説明

熱可塑性樹脂、該熱可塑性樹脂を含むポリ塩化ビニル樹脂用安定剤、及び改質されたポリ塩化ビニル樹脂

【課題】ポリ塩化ビニル樹脂に高度な耐候性を付与するばかりでなく、再加工時の熱的安定性を付与せしめる安定剤の提供及び安定剤を添加した高度な安定性を有するポリ塩化ビニル樹脂を提供する。
【解決手段】安定剤として、下記一般式(I)の単量体(a)5〜40質量部、分子内にグリシジル基を持つエチレン性不飽和単量体(b)60〜95質量部、前記単量体(a)及び(b)以外のエチレン性不飽和単量体(c)0〜30質量部(ただし、(a)、(b)、(c)の合計は100質量部)からなる不飽和単量体混合物を重合することで得られる共重合体(A)を含む熱可塑性樹脂を用いる。


(R1は水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子又はイミノ基、Yは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシル基、Zは水素原子又はシアノ基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂用安定剤及び安定化された樹脂組成物に関するものであり、より詳しくは主としてポリ塩化ビニル樹脂(以下、PVC)の改質の用に供され、PVCに添加されることにより、当該樹脂の耐熱安定性、耐候性を飛躍的に向上せしめることが可能な安定剤となる熱可塑性樹脂及び改質された樹脂組成物に関するものである。また、PVC樹脂用の安定剤として使用される本発明の熱可塑性樹脂自体、新規な熱可塑性樹脂を構成するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリ塩化ビニル系樹脂等の膨大な量のプラスチック製品が使用されており、これらの廃棄物処理が環境問題の1つとしてクローズアップされ、大きな社会問題となっている。中でもポリ塩化ビニル系樹脂は焼却時の条件によっては、極めて毒性の高いダイオキシン類を発生させる危険性があるとされており、数あるプラスチック材料の中でも最もリサイクル性を求められる材料の1つである。プラスチック材料にリサイクル性を付与するためには、加熱成型時の初期耐熱性、屋外等で使用される場合の耐候性に加え、耐候劣化後に再度成型するためのリサイクル耐熱性を向上させる必要があり、各種安定剤を添加するなどの方法によってこれらの特性の向上が図られている。
【0003】
最も代表的なポリ塩化ビニル樹脂の安定剤は、スズ、鉛、カドミニウム等の重金属系安定剤であるが、環境問題等の理由から使用が大きく制限されるようになり、これら以外の安定剤の開発が盛んに行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、特定の構造を有するリン酸エステル金属塩とグリシジルメタクリレートを必須成分として含有する重合体をポリ塩化ビニルに添加することで、当該樹脂の耐熱・耐候性能を向上させることが提案されている。また、特許文献2では、グリシジル基含有不飽和単量体とアルキル安息香酸金属塩、さらにエチレン/酢酸ビニル共重合体をポリ塩化ビニルに添加することで、当該樹脂の耐熱・耐候性能を向上させる技術が提案されている。上記従来技術ではいずれも、ヒンダードアミン系光安定剤を併用することで更なる耐候化が図れるとされている。しかしながら、上記従来技術においては、使用されているヒンダードアミンが低分子量型のものであるため、長期の耐候試験においては、樹脂からのブリードアウト等により、その効果が十分に維持できず、高度化する耐候性能を満足できるものではなった。
【0005】
一方、特許文献3では、特定のアミン化合物が、ポリ塩化ビニルの成型時の安定性に高い効果を示すことが開示されているが、屋外曝露時の溶出等によりその効果は限定的である問題点を有していた。
【0006】
【特許文献1】特開2003−55516
【特許文献2】特開2003−61486
【特許文献3】特開2006−131904
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、ポリ塩化ビニル樹脂に高度な耐候性を付与するばかりでなく、再加工時の熱的安定性を付与せしめる安定剤の提供及び安定剤を添加した高度な安定性を有するポリ塩化ビニル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記問題を解決することを目的として鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を持つ単量体を重合して得られる組成物は、PVCに対し所定量添加した場合、当該PVCの耐熱性・耐候性を飛躍的に向上させることを見出した。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂用安定剤は、下記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)5〜40質量部と、分子内にグリシジル基を持つエチレン性不飽和単量体(b)60〜95質量部と、前記単量体(a)及び(b)以外のエチレン性不飽和単量体(c)0〜30質量部(ただし、(a)、(b)、(c)の合計は100質量部)からなる不飽和単量体混合物を重合することで得られる共重合体(A)を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂である。この熱可塑性樹脂を安定剤としてPVCに対し、所定量添加することにより当該樹脂の耐熱性・耐候性を飛躍的に向上でき、リサイクル性能を大幅に向上できる。
