説明

熱機関

【課題】ボイラー圧力の向上と蒸気量の向上とを両立でき、且つ動作開始が容易な熱機関を提供する。
【解決手段】作動液14を熱源2から供給される熱で加熱して蒸発させるボイラー部11と、ボイラー部11で発生した蒸気のエネルギーを機械的エネルギーに変換して取り出す出力部12と、出力部12で使用された蒸気を凝縮させる凝縮部13と、凝縮部13の作動液14をボイラー部11に還流させる還流手段15、16とを備え、還流手段は、凝縮部13の作動液14を毛管力で吸引してボイラー部11に導く作動液導入用部材15と、出力部12で取り出された機械的エネルギーによって駆動され、凝縮部13の作動液14をボイラー部11に圧送する機械式ポンプ16とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動液を加熱して蒸発させ、蒸発した蒸気のエネルギーを機械的エネルギーとして取り出した後に蒸気を凝縮させて送還する熱機関に関し、排熱回収装置に用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の熱機関は、作動液を蒸発させるボイラー部が高圧になるのに対し、蒸気を凝縮(復液)させる凝縮部が低圧になるので、凝縮部で凝縮した作動液をボイラー部に送還するためにポンプ等の機械を用いるのが一般的である(例えば特許文献1)。すなわち、ポンプ等の装置を外部エネルギーを用いて駆動することよって、凝縮部の作動液を圧送してボイラー部に送還する。
【0003】
また、従来、この種の熱機関として、蒸気のエネルギーを機械的エネルギーに変換する蒸気エンジンと、それに連動する機械式ポンプとを有するものも公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−338207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前者の従来技術(特許文献1)のごとく、凝縮部で凝縮した作動液をポンプ等の機械でボイラー部に送還する熱機関においては、作動液を加熱して蒸発させる外部エネルギー(熱エネルギー)に加えてポンプ等の機械を駆動するための外部エネルギーも必要であるので、出力効率の向上に限界がある。
【0006】
そこで、本発明者は、凝縮部で凝縮した作動液をウィック(作動液導入用部材)の毛管力で吸引してボイラー部に送還する熱機関を検討した。この検討例によると、外部エネルギーを極力用いることなく凝縮部の作動液をボイラー部に送還することができるので、前者の従来技術(特許文献1)に比べて出力効率を向上することができる。
【0007】
この検討例では、出力向上を図るためにボイラー圧力を高めようとすれば、ウィックの毛管相当径を小さくして蒸気の逆流を防止する必要がある。
【0008】
しかしながら、この検討例では、ボイラー圧力を高めるためにウィックの毛管相当径を小さくすると、作動液の供給路の面積が小さくなって作動液の供給速度が落ちる。作動液の供給速度が落ちれば時間当たりの蒸気量が減少するため、ボイラー圧力の向上と蒸気量の向上との両立が難しいという問題がある。
【0009】
また、後者の従来技術では、蒸気エンジンが動かない限り機械式ポンプも作動しないので、他からの動力で蒸気エンジンを始動させるスタータが必要となる。そのため、例えば熱源が不安定で蒸気エンジンが時々停止するような使用条件の場合、蒸気エンジンを自動的に再始動させようとすれば熱源の状態に応じてスタータを起動する制御系が必要となる。
【0010】
本発明は上記点に鑑みて、ボイラー圧力の向上と蒸気量の向上とを両立でき、且つ動作開始が容易な熱機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、熱源(2)から供給される熱で作動液(14)を加熱して蒸発させるボイラー部(11)と、
ボイラー部(11)で発生した蒸気のエネルギーを機械的エネルギーに変換して取り出す出力部(12)と、
出力部(12)で使用された蒸気を凝縮させる凝縮部(13)と、
凝縮部(13)の作動液(14)をボイラー部(11)に還流させる還流手段(15、16)とを備え、
還流手段は、
凝縮部(13)の作動液(14)を毛管力で吸引してボイラー部(11)に導く作動液導入用部材(15)と、
出力部(12)で取り出された機械的エネルギーによって駆動され、凝縮部(13)の作動液(14)をボイラー部(11)に圧送する機械式ポンプ(16)とを有していることを特徴とする。
【0012】
これによると、出力部(12)で取り出された機械的エネルギーによって駆動される機械式ポンプ(16)を有しているので、作動液導入用部材(15)による作動液(14)の供給速度に極力影響されずボイラー部(11)へ作動液(14)を供給することができる。このため、ボイラー圧力の向上と蒸気量の向上とを両立できる。
【0013】
また、機械式ポンプ(16)が停止している場合であっても、作動液導入用部材(15)によってボイラー部(11)へ作動液(14)を供給することができる。このため、動作開始が容易である。
【0014】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の熱機関において、出力部(12)における蒸気の使用流量と、機械式ポンプ(16)による作動液(14)の供給流量との比は、1より大きく且つ作動液(14)が気化するときの体積膨張率以下になっていることを特徴とする。
【0015】
これによると、ボイラー部(11)への作動液(14)の供給量の過不足を抑制できて好ましい。
【0016】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の熱機関において、出力部(12)は、蒸気のエネルギーを機械的エネルギーに変換する蒸気エンジン(121)を有し、
蒸気エンジン(121)は、振り子のように揺動するピストン(121a)およびシリンダ(121b)を有する振り子式エンジンであり、
機械式ポンプ(16)は、振り子のように揺動するピストン(16a)およびシリンダ(16b)を有する振り子式ポンプであり、
蒸気エンジン(121)および機械式ポンプ(16)は、ボイラー部(11)の上方側に配置され、水平方向に揺動するようになっていることを特徴とする。
【0017】
これによると、ボイラー部(11)から蒸気エンジン(121)への蒸気の供給を効率良く行うことができるとともに、蒸気エンジン(121)と機械式ポンプ(16)とを連結する機構を簡素化できる。
【0018】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の熱機関においては、例えば請求項4に記載の発明のように、作動液導入用部材(15)は筒状に形成され、
ボイラー部(11)には、作動液(14)が加熱されて蒸発する蒸気発生空間(114)が形成され、
凝縮部(13)は、作動液(14)が溜まる液溜め空間(131)が形成され、
蒸気発生空間(114)は、作動液導入用部材(15)の内側および外側のうちいずれか一方側に形成され、
液溜め空間(131)は、作動液導入用部材(15)の内側および外側のうち蒸気発生空間(114)が形成された側と反対の側に形成され、
機械式ポンプ(16)は、液溜め空間(131)から作動液(14)を吸入し、蒸気発生空間(114)に作動液(14)を吐出するようにすればよい。
