説明

熱電モジュール及び該熱電モジュールを用いた発電方法

【課題】効率よく短時間で熱することが可能な素材を加熱して熱源として用い、当該素材を熱する処理の有無を発電のスイッチとすることが可能な熱電モジュールの提供。
【解決手段】熱電素子及び当該素子の接続電極を一対の支持基板間に有する熱電モジュール本体を備え、カーボンナノチューブを含むゲル状組成物を一方の支持基板の表面に接触させた、熱電モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電モジュール及び該熱電モジュールを用いた発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新たな電力源として、熱電効果を利用した発電機構の開発が行われるようになってきている。熱電効果は、電気伝導体や半導体などの金属中において、熱流の熱エネルギーと電流の電気エネルギーが相互に及ぼし合う効果の総称であり、ゼーベック効果、ペルティエ効果、トムソン効果の3つの効果をいう。このうち、ゼーベック効果は物体の温度差が電圧に直接変換される現象であり、電圧を温度差に変換するペルティエ効果とはちょうど逆の関係にある。
【0003】
ゼーベック効果によれば、温度差を電圧に変換することができ、これを利用して電気を発生させることができる。このような熱電発電システムを実現する熱電モジュールについては、これまでに様々な開発がなされてきている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
このような熱を電気に変換するシステムにおいては、熱を供給すれば発電し、熱の供給を止めれば発電も停止することとなり、熱の供給の有無を発電のスイッチとして用いることができる。
【0005】
そこで、効率よく短時間で熱することが可能な素材を加熱して熱源として用いることで、このようなスイッチ機能を実現できると考えられるが、そのような研究はほとんどなされていない。
【非特許文献1】L. E. Bell, Science 321, 1457-1461 (2008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
効率よく短時間で熱することが可能な素材を加熱して熱源として用い、当該素材を熱する処理の有無を発電のスイッチとすることが可能な熱電モジュールを提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、驚くべき事に、カーボンナノチューブを分散させたゲル状組成物に光を吸収させて熱源とすれば、光を当該ゲル状組成物に照射することで発電させることを可能とする熱電モジュールを提供できることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は例えば以下の(A)〜(B)の熱電モジュール及び該熱電モジュールを用いた発電方法に係るものである。
(A)熱電素子及び当該素子の接続電極を一対の支持基板間に有する熱電モジュール本体を備え、カーボンナノチューブを含むゲル状組成物を一方の支持基板の表面に接触させた、熱電モジュール。
当該熱電モジュールは、以下のものを含む。
(A−1)カーボンナノチューブを含むゲル状組成物が、タンパク質−ポリエチレングリコール−リン脂質コンジュゲートをカーボンナノチューブに吸着させた複合体及びポリアクリルアミドからなる、(A)に記載の熱電モジュール。
(A−2)タンパク質−ポリエチレングリコール−リン脂質コンジュゲートにおけるタンパク質が、リゾチームである、(A−1)に記載の熱電モジュール。
(A−3)カーボンナノチューブを含むゲル状組成物が、イオン液体及びカーボンナノチューブからなる、(A)に記載の熱電モジュール。
(A−4)イオン液体が、1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸、1-n-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸、1-n-オクチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸、及び1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビスビス(トリフリルメチルスルホニル)イミド酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(A−3)に記載の熱電モジュール。
(A−5)カーボンナノチューブを含むゲル状組成物の厚みが、0.3mm〜2.0mmである、(A)、(A−1)〜(A−4)のいずれかに記載の熱電モジュール。
