説明

熱硬化性樹脂組成物およびその硬化物

【課題】ベンゾオキサジンの硬化速度の改善。
【解決手段】ベンゾオキサジン:50〜99質量%、およびトリスフェノールメタン:50〜1質量%を含有する熱硬化性樹脂組成物。さらに、所定量のノボラック樹脂、シリカなどを含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、機械的強度、耐熱性など、硬化速度に優れ、電子・電気機器用の材料として有用な熱硬化性樹脂組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾオキサジンは、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン環を有する化合物をいい、加熱すると耐熱性、難燃性に優れた硬化物となることが知られている(特許文献1参照)。ベンゾオキサジンは、適当な加熱により開環してフェノール性構造を形成することからフェノール樹脂に大別されることも多いが、開環に基づく硬化では揮発性の副生成物を発生しない。このため、特に、現在フェノール樹脂が用いられている電子・電気機器分野において、成形加工時に副生ガスを発生しない新しい熱硬化性樹脂材料として注目されている。また、難燃性に優れることから、建築材料、航空機、自動車などの構造材料としても有用である。
【0003】
しかしながら、ベンゾオキサジンの硬化速度は、一般的なノボラックもしくはレゾール型のフェノール樹脂あるいはエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂に比べ、必ずしも満足のいくものではない。これに対し、ベンゾオキサジンに、芳香族スルホン酸含有シクロヘキシル誘導体を硬化触媒として添加して、硬化速度を上げる試みがなされている(特許文献2〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭49−47378号公報
【特許文献2】特開2007−70550号公報
【特許文献3】特開2007−99818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ベンゾオキサジンの硬化速度を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、ベンゾオキサジンにトリスフェノールメタンを加えることで硬化速度を改善された熱硬化性樹脂組成物を得ている。
このような本発明の第1の態様として、
ベンゾオキサジン:50〜99質量%、およびトリスフェノールメタン:50〜1質量%を含有する熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【0007】
本発明の別の態様として、さらにノボラック樹脂を、熱硬化性樹脂組成物全量100質量%に対し0.1〜30質量%含有する熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【0008】
さらなる態様として、さらに、シリカを、熱硬化性樹脂組成物全量100質量%に対し1〜90質量%含有する熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【0009】
本発明では、上記のような熱硬化性樹脂組成物が熱硬化してなる樹脂硬化物も提供する。
【発明の効果】
【0010】
上記のような本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ベンゾオキサジンに比べて硬化速度が著しく速い。このような本発明の組成物により、従来、硬化速度が遅く、生産性に問題のあったベンゾオキサジン硬化物を高い生産性で製造することが可能となる。また、硬化剤として前記シクロヘキシル誘導体を用いる場合のようなコスト高の問題を避けることができる。本発明の組成物を硬化させた硬化物は、耐熱性、難燃性に優れるため、半導体封止剤やプリント配線基板積層板、成形材料などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】熱硬化性樹脂組成物の硬化時間に対する硬化率を示す図である。
【図2】熱硬化性樹脂組成物の硬化時間に対する硬化率を示す図である。
【図3】熱硬化性樹脂組成物の硬化時間に対する硬化率を示す図である。
【図4】熱硬化性樹脂組成物の硬化時間に対する硬化率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をより具体的に説明する。
ベンゾオキサジンは、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン環(以下、単に「オキサジン環」と表記することもある)を有する化合物である。