【0009】
【化1】

【0010】
(R1は水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子又はイミノ基、Yは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシル基、Zは水素原子又はシアノ基を示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PVCの耐熱性・耐候性を飛躍的に向上せしめるPVC用安定剤及び改質されたPVCを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のPVC用安定剤(以下、安定剤)は、上記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)5〜40質量部と、分子内にグリシジル基を持つエチレン性不飽和単量体(b)60〜95質量部と、前記単量体(a)及び(b)以外のエチレン性不飽和単量体(c)0〜30質量部(ただし、(a)、(b)、(c)の合計は100質量部)からなる不飽和単量体混合物を重合することで得られる共重合体(A)を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂である。
【0013】
本発明の安定剤を構成する必須単量体(a)及び(b)は、それぞれ耐候性、耐熱性向上成分であるが、単量体(a)は、一定量以上の添加量では成型時の如き高温下において耐熱性を低下せしめる効果を有する。一方、単量体(b)は耐候性に寄与しない。発明者らは、それぞれの単量体がこのような特徴を有することを見出し、単量体(a)及び(b)の最適な割合を見出した。すなわち、本発明の安定剤は、当該安定剤を添加するポリ塩化ビニル樹脂の耐熱性と耐候性のバランスの点から、重合時の全単量体量(単量体(a)、(b)、(c)の合計量、以下同じ)を100質量部とした時、一般式(I)で表されるエチレン性不飽和単量体(a)が5〜40質量部、単量体(b)が60〜95質量部である必要がある。単量体(a)、(b)がそれぞれこの範囲であれば、得られた安定剤は、適量の添加量で、PVCの耐熱性、耐候性ともに良好な性能向上を発現できる。また、本安定剤は、必要に応じて単量体(a)、(b)以外の単量体(c)を共重合させたものでもよいが、その含有量は重合時の全単量体量を100質量部とした時、30質量部以下であることが必要である。単量体(c)の量が30質量部より多い場合、単量体(a)及び(b)の含有量が相対的に減少し、十分な耐熱性、耐候性が付与し難くなる。単量体(c)の含有量として、好ましくは20質量部以下であり、10質量部以下がより好ましい。
【0014】
単量体(a)としては、紫外線安定化機能(ラジカル捕捉機能)を有するものを使用することができ、例えば、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
また、単量体(b)としては、グリシジル基を含有する不飽和単量体を使用でき、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート等が挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。単量体(b)として、ガラス転移温度(Tg)が高く、安定剤の粉体特性の観点からグリシジルメタクリレートが特に好ましい。
【0016】
また、単量体(c)としては、単量体(a)、(b)と共重合可能なものであれば良く、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、p−t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−(3−)ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−クロロスチレン、酢酸ビニル、ビニルエーテル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジプロピル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸モノブチル、フマル酸、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸及びスルホエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロプロピルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルフェニルリン酸等の酸性官能基含有不飽和単量体等を用いることができる。