(B)(A)、(A−1)〜(A−5)のいずれかに記載の熱電モジュールの支持基板に接触したカーボンナノチューブを含むゲル状組成物に光を吸収させ、該熱電モジュールで発電する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱電モジュールであれば、光の照射の有無を発電のスイッチとすることができる。すなわち、発電が望まれる時には光の照射を行い、発電が望まれない時には光の照射を行わないようにすることで、発電の有無を短時間で簡便に切り替えることができる。また、光照射により可能であるから、例えば危険な領域で作業を行うロボット等(宇宙空間での作業用ロボット、災害救助用ロボットなど)の遠隔操作等にも有用である。
なお、光としては、可視領域から赤外線領域までの広い波長領域の光を用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0011】
本発明は、熱電素子及び当該素子の接続電極を一対の支持基板間に有する熱電モジュール本体を備え、カーボンナノチューブを含むゲル状組成物を一方の支持基板の表面に接触させた、熱電モジュールに係る。なお、熱電モジュール本体と電力消費機器をリード線で接続し、熱電モジュールで発電された電気を利用して該機器を作動させることができる。
【0012】
該熱電モジュール本体は、対向して配置された一対の支持基板と、該一対の支持基板間に配置された複数の熱電素子とを備え、該一対の支持基板と該熱電素子との間に形成された接続電極によって該熱電素子が接続されている。また、ここで、該熱電素子は絶縁層を介してあるいは接触することなく交互に配置された複数のp型熱電素子及びn型熱電素子であり、該接続電極はp型熱電素子及びn型熱電素子を接続する。
【0013】
支持基板の材料としては、熱電モジュールに用い得るものであれば特に制限されるものではなく、例えばセラミック基板が例示できる。
【0014】
p型熱電素子及びn型熱電素子の材料としては、熱電モジュールに用い得るものであれば特に制限されるものではなく、例えばp型熱電素子材料として(BiSb)2Te3が、n型熱電素子材料としてBi2(TeSe)3が例示できる。
【0015】
また、例えば、TEFC1-03112(Japan Tecmo)等を本願の熱電素子モジュールを製造するための熱電モジュール本体に用いることができる。
【0016】
本発明で用いられるカーボンナノチューブは特に制限されるものではなく、多層のもの(多層カーボンナノチューブ、「MWNT」と呼ばれる)から単層のもの(単層カーボンナノチューブ、「SWNT」と呼ばれる)まで使用することができる。好ましくは、単層ウォール・カーボンナノチューブが用いられる。用いるSWNTの製造方法としては、特に制限されるものではなく、触媒を用いる熱分解法(気相成長法と類似の方法)、アーク放電法、レーザー蒸発法、HiPco法(High-pressure carbon monoxide process)及びCVD法(Chemical Vapor Deposition)等、公知のいずれの製造方法を用いても構わない。
【0017】
本願の熱電素子モジュールが有するカーボンナノチューブを含むゲル状組成物は、カーボンナノチューブがゲル中に分散したものである。分散の度合いはできるだけ均一であることが好ましく、少なくとも目視によってカーボンナノチューブ濃度に偏りがあることが確認できないことが必要である。分散の度合いが低いと、光の吸収効率が低下するため、好ましくない。
【0018】
カーボンナノチューブは本来疎水性であるため、溶媒中での分散が難しく、従って均一にカーボンナノチューブが分散した組成物として利用することが難しい。そこで、本発明の熱電素子モジュールが有するカーボンナノチューブを含むゲル状組成物を作製するにあたっては、該組成物中にできるだけ均一にカーボンナノチューブが分散するように工夫をする必要がある。
【0019】
例えば、 タンパク質−ポリエチレングリコール−リン脂質コンジュゲート(タンパク質−PEG−PLコンジュゲート)をカーボンナノチューブに吸着させたもの(以下、「コンジュゲートCNT複合体」と称することがある)を用いることで、ゲル組成物中にカーボンナノチューブを均一に分散させることができる。なお、当該タンパク質−ポリエチレングリコール−リン脂質コンジュゲートは、特開2008−255081号公報に開示される「リン脂質−ポリエチレングリコール−分子認識素子コンジュゲート」において、分子認識素子がタンパク質であるものに相当する。なお、各結合様式としては、例えば、タンパク質とポリエチレングリコールとの結合としては、タンパク質が有するアミノ基、チオール基等の基と、ポリエチレングリコールのヒドロキシ基が結合したものが挙げられる。また、ポリエチレングリコールとリン脂質との結合としては、ポリエチレングリコールのヒドロキシ基と、リン脂質のセリンやコリン等の部分(リンと結合したグリセリン又はスフィンゴシン以外の部分)が結合したものが挙げられる。
【0020】