ベンゾオキサジンは、アミン類、フェノール類、ホルムアルデヒド類の縮合物であり、通常、これら反応原料のフェノール類、アミン類の置換基、種類などによって生成するベンゾオキサジンの化学構造が決まる。下記に基本的な合成スキームを示す。
【化1】

【0013】
本発明で用いられるベンゾオキサジンは、「オキサジン環」の誘導体であればよく、特に制限されないが、1分子中に少なくとも2つのオキサジン環を有する化合物が好ましく挙げられる。これは、架橋密度が高くなり、耐熱性の向上などの面で優れるからである。
【0014】
オキサジン環を少なくとも2つ有するベンゾオキサジンを誘導するためのアミン類としては、ジアミンを用いることができる。ジアミンとしては、例えば、4,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、パラジアミノベンゼン、およびこれらにアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン、芳香族炭化水素基などが置換された化合物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性や難燃性に優れたベンゾオキサジンが得られる点から、4,4’−オキシジアニリンが好ましい。
また、アニリン、アニリンにアルキル基、アルコキシ基、ハロゲンなどが置換されたものなどの1級アミンも用いられる。これらのうちでは、アニリンが安価で好ましい。
【0015】
また、フェノール類は、1価でも多価でもよい。1価フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトールなどが挙げられ、多価フェノール類としては、ビスフェールなどが挙げられる。これらにアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン、芳香族炭化水素基などが置換された化合物も挙げられる。
ビスフェールは、具体的にビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、などが挙げられる。
これらの中では、安価なフェノール、クレゾール、ビスフェノールAが好ましい。
【0016】
ホルムアルデヒド類は、ホルムアルデヒド(水溶液)、パラホルムアルデヒドなどが用いられる。上記のようなアミン類、フェノール類、ホルムアルデヒド類からベンゾオキサジンを得るには、公知の方法を広く採用することができる。
オキサジン環を少なくとも2つ有するベンゾオキサジンは、ジアミン類、フェノール類およびホルムアルデヒド類を反応させる方法、ビスフェノール類、1級アミンおよびホルムアルデヒド類を反応させる方法などにより製造することができる。
【0017】
トリスフェノールメタンは、トリスフェニルメタン型のポリフェノールである。本発明で用いられるトリスフェノールメタンは、メチン基に3個のフェノールが結合し分子中に少なくとも3個の水酸基を有する骨格を有していればよく、この骨格に各種置換基を有する化合物も特に限定することなく用いることができる。たとえば、上記フェノールのベンゼン環が置換基を有していてもよく、上記水酸基が置換基を介してベンゼン環に結合していてもよい。
また、3個のフェノールの水酸基の結合位置は特に限定されないが、製造の容易性から安価なトリスフェノールメタンとして、水酸基の1つはフェニル環のメチン結合位に対しo-位に存在するものが好ましい。
【0018】
トリスフェニルメタン型のポリフェノールの製造方法としては、公知の方法を特に制限することなく採用することができる。たとえば、芳香族ヒドロキシアルデヒド類とフェノール類とを酸触媒下で反応させる方法が公知である。具体的には特開2008−184417号公報、特開平10−218815号公報、特開2005−343797号公報などに記載されており、これらに記載される方法および化合物を引用して本願明細書に記載されているものとする。
【0019】
芳香族ヒドロキシアルデヒド類としては、サリチルアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒドなどを好ましく用いることができる。
【0020】
フェノール類は、特に限定されないが、たとえばフェノール、m-クレゾール、o-クレゾール、p-クレゾール、βナフトール、αナフトール、ジヒドロキシナフトールを挙げることができる。これらは、鎖状もしくは脂環状のアルキル基、芳香族基、ハロゲン、などの置換基を有していてもよい。これらの中でも、安価なフェノールが好ましい。
【0021】
酸触媒としては、たとえばp-トルエンスルホン酸、シュウ酸、硫酸、塩酸、酢酸などが挙げられる。これらの中でも、p-トルエンスルホン酸が反応性に優れ好ましい。
【0022】
