説明

燃料タンク

【課題】燃料充填・廃液回収のエネルギーの効率化と取り扱いの容易化が可能な燃料タンクを提供する。
【解決手段】水素貯蔵材料と、前記水素貯蔵材料の脱水素反応によって生成された生成物とを貯蔵する燃料タンクであって、タンク外装と、前記水素貯蔵材料を格納する燃料室と、前記生成物を格納する廃棄物室とを有し、前記燃料室と前記廃棄物室の体積比を変動可能な隔壁により前記燃料室と前記廃棄物室とが分離されており、前記燃料室および前記廃棄物室に備えられた配管に弁が備えられ、前記燃料室および前記廃棄物室が密封可能なことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料タンク、特に水素のキャリアとなる燃料を保管・運搬するタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化やエネルギーセキュリティの確保が注目されるに伴い、石油に代わって新しいエネルギー源として水素が有望視されている。一方で水素は常温・常圧で気体であることや着火し易いなどの問題となっている。このため、水素を安全で高密度に貯蔵する手法や水素を供給・利用する新しいシステムの開発が必要とされている。
【0003】
水素を燃料とする利用機器として燃料電池などが注目されている。燃料電池は水素を燃料とするが、燃料の水素を安全に安定的に供給することに課題がある。自動車用燃料電池の場合、小型・軽量であること、1回の充填での航続距離が長いこと、充填の手間が簡単であること等の条件があり、これら条件を考慮した様々な水素供給方法が提案されている。
【0004】
水素の貯蔵・供給手法としては、例えば、圧縮水素,液体水素として貯蔵し、直接水素を供給するようにしたり、水素吸蔵合金やカーボンナノチューブ等の水素吸蔵材に貯蔵し、水素を供給するようにしたり、メタノールや炭化水素などの水素化合物として水素を貯蔵し改質して水素を供給するようにしている。圧縮水素として水素を直接供給する方法は、高圧水素ガス容器の軽量化,耐圧性の向上等の技術進歩により圧縮水素搭載型の燃料電池自動車が実用化の段階となっているが、走行距離を延ばすためには水素の圧縮率を上げる必要があり充填時や重点後の安全性に難しさがある。このため、ガス爆発防止や温度上昇抑制に関する安全技術の新規技術開発が行われている。炭化水素を改質して水素を供給する方法は、石油系燃料から水素燃料への過渡期に、これまでの環境を維持しながら長期間使用することができるために注目されている。しかしながら、改質反応には高温が必要であり激しい反応を伴うので、実験段階にとどまっている。
【0005】
一方、これらに並ぶ水素供給方法として、近年、水素貯蔵材料として無機ハイドライドや有機ハイドライドを用いることが注目されている。無機ハイドライドや有機ハイドライドは、水素吸蔵率が高く期待されている。水素貯蔵材料は常温で液体であり、ガソリンと同様な物性を持っているのでこれまでの石油系燃料のインフラストラクチャーを一部利用可能である。また、爆発性も他の水素燃料に比べて低いため、低コストで安全に供給可能な水素燃料である。水素貯蔵材料の特徴として、脱水素化反応に伴い水素以外にも脱水素化物が生じる。脱水素化物は水素添加と脱水素化を繰り返し行って再利用が可能であり、これを利用することで水素貯蔵材料供給の低コスト化が期待できる。しかし、現状の燃料利用機器にはこの脱水素化物を回収するインフラストラクチャーは存在しない。このため水素貯蔵材料利用者は水素生成の際に生じる脱水素化物を回収しておかなければならない。回収にはタンクを用いるが小型化,省スペース化が課題となっていた。これを解決するために特許文献1のように一つの燃料タンクに間仕切りを備える手法がとられている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−250059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示されたタンクで、燃料室および廃液室が弾性体でできた袋状である場合、廃液や燃料が弾性体の復元力により外に漏れる可能性がある。また、特許文献1に示されたタンクでは、廃液回収用配管の一部にポンプを備えており、この構成によると燃料を充填する際に、燃料供給装置からタンクヘ燃料を汲み出す動力とタンクから廃液を汲み出す動力の2つの動力が必要となる。さらに、ポンプヘの動力に供給する電力や電源装置も必要になり装置が大掛かりになる。