当該コンジュゲートCNT複合体を構成するタンパク質−ポリエチレングリコール−リン脂質コンジュゲートにおけるタンパク質は、カーボンナノチューブの水性溶媒への分散性を高めるものであれば特に制限されないが、特に、リゾチーム、アルブミン、ヘモグロビン、ミオグロビン、ヒストン、レクチン、抗体等のタンパク質が好ましく用いられる。なかでもリゾチーム(LYZ)が好ましい。
【0021】
また、当該コンジュゲートCNT複合体を構成するタンパク質−ポリエチレングリコール−リン脂質コンジュゲートにおけるポリエチレングリコール(PEG)としては、例えば、分子量300〜10000程度のものを使用でき、好ましくは分子量500〜8000程度、より好ましくは分子量1000〜4000程度のものがよい。
【0022】
さらにまた、当該コンジュゲートCNT複合体を構成するタンパク質−ポリエチレングリコール−リン脂質コンジュゲートにおけるリン脂質(PL)としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ジホスファチジルグリセロール(カルジオリピン)等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質等が挙げられ、これらの中でも、ホスファチジルエタノールアミンが好ましい。
【0023】
なお、当該コンジュゲートCNT複合体は、例えば、PL−PEG−(N-ヒドロキシスクシンイミド;NHS)、PL−PEG−(マレイミド)などの、一端(PEG側端)に連結基を有するPL−PEG誘導体をタンパク質と反応させることで製造することができる。
【0024】
タンパク質−ポリエチレングリコール−リン脂質コンジュゲートとカーボンナノチューブとを緩衝液中で混合することによっても、コンジュゲートCNT複合体を得ることができるが、例えば、PL−PEG−(N-ヒドロキシスクシンイミド)、PL−PEG−(マレイミド)等とカーボンナノチューブとを緩衝液中に混合し、これにタンパク質を加えて反応させ、コンジュゲートCNT複合体を得ることもできる。具体的には、例えば、製造例1に記載の条件により、コンジュゲートCNT複合体を得ることができる。
【0025】
なお、タンパク質−ポリエチレングリコール−リン脂質コンジュゲートは、リン脂質のアルキル基の疎水性相互作用によって、カーボンナノチューブに吸着しているものと考えられる。また、PEG及びタンパク質はカーボンナノチューブの水性溶媒への分散性を高めると考えられる。またさらに、タンパク質は、カーボンナノチューブと、疎水性相互作用、π-π相互作用、及びタンパク質表面のアミン部位との相互作用等により結合し、カーボンナノチューブとの吸着にも寄与しているものと考えられる。
【0026】
コンジュゲートCNT複合体は、水性溶媒への分散性が高く、カーボンナノチューブを分散させたゲル状組成物の製造に適している。このようなゲル状組成物は、例えば高分子ゲル内にコンジュゲートCNT複合体を分散させて製造することができる。用いる高分子ゲルの種類は特に限定されないが、熱に弱い(熱により容易に融解する)ゲルは好ましくないため、物理架橋ゲルよりも化学架橋ゲルが好ましい。特に、アクリルアミド系ゲルが好適である。
【0027】
製造方法としては、コンジュゲートCNT複合体を溶解した水溶液を用い、通常のゲル製造方法に従ってゲルを製造すればよい。
【0028】
例えば、カーボンナノチューブを均一に分散したポリアクリルアミドゲルを作製する場合は、アクリルアミド(AA)水溶液、メチレンビスアクリルアミド(BIS)水溶液及びコンジュゲートCNT複合体水溶液を混合し、これに過硫酸アンモニウム(APS)及びテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を加えて重合させればよい。具体的には、例えば製造例2に記載の条件により行うことができる。
【0029】
またさらに、コンジュゲートCNT複合体を用いなくとも、イオン液体中に直接カーボンナノチューブを溶解させることにより、カーボンナノチューブを均一に分散したゲル状組成物を得ることもできる。このようなゲル状組成物は、例えば特開2004−276535に開示されている。
【0030】
本発明のゲル状組成物を製造するために用いられるイオン液体は、特に限定されるものではなく、従来知られた各種のイオン液体を用いることができるが、室温又は室温に近い温度(特に10〜35℃)において液体であって安定なものが好ましい。なかでも、下記の一般式(I)〜(IV)で表されるカチオンと陰イオン(X−)よりなるイオン液体が特に好ましい。
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
【化3】

【0034】
【化4】

【0035】
上記の式(I)〜(IV)において、Rは炭素数10以下のアルキル基またはエーテル結合を含み、炭素と酸素の合計数が10以下のアルキル基を表す。式(I)においてR1は炭素数1〜4のアルキル基または水素原子を表し、炭素数1のメチル基がより好ましい。また式(I)において、RとR1は同一ではないことが好ましい。式(III)及び(IV)において、Xは1〜4の整数である。
