説明

熱拡散器を用いた物理蒸着装置及び方法

【課題】熱拡散器を用いた物理蒸着装置及び方法を提供する。
【解決手段】物理蒸着装置は、側壁を有する真空チャンバと、真空チャンバの内側にあって、スパッタリングターゲットを含むように構成されたカソードと、カソードに電力を供給するように構成された高周波電力源と、真空チャンバの側壁の内側にあって、側壁と電気的に接続されたアノードと、真空チャンバの側壁の内側にあって、側壁から電気的に絶縁されていて、基板116を支持するように構成されたチャック110と、チャック上に支持された基板を加熱するヒータ601と、を含む。チャックは、チャック本体605と、チャック本体上に支持されていて、基板と接触するように構成された、黒鉛熱拡散器と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、主として、高周波(RF)スパッタリング物理蒸着法(PVD)に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波スパッタリング物理蒸着法は、基板上に薄膜を堆積させる一方法である。基板は、真空チャンバ内に、高周波電力源に接続されたターゲットに面して配置される。高周波電力が印加されると、プラズマが形成される。正ガスイオンが、ターゲット表面に引き寄せられてターゲットに衝突し、運動量移動によりターゲット原子をはじき飛ばす。はじき飛ばされたターゲット原子は、基板上に堆積して薄膜層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7,601,224号明細書
【特許文献2】特開2000−294547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
物理蒸着を行う間、堆積する薄膜の特性を制御することが重要である場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、物理蒸着装置は、側壁を有する真空チャンバと、真空チャンバの内側にあって、スパッタリングターゲットを含むように構成されたカソードと、カソードに電力を供給するように構成された高周波電力源と、真空チャンバの側壁の内側にあって、側壁と電気的に接続されたアノードと、真空チャンバの側壁の内側にあって、側壁から電気的に絶縁されていて、基板を支持するように構成されたチャックと、基板をチャックに保持するように構成されていて、導電性であるクランプと、基板をクランプから電気的に絶縁するように構成された絶縁体と、を含む。
【0006】
各実施態様は、以下の特徴のうちの一つ又は複数を含むことができる。絶縁体は、石英又はアルミナセラミックであってもよい。絶縁体は、環状であってもよい。絶縁体の厚さは、約1mm〜約2mmであってもよい。ターゲットは、誘電材料(例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT))であってもよい。インピーダンス整合回路が、チャックに電気的に接続されていてもよい。シールドが、チャンバの壁の内側に配置されていて、壁と電気的に接続されていてもよく、シールドとクランプとは、横方向に部分的に重なっていてもよい。クランプの導電部分を、シールドの近傍の空間から基板に向かって内側に延ばしてもよい。
【0007】
別の態様では、物理蒸着方法は、物理蒸着装置内のカソードに高周波信号を印加する工程を含み、この物理蒸着装置は、側壁を有する真空チャンバと、真空チャンバの内側にあって、スパッタリングターゲットを含む上記カソードと、真空チャンバの側壁の内側にあって、側壁と電気的に接続されたアノードと、真空チャンバの側壁の内側にあって、側壁から電気的に絶縁されていて、基板を支持するチャックと、基板をチャックに保持する、導電性であるクランプと、基板をクランプから電気的に絶縁するように構成された絶縁体と、を含む。スパッタリングターゲットから基板上に材料を堆積させて、ほぼ純粋な(111)結晶構造を有する膜を形成する。
【0008】
各実施態様は、以下の特徴のうちの一つ又は複数を含むことができる。チャックは、約650℃〜約750℃に加熱されてもよい。高周波信号の高周波電力の大きさは、約1000W〜約5000W(例えば約3000W)であってもよい。ターゲットは、誘電材料(例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT))であってもよい。膜の厚さは、約0.2μm〜約10μm(例えば約2μm〜約4μm)であってもよい。
【0009】
別の態様では、物理蒸着装置は、側壁を有する真空チャンバと、真空チャンバの内側にあって、スパッタリングターゲットを含むように構成されたカソードと、カソードに電力を供給するように構成された高周波電力源と、真空チャンバの側壁の内側にあって、側壁と電気的に接続されたアノードと、真空チャンバの側壁の内側にあって、側壁から電気的に絶縁されていて、基板を支持するように構成されたチャックと、チャック上に支持された基板を加熱するヒータと、を含む。チャックは、チャック本体と、チャック本体上に支持されていて、基板と接触するように構成された、黒鉛熱拡散器と、を含む。
【0010】
各実施態様は、以下の特徴のうちの一つ又は複数を含むことができる。チャック本体は、金属合金であってもよい。黒鉛熱拡散器は、黒鉛熱拡散器を貫通する複数のガス通路を有していてもよい。各通路は、黒鉛熱拡散器を貫通して垂直方向に延びていてもよい。各通路の直径は、約100μm〜約1000μm(例えば約500μm)であってもよい。複数の通路の間隔は、約10mm〜約15mmであってもよい。黒鉛熱拡散器の厚さは、約1mm〜約5mm(例えば約2mm)であってもよい。黒鉛熱拡散器の上面は、ほぼ平坦であってもよい。黒鉛熱拡散器は、基板の底面が黒鉛熱拡散器の上面とほぼ面一であるように構成されていてもよい。ターゲットは、誘電材料(例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT))であってもよい。インピーダンス整合回路が、チャックに電気的に接続されていてもよい。ヒータは、チャック本体に埋め込まれていてもよい。
