を特徴とする熱収縮性積層フィルム。
(1)一方の表面層である変性ポリオレフィン系樹脂層のゲル分率が2〜60%であること。
(2)140℃におけるフィルムの流れ方向、巾方向共に熱収縮率が20〜80%であること。
(3)140℃におけるフィルムの流れ方向、巾方向共に最大熱収縮応力が0.5〜4.0MPaであること。
【請求項2】
変性ポリオレフィン系樹脂層が酸変性ポリエチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項3】
他方の表面層のエチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂層にグリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤が0.5〜5.0重量%添加されていることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性積層フィルム。

【公開番号】特開2007−185910(P2007−185910A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7252(P2006−7252)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】