説明

熱可塑性樹脂組成物、光学フィルムおよび位相差フィルム

【課題】 環状オレフィン系重合体とビニル系重合体とを含有する熱可塑性樹脂組成物が有する低複屈折性を保持しながら、良好な相溶性を示し、さらに耐候性、耐熱性に優れた熱可塑性樹脂組成物および光学フィルムを提供すること。
【解決手段】 上記熱可塑性樹脂組成物ならびに光学フィルムは、環状オレフィン系重合体(A)、およびp−イソプロペニルフェノールから誘導される構造単位を有するビニル系重合体(B)を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系樹脂とp−イソプロペニルフェノール系共重合体とを含有する熱可塑性樹脂組成物および光学フィルムに関する。また、本発明は、前記光学フィルムを延伸配向して得られる位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系開環(共)重合体は、主鎖構造の剛直性に起因してガラス転移温度が高く、主鎖構造に嵩高い基が存在するために非晶性で光線透過率が高く、しかも複屈折の異方性が小さいことにより低複屈折性を示すなどの特長を有しており、耐熱性、透明性、光学特性に優れた透明熱可塑性樹脂として注目されている。
【0003】
ところが、従来公知の環状オレフィン系開環(共)重合体は、十分に低い複屈折値を有するものではなく、さらに優れた低複屈折性を有する熱可塑性樹脂組成物の開発が望まれていた。
【0004】
特許文献1には、環状オレフィン系樹脂と極性基を含有する芳香族ビニル系(共)重合体とを含有する熱可塑性樹脂組成物が開示されている。この熱可塑性樹脂組成物は、従来の環状オレフィン系樹脂に比べてより低い複屈折性を示すことも開示されている。ところが、特許文献1の実施例に記載された熱可塑性樹脂組成物は、低複屈折性を発現する一方で、耐侯性および耐熱性が低下するという問題があった。
【0005】
特許文献2および3には、環状オレフィン系樹脂とポリスチレン系ポリマーとを含有する熱可塑性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、特許文献2および3には、ポリスチレン系ポリマーとしてp−イソプロペニルフェノール系共重合体は開示されていない。
【0006】
また、近年、環状オレフィン系樹脂やこれを含有する熱可塑性樹脂組成物の特徴を利用して、種々の光学用フィルムの開発が行われている。この光学用フィルムは、通常、環状オレフィン系樹脂やこれを含有する熱可塑性樹脂組成物を溶剤に溶解した溶液を用いて、溶剤キャスト法により製造されている。たとえば、特許文献2では、環状オレフィン系樹脂とポリスチレン系ポリマーとを含有する熱可塑性樹脂組成物を相溶化剤を用いて塩化メチレンに溶解した溶液を流延して透明フィルムを作製している。ところが、相溶化剤を用いて熱可塑性樹脂組成物を溶解すると、熱可塑性樹脂組成物の相溶性を調整する必要があるが、その操作は煩雑であった。また、製膜後のフィルム中に相溶化剤が残存するため、フィルム物性が損なわれることがあった。さらに、相溶化剤を用いて調製した位相差フィルムは位相差発現性が悪化することがあった。
【0007】
そこで、この熱可塑性樹脂組成物を、相溶化剤を用いずに塩化メチレンに溶解すると相分離が発生するため、相溶化剤を用いない場合には、特許文献3に示すように、熱可塑性樹脂組成物を、より溶解性の高いトルエンに溶解する必要があった。ところが、トルエンはその沸点が高く、蒸発速度が塩化メチレンの約20倍であるため、溶剤キャスト法では乾燥時間が長くなり、フィルムの生産性が低いという問題があった。
【特許文献1】特開平11−323098号公報
【特許文献2】特開2001−194527号公報
【特許文献3】特開2001−337222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、環状オレフィン系重合体とビニル系重合体とを含有する熱可塑性樹脂組成物が有する低複屈折性を保持しながら、良好な相溶性を示し、さらに耐候性、耐熱性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的としている。また、このような熱可塑性樹脂組成物を含有する光学フィルムおよびその製造方法を提供することを目的としている。さらには、良好な位相差発現性を保持し、耐候性、耐熱性に優れた位相差フィルムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記問題点を解決すべく鋭意研究した結果、環状オレフィン系重合体と、p−イソプロペニルフェノール由来の構造単位を含むビニル系重合体とを含有する熱可塑性樹脂組成物が、低複屈折性および良好な相溶性を有し、かつ耐候性、耐熱性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。また、この熱可塑性樹脂組成物から得られた位相差フィルムが、良好な位相差発現性、耐候性、耐熱性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、
(A)環状オレフィン系重合体、および
(B)p−イソプロペニルフェノールから誘導される構造単位を有するビニル系重合体
を含有することを特徴としている。
【0011】
環状オレフィン系重合体(A)は、下記式(1)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素、窒素、イオウもしくはケイ素を含む連結基を有していてもよい置換または非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;あるいは極性基を表し、R1とR2、またはR3とR4は、相互に結合して、単環または多環の、炭素環または複素環を形成してもよい。Xは独立に−CH=CH−または−CH2CH2−である。mは0、1または2であり、pは0または1である。)
で表される構造単位を有することが好ましい。
【0014】
ビニル系重合体(B)が、さらにp−イソプロペニルフェノール以外の芳香族ビニル系単量体から誘導される構造単位を有することが好ましく、さらにシアン化ビニル系単量体から誘導される構造単位を有することが好ましい。
【0015】
本発明に係る光学フィルムは、
(A)環状オレフィン系重合体、および
(B)p−イソプロペニルフェノールから誘導される構造単位を有するビニル系重合体を含有することを特徴としている。
【0016】
本発明に係る位相差フィルムは、上記光学フィルムを延伸配向して得られることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、低複屈折性および良好な相溶性を示し、かつ耐候性、耐熱性に優れた熱可塑性樹脂組成物ならびに光学フィルムを得ることができる。また、前記光学フィルムを延伸することによって、良好な位相差発現性を有し、かつ耐候性、耐熱性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物および光学フィルムは、(A)環状オレフィン系重合体、および(B)p−イソプロペニルフェノールから誘導される構造単位を有するビニル系重合体を含有する。
【0019】
(A)環状オレフィン系重合体:
本発明に用いられる環状オレフィン系重合体は、下記式(1)
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素、窒素、イオウもしくはケイ素を含む連結基を有していてもよい置換または非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;あるいは極性基を表し、R1とR2、またはR3とR4は、相互に結合して、単環または多環の、炭素環または複素環を形成してもよい。Xは独立に−CH=CH−または−CH2CH2−である。mは0、1または2であり、pは0または1である。)
で表される構造単位を有することが好ましい。
【0022】
本発明に用いられる環状オレフィン系重合体として、たとえば、(i)下記式(2)
【0023】
【化4】

【0024】
(式中、R1〜R4、mおよびpは上記式(1)における定義と同義である。)
で表される環状オレフィン系単量体(以下、「特定単量体」という。)の開環重合体、
(ii)上記特定単量体と共重合性単量体との開環共重合体、
(iii)前記(i)または(ii)の開環(共)重合体の水素添加(共)重合体、
(iv)前記(i)または(ii)の開環(共)重合体をフリーデルクラフト反応により環化した後、水素添加した(共)重合体、
(v)上記特定単量体と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体
が挙げられる。
【0025】
また、上記式(1)で表される構造単位を有する環状オレフィン系重合体として、たとえば、
(vi)下記式(3)
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、R5〜R7は、各々独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素、窒素、イオウもしくはケイ素を含む連結基を有していてもよい置換または非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;あるいは極性基を表す。)
で表されるジシクロペンタジエン(DCP)系単量体を開環共重合した後、五員環に水素添加した単独重合体、
(vii)上記特定単量体と上記DCP系単量体との開環共重合体の水素添加共重合体、
(viii)上記DCP系単量体と共重合性単量体との開環共重合体の水素添加共重合体
も挙げられる。
【0028】
上記特定単量体、共重合性単量体、不飽和二重結合含有化合物およびDCP系単量体は、それぞれ1種単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
これら(i)〜(viii)の(共)重合体のうち、(iii)または(vii)の水素添加(共
)重合体が好ましく、(iii)の水素添加(共)重合体が特に好ましい。
【0029】
また、本発明に用いられる環状オレフィン系重合体(A)は、ビニル系重合体(B)との相溶性の観点から極性基を有することが好ましい。
以下、上記式(1)〜(3)におけるR1〜R7ついて詳細に説明する。
【0030】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子が挙げられる。
炭素原子数1〜30の炭化水素基としては、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基;エチリデン基、プロピリデン基等のアルキリデン基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基等のアラルキル基などの、下記式:
−(CH2m−R’
(式中、R’は、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基またはフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基を示し、mは1〜10の整数である)で表される基などが挙げられる。これらの基の炭素原子に結合した水素原子は、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;フェニルスルホニル基;シアノ基等で置換されていてもよい。
【0031】
また、上記の置換または非置換の炭化水素基は直接環構造に結合していてもよいし、あるいは連結基(linkage)を介して結合していてもよい。連結基としては、たとえば、炭素原子数1〜10の2価の炭化水素基(たとえば、−(CH2m−(式中、mは1〜10の整数)で表されるアルキレン基);酸素、窒素、イオウまたはケイ素を含む連結基(たとえば、カルボニル基(−CO−)、カルボニルオキシ基(−COO−)、オキシカルボニル基(−O(CO)−)、スルホニル基(−SO2−)、スルホニルオキシ基(
−SO2O−)、オキシスルホニル基(−OSO2−)、エーテル結合(−O−)、チオエーテル結合(−S−)、イミノ基(−NH−)、アミド結合(−NHCO−、−CONH−)、下記式:
−Si(R)2−、
−Si(OR)2O−、
−OSi(R)2−、または
−OSi(OR)2
(前記各式中、Rは炭素原子数1〜10の炭化水素基を示し、好ましくはメチル基、エチル基等のアルキル基である。)で表されるケイ素原子を含む結合等が挙げられ、これらを複数含む連結基であってもよい。
【0032】
上記の置換または非置換の炭化水素基が上記連結基を介して環構造に結合した構造としては、たとえば、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、トリオルガノシリル基、トリオルガノシロキシ基などが挙げられる。
【0033】
さらに具体的には、上記アルコキシ基としては、たとえば、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられ;上記アシル基としては、たとえば、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられ;上記アルコキシカルボニル基としては、たとえば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられ;上記アリーロキシカルボニル基としては、たとえば、フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、フルオレニルオキシカルボニル基、ビフェニリルオキシカルボニル基等が挙げられ;上記アルキルカルボニルオキシ基としては、たとえば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基等が挙げられ;上記アリールカルボニルオキシ基としては、たとえば、ベンゾイルオキシ基等が挙げられ;上記トリオルガノシリル基としては、たとえば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等のトリアルキルシリル基や、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基などが挙げられ;上記トリオルガノシロキシ基としては、たとえば、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基等のトリアルキルシロキシ基や、トリメトキシシロキシ基、トリエトキシシロキシ基等のトリアルコキシシロキシ基などが挙げられる。