【0019】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の熱機関において、ボイラー部(11)、出力部(12)、凝縮部(13)および機械式ポンプ(16)を収容するケース(101)を備え、
ケース(101)の内部には、凝縮部(13)で凝縮した作動液(14)が溜まる液溜め空間(131)が形成され、
機械式ポンプ(16)は、少なくとも作動液(14)の流動する部分が液溜め空間(131)の作動液(14)中に配置されていることを特徴とする。
【0020】
これによると、機械式ポンプ(16)が作動液(14)を吸い上げる必要がないので、ケース(101)内の圧力を低くしても機械式ポンプ(16)を良好に動作させることができる。このため、より低温な熱源に対応することが可能となる。
【0021】
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載の熱機関において、出力部(12)は、ボイラー部(11)の上方に配置されており、
機械式ポンプ(16)は、出力部(12)の上方に配置されており、
ケース(101)の内部には、出力部(12)を液溜め空間(131)の作動液(14)から隔てるための隔壁部材(20)が設けられていることを特徴とする。
【0022】
これによると、ボイラー部(11)、出力部(12)および機械式ポンプ(16)が上下方向に並んで配置されているので、ケース(101)の水平方向における体格を大型化させることなく機械式ポンプ(16)を作動液(14)中に配置することができる。
【0023】
また、隔壁部材(20)によって、出力部(12)が液溜め空間(131)の作動液(14)から隔てられているので、出力部(12)に作動液(14)が浸入するのを防止することができる。
【0024】
また、隔壁部材(20)の内部の空間が、液溜め空間(131)の作動液(14)によって外気から断熱されるので、隔壁部材(20)の内部に収容された出力部(12)を高温に維持することができる。このため、出力部(12)に入ったきた蒸気が冷えて蒸気圧が低下してしまうことを抑制することができ、ひいては効率を向上させることができる。
【0025】
請求項7に記載の発明では、請求項6に記載の熱機関において、隔壁部材(20)には、出力部(12)で使用された蒸気を凝縮部(13)へ排気する排気筒(203)が、作動液(14)の液面(14a)の上方まで延びるように形成されていることを特徴とする。
【0026】
これにより、隔壁部材(20)の内部に作動液(14)が浸入することを防止しつつ出力部(12)から排出された蒸気を凝縮部(13)に排出することができる。
【0027】
請求項8に記載の発明では、請求項7に記載の熱機関において、出力部(12)で取り出された動力を機械式ポンプ(16)に伝達する動力伝達機構(123、125、16i、121h)を備え、
動力伝達機構は、出力部(12)から、排気筒(203)の内部空間と、作動液(14)の液面(14a)よりも上方の空間(132)とを経由して機械式ポンプ(16)に至るように構成されていることを特徴とする。
【0028】
これにより、排気筒(203)の内部空間を活用して、動力伝達機構を効率的に配置することができる。
【0029】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施形態における排熱回収装置を示す縦断面図である。
【図2】第1実施形態における排熱回収装置を示す横断面図である。
【図3】第1実施形態における排熱回収装置の蒸気エンジンを示す断面図である。
【図4】第1実施形態におけるウィックの製造方法を説明する説明図である。
【図5】第2実施形態における排熱回収装置を示す縦断面図である。
【図6】第3実施形態における排熱回収装置を示す縦断面図である。
【図7】他の実施形態における蒸気エンジンを示す上面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1実施形態)
第1実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。本実施形態は、熱機関を排熱回収装置に適用したものである。図1は、排熱回収装置の全体構成を示す縦断面図であり、図1中の上下の矢印は、排熱回収装置の設置状態における上下方向(天地方向)を示している。
【0032】
本実施形態の排熱回収装置10は、ボイラー部11、出力部12、および凝縮部13に大別される。本例では、排熱回収装置10で取り出された機械的エネルギーを発電に用いるために、排熱回収装置10に発電機1が取り付けられている。
【0033】
ボイラー部11は、熱源から供給される熱(排熱)で作動液14(本例では、水)を加熱して蒸発させる。出力部12は、ボイラー部11で発生した蒸気のエネルギーを機械的エネルギーに変換して出力する。凝縮部13は、出力部12で使用された蒸気を凝縮して作動液14に復液させる。
【0034】
本例では、ボイラー部11、出力部12および凝縮部13は、ケース101の内部に設けられている。本例では、作動液14として水を用いているので、ケース101を、耐水性に優れたステンレスで形成するのが好ましい。ケース101は、上下方向に延びる筒状部101aと、筒状部101aの上下を塞ぐ蓋部101b、101cとを有している。
【0035】
ボイラー部11は、伝熱部材111を有している。伝熱部材111は、熱伝導性に優れた材料(金属材料等)で形成されており、熱源をなす発熱体2の上に載せられている。
【0036】
伝熱部材111は、上下方向に間隔を隔てて対向配置された板状伝熱部111a、111bと、板状伝熱部111a、111bの中心部同士を繋ぐ棒状伝熱部111cとを有している。本例では、発熱体2は、例えば工場の高温排気・高温排水のダクト表面などのような排熱によって発熱する部位を表している。
【0037】
棒状伝熱部111cの外周側には、作動液導入用部材に相当するウィック15が配置されている。ここで、作動液導入用部材とは、作動液14を吸引する毛管力を発生する部材(毛管力発生部材)のことを定義しており、例えば繊維を編み込んだ構造体や、多孔質セラミックや金属焼結体、ガスケットシールのような多孔質体である。
【0038】
ウィック15は、凝縮部13の作動液14をボイラー部11に還流させる還流手段を構成しており、本例では、ウィック15は円筒状に形成されて上下方向に延びるように配置されている。ウィック15の内側には棒状伝熱部111cが貫通している。
【0039】
ウィック15は、1つの円筒状の部材で構成されていてもよいし、複数個の円筒状の部材で構成されていてもよい。換言すれば、ウィック15全体を一体成形してもよいし、ウィック15を軸方向に分割して成形してもよい。
【0040】
ウィック15は、互いに積層された複数の繊維層を有する繊維集合体(繊維層積層体)であり、本例では熱可塑性樹脂繊維であるアラミド繊維とロックウール粒子の混合体になっている。また、ウィック15は、アラミド繊維とグラスウール粒子の混合体になっていてもよい。ここで、アラミド繊維とロックウール粒子の混合体や、アラミド繊維とグラスウール粒子の混合体は、断熱素材としても用いることのできるものである。
【0041】
