説明

燃料噴射状態検出装置

【課題】実際の噴射状態を高精度で検出可能な燃料噴射状態検出装置を提供する。
【解決手段】コモンレールの吐出口から燃料噴射弁の噴孔に至るまでの燃料供給経路に設けられて燃料圧力を検出し、燃料噴射に伴い生じる燃料圧力の変化を表したセンサ波形Wを出力する燃圧センサを備えた燃料噴射システムに適用した燃料噴射状態検出装置において、燃料噴射に伴って、コモンレールの吐出口から燃料配管を通じて燃料噴射弁へ流れ込む燃料の流れによって発生する供給脈動の波形Wmを、センサ波形Wから推定する脈動推定手段S20と、脈動推定手段S20により推定された供給脈動の波形Wmをセンサ波形Wから除去するようセンサ波形Wを補正する脈動除去手段S30と、脈動除去手段S30により除去補正されたセンサ波形W’に基づき、噴孔からの燃料噴射状態を推定する噴射状態推定手段S70〜S100と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射に伴い生じる燃料圧力の変化を表したセンサ波形を燃圧センサで検出し、検出したセンサ波形に基づき燃料噴射状態を推定する燃料噴射状態検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の出力トルク及びエミッション状態を精度良く制御するには、燃料噴射弁の噴孔から噴射される燃料の噴射開始時期や噴射終了時期等、その噴射状態を精度良く制御することが重要である。そこで従来では、コモンレール(蓄圧容器)及び燃料噴射弁を接続する燃料配管、又は燃料噴射弁に燃圧センサを搭載し、燃料噴射に伴い生じる燃圧変化(センサ波形)を検出している。そして、検出したセンサ波形に基づいて、実際の噴射状態(噴射開始時期や噴射終了時期等)を推定している(特許文献1,2参照)。例えば、燃圧センサにより検出したセンサ波形中に現れる変化点P1,P2,P3(図2(c)参照)を算出し、これらの変化点P1,P2,P3の出現時期及び圧力値に基づき、実際の噴射状態(噴射開始時期R1、噴射終了時期R4、噴射量Q等)を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−3004号公報
【特許文献2】特開2009−57924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、燃圧センサにより検出されたセンサ波形は噴射状態をそのまま反映している訳ではなく、以下に説明する供給脈動の波形がセンサ波形に重畳していることが、本発明者らが実施した各種試験により明らかとなった。
【0005】
すなわち、図3に例示するように、噴射開始に伴い噴孔近傍で生じた燃圧低下の脈動(噴射脈動Ma)が、燃料噴射弁10の内部通路を伝播して燃圧センサ20に達した時点で、センサ波形は降下を開始する(図3(a)〜(c)参照)。その後、噴射脈動Maがさらに伝播して燃料配管42bを通じてコモンレール42に達した時点で、コモンレール42から燃料配管42bへ燃料供給が開始される(図3(d)(e)参照)。この燃料供給開始に伴い燃料配管の流入口近傍で生じた燃圧上昇の脈動(供給脈動Mb)が、燃料配管42b及び燃料噴射弁10の内部通路を伝播して燃圧センサ20に達した時点で、圧力上昇する供給脈動Mbの波形成分がセンサ波形に重畳する。したがって、このような供給脈動Mbが重畳したセンサ波形から噴射状態を推定しようとすると、供給脈動Mbの影響により推定誤差が生じる。
【0006】
特に、噴射開始の後、最大噴射率に達する前に閉弁作動を開始させる微小噴射の場合には、センサ波形のうち噴射率低下に伴い生じる上昇波形の部分に、上述した供給脈動の波形が重畳することとなる。そのため、センサ波形のうちの上昇波形部分に基づき噴射終了時期や噴射率低下の傾き等の噴射状態を推定する場合には、その推定精度が著しく悪化する。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、実際の噴射状態を高精度で検出可能な燃料噴射状態検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0009】
請求項1記載の発明では、燃料ポンプから供給される燃料を蓄圧する蓄圧容器と、前記蓄圧容器の吐出口に接続される燃料配管と、前記燃料配管を通じて前記蓄圧容器から供給される燃料を噴射させる噴孔、及び前記噴孔を開閉する弁体を有する燃料噴射弁と、前記吐出口から前記噴孔に至るまでの燃料供給経路に設けられて燃料圧力を検出し、燃料噴射に伴い生じる燃料圧力の変化を表したセンサ波形を出力する燃圧センサと、を備えた燃料噴射システムに適用されることを前提とする。
【0010】
そして、燃料噴射に伴って、前記吐出口から前記燃料配管を通じて前記燃料噴射弁へ流れ込む燃料の流れによって発生する供給脈動を、前記センサ波形から推定する脈動推定手段と、前記脈動推定手段により推定された供給脈動の波形を前記センサ波形から除去するよう前記センサ波形を補正する脈動除去手段と、前記脈動除去手段により除去補正されたセンサ波形に基づき前記噴孔からの燃料噴射状態を推定する噴射状態推定手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
これによれば、燃料噴射に伴って吐出口から燃料配管を通じて燃料噴射弁へ流れ込む燃料の流れによって発生する供給脈動の波形を、センサ波形から推定し、推定した供給脈動の波形をセンサ波形から除去した上で燃料噴射状態を推定するので、供給脈動の影響により噴射状態の推定誤差が生じることを回避できる。よって、噴射状態を高精度で検出できる。
【0012】