【0034】
上記極性基としては、たとえば、水酸基、シアノ基、アミド基、イミド基(=NH)、第1級アミノ基(−NH2)等のアミノ基、スルホン酸基(−SO3H)、スルフィノ基(
−SO2H)、カルボキシル基(−COOH)など挙げられる。
【0035】
<特定単量体>
本発明に用いられる上記特定単量体として、具体的には、
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シクロヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(2−ナフチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フェノキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メトキシカルボニルエチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−フェノキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−クロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジクロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジクロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−メチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
8−メチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−エチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−イソプロピル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−シクロヘキシル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−フェニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7,7−ジメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7,8−ジメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−メチル−8−エチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−メトキシカルボニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
8−メトキシカルボニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−フェノキシカルボニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−メチル−7−メトキシカルボニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エ
ン、
8−メチル−8−メトキシカルボニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エ
ン、
7−フルオロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
8−フルオロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−クロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
8−クロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7,7−ジフルオロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7,8−ジフルオロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7,8−ジクロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−フェニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エ
ン、
8−エトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エ
ン、
8−n−プロポキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−
3−エン、
8−イソプロポキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−
3−エン、
8−n−ブトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−ドデカ−
3−エン、
8−フェノキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−
エン、
8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ド
デカ−3−エン、
8−メチル−8−エトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ド
デカ−3−エン、
8−メチル−8−n−プロポキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−イソプロポキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−n−ブトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−フェノキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−フェニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−
エン、
8−フルオロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8,8−ジフルオロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8,9−ジフルオロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−クロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8,8−ジクロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8,9−ジクロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−フルオロメチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−ジフルオロメチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン

8−トリフルオロメチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エ
ン、
8,8−ビス(トリフルオロメチル)−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ド
デカ−3−エン、
8,9−ビス(トリフルオロメチル)−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ド
デカ−3−エン、
8−メチル−8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデ
カ−3−エン、
ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]−3−ペンタデセン、
1−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
7−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−n−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−n−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(3−シクロヘキセニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−n−オクチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−n−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−イソプロピルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フェニル−5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(1−ナフチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(1−ナフチル)−5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(2−ナフチル)−5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(ビフェニル−4−イル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(ビフェニル−4−イル)−5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−アミノメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリエトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリn−プロポキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリn−ブトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
2,10−ジメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
2,9−ジメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、
8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
5−クロロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(1−ナフトキシ)カルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(2−ナフトキシ)カルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−(4−フェニルフェノキシ)カルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−(1−ナフトキシ)カルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−(2−ナフトキシ)カルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−(4−フェニルフェノキシ)カルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
などを挙げることができるが、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
【0036】
これらの特定単量体のうち、上記式(2)におけるR1〜R4のうちの少なくとも1つが、下記式(4)
−(CH2nCOOR8 (4)
(式中、nは通常、0または1〜5の整数、R8は炭素数1〜15の炭化水素基である。

で表される特定の極性基である上記特定単量体を用いると、前記ビニル系重合体(B)と良好な相溶性を示す環状オレフィン系重合体(A)が得られる点で好ましい。
【0037】
上記式(4)において、nの値が小さいほど、また、R8の炭素数が小さいほど、得ら
れる熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が高くなり、耐熱性が向上する点で好ましい。すなわち、nは通常、0または1〜5の整数であるが、好ましくは0または1であり、ま
た、R8は通常、炭素数1〜15の炭化水素基であるが、好ましくは炭素数1〜3のアル
キル基が望ましい。
【0038】
さらに、上記式(2)において、上記式(4)で表される極性基が結合した炭素原子にさらにアルキル基が結合している上記特定単量体は、得られる熱可塑性樹脂組成物および光学フィルムの耐熱性と耐湿(水)性とが良好なバランスを保つ点で好ましい。このアルキル基の炭素数は1〜5であることが好ましく、さらに好ましくは1〜2、特に好ましくは1である。
