説明

燃料噴射弁

【課題】簡易な構造及び制御で、自由度が高く精度の良好な多段燃料噴射が可能な燃料噴射弁を提供する。
【解決手段】ノズル4に第1の針弁2及び第2の針弁3が同軸上に収納されるとともに、第1の針弁2により第1の噴孔6を開閉するとともに、第2の針弁2により第2の噴孔7を開閉する2重針弁構造の燃料噴射弁において、本体部11に、1つの燃料入口22から分岐して第1の噴孔6及び第2の噴孔7に連通する燃料流入路20が設けられるとともに、第1の針弁2及び第2の針弁3のうち第1の針弁2のみ作動制御する第1の制御弁40と、第1の針弁2及び第2の針弁3のうち第2の針弁3のみ作動制御する第2の制御弁41と、を備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの燃料噴射弁に係り、詳しくは2重針弁を備えた燃料噴射弁の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンに採用される燃料噴射弁は、噴孔から直接燃焼室へ高圧の燃料を噴射させる。このような燃料噴射弁の構造は、通常、筒状のノズルに針弁を軸方向に移動可能に収納し、ノズル先端に設けた噴孔を針弁の先端で開閉する構造となっている。
そして、燃料噴射率の可変範囲の拡大及び精度の向上を図るために、針弁を2つ有し、2系統の噴孔から噴霧を可能にした燃料噴射弁が知られている。このように針弁を2つ有する燃料噴射弁では、例えば1サイクルでの燃料噴射の途中で噴孔を切り換えるように制御して、多段噴射を行っている。
【0003】
更に、針弁を2つ有する燃料噴射弁において、コンパクト化を図るために、ノズル内に2つの針弁を同心円上に配置させる2重針弁が開発されている(特許文献1)。この燃料噴射弁では、制御弁により針弁の作動を制御することで燃料噴射量を制御する。
また、針弁を2つ有する燃料噴射弁において、燃料噴射弁に燃料を供給する燃料ポンプの吐出量の制御を行うことで燃料噴射量の制御を行うものもある。更に、針弁の切り換え時に燃料噴射量の変動を抑制するために、例えば燃料ポンプのコントロールラック位置を針弁の切り換え時に変更して、吐出量を調整する技術も開発されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−351099号公報
【特許文献2】特開平8−49567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2のいずれにおいても、燃料噴射弁には2種類の噴孔に対応して燃料入口が複数設けられており、夫々の燃料入口に燃料ポンプから燃料を供給しなければならない。したがって、針弁が1つの燃料噴射弁を備えたエンジンを改造して、2重針弁の燃料噴射弁を適用しようとすると、燃料噴射弁だけではなく、燃料噴射弁への燃料供給路まで変更しなければならず、エンジンのレイアウトを考慮して大幅な改造を余儀なくされる虞がある。更に、特許文献2では、燃料ポンプのコントロールラック位置を細かく制御可能なアクチュエータを設けなければならず、コスト増加及びシステム全体の大型化を招く虞がある。
【0006】
また、特許文献1の燃料噴射弁には、2つの針弁の作動を制御して燃料噴射弁からの全体の燃料噴射量を制御する制御弁があり、この制御弁の開度制御と他の制御弁の開度制御とを組み合わせて各噴孔からの燃料噴射量を制御する構成になっている。したがって、制御弁の制御が複雑化するとともに、個々の噴孔からの噴射制御の自由度が低くなり、細かい多段燃料噴射制御が困難となる虞がある。一方、特許文献2の燃料噴射弁では、燃料ポンプの吐出量の制御を行うことで燃料噴射量の制御を行うので、個々の噴孔からの噴射制御の自由度は低くなってしまうといった問題点がある。