【0011】
別の態様では、物理蒸着方法は、物理蒸着装置内の、スパッタリングターゲットを含むカソードに、高周波信号を印加する工程と、チャック上に基板を支持する工程と、基板を加熱しながらチャックと基板との間に位置する黒鉛熱拡散器に基板を接触させる工程と、スパッタリングターゲットから基板上に材料を堆積させる工程と、を含む。
【0012】
各実施態様は、以下の特徴のうちの一つ又は複数を含むことができる。基板全体の温度の変化の幅は、10℃未満であることができる。高周波信号の高周波電力の大きさは、約1000W〜約5000W(例えば約3000W)であってもよい。ターゲットは、誘電材料(例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT))であってもよい。膜の厚さは、約0.2μm〜約10μm(例えば約2μm〜約4μm)であってもよい。基板を加熱することは、チャックに埋め込まれたヒータで基板を加熱することを含んでいてもよい。ガスを、黒鉛熱拡散器内の複数の通路を通して流すことができる。ガスは、アルゴン又はヘリウムを含んでいてもよい。
【0013】
別の態様では、物理蒸着装置は、側壁を有する真空チャンバと、真空チャンバの内側にあって、スパッタリングターゲットを含むように構成されたカソードと、カソードに電力を供給するように構成された高周波電力源と、真空チャンバの側壁の内側にあって、側壁と電気的に接続されたアノードと、真空チャンバの側壁の内側にあって、側壁から電気的に絶縁されていて、基板を支持するように構成されたチャックと、基板をチャックに保持するように構成されていて、導電性であるクランプと、クランプに取り付けられていて、それぞれが基板と接触したときに縮まるように構成された、複数の導電性電極と、を含む。
【0014】
各実施態様は、以下の特徴のうちの一つ又は複数を含むことができる。各電極は、クランプと基板との間の電気的接点をもたらすことができる。ばねが、電極を基板に押し付けることができる。ばねは、電極であってもよい。各ばねは、板ばねであってもよい。各ばねは、クランプに取り付けられた第一の端部と、第二の端部とを有していてもよく、少なくとも一つのばねの第二の端部が、そのばねが縮められたときにクランプと接触するように構成されていてもよい。各ばねは、300℃〜600℃の温度範囲でばね定数がほぼ一定である金属合金であってもよく、例えば、各ばねは、inconel X750であってもよい。複数の電極は、クランプの周囲に、均等な角度間隔をおいて配置されていてもよい。電極の数は、10〜100個(例えば64個)であってもよい。ターゲットは、誘電材料(例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT))であってもよい。インピーダンス整合回路が、チャックに電気的に接続されていてもよい。
【0015】
別の態様では、物理蒸着方法は、物理蒸着装置内のチャック上に基板を配置する工程であって、物理蒸着装置は、側壁を有する真空チャンバと、真空チャンバの内側にあって、スパッタリングターゲットを含むカソードと、真空チャンバの側壁の内側にあって、側壁と電気的に接続されたアノードと、真空チャンバの側壁の内側にあって、側壁から電気的に絶縁されていて、基板を支持するチャックと、基板をチャックに保持する、導電性であるクランプと、クランプに取り付けられた複数の導電性電極と、を含み、基板は、チャック上に配置され、複数の電極のそれぞれと接触し、この接触により複数の電極のそれぞれが縮まる、工程と、カソードに高周波信号を印加する工程と、スパッタリングターゲットから基板上に材料を堆積させて、ほぼ純粋な(100)結晶構造を有する膜を形成する工程と、を含む。
【0016】
各実施態様は、以下の特徴のうちの一つ又は複数を含むことができる。電極は、ばねによって基板に押し付けられてもよい。ばねは電極であってもよい。各ばねは、クランプに取り付けられた第一の端部と、第二の端部とを有していてもよく、少なくとも一つのばねの第二の端部が、そのばねが縮められたときにクランプと接触してもよい。各ばねは、板ばねであってもよい。
【0017】
各ばねは0.5mm未満だけ縮んでもよい。チャックを、約670℃〜約690℃に加熱してもよい。高周波信号の高周波電力の大きさは、約1000W〜約5000W(例えば約3000W)であってもよい。ターゲットは、誘電材料(例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT))であってもよい。膜の厚さは、約0.2μm〜約10μm(例えば約2μm〜約4μm)であってもよい。
【0018】
物理蒸着装置の特定の態様は、以下の利点のうちの一つ又は複数を有することができる。
【0019】
黒鉛熱拡散器(特に、複数の通路が貫通している熱拡散器)が、加熱されたチャックとチャック上に支持された基板との間の熱移動を改善することができる。熱移動を改善することにより、基板全体にわたって温度変化を小さくすることができる。基板全体にわたって温度をより均一にすることにより、基板上に堆積した膜の物理特性をより均一にすることができる。
【0020】
絶縁体を用いて基板をクランプから電気的に絶縁することにより、クランプと基板との間の放電を低減するか無くすことができる。放電を低減するか無くすことにより、基板上に堆積した膜の物理特性をより均一にすることができる。更に、クランプと基板との間に絶縁体を用いることにより、ほぼ純粋な(111)結晶構造を有する(例えば、体積分率で約80%以上が(111)結晶構造を有する)膜を形成することができる。ほぼ純粋な(111)結晶構造は、有利な誘電特性及び圧電特性を有することができ、例えば、高いd33係数(例えば約400pm/V以上(例えば約500pm/V))、及び高い誘電降伏電圧(例えば約500kV/cm以上)を有することができる。
【0021】
