説明

熱安定な水性ラクトフェリン組成物並びにその調製及び使用

本発明は、水性組成物であって、ラクトフェリンと、前記水性組成物の総重量に基いて35〜70重量%の炭水化物及び/又はポリオール安定剤とを含有し、2より高く且つ5よりも低いpHを示す組成物に関する。これら5つの条件で、この水性組成物及びそれに含まれるラクトフェリンは、ラクトフェリンの生理活性に大きな影響を及ぼすことなしに、熱処理に供してもよい。それ故、本発明は、特には、熱処理し、従って、熱安定化したラクトフェリンを含有した上記水性組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
発明の分野
本発明は、生理活性を失うことなしにラクトフェリンを加熱し、液体調合物中におけるその貯蔵寿命(shelf life)を延ばす方法に関する。より詳細には、本発明は、60℃を超える温度の酸性条件においてラクトフェリンを加熱する方法に関する。また、本発明は、そのように処理したラクトフェリンの使用に関する。
【0002】
発明の背景
ラクトフェリンは、涙、唾液、末梢血、乳などに分布している鉄結合タンパク質として知られている。ラクトフェリンが様々な薬理活性、例えば、有害バクテリアに対する抗菌作用、腸における鉄の吸収を促進する作用、抗炎症(anti-flammatory)作用などを有していることは知られている。ラクトフェリンの有用性の概要はUS−A−2007/161541に与えられており、その内容は、ここに参照によって組み込まれる。
【0003】
それ故、ラクトフェリンは、食品、加工食品、薬剤、化粧品などへ添加すること又はサプリメントとして直接摂取することが望ましい。これら製品は、一般には、加熱処理、例えば低温殺菌(pasteurize)又は滅菌(sterilize)して、それらをより長い時間に亘って微生物的に安全であり且つ貯蔵安定(shelf-stable)にすることが必要である。
【0004】
しかしながら、何等対策が施されない場合、ラクトフェリンは熱に対する不安定性を示し、ラクトフェリンの熱処理は、生理的pHにおけるラクトフェリンの変性をもたらすかも知れない。当技術においては、ラクトフェリンの生理活性は、62.5℃で30分間に亘って加熱することによりほぼ失われ、完全な変性は、70℃で15分間に亘って加熱することにより生じることが報告されている。
【0005】
上記から明らかなように、生理活性を利用する成分としてのラクトフェリンには、十分な熱処理を施すことはできなかった。ラクトフェリンの液体調合物又は原液(stock solution)は、長い貯蔵寿命を得るべく、滅菌に供されねばならない。
【0006】
EP454,084及びEP1,040,766は、鉄富化ラクトフェリン飲料を教示している。鉄強化は、貧血傾向(anemic drift)を有している人、妊婦又は乳飲み子の母に必要である。
【0007】
そこでは明示的に言及されていないかも知れないが、当業者は、EP’084及びEP’766において目的としているラクトフェリン回収への鉄飽和の効果を直ちに認める。Brissonら、“Effect of iron saturation on the recovery of lactoferrin in rennet whey coming from heat−treated skim milk”、J. Dairy Sci. 90: 2655−2664によると、ラクトフェリンは鉄と錯体を形成し、この錯化は、その熱安定性を改善する。しかしながら、栄養分野における鉄の使用は、例えば味の観点でしばしば望ましくはない。また、鉄錯化は、ラクトフェリンの安定性を高めるかも知れないが、それでも経時変性が起こるかも知れない。この故に、熱安定化を達成する更なる及び改良された方法への要求が存在している。
【0008】
GB2,361,703は、酸素の存在下で低い熱及び貯蔵安定性を示すビタミンB12及び/又は葉酸を、ラクトフェリンとの錯化により安定化すること、そして、これにより葉酸及びビタミンB12の貯蔵寿命を長くすることを教示している。ラクトフェリンは、鉄安定化ラクトフェリンを含むあらゆるソースから用いられる。しかしながら、異なる観点、即ち、ラクトフェリンを安定化する方法を探すという観点では、食糧において使用するべくそれを葉酸又はビタミンB12に結合させる解決法は不所望である。これら化合物は、高価であり、全種類の代謝経路において干渉し、これに関連して、これら化合物の人々への投与は非制限的であるという訳ではない。
【0009】