上記単量体(c)は単独で使用できる他、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明の安定剤を構成する共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、特に規定されないが、耐熱性付与及び耐候性付与の点から重量平均分子量(Mw)が5,000〜100,000の範囲であることが好ましい。重量平均分子量がこの範囲であれば、成型時の良好な拡散性が得られ、耐熱性、耐候性がいずれも向上する。重量平均分子量(Mw)として、5,000〜50,000が最も好ましい。重量平均分子量(Mw)を調整する方法は特に規定しないが、開始剤量による調整の他、連鎖移動剤による調整も有効な手段である。特に乳化重合法及び懸濁重合法によって重合せしめる方法においては、単量体(a)の含有量によっては、架橋構造粒子を形成し、PVC樹脂への拡散性が著しく低下することがあるので、連鎖移動剤による分子量調整は極めて有効な手段となる。連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤を用いればよい。連鎖移動剤の使用量は、使用する連鎖移動剤の種類や不飽和単量体の構成比に応じて変化させれば良い。上記連鎖移動剤は、1種を単独で使用できる他、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明の安定剤を構成する共重合体(A)を得るための重合法は、共重合体(A)の回収の容易性、重合物の低臭気性、ハンドリング性、耐ブロッキング性及び経済性等の観点から乳化重合法、懸濁重合法等の水を媒体とした重合法が好ましく、PVC樹脂への拡散性の点から乳化重合法が最も好ましいが、これに限定されるものではなく、溶液重合、塊状重合等の公知の重合法を用いて重合することもできる。また、乳化重合法、ソープフリー乳化重合法、滴下懸濁重合法などの粒子構造体を得ることができる重合法を用いて重合する場合、その粒子構造は単層構造であっても多層構造であっても良いが、多層構造粒子の場合、経済性の点から3層構造以下であることが好ましい。本発明の安定剤を構成する共重合体(A)を乳化重合にて重合する際の乳化剤としては、従来知られる各種のアニオン性、又はノニオン性の乳化剤、高分子乳化剤さらに分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する反応性乳化剤等が挙げられる。乳化剤としては、日本乳化剤社製商品名「ニューコール560SF」、「同562SF」、「同707SF」、「同707SN」、「同714SF」、「同723SF」、「同740SF」、「同2308SF」、「同2320SN」、「同1305SN」、「同271A」、「同271NH」、「同210」、「同220」、「同RA331」、「同RA332」、花王社製商品名「ラテムルB−118E」、「レベノールWZ」、「ネオペレックスG15」、第一工業製薬社製商品名「ハイテノールN08」などの如きアニオン性乳化剤、例えば三洋化成工業社製商品名「ノニポール200」、「ニューポールPE−68」などの如きノニオン性乳化剤等が挙げられる。
【0019】
高分子乳化剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。反応性乳化剤としては、例えば日本乳化剤社製商品名「Antox MS−60」、「同MS−2N」、三洋化成工業社製商品名「エレミノールJS−2」、花王社製「ラテムルS−120」、「同S−180」、「同S−180A」、「同PD−104」、(株)ADEKA 製商品名「アデカリアソープSR−10」、「同SE−10」、第一工業製薬社製商品名「アクアロンKH−05」、「同KH−10」、「同HS−10」等の反応性アニオン性乳化剤、例えば(株)ADEKA 製商品名「アデカリアソープNE−10」、「同ER−10」、「同NE−20」、「同ER−20」、「同NE−30」、「同ER−30」、「同NE−40」、「同ER−40」、第一工業製薬社製商品名「アクアロンRN−10」、「同RN−20」、「同RN−30」、「同RN−50」等の反応性ノニオン性乳化剤などが挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、本発明の安定剤を構成する共重合体(A)の重合時における不飽和単量体には、反応性乳化剤は含まないものとする。また、本発明の安定剤を構成する共重合体(A)を溶液重合法にて重合する際の溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、その他の芳香族系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒等、公知の有機溶剤を使用すれば良い。これらは1種のみを使用しても2種以上を混合して使用しても良い。また、本発明の安定剤を構成する共重合体(A)を懸濁重合法にて重合する際の分散安定剤としては、ゼラチン、澱粉、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子や炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの不溶性粉末を使用できる。これらの分散安定剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用しても良い。
