説明

熱可塑性樹脂組成物、光学用フィルムおよび偏光子保護フィルム

【課題】本発明は、溶融押出法によるフィルム成形時における成形機のロール等の汚染を低減し、フィルム欠陥を防止することが可能な熱可塑性樹脂組成物およびその利用を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、紫外線吸収剤とを含む熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂と紫外線吸収剤との組み合わせを、溶解度パラメータの差が0.5以上となるように選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物およびその利用に関するものであり、特に、溶融押出法によるフィルム成形時における成形機のロール等の汚染を低減し、フィルム欠陥を防止することが可能な熱可塑性樹脂組成物およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコン、ワードプロセッサ、携帯電話、携帯情報端末等に代表されるように、近年、電子機器はますます小型化している。上記例示した電子機器のように表示装置を備える電子機器では、軽量かつコンパクトという特長を生かした液晶表示装置が多く用いられている。
【0003】
これら液晶表示装置には、その表示品位を保つために偏光フィルム等の各種フィルムが用いられている。さらに、これら液晶表示装置では、携帯情報端末や携帯電話向けに、該液晶表示装置をさらに軽量化するため、ガラス基板の代わりに樹脂フィルムまたはシート(以下、特別に記載しない限り、シートおよびフィルムの区別は行わず、フィルムと記載する)を用いた液晶表示装置も実用化されている。
【0004】
この場合、上記樹脂フィルムは、偏光を扱うため、光学的に透明であり、かつ複屈折が小さく、さらに、光学的に均質であることが求められる。つまり、液晶表示装置において、ガラス基板の代わりに用いられる樹脂フィルムには、複屈折と厚みとの積で表される位相差が小さいことが要求されることに加えて、外部の応力等によりフィルムの位相差が変化しにくいことが要求される。
【0005】
また、カメラ、フィルム一体型カメラ、ビデオカメラ等の各種撮影装置、CDやDVD等の光ピックアップ装置、プロジェクター等のOA機器等では、従来ガラスレンズが用いられていた。しかし、近年、これらの機器に用いられるレンズは、軽量化を目的として、樹脂レンズへの置き換えが進んでいる。
【0006】
このような樹脂レンズは、温度や湿気等の使用環境による歪みによる焦点距離のズレの発生や射出成形等の加工時の応力発生等による位相差の影響を受けやすい。そのため、樹脂レンズにおいても、液晶表示装置等に用いられる樹脂フィルムと同様に、外部応力により位相差が変化しにくいことが要求されている。
【0007】
ところで、液晶表示装置においては、上記樹脂フィルムとして、非晶性の熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムが好適に用いられている。より具体的には、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のエンジニアリングプラスチックスや、トリアセチルセルロース等のセルロース類のプラスチックからなる樹脂フィルムを挙げることをできる。
【0008】
このような樹脂フィルムは、一般的に、熱可塑性樹脂と、紫外線吸収剤とを含む熱可塑性樹脂組成物を成形して製造される。該熱可塑性樹脂組成物としては、具体的には、特許文献1に開示される熱可塑性樹脂組成物を挙げることができる。
【0009】
特許文献1には、(A)イミド樹脂、並び(B)トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤からなる群より選択される1種以上の紫外線吸収剤とからなり、ヘーズが1.0%以下、全光線透過率が85%以上、かつ380nmにおける光線透過率が10%以下である樹脂組成物が開示されている。
【0010】
このような熱可塑性樹脂組成物をフィルム状に成形して、樹脂フィルムを製造する場合、通常、300℃程度の高温でポリカーボネート樹脂を溶融した溶融物をTダイリップから押出し、冷却ロールで引き取る方法(以下、「溶融押出法」ともいう)が用いられている。
【0011】
溶融押出法では、使用する紫外線吸収剤の耐熱性が低い場合、フィルムの成形時に、ダイス口で、紫外線吸収剤が分解劣化したり、飛散したりする。その結果、冷却ロール(換言すれば、成形ロール)が汚染され、フィルムの外観不具合が発生するという問題がある。
【0012】
このような問題を解決する技術して、例えば、特許文献2に開示される技術を挙げることができる。
【0013】
特許文献2には、具体的には、ポリカーボネート樹脂と紫外線吸収剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物において、紫外線吸収剤の融点X℃とポリカーボネート樹脂の融点Y℃との関係が0.9≦X/Y≦1.7を満たすようにすることにより、溶融押出成形時に、成形ロールを汚染することなく、透明性および色相に優れるポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムが製造できることが記載されている。
【特許文献1】特開2006−328334号公報(平成18(2006)年12月7日公開)
【特許文献2】特開2006−28442号公報(平成18(2006)年2月2日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献2の技術を採用したしても、実用レベルにおいて、成形機のロール等の汚染が十分に防止できているとはいえない。そのため、Tダイ製膜のように、高温でフィルムに成形する場合であっても、成形機のロール等が汚染され、シートやフィルムに欠陥が生じることを防止できる技術の開発が求められている。
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、溶融押出法によるフィルム成形時における成形機のロール等の汚染を低減し、フィルム欠陥を防止することが可能な熱可塑性樹脂組成物およびその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂と、紫外線吸収剤とを含む熱可塑性樹脂組成物において、溶解度パラメータの差が0.5以上となるように、熱可塑性樹脂と紫外線吸収剤とを組み合わせることにより、溶融押出法によるフィルム成形時に、成形機のロール等が汚染され、フィルム欠陥が発生することを防止できることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の産業上有用な発明を包含する。
【0017】
(1)熱可塑性樹脂と、紫外線吸収剤とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
上記熱可塑性樹脂の溶解度パラメータと、上記紫外線吸収剤の溶解度パラメータとの差が、0.5以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0018】
(2)上記熱可塑性樹脂の溶解度パラメータは、上記紫外線吸収剤の溶解度パラメータよりも小さいことを特徴とする(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0019】
(3)上記熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、およびセルロース系樹脂からなる群より選択されることを特徴とする(1)または(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0020】
(4)上記アクリル系樹脂は、グルタルイミド樹脂、グルタル酸無水物樹脂、ラクトン環構造を有する樹脂であることを特徴とする(3)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0021】
(5)上記グルタルイミド樹脂は、下記一般式(1)
【0022】
【化1】

【0023】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位と、下記一般式(2)
【0024】
【化2】

【0025】
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位と、を含むことを特徴とする(4)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0026】
(6)上記グルタルイミド樹脂は、下記一般式(3)
【0027】
【化3】

【0028】
(式中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。)
で表される単位をさらに含むことを特徴とする(5)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0029】
(7)上記紫外線吸収剤は、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤、およびオキサジアゾール系紫外線吸収剤からなる群より選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0030】
(8)上記紫外線吸収剤は、窒素雰囲気下での1%重量減少温度が330℃以上であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0031】
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする光学用フィルム。
【0032】
(10)延伸されたフィルムであることを特徴とする(9)に記載の光学用フィルム。
【0033】
(11)フィルム面内位相差が10nm以下であり、かつ、厚み方向位相差が50nm以下であることを特徴とする(10)に記載の光学用フィルム。
【0034】
(12)(9)〜(11)のいずれかに記載の光学用フィルムを用いてなることを特徴とする偏光子保護フィルム。
【発明の効果】
【0035】
以上のように、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、紫外線吸収剤とを含み、該熱可塑性樹脂の溶解度パラメータと、該紫外線吸収剤の溶解度パラメータとの差が0.5以上である。そのため、該熱可塑性樹脂組成物を、Tダイ製膜のように、高温でフィルムに成形する際、すなわち、溶融押出法によりフィルム成形する際、成形機のロール等が汚染され、フィルム欠陥が生じることを防止することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
<I.熱可塑性樹脂組成物>
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、紫外線吸収剤とを含み、該熱可塑性樹脂の溶解度パラメータと、該紫外線吸収剤の溶解度パラメータとの差が、0.5以上であればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0038】
上記構成によれば、該熱可塑性樹脂組成物を、Tダイ製膜を用いるような高温での成形条件でフィルムに形成した際(換言すれば、溶融押出法によりフィルム成形を行った際)、上記紫外線吸収剤が飛散して成形機が汚染されることにより、フィルム欠陥が生じることを防止することができる。
【0039】
なお、溶解度パラメータ(以下、「Sp値」ともいう)の算出は、後述の実施例に記載しているので、ここでは、その詳細な説明は省略する。