【0008】
また、特許文献1に示されたタンクで、充填の際に常にタンク一杯に燃料を供給しないと廃液が全て排出できない構造になっている。本発明の目的は、これら課題を解決するために燃料充填・廃液回収のエネルギーの効率化と取り扱いの容易化が可能な燃料タンクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水素を化学的に貯蔵し、脱水素とともに廃液が発生する有機ハイドライドを燃料とする燃料供給システムにおいて、燃料タンクに廃液室と燃料室を設け、タンクの省スペース化を図るとともにタンクに燃料供給および廃液排出配管を弁などで閉鎖する機能を持たせることで燃料充填・廃液回収のエネルギーの効率化と取り扱いの容易化を可能とするものである。
【0010】
本発明の燃料タンクは、水素貯蔵材料と、前記水素貯蔵材料の脱水素反応によって生成された生成物とを貯蔵する燃料タンクであって、タンク外装と、前記水素貯蔵材料を格納する燃料室と、前記生成物を格納する廃棄物室とを有し、前記燃料室と前記廃棄物室の体積比を変動可能な隔壁により前記燃料室と前記廃棄物室とが分離されており、前記燃料室および前記廃棄物室に備えられた配管に弁が備えられ、前記燃料室および前記廃棄物室が密封可能なことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、水素貯蔵材料を使用した水素利用技術に関して、燃料と廃液を省スペースで収納可能とし、自動車,定置型燃料電池などの水素利用機器をコンパクトにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の燃料タンクを使用する利用機器は、水素を動力源とする自動車、または定地型発電施設だけでなく、燃料供給所の燃料備蓄タンク,燃料を輸送する輸送機器の燃料コンテナなども含まれる。
【0013】
有機ハイドライドや無機ハイドライドを水素供給媒体とする場合、水素を抽出するシステムが必要になる。この水素抽出システムは、水素供給媒体(燃料)から水素を取り出す脱水素装置,燃料である水素供給媒体を収容する燃料タンク,水素供給媒体を分解して水素を取り出した残りの生成物(廃液)を収容する廃液タンクが必要である。脱水素装置には触媒が設けられ、触媒は金属触媒と触媒担体から構成され、金属触媒がニッケル,パラジウム,白金,ロジウム,イリジウム,ルテニウム,モリブデン,レニウム,タングステン,バナジウム,オスミウム,クロム,コバルト、及び、鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であって、触媒担体がアルミナ,酸化亜鉛,シリカ,酸化ジルコニウム,珪藻土,酸化ニオブ,酸化バナジウム,活性炭,ゼオライト,酸化アンチモン,酸化チタン,酸化タングステン,酸化鉄、からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる。また、本発明で用いる水素貯蔵材料はベンゼン,トルエン,キシレン,メシチレン,ナフタレン,メチルナフタレン,アントラセン,ビフェニル,フェナスレンおよびそれらのアルキル置換体のうちのいずれか1つあるいはいずれかを複数混合した芳香族化合物、またはアンモニア水溶液,ヒドラジン水溶液,ホウ酸ナトリウムを用いる。また、アンモニアあるいはヒドラジン水溶液と過酸化水素水を混合した酸素水素貯蔵材料を燃料に用いる。水素貯蔵材料であるシクロヘキサンが水素供給装置内の触媒層に噴霧されると、触媒と熱の作用によりシクロヘキサン(C612)は水素(3×H2)とベンゼン(C66)とに分解される。