上記反応は、芳香族ヒドロキシアルデヒド類1モルに対し、通常、2〜30モルのフェノール類を用いて行われる。この反応では、通常、1個の芳香族ヒドロキシアルデヒド類に2倍モルのフェノール類が結合したメチン基が1つの単量体だけでなく、メチン構造を2つ以上含む2量体(2個の芳香族ヒドロキシアルデヒド類とフェノール類3個が結合)および、3量体(3個の芳香族ヒドロキシアルデヒド類と4個のフェノール類が結合)なども含む混合物である。
本発明で用いるトリスフェノールメタンには、このような混合物も含むことができる。
【0023】
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、上記のようなベンゾオキサジン50〜99質量%、トリスフェノールメタン1〜50質量%を含む。トリスフェノールメタンの量が1質量%よりも少ないと硬化速度が改善効果が得られず、一方、50質量%よりも多いと耐熱性などが低下する傾向がある。本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、好ましくはベンゾオキサジン70〜97質量%、トリスフェノールメタン3〜30質量%を含む。
【0024】
これらの樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されないが、所定量のベンゾオキサジンとトリスフェノールメタンを100℃〜250℃、好ましくは、120℃〜200℃、更に好ましくは、130℃〜180℃の範囲に加熱して溶融させ、各種ミキサーや押出機を用いて混練する方法、所定量のベンゾオキサジンとトリスフェノールメタンをトルエンやメチルエチルケトン、アセトンなどの溶媒に溶かして、溶液状態にし、両者を混合した後、溶媒を蒸留除去する方法などが挙げられる。
【0025】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、例えば180℃以上で1〜10時間加熱すれば、その硬化物を得ることができる。
【0026】
本発明では、上記の熱硬化性樹脂組成物に、その特性を損なわない範囲で各種の樹脂およびフイラーを含ませることができる。他の樹脂としては、例えば、ノボラック、レゾール、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの各種熱熱硬化性樹脂、例えば、ポリカーボネート、シリコーン樹脂などの各種熱可塑性樹脂が挙げられる。また、各種フイラーとしては、シリカ、炭素粉、マイカ、タルク、炭素繊維、有機繊維などが挙げられる。これらは、目的に応じて適宜組み合わせて、適量添加することができる。
【0027】
このような他の成分のうちでも、たとえば、ノボラック樹脂を、熱硬化性樹脂組成物全量100質量%に対し0.1〜30質量%含有することが好ましい。
このような量でノボラック樹脂を含むと、硬化速度と硬化物耐熱性の両方に優れた熱硬化性樹脂組成物が得られるからである。
【0028】
また、シリカを、熱硬化性樹脂組成物全量100質量%に対し1〜90質量%含有することも好ましい。
このような量でシリカを含むと、機械的強度と耐熱性の両方に優れた熱硬化性樹脂組成物が得られるからである。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0029】
(合成例1)ベンゾオキサジンの合成
【化2】

攪拌装置、温度計、還流装置、不活性ガス導入管、オイルバスを備えた1リットルの反応容器(セパラブルフラスコ)に、4,4’−オキシジアニリン105g、パラホルムアルデヒド69g、溶媒としてトルエン400gを挿入して、窒素を流しながら90℃に加熱した。
加熱終了後、予め、90℃に加熱したフェノールを99g挿入し、更に110℃に加熱して3時間反応させた。その後、170℃に昇温して溶媒のトルエンを減圧蒸留し、ベンゾオキサジン220gを得た。
得られたベンゾオキサジンを粉砕機で微粉にした。
【0030】
(合成例2)トリスフェノールメタンの合成
攪拌装置、温度計、還流装置、不活性ガス導入管、オイルバスを備えた1リットルの反応容器(セパラブルフラスコ)にフェノール(和光純薬製)659g(6.87mol)、サリチルアルデヒド61g(0.5mol)、p-トルエンスルホン酸1.4g(0.009mol)を仕込んだ。
不活性ガス導入管から窒素をバブリングさせながら、105℃に昇温して6時間反応させた。反応終了後、温度を80℃まで下げて、炭酸水素ナトリウム2gを添加し、触媒を中和した。
次いで、蒸留装置を取り付けて、反応温度を170℃まで昇温させ、未反応のフェノールを除去した後、真空ポンプで20torrに減圧して、1時間減圧蒸留した。蒸留終了後、反応温度を150℃まで下げて、反応生成物を溶融した状態で取り出し、冷却・固化させた後、粉砕して230gのトリスフェノールメタンを得た。
