説明

熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法ならびに成形品

【課題】本発明は、乳酸系樹脂に無機粒子を含みながらも得られる成形品の衝撃強度を高めることができる熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法ならびに成形品を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の熱可塑性樹脂組成物は、乳酸系樹脂と、表面がアクリル系樹脂で被覆された無機粒子とを含むことを特徴とする。この熱可塑性樹脂組成物は、乳酸系樹脂に含まれる無機粒子の表面がアクリル系樹脂で被覆されているので、従来の樹脂組成物から得られる成形品と比較して高い衝撃強度を発揮する成形品を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法ならびに成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラスチックは、その優れた加工性や物性から、例えば、包装材、日用品、農業土木系資材、家電部品、自動車部品等に広く使用されている。その一方で、プラスチックは、枯渇性資源である石油を原料としていることや、焼却時に有害ガスを発生する場合があること等から環境負荷が大きいという問題がある。そこで、昨今では、植物由来の生分解性プラスチックである乳酸系樹脂の使用が検討されている。この乳酸系樹脂は、例えば、とうもろこしや砂糖大根等の植物性原料を発酵させて得られる乳酸を重合させたものであることから、石油系のプラスチックと比較して環境負荷が小さい。しかしながら、乳酸系樹脂は、ほとんど難燃性を有しないという新たな問題がある。
従来、乳酸系樹脂に水酸化アルミニウム粉末や水酸化マグネシウム粉末を添加することで難燃性を付与した樹脂組成物が知られている。しかしながら、このような樹脂組成物から得られた成形品は、衝撃強度が実用に耐えないまでに低下するという問題があった。
そこで、このような問題を解消するために、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムとしてシランカップリング剤で処理したものを使用した樹脂組成物(例えば、特許文献1)が提案され、そして、樹脂成分としてポリ乳酸に加えポリ乳酸以外のポリエステルを使用した樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)が提案されている。また、シランカップリング剤で処理した水酸化マグネシウム等と、ポリ乳酸以外のポリエステルとを併用した樹脂組成物(例えば、特許文献3、および特許文献4参照)も提案されている。
【特許文献1】特開2004−263180号公報
【特許文献2】特開2004−277706号公報
【特許文献3】特開2005−120118号公報
【特許文献4】特開2005−139441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されたような樹脂組成物は、家電部品や自動車部品等の成形品に実用レベルで適用するには充分な衝撃強度を有しているとは言えない。
また、特許文献2〜4に記載されたような樹脂組成物は、ポリ乳酸以外のポリエステルを多量に加えなければ、言い換えれば、柔軟性を有する多量の樹脂成分をポリ乳酸に加えなければ充分な衝撃強度を成形品に付与することができないという問題があった。
【0004】
そこで、本発明は、乳酸系樹脂に無機粒子を含みながらも得られる成形品の衝撃強度を低下させることの無い熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法ならびに成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決する本発明の熱可塑性樹脂組成物は、乳酸系樹脂と、表面がアクリル系樹脂で被覆された無機粒子とを含むことを特徴とする。
この熱可塑性樹脂組成物は、乳酸系樹脂に含まれる無機粒子の表面がアクリル系樹脂で被覆されているので、従来の樹脂組成物(例えば、特許文献1〜4参照)から得られる成形品と比較して、衝撃強度の高い成形品を得ることができる。
また、この熱可塑性樹脂組成物は、従来の樹脂組成物(例えば、特許文献2〜4参照)と異なって、乳酸系樹脂以外に柔軟成分を多量に共存させなくとも成形品に充分な衝撃強度を付与することができるので、得られる成形品がコストアップとなったり石油系樹脂の使用割合を増やすことが回避される。
【0006】
また、このような熱可塑性樹脂組成物においては、前記アクリル系樹脂が、前記無機粒子と化学的に結合していることが望ましい。
この熱可塑性樹脂組成物では、アクリル系樹脂が無機粒子と化学的に結合しているので、成形時に剪断力を受けても無機粒子表面が露出せず、この熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品の衝撃強度を低下させることが一層少ない。
【0007】
また、このような熱可塑性樹脂組成物においては、前記無機粒子が、水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムであることが望ましい。