クランプに取り付けられた複数の導電性ばねは、各ばねが基板と接触したときに縮まるように構成されていて、クランプと基板との間に複数の電気的接点をもたらすことができる。複数の電気的接点を有することにより、基板上の高周波電流分布をより均一にすることができ、結果として、より均一な膜を堆積させることができ、例えば、ほぼ純粋な(100)結晶構造を有する(例えば、体積分率で約80%以上が(100)結晶構造を有する)膜を堆積させることができる。ほぼ純粋な(100)結晶構造は、有利な誘電特性及び圧電特性を有することが可能であり、例えば1000〜1700の範囲の誘電率、高いd31係数(例えば約−200pm/V以上(例えば約−300pm/V))、及び高い降伏電圧(例えば約100kV/cm以上(例えば約200kV/cm))を有することができる。
【0022】
一つ又は複数の実施形態の詳細を、添付図面及び以下の説明において示す。他の特徴、態様、及び利点は、これらの説明、図面、及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】高周波位相調整器及び延長されたアノードを含む物理蒸着装置の一実施形態の概略断面図である。
【図1B】インピーダンス整合回路及び延長されたアノードを含む物理蒸着装置の一実施形態の概略断面図である。
【図1C】図1A及び図1Bの延長されたアノードの拡大図である。
【図2】物理蒸着装置で使用される延長されたアノードの斜視図である。
【図3A】高周波位相調整器及び延長されたシールドを含む物理蒸着装置の一実施形態の概略断面図である。
【図3B】インピーダンス整合回路及び延長されたシールドを含む物理蒸着装置の一実施形態の概略断面図である。
【図3C】図3A及び図3Bの延長されたシールドの拡大図である。
【図4】物理蒸着装置で使用される延長されたシールドの概略上面図である。
【図5】チャック及びカソードについての自己バイアス直流電圧とアルゴン流量との関係のグラフの一例である。
【図6】熱拡散器を含む、物理蒸着装置のチャックの概略断面図である。
【図7】物理蒸着装置で使用される熱拡散器の斜視図である。
【図8】チャックとクランプとの間に絶縁体を含む物理蒸着装置の概略断面図である。
【図9A】縮められていない複数のばねを有するばね機構をチャックとクランプとの間に含む物理蒸着装置の概略断面図である。
【図9B】縮められた複数のばねを有するばね機構をチャックとクランプとの間に含む物理蒸着装置の概略断面図である。
【図10】物理蒸着装置のばね機構の斜視図である。
【0024】
それぞれの図面における同様の参照符号は同様の要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
高周波物理蒸着法(スパッタリング)を用いて基板上に薄膜を形成する場合、基板の温度が不均一であることと、クランプから基板への高周波電流分布とにより、堆積する膜が不均一になる可能性がある。熱拡散器をチャックに付加することにより、基板の温度均一性を向上させることができる。チャックとクランプとの間に絶縁体又はばね機構を含めることにより、基板内の高周波電流分布をよりよく制御することができ、堆積した薄膜に欠陥を生じさせる可能性のある電流内のスパイクを低減することができる。
【0026】
図1Aに示すように、物理蒸着装置100は、真空チャンバ102を含むことができる。真空チャンバ102は、円筒形であって、側壁152、上面154、及び底面156を有することができる。マグネトロンアセンブリ118を、真空チャンバ102の上部に配置することができる。マグネトロンアセンブリ118は、複数の交番磁極を有する磁石のセットを含むことができる。マグネトロンアセンブリ118は、固定されていてもよいし、真空チャンバ102の半径に垂直な軸上で回転可能であってもよい。物理蒸着装置100は更に、高周波電力源104及び対応する負荷整合回路を含むことができ、負荷整合回路は、電力源104のインピーダンスを真空チャンバ102のインピーダンスと整合させることができる。
【0027】
カソードアセンブリ106を、真空チャンバ102の内部の、上面154の近くに格納することができる。カソードアセンブリ106は、金属製バッキングプレート(不図示)に接着されていてもよいターゲット126を含むことができる。ターゲット126は、一般に、外側エッジ160を有する円形であってよい。ターゲットは、例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT)のような誘電材料から作製できる。カソード106は、高周波電力源104から高周波電力が供給されると、高周波電流用電極として動作することができる。絶縁体リング150により、カソードアセンブリ106と真空チャンバ102とを電気的に絶縁することができる。
【0028】
一つ又は複数の基板を支持する基板支持部(チャック)110を、真空チャンバ102の内部の、真空チャンバ102の底面156の近くに(但し、間隔を空けて上方に)格納することができる。物理蒸着処理中に基板116が薄膜で覆われることができるようにクランプ122で基板116を保持するよう、クランプ122を構成することができる。基板116は、例えば微小電気機械システム(MEMS)ウエハであってもよい。クランプ122は、導電材料(例えばステンレス鋼)から形成できる。実施態様によっては、クランプ122は、シールド124の近くの空間から内側に延びることができる。クランプ122は、基板116と、縦方向に部分的に1〜10mm(例えば4mm)だけ重ねられてもよい。更に、クランプ122を、基板116に連続的に接するのではなく、互いに離れた複数(例えば10〜100個)の接点で基板116と接するように構成できる。クランプは、チャンバの側壁及びシールドから電気的に絶縁されることができ、例えば浮遊電位を有することができる。
【0029】
図1Aに示した一実施形態では、チャック110をグラウンドから電気的に絶縁する(即ち、浮かす)ことができ、チャック110に高周波電力源120を電気的に接続することができる(高周波電力源120は、グラウンドに接続できる)。高周波電力源120と高周波電力源104との間に、高周波位相調整器105を接続することができる。位相調整器105が動作するとき、高周波電力源104は、高周波電力源120にとっての位相基準として作用することができる。