特に、噴射開始の後、最大噴射率に達する前に閉弁作動を開始させる微小噴射の場合であっても、センサ波形のうち噴射率低下に伴い生じる上昇波形の部分に供給脈動の波形が重畳することを回避できるので、センサ波形のうちの上昇波形部分に基づき噴射終了時期や噴射率低下の傾き等の噴射状態を推定する場合において、供給脈動の影響により推定精度が著しく悪化することを回避できる。
【0013】
請求項2記載の発明では、前記脈動推定手段は、前記センサ波形のうち噴射開始に伴い燃圧降下していく部分の降下波形に基づき、前記供給脈動の波形を推定することを特徴とする。
【0014】
本発明者が実施した各種試験によれば、センサ波形のうち噴射開始に伴い燃圧降下していく部分の降下波形と、供給脈動の波形とは相関があることが分かった。このことは、次の理由によると考察される。
【0015】
すなわち、先述した供給脈動(燃料供給開始に伴い燃料配管の流入口近傍で生じた燃圧上昇の脈動)は、噴射脈動(噴射開始に伴い噴孔近傍で生じた燃圧低下の脈動)の発生に起因して生じるものであり、供給脈動の状態に応じて噴射脈動の状態も変化する。つまり、供給脈動の状態と噴射脈動の状態とは相関が高い。また、噴射脈動が伝播して燃圧センサに到達した後に、供給脈動が燃圧センサまで遅れて伝播されてくる。そのため、降下波形の降下開始時期や波形形状は、噴射脈動の影響を受けるものの、供給脈動の影響は殆ど受けていない。以上の考察をまとめると、供給脈動の状態は噴射脈動の状態と相関が高く、その噴射脈動は降下波形と相関が高いので、供給脈動の波形は降下波形と相関が高いと言える。
【0016】
この点を鑑みた上記発明では、センサ波形のうち噴射開始に伴い燃圧降下していく部分の降下波形に基づき供給脈動の波形を推定するので、その推定精度を向上できる。
【0017】
請求項3記載の発明では、前記脈動推定手段は、前記降下波形の降下の傾きに基づき、前記供給脈動の波形の上昇の傾きを推定することを特徴とする。
【0018】
本発明者が実施した各種試験によれば、降下波形の降下速度(傾き)と供給脈動の波形の上昇速度(傾き)とは相関性が高いことが分かった。図6(a)は、本発明者が実施した試験結果であり、降下波形の降下の傾きPαの計測値を横軸で表し、供給脈動の波形の上昇の傾きPγの計測値を縦軸で表したグラフである。この試験結果は、両傾きPα,Pγが比例関係にあり、降下波形の降下速度が速いほど供給脈動の波形の上昇速度は速くなることを表している。
【0019】
この点を鑑みた上記発明では、降下波形の傾きPαに基づき供給脈動波形の傾きPγを推定するので、例えば降下波形の傾きPαを検出し、その傾きPαを図6(a)に示す相関式に代入すれば、供給脈動波形の傾きPγを精度良く算出できる。或いは、降下波形の傾きPαに応じた供給脈動波形の傾きPγのモデルを複数記憶させておき、検出した降下波形の傾きPαに基づき、供給脈動波形の傾きPγの最適モデルを選択することができる。以上により、上記発明によれば供給脈動波形の傾きPγを高精度で推定できる。
【0020】
請求項4記載の発明では、前記脈動推定手段は、前記降下波形の降下開始時期、又は前記燃料噴射弁へ噴射開始を指令した時期に基づき、前記供給脈動の波形が前記センサ波形に重畳開始する時期を推定することを特徴とする。
【0021】
ところで、脈動除去手段により供給脈動波形をセンサ波形から除去するにあたり、供給脈動波形の形状を推定しただけでは、その推定した波形をセンサ波形のどの位置に合わせて除去すべきかを特定できない。よって、供給脈動波形がセンサ波形に重畳を開始する時期を推定できれば、供給脈動波形をセンサ波形から高精度で除去できる。
【0022】
そして、供給脈動波形の重畳開始時期は、燃料噴射弁へ噴射開始を指令した時期又は降下波形の降下開始時期と相関が高い。例えば、噴射開始指令時期や降下開始時期が早いほど、供給脈動波形の重畳開始時期も早くなる。
【0023】
この点を鑑みた上記発明では、降下波形の降下開始時期又は噴射開始指令時期に基づき供給脈動波形の重畳開始時期を推定するので、例えば降下波形の降下開始時期を検出し、検出した降下開始時期を算出式(図7中の(式1)参照)に代入すれば、供給脈動波形の重畳開始時期を精度良く算出できる。或いは、噴射開始指令時期又はその指令時期から推定される降下開始時期を算出式に代入すれば、供給脈動波形の重畳開始時期を精度良く算出できる。よって、脈動除去手段により供給脈動波形をセンサ波形から除去することを高精度で実現できる。
【0024】
請求項5記載の発明では、前記脈動推定手段は、前記降下波形の降下開始時期における燃料圧力に応じて、前記供給脈動の波形が前記センサ波形に重畳開始する時期を推定することを特徴とする。
【0025】
噴射開始指令時期や降下開始時期が同じであっても、その時の燃料圧力が高ければ、供給脈動の伝播速度が速くなることに起因して供給脈動波形の重畳開始時期は早くなる。この点を鑑みた上記発明では、降下波形の降下開始時期における燃料圧力に応じて供給脈動波形の重畳開始時期を推定するので、降下波形の降下開始時期等に基づき上述の如く推定した重畳開始時期を、燃料圧力に基づき補正することができる。よって、重畳開始時期の推定精度を向上できる。
【0026】
請求項6記載の発明では、前記脈動推定手段は、前記降下波形のうち降下開始時点での圧力及び降下終了時点での圧力に基づき、前記供給脈動による圧力上昇量を推定することを特徴とする。
【0027】
ここで、燃料供給経路のうち燃圧センサが設けられた位置(センサ位置)での燃料圧力の変化がセンサ波形に相当するが、蓄圧容器からセンサ位置へ供給されてくる燃料の流量(供給流量)と、センサ位置から噴孔へ向けて流出していく燃料の流量(噴射流量)とがバランスすると、センサ波形は一定の値(平衡圧)になる。そして、平衡圧に達した時点は、供給脈動による圧力上昇が終了した時点とほぼ一致することを本発明者は見出した。そして、供給脈動による圧力上昇量は、降下波形のうち降下開始時点での圧力Pa及び降下終了時点での圧力Pbと相関がある。例えば、図7中の式4に例示する算出式に圧力Pa,Pbを代入すれば、圧力上昇量ΔPを算出できる。