得られたトリスフェノールメタンを粉砕機で微粉にした。
【0031】
(実施例1)
上記で得られたベンゾオキサジン9g、トリスフェノールメタン1gをミキサーで混合した。混合物を、アルミ製カップに入れて200℃に加熱し、溶融させてステンレス製スプーンを用いて十分に混練して均一化して熱硬化性樹脂組成物を得た。
<硬化試験>
次いで、上記組成物を硬化温度250℃に加熱し、硬化時間を様々に変えて硬化サンプルを作成した。各サンプルのDSC測定を行なって、発熱ピークの面積から発熱量を測定した。所定硬化時間における硬化率を、1式より算出した。硬化率と硬化時間の関係を図1に示す。
【0032】
【数1】

【0033】
(比較例1)
合成例1で得られたベンゾオキサジン単独(トリスフェノールメタンを添加せず)で実施例1と同様の硬化試験を行った。結果を図1に示す。
【0034】
(実施例2)
実施例1において、混合比を、ベンゾオキサジン6g、トリスフェノールメタン4gに変えた以外は、同様の硬化試験を行った。結果を図1に示す。
【0035】
(実施例3)
実施例1において、混合比を、ベンゾオキサジン9.7g、トリスフェノールメタン0.3gに変えた以外は、同様の硬化試験を行った。結果を図1に示す。
【0036】
(合成例3)ベンゾオキサジンの合成
【化3】


4,4’−オキシジアニリン105gの代わりに、4,4’−ジアミノジフェニルメタン105gを用いた以外は、合成例1と同様にしてベンゾオキサジンを得た。
【0037】
(実施例4)
実施例1において、ベンゾオキサジンを合成例3で得られたものに代えた以外は、同様の硬化試験を行った。結果を図2に示す。
【0038】
(比較例2)
合成例3で得られたベンゾオキサジン単独で実施例1と同様の硬化試験を行った。結果を図2に示す。
【0039】
(実施例5)
実施例1と同様に作成したベンゾオキサジンとトリスフェノールの混合物9g、ノボラック樹脂(群栄化学製PSM−4261)1gをミキサーで混合した。混合物をアルミ製カップに入れて200℃に加熱して溶融させ、ステンレス製スプーンを用いて十分に混練して均一化した。実施例1と同様の硬化試験を行った。結果を図3に示す。
【0040】
(比較例3)
熱硬化性樹脂組成物9gに代えて合成例1で得られたベンゾオキサジンサジン9gを、ノボラック樹脂と混合した以外は実施例5と同様にして熱硬化性組成物の方法で混練して均一化した。実施例1と同様の硬化試験を行った。結果を図3に示す。
【0041】
(実施例6)
実施例1と同様に作成したベンゾオキサジンとトリスフェノールの混合物5g、シリカ粉5gをミキサーで混合した。この混合物をアルミ製カップに入れて、200℃に加熱して溶融させ、ステンレス製スプーンを用いて十分に混練して均一化した。実施例1と同様の硬化試験を行った。結果を図4に示す。
【0042】
(比較例4)
合成例1で得られたベンゾオキサジン5g、シリカ粉5gを実施例6と同様の方法で混練して均一化した。実施例1と同様の硬化試験を行った。図4に示した。
【0043】
これら図より、ベンゾオキサジンとトリスフェノールメタンからなる本発明実施例の組成物は、比較例の組成物に比べて、硬化速度が著しく速い。本発明の組成物により、従来、硬化速度が遅く、生産性に問題のあったベンゾオキサジン硬化物を高い生産性で製造することが可能となる。本発明の組成物を硬化させた硬化物は、耐熱性、難燃性、に優れるため、半導体封止剤やプリント配線基板積層板、成形材料などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゾオキサジン:50〜99質量%、および
トリスフェノールメタン:50〜1質量%
を含有する熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、ノボラック樹脂を、熱硬化性樹脂組成物全量100質量%に対し0.1〜30質量%含有する請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、シリカを、熱硬化性樹脂組成物全量100質量%に対し1〜90質量%含有する請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物が熱硬化してなる樹脂硬化物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−171968(P2012−171968A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31962(P2011−31962)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】