説明

熱機関の排ガス浄化装置,排ガス浄化方法及びCO,NOx浄化触媒

【課題】
酸素過剰雰囲気の排ガス中のCO,NOxを高いCO,NOx浄化性能で浄化する熱機関の排ガス浄化装置,排ガス浄化方法及びそれに用いるCO,NOx浄化触媒を提供する。
【解決手段】
化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気の排ガスを排出する熱機関の排ガス流路に、COを酸化して浄化するCO浄化触媒、または更にCOを還元剤として、排ガス中のNOxを還元する機能を付与したCO,NOx浄化触媒を備えた排ガス浄化装置を配置する。CO浄化触媒はNbを含む触媒活性成分を有し、更にIrを添加することでNOx浄化機能を付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱機関から排出される酸素過剰雰囲気の排ガス中のCO,窒素酸化物(NOx)を浄化する熱機関の排ガス浄化装置,排ガス浄化方法及びそれに用いるCO,NOx浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空燃比(ガス中の空気と燃料との比)を燃料希薄とするリーンバーンエンジンやディーゼルエンジン、あるいはガスタービンや化学プラント等のように酸素過剰の雰囲気下で運転する熱機関の増加にともない、過剰酸素下で一酸化炭素(CO)と窒素酸化物(NOx)を浄化する方法が要求されている。
【0003】
排ガス中のCOを浄化する方法としては、Ptを活性成分とする触媒を用いて酸化浄化する方法が考えられるが、排ガス中にSOxが存在すると、PtがS分による被毒を受けてしまい、CO酸化活性が低下するという不具合が生じる。
【0004】
更に過剰酸素下でもNOxを浄化する方法としては、アンモニアを還元剤として酸化チタン系触媒上でNOxを選択的に接触還元する方法が提案されており、ボイラーやガスタービンの排ガス浄化に適用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、アンモニアは刺激臭を有するため安全性に問題があり、更にアンモニア自体のコストもかかる。
【0006】
そこで、排ガス中に元々含有している水素,一酸化炭素(CO),炭化水素(HC)等の還元剤を用いてNOxを還元して浄化する方法が提案されている。
【0007】
例えば特許文献2には、金属酸化物からなる多孔質の担体に、ロジウム(Rh)及び銀を担持したNOx浄化触媒を用いてNOxを還元して浄化する方法が記載されており、過剰の酸素を含有する排ガス中の炭化水素,CO及びNOxを同時に除去することが記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、排ガス中の炭化水素を不完全燃焼させることで、酸素を含有する排ガス中のNOxの還元効率が高まることが記載されている。
【0009】
特許文献4には、NOx吸蔵触媒を用いて、空燃比がリーンの時には排ガス中のNOxを一旦酸化して触媒に捕捉させて、一定量のNOxが捕捉された場合に、空燃比をストイキもしくはリッチに切り替えて、捕捉されたNOxを浄化する技術が記載されている。
【0010】
さらに、特許文献5には、NOx吸蔵触媒の前段に水素生成触媒を設置する浄化装置が記載されている。特許文献5には、貴金属を含有する水素生成触媒を用いることで、水蒸気改質反応が進行し、活性が向上することが記載されている。
【0011】
しかしながら、特許文献2および3には、炭化水素,CO、あるいは不完全燃焼時の生成物を用いてNOxを還元して浄化することが記載されているが、NOxに対する浄化効率が十分ではない。さらに、炭化水素が排ガス中に存在しなければNOxを効率よく浄化できない。また、特許文献4に開示された技術によれば、NOxの還元効率は高まるが、空燃比をリッチにする必要があり、エンジンの制御が不可欠であることからボイラー等のプラントには適用しにくい。さらに、リッチ時に燃料が多く消費されるため燃費の悪化につながる。特許文献5に開示された技術においても、水蒸気改質反応を生じさせるためには空燃比をリッチにすることが必要であり、特許文献4と同様の不具合が生じる。特許文献2乃至5には、上記の不具合に対処する方法は記載されていない。
【0012】
【特許文献1】特公昭52−22839号公報
【特許文献2】特開平8−998号公報
【特許文献3】特開平6−319953号公報
【特許文献4】特開平11−319564号公報