【0040】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂および紫外線吸収剤に加えて、必要に応じて、滑剤、可塑剤、安定剤やフィラー等の公知の添加剤やその他の樹脂(以下、これらを総称して「その他の添加剤」ともいう)を含有していてもよい。
【0041】
以下、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物に含有される熱可塑性樹脂、紫外線吸収剤、およびその他の添加剤について、詳細に説明する。
【0042】
(1)熱可塑性樹脂
上記熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではないが、具体的には、アクリル系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、およびセルロース系樹脂等を挙げることができる。中でも、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂として、アクリル系樹脂を含有することが好ましい。
【0043】
上記構成によれば、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物をフィルムに成形することにより、複屈折と厚みとの積で表される位相差が小さく、かつ、外部の応力等により該位相差が変化しにくいフィルムを製造することができる。すなわち、上記構成によれば、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、光学用フィルムの製造用途に好適に用いることができる。
【0044】
好ましいアクリル系樹脂としては、例えば、グルタル酸無水物樹脂、ラクトン環構造を有する樹脂、グルタルイミド樹脂などを挙げることができる。グルタル酸無水物樹脂としては、特に制限されないが、特開2007−254703記載の方法などに従って製造することができる。ラクトン環構造を有する樹脂としては、特開2008−9378記載の方法などに従って製造することができる。
【0045】
グルタルイミド樹脂については、以下に詳述する。グルタルイミド樹脂としては具体的には、例えば、下記一般式(1)
【0046】
【化4】

【0047】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位(以下、「グルタルイミド単位」ともいう)と、
下記一般式(2)
【0048】
【化5】

【0049】
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」ともいう)とを含むグルタルイミド樹脂を好適に用いることができる。
【0050】
また、上記グルタルイミド樹脂は、必要に応じて、下記一般式(3)
【0051】
【化6】

【0052】
(式中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。)
で表される単位(以下、「芳香族ビニル単位」ともいう)をさらに含んでいてもよい。
【0053】
上記一般式(1)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素またはメチル基であり、R3は水素、メチル基、ブチル基、またはシクロヘキシル基であることが好ましく、R1はメチル基であり、R2は水素であり、R3はメチル基であることがより好ましい。
【0054】
上記グルタルイミド樹脂は、グルタルイミド単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR1、R2、およびR3が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0055】
グルタルイミド単位は、上記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位をイミド化することにより、形成することができる。
【0056】
また、無水マレイン酸等の酸無水物、または、このような酸無水物と炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸等をイミド化することによっても、上記グルタルイミド単位を形成させることができる。
【0057】
上記一般式(2)において、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素またはメチル基であり、R6は水素またはメチル基であることが好ましく、R4は水素であり、R5はメチル基であり、R6はメチル基であることがより好ましい。
【0058】
上記グルタルイミド樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR4、R5、およびR6が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0059】
上記グルタルイミド樹脂は、上記一般式(3)で表される芳香族ビニル構成単位として、スチレン、α−メチルスチレン等を含むことが好ましく、スチレンを含むことがより好ましい。
【0060】
また、上記グルタルイミド樹脂は、芳香族ビニル構成単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、R7、およびR8が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0061】
上記グルタルイミド樹脂において、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、R3の構造等に依存して変化させることが好ましい。
【0062】
一般的には、上記グルタルイミド単位の含有量は、グルタルイミド樹脂の20重量%以上とすることが好ましく、20重量%〜95重量%とすることがより好ましく、40重量%〜90重量%とすることがさらに好ましく、50重量%〜80重量%とすることが特に好ましい。
【0063】
グルタルイミド単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性および透明性が低下したり、成形加工性、およびフィルムに加工したときの機械的強度が低下したりすることがない。
【0064】
一方、グルタルイミド単位の含有量が上記範囲より少ないと、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれたりする傾向がある。また、上記範囲よりも多いと、不必要に耐熱性および溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなったり、フィルム加工時の機械的強度が極端に脆くなったり、透明性が損なわれたりする傾向がある。
【0065】
上記グルタルイミド樹脂において、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、特に限定されるものではなく、求められる物性に応じて適宜設定することが可能である。使用される用途によっては、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は0であってもよい。一般式(3)で表される芳香族ビニル単位を含む場合は、グルタルイミド樹脂の総繰り返し単位を基準として、10重量%以上とすることが好ましく、10重量%〜40重量%とすることがより好ましく、15重量%〜30重量%とすることがさらに好ましく、15重量%〜25重量%とすることが特に好ましい。
【0066】
芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性が不足したり、フィルム加工時の機械的強度が低下したりすることがない。
【0067】
一方、芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲より多いと、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性が不足する傾向がある。
【0068】
上記グルタルイミド樹脂には、必要に応じ、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位以外のその他の単位がさらに共重合されていてもよい。
【0069】
その他の単位としては、例えば、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を挙げることができる。
【0070】
これらのその他の単位は、上記グルタルイミド樹脂中に、直接共重合していてもよいし、グラフト共重合していてもよい。
【0071】
上記グルタルイミド樹脂の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、1×10〜5×10であることが好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりすることがない。
【0072】
一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムにした場合の機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
【0073】
また、上記グルタルイミド樹脂のガラス転移温度は特に限定されるものではないが、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の適用範囲を広げることができる。
【0074】
一方、例えば、ガラス転移温度が上記範囲よりも低いと、耐熱性が要求される用途においては適用範囲が制限される。
【0075】
また、上記グルタルイミド樹脂の酸価は特に限定されるものではないが、0.5mmol/g以下であることが好ましく、0.35mmol/g以下であることがより好ましい。酸価が上記範囲内であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の適用範囲を広げることができる。
【0076】
一方、例えば、酸価が上記範囲より大きいと、溶融押出時の樹脂の発泡が起こりやすくなり、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
【0077】
上記グルタルイミド樹脂において、一般式(1)〜(3)で表される単位の含有量(換言すれば、割合)は、特に限定されるものではなく、グルタルイミド樹脂に要求される物性や、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を成形してなるフィルムに要求される特性等に応じて決定すればよい。
【0078】
例えば、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を成形してなるフィルムを光学用途に用いる場合、得られるフィルムに要求される光学特性に応じて決定すればよい。
【0079】
具体的には、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を成形してなるフィルムを光学用途に用いる場合、芳香族ビニル単位を含む場合には、グルタルイミド単位と、芳香族ビニル単位との重量比を、0.5:1.0〜8.0:1.0とすることが好ましく、3.0:1.0〜7.0:1.0とすることがより好ましく、5.0:1.0〜6.5:1.0とすることがさらに好ましい。
【0080】
グルタルイミド単位と、芳香族ビニル単位との重量比が上記範囲内であれば、実質的に配向複屈折を有さないグルタルイミド樹脂とすることができる。
【0081】
ここで、上記グルタルイミド樹脂の製造方法の一実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0082】