ウィック15は、積層された多数の環板状素材が一体的に接合されることによって形成されている。図1では、図示の都合上、環板状素材同士の界面部を実線で示している。また、ウィック15の環板状素材同士の界面部は、ウィック15の径方向(軸方向と直交する方向)に延びている。
【0042】
図示を省略しているが、ウィック15の各繊維層は、環板状素材同士の界面部と平行に延びている。したがって、ウィック15の各繊維層も、ウィック15の径方向(軸方向と直交する方向)に延びている。
【0043】
棒状伝熱部111cは、ケース101の下方側の蓋部101cの中心を貫通している。蓋部101cとウィック15の下端面との間には環板状の介在部材112が配置されている。ウィック15の上端面と上方側の板状伝熱部111bとの間にも環板状の介在部材113が配置されている。環板状の介在部材112、113は、筒状のウィック15とほぼ同じ外径および内径を有している。
【0044】
筒状のウィック15の内周面と棒状伝熱部111cの外周面との間には、蒸気発生空間114が形成されている。蒸気発生空間114は、作動液14の蒸気が発生する空間である。
【0045】
上方側の板状伝熱部111bには、蒸気発生空間114と連通する蒸気通路115が形成されている。蒸気通路115は、蒸気発生空間114の蒸気を出力部12へと導く通路である。
【0046】
筒状のウィック15の外周面とケース101の筒状部101aの内壁面との間には、液溜め空間131が形成されている。液溜め空間131には作動液14が溜められる。
【0047】
ウィック15の内部には、毛管現象によって圧力差が生じる。この毛管現象による圧力差を以下、ウィック15の毛管力による圧力ΔPと言う。ウィック15の毛管力による圧力ΔPは次の数式(1)で表される。
【0048】
ΔP=(2σ/r)・cosθ …(1)
但し、rはウィック15内の空隙の円相当半径(細管半径)、σは表面張力、θは濡れ角である。円相当半径とは、対象とする断面と同じ面積を持つ円の半径のことである。
【0049】
ウィック15の毛管力による圧力ΔPが生じることにより、液溜め空間131の作動液14がウィック15の外周面から吸引される。
【0050】
ウィック15は、ケース101内に組み付けられた状態では介在部材112、113から軸方向に荷重を受けて圧縮されている。また、ウィック15は作動液14によって膨潤する。これにより、ウィック15内の空隙が一層縮められる。
【0051】
ウィック15内の空隙が縮められることによって、上記数式1におけるウィック15内の空隙の円相当半径rが小さくなり、ウィック15の毛管力による圧力ΔPも大きくなる。本例では、ウィック15の毛管力による圧力ΔPが、蒸気発生空間114での圧力PHと液溜め空間131の圧力PLとの圧力差(PH−PL)よりも大きくなるようにしている(ΔP>PH−PL)。
【0052】
換言すれば、ウィック15は、次の数式(2)の関係を満たすように構成されている。
【0053】
(2σ/r)・cosθ>PH−PL …(2)
本例では、ウィック15は、断熱性に優れた断熱素材で形成されている。そのため、ウィック15は、棒状伝熱部111cから液溜め空間131の作動液14への伝熱を遮断する断熱材としても機能する。
【0054】
ウィック15の外周面から吸収された作動液14はウィック15の毛管力により蒸気発生空間114に達し、棒状伝熱部111cにより加熱され蒸発し、蒸気となって蒸気発生空間114および蒸気通路115を通じて出力部12の蒸気エンジン121に流れる。
【0055】
出力部12の蒸気エンジン121は、ボイラー部11で発生した蒸気のエネルギーを機械的エネルギーに変換する流体機械である。本例では、蒸気エンジン121として、ピストンおよびシリンダが振り子のように揺動する振り子式エンジンが用いられている。なお、蒸気エンジン121の代わりに蒸気タービン等を用いてもよい。
【0056】
蒸気エンジン121は、板状伝熱部111bの上方側に配置されている。本例では、蒸気エンジン121は、板状のベース部材102を介して板状伝熱部111bの上面に固定されている。
【0057】
板状のベース部材102の上面には、機械式ポンプ16も固定されている。機械式ポンプ16は、機械的エネルギーを作動液14のエネルギーに変換する流体機械であり、凝縮部13の作動液14をボイラー部11に還流させる還流手段を構成している。
【0058】
本例では、機械式ポンプ16の構成は、蒸気エンジン121の構成と同様になっている。すなわち、機械式ポンプ16として、ピストンおよびシリンダが振り子のように揺動する振り子式ポンプが用いられている。なお、機械式ポンプ16として容積ポンプ等を用いてもよい。
【0059】
図2は、図1の排熱回収装置の横断面図である。図2の例では、蒸気エンジン121が3個(3気筒)設けられ、機械式ポンプ16が1個(1気筒)設けられているが、蒸気エンジン121および機械式ポンプ16の個数(気筒数)を適宜変更してもよい。
【0060】
図3は、図2の蒸気エンジン121を示す断面図である。機械式ポンプ16の構成も図3と同様であるので、図3の括弧内に機械式ポンプ16に対応する符号を付し、機械式ポンプ16の詳細図を省略する。
【0061】
蒸気エンジン121は、ピストン121aおよびシリンダ121bを有している。シリンダ121bは、ベース部材102に固定されたシリンダベース121cに対して、揺動軸121dを中心に揺動可能に支持されている。
【0062】
ベース部材102およびシリンダベース121cには、ボイラー部11の蒸気通路115と連通する吸気路102a、121eが形成されている。吸気路102a、121eは、シリンダ121bに吸入される蒸気が流れる流路である。また、シリンダベース121cには排気路121fが形成されている。排気路121fは、シリンダ121bから排出された蒸気が流れる流路である。吸気路121eの出口部および排気路121fの入口部は、シリンダベース121cの上面に開口している。排気路121fの出口部は、ケース101の内部空間に開放されている。本例では、排気路121fの出口部は、図1に示す凝縮部13の凝縮空間132に開放されている。
【0063】
本例では、ピストン121aおよびシリンダ121bは水平方向に配置されており、揺動軸121dは上下方向に配置されている。したがって、ピストン121aおよびシリンダ121bは水平方向に揺動する。
【0064】
シリンダ121bの下面には、蒸気を吸入・排気するポート121gが開口している。シリンダ121bが揺動方向の一端側に位置している状態では、ポート121gが吸気路102a、121eと連通する。シリンダ121bが揺動方向の他端側に位置している状態では、ポート121gが排気路121fと連通する。
【0065】
シリンダ121bが揺動方向の一端側に位置してポート121gが吸気路102a、121eと連通していると、ボイラー部11の蒸気発生空間114の蒸気が蒸気通路115、吸気路102a、121eおよびポート121gを通じてシリンダ121b内に流入してピストン121aが押し出されて往動する。
【0066】
ピストン121aの先端部は、ロッド121hを介してホイールギア121iに連結されている。図2に示すように、ホイールギア121iは、センターギア122に連結されている。センターギア122の中心には、出力軸123が固定されている。これにより、ピストン121aが押し出されるとホイールギア121iおよびセンターギア122を介して出力軸123が回転する。
