説明

熱可塑性樹脂組成物及び成形品

【課題】フィラー強化された結晶性樹脂本来の特性(耐熱性、耐衝撃性)を損なうことなく、成形外観に優れた成形品を与える熱可塑性樹脂組成物、及びその成形品を提供する。
【解決手段】芳香族ビニル単量体(a1)50〜95質量%、及び特定の(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)5〜50質量%を含む単量体組成物を重合して得られる重合体であって、質量平均分子量が5000〜70000である重合体(A)、ポリエステル系樹脂又はポリアミド系樹脂から選ばれる結晶性樹脂(B)、及び無機充填材(C)を含有する熱可塑性樹脂組成物。及び、これを成形して得られる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラー強化された結晶性樹脂本来の特性(耐熱性、耐衝撃性)を損なうことなく、成形外観に優れた成形品を与える熱可塑性樹脂組成物、及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の結晶性樹脂に、成形品の耐熱性及び耐衝撃性の向上を目的として、無機充填材(フィラー)等を配合することは、従来、頻繁に行なわれてきた。しかしながら、フィラーを配合した場合には、得られる成形品の外観が悪くなるという問題があった。
一方、ガラス繊維を含有する芳香族ポリカーボネート系樹脂に、芳香族ビニル単量体及び特定の(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合体を流動性向上剤として配合する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この特許文献には、流動性向上剤を配合することにより、成形加工時の流動性を改良することは記載されているが、成形品の成形外観を向上させることは全く記載されていない。
【特許文献1】特開2006−199732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、フィラー強化された結晶性樹脂本来の特性(耐熱性、耐衝撃性)を損なうことなく、成形外観に優れた成形品を与える熱可塑性樹脂組成物、及びその成形品に関する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意検討した結果、フィラー強化された結晶性樹脂に対して、芳香族ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して得られる重合体を配合することにより、フィラー強化された結晶性樹脂本来の特性(耐熱性、耐衝撃性)を損なうことなく、成形品の成形外観の向上が可能であることを見出した。
【0005】
即ち、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、芳香族ビニル単量体(a1)50〜95質量%、及び下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)5〜50質量%を含む単量体組成物を重合して得られる重合体であって、質量平均分子量が5000〜70000である重合体(A)、ポリエステル系樹脂又はポリアミド系樹脂から選ばれる結晶性樹脂(B)、及び無機充填材(C)を含有する。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは置換基を有していてもよいフェニル基である。)
また、本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、フィラー強化された結晶性樹脂本来の特性(耐熱性、耐衝撃性)を有し、成形外観に優れた成形品を得ることができる。
本発明の成形品は、成形外観に優れ、フィラー強化された結晶性樹脂本来の特性(耐熱性、耐衝撃性)を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明書において、(メタ)アクリルは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0008】
本発明の重合体(A)は、芳香族ビニル単量体(a1)50〜95質量%、及び下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)5〜50質量%を含む単量体組成物を重合して得られる重合体であって、質量平均分子量が5000〜70000である。
【化2】

(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは置換基を有していてもよいフェニル基である。)
【0009】
芳香族ビニル単量体(a1)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、成形外観の向上効果が高いことから、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。
【0010】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸ジブロモフェニル、(メタ)アクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸モノクロロフェニル、(メタ)アクリル酸ジクロロフェニル、(メタ)アクリル酸トリクロロフェニルが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、成形品の耐剥離性を付与できることから、メタクリル酸フェニルが好ましい。