【0028】
これらの点を鑑みた上記発明によれば、上記両圧力Pa,Pbに基づき圧力上昇量ΔPを算出するので、平衡圧に達して圧力上昇が終了した時点を特定することができる。よって、供給脈動波形の圧力上昇量ΔPに基づき圧力上昇終了時点を精度良く推定できるので、脈動除去手段により供給脈動波形をセンサ波形から除去することを高精度で実現できる。
【0029】
請求項7記載の発明では、最大噴射率に達する前に噴射率を低下させていく小噴射を実施する場合において、前記噴射状態推定手段は、前記脈動除去手段により除去補正されたセンサ波形のうち噴射終了に伴い燃圧上昇していく部分の上昇波形に基づき、噴射終了時期を算出することを特徴とする。
【0030】
例えば上昇波形を直線にモデル化し、その直線モデルが基準圧力になる時期と噴射終了時期とは相関が高いことが、本発明者により明らかとなった。但し、最大噴射率に達する前に噴射率を低下させていくような小噴射の場合には、センサ波形のうちの上昇波形に供給脈動波形が重畳してしまう。そして、重畳する供給脈動波形の影響を受けた直線モデルでは、噴射終了時期との相関が低くなってしまい、噴射終了時期を高精度で推定できなくなる。つまり、このように噴射終了時期を推定する場合においては、上述した脈動除去手段による供給脈動波形の除去を実施しなければ、噴射終了時期(燃量噴射状態)を高精度で推定できなくなるといった問題が特に顕著に生じる。
【0031】
この点を鑑みた上記発明では、小噴射の場合においてセンサ波形に含まれる上昇波形に基づき噴射終了時期を算出する場合に、脈動除去手段による供給脈動波形の除去を適用させているので、噴射終了時期(燃量噴射状態)を高精度で推定できなくなるといった問題を効果的に解消できる。
【0032】
なお、上昇波形に基づき噴射終了時期を算出するための構成例を以下に示す。すなわち、前記噴射状態推定手段は、センサ波形に含まれる上昇波形をモデル化する上昇波形モデル化手段と、噴射開始時期における燃料圧力を基準圧力として算出する基準圧力算出手段と、を有するとともに、前記上昇波形モデル化手段によりモデル化された上昇波形が前記基準圧力になる時期を、噴射終了時期として算出することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態にかかる燃料噴射状態検出装置が適用される、燃料噴射システムの概略を示す図。
【図2】(a)は図1に示す燃料噴射弁への噴射指令信号、(b)は噴射指令信号に伴い生じる燃料噴射率の変化を表す噴射率波形、(c)は図1に示す燃圧センサにより検出された検出圧力の変化を表すセンサ波形を示すタイムチャート。
【図3】噴射脈動及び供給脈動の発生メカニズムを説明する図。
【図4】センサ波形の補正手順及び噴射率波形の推定手順を示すフローチャート。
【図5】(a)はセンサ波形W及び供給脈動波形Waを示し、(b)は供給脈動波形のモデルWmを示し、(c)はセンサ波形WからモデルWmを差し引いた補正後のセンサ波形W’を示す図。
【図6】本発明者が実施した試験結果を示す図。
【図7】モデルWmの推定に用いる算出式1〜4を示す図。
【図8】モデルWmを推定する手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る燃料噴射状態検出装置を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の燃料噴射状態検出装置は、車両用のエンジン(内燃機関)に搭載されたものであり、当該エンジンには、複数の気筒#1〜#4について高圧燃料を噴射して圧縮自着火燃焼させるディーゼルエンジンを想定している。
【0035】
図1は、上記エンジンの各気筒に搭載された燃料噴射弁10、各々の燃料噴射弁10に搭載された燃圧センサ20、及び車両に搭載された電子制御装置であるECU30等を示す模式図である。
【0036】
先ず、燃料噴射弁10を含むエンジンの燃料噴射システムについて説明する。燃料タンク40内の燃料は、高圧ポンプ41(燃料ポンプ)によりコモンレール42(蓄圧容器)に圧送されて蓄圧され、各気筒の燃料噴射弁10(#1〜#4)へ分配供給される。複数の燃料噴射弁10(#1〜#4)は、予め設定された順番で燃料の噴射を順次行う。なお、高圧ポンプ41にはプランジャポンプが用いられているため、プランジャの往復動に同期して間欠的に燃料は圧送される。
【0037】
燃料噴射弁10は、以下に説明するボデー11、ニードル形状の弁体12及びアクチュエータ13等を備えて構成されている。ボデー11は、内部に高圧通路11aを形成するとともに、燃料を噴射する噴孔11bを形成する。弁体12は、ボデー11内に収容されて噴孔11bを開閉する。
【0038】
ボデー11内には弁体12に背圧を付与する背圧室11cが形成されており、高圧通路11a及び低圧通路11dは背圧室11cと接続されている。高圧通路11a及び低圧通路11dと背圧室11cとの連通状態は制御弁14により切り替えられており、電磁コイルやピエゾ素子等のアクチュエータ13へ通電して制御弁14を図1の下方へ押し下げ作動させると、背圧室11cは低圧通路11dと連通して背圧室11c内の燃料圧力は低下する。その結果、弁体12へ付与される背圧力が低下して弁体12は開弁作動する。一方、アクチュエータ13への通電をオフして制御弁14を図1の上方へ作動させると、背圧室11cは高圧通路11aと連通して背圧室11c内の燃料圧力は上昇する。その結果、弁体12へ付与される背圧力が上昇して弁体12は閉弁作動する。
