説明

燃料ポンプ

【課題】 燃料ポンプにおいて、リード線の硫化に対する耐久性をより向上させる。
【解決手段】 燃料ポンプ1において、電動モータを外部電源に接続するためのコネクタ3の端子3aと、電動モータの回転子4に摺接して該回転子4のコイルに給電するためのブラシ5と、を電気的に接続するリード線8に、電気スズメッキ処理を施し、適切な厚さのメッキ層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より種々の燃料ポンプが提案されている。特許文献1は、その一例としての燃料ポンプを開示する。
【0003】
特許文献1に開示される燃料ポンプは、中空状のケーシングと、該ケーシング内に設けられたポンプ部および該ポンプ部を駆動する電動モータと、を含んでいる。
【0004】
この種の燃料ポンプでは、電動モータを外部電源に接続するためのコネクタの端子と、電動モータの回転子に摺接して該回転子のコイルに給電するためのブラシとの間を、リード線で接続する場合があるが、このリード線は、燃料中に含まれる硫黄分で硫化される場合があるため、その対策として、スズメッキ処理を行う場合があった。
【特許文献1】特開平9−154261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなリード線にメッキを施す場合には、従来、溶融メッキ法が用いられている。溶融メッキ法は、溶融したメッキ材の中に線材を通し、表面にメッキ材を付着させ、出口でダイスを通すことで所定の厚さのメッキ厚に仕上げる。しかし、メッキ厚のコントロールは難しく、そのばらつきも大きいため、部分的にメッキが薄くなり、硫化に対する耐久性が低くなる場合があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、燃料ポンプにおいて、リード線の硫化に対する耐久性をより向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、燃料ポンプにおいて、電動モータを外部電源に接続するためのコネクタの端子と、前記電動モータの回転子に摺接して該回転子のコイルに給電するためのブラシとを電気的に接続するリード線に、電気スズメッキ処理を施したことを趣旨とする。
【0008】
また、請求項2の発明は、上記請求項1の発明において、リード線のメッキ層の厚さを0.4μm以上2.0μm以下としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、リード線に電気スズメッキ処理を行うことで、溶融スズメッキ処理を行った場合に比べてメッキ層の厚さのばらつきを小さくすることができ、硫化に対する耐久性を向上することができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、メッキ層の厚さを適切に設定したことで、耐硫化性と柔軟性との両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具現化した実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態にかかる燃料ポンプの側面図、図2は、燃料ポンプの吐出ポートが形成される側の端部(上部)を見た平面図、図3は、燃料ポンプの上部の断面図(図2のA−A断面図)、図4は、燃料ポンプ内のリード線のメッキ厚さと曲げ剛性(リード線に所定の撓みを与えたときの反力)との相関関係を示す図、図5は、リード線のメッキ厚さとリード線寿命との相関関係を示す図(ただし、硫黄を含む燃料中での実験結果)である。なお、本実施形態では、自動車用内燃機関の燃料供給系で用いられる燃料ポンプを開示する。また、本明細書では、便宜上、図1および図3にしたがって上下方向を定義する。
【0012】
燃料ポンプ1は、サクションフィルタ(図示せず)を介して吸入ポート(図示せず)から吸入した燃料を、吐出ポート2から吐出する。この燃料ポンプ1は、燃料タンク内に収容され、該燃料タンク内の燃料を燃料噴射弁に供給する燃料供給装置(またはその一部)として機能する。
【0013】
本実施形態では、燃料ポンプ1は、中空状のケーシング10と、該ケーシング10内に設けられたポンプ部(図示せず)および該ポンプ部を駆動する電動モータ(一部のみ図示)とを含んでいる。
【0014】
ケーシング10内には、筒状体11が収容されており、その筒内に電動モータの回転子4が収容されている。この筒状体11の上側には、有蓋筒状のカバー体12が配置されており、これをケーシング10の開口端部10aで内側に加締めることで、カバー体12および筒状体11をケーシング10に固定している。
【0015】
カバー体12の上面には、燃料チューブや配管が接続される吐出ポート2や、電動モータに電池等の外部電源を接続するためのコネクタ3が形成されている。
【0016】
また、カバー体12の内部の中央部には、軸受筒部12aが形成されており、この軸受筒部12aに、軸受13を介して回転子4のシャフト14(の上側端部)が回転自在に軸支されている。
【0017】
この軸受筒部12aの外周側には、シャフト14の軸方向に沿って伸びるガイド孔12bが形成されるとともに、コネクタ3の端子3aと電気的に接続される導通体(金具)9が取り付けられており、ガイド孔12b内に上下動可能に緩挿されたブラシ5と、導通体9とが、リード線8によって電気的に接続されている。ここで、ガイド孔12bの開口端には鋼球7が圧入されており、この鋼球7とブラシ5との間に、付勢手段(圧縮バネ)としてのスプリング6が介装されている。よって、ブラシ5の下面5Aは、スプリング6の付勢力によって、回転する回転子4の整流子の上面4Aに押しつけられ、当該上面4Aと摺接することになる。
