説明

熱改質木材の表面処理

【課題】
本発明は、熱改質木材を処理する方法と、この方法により処理された熱改質木材と、熱改質木材の保護剤としての樹脂の使用に関する。
【解決手段】
本発明では、液状樹脂ベースの保護剤を木材に加えてから、乾燥、及び/又は硬化させることにより、気候の影響から木材を保護するための透明保護表面を得る。その保護剤は、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラニンホルムアルデヒド樹脂又は尿素ホルムアルデヒド樹脂でよく、これらは水溶液として木材に塗布され、加熱により乾燥される。樹脂は木材の水分吸収を減少させ、木材のひび割れを防ぐ。特に、フェノールホルムアルデヒド樹脂は野外での木材灰色化も防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱改質木材を処理する方法に関するものであり、その方法の目的は、気候の影響から木材表面を保護するためである。また、本発明は、その方法に従って処理される熱改質木材と、気候の影響から熱改質木材を保護するための保護剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
木材の熱改質とは、100℃以上の温度にコントロールされた木材の熱処理を意味し、その処理により、木材の寸法安定性を向上させ、その平衡水分含量と水分不安定性を低下させる。熱改質の他の利点は、腐食に対する抵抗力が向上し、樹脂分泌を抑えることである。一方、熱改質木材は色が濃くなり、その曲げおよび割裂強度は弱くなる。これらの性質のため、熱改質木材は、特に野外での骨組みや家具に使用される。
【0003】
木材の熱改質の技術は、国際公開公報WO95/31680に記載されており、その主旨は、引き上げ工程の間、木材の外面とその内部の温度差をコントロールすることにより、木材にどんなひびが生じるのも防ぐということである。この公報によると、上記温度差は、10〜30℃の範囲であり、熱処理中はほぼ一定に保たれる。この公報によると、木材の冷却中も木材の内部と外面の温度差は10〜30℃にそれぞれコントロールされて保たれ、その場合、熱処理とは反対に、木材の内部に広がる温度が表面温度よりも高い。
【0004】
国際公開公報WO94/27102は、熱改質木材の改良された製造方法について述べており、その方法では、処理温度が150℃以上であり、その処理に水蒸気が使用される。処理中木材の重量が少なくとも3%減少する。
【0005】
さらに、国際公開公報WO01/53812は、木材の熱改質された一片の改質の度合いの認識方法について述べており、それは、その中に含まれるフリーラジカルの数を測定し、その得られた数を対応する処理のされていない木材と比較することによる方法である。この公報で提案されている熱改質の基準は、その木材の一片に含まれるフリーラジカルの数が、処理されていない木材と比較すると1.5倍、好ましくは2倍とされている。
【0006】
上記国際公開公報WO95/31680、WO94/27102、WO01/53812は、本明細書の一部として、この参照のために含まれる。以下の明細書では、”木材の熱改質”又は”熱改質木材”(サーモウッド)の概念は、上記三つの公報の少なくとも一つに述べられているように、当該木材が、木材の熱処理(熱改質)又は熱改質木材の基準を満たす場合に参照する。
【0007】
熱改質は、湿度のある野外では木材の平衡水分含量を減少させるが、木材が水又は湿度の高い地面に接触している場合は、大量の水分を吸収する。特に、長時間水に浸かると、熱改質にかかわらず木材は劣化し、木材が水に浸されることにより重量が大幅に増える。
【0008】
国際公開公報WO02/081159は、アルキルアミン誘導体を使用する熱改質木材の処理について述べており、その処理の目的は、微生物の分解に対して木材を守るためである。さらに、上記公報では、サーモウッドのより良い防水剤として、ワックス分散、オイル、シリコン誘導体を述べている。
【0009】
国際公開公報WO2005/009700は、熱改質木材の浸水を防ぐ方法を提案している。その方法とは、アルキルケテン二量体(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などのセルロースと反応する疎水性接着剤で木材を処理することに基づく。上記公報で述べられている処理によると、木材を、溶着剤を含む溶液に含浸させ、溶媒物質として使われたアセトンを蒸発させることにより乾燥させる。その木材の向上された疎水性は、1〜10秒接触している間に木材の表面についた水滴とその木材との間の角度を測定するドロップテストにより確認される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第1994/27102号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2001/53812号パンフレット