【0067】
また、ピストン121aが押し出されてホイールギア121iが回転することで、シリンダ121bが揺動方向の他端側に向かって揺動してポート121gがシリンダベース121cの上面によって閉塞される。
【0068】
ポート121gが閉塞されると、ホイールギア121iは慣性力によって回転を継続し、ホイールギア121iの慣性力によってピストン121aが押し戻されて復動する。この際もシリンダ121bの揺動は継続される。そして、シリンダ121bが揺動方向の他端側に位置してポート121gが排気路121fと連通すると、シリンダ121b内の蒸気がケース101の内部空間(凝縮部13の凝縮空間132)に排出される。
【0069】
図1に示すように、出力部12の出力軸123と発電機1の回転軸1aとの連結は、ケース101の上方側の蓋部101bを介して、マグネットカップリングによってなされている。回転軸1aの回転によって発電機1で発電される。発電された電力は、発電機1に接続された任意の電気機器(図示せず)に供給される。
【0070】
凝縮部13は、上述した液溜め空間131および凝縮空間132を有している。凝縮空間132は、蒸気エンジン121から排気された蒸気が凝縮されて作動液14に復液する空間であり、本例では、ケース101の内部空間のうち上方側の空間で構成されている。
【0071】
液溜め空間131は、凝縮空間132で復液した作動液14を溜める空間であり、ケース101内において凝縮空間132の下方側に形成されている。液溜め空間131と凝縮空間132とを連通させるために、ケース101の筒状部101aとベース部材102との間、および筒状部101aと板状伝熱部111bとの間には間隙が設けられている。
【0072】
図3の括弧内に符号を付したように、機械式ポンプ16は、ピストン16aおよびシリンダ16bを有している。シリンダ16bは、ベース部材102に固定されたシリンダベース16cに対して、揺動軸16dを中心に揺動可能に支持されている。
【0073】
シリンダベース16cには吸液路16eが形成されている。吸液路16eは、シリンダ16bに吸入される作動液14が流れる流路である。吸液路16eの出口部は、シリンダベース121cの上面に開口している。吸液路16eの入口部は、図1に示す吸液パイプ17の出口部と連通している。
【0074】
図1の例では、吸液路16eの入口部は、ベース部材102に形成された作動液通路を介して吸液パイプ17の出口部と連通している。吸液パイプ17の入口部は液溜め空間131に配置されている。
【0075】
図3に示すように、シリンダベース16cには吐液路16fが形成されている。吐液路16fは、シリンダ16bから吐出された作動液14が流れる流路である。図3では図示を省略しているが、吐液路16fはシリンダベース121c内を貫通しており、吐液路16fの入口部はシリンダベース121cの上面に開口し、吐液路16fの出口部は図1に示す吐液パイプ18の入口部と連通している。
【0076】
図1の例では、吐液路16fの出口部は、ベース部材102に形成された作動液通路を介して吐液パイプ18の入口部と連通している。
【0077】
吐液パイプ18の出口部は、ボイラー部11の蒸気発生空間114と連通している。図1の例では、吐液パイプ18の出口部は、ボイラー部11の介在部材112に形成された作動液通路を介して蒸気発生空間114と連通している。
【0078】
本例では、ピストン16aおよびシリンダ16bは水平方向に配置されており、揺動軸16dは上下方向に配置されている。したがって、ピストン16aおよびシリンダ16bは水平方向に揺動する。
【0079】
シリンダ16bの下面には、作動液14を吸入・吐出するポート16gが開口している。シリンダ16bが揺動方向の一端側に位置している状態では、ポート16gが吸液路16eと連通する。シリンダ16bが揺動方向の他端側に位置している状態では、ポート16gが吐液路16fと連通する。
【0080】
ピストン16aの先端部は、ロッド16hを介してホイールギア16iに連結されている。図2に示すように、ホイールギア16iは、センターギア122に連結されている。これにより、蒸気エンジン121がセンターギア122を回転させると、ホイールギア16iも回転してシリンダ16bが揺動するとともにピストン16aが往復動する。
【0081】
図2の例では、ホイールギア16iの回転は、蒸気エンジン121のホイールギア121iの回転に対して減速されるようになっている。
【0082】
ピストン16aがシリンダ16bから引き出されて往動している状態では、シリンダ16bが揺動方向の一端側に位置してポート16gが吸液路16eと連通する。これにより、液溜め空間131の作動液14が吸液パイプ17および吸気路16e等を介してシリンダ16b内に吸入される。
【0083】
ピストン16aがシリンダ16b側に押し戻されて復動している状態では、シリンダ16bが揺動方向の他端側に機械式ポンプ16をボイラー部11の側方に配置している。位置してポート16gが吐液路16fと連通する。これにより、シリンダ16b内の作動液14が吐液路16fおよび吐液パイプ18等を介してボイラー部11の蒸気発生空間114に吐出される。
【0084】
次に、ウィック15の製造方法の概要を図4に基づいて説明する。まず図4(a)に示すように板状素材W1を用意する。
【0085】
板状素材W1は、互いに積層された複数の繊維層を有する繊維集合体(繊維層積層体)であり、紙すきの手法を繰り返すことで所定の厚さに形成されている。本例では、板状素材W1は、熱可塑性樹脂繊維であるアラミド繊維とロックウール粒子の混合体になっている。また、本例では、板状素材W1として厚さ4mm程度の薄いものを用いている。
【0086】
図4(b)は、図4(a)のA部拡大図である。図4(b)では、図示の都合上、繊維層相互間の界面を実線で示している。図4(b)に示すように、板状素材W1を構成する複数の繊維層は、板状素材W1の厚さ方向に積層されている。換言すれば、板状素材W1を構成する複数の繊維層は板状素材W1の板面と平行に延びている。
【0087】
次いで、図4(c)に示すように、板状素材W1を切断して多数の環板状素材W2を得る。このとき、多数の環板状素材W2の内径寸法および外径寸法を同一寸法に揃えるようにする。
【0088】
次いで、図4(d)に示すように、多数の環板状素材W2を、その厚さ方向に積層して筒状の配列体W3を得る。このようにして得られた筒状の配列体W3では、その径方向(軸方向と直交する方向)に繊維層が延びることとなる。
【0089】
次いで、図4(e)に示すように、筒状の配列体W3を治具J1、J2、J3にセットして熱プレスすることにより、配列体W3の環板状素材W2同士を接合させて筒状のウィック15を得ることができる。
【0090】
このようにして得られたウィック15では、その径方向(軸方向と直交する方向)に繊維層が延びることとなる。そして、ウィック15の繊維層同士の界面部では、残余の部位(繊維層を構成する部位)よりも空隙の連続性が高くなる。このため、ウィック15は、空隙の連続性が高い部位が径方向(軸方向と直交する方向)に延びる構造を有することとなる。
【0091】