【0011】
単量体組成物は、必要に応じて他の単量体(a3)を含んでもよい。他の単量体(a3)はα,β−不飽和単量体であり、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキル;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニルが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
単量体組成物(100質量%)中の、芳香族ビニル単量体(a1)の含有率は50〜95質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)の含有率は5〜50質量%であり、他の単量体(a3)の含有率は0〜40質量%である。
単量体組成物(100質量%)中の、芳香族ビニル単量体(a1)の含有率は85〜92.5質量%であることが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)の含有率は5〜15質量%であることが好ましく、他の単量体(a3)の含有率は0〜10質量%であることが好ましい。
【0013】
単量体組成物(100質量%)中の、芳香族ビニル単量体(a1)の含有率が50質量%以上であれば、結晶性樹脂(B)に対する重合体(A)の相溶性が過度に向上せず、成形外観の向上効果が発現し、芳香族ビニル単量体(a1)の含有率が95質量%以下であれば、結晶性樹脂(B)に対する重合体(A)の相溶性が過度に低下せず、成形品の層状剥離が生じない。
単量体組成物(100質量%)中の、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)の含有率が5質量%以上であれば、結晶性樹脂(B)に対する重合体(A)の相溶性が過度に低下せず、成形品の層状剥離が生じなく、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)の含有率が50質量%以下であれば、結晶性樹脂(B)に対する重合体(A)の相溶性が過度に向上せず、成形外観の向上効果が発現する。
単量体組成物(100質量%)中の、他の単量体(a3)の含有率が40質量%以下であれば、結晶性樹脂(B)に対する重合体(A)の相溶性が過度に向上せず、成形外観の向上効果が発現する。
【0014】
本発明の重合体(A)の質量平均分子量は、5000〜70000である。
重合体(A)の質量平均分子量が5000以上であれば、相対的に低分子量物の含有率が低下するため、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性等の物性を低下させることがない。また、熱可塑性樹脂組成物の溶融混練時又は成形加工時に、発煙又はミストが発生せず、成形品に外観不良が生じない。
重合体(A)の質量平均分子量が70000以下であれば、重合体(A)自体の溶融粘度が高くなりすぎず、成形外観の向上効果が発現する。また、結晶性樹脂(B)との相溶性が十分となることから成形品の層状剥離が生じない。
【0015】
本発明の重合体(A)を得るための重合方法としては、公知の乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等が挙げられるが、回収方法が容易であることから乳化重合法、懸濁重合法が好ましい。
【0016】
重合体(A)は、重合前の単量体組成物中に含まれる各単量体の含有率(質量%)と、重合後の各単量体単位の含有率(質量%)とが一致していることが好ましい。このような重合体を得るには、各単量体の重合率を90%以上とすることが好ましく、95%以上とすることがより好ましく、97%以上とすることがさらに好ましい。
各単量体の重合率が90%以上であれば、重合前の各単量体の含有率(質量%)と、重合後の各単量体単位の含有率(質量%)がほぼ一致する。また、得られた重合体を回収する際に、未反応の単量体を分離する必要がなく好ましい。
【0017】
本発明の重合体(A)は、結晶性樹脂(B)との相溶性に優れ、耐剥離性が良好であると共に、得られる成形品の成形外観を向上させる。特に、単量体組成物中の、芳香族ビニル単量体(a1)と(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)の含有率が好ましい範囲内である場合に、極めて高い耐剥離性と成形外観の向上効果をもたらす。
成形外観の向上は、溶融混練時及び成形加工時に樹脂組成物が相分離挙動を示し、流動性が向上したことが1つの要因として考えられる。
【0018】
本発明の結晶性樹脂(B)は、ポリエステル系樹脂又はポリアミド系樹脂から選ばれるものである。
【0019】
ポリエステル系樹脂は、多塩基酸と多価アルコールからなる重合体であって、熱可塑性を有することを条件とする。多塩基酸としては、例えば、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキシルジカルボン酸又はそのエステル類が挙げられる。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、1,4−ジメチロールテトラブロモベンゼンが挙げられる。
