説明

熱電対式温度センサ及びその製造方法

【課題】排ガス中でも特性が劣化し難く耐久性に優れ、また結晶性固体の溶融急冷や蒸着法等の極めて簡便な方法で製造が可能であり、さらに微細な対象領域の温度を精度良く測定できる熱電対式温度センサの提供。
【解決手段】熱電対式温度センサ1は、第一の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第一導電体2と、第一導電体2と接合され第一の電子伝導性酸化物ガラスと組成及び/又は熱処理条件の異なる第二の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第二導電体3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電対式温度センサ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、固体や流体の温度計測手段として熱電対式温度センサが用いられている。熱電対式温度センサは、閉回路を形成する二つの接点間の温度差に応じた熱起電力を利用するものであって、閉回路を形成する素線や導体パターンには、一般的に金属製材料が用いられていた。
金属製材料を用いた従来の技術としては、例えば(特許文献1)に「電気絶縁材料からなるベース上に、第一の金属によりパターン形成された線状被膜と、前記第一の金属と異なる第二の金属によってパターン形成された線状被膜と、を備えた熱電対式温度センサ」が開示されている。
(特許文献2)には、「クロメルやアルメル等の金属素線が表面側に配置された温度センサ付きウエハ」が開示されている。
(特許文献3)には、「エッチングで形成された銅等の金属製の線状導体パターンが形成された樹脂フィルムと、エッチングで形成されたニッケル等の金属製の線状導体パターンが形成された樹脂フィルムとを交互に積層、加熱プレスして線状導体パターンが接続されたカップリング部を有する温度センサ」が開示されている。
また、金属製以外の材料で熱電対を形成する技術として、(特許文献4)に「基板上に、ケイ化鉄製の半導体セラミックスと、基板との密着性を高めるための5重量%程度のガラス成分と、を含有した熱電対層が積層された温度センサ素子」が開示されている。
【特許文献1】特開昭64−778号公報
【特許文献2】特開2002−257635号公報
【特許文献3】特開2003−14553号公報
【特許文献4】特開2005−55338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)乃至(特許文献3)に開示の技術は、熱電対としていずれも金属製の素線や導体パターンを用いているので、耐食性や耐薬品性に欠けるという課題を有していた。金属製であってもクロメル/アルメルや白金/白金ロジウム等の耐食性や耐薬品性に優れた材質もあるが、コスト性に欠けるという課題を有していた。
(2)金属製材料で形成された熱電対は耐酸化性が乏しいため、排ガス中等の条件下で用いる場合には、シース型熱電対のように金属製保護管で被覆して保護しなければ用いることができず、嵩張り、小型化が困難であるという課題を有していた。
(3)二種類の金属製の素線や導体パターンで形成された閉回路に生ずる熱起電力は、例えば材質が白金/白金ロジウムの場合は6.5μV/K、JISで規定された熱電対のなかで最も熱起電力が大きなクロメル/コンスタンタンの場合でも63μV/Kであるため、極僅かな温度変化を検知するには感度が低く、精密な温度検知が困難であるという課題を有していた。
(4)(特許文献4)に開示の技術は熱電対層を得るために、基板上にケイ化鉄を含有する熱電対パターン層を積層した後、真空中1100〜1180℃で3時間程度焼成して焼結させ、次いでアルゴン雰囲気中700〜850℃で12時間程度焼成し半導体化させる操作が必要なため、煩雑で生産性に欠けるという課題を有していた。
(5)ケイ化鉄等の結晶化された半導体材料や金属製材料で形成された二種類の導電体を接合して熱電対を作る場合、微細な導電体を接合するのは困難なので比較的幅広の導電体を用いる必要があり、接合部は幅広になっていた。接合部の大きさよりも小さな対象領域の温度を計測すると誤差が含まれるので、微細な対象領域の温度を精度良く計測できないという課題を有していた。また、形成した接合部を微細化するため、接合部を集束イオンビーム(FIB)加工やレーザー加工等を用いて加工すると、結晶化された半導体材料や金属製材料にイオン照射等のダメージによって劈開等が生じ接合部が劣化し断線し易くなるため、接合部を微細加工できないという課題を有していた。
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、耐食性、耐薬品性に優れるとともに、耐酸化性にも優れるため排ガス中でも特性が劣化し難く耐久性に優れ、また結晶性固体の溶融急冷や蒸着法,スパッタ法,グロー放電法,ゾルゲル法等の極めて簡便な方法で製造することができるため、長時間加熱して半導体化する等の煩雑な操作を要さず生産性に優れ、また微細化が容易なため微細な対象領域の温度を精度良く測定できる熱電対式温度センサを提供することを目的とする。