【0036】
陰イオン(X−)としては、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ビス(トリフロロメチルスルホニル)イミド酸、過塩素酸、トリス(トリフロロメチルスルホニル)炭素酸、トリフロロメタンスルホン酸、ジシアンアミド、トリフロロ酢酸、有機カルボン酸、またはハロゲンイオンより選ばれた少なくとも1種である。
【0037】
なかでも、特に、1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸(1-n-butyl-3-methylimidazoliumhexafluorophosphate;[C4mim][PF6])、1-n-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸(1-n-hexyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate;[C6mim][PF6])、1-n-オクチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸(1-n-octyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate;[C8mim][PF6])、1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビスビス(トリフリルメチルスルホニル)イミド酸(1-n-butyl-3-methylimidazolium bis(triflylmethylsulfonyl)imide;[C4mim][TF2N])が、イオン液体として好適である。
【0038】
なお、イオン液体は、1種のみでも2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
イオン溶液へカーボンナノチューブを溶解させる方法は、特に制限されず、例えば適量のイオン溶液及びカーボンナノチューブを乳鉢内でよく混合することにより、カーボンナノチューブが分散したゲル状組成物を得ることができる。また、カーボンナノチューブのイオン性液体への添加量は特に制限はないが、イオン性液体に対するカーボンナノチューブの量は重量比で1%程度が好ましい。またカーボンナノチューブの純度が悪くなるほどゲル化しにくくなるため触媒等の不純物が少ないものが好ましく、カーボンナノチューブの純度が70%程度以上のものがより好ましい。具体的には、例えば製造例3に記載の条件により、行うことができる。
【0040】
例えば以上のようにして製造されるカーボンナノチューブが分散したゲル状組成物は、熱電モジュールの一対の支持基板の一方の支持基板の表面に接触させられる。
【0041】
熱電モジュールの支持基板への接触方法としては、特に限定されず、例えば当該ゲル状組成物を製造中、固まる前に該基板上に注ぐことで接触させてよい。このようにすれば、基板に接触した状態で当該ゲル状組成物が固まることとなる。
【0042】
あるいは、特にイオン液体を用いて製造したゲル状組成物の場合は、基板上に当該ゲル状組成物を体積させ、固定し、接触させることもできる。
【0043】
また、支持基板上に直接当該ゲル状組成物が接触していなくとも、例えば光透過性の容器(フィルム、袋等でもよい)にゲル状組成物を封入し、これを該基板上に接触させた状態のものも、本願でいう「ゲル状組成物が支持基板の表面に接触」している状態に該当する。
【0044】
なお、接触させるゲル状組成物の厚みとしては、薄すぎても厚すぎても、光を照射した際効率の良い発電ができない。好ましい厚みは、0.3mm〜2.0mmであり、より好ましくは0.5〜1.5mmである。
【0045】
なお、ゲル状組成物の厚みとは、該ゲル状組成物を接触させる基板の面を上にして水平にしたときの、該基板表面から測定した該ゲル状組成物の厚みをいい、ゲル状組成物の最も高い部分から該基板表面までの距離である。
【0046】
ゲル状組成物が接触させられた支持基板と対になっている、もう一方の支持基板表面には、ヒートシンクが接触させられることが好ましい。ゲル状組成物が光を吸収して発熱する際、熱電モジュールの支持基板間での温度差を大きくし、発電効率を上げることができるからである。ヒートシンクとしては、特に制限されるものではないが、例えばアルミニウム基板が好ましい。
【0047】
このようにして製造される熱電モジュールは、カーボンナノチューブが分散したゲル状組成物が光を吸収し、発熱することによって発電する。
【0048】
該ゲル状組成物に照射する光の種類は、可視〜近赤外領域の波長(400〜1100nm)を有する光であれば、特に限定されない。さらに、該ゲル状組成物は、1100nm以上の波長の光も吸収して発熱する。また、レーザーは指向性が極めて高いため遠隔操作が可能なことから、レーザーを用いるのが好適である。
