説明

燃料添加剤含有格子操作二酸化セリウムナノ粒子

少なくとも1種の遷移金属(M)を含有する二酸化セリウムナノ粒子を形成するためのプロセスであって、3価のセリウムイオンを4価のセリウムイオンに酸化するのに効果的な量で酸化剤を含有する水性混合物を機械的にせん断することによって調製された水酸化セリウムナノ粒子の懸濁液を利用して遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子Ce1−x(xは約0.3〜約0.8の値を有する)を含有する生成物流を生成する。このようにして得られたナノ粒子は、立方晶ホタル石型構造、約1〜約10nmの平均流体力学的直径及び約4nm未満の幾何学的直径を有する。遷移金属含有結晶性二酸化セリウムナノ粒子を使用して、無極性媒質において粒子の分散系を調製することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、国際出願第PCT/US07/077545号の「METHOD OF PREPARING CERIUM DIOXIDE NANOPARTICLES」及び国際出願第PCT/US07/077535号の「CERIUM DIOXIDE NANOPARTICLE−CONTAINING FUEL ADDITIVE」(共に2007年9月4日に出願)に関する。これらの出願は、仮出願番号第60/824514号の「CERIUM−CONTAINING FUEL ADDITIVE」(2006年9月5日に出願)、仮出願番号第60/911159号の「REVERSE MICELLAR FUEL ADDITIVE COMPOSITION(2007年4月11日に出願)及び仮出願番号第60/938314号の「REVERSE MICELLAR FUEL ADDITIVE COMPOSITION」(2007年5月16日に出願)の優先権の利益を主張するものである。これらの全ての出願の開示は、参照により本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は概して、二酸化セリウムナノ粒子、特には1種以上の遷移金属(M)を含有する二酸化セリウムナノ粒子Ce1-xx2及びこのような粒子を調製するための方法に関する。これらのナノ粒子は、燃料添加剤組成物の成分、触媒コンバータ用のウォッシュコート又は還元/酸化反応のための触媒として有用である。
【背景技術】
【0003】
トラック輸送業界が米国の国内総生産に占める割合は5%を超え、500000を越える貸出用の民間及び政府の車両(自己所有の運転手を含む)から成る。これは米国経済のバロメータであり、全ての形態の国内貨物輸送機関によって運ばれる、製品及び小売商品を含む総トン数の70%近くにあたる。この業界では、殆どディーゼルエンジン(圧縮点火機関)だけを動力として使用しており、ディーゼルエンジンは、低rpmでの高トルク及び火花点火(ガソリン)機関より25%高い熱力学的効率を特徴とする。2007年にEPAが窒素酸化物(NOX)及びディーゼル排気微粒子(diesel particulate matter:DPM又は煤煙)の排出削減を命じた結果、現在、ディーゼル車は、ディーゼル酸化触媒(diesel oxidation catalyst:DOC)又は何らかの形態の触媒コンバータを装備し且つ超低硫黄ディーゼル燃料(ultra low sulfur diesel fuel:ULSD)(硫黄分が<15ppm)を燃焼することを必要とされている。排気ガス再循環(emissions gas recirculation:EGR)等の多種多様な技術が、EPAが命じた排出基準を満たすために必要とされている。ULSD要件は、高硫黄レベルによるDOCの貴金属の硫黄被毒の結果である。この規制はあらゆる方面に影響を与えた。これは米国内では(路上で)ディーゼル燃料が650Mガロン/週の桁外れの割合で消費され、ガソリン(1300Mガロン/週)に次ぐ2位の消費量だからである。
【0004】
EPAの命令の付加原価によって、ディーゼル燃料1ガロンあたりのコストに約0.39ドルが加算されると推定される。その内訳は以下の要素:エンジンコストの上昇(0.11ドル/ガロン)、粒子捕捉メンテナンス費(0.05ドル/ガロン)、燃費の向上(reduced fuel economy)(0.09ドル/ガロン)、ULSDの増加(0.06ドル/ガロン)及びULSD燃料エネルギー容量の低さ(0.08ドル/ガロン)である。
【0005】
DPM及びその他の排出物の量を削減しつつ同時に燃費(1ガロンあたりのマイル数における増加で測定される)も向上させることができる技術が金銭的にも環境的にも極めて有益であると考えられるのは当然である。
【0006】
ディーゼル燃料添加剤、特には有機材料ではなく無機金属及び金属酸化物材料を含むものは、DMPの削減及び燃費の向上を約束する。
【0007】
Kracklaurer(米国特許第4389220号。その開示は、参照により本願に組み込まれる)は、ディーゼルエンジンの調整方法について記載しており、この方法ではディーゼルエンジンを、エンジンの燃焼表面から炭素堆積物を除去し且つ燃焼表面上に酸化鉄の層(炭素堆積物の更なる蓄積の防止に効果的)を堆積するのに十分な時間に亘って、約20〜30ppmのジシクロペンタジエニル鉄を含有するディーゼル燃料で動作させる。続いて、このディーゼルエンジンを、約10〜15ppmの維持濃度のジシクロペンタジエニル鉄又は同量のその誘導体で連続的に動作させる。この維持濃度は、燃焼表面上に酸化鉄触媒層を維持するのに有効であるが、エンジンにおけるタイミング遅延を軽減するには不十分である。この添加されたジシクロペンタジエニル鉄によって、エンジンシリンダ表面に酸化鉄(Fe23)が生成され、この酸化鉄が炭素堆積物(煤煙)と反応してFe及びCO2が生成されることで堆積物が除去される。しかしながら、この方法では、錆の発生によってエンジンの老朽化が加速する可能性がある。
【0008】
Valentineら(米国特許出願公開第2003/0148235号。その開示は、参照により本願に組み込まれる)は、燃料の燃焼効率を上昇させるための特定の二元又は三元金属燃料添加触媒について記載している。この触媒は、未燃炭素による熱伝達面のファウリングを軽減し、その一方で、典型的な形態及び量で使用した場合にそれ自体が微粒子回収装置の過負荷又は有毒な超微粒子の排出を引き起こし得る2次添加剤灰の量を抑える。プラチナと、セリウム及び/又は鉄を含む少なくとも1種の追加の金属とを含む燃料可溶性触媒を含有する燃料を利用することによって、不完全燃焼によって発生するタイプの汚染物質の生成が減少する。超低レベルの非毒性の金属燃焼触媒を、熱回収の改善及び規制汚染物質排出量削減のために使用可能である。しかしながら、このタイプの燃料添加剤は、希少且つ高価な金属(プラチナ等)を使用することに加えて、エンジンの「調整」に数か月を要する場合がある。「調整(conditioning)」とは、エンジンをこの触媒である期間に亘って動作させないと、添加剤の全効果が得られないことを意味する。初期調整に45日かかり、60〜90日経たないと効果が最善の状態で得られない場合がある。加えて、排気系から大気中へと遊離金属が放出される場合があり、放出された遊離金属は続いて生物と反応を起こし得る。
【0009】
二酸化セリウムは、ディーゼル車において、有毒な排ガスの除去及び微粒子排出量の削減のためにコンバータにおける触媒として広く使用されている。触媒コンバータ内で、二酸化セリウムは化学活性成分として作用し、還元ガスの存在下、酸素を放出し、また酸化種との相互作用により酸素を除去する。
【0010】
二酸化セリウムは、反応式1に示される可逆的プロセスによって酸素を吸蔵及び放出し得る。
〔式1〕
CeO2← →CeO2-X+x/2O2
【0011】
(0010) このプロセスは、セリアの酸素吸蔵能力(oxygen storage capability:OSC)と称される。ここで、セリアは酸素吸蔵緩衝剤(pH緩衝剤によく似ている)として作用し、酸素濃度又は圧力が低い空間領域では酸素を放出し、酸素圧力が高い空間領域では酸素を吸収する。X=0.5の場合、セリアは、Ce23へと効果的に完全に還元され、最高理論OSCは、セリア1グラムあたり1452マイクロモルのO2である。Ce3+とCe4+イオンとの間の酸化還元電位は1.3〜1.8Vであり、存在するアニオン基及び化学環境に大きく左右される(CERIUM:A Guide to its Role in Chemical Technology,1992 by Molycorp,Inc,Library of Congress Catalog Card Number 92−93444)。これによって、上記の正反応及び逆反応が、排ガスにおいて、必要とされる酸素の化学量論比(15:1)近くで速やかに行われる。二酸化セリウムは、酸素欠乏環境において、CO又は炭化水素の酸化のための酸素を供給し得る。或いは、反対に高濃度酸素環境において、窒素酸化物(NOx)のレベルを低下させるために酸素を吸収し得る。同様の触媒活性は、二酸化セリウムを添加剤として燃料(例えば、ディーゼル、ガソリン)に添加しても起り得る。しかしながら、この効果を有用なものにするためには、添加する二酸化セリウムが、ブラウン運動によって燃料中で懸濁したまま沈降しない状態になるのに十分に小さい粒子サイズ、すなわちナノ粒子(100nm未満)でなくてはならない。加えて、触媒作用は表面積に依存することから、粒子サイズが小さいと、ナノ結晶材料が触媒としてより効果的になる。二酸化セリウムの燃料への配合は、例えば「水性ガスシフト反応」:
CO+H2O → CO2+H2
によって、燃料の燃焼で発生する有毒な排ガスを削減する触媒としての役割を果たすだけではなく、ディーゼルエンジンで典型的に使用される微粒子トラップに蓄積される微粒子の完全燃焼も促進する。
【0012】
(0011) 上述したように、二酸化セリウムナノ粒子は、100nm未満の平均直径を有する粒子である。この開示を目的として、特に記載がない限り、ナノ粒子の直径とはその流体力学的直径のことであり、流体力学的直径とは、動的光散乱法によって測定され、また分子吸着質及び付随する粒子の溶媒和殻を含む直径である。或いは、幾何学的粒径を、透過型電子顕微鏡分析(TEM)を利用して推定可能である。
【0013】
(0012) エンジンの手前で二酸化セリウムを燃料に分注する車載供給システムが知られているが、このようなシステムは複雑であり、また適切な量の添加剤を燃料に供給するために大掛かりな電子制御を必要とする。このような複雑な車載システムを回避するために、二酸化セリウムナノ粒子を、より早い段階で燃料に添加して燃料効率を改善することも可能である。例えば、二酸化セリウムを精製所で、典型的には処理添加剤(例えば、セタン価向上剤、潤滑剤)と共に配合可能である。或いは、燃料分配タンクファームで添加可能である。
【0014】
(0013) 二酸化セリウムナノ粒子を、燃料分配センターでラック注入(rack injection)によって大量の(〜100000ガロン)の燃料に添加することも可能である。或いは、二酸化セリウムナノ粒子をより小さな燃料会社の貯蔵所で添加可能であり、特定の個々の要件に合わせたカスタマイズが可能である。加えて、二酸化セリウムを、給油所で、燃料を車両に供給している間に添加することもでき、この場合、粒子分散がより安定する利点が得られる可能性がある。
【0015】
(0014) セリウムナノ粒子がエンジンシリンダ及び内部可動部上にセラミック層を形成することによって、エンジンは本質的に触媒装置へと変化し得る。或いは、セリウムナノ粒子は、それが蓄積する場所で潤滑油において再利用され得る。その触媒効率は、セリウムナノ粒子が反応式(1)の還元を経ることで、燃焼中、酸素原子の供給源となる事実に由来する。しかしながら、1ガロンあたりのマイル数にメリットが見られるようになるまでには通常、数か月の誘導期を必要とする。これは最終的により良好な燃料燃焼をもたらし、また微粒子材料の排出レベルを低下させる。加えて、燃料添加剤として使用する場合、これらのナノ粒子は、エンジンの摩擦を軽減することによって、エンジン性能も改善し得る。別の導入モードとして、二酸化セリウムナノ粒子を潤滑油に添加可能であり、二酸化セリウムナノ粒子は、内部摩擦を軽減するための潤滑性向上剤として機能する。これによって燃料効率も改善される。
【0016】
(0015) 以下の刊行物(その開示は参照により全て本願に組み込まれる)は、酸化セリウム化合物を含有する燃料添加剤について記載している。
【0017】
(0016〜0018) Hawkinsら(米国特許第5449387号明細書)は、式:
(H2O)p[CeO(A)2(AH)nm
(式中、ラジカルAは同一又は異なり、それぞれ1より大きいpKaを有する有機酸素酸AHのアニオンであり、pは0〜5の整数であり、nは0〜2の数字であり、mは1〜12の整数である)を有する酸化セリウム(IV)化合物を開示している。この有機酸素酸は好ましくはカルボン酸であり、より好ましくはC2〜C20モノカルボン酸又はC4〜C12ジカルボン酸である。セリウム含有化合物は、炭化水素燃料の燃焼のための触媒として利用可能である。
【0018】
(0019) Valentineら(米国特許第7063729号明細書)は、二元金属燃料可溶性プラチナ族金属及びセリウム触媒を含む低排出ディーゼル燃料を開示しており、セリウムは、燃料可溶性ヒドロキシルオレエートプロピオネート錯体として提供される。
【0019】
(0020) Chopinら(米国特許第6210451号明細書)は、微結晶凝集体の形態の二酸化セリウム粒子(好ましいサイズは3〜4nm)、全炭素数が少なくとも10である少なくとも1種の酸を含有する両親媒性の酸系及び有機希釈媒質から構成される安定した有機ゾルを含む石油系燃料を開示している。制御された粒子サイズは、200nmを超えない。
【0020】
(0021) Birchemら(米国特許第6136048号明細書)は、20nm以下のd90を有する酸素添加化合物の粒子、両親媒性酸系及び希釈剤をから構成されるゾルを含むディーゼルエンジン燃料用アジュバントを開示している。酸素添加金属化合物粒子は、希土類塩(セリウム塩等)の溶液中での塩基性媒質との反応及びそれに続く生成された沈殿物の噴霧又は凍結乾燥による回収によって調製される。
【0021】
(0022) Lemaireら(米国特許第6093223号明細書)は、少なくとも1種のセリウム化合物の存在下で炭化水素燃料を燃焼させることによる、酸化第二セリウム微結晶の集合体を製造するためのプロセスを開示している。煤煙は、少なくとも0.1質量%の酸化第二セリウム微結晶集合体を含有し、最大粒子サイズは50〜10000オングストロームであり、微結晶サイズは50〜250オングストロームであり、煤煙は400℃未満の発火温度を有する。
【0022】
(0023) Hazarikaら(米国特許第7195653号B2明細書)は、燃料効率を向上させる及び/又は燃料燃焼装置の燃料排出物を削減する方法を開示している。この方法は、少なくとも1種の微粒子状ランタニド酸化物、特には二酸化セリウムを1〜10ppmでタブレット、カプセル、粉末又は液状燃料添加剤として燃料中に分散させることを含み、微粒子状酸化ランタンは、7以下のHLBを有するアルキルカルボン酸無水物及びエステルから成る群から選択される界面活性剤で被覆される。好ましいコーティング剤は、ドデシルコハク酸無水物である。
【0023】
(0024) Collierら(米国特許出願公開第2003/0182848号明細書)は、ディーゼル燃料微粒子トラップの性能を向上させ、また金属塩添加剤の形態の1〜25ppmの金属と100〜500ppmの油溶性の窒素含有無灰清浄添加剤との組み合わせを含有するディーゼル燃料組成物を開示している。金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、IVB、VIIB、VIIIB、IB、IIB族の金属、原子番号57〜71を有する希土類金属(特にはセリウム)のいずれか又は前出の金属のいずれかの混合物であり得る。
【0024】
(0025) Collierら(米国特許出願公開第2003/0221362号明細書)は、微粒子トラップを備えたディーゼルエンジンのための燃料添加剤組成物を開示している。この組成物は、炭化水素溶媒と、125個以下の炭素原子を有するカルボン酸由来の油溶性金属カルボキシレート又は金属錯体とを含む。金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、IVB、VIIB、VIIIB、IB、IIB族の金属、セリウムを含む希土類金属又は前出の金属のいずれかの混合物であり得る。
【0025】