【0030】
図1Bに示した別の実施形態では、チャック110をグラウンドから電気的に絶縁する(即ち、浮かす)ことができ、チャック110にインピーダンス整合回路107を電気的に接続することができる(インピーダンス整合回路107は、グラウンドに接続できる)。チャック110には、付加的な高周波電力源を接続しない。インピーダンス整合回路107は、入力端子109、可変同調キャパシタ111、インダクタ113、及びシャントキャパシタ115を含むことができる。入力端子109は、チャック110に電気的に接続されることができる。可変同調キャパシタ111は、グラウンドに電気的に接続されることができる。インダクタ113は、入力端子109と可変同調キャパシタ111との間に電気的に接続されることができる。シャントキャパシタ115は、入力端子109とグラウンドとの間に電気的に接続されることができ、インダクタ113及び可変同調キャパシタ111と並列であることができる。
【0031】
真空チャンバ102の内部には、アノード108を格納することもできる。アノード108は、高周波電流の戻り経路を提供するために、カソード106に対応する電極となることができる。実施態様によっては、アノード108とチャック110とが同一部品であってもよい。これに対し、他の実施形態では、ここで説明するように、アノード108がチャック110から電気的に絶縁されていることにより、チャック110がアノード108と異なる電位で浮いている(保持されている)ことができる。アノードは、接地されていてもよく、その限りにおいて(アノードがグラウンドに実際に接続される必要はなく)真空チャンバの側壁152に電気的に接続されていてもよい。その代わりに、側壁152が接地されることができる。
【0032】
図1A、図1B、図1C及び図2に示すように、アノード108は、環状体302を有することができ、環状体302から内側に突出している環状フランジ304により延長されることができる。環状フランジ304は、物理蒸着処理中にプラズマがその中に維持されることができる所定の放電空間128(図1A参照)を形成することができる。図1C及び図2に示すように、環状体302は、上側部分306と下側部分308とを含むことができる。上側部分306は、下側部分308に比べて、カソード106に近くてもよい。上側部分306と真空チャンバ102の上面154との間にプラズマが形成されることを防ぐために、これらの間に間隔148(図1A及び図1B参照)を構成することができる。
【0033】
図1Cに示すように、アノード108の上側部分306の上部320を、真空チャンバの上面154から縦方向に延ばすことができる(例えば円筒にすることができる)。上部320は、ターゲット126のエッジ160と平行に、エッジ160を囲むことができる。上側部分306の下部322を、上部320の下端の内面から内側に(例えば垂直に)延ばすことができる。下部322は、ほぼ横方向に内側に(例えば水平リングのように)延ばすことができる。リング322の内側半径を、ターゲット126の半径とほぼ同じにしてもよい。下部322の下面及び内側端から、下側部分308を延ばすことができる。下側部分308は、下部322から垂直に延ばすことができ、例えば、円筒のように、縦方向に延ばすことができる。この円筒の内壁の半径を、ターゲット126の半径とほぼ同じにすることができる。図示していないが、下部322の下面の外側端近くから下方に別の突起物を延ばして、シールド124の上側部分を配置するための間隙を形成することができる。
【0034】
環状フランジ304を、下側部分308から内側に突出させて、フランジの少なくとも一部がターゲット126の下方に延びるようにすることができる。図1Aに示すように、フランジ304のカソード106に近い方の半径がフランジ304のカソード106から遠い方の半径よりも大きくなるように、即ち、フランジが漏斗形であるように、フランジ304を環状体302から内側かつ下方に延ばすことができる。或いは、図3A及び図3Bに示すように、フランジ304を環状体302から横方向に延ばすこともできる。実施態様によっては、フランジ304は下側部分308の最下端から延びる。
【0035】
物理蒸着処理中に基板116上に実質的に影が生じないように、即ち、基板116の上面全体が薄膜で覆われることができるように、環状開口部310(図2参照)の半径をチャック110の半径とほぼ同じにすることができる。
【0036】
真空チャンバ102は、薄膜材料でコーティングされないように真空チャンバ102の側壁を保護する高周波シールド124を含むこともできる。シールド124は、例えば非磁性ステンレス鋼又はアルミニウムから作製することができ、真空チャンバ102の側壁152に接地することができる。
【0037】
実施態様によっては、図1A及び図1Bに示すように、シールド124は、縦方向に延びる(例えば円筒形状の)環状体402を含むことができる。横方向に延びるフランジ146を、環状体402の下端から内側に延ばすことができる。横方向に延びるフランジ146は、真空チャンバ102の底部の近くに配置されることができ、アノード108の下側部分308を囲んで縦方向に一部重なるように、フランジ304の先まで延ばすことができる。実施態様によっては、横方向に延びるフランジ146を、アノード108の下側部分308とクランプ122との間隙まで延ばすことができる。フランジ146は、クランプ122と横方向に一部重なることができる。
【0038】
基板116上に実質的に影が生じないように、シールド124の環状フランジ146の内側の環状開口部406(図4参照)の半径を、チャックの半径とほぼ同じにすることができる。所定の放電空間128からプロセスガスを排出できるようにするために、シールド124とアノード108との間に間隙132を設けることができる。
【0039】