また、本発明は、結晶性固体の溶融急冷や蒸着法,スパッタ法,グロー放電法,ゾルゲル法等の極めて簡便な方法で製造することができるため、長時間加熱して半導体化する等の煩雑な操作を要さず生産性に優れ、さらにエッチング、表面変性等の微細加工を施すことによって、微細化や表面変性による電気特性の微調整を行うことができるので、微細で高精度の熱電対式温度センサが得られる熱電対式温度センサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記従来の課題を解決するために本発明の熱電対式温度センサ及びその製造方法は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の熱電対式温度センサは、第一の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第一導電体と、前記第一導電体と接合され前記第一の電子伝導性酸化物ガラスと組成及び/又は熱処理条件の異なる第二の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第二導電体と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)電子伝導性酸化物ガラスで形成されているので、耐食性、耐薬品性に優れるとともに耐酸化性にも優れており、金属製保護管等を用いなくても排ガス中でも特性が劣化し難く耐久性に優れる。
(2)電子伝導性酸化物ガラスは結晶性固体の溶融急冷や蒸着法,スパッタ法,グロー放電法,ゾルゲル法等の極めて簡便な方法で製造することができ、第一導電体と第二導電体を形成する二種類の電子伝導性酸化物ガラスの組成や熱処理温度を異ならせることによって熱電対を形成できるため、1100〜1180℃で焼成後700〜850℃で長時間加熱して半導体化する等の煩雑な操作を要さず生産性に優れる。
(3)電子伝導性酸化物ガラスは集束イオンビーム(FIB)加工やレーザー加工等を用いて加工しても劈開等が生じないため、容易に1μm程度やそれ以下の超微細加工をすることができ、微細な対象領域の温度を精度良く測定することができる。
【0006】
ここで、電子伝導性酸化物ガラスとしては、バナジウム,鉄,マンガン,チタン,タングステン等の遷移金属酸化物を含有する半導性ガラス、CdO,PbO等を含有し光伝導を示す酸化物光伝導ガラスが用いられ、例えば、V−P系,V−P−BaO系,WO−P系,CdO−B−SiO系,CdO−Al−GeO系,PbO−Bi−SiO系,PbO−Al−GeO系等の酸化物ガラスを挙げることができる。
【0007】
第一の電子伝導性酸化物ガラス、第二の電子伝導性酸化物ガラスとしては、前記電子伝導性酸化物ガラスの中から成分の異なるガラスを適宜選択して用いることができる。同一の成分で構成されたガラスであっても、その成分の量的関係が異なるガラスであれば、組成の異なるガラスとして用いることができる。
また、成分やその成分の量的関係が異なるガラス、成分及びその成分の量的関係が同一のガラスでも、各々のガラスの熱処理条件を異ならせることによって、熱電対として用いることができる。熱処理条件としては、熱処理温度、熱処理の保持時間等を挙げることができる。
特開2003−34548号公報に記載されているように、同じ組成の電子伝導性酸化物ガラスであっても熱処理を施すことによって、導電率を異ならせることができることが知られている。これは、熱処理によってガラス骨格の歪みを取り除き、二種類の電子伝導性酸化物ガラスの電子がホッピングする活性化エネルギー(バンドギャップ)を異ならせることができるためであると推察している。このため、この二種類の電子伝導性酸化物ガラスを接合することによって、熱電対として用いることができるのではないかと推察している。
【0008】
電子伝導性酸化物ガラスを製造する手段としては、遷移金属酸化物等の結晶質固体の混合物等を液体や気体に変えたのち、結晶化させないでガラス転移温度以下の固体である電子伝導性酸化物ガラスにできるものであれば特に制限されない。例えば、結晶質固体の混合物を加熱溶融したのち急冷することで電子伝導性酸化物ガラスを得ることができる。また、結晶質固体を、蒸着法,スパッタ法,CVD法,グロー放電法等で一旦、蒸気状態にすることでも電子伝導性酸化物ガラスを得ることができる。また、ゾルゲル法等のようにゲルを経ることによっても電子伝導性酸化物ガラスを得ることができる。
【0009】
第一導電体や第二導電体は、結晶質固体の混合物を加熱溶融した溶融物を、型内や冷却用ドラム等で急冷し電子伝導性酸化物ガラスを線状等に形成することで製造することができ、製造した2種の電子伝導性酸化物ガラスの一部を互いに接触させ、溶着させて接合させることができる。また、溶融物を急冷する前に、2種の電子伝導性酸化物ガラスの溶融物の一部を互いに接触させ、この状態を保ちながら急冷することでも接合させることができる。また、製造した2種の電子伝導性酸化物ガラス同士を、導電性接着剤等を用いて接着することによっても接合させることができる。
また、絶縁性基板上に蒸着法,スパッタ法,グロー放電法,ゾルゲル法等でガラス層を形成する場合は、2種の電子伝導性酸化物ガラスの一部が互いに接触するように形成して、第一導電体と第二導電体とを接合させることもできる。