この熱可塑性樹脂組成物は、無機粒子として水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムを含むことで難燃性を発揮する。
【0008】
そして、前記課題を解決する本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、無機粒子の表面をアクリル系樹脂で被覆して樹脂被覆無機粒子を得る第1工程と、前記樹脂被覆無機粒子と乳酸系樹脂とを混合する第2工程とを有することを特徴とする。
この製造方法によれば、乳酸系樹脂に無機粒子を含みながらも得られる成形品の衝撃強度を低下させることのない熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。
【0009】
そして、前記課題を解決する本発明の成形品は、前記した熱可塑性樹脂組成物を成形して得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乳酸系樹脂に無機粒子を含みながらも得られる成形品の衝撃強度を低下させることのない熱可塑性樹脂組成物、およびその製造方法ならびに成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、乳酸系樹脂と、表面がアクリル系樹脂で被覆された無機粒子(以下に、「樹脂被覆無機粒子」ともいう)とを含んで構成されている。
【0012】
(乳酸系樹脂)
乳酸系樹脂は、L−乳酸およびD−乳酸の少なくともいずれかを主たる構造単位(モノマ単位)として含むポリマである。この乳酸系樹脂は、L−乳酸および/またはD−乳酸の単独重合体、L−乳酸および/またはD−乳酸と他のモノマ単位とを含む共重合体、L−乳酸および/またはD−乳酸の単独重合体の中から選ばれる2種以上の単独重合体の混合物、L−乳酸および/またはD−乳酸の単独重合体の中から選ばれる1種以上の単独重合体と、前記した共重合体の中から選ばれる1種以上の共重合体との混合物のいずれであってもよい。
【0013】
前記共重合体に含まれる他のモノマ単位としては、L−乳酸および/またはD−乳酸と共重合することで芳香族ポリエステルを含んでいてもよい脂肪族ポリエステルを形成し得るものであれば特に制限はないが、中でもヒドロキシカルボン酸、ジオール、ジカルボン酸、およびラクトン類が好ましく、特にヒドロキシカルボン酸、ならびにジオールおよびジカルボン酸の共重合物が好ましい。
【0014】
前記ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル乳酸、ロイシン酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、メチル乳酸、ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。
【0015】
前記ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0016】
前記ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸、トリデカジオン酸、テトラデカジオン酸、ヘキサデカジオン酸、ヘキサデセンジオン酸、オクタデカジオン酸、オクタデセンジオン酸、エイコサンジオン酸、エイコセンジオン酸、エイコサジエンジオン酸、ドコサンジオン酸、2,2,4−トリメチルアジピン酸のような脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、キシリレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。また、ジカルボン酸は、二量体化脂肪酸であってもよく、二量体化脂肪酸としては、例えば、炭素数8〜24の飽和脂肪酸、エチレン系不飽和脂肪酸、アセチレン系不飽和脂肪酸、天然または合成の一塩基性脂肪酸を重合して得られた重合脂肪酸が挙げられる。
【0017】
前記ラクトン類としては、例えば、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オン等が挙げられる。
【0018】
このような乳酸系樹脂の重量平均分子量としては、5万〜40万が好ましく、さらに好ましくは10万〜25万である。なお、乳酸系樹脂の重量平均分子量が、この範囲を下回る場合には、本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品に実用的な物性が発現しない場合があり、この範囲を上回る場合には、本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度が高くなって成形品の加工性が悪化する場合がある。
【0019】