その熱安定性に取り組むべく、Morinaga Milk Industry名義のEP−A−437,958では、1.0〜6.5のpHのもと、60℃を上回る温度でラクトフェリンを加熱することが提案されている。その表1に示された液体クロマトグラフィの結果から、ラクトフェリンは、酸性条件のもと、60℃で5分間に亘って加熱した場合に安定であると結論付けられている。また、この表は、成功のウィンドウは、温度を70、80、90、更には100℃へと高めた場合に劇的に狭くなることを示している。100℃を上回ると、全てのラクトフェリンが変性する。全ての測定は、熱処理して間もなく行われている。EP−A−437,958は、ラクトフェリンの経時安定性及び貯蔵温度について言及していない。EP−A−437,958の内容は、ここに参照によって含められる。
【0010】
EP−A−437,958において報告された結果を再現する試みにおいて、本発明者らは、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)は、実際には、変性の程度を決定するのには適していないことを見出した。より良い技術はFPLC(中高圧液体クロマトグラフィ)及び/又はELISAを含み、HPLCは「未変性」の程度を高く見積もり過ぎることが見出されている。それ故、EP−A−437,958の表1の結果は、実際には、クレームされているほどではない。その上、EP−A−437,958における熱安定性ラクトフェリンは、仮に為し得たとしても、低耐久性(short-lasting)であることが見出されている。或る温度での延長した貯蔵時間のもとで、変性は数週間内に生じた。EP−A−437,958自体は、熱処理の貯蔵寿命への効果について言及していない。更に、Morinagaが支持している方法の制限された成功は、加熱時間を長くすると劇的に減少する。これは、事実、ここで述べた特許自体において認められている。このパラグラフにおける所見は、本発明に添えられる比較例において見出される。最後に、本発明者らは、EP−A−437,958の方法は、7℃以下に保った場合により長い期間に亘って安定であるに過ぎない組成物を含有し、それ故、冷却システムを必要とするラクトフェリン水溶液を生成することを確認している。
【0011】
結論を述べると、EP−A−437,958に従う酸性条件下で熱処理することによる、ラクトフェリンの主張されるところの熱安定性は、実際の製造ラインは低温殺菌においてより厳しい加熱時間及び温度の組み合わせをしばしば伴うので、相当に制限される。しばしば沸騰水が使用され、特にバッチ製造においては、加熱時間は容易に延長されるかも知れない。加えて、水性ラクトフェリン組成物をより長い時間、例えば数ヶ月に亘って安定に保つことが要求される場合には、それは、高価であり且つ計算上(logistically)運転が困難な冷却システムを伴う。ラクトフェリンを含有した多くの用途又は栄養性調合物は、数週間の、更には数か月の貯蔵寿命を有しているべきである。先の方法は、この条件を満足し得ない。
【0012】
本発明の発明者らは、ラクトフェリンを、その生理活性を失うことなしに加熱して、7℃を上回る貯蔵温度を含む、延長された期間に亘って安定なままである熱処理ラクトフェリンをもたらす、改良された方法を開発するべく努力した。また、本発明者らは、ラクトフェリンを鉄又はビタミンB12及び葉酸などの化合物と錯化することに制限されないようにすることを所望した。
【0013】
発明の要約
本発明の目的は、ラクトフェリンを、その生理活性、例えば、抗菌活性、鉄結合活性、抗原性を失うことなしに熱処理する方法を提供することにある。そのような熱安定化法は、延長された加熱時間に亘り及び高温で有効であるべきであり、結果として得られるラクトフェリンは、数週間又は更には数か月の基準で延長された時間に亘って安定なままであるべきである。
【0014】
また、7℃を上回るより高い温度で延長された期間に亘って貯蔵した際のラクトフェリンの熱安定化をもたらすラクトフェリンの熱処理方法を提供することも目的である。
【0015】
これら目的は、ラクトフェリンを大量の親水性炭水化物又はポリオール安定剤が存在している酸性条件下で加熱した場合に達成されることが見出された。高いレベルの安定剤は、貯蔵温度及び溶液のpHに依存して、少なくとも2週間、好ましくは少なくとも4週間の非常に長い時間に亘ってラクトフェリンを安定にする。この加熱工程は、貯蔵の際にラクトフェリンの劣化(degradation)を生じさせる残留プロテアーゼを破壊する。
【0016】
