説明

熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法

【課題】 操作の簡単化、低コスト化、かつ、パターン転写の高精度化を実現できる熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法は、基体と所定のパターンを備える圧模を設け、室において、圧模と基体を当接させ、小分子物質の蒸気を注入し、圧模と基体を基体のガラス化温度の以上に加熱して圧力を加え、それから圧模と基体を冷却し、圧模と基体を離し、このようにすると、熱間エンボシングリソグラフィーを行うことができる。本発明は、小分子物質の蒸気を注入することによって、圧模と基体との界面の強い吸着力を減らすようにして、パターン転写の高精度化、操作の簡単化、低コスト化が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間エンボシングリソグラフィー(Hot Embossing Lithography;HEL)を行う方法に関し、特に高分子材料にミクロンまたはナノメートルのパターンを備える構造物を形成するのに用いられる熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間エンボシングリソグラフィーの技術は、ロット単位で、ナノメートルのパターンを備える構造物を繰り返して製造できる技術である。今、微形のエレクトロメカニカルチップ、CD(Compact Disk)メモリと磁気メモリ、光電素子、光学素子、バイオチップ、微流体素子などの製造に広く使用されている。
【0003】
熱間エンボシングリソグラフィーの技術は、最初は、1995年Stephen Y.Chouによって提出された。特許文献1において、該熱間エンボシングリソグラフィーの技術の工程は図1(a)〜図1(d)を参照されたい。図1(a)に示すように、圧模本体201と、微浮き彫りからなる凸構造物202及び隣接する凸構造物の間に位置する凹構造物(図示せず)からなる圧模200を形成し、かつ、前記凸凹構造物の寸法はナノメートルに至るものとなる。熱可塑性または熱硬化を有し、かつ、ガラス化温度以上で、良好な流動性を有し、例えば、ガラス化温度が約105℃であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の高分子材料からなる基体300を形成する。真空にした室(chamber)において、圧模200と高分子材料の基体300を当接させる。ヒーター400で圧模200及び高分子材料の基体300を加熱し、かつ、圧力を加え(図1(b)に示す矢印方向は、圧力を加える方向である)、圧模200と高分子材料の基体300を十分に接触させ、圧模200の微浮き彫りの構造物が、高分子材料の基体300に転写されるようにする(図1(c)に示すように)。図1(d)に示すように、圧模200と高分子材料の基体300を冷却し、非真空の雰囲気で、圧模200と高分子材料の基体300を離し(図1(c)に示す矢印方向は、圧模200が基体300から離れる方向である)、このようにして、熱間エンボシングリソグラフィーの型を成型した。しかし、(1)、微浮き彫りの凸構造物202をナノメートルに至るほど微細化し、圧模200と高分子材料の基体300との界面の吸着力が強くなったので、高分子材料の基体300が圧模200に貼り付くことになる。(2)、熱間エンボシングリソグラフィーの工程が終わると、圧模200を基体300から離す工程を行う際に、圧模材料(通常、圧模材料は金属、半導体材料、誘導体材料、セラム及びこれらの組合せを採用する)自身の特性によって、圧模200は、高分子材料の基体300より温度の下がる速度が早いので、圧模200と、高分子材料の基体300に形成される微浮き彫りの凸構造物が互いに挟持するようになる。上記の二つの現象に対して、外力を使用して、圧模200と高分子材料の基体300を離す場合には、熱間エンボシングリソグラフィーのパターンが破られるので、パターン転写が高精度に実現できない。
【0004】
従って、様々な応用素子を製造する高生産性を実現するために、ナノメートルのパターンを備える構造物の高精度な転写を実現する必要がある。
【0005】
ナノメートルのパターンを備える構造物の高精度な転写を実現するために、従来技術では、下記のような解決方案を採用し、(1)、特許文献2を参照して、圧模の表面に薄膜層を形成する。該薄膜層は、低表面吸着力を有するので、高分子材料の基体の微浮き彫りの構造物が圧模に貼り付くことを抑えることができる。しかし、微浮き彫りの構成の寸法がナノメートルに至るものになると、その表面に薄膜層を形成することがかなり困難になり、かつ、微浮き彫りの構成の特徴寸法を保つために、該薄膜層は非常に薄くなければならない、また、形成される薄膜層と圧模との貼り付きがしっかりとしておらず、離れ易いので、操作が困難で、コストが高くなる。(2)、特許文献3を参照して、三角形状輪郭の微浮き彫りの構造物を備える圧模を採用するので、圧模と高分子材料の基体とが離れることが容易になり、圧模と、高分子材料の基体に形成される微浮き彫りの構造物が互いに挟持される現象がなくなる。しかし、三角形状輪郭の微浮き彫りの構造物を備える圧模を採用すると、高分子材料の基体に形成される微浮き彫りの構造物も三角形状輪郭を有し、後続のパターン転写(エッチングまたは剥離工程)を実現するために、マスクを増やさなければならない。従って、工程が複雑となり、コストも高くなる。
【0006】
様々な応用素子を製造する生産性を高めることと、ナノメートルのパターンの構造物が高精度に転写できることとを実現するために、操作の簡単化、低コスト化、かつ、パターン転写の高精度化を実現できる熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法を提供する必要がある。