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、簡易な構造及び制御で自由度が高く精度が良好であって多段燃料噴射に最適な燃料噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は筐体に同軸上に収納された第1の針弁及び第2の針弁により、第1の噴孔及び第2の噴孔を独立して開閉する2重針弁構造の燃料噴射弁において、筐体に、1つの燃料入口から分岐して第1の噴孔及び第2の噴孔に連通する燃料流入路が設けられるとともに、第1の針弁及び前記第2の針弁のうち第1の針弁のみ作動制御する第1の制御弁と、第1の針弁及び第2の針弁のうち第2の針弁のみ作動制御する第2の制御弁と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、第1の噴孔は筐体から突出したノズルの軸心近傍に設けられるとともに、第2の噴孔は第1の噴孔の周囲に設けられ、第1の噴孔よりも外方に向かって開口することを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1において、第2の噴孔は、内壁側が第2の針弁の軸線に対して垂直な部位に設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように請求項1の発明の燃料噴射弁によれば、第1の制御弁及び第2の制御弁によって夫々対応した2つの針弁を選択的に作動制御することで、2系統の噴孔を独立して開閉制御することができる。したがって、夫々の噴孔から必要とされる燃料噴射に見合うように夫々の制御弁の仕様を適切に設定することが容易となる。これにより、簡易な制御で自由度が高く精度の良好な多段燃料噴射を可能にすることができる。
また、燃料噴射弁の燃料入口は1つであるので、針弁が1つの燃料噴射弁を備えたエンジンに対して、本発明の燃料噴射弁に交換しても、燃料噴射弁への燃料供給路を変更する必要がなく、エンジンのレイアウトの変更を回避することができる。よって、簡易な構造で上記のように自由度が高く精度の良好な多段燃料噴射を可能にすることができる。
【0010】
請求項2の発明の燃料噴射弁によれば、第1の噴孔と比較して、第2の噴孔は外方に向かって噴射するので、より拡散して燃料を噴射することができる。したがって、拡散燃焼時に第2の噴孔を用いることで、より燃焼形態に適した燃料噴射を可能にすることができる。
請求項3の発明の燃料噴射弁によれば、第2の噴孔がノズルの内壁における第2の針弁の軸線に対して垂直な部位に設けられるので、第2の針弁による第2の噴孔の開閉量を細かく制御可能な構造にすることができる。よって、第2の噴孔の開度制御を精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の燃料噴射弁の一実施形態の構造を示す断面図である。
【図2】第2の噴孔の形状を示す拡大断面図である。
【図3】燃料噴射弁の作動状態を示す断面図であり、(A)は無噴射時、(B)は第1の噴孔のみ噴射時、(C)は第2の噴孔のみ噴射時を示す。
【図4】第1の電磁開閉弁及び第2の電磁開閉弁の制御要領を示すフローチャートである。
【図5】燃料噴射率及び熱発生率のパターンを示すグラフであり、(A)はクランク角に対する燃料噴射率の推移を示し、(B)は熱発生率の推移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の燃料噴射弁の一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の燃料噴射弁の構造を示す縦断面図である。
図1に示すように本実施形態に係る燃料噴射弁1は、針弁2、3を2個備えた2重針弁構造の燃料噴射弁である。燃料噴射弁1は、ディーゼルエンジンに採用され、燃焼室に直接燃料を噴射するように気筒毎に配置されている。
【0013】
燃料噴射弁1のノズル4は、円筒状に形成されたノズルボディ5を有している。ノズルボディ5の下端部は閉塞され円錐状に形成されている。ノズルボディ5の先端部の円錐面には、噴孔6、7が形成されている。噴孔6、7は、ノズルボディ5の内部空間と外部とを連通する孔であり、ノズルボディ5の先端、軸心を中心として円状に所定間隔をおいて複数設けられた第1の噴孔6と、該第1の噴孔6の外周側に同心円状に所定間隔をおいて複数設けられた第2の噴孔7とにより構成されている。第1の噴孔6の合計開口面積は、第2の噴孔7の合計開口面積より小さく設定されている。
【0014】