【0039】
このような特定単量体のうち、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセンおよび5−メチル−5−メトキシカルボニル
−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンは、得られる熱可塑性樹脂組成物および光学フィルムが耐熱性に優れ、かつ前記ビニル系重合体(B)と良好な相溶性を示す環状オレフィン系重合体(A)が得られる点で好ましい。
【0040】
<DPC系単量体>
本発明で用いられる上記式(3)で表されるDCP系単量体として、具体的には、
トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、
7−メチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、
8−メチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、
9−メチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、
7,8−ジメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、
7−エチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、
7−シクロヘキシル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、
7−フェニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、
7−(4−ビフェニル)−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン
7−メトキシカルボニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、
7−フェノキシカルボニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、
7−メチル−7−メトキシカルボニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7
−ジエン、
7−フルオロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、
7,8−ジフルオロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、
7−クロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン
などを挙げることができるが、これらの例示に限定されるものではない。
【0041】
<共重合性単量体>
上記特定単量体およびDCP系単量体はそれぞれ単独で開環重合してもよいし、あるいは上記特定単量体と上記DCP系単量体とを開環共重合してもよいが、さらに、上記特定単量体および/または上記DCP系単量体と他の共重合性単量体と開環共重合させてもよい。
【0042】
上記共重合性単量体として、具体的には、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、5−エチリデン−2−ノルボルネンなどのシクロオレフィンを挙げることができる。シクロオレフィンの炭素数は、4〜20が好ましく、さらに好ましくは5〜12である。また、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−非共役ジエン共重合体、ノルボルネン誘導体の開環メタセシス(共)重合体などの、主鎖に炭素−炭素間二重結合を含む不飽和炭化水素系ポリマーなどの存在下で、上記特定単量体および/またはDCP系単量体を開環重合させてもよい。この場合、得られる開環共重合体およびその水素添加共重合体は、耐衝撃性の大きい熱可塑性樹脂組成物の原料として有用である。
【0043】
<開環重合触媒>
上記開環(共)重合において用いられる触媒(以下、「開環重合触媒」ともいう。)としては、メタセシス触媒が挙げられる。このメタセシス触媒は、
(a)タングステン含有化合物、モリブデン含有化合物およびレニウム含有化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物と、
(b)デミングの周期律表IA族元素(たとえば、Li、Na、Kなど)、IIA族元素(たとえば、Mg、Caなど)、IIB族元素(たとえば、Zn、Cd、Hgなど)、IIIB族元素(たとえば、B、Alなど)、IVA族元素(たとえば、Ti、Zrなど)またはIVB族元素(たとえば、Si、Sn、Pbなど)を含有する化合物であって、該元素と炭素との結合または該元素と水素との結合を少なくとも1つ有する化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物との組合せからなる触媒である。
【0044】
上記化合物(a)としては、WCl6、MoCl5、ReOCl3など、特開平1−24
0517号公報に記載の化合物を挙げることができる。
上記化合物(b)としては、n−C49Li、(C253Al、(C252AlCl、(C251.5AlCl1.5、(C25)AlCl2、メチルアルモキサン、LiHなど
、特開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。
【0045】
また、本発明では、開環重合触媒の活性を高めるために、添加剤(c)として、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類、特開平1−240517号公報に記載の化合物を添加することができる。
【0046】
メタセシス触媒の使用量は、上記化合物(a)の量と上記特定単量体およびDCP系単量体の合計量とのモル比(化合物(a):上記特定単量体およびDCP系単量体)が、通常1:500〜1:100000、好ましくは1:1000〜1:50000となる量である。化合物(a)と化合物(b)との割合((a):(b))は、金属原子比で、通常1:1〜1:50、好ましくは1:2〜1:30である。化合物(a)と添加剤(c)との割合((c):(a))は、モル比で、通常0.005:1〜15:1、好ましくは0.05:1〜7:1である。
【0047】
<分子量調節剤>
開環(共)重合体の分子量の調節は、重合温度、触媒の種類、溶媒の種類によって行うことができるが、本発明では、分子量調節剤を反応系に共存させることにより調節することが好ましい。分子量調節剤としては、エチレン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィン類およびスチレン、4−ビニルビフェニル、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン等のビニル芳香族化合物などが好ましく用いられる。これらのうち、1−ブテン、1−ヘキセンが特に好ましい。これらの分子量調節剤は、単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。分子量調節剤の使用量は、開環(共)重合に使用される上記特定単量体とDCP系単量体の合計量1モルに対して、通常0.005〜0.6モル、好ましくは0.02〜0.5モルである。
【0048】
<開環重合用溶媒>
上記開環(共)重合では、上記特定単量体、上記DCP系単量体、開環重合触媒および分子量調節剤を溶解するために溶媒を使用することが好ましい。開環(共)重合に用いられる溶媒としては、たとえば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナンなどのシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素類;クロロブタン、ブロムヘキサン、塩化メチレン、ジクロ
ロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどのハロゲン化アルカン類;クロロベンゼンなどのハロゲン化アリール類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、プロピオン酸メチルなどの飽和カルボン酸エステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類を挙げることができる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。これらのうち、芳香族炭化水素が好ましい。溶媒の使用量は、溶媒量:上記特定単量体およびDCP系単量体の合計量(重量比)が、通常1:1〜10:1となる量、好ましくは1:1〜5:1となる量である。
【0049】
<開環(共)重合反応>
上記開環(共)重合体は、開環重合触媒の存在下、必要に応じて分子量調節剤および開環重合用溶媒を用いて、上記特定単量体および/またはDCP系単量体、および必要に応じて共重合性単量体を、従来公知の方法で開環(共)重合させることにより得ることができる。
【0050】
上記特定単量体とDCP系単量体とを共重合させる場合、上記特定単量体とDCP系単量体との合計100重量%に対して、上記特定単量体を通常50〜99重量%、好ましくは60〜95重量%、より好ましくは70〜95重量%、DCP系単量体を通常1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%の割合で共重合させることが望ましい。
【0051】
また、上記特定単量体および/またはDCP系単量体と上記共重合性単量体とを共重合させる場合、上記特定単量体とDCP系単量体と上記共重合性単量体との合計100重量%に対して、上記特定単量体を通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、かつ100重量%未満、DCP系単量体を通常0〜50重量%、好ましくは0〜40重量%以下、より好ましくは0〜30重量%以下、上記共重合性単量体を0重量%を超えて、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下の割合で共重合させることが望ましい。
【0052】
本発明で用いる開環(共)重合体としては、特定単量体の単独重合体、または2種以上の特定単量体の共重合体が最も好ましい。
<水素添加反応>
上記開環(共)重合反応により得られた開環(共)重合体は、そのまま、環状オレフィン系重合体(A)として使用することもできるが、この開環(共)重合体は、分子内にオレフィン性不飽和結合を有しており、加熱着色などの問題が発生することがある。このため、上記オレフィン性不飽和結合に水素添加した水素添加(共)重合体を用いることが好ましい。
【0053】
この水素添加反応は、たとえば、上記開環(共)重合体の溶液に水素添加触媒を添加し、これに常圧〜30MPa、好ましくは3〜20MPaの水素ガスを0〜200℃、好ましくは20〜180℃で作用させることによって実施することができる。
【0054】
水素添加触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられるもの、たとえば、公知の不均一系触媒や均一系触媒を使用することができる。不均一系触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウムなどの貴金属触媒物質を、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニアなどの担体に担持させた固体触媒を挙げることができる。均一系触媒としては、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n−ブチルリチウム、チタノセンジクロリド/ジエチルアルミニウムモノクロリド、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン
)ルテニウム、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムなどを挙げることができる。このような触媒は粉末でも粒状でもよい。これらの水素添加触媒は、開環(共)重合体:水素添加触媒が、通常1:1×10-6〜1:2(重量比)となる量で使用される。
【0055】
オレフィン性不飽和結合の水素添加率は、通常50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上である。
このように、開環(共)重合体に水素添加することにより、得られる水素添加(共)重合体は優れた熱安定性を有し、成形加工時や製品使用時の加熱によってその特性が劣化することを防止できる。
【0056】
<飽和共重合体>
本発明では、環状オレフィン系重合体(A)として、上記開環(共)重合体およびその水素添加(共)重合体の他に、上記特定単量体と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体を使用することができる。上記特定単量体と不飽和二重結合含有化合物とは、これらの合計量100重量%に対して、上記特定単量体を通常60〜90重量%、好ましくは70〜90重量%、より好ましくは80〜90重量%、不飽和二重結合含有化合物を通常10〜40重量%、好ましくは10〜30重量%、より好ましくは10〜20重量%の割合で共重合させることが望ましい。
【0057】
上記不飽和二重結合含有化合物としては、たとえば、エチレン、プロピレン、ブテンなどの炭素数2〜12、好ましくは2〜8のオレフィン系化合物を挙げることができる。