実施態様によっては、図3A、図3B、図3C及び図4に示すように、同心環状突起群404を環状フランジ146から(例えばカソード106に向かって)突出させるように、シールドを延ばすことができる。環状突起群404は、環状体402と平行に延ばすことができる。図3A及び図3Bに示すように、環状突起群404の高さを、真空チャンバ102の中心から側壁152に向かう半径方向に沿って徐々に高くなるようにすることができる。環状体402は、環状突起群404より高くすることができる。
【0040】
物理蒸着装置100は更に、アノード108とシールド124とを直接接続する導電体130(例えばストラップ)を含むことができる。導電体130は、可撓性であってもよく、アノード108とシールド124との間をガスが流れるように構成されていてもよい。例えば、導電体130は、メッシュ又はワイヤストラップであってもよい。導電体130は、例えば銅又はアルミニウムから作製できる。
【0041】
アノード108とシールド124との間に、いくつかの接続を設けることができる。例えば、導電体130は、少なくとも4点においてアノード108及びシールド124に接続されていてもよい。導電体130は、アノード108の下面とシールド124の上部との間に接続されることができる。導電体130は、アノード108の上部とシールド124の外面との間に接続されていてもよい。
【0042】
物理蒸着装置100は更に、付加的なチャンバシールド134を含むことができる。チャンバシールド134は、例えば非磁性ステンレス鋼又はアルミニウムから作製できる。チャンバシールド134の上側部分は、アノード108と真空チャンバ102の側壁との間に配置されることができる。チャンバシールド134の下側部分は、真空チャンバ102の側壁とシールド124との間に配置されることができる。チャンバシールド134は、シールド124及び/又はアノード108と同心状にこれらを囲むことができる。チャンバシールド134の高さは、シールド124の高さ以上にすることができる。チャンバシールド134は、縦方向の環状体142と、環状体142から(例えば縦方向の環状体142の下端から)内側に延びる環状フランジ144と、を含むことができる。チャンバシールド134の環状フランジ144は、シールド124の環状フランジ146の下方に延びることができるが、半径方向の長さが環状フランジ146の半径方向の長さより短くてもよい。環状フランジ144は、チャック110に比べてチャンバの底部に近くてもよい。チャンバシールド134のフランジ144の内端と、クランプ122の外端とを、上下に合わせることができる。
【0043】
チャンバシールド134は、プロセスガスを真空チャンバ102に注入したり真空チャンバ102から排出したりできるように構成されることができる。例えば、チャンバシールド134がガス入口142又は排出口114を覆わないように、チャンバシールド134を十分に短くすることができる。或いは、チャンバシールド134の、ガス入口142及び排出口114の位置に対応する位置に、穴(不図示)を設けてもよい。更に、チャンバシールド134は、単独で取り外し可能であってもよく、容易な洗浄及び長期にわたる再利用ができる。
【0044】
チャンバシールド134は、導電体136により、シールド124と電気的に結合されることができる。導電体136は、導電体130と同様の材料及び形状であってもよい。したがって、導電体136は、シールド124とチャンバシールド134との間をガスが流れるように構成されていてもよい。同様に、導電体136は、メッシュで構成されていてもよく、一つ又は複数のストラップであってもよく、銅又はアルミニウムから成っていてもよい。更に、導電体136は、シールド124の底面とチャンバシールド134の内面との間に接続されていてもよい。
【0045】
物理蒸着装置100は更に、プロセスガス入口112、プロセスガス制御装置(不図示)、排出口114、圧力測定制御装置(不図示)、及び真空ポンプ(不図示)を含むことができる。
【0046】
スパッタリング又は物理蒸着処理中に、複数種のガス、例えばアルゴン及び酸素を、ガス入口112から、流量10〜200sccm/0.2〜4sccm、例えば10〜60sccm/0.5〜2sccmで供給する。真空ポンプ(不図示)が、基礎真空(例えば10−7Torr以下)と、プラズマ動作圧力(例えば0.5〜20mTorr、特に4mTorr)とを、排出口114を介して維持する。高周波電力源104から500W〜5000W程度(例えば2000W〜4000W、或いは3000W)の高周波電力がカソードアセンブリ106に供給されると、ターゲット126が負にバイアスされ、アノード108が正にバイアスされ、それによって、カソード104とアノード108との間の所定の放電空間128にプラズマが形成される。マグネトロンアセンブリ118は、カソード106の前面及びその近傍において、例えば50ガウス〜400ガウス(更に例えば200ガウス〜300ガウス)の磁界を発生させる。この磁界は、電子をターゲット126の前面に平行な螺旋運動に閉じ込める。
【0047】
ターゲット126の負の自己バイアス直流電圧と、磁界によりターゲット126の表面の近くに閉じ込められている電子とによって、プラズマの高エネルギー正イオンがターゲット126に衝突しやすくなる。運動量移動により、PZT分子などの中性ターゲット材料がターゲット126から抜けて、基板116上に堆積し、基板116上に薄膜を形成する。得られる薄膜の厚さは、0.2μm〜10μm、例えば2μm〜4μmである。
【0048】
図1A及び図3Aに示す実施形態では、高周波電力源120を基板116に適用することにより、基板に直流自己バイアスを発生させることができる。高周波電力源104及び/又は高周波電力源120によって印加される高周波信号の位相(例えば電流又は電圧の位相)を、高周波位相調整器105を用いて調整することができる。高周波位相調整器105は、各位相をロックして、位相差(例えば0°〜360°)が所望の直流自己バイアスを基板に発生させるようにすることができる。基板は、例えば−300V〜+300V、特に−100V〜+100Vの負、正、又はゼロのチャージを有することができる。一例として、基板の正の自己バイアスとガスの流れとの関係を、図5のグラフに示す。
【0049】
