説明

燃料改質装置とこれを備えた排気再循環システム

【課題】排熱を有効に活用し、安定した特性の改質済燃料を供給可能な燃料改質装置とこれを備えた排気再循環システムを提供する。
【解決手段】燃料改質装置20は、内燃機関から排出される燃焼排気等の温度が高く酸素濃度が低い高温低酸素濃度気体GEX内に噴霧されて気化された被改質燃料FLを高温低酸素濃度気体GEXと共に導入する被改質燃料気体導入路13と、所定の細孔径を有する分子篩構造成型体30と、分子篩構造成型体30を収納する分子篩構造成型体収納部21と、被改質燃料FLを分子篩構造成型体収納部21内で高温低酸素濃度気体GEXの持つ熱エネルギを利用して分子篩構造成型体30によって接触分解(クラッキング)反応させ、得られた改質済燃料FLを導出する改質済燃料導出路14を具備し、排気再循環システム1の排気流路と吸気流路とを連通する排気再循環流路13、14の途中に燃料改質装置20を配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられる燃料を改質する燃料改質装置と、これを備えて低燃費化及び低エミッション化を図った内燃機関の排気再循環システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の燃焼排気の清浄化や燃費向上を目的として、燃焼排気の一部を還流して燃焼室内に導入する排気再循環(EGR)システムが広く用いられている。
内燃機関において燃焼後の排気中には酸素が含まれていない状態か、酸素濃度が希薄な状態となっており、EGRシステムでは、燃焼排気の一部を吸気と混ぜることによって吸気中の酸素濃度を低下させることにより、燃焼時の最高温度を低下させ、窒素酸化物(NOx) の発生を抑制することが可能となる。
また、燃焼温度の低下は、シリンダ及び燃焼室壁面やピストン表面からの熱エネルギ放散を低減し、熱解離による損失の低減にも寄与する。
【0003】
さらに、燃焼室内に燃焼排気を還流したときと還流しないときとで同一の出力を得るためには、酸素量を同一にする必要があり、燃焼排気を還流したときのスロットル開度が相対的に大きくなる。その結果、吸気時のポンピングロスが少なくなり燃費の低減を図ることができる。
【0004】
一方、内燃機関において、触媒を用いて、燃焼効率を向上すべく水素を生成したり、燃焼排気中のNOxを低減すべく還元性の炭化水素を生成したりする等の燃料改質を行うことによって内燃機関のさらなる低燃費化及び低エミッション化を実現する手段について種々検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、燃料と酸素を含むガスとからなる混合ガスを加熱して改質することでリフォーマガスを生成する燃料改質手段と、該燃料改質手段で生成されたリフォーマガスを内燃機関の吸気通路に供給するリフォーマガス供給手段と、湿度を検出する湿度検出手段と、該湿度検出手段の検出結果に基づいて燃料と酸素を含むガスとの混合比率を変更する混合比率変更手段とを具えたことを特徴とする内燃機関の制御装置が開示されており、リフォーマガスを生成する触媒として、Co、Ni、Rh等が例示されている。
【0006】
特許文献2には、ディーゼルエンジン等の排気通路に配置され分子篩構造の物質に遷移金属を担持させた触媒を収蔵した触媒コンバータと、高温かつ高圧状態で燃料を分解し改質炭化水素を生成して同改質炭化水素を上記触媒コンバータ上流側の排気通路に供給する燃料改質反応炉と、同燃料改質反応炉に圧縮空気を供給する圧縮空気供給装置と、上記燃料改質反応炉内を高温に加熱する電気的加熱装置と、上記燃料改質反応炉内の圧力及び温度に応じて上記圧縮空気供給装置及び電気的加熱装置の作動を制御する制御装置とを備えたことを特徴とするエンジンの排気ガス浄化装置が開示され、分子篩構造触媒として、主成分がシリカ、アルミナでSi/Al比が5〜100程度であり、結晶構造がX型、Y型及びZSM型等のゼオライト及び、主成分がシリカ、アルミナ及び鉄等の金属で、Si/金属比が5〜100程度、結晶構造がX型、Y型及びZSM型等のメタロシリケート等及びこれらのゼオライト、メタロシリケートを遷移金属でイオン交換したものが用いられている。
【0007】
一般に、分子篩として用いられるゼオライトは、組成的にはアルミノシリケートの一種で、四面体構造の(SiO4−と(AlO5−とを基本単位として、それぞれの四面体の頂点に存在する酸素を共有して三次元的に連結し、結晶中に分子レベルの大きさ(1Å〜100Å程度)の細孔を有することを特徴とする。
ゼオライト及びゼオライトのAlの一部を他の金属元素に置換したメタロシリケート等のゼオライト類似種の結晶には、骨格構造の異なるものが数多く存在し、骨格構造の違いによって結晶中に存在する細孔の大きさ、形状及び分布状態が異なり、発揮される機能、性質も異なるものが種々存在することが知られている。
【0008】
また、ゼオライトの骨格構造は、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry、 国際純正及び応用化学連合)からゼオライトの構造型の命名権を認められた国際ゼオライト学会(IZA、International Zeolite Assosication)の構造委員会(SC、Structure Commission)によって決められたアルファベット3文字で表される構造コードによって定義されている。現在、100種を超える骨格構造が知られている(非特許文献1参照)。
さらに、新たな骨格構造のゼオライト及びゼオライト類似種の開発が様々な企業、研究機関等で試みられており、これらは、IZAのデータベース(非特許文献2)でも検索できるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1にあるような従来の内燃機関から排出された燃焼排気に含まれる物質と排気燃料とを反応させて特定のリフォーマガスを生成する燃料改質手段では、運転状況によって変化する燃焼排気の成分によっては必ずしも所望の反応が達成されるとは限らず、燃料改質開始条件の成立の有無によってリフォーマガスの利用の可否が左右されるので制御が複雑である。