まず、(メタ)アクリル酸エステルを重合させることにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体を製造する。なお、上記グルタルイミド樹脂が芳香族ビニル単位を含む場合には、(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルとを共重合させ、(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を製造する。メタクリル酸メチル−スチレン共重合体は、例えば、特開昭57−149311、特開昭57−153009、特開平10−152505、特開2001−31046、特開2004−27191などに記載の方法に従って製造できる。
【0083】
この工程において、上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを用いることが好ましく、メタクリル酸メチルを用いることがより好ましい。
【0084】
これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単一種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。複数種の(メタ)アクリル酸エステルを用いることにより、最終的に得られるグルタルイミド樹脂に複数種類の(メタ)アクリル酸エステル単位を与えることができる。
【0085】
また、上記グルタルイミド樹脂が芳香族ビニル単位を含む場合、(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルとの重合割合を調整することにより、芳香族ビニル単位の割合を調整することができる。
【0086】
上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、および(メタ)アクリル酸エステル重合体の構造は、特に限定されるものではなく、イミド化反応が可能なものであればよい。具体的には、リニアー(線状)ポリマー、ブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、および架橋ポリマー等のいずれであってもよい。
【0087】
ブロックポリマーの場合、A−B型、A−B−C型、A−B−A型、およびこれら以外のタイプのブロックポリマーのいずれであってもよい。コアシェルポリマーの場合、ただ一層のコアおよびただ一層のシェルのみからなるものであってもよいし、それぞれが多層からなるものであってもよい。
【0088】
次に、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体または(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体に、一級アミン(すなわち、イミド化剤)を添加し、イミド化を行う。これにより、上記グルタルイミド樹脂を製造することができる。
【0089】
上記一級アミン、すなわち、イミド化剤は、特に限定されるものではなく、上記一般式(1)で表されるグルタルイミド単位を生成できるものであればよい。具体的には、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミンを挙げることができる。
【0090】
また、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素のように、加熱により、上記例示したアミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。
【0091】
上記例示したイミド化剤のうち、コスト、物性の面からメチルアミン、アンモニア、シクロヘキシルアミンを用いることが好ましく、メチルアミンを用いることが特に好ましい。
【0092】
なお、このイミド化の工程においては、上記一級アミンに加えて、必要に応じて、閉環促進剤を添加してもよい。
【0093】
このイミド化の工程において、上記一級アミンの添加割合を調整することにより、得られるグルタルイミド樹脂におけるグルタルイミド単位および(メタ)アクリル酸エステル単位の割合を調整することができる。
【0094】
また、イミド化の程度を調整することにより、得られるグルタルイミド樹脂の物性や、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を成形してなる光学用フィルムの光学特性等を調整することができる。
【0095】
上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、または(メタ)アクリル酸エステル重合体をイミド化する方法は、特に限定されなく、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。例えば、押出機や、バッチ式反応槽(圧力容器)等を用いる方法により、上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、または(メタ)アクリル酸エステル重合体をイミド化することができる。
【0096】
上記グルタルイミド樹脂を押出機を用いて製造する場合、用いる押出機は特に限定されるものではなく、各種押出機を用いることができる。具体的には、例えば、単軸押出機、二軸押出機または多軸押出機等を用いることができる。
【0097】
中でも、二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機によれば、原料ポリマー(すなわち、(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、または(メタ)アクリル酸エステル重合体)に対するイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)の混合を促進することができる。
【0098】
二軸押出機としては、非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、および噛合い型異方向回転式等を挙げることができる。中でも、噛合い型同方向回転式を用いることが好ましい。噛合い型同方向回転式の二軸押出機は、高速回転可能であるため、原料ポリマーに対するイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)の混合を、より一層促進することができる。
【0099】
上記例示した押出機は単独で用いてもよいし、複数を直列につないで用いてもよい。例えば、特開2008−273140に記載のタンデム型反応押出機を用いることができる。
【0100】
また、押出機には、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着することが好ましい。このような構成によれば、未反応のイミド化剤、もしくはメタノール等の副生物やモノマー類を除去することができる。
【0101】
また、上記グルタルイミド樹脂の製造には、押出機に代えて、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置やスーパーブレンドのような竪型二軸攪拌槽などの高粘度対応の反応装置も好適に用いることができる。
【0102】
上記グルタルイミド樹脂を、バッチ式反応槽(圧力容器)を用いて製造する場合、そのバッチ式反応槽(圧力容器)の構造は特に限定されるものでない。
【0103】
具体的には、原料ポリマーを加熱により溶融させ、攪拌することができ、イミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)を添加することができる構造を有していればよいが、攪拌効率が良好な構造を有するものであることが好ましい。
【0104】
このようなバッチ式反応槽(圧力容器)によれば、反応の進行によりポリマー粘度が上昇し、撹拌が不十分となることを防止することができる。このような構造を有するバッチ式反応槽(圧力容器)としては、例えば、住友重機械(株)製の攪拌槽マックスブレンド等を挙げることができる。
【0105】
上説したような方法によれば、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位の比率が所望に制御されたグルタルイミド樹脂を容易に製造することができる。
【0106】
(2)紫外線吸収剤
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物において、上記紫外線吸収剤は、熱可塑性樹脂が光、特に紫外線により劣化し、変質することを防止するために添加されるものである。
【0107】
上記紫外線吸収剤は、特に限定されるものではなく、上記熱可塑性樹脂と、Sp値の差が0.5以上の紫外線吸収剤であればよい。中でも、上記熱可塑性樹脂のSp値よりも大きいSp値を有するものであることが好ましい。
【0108】
また、上記紫外線吸収剤は、窒素雰囲気下での1%重量減少温度が330℃以上であることが好ましく、340℃以上であることがより好ましい。このような紫外線吸収剤によれば、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を、溶融押出しにより、フィルムに成形する際、ベントおよびダイからのガス揮発をより低減することができる。
【0109】
上記紫外線吸収剤としては、具体的には、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤、およびオキサジアゾール系紫外線吸収剤を挙げることができる。これらの紫外線吸収剤は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
トリアジン系紫外線吸収剤の好ましい化合物として、例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(へキシル)オキシ]−フェノール、2,4−ビス[2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル]−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3−5−トリアジンを挙げることができる。
【0111】
また、上記例示した以外にも、Tinuvin1577、Tinuvin460、Tinuvin400、Tinuvin479(いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ)等を好適に用いることができる。
【0112】
さらに、特開2004−352728号公報、特開平10−17337号公報、特開平10−17556号公報、および特開平9−20760号公報等に記載されたトリアジン系紫外線吸収剤を用いることもできる。
【0113】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の好ましい化合物しては、例えば、2,2'−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ペンチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1−メチル−1−フェニルエチル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、5% 2−メトキシ−1−メチルエチルアセテート 95% ベンゼンプロパン酸、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ、C7−9側鎖及び直鎖アルキルエステル、オクチル−3−[3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−[3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネートの混合物を挙げることができる。
【0114】