(0026) Caprottiら(米国特許出願公開第2004/0035045号明細書)は、微粒子トラップを備えたディーゼルエンジンのための燃料添加剤組成物を開示している。この組成物は、酸性有機化合物の油溶性又は油分散性の金属塩及び化学量論的に過剰の金属を含む。燃料に添加すると、この組成物は、Ca、Fe、Mg、Sr、Ti、Zr、Mn、Zn及びCeから成る群から選択される1〜25ppmの金属を提供する。
【0026】
(0027) Caprottiら(米国特許出願公開第2005/0060929号明細書)は、相分離しないように安定化させたディーゼル燃料組成物を開示しており、この組成物は、コロイド状に分散させた又は可溶化した金属触媒化合物及び5〜1000ppmの安定剤を含有し、この安定剤は、少なくとも2つの極性基(少なくともそのうちの1つはカルボン酸又はカルボキシレート基である)に結合した親油性ヒドロカルビル鎖を有する有機化合物である。金属触媒化合物は、Ce、Fe、Ca、Mg、Sr、Na、Mn、Pt又はこれらの混合物の1種以上の有機若しくは無機化合物又は錯体を含む。
【0027】
(0028) Caprottiら(米国特許出願公開第2006/0000140号明細書)は、少なくとも1種のコロイド金属化合物又は種及び安定剤成分を含む燃料添加剤組成物を開示している。この安定剤成分は、アルデヒド又はケトンと、ヒドロキシル置換基及びヒドロカルビル基、−COOR又は−COR(Rは水素又はヒドロカルビルである)の中から選択される更に別の置換基を有する1つ以上の芳香族部分を含む化合物との縮合生成物である。コロイド金属化合物は好ましくは、少なくとも1種の金属酸化物を含み、好ましい酸化物は酸化鉄、二酸化セリウム又はセリウムドープ酸化鉄である。
【0028】
(0029) Scattergood(国際公開第WO2004/065529号パンフレット)は、内燃機関用燃料の燃料効率を向上させるための方法を開示しており、この方法は、二酸化セリウム及び/又はドープ二酸化セリウム、また任意の1種以上の燃料添加剤を燃料に添加することを含む。
【0029】
(0030) Andersonら(国際公開第WO2005/012465号パンフレット)は、潤滑油及びガソリンを含む内燃機関用燃料の燃料効率を向上させるための方法を開示しており、この方法は、二酸化セリウム及び/又はドープ二酸化セリウムを潤滑油又はガソリンに添加することを含む。
【0030】
(0031) セリウム含有ナノ粒子は、当該分野で公知の様々な技法により調製可能である。合成ナノ粒子が親水性媒質中で形成されるか疎水性媒質中で形成されるかに関わらず、粒子は通常、望ましくない凝集を防止するために安定剤を必要とする。以下の刊行物(その開示は参照により全て本願に組み込まれる)には、これらの合成技法の一部が記載されている。
【0031】
(0032) Chane−Chingら(米国特許第6271269号明細書)は、貯蔵安定性の有機ゾルを調製するためのプロセスを開示しており、このプロセスは、塩基性反応物を酸性金属カチオン塩の水溶液と反応させることによって過剰なヒドロキシルイオンを含有する水性コロイド分散系を生成し、この水性コロイド分散系を有機液体媒質及び有機酸を含む有機相と接触させ、得られた水相/有機相混合物を水相と生成物有機相とに分離することを含む。好ましい金属カチオンは、セリウムカチオン及び鉄カチオンである。コロイド微粒子は、5〜20ナノメートルの流体力学的直径を有する。
【0032】
(0033) Chane−Ching(米国特許第6649156号明細書)は、熱加水分解プロセスによって形成される二酸化セリウム粒子、有機液相及び少なくとも1種の両親媒性化合物(カルボン酸のポリオキシエチレン化アルキルエーテル、ポリオキシエチレン化アルキルエーテルホスフェート、ジアルキルスルホスクシネート及び第4級アンモニウム化合物から選択される)を含有する有機ゾルを開示している。このゾルの含水量は、1%を超え得ない。平均微結晶サイズは約5nmであり、これらの微結晶の粒子凝集体のサイズは200〜10nmである。
【0033】
(0034) Chane−Ching(米国特許第7008965号明細書)は、セリウム化合物及び少なくとも1種のその他の金属の水性コロイド分散系を開示しており、この分散系は、最高で5mS/cmの導電率及び5〜8のpHを有する。
【0034】
(0035) Chane−Ching(米国特許出願公開第2004/0029978号明細書。2005年12月7日に放棄)は、両親媒性を有し且つ金属酸化物、水酸化物及び/又はオキシ水酸化物をベースとした少なくとも1種のナノ粒子から生成される界面活性剤を開示しており、ナノ粒子の表面には疎水性を有する有機鎖が結合している。金属は好ましくは、セリウム、アルミニウム、チタン又はケイ素から選択され、アルキル鎖は、6〜30個の炭素原子又はアルキル鎖が8〜30個の炭素原子を含み、またポリオキシエチレン部分が1〜10個のオキシエチレン基を含むポリオキシエチレンモノアルキルエーテルを含む。粒子は、2〜40nmの平均直径を有する同位体の又は球状の粒子である。
【0035】
(0036) Blanchardら(米国特許出願公開第2006/0005465号明細書)は、少なくとも1種の希土類をベースとした少なくとも1種の化合物の粒子、少なくとも1種の酸及び少なくとも1種の希釈剤を含む有機コロイド分散系を開示しており、粒子の少なくとも90%が単結晶性である。実施例1には、酢酸セリウム並びにイソパール(Isopar)炭化水素混合物及びイソステアリン酸を含む有機相からの二酸化セリウムコロイド溶液の調製が記載されている。得られた二酸化セリウム粒子は、2.5nmのd50を有し、粒子の80%のサイズは1〜4nmであった。
【0036】
(0037) Zhouら(米国特許第7025943号明細書)は、二酸化セリウム結晶を製造するための方法を開示している。この方法は、水溶性セリウム塩の第1溶液をアルカリ金属又は水酸化アンモニウムの第2溶液と混合し、得られた反応物溶液を乱流条件下で撹拌し、同時にガス状酸素をこの溶液に通過させ、支配的な粒子サイズが3〜100nmの二酸化セリウム粒子を沈殿させることを含む。実施例1において、粒子サイズは約3〜5nmであると記載されている。安定剤には言及されておらず、ゾルは最終的には凝集し、沈降すると予想される。
【0037】
(0038) Sandfordら(国際公開第WO2008/002223号A2パンフレット)は、続いて焼成を行うことなく二酸化セリウムを直接生成する水性沈殿技法について記載している。3価のセリウムのカチオンCe+3はニトレートイオンによって、4価のセリウムのカチオンCe+4へとゆっくりと酸化され、酢酸を安定剤として使用すると、微結晶サイズが11nm(及び大体同じ結晶粒度)の安定した、凝集していないゾルが得られる。興味深いことに、EDTA及びクエン酸によって、数百ナノメートルオーダーの微結晶サイズの結晶粒が形成される。
【0038】
(0039) James L.Woodhead(米国特許第4231893号明細書)は、Ce(OH)4(Ce+3を塩基中で過酸化物で処理することによって得られた)の酸処理によるセリアの水性分散系の調製を教示している。整粒データは提供されておらず、安定化に必要なpH1.5で考えられ得る安定剤はNO3-アニオンである。
【0039】
(0040) Nohら(米国特許出願公開第2004/0241070号明細書)は、単一結晶性二酸化セリウムナノ粉末を調製するための方法を開示している。この方法は、有機溶媒と水との溶媒混合物(好ましくは質量で約0.1:1〜約5:1の比)の存在下でセリウム塩を沈殿させることによって水酸化セリウムを調製し、この水酸化セリウムを熱水反応させることを含む。ナノ粉末は、約30〜300nmの粒子サイズを有する。
【0040】
(0041) Chan(米国特許出願公開第2005/0031517号明細書)は、二酸化セリウムナノ粒子を調製するための方法を開示しており、この方法は、硝酸セリウム水溶液をヘキサメチレンテトラミン水溶液と速やかに混合し、ここで温度は約320°K(46.85℃)以下の温度に維持され、一方、得られる混合物中ではナノ粒子が形成され、この形成されたナノ粒子を分離することを含む。混合装置は好ましくは機械的撹拌機及び遠心分離機を備える。説明のための実施例においては、調製された二酸化セリウム粒子が約12nmの直径を有すると報告されている。
【0041】
(0042) Yingら(米国特許第6413489号及び第6869584号明細書)は、逆ミセル法による、凝集することのない100nm未満の粒子サイズ及び少なくとも20m2/gの表面積を有するナノ粒子の合成を開示している。この方法は、逆エマルションの存在下、バリウムアルコキシド及びアルミニウムアルコキシドを含むセラミック前駆体を導入することを含む。
【0042】
(0043) 関連する刊行物(Yingらの米国特許出願公開第2005/0152832号明細書)には、1〜40%の含水量を有するエマルション内での逆ミセル法による、凝集することのない100nm未満の粒子サイズを有するナノ粒子の合成が開示されている。ナノ粒子は好ましくは、炭化水素の酸化に使用可能な金属酸化物粒子である。
【0043】
(0044) Hanawaら(米国特許第5938837号明細書)は、主に研磨剤としての使用を意図した二酸化セリウム粒子を調製するための方法を開示している。この方法は、混合物のpH値が5〜10、好ましくは7〜9の範囲にあるような混合比で、硝酸第一セリウム水溶液を塩基(好ましくはアンモニア水溶液)と撹拌しながら混合し、次に得られた混合物を70〜100℃の温度にまで速やかに加熱し、硝酸第一セリウムと塩基との混合物をその温度で熟成させることによって結晶粒を形成することを含む。生成物である結晶粒はサイズ及び形状が一様であり、また10〜80nm、好ましくは20〜60nmの平均粒子サイズを有する。
【0044】
(0045〜0047) 欧州特許出願第EP0208580号(1987年1月14日に公開。発明者Chane−Ching、出願人Rhone Poulenc)明細書には、一般式:
Ce(M)x(OH)y(NO32
(式中、Mはアルカリ金属又は第4級アンモニウムラジカルを表し、xは0.01〜0.2であり、yはy=4−z+xとなるようなものであり、zは0.4〜0.7である)に対応するセリウム(IV)化合物が開示されている。セリウム(IV)化合物のコロイド分散系を調製するためのプロセスでは、約1〜約60nm、適切には約1〜約10nm、望ましくは約3〜8nmの流体力学的直径を有する粒子が製造される。
【0045】
(0048) S.Sathyamurthyら(Nano Technology 16(2005),pp1960−1964)は、硝酸セリウムからのCeO2の逆ミセル合成について記載しており、水酸化ナトリウムを沈殿剤として使用し、また界面活性剤セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)及び補助界面活性剤(cosurfactant)1−ブタノールを含有するn−オクタンを油相として使用する。得られた多面体粒子は、3.7nmの平均サイズを有していたが、その保護的な逆ミセル構造体から分離すると凝集を示した。加えて、反応は低収率で進行すると予測される(反応物A、Bに関し、生成物が得られるABの衝突の数は、生成物が生成されないAA、BBの衝突と同程度である)。
【0046】
(0049) Sealら(Journal of Nano Particle Research(2002),pp433−448)は、高温酸化耐性コーティング用のナノ結晶性セリア粒子の、硝酸セリウム及び水酸化アンモニウムからの調製について記載しており、この調製ではAOTを界面活性剤として、またトルエンを油相として含有する水性マイクロエマルション系を使用する。反応混合物の上部油相において形成されるセリアナノ粒子は、5nmの粒子サイズを有していた。
【0047】
(0050) Sealら(米国特許第7419516号明細書。その開示は参照により本願に組み込まれる)は、希土類金属酸化物、好ましくはセリアのナノ粒子の、煤煙を削減するための燃料添加剤としての使用について記載している。油相としてのトルエン及び界面活性剤としてのAOTを使用した逆ミセルプロセスによって調製される粒子は、約2〜7nmの直径を有し、平均直径は約5nmである。
【0048】
(0051) Pangら(J.Mater.Chem.,12(2002),pp3699−3704)は、油中水型マイクロエマルション法によってAl23ナノ粒子を調製した。シクロヘキサン及び非イオン性界面活性剤Triton X−114を含有する油相並びにl.0MのAlClO3を含有する水相を使用した。得られたAl23粒子(5〜15nmの粒子サイズを有していた)は、直接沈殿プロセスで形成されるサブミクロンサイズの中空ボール状粒子とは明らかに異なるように見えた。
【0049】
(0052) Cuifら(米国特許第6133194号明細書。その開示は参照により本願に組み込まれる)は、セリウム、ジルコニウム又はこれらの混合物、塩基、任意の酸化剤及び添加剤(アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリエチレングリコール、カルボン酸及びカルボキシレート塩から成る群から選択される)を含有する金属塩溶液を反応させることによって生成物を得ることを含むプロセスについて記載している。生成物は続いて、500℃より高い温度で焼成される(これによって主張の界面活性剤が効果的に炭化される)。
【0050】
(0053) 多くの著者が5nmよりはるかに小さいセリアナノ粒子について申し立てているものの、その結晶粒が本当に立方晶CeO2であって六方晶又は立方晶Ce23ではないと明確に実証するためのX線又は電子回折データは提示されていないことを理解すべきである。立方晶CeO2が極めて小さい結晶粒度で熱力学的に安定するとは考えられず、また結晶粒は実際には還元された、より安定した六方晶Ce23の形態ではないかという本質的な疑問が残る(S.Tsunekawa、R.Sivamohan、S.Ito、A.Kasuya及びT.Fukuda,Nanostructured Materials,vol.11,No.1,pp141−147(1999))。
【0051】
(0054) 「Structural Study on Monosize CeO2-x Nanoparticles」は特に、1.5.nm以下のCeO2の存在に疑問をなげかけている。
【0052】
(0055〜0056) 極めて小さい結晶粒直径でのCe3+(ひいてはCe23)の存在に関する更なる証拠は、DesphandeらのApplied Physics Letters 87,133113(2005)に掲載された「Size Dependency Variation in Lattice Parameter and Valency States in Nano Crystalline Cerium Oxide」の論文にあり、Desphandeらは、格子定数における変化:Δa=a−a0(a0=5.43Å(CeO2中))と結晶の直径Dとの間の対数線形関係を発見した。以下の通りである。
〔式2〕(0057)
log Δa=−0.4763 logD−1.5029
【0053】
(0058) したがって、結晶粒直径が10nmの場合は、格子歪み又は格子定数における0.0101Å又は1.91%の変化が起き、結晶粒直径が1nmの場合は、0.031Å又は5.73%の変化が起きる。
【0054】
(0059) 式1で表される、CeO2が触媒的な酸素吸蔵材料として作用可能な程度は、CeO2の粒子サイズによって一部左右される。粒子サイズが20nm以下の場合、格子パラメータは劇的に上昇し、微結晶サイズは低下する(6nmで最高0.45%。例えば、ZhangらのApplied Physics Letters,80 1,127(2002)を参照のこと)。関連するサイズに起因する結晶歪みには表面の酸素空孔の増加が伴い、結果的に触媒活性が強化される。この逆サイズ依存性の活性によって、より効率的な燃料タンクだけではなく、石油燃料の燃焼に使用した場合により良好な酸化特性が得られる。
【0055】
(0060) 上述したように、セリウムナノ粒子の調製に関しては様々な方法及び装置が報告されており、Chane−Chingらの米国特許第5017352号明細書、Hanawaらの米国特許第5938837号明細書、Melardらの米国特許第4786325号明細書、Chopinらの米国特許第5712218号明細書、Chanの米国特許出願公開第2005/0031517号明細書及びZhouらの米国特許第7025943号明細書に記載されるものが含まれ、これらの文献の開示は、参照により本願に組み込まれる。しかしながら、現行の方法では、立方晶CeO2ナノ粒子の経済的で容易(すなわち、焼成しない)且つわかりやすい調製を、高収率、短時間、極めて高い懸濁密度(0.5モルより高い。すなわち、十分に小さいサイズで9質量%(平均幾何学的直径で5nm未満)、一様な粒径分布(25%未満の変動係数[COV]。COVは、標準偏差を平均直径で割ったものである)及び多くの望ましい応用例に関して安定的に行うことができない。加えて、結晶性(すなわち、上記の従来技術及び技術文献で教示されているような様々なサイズの微結晶の凝集体ではなく単一の結晶)の粒子を製造することが極めて望ましい。