分解された水素とベンゼンは、水素分離膜により気体と液体に分離され、液体のベンゼンは燃料タンクに廃液として回収され、燃料である気体の水素ガスが燃料電池やエンジンに供給される。ここで、回収された廃液中には水素を放出していない、シクロヘキサンが混在している可能性もある。回収タンク20に回収された廃液(ベンゼン(C66))は、水素(3×H2)を添加すれば、シクロヘキサン(C612)となり、再び水素貯蔵材料として用いることができる。一方、この水素抽出システムでは燃料タンクに加えて廃液タンクが必要であり、一つの燃料利用機器に対してタンクを二つ具備させなければならない。このため自動車などタンクを収容できるスペースが限られる場合に本システムを適用する場合、一つのタンクの容量は従来の半分になり、航続距離が短くなることや燃料補充頻度が増すこととなりユーザーへの負担が大きくなる。また、従来のタンクと異なり廃液タンクから燃料を吸い上げなくてはならず、サービスステーションのディスペンサまたは利用機器にポンプを余分につけなくてはならず、コスト高になる。本発明ではこれらの課題を解決するために、以下の燃料タンクを提供するものである。
【0014】
水素貯蔵材料と、前記水素貯蔵材料の脱水素反応によって生成された生成物とを貯蔵する燃料タンクであって、タンク外装と、前記水素貯蔵材料を格納する燃料室と、前記生成物を格納する廃棄物室とを有し、前記燃料室と前記廃棄物室の体積比を変動可能な隔壁により前記燃料室と前記廃棄物室とが分離されており、前記燃料室および前記廃棄物室に備えられた配管に弁が備えられ、前記燃料室および前記廃棄物室が密封可能なことを特徴とする燃料タンク。
【0015】
上記の燃料タンクにおいて、燃料室および廃棄物室を分ける隔壁とタンク外装の内壁に弾性素材または金属バネ,ゴムバネ,空気バネを取り付け、隔壁の可動方向にバネの自由高さが変化するように調整されたことを特徴とする燃料タンク。
【0016】
水素貯蔵材料と、前記水素貯蔵材料の脱水素反応によって生成された生成物とを貯蔵する燃料タンクであって、前記水素貯蔵材料を格納する燃料室と、前記生成物を格納する廃棄物室と、前記水素貯蔵材料及び前記生成物以外の気体又は液体を収容するスペーサー室とを有し、前記燃料室,前記廃棄物室および前記スペーサー室は、各室の体積比を変動可能な隔壁により分離されており、前記燃料室,前記廃棄物室および前記スペーサー室に備えられたそれぞれの配管に弁が備えられ、前記燃料室,前記廃棄物室およびスペーサー室が密封可能なことを特徴とする燃料タンク。
【0017】
水素貯蔵材料と、前記水素貯蔵材料の脱水素反応によって生成された生成物とを貯蔵する燃料タンクであって、外装と、前記外装の内部に配置され、前記水素貯蔵材料を収容する燃料室、及び、前記生成物を収容する廃棄物室が設けられた内部容器とを有し、
前記燃料室及び廃棄物室は弾性素材でできた袋状の構造であり、前記燃料室が廃棄物室を包み込むか、または、前記廃棄物室が前記燃料室を包み込む2重構造であることを特徴とする燃料タンク。
【0018】
上記の燃料タンクにおいて、各室の外壁が柔軟性のある弾性部材でできた袋状であることを特徴とする燃料タンク。
【0019】
上記の燃料タンクにおいて、廃棄物室が複数設けられていることを特徴とする燃料タンク。
【0020】
本発明によれば、燃料タンクの燃料室と廃液室の体積比が変動自在であるので、自動車等の限られたスペースに最大限の燃料を搭載することができ、自動車に適用することで航続距離を延ばすことができる。
【0021】
また、タンクが弁で密閉した構造をとっているため完全な密閉系の燃料供給回収システムを構築することができ、燃料充填および廃液回収時に廃液や燃料に空気の混入が少なくすむことや燃料を充填する圧力で廃液を押し出すことも可能となる。また、スペーサー室を設けることで、常にタンクを満杯にすることなく軽い状態にすることもできる。また、スペーサー室を加圧した状態にすると、燃料タンク内の燃料に圧力付加することができ、タンクから触媒層に燃料を送るポンプの補助またはポンプレスが可能となる。
【0022】