上記特定単量体と不飽和二重結合含有化合物との共重合反応に用いられる触媒としては、バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒が挙げられる。バナジウム化合物としては、VO(OR)abまたはV(OR)cd(ただし、Rは炭化水素基、0≦a≦3、0≦b≦3、2≦a+b≦3、0≦c≦4、0≦d≦4、3≦c+d≦4)で表されるバナジウム化合物、あるいはこれらの電子供与体付加物が挙げられる。電子供与体としてはアルコール、フェノール類、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、有機酸または無機酸のエステル、エーテル、酸アミド、酸無水物、アルコキシシラン等の含酸素電子供与体、アンモニア、アミン、ニトリル、イソシアナート等の含窒素電子供与体などが挙げられる。上記有機アルミニウム化合物としては、アルミニウム−炭素結合またはアルミニウム−水素結合を少なくとも1つ有する化合物から選ばれた少なくとも1種の有機アルミニウム化合物が挙げられる。上記触媒におけるバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物との割合は、バナジウム原子に対するアルミニウム原子の比(Al/V)で、通常2以上、好ましくは2〜50、特に好ましくは3〜20である。
【0058】
上記共重合反応に用いられる溶媒としては、たとえば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等のアルカン類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等のシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素およびそのハロゲン誘導体を挙げることができる。これらのうち、シクロヘキサンが好ましい。
【0059】
<環状オレフィン系重合体(A)>
本発明に用いられる環状オレフィン系重合体(A)は、30℃のクロロベンゼン溶液(濃度0.5g/100ml)中で測定した固有粘度[η]が0.2〜5.0dl/g、好ましくは0.3〜4.0dl/g、特に好ましくは0.35〜1.5dl/gである。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、通常8000〜1,000,000、好ましくは10,000〜500,000、さらに好ましくは20,000〜100,000であり、重量平均分子量(Mw)は、通常10,000〜3,000,000、好ましくは20,000〜1,000,000、さらに好ましくは30,000〜500,000であることが望ま
しい。
【0060】
分子量が小さすぎると、得られる成形品やフィルムの強度が低くなることがある。分子量が大きすぎると、溶液粘度が高くなりすぎて本発明に係る熱可塑性樹脂組成物の生産性や加工性が悪化することがある。
【0061】
また、環状オレフィン系重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、通常1.5〜10、好ましくは2〜8、さらに好ましくは2.2〜5であることが望ましい。
環状オレフィン系重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、通常110〜250℃であり、好ましくは115〜220℃、さらに好ましくは120〜200℃である。Tgが低すぎると、熱変形温度が低くなるため、耐熱性に問題が生じるおそれがあり、また、得られる成形品やフィルムの温度による光学特性の変化が大きくなるという問題が生じることがある。一方、Tgが高すぎると、加工温度を高くする必要があり、これにより熱可塑性樹脂組成物が熱劣化することがある。
【0062】
(B)ビニル系重合体:
本発明に用いられるビニル系重合体(B)は、p−イソプロペニルフェノールから誘導される構造単位を有する重合体であり、さらにp−イソプロペニルフェノール以外のビニル系単量体(b)から誘導される構造単位を有する共重合体であることが好ましい。このようなビニル系重合体(B)は、p−イソプロペニルフェノールとビニル系単量体(b)とを共重合させることにより得ることができる。
【0063】
ビニル系重合体(B)がp−イソプロペニルフェノールから誘導される構造単位を含有することによって、得られる熱可塑性樹脂組成物および光学フィルムは相溶性に優れ、耐侯性、耐熱性も向上する。
【0064】
<ビニル系単量体(b)>
上記ビニル系単量体(b)としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、アクリレート系単量体、メタクリレート系単量体、無水マレイン酸単量体、マレイミド単量体などが挙げられる。これらのうち、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体が好ましく、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体とを併用することが特に好ましい。
【0065】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン;α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどのアルキル置換スチレン類;4−クロロスチレン、4−ブロモスチレンなどのハロゲン置換スチレン類;p−ヒドロキシスチレン、2−メチル−4−ヒドロキシスチレン、3,4−ジヒドロキシスチレンなどのヒドロキシスチレン類;ビニルベンジルアルコール類;p−メトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレン、m−t−ブトキシスチレンなどのアルコキシ置換スチレン類;3−ビニル安息香酸、4−ビニル安息香酸などのビニル安息香酸類;2−フェニルアクリル酸;メチル4−ビニルベンゾエート、エチル4−ビニルベンゾエートなどのビニル安息香酸エステル類;4−ビニルベンジルアセテート;4−アセトキシスチレン;p−ブテニルアセトフェノン、m−イソプロビニルアセトフェノンなどのビニルアセトフェノン類;2−ブチルアミドスチレン、4−メチルアミドスチレン、p−スルホンアミドスチレンなどのアミドスチレン類;3−アミノスチレン、4−アミノスチレン、2−イソプロペニルアニリン、ビニルベンジルジメチルアミンなどのアミノスチレン類;3−ニトロスチレン、4−ニトロスチレンなどのニトロスチレン類;3−シアノスチレン、4−シアノスチレンなどのシアノスチレン類;ビニルフェニルアセトニトリル;フェニルスチレンなどのアリールスチレン類;ビニルナフタレン;ビニルアントラセン;1,1−ジフェニルエチレンなどが挙げられる。これらうち、工業的に入手が容易で、かつ安価な点で、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0066】
また、シアン化ビニル系単量体は、高分子量の共重合体が得られるため、好ましく用いられ、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
アクリレート系単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレートなどのアルキルアクリレート類;ベンジルアクリレート;フェニルアクリレート;2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレートなどのヒドロキシアルキルアクリレート類などが挙げられる。
【0067】
メタクリレート系単量体としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートなどのアルキルメタクリレート類;ベンジルメタクリレート;フェニルメタクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのヒドロキシアルキルメタクリレート類などが挙げられる。
【0068】
<ラジカル重合開始剤>
本発明に用いられるビニル系重合体(B)をラジカル重合で合成する場合、フリーラジカルを発生する公知の有機過酸化物、またはアゾビス系のラジカル重合開始剤を用いることができる。
【0069】
有機過酸化物としては、
ジアセチルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジイソブチロイルパーオキサイド、ジ(2,4−ジクロロベンゾイル)パーオキサイド、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジオクタノイルパーオキサオド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、ビス{4−(m−トルオイル)ベンゾイル}パーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類;
メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類;
過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、α−クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類;
ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド類;
t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシマレエート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオドデカノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン
、t−ブチルパーオキシm−トルオイルベンゾエート、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンなどのパーオキシエステル類;
1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)ピバレート、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパンなどのパーオキシケタール類;
t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネートなどのパーオキシモノカーボネート類;
ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類;
その他、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイドなどが挙げられるが、本発明に用いられる有機過酸化物はこれらの例示化合物に限定されるものではない。
【0070】
これらの有機過酸化物のうち、多官能性のパーオキシケタールが容易に高分子量の(共)重合体を得ることができる点で好ましい。特に、4官能性の2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパンが好ましい。
【0071】
アゾビス系ラジカル重合開始剤としては、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、ア
ゾビスイソバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{2−(1−ヒドロキシブチル)}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェート・ジハイドレート、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−{1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル}プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチル−プロピオンアミジン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドキシム)、ジメチル2,2’−アゾビスブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)などが挙げられるが、本発明に用いられるアゾビス系ラジカル重合開始剤はこれらの例示化合物に限定されるものではない。
【0072】
<触媒>
p−イソプロペニルフェノールと上記ビニル系単量体(b)との共重合反応には、触媒を用いてもよい。この触媒は、特に限定されず、たとえば、公知のアニオン重合触媒、配位アニオン重合触媒、カチオン重合触媒などが挙げられる。
【0073】
<ビニル系重合体(B)>
本発明に用いられるビニル系重合体(B)は、上記重合開始剤や触媒の存在下で、p−イソプロペニルフェノールと上記ビニル系単量体(b)とを、塊状重合法、溶液重合法、沈殿重合法、乳化重合法、懸濁重合法または塊状−懸濁重合法などの従来公知の方法で共重合させることによって得られる。
【0074】
このようにして得られるビニル系重合体(B)において、p−イソプロペニルフェノール由来の構造単位および上記ビニル系単量体(b)由来の構造単位は、これらの合計100重量%に対して、p−イソプロペニルフェノール由来の構造単位が通常0.5〜30重量%、好ましくは1.5〜15重量%、より好ましくは1.5〜10重量%、上記ビニル系単量体(b)由来の構造単位が通常70〜99.5重量%、好ましくは85〜98.5重量%、より好ましくは90〜98.5重量%の割合で含まれることが望ましい。p−イソプロペニルフェノール由来の構造単位の割合が上記範囲にあると、環状オレフィン系重合体(A)とビニル系重合体(B)とが良好に相溶するとともに、得られる熱可塑性樹脂組成物や光学フィルムは、優れた低複屈折性を示し、耐侯性、耐熱性が向上する。特に、p−イソプロペニルフェノールと芳香族ビニル単量体との共重合体の場合、p−イソプロペニルフェノール由来の構造単位と芳香族ビニル単量体由来の構造単位との合計100重量%に対して、p−イソプロペニルフェノール由来の構造単位が通常0.5〜30重量%、好ましくは1.5〜15重量%、より好ましくは1.5〜10重量%、芳香族ビニル単量体由来の構造単位が通常70〜99.5重量%、好ましくは85〜98.5重量%、より好ましくは90〜98.5重量%の割合で含まれることが望ましい。
