説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】 ポリ乳酸樹脂およびゴム強化スチレン系樹脂からなる樹脂組成物の耐光性、耐湿性、耐衝撃性を改良すること。
【解決手段】 ポリ乳酸樹脂(A)10〜90重量%およびゴム強化スチレン系樹脂(B)10〜90重量%からなる樹脂組成物100重量部に対して、特定構造のヒンダードアミン系光安定剤(C)0.05〜3重量部配合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂およびゴム強化スチレン系樹脂と特定のヒンダードアミン系光安定剤からなる耐光性、耐湿性、耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油を原料としない環境対応型の樹脂として、とうもろこしや芋類を原料として得られる乳酸からなるポリ乳酸の利用が検討されている。しかしながら、ポリ乳酸は、高湿度環境下において長期使用に耐え得る耐久性が懸念され、またノッチ付き衝撃強度および、耐熱性に劣るといった欠点がある。
一方、ABS樹脂に代表されるゴム強化スチレン系樹脂は、優れた物性バランスおよび成形加工性を有しており、広範な分野に利用されている。
このため、近年ゴム強化スチレン系樹脂とポリ乳酸からなる樹脂組成物が多数提案されている。
しかしながら耐光性といった観点においては十分でない。そこで、これら樹脂に対してヒンダードアミン系光安定剤を配合するということが考えられるが、一般的なヒンダードアミン系光安定剤は造粒加工や成形加工の際にポリ乳酸樹脂を熱分解させたり、高温多湿下において加水分解させてポリ乳酸樹脂の分子量を低下させ、結果として耐衝撃性を低下させるという問題を有していた。
【特許文献1】特開2006−45485号公報
【特許文献2】特開2006−45486号公報
【特許文献3】特開2006−137908号公報
【特許文献4】特開2006−161024号公報
【特許文献5】特開2006−321988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、ポリ乳酸樹脂およびゴム強化スチレン系樹脂からなる樹脂組成物の耐光性、耐湿性、耐衝撃性を改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、ポリ乳酸樹脂(A)10〜90重量%およびゴム強化スチレン系樹脂(B)10〜90重量%からなる樹脂組成物100重量部に対して、下記一般式にて示されるヒンダードアミン系光安定剤(C)0.05〜3重量部配合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【0005】
【化2】

(式中、nは2〜10である。)
【発明の効果】
【0006】
ポリ乳酸樹脂およびゴム強化スチレン系樹脂からなる樹脂組成物の耐光性、耐湿性、耐衝撃性を改良できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明におけるポリ乳酸(A)とは、ポリ乳酸および乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体を意味する。とうもろこしなどの植物から得られたでんぷんを発酵させて、乳酸とし、化学合成にてポリマー化したものである。
乳酸としては、L−および/またはD−乳酸、乳酸の二量体であるラクトンなどが挙げられる。さらに乳酸と共重合可能なヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸などが挙げられ、1種又は2種以上使用できる。
ポリ乳酸の分子量には特に制限ないが、物理的、熱的特性の面より重量平均分子量が3万以上が好ましい。
ポリ乳酸としては、三井化学社製「LACEA」、米国Nature WorksLLC社製「Nature Works」、ユニチカ社製「テラマック」、東レ社製「エコディア」、三菱樹脂社製「エコロージュ」などの名称で市販されているものを利用できる。
【0008】
本発明におけるゴム強化スチレン系樹脂とは、ゴム状重合体の存在下で芳香族ビニル系単量体あるいは芳香族ビニル系単量体および共重合可能な他のビニル系単量体を重合させて得られたグラフト重合体または該グラフト重合体と芳香族ビニル系単量体および共重合可能な他のビニル系単量体から選ばれた1種以上の単量体を重合させて得られた(共)重合体を混合して得られるものであり、これらのグラフト重合体および(共)重合体はそれぞれ1種又は2種以上混合することも可能である。
【0009】
本発明において用いられるゴム状重合体とは、共役ジエン系ゴム(ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体等)、非共役ジエン系ゴム(エチレン−プロピレン系ゴムとしては、エチレン−プロピレン系共重合体ゴム、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン等)、アクリル系ゴム(ブチルアクリレートゴム等)ポリオルガノシロキサン系ゴム、さらにはこれら2種以上のゴムからなる複合ゴム等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。
【0010】
本発明において用いられる芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられ、単独あるいは混合して使用することができる。