本例では、治具J1、J2、J3は、ステンレス製のリングJ1、ステンレス製の円形プレートJ2およびステンレス製の円柱J3で構成されている。熱プレスの加工条件としては、例えば温度:300℃、加圧力:50トン、プレス時間:20分が好ましい。すなわち、各環板状素材W2のアラミド繊維(熱可塑性樹脂)が軟化する温度で熱プレスすることによって、環板状素材W2同士を接合させることができる。
【0092】
プレス時間経過後、加圧力を加えて圧縮したまま冷却することによって、繊維間の空隙を縮めることができる。また、加圧力を加えて圧縮したまま冷却することによって、繊維同士の密着力を高めることができるので、ウィック15の強度を高めることができる。
【0093】
次に、上記構成における作動を説明する。まず、定常状態における作動を説明する。ボイラー部11において、発熱体2の熱は伝熱部材111を介して蒸気発生空間114の作動液14に伝わり、蒸気発生空間114で作動液14が加熱されて蒸発する。蒸気発生空間114で発生した蒸気は、蒸気通路115を通じて出力部12の蒸気エンジン121に供給される。
【0094】
蒸気エンジン121に供給された蒸気はピストン121aを駆動する。これにより、蒸気のエネルギーが機械的エネルギーに変換される。ピストン121aの駆動により出力軸123が回転し、発電機1で発電が行われる。このようにして、発熱体2の排熱エネルギーが電気エネルギーとして回収される。
【0095】
蒸気エンジン121内の蒸気はピストン121aを駆動した後に排気路121fを通じて凝縮部13の凝縮空間132に排出される。蒸気エンジン121から凝縮空間132に排出された蒸気は、凝縮空間132で凝縮されて作動液14に復液する。凝縮空間132で復液した作動液14は液溜め空間131に溜められる。
【0096】
蒸気エンジン121のピストン121aの駆動により出力軸123が回転すると、機械式ポンプ16のピストン16aが駆動され、液溜め空間131の作動液14がボイラー部11の蒸気発生空間114に圧送される。
【0097】
そして、機械式ポンプ16によって蒸気発生空間114に圧送された作動液14が蒸気発生空間114で加熱されて蒸発する。上記作動が繰り返されることで定常的に動作する。
【0098】
なお、出力部121における蒸気の使用流量(体積流量)と機械式ポンプ16による作動液14の供給流量(体積流量)との比(出力部121における蒸気の使用流量/機械式ポンプ16による作動液14の供給流量)は、1より大きく且つ作動液14が気化するときの体積膨張率以下にされることが好ましい。
【0099】
より具体的には、蒸気エンジン121の吸気流量(体積流量)と機械式ポンプ16の吐出流量(体積流量)との比(蒸気エンジン121の吸気流量/機械式ポンプ16の吐出流量)が、作動液14が気化するときの体積膨張率に極力等しくされることが好ましい。蒸気発生空間114への作動液14の供給量の過不足が抑制されて、動作が安定するからである。
【0100】
蒸気エンジン121の吸気流量と機械式ポンプ16の吐出流量との比は、総容積比×減速比で求めることができる。総容積比とは、蒸気エンジン121の総容積と機械式ポンプ16の総容積との比(蒸気エンジン121の総容積/機械式ポンプ16の総容積)のことである。総容積とは、シリンダ容積を気筒の数だけ足したものである。シリンダ容積とは、シリンダの内部において、ピストンの上死点と下死点との間にできる容積のことである。
【0101】
減速比とは、蒸気エンジン121のホイールギア121iの回転数と機械式ポンプ16のホイールギア16iの回転数との比(蒸気エンジン121のホイールギア121iの回転数/機械式ポンプ16のホイールギア16iの回転数)のことである。
【0102】
上述のごとく、本例では発熱体2が工場から出る排熱によって発熱するようになっている。このため、排熱源が不安定であると、蒸気発生空間114での作動液14の蒸発が不安定になって動作が時々停止することが起こり得る。
【0103】
動作が停止した場合には機械式ポンプ16も停止することとなるが、上記構成によれば、機械式ポンプ16が停止しても蒸気発生空間114への作動液14の供給をウィック15によって行うことができる。
【0104】
具体的には、ウィック15には、液溜め空間131の作動液14を吸引する毛管力が発生するので、この毛管力を利用して液溜め空間131から蒸気発生空間114に作動液14を供給する。
【0105】
このため、発熱体2の発熱が再開されれば蒸気発生空間114での作動液14の蒸発も再開されるので、自動的に動作を再開することができる。したがって、蒸気エンジン121を始動させるスタータや、スタータを制御する制御系が不要である。
【0106】
すなわち、本実施形態によると、機械式ポンプ16を有しているので、ウィック15による作動液14の供給速度に極力影響されずボイラー部11へ作動液14を供給することができる。このため、ウィック15の毛管相当径を小さくしてボイラー圧力を高めても時間当たりの蒸気量を確保できる。よって、ボイラー圧力の向上と蒸気量の向上とを両立できる。
【0107】
また、機械式ポンプ16が停止している場合であっても、ウィック15によってボイラー部11へ作動液14を供給することができる。このため、発熱体2が十分に発熱すれば、蒸気エンジン121を始動させるスタータを用いることなく蒸気を発生させることができる。よって、動作開始が容易である。
【0108】
本例では、上述の数式2を満たすように、ウィック15内の空隙を小さくしてウィック15内の空隙の円相当半径rを十分に小さくしているので、ウィック15の毛管力による圧力ΔPが、蒸気発生空間114の圧力PHと液溜め空間131の圧力PLとの圧力差(PH−PL)よりも大きくなる(ΔP>PH−PL)。
【0109】
このため、ウィック15の毛管力が蒸気発生空間114の圧力PHと液溜め空間131の圧力PLとの圧力差(PH−PL)に打ち勝って、低圧の液溜め空間131に溜まった作動液14を高圧の蒸気発生空間114に良好に吸引することができる。
【0110】
換言すれば、液溜め空間131と蒸気発生空間114との間に圧力差が生じている状態において、ウィック15を使って圧力差(PH−PL)に負けない毛管力を与えることにより低圧の液溜め空間131から高圧の蒸気発生空間114へ作動液14を引っ張り込むことができる。したがって、液溜め空間131の作動液14を高圧の蒸気発生空間114へ外部エネルギーを用いることなく送還することができる。
【0111】
また、ウィック15内の空隙を小さくしているので、蒸気発生空間114で発生した蒸気がウィック15を通じて液溜め空間131に逆流してしまうことを防止できる。
【0112】
具体的には、ウィック15は、製造過程において圧縮(熱プレス)され、ボイラー部11に組み付けられた状態ではボイラー部ケース101から荷重を受けてさらに圧縮されている。さらに、ウィック15は作動液14によって膨潤する。それらの結果、ウィック15の空隙が極小化されることとなるので、蒸気発生空間114で発生した蒸気がウィック15の空隙を通じて液溜め空間131に逆流してしまうことを防止できる。つまり、蒸気の封止性を確保できる。
【0113】
蒸気発生空間114の圧力が異常上昇した場合には、蒸気発生空間114の蒸気を、ウィック15を通じて蒸気発生空間114の外部に逃がすことができる。すなわち、ウィック15はリミッタの役割を果たすことができる。
【0114】