また、上記のように第一の電子伝導体酸化物ガラスと第二の電子伝導体酸化物ガラスとを継ぎ合わせて接合しなくても、第一の電子伝導性酸化物ガラスを同一組成で線状や層状等に一体的に形成した後、部分的にイオン照射を行うことによって部分的に組成を異ならせて、第一の電子伝導性酸化物ガラスと第二の電子伝導性酸化物ガラスとを接合させることもできる。
【0010】
形成された第一導電体や第二導電体は、集束イオンビーム加工,イオン注入等のイオン照射により、エッチング、表面変性等の微細加工を施すことができる。これにより、第一導電体や第二導電体の微細化や、表面変性による電気特性の微調整を行うことができ、さらに高精度の熱電対式温度センサを得ることができる。
なお、この熱電対式温度センサは、0℃以下からガラス転移温度までの温度範囲で使用することができる。
【0011】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の熱電対式温度センサであって、前記第一の電子伝導性酸化物ガラス及び前記第二の電子伝導性酸化物ガラスが、バナジン酸塩ガラスである構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)バナジン酸塩ガラスは高い電気伝導度を有しており、さらにガラス化させた後に熱処理を施すことによって、室温において10−1S・cm−1以上の高電気伝導度を発現できるため応答が速く、また熱起電力が大きいため感度が高く高精度の温度検知をすることができる。熱処理を施すことによって、ガラス骨格の歪みを取り除き、電子がホッピングする活性化エネルギー(バンドギャップ)を小さくすることができるとともに、バナジン酸塩ガラス中の電子をエネルギー的に高い準位に分布させ、電子をホッピングさせるために必要な熱エネルギー(活性化エネルギー)を小さくできるので、電気伝導度を高くできるのではないかと推察している。
【0012】
ここで、バナジン酸塩ガラスとしては、バナジウムを主成分又は副成分とする酸化物ガラスであって、バナジウムの他、カリウムやナトリウム等のアルカリ金属、バリウム,マグネシウム等のアルカリ土類金属、ホウ素,リン,セリウム,スズ,鉛,銅,鉄等のうちの1種若しくは複数種の構成元素の酸化物を含有するものが用いられる。
なかでも、バナジウム、バリウム及び鉄の酸化物を含有するものが好適に用いられる。これは、バナジウム、バリウム、鉄の原子が3次元的に関連しあったガラス骨格を形成させることができ、電子ホッピングによる高い電気伝導度を発現させることができ、さらに、ガラス骨格中に4価と5価のバナジウムと3価の鉄を配置できるので、電子ホッピングの確率が高められ電気伝導度を高めることができるからである。
【0013】
ここで、バナジン酸塩ガラス中の酸化バリウム(BaO)、酸化バナジウム(V)、酸化鉄(Fe)の比率は、ガラス転移現象を示すのであれば特に限定されるものではないが、特に、酸化バリウム(B)の酸化バナジウム(V)に対するモル比(B:V)は、5:90〜35:50にするのが好ましい。
これにより、以下のような作用が得られる。
(1)バナジウムを主骨格とした3次元構造のガラス骨格を形成できるので、熱処理を施すことによって電気伝導度を飛躍的に高めることができる。
(2)熱処理前の電子伝導性酸化物ガラスの電気伝導度のばらつきが少なくなるとともに熱処理によって結晶化し難いので、熱処理後の電子伝導性酸化物ガラスの電気伝導度を所定範囲に収めることができ生産安定性に優れる。
ここで、モル比(B:V)が5:90より小さくなると、3次元構造のガラス骨格を形成させるのが困難になるとともに均質な電子伝導性酸化物ガラスが得られ難くなり、モル比(B:V)が35:50より大きくなるとガラス化が困難になり、熱処理によって結晶化し易くなり良好な導電性が発現されなくなるため好ましくない。
【0014】
また、バナジン酸塩ガラス中の酸化鉄(F)の酸化バナジウム(V)に対するモル比(F:V)は、5:90〜15:50にするのが好ましい。
これにより、以下のような作用が得られる。
(1)バナジウムを主骨格とした3次元構造のガラス骨格を形成できるので、熱処理によって電気伝導度を飛躍的に高めることができる。
ここで、モル比(F:V)が5:90より小さくなるとガラス化し難くなり、モル比(F:V)が15:50より大きくなると、均質なバナジン酸塩ガラスが得られ難くなるので、いずれも好ましくない。
【0015】
また、バナジン酸塩ガラス中の酸化バナジウム(V),酸化バリウム(BaO),酸化鉄(Fe)の3成分系における酸化バナジウム(V)は、40〜98モル%好ましくは60〜85モル%が好適である。60モル%より少なくなるにつれ、バナジウムを主骨格とするガラス骨格を維持させるのが困難になるうえ高い電気伝導度を得ることが困難になる傾向がみられ、85モル%より多くなるにつれ、相対的に副成分の含有量が減るため、副成分による電気伝導度や機械的特性等の調整機能が低下する傾向がみられる。特に、40モル%より少なくなるか98%より多くなると、これらの傾向が著しいためいずれも好ましくない。