また、共重合可能な他のビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、メチルメタアクリレート、メチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、マレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等の不飽和エポキシ系単量体、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等の水酸基含有不飽和単量体等が例示され、それぞれ1種または2種以上混合して使用することができる。
【0011】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)を構成する各成分の組成割合には特に制限はないが、ゴム状重合体10〜80重量%および芳香族ビニル系単量体20〜100重量%および共重合可能な他のビニル系単量体0〜80重量%からなる単量体(合計)90〜20重量%であることが好ましく、特に、ゴム状重合体10〜80重量%および芳香族ビニル系単量体20〜90重量%および共重合可能な他のビニル系単量体としてシアン化ビニル系単量体(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびマレイミド系単量体から選ばれた1種以上の単量体10〜80重量%からなる単量体(合計)90〜20重量%から構成されることが好ましい。
【0012】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)の分子量および分子量分布、ゴム状重合体の含有量やグラフト率、グラフト側鎖の組成や分子量等には特に制限は無く、最終製品の要求性能によって任意の組成・構造のものを使用することが可能である。
【0013】
本発明における熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)10〜90重量%およびゴム強化スチレン系樹脂(B)10〜90重量%からなるものであるが、ポリ乳酸樹脂(A)10重量%未満では石油系樹脂の割合が高くなるため、環境保護の点から好ましくなく、90重量%を超えると最終製品に求められる十分な耐熱性の確保が困難であるため好ましくない。
【0014】
本発明にておけるヒンダードアミン光安定剤(C)は、下記一般式にて示される化合物である。
【0015】
【化3】

(式中、nは2〜10である。)
このような化合物は、BASF社製のUvinul5050Hとして入手可能である。
【0016】
上記のヒンダードアミン系光安定剤(C)は、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)からなる樹脂組成物100重量部に対して0.05〜3重量部配合されるものである。ヒンダードアミン系光安定剤(C)の配合割合が0.05重量部未満では耐光性に劣り、また3重量部を超えると耐湿性が劣るため好ましくない。
【0017】
本発明においては、さらに、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)からなる樹脂組成物100重量部に対してホスファイト系酸化防止剤(D)0.01〜3重量部及び/又はベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(E)0.01〜3重量部を配合することが耐湿性の点で好ましい。
このようなホスファイト系酸化防止剤(D)としては、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(チバ・ジャパン社製のIRGAFOS 168として入手可能)が挙げられ、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(E)としては、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(チバ・ジャパン社製のTINUVIN
329として入手可能)が挙げられる。
【0018】
ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、ヒンダードアミン系光安定剤(C)、さらにはホスファイト系酸化防止剤(D)及び/又はベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(E)の混合順序ならびにその状態には何ら制限はなく、パウダー、ペレットなどの形態による、(A)、(B)、(C)、(D)および(E)成分の一括同時混合、特定の二成分を予備混合した後残る成分を混合する方法が例示される。これらの溶融混合に際してはバンバリーミキサー、ロール、押出機等を用いることができる。
なお、本発明においては、さらには上記の(C)成分、(D)成分、(E)成分以外の光安定剤、酸化防止剤や、その他紫外線吸収剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、滑剤、染料、顔料、可塑剤、難燃剤、離型剤等の公知の添加剤や補強材、充填材等を添加することができる。
【0019】
〔実施例〕
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す部および%は重量に基づくものである。