また、上記例示したもの以外にも、Tinuvin360、TinuvinP、Tinuvin234、Tinuvin326、Tinuvin320、Tinuvin329、Tinuvin213、Tinuvin571、Tinuvin328、TinuvinPS、Tinuvin99−2、Tinuvin384−2、Tinuvin109(いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、KEMISOB72(ケミプロ化成)、Sumisorb250(住友化学製)、SEESORB704、SEESORB707(いずれもシプロ化学製)、CHISORB5228(ダブルボンドケミカル社製)等を好適に用いることができる。
【0115】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の好ましい化合物としては、例えば、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェニル)−ブタン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン−5,5'−ビス(ソディウムサルフォネイト)、2,3,4,4’,5−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,3,3’,4,4’,5−ヘキサヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸三水和物、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェニル)−ブタン、2,2−ジ−ヒドロキシ−4−ベンゾフェノンを挙げることができる。
【0116】
また、上記例示したもの以外にも、Uvinul3049、Uvinul3048、Uvinul3000(BASF)、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、Chimassorb81、LA−51(アデカ)、SEESORB151、SEESORB101S、SEESORB103、SEESORB105、SEESORB111(いずれもシプロ化成)、4HBP、6HBP(いずれも三協化成)等を好適に用いることができる。
【0117】
シアノアクリレート系紫外線吸収剤の好ましい化合物としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、1,3−ビス−[(2’−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス−{[(2’−シアノ−3’,3’−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル}プロパン、2−シアノ−3−(2−メチルインドリィル)メチルアクリレート(BASF製、UV Absorober Bayer 340)を挙げることができる。
【0118】
また、上記例示したもの以外にも、UVINUL3035、UVINUL3039、UVINUL3030(いずれもBASF)等を好適に用いることができる。
【0119】
ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤の好ましい化合物としては、例えば、2,2’−(1,4−フェニレン)−ビス−4H−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、竹本樹脂製パイオニンZA−101を挙げることができる。
【0120】
また、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、上記例示した紫外線吸収剤以外の紫外線吸収剤(以下、「その他の紫外線吸収剤」ともいう)を含んでいてもよい。その他の紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、シュウ酸アミド系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤、反応性紫外線吸収剤を反応結合した共重合樹脂型紫外線吸収剤、オキサゾロン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、およびサリシレート系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0121】
シュウ酸アニリド系紫外線吸収剤としては、例えば、2−エチル−2’−エトキシ−オキシアニリド、Clariant製 HostavinUSVを好適に用いることができる。
【0122】
マロン酸エステル系紫外線吸収剤としては、例えば、Clariant製 Hostavin B−CAP、Hostavin PR−25、Hostavin PR−31を好適に用いることができる。
【0123】
反応性紫外線吸収剤を反応結合した共重合樹脂型紫外線吸収剤としては、例えば、ニッコー化学製 NCI−707S−30T、BASF製 UVA−635L、新中村化学製 ニューコートUVA-204W、ニューコートUVA-4512W、ニューコートUVA−5080W、ニューコートUVA−5080W(OHV20)、バナジレンUVA−7075W、バナジレンUVA−7076W(OHV20)、大日精化製 ハイステーブP−UV−111、ハイステーブP−UV−211、ハイステーブP−UV−311、ハイステーブP−UV−411、一方社製 ULS−935LH、ULS−700LH、ULS−635LH、ULS−195LH、ULS−635LHを好適に用いることができる。また、上記例示したもの以外に、例えば、特開2003−128730号公報に記載の紫外線吸収剤を用いることもできる。
【0124】
オキサゾロン系紫外線吸収剤としては、例えば、特開2006−45458号公報に記載の化合物を好適に用いることができる。
【0125】
ベンゾエート系紫外線吸収剤の好ましい化合物としては、例えば、2,4−ジ−tert−ペンチルフェニル−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、三協化成社製 KEMISORB111、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製Tinuvin120を挙げることができる。
【0126】
サリシレート系紫外線吸収剤の好ましい化合物としては、例えば、フェニルサリシレート、4−tert−ブチルフェニルサリシレート、シプロ化成社製 SEESORB201、SEESORB202を挙げることができる。
【0127】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物において、上記例示した紫外線吸収剤は、単一種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0128】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物において、紫外線吸収剤の含有量は特に限定されるものではないが、具体的には、熱可塑性樹脂100重量%に対して、0.1重量%〜5重量%とすることが好ましく、0.2重量%〜3重量%とすることがより好ましい。
【0129】
紫外線吸収剤の含有量が上記範囲内であれば、紫外線を効果的に吸収することができ、かつ、フィルム成形時のフィルムの透明性が低下することがなく、フィルム成形時における成形機のロール等の汚染を低減し、フィルム欠陥を防止する効果を得ることができる。また、紫外線吸収能を必要としない用途に用いる場合は、熱可塑性樹脂100重量%に対して、紫外線吸収剤を0.1重量%以上、1重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以上、0.5重量%以下とすることでフィルム成形時における成形機のロール等の汚染を低減し、フィルム欠陥を防止することができる。
【0130】
一方、紫外線吸収剤の含有量が0.1重量%より少ない場合、380nmにおける紫外線透過率が高くなり、紫外線の遮断効果が不十分となる傾向がある。また、紫外線吸収剤の含有量が5重量%より多い場合、着色が激しくなったり、成形後のフィルムのヘーズが高くなり、透明性が悪化したりする傾向がある。
【0131】
(3)その他の添加剤
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物に含有されうるその他の添加剤としては、可塑剤、滑剤、安定剤、およびフィラー等の従来公知の添加剤を挙げることができる。また、上説した熱可塑性樹脂以外の樹脂もまた、その他の添加剤として含有させることができる。なお、その他の添加剤は、任意成分であり、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、これらのその他の添加剤を含まなくてもよい。
【0132】
上記可塑剤には、いわゆる可塑剤に加えて、可撓性を有する高分子(可撓性高分子)等も含まれる。つまり、本明細書では、可塑剤、および可撓性高分子等を総称して、可塑剤と称する。
【0133】
上記可塑剤は、特に限定されるものではなく、従来公知のあらゆる可塑剤を用いることができる。具体的には、例えば、アジピン酸ジ−n−デシル等の脂肪族二塩基酸系可塑剤やリン酸トリブチル等のリン酸エステル系可塑剤等を挙げることができる。
【0134】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物に上記可塑剤を含有させることにより、該熱可塑性樹脂組成物を成形してなるフィルムにおいて、機械的特性を向上させることができる。
【0135】
特に、熱可塑性樹脂としてグルタルイミド樹脂を用いる場合、該グルタルイミド樹脂のイミド化率が高いと、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を成形してなるフィルムは、硬く、かつ、脆くなる傾向がある。しかし、上記可塑剤を、少量添加することにより、該フィルムの応力白化や裂けを防止することができる。
【0136】
一方、上記可塑剤の添加により、得られるフィルムのガラス転移温度が低下して耐熱性が損なわれたり、透明性が損なわれたりするといった問題が生じることがある。
【0137】
したがって、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物に上記可塑剤を含有させる場合、該熱可塑性樹脂組成物を成形してなるフィルムにおいて、フィルムの性能が妨げられない範囲で添加することが好ましい。
【0138】
上記可塑剤の含有量は、具体的には、熱可塑性樹脂組成物において、20重量%以下とすることが好ましく、10重量%以下とすることが好ましく、5重量%以下とすることがより好ましい。
【0139】
上説した熱可塑性樹脂以外の樹脂を、上記その他の添加剤として用いる場合、該樹脂は特に限定されるものではない。例えば、上説した熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂であってもよい。中でも、上説した熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂を含有させることが好ましい。
【0140】
なお、その他の添加剤として含有させる樹脂は、単一種を単独で用いてもよいし、複数種類の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0141】
その他の添加剤として、上記樹脂を添加する場合、熱可塑性樹脂組成物における含有量は、1重量%〜30重量%とすることが好ましく、2重量%〜20重量%とすることがより好ましく、3重量%〜10重量%とすることがさらに好ましい。
【0142】
一方、上記樹脂の含有量が上記範囲よりも多いと、上説した熱可塑性樹脂および紫外線吸収剤の性能が十分に発揮されなくなる傾向がある。一方、上記樹脂の含有量が上記範囲よりも少ないと、上記樹脂の添加効果が得られにくくなることがある。