バナジン酸塩ガラス中の上記3成分系における酸化バリウム(BaO)は、1〜40モル%好ましくは10〜30モル%が好適である。10モル%より少なくなるにつれ均質なガラス化が困難になる傾向がみられ、30モル%より多くなるにつれ機械的強度が低下しガラス化し難くなる傾向がみられる。特に、1モル%より少なくなるか40モル%より多くなると、これらの傾向が著しいためいずれも好ましくない。
バナジン酸塩ガラス中の上記3成分系における酸化鉄(Fe)は、1〜20モル%好ましくは5〜20モル%が好適である。5モル%より少なくなるにつれ、鉄の価電子による電子ホッピングへの寄与が低下し電気伝導度が向上し難くなる傾向がみられ、1モル%より少なくなるとこの傾向が著しくなるため好ましくない。また、20モル%より多くなると機械的強度が低下しガラス化し難くなるため好ましくない。
特に、酸化バナジウム(V)、酸化バリウム(BaO)、酸化鉄(Fe)のモル比が、それぞれ60〜85モル%、10〜30モル%、5〜20モル%の範囲にあると、バナジン酸塩ガラスに熱処理を施すことによって、室温における電気伝導度を数桁以上上昇させて10−1S・cm−1以上にすることができ、熱電対式温度センサの応答性を高めることができるため好ましい。
【0016】
なお、バナジン酸塩ガラスは、AgI、NaI、Ag、AgO、In、SnO、SnO、ReOの添加剤が添加されたものでもよい。添加剤の効果によって電気伝導度を高めることができるからである。また、AgI、NaI、Ag等に加えてCeO等の還元防止剤を添加してもよい。これにより、AgI、NaI、Ag等の添加剤が還元されるのを防止して高い電気伝導度を維持できる。
【0017】
バナジン酸塩ガラスに施す熱処理条件としては、ガラス化させたバナジン酸塩ガラスを加熱してガラス転移温度以上、融点以下の温度領域、好ましくは結晶化温度以上、融点以下の温度領域に保持するものが用いられる。
ここで、熱処理温度がバナジン酸塩ガラスの結晶化温度より低くなるにつれ、バナジン酸塩ガラスに与えられる熱エネルギーが小さいため、電気伝導度の増加率が小さく、また増加率にばらつきがみられる傾向が強まり、ガラス転移点未満になると、この傾向が著しくなるため好ましくない。また、熱処理温度がバナジン酸塩ガラスの融点を超えると、酸化物ガラスの溶融や結晶の析出が促進され、電気伝導度が低下するため好ましくない。
【0018】
熱処理を施す手段としては、例えば、電気炉等を予め熱処理温度に設定しておき炉内の温度が一定になったところで、バナジン酸塩ガラスを炉内に入れ、目標とする時間が経過したら直ちに電気炉等からバナジン酸塩ガラスを取り出し、空気や水,氷水等の流体、冷却した銅板やステンレス板,銅製やステンレス製等のローラ等の部材で冷却するものが用いられる。あるいは、上記バナジン酸塩ガラスを電気炉等の炉内で一定時間再加熱後、炉内の温度を徐々に下げたり炉内の加熱源から少しずつ遠ざけたりしてバナジン酸塩ガラスを炉内で放冷するものが用いられる。熱処理を施す炉内は空気、窒素,アルゴン等の不活性ガス雰囲気等にすることができる。
【0019】
ガラス転移点、結晶化温度、融点は、バナジン酸塩ガラスを示差熱分析(DTA)や示差走査熱量測定(DSC)等により実測することによって求めることができる。また、推定される構成成分の状態図を用いた熱力学的計算等を行うことで求めることもできる。
示差熱分析(DTA)によって結晶化温度を求める場合、結晶化の発熱ピークの中心点又は裾の高温側測点温度における温度を結晶化温度とする。また、示差熱分析(DTA)によって融点を求める場合、結晶化温度より高温における吸熱ピークの中心点における温度を融点とする。
【0020】
熱処理条件において熱処理温度領域の保持時間としては、熱処理を経たバナジン酸塩ガラスの電気伝導度が高くなるように適宜最適な時間に設定することができる。保持時間は、バナジン酸塩ガラスの組成や熱容量、熱処理温度によっても異なるが、例えば1〜180分に設定される。保持時間が1分より短くなると、バナジン酸塩ガラスに与えられる熱エネルギーが小さいため、電気伝導度の増加率が小さく、また増加率にばらつきがみられ、180分より長くなると、結晶が析出したり溶融したりすることにより電気伝導度が低下することがあるとともに生産性が低下するため、いずれも好ましくない。
【0021】
本発明の請求項3に記載の熱電対式温度センサの製造方法は、(a)第一の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第一導電体と、前記第一導電体と接合され前記第一の電子伝導性酸化物ガラスと組成及び/又は熱処理条件の異なる第二の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第二導電体とを形成する導電体形成工程と、(b)前記第一導電体及び/又は前記第二導電体にイオン照射を行うイオン照射工程と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)電子伝導性酸化物ガラスで第一導電体及び第二導電体を形成するので、結晶性固体の溶融急冷や蒸着法,スパッタ法,グロー放電法,ゾルゲル法等の極めて簡便な方法で製造することができるため、1100〜1180℃で焼成後700〜850℃で長時間加熱して半導体化する等の煩雑な操作を要さず生産性に優れる。