【0075】
また、ビニル系重合体(B)がシアン化ビニル単量体由来の構造単位を有する場合、ビニル系重合体(B)の全構造単位100重量%に対して、p−イソプロペニルフェノール由来の構造単位が通常0.5〜30重量%、好ましくは1.5〜15重量%、より好ましくは1.5〜10重量%、シアン化ビニル単量体由来の構造単位が通常0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは3〜6重量%、ビニル系単量体(b)由来の残りの構造単位、好ましくは芳香族ビニル系単量体(b)由来の構造単位が通常50〜99重量%、好ましくは75〜97.5重量%、より好ましくは84〜95.5重量%の割合で含まれることが望ましい。シアン化ビニル単量体由来の構造単位が20重量%を超えると、重合初期と重合後期で生成する共重合体に組成分布が生じ、透明な共重合体が得られないことがある。
【0076】
上記ビニル系重合体(B)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が、通常3,000〜350,000、好ましくは10,000〜175,000、さらに好ましくは10,000〜90,000であり、重量平均分子量(Mw)は、通常500〜500,000、好ましくは5,000〜250,000、さらに好ましくは20,000〜100,000であることが望ましい。
【0077】
分子量が小さすぎると、得られる成形品やフィルムの強度が低くなることがある。分子量が大きすぎると、溶液粘度が高くなりすぎて本発明に係る熱可塑性樹脂組成物の生産性や加工性が悪化することがある。
【0078】
また、上記ビニル系重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)は、通常1.0〜10、
好ましくは1.2〜5、さらに好ましくは1.2〜4であることが望ましい。
<熱可塑性樹脂組成物および光学フィルム>
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物および光学フィルムは、上記環状オレフィン系重合体(A)と上記ビニル系重合体(B)とを、環状オレフィン系重合体(A)100重量部に対して、ビニル系重合体(B)が通常0.01〜300重量部、好ましくは10〜300重量部、より好ましくは40〜150重量部の割合で含有する。ビニル系重合体(B)の配合量が上記範囲にあると、低複屈折性を有し、耐侯性、耐熱性に優れた熱可塑性樹脂組成物や光学フィルムを得ることができる。また、フィルムなどの成形品の強度も向上する。ビニル系重合体(B)の配合量が上記下限未満になると、得られる熱可塑性樹脂組成物や光学フィルムの複屈折値が十分に小さくならないことがある。また、ビニル系重合体(B)の配合量が上記上限を超えると、得られる熱可塑性樹脂組成物や光学フィルムの耐熱性が低下したり、光学フィルムの透明性が低下することがある。
【0079】
また、このような光学フィルムから位相差フィルムを形成する場合には、環状オレフィン系重合体(A)100重量部に対して、ビニル系重合体(B)が好ましくは10〜100重量部、より好ましくは15〜75重量部、特に好ましくは20〜65重量部の割合で含有する熱可塑性樹脂組成物が望ましい。このような熱可塑性樹脂組成物を用いると、優れた位相差発現性および波長分散性を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0080】
一方、上記熱可塑性樹脂組成物を射出成形品に適用する場合、環状オレフィン系重合体(A)100重量部に対して、ビニル系重合体(B)が好ましくは10〜300重量部、より好ましくは30〜150重量部、特に好ましくは40〜100重量部の割合である。
【0081】
上記熱可塑性樹脂組成物および光学フィルムは、さらに炭化水素樹脂を含有していてもよい。この炭化水素樹脂としては、C5系樹脂、C9系樹脂、C5系/C9系混合樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、オレフィン/ビニル置換芳香族系化合物の共重合体系樹脂、シクロペンタジエン系化合物/ビニル置換芳香族系化合物の共重合体系樹脂、これらの樹脂の水素添加物およびビニル置換芳香族系樹脂の水素添加物などを挙げることができる。炭化水素樹脂の含有量は、環状オレフィン系重合体(A)100重量部に対して、通常0.01〜50重量部、好ましくは0.1〜25重量部である。
【0082】
また、上記熱可塑性樹脂組成物および光学フィルムは、耐熱劣化性や耐光性の改良のために、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−ジオキシ−3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等の公知のフェノール系またはヒドロキノン系酸化防止剤;トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等の公知のリン系酸化防止剤を含有していてもよい。これらの酸化防止剤は1種または2種以上を含有させることができる。また、上記熱可塑性樹脂組成物および光学フィルムの耐光性を改良するために、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]]などの公知の紫外線吸収剤を含有していてもよい。さらに、加工性を向上させる滑剤や、必要に応じて難燃剤、抗菌剤、着色剤、離型剤、発泡剤等の公知の添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0083】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物を射出成形品に適用する場合、成形品に複屈折性が発
生しにくい点で、応力光学係数(CR)は小さいほど好ましく、具体的には1500以下
が好ましく、500以下が特に好ましい。
【0084】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、たとえば、
(i)環状オレフィン系重合体(A)とビニル系重合体(B)と任意成分とを、二軸押出
機またはロール混練機などを用いて混合する方法、
(ii)環状オレフィン系重合体(A)を適当な溶媒に溶解した溶液に、ビニル系重合体(B)を添加、混合する方法
により製造することができる。
【0085】
<光学フィルムの製造方法>
本発明に係る光学フィルムは、上記熱可塑性樹脂組成物を、公知の成形方法、たとえば、射出成形法、圧縮成形法または押出成形法などを用いてフィルム状に成形することによって製造できる。
【0086】
また、環状オレフィン系重合体(A)およびビニル系重合体(B)を適当な溶媒に溶解または分散した後、溶剤キャスト法によってフィルムを形成して製造することもできる。このとき用いられる溶媒は、溶剤キャスト法に通常用いられ、環状オレフィン系重合体(A)およびビニル系重合体(B)を十分に溶解できるものであれば特に制限されないが、たとえば、極性溶媒、非極性溶媒を用いることができる。ここで、極性溶媒とは、20℃での誘電率が4以上から80未満のもの、非極性溶媒とは1以上4未満のものである。
【0087】
このような極性溶媒としては、水(78.5)、ジメチルスルホキシド(46.7)、アセトニトリル(37.5)、N,N−ジメチルアセトアミド(37.8)、γ−ブチロラクトン(39.0)、ジメチルホルムアミド(36.7)、メタノール(32.6)、N−メチル−2−ピロリドン(32.0)、テトラメチル尿素(23.0)、アセトン(20.7)、1−プロパノール(20.1)、メチルエチルケトン(18.5)、2−プロパノール(18.3)、1−ブタノール(17.8)、2−メトキシエタノール(16.9)、2−ブタノール(15.8)、イソブチルアルコール(15.8)、2−エトキシエタノール(13.0)、ピリジン(12.3)、o−ジクロロベンゼン(9.9)、塩化メチレン(9.1)、テトラヒドロフラン(7.6)、酢酸(6.2)、エチルアセテート(6.0)、クロロベンゼン(5.7)、クロロホルム(4.8)ジエチルエーテル(4.3)などを挙げることができる。
【0088】
また、非極性溶媒としては、o−キシレン(2.6)、トルエン(2.4)、p−キシレン(2.3)、ベンゼン(2.3)、四塩化炭素(2.2)、シクロヘキサン(2.0)、シクロペンタン(2.0)、ヘプタン(1.9)、ヘキサン(1.9)、ノナン(2.0)、ペンタン(1.8)、トリクロロエチレン(3.4)、2,2,4−トリメチルペンタン(1.9)、などをあげることができる。なお、上記括弧内の数字は、各溶媒の誘電率を示す。
【0089】
上記溶媒は単独でまたは複数を混合して使用することができる。上記溶媒を混合して使用する場合、混合溶媒の20℃での誘電率は2〜15、好ましくは4〜10の範囲にあることが好ましい。このとき、混合溶媒の20℃での誘電率の値は、溶媒の混合比(重量比)で予測することができ、たとえば、溶媒aと溶媒bとを混合した場合、それぞれの重量分率をWaおよびWb、20℃での誘電率をεa,εbとすると混合溶媒の誘電率(ε値)は下記式:
ε値=Wa・εa+Wb・εb
により計算した値として求めることができる。
【0090】
上記溶媒の常圧下での沸点は通常100℃以下、好ましくは70℃以下、特に好ましくは45℃以下である。沸点が100℃を超える溶媒を用いると、製膜後の乾燥時間が長くなり、生産性が悪くなることがある。また、フィルム中に残留する溶媒が多くなり、位相差発現性などの光学特性を悪化させることがある。
【0091】
これらの溶媒のうち、低沸点であるという点で、塩化メチレンを用いることが特に好ましい。環状オレフィン系重合体とビニル系重合体とを含有する従来の熱可塑性樹脂組成物の場合、相溶化剤を使用せずに塩化メチレンに溶解、製膜した後、塩化メチレンを蒸発させると不透明なフィルムになるという問題があったが、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物では、相溶化剤を使用しなくても透明なフィルムを得ることができる。その結果、溶剤キャスト法において、従来よりも低温での乾燥が可能となり、フィルム成形時の熱劣化を防止することができる。
【0092】
上記溶剤キャスト法に用いられる溶液(以下、「フィルム形成液」ともいう。)において、上記熱可塑性樹脂組成物の濃度は、通常0.1〜70重量%であり、好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは10〜35重量%である。この濃度が低すぎると、所望の厚みを有するフィルムを得ることが困難となるとともに、乾燥により溶媒を除去する際に溶媒の蒸発に伴って発泡等が生じやすく、表面平滑性が良好なフィルムを得ることが困難となることがある。一方、上記濃度が高すぎると、フィルム形成液の粘度が高くなりすぎるため、厚みや表面状態が均一なフィルムを得ることが困難となることがある。
【0093】
フィルム形成液の粘度は、室温で、通常1〜1,000,000(mPa・s)、好ましくは10〜100,000(mPa・s)、さらに好ましくは100〜80,000(mPa・s)、特に好ましくは1000〜60,000(mPa・s)である。
【0094】
上記フィルム形成液を調製する際の温度は、室温でもそれより高温でもよく、十分に撹拌することにより、環状オレフィン系重合体(A)およびビニル系重合体(B)が均一に溶解または分散する温度であればよい。
【0095】
上記フィルム形成液には、必要に応じて、染料、顔料等の着色剤を適宜添加することができ、これにより、着色されたフィルムを得ることができる。
また、得られるフィルムの表面平滑性を向上させるために、フィルム形成液にレベリング剤を添加してもよい。レベリング剤としては、一般的なものであれは種々のものを用いることができ、たとえば、フッ素系ノニオン界面活性剤、特殊アクリル樹脂系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤などが挙げられる。
【0096】
このようにして調製されたフィルム形成液を適当なキャリヤー上に注ぐか、または塗布することによって流延し、これによりキャリヤー上にフィルム形成液の液層を形成する。上記キャリヤーとしては、金属ドラム、スチールベルト、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等よりなるポリエステルフィルム、ポリテトラフルオロエチレン製ベルトなどを用いることができる。
【0097】
キャリヤーとしてポリエステルフィルムを使用する場合、表面処理されたフィルムを使用してもよい。表面処理の方法としては、一般的に行われている親水化処理方法、たとえば、ポリエステルフィルムの表面に、アクリル系樹脂やスルホン酸塩基含有樹脂をコーティングまたはラミネートすることにより、これらの樹脂よりなる層を形成する方法、あるいは、コロナ放電処理等によりフィルム表面の親水性を向上させる方法等が挙げられる。
【0098】
また、キャリヤーとして、たとえば、金属ドラム、スチールベルト、ポリエステルフィ
ルム等の表面にサンドマット処理やエンボス処理を施して凹凸を形成したものを用いることにより、得られるフィルムの表面に、キャリヤーの表面の凹凸が転写され、これにより、光拡散機能を有するフィルムを製造することができる。もちろん、フィルムに直接サンドマット処理を施すことにより、当該フィルムに光拡散機能を付与することも可能である。
【0099】
フィルム形成液を塗布する方法としては、ダイスやコーターを使用する方法、スプレー法、刷毛塗り法、ロールコート法、スピンコート法、ディッピング法などが挙げられる。