市販のポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が挙げられる。
【0020】
ポリアミド系樹脂は、アミノ酸ラクタム、あるいはジアミンとジカルボン酸とから構成される重合であって、熱可塑性を有することを条件とする。
ポリアミド系樹脂としては、例えば、以下の(イ)〜(ハ)が挙げられる。
(イ):有機ジカルボン酸と、有機ジアミンとの重縮合物。例えば、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンアジパミド(6,6ナイロン)、ヘキサメチレンジアミンとアゼライン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンアゼラミド(6,9ナイロン)、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンセバカミド(6,10ナイロン)、ヘキサメチレンジアミンとドデカンジオン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンドデカノアミド(6,12ナイロン)、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンとドデカンジオン酸との重縮合物であるポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカン。
【0021】
(ロ):ω−アミノ酸の重縮合物。例えば、ω−アミノウンデカン酸の重縮合物であるポリウンデカンアミド(11ナイロン)。
(ハ):ラクタムの開環重合物。例えば、ε−アミノカプロラクタムの開環重合物であるポリカプロラミド(6ナイロン)、ε−アミノラウロラクタムの開環重合物ポリラウリックラクタム(12ナイロン)。
【0022】
ポリアミド系樹脂の中では、ポリヘキサメチレンアジパミド(6,6ナイロン)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(6,9ナイロン)、ポリカプロラミド(6ナイロン)が好ましく用いられる。
【0023】
また、本発明では、例えば、アジピン酸とイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから製造されるポリアミド系樹脂等も用いることができるし、更に、6ナイロンと6,6ナイロンとの混合物のように、2種以上のポリアミド系樹脂を配合したブレンド物を用いることもできる。
【0024】
上記(イ)のポリアミド系樹脂は、有機ジカルボン酸と有機ジアミンとを等モル量重縮合させて調製することができる。また、必要に応じて、アミノ基に対してカルボキシル基が過剰となるように、有機ジカルボン酸を過剰に用いることもでき、逆に、カルボキシル基に対してアミノ基が過剰となるように、有機ジアミンを過剰に用いることもできる。
【0025】
また、上記(イ)のポリアミド系樹脂は、エステル、酸塩化物等のカルボン酸を生成し得る誘導体と、アミン塩等のアミンを生成し得る誘導体とから調製することもできる。
【0026】
上記(ロ)のポリアミド系樹脂は、ω−アミノ酸を少量の水の存在下に加熱して重縮合させることによって調製することができる。多くの場合、酢酸等の粘度安定剤を少量添加する。
【0027】
上記(ハ)のポリアミド系樹脂は、ラクタムを少量の水の存在下に加熱して開環重合させることによって調製することができる。多くの場合、酢酸等の粘度安定剤を少量添加する。
【0028】
本発明の無機充填材(C)としては、例えば、繊維状ガラス充填材、板状ガラス充填材、繊維状炭素充填材が挙げられる。
繊維状ガラス充填材としては、例えば、ガラスファイバー(GF)、金属コートガラスファイバー、ガラスミルドファイバーが挙げられる。
【0029】
板状ガラス充填材としては、例えば、ガラスフレーク、金属コートガラスフレーク、金属酸化物コートガラスフレークが挙げられる。
繊維状炭素充填材としては、例えば、カーボンファイバー、金属コートカーボンファイバー、カーボンミルドファイバー、気相成長カーボンファイバー、カーボンナノチューブが挙げられる。
その他の充填材として、タルク、マイカ、炭酸カルシウム等も用いることができる。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、重合体(A)、結晶性樹脂(B)、及び無機充填材(C)を含有する。
熱可塑性樹脂組成物は、重合体(A)0.5〜20質量%、結晶性樹脂(B)40〜98.5質量%、無機充填材(C)1〜40質量%を含有することが好ましい。
【0031】
熱可塑性樹脂組成物(100質量%)中の重合体(A)の含有率は、1質量%以上がより好ましい。また、熱可塑性樹脂組成物(100質量%)中の重合体(A)の含有率は、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
熱可塑性樹脂組成物(100質量%)中の無機充填材(C)の含有率は、2〜35質量%がより好ましく、3〜30質量%がさらに好ましい。
【0032】
熱可塑性樹脂組成物(100質量%)中の重合体(A)の含有率が0.5質量%以上であれば、成形外観の向上効果が十分に発現し、20質量%以下であれば、フィラー強化された結晶性樹脂本来の特性(耐熱性、耐衝撃性)を損なうことがない。