また、乳酸系樹脂が、L−乳酸およびD−乳酸を含む前記した共重合体、または前記した混合物である場合に、L−乳酸に対するD−乳酸の比(L体:D体)は、100:0〜90:10、好ましくは、100:0〜94:6であるか、または0:100〜10:90、好ましくは、0:100〜6:94である。このような範囲の比(L体:D体)となる乳酸系樹脂は、耐熱性により優れることとなる。また、このような範囲の比(L体:D体)となるように、例えば、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを溶融混合することによって、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸が形成される。このステレオコンプレックス型ポリ乳酸は、耐熱性に優れており自動車部品や家電部品の材料として好適に使用することができる。
【0020】
また、乳酸系樹脂がL−乳酸および/またはD−乳酸と前記した他のモノマ単位とを含む共重合体である場合に、共重合体中のL−乳酸およびD−乳酸の含有率は、50質量%以上が好ましい。この共重合体はポリ乳酸としての性質が良好に表れることとなる。
【0021】
このような乳酸系樹脂は、縮重合法、開環重合法等の公知の重合法を使用して得ることができる。縮重合法では、例えば、目的とする乳酸系樹脂の各構造単位の組成となるようにL−乳酸、D−乳酸、および前記した他のモノマの少なくともいずれかを選択して混合するとともに、この混合物を脱水して各モノマを重合させることで乳酸系樹脂が得られる。また、開環重合法では、例えば、目的とする乳酸系樹脂の各構造単位の組成となるように、L−乳酸の環状2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状2量体であるD−ラクチド、L−乳酸とD−乳酸とからなる環状2量体であるDL−ラクチド、および他のモノマの少なくともいずれかを選択して混合するとともに、必要に応じて重合調整剤等を用いながら、所定の触媒の存在下にラクチドを開環させて所定の条件下に重合反応(共重合反応)を進行させることで乳酸系樹脂が得られる。また、このような重合法では、得られる乳酸系樹脂の耐熱性を向上させるために、少量の共重合成分として前記したテレフタル酸のような芳香族ジカルボン酸、前記したビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような芳香族ジオール、または芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの両方を使用してもよい。また、このような重合法では、得られる乳酸系樹脂の分子量を増大させるために、少量の鎖延長剤を使用してもよい。この鎖延長剤としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等が挙げられる。
【0022】
このような乳酸系樹脂としては、上市品であってもよく、例えば、三井化学社製のレイシア(登録商標)シリーズや、カーギル・ダウ社製のネイチャーワークス(Nature Works:登録商標)シリーズが挙げられる。
【0023】
(樹脂被覆無機粒子)
樹脂被覆無機粒子は、前記したように、無機粒子の表面をアクリル系樹脂で被覆したものである。
【0024】
前記無機粒子には、粒状物のほか、繊維径Dに対する繊維長Lで表わされるアスペクト比(L/D)が、1500以下の繊維状物が含まれる。無機粒子としては、例えば、タルク、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、ベントナイト、マイカ、セリサイト、ガラスフレーク、黒鉛、三酸化アンチモン、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛、含水ホウ酸カルシウム、硝酸鉄、硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸ニッケル、チタン酸カリウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムボレート、BN(六方晶)、MIO(板状酸化鉄)、アルミナ、マグネシア、ウォラストナイト、ゾノトライト、セピオライト、ドーソナイト、ウィスカー、アスベスト、水酸化マグネシウム、ガラス繊維、炭素繊維、PMF(スラグ繊維)、石膏繊維、金属繊維、金属粉末、ビーズ、シリカバルーン、シラスバルーン等が挙げられる。これらの無機粒子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。このような無機粒子の中でも好ましいのは、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムであり、水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムを無機粒子として使用した熱可塑性樹脂には、難燃性が付与されることとなる。
【0025】
前記アクリル系樹脂としては、公知のものでよく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、その他のアクリル系モノマ、アクリル系のプレポリマ、エポキシ基含有アクリル系化合物等(以下、アクリル系モノマ等という場合がある)のそれぞれを単独で、または2種以上を重合させて得られたものが挙げられる。また、アクリル系樹脂は、反応性シリル基が導入されたものであってもよい。このようなシリル基が導入されたアクリル系樹脂は、無機粒子の表面と化学的な結合を確立することができる。ちなみに、反応性シリル基としては、例えば、クロル基、アルコシキル基等を2以上有するシリル基が挙げられる。このようなシリル基を有するアクリル系樹脂は、前記したアクリル系モノマ等の重合反応系に、前記したクロル基、アルコシキル基等の反応性官能基を有するシランを添加することによって得ることができる。