高温でのラクトフェリンと糖との間の正常な相互作用は、2よりも高く、5よりも低いpHに制限される。低pHでは、FPLCで示され得るように、ラクトフェリンの酸劣化又は加水分解が生じ始める。pHの上方境界では、熱安定化は実現しないまま(stay behind)であり、相当量の糖の存在によって誘起されるマイラード反応(Maillardation)が干渉し始める。
【0017】
EP−A−437,958の例は、熱処理の間中、糖が存在していることを開示しているが、これらは、そこでは、明らかに発明の一部ではない。これら糖は、単に、追加の食品成分、例えばオレンジジュースとして存在しているに過ぎない。ここに添えられる例において立証されるように、EP−A−437,958において提示される低いレベルでは、糖の如何なる効果も観測され得なかった。事実、EP−A−437,958の例5は、本発明に従う液体調合物ではなく、ゲルを教示している。不安定さの影響は、これらの場合について、少しも明らかにされていない(less pronounced)。今や、或る量の炭水化物又はポリオール安定剤、即ち、30重量%を超える糖が液体調合物におけるラクトフェリンを熱安定化するのに不可欠であることが見出されている。
【0018】
このようにして、本発明者らは、貯蔵安定な液状の滅菌LF含有調合物を提供することを可能にした。今日まで、LF含有溶液は貯蔵安定性が低かった。市場における残された代替手段は、噴霧乾燥した粉末の形態のLFを提供することであった。有利なことに、現在利用可能な液状の貯蔵安定性滅菌LF組成物の製造は、必要とするエネルギーがより少ない(余計な溶媒の蒸発)。また、この滅菌形態は、様々な調合物、例えば乳児用調合乳(infant formulae)に対して、手近に単純な無菌性を与える。この液体調合物は、溶解の必要なしに、最終調合物において直接使用され得る。
【0019】
発明の詳細な説明
それ故、本発明は、水性組成物であって、ラクトフェリンと、前記水性組成物の総重量に基いて35〜70重量%の炭水化物及び/又はポリオール安定剤とを含有し、2より高く且つ5よりも低いpHを示す組成物に関する。これら条件で、この水性組成物及びそれが含んでいるラクトフェリンは、このラクトフェリンの生理活性に大きく影響を及ぼすことなしに、熱処理に供されてもよい。それ故、本発明は、特には、熱処理され、それ故、熱安定化したラクトフェリンを含有した上記水性組成物に関する。このように、熱処理ラクトフェリンは、錯化の必要なしに提供される。
【0020】
他の側面では、本発明は、a)水性組成物であって、ラクトフェリンと、前記水性組成物の総重量に基いて35〜70重量%の炭水化物及び/又はポリオール安定剤とを含有し、2より高く且つ5よりも低いpHを示す組成物を提供することと、b)前記水性組成物を、好ましくは少なくとも60℃の温度の熱処理に供することとによって、本発明に係る熱安定化ラクトフェリン含有組成物を調製する方法に関する。
【0021】
更に他の側面では、本発明は、前記熱安定化ラクトフェリン含有水性組成物の、(健康)食品、飼料、栄養サプリメント、化粧品、薬剤における使用、並びに、前記熱安定化ラクトフェリンを含有したそのような(健康)食品、飼料、栄養サプリメント、化粧品、及び医療品に関する。本発明のラクトフェリンは、乳児用調合物、医学的栄養物、スポーツ食品、健康食品及びサプリメント、例えば、飲料、ヨーグルト及びヨーグルト飲料において格別な用途を見出している。更に、このLF及び糖含有溶液は、前述の熱処理以外の更なる処理なしで、サプリメントとしても使用され得る。
【0022】
この熱安定化ラクトフェリンは、高められた温度、即ち7℃を上回る温度でのその長期安定性において、市販の熱処理ラクトフェリンとは明確に区別される。それ故、本発明の文脈における「熱安定化」によれば、熱処理ラクトフェリンの生理学的性質、例えば鉄結合活性は、このラクトフェリンを含有した酸性組成物を、通常の貯蔵条件、即ち、7〜25℃、好ましくは7℃超の温度で、2週間、より好ましくは3週間、最も好ましくは4週間の期間に亘って保存しても、有意に不変のままである。生理学的性質の変化は、例えば、例において詳述するように、FPLC及び/又はELISAを用いて変性の程度の観点で、及び、鉄結合能の観点で監視する。FPLC、ELISA及び熱結合測定を行うのに適した方法については、当業者は、以下の表3及び4に与えた引用を参照されたい。そこには、FPLC及びELISAの双方がLF含有量(content)及びその変化を調べるのに適した技術であることも示されている。変性の程度における5%未満の変化は有意ではないと、更に言えば、実験誤差の範囲内であると見なされる。なお、本発明に従って熱処理したラクトフェリンの安定性は、上記の時間(time interval)に制限されず、数か月まで容易に延長される(例を参照のこと)。しかしながら、上記の比較的短い時間(interval)でも、本発明の熱処理ラクトフェリンを、市販のもの、例えばEP−A−437,958において報告されているものから区別するのに十分である。この熱処理組成物は、好ましくは、熱滅菌した、例えば、UHT処理組成物である。他の態様では、この組成物は、煮沸(cook)、即ち、100℃で処理される。