【特許文献3】国際公開第1995/31680号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2002/081159号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/009700号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
周知の熱改質木材のAKD又はASA溶着方法は、その溶着剤はアセトンのような有機溶媒の使用が必要であるという特徴がある。しかし有機溶媒は比較的高価であり、それらの有毒性、発火に対する過敏性は、業務上の危険のリスクとなる可能性がある。木材処理溶液としては、それらの代わりに水であるのが望ましい。
【0012】
さらに、AKDとASAは、低下した曲げおよび割裂強度を有する熱改質木材の特徴である木材のひび割れやすさを解消しない。
【0013】
また、熱改質木材のもう一つ問題点は、気候の影響により、元々こげ茶色である木材の色が、野外では徐々に灰色に変化することである。これは、熱改質木材を使用する典型的な対象であるガーデンファニチャーなどにとって大きな欠点である。灰色に変化する明らかな理由は、気候の影響にさらされる木材表面層のリグニンが分解され流れ出でるからである。木材が色を失うのを防ぐ唯一の効果的な方法は、色素を含むペンキを塗ることとされてきた。しかし、この場合、木目、筋、年輪を有する木材の自然の風合いが損なわれる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の方法により、上記の問題、特にソルベントを使用することと、木材のひび割れに関連する問題を解消することができ、木材は液状の樹脂をベースとした保護剤で処理されてから、乾燥、及び/又は、硬化され、それにより、その木材は熱硬化性プラスチックでできた透明保護表面を得ることができる。
【0015】
本発明では、熱硬化性プラスチックという言葉は架橋ポリマーを指し、熱を使用しなくても、外気の温度が、例えば室温でも、触媒の効果により、例えば加熱しないで、形成される。熱硬化性プラスチックと熱可塑性プラスチックとの決定的な違いは、熱硬化性プラスチックは架橋構造により硬化するため、熱によって軟化せず、後で成形することはできないことである。
【0016】
本発明と関連して使用される熱硬化性プラスチックは、特に、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂であり、それらは、熱改質木材に水性の溶液として塗布されるか含浸される。よって、サーモウッドの保護のために有機溶媒を使用することを避けることができる。塗布の後、蒸発、又は、例えば130〜160℃の温度の加熱により、溶媒としての役目である水が取り除かれ、必要な場合は、樹脂が硬化するために、溶液に触媒を含有させてもよい。その硬化過程で、紫外線照射を利用してもよい。
【0017】
その溶液の塗布又は含浸は、圧力を利用して行っても、しないで行ってもよく、前述の場合は、木材の溶液の含浸の深さは1〜2mmであり、一方、後述の場合は、さらに深く木材の全体に溶液を含浸することができる。溶液は、刷毛塗り、注入、スプレー塗り、浸し塗り、長時間浸すことによって、木材に加えることができる。木材に塗布される樹脂の量は、硬化して乾燥した状態から計算して、10〜400g/m、有利には10〜150g/m、好ましくは30〜100g/m、最も有利には50g/mである。熱改質木材上の熱硬化性プラスチックの強化、ひび割れ減少効果は、明らかに熱硬化性プレスチックの強い架橋結合の特性によるものであり、よって、この硬化した少々延性のある本質的に壊れないプラスチックは、保護フィルムで木材の繊維を覆うだけでなく、隣同士の繊維を一つの統合した構造として結合させる。
【0018】
本発明により、熱改質木材の灰色化する上記の問題は、熱硬化性プラスチック、特にフェノールホルムアルデヒド樹脂を木材の保護剤として使用することにより解決することができることが分かった。本発明によると、フェノールホルムアルデヒド樹脂で処理されたサーモウッドは、一年間を費やしたテストでは、対応する一定の間隔で交互に雨が降り日に照らされる野外の条件下で、その本来の茶色を保持し、一方、処理されていないサーモウッド又はAKD,ASAにより処理されたサーモウッドは、同様な条件で、著しく灰色に変化した。色がよく保持された理由の一つは、フェノールホルムアルデヒド樹脂の標準的な色は茶色であり、サーモウッドの自然な茶色とある程度一致するからである。他にも要因があると考えられるが、まだ判明していないため、推測以上に他の理由はない。