前記した反応性官能基を有するシランとしては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ω−メタクリロキシアルキルトリメトキシシラン(メタクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12)、ω−メタクリロキシアルキルトリエトキシシラン(メタクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12)等が挙げられる。
ちなみに、アルコキシ基含有アクリル樹脂の分子量としては、数平均分子量で300〜100000が好ましく、500〜50000がより好ましい。分子量が小さいと乳酸系樹脂とのなじみが悪い場合があり、分子量が大き過ぎると無機粒子の表面との反応性が低下する場合がある。
【0026】
前記アクリル酸エステルとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、カルビトールアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ブチレングリコールモノアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、アリルアクリレート等の単官能性のエステル;トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、2,2−ビス−(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−アクリロキシプロピオキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパンジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリアクリルホルマール、テトラメチロールメタンテトラアクリレート等の多官能性のエステルが挙げられる。
【0027】
前記メタクリル酸エステルとしては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、ヒドロキシペンチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノメタクリレート、N,N−ジエチルアミノメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート等の単官能性のエステル;エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2,2−ビス−(4−メタクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の多官能性のエステルが挙げられる。
【0028】
前記その他のアクリル系モノマとしては、例えば、クロトン酸ブチル、グリセリンモノクロネート、ビニルブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルカプロエート、ビニルクロルアセテート、ビニルラクテート、安息香酸ビニル、ジビニルサクシネート、ジビニルフラレート、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−アリールメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド、アクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−イソブトキシメチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、アリル基を有するスチレン、ジビニルベンゼン、ジカルボン酸のジアリルエステル、アリルオキシエタノール、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール等が挙げられる。
【0029】
前記アクリル系のプレポリマとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、およびその他のアクリル系モノマのそれぞれを単独で、または2種以上を重合させたものが挙げられる。
【0030】
前記エポキシ基含有アクリル系化合物としては、例えば、エポキシ樹脂のアクリル酸エステル、エポキシ樹脂のアクリル酸エステルと無水マレイン酸との反応物、エポキシ樹脂と無水アクリル酸との反応物、エポキシ樹脂とアクリル酸とメチルテトラヒドロフタル酸無水物との反応物、エポキシ樹脂と2−ヒドロキシエチルアクリレートとの反応物、エポキシ樹脂とブチルアミンとグリシジルメタクリレートとの反応物、エポキシ樹脂のアクリル酸エステルとN−メチロールアミンとの反応物、エポキシ樹脂のジグリシジルエーテルとジアクリルアミンとの反応物等が挙げられる。ちなみに、エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型、ノボラック型、および脂環型のいずれであってもよい。