【0056】
(0061) 実質的に純粋な二酸化セリウムのナノ粒子を燃料添加剤に含めることは有益であるが、より多くの酸素空孔の形成をもたらす成分をドープした二酸化セリウムの使用は更に有益となり得る(式1)。このためには、ドーパントイオンが2価又は3価であるべきであり、すなわち希土類金属、遷移金属又は周期表のIIA、IIIB、VB又はVIB族の金属である元素の2価又は3価のイオンである。これらの低い原子価のカチオンを使用した結晶の電荷的中性に関する要件によって式1の反応は右に向かう。すなわち、より多くの酸素空孔が形成される。イオン半径がCe+4(八面体構成で0.97Å)より小さい金属ドーパントイオンも酸素空孔形成に役立つ。これはこのプロセスによって2つの隣接するCe+4イオン(1つは表面、もう1つは表面下)がCe+3に還元され、Ce+3の結果的に大きくなるイオン半径(1.143Å)によって格子が膨張して格子歪みが引き起こされるからである。このため、Zr+4(イオン半径0.84Å)又はCu+2(6配位の8面体構成のイオン半径は0.73Åであり、4配位の4面体の場合は0.57Åである)で置換するとこの格子歪みが若干緩和される。加えて、Zrによって、(一方が表面、もう一方が表面下ではなく)2つの隣接した表面Ce+3種が形成され、これはイオンの約50%が表面イオンである極めて小さい粒子にとって重要となり得る。このため、ドーパントが通常の格子位置間の空間を占める格子間イオンドーピングより置換型イオンドーピングのほうが好ましいことがわかる。
【0057】
(0062) この考察を行うにあたって、ドーピングと格子操作(lattice−engineered)結晶とを区別する必要がある。半導体物理学において、ドーピングと言う用語は、100万分の1の割合で存在するn又はpタイプの不純物のことである。発明者は、ドープ結晶(doped crystal)という用語を、濃度2モルパーセント(20000ppm)未満で存在する1種以上の金属ドーパントイオンを有する結晶に言及する場合に使用する。一方、格子操作結晶は、20000ppmより高く最高800000ppm(又はセリウム副格子の80%)の濃度でCeO2結晶内に存在する1種以上の金属ドーパントイオンを有し得る。このため、格子操作二酸化セリウム結晶が、セリウムを少量の金属成分として有する場合もある。
【0058】
(0063) イオン輸送、反応効率及びその他の性質を改善するための金属イオンでの二酸化セリウムのドーピングは、例えばH.L.Tuller及びA.S.Nowickの「Doped Ceria as a Solid Oxide Electrolyte」(J.Electrochem Soc.,1975,122(2),255)、M.R.DeGuireらの「Point Defect Analysis and Microstructural Effects in Pure and Donor Doped Ceria」(Solid State Ionics,1992,52,155)及びParthasarathi Bera、S.T.Aruna、K.C.Patil及びM.S.Hegdeの「Studies on Cu/CeO2:A New NO Reduction Catalyst」(Journal of Catalysis,186,36−44(1999)に記載されている。得られる電子拡散性及び酸素拡散性へのドーパント効果は、Trovarelliの「Catalysis by Ceria and Related Materials」(Catalytic Science Series,World Scientific Publishing Co.,37−46(2002))及びこの中で引用されている参考文献に記載されている。
【0059】
(0064) Trovarelliらは、Catalysis Today,43(1998),79−88において、界面活性剤を利用したアプローチによる、組成均質性が極めて良好なセリア/ジルコニア混合酸化物の調製について論じている。723°K(449.85℃)での組成物の焼成後、高比表面積230m2/gが得られる。しかしながら、比表面積が40m2/g(直径は〜20mm)に低下すると、1173°K(899.85℃)で焼結が起こる。
【0060】
(0065) パルス中性子回折技法は、E.Mamontovらによって(J.Phys.Chem.B 2000,104,1110−1116)、セリア及びセリア/ジルコニア固溶体を研究するために使用された。これらの研究によって初めて、空孔/格子間酸素欠陥の濃度と酸素吸蔵能力との間の相関関係が実証された。E.Mamontovらは、Zrで支援した酸素欠陥の維持が、熱劣化に応じたOSCの低下を改善するために必要であると主張している。ZrO2は30.5モル%で存在し、焼成された粒子は、約40nmの直径を有していた(BET表面積測定に基づく)。
【0061】
(0066) Z.Yangらは、Journal of Chemical Physics(2006),124(22),224704/(1−7)において、第1原則から、密度汎関数理論を利用して、酸素空孔はZr中心付近で最も容易に形成されることから、これらの中心が空孔クラスタリングのための核形成部位としての役割を果たすと予測した。放出された酸素は2つの電子を、空孔に近接するCe+4中心に供与し、2つのCe+3中心が得られる。
【0062】
(0067) R.Wangらは、J.Chem.Phys.B,2006,110,18278−18285において、噴霧凍結技法とそれに続く焼成によって形成されたCe0.5Zr0.52におけるZrの空間分布を調査した。R.Wangらは、粒子サイズ範囲が5.4〜25nmの粒子におけるCeが豊富なコアとZrが豊富なシェルを特徴とする粒子のナノスケール不均質性が、酸化還元活性がより高い材料に関連していることを発見した。この発見は、Zr及びCeの均質な分布が活性の低下をもたらし好ましくないことを示唆している。
【0063】
(0068) S.Bedraneらは、Catalysis Today,75,1−4,401−405(2002年7月)において、11種類の貴金属(貴金属=Rh、Pt、Rd、Ru、Ir)をドープしたセリア(CeO2)及びセリア/ジルコニア(Ce0.63Zr0.372)組成物の酸素吸蔵能力を測定した(式1)。S.Bedraneらは、Ce/Zr材料が、貴金属濃度からほぼ独立し且つ貴金属をドープしたCeだけの材料より2〜4倍高いOSCを有するレベリング効果を観察している。
【0064】
(0069) H.Sparksら(Nanophase Technologies,Corp.)は、気相合成を利用して、希土類酸化物のナノ材料と混合したセリアを製造した(Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,Vol.788,2004)。H.Sparksらは、Zrをドープしたセリア(1:1)に関して、ナノ結晶性粒子サイズの熱安定性の向上及びOSCにおける上昇を観察している。しかしながら、La又はPrをZr組成物に更に添加すると、セリアだけの場合よりは良いものの、ジルコニウムだけをセリアと組み合わせた場合より悪かった。報告された比表面積より、600℃で粒子サイズは10nmであると推測可能であり、この粒子サイズは1050℃で40nmにまで上昇する。
【0065】
(0070) ディーゼル煤煙の燃焼における、Zr及びFeをドープしたCeO2の触媒作用は、Aneggiらによって(Catalysis Today,114(2006),40−47)調査された。Aneggiらは、Zrによって純粋なセリアの熱安定性及びOSCが向上するとの事実を再度表明し、またFe23によってより良好な新たな結果が得られることを発見したが、Fe23では焼成後に活性に最終的に損失があった。Zr及びFeを伴ったZrにおける極めて体系的なレベル系が調査された。約21nmのこれらの焼成粒子に関する結晶学的データを含む。Aneggiらは、ナノ粒子比表面積閾値35m2/gm(24nm未満の直径に対応する)を求めた。新しい触媒の活性、時間が経過した触媒の活性に変化はなかった。
【0066】
(0071) 銅系の触媒系も大いに注目されている。3〜5原子パーセントのCu/CeO2の極めて徹底した構造解析において、M.S.Hegdeらは(Chem.Mater.2002,14,3591−3601)、Cuが、Ce1-xCux2の独特の固溶体を形成し、別個のCuO相が形成されないことを実証した。燃焼合成によって形成されたこれらの50nmの凝集結晶粒において、Cuは+2であり、CuO中のCuより遥かに触媒的に活性が高い。更に、酸素イオン空孔が、Cu+2カチオン周囲に形成される。
【0067】
(0072) A.Martinex−Ariasらは、J.Phys.Chem.B,2005,109,19595−19603において、Ce1-xCux2ホタル石タイプのナノ粒子(x=0.05、0.1、0.2)の還元が可逆的であり、またCuの酸化状態が、その通常時(+1又は+2)より高いことを発見した。ドーパントは、酸化物副格子中のこれらの〜6nm粒子において大きな格子歪みを誘発し、これが酸素空孔の形成を促進した。逆マイクロエマルション法及びそれに続く500℃での焼成を利用してこれらの材料が調製された。
【0068】
(0073) 鉄は、CeO2ナノ粒子により高い触媒活性を付与した別の金属イオンである。I.Melian−Cabreraらは、Journal of Catalysis,239,2006,340−346において、より高い活性(ドープしていない材料と比較)及びセリウムと酸化鉄との50/50組成物でのN2Oの最適な触媒分解(酸素限定反応)について報告している。Feをドープしたセリアは、直径が30nm範囲の粒子を形成する共沈法によって形成される。
【0069】
(0074) T.Campenon及びその同僚は、SAE special publication SP 2004,SP−1860の「Diesel Exhaust Emission Control」において、鉄をドープしたセリアを使用することによって、ディーゼル微粒子フィルタにおける灰の蓄積を制御している。
【0070】
(0075) R.Hu及びその同僚は、Shiyou Huagong(2006),35(4),319−323において、固相ミル粉砕(milling)技法とそれに続く様々な高温での焼成によって形成されるFeをドープした二酸化セリウムを調査した。鉄をドープすることによって、メタン燃焼に関する触媒活性は改善され、同時に粒子サイズは低下した。
【0071】
(0076) 米国特許出願公開第2005/0152832号明細書の説明のための実施例9及び10にはそれぞれ、セリウムをドープしたバリウムヘキサアルミネート粒子及びセリウムで被覆したバリウムヘキサアルミネート粒子の調製が記載されている。実施例13には、セリウムで被覆された粒子を使用したメタンの酸化が記載されている。
【0072】
(0077) Talbotら(米国特許第6752979号明細書。その開示は参照により本願に組み込まれる)は、ナノサイズの結晶粒を有する金属酸化物粒子を製造する方法について記載しており、この方法は、1種以上の金属カチオンを含有する溶液を界面活性剤と、溶液内で界面活性剤のミセルが形成されるような条件下で混合することによってミセル液体を生成し、このミセル液体を加熱することによって界面活性剤を除去し、また不規則な細孔構造を有する金属酸化物粒子を形成することから成る。金属カチオンは、周期表の1A、2A、3A、4A、5A及び6A族、遷移金属、ランタニド、アクチニド並びにこれらの混合物のカチオンから成る群から選択される。二酸化セリウムの粒子、セリウム及び1種以上のその他の金属を含有する混合酸化物の粒子の調製も、この説明のための実施例に含まれている。
【0073】
(0078) 米国特許第6413489号及び第6869584号明細書(その開示は参照により本願に組み込まれる)の説明のための実施例9には、エマルション混合物中に硝酸セリウムを含めることによってセリウムをドープしたバリウムヘキサアルミネート粒子を調製することが記載されている。この粒子は凍結乾燥によって回収され、空気下で500〜800℃にまで焼成された。得られた粒子は、500℃で5nm未満、800℃で7nm未満の結晶粒サイズを有していた。説明のための実施例10には、セリウムで被覆されたバリウムヘキサアルミネート粒子の合成が記載されている。焼成後、セリウムで被覆された粒子は、500℃、800℃及び1100℃で、それぞれ4nm未満、6.5nm未満及び16nm未満の結晶粒サイズを有していた。
【0074】
(0079) Wakefield(米国特許第7169196号B2明細書。その開示は参照により本願に組み込まれる)は、希土類金属、遷移金属又は周期表のIIa、IIIB、VB若しくはVIB族の金属である、2価若しくは3価の金属又はメタロイドをドープした二酸化セリウム粒子を含む燃料について記載している。銅が、好ましいドーパントとして開示されている。
【0075】
(0080) Oji Kunoは、米国特許第7384888号B2明細書において(その開示は参照により本願に組み込まれる)、セリアのコア及びジルコニアのシェルから成る、改善された高温安定性及び安定したOSCを有するセリウム/ジルコニウム複合金属酸化物について記載している。しかしながら、炭化水素及び一酸化炭素の酸化に関して10〜20%の改善された触媒活性を示すこの材料の調製には700℃での焼成を必要とする。5〜20nmの粒子の申し立てを裏付ける整粒データはなく、OSCの直接の測定結果も示されてはおらず、コア/シェル形状であるとの主張を裏付ける分析データはない。
【0076】
(0081) 直径10nm以下のナノ粒子に関し、このような小さい粒子に金属イオンドーパントを取り込めるのかという疑問を呈する複数の懸念事項がある。例えば、8.1nmの粒子は、表面に10%未満のCeイオンを有し、2.7nmの粒子(各辺に0.54nm/単位胞x5単位胞)は表面に500個のCeイオンの46.6%を有する。表面イオンは、格子に1/2(面の場合)又は1/8(角)で取り込まれる。したがって、その結合エネルギーは実質的に低下し、その配位要件は満たされない。(半導体)ナノ結晶のドーピングに関連した困難な点は、NorrisらによってScience,319,March28,2008において論じられている。結晶対溶液におけるドーパントの比溶解度、ドーパントの格子内への拡散性、その形成エネルギー、置き換えられるイオンに対するサイズ及び価数、吸着した表面安定剤によって課せられ得る動力学的障壁等の特徴は全て、ドーパント金属イオンがこれらの寸法のナノ結晶に(取り込まれる場合に)取り込まれ得る程度を決定する役割を果たす。
【0077】
(0082) 上述したばかりの参考文献から、ドーピング作業の大部分が比較的大きい粒子サイズ(20nm程度)で行われており、また最初のセリウム/金属ドーパント混合物の焼成又はミセル合成(大規模な材料製造にすぐには役立たないプロセス)のいずれかによって行われたことは明らかである。10nm未満のサイズの粒子について記載している文献において、結晶学的形態は明らかにされておらず、またドーパントが取り込まれたとの決定的な証拠も示されてはいない。
【0078】
(0083) このため、極めて小さなナノ粒子(直径約10nm未満)に関して、焼成を必要としない(500℃以上)容易なやり方で、幅広い金属ドーパントイオンを立方晶CeO2のセリウム副格子に速やかに取り込み、また別々に核形成されたドーパント金属酸化物結晶粒の製造に対立するものとしての取り込みを明確に実証する必要がある。セリアの単一結晶粒子は独特であることから、セリアの金属で格子操作された変形も同様に独特なものになる。加えて、これらの材料を経済的なやり方で比較的短時間で流通用に大量に製造することが望ましい。
【0079】
(0084) 二酸化セリウムの調製に使用し得る典型的な化学反応器は、ミキサーを備える反応チャンバを含む(例えば、Zhouらの米国特許第7025943号明細書の図1を参照のこと。その開示は参照により本願に組み込まれる)。ミキサーは典型的には、シャフト、このシャフトに取り付けられたプロペラ又はタービンブレード及びシャフトを回転させるモータを備え、プロペラは高速(1000〜5000rpm)で回転させられる。シャフトは、良好なメソ混合(ミクロ規模)のためにフラットブレードタービンを、マクロ混合(反応器全体に亘って流体を送り出す)のために傾斜ブレードタービンを駆動可能である。
【0080】