【0039】
したがって、ECU30がアクチュエータ13への通電を制御することで、弁体12の開閉作動が制御される。これにより、コモンレール42から高圧通路11aへ供給された高圧燃料は、弁体12の開閉作動に応じて噴孔11bから噴射される。例えばECU30は、エンジン出力軸の回転速度及びエンジン負荷等に基づき、噴射開始時期、噴射終了時期及び噴射量等の目標噴射状態を算出し、算出した目標噴射状態となるようアクチュエータ13へ噴射指令信号を出力して、燃料噴射弁10の作動を制御する。
【0040】
ECU30は、アクセル操作量等から算出されるエンジン負荷やエンジン回転速度に基づき目標噴射状態を算出する。例えば、エンジン負荷及びエンジン回転速度に対応する最適噴射状態(噴射段数、噴射開始時期、噴射終了時期、噴射量等)を噴射状態マップにして記憶させておく。そして、現時点でのエンジン負荷及びエンジン回転速度に基づき、噴射状態マップを参照して目標噴射状態を算出する。そして、算出した目標噴射状態に基づき噴射指令信号t1、t2、Tq(図2(a)参照)を設定する。例えば、目標噴射状態に対応する噴射指令信号を指令マップにして記憶させておき、算出した目標噴射状態に基づき、指令マップを参照して噴射指令信号を設定する。以上により、エンジン負荷及びエンジン回転速度に応じた噴射指令信号が設定され、ECU30から燃料噴射弁10へ出力される。
【0041】
ここで、噴孔11bの磨耗等、燃料噴射弁10の経年劣化に起因して、噴射指令信号に対する実際の噴射状態は変化していく。そこで、後に詳述するように燃圧センサ20により検出された圧力の波形(センサ波形)に基づき燃料の噴射率波形を演算して噴射状態を検出し、検出した噴射状態と噴射指令信号(パルスオン時期t1、パルスオフ時期t2及びパルスオン期間Tq)との相関関係を学習し、その学習結果に基づき、指令マップに記憶された噴射指令信号を補正する。これにより、実噴射状態が目標噴射状態に一致するよう、燃料噴射状態を高精度で制御できる。
【0042】
次に、燃圧センサ20のハード構成について説明する。燃圧センサ20は、以下に説明するステム21(起歪体)、圧力センサ素子22及びモールドIC23等を備えて構成されている。ステム21はボデー11に取り付けられており、ステム21に形成されたダイヤフラム部21aが高圧通路11aを流通する高圧燃料の圧力を受けて弾性変形する。圧力センサ素子22はダイヤフラム部21aに取り付けられており、ダイヤフラム部21aで生じた弾性変形量に応じて圧力検出信号を出力する。
【0043】
モールドIC23は、圧力センサ素子22から出力された圧力検出信号を増幅する増幅回路等の電子部品を樹脂モールドして形成されており、ステム21とともに燃料噴射弁10に搭載されている。ボデー11上部にはコネクタ15が設けられており、コネクタ15に接続されたハーネス16により、モールドIC23及びアクチュエータ13とECU30とはそれぞれ電気接続される。
【0044】
ここで、噴孔11bから燃料の噴射を開始することに伴い高圧通路11a内の燃料の圧力(燃圧)は低下し、噴射を終了することに伴い燃圧は上昇する。つまり、燃圧の変化と噴射率(単位時間当たりに噴射される噴射量)の変化とは相関があり、燃圧変化から噴射率変化(実噴射状態)を検出できると言える。そして、検出した実噴射状態が目標噴射状態となるよう先述した噴射指令信号を補正する。これにより、噴射状態を精度良く制御できる。
【0045】
次に、燃料噴射中の燃料噴射弁10に搭載された燃圧センサ20により検出されたセンサ波形(図2(c)参照)と、その燃料噴射弁10にかかる燃料噴射率の変化を表した噴射率波形(図2(b)参照)との相関について説明する。
【0046】
図2(a)は、燃料噴射弁10のアクチュエータ13へECU30から出力される噴射指令信号を示しており、この指令信号のパルスオンによりアクチュエータ13が通電作動して噴孔11bが開弁する。つまり、噴射指令信号のパルスオン時期t1により噴射開始が指令され、パルスオフ時期t2により噴射終了が指令される。よって、指令信号のパルスオン期間(噴射指令期間Tq)により噴孔11bの開弁時間を制御することで、噴射量Qを制御している。
【0047】
図2(b)は、上記噴射指令に伴い生じる噴孔11bからの燃料噴射率の変化(噴射率波形)を示し、図2(c)は、燃料噴射中の燃料噴射弁10に設けられた燃圧センサ20により検出された、噴射率の変化に伴い生じる検出圧力の変化(噴射時圧力波形)を示す。
【0048】
圧力波形と噴射率波形とは以下に説明する相関があるため、検出された圧力波形から噴射率波形を推定(検出)することができる。すなわち、先ず、図2(a)に示すように噴射開始指令がなされたt1時点の後、噴射率がR1の時点で上昇を開始して噴射が開始される。一方、検出圧力は、R1の時点で噴射率が上昇を開始してから遅れ時間C1が経過した時点で、変化点P1にて下降を開始する。その後、R2の時点で噴射率が最大噴射率に到達したことに伴い、検出圧力の下降は変化点P2にて停止する。次に、R3の時点で噴射率が下降を開始してから遅れ時間が経過した時点で、検出圧力は変化点P3にて上昇を開始する。その後、R4の時点で噴射率がゼロになり実際の噴射が終了したことに伴い、検出圧力の上昇は変化点P5にて停止する。
【0049】
以上説明したように、圧力波形と噴射率波形とは相関が高い。そして、噴射率波形には、噴射開始時期(R1出現時期)や、噴射終了時期(R4出現時期)、噴射量(図2(b)中の網点部分の面積)が表されているので、圧力波形から噴射率波形を推定することで噴射状態を検出できる。
【0050】