【0023】
ここで使用する単語「ラクトフェリン」は、あらゆる乳汁分泌段階(例えば、初乳、移行乳、成熟乳、後期泌乳における乳)の哺乳類の乳(例えば、人乳並びに牛(cow)、羊、山羊(goat)、馬の乳、ヤギ(caprine)の乳、駱駝の乳など)、加工乳、並びに脱脂乳及びホエーなどの乳加工における副産物などのあらゆる及び全てのラクトフェリン源(以下、それらは、一般には、乳等と呼ぶ)に由来するラクトフェリン(LF)を含む。ウシ(bovine)のラクトフェリンを使用することが好ましい。
【0024】
ここで使用する単語「ラクトフェリン」は、組み換えラクトフェリン;従来の方法(例えば、イオン交換クロマトグラフィ)によってあらゆる及び全てのラクトフェリン源から単離したままの天然ラクトフェリン;塩酸及びクエン酸などを用いて天然ラクトフェリンから鉄を取り除くことによって得られるアポラクトフェリン;アポラクトフェリンを、鉄、銅、亜鉛及びマンガンなどでキレート化することによって得られる金属飽和ラクトフェリン;又はそれらの適当な混合物などのあらゆる及び全てのラクトフェリン物質(以下、それらは一般には、LFと略記する)を含む。それは、未精製ラクトフェリン、即ち、乳若しくは乳清から又は組み換えラクトフェリンの場合には他の培地(medium)から直接抽出し、追加の精製工程に供していないラクトフェリンであってもよい。純粋なラクトフェリンは、78kDaの予想される分子量を有している。ラクトフェリン中に存在している他の高又は低分子量微量成分(minor component)は、当業者には明らかなように、ラクトフェリン源を示している。或る態様では、天然ラクトフェリンが適用される。「天然」は、ELISAを用いて測定したときに>85%が天然であると定義される。
【0025】
用語「熱安定化ラクトフェリン」は、本発明の方法を用いて得られるときには、存在しているラクトフェリンの少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%が熱処理後において未だ安定であり、好ましくは天然である態様を包含する。これら数値は、本明細書に記載されているように、ELISA、FPLCを用いて容易に測定され得る。
【0026】
上記から明らかでない場合は、用語「熱安定化」又は更に言えば「熱安定性」という用語は、熱処理中のLFを安定化するというよりは寧ろ、熱処理LFの経時安定化(stabilization of a heat-treated LF over time)を含むものと理解され、この用語には、例えばEP−A−437,958において意味が与えられている。当技術では、長期に亘って熱安定性のLFは、時々、「貯蔵安定性熱処理LF」と呼ばれる。この専門用語をここで採用してもよい。
【0027】
ラクトフェリンの塩の強度に影響を及ぼす如何なる手段も講じられない。ラクトフェリン供給源におけるイオン強度は、典型的には、1%(w/w)を超えるLF溶液中に溶解させた場合における少なくとも0.01Mのレベルに相当する。この塩のレベルは、イオン強度が特には熱処理の間中0.01Mよりも高い限り、臨界的な因子であるとは見なされない。より低いレベルでは、沈殿が起こり得た。
【0028】
この水性組成物に含まれるラクトフェリンの量は、好ましくは、この水性組成物の総重量に基いて0.05〜20重量%の範囲内にある。このラクトフェリンの量は、好ましくは少なくとも0.1、より好ましくは少なくとも0.5、更に好ましくは少なくとも1重量%、最も好ましくは少なくとも2重量%である。ラクトフェリンの最大量は、好ましくは18重量%、より好ましくは15重量%、更に好ましくは10重量%である。ラクトフェリンの量は、以下により詳細に説明するように、その次の応用の観点で調節してもよい。
【0029】
炭水化物安定剤としては、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、五糖類、六糖類、及び/又は、好ましくは10までの単糖ユニットを含んだオリゴ糖類を使用することが好ましい。
