説明

熱成形シート積層用フィルム

【課題】熱成形性に優れ、熱成形用シートに積層する際のラミネート適性、熱成形用シートとのラミネート後および熱成形した後の容器光沢に優れ、容器の白濁感が改良された熱成形シート積層用フィルムを提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系ランダム共重合体100質量部及びソルビトール誘導体等の有機結晶核剤0.03〜1質量部を含む樹脂組成物より構成される層が、15μm以上の厚みで表層に存在する無延伸ポリプロピレン系フィルムよりなることを特徴とする熱成形シートの表層形成用フィルムであり、該熱成形シート積層用フィルムは、樹脂シートの少なくとも一方の面に積層してポリプロピレン系熱成形用シートを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な熱成形シート積層用フィルムに関するものである。詳しくは、熱成形用シートに積層する際のラミネート適性に優れ、また、積層された熱成形用シートを熱成形して得られる熱成形体に、優れた光沢性を付与することが可能な熱成形シート積層用フィルムである。
【背景技術】
【0002】
現在、弁当容器、トレー、丼容器等の食品包装容器、及び一般包装容器には、ポリオレフィンシート、特に、電子レンジの普及から耐熱性の高いポリプロピレンシートや発泡ポリプロピレンシートが用いられており、そのほとんどが意匠性の向上、高級感を与える目的で印刷を施したポリプロピレン系フィルムを貼り合している。シートに貼り合せるポリプロピレン系フィルムは無延伸ポリプロピレンフィルム(以下、CPPフィルムと記す)、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(以下、OPPフィルムと記す)が用いられている。
【0003】
上記CPPフィルムは熱成形性に優れることから深絞り容器のような熱成形体の製造への対応も可能であるが、シートとの貼り合せにおいて最も安価に製造可能な押出しラミネート法にて、ラミネート後にCPPフィルムの光沢が失われラミネートシートを熱成形した後の熱成形体において表面光沢に劣るという問題を有するため、その改善が望まれている。
【0004】
一方、OPPフィルムはCPPフィルムに比べラミネート後および熱成形後の光沢は大幅に向上するものの一部の深絞り容器のような熱成形体を得る場合の熱成形性に劣るという問題がある。
【0005】
これらの熱成形体(容器)は、一般的に、真空成形、圧空成形等の熱成形法により製造されている。この熱成形方法とは、シートを赤外線ヒーター等によって加熱した後、機械力、真空、圧空等の外力により、該シートを金型に密着させて成形するという方法である。
【0006】
CPPフィルムをシートに貼り合わせ、ラミネート後の光沢およびラミネートシートを熱成形した後の容器光沢を改善するために以下の検討がなされている。例えば、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面にポリプロピレン系樹脂に結晶核剤を配合した無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムを積層する方法が提案されている(特許文献1参照)。この無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムのポリプロピレン系樹脂は実施例よりポリプロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)であり、結晶核剤を添加しシートに積層することである程度熱成形後の光沢は向上するものの表面の白濁感があり、かかる点において改善の余地があった。
【0007】
また、上記の積層シートとして、表面層に特定の密度、MFRのプロピレン重合体にメタロセン触媒系を用いたエチレン系重合体、核剤を配合し、中間層に特定のMFRであるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体に核剤を配合する提案がされている(特許文献2参照)。しかし、上記技術は、得られる熱成形体において光沢は向上するものの表面の白濁感があり問題があった。
【0008】
一般に、熱成形体、例えば、熱成形後の容器の光沢については、JIS K7105に準拠して60度鏡面法で測定したグロス値において、50%以上であれば光沢感のある容器であるが、60%以上であれば更に商品価値の高い光沢容器であると言える。また、グロス値が高い容器でも容器表面の白濁が大きいものは、容器表面が白っぽく写り、見た目に濁った状態となる。
【0009】