熱可塑性樹脂組成物(100質量%)中の無機充填材(C)の含有率が、1質量%以上であれば、無機充填材の配合によって期待される特性、例えば、剛性、強度、及び疲労特性の向上が十分となり、40質量%以下であれば、得られる成形品の靭性が不足することがない。
【0033】
無機充填材(C)は、予め結晶性樹脂(B)に添加されているものが市販されており、これを用いることもできる。
本発明の重合体(A)は、剪断力が伝わりやすい樹脂組成物に対して、成形外観の向上効果が発現しやすい。樹脂組成物中に無機充填材(C)が存在することは、成形外観の向上効果の点から好ましい。
【0034】
本発明の重合体(A)は、無機充填材(C)を含有する結晶性樹脂(B)に対して、成形外観の向上効果を発現し、且つ、使用温度領域において良好な相溶性(親和性)を示し、樹脂層内での剥離が認められない。
そのため、このような重合体(A)を用いれば、無機充填材(C)を含有する結晶性樹脂(B)の有する耐衝撃性を損なうことなく、成形外観を、従来にない高いレベルにまで向上させることができる。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて任意成分を配合することが可能である。任意成分としては、例えば、トリフェニルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、ジフェニルハイドロジジェンフォスファイト、イルガノックス1076〔ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等の酸化防止剤;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン等の耐候性改良剤;帯電防止剤;離型剤;染顔料が挙げられる。
これらは、成形品の耐熱性、耐衝撃性及び成形外観を損なわない範囲で添加することができる。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の調製方法としては、通常の樹脂組成物の調製に用いられる公知の方法が挙げられる。例えば、重合体(A)と結晶性樹脂(B)と無機充填材(C)を、直接1軸又は2軸の押出機等により混練してペレット化する方法、重合体(A)と結晶性樹脂(B)と無機充填材(C)を、予めヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダー等で混合した後、1軸又は2軸の押出機等により混練してペレット化する方法が挙げられる。
【0037】
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られるものである。成形方法としては、射出成形法、溶融押出法等、公知の成形方法を用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
また、各実施例、比較例での諸物性の測定は次の方法による。
【0039】
(重合率)
1)アルミ皿を精密天秤に載せ、その質量を0.1mgの単位まで測定する。(A)
2)アルミ皿に重合体ラテックスを約1.0g取り、その質量を0.1mgの単位まで測定する。(B)
3)重合体ラテックスを採取したアルミ皿を180℃±2℃の乾燥機に入れ、45分間乾燥する。
4)重合体ラテックスを採取したアルミ皿を乾燥機から取出し、デシケーターに移して室温まで冷却後、質量を0.1mgの単位まで測定する。(C)
5)以下の式にて、重合体ラテックスの固形分を算出する。
(C−A)/(B−A)×100[%]
6)上記で算出した重合体ラテックスの固形分を、仕込み時の固形分で割り、重合体の重合率を算出する。
【0040】
(質量平均分子量)
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、重合体ラテックスを試料とした。標準ポリスチレンによる検量線から、重合体の質量平均分子量を求めた。
GPCの測定条件は以下のとおり。
カラム :TSK−GEL SUPER HZM−N(東ソー(株)製)
測定温度 :40℃
溶離液 :クロロホルム
溶離液速度 :0.6ml/分
検出器 :RI
【0041】
(製造例1)
重合体(A1)の製造
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、下記の乳化剤水溶液を仕込み、攪拌した。窒素雰囲気下で、内温を80℃まで昇温した。
乳化剤水溶液:
ラテムルASK(花王(株)製 アニオン系乳化剤) 3.57部
(固形分28% 固形分換算:1.0部)
脱イオン水 290部
【0042】
次いで、下記の還元剤水溶液を投入した。
還元剤水溶液:
硫酸第一鉄 0.0001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.0003部
ロンガリット 0.3部
脱イオン水 5部
【0043】
次いで、下記の単量体混合物を3時間かけて滴下した。
単量体混合物:
スチレン 87.5部
メタクリル酸フェニル 12.5部
n−オクチルメルカプタン 0.5部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
その後、加熱攪拌を1時間継続して重合を終了し、重合体(A1)ラテックスを得た。重合体(A1)の重合率は98%、質量平均分子量は52000であった。
【0044】