【0030】
好ましい例は、用途に依存して、デキストロース、フルクトース、スクロース、グルコース、マルトース、トレハロース、イヌリン若しくはオリゴフルクトース及び/又はそれらの混合物を含む。この組成物中には、延ばした鎖長を有する成分又はそのフラクションが存在していてもよいが、炭水化物安定剤の上記定義から外れるものは、本発明に係る重量数(weight number)に寄与するとは見なされない。その代わりに又はそれに加えて、マルトデキストリン又はグルコースシロップが炭水化物安定剤として使用され得る。炭水化物安定剤のDE(デキストロース当量)は、1乃至99であることが好ましく、より好ましくは5乃至99である。本発明の文脈において好適な炭水化物安定剤源は、転化糖又はコーンシロップ、例えばHFCS(玉蜀黍の高果糖シロップ)である。転化糖は、グルコースとフルクトースとのほぼ等しい重量割合の混合物である。炭水化物安定剤は、この組成物中に存在している炭水化物安定剤の総量に基いて少なくとも45重量%、好ましくは少なくとも50重量%のグルコース及び/又はフルクトースを含有していることが好ましい。これに加えて又はこの代わりに、炭水化物安定剤は、グルコース及びフルクトースを、1.5:1〜1:1.5の、好ましくは1.2:1〜1:1.2の範囲内の相対量で含有していることが好ましい。好ましい態様では、転化糖は、スクロースを更に含有する。そのような場合、この安定剤は、少なくとも65重量%のグルコース、フルクトース及び/又はスクロースを含有することが好ましい。他の態様では、HFCSが炭水化物安定剤源として使用され、それは、炭水化物安定剤の総重量に基いて少なくとも40重量%のフルクトースを含有することが好ましい。
【0031】
好適なポリオールは、マンニトール、ガラクチトール、イノシトール、キシリトール、ソルビトール、グリセロール及び/又はラクチトールを含む。
【0032】
前述の安定剤の量は、好ましくは30乃至70重量%であり、より好ましくは少なくとも35重量%であり、更に好ましくは少なくとも40重量%である。安定剤の量は、好ましくは65重量%未満であり、より好ましくは60重量%未満である。これら数値は、水性組成物の総重量に基づいている。当技術分野において図らずも適用されたより少量の糖を上回る上記量の糖の効果は、添えられる例において示される。15%の、更には30%の糖では、ラクトフェリンは、目指すところの貯蔵寿命安定性を提供されない。
【0033】
この水性ラクトフェリン組成物は、好ましくは、液体調合物である。この液体は、好ましくは、例えば回転式粘度計(Brookfield)を用いて20℃で測定したときに、好ましくは3000mPa・s未満の、より好ましくは1000mPa・s未満の、更に好ましくは500mPa・s未満の粘度を有する。好ましい態様では、この組成物は、それ故、安定性の問題がしばしば注目されないゲルを除外する。
【0034】
この水性組成物のpHは、好ましくは2.5〜4.5の範囲内にあり、より好ましくは少なくともpH3である。この水性組成物のpHは、より好ましくは4以下である。高いpHは、マイラード反応を、即ち、魅力のない暗褐色の着色及び/又は苦味を生じさせる。
【0035】
本発明の方法に従うと、pH調整は、無機酸(例えば、塩酸、硫酸、燐酸など)及び/又は有機酸(例えば、酢酸、クエン酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸など)の添加によって達成してもよい。確かに、この組成物自体が上記範囲内のpH値を有している場合、pH調整は不要であるが、それでも、本発明の組成物のpHを、適用すべき加熱条件(加熱温度及び加熱時間)及び課熱の目的(例えば、滅菌、煮沸など)に依存して最適なpHに調整することが好ましい。
【0036】
この熱安定化ラクトフェリン含有組成物を調製する方法は、水と、ラクトフェリンと、前述した安定剤の1つ以上とを混合することと、任意のpH調整とを伴う。ラクトフェリン源としては、噴霧乾燥又は凍結乾燥したラクトフェリンを使用してもよく、例えばラクトフェリン製造プロセスから容易に入手可能なラクトフェリン含有溶液であってもよい。混合の順序は、熱処理前に全ての工程が完了する限りにおいて、制限的であるとは見なされない。ラクトフェリンの分散を改善するべく、それは、水の添加及びpH調整の前に、安定化剤(の少なくとも一部)と任意に混合され得る。
【0037】