加えて、生成されるリフォーマガスの成分比が常に一定であるとは限らず、リフォーマガスを利用した場合に燃焼状態が不安定となる虞もある。
【0010】
一方、特許文献2にあるような従来の燃料改質反応炉では、例えば、圧縮空気供給装置を必要とする等、構造が複雑となるのに加え、他の従来技術と同様、遷移金属を含む触媒を必要としており、製造コストの増大を招く虞がある。
さらに、当該燃料改質反応炉では、空気存在下で被改質燃料が燃焼しない温度(200℃)以下に温度制御する必要があり、数百℃で排出される燃焼排気をわざわざ冷却しなければならない等、熱エネルギの効率低下による燃費悪化を招く虞もある。
【0011】
また、燃料の改質触媒として、ゼオライト又はゼオライト類似種を用いようとした場合、非特許文献1にあるように、骨格構造の異なるゼオライト及びゼオライト類似種が数多く存在し、また、骨格構造や、組成が異なれば、得られる触媒としての性質も異なり、特定の改質反応を示す最適な触媒を見つけることは必ずしも容易なことではない。
【0012】
さらに、本発明者等の鋭意試験により、従来の遷移金属等を含むゼオライト、又は、メタロシリケートを改質触媒とした場合には、改質反応の進行にしたがって、過剰に分解反応が進み、低分子化すると共に気体のモル数の増加により急激な体積の増加を招いたり、改質済燃料として燃費向上の機能を果たさなくなったりする虞があることが判明した。
【0013】
そこで、本発明は、かかる実情に鑑み、内燃機関のさらなる低燃費化、低エミッション化を図るべく、安価な上に構成が簡易で、しかも、燃焼排気のエネルギを有効に活用することが可能で、安定した特性の改質済燃料を供給可能な燃料改質装置とこれを備えた排気再循環システムの提供を目的する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の発明では、燃料を改質する燃料改質装置であって、高温低酸素濃度気体内に噴霧されて気化された被改質燃料を上記高温低酸素濃度気体と共に導入する被改質燃料気体導入路と、被改質燃料の分子径よりも大きい細孔径を有する分子篩構造材料を所定の形状に成型した分子篩構造成型体と、該分子篩構造成型体を収納する分子篩構造成型体収納部と、得られた改質済燃料を導出する改質済燃料導出路と、を具備する(請求項1)、
【0015】
第1の発明によれば、気化された上記被改質燃料が上記分子篩構造成型体に接触したときに、上記分子篩構造成材料の細孔に吸着され、これに上記高温低酸素濃度気体の熱エネルギが加わると、接触分解反応がおこり、上記被改質燃料が上記分子篩構造成型体収納部内で改質される。
このとき、上記被改質燃料は、酸素濃度の低い上記高温低酸素濃度気体と共に上記分子篩構造成型体収納部に導入されているので、燃焼することなく分解される。
また、接触分解反応によって、分子の大きさが小さくなるので、上記分子篩構造材料の細孔から脱着し、接触分解反応の進行が抑制される。さらに、一旦改質された燃料は、上記分子篩構造材料の細孔を通過し、再吸着することなく、上記改質燃料導出路から導出される。
したがって、接触分解反応を過剰に起こすことなく安定した組成の改質済燃料を供給可能な燃料改質装置が実現できる。
【0016】
第2の発明では、上記分子篩構造成型体収納部の外側を覆う気密性保持容器内に収納された、二重筒構造となし、上記分子篩構造成型体収納部と上記気密性保持容器との間に保持容器内被改質燃料導入路を形成せしめる(請求項2)。
【0017】
第2の発明によれば、上記保持容器内被改質燃料導入路に導入された上記高温低酸素濃度気体の熱エネルギによって、予め、上記分子篩構造成型体収納部を周囲から加熱し、上記分子篩構造成型体の触媒活性を高めておくことが可能となり、上記分子篩構造成型体収納部の内部に上記被改質燃料と上記高温低酸素濃度気体とが導入されたときに速やかに上記被改質燃料の接触分解反応を起こさせることが可能となる。
したがって、改質済燃料導出開始初期においても安定した組成の改質済燃料を供給可能な燃料改質装置が実現できる。
【0018】
具体的には、第3の発明のように、上記被改質燃料がイソオクタンを主成分とするガソリンであって、上記分子篩構造材料として、7オングストロームより大きく15オングストロームより小さい細孔径を有するゼオライト又はゼオライト類似種を用いるのが好ましい(請求項3)。
【0019】
本発明者等の鋭意試験により、第3の発明の範囲の細孔径を有するゼオライト又はゼオライト類似種であれば、改質前のガソリンが吸着される一方で、接触分解後の低級化した炭化水素は脱着され、再吸着することなく細孔を通過することから、過剰な接触分解反応が起こらず改質済燃料の組成を安定化できることが判明した。
本発明によらず、7オングストロームよりも十分小さい細孔径を有するゼオライト又はゼオライト類似種を用いた場合、被改質燃料であるガソリンが吸着され難く、被改質燃料の改質が進行し難いことが判明した。
また、本発明によらず、本発明の範囲と同程度の大きさの細孔を有する場合であっても、本発明の範囲を外れた7オングストロームよりも小さい径の細孔が混在するゼオライト又はゼオライト類似種を用いた場合には、一旦接触分解されて低級化した炭化水素が、小さい径の細孔に再吸着され、接触分解反応を繰り返し、過剰な分解が起こり、改質済燃料としての機能を果たさなくなる虞があることが判明した。
【0020】
さらに、第4の発明のように、上記被改質燃料がイソオクタンを主成分とするガソリンであって、上記分子篩構造材料として、SiとAlとの比が5以下であるゼオライト又は、ゼオライト類似種を用いるのが望ましい(請求項4)。
【0021】