直流自己バイアスのチャージは、位相差に加えて、基板116に供給される高周波電力の量で制御することができる。例えば、50W未満(例えば2W未満)の小さい高周波電力をチャック110に供給し、位相を例えば190°〜240°(例えば220°)にロックすると、例えば時間平均で10V〜100V(例えば60V)の正の直流自己バイアスを基板116に発生させることができる。正電圧は、電子をプラズマから基板116の表面へと引き付けて加速させる。十分なエネルギーを有する電子が、スパッタされた材料の特性を変化させるが、電子の運動量は小さいので、実質的な再スパッタリングを起こすことはない。更に、正電圧により、プラズマイオンが基板116の表面に衝突することを防いで、表面のエッチングを避けることができる。逆に、例えば50W超の大きい高周波電力を基板に供給し、例えば位相を190°未満又は240°超(例えば180°未満又は270°超)にロックすると、負の直流自己バイアスを基板116に発生させることができる。負電圧は、プラズマイオンを基板へと引き付けて加速させることができ、基板の再スパッタリングを起こすことができる。再スパッタリングは、例えば、基板表面をエッチングするために、有益であることがある。チャンバ構成、ガスの組成並びに流量、圧力、磁界及び電圧などの所与の実施態様について、正又は負の自己バイアス電圧の生成に必要な位相調整量を得るために実験を要する場合がある。
【0050】
実施態様によっては、図6及び図7に示すように、チャック110は、チャックボディ605及びヒータ601を含んでいる。チャックボディは、例えば鋼鉄のような合金(例えばニッケルとの合金など)などの金属合金から作製できる。ヒータ601は、チャックボディ605に埋め込まれていてもよく、例えば抵抗ヒータであってもよい。他の実施態様では、ヒータは、チャックボディ605の外側にあってもよく、例えば赤外線ヒータであってもよく、或いはチャックボディ605に取り付けられた抵抗ヒータであってもよい。チャック110を保持する支持部の中を通る導線によって、ヒータを電源に接続することができる。ヒータは、基板116の温度を25℃〜800℃の規定温度に保つように構成されることができる。例えば、チャック110の温度は、例えば650℃〜700℃に保たれてもよい(これは、基板の実温度が500℃〜600℃になる温度である)。
【0051】
チャック110は更に、チャックボディ605に支持される熱拡散器603を含むことができる。熱拡散器603の上面、即ち、基板116を支持する面は、例えば表面粗さRAが約50μm未満であるように、ほぼ平坦かつ滑らかであってもよい。堆積処理中は、基板116を熱拡散器603の上面に載せることができる。したがって、基板116の底面は、熱拡散器603の上面と接することができる。熱拡散器の厚さは、例えば約1mm〜約5mm(例えば2mm)であってもよい。
【0052】
熱拡散器は、円盤状体であってもよく、ほぼ均質の材料から成っていてもよい。熱拡散器603は、高周波電力源又はインピーダンス整合回路との電気的接続ができるように、導電材料(例えば黒鉛)から作製されていてもよい。更に、例えば銅と比べて、黒鉛は熱変形に対する耐性がより高いので、黒鉛を熱拡散器603に使用することがより有利でありえる。
【0053】
熱拡散器603は、熱拡散器603を貫通する複数の通路607を有することができる。通路607は、上面に対して垂直に延びることができる。通路607の直径は、約100μm〜約1000μm(例えば約500μm)であってもよい。通路607は、熱拡散器603の全体に、例えば約10mm〜約15mmの間隔又はピッチで、均一に分散させることができる。したがって、熱拡散器603は、50個以上(例えば50〜200個)の通路を含むことができる。通路607は、例えば熱拡散器603を上下に貫通して延びることができる。実施態様によっては、通路607は、熱拡散器の本体に機械加工(例えばドリル加工)によって作ることができる。通路607は、ほぼ直線的かつ互いに平行であってもよい。しかしながら、実施態様によっては、熱拡散器は、貫通通路を全く有しない。
【0054】
実施態様によっては、通路607は、加工によらない黒鉛構造体で形成される。即ち、通路607は、熱拡散器内に作り込まれるのではなく、黒鉛構造自体の一部として形成される。このような通路は、直径1000μm未満でもよく直線的かつ互いに平行でなくてもよいが、ガスが中を流れられるように構成される。
【0055】
スパッタリング又は物理蒸着処理中は、基板116と熱拡散器603とができるだけ接触するように、基板116を熱拡散器603の上面に置くことができる。ヒータ601を駆動して、基板116を加熱することができる。伝熱流体(例えば、アルゴン又はヘリウム又はこれらの混合物などのガス)を、通路607から基板116に向けて流すことができる。このようなガスの流れによって、熱拡散器603の熱伝導性を向上させることができる。更に、黒鉛などの材料を熱拡散器603に使用することが有利でありえる。これは、黒鉛が、高い赤外線吸収能及び輻射能を有し、基板116の均一な加熱を可能にするためである。基板116を熱拡散器603の黒鉛に直接接触させると、熱拡散器603と基板116との間の熱移動がより良くなる。更に、熱拡散器603の上面は完全に平坦ではなく多少の表面粗さを有するので、伝熱ガスが熱拡散器603と基板116との間の空間に流れ込むことができる。結果として、チャック110の温度変化はとても大きい(例えば30℃前後)可能性があるものの、基板全体での温度変化を、通路がない熱拡散器603を使用した場合で約15℃〜約20℃、通路がある熱拡散器603を使用した場合で10℃未満(例えば6℃〜10℃)とすることができる。
【0056】
実施態様によっては、図8に示すように、基板116とクランプ122との間に絶縁体801を配置することができる。絶縁体801は、環状(例えばリング)であってもよい。絶縁体801は、例えば、石英、アルミナセラミック、又はフルオルフロゴパイトマイカ(例えばMacor(登録商標))であってもよく、少なくとも電気的に絶縁性であれば他の材料であってもよい。絶縁体801の厚さは、約1mm〜約2mmであってもよい。リングの場合、絶縁体リングの内側直径と外側直径との間の幅は、数mmから数cm(例えば25mm)であってもよい。