特に、ポリプロピレン系熱成形用シートを黒色、赤色その他の色に着色したものにCPPフィルムを貼り合わせて熱成形する場合、あるいは、ポリプロピレン系熱成形用シートに、印刷したCPPフィルムを貼り合わせて熱成形する場合、前記積層されるフィルムの白濁が大きいものは、その着色した色あるいは柄が鮮明に写らないという現象が発生する。
【0010】
【特許文献1】特開2002−103541号公報
【特許文献2】特許第3416433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ポリプロピレン系熱成形用シートに積層されるフィルムとして、熱成形用シートに積層する際のラミネート適性に優れ、しかも、これを積層した熱成形シートを熱成形して得られる熱成形体において、表面光沢に優れ、また、白濁の小さい熱成形体を与えることが可能な熱成形シート積層用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定のポリプロピレン系共重合体に有機結晶核剤を添加した樹脂組成物の層が特定の厚みで存在する無延伸ポリプロピレン系フィルムが、前記熱成形シート積層用フィルムとして使用した場合、上記課題を全て達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、ポリプロピレン系ランダム共重合体100質量部及び有機結晶核剤0.03〜1質量部を含む樹脂組成物より構成される層が、少なくとも15μm以上の厚みで表層に存在する無延伸ポリプロピレン系フィルムよりなることを特徴とする熱成形シート積層用フィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱成形シート積層用フィルムは、無延伸フィルムを使用することにより、熱成形において、深絞り容器のような熱成形体の製造に適している。また、ポリプロピレン系ランダム共重合体が表層に存在するため、熱成形により得られる熱成形体の光沢性に優れ、且つ、白濁感のない表面を有する熱成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の熱成形シート積層用フィルムにおいて、ポリプロピレン系ランダム共重合体に有機結晶核剤を特定量添加した層を、少なくとも15μm以上の厚みで表層に有する無延伸ポリプロピレン系フィルムであることが、後記の熱成形シートに積層して熱成形に使用した場合、光沢に優れ、且つ、白濁の極めて少ない成形体表面を実現するために極めて重要である。
【0016】
従来、熱成形シート積層用フィルムは、プロピレンの単独重合体の無延伸フィルムが一般に使用されているが、かかるフィルムを使用して熱成形シートを構成し、熱成形した場合、得られる熱成形体の表面光沢および白濁感に劣る。これは、加熱温度によりフィルムが再溶融し結晶化する際に球晶が成長するために表面荒れが発生し表面光沢が低下するものと思われる。この現象を解決するために結晶核剤を添加する方法は公知であるが、プロピレン単独重合体に結晶核剤を添加した場合、溶融後、再結晶化する際プロピレン単独重合体は比較的の結晶化温度が高いことから球晶の大きさが大きくなり易いため白濁感が生じるものと考えられる。これに対して、本発明においては、ポリプロピレンランダム共重合体よりなる層を特定の厚みで熱成形シート積層用フィルムの表層に形成することにより、有機結晶核剤の添加による熱成形後における前記問題を解消でき、光沢性に優れ、しかも、白濁感が極めて少ない熱成形体を得ることができるのである。
【0017】
本発明の熱成形シート積層用フィルムの少なくとも表層を構成するポリプロピレン系ランダム共重合体は、プロピレンを主体とする公知のものが特に制限なく使用される。特に、プロピレン99.7〜85質量%、好ましくは99〜90質量%と、残部が、エチレン、ブテン、ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等のα−オレフィンよりなるランダム共重合体が好ましい。これらの中でもプロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン共重合体が好ましい。
【0018】
また、これらポリプロピレン系ランダム共重合体は、それぞれ単独で使用しても、2種類以上使用してもよい。
【0019】
前記ポリプロピレン系ランダム共重合体は、示差走査熱量計によって測定される融点が130℃以上のものが好ましく、133℃以上のものが更に好ましい。即ち、ポリプロピレン系ランダム共重合体の融点が130℃未満の場合、これを積層した熱成形シートの熱成形体の耐熱性が低下する傾向にある。そのため、成形体が容器である場合、電子レンジによる加熱において変形等が生じるおそれがある。特に好ましいポリプロピレン系ランダム共重合体の融点の範囲は133〜157℃である。
【0020】