(2)第一導電体や第二導電体にイオン照射を行うイオン照射工程を備えているので、エッチング、表面変性等の微細加工を施すことができ、第一導電体や第二導電体の微細化や、表面変性による電気特性の微調整を行うことができるので、微細で高精度の熱電対式温度センサを得ることができる。
【0022】
ここで、導電体形成工程における電子伝導性酸化物ガラス、第一導電体、第二導電体としては、請求項1で説明したものと同様なので、説明を省略する。
【0023】
イオン照射工程におけるイオン照射の手段としては、イオン注入、集束イオンビーム加工等が用いられる。
第一導電体や第二導電体に照射するイオン種としては、エッチングを目的とする場合は、Ga等の液体金属、Ar,Xe,Kr等の希ガス等が用いられ、表面変性を目的とする場合は、電子伝導性酸化物ガラスの構成元素であるV,Fe,Mn,Ti,W等の遷移金属が用いられる。
【0024】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の熱電対式温度センサの製造方法であって、前記第一の電子伝導性酸化物ガラス及び前記第二の電子伝導性酸化物ガラスが、バナジン酸塩ガラスであり、前記第一導電体及び/又は前記第二導電体に照射されるイオン種がバナジウムである構成を有している。
この構成により、請求項3で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)バナジウムイオンを照射することによって、バナジン酸塩ガラス中に存在する4価と5価のバナジウムイオンの比率を調整でき、熱起電力等の電気特性を精度よく調整することができる。
【0025】
ここで、バナジウムイオンの照射量(ドーズ量)としては、10〜10ions/cm、照射エネルギーとしては、1〜30KeVが好適に用いられる。バナジウムイオンの照射量(ドーズ量)が10ions/cmより少なくなるか、照射エネルギーが1KeVより小さくなると、バナジン酸塩ガラスの電気特性の変化が乏しく、またイオン照射時間が長くなり生産性に欠けるため好ましくない。また、バナジウムイオンの照射量(ドーズ量)が10ions/cmより多くなるか、照射エネルギーが30KeVより大きくなっても、イオン照射のためのエネルギーが増すばかりでイオン照射効果はほとんど変わらず、省エネルギー性に欠けるため好ましくない。
【0026】
バナジウムイオン照射後、ガラスの軟化点以下の温度で熱処理を行うのが好ましい。ガラス骨格を安定化させ電気特性を安定化させるためである。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明の熱電対式温度センサ及びその製造方法によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)電子伝導性酸化物ガラスで形成されているので、耐食性、耐薬品性に優れるとともに耐酸化性にも優れており、金属製保護管等を用いなくても排ガス中でも特性が劣化し難く耐久性に優れた熱電対式温度センサを提供できる。
(2)電子伝導性酸化物ガラスは結晶性固体の溶融急冷や蒸着法,スパッタ法,グロー放電法,ゾルゲル法等の極めて簡便な方法で製造することができ、第一導電体と第二導電体を形成する二種類の電子伝導性酸化物ガラスの組成や熱処理温度を異ならせることによって熱電対を形成できるため、1100〜1180℃で焼成後700〜850℃で長時間加熱して半導体化する等の煩雑な操作を要さず生産性に優れた熱電対式温度センサを提供できる。
(3)電子伝導性酸化物ガラスは集束イオンビーム(FIB)加工やレーザー加工等を用いて加工しても劈開等が生じないため、容易に1μm程度やそれ以下の超微細加工をすることができ、微細な対象領域の温度を精度良く測定することができる熱電対式温度センサを提供できる。
【0028】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)バナジン酸塩ガラスは高い電気伝導度を有しており、さらにガラス化させた後に熱処理を施すことによって、室温において10−1S・cm−1以上の高電気伝導度を発現できるため応答が速く、また熱起電力が大きいため感度が高く高精度の熱電対式温度センサを提供できる。
【0029】
請求項3に記載の発明によれば、
(1)電子伝導性酸化物ガラスで第一導電体及び第二導電体を形成するので、結晶性固体の溶融急冷や蒸着法,スパッタ法,グロー放電法,ゾルゲル法等の極めて簡便な方法で製造することができるため、1100〜1180℃で焼成後700〜850℃で長時間加熱して半導体化する等の煩雑な操作を要さず生産性に優れた熱電対式温度センサの製造方法を提供できる。
(2)第一導電体や第二導電体にイオン照射を行うイオン照射工程を備えているので、エッチング、表面変性等の微細加工を施すことができ、第一導電体や第二導電体の微細化や、表面変性による電気特性の微調整を行うことができるので、微細で高精度の熱電対式温度センサが得られる熱電対式温度センサの製造方法を提供できる。
【0030】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3の効果に加え、