また、燃料輸送用のタンクローリーに適用することで一度に多量の燃料を運ぶことができ、廃液を回収することもできる。また、サービスステーション用の燃料タンクに使用することで、限られたスペースに廃液と燃料を効率よく収めることができる。
【0023】
本発明の燃料タンクの燃料室と廃液室とを隔てる隔壁は、柔軟性のある弾性部材により形砕することが望ましい。また、耐アルカリ性,耐溶剤性を有する高分子材料が望ましい。無機ハイドライドを用いる場合には、隔壁には、耐アルカリ性の高い天然ゴム,スチレンゴム,ブチルゴム,エチレン,プロピレンゴム,ニトリルゴム,ポリプロピレン・メチルペンテン樹脂,フッ素樹脂等を用いることが望ましい。有機ハイドライドを用いる場合には、隔壁には、耐溶剤性高いフッ素ゴム,フッ素樹脂,フェノール樹脂等を用いることが望ましい。本発明の燃料タンクの材質としては、隔壁と同様に耐アルカリ性,耐溶剤性の材料が望ましい。隔壁用材料として上述した高分子材料の他に、SUS304,SUS316等のステンレス,チタン等の金属材料,耐薬品性の高いエンジニアリングプラスチック,ガラス炭素繊維系複合材料(FRP,カーボンFRP等),鋼,アルミニウム,マグネシウム合金等の超軽量合金の耐腐食性を高めた複合材料を用いることが望ましい。
【0024】
[第1実施形態]
図1に本発明の実施形態に伴う自動車用燃料タンクを搭載した水素エンジン自動車の模式図を示す。水素エンジン自動車101は以下のようにして動く。燃料タンク104から燃料(水素貯蔵材料)をポンプ105で脱水素装置103に送りこみ脱水素装置103内の触媒層に燃料を噴きつけ触媒反応により水素と脱水素化物(廃液)に分離し、分離した水素をエンジン102に送りエンジン内で水素を燃焼させこれを動力とする。このとき廃液はポンプ107によって吸引され燃料タンク104に格納される。
【0025】
図2に本実施形態の燃料タンクの一例の模式図を示す。実施形態の燃料タンクは、燃料タンクの外郭となるタンク筐体208,燃料を格納する燃料室202,廃液を格納する廃液室203,タンク筐体と接しており燃料室と廃液室の仕切りとなり、燃料および廃液の量に応じて可動する隔壁201,燃料または廃液を脱水素装置やディスペンサなどと受け渡しを行う配管204,205,206,207、配管に取り付けられたバルブで構成される。各配管は隔壁の動きを阻害しない場所につけることが望ましい。
【0026】
以下に図1および図3を用いて本実施例での燃料タンクの機能を説明する。自動車の始動とともに、燃料を触媒に送り込むポンプ105が始動し、吸い込み圧が任意の圧力に達するとともに弁301が開弁し、燃料室から燃料が吸い出される。吸い出された燃料は脱水素装置に送られる。これと同時にタンク内では隔壁303が燃料の減少に伴って摺動し、図左側に移動する。これによりタンク全体に負圧が発生する。脱水素装置に送られた燃料は触媒層で脱水素化され、水素はエンジンヘ送られる。同時に発生する廃液は、弁302の開弁によりタンクに回収される。廃液をタンクに回収する吸引力は、吸収ポンプ107を配置することで得ることもできるが、前述のタンクに発生する負圧を利用することで、ポンプで組み入れの補助をするか、ポンプを配置せずに組み入れする。
【0027】
また、サービスステーションなどで燃料を充填する際には燃料充填口111および廃液回収口112から燃料を充填および廃液を回収する。燃料充填口に燃料充填用ディスペンサ,廃液回収口に廃液回収用ディスペンサを取り付け、燃料をタンクに充填する。このとき燃料充填口と燃料充填用ディスペンサの供給口,廃液回収口と廃液回収用ディスペンサの回収口はお互いに燃料供給ラインおよび廃液回収ラインを密封できるような構造をとることが望ましい。これにより燃料の充填と廃液の回収を効率よく進めることができる。また、燃料供給充填用ディスペンサおよび廃液回収ディスペンサにはそれぞれの配管内の気体を汲み出す装置をつけることが望ましい。
【0028】