(0085) このような装置は、Antoniadesの米国特許第6422736号明細書(その開示は参照により本願に組み込まれる)に記載されている。記載の反応器は、以下の反応式によって示されるような高速反応に有用である。反応式において、生成物であるAgClは、数百ナノメートルから最高数千ナノメートルオーダーの直径を有する結晶性材料である。
〔式3〕(0086)
AgNO3+NaCl → AgCl+NaNO3
【0081】
(0087) このタイプの混合を利用して調製される二酸化セリウム粒子は、特定の用途には大きすぎて有用とはならないことが多い。可能な限り小さい二酸化セリウム粒子を得ることが極めて望ましい。これは、二酸化セリウム粒子の触媒性向(すなわち、燃焼系に酸素を供与する能力。式1を参照のこと)が、粒子サイズの低下に従って、特には10nm未満の平均直径を有する粒子に関して上昇するからである。
【0082】
(0088) 国際出願第PCT/US2007/077545号(METHOD OF PREPARING CERIUM DIOXIDE NANOPARTICLES)(2007年9月4日に出願)には、1.5nmに達するCeO2ナノ粒子を高い収率及び極めて高い懸濁密度で製造可能な混合装置が記載されている。反応器は、反応物を添加するための投入口、プロペラ、シャフト及び混合用のモータを備える。反応混合物は反応器槽に入れられる。反応物(硝酸セリウム、酸化剤、水酸化物イオン等)を槽に加えることによってCeO2ナノ粒子が形成され得て、このナノ粒子は最初は極めて小さい核として形成される。混合は核の円運動を引き起こし、反応混合レジームを通じて連続的に円運動を行うにつれて核は成長(直径の増大)するが、これは核が新しい反応物を取り込むからである。このため、最初に定常状態濃度の核が形成されると、この核は続いてより大きい粒子へと成長し続ける。この成長期を終了させるために結晶粒成長抑制剤を使用しない限り、高い粒子懸濁密度を依然として維持しつつ粒子の最終的なサイズを制限したい場合、この核形成及び成長プロセスは望ましくない。
【0083】
(0089) この核形成及び成長プロセスをCeO2の水溶沈殿に応用した例が、Zhangらの研究である(J.Appl.Phys.,95,4319(2004)及びApplied Physics Letters,80,127(2002))。硝酸セリウム六水和物をセリウム供給源として(0.0375Mで極めて希薄)、また0.5Mヘキサメチレンテトラミンをアンモニア前駆体として使用して、2.5〜4.25nmの二酸化セリウム粒子が50分未満で形成される。これらの粒子は続いて約250〜600分の反応時間で(成長条件に左右される)、7.5nm以上に成長する。粒子サイズ、濃度及び反応時間に制限があると、大量の商業量のCeO2ナノ粒子を製造するための経済的に実行可能な手段としてこのプロセスは考慮から除外される。
【0084】
(0090) I.H.Leubner(Current Opinion in Colloid and Interface Science,5,151−159(2000)、Journal of Dispersion Science and Technology,22,125−138(2001)、ibid.23,577−590(2002)及びそこで引用された参考文献)は、形成される安定した結晶の数を、反応物のモル添加速度、結晶の溶解度及び温度と関係づける理論的取り扱いを提供する。モデルは、拡散、動力学的に制御された成長プロセス、オストワルド熟成剤及び成長抑制剤/安定剤が結晶数に与える影響についても説明している。速いモル添加速度、低温、低溶解度及び成長抑制剤の存在は全て、多数の核ひいてはより小さい最終的な結晶粒又は粒子サイズを得るのに有利に働く。
【0085】
(0091) バッチ式反応器とは対照的に、コロイドミルは典型的には10000rpmで回転するフラットブレードタービンを有し、これによって材料は、スクリーン(その孔はサイズが1ミリメートルの数分の1から数ミリメートルまで変化し得る)から押し出される。一般に、化学反応は起こらず、ミル粉砕によって粒子サイズだけが変化する。特定のケースにおいて、粒子サイズ及び安定性は、界面活性剤の存在によって熱力学的に制御可能である。例えば、Langerらは、米国特許第6368366号明細書及び米国特許第6363237号明細書(その開示は参照により本願に組み込まれる)において、高せん断力条件下で生成される炭化水素燃料組成物における水性マイクロエマルションについて記載している。しかしながら、水性粒子相(燃料組成物中の不連続相)は、1000nmオーダーの大きいサイズを有する。
【0086】
(0092) コロイドミルは、大きい二酸化セリウム粒子の粒子サイズを低下させるためには有用ではない。粒子が硬すぎて合理的な時間内ではミルでせん断できないからである。大きく凝集した二酸化セリウム粒子をミクロンサイズからナノメートルサイズへと低下させるための好ましい方法は、安定剤の存在下、ボールミル上で数日間に亘ってミル粉砕することである。これは時間と費用のかかるプロセスであり、常に幅広い粒子サイズ分布を生じる。このため、一様なサイズ分布を有し且つ1種以上の遷移金属イオンを取り込んだ二酸化セリウムの極めて小さいナノメートル粒子を、依然としてCeO2立方晶ホタル石型構造を維持しながら大量に高懸濁密度で合成するための経済的且つ容易な方法に対する必要性が依然として存在する。
【0087】
(0093) 水性沈殿は、セリウムナノ粒子を得るための簡便な方法になり得る。しかしながら、燃料用の燃料添加触媒として有用であるためには、二酸化セリウムナノ粒子は、無極性媒質(例えば、ディーゼル燃料)中で安定性を示さなくてはならない。水性環境における凝集防止に使用される安定剤の大部分は、無極性環境における安定化の課題に適していない。無極性溶媒に入れると、このような粒子はすぐに凝集して結果的にその望ましいナノ微粒子特性の全てではないにしても一部を失う傾向がある。このため、水性環境で安定した二酸化セリウム粒子を形成し、同じ安定剤を粒子表面上に保持し、次にこれらの粒子を無極性溶媒に移動可能であることが望ましく、無極性溶媒において粒子は安定したままであり、均質な混合物又は分散系を形成する。この簡易化された経済的なやり方においては、表面安定剤の親和性を極性から無極性に変化させる必要がなくなる。安定剤を変えることは、困難な置換反応又は別個の単調な単離・再分散法(例えば、沈殿させ、続いてボールミル粉砕を利用して新しい安定剤で再分散させる)を伴う場合がある。
【0088】
(0094) このため、安定した遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子を極性の水性環境において合成し、次にこれらの粒子を、安定した均質な混合物が生成される無極性環境に移動するための効率的で経済的な方法が依然として必要とされている。
【0089】
(0095) 高温酸化耐性コーティングを得るためのセリウムナノ粒子の使用が、例えば、S.Sealらの「Synthesis Of Nano Crystalline Ceria Particles For High Temperature Oxidization Resistant Coating」(Journal of Nanoparticle Research,4,433−438(2002))において報告されている。Ni、クロミア合金、アルミナ合金、ステンレススチールを含む様々な表面上及びNi、Ni−Cr被覆合金表面上への二酸化セリウムの堆積が研究されている。l0nm以下の二酸化セリウム粒子サイズが望ましいことが判明している。セリア粒子の取り込みは続いて金属表面の酸化を阻害する。
【0090】
(0096) Rim(米国特許第6892531号明細書。その開示は参照により本願に組み込まれる)は、ディーゼルエンジン用のエンジン潤滑油組成物について記載しており、この組成物は、潤滑油及び0.05〜10質量%の触媒添加剤(カルボン酸セリウムを含む)を含む。
【0091】
(0097) 上述したように、現在入手可能なセリウム酸化物及びドープされたセリウム酸化物系燃料添加剤は、ディーゼルエンジンの燃料燃焼を向上させてきた。しかしながら、更なる改良が依然として必要とされている。より広い比表面積を有する、より小さい5nm未満の立方晶CeO2ナノ粒子を利用することによって、燃料燃焼を更に改善するディーゼルエンジン用にこれらの燃料添加剤を調合することが望ましい。これらの結晶粒サイズで遷移金属を組み込むことによって可能になる高い酸素吸蔵能力も極めて望ましい。加えて、摩耗からのエンジンの保護、エンジン摩擦の軽減、より高い潤滑性及びより高い燃料効率は極めて有益になると考えられる。
【発明の概要】
【0092】
(0098) 本発明は、少なくとも1種の遷移金属(M)を含有する格子操作二酸化セリウムナノ粒子を形成するためのプロセスを対象とし、このプロセスは、(a)3価のセリウムイオンの供給源、1種以上の遷移金属イオン(M)の供給源、水酸化物イオンの供給源、少なくとも1種のナノ粒子安定剤及び酸化剤を含む水性反応混合物を約20〜約95℃の初期温度で得て、(b)この混合物を機械的にせん断し、また穿孔スクリーンを通過させることによって水酸化セリウムナノ粒子の懸濁液を生成し、(c)3価のセリウムイオンを4価のセリウムイオンに酸化するのに効果的な温度条件にすることによって、遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子Ce1-xx2を含む生成物流を生成することを含む。このようにして得られた二酸化セリウムナノ粒子は、立方晶ホタル石型構造、約1〜約10nmの平均流体力学的直径及び約1〜約4nmの幾何学的直径を有する。
【0093】
(0099) 本発明は更に、安定化された遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子Ce1-xx2を含有する均質な分散系を生成するためのプロセスを対象とし、このプロセスは、(a)立方晶ホタル石型構造、約1〜約10nmの平均流体力学的直径及び約1〜約4nmの幾何学的直径を有する安定化された遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子Ce1-xx2を含む水性混合物を得て、(b)この安定化された遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子を含む水性混合物を濃縮することによって水性濃縮物を生成し、(c)この水性濃縮物から実質的に全ての水を除去することによって、安定化された遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子の実質的に水を含有しない濃縮物を生成し、(d)有機希釈剤をこの実質的に水を含有しない濃縮物に添加することによって、安定化された遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子の有機濃縮物を生成し、(d)この有機濃縮物を、無極性媒質の存在下、界面活性剤と混合することによって、安定化された遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子Ce1-xx2(xは約0.3〜約0.8の値を有する)を含有する均質な分散系を生成することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0094】
(0100〜0108)
【図1A】実施例1に記載されるようにして非等温析出によって調製されたCeO2ナノ粒子のTEM画像である。
【図1B】実施例1に記載されるようにして非等温析出によって調製されたCeO2ナノ粒子のTEMによる粒径分布分析である。
【図2】実施例1に記載されるようにして調製された二酸化セリウムナノ粒子の粉末X線回折スペクトルである。
【図3A】実施例2に記載されるようにして調製された1.1nmのCeO2ナノ粒子のTEM画像である。
【図3B】これらの1.1nm粒子の電子回折パターンである。
【図3C】立方晶及び六方晶のCeO2、Ce23格子に関する計算上の及び測定された電子回折強度を示す表1である。
【図4A】TEM画像である。
【図4B】実施例3に記載されるようしてトリプルジェットプロセスによって調製された、等温析出CeO2ナノ粒子のTEMによる粒径分布分析である。
【図5A】実施例4に記載されるようにして調製された、等温析出Cu含有CeO2ナノ粒子のTEM画像である。
【図5B】実施例4に記載されるようにして調製された、等温析出Cu含有CeO2ナノ粒子のTEMによる粒径分布分析である。
【図6A】実施例5に記載されるようにして調製された、等温析出Fe含有CeO2ナノ粒子のTEM画像である。
【図6B】実施例5に記載されるようにして調製された、等温析出Fe含有CeO2ナノ粒子のTEMによる粒径分布分析である。
【図7A】実施例6に記載されるようにして調製された、等温析出Zr含有CeO2ナノ粒子のTEM画像である。
【図7B】実施例6に記載されるようにして調製された、等温析出Zr含有CeO2ナノ粒子のTEMによる粒径分布分析である。
【図8A】実施例7に記載されるようにして調製された、等温析出Zr/Fe含有CeO2ナノ粒子のTEM画像である。
【図8B】実施例7に記載されるようにして調製された、等温析出Zr/Fe含有CeO2ナノ粒子のTEMによる粒径分布分析である。
【図8C】実施例7に記載されるようにして調製された、等温析出CeO2ナノ粒子及び等温析出Zr/Fe含有CeO2ナノ粒子のX線回折スペクトルである。
【図9】実施例7に記載されるようにして調製された、Zr/Fe含有CeO2ナノ粒子の電界放出型電子銃TEM格子画像である。
【発明を実施するための形態】
【0095】
(0109) 本願において、用語「遷移金属」は、周期表の周期4、5、6にそれぞれ含まれる40の化学元素21〜30、39〜48及び72〜80を含むと理解される。
【0096】
(0110) 本発明は、遷移金属イオン含有二酸化セリウム(CeO2)ナノ粒子を形成するためのプロセスを提供し、このプロセスは、(a)3価のセリウムイオンの供給源、1種以上の遷移金属イオンの供給源、水酸化物イオンの供給源、少なくとも1種のナノ粒子安定剤及び酸化剤を含む水性反応混合物を得て、(b)この混合物を機械的にせん断し、また穿孔スクリーンを通過させることによって水酸化セリウムナノ粒子の懸濁液を生成し、(c)3価のセリウムイオンを4価のセリウムイオンに酸化するのに効果的な温度条件にすることによって、立方晶ホタル石型構造、約1〜約10nmの平均流体力学的直径及び約1〜約4nmの幾何学的直径を有する遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子Ce1-xx2を含む生成物流を生成することを含む。1種以上の遷移金属イオンを含有し、また単峰性のサイズ分布及び単分散粒径分布を有する結晶性二酸化セリウム粒子は、このサイズ範囲内で選択的に調製可能である。単一結晶性粒子は、1.1nmの粒子の場合1辺あたり2単位胞から最高で2.7nmの粒子で1辺あたり5単位胞を含み、調製条件に左右される。ここで、結晶性と言う用語は、様々なサイズの複数の凝集した微結晶からではなく構成単位である格子胞の数によって決定される明確に規定された寸法の単一の結晶から構成される粒子のことである。
【0097】
(0111) 本発明は更に、1種以上の遷移金属イオンを含有し、また約1〜約10nmの平均流体力学的直径を有する結晶性二酸化セリウムCeO2ナノ粒子を製造するための連続プロセスを提供し、このプロセスは、3価のセリウムイオン、1種以上の遷移金属イオン、酸化剤、少なくとも1種のナノ粒子安定剤及び水酸化物イオンを連続反応器内で混合する工程を含む。
【0098】
(0112) 本発明は、二酸化セリウムナノ粒子を形成するためのプロセスも提供し、このプロセスは、(a)3価のセリウムイオンの供給源、1種以上の遷移金属イオン及び少なくとも1種のナノ粒子安定剤を含む水性第1反応混合物を得て、(b)酸化剤を添加しながら第1反応混合物を撹拌することによって第2反応混合物を生成し、(c)機械的せん断に供しながら水酸化物イオンの供給源を第2反応混合物に添加することによって第3反応混合物を生成し、(d)約50〜約100℃で第3混合物を加熱することによって、1種以上の遷移金属イオンを含有し且つ粒径分布が実質的に単峰性でありまた一様な結晶性二酸化セリウムナノ粒子を形成する工程を含む。
【0099】
(0113) 本発明は更に、上記の結晶性二酸化セリウムナノ粒子、少なくとも1種のナノ粒子安定剤、少なくとも1種の界面活性剤、グリコールエーテル混合物及び無極性媒質を含む均質な混合物を生成するためのプロセスを提供する。このプロセスは、(a)ナノ粒子安定剤と結晶性二酸化セリウムナノ粒子との近接会合によって形成される安定化された結晶性二酸化セリウムナノ粒子を含む水性混合物を得て、(b)安定化された結晶性二酸化セリウムナノ粒子を含むこの水性混合物を濃縮することによって水性濃縮物を生成し、(c)溶媒シフトにより実質的に全ての水を水性環境からグリコールエーテル環境へと除去し、界面活性剤及び任意の補助界面活性剤と溶媒シフト済みの濃縮物とを無極性媒質の存在下で混合することによって均質な混合物を生成する工程を含む。