上記ポリプロピレン系ランダム共重合体の融点は、その製造工程における共重合させるモノマーの種類、割合を調整する公知の方法によって調整することができる。
【0021】
尚、前記プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン共重合体の共重合組成は、後記の核磁気共鳴装置を用いて測定することができる。
【0022】
また、上記ポリプロピレン系ランダム共重合体のMFRは、製膜性を勘案すると2〜50g/10分、好ましくは、4〜20g/10分の範囲が好適である。さらに好ましくは、6〜15g/10分の範囲が製膜時の厚薄を安定させるために好ましい。
【0023】
本発明に用いる結晶核剤は、有機結晶核剤である。無機系結晶核剤では熱成形用シートとのラミネート後および熱成形した後の容器光沢に優れた熱成形シート積層用フィルムが得られない。かかる有機結晶核剤としては、ジベンジリデンソルビトール、ジメチルベンジリデンソルビトール等のソルビトール系誘導体、ポリ−3メチルブテン−1、4フッ化エチレン、ロジン金属塩化物、安息香酸金属塩、燐酸エステル金属塩等が挙げられるが、ソルビトール誘導体が熱成形後の光沢向上には最も効果が高い。
【0024】
有機結晶核剤の添加量はポリプロピレン系ランダム共重合体100質量部に対して0.03〜1質量部であり、0.1〜0.5質量部が好ましく、0.15〜0.4質量部の範囲が特に好ましい。かかる有機結晶核剤の添加量が0.03質量部未満の場合、印刷適性、シートとの押出しラミネート時のラミネート適性に劣り、熱成形後の光沢に劣る。また、有機結晶核剤の添加量が1質量部を超えた場合、成形後の光沢性の向上効果が頭打ちとなり、経済的に不利となる。
【0025】
本発明において、上記核剤の添加は熱成形シート積層用フィルムの光沢性等の向上効果以外に、該フィルムの引張弾性率を高くする効果も発揮する。即ち、有機結晶核剤の添加により上記フィルムの流れ方向(以下、MD方向と記す)の引張弾性率は600MPaを超える値を示すようになる。これにより本発明において、熱成形シート積層用フィルムをポリプロピレン系シートに積層して熱成形シートを構成する際、積層時のラミネート適性に優れるという効果を発揮する。
【0026】
本発明の熱成形シート積層用フィルムを構成する無延伸ポリプロピレン系フィルムは、前記有機結晶核剤を含有するポリプロピレンランダム共重合体よりなる層(以下、光沢層ともいう)が、少なくとも15μm、好ましくは、少なくとも18μmの厚みで表層に存在する。即ち、上記光沢層の厚みが15μm未満の場合、これを使用して得られる熱成形シート積層用フィルムの熱成形後の光沢性が不十分となり、また、白濁感が大きくなり、本発明の目的を達成することができない。特に、熱成形体が深絞り容器である場合、その成形体表面の光沢の低下が著しい。
【0027】
また、本発明の熱成形シート積層用フィルムにおいて、前記光沢層以外の層は、任意のポリプロピレン系樹脂で構成することができる。本発明の熱成形シート積層用フィルムの具体的な層構成の態様を例示すれば、以下の態様が挙げられる。
(1)全層が光沢層、即ち、ポリプロピレン系ランダム共重合体100質量部及び有機結晶核剤0.03〜1質量部を含む樹脂組成物より構成される態様。
(2)表層に存在する15μm以上の厚みの光沢層と、有機結晶核剤を本発明の下限未満で含有するか、含まないポリプロピレン系ランダム共重合体より構成される層とにより構成される態様。
(3)表層に存在する15μm以上の厚みの光沢層と、有機結晶核剤を含有する、ポリプロピレン系ランダム共重合体以外のポリプロピレン系樹脂、例えば、プロピレンの単独重合体、プロピレン系ブロック共重合体等により構成される層とより構成される態様。
(4)表層に存在する15μm以上の厚みの光沢層と、有機結晶核剤を本発明の下限未満で含有するか、含まない、ポリプロピレン系ランダム共重合体以外のポリプロピレン系樹脂、例えば、プロピレンの単独重合体、プロピレン系ブロック共重合体等により構成される層とより構成される態様。
【0028】
上記態様のうち、これを使用した熱成形シートを熱成形して得られる熱成形体表面の光沢性、白濁感の改善性を考慮すれば、(1)及び(2)の態様が好ましく、特に、(1)の態様が最も好ましい。
【0029】
本発明の熱成形シート積層用フィルムの総厚みは、前記光沢層を確保できる厚みであれば、特に制限されるものでは無いが、一般に、15〜100μm、好ましくは、18〜60μmである。
【0030】
前記熱成形シート積層用フィルムの態様において、(2)で使用するポリプロピレン系ランダム共重合体は、前記光沢層の説明において例示した樹脂が好適に使用される。また、(3)、(4)で使用するプロピレン系ブロック共重合体は、プロピレン99.7〜85質量%、好ましくは99〜90質量%と、残部がエチレン、ブテン、ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等のプロピレン以外のα−オレフィンとのブロック共重合体である。