また、本実施形態の燃料タンクは図4のように燃料室または廃液室に弾性素材または金属バネ・ゴムバネ・空気バネを供えることも可能である。これにより弾性体やバネの復元力を用いて燃料を押し出す(廃液を吸い込む)ことが可能となり、燃料を吸い出すポンプ105や廃液を吸い込むポンプ107を削減またはポンプの補助をすることが可能となる。
【0029】
また、本実施形態の燃料タンクは、図5のように燃料室の壁501または廃液室の壁
502を袋状にすることも可能である。このとき袋の材質としては弾性素材や耐アルカリ性,耐溶剤性を有する高分子材料などが望ましい。このタンクでは袋内部に燃料または廃液を格納する。このとき、袋の形状はタンク筐体の内壁と同じ形であり、袋の外側の一部を隔壁503に接着することが望ましいが、これを限定するものではない。また、隔壁はタンク筐体内壁の断面形状と同一であり、燃料の増減に伴って断面と垂直方向に進むことが望ましいがこれに限らない。
【0030】
また、本実施形態の燃料タンクは、図6のように廃液室および燃料室が袋状構造をとり、一方の部屋がもう一方の部屋を包みこむ構造にすることも可能である。このとき少なくとも外袋601の材質としては耐アルカリ性,耐溶剤性を有する弾性素材が望ましい。また、外袋601のある力に対する変形量や弾性力は内袋よりも大きいほうが望ましい。廃液室,燃料室に取り付けられた配管は上述したように、4つ取り付けられ、それぞれ独立した位置に取り付けられるが、一箇所に集めて取り付けることが望ましい。
【0031】
また、本実施形態の燃料タンクは、図7に示すように廃液室,燃料室に加えてスペーサー室を具備することも可能である。このとき、スペーサー室,廃液室および燃料室は袋状の構造をとることが望ましく、それぞれの袋の形状はタンク筐体の内壁と同じ形であることが望ましい。このとき袋の材質としては弾性素材や耐アルカリ性,耐溶剤性を有する高分子材料などが望ましい。スペーサー室には圧縮された気体が収納される。特に、空気や窒素、安定な不活性ガスなどが望ましい。また、スペーサー室に接続される配管は気体の出し入れを行う一本のみである。また、スペーサー室に具備された配管は図8のように燃料充填口812および廃液回収口813の近くに配置されたスペーサー圧入口814に接続されており、間に弁が具備されている。また、スペーサー圧入口814も廃液回収口および燃料充填口と同様にディスペンサとお互いに気体供給ラインを密封できるような構造をとることが望ましい。また、スペーサー室に加える気体はサービスステーションでの燃料充填,廃液回収時に同時に充填・放出され、挿入する気体の量はタンクに入れる燃料量によって設定された量となる。スペーサー室は燃料の充填量がタンクの満杯量に至らない場合に燃料室および廃液室を気体の圧力により押さえつけるために用いる。また、スペーサーに貯蔵される気体の圧力は燃料室と廃液室に付加され、燃料室から脱水素装置に燃料を送り出す力あるいは補助力となる。このとき廃液室と脱水素装置を結ぶ配管に具備される弁は逆止弁であることが望ましい。
【0032】
また、スペーサー室つき燃料タンクは図9のように燃料室と廃液室の間にスペーサー室を設けた構造も可能である。
【0033】
また、本実施形態の燃料タンクは、図10のように燃料室1001および1002や廃液室1003を複数個持たせることも可能である。図11に水素エンジン車に本タンクを利用した際の模式図を示す。図10および図11を用いて複数の燃料室および複数の廃液室をもつ燃料タンクについて説明する。図10において、燃料1を水素貯蔵材料、例えばメチルシクロヘキサン、燃料2を水素(気体)とする。燃料1はこれまで示してきたように脱水素触媒に送られ、水素と廃液に分けられ、水素はエンジンに、廃液は廃液室1003に送られる。しかし、エンジン終了時に作られた水素はそのまま脱水素反応装置内に残ってしまう。これをポンプ1115で燃料室1002に送り格納しておく。また、走行時の余剰水素などもポンプ1115で燃料室1002に送り、格納しておく。燃料室1002に貯蔵された燃料は始動時や高回転運転時に不足分の水素を補うために使用することが可能である。
【0034】