【特許文献5】特開2003−10646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、酸素過剰雰囲気の排ガス中のCO,NOxを高い浄化性能で浄化する熱機関の排ガス浄化装置,排ガス浄化方法及びそれに用いるCO,NOx浄化触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明の熱機関の排ガス浄化装置は、COを含有し、化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気の排ガスを排出する熱機関の排ガス流路に配置され、COを酸化して浄化するCO浄化触媒を備えた熱機関の排ガス浄化装置であって、前記CO浄化触媒が、多孔質担体と、前記多孔質担体上に担持された触媒活性成分とを有し、前記触媒活性成分がNbを含むことを特徴としている。
【0015】
Nbは、CO酸化能が高く、更に硫酸塩を形成しづらいため、排ガス中にSOxが含有されていてもS分によるCO酸化の低下が小さい。
【0016】
排ガス中にCOに加えてNOxが含有されている場合、活性成分としてNbに加えて、Irを添加することで、上記CO浄化触媒に対し、COを還元剤として上記排ガス中の窒素酸化物(NOx)を還元して浄化する機能を付与することができる。この触媒はCO及びNOxの浄化率がともに高く、排ガス中のCO及びNOxに対し、効果的に浄化を行うことができる。
【0017】
なお、本発明において、化学量論量とは、排ガス中に含まれるO2及びCOが互いに過不足無く反応する場合の、O2及びCOの量を意味する。
【0018】
排ガス中にO2,CO及びNOが含有されている場合に、これら3種のガスにおける反応として下記(1)(2)式が考えられる。
【0019】
2NO+2CO→2CO2+N2 …(1)
2CO+O2→2CO2 …(2)
【0020】
例えば、排ガス中にCOが1000ppm存在する場合、O2が500ppm以下であれば、(1)式よりも(2)式が優先して進行してもCOは残留し、(1)式の反応が生じやすくなる可能性がある。
【0021】
一方、化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気とは、(2)式が優先して進行した場合、COが全て酸化されうる酸素量であることを意味する。すなわち、排ガス中にCOが1000ppm存在する場合では、O2が500ppmよりも多い場合を意味する。この場合、(2)式が優先して進行するとCOが全て酸化されてしまい、(1)式の反応が進まない。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、過剰な酸素雰囲気で運転される熱機関からの排ガスに含まれるCO,NOxを効率よく浄化することができ、熱機関のCO,NOx排出量を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
一般に、ボイラー等から排出される排ガスは、化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気であることが多い。ボイラーからの排ガスには、NOx以外にCOが含まれている。
【0025】
COを酸化除去する活性成分としてはPt等の貴金属が考えられる。しかし、排ガス中にSOxが含有されていると、使用するPt等がS分により被毒を受けてCO酸化活性が低下してしまう。一方、NOxの浄化に関しては下記の(3)式の還元反応が進めばNOxは還元されて浄化される。しかし、酸素雰囲気であることから、多くの場合、COの燃焼反応が優先して進んでしまい、(3)式の反応は進行しにくい。
【0026】
NOx+CO→N2,CO2 …(3)
【0027】
本発明者らは、鋭意検討した結果、多孔質担体と、上記多孔質担体上に担持された触媒活性成分としてNbとを含むCO浄化触媒を使用するとCOが効果的に浄化され、排ガス中にSOxが含有されていても活性の低下が小さいことを明らかにした。
【0028】
更に、触媒活性成分としてNbに加えて、Irを添加することで、(3)式の反応が進み、上記CO浄化触媒に対し、COを還元剤として上記排ガス中の窒素酸化物(NOx)を還元して浄化する機能を付与することができ、このCO,NOx浄化触媒を使用すると排ガス中のCO及びNOxが効果的に浄化できることを見出した。
【0029】
