説明

熱間圧延鋼板の製造設備列および熱間圧延鋼板の製造方法

【課題】本発明は、最終デスケーリング後に複数回の圧延をする場合や仕上げ圧延後に矯正を施す場合に発生するブリスタリング(スケール剥離)を、鋼材の温度調整や薬剤を用いることなく抑制し、表面状態の優れた熱間圧延鋼材を得ることを課題とする。
【解決手段】本発明は、デスケーリングの後、仕上げ圧延を行うとき、仕上げ圧延の前もしくは後または前記仕上げ圧延が複数の圧延で構成される場合はそれら圧延の間の、少なくとも1箇所で、大気よりも酸素濃度の低いガスを鋼板表面に吹き付けることを特徴とする熱間圧延鋼板の設備列および製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材を熱間圧延して製造するプロセスにおいて、表面性状に優れた熱間圧延鋼材を製造する製造方法および製造設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材料は、鋳造された後、加熱炉内で燃焼ガスにより加熱され、900〜1300℃の温度で抽出後、高圧水でデスケーリングされて、熱間圧延機で圧延される。通常、加熱炉内で高温に加熱された鋼材の表面には、スケール層が生成される。このスケール層は主に鉄の酸化物からなり、一般に、表層からヘマタイト(Fe)、マグネタイト(Fe)、ウスタイト(FeO)の3層が形成される。このように加熱炉で生成されるスケールは、一次スケールと呼ばれる。
【0003】
鋼材が熱間圧延される際に表面疵が発生するのを防止するために、圧延前に高圧水を散布して一次スケールを除去する高圧水デスケーリングが行われる。ところが、一次スケールが除去されても、熱間圧延は大気中で行われるために、鋼材表面が再びスケールで覆われる。このように熱間圧延工程中で生成するスケールは、二次スケールと呼ばれる。
【0004】
通常、加熱時に生成した一次スケールは、最初の熱間圧延前に高圧水を散布する高圧水デスケーリングで除去される。熱間圧延中に生成される二次スケールは、圧延中に継続して行われる高圧水デスケーリングで除去されるか、あるいは圧延時に鋼材とともに均一に伸ばされることで美麗な鋼材表面が形成される。
【0005】
しかしながら、一次スケールや二次スケールを除去する高圧水デスケーリングが不十分な場合には、部分的に厚いスケールが残存する。熱間圧延時にその残存スケールが鋼材に押し込まれると、表面疵や模様が発生する。また、熱間圧延の直前にスケールが厚く成長して剥離が起こった場合、剥離したスケールが熱間圧延時に鋼材に押し込まれて、表面疵や模様が発生する。
【0006】
さらに、熱間圧延前に発生したスケールが比較的厚い場合には、スケールが剥離しなくても、熱間圧延時にスケールが大きく割れ、それらが鋼材に押し込まれることで、表面疵や鋼板表面に模様が発生することがある。
【0007】
すなわち、熱間圧延前の高圧水デスケーリングが不十分であった場合、熱間圧延の直前にスケールが剥離した場合、厚いスケールが熱間圧延時に割れた場合、これらの場合に表面疵や模様が発生することが、非特許文献1に示されている。これらの表面疵や模様は外観を損ねるだけでなく、いずれもスケールが鋼材に押し込まれるために、鋼材表面に凹凸が形成されて、鋼材の腐食や破壊の起点となる。したがって、このような表面疵が発生しないようにすることが必須である。そのためには、表面疵が発生した工程を特定し、その工程を改善する必要がある。
【0008】
熱間圧延の仕上圧延段階にて、デスケーリング後から仕上圧延開始まで、あるいは連続熱間仕上圧延の各圧延間(以下、特に断りのない限り連続圧延の各圧延のことを「パス」、各圧延の間のことを「パス間」と言う。)にて、熱間でスケールが剥離して、剥離したスケールをその後の圧延にて押し込んで疵が発生する場合がある。このようなデスケーリングしてから短時間で発生する熱間のスケール剥離はブリスタリングと呼ばれている。ブリスタリングが発生した時の鋼材表面の断面写真を図4に示す。スケールが局部的に膨らんで剥離していることがわかる。
【0009】