本発明に係る熱処理組成物を与える熱処理は、少なくとも60℃の、好ましくは少なくとも70℃の、好ましくは少なくとも75℃の、より好ましくは80℃の、最も好ましくは少なくとも90℃の温度を伴う。本発明のラクトフェリン含有組成物はより長い加熱時間にわたって安定であることが照明されているので、この加熱時間は、特に制限的であるとは見なされない。この熱処理は、好ましくは、滅菌、例えばUHT反りを伴う。加熱は、様々なタイプの装置において、バッチ式又は連続式で行われ得る。好適な加熱条件は、連続式加熱については80乃至100℃で15乃至60秒間であり、バッチ式加熱については70乃至90℃で5乃至30分間である。UHT工程は、好ましくは、135℃乃至150℃で2乃至35秒間の加熱を伴い、バッチ式熱処理は、好ましくは、80℃〜100℃で5〜30分間の加熱を伴う。
【0038】
或る態様では、加熱条件は、WO−A−03/−11040に提示されたのと一致して選ばれ、その内容は、ここに参照によって組み込まれる。この熱処理は、好ましくは、LF含有溶液を、少なくとも60℃、好ましくは少なくとも70℃であり且つ200℃未満に、より好ましくは160℃未満の温度に、tと等しいか又は少なくともtの期間に亘って加熱することを含み、この加熱の期間tは、以下の式:
t=(500/(T−59))−4
によって支配され、ここで、tは過熱の持続時間(秒)であり、Tは加熱温度(℃)である。より好ましくは、守られる最大加熱条件は、以下の式:
t=(90000/(T−59))−900
によって支配され、ここで、t及びTは上記と同じ意味を有している。
【0039】
熱処理は、好ましくは、0.1秒乃至24時間の期間を伴う。加熱時間は、10秒〜1時間の範囲内にあることが特に好ましく、より好ましくは少なくとも10分間である。対応の好ましい最小及び最大温度は、上記の式から計算されてもよい。
【0040】
追加の成分を、それらの熱依存性及び/又はラクトフェリンとの相互作用に依存して加熱工程の前又は後に加えてもよい。加熱の間にラクトフェリンと干渉する成分は、後で無菌的に加えてもよい。添加剤の非制限的な例は、ビタミンCなどのビタミン、ミネラル、緩衝剤、ペプチド、LFを活性化するべく時々適用されるペクチンなどの多糖類、アミノ酸、着色剤、香料(flavorant)などである。
【0041】
上述のように、本発明は、本発明に係る方法によって熱安定化したラクトフェリンを含有した食品、飼料、栄養サプリメント、化粧品又は医療品にも関する。この溶液は、それら製品の選択肢に対して無菌的に添加され得る。ラクトフェリンは、典型的には、総重量に基いて、0.05〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%の量で存在する。熱安定化し且つ貯蔵安定な本発明に係るLFは、従来技術から区別される。制限されたpH条件でのこれまでの熱処理(例えばEP−A−437,958を参照のこと)は、貯蔵安定なLFをもたらさない。
【0042】
或る態様では、製品は、複数の部分(parts)からなるキットであって、i)本発明の熱安定化LFを含んだ液体調合物と、ii)液体食用調合乳(food formula)とを含んだキットである。液体調合乳において、LFは、LF活性の損失を生じさせるかも知れないあらゆる相互作用を回避するべく、他の食品成分から分けられている必要がある。本発明に係るLFの貯蔵特性は、今や、それを、更なる溶解の必要なしに、エンドユーザにとって利用し易くする。これは、乳児用調合乳用途[ii)の食用調合乳は乳児用調合乳組成物である]において、例えば、水へのアクセスが制限されている路上にいるときに特に有利である。
【0043】
或る態様では、本発明は、座瘡(acne)を治療する方法であって、座瘡を患っている人に、本発明の熱安定化LFを含んだ液体調合物の有効量を経口投与することを含んだ方法に関する。更なる詳細は、EP−A−1,833,495において与えられ、その内容は、ここに参照によって組み込まれる。この(予防的)治療は、美容的(cosmetic)であってもよく、美容的でなくてもよい。座瘡のリスクがある人は、当業者には容易に識別することができる。或る態様では、座瘡のリスクがあるか又は座瘡を患っている人はティーンエイジャであり、好ましくは12歳と20歳との間の年齢である。
【0044】

実験を通じて、オランダ国のDMV Internationalから得られたラクトフェリンを使用した。
例1−pHの効果