【0057】
導電性クランプ122と基板116との間で、電気的接触をなす接点の数が限られていると、結果として得られる膜に欠陥が生じる可能性がある。例えば、限られた数の接点しかない場合、高周波電流が基板においてこれらの接点に集中する可能性がある。集中した高周波電流は、膜を加熱して、焼損、厚みむら、及び粒子形成を膜内に起こす可能性がある。しかし、絶縁体801は、クランプ122を基板116から有効に隔離して、堆積された薄膜の特性に悪影響を及ぼしかねないクランプ122と基板116との間の放電を無くすことができる。
【0058】
更に、絶縁体801の使用は、ほぼ純粋な(111)結晶構造を有する膜を形成する上で有利でありえる。このような、ほぼ純粋な(111)結晶構造は、例えば、絶縁体801を配置して、物理蒸着処理中にチャックを約650℃〜約750℃に加熱することによって形成できる。ほぼ純粋な(111)結晶膜は、有利な誘電特性及び圧電特性(例えば、高いd33係数及び高い誘電降伏電圧)を有することができる。
【0059】
上述のように、基板と導電性クランプリングとの間の電気的接点の数がごく限られている場合、高周波電流が基板においてこれらの接点に集中する可能性がある。この効果は、クランプリングの底面が平坦に見える(例えば肉眼による目視検査で)場合でも起こりうる。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、これは、クランプリングが製造時に微小な機械加工公差又は表面粗さを有するために、導電性クランプリングが基板に置かれたときに、クランプリングと基板との物理的接触が、クランプリング上の凸部に対応する限られた数の場所のみでなされるためと考えられる。この問題に対処するために、実施態様によっては、複数の電極を個別に押圧して基板と接触させるように、機構を構成することができる。
【0060】
図9A、図9B及び図10では、多点電気的接触機構901がクランプ122と基板116との間に配置されている。多点電気的接触機構901は、例えば10〜100個の、複数の個別に上下方向に可動な導電性電極を有している。各電極は、クランプ122と電気的に接続されている。実施態様によっては、これらの電極は、基板をチャック110上に配置したときに電極が基板の外周近傍で基板の上面に接触するように、チャック110の外周近傍に配置される。各電極は、個別に、例えばばねによって、チャック110に向かって押圧される。複数のばねを、クランプ122の周囲に、均等な間隔で(即ち、均一な角度間隔で)配置することができる。
【0061】
実施態様によっては、電極はそれ自体がばねであり、多点電気的接触機構901をばね機構であると見なすことができる。ばね機構901は、クランプ122の周囲に間隔をおいて配置された導電性ばね903を有することができる。ばね機構901は、例えば10〜100個(例えば64個)のばねを含むことができる。ばねは、クランプ122の周囲に、均等な間隔で(即ち、均一な角度間隔で)配置することができる。ばね903は、300℃〜600℃の温度範囲でばね定数がほぼ一定である金属合金から作製できる。例えば、ばねは、ニッケルクロム合金(例えばInconel X750)であってもよい。
【0062】
各ばね903は、例えば板ばねであってもよい。各ばね903の第一の端部905を、クランプ122に取り付けることができる。図9Aに示すように、各ばね903は、第一の端部905から環状クランプ122の中心に向かって内側に延びることができる。更に、各ばね903は、ばねの端部(例えば内側端部)がチャックに近くなるように、クランプ122の面に対して、やや下向きに角度を付けることができる。
【0063】
更に、ばね機構901は、図9Aに示すように、チャック110上に基板が置かれていないときには、ばね903が完全に伸びていて各ばね903の留められていない端部907がクランプ122に接触しないように、構成できる。しかし、図9Bに示すように、チャック110上に基板116が置かれて、クランプ122が下げられて基板116に近づけられたときには、ばね903は、留められていない端部907を縮めてクランプ122に向かって動かすことができる。ばね機構901は、例えば、ばねの留められていない端部907をチャックに向かって上向きに曲げ戻すことにより、基板116をチャック上で保持したときに、ばね901の留められていない端部907のうちの少なくともいくつかが、クランプ122に接するのに十分な程度に縮むように、構成できる。各ばね903の上下方向に縮む長さは、0.5mm未満であってもよい。
【0064】
各ばね903は、クランプ122と基板116との間に電気的接続をもたらすことができる。基板116とクランプ122との間の電気的接触点を多くするほど、基板を流れる電流を基板のより大きい面積にわたって分散させることができ、電流の集中を低減させ、欠陥の可能性を低減させ、膜の均一性を向上させることができる。
【0065】
更に、ばね機構901の使用は、ほぼ純粋な(100)結晶構造を有する膜を形成する上で有利でありえる。このような、ほぼ純粋な(100)結晶構造は、例えば、ばね機構901を配置して、物理蒸着処理中にチャックを約670℃〜約690℃に加熱することによって形成できる。ほぼ純粋な(100)結晶膜は、有利な誘電特性及び圧電特性(例えば、1000〜1700の範囲の誘電率、高いd31係数及び高い降伏電圧)を有することができる。例えば、(100)結晶方位を有するPZT薄膜を、インク吐出装置用アクチュエータのようなMEMS装置に用いることができる。
【0066】
最後に、ばね機構901の使用は、基板116をチャック110上に密着させることに役立つので有利でありえる。即ち、クランプ122と基板116との間に複数の接点を設けることにより、基板116をチャック110にクランプする力を強くすることができる。このようにより強く密着させることにより、ガス(例えば、上述のように熱拡散器を通って循環するガス)がチャック110の側部から漏れないようにすることができる。