ゼオライトの骨格構造を構成する四面体構造の(SiO4−と(AlO5−との中心に位置するT原子(テトラへドラル原子)として存在するSiとAlとの比が5より多い場合には、触媒としての酸化力が弱くなることが判明した。
【0022】
また、第5の発明のように、上記被改質燃料がイソオクタンを主成分とするガソリンであって、上記分子篩構造材料として、国際ゼオライト学会の定義する構造コードがFAU又はEMTで表される骨格構造を有するゼオライト又はゼオライト類似種を用いても良い(請求項5)。
【0023】
本発明者等の鋭意試験により、構造コードがFAUで表されるゼオライトが、ガソリンを低級化するのに適していることが判明した。また、構造コードがEMTで表されるゼオライトはFAUで表されるゼオライトと骨格構造が類似しており、同様の効果を発揮できると推察される。
本発明によらず、A型(構造コードLTA)のゼオライト又はゼオライト類似種を用いた場合には、接触分解反応が起こり難くなる虞があり、モルデナイト(MOR)、L型(MFI)等のゼオライトを用いた場合には、過剰に分解反応が進行する虞があることが判明した。
【0024】
また、第6の発明のように、上記被改質燃料がイソオクタンを主成分とするガソリンであって、上記分子篩構造材料として、12員環によって構成された細孔を有するゼオライト又はゼオライト類似種を用いても良い(請求項6)。
【0025】
本発明によれば、12員環によって形成される細孔にガソリンが吸着され、接触分解反応を起こし、改質後には脱着して過剰な分解反応を起こすことなく改質済燃料を導出することができる。
【0026】
本発明によらず、分子篩構造材料として、10員環によって細孔が形成されるゼオライト又はゼオライト類似種を用いた場合、接触分解反応を起こさず、14員環以上によって細孔が形成されるゼオライト又はゼオライト類似種を用いた場合には、被改質燃料分子が複数同時に細孔内に取り込まれ、接触分解反応が安定しなくなる虞があると推察される。
【0027】
また、第7の発明のように、上記分子篩構造成型体を、ペレット状、筒状、仕切り付き筒状、鞍状、又は、螺旋状のいずれかに成型しても良い(請求項7)。
【0028】
第7の発明によれば、上記分子篩構造成型体をこのような形状にすることで、接触面積を増加しつつ流路抵抗を小さくすることができるので、効率よく被改質燃料の改質を行うことができる。
【0029】
また、第8の発明のように、上記分子篩構造成型体を、複数の隔壁によって区画されたハニカム構造体としても良い(請求項8)。
【0030】
第8の発明によれば、被改質燃料を上記ハニカム構造体の隔壁を透過させることによって、確実に上記分子篩構造材料に接触させることができ、改質済燃料の導出を定量的に制御することが可能となり、さらに安定して被改質燃料の改質を行うことができると期待される。
【0031】
第9の発明では、内燃機関の燃焼排気流路と吸気流路とを連通する排気再循環流路を具備し、内燃機関の燃焼室内に燃焼排気の一部を導入せしめて燃費の向上と排気の浄化を図る排気再循環システムであって、第1の発明ないし8のいずれかの燃料改質装置を上記再循環流路の途中に設けて、内燃機関の燃焼排気を上記高温低酸素濃度気体とする(請求項9)。
【0032】
第9の発明によれば、燃焼排気の持つ熱エネルギを有効に利用して被改質燃料を改質できるのに加え、燃焼排気中の酸素濃度が低いことを利用して、被改質燃料を燃焼することなく改質済燃料とすることができる。
また、本発明の燃料改質装置によって安定した組成に改質された改質済燃料が、排気再循環に利用されるので、内燃機関のさらなる燃費向上や、燃焼排気の清浄化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施形態における燃料改質装置の概要を示し、(a)は、燃料改質装置の断面図、(b)は、本実施形態に用いられる分子篩構造成型体の概要を示す斜視図。
【図2】本発明の第1の実施形態における燃料改質装置を有する排気再循環システム全体の概要を示す構成図。
【図3】本発明の効果を確認するためのモデル試験装置の概要を示す構成図。
【図4】本発明の燃料改質装置に用いる分子篩構造材料の骨格構造の概要を比較例と共に示す模式図。
【図5】本発明の第1の実施形態における燃料改質装置の効果について、イソオクタンを改質した後の未反応のイソオクタン残存率を比較例と共に示す特性図。
【図6】本発明の第1の実施形態における燃料改質装置によってイソオクタンを改質したときにイソオクタン以外に存在する改質済燃料の種類と割合を比較例と共に示す特性図。
【図7】本発明の作動原理を比較例と共に示す模式図。
【図8】本発明の第1の実施形態における燃料改質装置を備えた内燃機関の燃費向上効果を比較例と共に示す特性図。
【図9】本発明の第1の実施形態における燃料改質装置を用いて燃料改質をした場合の燃料圧力の変化を比較例と共に示す特性図。
【図10】本発明の燃料改質装置の改質の進行度合いに対する改質効果の変化を比較例と共に示す特性図。
【図11】本発明の第1の実施形態における燃料改質装置の変形態様を示し、(a)は装置概要を示す断面図、(b)〜(e)は、各変形態様に用いられる分子篩素体の概要を示す斜視図。
【図12】本発明の第2の実施形態における燃料改質装置の概要を示す断面図。
【図13】本発明の第3の実施形態における燃料改質装置の概要を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1の実施形態における燃料改質装置20は、例えば、自動車エンジンなどの内燃機関の燃費を向上すると共に燃焼排気の清浄化を図るための排気循環システム1の排気循環流路13、14、15の途中に設けられて、排気循環流路13内に噴射された被改質燃料FLを所定の細孔径を有する分子篩構造成型体30によって接触分解して所定の組成を有する改質済燃料FLとして燃焼排気GEXの一部と共に吸気ARINに導入することに用いられるものである。