また、フィルム形成液を繰り返し塗布することにより、得られるフィルムの厚みや表面平滑性を制御することができる。
【0100】
このようにしてキャリヤー上に形成した液層に対して、乾燥等による溶媒の除去処理を行う。乾燥方法としては、一般的に用いられる乾燥処理法、たとえば、多数のローラーによって乾燥炉中を通過させる方法を利用することができるが、乾燥工程において溶媒の蒸発に伴って気泡が発生すると、得られるフィルムの特性を著しく低下させるので、これを回避するために、乾燥工程を2段以上の複数工程とし、各工程における温度あるいは風量を制御することが好ましい。
【0101】
その後、乾燥して得られる膜をキャリヤーから剥離させることにより、本発明に係る光学フィルムを得ることができる。
このようにして得られた光学フィルムは、残留溶媒量が、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下である。フィルム中の残留溶媒量が上記上限を超えると、フィルム使用時において寸法の経時変化が大きくなり好ましくない。また、残留溶媒によりガラス転移温度が低くなり、耐熱性も低下することがあるため好ましくない。
【0102】
この光学フィルムを本発明に係る位相差フィルムの原反フィルムとして用いる場合には、フィルム中の残留溶媒量を上記範囲内で適宜調節することが特に必要となる場合がある。具体的には、延伸配向処理によってフィルムに位相差を安定して均一に発現させるために、フィルム中の残留溶媒量を通常10〜0.1重量%、好ましくは5〜0.1重量%、さらに好ましくは1〜0.1重量%にすることが望ましい。フィルム中に微量の溶媒を残留させることにより、延伸配向処理が容易になる、あるいは位相差発現性の制御が容易になることがある。
【0103】
上記光学フィルムの厚みは、通常0.1〜3,000μm、好ましくは0.1〜1,000μm、さらに好ましくは1〜500μm、最も好ましくは5〜300μmである。フィルムが薄すぎると、フィルムの取扱い性が低下することがあり、厚すぎると、ロール状に巻き取ることが困難になることがある。
【0104】
上記光学フィルムの厚み分布は、平均値に対して通常±20%以内、好ましくは±10%以内、さらに好ましくは±5%以内、特に好ましくは±3%以内である。また、1cmあたりの厚みの変動率は、通常10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下である。フィルムの厚み分布を上記の範囲内に制御することにより、上記光学フィルムを延伸配向したフィルムにおいて、位相差ムラの発生を防止することができる。
【0105】
本発明に係る光学フィルムは、延伸加工(延伸配向処理)を施すことにより、位相差フィルムとなる。たとえば、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムを、この熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度から該ガラス転移温度+20℃の範囲にある延伸温度で1.1〜5.0倍に自由端1軸延伸すると、NZ係数が1.1以上の位相差フィル
ムを得ることができる。ここで、自由端1軸延伸とは、延伸するある1軸方向(延伸方向)以外の方向にテンションをかけることなく、フィルムをある1軸方向に延伸する方法である。また、NZ係数とは、フィルム延伸方向をx軸、x軸に対する面内垂直方向をy軸、x軸とy軸に垂直な方向(フィルムの厚さ方向)をz軸とした場合に、下記式で定義される値である。
【0106】
NZ係数=(nx−nz)/(nx−ny
(nx:x軸方向の屈折率、ny:y軸方向の屈折率、nx:z軸方向の屈折率)
上記範囲のNZ係数を有する位相差フィルムが得られる光学フィルムとしては、p−イソプロペニルフェノール、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を3元共重合して得られるビニル系重合体と環状オレフィン系樹脂との熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルム等が挙げられ、さらに具体的には、p−イソプロペニルフェノール/スチレン/アクリロニトリル3元ビニル共重合体と環状オレフィン系樹脂との熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルム等が挙げられる。このビニル系共重合体において、各構造単位の割合は、全構造単位100重量%に対して、p−イソプロペニルフェノール由来の構造が0.5〜30重量%、芳香族ビニル単量体由来の構造が50〜99重量%、シアン化ビニル単量体由来の構造単位が0.5〜20重量%が好ましい。また、上記熱可塑性樹脂組成物において、ビニル系重合体と環状オレフィン系樹脂の配合比は、ビニル系重合体/環状オレフィン樹脂(重量比)=10/90〜50/50となる範囲が好ましい。
【0107】
<位相差フィルム>
本発明に係る位相差フィルムは、上記光学フィルムに延伸加工(延伸配向処理)を施すことにより製造することができる。上記延伸加工により、フィルムを形成する(共)重合体の分子鎖が一定の方向に規則的に配向して、透過光に位相差を与える機能が発現される。ここで、「規則的に配向」とは、通常の高分子化合物(ポリマー)を溶融押し出し法やキャスト法等によりフィルム状に成形した場合には、工程中で発生するフィルムの歪みの大小にもよるが、当該高分子化合物の分子鎖は特定な方向を向かずにランダムな状態であるのに対し、高分子化合物の分子鎖がフィルムの平面の一軸方向または二軸方向あるいは厚み方向に規則的に配向していることを意味する。高分子化合物の配向の規則性の程度はさまざまであり、延伸条件により制御することができる。
【0108】
延伸加工法として、具体的には、公知の一軸延伸法または二軸延伸法を挙げることができる。すなわち、テンター法による横一軸延伸法、ロール間圧縮延伸法、円周の異なる二組のロールを利用する縦一軸延伸法、あるいは横一軸と縦一軸を組み合わせた二軸延伸法、インフレーション法による延伸法等が挙げられる。
【0109】
一軸延伸法を用いる場合には、延伸速度は通常1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、さらに好ましくは100〜1,000%/分であり、特に好ましくは100〜500%/分である。
【0110】
二軸延伸法としては、同時に互いに交わる2方向に延伸を行う方法や一軸延伸した後に最初の延伸方向と異なる方向に延伸を行う方法が挙げられる。これらの方法において、2つの延伸軸の交わり角度は、所望する特性に応じて決定されるため特に限定はされないが、通常120〜60度の範囲である。また、延伸速度は各延伸方向で同じであっても、異なっていてもよく、通常1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、さらに好ましくは100〜1,000%/分であり、特に好ましくは100〜500%/分である。
【0111】
延伸加工における加工温度は、特に限定されるものではないが、用いられる光学フィルム(熱可塑性樹脂組成物)のガラス転移温度をTgとしたとき、通常Tg以上Tg+30
℃以下、好ましくはTg以上Tg+20℃以下、より好ましくはTg以上Tg+10℃以下であることが望ましい。延伸温度が上記範囲内にあると、高い位相差を発現でき、かつ位相差ムラの発生を抑制することが可能となり、また、屈折率楕円体の制御が容易になることから好ましい。
【0112】
延伸倍率は、所望の位相差など種々の特性に応じて決定されるため、特に限定はされないが、通常1.01〜10倍、好ましくは1.03〜5倍、さらに好ましくは1.03〜3倍である。
【0113】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物の場合、Tg近傍で延伸加工できるため、低倍率の延伸でもフィルムに高い応力をかけることが可能であり、高い位相差を得ることができる。また、上記のように比較的小さい延伸倍率であると、透明性、光軸のずれのない位相差フィルムを容易に製造することができる。なお、延伸倍率が大きすぎると、位相差や光軸の制御が困難となることがある。
【0114】
上記のようにして延伸したフィルムは、そのまま室温で冷却してもよいが、Tg−100℃以上Tg以下程度の温度雰囲気下に少なくとも10秒間以上、好ましくは30秒間〜60分間、さらに好ましくは1分間〜60分間保持してヒートセットし、その後、室温まで冷却することが好ましく、これにより、透過光の位相差の経時変化が少なく、安定した位相差特性を有する位相差フィルムが得られる。
【0115】
上記のようにして得られる位相差フィルムは、延伸により分子が配向することにより、透過光に位相差を付与しているが、この位相差の絶対値は、延伸倍率あるいは延伸前のフィルムの厚み等を調整することにより制御することができる。たとえば、延伸前の厚みが同じフィルムであっても、延伸倍率が大きいフィルムほど透過光の位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸倍率を変更することによって所望の位相差を透過光に付与する位相差フィルムを得ることができる。また、延伸倍率が同じであっても、延伸前のフィルムの厚みが大きいほど透過光に付与する位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸前のフィルムの厚みを変更することによって所望の位相差を透過光に付与する位相差フィルムを得ることができる。
【0116】
たとえば、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムを、この熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度から該ガラス転移温度+20℃の範囲にある延伸温度で1.1〜5.0倍に自由端1軸延伸することによって、NZ係数が通常1.10以上、好ましくは1.12以上の位相差フィルムを得ることができる。
【0117】
また、上記条件で延伸した位相差フィルムは、波長400nmにおける位相差(R400
)と波長550nmにおける位相差(R550)と波長800nmにおける位相差(R800)とが、R400<R550<R800の関係を満たすことが好ましい。
【0118】
上記のようにして得られる位相差フィルムにおいて、透過光に付与する位相差の値は、その用途により決定されるものであり一義的に決定されるものではないが、液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子あるいはレーザー光学系の波長板に使用する場合には、通常1〜10,000nm、好ましくは10〜2,000nm、さらに好ましくは15〜1,000nmであることが望ましい。
【0119】
また、フィルムを透過した光の位相差は、その均一性が高いことが好ましく、具体的には、光線波長550nmにおけるバラツキが通常±20%以下であり、好ましくは±10%以下、さらに好ましくは±5%以下であるのが望ましい。位相差のバラツキが±20%の範囲を超える場合には、液晶表示素子等に使用したときに、色ムラ等が発生し、ディス
プレイ本体の性能が低下するという問題が生じることがある。
【0120】
また、フィルムを透過した光の位相差は、透過光の波長に依存する。本発明に係る位相差フィルムは逆波長分散性を有することが好ましい。具体的には、波長660nmにおける位相差(R660)と波長550nmにおける位相差(R550)との比(R660/R550)が通常1.02以上、好ましくは1.03以上である。R660/R550が上記下限未満にある位相差フィルムは鮮明さに欠けることがある。
【0121】
また、本発明に係る位相差フィルムは、位相差発現性(複屈折値)Δnが、波長550nmにおいて、通常0.0005以上、好ましくは0.0010以上、より好ましくは0.0015以上である。Δnが上記下限未満になると、フィルムが透過光に位相差を付与するためには膜厚を厚くする必要があることがあり、膜厚が厚いフィルムでは光線透過率が低下したり、フィルム製造時の乾燥時間が長くなり、フィルム生産性の低下することがある。
【0122】
本発明に係る位相差フィルムは、1枚単独でまたは2枚以上を積層して、あるいは透明基板等に貼り合わせて用いることができる。また、その他のフィルム、シート、基板に積層して使用することもできる。
【0123】
フィルム等を積層する場合には、粘着剤や接着剤を用いることができる。粘着剤や接着剤としては、透明性に優れたものを用いることが好ましく、具体例には、天然ゴム、合成ゴム、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、ポリビニルエーテル、アクリル系樹脂、変性ポリオレフィン系樹脂等の粘着剤や、水酸基、アミノ基等の官能基を有する前記樹脂等にイソシアナート基含有化合物などの硬化剤を添加した硬化型粘着剤、ポリウレタン系のドライラミネート用接着剤、合成ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤などが挙げられる。
【0124】
また、その他のフィルム、シート、基板などと積層する際の作業性を向上させるために、上記の位相差フィルムには、予め、粘着剤層または接着剤層を積層することができる。粘着剤層または接着剤層を積層する場合、粘着剤や接着剤としては、前述の粘着剤あるいは接着剤を用いることができる。
【0125】
本発明に係る光学フィルムや位相差フィルムは、携帯電話、デジタル情報端末機、ポケットベル、ナビゲーション、車載用液晶ディスプレイ、液晶モニター、調光パネル、OA機器用ディスプレイ、AV機器用ディスプレイなどの各種液晶表示素子や、エレクトロルミネッセンス表示素子あるいはタッチパネルなどに用いることができる。また、CD、CD−R、MD、MO、DVD等の光ディスクの記録・再生装置に使用される波長板としても有用である。
【0126】
[実施例]
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、この実施例により何ら限定されるものではない。