2個の針弁2、3は、ノズルボディ5の内部空間に同心円状に収納され、互いに独立してノズルボディ5の軸方向に移動可能に配置されている。2つの針弁2、3のうち、内側の第1の針弁2は、先端(図中下端)が円錐状に形成された円柱状であって、その先端で第1の噴孔6を開閉可能に配置されている。2つの針弁2、3のうち、外側の第2の針弁3は、先端(図中下端)が開口した円筒状に形成されており、その先端の縁部で第2の噴孔7を開閉可能に構成されている。第1の針弁2の外周壁と第2の針弁3の内周壁との間に空間8が形成されるように、第1の針弁2の外径及び第2の針弁3の内径が設定されている。また、ノズルボディ5の内周壁と第2の針弁3の外周壁との間にも空間9が形成されるように、ノズルボディ5の内径及び第2の針弁3の外径が設定されている。また、第2の針弁3には、内側の空間8と外側との空間9とを連通するための孔10が数箇所設けられている。
【0015】
ノズルボディ5は、基端部がブロック状の本体部(筐体)11に接続され、本体部11から突出した構造となっている。本体部11には、ノズルボディ5の内部空間をそのまま図中上方側に連続するように空間が形成されている。空間には、第1の針弁2及び第2の針弁3の基端部が収納されるように構成されている。空間の上部は、第2の針弁3の内径と略同径の円柱状の空間である第1の圧力室12と、外径がノズルボディ5の内径と略同径であるとともに内径が第2の針弁3の内径と略同径の円環形状の第2の圧力室13とに分割されている。
【0016】
第1の圧力室12には、円板状の第1のピストン14が密閉かつ摺動可能に設けられている。第1のピストン14は、第1の針弁2の基端に当接して図中下方へ移動することで、第1の針弁2を下方に移動させることが可能な構成となっている。
第2の圧力室13には、円環板形状の第2のピストン15が密閉かつ摺動可能に設けられている。第2のピストン15は、第2の針弁3の基端に当接して図中下方へ移動することで、第2の針弁3を下方に移動させることが可能な構成となっている。
第1のピストン14と第1の針弁2との間には、第1のピストン14に対して第1の針弁2を図中下方に付勢する第1のスプリング16が設けられている。第2のピストン15と第2の針弁3との間には、第2のピストン15に対して第2の針弁3を図中下方に付する第2のスプリング17が設けられている。
【0017】
本体部11の内部には、燃料流入路20及びリーク路21が設けられている。また、本体部11の表面には、燃料入口22及び第1のリーク出口23、第2のリーク出口24が設けられている。燃料流入路20は燃料入口か22から延び、内部で3つの流入路に分岐している。3つの流入路のうち、第1の流入路25は第1の圧力室12に、第2の流入路26は第2の圧力室13に、第3の流入路27はノズルボディ5と第2の針弁3との間の空間9に連通している。リーク路21は、第1の圧力室12と第1のリーク出口23とを連通する第1のリーク路28と、第2の圧力室13と第2のリーク出口24とを連通する第2のリーク路29とから構成されている。第1の流入路25、第2の流入路26、第1のリーク路28及び第2のリーク路29には、夫々オリフィス30、31、32、33が設けられている。更に、第1のリーク路28には、オリフィス32と第1のリーク出口23との間に第1の電磁開閉弁40(第1の制御弁)が設けられている。また、第2のリーク路29には、オリフィス33と第2のリーク出口24との間に第2の電磁開閉弁41(第2の制御弁)が設けられている。第1の電磁開閉弁40及び第2の電磁開閉弁41は、外部のコントロールユニット50により制御されて夫々開閉量が可変可能となっている。
【0018】
図2は、第2の噴孔7の形状を示す拡大縦断面図である。
ノズルボディ5先端部は円錐状に形成されているので、図2に示すように内壁5aが第2の針弁3の軸線方向に対して傾斜している。しかしながら、第2の噴孔7の縁部5bの周囲の内壁5aは、第2の針弁3の軸方向に対して垂直になるように形成されている。一方、第2の針弁3は先端に向かって厚さが小さくなるように傾斜している。したがって、第2の針弁3の先端の傾斜面3aと第2の噴孔7の縁部5bとの角度が比較的大きく取られ、第2の針弁3が第2の噴孔7の縁部5bである弁座に対してくさび状に当接する。
図3は、燃料噴射弁1の作動状態を示す断面図であり、(A)は無噴射時、(B)は第1の噴孔6のみ噴射時、(C)は第2の噴孔7のみ噴射時を示す。
【0019】