【0035】
図1、図2を参照して、本発明の第1の実施形態における燃料改質装置20とこれを用いた内燃機関の排気再循環システム1の概要について説明する。
図1(a)に示すように、燃料改質装置20は、内燃機関から排出される燃焼排気等の温度が高く酸素濃度が低い高温低酸素濃度気体GEX内に噴霧されて気化された被改質燃料FLを高温低酸素濃度気体GEXと共に導入する被改質燃料気体導入路13と、被改質燃料の分子径よりも大きい所定の細孔径を有する分子篩構造成型体30と、分子篩構造成型体30を収納する分子篩構造成型体収納部21と、被改質燃料FLを分子篩構造成型体収納部21の内部24で高温低酸素濃度気体GEXの持つ熱エネルギを利用して分子篩構造成型体30によって接触分解(クラッキング)反応させ、得られた改質済燃料FLを導出する改質済燃料導出路14を具備する。
【0036】
分子篩構造成型体収納部21は、略有底筒状に形成され、底部210には、気化した被改質燃料FLと高温低酸素濃度気体GEXとを内部24に導入するための底部通気孔211が複数穿設されている。
なお、本実施形態においては、通気孔として、底部通気孔211を設けたが、分子篩構造成型体収納部21の底部210に近い位置の側面に設けても良い。
分子篩構造成型体収納部21は、さらに有底筒状に形成された気密性保持容器22内に収納されて、二重筒構造となっており、分子篩構造成型体収納部21の側面及び底部210の外周を覆うように気密性保持容器22との間に保持容器内被改質燃料導入路23が形成されている。
【0037】
本実施形態において、分子篩構造成型体収納部21の上端は外側に向かって張り出すように鍔状に形成されており、機密性保持容器の上端に係止し、蓋25によって上面が気密に封止されている。
蓋25には、分子篩構造成型体収納部21の内部24に発生した改質済燃料FLを導出するための改質済燃料導出路14が設けられている。
【0038】
本実施形態において分子篩構造成型体30は、分子篩構造材料として、フォージャサイト(Si/Al=1〜3.5)、X型(Si/Al=1.1)、又は、Y型(Si/Al=2.4)のゼオライトからなるモレキュラシーブス13xを用いている。
モレキュラシーブス13xを構成する分子篩構造材料は、国際ゼオライト学会の定義する構造コードがFAUで現される骨格構造を有し、(SiO4−、又は、(AlO5−の四面体構造の中心原子(T原子:Si、又は、Al)が骨格格子の頂点に存在し、この中心原子によって12員環が形成され、10Å程度の大口径の細孔を有しており、図1(b)に示すような直径φDが1mm〜3mm、長さLが2mm〜5mm程度のペレット状に成型されている。
なお、本実施形態においては、構造コードがFAUで表されるゼオライトを用いたが、構造コードがEMTで表されるゼオライトも骨格構造が類似しているので、細孔径が同様の範囲であれば、FAUで表されるゼオライトと同様の効果を発揮できるものと考えられる。また、本発明は、ゼオライトに限定するものではなく、骨格構造及び細孔径が類似であれば、ゼオライト類似種でも良い。但し、本発明において、白金等の金属触媒を担持するものは過剰に分解反応が進む虞があるので好ましくない。
【0039】
被改質燃料FLと高温低酸素濃度気体GEXとが、被改質燃料導入路13から、本発明の燃料改質装置20内に導入されると、保持容器内被改質燃料導入路23内には、被改質燃料FLと共に高温低酸素濃度気体GEXが導入されるので、高温低酸素濃度気体GEXの持つ熱エネルギが分子篩構造成型体収納部21の外周壁全面に伝達されることになる。
さらに、底部通気孔211を介して、分子篩構造成型体収納部21内に被改質燃料FLと高温低酸素濃度気体GEXとが導入されると、分子篩構造成型体30の特定の大きさを有する細孔に被改質燃料FLが吸着される。
この状態で、分子篩構造成型体30が、高温低酸素濃度気体GEXの熱エネルギによって加熱されると、分子篩構造成型体30の細孔に吸着された被改質燃料FLが接触分解(クラッキング)反応を起こし、低級化された改質後燃料FLとなり、分子が小さくなるので、分子篩構造成型体30の細孔から脱着し、改質済燃料導出路14から導出される。
高温低酸素濃度気体GEXは、酸素濃度が低いため、分子篩構造成型体30と、被改質燃料FLとが接触分解反応を起こすときに被改質燃料FLの燃焼を抑制することができる。
【0040】
また、本発明の燃料改質装置20、高温低酸素濃度気体GEXの有する熱エネルギを反応の活性化エネルギとして利用しているため、被改質燃料FLが過剰に分解されて燃料としての機能を果たさなくなったり、過剰な圧力上昇を招いたり、高温低酸素濃度気体に含まれる成分と反応して所望の低級化炭化水素以外にリフォームされたりすることがなく、被改質燃料FLの接触分解反応によって低級化された特定の改質済燃料を生成できることを特徴としている。
これは、接触分解反応によって分子の大きさが小さくなると、本発明の燃料改質装置20に用いた分子篩構造成型体30の特定の大きさの細孔から改質済燃料FLが脱着して、接触分解反応が終了し、過剰に分解反応が進行することがないためと推察される。
【0041】
図2を参照して、本発明の第1の実施形態における燃料改質装置20を用いた、排気再循環システム1について説明する。
本発明の排気再循環システム1は、内燃機関10から排出された燃焼排気GEXの一部を燃焼排気流路12と吸気流路11とを連通した排気再循環流路13、14、15を介して吸気側に再循環させる排気再循環システムにおいて、高温低酸素濃度気体である燃焼排気GEX内に噴射して気化させた被改質燃料FLを本発明の燃料改質装置20を用いて改質した改質済燃料FLとして、吸気ARIN内に導入し、内燃機関10の燃費向上、排気浄化を図るものである。