【0020】
各種重合法によって重合された本発明の安定剤を構成する共重合体(A)は、各々の重合法に適した方法で回収すれば良い。例えば、乳化重合にて重合せしめた場合は、スプレードライ法、塩析凝固法、遠心分離法、凍結乾燥法等の方法で樹脂分を回収すれば良い。スプレードライ法による固形分回収法としては、乳化重合して得られた乳化分散体をスプレードライヤーにて、入り口温度:120〜220℃、出口温度:40〜90℃にて噴霧乾燥し、粉末回収することができる。出口温度として40〜80℃が回収2次粒子の1次粒子への解砕性の点で好ましく、40〜70℃が特に好ましい。また、凝固法による回収法としては、乳化分散体を30〜60℃で凝固剤に接触させ、攪拌しながら凝析させてスラリーとし、脱水乾燥して粉末回収できる。凝析剤としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸類、蟻酸、酢酸等の有機酸類、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム等の有機塩類等を挙げることができる。これらの凝析剤のうち、無機酸類及び有機酸類を使用した場合、単量体(a)のラジカル捕捉機能が著しく低下する恐れがあるため、凝析回収後、再度弱塩基性水溶液で洗浄し、ラジカル捕捉機能を回復させることが好ましい。これらの凝固剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用しても良い。また、溶液重合にて重合せしめた場合においては、再沈殿法、溶媒揮発除去法等の方法で回収後、乾燥して固形分回収すればよい。再沈殿法にて固形分回収する際の貧溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、i−プロピルアルコール、ブチルアルコール、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、水等を挙げることができる。これらの貧溶媒は、1種を単独で使用しても2種以上を混合して使用しても良い。懸濁重合法にて重合せしめた場合は、ろ過後乾燥して固形分回収すればよい。
【0021】
本発明の安定剤を構成する共重合体(A)は、単量体(a)、(b)、(c)を用い、ラジカル性重合開始剤を用いて重合することができる。重合開始剤としては、一般的にラジカル重合に使用されるものが使用可能であり、その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類;2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}及びその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)及びその塩類2,2’−アゾビス(2−メチルプロピンアミジン)及びその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]及びその塩類等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等が挙げられる。これらの開始剤は単独でも使用できる他、2種類以上の混合物としても使用できる。また、乳化重合法にて重合を行う場合には、例えば、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
【0022】
また、本発明の安定剤を構成する共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は特に規定しないが、特に乳化重合法によって本発明の共重合体(A)を得る場合においては、50℃以上であることが好ましい。Tgが50℃以上であれば、固形分回収の際に1次粒子構造を保つことが容易となり、PVCへの良好な分散性が得られる。より好ましいTgは70℃以上である。なお、上記TgとしてはFoxの計算式により求められる計算ガラス転移温度を使用する。Foxの式とは、以下に示すような、共重合体のガラス転移温度(℃)と、共重合モノマーのそれぞれを単独重合したホモポリマーのガラス転移温度(℃)との関係式である。
【0023】
1/(273+Tg)=Σ(Wi/(273+Tgi))
[式中、Wiはモノマーiの質量分率、TgiはモノマーiのホモポリマーのTg(℃)を示す。]
【0024】
なお、ホモポリマーのTgとしては、具体的には、「Polymer Handbook 3rd Edition」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION、1989年)に記載された値を使用することができる。
【0025】