【0100】
(0114) 水酸化物イオンの存在下、4価のセリウムイオンが反応して水酸化セリウムが生成され、加熱するとこの水酸化セリウムは結晶性二酸化セリウムに変換される。反応槽内の温度は約50〜約100℃、より好ましくは約65〜95℃、最も好ましくは約85℃に維持される。時間と温度とのバランスをとることが可能であり、高温だと典型的には水酸化物の酸化物への変換に必要な時間が短縮される。これらの高温にある時間に亘って曝した後(約1時間以下、適切には約0.5時間)、水酸化セリウムは結晶性二酸化セリウムに変換され、反応槽の温度は約15〜25℃に低下させられる。続いて、結晶性二酸化セリウムナノ粒子を濃縮し、未反応のセリウム及び不要な副生成物(硝酸アンモニウム等)を、最も簡便には例えばダイアフィルトレーションによって除去する。
【0101】
(0115) 本発明の一態様において、1種以上の遷移金属イオンを含有する結晶性二酸化セリウムナノ粒子を形成する方法は、3価のセリウムイオン、1種以上の遷移金属イオン、水酸化物イオン、安定剤又は安定剤の組み合わせ及び酸化剤を含む水性反応混合物を得ることを含み、反応は、小さい核サイズを発生させ且つ続いて3価のセリウムイオンを4価のセリウムイオンに酸化し、またナノメートルサイズの二酸化セリウムに核を成長させるのに効果的な温度で行われる。反応混合物を(好ましくは反応混合物に穿孔スクリーンを通過させることによって)機械的せん断に供することによって、約1〜約10nmの平均流体力学的直径を有する結晶性二酸化セリウムナノ粒子の懸濁液を生成する。粒径は1.5〜25nmの範囲内で制御可能であるが、好ましくは、結晶性二酸化セリウムナノ粒子は、約10nm以下、より好ましくは約8nm以下、最も好ましくは約6nmの平均流体力学的直径を有する。望ましくは、ナノ粒子は、1粒子辺あたり1又は最高で2つの1次微結晶を含み、各微結晶は平均2.5nm(約5単位胞)である。このため、得られるナノ粒子の粒径分布は実質的に単分散であり、すなわち25%未満の変動係数(coefficient of variation:COV)を有し、ここでCOVは、標準偏差を平均で割ったものとして定義される。
【0102】
(0116) 機械的せん断は、表面(ロータの表面等)上での流体の運動を含み、結果的にせん断応力が発生する。特に、表面上の層流はゼロ速度を有し、せん断応力はゼロ速度表面と表面から離れたより高速の流れとの間に生じる。
【0103】
(0117) 一実施形態において、本発明では、通常はマイクロエマルション又はコロイドをミル粉砕するのに使用するコロイドミルを、二酸化セリウムナノ粒子を製造するための化学反応器として利用する。有用なコロイドミルの例には、Korstvedtの米国特許第6745961号明細書及び米国特許第6305626号明細書(その開示は参照により本願に組み込まれる)に記載されるものが含まれる。
【0104】
(0118) 望ましくは、反応物には、3価のセリウムイオンの供給源(例えば、硝酸第一セリウム)、酸化剤(過酸化水素、分子状酸素等)及び安定剤(例えば、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸)の水溶液が含まれる。典型的には、過酸化物等の2電子酸化剤は、好ましくはセリウムイオンの少なくとも2分の1のモル濃度で存在する。水酸化物イオン濃度は好ましくは、セリウムイオンモル濃度の少なくとも2倍、より好ましくは3倍であり、5倍にさえなり得る。
【0105】
(0119) 最初は、反応チャンバは、小さいサイズの水酸化第一セリウム核を生成するのに十分に低い温度に維持される。この核は、そのあとのより高い温度への移行後にナノメートルサイズの結晶性二酸化セリウム粒子に成長可能であり、3価のセリウムイオンは4価のセリウムイオンに変換される。最初は、温度は適切には約25℃以下であるが、より高温も、粒子サイズにおける大幅な上昇を伴うことなく採用し得る。
【0106】
(0120) 一実施形態においては、3価のセリウムイオンの供給源、1種以上の遷移金属イオン、ナノ粒子安定剤及び酸化剤を反応器に入れ、水酸化物イオンの供給源(水酸化アンモニウム等)を撹拌しながら速やかに、好ましくは約10分以下で添加する。特定の条件下では(アンモニアの金属イオンへのシングルジェット添加等)、約20秒以下が好ましく、より一層好ましくは約15秒以下である。代替の実施形態においては、水酸化物イオンの供給源及び酸化剤を反応器に入れ、3価のセリウムイオンの供給源及び1種以上の遷移金属イオンを、約15秒から最高20分間に亘って添加する。第3の好ましい実施形態においては、安定剤を反応槽に入れ、最適な化学量論的モル比2:1、3:1、更には5:1のOH:Ceで、硝酸第一セリウム及び1種以上の遷移金属イオンを、別の水酸化アンモニウム噴流と同時に反応チャンバ内に導入する。
【0107】
(0121) 3価のセリウムイオンが水酸化物イオンの存在下で酸化剤と反応して水酸化セリウムが生成され、この水酸化セリウムを加熱により結晶性二酸化セリウムに変換可能である。反応槽の温度は、約50〜約100℃、好ましくは約65〜85℃、より好ましくは約70℃に維持される。特定の遷移金属イオン(Zr、Cu等)の取り込みは典型的には高温(約85℃)を必要とする。これらの高温にある時間に亘って曝した後(好ましくは約1時間以下、より好ましくは約0.5時間)、ドープされた水酸化セリウムは実質的に結晶性二酸化セリウムに変換されてしまっており、反応槽の温度は約15〜25℃にまで低下させられる。時間及び温度変数はバランスをとることができ、高温の場合、一般に反応時間は短くてすむ。二酸化セリウムナノ粒子の懸濁液を濃縮し、未反応セリウム及び不要な副生成物(例えば、硝酸アンモニウム)を除去する。これは、便利にはダイアフィルトレーションによって達成され得る。
【0108】
(0122) ナノ粒子安定剤は、反応混合物に必要不可欠な成分である。望ましくは、ナノ粒子安定剤は水溶性であり、セリウムイオンと弱い結合を形成する。KBCは、水中のセリウムイオンへのナノ粒子安定剤の結合定数を表す。硝酸イオンの場合のlogKBCは1であり、水酸化物イオンの場合は14である。最も望ましくは、logKBCはこの範囲内にあり、好ましくはこの範囲の中間にある。有用なナノ粒子安定剤には、アルコキシ置換カルボン酸、α−ヒドロキシルカルボン酸、α−ケトカルボン酸(ピルビン酸等)及び小有機ポリ酸(酒石酸、クエン酸等)が含まれる。アルコキシル化カルボン酸の例には、メトキシ酢酸、2−(メトキシ)エトキシ酢酸及び2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(MEEA)が含まれる。α−ヒドロキシカルボン酸の中でも、例には、乳酸、グルコン酸及び2−ヒドロキシブタン酸が含まれる。ポリ酸には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、酒石酸及びクエン酸が含まれる。EDTA等の大きいKBCを有する化合物と弱いKBCの安定剤(乳酸等)との組み合わせも、特定の比率では有用である。大きいKBCの安定剤(グルコン酸等)は、低レベルで又は弱いKBCの安定剤(乳酸等)と共に使用され得る。
【0109】
(0123) ある望ましい実施形態において、ナノ粒子安定剤は、式(Ia)の化合物を含む。式(Ia)において、Rは水素、置換若しくは非置換アルキル基又は置換若しくは非置換芳香族基を表し、例えばメチル基、エチル基又はフェニル基である。より好ましくは、Rは低級アルキル基(メチル基等)を表す。R1は水素又は置換基(アルキル基等)を表す。式(Ia)において、nは0〜5の整数、好ましくは2を表し、YはH又はアルカリ金属等の対イオン(例えば、Na+、K+)を表す。安定剤はナノ粒子に結合して、粒子の凝集及びそれに続く粒子の大きな塊の形成を防止する。
〔式4〕
RO(CH2CH2O)nCHR1CO2Y (Ia)
【0110】
(0124) 別の実施形態において、ナノ粒子安定剤は式(Ib)で表される。式中、各R2は独立して置換若しくは非置換アルキル基又は置換若しくは非置換芳香族基を表す。X及びZは独立してH又は対イオン(Na+、K+等)を表し、pは又は2である。
〔式5〕
XO2C(CR2PCO2Z (Ib)
【0111】
(0125) 有用なナノ粒子安定剤はまた、α−ヒドロキシ置換カルボン酸(乳酸等)及びポリヒドロキシ置換酸(グルコン酸等)中に見出される。
【0112】
(0126) 好ましくは、ナノ粒子安定剤は元素硫黄を含まない。硫黄含有材料は、特定の用途には望ましくない場合があるからである。例えば、二酸化セリウム粒子が燃料添加剤組成物中に含まれる場合、硫黄含有安定剤(AOT等)を使用すると、燃焼後に硫黄酸化物が排出される場合があり、望ましくない。
【0113】
(0127) 得られる二酸化セリウム粒子のサイズは、動的光散乱法(粒子の流体力学的直径を測定するための測定技法)によって測定可能である。流体力学的直径(B.J.Berne及びR.Pecoraの「Dynamic Light Scattering:With Applications to Chemistry,Biology and Physics」(John Wiley and Sons,NY 1976)及びS.H.Chen及びM.Kotlarchykの「Interactions of Photons and Neutrons with Matter」(World Scientific Publishing,Singapore,1997)を参照のこと)は、粒子の幾何学的直径より若干大きく、本来の粒子サイズ及び粒子を取り囲む溶媒和シェルの両方を含む。光線がコロイド分散系を通過する際、粒子又は液滴は、光の一部を全方向に散乱させる。光の波長に対して粒子が極めて小さいとき、散乱光の強度は全方向に一様である(レイリー散乱)。光が、例えばレーザーからのようにコヒーレント且つ単色の場合、光子計数モードで動作可能な光電子増倍管等の適切な検出装置を使用して、散乱強度における時間依存性の変動を観測可能である。この変動は、粒子がランダムな熱ブラウン運動を起こすのに十分に小さく、したがって粒子間の距離が絶えず変化しているという事実から生じるものである。光を照射した領域内の隣接する粒子によって散乱させられた光の強め合い及び弱め合い干渉が、検出装置面での強度の変動を引き起こすが、この変動は、それが粒子の運動から起きることから、この運動に関する情報を含んでいる。したがって、強度の変動の時間依存性を分析することによって粒子の拡散係数を得ることが可能であり、この拡散係数から、ストークス−アインシュタインの式及び媒質の既知の粘性を利用して、粒子の流体力学的半径又は直径を計算可能である。
【0114】
(0128) 本発明の別の態様において、小さい遷移金属イオン含有結晶性二酸化セリウムナノ粒子、すなわち約10nm未満の平均直径を有する粒子を製造するための連続プロセスは、3価のセリウムイオン、1種以上の遷移金属イオン、酸化剤、ナノ粒子安定剤又は安定剤の組み合わせ及び水酸化物イオンを連続反応器内で混合することを含み、この反応器内に反応物及びその他の原料が連続的に導入され、またそこから生成物が連続的に取り出される。連続プロセスは、例えばOzawaらの米国特許第6897270号明細書、Nickelらの米国特許第6723138号明細書、Campbellらの米国特許第6627720号明細書、Beckの米国特許第5097090号明細書及びByrdらの米国特許第4661321号明細書に記載され、これらの文献の開示は参照により本願に組み込まれる。
【0115】
(0129) 水等の溶媒がプロセスで使用されることが多い。溶媒は反応物を溶解し、溶媒流の調節によってプロセスを制御可能である。有利には、ミキサーを使用して反応物を撹拌及び混合可能である。
【0116】
(0130) 反応物の連続流を受け入れ、生成物の連続流を送り出し可能ないずれの反応器も使用可能である。これらの反応器には、連続撹拌槽型反応器、栓流反応器等が含まれ得る。ナノ粒子の合成を行うのに必要とされる反応物は、好ましくは、反応器内に流して装入される。すなわち、反応物は好ましくは液体又は溶液として導入される。反応物は、別々に流して装入することも、特定の反応物を、反応器への装入前に混合することも可能である。
【0117】
(0131) 反応物は、1つ以上の投入口を通って、撹拌装置を備えた反応チャンバ内に導入される。典型的には、反応物は、3価のセリウムイオンの供給源(例えば、硝酸第一セリウム)、遷移金属イオン(例えば、硝酸第二鉄、硝酸第二銅等)、酸化剤(過酸化水素、分子状酸素等。周囲空気を含む)及び安定剤(例えば、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸)の水溶液を含む。過酸化水素等の2電子酸化剤は好ましくは、セリウムイオンのモル濃度の少なくとも2分の1の濃度で存在する。或いは、分子状酸素を、混合物にバブリング可能である。水酸化物イオン濃度は好ましくはセリウムモル濃度の少なくとも2倍である。
【0118】
(0132) 本発明の一実施形態において、小さい二酸化セリウムナノ粒子を形成するための方法は、3価のセリウムイオン(例えば、硝酸セリウム(III)として)、1種以上の遷移金属イオン及び酸化剤を含む第1水性反応物流を生成する工程を含む。Ce(III)をCe(IV)に酸化可能な適切な酸化剤には、例えば過酸化水素又は分子状酸素が含まれる。任意で、第1反応物流は、ドープされた二酸化セリウムナノ粒子に結合することによって粒子の凝集を防止するナノ粒子安定剤も含む。有用なナノ粒子安定剤の例は上述されている。
【0119】
(0133) 本方法は更に、水酸化物イオンの供給源(例えば、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム)を含む第2水性反応物流を生成する工程を含む。任意で、第2反応物流は更に安定剤を含み、その例は既に述べられている。しかしながら、第1又は第2反応物流のうちの少なくとも一方は、安定剤又は安定剤の組み合わせを含有しなくてはならない。
【0120】
(0134) 第1反応物流と第2反応物流とを混合して反応流を生成する。最初に、反応流の温度は、小さい水酸化第一セリウム核を形成するのに十分に低く維持される。続いて、温度を上昇させると、酸化剤の存在下、Ce(III)がCe(IV)に酸化され、水酸化物が酸化物へ変換されることによって、結晶性二酸化セリウムを含む生成物流が生成される。水酸化物から酸化物へと変換するための温度は好ましくは約50〜100℃、より好ましくは約60〜90℃である。一実施形態においては、第1反応物流と第2反応物流とを、約10〜20℃で混合し、この温度を続いて約60〜90℃にまで上昇させる。成長段階を適切な分子吸着質(成長抑制剤)で阻害可能ならば、高温(例えば、90℃)での等温析出は、小さいナノ粒子を形成するための代替の方法となる。
【0121】
(0135) 望ましくは、生成物流中の格子操作結晶性二酸化セリウムナノ粒子は、例えば1つ以上の半多孔質膜を使用したダイアフィルトレーション技法によって濃縮される。一実施形態において、生成物流は、1つ以上の半多孔質膜によって約5mS/cm以下の導電率にまで低下させられた、遷移金属含有結晶性二酸化セリウムナノ粒子の水性懸濁液を含む。
【0122】
(0136) 本発明の実施に適した連続反応器は、国際出願第PCT/US2007/77545号の「METHOD OF PREPARING CERIUM DIOXIDE NANOPARTICLES」(2007年9月4日に出願)の図3に概略的に図示されている。反応器40には、硝酸セリウム水溶液を含有する第1反応物流41が入っている。酸化剤(過酸化水素等)が、投入口42から反応物流に添加され、反応物はミキサー43aで混合される。得られた混合物に、投入口45から安定剤が添加され、続いてミキサー43bで混合される。次に、ミキサー43bからの混合物はミキサー43cに入り、そこで投入口44からの水酸化アンモニウムを含有する第2反応物流と混合される。第1及び第2反応物流をミキサー43cを使用して混合することによって反応流を生成する。この反応流は、穿孔スクリーンを通過させることによって機械的せん断に供され得る。更なる実施形態において、ミキサー43cは、反応物流を受け入れるための投入口及び排出口45を備えた前述したようなコロイドミル反応器を含む。更なる実施形態において、ミキサー43cの温度は、約10〜約25℃に維持される。
【0123】