非特許文献2にはブリスタリングの発生挙動が示されている。これによると、酸化が進むとスケール内に応力がかかり、ブリスタリングが発生するとしている。温度が高いほど短時間でブリスタリングが発生することが示され、圧延温度を下げることが有効であることが示されている。
【0010】
特許文献1には、熱間でのスケール剥離を防止する目的で、酸化抑制作用のある薬液を含む水溶液を供給することが提案されている。薬剤を用いるため冷却水の薬剤の回収あるいは排水処理の必要がある。
【0011】
特許文献2にはデスケーリング後のブリスタリング発生前に圧延を開始するための圧延方法を提示している。本方法はデスケーリング後に1パスの圧延で製品を製造する場合では効果があるものの、最終デスケーリング後に2回以上の圧延を行う場合にはブリスタリングの発生を抑制できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−272410公報
【特許文献2】特開平11−129016公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「岡田光 熱間圧延におけるスケールの挙動」塑性と加工(日本塑性加工学会誌)、第44巻、第505号(2003−2)、p.12−17
【非特許文献2】「木津太郎 スケールの高温密着性に及ぼす鋼成分と温度の影響」材料とプロセス(日本鉄鋼協会)、第13巻、p.1088−1091
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
非特許文献2に記載された技術のように、鋼材表面が酸化する際のブリスタリングの発生を抑制するために圧延温度を下げると、最終圧延での温度が低くなりすぎる可能性がある。また、特許文献1に記載された技術のように、薬剤を用いるのは薬剤の回収や排水処理のコストがかかる問題点がある。さらに、特許文献2に記載された技術では、2パス目以降の圧延でのブリスタリングの発生を抑制できない。さらに、仕上圧延後に矯正を行う場合には、仕上圧延後のブリスタリング発生も抑制する必要がある。
【0015】
本発明の課題は、最終デスケーリング後に複数回の圧延をする場合や仕上げ圧延後に矯正を施す場合に、鋼材の温度調整や薬剤を用いることなくブリスタリングの発生を抑制し、表面状態の優れた熱間圧延鋼材を得る製造設備および製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、ブリスタリング発生のメカニズムを解析した。即ち、熱間圧延でデスケーリングによる一次スケールを除去後は、鋼板表面が活性化され、また高温であることから酸化が非常に早く進む。鉄が酸化される場合には、一般にはヘマタイト、マグネタイト、ウスタイトの3層構造のスケール構造をとるが、これは雰囲気の酸素が鋼材表面に充分に供給されることで生成し、この様な状態を満足する条件を高酸素濃度雰囲気条件と定義する。つまり、酸素は十分にあるが鉄(Fe)イオンが律速となっていると考えられる。
【0017】
一方、鋼材表面近傍における気相中の酸素が少ないと、酸素の拡散が律速になり、ヘマタイトやマグネタイトは生成せず、ウスタイトからなるスケール構造となる。この様な状態を満足する条件を低酸素濃度雰囲気条件と定義する。
【0018】
高酸素濃度雰囲気条件での酸化速度はスケールの厚みに反比例することが知られている。これはスケールの成長が主にスケール内の鉄イオンの拡散によって律速されるためである。ここからもわかるようにデスケーリング直後の酸化のごく初期にはかなり速い酸化速度となりうる。しかしながら、実際には大気中の酸素濃度は21%程度であるために、酸化の初期は低酸素濃度雰囲気条件とならざるを得ない。その後のスケールの成長により高酸素濃度雰囲気条件へと移行していく。
【0019】
本発明者らは、上記解析から、ブリスタリングの発生には、低酸素濃度雰囲気条件から高酸素濃度雰囲気条件への移行が必要であることを突き止めた。低酸素濃度雰囲気条件ではウスタイト単層のスケール構造であり、高酸素濃度雰囲気条件に移行してヘマタイト、マグネタイト、ウスタイトの三層構造のスケールに変化する。三層構造のスケールとなるとスケール内に大きな圧縮応力が発生することがわかった。まず、ウスタイト単層の場合は新たな酸化物はウスタイトの表面で生成するためスケール内に応力は発生しない。