本発明の安定剤は、同一組成の共重合体(A)を単独で使用しても、組成、分子量、粒子径、重合法の異なる共重合体(A)を2つ以上組み合わせて使用しても良い。本発明の安定剤は被添加樹脂と共に、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法等の公知の各種成形方法にて成型できる。本発明の安定剤の添加量については特に規定されないが、安定剤と被添加樹脂の和を100質量%とした時、0.1〜10質量%範囲で添加されることが好ましい。添加量が0.1質量%以上であれば、十分な耐熱安定性向上能を発現できる。また、10質量%以下であれば、被添加樹脂の特性のうち1つ以上を大幅に低下させない。本発明の安定剤、又は本発明の安定剤を含むPVCは高度な特性を付与する為、必要に応じて、滑剤、可塑剤、防霧剤、防曇剤、無機熱安定剤、粘着防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、衝撃強度改質剤、顔料、染料、難燃剤、離型剤、防腐剤、抗菌剤、発泡剤等を添加できる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」及び「%」は質量基準である。
【0027】
また、試験片の作成は、以下の方法でマスターバッチを調製後、下記表−1記載の割合にて、以下の方法で実施した。さらに試験片の耐候性及び耐熱性試験は以下の方法で実施し、下記基準にて判定した。
【0028】
<マスターバッチの調製>
ポリ塩化ビニル樹脂「TK1300」(商品名、信越化学(株)製、平均重合度:1300)100質量部、カルシウム亜鉛系安定剤「StabiloxCZ3122GN」(商品名、コグニス社製)3.0質量部、内部滑剤「LoxiolG15」(商品名、コグニス社製)0.3質量部、外部滑剤「LoxiolG21」(商品名、コグニス社製)0.2質量部、ポリエチレン系外部滑剤「Hi−WAX220MP」(商品名、三菱化学(株)製)0.1質量部、及びアクリルゴム系衝撃性改質剤「メタブレンW450A」(商品名、三菱レイヨン(株)製)7.0質量部を計量し、ヘンシェルミキサーを用いてプレミックスし、評価用マスターバッチを調製した。
【0029】
<耐候性試験片の作成>
上記のマスターバッチ樹脂に、表−1記載の割合にて安定剤をそれぞれ添加し、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、試験用樹脂組成物(以下、樹脂組成物)を得た。この樹脂組成物を200℃に調節した6インチロールにて、回転数が前ロール14rpm、後ロール16rpmの条件で混練を開始し、ロール巻付き後3.0分混練した。さらにこの樹脂組成物を成形温度200℃で厚さ約3mmのシートにプレス成形し、耐候性試験片とした。
【0030】
<耐候性試験>
サンシャインカーボンウエザオメーター耐候試験機「WEL−SUN−HC−B型」(商品名、スガ試験機(株)製)を用いて、ブラックパネル温度63±3℃、降雨12分間、照射48分間のサイクルの条件にて200時間試験を行い、目視で着色状態を観察し、以下の基準で判定した。判定結果は表−1に記載した。
○:着色が見られない
×:着色が見られる
【0031】
<耐熱性試験片の作成及び試験>
上記耐候性試験実施後の試験片を凍結粉砕機にて粉砕した。この粉砕試料100gを耐候性試験片と同じ割合で安定剤を添加した上記マスターバッチ900gと共にヘンシェルミキサーにて混合した。この混合樹脂組成物を200℃に調節した6インチロールにて、回転数が前ロール14rpm、後ロール16rpmの条件で混練を開始し、ロール巻付き後5.0分混練した。さらにこの樹脂組成物を成形温度200℃で厚さ約3mmのシートにプレス成形し、耐熱性試験片を得ると共に目視にて着色状態を観察し、以下の基準で判定した。判定結果は表−1に記載した。
○:着色が見られない
△:僅かに着色が見られる
×:著しい着色が見られる
【0032】
<重量平均分子量測定>
実施例1〜4、比較例1、2、5で得られた共重合体(A)について、各0.1gをサンプル瓶に採取し、テトラヒドロフラン(THF)10gを添加して室温で一晩放置する。調製した試料溶液を、東ソー(株)製HLC-8120を用いて以下の条件にて測定し、標準ポリスチレン換算した重量平均分子量(Mw)を得た。
【0033】
カラム:TSK-gel TSL-gel SuperHM-M×4本(6.0mmI.D.×15cmL)
溶離液:テトラヒドロフラン
流量:0.6ml/min
注入量:20μl
カラム温度:40℃
検出器:示唆屈折率検出器(RI検出器)
【0034】
<実施例>
(実施例1)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ及び窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水45部、続いて28%アンモニア水溶液0.2部と表−1に示す割合で配合された乳化物(共重合体(A)の重合前混合物)の5質量%を反応容器内に仕込み、反応容器内部を窒素で置換しながら75℃まで昇温した後、過硫酸アンモニウム(重合開始剤)0.1部を5部の水に溶解した開始剤溶液を加えシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、乳化物の残りを内温75℃で4時間かけて滴下し、さらに内温75℃のまま2時間熟成することで乳化重合を行い、乳化分散体を形成した。
【0035】