糖シロップA(46w/w%)中にLFを含有したシロップ溶液(1%LF,w/w)の熱処理(95℃で45秒間)に対するpHの効果を、FPLC(中高圧液体クロマトグラフィ)を用いて調べた。糖シロップAは、重量ベースで1:1:1のグルコース:フルクトース:スクロースの混合物を、フルクトースとグルコースとスクロースとの合計で約70重量%含んでいる。熱処理直後に得られた結果を表1に示す。
【0045】
これら結果は、より高いpHはマイラード反応を生じさせ、それ故、LF残率(retention)を減少させることを示した。最適なpHは約3〜3.5である。
【表1】

【0046】
比較例I−糖有り及び無しでのLFの貯蔵温度
熱処理(95℃で45秒間)後の、シロップ溶液A(固形分46%)中の1重量%LFの貯蔵安定性を、95℃で45秒間の熱処理をした後の、同じpH(pH3.5)の通常のLF水溶液と、低及び高貯蔵温度で比較した。貯蔵時間は2週間であった。
【0047】
結果を表2に示す。シロップ中ではLF濃度は比較的一定のままであり、水溶液中のLFは、より高い貯蔵温度で比較的速く腐敗(decay)することが見出された。糖の存在が保護効果を有していると結論付けられた。
【表2】

【0048】
例2−貯蔵時間
45%グルコース水溶液中の1重量%LFの長期貯蔵安定性を、90℃で5分間に亘る熱処理の後に、4ヶ月の期間に亘って調べた。貯蔵温度は7℃であった。
LF濃度は不変のままであり、約100%のレベルであることが見出された。
【0049】
比較例II−糖無しでのLF%の分析方法(HPLC対FPLC)
pH3.5の水溶液中の4%ウシLF溶液(DMV,オランダ国)を、様々な時間(5、10、20及び60分間)に亘り、95℃の熱処理に供した。熱処理後、FPLC(中高圧液体クロマトグラフィ)及びHPLC(高速液体クロマトグラフィ;「Morinaga」の方法)を用いて、活性を調べるべく、LF濃度を分析した。
【0050】
結果を表3に示す。FPLCは天然LFと変性LFとの間に差異を認め、当技術(EP−A−437,958)において使用されているHPLCは天然LFの濃度を一貫して高く見積もり過ぎることが見出された。従って、後者は、LF分析にとって十分なツールを提供しない。
【表3】

【0051】
比較例III−糖含有量の効果
熱処理(95℃で様々な時間(time interval)に亘る)の間における糖の保護効果を、等電点分画ゲル電気泳動(iso-electro-focusing gel electrophoresis)により、pH3乃至9で調べた。
【0052】
結果を図1に示す。左から右へ、5%ウシLF溶液(pH3.5)、これを90℃で5、20及び72分間に亘って熱処理したもの;42%グルコース溶液(pH3.5)中の5%ウシLF溶液(pH3.5)、これを90℃で5、20及び72分間に亘って熱処理したものである。
【0053】
糖溶液中のLFは、糖なしの水溶液中のそれと比較してより保護されることが見出され、ゲル電気泳動は、5重量%LFについてのバンドは、42重量%の糖含有量の場合には、20分間の90℃での熱処理後でさえも不変のままであった。
【0054】
結論として、熱処理の間における糖溶液を使用すると、LF溶液に、長い貯蔵寿命を与えるだけでなく、延長した熱処理による非活性化からLFを保護することが可能である。
【0055】
なお、完全性の目的で、95℃で72分間に亘って熱処理することは、あまり現実的ではない。
【0056】
比較例IV−糖含有量の効果
3つの1%LF溶液を、(シトラート及び重炭酸塩を用いて)3.7のpHに、0%、15%及び40%の異なるスクロース濃度で提供した。これら組成物は、93℃の加熱に供した。
【0057】
異なる時間に(0、10、35及び72分間の加熱後)、サンプルを取り出し、色の経時変化を比較した。0%及び15%の糖の場合、当初の赤みを帯びた色(t=0のとき)は、10分以内に既に失われていた。これは、LFの変性を示している。40%の糖レベルでは、75分間の加熱後でさえ、当初の赤色はほぼ保たれた。これは、本発明に係るpH及び糖含有量で熱処理したLFの貯蔵安定性を反映している。
【0058】
添付の図2は、上記のサンプル間の相違を示し、(A)、(B)及び(C)は、それぞれ、0%(コントロール)、15%及び40%の糖を表している。全てのサンプルは、1%のLF含有量で採取されている。
【0059】
例3−分析方法II
活性LF含有量を、FPLC、Elisa及び鉄結合活性試験を用いて測定して、双方の分析方法の適用範囲を調べた。LF含有シロップは、0.26重量%のLF、42%固形分のシロップAを含有しており、90℃で5、20及び60分間に亘って熱処理した。LF残率及び機能的に活性なLFを調べるべく、様々な時間間隔でサンプルを採取して分析した。結果を表4に示す。