図2に示すように、内燃機関10には、図略の燃焼室内に吸気ARINを導入する吸気流路11と吸気流路11を開閉する吸気バルブ110と、燃焼排気を排出する排気流路12と、排気流路12を開閉する排気バルブ120と、吸気流路11内に主燃料FLを噴射して混合気を形成する主燃料噴射弁40と、燃焼室内に導入された混合気に点火する点火プラグ16とが設けられている。
【0042】
排気流路12には、排気流路12内に排出された燃焼排気GEXの一部を吸気流路11へ還流する排気再循環流路13、14、15と、排気再循環流路13内に被改質燃料FL2を噴射する被改質燃料噴射弁41と、燃焼排気を浄化する排気浄化装置18と、改質済燃料FLを再循環流路15内への導入と停止とを制御するEGRバルブ44とが設けられている。
また、排気再循環流路13において、被改質燃料FLを噴射する位置の下流側には、本発明の第1の実施形態における燃料改質装置20が設けられている。
【0043】
内燃機関10には、機関の運転状況を検出する手段として、一般に用いられている各種のセンサ類が設けられており、エンジン水温TW、エンジン回転数NE、筒内圧力PCYL、クランク角CA等の運転情報が電子制御装置ECU60に伝達されている。
ECU60は、エンジン運転状況に応じて、燃料ポンプ51、高圧ポンプ52を駆動し、所定のタイミングで主燃料噴射弁40を駆動すべく主燃料噴射信号INJを発信し、被改質燃料噴射弁41を駆動すべく被改質燃料噴射信号INJを発信し、燃料改質装置20によって改質された改質済燃料FLを吸気流路11内に導入すべくEGRバルブ44を駆動するEGR駆動信号SEGRを発信し、点火プラグ16を駆動すべく点火信号IGtを発信する。
燃料タンク50内の燃料は燃料ポンプ51によってくみ上げられ、高圧ポンプ52によって、主燃料噴射弁40及び被改質燃料噴射弁41に所定の圧力で供給される。
ECU60からの主燃料噴射信号INJにしたがって主燃料噴射弁41によって吸気流路11内に主燃料FLが噴射され、所定の空燃比で混合された吸気と燃料との混合気が機関燃焼室内に導入される。
このとき、内燃機関10の運転状況に応じてEGRバルブ44が開閉され、混合気に改質済燃料FLを含む排気循環ガスが導入される。
【0044】
本発明によれば、燃料改質装置20によって改質される被改質燃料FLが接触分解によって特定の成分に分解された改質済燃料FLが排気再循環ガスとして利用されるので、安定して燃費向上及び排気浄化を図ることができる。
例えば、ガソリンを主燃料FLとする内燃機関10においては、被改質燃料FLもガソリンが用いられ、ガソリンの主成分である、イソオクタン(2、2、4−トリメチルペンタン、C18)が、燃焼排気GEXの熱(350℃以上)を受けて分子篩構造成型体30の触媒作用によって接触分解され、主に下記の反応を基本として2メチル1プロペン(C)を生成し、酸素濃度の低い燃焼排気GEXと共に改質済燃料FLとして、吸気ARIN内に再循環される。
燃焼排気熱エネルギΔ
----------------------→2C+2H
分子篩構造成型体
また、高温低酸素濃度気体である燃焼排気GEXは、被改質燃料FLの分子篩構造成型体30を触媒として接触分解反応を起こさせるためのエネルギ源及び、低酸素雰囲気を作り被改質燃料FLの燃焼を抑制するためだけに用いられ、従来の遷移金属を担持した触媒等を用いた激しい反応とは異なり、燃焼排気GEXと被改質燃料FLとの間で反応が起こり難い。このため、運転状況の変化に起因する燃焼排気GEXの成分の変動があったとしても、上記接触分解反応に影響を及ぼさず、被改質燃料FLは、常に特定の成分に改質される。したがって、運転状況に応じた燃焼排気GEXの成分の変動が主燃料FLの燃焼に与える影響の補正が容易である。
【0045】
本実形態においては、単独の吸気流路11内に主燃料噴射弁噴射弁40 により内燃機関10 の各気筒へ主燃料FL を供給するが、気筒分の主燃料噴射弁を独立に設けて、それぞれの吸気流路へ主燃料FL を噴射してもよい。
また、吸気流路11内に主燃料を噴射する代わりに、各気筒内へ直接燃料を噴射する、いわゆる直噴式の噴射弁を用いて、燃焼室内に主燃料FLを噴射しても良い。
【0046】
内燃機関10 に供給される吸気ARIN は、吸気流路11に設けたスロットル弁43によって流量調整されて、燃料室内に導入される。スロットル弁43 の開度は、アクセル44に設けたアクセル開度センサからのアクセル開度信号ACPに基づいてECU60によって制御されている。
【0047】
内燃機関10の各気筒 で燃焼した混合気は、燃焼排気GEXとなって排気流路12へ排出され、一部は燃料改質装置20の被改質燃料導入路13に導入され、一部は排気浄化装置18へ導入される。
被改質燃料導入路13に導入された燃焼排気GEXは、被改質燃料を改質するための熱エネルギを与えると共に、酸素濃度が低いため、被改質燃料FLの燃焼を抑制し、接触分解反応のみを起こさせることができる。
【0048】
排気浄化装置18、例えば、三元触媒等が用いられ、燃焼排気GEXを浄化した後、大気へ放出される。また、排気浄化装置18の前後には、酸素センサやNOxセンサ等のガスセンサ181、182(及び/又は、温度センサ)が設けられ、燃焼排気中の特定成分の濃度(及び/又は、燃焼排気の温度)を検出して、その検出結果は、内燃機関10に導入される混合気の空燃比を制御したり、排気の状態を検知して、EGRバルブ44の開閉を制御したり、排気浄化装置18の再生制御等に利用される。
なお、燃焼排気流路12と排気浄化装置18との間に過給器17を設けて、燃焼排気GEXの排出圧力を利用してタービンを回転させ、圧縮機を連動させて、吸気路11に導入される吸気ARINを過給するようにしても良い。
【0049】
図3を参照して、本発明の燃料改質装置20の効果を確認するために行ったモデル試験について説明する。図3に示すように、フラスコ内に、ガソリン燃料の主成分であるイソオクタン(2、2、4−トリメチルペンタン、C18)を入れ、これをイソオクタンの沸点(99℃)まで加熱し、イソオクタンガスを発生させる。