【0049】
照射する光の強さは、ゲル状組成物が溶解しない限り、特に制限されるものではない。特にイオン液体を用いて作製したゲル状組成物は〜10W程度のレーザー出力にも十分耐えることができ、レーザーを照射する間、少なくとも発光ダイオードを発光させ続けることが十分可能な程度の発電を持続できる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0051】
製造例1.LYZ-PEG-PL-SWNTの合成
LYZ-PEG-PL-SWNT(リゾチーム−ポリエチレングリコール−リン脂質コンジュゲートが単層カーボンナノチューブに吸着したもの;コンジュゲートCNTの1例)を次のようにして合成した。
【0052】
SWNT(5 mg)(純度>95%)(Hipco super-purified SWNTs; Carbon Nanotechnologies)と3-(N-succinimidylocyglutaryl) aminopropyl, polyethyleneglycol carbamyl distearoylphosphatidylethanolamine(NHS-PEG-PL)(PEG分子量 = 2000)(Nihon Oil and Fats)(50 mg)をホウ酸緩衝液(50 mL)(0.1 M, pH 8.5)中で30 min間、氷冷下(>8℃)、超音波照射(USD-2R; AS ONE)を行った。得られた溶液をろ過[ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜、Millipore、孔径=100 nm]し、ホウ酸緩衝液(50 mL)(0.1 M, pH 8.5)で洗浄することで余分なNHS-PEG-PLを除去した。PTFE膜上のNHS-PEG-PL-SWNT(NHS-PEG-PLコンジュゲートがSWNTに吸着したもの)をホウ酸緩衝液(50 mL)(0.1 M, pH 8.5)に再分散後、LYZ(卵白由来)(100 mg)を添加し、室温で1時間攪拌した。得られた溶液を遠心分離(11000 rpm、15 min、4 °C)(1720; Kubota)し、上澄を注意深く回収した。回収した上澄をろ過し(PTFE膜、Millipore、孔径=100 nm)、蒸留水(200 mL)で洗浄することで、余分なLYZを除去した。PTFE膜上のLYZ-PEG-PL-SWNT(LYZ-PEG-PLコンジュゲートがSWNTに吸着したもの)を蒸留水(20 mL)に再分散後、液体窒素により急速凍結し、凍結乾燥(48 h)(EYELA Freeze Dryer FD-5N; Tokyo Rikakikai)することで粉末状のLYZ-PEG-PL-SWNTを得た。
【0053】
なお、図1aにSWNTにLYZ-PEG-PLコンジュゲートが吸着した状態を表した模式図を示す。
【0054】
また、得られた粉末状のLYZ-PEG-PL-SWNTを水に分散させたイメージを図1bに示す。当該イメージから、SWNTが均一に分散していることがわかる。
【0055】
さらに、LYZ-PEG-PL-SWNTを水に分散させ、分光光度計(V-630; JASCO) により、吸収スペクトルを室温で解析した結果を図1cに示す。なお、サンプルは濃度が330 μg /mLになるように超音波処理(< 8℃、5 min)により水に分散させ、本溶液(1 mL)を石英セル(光路長 = 1 cm)(S15-UV-10; GL Science)中でモニタリングした。
【0056】
一般的に、溶媒に分散化したSWNT(Hipco)は、第一金属バンド(M11:440-600 nm)および第二半導体バンド(S22:550-800 nm)にピークが観察されるところ、得られた吸収スペクトルでは第一金属バンドおよび第二半導体バンドが観察された。このことから、SWNTはよく分散していることが確認できた。
【0057】
さらにまた、LYZ-PEG-PL-SWNTを水に溶解させ、原子間力顕微鏡(AFM)(JSPM-4210; JEOL)で観察した結果のイメージを図1dに示す。SWNTがよく分散されていることが確認できた。なお、当該観察では、タッピングモードのカンチレバー(NSC35/no Al; MikroMasch)を使用した。
【0058】
製造例2.LYZ-PEG-PL-SWNT-PAA(LYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドゲル)の合成