但し、燃圧センサ20により検出されたセンサ波形は噴射状態をそのまま反映している訳ではなく、以下に説明する供給脈動の波形がセンサ波形に重畳しているため、この供給脈動の波形成分をセンサ波形から除去する補正を実施して、その補正後のセンサ波形に基づき噴射状態を推定することが要求される。
【0051】
図3は、コモンレール42の吐出口42aから高圧配管42b(燃料配管)を通じて燃料噴射弁10の噴孔11bに至るまでの、燃料供給経路を模式化した図であり、以下、「噴射脈動」及び「供給脈動」の発生メカニズム等について図3を用いて説明する。
【0052】
先ず、噴孔11bから燃料が噴射を開始すると、高圧通路11aのうち噴孔11bの近傍部分では、燃圧低下の脈動(噴射脈動Ma)が発生する(図3(a)参照)。その後、発生した噴射脈動Maは、高圧通路11a内をコモンレール42へ向けて伝播していく(図3(b)参照)。そして、燃圧センサ20のダイヤフラム部21aに噴射脈動Maが到達した図3(c)の時点で、センサ波形は圧力降下を開始する(つまり変化点P1が現れる)。
【0053】
その後、コモンレール42の吐出口42aに噴射脈動Maが到達した図3(d)の時点で、コモンレール42の高圧燃料が吐出口42aから高圧配管42bへ供給されることとなる。このように燃料供給が開始されると、高圧配管42b内のうち吐出口42aの近傍部分では、燃圧上昇の脈動(供給脈動Mb)が発生する(図3(e)参照)。その後、発生した供給脈動Mbは、高圧通路11a内を噴孔11bへ向けて伝播していく(図3(f)参照)。そして、燃圧センサ20のダイヤフラム部21aに供給脈動Mbが到達した図3(g)の時点で、センサ波形は圧力上昇を開始する(つまり変化点P2が現れる)。
【0054】
その後、高圧通路11a内のうち燃圧センサ20近傍部分において、コモンレール42から供給される燃料の流量と、噴孔11bから噴射される燃料の流量とが釣り合った時点(図2(c)に示すP2a時点)で、センサ波形の圧力上昇は停止して一定の値(平衡圧)になる。
【0055】
要するに、センサ波形には噴射脈動Maによる波形成分に、供給脈動Mbによる波形成分(図2(c)中のP2〜P2aの部分)が重畳していると言える。但し、センサ波形のうちP2時点までの部分は、供給脈動Mbが未だ燃圧センサ20に伝播していないため、噴射脈動Maを表した波形であって供給脈動Mbが重畳していないと言える。
【0056】
ところで、図2(a)(b)(c)では、噴射指令期間Tqが十分に長く、最大噴射率に達した後に閉弁作動を開始させている噴射(台形噴射)の例であり、噴射率波形が台形となっている。これに対し、図2(a)(b)中の一点鎖線に示す如く噴射指令期間Tqが短くして、最大噴射率到達と同時期に噴射率低下が開始するよう微小噴射(三角形噴射)させると、噴射率波形は三角形となる。そして、三角形噴射の場合には、センサ波形のうち噴射率低下に伴い生じる上昇波形の部分(図2(c)P3〜P5の部分)に、噴射脈動波形P2〜P2aが重畳することとなり、センサ波形は図2(d)に示す波形となる。
【0057】
すると、台形噴射では噴射脈動波形P2〜P2aが重畳していない部分の上昇波形(図2(c)P3〜P5)に基づき近似直線Lbを算出していたのに対し、三角形噴射では噴射脈動波形P2〜P2aが重畳した部分の上昇波形(図2(d)P3〜P5)に基づき近似直線Lbを算出することが懸念されるようになる。そのため、噴射終了時期と相関の高い近似直線Lbを算出することが困難となり、図2(d)中の符号Lb’に示すように最適な近似直線Lbからずれた近似直線Lb’を算出することが懸念され、ひいては噴射終了時期等の噴射状態を高精度で推定できなくなることが懸念される。
【0058】
そこで本実施形態では、供給脈動Mbの波形成分のモデルWm(図5(b)参照)を演算し、演算したモデル波形Wmをセンサ波形Wから差し引いて除去する補正を実施し、その補正後のセンサ波形W’に基づき噴射状態を推定している。
【0059】
次に、上記補正の手順、及び補正後のセンサ波形W’から噴射率波形を推定する手順の一例を、図4のフローチャートを用いて説明する。なお、図4に示す処理は、ECU30が有するマイクロコンピュータにより、燃料の噴射を1回実施する毎に実行される処理である。
【0060】
先ず、図4に示すステップS10において、1回の燃料噴射期間中に噴射気筒の燃圧センサ20から所定のサンプリング周期で出力された複数の検出値(センサ波形W)を取得する。なお、図5(a)中の実線はセンサ波形Wを示し、点線は供給脈動波形Waを示す。続くステップS20(脈動推定手段)では、供給脈動波形のモデルWm(図5(b)参照)を演算する。この演算手法については後に詳述する。続くステップS30(脈動除去手段)では、演算したモデルWmをセンサ波形Wから差し引いて、供給脈動波形Waが除去されたセンサ波形W’を演算する(W’=W−Wm)。図5(c)中の点線は、補正前のセンサ波形Wを示し、実線は、補正後のセンサ波形W’を示す。
【0061】
続くステップS40では、補正後のセンサ波形W’のうち、弁体12の開弁作動開始に伴い圧力降下していく部分である降下波形W(P1-P2)(P1〜P2の部分の波形)の近似直線Laを演算する。次のステップS50(上昇波形モデル化手段)では、補正後のセンサ波形W’のうち、弁体12の閉弁作動開始に伴い圧力上昇していく部分である上昇波形W(P3-P5)(P3〜P5の部分の波形)の近似直線Lb(モデル化した上昇波形)を演算する。これらの近似直線La,Lbは、例えば降下波形W(P1-P2)又は上昇波形W(P3-P5)を構成する複数の検出値を最小二乗法により直線近似して算出してもよいし、降下波形W(P1-P2)のうち微分最小となる点での接線を直線モデルとして算出してもよいし、上昇波形W(P3-P5)のうち微分最大となる点での接線を直線モデルとして算出してもよい。