燃焼排気を模した高温低酸素濃度気体GEXとして不活性な窒素ガスを用い、発生したイソオクタンガスと共に、被改質燃料導入路13から、燃料改質装置20に導入し、温度調整可能なヒータ等を用いて400℃まで加熱した。
分子篩構造成型体収納部21内で、被改質燃料FLとして導入したイソオクタンガスと、高温低酸素濃度気体GEXを模して導入したNガスとを分子篩構造成型体30に接触させ、改質済燃料導出路14から導出される改質済燃料FLを捕集し、ガス分析を行った。同様の試験を分子篩構造成型体30を構成するゼオライトの種類を変えて行い比較例とした。
【0050】
図4(a)に示すようなFAU型(X、Y型)の骨格構造を有するゼオライトとしてモレキュラシーブス13x(細孔径約10Å、Si/Al=約1.0、員環数=12−12−12)を用いた分子篩成型体30を用いた場合を本発明の実施例1とし、図4(b)に示すようなLTA型(A型)の骨格構造を有するゼオライトとしてモレキュラシーブス3A(細孔径約3Å、Si/Al=約1.0、員環数=8)を用いた場合を比較例1とし、図4(c)に示すようなLTF型(L型)の骨格構造を有するモレキュラシーブス5A(細孔径約5Å、Si/Al=2〜3.0、員環数=12)を用いた場合を比較例2とし、図4(d)に示すようなMOR型(モルデナイト型)の骨格構造を有するモレキュラシーブス(細孔径約7Å、Si/Al=5〜10、員環数12−8)を用いた場合を比較例3として、得られた改質済燃料の組成を調査した。
【0051】
その結果、図5に示すように、実施例1では、イソオクタンの残存率は投入量の80%以下となり、比較例1では、ほとんど改質が行われておらず、比較例2では、イソオクタンの残存率が75%程度となり、実施例1よりもイソオクタンの改質が進んでおり、比較例3では、イソオクタンの残存率が90%程度であり、実施例1よりも改質が進んでいなかった。比較例4は、分子篩構造成型体30を用いず、加熱のみの処理を行ったものである。
この結果から、イソオクタンの分子径は約5Åであり、細孔径がイソオクタンの分子径よりも大きい実施例1及び比較例2、比較例3では、何らかの燃料の改質がなされることが判明した。
しかし、細孔径が3Åとイソオクタンの分子径よりも小さい比較例1では、分子篩構造成型体を用いていない比較例4と同様の結果で、ほとんど改質効果がないことが判明した。
以上のことから、本発明の燃料改質装置20の分子篩構造成型体30を構成する分子篩構造材料が、7オングストロームより大きい細孔径を有するゼオライト又はゼオライト類似種であるのが望ましいものと判断される。
さらに、15オングストローム以上との大きな細孔径が存在すると、複数の分子が同時に細孔内に吸着されるため、一旦、接触分解反応により低級化されても、炭化水素が細孔内に存在する他の分子と重合したり、イソオクタン同士の縮合や重合等の反応により、高分子化したりする虞もある。
このことから、本発明の燃料改質装置20の分子篩構造成型体30を構成する分子篩構造材料が、15オングストロームより小さい細孔径を有するゼオライト又はゼオライト類似種であるのが望ましいものと推察される。
【0052】
図6を参照して、本発明の実施例1における改質済燃料FLの成分とその割合について比較例1〜3と併せて説明する。
本図(a)に示すように、実施例1では、改質されたイソオクタンの約80%以上が、2メチル1プロペン(C)であり、その他には、僅かに、プロパンC、プロペンC、メチルシクロペンテンC12、シクロヘキサンC12、イソブタンC10が形成された。このことから、実施例1では、接触分解反応が支配的で、多重化、環状化はほとんど起こらず、2メチル1プロペンの選択的生成が可能であることが判明した。
このため、実施例1の分子篩構造成型体を用いた燃料改質装置を排気再循環システムに用いれば、低級炭化水素である2メチル1プロペンの選択的生成により、引火点を下げ、燃焼排気中のNOx濃度を下げることができるものと推察される。
一方、本図(b)に示すように、比較例1では、元々改質量が少ないものの、検出された改質済燃料は、2、3ジメチルペンタン(C16)、2メチル1プロペン(C)、プロパン(C)、メチルシクロヘキサン(C14)、2、4、4トリメチル1ペンテン(C16)であり、極、僅かに接触分解が起こっていることが判明した。
また、本図(c)に示しように、比較例2では、実施例1よりも多くの燃料が改質されたが、2メチル1プロペン(C)の量は少なく、メチルシクロペンタン(C12)、3メチルヘプタン(C18)、プロパン(C)、ヘキサン(C12)、プロペン(C)等比較的多種の燃料が分散的に生成され、接触分解反応は少なく、多重化、環状化反応が支配的となっていることが判明した。したがって、このような比較例2のような分子篩構造成型体を排気再循環システムに用いたのでは、燃焼温度の低下の効果は少なく、排気中のNOx濃度の低減には寄与し難いものと推察される。
さらに、本図(d)に示すように、比較例3では、燃料の改質量は実施例1よりも低く、また、改質済燃料は、メチルシクロペンタン(C12)、2メチル1プロペン(C)、3メチルヘプタン(C18)、シクロヘキサンC12、プロペン(C)が生成されており、低級化の効果は低く、多重化、環状化が支配的であることが判明した。
したがって、このような比較例3のような分子篩構造成型体を排気再循環システムに用いたのでは、燃焼温度の低下の効果は少なく、排気中のNOx濃度の低減には寄与し難いものと推察される。
【0053】
図7を参照して、本発明の燃料改質装置の作動原理を概説する。
本図(a)に示すように、本発明の実施例1では、モレキュラシーブス13xの細孔径は約10Åで、被改質燃料であるイソオクタンの分子径5Åよりも大きく、FAU型の骨格構造の頂点に位置するSiやAl等のT原子12個からなる12員環によって大細孔を形成しており、被改質燃料がこの細孔に接触すると、細孔内に吸着され、燃焼排気等の高温で低酸素濃度の気体によって熱エネルギΔが加えられると、接触分解反応を起こして、低級の2メチル1プロペン(C)に分解され、細孔から脱着する。