本実施例で用いる弁は開弁動作圧力が設定された逆止弁を用いることにするが、バルブの種類および開弁動作圧力はこれに限定するものでなく、開弁タイミングを自動車のECU(Electrical Control Unit:電子制御装置)で行う電動バルブなどでもよい。
【0035】
また、配管204と配管206は脱水素装置、配管205と配管207は燃料充填口にそれぞれつながっており、配管204と配管206,配管205と配管207はそれぞれ途中で同軸上に配置されてもよい。また、本実施例は水素エンジン自動車に関して示しているが、エンジンを燃料電池とモータに置き換えることも可能である。本実施例を燃料電池自動車に適用する場合、図7および図9のようなスペーサー室つき燃料タンクを用い、スペーサー室と燃料電池とを配管で接続して燃料電池停止時にスペーサー室の気体を送り込むことも可能である。このときスペーサー室の気体としてはヘリウム,アルゴン,ネオンなどの不活性ガスや窒素ガスなどが好ましい。
【0036】
また、本タンクにおいて燃料室と廃液室は鉛直方向に積み上げられた構造が望ましいが、これに限るものではない。
【0037】
[第2実施形態]
図12に本発明の実施形態に伴うサービスステーションにおける燃料タンクの模式図を示す。サービスステーションにおける燃料タンクは、ディスペンサに具備される。従来のガソリン,軽油用ディスペンサはディスペンサ側の燃料タンクから燃料を吸出し、自動車タンクに燃料を送り込むだけであったが、水素貯蔵系燃料タンクは燃料であるハイドライドと廃液の両者を貯蔵しなくてはならない。二つのタンクを使用するのが最も簡単であるが、燃料充填および廃液回収を同時に行う場合、ポンプが2つ必要になる。
【0038】
本実施形態に伴う燃料タンクを実装すると、ディスペンサのポンプを一つにすることも可能である。図12に示すように、密封されたタンクの内部は燃料室1205および廃液室1206があり、燃料室および廃液室は袋状の構造をとることが望ましい。また、燃料室と廃液室の間は可動式の隔壁1211が設置されており、燃料と廃液をタンク内に区分して貯蔵できるようになっている。本タンクにおいて燃料室と廃液室は鉛直方向に積み上げられた構造が望ましいが、これに限るものではない。本実施例では上部が燃料室で下部が廃液室である。
【0039】
次に、本発明の燃料タンクを用いたディスペンサを用いて自動車の燃料タンクに燃料を充填および廃液を回収する手順について説明する。なお、自動車にも本実施形態の燃料タンクを具備させていることとする。自動車への燃料充填および廃液回収はこの2つの作業を同時に行うことが望ましい。まず、燃料充填口および廃液回収口に燃料充填ノズルおよび廃液回収ノズルをセットする。これにより燃料充填・廃液回収ルートが自動車燃料タンクおよびディスベンサ燃料タンクの隔壁に仕切られた形でつながり、燃料充填口1202から燃料の充填を開始すると自動車燃料タンクの燃料体積が増加し、自動車燃料タンクの隔壁に力がかかり、自動車燃料タンクの廃液室から廃液を押し出す。この押し出された廃液は廃液ルートを通じて、ディスペンサ燃料タンクの廃液室に回収される。同時にディスペンサ燃料タンクの廃液室の体積が増加し、ディスペンサ燃料タンクの燃料室の燃料が押し出される。この一連の制御により自動車への燃料充填および廃液回収が行われる。ここで、燃料充填口および廃液回収口と燃料充填ノズルおよび廃液回収ノズルは、充填・回収ルートを密封するために接続した状態が機密性の高い状態であることが望ましい。また、燃料充填口および廃液回収口と燃料充填ノズルおよび廃液回収ノズルを接続し、充填・回収を行う前にルート内の空気を除去する作業をすることが望ましい。
【0040】
本実施例に伴う燃料タンクは図12に記載されている形態に限らず、図4〜図7および図9のタンクなども使用してもよい。図7および図9の燃料タンクを用いる際には上述した充填回収作業のほかにもスペーサ室に気体を圧入する作業も加わる。気体圧入用ディスペンサは図12と同一の筐体内に収めても良いし、ディスペンサとは別の筐体でもかまわない。
【0041】
[第3実施形態]