次に、表面からヘマタイト、マグネタイト、ウスタイトの三層構造のスケールが生成する場合には、新たな酸化物はヘマタイトの表面とヘマタイト/マグネタイト界面にヘマタイトとして生成するが、後者のヘマタイト/マグネタイト界面でマグネタイトが酸化されてヘマタイトが生成する場合に体積増加があるために圧縮応力が発生する。
さらに、表面のヘマタイト層が順次マグネタイトやウスタイトに変化することで、鉄(Fe)イオンがリレーのようにスケールの外層方向へ送られ、スケールは成長し続ける。ここで、ヘマタイト/マグネタイト界面でヘマタイトがマグネタイトに変化し、マグネタイト/ウスタイト界面でマグネタイトがウスタイトに変化する。
【0020】
これらの反応はいずれも固体内で起きて体積増加を伴うために、スケール内に圧縮応力が発生する。このように三層構造のスケールが生成すると、スケール内に大きな圧縮応力が発生する。
【0021】
つまり、ブリスタリングの発生は、非特許文献2や特許文献2にあるような酸化時間やスケールの厚みの臨界点では説明できないことがわかった。スケールがいくら厚くなっても低酸素濃度雰囲気ではブリスタリングは発生しないのである。低酸素濃度雰囲気条件から高酸素濃度雰囲気条件への遷移するときにのみ発生するのである。したがって、本発明者らは、低酸素濃度雰囲気条件でスケールが成長しつづければブリスタリングの発生は起こらないことを見出した。
【0022】
すなわち、デスケーリングでスケールを除去後に、鋼板表面を低酸素濃度雰囲気条件にすることでブリスタリングの発生を抑制できる。そして、低酸素濃度雰囲気条件とするには雰囲気中の酸素濃度が大気よりも低い雰囲気ガスを鋼材表面に吹き付けることで達成できることも見出した。本発明者らは、これら知見に基づき、本発明を成すに至った。本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
【0023】
(1)鋼板の熱間圧延において、デスケーリング、仕上げ圧延機をこの順に備えた鋼板の熱間圧延設備列であって、鋼板搬送方向に対し仕上げ圧延機の前もしくは後または前記仕上げ圧延機が複数の圧延機で構成されている場合はそれら圧延機の間の、少なくとも1箇所で、大気よりも酸素濃度の低いガスを鋼板表面に吹き付けるガス吹き付け設備を有することを特徴とする鋼板の熱間圧延設備列。
【0024】
(2)前記仕上げ圧延機が複数の仕上げ圧延機から構成される連続仕上げ圧延機であることを特徴とする(1)に記載の鋼板の熱間圧延設備列。
【0025】
(3)前記仕上げ圧延機がリバース圧延機であることを特徴とする(1)に記載の鋼板の熱間圧延設備列。
【0026】
(4)前記リバース圧延機の後に、矯正機を配設することを特徴とする(3)に記載の熱間圧延設備列。
【0027】
(5)前記大気よりも酸素濃度の低いガスが、窒素ガス、不活性ガス、水蒸気および二酸化炭素のいずれか一種または二種以上を混合して用いることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の鋼板の熱間圧延設備列。
【0028】
(6)前記大気よりも酸素濃度の低いガスが、窒素ガス、不活性ガス、水蒸気および二酸化炭素のいずれか一種または二種以上を、大気と混合して用いることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の鋼板の熱間圧延設備列。
【0029】
(7)デスケーリングの後、仕上げ圧延を行う熱間圧延鋼板の製造方法において、仕上げ圧延の前もしくは後または前記仕上げ圧延が複数の圧延で構成される場合はそれら圧延の間の、少なくとも1箇所で、大気よりも酸素濃度の低いガスを鋼板表面に吹き付けることを特徴とする熱間圧延鋼板の製造方法。
【0030】
(8)前記仕上げ圧延が、連続した複数の仕上げ圧延機で構成される連続仕上げ圧延機による連続仕上げ圧延であることを特徴とする(7)に記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【0031】