上記のような構成の燃料噴射弁1では、燃料入口22から燃料を供給すると、第1の流入路25を介して第1の圧力室12に、第2の流入路26を介して第2の圧力室13に、第3の流入路27を介してノズルボディ5の内壁と第2の針弁3の外壁との間の空間9に燃料が流入する。更にこの空間9から第2の針弁3に設けられた孔10を介して第1の針弁2と第2の針弁3との空間8に燃料が流入する。
【0020】
第1の電磁開閉弁40及び第2の電磁開閉弁41を閉作動させると、第1の圧力室12及び第2の圧力室13の内部圧力は保持される。ここで、図3(A)に示すように、第1のピストン14の上面(第1の圧力室12側)の受圧面積に対して、第1のピストン14の下面(空間8側)の受圧面積は、第1の針弁2の断面積分小さいので、空間内8に燃料が供給されていても、第1のピストン14には下方へ移動させる力が作用する。したがって、第1のピストン14により第1の針弁2が下方へ押され、その先端によって第1の噴孔6が閉塞される。同様に、第2のピストン15の上面(第2の圧力室13側)の受圧面積に対して、第2のピストン15の下面(空間9側)の受圧面積は、第2の針弁3の断面積分小さいので、空間内9に燃料が供給されていても、第2のピストン15には下方へ移動させる力が作用する。したがって、第2のピストン15により第2の針弁3が下方へ押され、その先端によって第2の噴孔7が閉塞される。
【0021】
第1の電磁開閉弁40のみ開作動させると、第1の圧力室12に貯留されている燃料が第1のリーク路28を介して排出される。これにより、第1の圧力室12内の圧力が低下して、図3(B)に示すように、第1のピストン14及び第1の針弁2が上方に移動し、第1の噴孔6のみ開放される。したがって、空間8に貯留している燃料が第1の噴孔6から噴射される。このとき、空間8には、第3の流入路27、空間9、孔10を介して燃料が供給され続ける。
【0022】
第2の電磁開閉弁41のみ開作動させると、第2の圧力室13に貯留されている燃料が第2のリーク路29を介して排出される。これにより、第2の圧力室13内の圧力が低下して、図3(C)に示すように、第2のピストン15及び第2の針弁3が上方へ移動し、第2の噴孔7が開放される。したがって、空間9及び空間8に貯留している燃料が第2の噴孔7から噴射される。
【0023】
即ち、本願の燃料噴射弁1は、第1の電磁開閉弁40を開閉制御することで第1の針弁2のみが移動し、第1の噴口6のみ開閉する。一方、第2の電磁開閉弁41を開閉することで第2の針弁3のみが移動し、第2の噴口7のみ開閉する。このように、夫々の針弁2、3の開閉が他の針弁3、2の開閉に影響を及ぼさず、第1の電磁開閉弁40及び第2の電磁開閉弁41によって互いに独立して第1の噴口6及び第2の噴口7の開閉制御が可能となっている。
【0024】
コントロールユニット50は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成される。コントロールユニット50は、アクセル開度やエンジン回転速度等の燃料噴射量を決定するデータを基に、クランク角に応じたタイミングで、第1の電磁開閉弁40及び第2の電磁開閉弁41の開閉制御を行う。
【0025】
図4は第1の電磁開閉弁40及び第2の電磁開閉弁41の制御要領を示すフローチャートである。図4に示す制御は、アクセル開度やエンジン回転速度等に基づき燃料噴射が必要となったときに、燃料噴射1回毎に実行される。
まず、ステップS10では、噴射パターンを決定する。噴射パターンは、時間(クランク角の推移)とともに変化する燃料噴射率のパターンであって、例えば、後述する図5(A)に示すようなパターンである。なお、以降は図5(A)に示すようなパターンである場合について説明する。そしてステップS20に進む。
【0026】
ステップS20では、第1の噴孔6及び第2の噴孔7の噴射順番を決定する。第1の噴孔6に対して第2の噴孔7は開口面積が大きいので、第2の噴孔7からの燃料噴射率が第1の噴孔6からの燃料噴射率より大きくなる。ステップS10において決定したパターンが、図5(A)に示すように、噴射前半では燃料噴斜率を抑え、噴射後半では燃料噴射率を上昇させるようなパターンである場合には、始めに第1の噴孔6から、その後第2の噴孔7から噴射するように決定する。そして、ステップS30に進む。