多孔質担体としては、Siを含む金属酸化物が好ましく、SiO2以外に、SiO2−Al23,シリカライト,ゼオライト等が考えられる。Siを含む金属酸化物を用いることで耐SOx性能が高まる。また、耐SOx性能を有する担体としてTiO2も考えられるが、TiO2を使用するとNOx浄化性能が低下しやすい。Irの状態が変化するためと考えられる。
【0030】
多孔質担体は、基材上に担持させてもよい。この場合には、NOx浄化性能を向上させる上で、多孔質担体の担持量は、基材1Lに対して50g以上400g以下であることが好ましい。多孔質担体の担持量が50g未満であると、多孔質担体の効果は不十分となり、一方、400gを超えると、多孔質担体自体の比表面積が低下し、基材がハニカム形状の場合に目詰まりが生じやすい。
【0031】
触媒活性成分のNbの担持量は、好ましくは、多孔質担体2mol部に対して元素換算で0.00005mol部以上1.0mol部以下であり、より好ましくは、0.0003mol部以上0.3mol部以下である。Nbの担持量が0.00005mol部未満であると、担持効果は不十分となり、一方、1.0mol部を越えると、触媒自体の比表面積が低下して活性低下につながりやすくなる。ここで、mol部とは、各成分のmol数換算での含有比率を意味する。例えば、A成分2mol部に対してB成分の担持量が1mol部とは、A成分の絶対量の多少に関わらず、mol数換算でA成分が2に対し、B成分が1の割合で担持されていることを意味する。
【0032】
触媒活性成分のIrの担持量は、好ましくは、多孔質担体2mol部に対して元素換算で0.00005mol部以上1.0mol部以下であり、より好ましくは、0.0003mol部以上0.3mol部以下である。Irの担持量が0.00005mol部未満であると、担持効果は不十分となり、一方、1.0mol部を越えると、触媒自体の比表面積が低下し、さらに触媒コストが高くなる。ここで、mol部とは、各成分のmol数換算での含有比率を意味する。例えば、A成分2mol部に対してB成分の担持量が1mol部とは、A成分の絶対量の多少に関わらず、mol数換算でA成分が2に対し、B成分が1の割合で担持されていることを意味する。
【0033】
触媒活性成分のIrの担持量は、好ましくは、多孔質担体2mol部に対して元素換算で0.0005mol部以上0.5mol部以下であり、より好ましくは、0.001mol部以上0.4mol部以下である。Irの担持量が0.0005mol部未満であると、担持効果は不十分となり、一方、0.5mol部を越えると、触媒自体の比表面積が低下し、さらに触媒コストが高くなる。
【0034】
CO,NOx浄化触媒の調製方法としては、例えば、含浸法,混練法,共沈法,ゾルゲル法,イオン交換法,蒸着法等の物理的調製方法や化学反応を利用した調製方法等などを用いることができる。なかでも、化学反応を利用した調製方法を用いることで、触媒活性成分の原料と多孔質担体との接触が強固になり、触媒活性成分のシンタリング等を防止できる。
【0035】
CO,NOx浄化触媒の出発原料としては、硝酸化合物,酢酸化合物,錯体化合物,水酸化物,炭酸化合物,有機化合物などの種々の化合物,金属,金属酸化物を用いることができる。触媒活性成分のNbに関しては、例えばNb25ゾルやアルコキシドを出発原料として用いることができる。触媒活性成分としてNbとIrを併用するCO,NOx浄化触媒を調製する場合には、触媒活性成分としてNbを担持した後、この触媒を硝酸Ir溶液等に含浸して、乾燥,焼成することにより得られる。またはIrとNbが同一の溶液中に存在するような含浸液を用いて共含浸法にて調製することも好ましい。
【0036】
CO,NOx浄化触媒の形状としては、用途に応じて適宜調整でき、例えば、コージェライト,SiC,ステンレス等の各種材料からなるハニカム構造体に、本発明のNOx浄化触媒をコーティングして得られるハニカム形状をはじめ、ペレット状,板状,粒状,粉末状などが挙げられる。ハニカム形状の場合、その基材はコ−ジェライトが最適であるが、触媒温度が高まる恐れがある場合には、触媒活性成分と反応しにくい基材、例えばFeを主成分とするメタルハニカム等の基材を用いることが好ましい。また、多孔質担体と触媒活性成分のみでハニカムを形成してもよい。
【0037】