(9)前記仕上げ圧延が、リバース圧延機にて行う圧延であることを特徴とする(7)に記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【0032】
(10)前記仕上げ圧延の後に、矯正を行うことを特徴とする(9)に記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【0033】
(11)前記大気よりも酸素濃度の低いガスが、窒素ガス、不活性ガス、水蒸気および二酸化炭素のいずれか一種または二種以上を混合して用いることを特徴とする(7)〜(10)のいずれか1項に記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【0034】
(12)前記大気よりも酸素濃度の低いガスが、窒素ガス、不活性ガス、水蒸気および二酸化炭素のいずれか一種または二種以上を、大気と混合して用いることを特徴とする(7)〜(10)のいずれか1項に記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【0035】
(13)前記大気よりも酸素濃度の低いガスの吹き付けを、鋼板温度が900℃以上で行うことを特徴とする(7)〜(12)のいずれか1項に記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、表面疵の原因となる高温でのスケール剥離であるブリスタリングの発生を抑制でき、表面性状にすぐれた熱間圧延鋼材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】低酸素濃度雰囲気条件とするために必要な吹き付けガスの酸素濃度と、鋼材温度及びデスケーリング後の時間との関係を示す模式図である。
【図2】本発明を実施する薄鋼板の熱間圧延の設備を示す模式図である。
【図3】本発明を実施する厚鋼板の熱間圧延の設備を示す模式図である。
【図4】ブリスタリングが発生した部位の鋼材の表面の断面写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1に、シミュレーションと実験で求めた低酸素濃度雰囲気条件とするために必要な吹き付けガスの酸素濃度を鋼材温度とデスケーリング後の時間との関係で示す。低酸素濃度雰囲気条件とするには、デスケーリング直後よりも、デスケーリングからある程度時間を経た段階で低酸素濃度のガスを吹き付けるのがより効果的であることがわかる。
【0039】
デスケーリング直後はスケール厚が非常に薄く、また鋼板温度が高いため、鉄酸化物の成長速度が非常に速い(図1のA領域)。そのために、ヘマタイト、マグネタイト、ウスタイトからなる三層構造のスケールを維持するには、気相からの酸素供給が多量に必要となるが、大気中には約21%の酸素しかないために酸素の供給律速となり、三層構造のスケールを維持しにくく、低酸素濃度雰囲気条件になりやすいためである。従って、図1のA領域では、低酸素ガスを吹き付けても、ブリスタリングの抑制効果は低い。
【0040】
次に、同じ温度でも時間が経過すると鉄酸化物層が厚くなり、鉄酸化物層の最表面では鉄イオンの供給律速となり、高酸素濃度雰囲気条件となる。同様に、同じ時間経過、つまり同程度の鉄酸化物層厚でも温度が低下すると、鉄酸化物の成長速度が低下し、鉄イオンの供給律速となり、高酸素濃度雰囲気条件となる。このためブリスタリングを抑制するためには、酸素濃度を下げる必要がある(B領域)。従って、図1のB領域では、大気よりも酸素濃度の低いガスを鋼板に吹き付けることにより、低酸素濃度雰囲気条件を作ることによりブリスタリングを抑制することができる。
【0041】
また、更に時間が経過し鉄酸化物層が厚くなったり、また、同程度の鉄酸化膜厚でも温度が下がると、鉄酸化物の最表面は、ますます酸素律速となる(図1のC領域)。従って、ブリスタリングを抑制するには、大気に比べ格段に酸素濃度を下げたガスを吹き付ける必要がある。例えば、酸素濃度が10%以下にまでしないといけない。しかしながら温度が低くなるほどスケールは剥離しにくくなり、900℃以下ではブリスタリングは発生しなくなる。したがって、本発明の対象となるのは鋼材温度が900℃超の温度域である。