【0062】
次に、ステップS60(基準圧力算出手段)において、補正後のセンサ波形W’のうち圧力降下を開始する直前(変化点P1の直前)の圧力(基準圧Pbase)を算出し、当該基準圧Pbaseに基づき、以降の処理で用いる基準直線Lc,Ld(図2(c)参照)を算出する。なお、噴射指令信号t1を出力してからP1変化点が現れるまでの期間における圧力の平均値を、前記基準圧Pbaseとして算出すればよく、例えば、噴射指令信号t1を出力してから所定時間が経過するまでの圧力平均値を基準圧Pbaseとして算出すればよい。基準直線Lcには基準圧Pbaseと同じ値が採用されている。基準直線Ldには、基準圧Pbaseよりも所定量だけ圧力低下させた値が採用されている。前記所定量は、P1圧力からP2圧力への圧力落込量ΔP(P1-P2)が大きいほど、或いは噴射指令期間Tqが長いほど大きい値に設定される。
【0063】
続くステップS70では、基準直線Lcと近似直線Laとの交点を算出する。この交点が示す時期は変化点P1の出現時期と殆ど一致する。したがって、基準直線Lcと近似直線Laとの交点が示す時期は噴射開始時期R1との相関が高いため、前記交点に基づき噴射開始時期R1を算出する。続くステップS80では、基準直線Ldと近似直線Lbとの交点を算出する。この交点が示す時期は噴射終了時期R4との相関が高いため、前記交点に基づき噴射終了時期R4を算出する。
【0064】
続くステップS90では、噴射率が上昇する傾きRα(図2(b)参照)と近似直線Laの傾きとは相関性が高いことに着目し、近似直線Laの傾きに基づき噴射率上昇の傾きRαを算出する。また、噴射率が降下する傾きRβ(図2(b)参照)と近似直線Lbの傾きとは相関性が高いことに着目し、近似直線Lbの傾きに基づき噴射率降下の傾きRβを算出する。続くステップS100では、P1圧力からP2圧力への圧力落込量ΔP(P1-P2)と最大噴射率Rh(図2(b)参照)とは相関性が高いことに着目し、圧力落込量ΔP(P1-P2)に基づき最大噴射率Rhを算出する。
【0065】
以上による図4の処理によれば、ステップS70〜S100(噴射状態推定手段)において、噴射開始時期R1、噴射終了時期R4、噴射率上昇の傾きRα、噴射率降下の傾きRβ、及び最大噴射率Rhが算出される。よって、図2(b)に例示される噴射率波形を推定できる。
【0066】
次に、上記ステップS20において、推定供給脈動波形のモデルWm(図5(b)参照)を演算する手法を説明する。
【0067】
図5(a)に示すように、実際の供給脈動波形Waは、ta時点までは圧力ゼロであり、重畳を開始するta時点から徐々に圧力上昇し、tb時点でその圧力上昇が停止して一定の圧力になる。したがって、重畳開始するta時点、ta時点からtb時点までの圧力上昇の傾きPγ、及び圧力上昇量ΔPが推定できれば、供給脈動波形WaのモデルWm(図5(b)参照)を推定できると言える。本実施形態では、これらの重畳開始時期ta、傾きPγ、上昇量ΔPを以下の手法により演算することで、モデルWmを推定している。
【0068】
図6(a)は、供給脈動波形Waの傾きPγ(上昇速度)が、降下波形W(P1-P2)の傾きPα(降下速度)と相関があることを示す試験結果である。この試験結果によれば、両傾きPγ,Pαは比例関係にあり、降下波形W(P1-P2)の降下速度が速いほど、供給脈動波形Waの上昇速度が速くなることを示す。なお、図中に示す複数の検出値は、燃料温度を−20℃、40℃、80℃に変えて試験した各々の結果を示す。この試験結果を鑑みた本実施形態では、前記比例関係の式を予め試験して取得しておき、検出したセンサ波形Wから降下波形W(P1-P2)の傾きPαを演算し、演算した傾きPαを比例関係の式に代入して供給脈動波形Waの傾きPγを算出する。なお、降下波形W(P1-P2)の傾きPαは、先述した近似直線La(図2(c)参照)の傾きをそのまま用いればよい。
【0069】
次に、重畳開始時期taの算出手法を説明する。先ず、降下開始時期Tstaから重畳開始時期taまでに要する時間(供給脈動伝播時間Ta)を、図7の(式1)に基づき演算する。式1中のLは、図7の模式図に示すように、燃料供給経路のうち燃圧センサ20の位置(正確にはダイヤフラム部21aの位置)から吐出口42aまでの経路長である。式1中のaは、噴射脈動Ma及び供給脈動Mbの伝播速度(音速)である。伝播速度aは、その時の燃料圧力に応じて変化するため、例えば先述した基準圧Pbaseに基づき伝播速度aを算出すればよい。
【0070】
Lは設計値、aは基準圧Pbaseに基づき算出可能、Tstaはセンサ波形Wから算出可能であるため、式1にこれらの値を代入すれば、供給脈動伝播時間Taを演算できる。そして、このように演算した重畳開始時期taを降下開始時期Tstaに加算すれば、重畳開始時期taを算出できる。図6(b)は、燃料圧力(基準圧Pbase)に応じて変化する供給脈動伝播時間Taを試験した検出値と、上記式1により演算した供給脈動伝播時間Taの理論値とを示す図であり、理論値は検出値とほぼ一致することが試験により確認された。
【0071】
次に、圧力上昇量ΔPの算出手法を説明する。上昇量ΔPは、図7の(式2)(式3)から導かれる(式4)に基づき演算可能である。(式2)中のμ2A2V2の項は、供給脈動Mbにより高圧通路11aへ流入してくる燃料の流量(供給流量)を表し、(式2)中のμ0A0V0の項は、噴射脈動Maにより噴孔11bから流出していく燃料の流量(噴射流量)を表す。なお、式中の符号aは音速、μは流量係数、Vは流速、Aは断面積を示す。また、これらの符号の添字0,1,2は、それぞれ噴孔11b、高圧通路11a、高圧配管42bでの値であることを示す。