【特許文献1】米国特許第5,772,905号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第20020127499号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第20010027570号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術において、熱間エンボシングリソグラフィーの操作が複雑で、コストが高いという問題を解決するために、本発明は操作の簡単化、低コスト化、かつ、パターン転写の高精度化を実現できる熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を実現するために、本発明は、下記の段階を含む熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法を提供し、
基体を形成する段階と、
所定のパターンを備える圧模を形成する段階と、
圧模と基体を当当接させる段階と、
小分子物質蒸気を注入する段階と、
加熱し、かつ、圧力を加える段階と、
圧模と基体を冷却する段階と、
圧模と基体を離す段階と、を備える。
【0009】
前記基体には、熱可塑性ポリマー(Thermoplastic Polymers)が使用される。
【0010】
前記圧模材料は、ニッケル、珪素、珪石、窒化珪素、珪化炭素、弗化シロキサンポリマーなどの金属、半導体材料、誘電体材料、セラム、有機材料及びこれらの組合せの一つが使用される。
【0011】
前記圧模の所定のパターンは、凸凹構造物(Pits)、凹槽構造物(Groowes)、凸起構造物(Bumps)、微型波紋構造物(Microwaviness)及びこれらの組合せの一つが使用される。
【0012】
前記小分子物質の蒸気は、水蒸気、アルコール蒸気などが使用される。
【0013】
前記圧模の所定のターンの凸構造物が3〜5度のリード角を有することが好ましい。
【0014】
圧模と基体を冷却するのは、圧模をゆっくり冷やし、かつ、基体を早く冷却することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
従来技術に基づいて、本発明は、小分子物質の蒸気を注入することによって、圧模と基体との界面に作用する強い吸着力を減らすようになり、基体に形成される所定のパターンの凸構造物が圧模に貼り付くことを有効に抑えることができるので、操作の簡単化、低コスト化、パターン転写の高精度化を実現できる。前記圧模の所定のパターンの凸構造物に3〜5度のリード角を形成することが好ましく、凸構造物の輪郭をほとんど変えない状態のもとで、圧模と基体が離れることが容易になる。圧模と基体を冷却する過程では、圧模をゆっくり冷却すると共に、基体を早く冷却し、基体に転写される所定のパターンの凸構造物を圧模の所定のパターンの凸構造に対して収縮させ、圧模と基体が離れやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、図面を参照して本発明の内容を詳細に説明する。
【0017】
図2(a)〜図2(d)を併せて参照しながら、本発明の提供する熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法を以下に説明する。
【0018】
第一段階:図2(a)に示すように、そのガラス化温度(以下、Tで示す)以上に良好な流動性を有する高分子材料からなる基体30を設ける。該高分子材料として、例えば、ポリメタクリル酸メチルが選択され、そのガラス化温度Tは約105度である。
【0019】
第二段階:圧模本体21と、圧模本体21に形成される所定のパターンの凸構造物22及び隣接する凸構造物の間に位置する凹構造物(図示せず)からなる圧模20を設ける。該圧模材料の硬度が基体材料より硬く、高ヌープ(Knoop)硬度、高圧縮強度、高抗拉強度、高熱伝導率、低熱膨張係数、高抗腐蝕性等の性能を有し、例えば、ニッケル圧模であり、かつ、圧模20の底表面(基体と接触する表面)の所定のパターンは、その寸法がミクロンまたはナノメートルに至るものとすることができる。
【0020】
第三段階:圧模20と基体と30を室(図示せず)に置き、該室を真空状態にし、圧模20と基体30を当接させる。
【0021】
第四段階:該室に小分子物質の蒸気50を注入して、小分子物質の蒸気50の拡散によって、圧模20の所定のパターンの構造物を湿らせ、圧模20の所定のパターンの構造物の界面吸着力を減らすようにする。
【0022】
第五段階:図2(b)に示すように、上方圧板のヒーター40と下方圧板のヒーター40´で別々に、圧模20と基体30を基体のガラス化温度T以上に加熱し(通常、圧模20と基体30を基体のガラス化温度Tより50〜100℃高くまで加熱する)、上方圧板10と下方圧板10´から圧模20と基体30に均一で安定した圧力(約40〜10Bar、1Bar=105Pa)を加えることによって、圧模20の所定のパターンの凸構造物22を基体に押圧する(図2(b)に示す矢印方向は、圧力を加える方向である)。
【0023】
第六段階:圧模20と基体30を冷却する。
【0024】
第七段階:圧模20と基体30の温度が基体のガラス化温度あたり(約T±(10〜30℃))に下がる場合には、圧模20と基体30を離し(図2(c)に示す矢印方向は、圧模20が基体30から離れる方向である)、図2(d)に示すように、基体30に圧模20の所定のパターンと対応するパターンを形成し、即ち、熱間エンボシングリソグラフィーの成型を作り、後続のパターン転写を都合良く行うことができるようにする。
【0025】
圧模20の予定のパターンの凸構造物22が3〜5度のリード角(図3に示すように、リード角θ=3〜5度)を有することが好ましい。所定のパターンの凸構造物22に3〜5度のリード角を形成することによって、即ち、大体に凸構造物の輪郭を変えない状態のもとで、基体材料が圧模に貼り付き難くなり、圧模20と基体30とが離れることが容易になる。
【0026】