【0042】
このようなブリスタリングが表面疵となるには製品に近い段階での圧延が最も重要である。従って本発明は、デスケーリング後に行われる仕上圧延の圧延パス間および仕上圧延後から矯正の間で施される。温度や圧延速度によってはデスケーリング後と圧延までの間で行ってもよい。
例えば、熱間連続圧延では、各圧延パス間、デスケーリングから最初の圧延までの間(つまり最初の圧延の前)、および最終圧延の後の1箇所または2箇所以上において低酸素雰囲気条件とするとよい。つまり、連続圧延機の最初の圧延機の前、最後の圧延機の後ろ、および各圧延機間に低酸素雰囲気条件を作り出す設備を設けるとよい。
【0043】
また、例えば、リバース圧延機による熱間圧延では、デスケーリングからリバース圧延の間、またはリバース圧延から矯正までの間の一方または両方を低酸素雰囲気条件とするとよい。つまり、リバース圧延機の前後に低酸素雰囲気を作り出す設備を設けるとよい。
【0044】
低酸素雰囲気を作り出すためには、大気より酸素濃度の低いガスを鋼板表面に吹き付ければよい。ガスの吹き付けは、鋼材の単位表面積1mあたり100L/分以上必要である。これは鋼材表面へのガス供給が効果的に大気中からの酸素の侵入を抑制するのに必要な流量である。
一例として、薄鋼板の製造を例に説明する。薄鋼板は粗圧延終了後にデスケーリングを施して、数列に並んだ仕上圧延機を通して連続した熱間圧延(連続熱間圧延または連続仕上圧延という。)を施した後に、水冷して製造される。仕上圧延機は連続して複数台あり、6段から7段である場合が多い。この場合には各仕上圧延機間にて低酸素濃度のガスの吹き付けを行うことでブリスタリングの発生を抑制できる。圧延温度と圧延速度によってはデスケーリング装置から仕上圧延機までも行う必要がある。これは図1から必要の有無を判断できる。
【0045】
図1の破線は薄鋼板を連続熱間圧延で製造する際の粗圧延後のデスケーリングから連続仕上げ圧延の最終パスの値までの温度−時間経路の一例を示す。この図で示される例では1060℃付近でデスケーリングを終え、1050℃付近で1段目、1010℃付近で2段目、980℃付近で3段目の圧延が施されている。この例では1段目直後まではA領域にあるため低酸素ガスの吹き付けの必要はないが、2段目以降はB領域になるため、低酸素ガスの吹き付けが必要になり、5段目以降はC領域となるため、さらに10%以下の酸素濃度が必要であることが示されている。
【0046】
また、複数回の圧延を連続して行う場合、各圧延パス直後はブリスタリングが発生しにくい状況になる。これは圧延により強くスケールが押しつけられることによりスケールの密着性が上がるためと、圧延によりスケールが変形することでスケール内の応力が解放されるためである。ブリスタリングの発生は圧延パスの後、スケールの三層構造への変化が再び進行して応力が発生することによって応力が発生する約2秒以上経過してからが問題となる。したがって複数回の圧延の場合は、各圧延機間(圧延パス間)での通過時間が約2秒を超える場合に本発明が有効となる。
【0047】
薄鋼板のように連続して圧延を施す場合、各圧延パス間の通過時間が後段ほど短くなる。通常の連続熱間圧延の場合ブリスタリングの発生が問題となるのは1〜2段目間や2〜3段目間である。ここでは各仕上圧延機間(各圧延パス間)の通過時間が長いためにスケールの三層構造への変化が進行し、スケールに再び応力が発生することによって、ブリスタリングが発生する。従って、この領域では、ブリスタリングの抑制には低酸素濃度のガスを吹き付けることが最も効果がある。
【0048】
3段目と4段目間以降になると圧延速度が上がり、スケールの三層構造への変化が進行して応力が発生する前に、次の圧延が始まるため、再び応力が発生するための時間が無くなってくる。また、圧延されて強くスケールが押しつけられることによりスケールの密着性が上がり、圧延によりスケールが変形することでスケール内の応力が解放される。これらにより、3段目と4段目間以降では、酸素濃度を下げても高酸素濃度雰囲気になりやすいのにもかかわらず、酸素濃度をさほど下げなくても1−2段目間、2−3段目間に比べてブリスタリング発生がしにくくなる。