【0027】
ステップS30では、上記アクセル開度やエンジン回転速度等から決定した燃料噴射量を読み込み、この値に応じて各噴孔6、7からの燃料噴斜率を設定する。そして、ステップS40に進む。
ステップS40では、第1の噴孔6及び第2の噴孔7からの噴射の間隔を決定する。この噴射間隔は、ステップS10にて決定した噴射パターンに基づき設定される。そして、ステップS50に進む。
【0028】
ステップS50では、クランク角センサから現在のクランク角を入力し、当該クランク角が始めに噴射する第1の噴孔6から噴射するタイミングに到達したか否かを判別する。第1の噴孔6から噴射するタイミングは、即ち予混合燃焼のための燃料噴射開始タイミングに相当する。第1の噴孔6から噴射するタイミングに到達した場合には、ステップS60に進む。
ステップS60では、第1の電磁開閉弁40を開作動させる。開閉量は、ステップS30にて設定された第1の噴孔6からの燃料噴射率に相当する開閉量に制御する。そして、ステップS70に進む。
【0029】
ステップS70では、クランク角センサから現在のクランク角を入力し、当該クランク角が第2の噴孔7から噴射するタイミングに到達したか否かを判別する。第2の噴孔7からの噴射開始タイミングは、第1の噴孔6からの噴射開始タイミングに、ステップS40において決定された噴射間隔を経過したタイミングであり、拡散燃焼のため燃料噴射開始タイミングに相当する。第2の噴孔7から噴射するタイミングに到達した場合には、ステップS80に進む。
【0030】
ステップS80では、第2の電磁開閉弁41を開作動させる。開閉量は、ステップS30にて設定された第2の噴孔7からの燃料噴射率に相当する開閉量に制御する。そして、本ルーチンを終了して、リターンする。
ステップS50において、第1の噴孔6から噴射するタイミングに到達していない場合には、ステップS50を繰り返す。
ステップS70において、第2の噴孔7から噴射するタイミングに到達していない場合には、ステップS70を繰り返す。
【0031】
図5は、燃料噴射率及び熱発生率のパターンを示すグラフであり、(A)はクランク角に対する燃料噴射率の推移を示し、(B)は(A)の燃料噴射率パターンにおける熱発生率の推移を示す。
コントロールユニット50は、上記のように第1の電磁開閉弁40及び第2の電磁開閉弁41の開閉タイミングを制御し、図5(A)に示す燃料噴射率のパターンを実現させる。
【0032】
図5(A)に示すように、予混合燃焼領域となる燃料噴射前半では、第1の電磁開閉弁40を開作動し、第1の噴孔6から燃料噴射を行う。第1の噴孔6は、第2の噴孔7と比較して開口面積が小さいので、燃料噴射率を抑えた噴射を適切に行うことができる。拡散燃焼領域となる燃料噴射後半では、第1の電磁開閉弁40のかわりに第2の電磁開閉弁41を開作動させる。第2の噴孔7は、第1の噴孔6と比較して開口面積が大きいので、燃料噴射率の大きい噴射を適切に行うことができる。
【0033】
そして、このように図5(A)に示すパターンで噴射を行うことで、図5(B)中、実線に示すように燃焼室内での熱発生率が推移する。なお、図5(B)において、比較例として、1つの噴孔の燃料噴射弁による熱発生率の推移を破線で示す。
図5(B)に示すように、まず燃料噴射開始直後の予混合燃焼領域で、燃料噴射率を抑えることで、熱発生率を低下させる。これにより、NOxの発生を低減させることができる。次に燃料噴射後半での拡散燃焼領域では、燃料噴射率を上昇させることで、熱発生率を上昇させる。これにより、スモークの発生を低減させることができる。また、燃料噴射後半での拡散燃焼領域で用いられる第2の噴孔7は、第1の噴孔6と比較して、ノズルボディ5の軸心より外方に向けて開口しているので、より外方に拡散して噴射することができる。したがって、燃料噴射後半での第2の噴孔7からの噴射により、より拡散されて噴射されるため、燃料噴射停止後の拡散時間が抑えられる。よって、燃料噴射停止後の拡散時における熱発生率の低下した状態での燃焼時間が短縮し、スモークの発生を更に抑えることができる。
【0034】