一方、本図(b)に示すように、比較例1では、モレキュラシーブス3Aの細孔径は3Åで、被改質燃料であるイソオクタンの分子径5Åより小さく、TLA型の骨格構造の頂点に位置するT原子によって8員環によって小細孔を形成しており、被改質燃料が接触しても吸着できないため、反応性は低い。
また、本図(c)に示すように、比較例1では、LTF型(HS−500)の細孔径は、約7Å程度で、T原子によって12員環と8員環が形成されている。被改質燃料がこの細孔に接触すると細孔内に吸着され、さらに、燃焼排気等の高温で低酸素濃度の気体によって熱エネルギΔが加えられると、実施例1と同様に接触分解反応を起こす。しかし、小径の8員環も存在するため、一端接触分解され低級化された炭化水素が細孔から脱着しても再度小径の細孔吸着されされ、さらに、低級化されたり、再結合して多重化したりするため、過剰に改質が進み、多種の燃料に分かれるものと推察される。
比較例3の場合、骨格構造はMOR型で、比較例2と同様に、12員環と8員環が存在するが、T原子として、SiがAlの5倍〜10倍存在し、これが、触媒活性を低下させているものと推察される。
以上のことから、本発明の分子篩構造成型体30に用いる分子篩構造材料には、SiとAlの比が5以下のゼオライト又はゼオライト類似種を用いるのが望ましいことが判明した。
【0054】
図8〜図10を参照して、本発明の燃料改質装置20を具備する内燃機関の燃費向上効果について説明する。燃料改質をしない通常のEGRシステムを比較例4とし、従来の白金等の遷移金属を担持させた燃料改質触媒を用いた場合を比較例5とする。
図8に示すように、比較例4における燃費を100とした場合、比較例5では、5%程度の燃費低減を図ることができるが、本発明の実施例1では、10%程度の燃費向上を図ることができる。
一方、比較例4の燃料の改質しない排気再循環システムで再循環される燃焼排気の圧力を100としたとき、比較例5では、図9に示すように、圧力が60%程度上昇し、本発明の実施例1では、20%程度上昇している。
これは、比較例5では、過剰に被改質燃料の分解が進み、発生する気体の種類が多岐に渡り、気体のモル数が増加し、体積が急激に膨張したためであり、実施例1では、20%程度の燃料改質が行われているためである。
また、図10に示すように、比較例8では、燃料改質開始初期には、実施例1よりも高い燃料改質の効果を示すが、一定時間以上改質が進むと、改質の効果が低下してしまう。
一方、本発明の実施例1では、燃料改質の効果がほぼ一定に維持される。
これは、比較例5の場合、金属触媒によって燃料改質の反応速度が高くなり、初期には高い効果を示すが、反応の進行に伴って、図9に示すように、分解が過剰に進み、燃焼性向上に寄与しなくなるためと推察される。
一方、実施例1では、一旦改質された燃料は、分子篩構造成型体から離れ、それ以上改質が進まず、未反応の被改質燃料だけが改質されるため、ほぼ直線的に被改質燃料の接触分解反応が維持されるためと推察される。
【0055】
図11を参照して、本発明の第2の実施形態における燃料改質装置20aについて説明する。上記実施形態においては、分子篩構造成型体30として、ペレット状に成型されたモレキュラシーブス13xを用いた例を示したが、本実施形態においては上記実施形態と同様の構成に加え、分子篩構造成型体30aとして、FAU型のゼオライト粉末を、押出成形やプレス成形等の公知の成型方法により、所定の形状に成型し、ゼオライトの骨格構造を変化させない程度の温度で焼結させて、分子篩構造成型体30a、30b、30c、30dとして、筒状(30a)、仕切り付き筒状(30b)、鞍状(30c)、又は、螺旋状(30d)のいずれかの形状に成型して分子篩構造成型体収納部21内に充填した点が相違する。
分子篩構造成型体30aは、本図(b)に示すように、外径φD、内径φD、長さLの中空円筒状に成型してあり、DとLは略同一の長さである。
分子篩構造成型体30bは、本図(c)に示すように、外径φD、内径φD、長さLの中空円筒状で、内側の中心に厚みtの仕切りが設けてあり、DとLは略同一の長さである。
分子篩構造成型体30cは、本図(d)に示すように、鞍状に成型してある。
また、分子篩構造成型体30dは、本図(e)に示すように、略平板状の成型体を捻ったような螺旋状に成型してある。
分子篩構造成型体をこれらに示したような形状とすることによって、上記実施形態に示したようなペレット状に比べ、分子篩構造材料単位重量当たりの表面積を増やし、分子篩構造成型体収納部21内を被改質燃料FLと高温低酸素濃度気体GEXとが流動するときの接触面積が増えるので、さらに被改質燃料FLを効率的に改質し、安定して供給できると期待される。
【0056】
図12を参照して、本発明の第3の実施形態における燃料改質装置20eについて説明する。本実施形態においては、分子篩構造成型体30eとして、分子篩構造材料粉末を押出成形等の成型方法により、格子状の隔壁によって区画されたハニカム構造体を形成した点が相違する。
分子篩構造成型体30eをこのような構造とすることによって、分子篩構造成型体収納部21eの内側24を被改質燃料FLと高温低酸素濃度気体GEXとが流動するときに、ハニカム構造体の隔壁を透過するので、確実に分子篩構造材料に接触させることができ、改質済燃料FLの導出を定量的に制御することが可能となり、さらに安定して被改質燃料FLの改質を行うことができると期待される。
【0057】
図13を参照して、本発明の第4の実施形態における燃料改質装置20fについて説明する。本実施形態においては、上記実施形態と同様の構成に加えて、分子篩構造成型体収納部21fの外側に設けた気密性保持容器22fのさらに外側に第2の気密性保持容器25fを設けて、気密性保持容器22fと第2の気密性保持容器25fとの間に、加熱用高温低酸素濃度気体導入路26fを設け、加熱用高温低酸素濃度気体導入路131と、加熱用高温低酸素濃度気体導出路132とを形成した点が相違する。