40% acrylamide(AA)/ N,N’-methylenebisacrylamide(BIS)水溶液(19:1)(0.5 mL)(Nacalai Tesque)をLYZ-PEG-PL-SWNT水溶液(1 mL; 各濃度)に加えた。本溶液(1.5 mL)に10% ammonium persulfate(APS)水溶液(10 μL)(Bio-Rad Laboratories)とN,N,N’,N’-tetramethylethylenediamine(TEMED)(10 μL)(wako)を加えた。ハイドロゲルのフリーラジカル重合は、PMMAセル(Tokyo Glass Kikai)内で室温で5分から15分かけて行った。カエルの形をしたゲルは、polydimethylsiloxane(PDMS)(Dowcorning)の鋳型で作製した。すなわち、まずカエルの形状の穴の開いたPDMS鋳型をガラス基板上に置いた。次に、LYZ-PEG-PL-SWNTを混合した重合溶液(100 μL)をこの穴の中に入れ、5分間重合を行った。PDMSの鋳型をゆっくりと取り外すと、ガラス基板上にカエルの形状をしたLYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドゲルが得られた。
【0059】
このことから、カーボンナノチューブを分散した状態のゲルを、様々な形に固めることができることがわかった。
【0060】
なお、図2a(左)にLYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドゲルのイメージ、及び本製造例で得られたカエルの形状をしたLYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドゲルのイメージを示す。図2a(右)には、LYZ-PEG-PL-SWNTの替わりに単なるSWNTを用いて同様に作製した、ポリアクリルアミドゲルのイメージを示す。LYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドゲルの方が、SWNTが均一に分散していることが確認できた。
【0061】
また、図2bに、製造例1と同様にしてLYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドゲルの吸収スペクトルを室温で解析した結果を示す(当該ゲル中のLYZ-PEG-PL-SWNT濃度は170 μg /mLであった)。第一金属バンドおよび第二半導体バンドが観察されたことから、SWNTはゲル中でよく分散していることが確認できた。
【0062】
さらに、図2cに、本製造例で得られたLYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドゲルの走査型電子顕微鏡(SEM)のイメージを示す。左側のイメージに多数確認されるマクロポアの1つを拡大したのが右側のイメージである。右側のイメージから、LYZ-PEG-PL-SWNTはポリアクリルアミドゲル中のマクロポーラス構造内に内包されていることがわかった。
【0063】
以上の結果から推測されるポリアクリルアミドゲル中のLYZ-PEG-PL-SWNTの模式図を図2dに示す。
【0064】
解析例1.温度解析
LYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドゲル(以下、「LYZ-PEG-PL-SWNT-PAAゲル」と表記することがある)、SWNTのみを分散させたポリアクリルアミドゲル(以下、「SWNT-PAAゲル」と表記することがある)、ポリアクリルアミドゲル(以下、「PAAゲル」と表記することがある)をPMMAセル(Tokyo Glass Kikai)中で作製した後、1064 nmの近赤外レーザー(NIRレーザー)を照射した。レーザー出力は1又は3 Wとした。ゲル中のLYZ-PEG-PL-SWNTおよびSWNTの濃度はいずれも330 μg/mLとした。温度センサー(S8100B; Seiko)を用いて温度変化を直接モニタリングした。
【0065】
図3aに、本温度解析における、レーザー照射の概要示すイメージを示す。
【0066】
図3bに、本温度解析の結果を示す。図3bから、LYZ-PEG-PL-SWNT-PAAゲルのようにSWNTを均一に分散させたゲルの方が、分散できていないゲル(SWNT-PAAゲル)に比べ、著しく光発熱効果が高まることがわかった。
【0067】
実施例1.熱電モジュールの作製及び性能評価(使用ゲル:LYZ-PEG-PL-SWNT-PAAゲル)
熱電モジュール本体(8.3 mm×8.3 mm×2.4 mm)(Z = 2.23×10-3, R = 2.2 Ω)(TEFC1-03112; Japan Tecmo)の冷却部位に熱伝導性の両面テープ(PA-069B; Ainex)を貼り、その上にアルミ基板(10 mm×10 mm×1.0 mm)(HDD Thermal Conduction Chip set; Groovy)を取り付けた。40% AA/BIS水溶液(19:1)(0.5 mL)をLYZ-PEG-PL-SWNT水溶液(1 mL;1.5 mg/mL)に加えた。本溶液に10% APS水溶液(5 μL)とTEMED(5 μL)を加え、得られた溶液(100 μL)を上記熱電モジュール本体の加熱部位にすばやく乗せて、室温で5分間重合してポリアクリルアミド(PAA)ゲルとした。PAAゲル中のLYZ-PEG-PL-SWNTの濃度は約1 mg/mLとし、当該ゲルの厚さは約1.3mmとした。