【発明の効果】
【0019】
本発明により上記の工程により製造された熱改質木材は、木材上に塗布された熱硬化性プラスチックが、気候の影響から木材を守る透明な保護表面を形成するという特徴がある。熱硬化性プラスチックは、木材の表面層にのみ塗布しても、木材全体に吸収させてもよい。この保護用熱硬化性プラスチックは、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂でよい。特に、フェノールホルムアルデヒド樹脂を使用した場合、その木材のさらなる典型的な特徴は、その本来の茶色が野外でも変わらず保持されるということである。
【0020】
本発明は、さらに、気候の影響から熱改質木材を守るための透明な保護表面としてのフェノール、メラミン、尿素ホルムアルデヒド樹脂などの熱硬化性プラスチックの使用に関する。熱硬化性プラスチックは、木材が水を吸収するのを減少させ、木材がひび割れするのを防ぐ。さらに、特にフェノールホルムアルデヒド樹脂は、野外でサーモウッドが灰色に変色するのを防ぐことが可能である。
【0021】
本発明の実用的応用としては、さらに、架橋性樹脂の使用であり、保護剤である架橋性樹脂を水溶液として熱改質木材に塗布し、その溶液はその後乾燥、硬化し、熱硬化性プラスチックの透明な保護表面とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】試片の重量の増加を示すグラフである。
【図2】試片の色の変化を示すグラフである。
【図3】試片における赤紫色から緑色のスケール上の色の変化を示すグラフである。
【図4】試片における青色から黄色のスケール上の色の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付の実施例を参照として、本発明のさらなる詳細を説明する。
【実施例1】
【0024】
「サーモウッド(ThermoWood)」という名称で販売されている業務用の熱改質木材を切って100mm×50mm×20mmの木片にし、木片の幅が20mmの側端をパラフィンろうで覆い、反対に、木目と平行な面である木片の100mm×50mmの面は、ワックスで覆わずにそのまま残した。処理溶液は、業務用フェノールホルムアルデヒド樹脂である「Prefere 72 6410M」(Dynea Finland Oy製)を水で1:1の体積比に希釈したものと、業務用メラミンホルムアルデヒド樹脂である「Prefere 70 0502L」(Dynea Finland Oy製)を水で2:1の体積比に希釈したものを用意した。二つの試片(MF)は、メラミンホルムアルデヒド樹脂溶液の中にさまざまな時間含浸され、二つの試片(PF)は、フェノールホルムアルデヒド樹脂溶液の中にさまざまな時間含浸された。含浸処理の後、この試片を130〜150℃の熱で水分を蒸発、硬化させて、乾燥させた。試片に含浸した樹脂の量は、ワックスで覆われていない試片の自由表面に比例して定義された。樹脂が含浸されない試片を、五番目の参考片とした。
【0025】
処理された試片の樹脂と参考片の吸水率は、試片を水中で自由に浮かせるというフローティングテストで観察された。試片は、1,2,3,4,7日間浮かせた後、重量が増加した。重量の結果は、以下の表1に表され、それぞれの試片が吸収した樹脂溶液の量も示されており、またその結果はグラフとして添付図1にも表され、それぞれの曲線は、時間の関数により、試片の重量の増加を%で表す。本発明によるメラミンとフェノールホルムアルデヒド樹脂により処理された試片(MF;PF)は処理されていない参考片よりも基本的に少ない水分を吸収したことが分かった。
【0026】
【表1】

【実施例2】
【0027】
実施例1と同じ業務用サーモウッドを切って木片にし、フェノールホルムアルデヒド樹脂の水溶液を噴霧して処理した後、130〜150℃の熱で乾燥、硬化させた。この採用された樹脂は、業務用フェノールホルムアルデヒド樹脂、「Prefere 70 7012L」と「Prefere 70 7530L」(Dynea Finland Oy製)であり、水で1:1の体積比に希釈し、二つのサーモウッドの試片を同じ樹脂で処理した。試片に噴霧中に吸収された樹脂溶液の量は80g/m(湿重量)である。二つの処理されない試片は参考片とした。