(0137) 43cからの混合物は反応器管45に入り、この管45は、管45を約60〜90℃に維持する恒温浴46中に収容されている。結晶性二酸化セリウムナノ粒子は反応器管45内で形成され、反応器管45はコイル50を含み得る。次に、生成物流は1つ以上のダイアフィルトレーションユニット47に入り、そこで結晶性二酸化セリウムナノ粒子は、1つ以上の半多孔質膜を使用して濃縮される。1つ以上のダイアフィルトレーションユニットを直列に連結して生成物の濃度を1回の通過で達成させ得る。或いは、ユニットを、超高体積量を処理するために並列に設置し得る。ダイアフィルトレーションユニットを、高体積量を高速で処理するために直列と並列とを組み合わせて配置することもできる。濃縮された結晶性二酸化セリウムナノ粒子は、排出口49を経由してダイアフィルトレーションユニットを後にし、過剰な反応物及び水は、排出口48を経由してダイアフィルトレーションユニット47から除去される。代替の実施形態において、安定剤は、ポート45を経由して第1反応物流にではなくポート51を経由して第2反応物流に添加され得る。
【0124】
(0138) 本発明の一実施形態において、ダイアフィルトレーションユニット47から出た、濃縮された格子操作結晶性二酸化セリウムナノ粒子の生成物流は、1種以上のグリコールエーテルの実質的に水を含有しない環境に溶媒シフトされる。これは透析袋を使用して又は水性ナノ粒子をダイアフィルトレーションカラムに、好ましくは1種以上のグリコールエーテルを含む有機希釈剤と共に流すことによって達成可能である。有機希釈剤は更にアルコールを含み得る。有用な希釈剤は、ジエチレングリコールモノメチルエーテルと1−メトキシ−2−プロパノールとの混合物を含む。
【0125】
(0139) 得られる溶媒シフト済み有機濃縮物を、界面活性剤(オレイン酸等)と混合し、続いて無極性溶媒(ケロセン等)又は超低硫黄ディーゼル燃料を含む流れと混合することによって、炭化水素燃料(ディーゼル等)と混和性の格子操作結晶性二酸化セリウムナノ粒子の均質な分散系を生成する。
【0126】
(0140) 格子操作結晶性二酸化セリウムナノ粒子を製造するために連続プロセスを利用すると、バッチ式反応器の場合より良好に粒子核の形成及びその成長を制御することができる。核サイズは、初期の試薬濃度、温度及び試薬濃度に対するナノ粒子安定剤の比によって制御可能である。約20℃未満の低温及び高いナノ粒子安定剤対試薬濃度比は、小さい核に有利に働く。このようにして、約10nm未満の平均流体力学的直径及び約3nm未満の幾何学的粒径を有する極めて小さいナノ粒子を経済的に製造可能である。
【0127】
(0141) 本発明は、1種以上の遷移金属イオンを含有する二酸化セリウム(CeO2)ナノ粒子、ナノ粒子安定剤、界面活性剤、グリコールエーテル及び無極性溶媒を含む均質な混合物を調合するための方法を提供する。好ましくは、ナノ粒子は、約10nm未満、より好ましくは約8nm未満、最も好ましくは約6nmの平均流体力学的直径及び約4nm未満の幾何学的粒径(TEMで測定)を有する。
【0128】
(0142) 上述したように、格子操作結晶性二酸化セリウムナノ粒子は、様々な手順で調製可能である。典型的な合成経路においては、溶媒として水が使用され、ナノ粒子と1種以上の塩との水性混合物が得られる。例えば、二酸化セリウム粒子は、反応式(3a)に示されるように、硝酸セリウム(III)水和物を、例えば水酸化アンモニウム水溶液からの水酸化物イオンと反応させて水酸化セリウム(III)を生成することによって調製可能である。水酸化セリウムは、反応式(3b)に示されるように、酸化剤(過酸化水素等)で二酸化セリウム(IV)に酸化可能である。類似のトリスヒドロキシド(trishydroxide)の化学量論比を、反応式(4a)及び(4b)に示す。
〔式6〕
Ce(NO33(6H2O)+2NH4OH → Ce(OH)2NO3+2NH4NO3+6H2O (3a)
〔式7〕
2Ce(OH)2NO3+H22 → 2CeO2+2HNO3+2H2O (3b)
〔式8〕
Ce(NO33(6H2O)+3NH4OH → Ce(OH)3+3NH4NO3+6H2O (4a)
〔式9〕
2Ce(OH)3+H22 → 2CeO2+4H2O (4b)
【0129】
(0143) 極めて高い塩基レベル(例えば、5:1のOH:Ce)で生成される錯体もまた、酸化セリウム生成の経路となる。ただし、適切に成長を抑制しないと結晶粒サイズがずっと大きいものになる。
【0130】
(0144) 場合によっては、特には水酸化アンモニウムが3価のセリウムイオンに対して過剰に存在しない場合、種Ce(OH)2(NO3)又は(NH42Ce(NO35が最初に存在し得て、続いて二酸化セリウムに酸化される。
【0131】
(0144) 遷移金属含有結晶性二酸化セリウム粒子は水性環境下で形成され、また1種以上のナノ粒子安定剤と混合される。望ましくは、二酸化セリウムナノ粒子は、安定剤の存在下で形成されるか、粒子形成直後に安定剤が添加される。有用なナノ粒子安定剤には、アルコキシ置換カルボン酸、α−ヒドロキシルカルボン酸(ピルビン酸等)及び小有機ポリカルボン酸が含まれる。アルコキシ置換カルボン酸の例には、メトキシ酢酸、2−(メトキシ)エトキシ酢酸及び2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(MEEA)が含まれる。α−ヒドロキシカルボン酸の例には、乳酸、グルコン酸及び2−ヒドロキシブタン酸が含まれる。ポリカルボン酸には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、酒石酸及びクエン酸が含まれる。望ましい実施形態において、ナノ粒子安定剤は、上記の式(Ia)又は式(Ib)の化合物を含む。
【0132】
(0145) 反応混合物は、遷移金属含有結晶性二酸化セリウム粒子に加えて、1種以上の塩(例えば、硝酸アンモニウム)及び未反応硝酸セリウムを含む。安定化された粒子は、限外濾過又はダイアフィルトレーション装置における18メガオームの水での洗浄によって、これらの材料及び塩から分離可能である。無極性媒質における粒子形成及び安定化のためには低イオン強度(<5mS/cm)が極めて望ましい。洗浄、安定化された二酸化セリウムナノ粒子を、必要に応じて、例えば半多孔質膜を使用して濃縮することによって、そのナノ粒子の水性濃縮物を生成し得る。粒子は、その他の手段(例えば、遠心分離)でも濃縮し得る。
【0133】
(0146) ある好ましい実施形態において、遷移金属含有結晶性二酸化セリウム粒子は、ダイアフィルトレーションによって濃縮される。ダイアフィルトレーション技法では限外濾過膜を利用し、この膜を使用してナノ粒子含有混合物中の塩を完全に除去、置き換え又はその濃度を低下させることが可能である。このプロセスでは、半透(半多孔質)膜フィルタを選択的に利用することによって、その分子サイズに応じて反応混合物の成分を分離する。このため、適切な限外濾過膜は、形成されたナノ粒子の大部分を保持するのに十分な多孔質でありながら、塩、水等のより小さい分子の膜の通過を可能にする。このようにして、ナノ粒子及び会合結合した安定剤を濃縮可能である。フィルタに残った材料は、安定化されたナノ粒子を含め、濃縮物又は保持液(retentate)と称され、廃棄された塩及び未反応材料は濾液と称される。
【0134】
(0147) 混合物に圧力を印加することによって、小さい分子が膜を通過する速度(流量)を加速し、また濃縮プロセスを促進し得る。流量を上昇させるその他の手段には、広い表面積を有する大きい膜の使用及び許容できないナノ粒子の損失を伴うことのない膜の細孔径の拡大が含まれる。
【0135】
(0148) 一実施形態において、膜は、膜の平均細孔径がナノ粒子の平均直径の約30%以下、20%以下、10%以下、又は5%以下にさえなるように選択される。しかしながら、細孔直径は、水及び塩の分子が通過するのに十分なものでなければならない。例えば、硝酸アンモニウム及び未反応硝酸セリウムを、反応混合物から完全に又は部分的に除去すべきである。ある好ましい実施形態において、平均膜細孔径は、保持液中に1.5nm以上の直径の粒子を保持するのに十分に小さい。これは、約3キロダルトンのタンパク質サイズに相当すると考えられる。
【0136】
(0149) 望ましくは、濃縮物は、安定化されたナノ粒子及び残留水を含む。一実施形態において、二酸化セリウムナノ粒子の濃度は好ましくは約0.5モルより高く、より好ましくは約1.0モルより高く、更により好ましくは約2.0モルより高い(所定の分散系において固形分約35%)。
【0137】
(0150) 濃縮物が一旦生成されたら、全部ではなくとも殆どの水をグリコールエーテルでの透析によって除去する。これは、ジエチレングリコールメチルエーテルと1−メトキシ−2−プロパノールとの混合物を使用し、2キロダルトンの透析袋に濃縮物を入れ、グリコールエーテル媒質内へと水を交換させ、その一方でグリコールエーテル媒質をナノ粒子分散系中の水と置き換えることによって達成される。数回の交換が必要になり得る(グリコールエーテル媒質の交換)。或いは、グリコールエーテル混合物を、ダイアフィルトレーションカラムに、遷移金属含有結晶性二酸化セリウム粒子水溶液と共に流すことが可能であり、溶媒シフトはこのようにして行われる。
【0138】
(0151) エーテル基及びアルコール基の両方を有するグリコールエーテル界面活性剤には、式(Ic)の化合物が含まれ、式中、R3は置換又は非置換アルキル基を表し、mは1〜8の整数である。
〔式10〕
3(OCH2CH2mOH (Ic)
【0139】
(0152) 溶媒シフトを行うためのその他の有用な界面活性剤には、式:C91964(OCH2CH2nOH(式中、nは4〜6である)を有するノニルフェニルエトキシレートが含まれる。
【0140】
(0153) 遷移金属含有結晶性二酸化セリウム粒子が一旦有機媒質中に入ったら(依然として、その製造時に使用された元の安定剤で安定化されているが、グリコールエーテルで錯体化されている)、混合物を、殆どの炭化水素燃料(ディーゼル、バイオディーゼル等)に適合する無極性媒質(ケロセン等)に分散させることが可能である。炭化水素希釈剤に添加する前に、粒子の表面はまず界面活性剤(オレイン酸等)及び任意の補助界面活性剤(1−ヘキサノール等)で官能化される。この物質の組成が、逆ミセル油中水型エマルションではないことに気づくことが重要である。水が殆ど存在せず、セリウムナノ粒子の表面上の正の電荷がエーテル酸素原子で錯化され、また反対の電荷のカルボン酸に結合されてしまっているからである。カルボン酸は化学吸着状態で存在し、またナノ粒子と無極性炭化水素希釈剤との混和性を促進する。その他の表面官能化材料(リノール酸、ステアリン酸、パルミチン酸等)も、オレイン酸の代わりに使用し得る。一般に、好ましい材料は、20炭素原子未満であるが8炭素原子よりは多い炭素鎖長さを有するカルボン酸である。その他の適切な無極性希釈剤には、例えば約8〜20炭素原子を有する炭化水素(例えば、オクタン、ノナン、デカン、トルエン)及び炭化水素燃料(ガソリン、バイオディーゼル、ディーゼル燃料等)が含まれる。
【0141】
(0154) 無極性炭化水素との最適な混和性及び安定性のために、極めて少量のイオンが二酸化セリウム濃縮物中に存在して導電することが望ましい。この状況は、ダイアフィルトレーションを通じてナノ粒子を約5mS/cm未満、好ましくは約3mS/cm以下の導電率レベルにまで濃縮することによって達成可能である。
【0142】
(0155) 抵抗率は、導電率(物質が電流を通す能力)の逆数である。導電率計器は、サンプル中に置かれる2枚のプレートを備え、プレート間に電位を印加し(通常は正弦波電圧)、電流を測定することによって導電率を測定可能である。抵抗率(R)の逆数である導電率(G)は、オームの法則:G=1/R=I/E(式中、Iはアンペアでの電流であり、Eはボルトでの電圧である)に従って電圧及び電流値から求められる。溶液中のイオンの電荷が電流のコンダクタンスを促進するため、溶液の導電率は、そのイオン濃度に比例する。導電率の基本単位は、ジーメンス(S)又はミリジーメンス(mS)である。セルの形状は導電率の値に影響することから、標準化測定値は、電極の寸法におけるばらつきを補正するために比導電率単位(mS/cm)で表される。
【0143】
(0156) 本発明は更に、遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子、少なくとも1種のナノ粒子安定剤、1種以上の溶媒シフト済み媒質(グリコールエーテル等)、少なくとも1種の界面活性剤及び無極性希釈剤又は溶媒を含む均質な混合物を調合するための方法を対象とする。第1工程では、安定化された二酸化セリウムナノ粒子を含む水性混合物を得て、この混合物において、ナノ粒子安定剤の分子はナノ粒子と密接に会合する。第2工程は、懸濁液のイオン強度を最小限にしながら安定化された結晶性二酸化セリウムナノ粒子を濃縮することによって、アニオン及びカチオンを比較的含有しない水性濃縮物を生成することを含む。第3工程では、非イオン性界面活性剤を使用してナノ粒子と会合した水を除去する。最終工程は、この溶媒シフト済み濃縮物を、界面活性剤を含有する無極性溶媒と混合することによって、熱力学的に安定し多成分の2相分散系である実質的に均質な混合物を生成することを含む。
【0144】
(0157) この実質的に均質な熱力学的な分散系は、好ましくは約0.5質量%を超えないレベルの最小量の水を含有する。
【0145】
(0158) 遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子は、好ましくは約10nm未満、より好ましくは約8nm未満、最も好ましくは約6nmの平均流体力学的直径及び約4nm以下の幾何学的直径を有する。
【0146】
(0159) 望ましくは、二酸化セリウムナノ粒子は、約2.5nm±0.5nmの1次微結晶サイズを有し、また1粒子辺長あたり1又は最大で2つの微結晶を含む。
【0147】
(0160) 水性混合物は有利にはコロイドミル反応器内で生成され、ナノ粒子安定剤は、イオン性界面活性剤、好ましくはカルボン酸基及びエーテル基を有する化合物を含み得る。ナノ粒子安定剤は、式(Ia):
〔式11〕
RO(CH2CH2O)aCHR1CO2Y (Ia)
(式中、Rは水素、置換若しくは非置換アルキル基又は置換若しくは非置換芳香族基を表し、R1は水素又はアルキル基を表し、YはH又は対イオンを表し、nは0〜5である)の界面活性剤を含み得る。好ましくは、Rは置換又は非置換アルキル基を表し、R1は水素を表し、Yは水素を表し、nは2である。
【0148】
(0161) 別の適切なナノ粒子安定剤は、式(Ib):
〔式12〕
XO2C(CR2PCO2Z (Ib)
(式中、各R2は独立して水素、置換若しくは非置換アルキル基又は置換若しくは非置換芳香族基を表し、X及びZは独立してH又は対イオンを表し、pは1又は2である)のジカルボキシレートを含む。
【0149】
(0162) その他の有用なナノ粒子安定剤は、乳酸、グルコン酸エナンチオマー、EDTA、酒石酸、クエン酸及びこれらの組み合わせから成る群に含まれる。
【0150】
(0163) 水性混合物の濃縮は好ましくはダイアフィルトレーションを利用して行われ、その結果、この濃縮された水性混合物の導電率は約5mS/cm以下に低下する。
【0151】
(0164) 安定化された遷移金属含有結晶性二酸化セリウム粒子を水性環境から非水性環境にシフトさせるために使用する界面活性剤は、有利には、非イオン性界面活性剤、好ましくはアルコール基及びエーテル基を含む化合物、特には式(Ic):
〔式13〕
3(OCH2CH2mOH (Ic)
(式中、R3は置換又は非置換アルキル基を表し、mは1〜8の整数である)の化合物を含み得る。
【0152】
(0165) 非イオン性界面活性剤は、式(Id):
〔式14〕
3Φ(OCH2CH2mOH (Id)
(式中、R3は置換又は非置換アルキル基を表し、Φは芳香族基であり、mは4〜6の整数である)の化合物も含み得る。
【0153】
(0166) 反応混合物は更に、補助界面活性剤、好ましくはアルコールを含み得る。
【0154】
(0167) この溶媒シフト済み濃縮物の導入は、ナノ粒子を表面官能化する界面活性剤によって促進される。好ましい界面活性剤は、カルボン酸(オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、パルミチン酸等)である。一般に、好ましい材料は、20炭素原子未満であり3炭素原子よりは多い炭素鎖長を有するカルボン酸である。
【0155】
(0168) 実質的に均質な分散系に含まれる無極性希釈剤は、有利には、約6〜20個の炭素原子を有する炭化水素(例えば、オクタン、デカン、ケロセン、トルエン、ナフサ、ディーゼル燃料、バイオディーゼル及びこれらの混合物)から選択される。燃料添加剤として使用する場合、均質な分散系1部に対して、少なくとも約100部の燃料である。
【0156】