次いで濃度0.7%の硫酸水溶液300部を70℃に加温し攪拌した。この中に、得られた重合体(A1)ラテックスを徐々に滴下して凝析を行なった。凝析物を分離洗浄後、75℃で24時間乾燥し、重合体(A1)を得た。
【0045】
(実施例1〜9、比較例1〜6)
製造例1で得られた重合体(A1)を、下記の無機充填材(C)を含有する結晶性樹脂(B)(以下、「結晶性樹脂(B)+無機充填材(C)」と称する。)、又は結晶性樹脂(B)と共に、表1〜3に示す割合で配合した。
配合物を、2軸押出機(PCM−30:池貝製作所製)に供給して溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0046】
結晶性樹脂(B)+無機充填材(C):
PBT/GF :ジュラネックス3300(GF30%含有)
(ウインテックポリマー(株)製)
6ナイロン/GF :UBEナイロン1015GC6(GF30%含有)
(宇部興産(株)製)
6,6ナイロン/GF:UBEナイロン2020GC6(GF30%含有)
(宇部興産(株)製)
結晶性樹脂(B):
PBT :ジュラネックス2002 (ウインテックポリマー(株)製)
6ナイロン :UBEナイロン1015B(宇部興産(株)製)
6,6ナイロン:UBEナイロン2020B(宇部興産(株)製)
【0047】
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを用い、以下の評価を行なった。評価結果を、表1〜3に示す。
【0048】
(1)成形外観
得られた熱可塑性樹脂組成物を用い、射出成形機(KM50B:川口鉄工所製)により、120mm×100mmの平板を得た。成形温度及び金型温度は、表1〜3に記載した。
平板の外観を目視で観察し、以下の基準により成形外観を評価した。
○:表面に光沢がある。
×:表面に光沢がない。
【0049】
(2)荷重たわみ温度(耐熱性)
得られた熱可塑性樹脂組成物を用い、射出成形機(KM50B:川口鉄工所製)により、厚さ1/4インチの成形品を得た。成形品の荷重たわみ温度を、ASTM D648に準拠して測定した。
なお、アニールは行なわず、荷重は1.81MPaの条件で測定した。
【0050】
(3)耐衝撃性(アイゾット試験)
得られた熱可塑性樹脂組成物を用い、射出成形機(KM50B:川口鉄工所製)により、厚さ4mmの成形品を得た。成形品のアイゾット試験を、ASTM D256に準拠して行なった。
尚、測定にはノッチ付きの試験片を用い、23℃及び0℃で測定した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
表1から明らかなように、フィラー強化された結晶性樹脂に対して、本発明の重合体(A)を1〜5部配合した実施例1〜3は、重合体(A)を配合していない比較例1に対して、光沢のある成形品が得られ、成形品の外観が向上した。重合体(A)を配合したことで、荷重たわみ温度及び耐衝撃性の低下はなく、フィラー強化された結晶性樹脂本来の特性を損なうことなく、成形外観に優れた成形品を得ることができた。
フィラー強化されていない結晶性樹脂を用いた比較例2は、成形外観は良好であったが、荷重たわみ温度及び耐衝撃性が低かった。
以上のことから、本発明の重合体(A)をフィラー強化された結晶性樹脂に配合することで、耐熱性及び耐衝撃性を損なうことなく、成形外観に優れた成形品が得られることが確認された。
【0055】
表2には結晶性樹脂を6ナイロンに変更した場合、表3には結晶性樹脂を6,6ナイロンに変更した場合の評価結果を示す。何れの場合にも、フィラー強化された結晶性樹脂に本発明の重合体(A)を配合することで、耐熱性及び耐衝撃性を損なうことなく、成形外観に優れた成形品が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、フィラー強化された結晶性樹脂本来の特性(耐熱性、耐衝撃性)を有し、成形外観に優れた成形品を得ることができる。
本発明の成形品は、成形外観に優れ、フィラー強化された結晶性樹脂本来の特性を有することから、電気・電子機器関連製品、自動車関連製品等、幅広い用途で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体(a1)50〜95質量%、及び下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)5〜50質量%を含む単量体組成物を重合して得られる重合体であって、質量平均分子量が5000〜70000である重合体(A)、
ポリエステル系樹脂又はポリアミド系樹脂から選ばれる結晶性樹脂(B)、及び無機充填材(C)を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは置換基を有していてもよいフェニル基である。)
【請求項2】
重合体(A)0.5〜20質量%、結晶性樹脂(B)40〜98.5質量%、及び無機充填材(C)1〜40質量%を含有する、請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2009−84528(P2009−84528A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259759(P2007−259759)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】