【0049】
次に、厚鋼板の製造を例に説明する。厚鋼板の場合は、粗圧延終了後に仕上圧延が施される。通常、仕上圧延はリバース圧延で施される。仕上圧延の圧延時には必要に応じて圧延パス直前または直後にデスケーリングが施される。仕上圧延終了後は空冷あるいは水冷され必要に応じて矯正が施されて製品となる。仕上圧延中あるいは仕上圧延後の900℃程度までの温度域でブリスタリングが発生し易く、一旦発生すると表面疵になる。前述したように、900℃以下ではブリスタリングは発生しにくい。従って、仕上圧延中に鋼材が滞在する領域と仕上圧延後鋼材が900℃となるまでの領域で、ブリスタリング発生を抑制するための、低酸素濃度のガスの吹き付けが有効となる。リバース圧延であるために、圧延機の前あるいは後での低酸素濃度ガスの吹き付けが有効である。
【0050】
本発明では酸化を完全に抑制する必要はない。スケールは、三層構造への変化が開始しなければ、いくら厚くなってもよい。すなわち、鋼材表面が、900℃に冷却されるまでの間、低酸素濃度雰囲気となればよいのである。従って雰囲気を完全に仕切る必要はなく、酸素濃度を大気よりも減じたガスを吹き付ければよい。もちろん雰囲気の仕切りがあっても本発明の効果は発揮される。
【0051】
吹き付けられるガスは大気よりも酸素濃度を減じたガスであればよいが、雰囲気の仕切りを設けない場合は、10%以下の酸素濃度とすることが望ましい。図1のBの領域で1段目から3段目の圧延が実施され、雰囲気の仕切りを設けない場合は、10%以下の酸素濃度のガスを吹き付けて雰囲気を確保すればより好ましい。当然さらに酸素濃度を減じることは本発明の効果を高めることとなる。
【0052】
酸素濃度を下げるには非酸化性のガスを用いればよい。例えば、窒素やアルゴンやヘリウムなどの不活性ガスを用いることが好ましい。また酸化性であっても水蒸気や二酸化炭素を用いることができる。これは水蒸気や二酸化炭素には酸化性ではあるものの、これらのガスによる酸化は非常に遅いためである。従って酸素濃度を減じたガスとして蒸気や燃焼排ガスといった、ガスを用いることができる。これらのガスを単独または2種類以上を混合して鋼板表面に吹き付けてもよいし、これらのガスの1種または2種以上と大気を混合して鋼板表面に吹き付けてもよい。
【実施例1】
【0053】
薄鋼板への適用
図2に示すような薄鋼板の連続熱間圧延設備において、連続仕上圧延前のデスケーリングと連続仕上圧延機の間、連続仕上圧延の第1段と第2段の仕上圧延機の間に鋼板へのガス吹き付け装置を設けた。本設備を用いて主な成分として質量%でCを0.09%、Siを0.014%、Mnを0.40%、Pを0.004%、Sを0.003%を含む鋼材を圧延した。連続仕上圧延前で板厚30mm、鋼材温度が1080℃の鋼材を、デスケーリングを施して7段の連続仕上圧延を行い、板厚3.2mmまで圧延した。この時の連続仕上圧延前および連続仕上圧延機内での鋼板表面へのガスの吹き付け条件を変えて薄鋼板を製造し、その時得られた鋼材の表面状態を表1に示すが、本発明により鋼材の表面疵の発生が抑制された。
【0054】
【表1】

【実施例2】
【0055】
厚鋼板への適用
図3に示すような厚鋼板の熱間圧延の設備において、仕上圧延機(リバース圧延機)の前後に鋼板へのガス吹き付け装置を設けた。本設備を用いて主な成分として質量%でCを0.15%、Siを0.07%、Mnを0.7%、Pを0.008%、Sを0.008%を含む鋼材を圧延した。仕上圧延前で板厚120mm、鋼材温度が930℃の鋼材を、仕上圧延機にて11パスの仕上圧延を行った。圧延はリバース圧延で行い、板厚22mまで圧延した。1から10パスまでは圧延前にデスケーリングを施し、11パス目はデスケーリングを行わずに圧延した。この時の仕上圧延前および仕上圧延後での鋼板表面へのガスの吹き付け条件と圧延条件を変えて厚鋼板を製造し、その時得られた鋼材の表面状態を表2に示す。本発明の実施により表面疵の発生を抑制することができた。