【0072】
上述した微小噴射(三角形噴射)ではなく台形噴射を実施した場合において、最大噴射率に到達後に前記供給流量と噴射流量とがバランスすると、センサ波形は一定の値(平衡圧Peq)になる。そして、センサ波形のうち平衡圧Peqになった時点が供給脈動波形の重畳が終了した時期であると言え、変化点P2時点での圧力から平衡圧Peqを減算した値が上昇量ΔPであると言える。この点を鑑み、三角形噴射の場合においても、台形噴射を実施したと仮定して平衡圧Peqを算出し、変化点P3時点での圧力から平衡圧Peq減算すれば上昇量ΔPを算出できる。
【0073】
そして、燃圧センサ20のダイヤフラム部21aへの流入量(μ2A2V2)から流出量(μ0A0V0)を減算した値が、ダイヤフラム部21aの燃料圧縮に寄与する流入量(流入収支)を表すこととなり、この流入収支にK/aA1を乗算すれば上昇量ΔPを演算できる(図7の(式2)参照)。
【0074】
また、図5中の降下開始時期Tstaから重畳開始時期taまでの期間においては、供給脈動Mbが未だ伝播していないので、高圧通路11a内の燃料の膨張量は噴孔11bからの噴射量と一致する。したがって、図7の(式3)に示す方程式が成立する。なお、式中のaA1dtは、高圧通路11a内の燃料の体積であって膨張前の元々の体積を表し、Δv/vは膨張比率を表す。そして、式3の左辺を式2に代入すれば、式4が得られる。式4中のP1は、降下開始時期Tstaでの圧力(つまりコモンレール42内の圧力)を示し、P2は、重畳開始時期taでの圧力を示す。
【0075】
以上により、降下開始時期Tstaでの圧力P1及び重畳開始時期taでの圧力P2をセンサ波形Wから検出し、検出した圧力を式4に代入すれば、Δ圧力上昇量Pを演算できる。図6(c)は、圧力上昇量を試験により検出した値と、上記式4により演算した圧力上昇量ΔPの理論値とを示す図であり、理論値は検出値とほぼ一致することが試験により確認された。
【0076】
図8は、上述の如く供給脈動波形WaのモデルWmを推定する手順の一例を示すフローチャートであり、図4中のステップS20のサブルーチン処理である。
【0077】
先ず、降下波形W(P1-P2)の傾きPαと供給脈動波形の傾きPγとの相関を示す相関式(図6(a)中に示す相関式)、基準圧Pbaseと供給脈動伝播時間Taとの関係を示すマップ(図6(b)参照)、及び図7に示す式4を予めメモリに記憶させておく。そして、図8のステップS21において、降下波形のW(P1-P2)の傾きPαをセンサ波形Wから検出し、メモリに記憶された相関式に、検出した傾きPαを代入して、供給脈動波形Waの上昇の傾きPγを演算する。なお、図6(a)中に示す相関式のyは傾きPα、xは傾きPγを示す変数である。
【0078】
続くステップS22では、基準圧Pbaseに基づき、供給脈動伝播時間Taとの関係を示すマップを参照して供給脈動伝播時間Taを算出する。続くステップS23では、センサ波形Wから検出した降下開始時期Tstaに、ステップS22で算出した供給脈動伝播時間Taを加算することで、重畳開始時期taを算出する。
【0079】
続くステップS24では、センサ波形Wから検出される降下開始時期Tstaでの圧力P1及び重畳開始時期taでの圧力P2の値を、メモリに記憶された図7の式4に代入して、供給脈動波形の圧力上昇量ΔPを算出する。続くステップS25では、ステップS21,S23,S24で算出した傾きPγ、重畳開始時期ta及び上昇量ΔPに基づき、図5(b)に例示される供給脈動波形WaのモデルWmを演算する。
【0080】
以上により、本実施形態によれば、図8の処理により供給脈動波形WaのモデルWmを演算し、演算したモデルWmをセンサ波形Wから差し引いて供給脈動波形Waを除去する。そのため、センサ波形に含まれる上昇波形W(P3-P5)を近似した直線Lbを用いて、噴射終了時期R4や噴射率降下の傾きRβを算出するにあたり、供給脈動波形Waを除去した後のセンサ波形W’から算出した上昇波形の近似直線Lbを用いて、噴射終了時期R4や噴射率降下の傾きRβを算出する。よって、噴射終了時期R4や噴射率降下の傾きRβの算出精度を向上できる。
【0081】
特に、降下波形W(P1-P2)の傾きPαと供給脈動波形の傾きPγとは相関があることに着目し、降下波形W(P1-P2)の傾きPαから供給脈動波形の傾きPγを算出するので、供給脈動波形WaのモデルWmの算出精度を向上できる。
【0082】
また、基準圧Pbaseに応じて供給脈動伝播時間Taが変化することに着目し、基準圧Pbaseに基づき算出した供給脈動伝播時間Taを用いて重畳開始時期taを算出するので、供給脈動波形WaのモデルWmの算出精度を向上できる。
【0083】
また、降下開始時期Tstaでの圧力P1及び重畳開始時期taでの圧力P2の値に基づけば、式4にしたがって供給脈動波形の圧力上昇量ΔPを算出できることに着目し、両圧力P1,P2に基づき圧力上昇量ΔPを算出するので、供給脈動波形WaのモデルWmの算出精度を向上できる。
【0084】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0085】
・上記実施形態にかかる脈動推定手段では、供給脈動波形Waの重畳開始時期ta、傾きPγ、上昇量ΔPを演算して、供給脈動の波形としてのモデルWmを推定しているが、重畳開始時期ta及び上昇量ΔPの演算を廃止して傾きPγのみを演算し、その傾きPγを供給脈動の波形として推定するようにしてもよい。この場合、補正前のセンサ波形Wに対して算出した近似直線Lbを、傾きPγに応じて補正し、補正した近似直線Lbを用いて、図4のステップS80,S90にて噴射終了時期R4及び噴射率降下速度Rβを算出すればよい。