Nb,Irを触媒活性成分として用いた触媒の場合、排ガス中にSOxが含有されている方がNOx浄化性能が高い場合がある。そこで、排ガス中にSOxが存在しない場合、CO,NOx浄化触媒に接触する排ガス中に含まれるSOx量を調整するSOx量調整手段を、CO,NOx浄化触媒の前段に配置することが好ましい。SOx量調整手段は、排ガス流路にSOxを注入してSOx量を調整するものであり、例えばSOxガスや硫酸を添加することで可能となる。CO,NOx浄化触媒に接触するSOx量としては1ppm以上30ppm以下であることが好ましい。1ppm以下だとSOxの効果が現れず、30ppm以上だとSOxが触媒を被毒するようになりNOx浄化率が低下する。NbはS分による被毒を受けにくいため、SOxが排ガス中に存在してもNbによるCO浄化効果は維持される。
【0038】
このように排ガス中に存在するSOx量を制御することで、COを還元剤としたNOxの還元反応が進行しやくなる。
【0039】
CO,NOx浄化触媒に流入するCOの量が、排ガス中のNOxを全て浄化しうる量に満たない場合がある。その場合には、CO,NOx浄化触媒に接触する排ガス中に含まれるCO量を調整するCO量調整手段を、CO,NOx浄化触媒の前段に配置することが好ましい。CO量調整手段は、排ガス流路にCOを注入してCO量を調整するものであり、例えばCOガスを添加することで可能となる。このCO量調整手段で、排ガス流路にCOを注入して、CO,NOx浄化触媒に接触するCOの量を増加させる。
【0040】
CO,NOx浄化触媒のCO酸化率が高い場合には、CO,NOx浄化触媒層の入口付近でCOが消費されてしまい、CO,NOx浄化触媒の全体にCOが行き渡らず、NOx浄化反応が効率よく生じない恐れがある。この場合には、排ガス流路に沿って、複数個のNOx浄化触媒を設置し、さらに、CO,NOx浄化触媒とCO,NOx浄化触媒との間の排ガス流路にCO量調整手段を配置することが好ましい。
【0041】
CO,NOx浄化触媒に流入するCOの量は、該触媒に接触するNOxの量に対してモル比で3倍以上になるように、上述したCO量調整手段をNOx浄化触媒の前段に配置することが好ましい。CO,NOx浄化触媒のCO酸化率が高い場合、CO,NOx浄化触媒層の入口付近でCOの一部が消費されてしまい、CO,NOx浄化触媒全体にCOが行き渡らない。この場合、CO量調整手段でCO,NOx浄化触媒に接触するCO量を調整することで、NOx浄化反応を促進することができる。
【0042】
なお、NOx量に対するCO量の調整は、熱機関の燃焼状態を調整して行ってもよい。
【0043】
CO,NOx浄化触媒に流入するCOの量が、排ガス中のNOxを全て浄化しうる量に満たない場合には、CO,NOx浄化触媒の前段または後段に、NH3を還元剤としてNOxを還元する触媒、すなわちNH3脱硝触媒を配置してもよい。この場合、NH3脱硝触媒の前段に、NH3タンクやNH3注入口を備えたNH3供給手段を配置して、該触媒に還元剤としてNH3を供給する。これにより、NOxがNH3脱硝触媒で還元されて浄化される。NH3脱硝触媒としては、例えば、酸化チタン(TiO2)あるいはゼオライトを担体とし、活性成分としてバナジウム(V),鉄(Fe),モリブデン(Mo)等を含むものを用いることができる。
【0044】
このNH3脱硝触媒を本発明のCO,NOx浄化触媒と混合して一体化し、還元剤としてCO,NH3を流入させてNOxを浄化することもできる。この場合、触媒の設置に要するスペースを少なくできる。
【0045】
本発明は、化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気の排ガスを排出する熱機関に好適に用いることができる。本発明は、化学量論量と同等もしくはそれ以下の酸素雰囲気(リッチガス)の排ガスを排出する熱機関にも使用可能であるが、その場合には、熱機関もしくは排ガス流路に添加される燃料が多くなり、コストの増加を招きやすい。このため、特に、空燃比をリッチにする必要がなければ、熱機関の燃焼状態を調整して、CO,NOx浄化触媒に流入する排ガスの空燃比を間欠的にストイキ〜リッチ状態に切り替えずに、常にリーン状態に保つことことが好ましい。
【0046】
CO,NOx浄化触媒に流入するCOの量が、排ガス中のNOxを全て浄化しうる量に満たない場合には、熱機関の燃焼状態を調整することで、NOx浄化触媒に流入するCO量,NOx量を調整してもよい。この場合には、排ガス流路にCOを注入してCO量を調整するCO量調整手段が不要になる。
【0047】