【0020】
ポリ乳酸樹脂(A)
A−1:三井化学(株)製 LACEA H−400
【0021】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)
ゴム強化スチレン系樹脂(B−1):公知の溶液重合法により、エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合ゴム(エチレン含有量55%)50部の存在下でスチレン35重量部、アクリロニトリル15重量部を重合し、ゴム強化スチレン系樹脂(B−1)を得た。得られたゴム強化スチレン系樹脂(B−1)のグラフト率は40%であった。
【0022】
ゴム強化スチレン系樹脂(B−2):公知の乳化重合法により、アクリル系ゴムラテックス100部(固形分50%、重量平均粒子径0.28μm)の存在下でスチレン35部、アクリロニトリル15重量部を重合した。硫酸を用いて塩析を行った後、洗浄・脱水を行い、ゴム強化スチレン系樹脂(B−2)を得た。得られたゴム強化スチレン系樹脂(B−1)のグラフト率は45%であった。
【0023】
ゴム強化スチレン系樹脂(B−3):公知の乳化重合法により、スチレン−ブタジエンゴムラテックス100部(固形分50%、重量平均粒子径0.35μm)の存在下でスチレン35部、アクリロニトリル15重量部を重合した。硫酸を用いて塩析を行った後、洗浄・脱水を行い、ゴム強化スチレン系樹脂(B−3)を得た。得られたゴム強化スチレン系樹脂(B−3)のグラフト率は35%であった。
【0024】
AS共重合体(B−4):公知の塊状重合法により、スチレン70部、アクリロニトリル30部からなるAS共重合体(B−4)を得た。
STY−NPMI共重合体(B−5):スチレン・N−フェニルマレイミド共重合体(電気化学(株)製 デンカIP MS−NC)
PMMA樹脂(B−6):スミペックスMGSS(住友化学株式会社製)
【0025】
ヒンダードアミン系光安定剤(C)
C−1:化1に示されるヒンダードアミン系光安定剤(BASF社製 UVINUL 5050H)
C−i:一般的なヒンダードアミン系光安定剤(アデカ社製 アデカスタブ LA−77)
C−ii:一般的なヒンダードアミン系光安定剤(アデカ社製 アデカスタブ LA−63P)
【0026】
ホスファイト系酸化防止剤(D)
D−1:チバ・ジャパン社製のIRGAFOS 168
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(E)
E−1:チバ・ジャパン社製のTINUVIN
329
【0027】
加水分解抑制剤:日清紡績(株)製カルボジライトLA−1
【0028】
〔実施例1〜9よび比較例1〜3〕
上記のポリ乳酸樹脂(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、ヒンダードアミン系光安定剤(C)、ホスファイト系酸化防止剤(D)およびベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(E)さらに加水分解抑制剤を表1に示す配合割合で混合した。50mm押出機(オーエヌ機械製)を用い、シリンダー温度220℃にて溶融混合しペレット化した。得られたペレットにつき、射出成形機にて各種試験片を作成し、耐光性、耐衝撃性を測定した。
【0029】
耐光性::50mm×100mm×3mm厚の試験片につき、キセノンWOM(Ci−35A アトラス社製)を用いて63℃雨無しの条件で500時間照射を行い、色差(ΔE)を測定した。
【0030】
耐久性: 65℃、95%RHにて500時間湿熱テストを実施し、耐衝撃性の保持率を求めた。尚、耐衝撃性はISO 179に準じてノッチ付きシャルピー衝撃試験を測定した。
耐衝撃性の保持率:湿熱試験後の衝撃強度/初期の衝撃強度×100 (%)
【0031】
耐熱性:ISO 75に準拠し、荷重0.45MPaの荷重たわみ温度を測定した。
これらの測定結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明における熱可塑性樹脂組成物は、耐光性、耐湿性、耐衝撃性に優れるものであり、建材、家電、OA機器等の各種工業用装部品として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(A)10〜90重量%およびゴム強化スチレン系樹脂(B)10〜90重量%からなる樹脂組成物100重量部に対して、下記一般式にて示されるヒンダードアミン系光安定剤(C)0.05〜3重量部配合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(式中、nは2〜10である。)
【請求項2】
さらにホスファイト系酸化防止剤(D)0.01〜3重量部及び/又はベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(E)0.01〜3重量部を配合してなる請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−31108(P2010−31108A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193330(P2008−193330)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】