【0031】
また、上記プロピレン系ブロック共重合体は、前記プロピレン単独重合体も含め、示差走査熱量計によって測定される融点が130℃以上のものが好適に使用できる。 また、MFRは、製膜性を勘案すると3〜50g/10分、好ましくは、5〜20g/10分の範囲が好適である。さらに好ましくは、6〜15g/10分の範囲が製膜時の厚薄を安定させるために好ましい。
【0032】
本発明の熱成形シート積層用フィルムを構成する樹脂には、必要に応じて帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、滑剤、界面活性剤、着色剤、抗菌剤等の公知の添加剤を配合しても良い。
【0033】
本発明の熱成形シート積層用フィルムの製造方法は特に制限されない。代表的な方法を例示すれば、Tダイスを使用した押出成形法、環状ダイスを使用したインフレーション成形法が挙げられる。上記成形法において、前記熱成形シート積層用フィルムを光沢層のみで構成する場合は、単層のダイスを使用した成形法が採用される。また、上記光沢層は同種または異種の組成の複数層で構成することもでき、この場合は、多層のダイスを使用した共押出成形法が採用される。更に、上述の単層又は複数層よりなる光沢層と他のポリプロピレン系樹脂層を積層して熱成形シート積層用フィルムを構成する場合にも、多層のダイスを使用した共押出成形法が採用される。
【0034】
上記Tダイスを使用した押出成形法について、具体的に示せば、熱成形シート積層用フィルムを構成する樹脂組成物をTダイス法により溶融物を押し出し、温度調整可能なロールまたは温度調整可能な水槽により冷却し巻き取る方法、あるいは、該溶融物を空冷法または水冷法により冷却し巻き取る方法等を挙げることができる。また、多層のダイスを用いる場合、例えば、フィードブロック法やマルチマニホールド法による共押出法が好適に用いられる。
【0035】
本発明の熱成形シート積層用フィルムには用途に応じて表面処理を施すことができる。表面処理の方法は特に制限するものではないが一般的に印刷インキとの密着性を向上する目的でコロナ放電処理、火炎処理等を行っても構わない。また、表面処理を施す面も特に制限はなく、片面、両面のいずれでも構わない。
【0036】
本発明の熱成形シート積層用フィルムは、前記光沢層を表層として樹脂シートに積層して熱成形シートを構成する。
【0037】
上記樹脂シートは、熱成形に使用される公知のものが何ら制限なく使用される。例えば、ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンを主構成単位とした、プロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体が一般に使用される。具体的には、ポリプロピレン単独重合体、ポリプロピレン系ランダム共重合体、プロピレン系ブロック共重合体等が挙げられる。
【0038】
また、他の樹脂としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0039】
また、前記ポリプロピレン系シートの形態としては、上記ポリプロピレン系樹脂を単にシート状に成形したもの、ポリプロピレン系樹脂にフィラーを配合した組成物をシート状に成形したもの(フィラー含有シート)、ポリプロピレン系樹脂を発泡せしめてシート状に成形したもの(発泡シート)などである。
【0040】
更に、前記ポリプロピレン系シートの他の形態としては、無延伸シートや、一軸延伸シート、二軸延伸シート、圧延シート等が挙げられるが、その中でも、熱成形性を勘案すると無延伸シートが好ましい。
【0041】
更にまた、前記樹脂シートの厚みも特に制限されないが、熱成形性を勘案すると、0.2〜3mmが好ましい。
【0042】
本発明の熱成形シート積層用フィルムと前記樹脂シートとの積層は、樹脂シートの少なくとも片面に前記光沢層を表層となるように熱成形シート積層用フィルムが積層される。
【0043】
また、上記積層方法は、熱成形シート積層用フィルムの特性を著しく変化させない公知の方法が特に制限なく用いることができる。例えば、押出ラミネート法、熱ラミネート法、ドライラミネート法などの方法が使用できる。より具体的には、チルロール上にセットされた本発明の熱成形シート積層用フィルムに、樹脂シートを形成する樹脂を押出機よりラミネートする方法が推奨される。
【0044】
本発明の熱成形シート積層用フィルムは、前記ポリプロピレン系シート等の樹脂シートに積層して、弁当容器、トレー、丼容器等の食品容器、一般容器等の熱成形体を製造するための熱成形シートとして好適に使用できる。