【0143】
上記フィラーは、特に限定されるものではなく、フィルムに用いられる従来公知のあらゆるフィラーを用いることができる。また、フィラーは、無機の微粒子であってもよいし、有機の微粒子であってもよい。
【0144】
無機の微粒子であるフィラーとしては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、および酸化ジルコニウム等の金属酸化物微粒子、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、およびケイ酸マグネシウム等のケイ酸塩微粒子、並びに炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、およびリン酸カルシウム等を挙げることができる。
【0145】
有機の微粒子であるフィラーとしては、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、および架橋スチレン系樹脂等の樹脂微粒子を挙げることができる。
【0146】
このようなフィラーを添加することにより、フィルムの滑り性を改善することができる。
【0147】
上記フィラーの添加量は特に限定されるものではないが、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を成形して光学用フィルムとする場合、得られるフィルムの光学特性が著しく損なわない範囲とすることが好ましい。
【0148】
一般的には、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物において、上記フィラーの含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0149】
なお、上説したようなその他の添加剤を、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物に含有させる場合であっても、熱可塑性樹脂と紫外線吸収剤との配合比は、上説した範囲内とすることが好ましい。
【0150】
<II.光学用フィルムおよびその製造方法>
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、上説した構成を有するため、溶融押出法によりフィルムに成形する際、成形機のロール等の汚染を低減し、フィルム欠陥の発生を防止することができる。つまり、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物によれば、溶融押出法によるフィルム成形によっても、成形機のロール等を汚染することなく、フィルム欠陥の少ないフィルムを製造することができる。
【0151】
したがって、本発明には、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を成形してなるフィルムも含まれる。特に、熱可塑性樹脂として、アクリル系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、またはセルロース系樹脂、好ましくはアクリル系樹脂、より好ましくはグルタルイミド樹脂を用いることができる。グルタルイミド樹脂を用いることにより、外部の応力等により位相差が変化しにくいフィルムを製造することができる。
【0152】
このように、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物によれば、光学用フィルムとして利用可能なフィルムを製造することができる。つまり、本発明にかかるフィルムの好ましい一実施形態として、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を成形してなる光学用フィルムを挙げることができる。そこで、以下、本発明の一実施形態としては、本発明にかかる光学用フィルムについて、説明するが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明にかかるフィルムは、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を成形してなるフィルムであれば、いかなる用途に用いられるフィルムであってもよい。
【0153】
本発明にかかる光学用フィルムは、上説した本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものであればよいが、延伸されたフィルム、すなわち、延伸フィルムであることが好ましい。
【0154】
延伸フィルムによれば、機械的特性を向上させることができる。従来、延伸フィルムでは、位相差の発生を避けることが困難であったが、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物によれば、延伸処理を施しても位相差が実質的に発生させずに、機械的特性が向上した延伸フィルムを製造することができる。
【0155】
なお、本発明にかかる光学用フィルムが延伸フィルムである場合、一軸延伸した一軸延伸フィルムであってもよいし、さらに延伸工程を組み合わせて行って得られる二軸延伸フィルムであってもよい。
【0156】
本発明にかかる光学用フィルムが延伸フィルムである場合、その厚みは、特に限定されるものではないが、10μm〜200μmであることが好ましく、20μm〜150μmであることがより好ましく、30μm〜100μmであることがさらに好ましい。
【0157】
フィルムの厚みが上記範囲内であれば、光学特性が均一で、ヘーズが良好な光学用フィルムとすることができる。
【0158】
一方、フィルムの厚みが上記範囲を越えると、フィルムの冷却が不均一になり、光学的特性が不均一になる傾向がある。また、フィルムの厚みが上記範囲を下回ると、延伸倍率が過大になり、ヘーズが悪化する傾向がある。
【0159】
本発明にかかる光学用フィルムは、ヘーズが1%以下であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
【0160】
本発明にかかる光学フィルムのヘーズが上記範囲内であれば、フィルムの透明性を高いものとすることができる。それゆえ、本発明にかかる光学用フィルムを、透明性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0161】
本発明にかかる光学用フィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましい。
【0162】
全光線透過率が、上記範囲内であれば、フィルムの透明性を高いものとすることができる。それゆえ、本発明にかかる光学用フィルムを、透明性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0163】
また、本発明にかかる光学用フィルムは、光学異方性が小さいことが好ましい。特に、フィルムの面内方向(長さ方向、幅方向)の光学異方性だけでなく、厚み方向の光学異方性についても小さいことが好ましい。換言すれば、面内位相差および厚み方向位相差がともに小さいことが好ましい。
【0164】
より具体的には、面内位相差は原料フィルムに関しては、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましく、3nm以下であることがさらに好ましい。また、面内位相差は延伸フィルムに関しては、10nm以下であることが好ましく、6nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがさらに好ましい。
【0165】
また、厚み方向位相差は原料フィルムに関しては、50nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがさらに好ましい。また、厚み方向位相差は延伸フィルムに関しては、50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。
【0166】
このような光学特性を有する構成とすれば、本発明にかかる光学用フィルムを、液晶表示装置の偏光板に備える偏光子保護フィルムとして用いることができる。
【0167】
一方、フィルムの面内位相差が10nmを超えたり、厚み方向位相差が50nmを超えたりすると、本発明にかかる光学用フィルムを用いた偏光子保護フィルムを、液晶表示装置の偏光板として用いる場合、液晶表示装置においてコントラストが低下するなどの問題が発生する場合がある。
【0168】
なお、面内位相差(Re)および厚み方向位相差(Rth)は、それぞれ、以下の式により算出することができる。つまり、3次元方向について完全光学等方である理想的なフィルムでは、面内位相差Re、厚み方向位相差Rthともに0となる。
【0169】
Re=(nx−ny)×d
Rth=|(nx+ny)/2−nz|×d
なお、上記式中において、nx、ny、およびnzは、それぞれ、面内屈折率が最大となる方向をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚さ、||は絶対値を表す。
【0170】
また、本発明にかかる光学用フィルムは、配向複屈折の値が、0〜0.1×10−3であることが好ましく、0〜0.01×10−3であることがより好ましい。
【0171】
配向複屈折が上記範囲内であれば、環境の変化に対しても、成形加工時に複屈折が生じることなく、安定した光学的特性を得ることができる。
【0172】
なお、本明細書において、特にことわりのない限り、「配向複屈折」とは、熱可塑性樹脂のガラス転移温度より5℃高い温度で、100%延伸した場合に発現する複屈折が意図される。配向複屈折(△n)は、前述のnx、nyを用いて説明すると、△n=nx−ny=Re/dで定義され、位相差計により測定することができる。
【0173】
本発明にかかる光学用フィルムは、光弾性係数の絶対値が、20×10−12/N以下であることが好ましく、10×10−12/N以下であることがより好ましく、5×10−12/N以下であることがさらに好ましい。
【0174】
光弾性係数が上記範囲内であれば、本発明にかかる光学用フィルムを液晶表示装置に用いても、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生したりすることがない。
【0175】
一方、光弾性係数の絶対値が20×10−12/Nより大きいと、本発明にかかる光学用フィルムを液晶表示装置に用いた場合、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生しやすくなったりする傾向がある。この傾向は、高温多湿環境下において、特に顕著となる。
【0176】
なお、等方性の固体に外力を加えて応力(△F)を発生させると、一時的に光学異方性を呈し、複屈折(△n)を示すようになるが、本明細書において、「光弾性係数」とは、その応力と複屈折との比が意図される。すなわち、光弾性係数(c)は、以下の式により算出される。
【0177】
c=△n/△F
ただし、本発明において、光弾性係数はセナルモン法により、波長515nmにて、23℃、50%RHにおいて測定した値である。
【0178】
本発明にかかる光学用フィルムは、必要に応じて、表面処理が施されていてもよい。具体的には、例えば、本発明にかかる光学用フィルムを、表面にコーティング加工等の表面加工を施したり、表面に別のフィルムをラミネートしたりして用いる場合、本発明にかかる光学用フィルムに表面処理を施すことが好ましい。
【0179】
このような表面処理を施すことにより、本発明にかかる光学用フィルムと、コーティングまたはラミネートされる別のフィルムとの間の相互の密着性を向上させることができる。
【0180】
なお、本発明にかかる光学用フィルムに対する表面処理の目的は、作用効果を目的とするものに限定されるものではない。つまり、本発明にかかる光学用フィルムは、その用途に関係なく、表面処理が施されていてもよい。