ここで、作動液14の沸点は作動液14の材料とケース101内の圧力で決まるため、例えば作動液14にアルコールを用い、ケース101内を真空にすれば熱源の温度が零度以下でも適用可能である。熱源の温度が低い場合には、ウィック15やボイラー部11の構造体に耐熱性を持たせる必要はないので、ウィック15やボイラー部11の構造体の材料として耐熱性の低い材料(樹脂等)を用いることができる。
【0115】
本例では、ウィック15の繊維層が外周面側から内周面側に向かって径方向に延びているので、繊維層相互間に、内周面側から外周面側に向かって連続的に延びる空隙が形成されることとなる。このため、内周面から外周面への作動液14の流通性を向上できるので、液溜め空間131から蒸気発生空間114への作動液14の供給性を向上できる。
【0116】
特に本例では、ウィック15は、繊維層の延びる方向を径方向とする筒状に形成されているので、ウィック15内における作動液14の流路長を極力短くすることができる。このため、外周面から内周面への作動液14の流通性をより向上できるので、液溜め空間131から蒸気発生空間114への作動液14の供給性をより向上できる。
【0117】
また、ウィック15は円筒状に形成されているので、液溜め空間131から蒸気発生空間114の各部位へ作動液14を均等に供給できる。
【0118】
また、ウィック15が、断熱素材で形成され且つ伝熱部材111の棒状伝熱部111cから液溜め空間131に至る熱伝達経路中に介在しているので、発熱体2から液溜め空間131の作動液14への伝熱をウィック15によって抑制することができる。このため、液溜め空間131の断熱性を向上できるので、液溜め空間131の作動液14が蒸発して出力効率の低下を招くことを抑制できる。
【0119】
また、ウィック15は筒状に形成されているので、蒸気発生空間114を広く確保できる。このため、伝熱性を向上できるので、出力を向上できる。また、伝熱性が向上されることで、加熱の低温化が可能になる。加熱の低温化を図ることでウィック15の熱変質を抑制できる。
【0120】
また、上下方向に延びる筒状のウィック15の内側に蒸気発生空間114が形成されているので、蒸気発生空間114が上下方向に延びることになる。このため、蒸気発生空間114で発生した蒸気を蒸気通路115へ逃げ易くすることができるので、作動液14の蒸気の放出が良くなり、ひいては出力を向上できる。
【0121】
しかも、蒸気通路115は伝熱部材111の板状伝熱部111bに形成されているので、蒸気は蒸気通路115を通る間にさらに加熱されて過熱蒸気となり、蒸気圧力が増えるのでエンジン推力が増す。換言すれば、出力エネルギーが増加する。
【0122】
また、本例では、伝熱部材111が発熱体2から出力部12の蒸気エンジン121への伝熱を担うようになっているので、蒸気エンジン121での蒸気温度(蒸気圧力)を高めることができ、ひいては出力の向上を図ることができる。
【0123】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、機械式ポンプ16が作動液14の液面よりも上方に配置されているが、本第2実施形態では、図5に示すように、機械式ポンプ16が作動液14中に配置されている。
【0124】
具体的には、機械式ポンプ16は、蒸気エンジン121の上方側に配置されており、作動液14は、機械式ポンプ16よりも上方側まで封入されている。したがって、本実施形態では、ケース101の内部空間のうち作動液14の液面よりも下方側の空間が液溜め空間131になっており、それよりも上方側の空間が凝縮空間132になっている。
【0125】
本実施形態では、機械式ポンプ16が作動液14中に配置されているので、上記第1実施形態の吸液パイプ17が設けられていない。
【0126】
蒸気エンジン121に作動液14が浸入するのを防止するために、蒸気エンジン121の側方側および上方側には隔壁部材20が配置されており、隔壁部材20の上面部に機械式ポンプ16が固定されている。
【0127】
隔壁部材20は、蒸気エンジン121を側方側および上方側から囲むように板状伝熱部111bに固定されている。これにより、蒸気エンジン121は、液溜め空間131の作動液14から隔てられている。
【0128】
図5の例では、隔壁部材20は、板状伝熱部111bに固定された筒状部材201と、筒状部材201の上端部に固定された板状のベース部材202とで構成されており、板状伝熱部111b、筒状部材201およびベース部材202に囲まれて形成される空間は、蒸気エンジン121を収容するエンジン収容空間を構成している。
【0129】
ベース部材202には、出力軸123が貫通する貫通孔が形成され、貫通孔の外縁部には、ベース部材202から上方に向かって延びる排気筒203が設けられている。排気筒203の上端は、作動液14の液面14aよりも上方まで延びている。これにより、隔壁部材20内部のエンジン収容空間が、凝縮空間132と連通している。
【0130】
出力軸123には、ホイールギア16iと噛み合うセンターギア125が設けられている。上記第1実施形態と同様に、ホイールギア16iは、ロッド121h等を介してピストン121aに連結されている。図5の例では、センターギア125およびホイールギア16iは、排気筒203よりも上方側に配置されている。
【0131】
出力部12で取り出された動力は、出力軸123、センターギア125、ホイールギア16iおよびロッド121h等を介して機械式ポンプ16に伝達される。換言すれば、出力軸123、センターギア125、ホイールギア16iおよびロッド121hは、出力部12で取り出された動力を機械式ポンプ16に伝達する動力伝達機構を構成している。この動力伝達機構は、減速比が適切に設定されるように設計されている。
【0132】
なお、減速比の設定の都合や部品レイアウトの都合等により、センターギア125とホイールギア16iとの間に他のギアが介在していてもよい。また、動力伝達機構は、本例の構成に限定されるものではなく、出力部12で取り出された動力を機械式ポンプ16に伝達可能な種々の機構を用いることができる。
【0133】
上記第1実施形態では、機械式ポンプ16が作動液14の液面よりも上方に配置されているので、機械式ポンプ16は作動液14を吸い上げる必要がある。具体的には、ポンプ中の圧力を下げることで、外気圧と差圧を生み、その差圧で作動液14を吸い上げて流動させる必要がある。
【0134】
しかしながら、上記第1実施形態の構成では、排熱回収装置10を低温熱源に対応させる場合、ケース101内の圧力を下げて沸点を低くするため、機械式ポンプ16にとっての外気圧が低くなり、作動液14を吸い上げる差圧が小さくなる。その結果、機械式ポンプ16が動作しづらくなってしまう。
【0135】
この点に鑑みて、本実施形態では、機械式ポンプ16が作動液14中に沈められているので、機械式ポンプ16が作動液14を吸い上げる必要がない。そのため、ケース101内の圧力を低くしても機械式ポンプ16は動作可能となるので、より低温な熱源に対応することが可能である。
【0136】
なお、以上の説明からわかるように、機械式ポンプ16の全体が作動液14中に沈んでいる必要はなく、機械式ポンプ16のうち作動液14の流動する部分が作動液14中に沈んでいればよい。
【0137】
また、ボイラー部11、出力部12および機械式ポンプ16が上下方向に並んで配置されているので、排熱回収装置10の水平方向における体格を大型化させることなく機械式ポンプ16を作動液14中に沈めることができる。