【0068】
本LYZ-PEG-PL-SWNT-PAAゲルを乗せた熱電モジュールに1064 nmのレーザーを15秒間照射した(1、3、5 W)。なお、照射は該熱電モジュールのLYZ-PEG-PL-SWNT-PAAゲル部位に行った。レーザー照射により発生する電圧を、電圧インジケータ(PC-interfaced digital multimeter MAS-345; Precision Mastech Enterprises)と可変外部負荷抵抗(Six-dial variable resistor 2793-01; Yokogawa)を本熱電モジュールに並列に接続することで測定した。なお、可変外部負荷抵抗が5 Ωのとき電力が最大となることを事前に確かめ、当該値の抵抗を用いた。また、測定した電圧値及び該抵抗値から電力値を求めた。
【0069】
また、SWNT-PAAゲル及びPAAゲルを用いて、同様に熱電モジュールを製造してデータの取得を行った。
【0070】
本例で製造した熱電モジュールの概要図を図4a(左)に、イメージを図4bに示す。なお、熱電モジュール本体の概要図を図4a(右)に示す。
【0071】
また、電圧・電力測定データを図4c及び図4dに示す。図4c及び図4dから、レーザー照射を行うことで、いずれのゲルを用いた熱電モジュールも、レーザー出力が増すにつれて電圧及び電力が増加することが分かった。特にLYZ-PEG-PL-SWNT-PAAゲルを用いたとき、最大の電圧と電力が得られることがわかった。以上の結果より、カーボンナノチューブを分散させたゲル状組成物を、光発熱効果を熱電モジュールに組み込むことで、より効果的な熱電変換を行えることがわかった。特に、本実験からナノチューブの分散性が熱電変換における電圧及び電力向上に非常に重要な因子であるということが実証された。
【0072】
製造例3.カーボンナノチューブをイオン液体に分散させたゲルの製造
SWNT(10 mg)(純度>95%)(Hipco super-purified SWNTs; Carbon Nanotechnologies)と各種イオン液体(0.5 mL)(Tokyo Chemical Industry)を乳鉢内に添加し、15 min間、乳棒で強く擦ると粘性の高いナノチューブ-イオン液体ゲルが得られた。今回使用したイオン液体の種類は、1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸(1-n-butyl-3-methylimidazoliumhexafluorophosphate;[C4mim][PF6])、1-n-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸(1-n-hexyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate;[C6mim][PF6])、1-n-オクチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸(1-n-octyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate;[C8mim][PF6])、1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビスビス(トリフリルメチルスルホニル)イミド酸(1-n-butyl-3-methylimidazolium bis(triflylmethylsulfonyl)imide;[C4mim][TF2N])の4種類であった。
【0073】
実施例2.熱電モジュールの作製及び性能評価(使用ゲル:カーボンナノチューブをイオン液体に分散させたゲル)
カーボンナノチューブをイオン液体に分散させたゲル(以下「イオン液体CNTゲル」と表記することがある)を熱電モジュール本体の基板上に厚さ約0.5 mmとなるように堆積させた。なお、当該ゲル以外の熱電モジュールの構造は実施例1と同様とした。また、レーザー照射及び電圧値、電力値も実施例1と同様の方法により計測あるいは算出した。可変外部抵抗の値も実施例1と同様5 Ωに設定した。なお、実施例1で行った検討に加え、外部負荷抵抗無しでLED(Kyohritsu eleshop)を本モジュールに直接接続し、これが発光するかを検討した。
【0074】
図5a及び図5bに、電圧・電力測定データを示す。図5a及び図5bから、レーザー照射を行うことで、いずれのゲルを用いた熱電モジュールも、レーザー出力が増すにつれて電圧及び電力が増加することがわかった。さらに、実施例1のLYZ-PEG-PL-SWNT-PAAゲルを用いた結果(図4c及び図4d)と比較すると、イオン液体CNTゲルを用いることにより、同条件のレーザー照射であっても、電圧は約3倍、電力は約9倍向上することが分かった