CO,NOx浄化触媒の後段にCO,NOxセンサーを設けてもよい。CO,NOxセンサーは、CO,NOx浄化触媒の後段に含まれるCO,NOx量、すなわちCO,NOx浄化触媒で浄化されずに残存するCO,NOx量を計測するものである。CO,NOxセンサーによるCO,NOx量の計測結果に応じて、CO,NOx浄化触媒に流入するCO量を調整する。CO,NOxセンサーで計測した結果、CO,NOx浄化触媒の後段にNOxが多く残存し、COが殆ど残存していない場合には、CO,NOx浄化触媒の前段に、上述したCO量調整手段を配置して、CO,NOx浄化触媒の前段の排気流路にCOを注入してCO,NOx浄化触媒に流入するCO量が増えるように調整する。一方、CO,NOxセンサーで計測した結果、CO,NOx浄化触媒の後段にNOxが計測できないほど微量であった場合には、CO量調整手段で注入するCO量を低減すればよい。なお、CO量調整手段以外に、熱機関の燃焼状態を調整して、CO,NOx浄化触媒に流入するCO量を調整することもできる。このようにCO,NOxセンサーでCO,NOx浄化触媒の後段のNOx量を計測することで、高いCO,NOx浄化活性を維持することができ、大気へのCOの流出を低減でき、浄化されずに残存するCO,NOx量を低減するための最適なCOの添加量を決めることができる。
【0048】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0049】
(CO浄化触媒の調製法)
市販のSiO2粉末(富士シリシア,CARiActG−3)に対し、市販のNb25ゾル(多木化学製)溶液を含浸した後、120℃で乾燥、続いて600℃で1h焼成した。Nbの添加量はアルミナ2molに対し金属元素換算で、0.1molとした。さらに、Nb25ゾルの代わりに、硝酸Co,硝酸Ni,硝酸Mnを水に溶解させて調製した水溶液を用いたこと以外は実施例触媒1と同じ方法で、比較例触媒1〜3を得た。表1に調製した触媒一覧を示す。
【0050】
【表1】

【0051】
(触媒性能評価方法)
触媒の性能を評価するため、次の条件でCO浄化性能試験を行った。
【0052】
容量4c.c.の粒状触媒(直径0.75mm〜1.5mm)を石英ガラス製反応管中に固定した。この反応管を電気炉中に導入し、反応管に導入されるガス温度が350℃となるように加熱制御した。反応管に導入されるガスは、化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気を有する排ガスを模擬するモデルガスとした。モデルガスの組成は、NOx:150ppm,CO:1500ppm,O2:3%,H2O:3%,N2:残部とした。体積空間速度(F/V)は30,000/hとした。
【0053】
触媒のCO浄化性能は、次式に示す計算式によりCO浄化率を求めることで判定した。
【0054】
CO浄化率(%)=((触媒に流入したCO量)−(触媒から流出したCO量))
÷(触媒に流入したCO量)×100
【0055】
(検討結果)
実施例触媒1及び比較例触媒1〜3のCO浄化率を評価した。図1にCO浄化率を示す。比較例触媒1〜3ではCO浄化率が60%以下であるのに対し、実施例触媒1では90%の高いCO浄化率を示すことが確認された。Co,Ni,Mnは、一般的にCO酸化能力が高い物質とされており(参考文献:新しい触媒化学、三共出版、発行年日:1994年10月25日、著者名:服部英,多田旭男,菊地英一,瀬川幸一,射水雄三 共著)、Nbはこれら物質よりもさらに高いCO酸化能力を有することを見出した。
【0056】
よって、触媒活性成分として、Nbを用いることで、高いCO浄化率が得られることは明らかである。
【実施例2】
【0057】
実施例1に示した触媒性能評価方法において、モデルガス中に30ppmのSOxを添加したこと以外は同様の評価方法により、実施例触媒1及び比較例触媒1〜3のCO浄化活性を評価した。
【0058】
(検討結果)
実施例触媒1及び比較例触媒1〜3のSOx存在下でのCO浄化率を評価した。図2にCO浄化率を示す。比較例触媒1〜3では、SOxが共存することでCO浄化率が20%以下になったのに対し、実施例触媒1では70%の高いCO浄化率を示すことが確認された。
【0059】
よって、触媒活性成分として、Nbを用いることで、SOx共存下でも高いCO浄化率が得られることは明らかである。
【実施例3】
【0060】
実施例触媒1に対して、更に硝酸Ir溶液を含浸した後、120℃で乾燥、続いて600℃で1h大気中焼成し、更に2%H2−N2流通下にて600℃で1h還元処理を行った。Irの添加量はシリカ2molに対し金属元素換算で、1.3mmolとした。この触媒を実施例触媒2とする。Nb25ゾルの代わりにメタW酸アンモン溶液を用いたこと以外は、実施例触媒2と同様の調製法により比較例触媒4を得た。比較例触媒4に含まれるW量は金属元素換算で実施例触媒2に含まれるNbと同じモル数とした。更にNbを添加しない事以外は実施例触媒2と同様の調製法により比較例触媒5を得た。表2に調製した触媒一覧を示す。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例触媒2及び比較例触媒4,5に関し、CO,NOx浄化性能を評価した。