【0138】
また、エンジン収容空間を形成している隔壁部材20(筒状部材201およびベース部材202)も作動液14中に沈められているので、エンジン収容空間が外気から断熱され、ひいては蒸気エンジン121が高温のまま維持される。このため、蒸気エンジン121に入ったきた蒸気が冷えて蒸気圧が低下してしまうことを抑制することができ、ひいては効率を向上させることができる。
【0139】
ここで、隔壁部材20(ベース部材202)には、作動液14の液面よりも上方まで延びる排気筒203が形成されているので、エンジン収容空間に作動液14が浸入することを防止しつつ蒸気エンジン121から排出された蒸気を凝縮空間132に排出することができる。
【0140】
また、出力部12で取り出された動力を機械式ポンプ16に伝達する動力伝達機構(出力軸123、センターギア125、ホイールギア16iおよびロッド121hは、蒸気エンジン121から、排気筒203の内部空間と、作動液14の液面14aよりも上方の空間132とを経由して機械式ポンプ16に至るように構成されているので、排気筒203の内部空間を活用して、動力伝達機構を効率的に配置することができる。
【0141】
(第3実施形態)
上記第2実施形態では、機械式ポンプ16を出力部12の上方に配置しているが、本第3実施形態では、図6に示すように、機械式ポンプ16をボイラー部11の側方に配置している。
【0142】
具体的には、機械式ポンプ16のピストン16aおよびシリンダ16bは、ウィック15の外周面とケース101の筒状部101aの内壁面との間の液溜め空間131に配置されている。ピストン16aおよびシリンダ16bは、その軸方向(往復運動方向)が上下方向を向くように配置されている。シリンダ16bには吐液パイプ18が接続されている。
【0143】
ピストン16aは、一対の傘歯車211、212とクランク機構22とを介して出力軸123に連結されている。出力軸123、一対の傘歯車211、212およびクランク機構22は、出力部12で取り出された動力を機械式ポンプ16に伝達する動力伝達機構を構成している。
【0144】
一対の傘歯車211、212は、出力軸123の水平方向の回転を、鉛直方向の回転に変換してクランク機構22に伝達し、クランク機構22は、出力軸123から伝達された回転運動を直線運動に変換してピストン16aに伝達する。
【0145】
換言すれば、一対の傘歯車211、212は、回転運動の方向を90°変換する運動変換機構21を構成し、クランク機構22は、回転運動を直線運動に変換する運動変換機構を構成している。
【0146】
図6の例では、一対の傘歯車211、212は、蒸気エンジン121の上方側に配置されており、クランク機構22は、蒸気エンジン121を迂回するようにL字状に構成されている。
【0147】
なお、減速比の設定の都合や部品レイアウトの都合等により、出力軸123と傘歯車211との間に他のギアが介在していてもよい。また、動力伝達機構は、本例の構成に限定されるものではなく、出力軸123の回転動力を直線運動に変換してピストン16aに伝達可能な種々の機構を用いることができる。
【0148】
作動液14の液面は、ウィック15よりも上方かつ出力部12よりも下方に位置している。したがって、本実施形態では、上記第2実施形態の隔壁部材20が設けられていない。
【0149】
本実施形態においても、上記第2実施形態と同様に、機械式ポンプ16を作動液14中に沈めているので、より低温な熱源に対応することが可能である。
【0150】
また、本実施形態では、機械式ポンプ16をボイラー部11の側方に配置しているので、上記第2実施形態に比べて、排熱回収装置10の上下方向における体格を小型化できる。
【0151】
(他の実施形態)
なお、上記各実施形態では、蒸気エンジン121と機械式ポンプ16とをセンターギア122で連結しているが、タイミングベルトやカム等を用いて蒸気エンジン121と機械式ポンプ16とを連結するようにしてもよい。
【0152】
また、上記各実施形態では、機械式ポンプ16がケース101の内部に設けられているが、機械式ポンプ16がケース101の外部に設けられていてもよい。
【0153】
また、上記各実施形態では、ケース101内に1組のウィック15、蒸気発生空間114および液溜め空間131が設けられているが、ウィック15、蒸気発生空間114および液溜め空間131が複数組設けられていてもよい。
【0154】
また、上記各実施形態では、筒状のウィック15が上下方向に延びるように配置されているが、これに限定されるものではなく、例えば筒状のウィック15が水平方向に延びるように配置されていてもよい。
【0155】
また、上記各実施形態では、筒状のウィック15の内側に蒸気発生空間114が形成され、筒状のウィック15の外側(蒸気発生空間114の反対側)に液溜め空間131が形成されているが、これとは逆に、筒状のウィック15の外側に蒸気発生空間114が形成され、筒状のウィック15の内側に液溜め空間131が形成されていてもよい。
【0156】
また、上記各実施形態では、ウィック15の繊維層がウィック15の径方向に延びているが、これに限定されるものではなく、例えばウィック15の繊維層がウィック15の軸方向に延びていてもよい。
【0157】
また、上記各実施形態では、ウィック15が筒状に形成されていて、液溜め空間131の作動液がウィック15の外周面から吸引されるようになっているが、これに限定されるものではなく、例えばウィック15が平板状に形成されていて、液溜め空間131の作動液がウィック15の側端面から吸引されるようになっていてもよい。
【0158】
また、上記各実施形態では、凝縮空間132がケース101の内部に形成されているが、凝縮空間132がケース101の外部に形成されていてもよい。すなわち、ケース101の外部に、凝縮空間132を形成する容器を設けてもよい。
【0159】
また、上記各実施形態では、蒸気エンジン121として振り子式エンジンが用いられているが、図7に示すロータリー式エンジン20を蒸気エンジンとして用いることが可能である。ロータリー式エンジン20は、本出願人が先に出願した特願2010−267126号に記載されているものであり、その構成および作動を以下に簡単に説明する。
【0160】
ロータリー式エンジン20は、ピストン形成部材21、ローター22、カムブロック23、カムフォロア24および給排気ブロック25等を備えている。
【0161】
ピストン形成部材21は、往復運動をするピストン211と、カムフォロア24が組み付けられるブラケット212とを有している。
【0162】
ローター22は、ピストン211が往復摺動するシリンダ穴221と、シリンダ穴221に流体を供給・排出するための供給排出路222とを有し、シリンダ穴221の軸線A2と直交する回転軸A1を中心として回転運動をする。
【0163】
カムブロック23は、ローター22の外周側に配置されている。本例では、カムブロック23は、略三角形状(非円形状)のカム231を有する筒状に形成されており、カム231は、内周カム面231aと外周カム面231bとを有する溝カムになっている。なお、カム231は、内周カム面231aのみで構成されていてもよい。
【0164】
カムフォロア24は、ピストン211と一体的に往復運動し、且つカム231上を摺動する。