(0169) 本発明において、遷移金属は好ましくは、Fe、Mn、Cr、Ni、W、Co、V、Cu、Mo、Zr、Y及びこれらの組み合わせから成る群から選択される。好ましい遷移金属はZr又はYであり、より好ましくはFeと組み合わされる。
【0157】
(0170) ディーゼルエンジンシリンダの内面にインシチュでセラミック酸化物コーティングを形成することが有益になり得る。このコーティングの潜在的利点には、熱応力からのエンジンの更なる保護が含まれる。例えば、CeO2は2600℃で溶融し、ディーゼルエンジン製造に使用される一般的な材料である鋳鉄は、約1200〜1450℃で溶融する。5nmのセリア粒子でさえ、1000℃での24時間に亘る酸化からスチールを保護する能力を示したため、サイズ依存性の溶融現象が、本発明の二酸化セリウムナノ粒子の融点を、エンジン内で直面する燃焼温度より下に低下させるとは考えられない。例えば、PatilらのJournal of Nanoparticle Research,vol.4,pp433−438(2002)を参照のこと。このようにして保護されたエンジンは、より高い温度及び圧縮比で動作可能になり得ることから、結果的により高い熱力学的効率が得られる。二酸化セリウムで被覆されたシリンダ壁を有するディーゼルエンジンは、更なる酸化に耐え(CeO2は既に完全に酸化されている)、これによってエンジンの「錆」が防止される。このことは重要である。炭素排出量の削減又は燃費向上に使用される特定の添加剤(例えば、オキシジェネートMTBE、エタノール及びその他のセタン価向上剤(過酸化物等))も、燃焼室に導入されると腐食を悪化させ、これが錆の発生や、エンジンの寿命及び性能の低下につながり得るからである。コーティングは、水再循環冷却システムによるエンジン壁の冷却を妨げるほど厚くあるべきではない。
【0158】
(0171) 一実施形態において、本発明は、約10nm未満、好ましくは約8nm未満、より好ましくは6nm又はそれ以下でさえある平均流体力学的直径を有する遷移金属含有結晶性二酸化セリウムナノ粒子を提供し、この粒子は、ディーゼルエンジン用燃料添加剤として有用である。二酸化セリウムナノ粒子の表面は、鉄表面へのその結合を促進させるために変性され得て、また望ましくは、このナノ粒子は、燃料添加剤組成物に添加した場合に、ディーゼルエンジンシリンダの表面にセラミック酸化物コーティングを速やかに形成し得る。
【0159】
(0172) 一実施形態においては、鉄に対する結合親和性を有する遷移金属が、二酸化セリウムナノ粒子の表面に取り込まれる。鉄表面の例は、多くのエンジン内部部品中に存在するものを含む。適切な遷移金属には、Mn、Fe、Ni、Cr、W、Co、V、Cu、Zr及びYが含まれる。結晶中のセリウムイオン格子部位を占有することによって二酸化セリウムナノ粒子中に取り込まれる遷移金属イオンは、二酸化セリウムの沈殿の後期に導入され得る。遷移金属イオンは、3価のセリウムイオンと組み合わされて、例えばシングルジェット方式で添加可能であり、シングルジェット方式では、3価のセリウムイオン及び遷移金属イオンの両方が一緒に、水酸化アンモニウムが入った反応器に導入される。或いは、遷移金属イオン及び3価のセリウムイオンを一緒に、水酸化物イオンの添加と同時に添加可能である。遷移金属含有粒子は、第2噴流によって同時に導入される水酸化アンモニウム流に対して滴定される3価のセリウムイオン及び溶解された遷移金属イオンのダブルジェット反応でも形成可能である。重要な点として、十分なナノ粒子安定剤が初期の粒子の凝集を防止するために存在することが理解される。
【0160】
(0173) 界面活性剤/安定剤の組み合わせは、水性極性媒質から無極性油媒質への溶媒シフトプロセスを支援するという更なる利点を有し得る。荷電及び無荷電界面活性剤の組み合わせにおいて、荷電界面活性剤化合物は、水性環境において支配的な役割を果たす。しかしながら、溶媒シフトが起こるにつれて、荷電化合物は水相中へと可溶化され、また流されやすくなり、無荷電化合物が、逆ミセルエマルションの安定化においてより重要になる。
【0161】
(0174) カルボン酸基が最大で2個のメチレン基によって分離されるジカルボン酸及びその誘導体(いわゆる「ジェミニカルボキシレート」)もまた、有用な二酸化セリウムナノ粒子安定剤である。加えて、C2〜C8アルキル、アルコキシ及びポリアルコキシ置換ジカルボン酸は有利な安定剤である。
【0162】
(0175) 本発明において、ナノ粒子安定剤化合物は好ましくは有機カルボン酸を含み、例えば2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(MEEA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、乳酸、グルコン酸、酒石酸、クエン酸及びこれらの混合物である。
【0163】
(0176) モータ油は、自動車及びその他の乗り物、ボート、芝刈り機、電車、飛行機等における様々な種類の内燃機関の潤滑剤として使用される。エンジンには、しばしば長期間に亘って相互に高速で動く接触部がある。このような擦り合わせ運動は摩擦を引き起こし、一時的な溶接部が形成され、可動部が動かなくなる。この一時的な溶接部を破断すると、モータが作り出した本来なら有用であったはずの力が吸収されてエネルギーが無用な熱に変換されてしまう。摩擦によって、これらの部品の接触面も擦り減り、これが燃料消費量の上昇、モータの効率の低下及び劣化につながり得る。本発明の一態様において、モータ油は、潤滑油、望ましくは約10nm未満、より好ましくは約5nmの平均直径を有する遷移金属含有結晶性二酸化セリウムナノ粒子及び任意で表面吸着された安定剤を含む。
【0164】
(0177) ディーゼル潤滑油は本質的に水を含有しないが(好ましくは300ppm未満)、望ましくは、二酸化セリウムがその水性環境から有機又は無極性環境のそれへと溶媒シフトされてしまっている二酸化セリウム組成物の添加によって改質され得る。二酸化セリウム組成物は、上述したように、約10nm未満、より好ましくは約5nmの平均直径を有するナノ粒子を含む。改質されたディーゼル燃料及び改質された潤滑油で動作するディーゼルエンジンではより高い効率が得られ、特には、燃費の向上、エンジン磨耗度の低下、汚染度の低下又はこれらの特徴の組み合わせがもたらされ得る。
【0165】
(0178) バフ研磨とも称される金属研磨は、金属及び合金を平滑化し、光沢のある滑らかな鏡のような仕上がりになるまで研磨するプロセスである。金属研磨は、自動車、オートバイ、古美術品等の価値を高めるために使用されることが多い。多くの医療機器も、金属表面の凹凸部に汚れが付着するのを防止するために研磨される。研磨剤はまた、光学素子(レンズ、鏡等)を、それらが取り扱うことになる光の波長の何分の1かの表面平滑性にまで研磨するのに使用される。本発明の滑らかで丸く一様な二酸化セリウム粒子は、研磨剤として有利に使用され得る。また、後続の集積回路の加工のために半導体基板を平坦化(表面を原子レベルで滑らかにする)するのに利用し得る。
【0166】
(0179) 本発明を、以下の実施例によって更に説明する。これらの実施例は、いかなる形であっても本発明を限定することを意図しない。
【実施例】
【0167】
(0180〜0181) 実施例1.シングルジェット添加による二酸化セリウムナノ粒子の調製
3リットルの丸底ステンレススチール反応器槽に、1.267リットルの蒸留水、続いて100mlのCe(NO33・6H2O溶液(600g/リットルのCe(NO33・6H2O)を加えた。溶液は透明であり、20℃でpH4.2を有した。続いて、30.5gの2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(MEEA)を、槽に加えた。溶液は透明のままであり、pHは20℃で2.8であった。高せん断ミキサー(Silverson Machines製。反応物が蠕動性チュービングポンプによってミキサーブレード内に直接導入可能なように改造されたコロイドミル)を反応器槽内に下降させ、ミキサーヘッドを反応器槽の底部の少し上に位置決めした。ミキサーを5000rpmに設定し、8.0gの30%H22を反応器槽に加えた。次に、40mlにまで希釈された16mlの28〜30%NH4OHを、ミキサーヘッドにより約12秒で反応器槽内にポンプ輸送した。最初は透明だった溶液が、橙色/褐色に変化した。高せん断ミキサーを取り外し、反応器槽を、温度制御ウォータージャケットにまで移動し、R−100プロペラを備えたミキサーを使用して、溶液を450rpmで撹拌した。反応器内にNH4OHをポンプ輸送後3分で、pHは25℃で3.9であった。次の25分に亘って、反応器槽の温度を70℃にまで上昇させた。この時、pHは3.9であった。溶液温度を20分間に亘って70℃で維持した。この間、溶液の色は橙褐色から透明な暗黄色に変化した。pHは70℃で3.6であった。次の25分に亘って温度を25℃にまで低下させた。この時、pHは25℃で4.2であった。動的光散乱法による粒子サイズ分析は、二酸化セリウム強度加重流体力学的直径6nmを示した。次に、分散系を、導電率3mS/cmにまでダイアフィルトレーションに供し、約10倍、CeO2粒子で公称1モルにまで濃縮した。
【0168】
(0182) 二酸化セリウム粒子を回収し、過剰な溶媒を蒸発によって除去し、重量収率(MEEAの重量に対して補正)は、62.9%であると測定された。
【0169】
(0183) 二酸化セリウム粒子を分析するために透過型電子顕微鏡(TEM)も使用された。9マイクロリットル溶液(0.26M)をグリッド上で乾燥させ、図1の画像を撮影した。粒子は、この乾燥状態にあってさえ、凝集の徴候を示していない。溶液における粒子の凝集性向は更に低いと予想される。透過型電子顕微鏡分析(TEM)によって求められた二酸化セリウム粒子の粒径分布(図1にプロットされている)から、約2.6nmの幾何学的直径が得られる。加えて、サイズ分布は実質的に単峰性であり(すなわち、極大が1つしかない)、また一様であり(COV19%)、粒子の殆どが2〜4nmの範囲内にある。
【0170】
(0184) 図2は、乾燥した二酸化セリウムナノ粒子サンプルの粉末X線回折パターン70を、NIST(米国国立標準技術研究所)のライブラリから提供された二酸化セリウムの対照スペクトル71と共に示す。サンプルスペクトルの線の位置は、標準スペクトルのものに一致する。2θピーク幅がサンプルスペクトルにおいて極めて広かったが、これは極めて小さい1次微結晶サイズ及び粒子サイズと矛盾しない。X線データ(約8047evのCuKα線)及びシェラーの式(d=0.9*λ/Δ*cos(θ)(式中、λはX線波長であり、Δは半値全幅であり、θはX線ピークに対応する散乱角である))から、1次微結晶サイズは、2.5±0.5nm(5回の反復で信頼度95%)であると計算された。粒子それ自体がこの微結晶のサイズであることから、粒子1個あたり結晶は1つだけであり、したがってこの組成物を結晶性二酸化セリウムと称することによって、これをナノ粒子が様々なサイズの微結晶の凝集体から構成される全ての従来技術から区別することにする。
【0171】
(0185) 実施例2:〜1.5nmCeO2ナノ粒子の沈殿
この沈殿は実施例1に倣って行われる。ただし、EDTAと乳酸との安定剤の組み合わせ(比は20:80。76.4gのEDTA二ナトリウム塩及び74.0gの85%乳酸)をMEEA安定剤の代わりに使用する。図3Aは高倍率TEM画像であり、実質的に5nm未満であり1.1±0.3nmと推定される結晶粒サイズを示す。図3Bは代表的な沈殿サンプルの電子回折パターンである。図3Cには表1が含まれ、表では様々な回折リング{311}、{220}、{200}、{111}の強度が立方晶CeO2、立方晶及び六方晶Ce23、Ce(OH)3のフレームワーク内で分析される。明らかに、晶癖を含めた分析済みのリング強度のパーセント偏差は、CeO2の立方晶ホタル石型構造に関して最小限であったことから、この結晶粒直径でのこの多形体の存在が証明される。
【0172】
(0186〜0187) 実施例3:等温ダブルジェット沈殿によるCeO2ナノ粒子の調製(CeO2
3リットルの丸底ステンレススチール反応器槽に、1117グラムの蒸留水を加えた。標準Rv100プロペラを反応器槽内に下降させ、ミキサーヘッドを反応器槽の底部の少し上に位置決めした。ミキサーを700rpmに設定し、反応器の温度を約70℃にした。次に、59.8グラム(98%)のメトキシ酢酸を反応器に加えた。120.0グラムのCe(NO33・6H2Oを含有する250mlの溶液を反応器内に、69.5グラム(28〜30%)の水酸化アンモニウムを含有する溶液と同時にポンプ輸送することによって、ダブルジェット沈殿を5分間に亘って行った。反応器にすすぎ用の蒸留水を流すことによって、反応物供給管から残留物質が除去された。次に、10.2グラムの50%非安定化過酸化水素を反応器及びその内容物に40秒で加えた。最初は、反応混合物は、不透明で暗橙褐色のpH6〜7の液体であった。この反応混合物を更に60分間に亘って加熱し、この間にpHは4.25に低下し(反応(3a)及び(3b)によるヒドロニウムイオンの放出と合致する)、混合物は透明な黄橙色になった。反応混合物を20℃にまで冷却し、導電率3mS/cmにまでダイアフィルトレーションに供することによって過剰な水及び未反応材料を除去した。これによって分散系は約10倍又はCeO2粒子で公称1モルにまで濃縮された。透過型電子顕微鏡分析による粒径分布分析によって(図4)、平均粒子サイズが2.2nmであり、粒径分布は変動係数COV(標準偏差を平均直径で割ったもの)23%を有すると判明した。計算された収率は62.9%であった。
【0173】
(0188) 実施例4:銅含有CeO2ナノ粒子(Ce0.9Cu0.11.95
実施例3の条件を繰り返した。ただし、硝酸セリウム溶液は、108.0グラムの硝酸セリウム六水和物及び6.42グラムのCe(NO33・2.5H2Oを含有していた。これらの金属塩を別々に溶解し、次にそれらを混合することによって250mlの溶液を生成した。反応は、実施例3に記載されるようにして進行した。ただし、過酸化水素は、セリウム及びアンモニアが添加されてから40秒で添加された。透過型電子顕微鏡分析による粒径分布分析によって(図5)、平均粒子サイズが2.5nmであり、粒径分布は変動係数COV(標準偏差を平均直径で割ったもの)25%を有すると判明した。2峰性の分布が存在しないことに留意すること。2次ピークは、CuがCeO2格子には取り込まれず、別個のCu23として存在することを示すと考えられる。
【0174】
(0189〜0190) 実施例5:鉄含有CeO2ナノ粒子(Ce0.9Fe0.11.95)(CeO−255)
実施例4の条件を繰り返した。ただし、金属塩溶液は、108.0グラムの硝酸セリウム六水和物及び11.16グラムのFe(NO33・9H2Oを含有していた。これらの金属塩を別々に溶解し、次にそれらを混合することによって250mlの溶液を生成した。反応は、実施例4に記載されるようにして進行した。沈殿した粒子のTEM画像(図6A)及び透過型電子顕微鏡分析による粒径分布分析によって(図6B)、平均粒子サイズが2.2±0.7nmであり、粒径分布は変動係数COV(標準偏差を平均直径で割ったもの)32%を有すると判明した。計算された収率は55.1%であった。
【0175】
(0191〜0192) 実施例6:ジルコニウム含有CeO2ナノ粒子(Ce0.9Zr0.152)(CeO−257)
実施例4の条件を繰り返した。ただし、金属塩溶液は、101.89グラムの硝酸セリウム六水和物及び9.57グラムのZrO(NO32・6H2Oを含有していた。これらの金属塩を別々に溶解し、次にそれらを混合することによって250mlの溶液を生成した。反応は、実施例4に記載されるようにして進行した。ただし、反応は85℃で行われた。透過型電子顕微鏡分析による粒径分布分析によって(図7A)、平均粒子サイズが2.4±0.7nmであり、粒径分布は変動係数COV(標準偏差を平均直径で割ったもの)29%を有すると判明した。誘導結合プラズマ原子発光分光法によって、Ce0.82Zr0.181.91の化学量論比が判明し、ZrO2のCeO2への相対不溶性を考えると、これはより高いZr含有量(18%対15%)の説明となる。
【0176】
(0193〜0194) 実施例7a:ジルコニウム及び鉄含有CeO2ナノ粒子(Ce0.9Zr0.15Fe0.11.95)(CeO−270)