【0086】
・上記実施形態では、最大噴射率到達と同時期またはその到達よりも前に噴射率低下が開始するよう微小噴射(三角形噴射)した場合に、モデルWmを推定してセンサ波形Wを補正することを想定しているが、最大噴射率到達の後に噴射率低下が開始する台形噴射の場合であっても、モデルWmを用いてセンサ波形Wを補正することを実施してもよい。
【0087】
・上記実施形態では、供給脈動波形Waの重畳開始時期ta、傾きPγ、上昇量ΔPを演算してモデルWmを推定しているが、予め複数のパターンのモデルを記憶させておき、降下波形W(P1-P2)(例えば降下開始時期Tstaや傾きPα等)に基づき複数パターンのモデルから最適モデルを選択するようにしてもよい。
【0088】
・上記実施形態では、供給脈動波形Waがセンサ波形Wに重畳を開始するta時点を算出するにあたり、降下波形W(P1-P2)の降下開始時期Tstaと重畳開始時期taが相関を有することに鑑みて、降下開始時期Tstaに基づき重畳開始時期taを算出している。これに対し、図2(a)に示す噴射指令信号を出力した時期(パルスオン時期t1)と重畳開始時期taが相関を有することに鑑みて、噴射開始を指令した時期t1に基づき重畳開始時期taを算出するようにしてもよい。
【0089】
・図1に示す上記実施形態では、燃圧センサ20を燃料噴射弁10に搭載しているが、本発明にかかる燃圧センサはコモンレール42の吐出口42aから噴孔11bに至るまでの燃料経路内の燃圧を検出するよう配置された燃圧センサであればよい。よって、例えば高圧配管42bに燃圧センサを搭載してもよい。つまり、燃料噴射弁10の高圧通路11a及び高圧配管42bの内部通路が「燃料供給経路」に相当する。
【符号の説明】
【0090】
10…燃料噴射弁、11b…噴孔、20…燃圧センサ、41…高圧ポンプ(燃料ポンプ)、42…コモンレール(蓄圧容器)、42a…吐出口、42b…高圧配管(燃料配管)、S10…圧力波形取得手段、S20…脈動推定手段、S30…脈動除去手段、S70〜S100…噴射状態推定手段、P1…降下波形の降下開始時点での圧力、P2…降下波形の降下終了時点での圧力、Pγ…供給脈動波形の上昇の傾き、t1…噴射開始指令時期、ta…供給脈動波形の重畳開始時期、Tsta…降下波形の降下開始時期、W(P1-P2)…降下波形。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ポンプから供給される燃料を蓄圧する蓄圧容器と、
前記蓄圧容器の吐出口に接続される燃料配管と、
前記燃料配管を通じて前記蓄圧容器から供給される燃料を噴射させる噴孔、及び前記噴孔を開閉する弁体を有する燃料噴射弁と、
前記吐出口から前記噴孔に至るまでの燃料供給経路に設けられて燃料圧力を検出し、燃料噴射に伴い生じる燃料圧力の変化を表したセンサ波形を出力する燃圧センサと、
を備えた燃料噴射システムに適用され、
燃料噴射に伴って、前記吐出口から前記燃料配管を通じて前記燃料噴射弁へ流れ込む燃料の流れによって発生する供給脈動を、前記センサ波形から推定する脈動推定手段と、
前記脈動推定手段により推定された供給脈動の波形を前記センサ波形から除去するよう、前記センサ波形を補正する脈動除去手段と、
前記脈動除去手段により除去補正されたセンサ波形に基づき、前記噴孔からの燃料噴射状態を推定する噴射状態推定手段と、
を備えることを特徴とする燃料噴射状態検出装置。
【請求項2】
前記脈動推定手段は、前記センサ波形のうち噴射開始に伴い燃圧降下していく部分の降下波形に基づき、前記供給脈動の波形を推定することを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射状態検出装置。
【請求項3】
前記脈動推定手段は、前記降下波形の降下の傾きに基づき、前記供給脈動の波形の上昇の傾きを推定することを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射状態検出装置。
【請求項4】
前記脈動推定手段は、前記降下波形の降下開始時期、又は前記燃料噴射弁へ噴射開始を指令した時期に基づき、前記供給脈動の波形が前記センサ波形に重畳開始する時期を推定することを特徴とする請求項2又は3に記載の燃料噴射状態検出装置。
【請求項5】
前記脈動推定手段は、前記降下波形の降下開始時期における燃料圧力に応じて、前記供給脈動の波形が前記センサ波形に重畳開始する時期を推定することを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射状態検出装置。
【請求項6】
前記脈動推定手段は、前記降下波形のうち降下開始時点での圧力及び降下終了時点での圧力に基づき、前記供給脈動による圧力上昇量を推定することを特徴とする請求項2〜5のいずれか1つに記載の燃料噴射状態検出装置。
【請求項7】
最大噴射率に達する前に噴射率を低下させていく小噴射を実施する場合において、前記噴射状態推定手段は、前記脈動除去手段により除去補正されたセンサ波形のうち噴射終了に伴い燃圧上昇していく部分の上昇波形に基づき、噴射終了時期を算出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の燃料噴射状態検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−77653(P2012−77653A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222336(P2010−222336)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】