(1)バナジウムを照射することによって、バナジン酸塩ガラス中に存在する4価と5価のバナジウムイオンの比率を調整でき、熱起電力等の電気特性を精度よく調整することができる熱電対式温度センサの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
始めに、示差熱分析用の試料を作製するため、酸化バリウム(BaO)が20モル%、五酸化二バナジウム(V)が70モル%、三酸化二鉄(Fe)が10モル%で全量が10gになるように試薬特級の各試薬を秤量し、メノウ乳鉢で混合したのち白金るつぼに入れた。白金るつぼに入れた混合物を1000℃に昇温した電気炉内で大気中90分間加熱し溶融させて示差熱分析用の溶融物を得た。この溶融物を厚さ10mmのステンレス板の上に流し出して室温まで冷却し、板状に固化したガラスを得た。
このガラスを棒状に切り出し試料を作製し、示差熱分析(DTA)を行った。示差熱分析(DTA)は、基準物質にαアルミナを使用し窒素雰囲気中で10℃/分の昇温速度で行った。示差熱分析の結果、ガラス転移温度は328℃、結晶化温度は392℃、融点は540℃であることがわかった。
【0032】
次に、熱電対式温度センサを作製するため、同様に、酸化バリウム(BaO)が20モル%、五酸化二バナジウム(V)が70モル%、三酸化二鉄(Fe)が10モル%で全量が10gになるように試薬特級の各試薬を秤量し、白金るつぼ内で同様に溶融して熱電対式温度センサ用の溶融物を得た。幅3mm、長さ25mm、深さ6mmの白金製のボート(以下、第1ボートという。)を準備し、第1ボートを電気炉で350℃に加熱した後、電気炉から取り出して第1ボートに前記溶融物の約半分を流し込んで固化させた。
溶融物を固化させた第1ボートを再び350℃に維持された電気炉内に戻した後、60分かけて電気炉の温度を、ガラスの結晶化温度以上融点以下の500℃まで上昇させた。電気炉を500℃で20分間保持する熱処理を行った後、電気炉のスイッチを切って第1ボートを電気炉内で放冷した。電気炉内を室温になるまで冷却させたら電気炉から第1ボートを取り出し、棒状に固化したガラス(第一の電子伝導性酸化物ガラス)を第1ボートから取り出した。
取り出した棒状のガラス(第一の電子伝導性酸化物ガラス)を、幅3mm、長さ50mm、深さ6mmの別の白金製のボート(以下、第2ボートという。)の半分に入れ、第2ボートを350℃に維持された電気炉内に入れて加熱した後、電気炉から取り出して第2ボートの残り半分に溶融物の残りを流し込み、ガラス(第一の電子伝導性酸化物ガラス)の端面に第二の電子伝導性酸化物ガラス用の溶融物を接触させた。
第2ボートを再び350℃に維持された電気炉内に戻した後、30分かけて電気炉の温度を、ガラスの結晶化温度とほぼ同じ400℃まで上昇させた。電気炉を400℃で60分間保持する熱処理を行った後、電気炉のスイッチを切って第2ボートを電気炉内で放冷した。電気炉内を室温になるまで冷却させたら電気炉から第2ボートを取り出し、第2ボート内から、第一の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第一導電体と、第一導電体と接合され第一の電子伝導性酸化物ガラスと熱処理条件は異なるが組成は同じ第二の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第二導電体と、を備えた実施例1の熱電対式温度センサを取り出した。
【0033】
図1は実施例1の熱電対式温度センサの斜視図である。
図中、1は実施例1の熱電対式温度センサ、2は第一の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第一導電体、3は第一導電体2と接合され第一の電子伝導性酸化物ガラスと熱処理条件は異なるが組成は同じ第二の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第二導電体である。
実施例1の熱電対式温度センサの厚さは3mm、幅は3mmであり、第一導電体と第二導電体の接合部は剥離することもなく、ピンホール等の欠陥も認められなかった。
【0034】
実施例1の熱電対式温度センサの熱起電力を測定するため、接合部を75℃に加熱する一方、端部を25℃に保持して温度差を50℃にした場合、両端部間に発生した熱起電力は67mVであった。一方、JISの熱起電力表から計算すると、同じ温度差におけるクロメル−アルメル熱電対(K熱電対)の熱起電力は2.1mVであり、クロメル−コンスタンタン熱電対(E熱電対)の熱起電力は3.2mVである。
よって、実施例1の熱電対式温度センサの熱起電力は、クロメル−アルメル熱電対の約30倍であり、クロメル−コンスタンタン熱電対の約20倍であり、著しく高い熱起電力を実現できることが明らかになった。
【0035】
なお、実施例1の熱電対式温度センサの製造方法においては、ボートに入れたガラス(第一の電子伝導性酸化物ガラス)の端面に第二の電子伝導性酸化物ガラス用の溶融物を流し込み接触させた後、このボートを電気炉に入れて熱処理を行ったが、熱処理方法は、この方法に限定するものではない。例えば、ボートからガラスを取り出し、第一の電子伝導性酸化物ガラスと第二の電子伝導性酸化物ガラスとをそれぞれ別の小型の管状ヒータ等に挿入し、それぞれを異なる条件で熱処理する場合もある。この場合も同様の作用が得られる。