【0165】
給排気ブロック25には、シリンダ穴221に供給される流体が流通する供給路251と、シリンダ穴221から排出された流体が流通する排出路252とが形成されている。供給路251および排出路252は、ローター22の回転運動に伴ってローター22の供給排出路222と交互に連通するように形成されている。
【0166】
ローター22の供給排出路222が給排気ブロック25の供給路251と連通している状態において、供給路251に高温高圧の蒸気が供給されると、供給路251の蒸気が供給排出路222を通じてローター22のシリンダ穴221に流入する。
【0167】
すると、シリンダ穴221に流入した蒸気の圧力によってピストン211がローター22の外方側に押し出されるので、ピストン211に組み付けられたカムフォロア24がカムブロック23のカム231を押圧する。このとき、カム231の形状によって、ローター22を回転させる回転駆動力が発生する(第1行程)。
【0168】
この回転駆動力によってローター22が所定角度回転すると、ローター22の供給排出路222は給排気ブロック25の供給路251と非連通状態になり、代わって給排気ブロック25の排出路252と連通する。このとき、カム231の形状によって、カムフォロア24がカム231から押圧されてピストン211がローター22の内方側に押し戻される。これにより、シリンダ穴221の蒸気が供給排出路222および排出路252を通じて排出される(第2行程)。
【0169】
ローター22がさらに所定角度回転することで、ローター22の供給排出路222が給排気ブロック25の排出路252と非連通状態になり、代わって給排気ブロック25の供給路251と連通するので、上記作動(第1行程および第2行程)が繰り返される。
【0170】
このように、ロータリー式エンジン20は、高温高圧の蒸気が供給されるとローター22が連続的に回転するので、蒸気のエネルギーを機械的エネルギーに変換して出力することができる。よって、ロータリー式エンジン20を蒸気エンジンとして用いることが可能である。
【符号の説明】
【0171】
2 発熱体(熱源)
11 ボイラー部
12 出力部
13 凝縮部
14 作動液
15 ウィック(作動液導入用部材)
16 機械式ポンプ
114 蒸気発生空間
131 液溜め空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源(2)から供給される熱で作動液(14)を加熱して蒸発させるボイラー部(11)と、
前記ボイラー部(11)で発生した蒸気のエネルギーを機械的エネルギーに変換して取り出す出力部(12)と、
前記出力部(12)で使用された前記蒸気を凝縮させる凝縮部(13)と、
前記凝縮部(13)の前記作動液(14)を前記ボイラー部(11)に還流させる還流手段(15、16)とを備え、
前記還流手段は、
前記凝縮部(13)の前記作動液(14)を毛管力で吸引して前記ボイラー部(11)に導く作動液導入用部材(15)と、
前記出力部(12)で取り出された機械的エネルギーによって駆動され、前記凝縮部(13)の前記作動液(14)を前記ボイラー部(11)に圧送する機械式ポンプ(16)とを有していることを特徴とする熱機関。
【請求項2】
前記出力部(12)における前記蒸気の使用流量と、前記機械式ポンプ(16)による前記作動液(14)の供給流量との比は、1より大きく且つ前記作動液(14)が気化するときの体積膨張率以下になっていることを特徴とする請求項1に記載の熱機関。
【請求項3】
前記出力部(12)は、蒸気のエネルギーを機械的エネルギーに変換する蒸気エンジン(121)を有し、
前記蒸気エンジン(121)は、振り子のように揺動するピストン(121a)およびシリンダ(121b)を有する振り子式エンジンであり、
前記機械式ポンプ(16)は、振り子のように揺動するピストン(16a)およびシリンダ(16b)を有する振り子式ポンプであり、
前記蒸気エンジン(121)および前記機械式ポンプ(16)は、前記ボイラー部(11)の上方側に配置され、水平方向に揺動するようになっていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱機関。
【請求項4】
前記作動液導入用部材(15)は筒状に形成され、
前記ボイラー部(11)には、前記作動液(14)が加熱されて蒸発する蒸気発生空間(114)が形成され、
前記凝縮部(13)には、前記作動液(14)が溜まる液溜め空間(131)が形成され、
前記蒸気発生空間(114)は、前記作動液導入用部材(15)の内側および外側のうちいずれか一方側に形成され、
前記液溜め空間(131)は、前記作動液導入用部材(15)の内側および外側のうち前記蒸気発生空間(114)が形成された側と反対の側に形成され、
前記機械式ポンプ(16)は、前記液溜め空間(131)から前記作動液(14)を吸入し、前記蒸気発生空間(114)に前記作動液(14)を吐出することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の熱機関。
【請求項5】
前記ボイラー部(11)、前記出力部(12)、前記凝縮部(13)および前記機械式ポンプ(16)を収容するケース(101)を備え、
前記ケース(101)の内部には、前記凝縮部(13)で凝縮した前記作動液(14)が溜まる液溜め空間(131)が形成され、
前記機械式ポンプ(16)は、少なくとも前記作動液(14)の流動する部分が前記液溜め空間(131)の前記作動液(14)中に配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の熱機関。
【請求項6】
前記出力部(12)は、前記ボイラー部(11)の上方に配置されており、
前記機械式ポンプ(16)は、前記出力部(12)の上方に配置されており、
前記ケース(101)の内部には、前記出力部(12)を前記液溜め空間(131)の前記作動液(14)から隔てるための隔壁部材(20)が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の熱機関。
【請求項7】
前記隔壁部材(20)には、前記出力部(12)で使用された蒸気を前記凝縮部(13)へ排気する排気筒(203)が、前記作動液(14)の液面(14a)の上方まで延びるように形成されていることを特徴とする請求項6に記載の熱機関。
【請求項8】
前記出力部(12)で取り出された動力を前記機械式ポンプ(16)に伝達する動力伝達機構(123、125、16i、121h)を備え、
前記動力伝達機構は、前記出力部(12)から、前記排気筒(203)の内部空間と、前記作動液(14)の液面(14a)よりも上方の空間(132)とを経由して前記機械式ポンプ(16)に至るように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の熱機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−197781(P2012−197781A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181477(P2011−181477)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】