【0018】
かかる構成では、ブラシ5の下面5Aは、長期使用に伴って摩耗が進んで徐々に短くなるが、スプリング6の付勢力により、ブラシ5の摩耗が進行したとしても、ブラシ5の下面5Aと回転子4の整流子の上面4Aとがより確実に当接し、当接面における電気的な接続状態をより確実に維持できるようにしてある。
【0019】
また、ブラシ5に連結するリード線8を略U字状に屈曲させて、リード線8の長さに余裕を持たせるとともに、リード線8自体を柔軟に構成することで、摩耗によってブラシ5が短くなり、リード線8がブラシ5の移動に伴って撓んだ時に、当該リード線8がブラシ5の移動の妨げにならないようにして、ブラシ5の下面5Aと回転子4の整流子の上面4Aとがより適切に当接し、当接面における電気的な接続状態をより確実に維持できるようにしてある。
【0020】
以上の構成では、電源(電池)から供給された電力は、コネクタ3の端子3a、導通体9、リード線8、ブラシ5、およびブラシ5の下面5Aと回転子4の整流子の上面4Aとの摺動面を経由して、当該回転子4(電動モータ)に供給される。
【0021】
ここで、本実施形態では、リード線8に、電気スズメッキ処理を施し、燃料中の硫黄分による硫化を抑制するようにしている。電気メッキ処理は、メッキ液中に通電しながら線材(リード線8)を通過させ、メッキ材を表面に析出させる処理方法であり、より均一な厚さのメッキが得られるとともに、電流値や処理時間等によって、メッキ厚さを適宜に調整することができる。また、本実施形態では、ニッケルメッキより柔軟なメッキ層を構成できるスズメッキとして、リード線8がブラシ5の移動の妨げとなるのを抑制している。
【0022】
そして、発明者は、リード線8のメッキ層の厚さについて鋭意研究を重ねたところ、以下のような知見を得ることができた。
【0023】
(1)メッキ層を厚くしすぎると、リード線8の曲げ剛性が高くなりすぎて、リード線8が接続されるブラシ5の移動の妨げとなり、ブラシ5の異常摩耗が生じるおそれがある。実験の結果、メッキ層の厚さを2[μm]以下とすれば、所定の撓みを与えたときの反力が、ブラシ5の整流子上面4Aに対する充分な追従性が得られて不具合を生じない閾値Bthより小さくなることが判明した。さらに1.5[μm]とすれば、さらに好適であることが判明した(図4)。
【0024】
(2)逆にメッキ層を薄くしすぎると、硫化する部分が生じ、リード線8の耐久性が低下するおそれがある。実験の結果、メッキ層の厚さを0.4[μm]以上とすれば、燃料ポンプ1の想定寿命時間Tthより長くもち、充分な耐硫化性が得られることが判明した(図5)。
【0025】
以上の本実施形態によれば、リード線8に電気スズメッキ処理を行うことで、溶融スズメッキ処理を行った場合に比べてメッキ層の厚さのばらつきを小さくすることができ、硫化に対する耐久性を向上することができる。
【0026】
また、本実施形態によれば、メッキ層の厚さを適切に設定したことで、耐硫化性と柔軟性の両立を図ることができる。
【0027】
また、本実施形態によれば、リード線8を屈曲させたため、リード線8の柔軟性をさらに高めることができる。
【0028】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0029】
また、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
【0030】
(イ)請求項1に記載の燃料ポンプでは、リード線のメッキ層の厚さを0.4μm以上1.5μm以下とするのが好適である。
【0031】
こうすれば、2[μm]とした場合に比べて柔軟性が増大し、ブラシに対する悪影響をより確実に回避できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態にかかる燃料ポンプの側面図。
【図2】本発明の実施形態にかかる燃料ポンプの吐出ポートが形成される側の端部(上部)を見た平面図。
【図3】本発明の実施形態にかかる燃料ポンプの上部の断面図(図2のA−A断面図)。
【図4】本発明の実施形態にかかる燃料ポンプ内のリード線のメッキ厚さと曲げ剛性との相関関係を示す図。
【図5】本発明の実施形態にかかるリード線のメッキ厚さとリード線寿命との相関関係を示す図。
【符号の説明】
【0033】
1 燃料ポンプ
3 コネクタ
3a 端子
4 回転子
5 ブラシ
10 ケーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状のケーシングと、該ケーシング内に設けられたポンプ部および該ポンプ部を駆動する電動モータと、を含む燃料ポンプにおいて、
前記電動モータを外部電源に接続するためのコネクタの端子と、前記電動モータの回転子に摺接して該回転子のコイルに給電するためのブラシとを電気的に接続するリード線に、電気スズメッキ処理を施したことを特徴とする燃料ポンプ。
【請求項2】
リード線のメッキ層の厚さを0.4μm以上2.0μm以下としたことを特徴とする請求項1に記載の燃料ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−299954(P2006−299954A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123506(P2005−123506)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】