【0063】
ガス条件は実施例1で用いたガスに更に1ppmのSOxを添加したガスを用いた。それ以外の試験条件は実施例1で行ったCO浄化性能試験と同じとし、触媒のNOx浄化性能は、次式に示す計算式によりNOx浄化率を求めることで判定した。
【0064】
NOx浄化率(%)=((触媒に流入したNOx量)−(触媒から流出したNOx量))
÷(触媒に流入したNOx量)×100
【0065】
実施例触媒2及び比較例触媒4,5について、CO酸化率の温度特性及び220℃でのNOx浄化率を図3,図4に示す。
【0066】
図3から、実施例触媒2は測定した全温度域で比較例触媒4,5よりもCO酸化活性が高く、特に300℃以下でのCO酸化率が高い。一方、図4に示したNOx浄化率に着目すると、実施例触媒2は比較例触媒5と比較して高い性能を有しており、実施例触媒2はCO及びNOxをともに効果的に浄化できる触媒であることが分かる。一方、Wを添加した比較例触媒4はCO,NOx浄化率が比較例触媒5よりも更に低い。
【実施例4】
【0067】
実施例触媒2において、担体をTiO2(石原産業製)にしたこと以外は同様の調製法にてNb,Irを活性成分とする比較例触媒6を得た。実施例触媒2及び比較例触媒6について、220℃でのNOx浄化率を図5に示す。
【0068】
多孔質担体としてTiO2を用いた比較例触媒6のNOx浄化率は10%以下であり低活性である。従って、多孔質担体としてSiを含む金属酸化物を用いれば高いNOx浄化率が得られることは明らかである。
【0069】
【表3】

【実施例5】
【0070】
CO濃度の影響を評価するために、モデルガスの組成をNOx:150ppm,CO:300ppm〜1500ppm,O2:3%,H2O:3%,N2:残部とし、体積空間速度(F/V)を30,000/hとして、CO濃度を変化させた場合の実施例触媒2のCO,NOx浄化率を評価した。図6に、220℃におけるCO濃度に対するCO,NOx浄化率の変化を示す。
【0071】
CO浄化率はCO濃度によらず、70%以上の高い浄化活性を示す。一方、NOx浄化率に着目すると、CO濃度が300ppmの場合でも、NOx浄化率は45%あり、十分高いが、CO濃度を高めて450ppm以上、すなわちモル比でNOxに対して3倍以上の濃度とすることでNOx浄化率は50%以上となり、更に高いNOx浄化率を示すようになる。
【0072】
よって、本発明のNOx浄化触媒は、CO濃度がNOx濃度に対してモル比で3倍以上の雰囲気で使用することが好ましい。
【実施例6】
【0073】
図7(a)は、本発明の排ガス浄化装置の一実施形態の構成を模式的に示す図である。この排ガス浄化装置は、ボイラーの排ガス流路に実施例触媒2を2個設置し、触媒間に、CO量調整手段としてCOガス注入口を配置している。実施例触媒2はCO酸化能が高く、図3のデータから示される通り、触媒入口温度が250℃を超えると、NOx浄化触媒の後段から排出されるCO量は0ppmであった。この場合、図7(b)のように、実施例触媒2を2個並べるだけでは、後段のNOx浄化触媒にCOが流入しないため、NOx浄化率は向上しない。
【0074】
よって、図7(a)のように、触媒間にCOガス注入口を設けることで、後段のNOx浄化触媒にもCOが流入するため、NOx浄化率が向上する。
【実施例7】
【0075】
図8に、本発明の排ガス浄化装置の一実施例を示す。この排ガス浄化装置は、ボイラーの排ガス流路の流れに沿って、実施例触媒2,NH3供給手段としてNH3注入口,NH3脱硝触媒(Ti−V系触媒)を配置している。ボイラーからのNOx排出量が極めて多い場合、もしくは熱機関からのCO排出量が少ない場合には、実施例触媒2のみではNOxを十分に浄化できないため、図8に示すような排ガス浄化装置を使用する。図8に示す浄化装置によれば、NOxの高い浄化性能が得られる。
【実施例8】
【0076】
図9に、本発明の排ガス浄化装置の一実施例を示す。排ガス浄化装置は、ボイラー1の排ガス流路に配置されており、CO,NOx浄化触媒6,CO量調整手段(COタンク3,CO注入口4),COセンサー2,9,排ガス温度センサー5,NOxセンサー7及び制御ユニット8を備えている。