このようなアクリル系樹脂の中でも好ましいのは、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを重合(共重合)させたものである。このようなアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルの重合物(共重合物)をアクリル系樹脂として使用した樹脂被覆無機粒子は、得られる成形品の衝撃強度に悪影響を与えない。
【0031】
無機粒子の表面に被覆されるアクリル系樹脂の厚さは、0.0001〜10μm、好ましくは0.001〜5μmである。
この樹脂被覆無機粒子としては、後記するように、アクリル系樹脂と無機粒子とが化学的に結合しているものが望ましい。このような樹脂被覆無機粒子を含む熱可塑性樹脂組成物は、得られる成形品の衝撃強度をより確実に悪化させることがない。
【0032】
(熱可塑性樹脂組成物)
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、前記したように、乳酸系樹脂と、樹脂被覆無機粒子とを含んでいる。また、この熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的(課題)を阻害しない範囲で、乳酸系樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。
【0033】
前記乳酸系樹脂以外の樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、中でも170℃〜230℃で溶融して流動可能となるポリマが好ましく、ポリオレフィンやエステル結合含有ポリマが好適に用いられる。また、熱可塑性樹脂組成物は、その成形を阻害しない範囲で公知の熱硬化性樹脂を含んでいてもよい。
【0034】
前記ポリオレフィンとしては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体、ポリ4−メチルペンテン−1、ポリブテン−1,ポリヘキセン−1、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・プロピルアクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体、エチレン・2−エチルヘキシルアクリレート共重合体、エチレン・ヒドロキシエチルアクリレート共重合体、エチレン・ビニルトリメトキシシラン共重合体、エチレン・ビニルトリエトキシシラン共重合体、エチレン・ビニルシラン共重合体等がある。また、ポリオレフィンは、塩素化ポリエチレンや臭素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン等のハロゲン化ポリオレフィンであってもよい。
【0035】
エステル結合含有ポリマとしては、例えば、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル・脂肪族ポリエステル共重合体、ポリカーボネート等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組合せて使用することができる。
【0036】
このような熱可塑性樹脂組成物の樹脂成分における乳酸系樹脂の含有率は、30〜100質量%、好ましくは50〜100質量%である。樹脂被覆無機粒子の含有率は、樹脂成分100質量部に対し0.5〜200質量%、好ましくは5〜150質量%である。樹脂成分における乳酸系樹脂以外の樹脂の含有率は、0〜70質量%、好ましくは0〜50質量%である。
【0037】
なお、熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて他の成分が配合されていてもよい。他の成分としては、例えば、樹脂被覆無機粒子以外の充填剤、核剤、可塑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤等)、離型剤(脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、変成シリコーン)等を配合してもよい。さらに、染料や顔料を含む着色剤等を配合することもできる。
【0038】
以上のような熱可塑性樹脂組成物は、乳酸系樹脂に含まれる無機粒子の表面がアクリル系樹脂で被覆されているので、従来の樹脂組成物(例えば、特許文献1参照)から得られる成形品と比較して衝撃強度の高い成形品を得ることができる。
【0039】
次に、本実施形態に係る熱可塑性樹脂の製造方法について説明する。
この製造方法では、第1工程で、無機粒子の表面がアクリル系樹脂で被覆されることによって樹脂被覆無機粒子が得られる。