実施例4の条件を繰り返した。ただし、金属塩溶液は、84.0グラムの硝酸セリウム六水和物、11.16グラムのFe(NO33・9H2O及び12.76グラムのZrO(NO32・6H2Oを含有していた。これらの金属塩を別々に溶解し、次にそれらを混合することによって250mlの溶液を生成した。反応は、実施例4に記載されるようにして進行した。ただし、反応は85℃で行われ、過酸化水素溶液(50%)は20.4gに増量され、10分で添加された。粒子のTEM画像(図8A)及び透過型電子顕微鏡分析による粒径分布分析によって(図8B)、平均粒子サイズが2.2±0.6nmであり、粒径分布は変動係数COV(標準偏差を平均直径で割ったもの)27%を有すると判明した。ここでもまた、単分散、単峰性の分布が、ZrO2及びFe23結晶粒が別々に再核形成されるのではなく共に取り込まれる概念を裏付けている。計算された収率は78%であった。誘導結合プラズマ原子発光分光法によって、Ce0.69Fe0.14Zr0.170.915の化学量論比が判明した。ここでもまた、公称量に対して相対的により濃縮されたFe及びZrは、その水酸化物前駆体の水酸化セリウムのものより高い不溶性を反映している。図8Cも、遷移金属非含有CeO2と比較したこのサンプル(上の曲線)の粉末X線回折パターンである。32度2θでのピーク(矢印で示される)の欠如は、遊離のZrO2がないことを意味する。すなわち、セリウム格子に全て取り込まれている。また、50、52度2θでのピークの欠如は、Fe23が別箇に存在しないことを示す(すなわち、Feのセリウム格子への取り込み)。大きな2θ散乱角でのより大きな2θへのシフトに留意すること。これは格子(nλ/2d=sinθ)の歪み又は収縮を示し、置き換わるCe4+(0.97Å)に対するFe3+(0.78Å)及びZr4+(0.84Å)のより小さいイオン半径に合致している。このため、遷移金属がCeO2格子に取り込まれ、純粋なZrO2及びFe23ナノ粒子が別箇に存在しないと発明者は結論づけた。単峰性の粒径分布もこの結論を裏付けている。
【0177】
(0195〜0196) 実施例7b〜f:ジルコニウム及び鉄含有CeO2ナノ粒子(ジルコニウムが15%で鉄の量が体系的に異なる場合(15%、20%、25%、30%)及び鉄が20%及びジルコニウムが20%の場合)
実施例7aの条件に倣った。しかしながら、適切な金属含有塩溶液を使用して、鉄又はジルコニウムの量を調節して記載の公称化学量論比を得た。一方、硝酸セリウム六水和物全体が、上昇した濃度の鉄又はジルコニウム遷移金属に対応するために還元された。
【0178】
(0197) 図9は、実施例1で形成された粒子の電界放出型電子銃TEM格子画像である。明確にするために、2つの粒子を円で囲んでいる。5nm未満の直径を有する単一結晶の輪郭を定める少数の格子面に留意すること。様々な材料の水性ゾルを、30分間に亘ってマッフル炉において1000℃で加熱した。これらの完全に乾燥させたサンプルのOSC、その最大OSCに達した時の動態を、Sarkasらが「Nanocrystalline Mixed Metal Oxides−Novel Oxygen Storage Materials」(Mat.Res.Soc.Symp.Proc.Vol.788,L4.8.1(2004))において記載するように、熱重量技法によって測定した。典型的には、5%の水素を含有する窒素ガスにおける極めて速い初期還元速度及びそれに続く第2のより遅い速度が観察される。
【0179】
(0197後半) 付随する表2は、様々な格子操作セリアナノ粒子(Sigma Aldrich社の対照を除いて全て2nm)の5%のH2を含有する700℃の窒素ガスにおける還元に関する酸素吸蔵能力(カッコ内は1σ再現性)及び速い(k1)、遅い(k2)速度定数(カッコ内は1標準偏差)を示す。これらの値は、第2のTGA機器(平均2.6%の差)、ガスフロー差(平均1%偏差)及び1000℃、30分での反復試験サンプル調製(平均1.54偏差)に対してクロスチェック済みである。表2の内容から、二酸化セリウム粒子のOSCは、約2nm〜20μmの範囲でサイズ依存性とは考えられないことがわかる。これは、より大きい粒子への焼結の結果であり得る。ジルコニウムの添加によってOSCが約50%上昇し、また10倍の速度上昇を伴うことに留意すること。更に、Zr含有材料への鉄の添加によって、遷移金属イオンを含有していない二酸化セリウム粒子と比較して10倍の速度でOSCが3倍近くになる。これらの値は、記載の参考文献における値の3倍を超える。クエン酸が還元速度定数に与える有益な影響は、安定剤が、熱分解された後であっても、粒子表面積又はモルホロジーに影響を与え得ることを示唆すると考えられる。
【表1】

【0180】
(0198) 本発明を、様々な特定の実施形態への言及により説明してきたが、記載の発明概念の精神及び範囲内で多数の変更を加え得ることを理解すべきである。したがって、本発明が記載の実施形態に限定されることなく、以下の請求項の文言により定義される全範囲を有することが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の遷移金属(M)を含有する格子操作結晶性二酸化セリウムナノ粒子を形成するためのプロセスであって、
(a)3価のセリウムイオンの供給源、1種以上の遷移金属イオン(M)の供給源、水酸化物イオンの供給源、少なくとも1種のナノ粒子安定剤及び酸化剤を含む水性反応混合物を約20〜約95℃の初期温度で得て、
(b)前記混合物を機械的にせん断し、また穿孔スクリーンを通過させることによって水酸化セリウムナノ粒子の均質に分布した懸濁液を生成し、
(c)3価のセリウムイオンを4価のセリウムイオンに酸化するのに効果的な温度条件にすることによって、遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子Ce1-xx2(式中、xは約0.3〜約0.8の値を有する)を含む生成物流を生成することを含み、前記ナノ粒子が、結晶性立方晶ホタル石型構造、約1〜約10nmの平均流体力学的直径及び約1〜約4nmの幾何学的直径を有することを特徴とするプロセス。
【請求項2】
前記機械的せん断がコロイドミルで行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
3価のセリウムイオンを4価のセリウムイオンに酸化するのに効果的な前記温度条件が約50〜約100℃の温度を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
3価のセリウムイオンを4価のセリウムイオンに酸化するのに効果的な前記温度条件が約60〜約90℃の温度を含む、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記イオンの供給源が、前記反応混合物に、前記機械的せん断中に同時に又は順次導入される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記二酸化セリウムナノ粒子が、約6nmの平均流体力学的直径を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記二酸化セリウムナノ粒子が、約4nm未満の平均幾何学的(TEM)直径を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記二酸化セリウムナノ粒子が、実質的に単峰性のサイズ分布及び実質的に単分散の粒径分布を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記二酸化セリウムナノ粒子が結晶性であり、約1.1〜約2.5nm±0.5nmの微結晶サイズである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記3価のセリウムイオンの供給源が、硝酸第一セリウムを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子Ce1-xx2における前記遷移金属Mが、Fe、Mn、Cr、Ni、W、Co、V、Cu、Zr、Y、Mo及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
xが、約0.30〜約0.80の値を有する、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
xが、約0.40〜約0.60の値を有する、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記遷移金属MがZr又は任意でYを含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項15】
前記遷移金属Mが更にFeを含む、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記水酸化物イオンの供給源が水酸化アンモニウムを含み、前記水酸化物イオンが3価のセリウムイオンに対して約2:1のOH:Ce〜約5:1のOH:Ceの化学量論的モル比である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項17】
前記酸化剤が、過酸化水素又は分子状酸素を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項18】
前記ナノ粒子安定剤が、アルコキシ置換カルボン酸、α−ヒドロキシカルボン酸、α−ケトカルボン酸及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項19】
前記ナノ粒子安定剤が、ジ−、トリ−、テトラカルボン酸及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項20】
前記ナノ粒子安定剤が、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸、メトキシ酢酸及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項21】
前記ナノ粒子安定剤が、エチレンジアミン四酢酸、グルコン酸、乳酸、酒石酸、ピルビン酸、クエン酸及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項22】
前記ナノ粒子安定剤がクエン酸である、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記実質的に単峰性及び単分散性の粒径分布が、核形成温度、ナノ粒子安定剤の選択、ナノ粒子安定剤の濃度及びこれらの組み合わせから成る群から選択される変数によって制御可能である、請求項8に記載のプロセス。
【請求項24】
連続プロセス又はバッチプロセスである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項25】
(d)前記生成物流を、約35%を超えない(固形分質量/懸濁液質量)密度及び約5mS/cmを超えない導電率を有する懸濁液に濃縮することを更に含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項26】
前記生成物流の前記濃縮が、少なくとも1つの半透膜を使用して行われる、請求項25に記載のプロセス。
【請求項27】
安定化された格子操作遷移金属含有結晶性二酸化セリウムナノ粒子Ce1-xx2を含有する均質な分散系を生成するためのプロセスであって、
(a)立方晶ホタル石型構造を有する安定化された遷移金属ドープ二酸化セリウムナノ粒子Ce1-xx2を含む水性混合物を得て、前記ナノ粒子が、約1〜約10nmの平均流体力学的直径及び約4nm未満の幾何学的直径を有し、
(b)前記安定化された遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子を含む前記水性混合物を濃縮することによって水性濃縮物を生成し、
(c)前記水性濃縮物から実質的に全ての水を除去することによって、前記安定化された遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子の実質的に水を含有しない濃縮物を生成し、
(d)有機希釈剤を前記実質的に水を含有しない濃縮物に添加することによって、前記安定化された遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子の有機濃縮物を生成し、
(e)前記有機濃縮物を、無極性媒質の存在下、界面活性剤と混合することによって、安定化された遷移金属含有結晶性二酸化セリウムナノ粒子Ce1-xx2を含有する均質な分散系を形成することを含むことを特徴とするプロセス。
【請求項28】
前記遷移金属含有二酸化セリウムナノ粒子Ce1-xx2における前記遷移金属Mが、Fe、Mn、Cr、Ni、W、Co、V、Cu、Zr、Y、Mo及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
xが、約0.30〜約0.80の値を有する、請求項28に記載のプロセス。
【請求項30】
xが、約0.40〜約0.60の値を有する、請求項29に記載のプロセス。
【請求項31】
前記遷移金属MがZr又はYを含む、請求項28に記載のプロセス。
【請求項32】
前記遷移金属Mが更にFeを含む、請求項31に記載のプロセス。
【請求項33】
前記有機希釈剤がグリコールエーテルを含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項34】
前記有機希釈剤が更にアルコールを含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項35】
前記有機希釈剤が、ジエチレングリコールモノメチルエーテル及び1−メトキシ−2−プロパノールを含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項36】
前記界面活性剤が更に補助界面活性剤を含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項37】
前記界面活性剤がオレイン酸を含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項38】
前記補助界面活性剤が1−ヘキサノールを含む、請求項36に記載のプロセス。
【請求項39】
前記界面活性剤が硫黄非含有である、請求項27に記載のプロセス。
【請求項40】
前記均質な分散系が、前記ナノ粒子を少なくとも約2質量%の濃度、水を約0.5質量%の最高濃度で含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項41】
前記均質な分散系が、前記ナノ粒子を少なくとも約9質量%の濃度で含む、請求項40に記載のプロセス。
【請求項42】
前記均質な分散系が、前記ナノ粒子を約35質量%の濃度で含む、請求項41に記載のプロセス。
【請求項43】
前記無極性媒質が、約6〜約20個の炭素原子を有する炭化水素を含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項44】
前記無極性媒質が、オクタン、デカン、トルエン、ケロセン、ナフサ、超低硫黄ディーゼル燃料、バイオディーゼル及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項27に記載のプロセス
【請求項45】
(f)1部の前記均質な分散系を少なくとも約100部の炭化水素燃料で希釈することを更に含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項46】
内燃機関排気系の触媒コンバータ用ウォッシュコートであって、請求項27に従って形成された安定化された遷移金属含有結晶性二酸化セリウムナノ粒子を含有する均質な分散系を使用して形成されることを特徴とするウォッシュコート。
【請求項47】
還元反応又は酸化反応の加速に効果的な触媒であって、請求項27に従って形成された安定化された遷移金属含有結晶性二酸化セリウムナノ粒子を含有する均質な分散系を使用して生成されることを特徴とする触媒。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A−B】
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【図8C】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−512127(P2012−512127A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542092(P2011−542092)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/087133
【国際公開番号】WO2010/071641
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(511148329)セリオン テクノロジー インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】