このような構成とすることによって、高温低酸素濃度気体GEXの熱エネルギを装置全体の予熱に利用することができ、さらに、安定した組成の改質済燃料を供給可能としたり、高温低酸素濃度気体GEXの熱エネルギの不足を補ったりすることが可能となる。
【0058】
本発明は、上記実施形態に限定するものでなく、選択的接触分解を実施する分子篩構造成型体によって低酸素雰囲気下で燃料を改質する燃料改質装置及びこれを用いた排気再再循環装置によって燃費の向上と排気の浄化を図ろうとする本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態においては、内燃機関としてポート噴射式のエンジンを例に説明したが、燃料を直接燃焼室内に噴射する筒内噴射式エンジンであっても良い。
【符号の説明】
【0059】
1 排気再循環システム
10 内燃機関
11 吸気流路
12 排気流路
13 排気再循環路(被改質燃料導入路)
14 排気再循環流路(改質済燃料導出路)
15 排気再循環流路
16 点火プラグ
17 過給器
18 排気浄化装置
181、182 ガスセンサ(及び/又は温度センサ)
20 燃料改質装置
21 EGRバルブ
30 分子篩構造成型体
40 主燃料噴射弁
41 被改質燃料噴射弁
43 スロットル弁
44 アクセル開度センサ
50 燃料タンク
51 燃料ポンプ
52 圧縮ポンプ
53、54 高圧燃料供給流路
60 電子制御装置
ARIN 吸気
EX 燃焼排気
FL 主燃料
FL 被改質燃料
FL 改質済燃料
【先行技術文献】
【特許文献】
【0060】
【特許文献1】特開2006−291757号公報
【特許文献2】特開平10−89057号公報
【非特許文献】
【0061】
【非特許文献1】「Atlas of Zeolite Framework Types (Ch.Baerlocher、 W.M.Meier and D.H.Olson、 5th. Revised Edition、 2001、 Elsevier)」
【非特許文献2】国際ゼオライト学会データベースURL:http:www.iza−structure.org/databases/

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を改質する燃料改質装置であって、
高温低酸素濃度気体内に噴霧されて気化された被改質燃料を上記高温低酸素濃度気体と共に導入する被改質燃料気体導入路と、
被改質燃料の分子径よりも大きい細孔径を有する分子篩構造材料を所定の形状に成型した分子篩構造成型体と、
該分子篩構造成型体を収納する分子篩構造成型体収納部と、
得られた改質済燃料を導出する改質済燃料導出路と、を具備することを特徴とする燃料改質装置。
【請求項2】
上記分子篩構造成型体収納部の外側を覆う気密性保持容器内に収納された、二重筒構造となし、上記分子篩構造成型体収納部と上記気密性保持容器との間に保持容器内被改質燃料導入路を形成せしめた請求項1に記載の燃料改質装置。
【請求項3】
上記被改質燃料がイソオクタンを主成分とするガソリンであって、上記分子篩構造材料として、7オングストロームより大きく15オングストロームより小さい細孔径を有するゼオライト又はゼオライト類似種を用いる請求項1又は2に記載の燃料改質装置。
【請求項4】
上記被改質燃料がイソオクタンを主成分とするガソリンであって、上記分子篩構造材料として、SiとAlとの比が5以下であるゼオライト又は、ゼオライト類似種を用いる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の燃料改質装置。
【請求項5】
上記被改質燃料がイソオクタンを主成分とするガソリンであって、上記分子篩構造材料として、国際ゼオライト学会の定義する構造コードがFAU又はEMTで表される骨格構造を有するゼオライト又はゼオライト類似種を用いる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の燃料改質装置。
【請求項6】
上記被改質燃料がイソオクタンを主成分とするガソリンであって、上記分子篩構造材料として、12員環によって構成された細孔を有するゼオライト又はゼオライト類似種を用いる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の燃料改質装置。
【請求項7】
上記分子篩構造成型体が、ペレット状、筒状、仕切り付き筒状、鞍状、又は、螺旋状のいずれかである請求項1ないし6のいずれか1項に記載の燃料改質装置。
【請求項8】
上記分子篩構造成型体が、複数の隔壁によって区画されたハニカム構造体である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の燃料改質装置。
【請求項9】
内燃機関の燃焼排気流路と吸気流路とを連通する排気再循環流路を具備し、内燃機関の燃焼室内に燃焼排気の一部を導入せしめて燃費の向上と排気の浄化を図る排気再循環システムであって、
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の燃料改質装置を上記再循環流路の途中に設けて、内燃機関の燃焼排気を上記高温低酸素濃度気体としたことを特徴とする排気再循環システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−153580(P2011−153580A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16003(P2010−16003)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】