得られた乳化分散体を室温に冷却した後、スプレードライヤー(大川原化工機(株)製、L−8型)を用いて、入り口温度170℃、出口温度60℃、アトマイザー回転数25000rpmにて噴霧乾燥し、共重合体(A)を安定剤として固体回収した。回収した安定剤を表−1記載の割合にてPVC樹脂に配合した。
【0036】
(実施例2〜4、比較例1、2)
実施例1と同様な方法で、表−1示された組成の乳化重合を行い、得られた乳化分散体から、実施例1と同様のスプレードライ法にて共重合体(A)(便宜上、本発明以外のものも共重合体(A)と表記する)を固体回収し、表−1記載の割合にてPVC樹脂に配合した。
【0037】
(比較例3)
比較例1の安定剤を表−1記載の如く、配合割合のみ変更した。
【0038】
(比較例4)
比較例2の安定剤を表−1記載の如く、配合割合のみ変更した。
【0039】
(比較例5)
実施例1と同様な方法で、表−1示された組成の乳化重合を行い、得られた乳化分散体から、実施例1と同様のスプレードライ法にて共重合体(A)(便宜上、共重合体(A)と表記する)を固体回収した。この固形分に加え、ヒンダードアミン光安定剤として、「サノール LS−770」(商品名、三共ライフテック(株)製)と酢酸ビニル含有量41%のエチレン/酢酸ビニル共重合体「エバテートR5011」(商品名、住友化学(株)製)を表−1記載の割合にてPVCに配合した。
【0040】
(比較例6)
エポキシ系安定剤としてエポキシ化大豆油、アミン系安定剤としてジメチルアミノテレフタレート及びトリエタノールアミンを表−1記載の割合にてPVCに配合した。
【0041】
【表1】

【0042】
HALS1:4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン
HALS2:4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン
GMA:グリシジルメタクリレート
GA:グリシジルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
BA:ブチルアクリレート
nDM:ノルマルドデシルメルカプタン
乳化剤1:反応性アニオン性乳化剤「アデカリアソープSR−10」(商品名、(株)ADEKA製)
HALS3:「サノール LS−770」(商品名、三共ライフテック(株)製)
EVA1:エチレン/酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量41%)「エバテートR5011」(商品名、住友化学(株)製)
【0043】
表−1から分かるように、本実施例の安定剤はポリ塩化ビニル樹脂に添加した場合、耐候性、耐熱性共に優れる。一方、比較例1〜4記載の安定剤は、単量体(a)〜(c)の組成が、本発明に規定の範囲に入っていないものであり、耐候性、耐熱性のいずれか1つ以上が劣っている。比較例5は、高分子量型の光安定剤を使用しているが、分散性が十分でなく耐候性に劣っている。その他、公知の安定剤を使用している比較例6では、耐候性、耐熱性共に十分な結果が得られなかった。したがって、本発明の安定剤はポリ塩化ビニル樹脂の耐候、耐熱安定剤として極めて有用であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の安定剤を、自動車内外装用、建材用外装材、外装部材、電線被覆材、スポーツ用品、繊維製品、医療用品、食品容器、家電用部材、OA機器、家庭用品、家具、農業用フィルム等に用いられるポリ塩化ビニル樹脂に添加することにより、高度な耐候性、耐熱性を付与でき、工業上極めて有益なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)5〜40質量部と、分子内にグリシジル基を持つエチレン性不飽和単量体(b)60〜95質量部と、前記単量体(a)及び(b)以外のエチレン性不飽和単量体(c)0〜30質量部(ただし、(a)、(b)、(c)の合計は100質量部)からなる不飽和単量体混合物を重合することで得られる共重合体(A)を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂。
【化1】

(R1は水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子又はイミノ基、Yは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシル基、Zは水素原子又はシアノ基を示す。)
【請求項2】
請求項1記載の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂用安定剤。
【請求項3】
請求項2記載のポリ塩化ビニル樹脂用安定剤を、該安定剤と被添加樹脂の和を100質量%とした時、0.1〜10質量%の範囲で含有することを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−127523(P2008−127523A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317035(P2006−317035)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】