【0045】
さらに、ポリプロピレン系熱成形シートを加熱後、真空成形、圧空成形、真空圧空成形等により、金型等の型枠内にて賦形した後冷却して得られたポリプロピレン系熱成形体をも包含する。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例及び比較例を掲げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例、及び、比較例において使用したフィルムの原料樹脂を表1に、使用した結晶核剤を表2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
また、実施例及び比較例において使用した、ポリプロピレン系シートを表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
実施例及び比較例における樹脂及びフィルム物性等の測定については、以下の方法により行った。
【0052】
(1)共重合組成
日本電子製のJNM−GSX−270(13C−核共鳴周波数67.8MHz)を用い、次の条件で測定した。
【0053】
測定モード:H−完全デカップリング
パルス幅:7.0マイクロ秒(C45度)
パルス繰返し時間:3秒
積算回数:10000回
溶媒:オルトジクロルベンゼン/重ベンゼンの混合溶媒(90/10容量%)
試料濃度:120mg/2.5ml溶媒
測定温度:120℃
メチル基領域のピークの帰属は、A.Zambelli et al [Macromolecules 13、267(1980)]に従って行った。
【0054】
(2)メルトマスフローレイト(MFR)
JIS K6758に準拠して、230℃でのMFRを測定した。
【0055】
(3)光沢(グロス)
JIS K7105に準拠して、60度鏡面法で測定した。
【0056】
尚、成形容器は試料の熱成形シートを(株)浅野研究所製コスミック成形機FK−0431−40にて、ヒーター温度300〜430℃、真空度70mmHg、圧空度3kg/cmで、容器(皿容器:縦195mm、横145mm、高さ28mm、丼容器:168mmφ、高さ50mm)を真空成形したもので評価した。
【0057】
また、成形後の光沢性について以下の3段階で評価した。
【0058】
○:グロス60%以上
△:グロス40%以上、60%未満
×:グロス40%未満
(4)示差走査熱量計によって測定される融点
約5〜6mgの試料を秤量後アルミパンに封入し、示差走査熱量計(セイコ電子製SSC/5200)にて、20ml/分で供給される窒素気流中で230℃まで昇温し、この温度で10分間保持し、次いで降温速度10℃/分でマイナス10℃まで冷却する。次いで、昇温速度10℃/分で210℃まで昇温する際に得られる吸熱曲線において最大吸熱を示すピーク温度を融点とした。
【0059】
(5)引張弾性率
フィルムから幅10mm、長さ100mmのサンプルを、製膜加工時のフィルムの流れ方向に切り出し、サンプルの両端を引張試験機(オートグラフ:島津製作所製)のチャックで固定した。この場合、サンプルの長さ方向のチャック間隙が20mmになるように調整した。引張速度20mm/minで引張試験を行い、引張応力−歪み曲線を作成した。
【0060】
引張弾性率は、引張応力−歪み曲線の初めの直線部を用いて次の式によって計算した。
【0061】
Em=Δδ/Δε
Em:引張弾性率
Δδ:直線上の2点間の、サンプルの元の平均断面積による応力の差
Δε:同じ2点間の歪みの差
(6)成形性
試料の熱成形シートについてフィルム貼り合わせ面を容器の内面とし、(株)浅野研究所製コスミック成形機FK−0431−40を用い、ヒーター温度300〜430℃、真空度70mmHg、圧空度3kg/cmにて、容器(皿容器:縦195mm、横145mm、高さ28mm、丼容器:168mmφ、高さ50mm)を真空成形した。
【0062】
成形を50回行い、成形品の割れ(フィルム割れ)を目視により判定し、不良率を計算した。
【0063】
不良率(%)=(成形品割れ個数/50)×100
(7)成形容器の耐熱性
上記(6)に記した成形機および金型を用いた成形品に水道水とサラダ油を各50ccずつ入れ、ラップフィルムでラッピング後、500Wの電子レンジに5分間熱処理後、フィルム積層面の外観を観察し以下の3段階評価した。
○:全く変化なし
△:部分的に皺が入った
×:フィルム溶融した
(8)白濁感
上記(6)に記した成形品の容器内面(フィルム積層面)についてスガ試験機(株)製カラーコンピューター型式SM−3を用いてハンター白色度「W(Lab)」値を測定した。
フィルムを積層する前のポリプロピレン系シートのハンター白色度の値と各フィルム積層後の成形容器のハンター白色度の値を比較し評価した。