【0067】
上述の実施態様ではばねが電極としても働くが、ばねは、基板と接触するように電極を押圧する、電極とは別の部材であってもよい。
【0068】
いくつかの実施形態を説明してきた。しかしながら、説明された内容の趣旨及び範囲を逸脱することなく、様々な変更ができることが理解されるであろう。例えば、当然のことながら、位置及び方向に関する用語(例えば、上部、下部、縦、横など)が物理蒸着装置内での部材の相対的な位置及び方向を記述するために用いられているが、物理蒸着装置自体は、鉛直方向又は水平方向又は他の方向に保持することができる。したがって、他の実施形態も、以下の請求項の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側壁を有する真空チャンバと、
前記真空チャンバの内側にあって、スパッタリングターゲットを含むように構成されたカソードと、
前記カソードに電力を供給するように構成された高周波電力源と、
前記真空チャンバの前記側壁の内側にあって、前記側壁と電気的に接続されたアノードと、
前記真空チャンバの前記側壁の内側にあって、前記側壁から電気的に絶縁されていて、基板を支持するように構成されたチャックと、
前記チャック上に支持された基板を加熱するヒータと、を備え、
前記チャックは、
チャック本体と、
前記チャック本体上に支持されていて、前記基板と接触するように構成された、黒鉛熱拡散器と、を含む、
物理蒸着装置。
【請求項2】
前記チャック本体は金属合金を含む、請求項1に記載の物理蒸着装置。
【請求項3】
前記黒鉛熱拡散器は、前記黒鉛熱拡散器を貫通する複数のガス通路を有する、請求項1又は2に記載の物理蒸着装置。
【請求項4】
前記複数のガス通路のそれぞれは、前記黒鉛熱拡散器を貫通して垂直方向に延びている、請求項3に記載の物理蒸着装置。
【請求項5】
前記複数のガス通路のそれぞれの直径は約100μm〜約1000μmである、請求項3又は4に記載の物理蒸着装置。
【請求項6】
前記複数のガス通路のそれぞれの直径は約500μmである、請求項5に記載の物理蒸着装置。
【請求項7】
前記複数のガス通路の間隔は約10mm〜約15mmである、請求項3乃至6のいずれかに記載の物理蒸着装置。
【請求項8】
前記黒鉛熱拡散器の厚さは約1mm〜約5mmである、請求項1乃至7のいずれかに記載の物理蒸着装置。
【請求項9】
前記黒鉛熱拡散器の厚さは約2mmである、請求項8に記載の物理蒸着装置。
【請求項10】
前記黒鉛熱拡散器の上面はほぼ平坦である、請求項1乃至9のいずれかに記載の物理蒸着装置。
【請求項11】
前記黒鉛熱拡散器は、前記基板の底面が前記黒鉛熱拡散器の上面とほぼ面一となるように構成されている、請求項10に記載の物理蒸着装置。
【請求項12】
前記スパッタリングターゲットは誘電材料を含む、請求項1乃至11のいずれかに記載の物理蒸着装置。
【請求項13】
前記誘電材料はジルコン酸チタン酸鉛(PZT)を含む、請求項12に記載の物理蒸着装置。
【請求項14】
前記チャックと電気的に接続されたインピーダンス整合回路を更に備える、請求項1乃至13のいずれかに記載の物理蒸着装置。
【請求項15】
前記ヒータは前記チャック本体に埋め込まれている、請求項1乃至14のいずれかに記載の物理蒸着装置。
【請求項16】
物理蒸着装置内の、スパッタリングターゲットを含むカソードに、高周波信号を印加する工程と、
チャック上に基板を支持する工程と、
前記基板を加熱しながら前記チャックと前記基板との間に位置する黒鉛熱拡散器に前記基板を接触させる工程と、
前記スパッタリングターゲットから前記基板上に材料を堆積させる工程と、
を含む物理蒸着方法。
【請求項17】
前記基板全体の温度の変化の幅は10℃未満である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記高周波信号の高周波電力の大きさは約1000W〜約5000Wである、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記高周波電力の大きさは約3000Wである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記スパッタリングターゲットは誘電材料を含む、請求項16乃至19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記誘電材料はジルコン酸チタン酸鉛(PZT)を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記膜の厚さは約0.2μm〜約10μmである、請求項16乃至21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記厚さは約2μm〜約4μmである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記基板を加熱することは、前記チャックに埋め込まれたヒータで前記基板を加熱することを含む、請求項16乃至23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
ガスを前記黒鉛熱拡散器内の複数の通路を通して流す工程を更に含む、請求項16乃至24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記ガスはアルゴンを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ガスはヘリウムを含む、請求項25又は26に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−179119(P2011−179119A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38894(P2011−38894)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】