【0077】
以下に、この排ガス浄化装置を用いた排ガス浄化方法を説明する。
【0078】
ボイラー1から排出された排ガスは、化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気であり、酸素以外にCO,NOxを含んでいる。排ガスがCO,NOx浄化触媒6に接触すると、排ガス中のCOとNOxとが反応しNOxが除去される。
【0079】
CO,NOx浄化触媒6に流入する排ガスの温度は、CO,NOx浄化触媒6の入口付近に配置された排ガス温度センサー5により常にモニターされている。また、排ガスのCO濃度は、COセンサー2により測定されている。これらセンサーの信号は、全て制御ユニット8へ入力される。制御ユニット8では、ボイラー1及び排ガス浄化装置の状態を評価して、適切な燃焼条件,浄化条件に制御する。
【0080】
大気中に排出されるNOx,CO量は、CO,NOx浄化触媒6の後流に設置されたNOxセンサー7,COセンサー9で常に測定される。NOxセンサー7がNOx量を多いと判定した場合には、制御ユニット8がボイラー1の燃焼状態を変更する制御を行い、ボイラー1の排ガス中のCO濃度(CO量)を増加させるか、または、COタンク3からCOを排ガス流路に注入する制御を行う。このようにすることで、CO,NOx浄化触媒6に流入するCO量を増やして、排ガス中のNOx量を低減することができる。一方、COセンサー9がCO量を多いと判定した場合には、制御ユニット8がボイラー1の燃焼状態を変更する制御を行い、ボイラー1の排ガス中のCO濃度を減少させる制御を行う。
【0081】
よって、この排ガス浄化装置及び浄化方法によれば、化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気の排ガスを排出する熱機関に対して、CO,NOxの排出量を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】触媒活性成分が異なる各種CO浄化触媒について、CO浄化活性を示す図。
【図2】触媒活性成分が異なる各種CO浄化触媒について、SOx共存下でのCO浄化活性を示す図。
【図3】触媒活性成分が異なる各種CO浄化触媒について、CO浄化活性を示す図。
【図4】触媒活性成分が異なる各種CO浄化触媒について、COによるNOx浄化活性を示す図。
【図5】NOx浄化触媒について、担体の違いによるNOx浄化活性の違いを示す図。
【図6】NOx浄化触媒について、排ガス中のCO濃度に対するNOx浄化活性の変化を示す図。
【図7】図7(a)は2個のNOx浄化触媒の間にCO注入口を設けた熱機関排ガス浄化装置の構成図、図7(b)は2個のNOx浄化触媒を排ガス流路に沿って設置した熱機関排ガス浄化装置の構成図。
【図8】NOx浄化触媒の後段にNH3脱硝触媒を設けた熱機関の排ガス浄化装置の構成図。
【図9】本発明の排ガス浄化装置の一実施態様を模式的に示す図。
【符号の説明】
【0083】
1 ボイラー
2 COセンサー
3 COタンク
4 CO注入口
5 排ガス温度センサー
6 CO,NOx浄化触媒
7 NOxセンサー
8 制御ユニット
9 COセンサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
COを含有し、化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気の排ガスを排出する熱機関の排ガス流路に配置され、COを酸化して浄化するCO浄化触媒を備えた熱機関の排ガス浄化装置であって、前記CO浄化触媒が、多孔質担体と、前記多孔質担体上に担持された触媒活性成分とを有し、前記触媒活性成分がNbを含むことを特徴とする熱機関の排ガス浄化装置。
【請求項2】
CO及びNOxを含有し、化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気の排ガスを排出する熱機関の排ガス流路に配置され、COを還元剤として前記排ガス中の窒素酸化物(NOx)を還元して浄化するCO,NOx浄化触媒を備えた熱機関の排ガス浄化装置であって、前記CO,NOx浄化触媒が、多孔質担体と、前記多孔質担体上に担持された触媒活性成分とを有し、前記触媒活性成分がNbと、Irとを含むことを特徴とする熱機関の排ガス浄化装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記多孔質担体