【0036】
(実施例2)
実施例1の熱電対式温度センサの第一導電体と第二導電体の接合部を、ガリウムをイオン源とする収束イオンビームで切削加工し、幅10μm、厚さ300μmに微細化した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の熱電対式温度センサを得た。
実施例2の熱電対式温度センサの接合部を75℃に加熱する一方、端部を25℃に保持して温度差を50℃にした場合、両端部間に発生した熱起電力も、実施例1とほぼ同じ約60mVであった。
以上のことから、本実施例の熱電対式温度センサは、熱起電力が高いだけでなく微細加工が極めて容易なため、微細な対象領域の温度を精度良く測定できることが明らかである。
【0037】
(実施例3)
始めに、示差熱分析用の試料を作製するため、酸化バリウム(BaO)が30モル%、五酸化二バナジウム(V)が60モル%、三酸化二鉄(Fe)が10モル%で全量が10gになるように試薬特級の各試薬を秤量し、メノウ乳鉢で混合したのち白金るつぼに入れた。白金るつぼに入れた混合物を1000℃に昇温した電気炉内で大気中90分間加熱し溶融させて示差熱分析用の溶融物を得た。この溶融物を厚さ10mmのステンレス板の上に流し出して室温まで冷却し、板状に固化したガラスを得た。
このガラスを棒状に切り出し試料を作製し、示差熱分析(DTA)を行った。示差熱分析(DTA)は、基準物質にαアルミナを使用し窒素雰囲気中で10℃/分の昇温速度で行った。示差熱分析の結果、ガラス転移温度は356℃、結晶化温度は433℃、融点は563℃であることがわかった。
次に、熱電対式温度センサの第一導電体を作製するため、同様に酸化バリウム(BaO)が30モル%、五酸化二バナジウム(V)が60モル%、三酸化二鉄(Fe)が10モル%で全量が10gになるように試薬特級の各試薬を秤量し、白金るつぼ内で同様に溶融して第一導電体用の溶融物を得た。
同様に、熱電対式温度センサの第二導電体を作製するため、酸化バリウム(BaO)が20モル%、五酸化二バナジウム(V)が70モル%、三酸化二鉄(Fe)が10モル%で全量が10gで、実施例1と同じ組成になるように試薬特級の各試薬を秤量し、白金るつぼ内で同様に溶融して第二導電体用の溶融物を得た。
実施例1と同様の第1ボートを電気炉で350℃に加熱した後、第1ボートを電気炉から取り出して第一導電体用の溶融物を流し込んだ。第一導電体用の溶融物が固化した後、固化物を第2ボートの半分に入れ、第2ボートの残り半分に第二導電体用の溶融物を流し込んだ。
第2ボートを再び350℃に維持された電気炉内に戻した後、60分かけて電気炉の温度を、二種類のガラスの結晶化温度以上融点以下の500℃まで上昇させた。電気炉を500℃で60分間保持する熱処理を行った後、電気炉のスイッチを切って第2ボートを電気炉内で放冷した。電気炉内を室温になるまで冷却させたら電気炉から第2ボートを取り出し、第一の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第一導電体と、第一導電体と接合され第一の電子伝導性酸化物ガラスと組成は異なるが熱処理条件は同じ第二の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第二導電体と、を備えた実施例3の熱電対式温度センサを取り出した。
【0038】
実施例3の熱電対式温度センサの熱起電力を測定するため、接合部を75℃に加熱する一方、端部を25℃に保持して温度差を50℃にした場合、両端部間に発生した熱起電力は35mVであった。よって、実施例3の熱電対式温度センサの熱起電力は、同じ温度差におけるクロメル−アルメル熱電対の約20倍であり、クロメル−コンスタンタン熱電対の約10倍であり、著しく高い熱起電力を実現できることが明らかになった。
【0039】
(実施例4)
酸化バリウム(BaO)が20モル%、五酸化二バナジウム(V)が70モル%、三酸化二鉄(Fe)が10モル%で全量が10gになるように試薬特級の各試薬を秤量し、白金るつぼに入れた。白金るつぼに入れた混合物を1000℃に昇温した電気炉内で大気中90分間加熱して溶融させた。溶融物の半分を実施例1で説明した第1ボートに流し出して、ガラス転移温度以下まで急冷した後に第1ボートから取り出して、棒状の第一の電子伝導性酸化物ガラスを得た。残った溶融物の半分を第1ボートに流し出して、ガラス転移温度以下まで急冷した後に取り出して、棒状の第二の電子伝導性酸化物ガラスを得た。
次いで、第一の電子伝導性酸化物ガラスを、大気中で、結晶化温度以上融点以下の400℃で1時間再加熱した。また、第二の電子伝導性酸化物ガラスを、大気中で、結晶化温度以上融点以下の400℃で30分再加熱した。
再加熱を行った第一の電子伝導性酸化物ガラスの端面に導電性接着剤(ドータイト、藤倉化成製)を塗布した後、第二の電子伝導性酸化物ガラスの端面を突き合わせ、それを400℃で30分間加熱して接着し、第一の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第一導電体と、第一の電子伝導性酸化物ガラスと熱処理条件の異なる第二の電子伝導性酸化物ガラスで形成され第一導電体と接合された第二導電体と、を備えた実施例4の熱電対式温度センサを得た。