【0127】
<測定・評価方法>
(1)固有粘度[η]:
濃度0.5g/100mlのクロロベンゼン溶液を調製し、30℃の条件で測定した。
【0128】
(2)分子量:
東ソー(株)製HLC−8220ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、カラム:東ソー(株)製、TSKgelG7000HxL、TSKgelGMHxL、TSKgelGMHxL、TSKgelG2000xL)を用い、テトラヒドロフラン(T
HF)溶媒で、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
【0129】
(3)ガラス転移温度:
セイコーインスツルメンツ社製DSC6200を用いて、昇温速度を毎分20℃、窒素気流下で測定した。Tgは、微分示差走査熱量の最大ピーク温度(A点)および最大ピーク温度より−20℃の温度(B点)を示差走査熱量曲線上にプロットし、B点を起点とするベースライン上の接線とA点を起点とする接線との交点として求めた。
【0130】
(4)反応転化率:
予め計量したアルミホイルに重合後の溶液を1.0g採取し、220℃のホットプレート上で30分加熱して揮発分を揮発させ、固形分濃度を求めた。次いで、下式に従い単量体の反応転化率を測定した。
反応転化率(%)=(固形分濃度×溶液の総重量−仕込み触媒の重量)
/仕込み単量体の総重量×100
(5)組成分析:
試料1.0gをd−クロロホルムに溶解し、これにクロム(III)アセチルアセトナー
トを50mg添加して、核磁気共鳴分光計(NMR、Bruker社製AVANCE500)を用いてビニル系共重合体の13C−NMRを測定した。p−イソプロペニルフェノール由来の芳香環炭素のピーク(153ppm)面積強度と、スチレン由来の四級炭素のピーク(142〜150ppm)面積強度とから、スチレン由来の構造単位とp−イソプロペニルフェノール由来の構造単位との割合を算出した。
【0131】
(6)応力光学係数(CR):
公知の方法(Polymer Journal,Vol.27,No.9,pp943−950(1995))により測定した。
【0132】
すなわち、得られた熱可塑性樹脂組成物をプレス成形(成形条件:280℃、2Pa)により0.5mm×5mm×50mmの大きさの試験片を4個作製し、この試験片にそれぞれ10〜300gの範囲の異なる荷重(4点)をかけ、これらを、試験片のTg+20℃の加熱炉に入れて30分放置して延伸した。その後、荷重をかけた状態で加熱炉を室温まで徐冷し、延伸された試験片の位相差を下記の方法によりそれぞれ測定した。
【0133】
位相差(550nm)は自動複屈折計(王子計測機器(株)製、KOBRA−21ADH)を用いて測定した。下記式に従い、それぞれの試験片について応力(σ)と複屈折値(ΔN)を求め、σ−ΔNプロットの傾きからCRを求めた。
【0134】
σ=F/(d・w)
(F:荷重、d:延伸後の試験片厚み、w:延伸後の試験片幅)
ΔN=Re/d
(Re:位相差、d:延伸後の試験片厚み)
R=ΔN/σ (単位:Br=10-12Pa-1
(7)射出成形体の位相差:
複屈折性評価用試験片のゲート中央部の550nmにおける位相差を、自動複屈折計(王子計測機器(株)製、KOBRA−21ADH)を用いて測定した。
【0135】
(8)耐水性(吸水率の測定):
耐水性評価用試験片を100℃で24時間乾燥した後、重量W0を測定した。次いで、
この試験片を23℃の水中に24時間浸漬した後、重量W1を測定し、下記式により吸水
率を算出した。
【0136】
吸水率(%)=〔(W1−W0)/W0〕×100
(9)透明性(全光線透過率の測定):
透明性評価用試験片の全光線透過率をJIS K7105(測定法A)に準じて、HAZEメーター(スガ試験機(株)製、HGM−2DP)を用いて測定した。
【0137】
(10)HAZE:
得られたフィルムのHAZEをJIS K7105(測定法A)に準じて、HAZEメーター(スガ試験機(株)製、HGM−2DP)を用いて測定した。
【0138】
(11)位相差フィルムの位相差、複屈折値、逆波長分散性およびNZ係数:
延伸後のフィルムについて、550nmおよび660nmにおける位相差(レターデーション)、ならびにNZ係数を自動複屈折計(王子計測機器(株)製、KOBRA−21ADH)を用いて測定した。なお、NZ係数とは、次式により求められる値である。
【0139】
NZ係数=(nx−nz)/(nx−ny
(nx:x軸方向の屈折率、ny:y軸方向の屈折率、nx:z軸方向の屈折率)
また、位相差フィルムの複屈折値、逆波長分散性は次式により求めた。
【0140】
複屈折値(Δn)=R550/d
逆波長分散性=R660/R550
(R550、R660:波長550nmおよび660nmにおける位相差、d:膜厚)
(12)引き裂き強度
延伸後のフィルムの引き裂き強度をJIS K6772に準じて測定した。
【0141】
(13)フィルム着色性
延伸後のフィルムを80℃で1000時間保持し、耐熱試験を実施した。試験前後のフィルムの黄色度(YI)を、JIS K 7105に準じて、分光光度計(スガ試験機製)を用いて測定した。これより、試験前後のYI変化(ΔYI=試験後YI−試験前YI)を算出した。
【0142】
(14)残留溶媒量
得られたフィルムを溶媒に溶解し、ガスクロマトグラフィー法により測定した。
[調製例1]
特定単量体として下記式
【0143】
【化6】

【0144】
で表される8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン100重量部、分子量調節剤として1−へキセン4重量部、および
溶媒としてトルエン200重量部を、窒素置換した反応容器に仕込み、80℃に加熱した。これにトリエチルアルミニウムのトルエン溶液(濃度:0.6mol/l)0.12重量部、メタノール変性WCl6のトルエン溶液(濃度:0.025mol/l)0.37
重量部を加え、80℃で1時間反応させることにより重合体を得た。
【0145】
得られた重合体の溶液をオートクレーブに入れ、さらに溶媒としてトルエンを200重量部および水素添加触媒としてRuHCl(CO)[P(C6533を0.06重量部添加した後、窒素置換を3回行った。次いで、水素ガスを反応容器へ投入し、圧力を8.0MPaに調整した。その後、165℃まで加熱した後、圧力を10MPaに保持したまま、165℃で3時間の反応を行い、水素添加物を得た。この水素添加物をメタノールで再沈殿させて回収した後、乾燥して環状オレフィン系重合体(1)を得た。
【0146】
この環状オレフィン系重合体(1)は、固有粘度[η]=0.78dl/g、重量平均分子量(Mw)=11.5×104、分子量分布(Mw/Mn)=3.3、ガラス転移温
度(Tg)=167℃であった。また、1H−NMR測定によりこの環状オレフィン系重
合体(1)の水素添加率を求めたところ、主鎖中のオレフィン性不飽和結合は99.9%以上水素添加されていた。
【0147】
[調製例2]
反応容器に、スチレン96.8重量部、p−イソプロペニルフェノール3.2重量部、シクロヘキサン30重量部、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(和光試薬:V−40)0.64重量部を仕込んだ。これを窒素気流で10分間バブリングした後、90℃で8時間反応させ、スチレン/p−イソプロペニルフェノール共重合体(2)を得た。
【0148】
共重合体(2)は、固形分測定による反応転化率=98%、重量平均分子量(Mw)=78000、数平均分子量(Mn)=35500、分子量分布(Mw/Mn)=2.2、ガラス転移温度(Tg)=103℃であった。また、共重合体(2)の13C−NMRスペクトルを図1(全体図)および図2(拡大図)に示す。p−イソプロペニルフェノール由来の芳香環の炭素(i)〜(iv)のピークがそれぞれ115.2、122.6、138.4、153.1ppmに確認された。前記炭素(iv)のピークおよびポリスチレン由来の四級炭素のピーク(145.2ppm)の、それぞれの積分値からポリマー組成を求めた結果、共重合体(2)は、スチレン由来の構造単位/p−イソプロペニルフェノール由来の構造単位=96.8/3.2(重量比)であった。
【0149】
[調製例3]
反応容器にスチレン91.5重量部、p−イソプロペニルフェノール4.5重量部、アクリロニトリル4.0重量部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光試薬:V−65)0.61重量部を仕込んだ。これを窒素気流で10分間バブリングした後、55℃で7時間反応させた。反応終了後、多量のメタノール中に再沈殿させることにより、スチレン/p−イソプロペニルフェノール/アクリロニトリル共重合体(3)を得た。
【0150】
共重合体(3)は、固形分測定による反応転化率=53%、Mw=72700、Mn=40200、Mw/Mn=1.81、ガラス転移温度(Tg)=110℃であった。共重合体(3)の13C−NMRスペクトルからポリマー組成を求めた結果、共重合体(3)は、スチレン由来の構造単位/p−イソプロペニルフェノール由来の構造単位/アクリロニトリル由来の構造単位=91.4/4.5/4.1(重量比)であった。
【0151】
[調製例4]
p−イソプロペニルフェノールの替わりに、p−tert−ブトキシスチレンをスチレンに対して当モル使用した以外は、調製例2と同様にしてスチレン/p−tert−ブトキシスチレン共重合体を得た。これに、p−トルエンスルホン酸0.2重量部を添加し、100℃で4時間脱保護反応を行い、スチレン/p−ヒドロキシスチレン共重合体(4)
を得た。
【0152】
共重合体(4)は、Mw=83000、Mn=37700、Mw/Mn=2.2、ガラス転移温度(Tg)=103℃であった。
【実施例1】
【0153】
重合体(1)と共重合体(2)とを重合体(1)/共重合体(2)=65/35の配合比(重量比)で300℃で溶融混合し、熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の応力光学係数(CR値)を上記方法により測定した。
【0154】
また、上記熱可塑性樹脂組成物を真空乾燥機にて100℃、4時間の条件で乾燥した。これを、射出成形機「SG75M−S」(住友重機(株)製、シリンダー径28mm、型締め力75トン)を用いて、樹脂温度300℃、金型温度130℃、射出速度100mm/sec、ホッパーおよびシリンダーを窒素で充満した条件で射出成形することにより、複屈折性評価用試験片(幅60mm、長さ80mm、厚さ1mmの短冊状射出成形体)、耐水性評価用試験片(幅40mm、長さ80mm、厚さ3mm)および透明性評価用試験片(厚さ3mm)を作製した。これらの試験片について、550nmでの位相差、耐水性、透明性を評価した。結果を表1に示す。
【0155】
さらに、重合体(1)と共重合体(2)とを重合体(1)/共重合体(2)=65/35の配合比(重量比)で塩化メチレンに溶解して濃度30重量%の溶液を調製した後、溶剤キャスト法により製膜し、100℃で48時間真空乾燥して膜厚175μmの透明フィルムを得た。この透明フィルムの示差走査熱量測定(DSC)結果を図3に示す。この透明フィルムは、単一のTg=137℃であり、HAZE=0.1であった。このことから、重合体(1)と共重合体(2)とは相溶化していることが確認された。
【0156】
上記透明フィルムを10mm×80mmに切断し、これを、恒温槽付きインストロン引張り試験機(5567型)を使用して延伸温度Tg+5℃(=142℃)および延伸速度60mm/min(120%/分)、チャック間距離50mmの条件で、自由端一軸延伸法にて、延伸倍率2.0倍に延伸し、膜厚123μmのフィルムを得た。延伸後のフィルムについて、HAZE、550nmでの位相差、550nmでの複屈折値、逆波長分散性(R660/R550)、NZ係数、引き裂き強度、耐熱試験後のフィルム着色性および残留溶媒量を評価した。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0157】
共重合体(2)の替わりに、共重合体(3)を重合体(1)/共重合体(3)=65/35の配合比(重量比)で混合した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の応力光学係数(CR値)を上記方法により測定した。
【0158】
また、上記熱可塑性樹脂組成物から、実施例1と同様にして各種試験片を作製し、550nmでの位相差、耐水性、透明性を評価した。結果を表1に示す。
さらに、共重合体(2)の替わりに、共重合体(3)を重合体(1)/共重合体(3)=65/35の配合比(重量比)で塩化メチレンに溶解した以外は、実施例1と同様にして膜厚175μmの透明フィルムを得た。この透明フィルムは、単一のTg=138℃であり、HAZE=0.1であった。このことから、重合体(1)と共重合体(3)とは相溶化していることが確認された。
【0159】
上記透明フィルムを10mm×80mmに切断し、これを、恒温槽付きインストロン引張り試験機(5567型)を使用して延伸温度Tg+5℃(=143℃)および延伸速度60mm/min(120%/分)、チャック間距離50mmの条件で、自由端一軸延伸
法にて、延伸倍率2.0倍に延伸し、膜厚121μmのフィルムを得た。延伸後のフィルムについて、HAZE、550nmでの位相差、550nmでの複屈折値、逆波長分散性(R660/R550)、NZ係数、引き裂き強度、耐熱試験後のフィルム着色性および残留溶媒量を評価した。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0160】
重合体(1)と共重合体(3)との配合比を重合体(1)/共重合体(3)=55/45(重量比)に変更した以外は、実施例2と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の応力光学係数(CR値)を上記方法により測定した。