が、Siを含む金属酸化物であることを特徴とする熱機関の排ガス浄化装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、前記化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気の排ガスが、SOxを含むことを特徴とする熱機関の排ガス浄化装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、前記浄化触媒の前段に排ガス中のSOx量を調整するSOx量調整手段を配置することを特徴とする熱機関の排ガス浄化装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項において、前記浄化触媒を排ガス流路に複数個配置し、該触媒と該触媒との間の排ガス流路に排ガス中のCO量を調整するCO量調整手段を配置することを特徴とする熱機関の排ガス浄化装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項において、前記浄化触媒に接触するCO量が、該触媒に接触するNOx量に対してモル比で3倍以上になるようにCO量を調整するCO量調整手段を配置することを特徴とする熱機関の排ガス浄化装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項において、前記浄化触媒の前段または後段に、NH3を還元剤としてNOxを還元して浄化するNH3脱硝触媒を配置することを特徴とする熱機関の排ガス浄化装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項において、前記浄化触媒の後段に、排ガス中のCOもしくはNOxの少なくともいずれか一方の量を計測するセンサーを配置することを特徴とする熱機関の排ガス浄化装置。
【請求項10】
化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気の排ガス中のCOを酸化して浄化するCO浄化触媒であって、多孔質担体と、前記多孔質担体上に担持された触媒活性成分とを有し、前記触媒活性成分がNbを含むことを特徴とするCO浄化触媒。
【請求項11】
COを還元剤とし、化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気の排ガス中のNOxを還元して浄化するCO,NOx浄化触媒であって、多孔質担体と、前記多孔質担体上に担持されたNb及びIrを含む触媒活性成分とを備えることを特徴とするCO,NOx浄化触媒。
【請求項12】
前記多孔質担体が、Siを含む金属酸化物であることを特徴とする請求項10または11に記載のNOx浄化触媒。
【請求項13】
多孔質担体と、前記多孔質担体上に担持されたNbを含む触媒活性成分とを有するCO浄化触媒を用いて、熱機関から排出される化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気の排ガス中のCOを酸化して浄化することを特徴とする熱機関の排ガス浄化方法。
【請求項14】
多孔質担体と、前記多孔質担体上に担持されたNb及びIrを含む触媒活性成分とを有するCO,NOx浄化触媒を用いて、COを還元剤として、熱機関から排出される化学量論量よりも過剰な酸素雰囲気の排ガス中のNOxを還元して浄化することを特徴とする熱機関の排ガス浄化方法。
【請求項15】
請求項13または14において、前記多孔質担体が、Siを含む金属酸化物であることを特徴とする熱機関の排ガス浄化方法。
【請求項16】
請求項13乃至15のいずれか1項において、前記熱機関の燃焼状態を調整して、前記浄化触媒に流入するSOxの量を調整するSOx量調整手段を設けることを特徴とする熱機関の排ガス浄化方法。
【請求項17】
請求項13乃至16のいずれか1項において、前記熱機関の燃焼状態を調整して、前記浄化触媒に流入する排ガスの空燃比を間欠的にストイキ〜リッチに切り替えずに、常にリーンに保つことを特徴とする熱機関の排ガス浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−125398(P2010−125398A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303380(P2008−303380)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】