【0028】
試片の色の維持および変化はISO5631基準に従った模擬気候条件下でテストされた。試片は、気温が40℃であるQ Sun XE−3 Xenon試験室に置かれた。試験室の気候条件は、102分間の0.40w/mの出力である照明器具による模擬日光と18分間の注水からなる二時間周期を繰り返すことにより変化させた。テスト期間は35日間であり、その間に、試片の色の変化を表すCIELAB変数を得るために試片は測定された。これらの変数の中でL*C/2°UVは色の明るさを表し、a*C/2°UVはアニリンのピンク(赤紫色)から緑のスケール上の色の位置を表し、b*C/2°UVは青から黄色のスケール上の色の位置を表す。結果は、以下の表2〜4に表され、それらは添付図2〜4により図示され、それぞれの試片の曲線は、時間の関数による色のパラメーターの変化を表す。35日間のテストでは、本発明によりフェノールホルムアルデヒド樹脂により処理された試片は、樹脂で処理されていないサーモウッドの本来の色に近いその色の濃さと色合いを保持し、一方、処理されていない参考片は、強く色が褪せ、著しく色合いが変化した。
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱改質木材を処理する方法であり、その木材に液状樹脂をベースとする保護剤を加えてから、乾燥、及び/又は硬化させることにより、その木材が熱硬化性プラスチックでできた透明保護表面を得ることができることを特徴とする熱改質木材を処理する方法。
【請求項2】
前記木材に樹脂を水溶液として塗布又は含浸し、その後その水分を蒸発させることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
加熱により前記木材を乾燥させることを特徴とする請求項2の方法。
【請求項4】
前記溶液に樹脂硬化剤を添加することを特徴とする請求項2又は3の方法。
【請求項5】
前記木材に加えられた樹脂の量は、乾燥した状態から計算して、10〜400g/m、好ましくは10〜150g/m、さらに好ましくは30〜100g/mであることを特徴とする前記請求項の方法。
【請求項6】
前記木材は、野外でその木材の外観を本質的に変化させないフェノールホルムアルデヒド樹脂により保護されることを特徴とする前記請求項の方法。
【請求項7】
前記木材が、メラニンホルムアルデヒド樹脂または尿素ホルムアルデヒド樹脂により保護されることを特徴とする請求項1から5の方法。
【請求項8】
前記木材に、気候の影響から木材を保護するための透明保護表面を形成する熱硬化性プラスチックが加えられることを特徴とする前記請求項の熱改質木材。
【請求項9】
前記保護表面は、野外で木材の外観を本質的に変化させないフェノールホルムアルデヒド樹脂でできていることを特徴とする請求項8の熱改質木材。
【請求項10】
前記保護表面は、メラニンホルムアルデヒド樹脂または尿素ホルムアルデヒド樹脂でできていることを特徴とする請求項8の熱改質木材。
【請求項11】
気候の影響から熱改質木材を守るための透明保護表面としての、熱硬化性プラスチックの使用。
【請求項12】
前記木材の水分吸収を減少させる保護表面としての、請求項11の熱硬化性プラスチックの使用。
【請求項13】
野外での木材の灰色化を防ぐ前記透明保護表面としての、請求項11又は12のフェノールホルムアルデヒド樹脂の使用。
【請求項14】
木材の透明保護表面としての、請求項11又は12のメラニンホルムアルデヒド樹脂又は尿素ホルムアルデヒド樹脂の使用。
【請求項15】
保護剤である架橋性樹脂を熱改質木材に水溶液として塗布し、乾燥させ硬化させることにより熱硬化性プラスチックの透明保護表面を形成する、架橋性樹脂の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−530324(P2010−530324A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512728(P2010−512728)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050375
【国際公開番号】WO2008/155466
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509348904)
【氏名又は名称原語表記】STORA ENSO OYJ
【住所又は居所原語表記】P.O.Box 309, FI−00101 Helsinki Finland
【Fターム(参考)】