【0181】
上記表面処理は、特に限定されるものではないが、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射およびアルカリ処理等を挙げることができる。中でも、コロナ処理であることが好ましい。
【0182】
また、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物によれば、上記一般式(1)〜(3)で表される構造単位の組成比を変更することにより、位相差の大きなフィルムを製造することができる。つまり、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、位相差フィルム等の光学補償フィルムの製造に好適に用いることができる。
【0183】
本発明にかかる光学用フィルムは、上説したような特性を有するため、そのまま最終製品として各種用途に用いることができる。また、上説したような各種加工を施すことにより、用途の幅を広げることができる。
【0184】
本発明にかかる光学用フィルムの用途は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、カメラやVTR、プロジェクター用の撮影レンズやファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなどの映像分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用の光記録分野、液晶用導光板、偏光子保護フィルムや位相差フィルムなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライトやテールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡やコンタクトレンズ、内視境用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓やカーポート、照明用レンズや照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)等に好適に用いることができる。
【0185】
本発明にかかる光学用フィルムは、上説したように、光学的均質性、透明性等の光学特性に優れている。そのため、これらの光学特性を利用して、光学的等方フィルム、偏光子保護フィルムや透明導電フィルム等液晶表示装置周辺等の公知の光学的用途に特に好適に用いることができる。
【0186】
また、本発明の光学用フィルムは、偏光子に貼り合わせて、偏光板として用いることができる。すなわち、本発明にかかる光学用フィルムは、偏光板の偏光子保護フィルムとして用いることができる。上記偏光子は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の偏光子を用いることができる。具体的には、例えば、延伸されたポリビニルアルコールにヨウ素を含有させて得た偏光子等を挙げることができる。
【0187】
ここで、本発明にかかるフィルムを製造する方法の一実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。つまり、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を成形してフィルムを製造できる方法であれば、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。
【0188】
具体的には、例えば、射出成形、溶融押出フィルム成形、インフレーション成形、ブロー成形、圧縮成形、紡糸成形等を挙げることができる。
【0189】
また、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を溶解可能な溶剤に溶解させた後、成形させる溶液流延法やスピンコート法によって、本発明にかかるフィルムを製造することができる。
【0190】
中でも、溶剤を使用しない溶融押出法を用いることが好ましい。溶融押出法によれば、製造コストや溶剤による地球環境や作業環境への負荷を低減することができる。
【0191】
また、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を用いるため、Tダイ製膜を用いるような高温での成形条件下でも、紫外線吸収剤の飛散による成形機の汚染やフィルム欠陥を発生させることなく、フィルムを製造することができる。
【0192】
以下、本発明にかかるフィルムの製造方法の一実施形態として、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を溶融押出法により成形してフィルムを製造する方法について詳細に説明する。なお、以下の説明では、溶融押出法で成形されたフィルムを、溶液流延法等の他の方法で成形されたフィルムと区別して、「溶融押出フィルム」と称する。
【0193】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を溶融押出法によりフィルムに成形する場合、まず、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を、押出機に供給し、該熱可塑性樹脂組成物を加熱溶融させる。
【0194】
熱可塑性樹脂組成物は、押出機に供給する前に、予備乾燥することが好ましい。このような予備乾燥を行うことにより、押出機から押し出される樹脂の発泡を防ぐことができる。
【0195】
予備乾燥の方法は特に限定されるものではないが、例えば、原料(すなわち、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物)をペレット等の形態にして、熱風乾燥機等を用いて行うことができる。
【0196】
次に、押出機内で加熱溶融された熱可塑性樹脂組成物を、ギアポンプやフィルターを通して、Tダイに供給する。このとき、ギアポンプを用いれば、樹脂の押出量の均一性を向上させ、厚みムラを低減させることができる。一方、フィルターを用いれば、熱可塑性樹脂組成物中の異物を除去し、欠陥の無い外観に優れたフィルムを得ることができる。
【0197】
次に、Tダイに供給された熱可塑性樹脂組成物を、シート状の溶融樹脂として、Tダイから押し出す。そして、該シート状の溶融樹脂を2つの冷却ロールで挟み込んで冷却し、フィルムを成膜する。
【0198】
上記シート状の溶融樹脂を挟み込む2つの冷却ロールの内、一方は、表面が平滑な剛体性の金属ロールであり、もう一方は、表面が平滑な弾性変形可能な金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールであることが好ましい。
【0199】
このような剛体性の金属ロールと金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールとで、上記シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却して成膜することにより、表面の微小な凹凸やダイライン等が矯正されて、表面が平滑で厚みムラが5μm以下であるフィルムを得ることができる。
【0200】
なお、本明細書において、「冷却ロール」とは、「タッチロール」および「冷却ロール」を包含する意味で用いられる。
【0201】
上記剛体性の金属ロールとフレキシブルロールとを用いる場合であっても、何れの冷却ロールも表面が金属であるため、成膜するフィルムが薄いと、冷却ロールの面同士が接触して、冷却ロールの外面に傷が付いたり、冷却ロールそのものが破損したりすることがある。
【0202】
そのため、上説したような2つの冷却ロールでシート状の溶融樹脂を挟み込んで成膜する場合、まず、該2つの冷却ロールで、シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却し、比較的厚みの厚い原料フィルムを一旦取得する。その後、該原料フィルムを、一軸延伸または二軸延伸して所定の厚みのフィルムを製造することが好ましい。
【0203】
より具体的に説明すると、厚み40μmの光学用フィルムを製造する場合、また、上記2つの冷却ロールで、シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却し、一旦、厚み150μmの原料フィルムを取得する。その後、該原料フィルムを縦横二軸延伸により延伸させ、厚み40μmのフィルムを製造すればよい。
【0204】
このように、本発明にかかるフィルムが延伸フィルムである場合、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物を一旦、未延伸状態の原料フィルムに成形し、その後、一軸延伸または二軸延伸を行うことにより、延伸フィルムを製造することができる。
【0205】
本明細書では、説明の便宜上、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物をフィルム状に成形した後、延伸を施す前のフィルム、すなわち未延伸状態のフィルムを「原料フィルム」と称する。なお、該原料フィルムもまた、本発明にかかるフィルムの一実施形態であることを付言しておく。
【0206】
原料フィルムを延伸する場合、原料フィルムを成形後、直ちに、該原料フィルムの延伸を連続的に行ってもよいし、原料フィルムを成形後、一旦、保管または移動させて、該原料フィルムの延伸を行ってもよい。
【0207】
なお、原料フィルムに成形後、直ちに該原料フィルムを延伸する場合、フィルムの製造工程において、原料フィルムの状態が非常に短時間(場合によっては、瞬間的)しか存在しないことがありうる。
【0208】
また、上記原料フィルムは、その後、延伸される場合、延伸されるのに充分な程度のフィルム状を維持していればよく、完全なフィルムの状態である必要はない。また、上記原料フィルムは、完成品であるフィルムとしての性能を有していなくてもよい。
【0209】
原料フィルムを延伸する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の延伸方法を用いればよい。具体的には、例えば、テンターを用いた横延伸、ロールを用いた縦延伸、及びこれらを逐次組み合わせた逐次二軸延伸等を用いることができる。
【0210】
また、縦と横とを同時に延伸する同時二軸延伸方法を用いたり、ロール縦延伸を行った後、テンターによる横延伸を行う方法を用いたりすることもできる。
【0211】
原料フィルムを延伸するとき、原料フィルムを一旦、延伸温度より0.5℃〜5℃、好ましくは1℃〜3℃高い温度まで予熱した後、延伸温度まで冷却して延伸することが好ましい。
【0212】
上記範囲内で予熱することにより、原料フィルムの厚みを精度よく保つことができ、また、延伸フィルムの厚み精度が低下したり、厚みムラが生じたりすることがない。また、原料フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりすることがない。
【0213】
一方、原料フィルムの予熱温度が高すぎると、原料フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりするといった弊害が発生する傾向にある。また、原料フィルムの予熱温度と延伸温度との差が小さいと、延伸前の原料フィルムの厚み精度を維持しにくくなったり、厚みムラが大きくなったり、厚み精度が低下したりする傾向がある。
【0214】
なお、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、原料フィルムに成形後、延伸する際、ネッキング現象を利用して、厚み精度を改善することが困難である。したがって、本発明では、上記予熱温度の管理を行うことは、得られる光学用フィルムの厚み精度を維持したり、改善したりするためには重要となる。
【0215】