【0056】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は鋼材を熱間圧延する時の表面疵の発生を抑制する製造設備または製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0058】
a 粗圧延機
b 仕上圧延機群
c デスケーリング
d 低酸素濃度ガス吹き付け
e 仕上圧延機
f 水冷設備
g 熱間矯正機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の熱間圧延において、デスケーリング、仕上げ圧延機をこの順に備えた鋼板の熱間圧延設備列であって、
鋼板搬送方向に対し仕上げ圧延機の前もしくは後または前記仕上げ圧延機が複数の圧延機で構成されている場合はそれら圧延機の間の、少なくとも1箇所で、大気よりも酸素濃度の低いガスを鋼板表面に吹き付けるガス吹き付け設備を有することを特徴とする鋼板の熱間圧延設備列。
【請求項2】
前記仕上げ圧延機が複数の圧延機から構成される連続仕上げ圧延機であることを特徴とする請求項1に記載の鋼板の熱間圧延設備列。
【請求項3】
前記仕上げ圧延機がリバース圧延機であることを特徴とする請求項1に記載の鋼板の熱間圧延設備列。
【請求項4】
前記リバース圧延機の後に、矯正機を配設することを特徴とする請求項3に記載の熱間圧延設備列。
【請求項5】
前記大気よりも酸素濃度の低いガスが、窒素ガス、不活性ガス、水蒸気および二酸化炭素のいずれか一種または二種以上を混合して用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の鋼板の熱間圧延設備列。
【請求項6】
前記大気よりも酸素濃度の低いガスが、窒素ガス、不活性ガス、水蒸気および二酸化炭素のいずれか一種または二種以上を、大気と混合して用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の鋼板の熱間圧延設備列。
【請求項7】
デスケーリングの後、仕上げ圧延を行う熱間圧延鋼板の製造方法において、仕上げ圧延の前もしくは後または前記仕上げ圧延が複数の圧延で構成される場合はそれら圧延の間の、少なくとも1箇所で、大気よりも酸素濃度の低いガスを鋼板表面に吹き付けることを特徴とする熱間圧延鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記仕上げ圧延が、連続した複数の圧延機で構成される連続仕上げ圧延機による連続仕上げ圧延であることを特徴とする請求項7に記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記仕上げ圧延が、リバース圧延機にて行う圧延であることを特徴とする請求項7に記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記仕上げ圧延の後に、矯正を行うことを特徴とする請求項9に記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記大気よりも酸素濃度の低いガスが、窒素ガス、不活性ガス、水蒸気および二酸化炭素のいずれか一種または二種以上を混合して用いることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記大気よりも酸素濃度の低いガスが、窒素ガス、不活性ガス、水蒸気および二酸化炭素のいずれか一種または二種以上を、大気と混合して用いることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記大気よりも酸素濃度の低いガスの吹き付けを、鋼板温度が900℃以上で行うことを特徴とする請求項7〜12のいずれか1項に記載の熱間圧延鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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