無機粒子の表面をアクリル系樹脂で被覆する方法としては、無機粒子の表面にアクリル系樹脂の皮膜を形成することができれば特に制限はなく、例えば、無機粒子とアクリル系樹脂とを混合する方法や、表面を疎水化処理した無機粒子の存在下にアクリル系モノマ等を重合(例えば、乳化重合や、懸濁重合)させる方法が挙げられる。ちなみに、無機粒子の表面を疎水化処理する方法としては、公知の方法でよく、例えば、無機粒子の表面を脂肪酸エステルやアセト酢酸エステルやシリコンオイルで処理する方法、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等で処理する方法等が挙げられる。
【0040】
そして、このような無機粒子の表面をアクリル系樹脂で被覆する方法の中でも、前記したように、無機粒子とアクリル系樹脂とが化学的に結合するように無機粒子の表面にアクリル系樹脂の皮膜を形成することができる方法が望ましい。このような方法としては、例えば、無機粒子の表面に有する官能基と、または無機粒子の表面に導入した官能基と結合可能な官能基を有するアクリル系樹脂を使用することによって、官能基同士を介して無機粒子とアクリル系樹脂とを結合させる方法等が挙げられる。具体的には、例えば、予めシランカップリング剤やチタネートカップリング剤で表面処理した無機粒子にアクリル系樹脂を結合させる方法が挙げられる。また、無機粒子をシランカップリング剤やチタネートカップリング剤で表面処理する際に、予め無機粒子の表面を炭素数18以上の飽和脂肪酸の塩で処理することもできる。このような塩で処理することによって無機粒子とアクリル系樹脂との結合はより強固になる。また、無機粒子とアクリル系樹脂とを化学的に結合させる方法としては、無機粒子の表面に、例えば、アゾ基や過酸化物基等のラジカル発生基を有する化合物を結合させるとともに、このラジカルを基点にアクリル系樹脂を成長させる方法が挙げられる。
【0041】
そして、この製造方法では、第2工程で、前記した樹脂被覆無機粒子と前記した乳酸系樹脂とが混合され、さらに必要に応じて前記した乳酸系樹脂以外の樹脂や他の成分が混合されることによって熱可塑性樹脂組成物が製造される。これらの成分の混合には、二軸混練機等の公知の混練機を使用することができる。また射出成形機の可塑化装置で混練し、そのまま金型に射出して成形することもできる。
【0042】
このような製造方法で得られた熱可塑性樹脂組成物は、例えば、射出成形されることによって、乳酸系樹脂に無機粒子を含みながらも高い衝撃強度を発揮する成形品を形成することができる。したがって、この熱可塑性樹脂組成物は、高い衝撃強度が要求される電子機器用部材や事務機器用部材、特に電気機器筐体や事務機器筐体のような成形品に好適に使用することができる。
また、このような成形品は、マトリックス樹脂が乳酸系樹脂であるので、石油系樹脂から得られる成形品と比較して環境負荷が小さい。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の実施例および比較例を示しながら、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
<樹脂被覆無機粒子の調製>
無機粒子として、シリコンオイルで表面処理された水酸化マグネシウム(信越化学社製、FRX−100)100質量部、アクリル系モノマとしてのメチルメタクリレート10質量部、乳化剤としてのアルケニルコハク酸ジカリウム0.075質量部、および純水500質量部をガラス製のフラスコに仕込むとともに、これらを窒素気流下で攪拌しながら昇温させた。そして、40℃に達した時点で、フラスコ内に重合開始剤としての過硫酸カリウム0.15質量部を投入することによって、メチルメタクリレートの乳化重合を開始するとともに、200分間この状態を保持することで乳化重合を完結させた。次に、フラスコ内に凝集剤としての酢酸5質量部を投入した後、フラスコの内容物をろ過、洗浄、そして乾燥させることによってポリメチルメタクリレート(アクリル系樹脂)で表面が被覆された水酸化マグネシウム(樹脂被覆無機粒子)を粉末状で得た。
【0044】
<熱可塑性樹脂組成物の調製および成形品の作製>
得られた樹脂被覆無機粒子50質量部、およびポリ乳酸ペレット50質量部を二軸混練機に投入して220℃で混練することで熱可塑性樹脂組成物を製造した。そして、この熱可塑性樹脂組成物から得られたペレットを射出成形機に投入することで、米国のUL(Underwriters Laboratory)規格(94V)に準拠した難燃性試験(以下、単に「UL燃焼試験」ともいう)に使用する試験片(厚さ2mm)を成形品として作製した。
【0045】
<成形品の試験>
次に、得られた試験片のアイゾット衝撃強度を測定するとともに、この試験片を使用してUL燃焼試験を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
(実施例2)
<樹脂被覆無機粒子の調製>