図13に本発明の実施形態に伴う燃料輸送用タンクローリーにおける模式図を示す。
【0042】
タンクローリー水素貯蔵材料および廃液を輸送するものである。本タンクローリーは燃料タンク部1305,燃料充填・廃液回収部1306,移動体部1301で構成される。燃料タンク部は、燃料タンクの筐体,燃料室1303および廃液室1302で構成され、燃料室および廃液室は袋状の構造をとることが望ましい。また、燃料室と廃液室の間は可動式の隔壁1304が設置されており、燃料と廃液をタンク内に区分して貯蔵できるようになっている。本タンクにおいて燃料室と廃液室は鉛直方向に積み上げられた構造が望ましいが、これに限るものではない。また、燃料充填・廃液回収部は燃料充填ノズルおよび廃液回収ノズル,配管,ポンプから構成され、配管は一部、可動性の高い材質を使うことが望ましい。
【0043】
燃料充填ノズルおよび廃液回収ノズルは充填・回収ルートを密封するために接続した状態が機密性の高い状態であることが望ましい。また、燃料充填口および廃液回収口と燃料充填ノズルおよび廃液回収ノズルを接続し、充填・回収を行う前にルート内の空気を除去する作業をすることが望ましい。本実施例に伴う燃料タンクは図13に記載されている形態に限らず、図4〜図7および図9のタンクなども使用することができる。図7および図9の燃料タンクを用いる際には上述した充填回収作業のほかにもスペーサー室に気体を圧入する作業も加わる。気体圧入用ディスペンサは図13と同一の筐体内に収めても良いし、ディスペンサとは別の筐体でもかまわない。また、図14のように図13の構成に水素製造装置1404および水素添加装置1403をつけることでタンクローリーを移動式の水素貯蔵体製造装置とすることができる。
【0044】
以上説明した実施形態1〜3によれば、水素貯蔵材料を燃料とする利用機器の燃料タンクを燃料室と廃液室の体積比が変動自在にでき、自動車等の限られたスペースに最大限の燃料を搭載することができる。また、燃料の充填および回収の効率をあげることができ、ひいては燃料の低価格化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】自動車用燃料タンクを搭載した水素エンジン自動車の模式図。
【図2】本発明の燃料タンクの一例を示す模式図。
【図3】本発明の燃料タンクの機能を説明する図。
【図4】本発明の燃料タンクの一例を示す模式図。
【図5】本発明の燃料タンクの一例を示す模式図。
【図6】本発明の袋状構造を用いた燃料タンクの一例を示す模式図。
【図7】本発明のスペーサー室付き燃料タンクの一例を示す模式図。
【図8】スペーサー室付き燃料タンクを搭載した水素エンジン自動車の模式図。
【図9】本発明のスペーサー室付き燃料タンクの一例を示す模式図。
【図10】本発明の複数の燃料室を有する燃料タンクの一例を示す模式図。
【図11】複数の燃料室を有する燃料タンクを搭載した水素エンジン自動車の模式図。
【図12】本発明のサービスステーションにおける燃料タンクの模式図。
【図13】本発明の燃料タンクを燃料輸送用タンクローリーに用いた模式図。
【図14】本発明の燃料タンクを燃料輸送用タンクローリーに用いた模式図。
【符号の説明】
【0046】
101…水素エンジン自動車、102…エンジン、103…脱水素装置、104…燃料タンク、105,107…ポンプ、106,108,301,302…弁、111…燃料充填口、112…廃液回収口、201…隔壁、202…燃料室、203…廃液室、204,205,206,207…配管、208…タンク筐体。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素貯蔵材料と、前記水素貯蔵材料の脱水素反応によって生成された生成物とを貯蔵する燃料タンクであって、