フィルムを積層する前のポリプロピレン系シートのハンター白色度に比べ各フィルム積層後の成形容器のハンター白色度の値が大きいほど白濁感が増すことを意味し以下の3段階で評価した。
【0064】
○:フィルム積層後の成形容器のハンター白色度とフィルムを積層する前のポリプロピレン系シートのハンター白色度との差が2%未満
△:フィルム積層後の成形容器のハンター白色度とフィルムを積層する前のポリプロピレン系シートのハンター白色度との差が2%以上、5%未満
×:フィルム積層後の成形容器のハンター白色度とフィルムを積層する前のポリプロピレン系シートのハンター白色度との差が5%以上。
【0065】
実施例1
フィルム用原料樹脂として表1に示す樹脂A(エチレン含有量が3.4質量部、融点が146℃のプロピレン−エチレンランダム共重合体(日本ポリプロ社製FW3GT))100質量部に表2に示す核剤I(エチレン含有量が5.0質量部、融点が133℃のプロピレン−エチレンランダム共重合体100質量部に有機核剤としてソルビトール系結晶核剤が1.1質量部添加された有機結晶核剤MB(サンアロマー社製PF430V))を30質量部配合して有機結晶核剤の添加量を0.3質量部とした混合樹脂を押出機A(50mmφ押出機)、押出機B(75mmφ押出機)、押出機C(50mmφ押出機)にて260℃で加熱溶融しフィードブロック方式で共押出法にてダイリップ1.5mmのTダイスより押出し、30℃の冷却ロール上で冷却固化しながら押出機Aの層が6μm、押出機Bの層が18μm、押出機Cの層が6μmになる様調整し、計30μmのフィルムとし、押出機C層側表面に40mN/mになるようにコロナ放電処理を施した後、巻取り機にて巻取り熱成形シート積層用フィルムを得た。
【0066】
上記フィルムは全層に有機結晶核剤を添加した例である。
【0067】
該フィルムのコロナ放電処理を施した面の上に、タルクが33質量部添加されたポリプロピレン系シート(黒)厚み0.5mmを250℃で押出しながら40℃の冷却ロールで固化しポリプロピレン系熱成形シートを得た。
【0068】
得られた熱成形シートを真空成形し容器の光沢、白濁度(ハンター白色度)、耐熱性について評価しその結果を表5に示した。成形容器のグロスは皿容器で75%、丼容器で73%と表面光沢が良好なものであり、白濁感についてもフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が12%、成形後の容器12%と変化なく全く白濁感のない容器であった。
【0069】
実施例2〜3
押出機Aの層が5μm、押出機Bの層が10μm、押出機Cの層が5μmになる様調整し、計20μm(実施例2)へ、押出機Aの層が10μm、押出機Bの層が30μm、押出機Cの層が10μmになる様調整し、計50μm(実施例3)に変更すること以外は、実施例1と全く同様に製膜、ラミネート、熱成形、及び、評価を行った。結果を表5に示した。実施例2では、成形容器のグロスは皿容器で70%、丼容器で68%と表面光沢が良好なものであり、白濁感についてもフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が12%、成形後の容器12%と変化なく全く白濁感のない容器であった。実施例3では、成形容器のグロスは皿容器で80%、丼容器で78%と表面光沢が良好なものであり、白濁感についてもフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が12%、成形後の容器12%と変化なく全く白濁感のない容器であった。
【0070】
実施例4
実施例1の有機結晶核剤MBの配合量を5質量部として有機結晶核剤の添加量を0.1質量部とした以外は、全く同様に製膜、ラミネート、熱成形、及び、評価を行った。結果を表5に示した。成形容器のグロスは皿容器で62%、丼容器で60%と表面光沢が良好なものであり、白濁感についてもフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が12%、成形後の容器13%と変化が少なく白濁感のない容器であった。
【0071】
実施例5〜7
実施例1のフィルム用原料樹脂をそれぞれ表1に示す樹脂B、樹脂C、樹脂Dとした以外は、実施例1と全く同様に製膜、ラミネート、熱成形、及び、評価を行った。結果を表5に示した。実施例5では、成形容器のグロスは皿容器で74%、丼容器で71%、実施例6では皿容器で75%、丼容器で73%、実施例7では皿容器で75%、丼容器で72%、と表面光沢が良好なものであり、白濁感についてはいずれも、フィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が12%、成形後の容器12%と変化なく全く白濁感のない容器であった。