以上のように、本実施形態の燃料噴射弁1を用いることで、1回の燃料噴射中において、予混合燃焼を行う燃料噴射前半部では第1の電磁開閉弁40を開制御することで、拡散燃焼を行う燃料噴射後半部では第2の電磁開閉弁41を開制御することで行われる。したがって、予混合燃焼に適した燃料噴射率が実現されるように、第1の電磁開閉弁40の開閉制御範囲や、第1の噴孔6の開口面積及び噴射方向を容易かつ適切に設定することができる。また、拡散燃焼に適した燃料噴射率が実現されるように、第2の電磁開閉弁41の開閉制御範囲や、第2の噴孔7の開口面積及び噴射方向を容易かつ適切に設定することができる。このように、本実施形態の燃料噴射弁1では、簡易な制御で自由度が高く精度の良好な多段燃料噴射を可能にすることができる。
【0035】
更に、燃料噴射弁1の燃料入口22が1つであるので、引用文献1及び2のように燃料入口が2つ設けられた燃料噴射弁よりも、燃料噴射弁への燃料供給路を簡素化することができ、エンジンのレイアウト上での自由度を向上させることができる。また、従来の針弁が1つの燃料噴射弁を備えたエンジンに対して、本実施形態の燃料噴射弁1を適用しても、燃料噴射弁1への燃料供給路の構造を複雑化させる必要がないので、エンジンのレイアウト変更を行わずに2重針弁の燃料噴射弁を適用することができる。
【0036】
また、燃料噴射弁1の第2の噴孔7が形成されたノズルボディ5の内壁5aは、第2の針弁3に対して傾斜しているが、本実施形態では、上記のように第2の噴孔7の縁部では第2の針弁3の軸方向に対して垂直になるように形成されている。したがって、第2の針弁3の先端の傾斜面3aと第2の噴孔7の縁部5bとの角度が比較的大きく取られ、第2の針弁3が第2の噴孔7に対してくさび状に挿入されるので、第2の針弁3の上下移動で、第2の噴孔7の開口面積を微少に制御可能となっている。
【0037】
なお、本発明は、上記の噴射パターンに限定されるものではなく、エンジンの仕様等に応じて適宜噴射パターンを設定してもよい。本発明の燃料噴射弁を用いることで、各種燃料噴射パターンを容易に設定可能である。
また、上記実施形態では、第1の電磁開閉弁40と第2の電磁開閉弁41とを切り換えるように制御したが、第1の電磁開閉弁40と第2の電磁開閉弁41の両方を開作動する期間を設けてもよい。このように、第1の電磁開閉弁40と第2の電磁開閉弁41の両方を開作動させることで、噴孔全体の開口面積をより大きくすることができ、出力の高いエンジンにも対応することが可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1 燃料噴射弁
2 第1の針弁
3 第2の針弁
4 ノズル
6 第1の噴孔
7 第2の噴孔
11 本体部(筐体)
20 燃料流入路
22 燃料入口
40 第1の電磁開閉弁(第1の制御弁)
41 第2の電磁開閉弁(第2の制御弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体に同軸上に収納された第1の針弁及び第2の針弁により、第1の噴孔及び第2の噴孔を独立して開閉する2重針弁構造の燃料噴射弁において、
前記筐体に、1つの燃料入口から分岐して前記第1の噴孔及び前記第2の噴孔に連通する燃料流入路が設けられるとともに、前記第1の針弁及び前記第2の針弁のうち前記第1の針弁のみ作動制御する第1の制御弁と、前記第1の針弁及び前記第2の針弁のうち前記第2の針弁のみ作動制御する第2の制御弁と、を備えたことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
前記第1の噴孔は前記筐体から突出したノズルの軸心近傍に設けられるとともに、前記第2の噴孔は前記第1の噴孔の周囲に設けられ、前記第1の噴孔よりも外方に向かって開口することを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
前記第2の噴孔は、内壁側が前記第2の針弁の軸線に対して垂直な部位に設けられたことを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−58424(P2011−58424A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209104(P2009−209104)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】