タンク外装と、前記水素貯蔵材料を格納する燃料室と、前記生成物を格納する廃棄物室とを有し、前記燃料室と前記廃棄物室の体積比を変動可能な隔壁により前記燃料室と前記廃棄物室とが分離されており、前記燃料室および前記廃棄物室に備えられた配管に弁が備えられ、前記燃料室および前記廃棄物室が密封可能なことを特徴とする燃料タンク。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料タンクにおいて、前記隔壁と前記タンク外装の内壁に取り付けられた弾性素材,金属バネ,ゴムバネ、又は空気バネのいずれか1つを有することを特徴とする燃料タンク。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料タンクにおいて、各室の外壁が柔軟性のある弾性部材でできた袋状であることを特徴とする燃料タンク。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料タンクにおいて、前記廃棄物室が複数設けられていることを特徴とする燃料タンク。
【請求項5】
請求項1に記載の燃料タンクにおいて、前記水素貯蔵材料が、ベンゼン,トルエン,キシレン,メシチレン,ナフタレン,メチルナフタレン,アントラセン,ビフェニル,フェナスレンおよびそれらのアルキル置換体のうちのいずれか1つあるいはいずれかを複数混合した芳香族化合物、または、アンモニア水溶液,ヒドラジン水溶液,ホウ酸ナトリウムのいずれかであることを特徴とする燃料タンク。
【請求項6】
請求項1に記載の燃料タンクにおいて、前記水素貯蔵体から脱水素反応によって生成した水素を燃料として使用する機器に搭載されることを特徴とする燃料タンク。
【請求項7】
水素貯蔵材料と、前記水素貯蔵材料の脱水素反応によって生成された生成物とを貯蔵する燃料タンクであって、
前記水素貯蔵材料を格納する燃料室と、前記生成物を格納する廃棄物室と、前記水素貯蔵材料及び前記生成物以外の気体又は液体を収容するスペーサー室とを有し、
前記燃料室,前記廃棄物室および前記スペーサー室は、各室の体積比を変動可能な隔壁により分離されており、
前記燃料室,前記廃棄物室および前記スペーサー室に備えられたそれぞれの配管に弁が備えられ、前記燃料室,前記廃棄物室およびスペーサー室が密封可能なことを特徴とする燃料タンク。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料タンクにおいて、各室の外壁が柔軟性のある弾性部材でできた袋状であることを特徴とする燃料タンク。
【請求項9】
請求項7に記載の燃料タンクにおいて、前記水素貯蔵材料が、ベンゼン,トルエン,キシレン,メシチレン,ナフタレン,メチルナフタレン,アントラセン,ビフェニル,フェナスレンおよびそれらのアルキル置換体のうちのいずれか1つあるいはいずれかを複数混合した芳香族化合物、または、アンモニア水溶液,ヒドラジン水溶液,ホウ酸ナトリウムのいずれかであることを特徴とする燃料タンク。
【請求項10】
請求項7に記載の燃料タンクにおいて、前記水素貯蔵体から脱水素反応によって生成した水素を燃料として使用する機器に搭載されることを特徴とする燃料タンク。
【請求項11】
水素貯蔵材料と、前記水素貯蔵材料の脱水素反応によって生成された生成物とを貯蔵する燃料タンクであって、
外装と、前記外装の内部に配置され、前記水素貯蔵材料を収容する燃料室、及び、前記生成物を収容する廃棄物室が設けられた内部容器とを有し、
前記燃料室及び廃棄物室は弾性素材でできた袋状の構造であり、前記燃料室が廃棄物室を包み込むか、または、前記廃棄物室が前記燃料室を包み込む2重構造であることを特徴とする燃料タンク。
【請求項12】
請求項11に記載の燃料タンクにおいて、前記燃料室および前記廃棄物室に備えられたそれぞれの配管に弁を有し、前記燃料室および前記廃棄物室が密封可能であることを特徴とする燃料タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−56072(P2008−56072A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234830(P2006−234830)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】