【0072】
実施例8
実施例1にて使用したフィルム用原料樹脂を押出機A(50mmφ押出機)、押出機B(75mmφ押出機)に、押出機C(50mmφ押出機)には、表−1に示す樹脂A100質量部を供給し260℃で加熱溶融しフィードブロック方式で共押出法にてダイリップ1.5mmのTダイスより押出し、30℃の冷却ロール上で冷却固化しながら押出機Aの層が8μm、押出機Bの層が10μm、押出機Cの層が12μmになる様調整し、計30μmのフィルムとした以外は実施例1と全く同様に製膜、ラミネート、熱成形、及び、評価を行った。
【0073】
上記フィルムは、押出機A、Bより押し出された18μmの厚みの光沢層と、有機結晶核剤を含まないポリプロピレン系ランダム共重合体より構成される層とにより構成される例である。
【0074】
結果を表5に示した。成形容器のグロスは皿容器で69%、丼容器で68%と表面光沢が良好なものであり、白濁感についてもフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が12%、成形後の容器12%と変化なく全く白濁感のない容器であった。
【0075】
実施例9
実施例8と全く同じ樹脂にて、押出機Aの層を8μm、押出機Bの層を17μm、押出機Cの層を12μmとし計30μmとし、製膜、ラミネート、熱成形、及び、評価を行った。
【0076】
上記フィルムは、押出機A、Bより押し出された25μmの厚みの光沢層と、有機結晶核剤を含まないポリプロピレン系ランダム共重合体より構成される層とにより構成される例である。
【0077】
結果を表5に示した。成形容器のグロスは皿容器で72%、丼容器で71%と表面光沢が良好なものであり、白濁感についてもフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が12%、成形後の容器12%と変化なく全く白濁感のない容器であった。
【0078】
実施例10
実施例8と全く同じ樹脂にて、押出機Aの層を10μm、押出機Bの層を30μm、押出機Cの層を10μmとし計50μmとし、製膜、ラミネート、熱成形、及び、評価を行った。
【0079】
上記フィルムは、押出機A、Bより押し出された40μmの厚みの光沢層と、有機結晶核剤を含まないポリプロピレン系ランダム共重合体より構成される層とにより構成される例である。
【0080】
結果を表5に示した。成形容器のグロスは皿容器で78%、丼容器で77%と表面光沢が良好なものであり、白濁感についてもフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が12%、成形後の容器12%と変化なく全く白濁感のない容器であった。
【0081】
実施例11
実施例1と全く同様にフィルムを製膜し、該フィルムのコロナ放電処理を施した面の上に、タルクが33質量部添加されたポリプロピレン系シート(朱赤)厚み0.4mmと押出しラミネート法にて貼り合わせポリプロピレン系熱成形シートを得た以外は実施例1と全く同様に熱成形、及び、評価を行った。
【0082】
結果を表5に示した。成形容器のグロスは皿容器で73%、丼容器で70%と表面光沢が良好なものであり、白濁感についてもフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が22%、成形後の容器22%と変化なく全く白濁感のない容器であった。
【0083】
比較例1
実施例1のフィルム原料樹脂にて有機結晶核剤を添加しないこと以外は実施例1と全く同様に製膜、ラミネート、熱成形、及び、評価を行った。
【0084】
結果を表5に示した。成形容器のグロスは皿容器で16%、丼容器で15%と表面光沢に劣るものであり、白濁感についてもフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が12%、成形後の容器15%と白濁感のある容器であった。
【0085】
比較例2
実施例1のフィルム原料樹脂にて有機結晶核剤の添加量を0.02質量部とした以外は実施例1と全く同様に製膜、ラミネート、熱成形、及び、評価を行った。
【0086】
結果を表5に示した。成形容器のグロスは皿容器で18%、丼容器で17%と表面光沢に劣るものであり、白濁感についてもフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が12%、成形後の容器15%と白濁感のある容器であった。
【0087】
比較例3
実施例1のフィルム原料樹脂にて結晶核剤として有機結晶核剤を添加せず、核剤II(平均粒径が4.6μmのタルク:日本タルク社製)を0.3質量部添加した以外は実施例1と全く同様に製膜、ラミネート、熱成形、及び、評価を行った。
【0088】