原料フィルムを延伸するときの延伸温度は、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムに要求される機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、変更すればよい。
【0216】
一般的には、DSC法によって求めた原料フィルムのガラス転移温度をTgとした時に、(Tg−30℃)〜(Tg+30℃)の温度範囲とすることが好ましく、(Tg−20℃)〜(Tg+20℃)の温度範囲とすることがより好ましく、(Tg)〜(Tg+20℃)の温度範囲とすることがさらに好ましい。
【0217】
延伸温度が上記温度範囲内であれば、得られる延伸フィルムの厚みムラを低減し、さらに、伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を良好なものとすることができる。また、フィルムがロールに粘着するといったトラブルの発生を防止することができる。
【0218】
一方、延伸温度が上記温度範囲よりも高くなると、得られる延伸フィルムの厚みムラが大きくなったり、伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質が十分に改善できなかったりする傾向がある。さらに、フィルムがロールに粘着するといったトラブルが発生しやすくなる傾向がある。
【0219】
また、延伸温度が上記温度範囲よりも低くなると、得られる延伸フィルムのヘーズが大きくなったり、極端な場合には、フィルムが裂けたり、割れたりするといった工程上の問題が発生したりする傾向がある。
【0220】
上記原料フィルムを延伸する場合、その延伸倍率もまた、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムの機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、決定すればよい。延伸温度にも依存するが、延伸倍率は、一般的には、1.1倍〜3倍の範囲で選択することが好ましく、1.3倍〜2.5倍の範囲で選択することがより好ましく、1.5倍〜2.3倍の範囲で選択することがさらに好ましい。
【0221】
延伸倍率が上記範囲内であれば、フィルムの伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を大幅に改善することができる。それゆえ、厚みムラが5μm以下であり、複屈折が実質的にゼロであり、さらに、ヘーズが1%以下である延伸フィルムを製造することができる。
【0222】
また、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂と紫外線吸収剤との混合割合を上説した範囲で調整し、適切な延伸条件を選択することにより、実質的に複屈折を生じさせることなく、かつ、ヘーズの増大を実質的に伴うことなく、厚みムラの小さなフィルムを容易に製造することができる。
【0223】
本発明にかかるフィルムは、必要に応じて、粘着剤等により別のフィルムをラミネートしたり、表面にハードコート層等のコーティング層を形成させたりして用いることができる。
【0224】
本発明にかかるフィルムの表面にコーティング加工等の表面加工を施したり、表面に別のフィルムをラミネートしたりする場合、上記方法で製造した延伸フィルム(原料フィルムを本発明にかかる光学用フィルムとする場合には、該原料フィルム)に表面処理を施すことが好ましい。
【0225】
なお、表面処理の種類については、上説した通りである。また、本発明にかかるフィルムにおいて、表面処理を施す場合、その表面処理の程度は特に限定されるものではないが、50dyn/cm以上であることが好ましく、50dyn/cm〜80dyn/cm以下であることがより好ましい。
【0226】
このような程度の表面処理であれば、従来公知の表面処理設備を用いて表面処理を施すことができる。
【0227】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0228】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例および比較例におけるSp値の算出、TGA測定、ホットステージ試験、ロール汚染性の評価、イミド化率の算出、ガラス転移温度の決定、ヘーズ測定、全光線透過率測定、並びに面内位相差および厚み方向位相差測定は、以下の手順に従い行った。
【0229】
〔Sp値の算出〕
「コーティングの基礎科学 原崎勇次著 槙書店 (51ページ〜57ページを参照)」に記載の、Hoyによるモル引力定数を用いて計算した。具体的には、対象とする化合物が有する官能基の個数(n)と、各官能基が固有に有するモル引力定数(G)と、化合物の密度(ρ)と、化合物の分子量(M)を用いて、Sp値=[Σ(G×n)]×ρ/Mとして計算した。重合体のSp値計算は各単量体成分のSp値と、NMRスペクトルより求めた共重合体中でのmol%から求めた。また、紫外線吸収剤のSp値から共重合体のSp値を差し引いて、Sp値の差(ΔSp)を求めた。
【0230】
〔TGA測定〕
熱重量測定装置(TGA−50;株式会社 島津製作所)を用いて、窒素気流下(流量50mL/min)で、昇温速度10℃/minとして、開放型アルミニウムパン上で試料を加熱し、温度が100℃に達した際の重量を100%とした。そして、さらに、温度を上昇させ、重量が1%減少したときの温度を1%重量減少温度(TGA)とした。
【0231】
〔ホットステージ試験〕
フィルムを一辺が1.5cmの正方形にカットし、400mg分を、カバーガラスの上に重ねて載せ、ガラス製の蓋をセットして、ホットステージ(TH−600MS、LINKAM SCIENTFIC INSTRUMENTS製)上で加熱した。
【0232】
昇温速度10℃/minで、室温から樹脂温度が270℃となるまで昇温し、その後15分間定温で加熱した。
【0233】
その後、室温まで放冷後、ホットステージの蓋に付着した残揮成分を、正確に量りとったジクロロメタン2mLにすべて溶解させ、分光光度計(V−560、日本分光株式会社製)を用いて紫外線吸収剤の吸光度を求めた。
【0234】
次に、あらかじめ求めておいた各紫外線吸収剤のジクロロメタン中での吸光係数から、蓋への紫外線吸収剤の付着量(=揮発量)を算出した。
【0235】
〔ロール汚染性評価〕
製膜した際のロールの外観を目視で観察し、汚染の有無を確認し、○、×で評価した。紫外線吸収剤由来の付着物が目視で確認された場合を○、確認されなかった場合を×とした。
【0236】
〔イミド化率の算出〕
生成物のペレットを塩化メチレンに溶解し、その溶液をSensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。
【0237】
得られたIRスペクトルより、1720cm-1のエステルカルボニル基に帰属される吸収強度(Absester)と、1660cm-1のイミドカルボニル基に帰属される吸収強度(Absimide)との比からイミド化率(Im%(IR))を求めた。
【0238】
なお、ここで、「イミド化率」とは全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0239】
〔スチレン量の算出〕
原料MS樹脂(約10mg)を重クロロホルム(約4mL)に溶解し、その溶液をVarian社製NMR測定装置Gemini−300を用いて、H−NMRスペクトルを測定した。
【0240】
得られたH−NMRスペクトルより、δ=7.4〜6.8におけるスチレンユニットの芳香族由来のプロトンと、δ=3.8〜2.2におけるメタクリル酸メチルユニットのエステルに帰属されるプロトンの積分強度比から、スチレン量を決定した。
【0241】
〔ガラス転移温度〕
生成物10mgを用いて、示差走査熱量計(DSC、株式会社島津製作所製DSC−50型)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0242】
〔ヘーズ測定〕
JIS K 7136記載の方法に基づいて、日本電色工業(株)製濁度計NDH−300Aを用いて測定した。
【0243】
〔全光線透過率測定〕
JIS K 7361−1記載の方法に基づいて、日本電色工業(株)製濁度計NDH−300Aを用いて測定した。
【0244】
〔面内位相差Reおよび厚み方向位相差Rth測定〕
フィルムから、40mm×40mmの試験片を切り出した。この試験片を、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0゜で面内位相差Reを測定した。
【0245】
デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した試験片の厚みd、および、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製 3T)で測定した屈折率n、自動複屈折計で測定した波長590nm、面内位相差Reおよび40°傾斜方向の位相差値から3次元屈折率nx、ny、nz、を求め、厚み方向位相差 Rth=|(nx+ny)/2−nz|×d (||は絶対値を表す)を計算した。
【0246】
〔酸価測定〕
樹脂0.3gを塩化メチレン37.5mLに溶解し、さらにメタノール37.5mLを加えた。次に0.1mmol%の水酸化ナトリウム水溶液5mLとフェノールフタレインのエタノール溶液数滴を加えた。次に0.1mmol%の塩酸を用いて逆滴定を行い、中和に要する塩酸の量から酸価を求めた。
【0247】
〔製造例1〕
原料の樹脂としてメタクリル酸メチル−スチレン共重合体(スチレン量11モル%)、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、イミド化樹脂を製造した。
【0248】
使用した押出機は口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機である。押出機の各温調ゾーンの設定温度を230〜250℃、スクリュー回転数は150rpmとした。メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(以下、「MS樹脂」ともいう)を2kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから樹脂に対して16重量部のモノメチルアミン(三菱ガス化学株式会社製)を注入した。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰のメチルアミンをベント口の圧力を−0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することにより、イミド化MS樹脂(1)を得た。
【0249】
次いで、口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機にて、押出機各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数150rpmとした。ホッパーから得られたイミド化MS樹脂(1)を1kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから樹脂に対して0.8重量部の炭酸ジメチルと0.2重量部のトリエチルアミンの混合液を注入し樹脂中のカルボキシル基の低減を行った。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰の炭酸ジメチルをベント口の圧力を−0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化し、酸価を低減したイミド化MS樹脂(2)を得た。
【0250】