【0060】
FPLCは、それらの結果が定評のあるElisaを用いた場合の結果と厳密に一致したので、LF活性を測定するのに信頼できる方法であることが見出された。LFの濃度は、鉄結合試験法を使用した場合には高く見積もられ過ぎた。あらゆる不一致について可能な説明は、延長した熱処理では、LFはその本来の構造を失い、それ故、FPLCを用いた場合の保持時間を変化させるのに対し、その鉄結合活性は保たれるという事実にあるかも知れない。
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】記載なし
【図2】記載なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性組成物であって、ラクトフェリンと、前記水性組成物の総重量に基いて35〜70重量%の炭水化物及び/又はポリオール安定剤とを含有し、2より高く且つ5よりも低いpHを示す組成物。
【請求項2】
請求項1に係る組成物であって、少なくとも60℃の温度に供された組成物。
【請求項3】
請求項2に係る組成物であって、滅菌又は煮沸された組成物。
【請求項4】
先行する請求項の何れか1つに係る組成物であって、前記炭水化物及び/又はポリオール安定剤は、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、五糖類、六糖類、オリゴ糖類、マンニトール、ガラクチトール、イノシトール、キシリトール、ソルビトール、グリセロール、ラクチトール、及びそれらの混合物からなる群より選択される組成物。
【請求項5】
請求項4に係る組成物であって、前記炭化水素安定剤は少なくとも45%のグルコース及びフルクトース単糖類を含有した組成物。
【請求項6】
先行する請求項1の何れか1つに係る組成物であって、前記ラクトフェリンは、前記水性組成物の総重量に基いて0.05乃至20重量%の量で存在している組成物。
【請求項7】
先行する請求項の何れか1つに係る組成物であって、2.5〜4の範囲内のpHを示す組成物。
【請求項8】
a)水性組成物であって、ラクトフェリンと、前記水性組成物の総重量に基いて35〜70重量%の炭水化物及び/又はポリオール安定剤とを含有し、2より高く且つ5よりも低いpHを示す組成物を提供することと、b)前記水性組成物を熱処理に供することとによって、ラクトフェリンを熱安定化する方法。
【請求項9】
請求項8に係る方法であって、前記熱処理は少なくとも60℃の温度を伴う方法。
【請求項10】
請求項1〜7の何れか1つに係る組成物又は請求項8〜9の何れか1つに係る方法によって得られる組成物の、(健康)食品、飼料、栄養サプリメント、化粧品、又は薬剤における使用。
【請求項11】
請求項10に係る使用であって、座瘡の美容的(予防的)治療のための使用。
【請求項12】
請求項1〜7の何れか1つに係る組成物又は請求項8〜9の何れか1つに係る方法によって得られる組成物の、座瘡の(予防的)治療のための調合剤(preparation)の製造における非美容的使用。
【請求項13】
請求項8〜9の何れか1つに係る方法によって熱安定化したラクトフェリンを含有した食品、飼料、栄養サプリメント、化粧品又は医療品。
【請求項14】
請求項12に係る食品、飼料、栄養サプリメント、化粧品又は医療品であって、総重量に基いて0.05〜10重量%の量でラクトフェリンを含有した食品、飼料、栄養サプリメント、化粧品又は医療品。
【請求項15】
複数の部分からなるキットであって、i)請求項8〜9の何れか1つに係る方法によって熱安定化したラクトフェリンを含んだ液体調合物と、ii)液体食品組成物、好ましくは乳児用調合乳とを含んだキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−524181(P2011−524181A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514513(P2011−514513)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【国際出願番号】PCT/NL2009/050342
【国際公開番号】WO2009/154447
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(506276262)キャンピナ・ネダーランド・ホールディング・ビー.ブイ. (8)
【Fターム(参考)】