結果を表5に示した。成形容器のグロスは皿容器で20%、丼容器で19%と表面光沢に劣るものであり、白濁感についてもフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が12%、成形後の容器16%と白濁感のある容器であった。
【0089】
比較例4
フィルム原料樹脂として表1に示す樹脂E(融点が161℃のポリプロピレン単独重合体(住友化学社製FLX80G1))100質量部に核剤Iを30質量部配合して有機結晶核剤の添加量を0.3質量部とした以外は実施例1と全く同様に製膜、ラミネート、熱成形、及び、評価を行った。
【0090】
結果を表5に示した。成形容器のグロスは皿容器で58%、丼容器で58%とある程度表面光沢は良好であったが、白濁感についてはフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が12%、成形後の容器19%と白濁感のある容器であった。
【0091】
比較例5
フィルム原料樹脂として表1に示す樹脂E100質量部と樹脂F(ブテン−1含有量が7.0質量部で融点が122℃のポリエチレン系ランダム共重合体)20質量部をドライブレンドしたもの100質量部に核剤Iを30質量部配合して有機結晶核剤の添加量を0.3質量部とした以外は実施例1と全く同様に製膜、ラミネート、熱成形、及び、評価を行った。
【0092】
結果を表5に示した。成形容器のグロスは皿容器で56%、丼容器で56%とある程度表面光沢は良好であったが、白濁感についてはフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が12%、成形後の容器21%と白濁感のある容器であった。
【0093】
比較例6
フィルム用原料樹脂として表1に示す樹脂A100質量部に核剤Iを30質量部配合して有機結晶核剤の添加量を0.3質量部とした樹脂を、押出機A(50mmφ押出機)に供給し、樹脂A100質量部を押出機B(75mmφ押出機)、押出機C(50mmφ押出機)に供給して260℃で加熱溶融しフィードブロック方式で共押出法にてダイリップ1.5mmのTダイスより押出し、30℃の冷却ロール上で冷却固化しながら押出機Aの層が10μm、押出機Bの層が30μm、押出機Cの層が10μmになる様調整し、計50μmのフィルムとした以外は実施例1と全く同様に製膜、ラミネート、熱成形、及び、評価を行った。
【0094】
結果を表5に示した。成形容器のグロスは皿容器で30%、丼容器で29%と表面光沢に劣るものであった。
【0095】
比較例7
比較例4と全く同様にフィルムを製膜し、該フィルムのコロナ放電処理を施した面の上に、タルクが33質量部添加されたポリプロピレン系シート(朱赤)厚み0.4mmと押出しラミネート法にて貼り合わせポリプロピレン系熱成形シートを得た以外は実施例1と全く同様に熱成形、及び、評価を行った。
【0096】
結果を表5に示した。成形容器のグロスは皿容器で56%、丼容器で56%とある程度表面光沢は良好であったが、白濁感についてはフィルム貼り合わせ前のポリプロピレン系シートのハンター白色度が22%、成形後の容器29%と白濁感のある容器であった。
【0097】
以上の実施例及び比較例において得られた熱成形シート積層用フィルムの層構成を表4にまとめて示す。また、これらの実施例及び比較例の結果を表5にまとめて示す。
【0098】
【表4】

【0099】
【表5】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系ランダム共重合体100質量部及び有機結晶核剤0.03〜1質量部を含む樹脂組成物より構成される層が、15μm以上の厚みで表層に存在する無延伸ポリプロピレン系フィルムよりなることを特徴とする熱成形シート積層用フィルム。
【請求項2】
有機結晶核剤が、ソルビトール誘導体である、請求項1記載の熱成形シート積層用フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱成形シート積層用フィルムを、前記ポリプロピレン系ランダム共重合体100質量部及び有機結晶核剤0.03〜1質量部を含む樹脂組成物より構成される層を表層として樹脂シートの少なくとも一方の面に積層した、熱成形用シート。
【請求項4】
請求項3に記載の熱成形用シートを熱成形して得られた熱成形体。

【公開番号】特開2008−62524(P2008−62524A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243296(P2006−243296)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(596104050)サン・トックス株式会社 (16)
【Fターム(参考)】