【0040】
図2は実施例4の熱電対式温度センサの斜視図である。
図中、1aは実施例4の熱電対式温度センサ、2aは第一の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第一導電体、3aは第一の電子伝導性酸化物ガラスと熱処理条件は異なるが組成は同じ第二の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第二導電体、4は第一導電体2aと第二導電体3aとを接合して接合部を形成した導電性接着剤である。
実施例4の熱電対式温度センサの接合部を75℃に加熱する一方、端部を25℃に保持して温度差を50℃にした場合、両端部間に発生した熱起電力は35mVであった。よって、実施例4の熱電対式温度センサの熱起電力は、同じ温度差におけるクロメル−アルメル熱電対の約20倍であり、クロメル−コンスタンタン熱電対の約10倍であり、著しく高い熱起電力を実現できることが明らかになった。
【0041】
(実施例5)
実施例2の熱電対式温度センサの第一導電体に、照射エネルギー20KeV、ドーズ量10ions/cmでバナジウムイオンを注入した。次いで、電気炉で軟化点以下の400℃,30分間の熱処理を行った。これにより、実施例5の熱電対式温度センサを得た。
実施例5の熱電対式温度センサの接合部を75℃に加熱する一方、端部を25℃に保持して温度差を50℃にした場合、両端部間に発生した熱起電力は、約130mVであった。これは、実施例2の熱電対式温度センサの熱起電力と約70mV異なる値である。
これにより、バナジウムイオンを照射することによって、熱起電力を調整できることが明らかになった。
【0042】
以上の実施例によれば、結晶性固体の溶融急冷等の極めて簡便な方法で製造することができるため煩雑な操作を要さず生産性に優れ、また熱起電力が高く高感度であり、さらに容易にエッチング等の微細加工を施すことができるので、微細で高精度の熱電対式温度センサが得られることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、熱電対式温度センサ及びその製造方法に関し、耐食性、耐薬品性に優れるとともに、耐酸化性にも優れるため排ガス中でも特性が劣化し難く耐久性に優れ、また結晶性固体の溶融急冷や蒸着法,スパッタ法,グロー放電法,ゾルゲル法等の極めて簡便な方法で製造することができるため、長時間加熱して半導体化する等の煩雑な操作を要さず生産性に優れる熱電対式温度センサを提供でき、また結晶性固体の溶融急冷や蒸着法,スパッタ法,グロー放電法,ゾルゲル法等の極めて簡便な方法で製造することができるため、長時間加熱して半導体化する等の煩雑な操作を要さず生産性に優れ、さらにエッチング、表面変性等の微細加工を施すことによって、微細化や表面変性による電気特性の微調整を行うことができるので、微細で高精度の熱電対式温度センサが得られる熱電対式温度センサの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1の熱電対式温度センサの斜視図
【図2】実施例4の熱電対式温度センサの斜視図
【符号の説明】
【0045】
1,1a 熱電対式温度センサ
2,2a 第一導電体
3,3a 第二導電体
4 導電性接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第一導電体と、前記第一導電体と接合され前記第一の電子伝導性酸化物ガラスと組成及び/又は熱処理条件の異なる第二の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第二導電体と、を備えていることを特徴とする熱電対式温度センサ。
【請求項2】
前記第一の電子伝導性酸化物ガラス及び前記第二の電子伝導性酸化物ガラスが、バナジン酸塩ガラスであることを特徴とする請求項1に記載の熱電対式温度センサ。
【請求項3】
(a)第一の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第一導電体と、前記第一導電体と接合され前記第一の電子伝導性酸化物ガラスと組成及び/又は熱処理条件の異なる第二の電子伝導性酸化物ガラスで形成された第二導電体とを形成する導電体形成工程と、(b)前記第一導電体及び/又は前記第二導電体にイオン照射を行うイオン照射工程と、を備えていることを特徴とする熱電対式温度センサの製造方法。
【請求項4】
前記第一の電子伝導性酸化物ガラス及び前記第二の電子伝導性酸化物ガラスが、バナジン酸塩ガラスであり、前記第一導電体及び/又は前記第二導電体に照射されるイオン種がバナジウムであることを特徴とする請求項3に記載の熱電対式温度センサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−116445(P2008−116445A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265034(P2007−265034)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】