さらに、イミド化MS樹脂(2)を、口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機に、押出機各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数150rpm、供給量1kg/hrの条件で投入した。ベント口の圧力を−0.095MPaに減圧して再び未反応の副原料などの揮発分を除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた脱揮したイミド樹脂を、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することにより、イミド化MS樹脂(3)を得た。
【0251】
なお、イミド化MS樹脂(3)は、上説の実施形態に記載した一般式(1)で表されるグルタミルイミド単位と、一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位と、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位とが共重合したグルタルイミド樹脂に相当する。
【0252】
イミド化MS樹脂(3)について、上記の方法に従って、イミド化率、ガラス転移温度、およびSp値を測定した。その結果、イミド化率は70モル%、ガラス転移温度は143℃、酸価は0.2mmol/g、Sp値は9.38であった。
【0253】
〔実施例1〕
製造例1で得られたイミド化MS樹脂(3)100重量%と、SEESORB151(シプロ化成製、紫外線吸収剤、1%重量減少温度:341℃、Sp値:11.33)1.0重量%とを単軸押出機を用いてペレットにし、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0254】
このペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、100℃で5時間乾燥後、40mmφ単軸押出機と400mm幅のTダイとを用いて240℃で押し出すことにより得られたシート状の溶融樹脂を冷却ロールで冷却して幅300mm、厚み130μmのフィルムを得た。
【0255】
このフィルムについて、上記の方法に従って、ヘーズ、全光線透過率、面内位相差、および厚み方向位相差を測定した。その結果、ヘーズは、0.31%、全光線透過率は91.0%であった。また、面内位相差は1nm、厚み方向位相差は3nmであった。製膜時のロール汚染は確認されなかった。
【0256】
このフィルムについて、延伸倍率2 倍(縦・横)、ガラス転移温度より10 ℃ 高い温度で同時二軸延伸(株式会社東洋精機製 二軸延伸装置 X4HD)を行ない、二軸延伸フィルムを作成した。この二軸延伸フィルムのヘーズは、0.1%、全光線透過率は91.5%であった。また、面内位相差は2nm、厚み方向位相差は19nmであった。
【0257】
次に、製造例1で得られたイミド化MS樹脂(3)100重量%と、SEESORB151(シプロ化成製、紫外線吸収剤、1%重量減少温度:341℃、Sp値:11.33)1.0重量%とを、塩化メチレンに溶解して、樹脂濃度25重量%の熱可塑性樹脂組成物を得た。該熱可塑性樹脂組成物を、PETフィルム上に塗布し、乾燥してキャストフィルムを作製した。
【0258】
作製したキャストフィルムについて、上記の方法に従ってホットステージ試験を行った。その結果、表1に示すように、270℃で評価した揮発量は、フィルム400mg当たり0.55μgであった。
【0259】
【表1】

【0260】
〔実施例2〕
紫外線吸収剤としてUvinul3030(BASF製、1%重量減少温度:375℃、Sp値:10.45)を用いたことを除いて、実施例1と同様の方法により、フィルムを製造した。
【0261】
得られたフィルムについて、上記の方法に従って、ヘーズ、全光線透過率、面内位相差、および厚み方向位相差を測定した。その結果、ヘーズは、0.32%、全光線透過率は91.1%であった。また、面内位相差は1nm、厚み方向位相差は3nmであった。製膜時のロール汚染は確認されなかった。
【0262】
さらに、紫外線吸収剤として、Uvinul3030を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で作製したキャストフィルムについて、上記の方法に従って、ホットステージ試験を行った。その結果、表1に示すように、270℃で評価した揮発量は、フィルム400mg当たり0μgであった。
【0263】
〔実施例3〕
紫外線吸収剤としてパイオニンZA−101(竹本樹脂製、1%重量減少温度:332℃、Sp値:11.44)を用いたことを除いて、実施例1と同様の方法により、フィルムを製造した。
【0264】
得られたフィルムについて、上記の方法に従って、ヘーズ、全光線透過率、面内位相差、および厚み方向位相差を測定した。その結果、ヘーズは、0.35%、全光線透過率は91.2%であった。また、面内位相差は1nm、厚み方向位相差は3nmであった。製膜時のロール汚染は確認されなかった。
【0265】
〔比較例1〕
紫外線吸収剤としてLA−31(ADEKA製、1%重量減少温度:356℃、Sp値:9.55)を用いたことを除いて、実施例1と同様の方法により、フィルムを製造した。
【0266】
得られたフィルムについて、上記の方法に従って、ヘーズ、全光線透過率、面内位相差、および厚み方向位相差を測定した。その結果、ヘーズは、0.34%、全光線透過率は91.0%であった。また、面内位相差は1nm、厚み方向位相差は3nmであった。製膜時のロール汚染が確認された。
【0267】
さらに、紫外線吸収剤として、LA−31を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で作製したキャストフィルムについて、上記の方法に従って、ホットステージ試験を行った。その結果、表1に示すように、270℃で評価した揮発量は、フィルム400mg当たり1.28μgであった。
【0268】
以上のように、実施例1、実施例2および実施例3のように、メタクリル系樹脂のSp値と紫外線吸収剤のSp値との差が0.5以上(具体的には、実施例1では1.82、実施例2では0.94、実施例3では2.06)であれば、ロール汚染が発生しなかった。
【0269】
一方、比較例1のように、メタクリル系樹脂のSp値と紫外線吸収剤のSp値との差が0.5より小さい(具体的には、比較例1では、0.04)である場合には、ロール汚染が発生した。
【0270】
つまり、メタクリル系樹脂のSp値と紫外線吸収剤のSp値との差が、0.5以上とすることにより、ロール汚染を防止できることが明らかとなった。
【0271】
この原因について、以下考察する。
【0272】
ロールの汚染量は、樹脂組成物から紫外線吸収剤のような添加剤が蒸発する速度(蒸発速度)と、添加剤が樹脂組成物中を拡散する速度(拡散速度)とによって決定されると考えられる。
【0273】
上記添加剤の蒸発速度は該添加剤の重量減少温度(以下、「TGA」ともいう)によって決定され、上記添加剤の拡散速度は、該添加剤と樹脂組成物に含まれる樹脂との相溶性によって決定される。
【0274】
つまり、添加剤のTGAが同程度で、添加剤の蒸発速度がほぼ等しい場合、ロールの汚染量は、拡散速度によって決定される。
【0275】
したがって、実施例1、実施例2および実施例3のように、熱可塑性樹脂とSp値の差が大きい紫外線吸収剤(換言すれば、熱可塑性樹脂との相溶性が悪い紫外線吸収剤)では、熱可塑性樹脂組成物中において紫外線吸収剤の拡散速度が遅いため、ロール汚染量が少なくなると考えられる。
【0276】
一方、比較例1のように、熱可塑性樹脂(実施例ではメタクリル系樹脂)と、Sp値の差が小さい紫外線吸収剤(換言すれば、熱可塑性樹脂との相溶性がよい紫外線吸収剤)では、熱可塑性樹脂組成物中において紫外線吸収剤の拡散速度が早いため、ロール汚染量が多くなるものと考えられる。
【0277】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0278】
以上のように、本発明では、熱可塑性樹脂組成物と紫外線吸収剤とを含む熱可塑性樹脂組成物において、紫外線吸収剤として、熱可塑性樹脂とSp値の差が0.5以上のものを用いる。そのため、該熱可塑性樹脂組成物をフィルムに成形する際、成形機のロール等が汚染されることを防止することができる。したがって、本発明は、熱可塑性樹脂組成物と紫外線吸収剤とを含む熱可塑性樹脂組成物およびその製造分野に利用できるだけではなく、該可塑性樹脂組成物を用いたフィルムの製造分野、および該フィルムを用いた各種デバイスやその製造分野に広く応用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、紫外線吸収剤とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、上記熱可塑性樹脂の溶解度パラメータと、上記紫外線吸収剤の溶解度パラメータとの差が、0.5以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂の溶解度パラメータは、上記紫外線吸収剤の溶解度パラメータよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
上記熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、およびセルロース系樹脂からなる群より選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
上記アクリル系樹脂は、グルタルイミド樹脂、グルタル酸無水物樹脂、または、ラクトン環構造を有する樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
上記グルタルイミド樹脂は、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位と、下記一般式(2)
【化2】

(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)で表される単位と、を含むことを特徴とする請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
上記グルタルイミド樹脂は、下記一般式(3)
【化3】

(式中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。)
で表される単位をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
上記紫外線吸収剤は、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤、およびオキサジアゾール系紫外線吸収剤からなる群より選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
上記紫外線吸収剤は、窒素雰囲気下での1%重量減少温度が330℃以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする光学用フィルム。
【請求項10】
延伸されたフィルムであることを特徴とする請求項9に記載の光学用フィルム。
【請求項11】
フィルム面内位相差が10nm以下であり、かつ、厚み方向位相差が50nm以下であることを特徴とする請求項10に記載の光学用フィルム。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の光学用フィルムを用いてなることを特徴とする偏光子保護フィルム。

【公開番号】特開2009−161744(P2009−161744A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314670(P2008−314670)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】