また、図5cに示すように、近赤外線レーザーを5Wで10分間照射するという強い照射条件にもかかわらず、イオン液体CNTゲル(SWNT-[C4mim][PF6])に目立った損傷は見られなかった。よって、当該ゲルは、非常に高い熱安定性を有することもわかった。
【0075】
さらに、図5dに示すように、当該熱電モジュール(SWNT-[C4mim][ PF6]ゲルを使用)はレーザー出力4W以上のとき、白色LEDを発光させた。コントロール(TEFC1-03112; Japan Tecmoそのもの)では、発光しなかった。
【0076】
以上の結果から、イオン液体CNTゲルを用いることで、より効率よく熱電変換を行えることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1a】SWNTにLYZ-PEG-PLコンジュゲートが吸着した状態を表した模式図を示す。
【図1b】粉末状のLYZ-PEG-PL-SWNTを水に分散させたイメージを示す。
【図1c】LYZ-PEG-PL-SWNTを水に分散させ、分光光度計(V-630; JASCO) により、吸収スペクトルを室温で解析した結果を示す。
【図1d】LYZ-PEG-PL-SWNTを水に溶解させ、原子間力顕微鏡(AFM)(JSPM-4210; JEOL)で観察した結果のイメージを示す。
【図2a】左に、LYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドのイメージ、製造例2で得られたカエルの形状をしたLYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドゲルのイメージを示す。なお、バーは5mmを示す。右に、LYZ-PEG-PL-SWNTの替わりに単なるSWNTを用いて同様に作製した、ポリアクリルアミドゲルのイメージを示す。
【図2b】LYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドゲルの吸収スペクトルを室温で解析した結果を示す。
【図2c】LYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドゲルの走査型電子顕微鏡(SEM)のイメージを示す。
【図2d】ポリアクリルアミドゲル中のLYZ-PEG-PL-SWNTの模式図を示す。
【図3a】LYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドゲルへレーザーを照射し、温度解析を行う際の概要を示す。
【図3b】LYZ-PEG-PL-SWNTを分散させたポリアクリルアミドゲルへレーザーを照射し、温度解析を行った結果を示す。
【図4a】左に、本発明の熱電モジュールの一態様(実施例1及び2で製造)の模式図を示す。右に、熱電モジュール本体の模式図を示す。
【図4b】本発明の熱電モジュールの一態様(実施例1で製造)のイメージを示す。
【図4c】実施例1で製造した熱電モジュールにレーザーを照射した際、発生した電圧値をまとめたグラフを示す。
【図4d】実施例1で製造した熱電モジュールにレーザーを照射した際、発生した電圧値を用いて算出した、電力値をまとめたグラフを示す。
【図5a】実施例2で製造した熱電モジュールにレーザーを照射した際、発生した電圧値をまとめたグラフを示す。
【図5b】実施例2で製造した熱電モジュールにレーザーを照射した際、発生した電圧値を用いて算出した、電力値をまとめたグラフを示す。
【図5c】実施例2で製造した熱電モジュール(イオン液体CNTゲル(SWNT-[C4mim][PF6])を備える)に近赤外線レーザーを5Wで10分間照射したときの、照射前後のイメージを示す。
【図5d】実施例2で製造した熱電モジュールに近赤外線レーザーを4Wの出力で照射した際、白色LEDが発光することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電素子及び当該素子の接続電極を一対の支持基板間に有する熱電モジュール本体を備え、
カーボンナノチューブを含むゲル状組成物を一方の支持基板の表面に接触させた、熱電モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の熱電モジュールの支持基板に接触したカーボンナノチューブを含むゲル状組成物に光を吸収させ、該熱電モジュールで発電する方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【公開番号】特開2010−123885(P2010−123885A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298474(P2008−298474)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】