圧模20と基体30を冷却する際に、圧模20をゆっくり冷却すると共に、基体30を早く冷却する方法を採用することが好ましい。従来技術において、熱間エンボシングリソグラフィーの型の圧模20と基体30の冷却過程で、圧模20と基体30自身の材料特性によって、圧模20が基体30より温度の下がる速度が早いので、圧模20の所定のパターンの凸構造物22が熱により膨張或いは冷却により収縮することになり、その所定のパターンの凸構造物22が基体30より収縮速度が早い、従って、圧模20の所定のパターンの凸構造物22と、基体30に形成される対応するパターンの凸構造物が互いに挟持されて、離れ難くなる。従って、圧模20と基体30を冷却する過程において、上方圧板のヒーター40で圧模20をゆっくり冷却すると共に、下方圧板のヒーター40´で基体30を早く冷却し、基体に転写される所定のパターンの凸構造物を圧模20の所定のパターンの凸構造物22に対して収縮させ、圧模20と基体30を離れ易くさせる。
【0027】
前記実施形態において、高分子材料の基体は、例えば、ポリカーボネート(polycarbonate)、ポリスチレン(polystyrene)、Shipley会社のShipley8000、Micro resist Technology GmbH会社のSU8,MR−18000シリーズ、MR−19000シリーズなどの熱可塑性ポリマーを含み得る。
【0028】
前記実施例において、圧模材料は、珪素、珪石、窒化珪素、珪化炭素、弗化シロキサンポリマーなどの金属、半導体材料、誘電体材料、セラム、有機材料及びこれらの組合せを含み得る。
【0029】
前記実施形態において、圧模の所定のパターンは、凸凹構造物、凹槽構造物、凸起構造物、微型波紋構造物及びこれらの組合せを含み得る。
【0030】
前記実施形態において、小分子物質の蒸気は、水蒸気、アルコール蒸気などを含み得る。
【0031】
従って、本発明の提供する熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法は、基体材料が圧模に貼り付くことを有効に抑えることができるので、圧模と基体が離れ易くなり、操作の簡単化、低コスト化、パターン転写の高精度化を実現できるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1(a)】従来技術の熱間エンボシングリソグラフィー工程の流れ図である。
【図1(b)】従来技術の熱間エンボシングリソグラフィー工程の流れ図である。
【図1(c)】従来技術の熱間エンボシングリソグラフィー工程の流れ図である。
【図1(d)】従来技術の熱エンボシングリソグラフィー工程の流れ図である。
【図2(a)】本発明実施例の熱間エンボシングリソグラフィー工程の流れ図である。
【図2(b)】本発明実施例の熱間エンボシングリソグラフィー工程の流れ図である。
【図2(c)】本発明実施例の熱間エンボシングリソグラフィー工程の流れ図である。
【図2(d)】本発明実施例の熱間エンボシングリソグラフィー工程の流れ図である。
【図3】本発明に関する圧模の予定のパターンの凸構造物が3〜5度のリード角を備える構成図である。
【符号の説明】
【0033】
10 上方圧板
10´ 下方圧板
20 圧模
21 圧模本体
22 予定のパターンの凸構成
30 基体
40 上方圧板のヒーター
40´ 下方圧板のヒーター
50 小分子物質の蒸気
100 上方圧板
100´ 下方圧板
200 圧模
201 圧模本体
202 微浮き彫りの凸構成
300 基体
400 ヒーター
θ リード角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と所定のパターンを備える圧模を設ける段階と、
圧模と基体を当接させ、圧模の所定のパターン構成を備える界面の強い吸着力を減らすように、小分子物質の蒸気を注入する段階と、
加熱して圧力を加える段階と、
圧模と基体を冷却する段階と、
圧模と基体を離す段階と、を含む熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法。
【請求項2】
前記基体が熱可塑性ポリマーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法。
【請求項3】
前記圧模の材料が金属、半導体材料、誘電体材料、セラミックス、有機材料及びこれらの組合せを含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法。
【請求項4】
前記圧模の所定のパターンの凸構成が3〜5度のリード角を有することを特徴とする、請求項1に記載の熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法。
【請求項5】
圧模と基体を冷却する前記段階は、
圧模をゆっくり冷却し、かつ、基体を早く冷却することを含むことを特徴とする、請求項1または請求項4に記載の熱間エンボシングリソグラフィーを行う方法。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図1(c)】
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【図1(d)】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図2(c)】
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【図2(d)】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−148055(P2006−148055A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−202318(P2005−202318)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(503023069)鴻富錦精密工業(深▲セン▼)有限公司 (399)
【出願人】(500080546)鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司 (1,018)
【Fターム(参考)】