ここでは、まず無機粒子の表面を被覆するアクリル系樹脂を調製した。アクリル系モノマとしてのメチルメタクリレート15質量部、重合開始剤としての2,2´−アゾビスイソブチロニトリル0.022質量部、および3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン0.4質量部をテトラヒドロフラン(THF)10質量部に溶解した後、これを還流器付きのガラス製フラスコに投入した。そして、フラスコ内でこれを加熱しつつ攪拌しながら2.5時間還流させた。次に、フラスコ内の内容物をジメチルエーテルに投入して得られた沈殿物をろ過し、乾燥させることによってトリメトキシシリル基が導入されたポリメチルメタクリレート(アクリル系樹脂)を得た。通常のポリメチルメタクリレート(PMMA)を標準としてGPC(ゲルパーミエーション クロマトグラフィー)で測定した分子量は、数平均で7000であった。
次に、本実施例で得られた前記アクリル系樹脂5質量部をアセトニトリル20質量部に溶解した樹脂溶液を調製した。そして、ブルーサイト(天然の水酸化マグネシウム)100質量部をヘンシェルミキサで攪拌しながら、これに調製した樹脂溶液を約5分間かけて徐々に投入した。そして、さらに約20分間攪拌した後に、これを減圧乾燥させることによってトリメトキシシリル基が導入されたポリメチルメタクリレートを化学的に結合させた水酸化マグネシウム(樹脂被覆無機粒子)を粉末状で得た。
<熱可塑性樹脂組成物の調製および成形品の作製>
実施例1のポリメチルメタクリレートで表面が被覆された水酸化マグネシウムに代えて、本実施例2で得られた水酸化マグネシウムを使用した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を調製するとともに、この熱可塑性樹脂組成物を使用して実施例1と同様に成形品(試験片)を製造した。そして、この成形品(試験片)について、実施例1と同様にしてアイゾット衝撃強度を測定するとともに、この試験片を使用してUL燃焼試験を行った。その結果を表1に示す。
【0048】
(比較例1)
水酸化マグネシウム(信越化学社製、FRX−100)の表面をアクリル系樹脂で被覆せずにそのまま使用した以外は、実施例1と同様に熱可塑性樹脂組成物を調製するとともに、この熱可塑性樹脂組成物を使用して実施例1と同様に成形品(試験片)を製造した。そして、この成形品(試験片)について、実施例1と同様にしてアイゾット衝撃強度を測定するとともに、この試験片を使用してUL燃焼試験を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
(比較例2)
シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウム(神島化学社製、マグシーズS−4)をそのまま使用した以外は、実施例1と同様に熱可塑性樹脂組成物を調製するとともに、この熱可塑性樹脂組成物を使用して実施例1と同様に成形品(試験片)を製造した。そして、この成形品(試験片)について、実施例1と同様にしてアイゾット衝撃強度を測定するとともに、この試験片を使用してUL燃焼試験を行った。その結果を表1に示す。
【0050】
(成形品の評価)
表1に示すように、実施例1、実施例2、比較例1、および比較例2で得られた成形品(試験片)は、UL燃焼試験における4段階の評価基準(5V、V−00、V−1、およびV−2)のうち、基準V−2に該当しており、マトリックス樹脂が乳酸系樹脂であるにもかかわらず、難燃性を有していた。
【0051】
その一方で、実施例1で得られた成形品(試験片)は、比較例1で得られた成形品(試験片)に対して4倍以上、比較例2で得られた成形品(試験片)に対して6倍近くの衝撃強度を有していた。このことは、実施例1で使用した無機粒子の表面がアクリル系樹脂で被覆されていることによるものと考えられる。
そして、実施例2で得られた成形品(試験片)は、比較例1で得られた成形品(試験片)に対して5倍以上、比較例2で得られた成形品(試験片)に対して7倍以上の衝撃強度を有していた。このことは、実施例2で使用した無機粒子とアクリル系樹脂とが化学的に結合していることによるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系樹脂と、表面がアクリル系樹脂で被覆された無機粒子とを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂が、前記無機粒子と化学的に結合していることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機粒子が、水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
無機粒子の表面をアクリル系樹脂で被覆して樹脂被覆無機粒子を得る第1工程と、
前記樹脂被覆無機粒子と乳酸系樹脂とを混合する第2工程とを有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られたことを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2007−197521(P2007−197521A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15869(P2006−15869)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】