【0161】
また、上記熱可塑性樹脂組成物から、実施例1と同様にして各種試験片を作製し、550nmでの位相差、耐水性、透明性を評価した。結果を表1に示す。
さらに、重合体(1)と共重合体(3)との配合比を重合体(1)/共重合体(3)=55/45(重量比)に変更した以外は、実施例2と同様にして膜厚175μmの透明フィルムを得た。この透明フィルムは、単一のTg=123℃であり、HAZE=0.1であった。このことから、重合体(1)と共重合体(3)とは相溶化していることが確認された。
【0162】
上記透明フィルムを10mm×80mmに切断し、これを、恒温槽付きインストロン引張り試験機(5567型)を使用して延伸温度Tg+5℃(=128℃)および延伸速度60mm/min(120%/分)、チャック間距離50mmの条件で、自由端一軸延伸法にて、延伸倍率2.0倍に延伸し、膜厚123μmのフィルムを得た。延伸後のフィルムについて、HAZE、550nmでの位相差、550nmでの複屈折値、逆波長分散性(R660/R550)、NZ係数、引き裂き強度、耐熱試験後のフィルム着色性および残留溶媒量を評価した。結果を表1に示す。
【0163】
[比較例1]
重合体(1)の応力光学係数(CR値)を上記方法により測定した。
また、重合体(1)から、実施例1と同様にして各種試験片を作製し、550nmでの位相差、耐水性、透明性を評価した。結果を表1に示す。
【0164】
さらに、重合体(1)を塩化メチレンに溶解して濃度30重量%の溶液を調製した後、溶剤キャスト法により製膜し、100℃で48時間真空乾燥して膜厚175μmの透明フィルムを得た。この透明フィルムは、Tg=167℃であり、HAZE=0.1であった。
【0165】
上記透明フィルムを10mm×80mmに切断し、これを、恒温槽付きインストロン引張り試験機(5567型)を使用して延伸温度Tg+5℃(=172℃)および延伸速度60mm/min(120%/分)、チャック間距離50mmの条件で、自由端一軸延伸法にて、延伸倍率2.0倍に延伸し、膜厚123μmのフィルムを得た。延伸後のフィルムについて、HAZE、550nmでの位相差、550nmでの複屈折値、逆波長分散性(R660/R550)、NZ係数、引き裂き強度、耐熱試験後のフィルム着色性および残留溶媒量を評価した。結果を表1に示す。
【0166】
[比較例2]
共重合体(2)の替わりに、共重合体(4)を重合体(1)/共重合体(4)=65/35の配合比(重量比)で混合した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の応力光学係数(CR値)を上記方法により測定した。
【0167】
また、上記熱可塑性樹脂組成物から、実施例1と同様にして各種試験片を作製し、55
0nmでの位相差、耐水性、透明性を評価した。結果を表1に示す。
さらに、共重合体(2)の替わりに、共重合体(4)を重合体(1)/共重合体(4)=65/35の配合比(重量比)で塩化メチレンに溶解した以外は、実施例1と同様にして膜厚175μmの透明フィルムを得た。この透明フィルムは、単一のTg=132℃であり、HAZE=0.1であった。このことから、重合体(1)と共重合体(4)とは相溶化していることが確認された。
【0168】
上記透明フィルムを10mm×80mmに切断し、これを、恒温槽付きインストロン引張り試験機(5567型)を使用して延伸温度Tg+5℃(=137℃)および延伸速度60mm/min(120%/分)、チャック間距離50mmの条件で、自由端一軸延伸法にて、延伸倍率2.0倍に延伸し、膜厚119μmのフィルムを得た。延伸後のフィルムについて、HAZE、550nmでの位相差、550nmでの複屈折値、逆波長分散性(R660/R550)、NZ係数、引き裂き強度、耐熱試験後のフィルム着色性および残留溶媒量を評価した。結果を表1に示す。
【0169】
[比較例3]
共重合体(2)の替わりに、市販ポリスチレン(PS−ジャパン製ポリスチレン、Mw=219,000,Mn=81,300)を用いた以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物は不透明であったため、応力光学係数を測定できなかった。
【0170】
また、上記熱可塑性樹脂組成物から、実施例1と同様にして各種試験片を作製し、耐水性、透明性を評価した。結果を表1に示す。なお、これらの試験片は不透明であったため、550nmでの位相差は測定できなかった。
【0171】
さらに、共重合体(2)の替わりに、市販ポリスチレン(PS−ジャパン製ポリスチレン、Mw=219,000,Mn=81,300)を用いた以外は、実施例1と同様にして膜厚175μmのフィルムを得た。このフィルムは不透明であり、また、重合体(1)由来のTg=167℃とポリスチレン由来のTg=101℃の2つのTgがあり、HAZE=94であった。このことから、重合体(1)とポリスチレンとは相溶化していないことが確認され、光学特性は測定できなかった。これより、市販ポリスチレンを利用した場合、光学材料として利用できないことが確認された。
【0172】
上記フィルムを10mm×80mmに切断し、これを、恒温槽付きインストロン引張り試験機(5567型)を使用して延伸温度172℃および延伸速度60mm/min(120%/分)、チャック間距離50mmの条件で、自由端一軸延伸法にて、延伸倍率2.0倍に延伸し、膜厚122μmのフィルムを得た。延伸後のフィルムについて、引き裂き強度および残留溶媒量を評価した。結果を表1に示す。
【0173】
[比較例4]
共重合体(2)の替わりに、7重量%の無水マレイン酸を含有した市販ポリスチレン(ノバケミカルジャパン製、Dylark、グレードD232,Mw=207,000,Mn=104,000)を用いた以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物は不透明であったため、応力光学係数を測定できなかった。
【0174】
また、上記熱可塑性樹脂組成物から、実施例1と同様にして各種試験片を作製し、耐水性、透明性を評価した。結果を表1に示す。なお、これらの試験片は不透明であったため、550nmでの位相差は測定できなかった。
【0175】
さらに、共重合体(2)の替わりに、7重量%の無水マレイン酸を含有した市販ポリス
チレン(ノバケミカルジャパン製、Dylark、グレードD232,Mw=207,000,Mn=104,000)を用いた以外は、実施例1と同様にして膜厚175μmのフィルムを得た。このフィルムは不透明であり、また、重合体(1)由来のTg=167℃と無水マレイン酸含有ポリスチレン由来のTg=120℃の2つのTgがあり、HAZE=88であった。このことから、重合体(1)と上記無水マレイン酸含有ポリスチレンとは相溶化していないことが確認され、光学特性は測定できなかった。
【0176】
上記フィルムを10mm×80mmに切断し、これを、恒温槽付きインストロン引張り試験機(5567型)を使用して延伸温度172℃および延伸速度60mm/min(120%/分)、チャック間距離50mmの条件で、自由端一軸延伸法にて、延伸倍率2.0倍に延伸し、膜厚123μmのフィルムを得た。延伸後のフィルムについて、引き裂き強度および残留溶媒量を評価した。結果を表1に示す。
【0177】
[比較例5]
塩化メチレンの替わりにトルエン溶剤を用いてフィルムを作製した以外は、比較例4と同様にして膜厚175μmの透明フィルムを得た。この透明フィルムは、単一のTg=140℃であり、HAZE=0.5であった。このことから、重合体(1)と無水マレイン酸7wt%含有ポリスチレンとは相溶化していることが確認された。
【0178】
上記透明フィルムを10mm×80mmに切断し、これを、恒温槽付きインストロン引張り試験機(5567型)を使用して延伸温度Tg+5℃(=145℃)および延伸速度60mm/min(120%/分)、チャック間距離50mmの条件で、自由端一軸延伸法にて、延伸倍率2.0倍に延伸し、膜厚124μmのフィルムを得た。延伸後のフィルムについて、HAZE、550nmでの位相差、550nmでの複屈折値、逆波長分散性(R660/R550)、NZ係数、引き裂き強度、耐熱試験後のフィルム着色性および残留溶媒量を評価した。結果を表1に示す。この延伸フィルムは残留トルエン量が多く、位相差発現性が著しく悪化した。
【0179】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、耐侯性、耐熱性に優れ、光学用途全般に好適に用いることができるが、フィルムまたはシートに加工して好適に用いることができる。特に、沸点の低い塩化メチレンを用いて製膜することが可能であるため、溶剤キャスト法により光学フィルムを製造する場合に、低温での乾燥が可能となり製造時の熱劣化を防止することができ、延伸加工を必要とする用途、たとえば、位相差フィルム等の光学フィルムに最適である。また、得られた光学フィルムも耐侯性、耐熱性に優れることから、比較的過酷な条件で使用される用途、たとえば、ナビゲーション、車載用液晶ディスプレイなどに用いることができる。
【0181】
また、実施例2および実施例3で例示されるように、本発明に係る光学フィルムを自由端1軸延伸すると、NZ係数>1.1となり、二軸延伸しなくてもNZ係数が1.1以上となる延伸フィルムを得ることができる。上記結果から、本発明に係る光学フィルムは、幅拘束一軸延伸または二軸延伸を実施した場合においても、従来の環状オレフィン開環(共)重合体からなる光学フィルムよりもNZ係数が大きい延伸フィルムが得られることがわかる。したがって、本発明に係る光学フィルムを用いると、従来の光学フィルムに比べて、NZ係数が大きい延伸フィルムを容易に製造でき、特殊な延伸技術を適用することなく、容易に延伸フィルムのNZ係数を制御することができる。
【0182】
さらに、本発明に係る延伸フィルムは、R400<R550<R800となる、特異な波長分散
性(逆波長分散性)を示す。この延伸フィルムの波長分散性は、ビニル系(共)重合体の組成、および環状オレフィン系樹脂とビニル系(共)重合体との配合比により調整でき、本発明により、延伸フィルムなどの成形品に要求される所望の複屈折(または位相差)の波長分散性を発現する材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】図1は、実施例で使用した共重合体(2)の13C−NMRスペクトルの全体図である。
【図2】図2は、図1の拡大図である。
【図3】図3は、実施例で得た透明フィルムの示差走査熱量測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)環状オレフィン系重合体、および
(B)p−イソプロペニルフェノールから誘導される構造単位を有するビニル系重合体を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
環状オレフィン系重合体(A)が、下記式(1)で表される構造単位を有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素、窒素、イオウもしくはケイ素を含む連結基を有していてもよい置換または非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;あるいは極性基を表し、R1とR2、またはR3とR4は、相互に結合して、単環または多環の、炭素環または複素環を形成してもよい。Xは独立に−CH=CH−または−CH2CH2−である。mは0、1または2であり、pは0または1である。)
【請求項3】
ビニル系重合体(B)が、さらにp−イソプロペニルフェノール以外の芳香族ビニル系単量体から誘導される構造単位を有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ビニル系重合体(B)が、さらにシアン化ビニル系単量体から誘導される構造単位を有することを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
(A)環状オレフィン系重合体、および
(B)p−イソプロペニルフェノールから誘導される構造単位を有するビニル系重合体を含有することを特徴とする光学フィルム。
【請求項6】
(A)環状オレフィン系重合体、および(B)p−イソプロペニルフェノールから誘導される構造単位を有するビニル系重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムであって、
該光学フィルムを該熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度から該ガラス転移温度+20℃の範囲にある延伸温度で1.1〜5.0倍に自由端1軸延伸した場合に、NZ係数が1.1以上になることを特徴とする光学フィルム。
【請求項7】
請求項5または6に記載の光学フィルムを延伸配向して得られる位相差フィルム。
【請求項8】
(A)環状オレフィン系重合体、および(B)p−イソプロペニルフェノールから誘導される構造単位を有するビニル系重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる光学フィルムを、
該熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度から該ガラス転移温度+20℃の範囲にある延
伸温度で1.1〜5.0倍に自由端1軸延伸して得られる、NZ係数が1.1以上であることを特徴とする位相差フィルム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−124628(P2006−124628A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−919(P2005−919)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ポケットベル
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】